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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169503
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】電荷輸送性ワニス
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20221101BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20221101BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20221101BHJP
   C07D 335/02 20060101ALN20221101BHJP
   C07D 333/76 20060101ALN20221101BHJP
   C07F 5/02 20060101ALN20221101BHJP
   C07C 381/12 20060101ALN20221101BHJP
【FI】
H05B33/22 D
H05B33/14 A
H05B33/10
C09K3/00 C
C07D335/02
C07D333/76
C07F5/02 A
C07C381/12
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111514
(22)【出願日】2022-07-12
(62)【分割の表示】P 2018567409の分割
【原出願日】2018-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2017020436
(32)【優先日】2017-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017170729
(32)【優先日】2017-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中家 直樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 大輔
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電荷輸送性、平坦性および均一性に優れる電荷輸送性薄膜を再現性よく与える電荷輸送性ワニスを提供する。
【解決手段】例えば、アニリン誘導体やチオフェン誘導体等の電荷輸送性物質と、例えば、下記式で示されるようなオニウムボレート塩と、有機溶媒とを含む電荷輸送性ワニス。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷輸送性物質と、オニウムボレート塩と、有機溶媒とを含み、
上記有機溶媒が、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、3-フェノキシトルエン、4-メトキシトルエン、トルエン、アニソール、シクロヘキシルベンゼン、安息香酸メチル、テトラリンおよびイソホロンからなる群より選ばれる2種以上の高溶解性溶媒;および/または、25℃で10~200mPa・sの粘度を有し、常圧(大気圧)で沸点50~300℃の高粘度有機溶媒を含み、
上記オニウムボレート塩が、式(a1)で表される1価または2価のアニオンと式(c1)~(c5)で表される対カチオンからなるオニウムボレート塩(ただし、電気的中性な塩である)を含み、
【化1】
(式中、Arは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよいヘテロアリール基を表し、Lは、アルキレン基、-NH-、酸素原子、硫黄原子または-CN+-を表す。)
【化2】
上記電荷輸送性物質が、下記式(1)で表されるアニリン誘導体、下記式(2)で表されるアニリン誘導体、下記式(I)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン、および下記式(Is)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェンから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする電荷輸送性ワニス。
【化3】
〔式中、R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
Ph1は、式(P1)で表される基を表し、
【化4】
(式中、R3~R6は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表す。)
Ar1は、互いに独立して、式(B1)~(B11)のいずれかで表される基を表し、
【化5】
(式中、R7~R27、R30~R51およびR53~R154は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい、ジフェニルアミノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
28およびR29は、互いに独立して、Z1で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基または炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
52は、水素原子、Z4で置換されてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基、またはZ1で置換されてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
Ar4は、互いに独立して、ジ炭素数6~20のアリールアミノ基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基を表し、
1は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ2で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基を表し、
2は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ3で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
3は、ハロゲン原子、ニトロ基またはシアノ基を表し、
4は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ5で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
5は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ3で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基を表す。)
Ar2は、互いに独立して、式(A1)~(A18)のいずれかで表される基を表し、
【化6】
(式中、R155は、水素原子、Z4で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基、またはZ1で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
156およびR157は、互いに独立して、Z1で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基または炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
DPAは、ジフェニルアミノ基を表し、
Ar4、Z1,Z4は上記と同じ意味を表す。)
Ar3は、式(C1)~(C8)のいずれかで表される基を表し、
【化7】
(式中、DPAは、上記と同じ意味を表す。)
kは、1~10の整数を表し、
lは、1または2を表す。〕
【化8】
(式中、R1aおよびR2aは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、炭素数1~40のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、-O-[Z-O]p-Reであり、あるいは、R1aおよびR2aは、一緒になって-O-Z-O-を形成し、Zは、Yで置換されてもよい炭素数1~40のヒドロカルビレン基(ここで、Yは、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシアルキル基であり、該アルキル基またはアルコキシアルキル基は、任意の位置がスルホン酸基で置換されていている)であり、pは、1以上であり、Reは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基である。)
【化9】
(式中、R1bおよびR2bは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、炭素数1~40のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、-O-[Z-O]p-Re、または-SO3Mであり、Zは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~40のヒドロカルビレン基であり、pは、1以上であり、Reは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基であり、Mは、水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、またはトリアルキルアンモニウムである。但し、R1bおよびR2bの少なくとも一方は、-SO3Mである。)
【請求項2】
上記Arが、1または2以上の電子吸引性置換基を有するアリール基である請求項1記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項3】
上記電子吸引性置換基が、ハロゲン原子である請求項2記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項4】
上記アニオンが、式(a2)で表される請求項1~3のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【化10】
【請求項5】
上記オニウムボレート塩が下記式で表される請求項4記載の電荷輸送性ワニス。
【化11】
【請求項6】
上記電荷輸送性物質が、アニリン誘導体である請求項1~5のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項7】
上記オニウムボレート塩と、上記電荷輸送性物質との比率(質量比)が、電荷輸送性物質:オニウムボレート塩=1:0.01~20である請求項1~6のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項8】
固形分濃度が、0.1~10.0質量%である請求項1~7のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜。
【請求項10】
請求項9記載の電荷輸送性薄膜を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニスを基材上に塗布し、溶媒を蒸発させることを特徴とする電荷輸送性薄膜の製造方法。
【請求項12】
有機エレクトロルミネッセンス素子における正孔注入層に含有される、下記式で表されるオニウムボレート塩。
【化12】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送性ワニスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)素子には、発光層や電荷注入層として、有機化合物からなる電荷輸送性薄膜が用いられる。特に、正孔注入層は、陽極と、正孔輸送層あるいは発光層との電荷の授受を担い、有機EL素子の低電圧駆動および高輝度を達成するために重要な機能を果たす。
正孔注入層の形成方法は、蒸着法に代表されるドライプロセスと、スピンコート法に代表されるウェットプロセスとに大別され、これら各プロセスを比べると、ウェットプロセスの方が大面積に平坦性の高い薄膜を効率的に製造できる。それゆえ、有機ELディスプレイの大面積化が進められている現在、ウェットプロセスで形成可能な正孔注入層が望まれている。
このような事情に鑑み、本発明者らは、各種ウェットプロセスに適用可能であるとともに、有機EL素子の正孔注入層に適用した場合に優れたEL素子特性を実現できる薄膜を与える電荷輸送性材料や、それに用いる有機溶媒に対する溶解性の良好な化合物を開発してきている(例えば特許文献1~4参照)。
しかし、正孔注入層用のウェットプロセス材料に関しては常に改善が求められており、特に、電荷輸送性に優れた薄膜を与えるウェットプロセス材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/032616号
【特許文献2】国際公開第2008/129947号
【特許文献3】国際公開第2006/025342号
【特許文献4】国際公開第2010/058777号
【特許文献5】特開2014-205624号公報
【特許文献6】特開2005-314682号公報
【特許文献7】特開2006-233162号公報
【特許文献8】特開2011-026325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電荷輸送性、平坦性および均一性に優れる電荷輸送性薄膜を再現性よく与える電荷輸送性ワニスおよび該電荷輸送性ワニスの材料となる化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、電荷輸送性物質と、所定のオニウムボレート塩とを有機溶媒に溶解させて得られるワニスから、電荷輸送性、平坦性および均一性に優れる電荷輸送性薄膜が再現性よく得られること、並びに当該薄膜を正孔注入層として用いることで、優れた輝度特性の有機EL素子が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、
1. 電荷輸送性物質と、オニウムボレート塩と、有機溶媒とを含み、
上記有機溶媒が、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、3-フェノキシトルエン、4-メトキシトルエン、トルエン、アニソール、シクロヘキシルベンゼン、安息香酸メチル、テトラリンおよびイソホロンからなる群より選ばれる2種以上の高溶解性溶媒;および/または、25℃で10~200mPa・sの粘度を有し、常圧(大気圧)で沸点50~300℃の高粘度有機溶媒を含み、
上記オニウムボレート塩が、式(a1)で表される1価または2価のアニオンと式(c1)~(c5)で表される対カチオンからなるオニウムボレート塩(ただし、電気的中性な塩である)を含み、
【化1】
(式中、Arは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよいヘテロアリール基を表し、Lは、アルキレン基、-NH-、酸素原子、硫黄原子または-CN+-を表す。)
【化2】
上記電荷輸送性物質が、下記式(1)で表されるアニリン誘導体、下記式(2)で表されるアニリン誘導体、下記式(I)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン、および下記式(Is)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェンから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする電荷輸送性ワニス、
【化3】
〔式中、R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
Ph1は、式(P1)で表される基を表し、
【化4】
(式中、R3~R6は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表す。)
Ar1は、互いに独立して、式(B1)~(B11)のいずれかで表される基を表し、
【化5】
(式中、R7~R27、R30~R51およびR53~R154は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい、ジフェニルアミノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
28およびR29は、互いに独立して、Z1で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基または炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
52は、水素原子、Z4で置換されてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基、またはZ1で置換されてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
Ar4は、互いに独立して、ジ炭素数6~20のアリールアミノ基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基を表し、
1は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ2で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基を表し、
2は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ3で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
3は、ハロゲン原子、ニトロ基またはシアノ基を表し、
4は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ5で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
5は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ3で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基を表す。)
Ar2は、互いに独立して、式(A1)~(A18)のいずれかで表される基を表し、
【化6】
(式中、R155は、水素原子、Z4で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基、またはZ1で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
156およびR157は、互いに独立して、Z1で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基または炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
DPAは、ジフェニルアミノ基を表し、
Ar4、Z1,Z4は上記と同じ意味を表す。)
Ar3は、式(C1)~(C8)のいずれかで表される基を表し、
【化7】
(式中、DPAは、上記と同じ意味を表す。)
kは、1~10の整数を表し、
lは、1または2を表す。〕
【化8】
(式中、R1aおよびR2aは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、炭素数1~40のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、-O-[Z-O]p-Reであり、あるいは、R1aおよびR2aは、一緒になって-O-Z-O-を形成し、Zは、Yで置換されてもよい炭素数1~40のヒドロカルビレン基(ここで、Yは、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシアルキル基であり、該アルキル基またはアルコキシアルキル基は、任意の位置がスルホン酸基で置換されていている)であり、pは、1以上であり、Reは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基である。)
【化9】
(式中、R1bおよびR2bは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、炭素数1~40のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、-O-[Z-O]p-Re、または-SO3Mであり、Zは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~40のヒドロカルビレン基であり、pは、1以上であり、Reは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基であり、Mは、水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、またはトリアルキルアンモニウムである。但し、R1bおよびR2bの少なくとも一方は、-SO3Mである。)
2. 上記Arが、1または2以上の電子吸引性置換基を有するアリール基である1の電荷輸送性ワニス、
3. 上記電子吸引性置換基が、ハロゲン原子である2の電荷輸送性ワニス、
4. 上記アニオンが、式(a2)で表される1~3のいずれかの電荷輸送性ワニス、
【化10】
5. 上記オニウムボレート塩が下記式で表される4の電荷輸送性ワニス、
【化11】
6. 上記電荷輸送性物質が、アニリン誘導体である1~5のいずれかの電荷輸送性ワニス、
7. 上記オニウムボレート塩と、上記電荷輸送性物質との比率(質量比)が、電荷輸送性物質:オニウムボレート塩=1:0.01~20である1~6のいずれかの電荷輸送性ワニス、
8. 固形分濃度が、0.1~10.0質量%である1~7のいずれかの電荷輸送性ワニス、
9. 1~8のいずれかの電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜、
10. 9の電荷輸送性薄膜を有する有機エレクトロルミネッセンス素子、
11. 1~8のいずれかの電荷輸送性ワニスを基材上に塗布し、溶媒を蒸発させることを特徴とする電荷輸送性薄膜の製造方法、
12. 有機エレクトロルミネッセンス素子における正孔注入層に含有される、下記式で表されるオニウムボレート塩
【化12】
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いることで、電荷輸送性、平坦性および均一性に優れる電荷輸送性薄膜が得られる。
また、このような特性を有する電荷輸送性薄膜は、有機EL素子をはじめとした電子デバイス用薄膜として好適に用いることができる。特に、この薄膜を有機EL素子の正孔注入層に適用することで、低駆動電圧の有機EL素子を得ることができる。
さらに、本発明の電荷輸送性ワニスは、スピンコート法やスリットコート法等、大面積に成膜可能な各種ウェットプロセスを用いた場合でも電荷輸送性に優れた薄膜を再現性よく製造できるため、近年の有機EL素子の分野における進展にも十分対応できる。
そして、本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜は、電荷輸送性に優れることから、有機薄膜太陽電池の陽極バッファ層、帯電防止膜等として使用されることも期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る電荷輸送性ワニスは、電荷輸送性物質と、オニウムボレート塩と、有機溶媒とを含み、オニウムボレート塩が、式(a1)で表される1価または2価のアニオンと式(c1)~(c5)で表される対カチオンからなるオニウムボレート塩(ただし、電気的中性な塩である)を含むものである。
なお、電荷輸送性とは、導電性と同義であり、正孔輸送性とも同義である。また、本発明の電荷輸送性ワニスは、それ自体に電荷輸送性があるものでもよく、ワニスを使用して得られる固体膜に電荷輸送性があるものでもよい。
【0009】
【化13】
【0010】
式中、Arは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよいヘテロアリール基を表し、Lは、アルキレン基、-NH-、酸素原子、硫黄原子または-CN+-を表す。
【0011】
アリール基としては、炭素数6~20のアリール基等が挙げられる。その具体例としては、フェニル基、トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基等が挙げられ、フェニル基、トリル基およびナフチル基が好ましい。
【0012】
上記置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基および炭素数2~20のアルキニル基等が挙げられる。
【0013】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子が好ましい。
【0014】
炭素数1~20のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコサニル基等が挙げられるが、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましい。
【0015】
炭素数2~20のアルケニル基の具体例としては、エテニル基、n-1-プロペニル基、n-2-プロペニル基、1-メチルエテニル基、n-1-ブテニル基、n-2-ブテニル基、n-3-ブテニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-エチルエテニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、n-1-ペンテニル基、n-1-デセニル基、n-1-エイコセニル基等が挙げられる。
【0016】
炭素数2~20のアルキニル基の具体例としては、エチニル基、n-1-プロピニル基、n-2-プロピニル基、n-1-ブチニル基、n-2-ブチニル基、n-3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基、n-1-ペンチニル基、n-2-ペンチニル基、n-3-ペンチニル基、n-4-ペンチニル基、1-メチル-n-ブチニル基、2-メチル-n-ブチニル基、3-メチル-n-ブチニル基、1,1-ジメチル-n-プロピニル基、n-1-ヘキシニル基、n-1-デシニル基、n-1-ペンタデシニル基、n-1-エイコシニル基等が挙げられる。
【0017】
また、上記アリール基は、上述した置換基の中でも、1または2以上の電子吸引性基を有するものが好ましい。上記電子吸引性基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等が挙げられ、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子が特に好ましい。
【0018】
ヘテロアリール基としては、好ましくは炭素数2~20のヘテロアリール基が挙げられる。その具体例としては、2-チエニル基、3-チエニル基、2-フラニル基、3-フラニル基、2-オキサゾリル基、4-オキサゾリル基、5-オキサゾリル基、3-イソオキサゾリル基、4-イソオキサゾリル基、5-イソオキサゾリル基等の含酸素ヘテロアリール基、2-チアゾリル基、4-チアゾリル基、5-チアゾリル基、3-イソチアゾリル基、4-イソチアゾリル基、5-イソチアゾリル基等の含硫黄ヘテロアリール基、2-イミダゾリル基、4-イミダゾリル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基、2-ピラジル基、3-ピラジル基、5-ピラジル基、6-ピラジル基、2-ピリミジル基、4-ピリミジル基、5-ピリミジル基、6-ピリミジル基、3-ピリダジル基、4-ピリダジル基、5-ピリダジル基、6-ピリダジル基、1,2,3-トリアジン-4-イル基、1,2,3-トリアジン-5-イル基、1,2,4-トリアジン-3-イル基、1,2,4-トリアジン-5-イル基、1,2,4-トリアジン-6-イル基、1,3,5-トリアジン-2-イル基、1,2,4,5-テトラジン-3-イル基、1,2,3,4-テトラジン-5-イル基、2-キノリニル基、3-キノリニル基、4-キノリニル基、5-キノリニル基、6-キノリニル基、7-キノリニル基、8-キノリニル基、1-イソキノリニル基、3-イソキノリニル基、4-イソキノリニル基、5-イソキノリニル基、6-イソキノリニル基、7-イソキノリニル基、8-イソキノリニル基、2-キノキサニル基、5-キノキサニル基、6-キノキサニル基、2-キナゾリニル基、4-キナゾリニル基、5-キナゾリニル基、6-キナゾリニル基、7-キナゾリニル基、8-キナゾリニル基、3-シンノリニル基、4-シンノリニル基、5-シンノリニル基、6-シンノリニル基、7-シンノリニル基、8-シンノリニル基等の含窒素ヘテロアリール基等が挙げられる。
【0019】
上記ヘテロアリール基が有する置換基としては、上記アリール基で例示したものと同様の置換基が挙げられる。
【0020】
Lは、アルキレン基、-NH-、酸素原子、硫黄原子または-CN+-を表すが、-CN+-が好ましい。
【0021】
アルキレン基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のアルキレン基が挙げられる。その具体例としては、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
【0022】
本発明で好適に用いることのできる上記式(a1)のアニオンとしては、式(a2)で示されるものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0023】
【化14】
【0024】
一方、対カチオンは、式(c1)~(c5)で表されるものが挙げられる。
【化15】
【0025】
本発明において、上記オニウムボレート塩は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、必要に応じて公知のその他のオニウムボレート塩を併用してもよい。
なお、上記オニウムボレート塩は、例えば、特開2005-314682号公報等に記載された公知の方法を参考に合成することができる。
【0026】
上記オニウムボレート塩は、電荷輸送性ワニスへの溶解を容易にするため、あらかじめ有機溶媒に溶かしておいてもよい。
このような有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソアミルケトン、2-ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテルまたはモノフェニルエーテル等の多価アルコールおよびその誘導体類;ジオキサン等の環式エーテル類;蟻酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシプロピオン酸メチル、2-ヒドロキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸メチル、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート等のエステル類;トルエン、キシレン、3-フェノキシトルエン、4-メトキシトルエン、安息香酸メチル、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、イソホロン等の芳香族炭化水素類等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
有機溶媒を使用する場合、その使用割合は、上記オニウムボレート塩100質量部に対して、15~1,000質量部が好ましく、30~500質量部がより好ましい。
【0027】
本発明で用いる電荷輸送性物質としては、特に限定されるものではなく、従来有機ELの分野等で公知のものから適宜選択して用いることができる。
その具体例としては、オリゴアニリン誘導体、N,N'-ジアリールベンジジン誘導体、N,N,N',N'-テトラアリールベンジジン誘導体等のアリールアミン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、チエノチオフェン誘導体、チエノベンゾチオフェン誘導体等のチオフェン誘導体、オリゴピロール等のピロール誘導体等の各種正孔輸送性物質が挙げられるが、中でも、アリールアミン誘導体、チオフェン誘導体が好ましく、アリールアミン誘導体がより好ましく、式(1)または(2)で示されるアニリン誘導体がより一層好ましい。
【0028】
また、電荷輸送性物質の分子量も特に限定されるものではないが、平坦性の高い薄膜を与える均一なワニスを調製する観点から、200~9,000が好ましく、耐溶剤性の高い電荷輸送性を得る観点から、300以上がより好ましく、400以上がより一層好ましく、平坦性の高い薄膜をより再現性よく与える均一なワニスを調製する観点から、8,000以下がより好ましく、7,000以下がより一層好ましく、6,000以下がさらに好ましく、5,000以下が最適である。
なお、薄膜化した場合に電荷輸送性物質が分離することを防ぐ観点から、電荷輸送性物質は分子量分布のない(分散度が1)ことが好ましい(すなわち、単一の分子量であることが好ましい)。
【0029】
【化16】
【0030】
式(2)中、R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、これらの具体例としては、上記式(c1)で説明した基と同様のものが挙げられる。
【0031】
中でも、R1およびR2は、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~20のヘテロアリール基が好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基がより好ましく、水素原子、フッ素原子、メチル基、トリフルオロメチル基がより一層好ましく、水素原子が最適である。
【0032】
上記式(1)および(2)におけるPh1は、式(P1)で表される基を表す。
【0033】
【化17】
【0034】
ここで、R3~R6は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、これらの具体例としては、上記式(c1)で説明した基と同様のものが挙げられる。
特に、R3~R6としては、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~20のヘテロアリール基が好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基がより好ましく、水素原子、フッ素原子、メチル基、トリフルオロメチル基がより一層好ましく、水素原子が最適である。
【0035】
以下、Ph1として好適な基の具体例を挙げるが、これに限定されるわけではない。
【0036】
【化18】
【0037】
上記式(1)におけるAr1は、互いに独立して、式(B1)~(B11)のいずれかで表される基を表すが、特に、式(B1′)~(B11′)のいずれかで表される基が好ましい。
【0038】
【化19】
【0039】
【化20】
【0040】
ここで、R7~R27、R30~R51およびR53~R154は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい、ジフェニルアミノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、R28およびR29は、互いに独立して、Z1で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基または炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、R52は、水素原子、Z4で置換されてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基、またはZ1で置換されてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、Z1は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ2で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基を表し、Z2は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ3で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、Z3は、ハロゲン原子、ニトロ基またはシアノ基を表し、Z4は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ5で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、Z5は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ3で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基を表し、これらハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基および炭素数2~20のヘテロアリール基の具体例としては、上記式(a1)で説明した基と同様のものが挙げられる。
【0041】
特に、R7~R27、R30~R51およびR53~R154としては、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいジフェニルアミノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~20のヘテロアリール基が好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基がより好ましく、水素原子、フッ素原子、メチル基、トリフルオロメチル基がより一層好ましく、水素原子が最適である。
また、R28およびR29としては、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~14のヘテロアリール基が好ましく、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基がより好ましく、Z1で置換されていてもよいフェニル基、Z1で置換されていてもよい1-ナフチル基、Z1で置換されていてもよい2-ナフチル基がより一層好ましい。
そして、R52としては、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~20のヘテロアリール基、Z4で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基が好ましく、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~14のヘテロアリール基、Z4で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~14の含窒素ヘテロアリール基、Z4で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基がより一層好ましく、水素原子、Z1で置換されていてもよいフェニル基、Z1で置換されていてもよい1-ナフチル基、Z1で置換されていてもよい2-ナフチル基、Z1で置換されていてもよい2-ピリジル基、Z1で置換されていてもよい3-ピリジル基、Z1で置換されていてもよい4-ピリジル基、Z4で置換されていてもよいメチル基がさらに好ましい。
【0042】
また、Ar4は、互いに独立して、ジ炭素数6~20のアリールアミノ基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基を表す。
炭素数6~20のアリール基、ジ炭素数6~20のアリールアミノ基の具体例としては、式(c1)で説明した基と同様のものが挙げられる。
Ar4としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、p-(ジフェニルアミノ)フェニル基、p-(1-ナフチルフェニルアミノ)フェニル基、p-(ジ(1-ナフチル)アミノ)フェニル基、p-(1-ナフチル-2-ナフチルアミノ)フェニル基、p-(ジ(2-ナフチル)アミノ)フェニル基が好ましく、p-(ジフェニルアミノ)フェニル基がより好ましい。
【0043】
以下、Ar1として好適な基の具体例を挙げるが、これらに限定されるわけではない。
【0044】
【化21】
【0045】
【化22】
【0046】
【化23】
【0047】
【化24】
(式中、R52は、上記と同じ意味を表す。)
【0048】
【化25】
【0049】
【化26】
【0050】
【化27】
【0051】
【化28】
【0052】
上記式(1)におけるAr2は、互いに独立して、式(A1)~(A18)のいずれかで表される基を表す。
【0053】
【化29】
【0054】
ここで、式中、R155は、水素原子、Z4で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基、またはZ1で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、R156およびR157は、互いに独立して、Z1で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基または炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、DPAは、ジフェニルアミノ基を表し、Ar4、Z1,Z4は上記と同じ意味を表す。これらハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基および炭素数2~20のヘテロアリール基の具体例としては、上記式(c1)で説明した基と同様のものが挙げられる。
【0055】
特に、R155としては、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~20のヘテロアリール基、Z4で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基が好ましく、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~14のヘテロアリール基、Z4で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~14の含窒素ヘテロアリール基、Z4で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基がより一層好ましく、水素原子、Z1で置換されていてもよいフェニル基、Z1で置換されていてもよい1-ナフチル基、Z1で置換されていてもよい2-ナフチル基、Z1で置換されていてもよい2-ピリジル基、Z1で置換されていてもよい3-ピリジル基、Z1で置換されていてもよい4-ピリジル基、Z4で置換されていてもよいメチル基がさらに好ましい。
また、R156およびR157としては、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~14のヘテロアリール基が好ましく、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基がより好ましく、Z1で置換されていてもよいフェニル基、Z1で置換されていてもよい1-ナフチル基、Z1で置換されていてもよい2-ナフチル基がより一層好ましい。
【0056】
以下、Ar2として好適な基の具体例を挙げるが、これらに限定されるわけではない。
【0057】
【化30】
【0058】
【化31】
【0059】
【化32】
【0060】
【化33】
【0061】
【化34】
【0062】
【化35】
(式中、R155は、上記と同じ意味を表す。)
【0063】
【化36】
【0064】
なお、式(1)においては、得られるアニリン誘導体の合成の容易性を考慮すると、Ar1が全て同一の基であり、Ar2が全て同一の基であることが好ましく、Ar1およびAr2が全て同一の基であることがより好ましい。すなわち、式(1)で表されるアニリン誘導体は、式(1-1)で表されるアニリン誘導体がより好ましい。
また、後述するように原料化合物として比較的安価なビス(4-アミノフェニル)アミンを用いて比較的簡便に合成できるとともに、有機溶媒に対する溶解性に優れていることからも、式(1)で表されるアニリン誘導体は、式(1-1)で表されるアニリン誘導体が好ましい。
【0065】
【化37】
【0066】
式(1-1)中、Ph1およびkは上記と同じ意味を表し、Ar5は、同時に、式(D1)~(D13)のいずれかで表される基を表すが、特に、式(D1′)~(D13′)のいずれかで表される基であることが好ましい。
なお、Ar5の具体例としては、Ar1として好適な基の具体例として上述したものと同様のものが挙げられる。
【0067】
【化38】
(式中、R28、R29、R52、Ar4およびDPAは、上記と同じ意味を表す。)
【0068】
【化39】
(式中、R28、R29、R52、Ar4およびDPAは、上記と同じ意味を表す。)
【0069】
また、後述するように原料化合物として比較的安価なビス(4-アミノフェニル)アミンを用いて比較的簡便に合成できるとともに、得られるアニリン誘導体の有機溶媒に対する溶解性に優れていることから、式(1)で表されるアニリン誘導体は、式(1-2)で表されるアニリン誘導体が好ましい。
【0070】
【化40】
【0071】
上記Ar6は、同時に、式(E1)~(E14)のいずれかで表される基を表す。
【0072】
【化41】
(式中、R52は、上記と同じ意味を表す。)
【0073】
上記式(2)におけるAr3は、式(C1)~(C8)のいずれかで表される基を表すが、特に(C1′)~(C8′)のいずれかで表される基が好ましい。
【0074】
【化42】
【0075】
【化43】
【0076】
上記式(1)におけるkは、1~10の整数を表すが、化合物の有機溶媒への溶解性を高める観点から、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1または2がより一層好ましく、1が最適である。
上記式(2)におけるlは、1または2を表す。
【0077】
なお、R28、R29、R52およびR155~R157において、Z1は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z2で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~10のアルケニル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~10のアルキニル基が好ましく、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z2で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~3のアルケニル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~3のアルキニル基がより好ましく、フッ素原子、Z2で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~3のアルケニル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~3のアルキニル基がより一層好ましい。
【0078】
28、R29、R52およびR155~R157において、Z4は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z5で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基が好ましく、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z5で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基がより好ましく、フッ素原子、Z5で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基がより一層好ましく、フッ素原子、Z5で置換されていてもよいフェニル基がさらに好ましい。
【0079】
28、R29、R52およびR155~R157において、Z2は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z3で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基が好ましく、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z3で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基がより好ましく、フッ素原子、Z3で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基がより一層好ましく、フッ素原子、Z3で置換されていてもよいフェニル基がさらに好ましい。
【0080】
28、R29、R52およびR155~R157において、Z5は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z3で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~10のアルケニル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~10のアルキニル基が好ましく、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z3で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~3のアルケニル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~3のアルキニル基がより好ましく、フッ素原子、Z3で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~3のアルケニル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~3のアルキニル基がより一層好ましい。
【0081】
28、R29、R52およびR155~R157において、Z3は、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0082】
一方、R7~R27、R30~R51およびR53~R154において、Z1は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z2で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~3のアルケニル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~3のアルキニル基が好ましく、ハロゲン原子、Z2で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、フッ素原子、Z2で置換されていてもよいメチル基がより一層好ましい。
【0083】
7~R27、R30~R51およびR53~R154において、Z4は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z5で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基が好ましく、ハロゲン原子、Z5で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基がより好ましく、フッ素原子、Z5で置換されていてもよいフェニル基がより一層好ましい。
【0084】
7~R27、R30~R51およびR53~R154において、Z2は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z3で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基が好ましく、ハロゲン原子、Z3で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基がより好ましく、フッ素原子、Z3で置換されていてもよいフェニル基がより一層好ましい。
【0085】
7~R27、R30~R51およびR53~R154において、Z5は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z3で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~3のアルケニル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~3のアルキニル基が好ましく、ハロゲン原子、Z3で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、フッ素原子、Z3で置換されていてもよいメチル基がより一層好ましい。
【0086】
7~R27、R30~R51およびR53~R154において、Z3は、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0087】
上記R52およびR155として好適な基の具体例としては、以下の基が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0088】
【化44】
【0089】
【化45】
【0090】
【化46】
【0091】
【化47】
【0092】
【化48】
【0093】
【化49】
【0094】
上記アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基の炭素数は、好ましくは10以下であり、より好ましくは6以下であり、より一層好ましくは4以下である。
また、上記アリール基およびヘテロアリール基の炭素数は、好ましくは14以下であり、より好ましくは10以下であり、より一層好ましくは6以下である。
【0095】
上記式(1)で表されるアニリン誘導体は、式(3)で表されるアミン化合物と、式(4)で表されるアリール化合物とを、触媒存在下で反応させて製造できる。
【0096】
【化50】
(式中、Xは、ハロゲン原子または擬ハロゲン基を表し、Ar1、Ar2、Ph1およびkは、上記と同じ意味を表す。)
【0097】
特に、式(1-1)で表されるアニリン誘導体は、式(5)で表されるアミン化合物と、式(6)で表されるアリール化合物とを、触媒存在下で反応させて製造できる。
【0098】
【化51】
(式中、X、Ar5、Ph1およびkは、上記と同じ意味を表す。)
【0099】
また、式(1-2)で表されるアニリン誘導体は、ビス(4-アミノフェニル)アミンと、式(7)で表されるアリール化合物とを、触媒存在下で反応させて製造できる。
【0100】
【化52】
(式中、XおよびAr6は、上記と同じ意味を表す。)
【0101】
一方、上記式(2)で表されるアニリン誘導体は、式(8)で表されるアミン化合物と、式(9)で表されるアリール化合物とを、触媒存在下で反応させて製造できる。
【0102】
【化53】
(式中、X、R1、R2、Ar3、Ph1およびlは、上記と同じ意味を表す。)
【0103】
ハロゲン原子としては、上記と同様のものが挙げられる。
擬ハロゲン基としては、メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、ノナフルオロブタンスルホニルオキシ基等の(フルオロ)アルキルスルホニルオキシ基;ベンゼンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基等の芳香族スルホニルオキシ基等が挙げられる。
【0104】
式(3)、(5)もしくは(8)で表されるアミン化合物またはビス(4-アミノフェニル)アミンと、式(4)、(6)、(7)または(9)で表されるアリール化合物との仕込み比は、アミン化合物またはビス(4-アミノフェニル)アミンの全NH基の物質量に対し、アリール化合物を当量以上とすることができるが、1~1.2当量程度が好適である。
【0105】
上記反応に用いられる触媒としては、例えば、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅等の銅触媒;Pd(PPh34(テトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム)、Pd(PPh32Cl2(ビス(トリフェニルフォスフィン)ジクロロパラジウム)、Pd(dba)2(ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム)、Pd2(dba)3(トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム)、Pd(P-t-Bu32(ビス(トリ(t-ブチルフォスフィン))パラジウム)、Pd(OAc)2(酢酸パラジウム)等のパラジウム触媒等が挙げられる。これらの触媒は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、これらの触媒は、公知の適切な配位子とともに使用してもよい。
このような配位子としては、トリフェニルフォスフィン、トリ-o-トリルフォスフィン、ジフェニルメチルフォスフィン、フェニルジメチルフォスフィン、トリメチルフォスフィン、トリエチルフォスフィン、トリブチルフォスフィン、トリ-tert-ブチルフォスフィン、ジ-t-ブチル(フェニル)フォスフィン、ジ-tert-ブチル(4-ジメチルアミノフェニル)フォスフィン、1,2-ビス(ジフェニルフォスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルフォスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルフォスフィノ)ブタン、1,1'-ビス(ジフェニルフォスフィノ)フェロセン等の3級フォスフィン、トリメチルフォスファイト、トリエチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト等の3級フォスファイト等が挙げられる。
【0106】
触媒の使用量は、式(4)、(6)、(7)または(9)で表されるアリール化合物1molに対して、0.2mol程度とすることができるが、0.15mol程度が好適である。
また、配位子を用いる場合、その使用量は、使用する金属錯体に対し0.1~5当量とすることができるが、1~2当量が好適である。
【0107】
原料化合物が全て固体である場合あるいは目的とするアニリン誘導体を効率よく得る観点から、上記各反応は溶媒中で行う。溶媒を使用する場合、その種類は、反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に制限はない。具体例としては、脂肪族炭化水素類(ペンタン、n-ヘキサン、n-オクタン、n-デカン、デカリン等)、ハロゲン化脂肪族炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素等)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン等)、ハロゲン化芳香族炭化水素類(クロロベンゼン、ブロモベンゼン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ-n-ブチルケトン、シクロヘキサノン等)、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、ラクタムおよびラクトン類(N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン等)、尿素類(N,N-ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチルウレア等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド、スルホラン等)、ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等)等が挙げられ、これらの溶媒は単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0108】
反応温度は、用いる溶媒の融点から沸点までの範囲で適宜設定すればよいが、特に、0~200℃程度が好ましく、20~150℃がより好ましい。
反応終了後は、常法にしたがって後処理をし、目的とするアニリン誘導体を得ることができる。
【0109】
上述の式(1)で表されるアニリン誘導体の製造方法において、原料として用い得る式(3')で表されるアミン化合物は、式(10)で表されるアミン化合物と、式(11)で表されるアリール化合物とを、触媒存在下で反応させて効率よく製造することができる。
【0110】
【化54】
(式中、X、Ar1、Ph1およびkは、上記と同じ意味を表す。ただし、2つのAr1が同時に式(B1)で表される基となることはない。)
【0111】
式(3')で表されるアミン化合物の上記製造方法は、式(10)で表されるアミン化合物と、式(11)で表されるアリール化合物とをカップリング反応させるものであるが、式(10)で表されるアミン化合物と、式(11)で表されるアリール化合物との仕込みは、物質量比で、アミン化合物1に対して、アリール化合物2~2.4程度が好適である。
その他、当該カップリング反応における触媒、配位子、溶媒、反応温度等に関する諸条件は、式(1)で表されるアニリン誘導体の製造方法について説明した上記条件と同じである。
【0112】
なお、式(1)において、Ar1が、R52が水素原子である式(B4)で表される基または式(B10)で表される基であるか、あるいは、Ar2が、式(A12)で表される基またはR155(式(1-1)におけるR52を含む。)が水素原子である式(A16)で表される基であるアニリン誘導体を製造する場合、上述の反応においては、アミノ基上に公知の保護基を有するアリール化合物を用いてもよい。
【0113】
以下、式(1)または(2)で表されるアニリン誘導体の具体例を挙げるが、これらに限定されるわけではない。なお、式および表中、「Me」はメチル基を、「Et」はエチル基を、「Prn」はn-プロピル基を、「Pri」はi-プロピル基を、「Bun」はn-ブチル基を、「Bui」はi-ブチル基を、「Bus」はs-ブチル基を、「But」はt-ブチル基を、「DPA」はジフェニルアミノ基を、「SBF」は9,9'-スピロビ[9H-フルオレン]-2-イル基を、それぞれ示す。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】
【0118】
【表5】
【0119】
【表6】
【0120】
【表7】
【0121】
【表8】
【0122】
【表9】
【0123】
【表10】
【0124】
【表11】
【0125】
【表12】
【0126】
【表13】
【0127】
【表14】
【0128】
【表15】
【0129】
【表16】
【0130】
【表17】
【0131】
【表18】
【0132】
本発明において好適に使用し得るチオフェン誘導体としては、下記式(I)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェンを挙げることができる。
【0133】
【化55】
(式中、R1aおよびR2aは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、炭素数1~40のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、-O-[Z-O]p-Reであり、あるいは、R1aおよびR2aは、一緒になって-O-Z-O-を形成し、Zは、Yで置換されてもよい炭素数1~40のヒドロカルビレン基(ここで、Yは、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシアルキル基であり、該アルキル基またはアルコキシアルキル基は、任意の位置がスルホン酸基で置換されていてもよい)であり、pは、1以上であり、Reは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基である。)
【0134】
特に、R1aおよびR2aは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のフルオロアルキル基、-O[C(Rab)-C(Rcd)-O]p-Re、または-ORfが好ましい。Ra~Rdは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基を表す。Reは、上記と同様である。pは、1、2、または3が好ましい。Rfは、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基が好ましい。
【0135】
炭素数1~40のアルキル基としては、上記で例示した炭素数1~20のアルキル基のほか、ベヘニル基、トリアコンチル基、及びテトラコンチル基等が挙げられる。
【0136】
炭素数1~40のフルオロアルキル基としては、炭素原子上の少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換された直鎖状又は分岐状のアルキル基であれば特に限定されないが、例えば、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペルフルオロプロペニル基、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチル基、ペルフルオロエチル基、及び-CH2CF3等が挙げられる。
【0137】
炭素数1~40のアルコキシ基としては、その中のアルキル基が直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれのものでもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、及びtert-ブトキシ基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0138】
炭素数1~40のフルオロアルコキシ基としては、炭素原子上の少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルコキシ基であれば特に限定されないが、例えば、フルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、1-フルオロエトキシ基、2-フルオロエトキシ基、1,2-ジフルオロエトキシ基、1,1-ジフルオロエトキシ基、2,2-ジフルオロエトキシ基、1,1,2-トリフルオロエトキシ基、1,2,2-トリフルオロエトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基、1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ基、1,2,2,2-テトラフルオロエトキシ基、1,1,2,2,2-ペンタフルオロエトキシ基、1-フルオロプロポキシ基、2-フルオロプロポキシ基、3-フルオロプロポキシ基、1,1-ジフルオロプロポキシ基、1,2-ジフルオロプロポキシ基、1,3-ジフルオロプロポキシ基、2,2-ジフルオロプロポキシ基、2,3-ジフルオロプロポキシ基、3,3-ジフルオロプロポキシ基、1,1,2-トリフルオロプロポキシ基、1,1,3-トリフルオロプロポキシ基、1,2,3-トリフルオロプロポキシ基、1,3,3-トリフルオロプロポキシ基、2,2,3-トリフルオロプロポキシ基、2,3,3-トリフルオロプロポキシ基、3,3,3-トリフルオロプロポキシ基、1,1,2,2-テトラフルオロプロポキシ基、1,1,2,3-テトラフルオロプロポキシ基、1,2,2,3-テトラフルオロプロポキシ基、1,3,3,3-テトラフルオロプロポキシ基、2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ基、2,3,3,3-テトラフルオロプロポキシ基、1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロポキシ基、1,2,2,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、ヘプタフルオロプロポキシ基等が挙げられる。
【0139】
ヒドロカルビレン基は、炭化水素から2個の水素原子を除去することにより形成される二価炭化水素基である。ヒドロカルビレン基は、直鎖、分岐又は環状であってよく、そして飽和又は不飽和であってよい。炭素数1~40のヒドロカルビレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、1-フェニルエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、及び2,6-ナフチレン基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0140】
炭素数6~20のアリール基としては、上記で例示したものと同様のものを挙げることができる。
【0141】
炭素数6~20のアリールオキシ基の例は、フェノキシ基、アントラセノキシ基、ナフトキシ基、フェナントレノキシ基、およびフルオレノキシ基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0142】
炭素数1~10のアルコキシアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メトキシエチル基、エトキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシプロピル基、メトキシブチル基、エトキシブチル基等が挙げられるが、炭素数1~6のアルコキシアルキル基が好ましい。
【0143】
上記式(I)のポリチオフェンの一態様として、R1aが、水素原子であり、R2aが、水素原子以外である態様を挙げることができる。この場合、繰り返し単位は、3-置換チオフェンから誘導される。
【0144】
ポリチオフェンは、レジオランダム型またはレジオレギュラー型化合物であってよい。その非対称構造のため、3-置換チオフェンの重合から、繰り返し単位間の3種の可能性ある位置化学結合を含有するポリチオフェン構造の混合物が生成する。2個のチオフェン環が結合するとき利用可能なこの3種の配向は、2,2’、2,5’、および5,5’カップリングである。2,2’(即ち、頭-頭)カップリングおよび5,5’(即ち、尾-尾)カップリングは、レジオランダム型カップリングと呼ばれる。対照的に、2,5’(即ち、頭-尾)カップリングは、レジオレギュラー型カップリングと呼ばれる。位置規則性(regioregularity)の程度は、例えば、約0~100%、または約25~99.9%、または約50~98%でありうる。位置規則性は、例えば、NMR分光法を用いる等の、当業者に公知の標準法により決定することができる。
【0145】
上記の3-置換チオフェンから誘導される態様において、ポリチオフェンは、レジオレギュラー型であることが好ましい。この場合、ポリチオフェンの位置規則性は、少なくとも約85%が好ましく、少なくとも約95%がより好ましく、少なくとも約98%がより一層好ましい。他の態様において、位置規則性の程度は、少なくとも約70%が好ましく、少なくとも約80%がより好ましい。更に他の態様において、レジオレギュラー型ポリチオフェンは、少なくとも約90%程度の位置規則性を有し、典型的には少なくとも約98%程度の位置規則性を有する。
【0146】
3-置換チオフェンモノマー(該モノマーから誘導されるポリマーを含む)は、市販されているか、または当業者には公知の方法により製造することができる。側基を持つレジオレギュラー型ポリチオフェンを含む、合成方法、ドーピング法、およびポリマー特性評価は、例えば、McCulloughらの米国特許第6,602,974号およびMcCulloughらの米国特許第6,166,172号に記載されている。
【0147】
上記式(I)のポリチオフェンの別の態様として、R1aおよびR2aが、両方とも水素原子以外である態様を挙げることができる。この場合、繰り返し単位は、3,4-二置換チオフェンから誘導される。
【0148】
上記の3,4-二置換チオフェンから誘導される態様において、R1aおよびR2aは、互いに独立して、-O[C(Rab)-C(Rcd)-O]p-Re、またはORfである。この場合、R1aおよびR2aは、両方とも-O[C(Rab)-C(Rcd)-O]p-Reであることがより好ましい。R1aおよびR2aは、同一であっても異なっていてもよい。
【0149】
また、上記Ra~Rdは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のフルオロアルキル基、またはフェニル基が好ましく、Reは、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のフルオロアルキル基、またはフェニル基が好ましい。
【0150】
上記の3,4-二置換チオフェンから誘導される態様において、R1aおよびR2aは、それぞれ-O[CH2-CH2-O]p-Reまたは-O[CH(CH3)-CH2-O]p-Reであることが好ましい。
【0151】
更に、Reは、メチル基、プロピル基、またはブチル基がより好ましい。
【0152】
また、R1aおよびR2aが、一緒になって-O-Z-O-を形成する態様においては、下記式(Y1)および(Y2)で表される基である繰り返し単位を含有する態様が好ましい。
【0153】
【化56】
【0154】
上記ポリチオフェンの好ましい具体例として、下記式(I-1)~(I-5)で示される繰り返し単位を1種以上含むものを挙げることができる。
【0155】
【化57】
【0156】
上記式(I-1)で表される繰り返し単位は、下記式の3-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)チオフェン(以下、3-MEET)で示される構造を有するモノマーから誘導される。(本明細書中ではポリ(3-MEET)と呼ぶ。)
【0157】
【化58】
【0158】
上記式(I-2)で表される繰り返し単位は、下記式の3,4-ビス(2-(2-ブトキシエトキシ)エトキシ)チオフェン(以下、3,4-ジBEET)で示される構造を有するモノマーから誘導される。
【0159】
【化59】
【0160】
上記式(I-3)で表される繰り返し単位は、下記式の3,4-ビス((1-プロポキシプロパン-2-イル)オキシ)チオフェン(以下、3,4-ジPPT)で示される構造を有するモノマーから誘導される。
【0161】
【化60】
【0162】
上記式(I-4)で表される繰り返し単位は、下記式の3,4-エチレンジオキシチオフェンで示される構造を有するモノマーから誘導される。
【0163】
【化61】
【0164】
上記式(I-5)で表される繰り返し単位は、下記式で示される構造を有するモノマーから誘導される。
【0165】
【化62】
【0166】
3,4-二置換チオフェンモノマー(該モノマーから誘導されるポリマーを含む)は、市販されているか、または当業者に公知の方法により製造することができる。例えば、3,4-二置換チオフェンモノマーは、3,4-ジブロモチオフェンを、式:HO-[Z-O]p-ReまたはHORf(式中、Z、Re、Rfおよびpは、上記と同じ意味を表す。)で表される化合物の金属塩、好ましくはナトリウム塩と反応させることにより生成させることができる。
【0167】
3,4-二置換チオフェンモノマーの重合は、最初に3,4-二置換チオフェンモノマーの2および5位を臭素化して、対応する3,4-二置換チオフェンモノマーの2,5-ジブロモ誘導体を形成することにより実施される。次にニッケル触媒の存在下での3,4-二置換チオフェンの2,5-ジブロモ誘導体のGRIM(グリニャールメタセシス)重合により、ポリマーを得ることができる。このような方法は、例えば、米国特許第8,865,025号に記載されている。また、チオフェンモノマーを重合する別の既知の方法としては、酸化剤として、例えば、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)のような金属非含有有機酸化剤や、塩化鉄(III)、塩化モリブデン(V)および塩化ルテニウム(III)のような遷移金属ハロゲン化物等を用いた酸化重合を挙げることができる。
【0168】
金属塩、好ましくはナトリウム塩に変換され、そして3,4-二置換チオフェンモノマーを生成させるのに使用されうる、式:HO-[Z-O]p-ReまたはHORfで表される化合物の例は、トリフルオロエタノール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルセロソルブ)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(Dowanol PnB)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(エチルカルビトール)、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル(Dowanol DPnB)、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(フェニルカルビトール)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(Dowanol DPM)、ジイソブチルカルビノール、2-エチルヘキシルアルコール、メチルイソブチルカルビノール、エチレングリコールモノフェニルエーテル(Dowanol Eph)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(Dowanol PnP)、プロピレングリコールモノフェニルエーテル(Dowanol PPh)、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル(プロピルカルビトール)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルカルビトール)、2-エチルヘキシルカルビトール、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(Dowanol DPnP)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(Dowanol TPM)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルカルビトール)、およびトリプロピレングリコールモノブチルエーテル(Dowanol TPnB)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0169】
上記式(I)で表される繰り返し単位を有するポリチオフェンは、重合後において、更に修飾することができる。例えば、3-置換チオフェンモノマーから誘導される1種以上の繰り返し単位を有するポリチオフェンは、水素原子が、スルホン化によるスルホン酸基(-SO3H)のような置換基によって置換されうる、1個以上の部位を有していてもよい。
【0170】
本発明において、上記の「スルホン化」という用語は、そのポリチオフェンが、1個以上のスルホン酸基(-SO3H)を含むことを意味する(当該ポリチオフェンは、「スルホン化ポリチオフェン」とも言う。)。
典型的には、-SO3H基の硫黄原子は、ポリチオフェンポリマーの基本骨格に直接結合しており、側基には結合していない。本発明において、側基は、理論的にまたは実際にポリマーから脱離されても、ポリマー鎖の長さを縮めない一価基である。スルホン化ポリチオフェンポリマーおよび/またはコポリマーは、当業者に公知の任意の方法を用いて製造することができる。例えば、重合後のポリチオフェンに、発煙硫酸、硫酸アセチル、ピリジンSO3等のようなスルホン化試薬を反応させることによりスルホン化する方法を挙げることができる。また、スルホン化試薬を用いて予めスルホン化したモノマーを用いて、公知の方法により重合する方法を挙げることができる。なお、上記スルホン酸基は、塩基性化合物、例えば、アルカリ金属水酸化物、アンモニアおよびアルキルアミン(例えば、モノ-、ジ-およびトリアルキルアミン、例えば、トリエチルアミン等)の存在下で、対応する塩または付加体の形成をもたらし得る。よって、ポリチオフェンポリマーに関連する「スルホン化」という用語は、このポリチオフェンが、1個以上の-SO3M基(ここで、Mは、アルカリ金属イオン(例えば、Na+、Li+、K+、Rb+、Cs+等)、アンモニウム(NH4 +)、モノ-、ジ-、およびトリアルキルアンモニウム(トリエチルアンモニウム等)であってよい)を含んでもよいという意味を含む。
【0171】
共役ポリマーのスルホン化およびスルホン化共役ポリマー(スルホン化ポリチオフェンを含む)は、Seshadriらの米国特許第8,017,241号に記載されている。
また、スルホン化ポリチオフェンについては、国際公開第2008/073149号および国際公開第2016/171935号に記載されている。
【0172】
スルホン化ポリチオフェンの具体例としては、下記式(Is)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェンを挙げることができる。
【化63】
(式中、R1bおよびR2bは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、炭素数1~40のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、-O-[Z-O]p-Re、または-SO3Mであり、Zは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~40のヒドロカルビレン基であり、pは、1以上であり、Reは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基であり、Mは、水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、またはトリアルキルアンモニウムである。但し、R1bおよびR2bの少なくとも一方は、-SO3Mである。)
式中、R1bおよびR2bは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のフルオロアルキル基、-O[C(Rab)-C(Rcd)-O]p-Re、-ORf、または-SO3Mが好ましい。Ra~Rdは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基を表す。Reは、上記と同様である。pは、1、2、または3が好ましい。Rfは、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基が好ましい。
上記スルホン化ポリチオフェンの好ましい態様としては、例えば、R1bが、-SO3Mであり、R2bが、-SO3M以外である態様が挙げられる。
上記スルホン化ポリチオフェンの別の好ましい態様としては、例えば、R1bが、-SO3Mであり、R2bが、-O[C(Rab)-C(Rcd)-O]p-ReまたはORfである態様が挙げられる。
上記スルホン化ポリチオフェンの更に別の好ましい態様としては、例えば、R1bが、-SO3Mであり、R2bが、-O[C(Rab)-C(Rcd)-O]p-Reである態様が挙げられる。
上記スルホン化ポリチオフェンの更に別の好ましい態様としては、例えば、R1bが、-SO3Mであり、R2bが、-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH3である態様が挙げられる。
【0173】
炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、炭素数1~40のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、炭素数1~40のヒドロカルビレン基、および炭素数6~20のアリール基としては、上記で例示したものと同様のものを挙げることができる。
【0174】
上記式(Is)で表されるスルホン化ポリチオフェンは、下記式(II)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェンをスルホン化することにより得られる。
【0175】
【化64】
(式中、R1cおよびR2cは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、炭素数1~40のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、または-O-[Z-O]p-Reであり、Zは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~40のヒドロカルビレン基を表し、pは、1以上であり、Reは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基である。)
【0176】
炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、炭素数1~40のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、炭素数1~40のヒドロカルビレン基および炭素数6~20のアリール基としては、上記で例示したものと同様のものを挙げることができる。
【0177】
式中、R1cおよびR2cは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のフルオロアルキル基、-O[C(Rab)-C(Rcd)-O]p-Re、-ORfが好ましい。Ra~Rdは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基を表す。Reは、上記と同様である。pは、1、2、または3が好ましい。Rfは、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基が好ましい。
【0178】
上記式(II)のポリチオフェンの態様として、R1cが、水素原子であり、R2cが、水素原子以外である態様を挙げることができる。この場合、繰り返し単位は、3-置換チオフェンから誘導される。
【0179】
スルホン化ポリチオフェンは、レジオランダム型またはレジオレギュラー型化合物のポリチオフェンから得られる。その非対称構造のため、3-置換チオフェンの重合から、繰り返し単位間の3種の可能性ある位置化学結合を含有するポリチオフェン構造の混合物が生成する。2個のチオフェン環が結合するとき利用可能なこの3種の配向は、2,2’、2,5’、および5,5’カップリングである。2,2’(即ち、頭-頭)カップリングおよび5,5’(即ち、尾-尾)カップリングは、レジオランダム型カップリングと呼ばれる。対照的に、2,5’(即ち、頭-尾)カップリングは、レジオレギュラー型カップリングと呼ばれる。位置規則性(regioregularity)の程度は、例えば、約0~100%、または約25~99.9%、または約50~98%でありうる。位置規則性は、例えば、NMR分光法を用いる等の、当業者に公知の標準法により決定することができる。
【0180】
3-置換チオフェンモノマー(該モノマーから誘導されるポリマーを含む)は、市販されているか、または当業者に公知の方法により製造することができる。側基を持つレジオレギュラー型ポリチオフェンを含む、合成方法、ドーピング法、およびポリマー特性評価は、例えば、McCulloughらの米国特許第6,602,974号およびMcCulloughらの米国特許第6,166,172号に提供される。共役ポリマーのスルホン化およびスルホン化共役ポリマー(スルホン化ポリチオフェンを含む)は、Seshadriらの米国特許第8,017,241号に記載されている。
【0181】
上記式(Is)において、R1bが、水素原子であり、R2bが、-O[C(Rab)-C(Rcd)-O]p-Re、またはORfである態様が好ましく、R1bが、水素原子であり、R2bが、-O[C(Rab)-C(Rcd)-O]p-Reである態様がより好ましい。
【0182】
上記Ra~Rdは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のフルオロアルキル基、またはフェニル基が好ましく、ReおよびRfは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のフルオロアルキル基、またはフェニル基が好ましい。
【0183】
また、上記式(Is)において、R2bは、-O[CH2-CH2-O]p-Re、または-ORfであることが好ましい。
【0184】
金属塩、好ましくはナトリウム塩に変換することができ、そしてチオフェンモノマーに結合して3-置換チオフェン(次にこれを使用して、スルホン化すべきポリチオフェンを生成させる)を形成させることができる、式:-O[C(Rab)-C(Rcd)-O]p-ReまたはHORfで表される化合物の例は、トリフルオロエタノール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルセロソルブ)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(Dowanol PnB)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(エチルカルビトール)、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル(Dowanol DPnB)、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(フェニルカルビトール)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(Dowanol DPM)、ジイソブチルカルビノール、2-エチルヘキシルアルコール、メチルイソブチルカルビノール、エチレングリコールモノフェニルエーテル(Dowanol Eph)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(Dowanol PnP)、プロピレングリコールモノフェニルエーテル(Dowanol PPh)、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル(プロピルカルビトール)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルカルビトール)、2-エチルヘキシルカルビトール、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(Dowanol DPnP)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(Dowanol TPM)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルカルビトール)、およびトリプロピレングリコールモノブチルエーテル(Dowanol TPnB)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0185】
また、上記Reは、水素原子、メチル基、プロピル基、またはブチル基が好ましく、上記Rfは、-CH2CF3が好ましい。
【0186】
本発明において、スルホン化ポリチオフェンは、上記式(I-1)~(I-5)で示される繰り返し単位を含むポリチオフェンをスルホン化することにより得ることができる。
【0187】
上記の各ポリチオフェンポリマーは、ホモポリマーまたはコポリマー(統計的、ランダム、勾配、およびブロックコポリマーを含む)であってよい。モノマーAおよびモノマーBを含むポリマーとしては、ブロックコポリマーは、例えば、A-Bジブロックコポリマー、A-B-Aトリブロックコポリマー、および(AB)n-マルチブロックコポリマーを含む。ポリチオフェンは、他のタイプのモノマー(例えば、チエノチオフェン、セレノフェン、ピロール、フラン、テルロフェン、アニリン、アリールアミン、およびアリーレン(例えば、フェニレン、フェニレンビニレン、およびフルオレン等)等)から誘導される繰り返し単位を含んでもよい。
【0188】
本発明において、ポリチオフェンにおける式(I)または(Is)で表される繰り返し単位の含有量は、繰り返し単位の総重量に対して50質量%超が好ましく、80質量%超がより好ましく、90質量%超がより一層好ましく、95質量%超が最も好ましい。
【0189】
本発明において、重合に使用される出発モノマー化合物の純度に応じて、形成されるポリマーは、不純物から誘導される繰り返し単位を含有してもよい。本発明において、上記の「ホモポリマー」という用語は、1つのタイプのモノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマーを意味するものであるが、不純物から誘導される繰り返し単位を含有してもよい。本発明において、上記ポリチオフェンは、基本的に全ての繰り返し単位が、上記式(I)または(Is)で表される繰り返し単位であるホモポリマーであることが好ましい。
【0190】
ポリチオフェンポリマーの数平均分子量は、約1,000~1,000,000g/molが好ましく、約5,000~100,000g/molがより好ましく、約10,000~約50,000g/molがより一層好ましい。上記数平均分子量は、例えば、ゲル透過クロマトグラフィー等の当業者に公知の方法により決定することができる。
【0191】
本発明においては、上記のポリチオフェンを還元剤で処理した後に用いてもよい。
ポリチオフェンでは、それらを構成する繰り返し単位の一部において、その化学構造が「キノイド構造」と呼ばれる酸化型の構造となっている場合がある。用語「キノイド構造」は、用語「ベンゼノイド構造」に対して用いられるもので、芳香環を含む構造である後者に対し、前者は、その芳香環内の二重結合が環外に移動し(その結果、芳香環は消失する)、環内に残る他の二重結合と共役する2つの環外二重結合が形成された構造を意味する。当業者にとって、これらの両構造の関係は、ベンゾキノンとヒドロキノンの構造の関係から容易に理解できるものである。種々の共役ポリマーの繰り返し単位についてのキノイド構造は、当業者にとって周知である。一例として、上記式(I)で表されるポリチオフェンの繰り返し単位に対応するキノイド構造を、下記式(I’)に示す。
【0192】
【化65】
【0193】
式(I’)中、R1aおよびR2aは、上記式(I)において定義された通りである。
【0194】
このキノイド構造は、上記式(I)で表されるポリチオフェンがドーパントにより酸化反応を受けるプロセス、いわゆるドーピング反応によって生じ、ポリチオフェンに電荷輸送性を付与する「ポーラロン構造」および「バイポーラロン構造」と称される構造の一部を成すものである。これらの構造は公知である。有機EL素子の作製において、「ポーラロン構造」および/または「バイポーラロン構造」の導入は必須であり、実際、有機EL素子作成時、電荷輸送性ワニスから形成された電荷輸送性薄膜を焼成処理するときに、上記のドーピング反応を意図的に起こさせて、これを達成している。このドーピング反応を起こさせる前のポリチオフェンにキノイド構造が含まれているのは、ポリチオフェンが、その製造過程(スルホン化ポリチオフェンの場合、特に、その中のスルホン化工程)において、ドーピング反応と同等の、意図しない酸化反応を起こしたためと考えられる。
【0195】
上記ポリチオフェンに含まれるキノイド構造の量と、ポリチオフェンの有機溶媒に対する分散性の間には相関があり、キノイド構造の量が多くなると、その分散性は低下する傾向にある。このため、電荷輸送性ワニスから電荷輸送性薄膜が形成された後でのキノイド構造の導入は問題を生じないが、上記の意図しない酸化反応により、ポリチオフェンにキノイド構造が過剰に導入されていると、電荷輸送性ワニスの製造に支障をきたす場合がある。ポリチオフェンにおいては、有機溶媒に対する分散性にばらつきがあることが知られているが、その原因の1つは、上記の意図しない酸化反応によりポリチオフェンに導入されたキノイド構造の量が、各々のポリチオフェンの製造条件の差に応じて変動することであると考えられる。
そこで、上記ポリチオフェンを、還元剤を用いる還元処理に付すと、ポリチオフェンにキノイド構造が過剰に導入されていても、還元によりキノイド構造が減少し、ポリチオフェンの有機溶媒に対する分散性が向上するため、均質性に優れた電荷輸送性薄膜を与える良好な電荷輸送性ワニスを、安定的に製造することが可能になる。
【0196】
この還元処理に用いる還元剤は、上記キノイド構造を還元して非酸化型の構造、即ち、上記ベンゼノイド構造に変換する(例えば、上記式(I)で表されるポリチオフェンにおいては、上記式(I’)で表されるキノイド構造を、上記式(I)で表される構造に変換する)ことができるものである限り特に制限はなく、例えば、アンモニア水、ヒドラジン等を使用することが好ましい。還元剤の量は、処理すべきポリチオフェン100質量部に対し、0.1~10質量部が好ましく、0.5~2質量部がより好ましい。
【0197】
還元処理の方法および条件に特に制限はない。例えば、適当な溶媒の存在下または非存在下、単にポリチオフェンを還元剤と接触させることにより、この処理を行うことができる。通常、ポリチオフェンを28%アンモニア水中で撹拌する(例えば、室温にて終夜)等の、比較的温和な条件下での還元処理により、ポリチオフェンの有機溶媒に対する分散性は十分に向上する。
スルホン化ポリチオフェンの場合、必要であれば、スルホン化ポリチオフェンを対応するアンモニウム塩、例えばトリアルキルアンモニウム塩(スルホン化ポリチオフェンアミン付加体)に変換した後に、還元処理に付してもよい。
【0198】
なお、この還元処理によりポリチオフェンの溶媒に対する分散性が変化する結果、処理の開始時には反応系に溶解していなかったポリチオフェンが、処理の完了時には溶解している場合がある。そのような場合には、ポリチオフェンと非相溶性の有機溶剤(スルホン化ポリチオフェンの場合、アセトン,イソプロピルアルコール等)を反応系に添加して、ポリチオフェンの沈殿を生じさせ、濾過する等の方法により、ポリチオフェンを回収することができる。
【0199】
本発明において、上記オニウムボレート塩と、電荷輸送性物質との比率は、物質量(モル)比で、電荷輸送性物質:オニウムボレート塩=1:0.1~10程度とすることができる。
【0200】
また、本発明において、上記オニウムボレート塩と、電荷輸送性物質との比率は、上記モル比を超えない範囲で、質量比では、電荷輸送性物質:オニウムボレート塩=1:0.01~20程度、好ましくは1:0.01~10程度、より好ましくは1:0.01~2程度、更に好ましくは1:0.1~2程度とすることができ、1:0.15~1が最適である。
【0201】
電荷輸送性ワニスを調製する際に用いられる有機溶媒としては、電荷輸送性物質およびオニウムボレート塩を良好に溶解し得る高溶解性溶媒を用いることができる。
このような高溶解性溶媒としては、例えば、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、3-フェノキシトルエン、4-メトキシトルエン、トルエン、アニソール、シクロヘキシルベンゼン、安息香酸メチル、テトラリン、イソホロン等の有機溶媒が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの溶媒は1種単独で、または2種以上混合して用いることができ、その使用量は、ワニスに使用する溶媒全体に対して5~100質量%とすることができる。
【0202】
また、本発明においては、ワニスに、25℃で10~200mPa・s、特に35~150mPa・sの粘度を有し、常圧(大気圧)で沸点50~300℃、特に150~250℃の高粘度有機溶媒を少なくとも1種類含有させることで、ワニスの粘度の調整が容易になり、その結果、平坦性の高い薄膜を再現性よく与える、塗布方法に応じたワニス調製が可能となる。
高粘度有機溶媒としては、例えば、シクロヘキサノール、エチレングリコール、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,3-オクチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール、へキシレングリコール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
本発明のワニスに用いられる溶媒全体に対する高粘度有機溶媒の添加割合は、固体が析出しない範囲内であることが好ましく、固体が析出しない限りにおいて、添加割合は、5~90質量%が好ましい。
【0203】
さらに、基板に対する濡れ性の向上、溶媒の表面張力の調整、極性の調整、沸点の調整等の目的で、その他の溶媒を、ワニスに使用する溶媒全体に対して1~90質量%、好ましくは1~50質量%の割合で混合することもできる。
このような溶媒としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジアセトンアルコール、γ-ブチロラクトン、エチルラクテート、n-ヘキシルアセテート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの溶媒は1種単独で、または2種以上混合して用いることができる。
【0204】
本発明のワニスの粘度は、作製する薄膜の厚み等や固形分濃度に応じて適宜設定されるものではあるが、通常、25℃で1~50mPa・sであり、その表面張力は、通常、20~50mN/mである。
また、電荷輸送性ワニスの固形分濃度は、ワニスの粘度および表面張力等や、作製する薄膜の厚み等を勘案して適宜設定されるものではあるが、通常、0.1~10.0質量%程度であり、ワニスの塗布性を向上させることを考慮すると、好ましくは0.5~5.0質量%程度、より好ましくは1.0~3.0質量%程度である。
【0205】
ワニスの調製法としては、特に限定されるものではないが、例えば、上記オニウムボレート塩を先に溶媒に溶解させ、そこへ電荷輸送性物質を順次加える手法や、上記オニウムボレート塩と電荷輸送性物質との混合物を溶媒に溶解させる手法が挙げられる。
また、有機溶媒が複数ある場合は、例えば、上記オニウムボレート塩と電荷輸送性物質をよく溶解する溶媒に、まずこれらを溶解させ、そこへその他の溶媒を加えてもよく、複数の有機溶媒の混合溶媒に、上記オニウムボレート塩、電荷輸送性物質を順次、あるいはこれらを同時に溶解させてもよい。
【0206】
本発明においては、電荷輸送性ワニスは、高平坦性薄膜を再現性よく得る観点から、上記オニウムボレート塩、電荷輸送性化合物等を有機溶媒に溶解させた後、サブマイクロオーダーのフィルター等を用いて濾過することが望ましい。
【0207】
本発明の電荷輸送性薄膜は、上記説明した電荷輸送性ワニスを基材上に塗布して焼成することで、基材上に形成させることができる。
ワニスの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法、スリットコート法等が挙げられ、塗布方法に応じてワニスの粘度および表面張力を調節することが好ましい。
【0208】
また、本発明のワニスを用いる場合、焼成雰囲気も特に限定されるものではなく、大気雰囲気だけでなく、窒素等の不活性ガスや真空中でも均一な成膜面および高い電荷輸送性を有する薄膜を得ることができるが、電荷輸送性化合物等の種類によっては、ワニスを大気雰囲気下で焼成した方が、より高い電荷輸送性を有する薄膜を再現性よく得られる場合がある。
【0209】
焼成温度は、得られる薄膜の用途、得られる薄膜に付与する電荷輸送性の程度、溶媒の種類や沸点等を勘案して、100~260℃程度の範囲内で適宜設定されるものではあるが、得られる薄膜を有機EL素子の正孔注入層として用いる場合、140~250℃程度が好ましく、145~240℃程度がより好ましい。
なお、焼成の際、より高い均一成膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよく、加熱は、例えば、ホットプレートやオーブン等、適当な機器を用いて行えばよい。
【0210】
電荷輸送性薄膜の膜厚は、特に限定されないが、有機EL素子の正孔注入層、正孔輸送層あるいは正孔注入輸送層として用いる場合、5~200nmが好ましい。膜厚を変化させる方法としては、ワニス中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の基板上の溶液量を変化させたりする等の方法がある。
【0211】
本発明の有機EL素子は、一対の電極を有し、これら電極の間に、上述の本発明の電荷輸送性薄膜を有するものである。
有機EL素子の代表的な構成としては、以下(a)~(f)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。なお、下記構成において、必要に応じて、発光層と陽極の間に電子ブロック層等を、発光層と陰極の間にホール(正孔)ブロック層等を設けることもできる。また、正孔注入層、正孔輸送層あるいは正孔注入輸送層が電子ブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよく、電子注入層、電子輸送層あるいは電子注入輸送層がホール(正孔)ブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよい。
(a)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(b)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(c)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(d)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(e)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
(f)陽極/正孔注入輸送層/発光層/陰極
【0212】
「正孔注入層」、「正孔輸送層」および「正孔注入輸送層」とは、発光層と陽極との間に形成される層であって、正孔を陽極から発光層へ輸送する機能を有するものであり、発光層と陽極の間に、正孔輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「正孔注入輸送層」であり、発光層と陽極の間に、正孔輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陽極に近い層が「正孔注入層」であり、それ以外の層が「正孔輸送層」である。特に、正孔注入(輸送)層は、陽極からの正孔受容性だけでなく、正孔輸送(発光)層への正孔注入性にも優れる薄膜が用いられる。
「電子注入層」、「電子輸送層」および「電子注入輸送層」とは、発光層と陰極との間に形成される層であって、電子を陰極から発光層へ輸送する機能を有するものであり、発光層と陰極の間に、電子輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「電子注入輸送層」であり、発光層と陰極の間に、電子輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陰極に近い層が「電子注入層」であり、それ以外の層が「電子輸送層」である。
「発光層」とは、発光機能を有する有機層であって、ドーピングシステムを採用する場合、ホスト材料とドーパント材料を含んでいる。このとき、ホスト材料は、主に電子と正孔の再結合を促し、励起子を発光層内に閉じ込める機能を有し、ドーパント材料は、再結合で得られた励起子を効率的に発光させる機能を有する。燐光素子の場合、ホスト材料は主にドーパントで生成された励起子を発光層内に閉じ込める機能を有する。
【0213】
本発明の電荷輸送性薄膜は、有機EL素子において、正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層として好適に用いることができ、正孔注入層としてより好適に用いることができる。
【0214】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いて有機EL素子を作製する場合の使用材料や、作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
使用する電極基板は、洗剤、アルコール、純水等による液体洗浄を予め行って浄化しておくことが好ましく、例えば、陽極基板では使用直前にUVオゾン処理、酸素-プラズマ処理等の表面処理を行うことが好ましい。ただし陽極材料が有機物を主成分とする場合、表面処理を行わなくともよい。
【0215】
本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜からなる正孔注入層を有する有機EL素子の作製方法の例は、以下のとおりである。
上記の方法により、陽極基板上に本発明の電荷輸送性ワニスを塗布して焼成し、電極上に正孔注入層を作製する。
この正孔注入層の上に、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極をこの順で設ける。正孔輸送層、発光層、電子輸送層および電子注入層は、用いる材料の特性等に応じて、蒸着法、塗布法(ウェットプロセス)のいずれかで形成すればよい。
陽極材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される透明電極や、アルミニウムに代表される金属やこれらの合金等から構成される金属陽極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体を用いることもできる。
なお、金属陽極を構成するその他の金属としては、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、インジウム、スカンジウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ハフニウム、タリウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、プラチナ、金、チタン、鉛、ビスマスやこれらの合金等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0216】
正孔輸送層を形成する材料としては、(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体、[(トリフェニルアミン)ダイマー]スピロダイマー、N,N'-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N'-ビス(フェニル)-ベンジジン(α-NPD)、N,N'-ビス(ナフタレン-2-イル)-N,N'-ビス(フェニル)-ベンジジン、N,N'-ビス(3-メチルフェニル)-N,N'-ビス(フェニル)-ベンジジン、N,N'-ビス(3-メチルフェニル)-N,N'-ビス(フェニル)-9,9-スピロビフルオレン、N,N'-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N'-ビス(フェニル)-9,9-スピロビフルオレン、N,N'-ビス(3-メチルフェニル)-N,N'-ビス(フェニル)-9,9-ジメチル-フルオレン、N,N'-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N'-ビス(フェニル)-9,9-ジメチル-フルオレン、N,N'-ビス(3-メチルフェニル)-N,N'-ビス(フェニル)-9,9-ジフェニル-フルオレン、N,N'-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N'-ビス(フェニル)-9,9-ジフェニル-フルオレン、N,N'-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N'-ビス(フェニル)-2,2'-ジメチルベンジジン、2,2',7,7'-テトラキス(N,N-ジフェニルアミノ)-9,9-スピロビフルオレン、9,9-ビス[4-(N,N-ビス-ビフェニル-4-イル-アミノ)フェニル]-9H-フルオレン、9,9-ビス[4-(N,N-ビス-ナフタレン-2-イル-アミノ)フェニル]-9H-フルオレン、9,9-ビス[4-(N-ナフタレン-1-イル-N-フェニルアミノ)-フェニル]-9H-フルオレン、2,2',7,7'-テトラキス[N-ナフタレニル(フェニル)-アミノ]-9,9-スピロビフルオレン、N,N'-ビス(フェナントレン-9-イル)-N,N'-ビス(フェニル)-ベンジジン、2,2'-ビス[N,N-ビス(ビフェニル-4-イル)アミノ]-9,9-スピロビフルオレン、2,2'-ビス(N,N-ジフェニルアミノ)-9,9-スピロビフルオレン、ジ-[4-(N,N-ジ(p-トリル)アミノ)-フェニル]シクロヘキサン、2,2',7,7'-テトラ(N,N-ジ(p-トリル))アミノ-9,9-スピロビフルオレン、N,N,N',N'-テトラ-ナフタレン-2-イル-ベンジジン、N,N,N',N'-テトラ-(3-メチルフェニル)-3,3'-ジメチルベンジジン、N,N'-ジ(ナフタレニル)-N,N'-ジ(ナフタレン-2-イル)-ベンジジン、N,N,N',N'-テトラ(ナフタレニル)-ベンジジン、N,N'-ジ(ナフタレン-2-イル)-N,N'-ジフェニルベンジジン-1,4-ジアミン、N1,N4-ジフェニル-N1,N4-ジ(m-トリル)ベンゼン-1,4-ジアミン、N2,N2,N6,N6-テトラフェニルナフタレン-2,6-ジアミン、トリス(4-(キノリン-8-イル)フェニル)アミン、2,2'-ビス(3-(N,N-ジ(p-トリル)アミノ)フェニル)ビフェニル、4,4',4”-トリス[3-メチルフェニル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4',4”-トリス[1-ナフチル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(1-TNATA)等のトリアリールアミン類、5,5”-ビス-{4-[ビス(4-メチルフェニル)アミノ]フェニル}-2,2':5',2”-ターチオフェン(BMA-3T)等のオリゴチオフェン類等の正孔輸送性低分子材料等が挙げられる。
【0217】
発光層を形成する材料としては、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)(Alq3)、ビス(8-キノリノラート)亜鉛(II)(Znq2)、ビス(2-メチル-8-キノリノラート)-4-(p-フェニルフェノラート)アルミニウム(III)(BAlq)、4,4'-ビス(2,2-ジフェニルビニル)ビフェニル、9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)アントラセン、2-t-ブチル-9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)アントラセン、2,7-ビス[9,9-ジ(4-メチルフェニル)-フルオレン-2-イル]-9,9-ジ(4-メチルフェニル)フルオレン、2-メチル-9,10-ビス(ナフタレン-2-イル)アントラセン、2-(9,9-スピロビフルオレン-2-イル)-9,9-スピロビフルオレン、2,7-ビス(9,9-スピロビフルオレン-2-イル)-9,9-スピロビフルオレン、2-[9,9-ジ(4-メチルフェニル)-フルオレン-2-イル]-9,9-ジ(4-メチルフェニル)フルオレン、2,2'-ジピレニル-9,9-スピロビフルオレン、1,3,5-トリス(ピレン-1-イル)ベンゼン、9,9-ビス[4-(ピレニル)フェニル]-9H-フルオレン、2,2'-ビ(9,10-ジフェニルアントラセン)、2,7-ジピレニル-9,9-スピロビフルオレン、1,4-ジ(ピレン-1-イル)ベンゼン、1,3-ジ(ピレン-1-イル)ベンゼン、6,13-ジ(ビフェニル-4-イル)ペンタセン、3,9-ジ(ナフタレン-2-イル)ペリレン、3,10-ジ(ナフタレン-2-イル)ペリレン、トリス[4-(ピレニル)-フェニル]アミン、10,10'-ジ(ビフェニル-4-イル)-9,9'-ビアントラセン、N,N'-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N'-ジフェニル-[1,1':4',1'':4'',1'''-クウォーターフェニル]-4,4'''-ジアミン、4,4'-ジ[10-(ナフタレン-1-イル)アントラセン-9-イル]ビフェニル、ジベンゾ{[f,f']-4,4',7,7'-テトラフェニル}ジインデノ[1,2,3-cd:1',2',3'-lm]ペリレン、1-(7-(9,9'-ビアントラセン-10-イル)-9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル)ピレン、1-(7-(9,9'-ビアントラセン-10-イル)-9,9-ジヘキシル-9H-フルオレン-2-イル)ピレン、1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(カルバゾール-9-イル)ベンゼン、4,4',4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン、4,4'-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)、4,4'-ビス(カルバゾール-9-イル)-2,2'-ジメチルビフェニル、2,7-ビス(カルバゾール-9-イル)-9,9-ジメチルフルオレン、2,2',7,7'-テトラキス(カルバゾール-9-イル)-9,9-スピロビフルオレン、2,7-ビス(カルバゾール-9-イル)-9,9-ジ(p-トリル)フルオレン、9,9-ビス[4-(カルバゾール-9-イル)-フェニル]フルオレン、2,7-ビス(カルバゾール-9-イル)-9,9-スピロビフルオレン、1,4-ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン、1,3-ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン、ビス(4-N,N-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)-4-メチルフェニルメタン、2,7-ビス(カルバゾール-9-イル)-9,9-ジオクチルフルオレン、4,4”-ジ(トリフェニルシリル)-p-ターフェニル、4,4'-ジ(トリフェニルシリル)ビフェニル、9-(4-t-ブチルフェニル)-3,6-ビス(トリフェニルシリル)-9H-カルバゾール、9-(4-t-ブチルフェニル)-3,6-ジトリチル-9H-カルバゾール、9-(4-t-ブチルフェニル)-3,6-ビス(9-(4-メトキシフェニル)-9H-フルオレン-9-イル)-9H-カルバゾール、2,6-ビス(3-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル)ピリジン、トリフェニル(4-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)フェニル)シラン、9,9-ジメチル-N,N-ジフェニル-7-(4-(1-フェニル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)フェニル)-9H-フルオレン-2-アミン、3,5-ビス(3-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル)ピリジン、9,9-スピロビフルオレン-2-イル-ジフェニル-フォスフィン オキサイド、9,9'-(5-(トリフェニルシリル)-1,3-フェニレン)ビス(9H-カルバゾール)、3-(2,7-ビス(ジフェニルフォスフォリル)-9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)-9-フェニル-9H-カルバゾール、4,4,8,8,12,12-ヘキサ(p-トリル)-4H-8H-12H-12C-アザジベンゾ[cd,mn]ピレン、4,7-ジ(9H-カルバゾール-9-イル)-1,10-フェナントロリン、2,2'-ビス(4-(カルバゾール-9-イル)フェニル)ビフェニル、2,8-ビス(ジフェニルフォスフォリル)ジベンゾ[b,d]チオフェン、ビス(2-メチルフェニル)ジフェニルシラン、ビス[3,5-ジ(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]ジフェニルシラン、3,6-ビス(カルバゾール-9-イル)-9-(2-エチル-ヘキシル)-9H-カルバゾール、3-(ジフェニルフォスフォリル)-9-(4-(ジフェニルフォスフォリル)フェニル)-9H-カルバゾール、3,6-ビス[(3,5-ジフェニル)フェニル]-9-フェニルカルバゾール等が挙げられ、発光性ドーパントと共蒸着することによって、発光層を形成してもよい。
【0218】
発光性ドーパントとしては、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-10-(2-ベンゾチアゾリル)キノリジノ[9,9a,1gh]クマリン、キナクリドン、N,N'-ジメチル-キナクリドン、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)、ビス(2-フェニルピリジン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)(Ir(ppy)2(acac))、トリス[2-(p-トリル)ピリジン]イリジウム(III)(Ir(mppy)3)、9,10-ビス[N,N-ジ(p-トリル)アミノ]アントラセン、9,10-ビス[フェニル(m-トリル)アミノ]アントラセン、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(II)、N10,N10,N10',N10'-テトラ(p-トリル)-9,9'-ビアントラセン-10,10'-ジアミン、N10,N10,N10',N10'-テトラフェニル-9,9'-ビアントラセン-10,10'-ジアミン、N10,N10'-ジフェニル-N10,N10'-ジナフタレニル-9,9'-ビアントラセン-10,10'-ジアミン、4,4'-ビス(9-エチル-3-カルバゾビニレン)-1,1'-ビフェニル、ペリレン、2,5,8,11-テトラ-t-ブチルペリレン、1,4-ビス[2-(3-N-エチルカルバゾリル)ビニル]ベンゼン、4,4'-ビス[4-(ジ-p-トリルアミノ)スチリル]ビフェニル、4-(ジ-p-トリルアミノ)-4'-[(ジ-p-トリルアミノ)スチリル]スチルベン、ビス[3,5-ジフルオロ-2-(2-ピリジル)フェニル-(2-カルボキシピリジル)]イリジウム(III)、4,4'-ビス[4-(ジフェニルアミノ)スチリル]ビフェニル、ビス(2,4-ジフルオロフェニルピリジナト)テトラキス(1-ピラゾリル)ボレートイリジウム(III)、N,N'-ビス(ナフタレン-2-イル)-N,N'-ビス(フェニル)-トリス(9,9-ジメチルフルオレニレン)、2,7-ビス{2-[フェニル(m-トリル)アミノ]-9,9-ジメチル-フルオレン-7-イル}-9,9-ジメチル-フルオレン、N-(4-((E)-2-(6((E)-4-(ジフェニルアミノ)スチリル)ナフタレン-2-イル)ビニル)フェニル)-N-フェニルベンゼンアミン、fac-イリジウム(III)トリス(1-フェニル-3-メチルベンズイミダゾリン-2-イリデン-C,C2')、mer-イリジウム(III)トリス(1-フェニル-3-メチルベンズイミダゾリン-2-イリデン-C,C2')、2,7-ビス[4-(ジフェニルアミノ)スチリル]-9,9-スピロビフルオレン、6-メチル-2-(4-(9-(4-(6-メチルベンゾ[d]チアゾール-2-イル)フェニル)アントラセン-10-イル)フェニル)ベンゾ[d]チアゾール、1,4-ジ[4-(N,N-ジフェニル)アミノ]スチリルベンゼン、1,4-ビス(4-(9H-カルバゾール-9-イル)スチリル)ベンゼン、(E)-6-(4-(ジフェニルアミノ)スチリル)-N,N-ジフェニルナフタレン-2-アミン、ビス(2,4-ジフルオロフェニルピリジナト)(5-(ピリジン-2-イル)-1H-テトラゾレート)イリジウム(III)、ビス(3-トリフルオロメチル-5-(2-ピリジル)ピラゾール)((2,4-ジフルオロベンジル)ジフェニルフォスフィネート)イリジウム(III)、ビス(3-トリフルオロメチル-5-(2-ピリジル)ピラゾレート)(ベンジルジフェニルフォスフィネート)イリジウム(III)、ビス(1-(2,4-ジフルオロベンジル)-3-メチルベンズイミダゾリウム)(3-(トリフルオロメチル)-5-(2-ピリジル)-1,2,4-トリアゾレート)イリジウム(III)、ビス(3-トリフルオロメチル-5-(2-ピリジル)ピラゾレート)(4',6'-ジフルオロフェニルピリジネート)イリジウム(III)、ビス(4',6'-ジフルオロフェニルピリジナト)(3,5-ビス(トリフルオロメチル)-2-(2'-ピリジル)ピロレート)イリジウム(III)、ビス(4',6'-ジフルオロフェニルピリジナト)(3-(トリフルオロメチル)-5-(2-ピリジル)-1,2,4-トリアゾレート)イリジウム(III)、(Z)-6-メシチル-N-(6-メシチルキノリン-2(1H)-イリデン)キノリン-2-アミン-BF2、(E)-2-(2-(4-(ジメチルアミノ)スチリル)-6-メチル-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル、4-(ジシアノメチレン)-2-メチル-6-ジュロリジル-9-エニル-4H-ピラン、4-(ジシアノメチレン)-2-メチル-6-(1,1,7,7-テトラメチルジュロリジル-9-エニル)-4H-ピラン、4-(ジシアノメチレン)-2-t-ブチル-6-(1,1,7,7-テトラメチルジュロリジン-4-イル-ビニル)-4H-ピラン、トリス(ジベンゾイルメタン)フェナントロリンユーロピウム(III)、5,6,11,12-テトラフェニルナフタセン、ビス(2-ベンゾ[b]チオフェン-2-イル-ピリジン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)、トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム(III)、ビス(1-フェニルイソキノリン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)、ビス[1-(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル)-イソキノリン](アセチルアセトネート)イリジウム(III)、ビス[2-(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル)キノリン](アセチルアセトネート)イリジウム(III)、トリス[4,4'-ジ-t-ブチル-(2,2')-ビピリジン]ルテニウム(III)・ビス(ヘキサフルオロフォスフェート)、トリス(2-フェニルキノリン)イリジウム(III)、ビス(2-フェニルキノリン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)、2,8-ジ-t-ブチル-5,11-ビス(4-t-ブチルフェニル)-6,12-ジフェニルテトラセン、ビス(2-フェニルベンゾチアゾラト)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)、5,10,15,20-テトラフェニルテトラベンゾポルフィリン白金、オスミウム(II)ビス(3-トリフルオロメチル-5-(2-ピリジン)-ピラゾレート)ジメチルフェニルフォスフィン、オスミウム(II)ビス(3-(トリフルオロメチル)-5-(4-t-ブチルピリジル)-1,2,4-トリアゾレート)ジフェニルメチルフォスフィン、オスミウム(II)ビス(3-(トリフルオロメチル)-5-(2-ピリジル)-1,2,4-トリアゾール)ジメチルフェニルフォスフィン、オスミウム(II)ビス(3-(トリフルオロメチル)-5-(4-t-ブチルピリジル)-1,2,4-トリアゾレート)ジメチルフェニルフォスフィン、ビス[2-(4-n-ヘキシルフェニル)キノリン](アセチルアセトネート)イリジウム(III)、トリス[2-(4-n-ヘキシルフェニル)キノリン]イリジウム(III)、トリス[2-フェニル-4-メチルキノリン]イリジウム(III)、ビス(2-フェニルキノリン)(2-(3-メチルフェニル)ピリジネート)イリジウム(III)、ビス(2-(9,9-ジエチル-フルオレン-2-イル)-1-フェニル-1H-ベンゾ[d]イミダゾラト)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)、ビス(2-フェニルピリジン)(3-(ピリジン-2-イル)-2H-クロメン-2-オネート)イリジウム(III)、ビス(2-フェニルキノリン)(2,2,6,6-テトラメチルヘプタン-3,5-ジオネート)イリジウム(III)、ビス(フェニルイソキノリン)(2,2,6,6-テトラメチルヘプタン-3,5-ジオネート)イリジウム(III)、イリジウム(III)ビス(4-フェニルチエノ[3,2-c]ピリジナト-N,C2')アセチルアセトネート、(E)-2-(2-t-ブチル-6-(2-(2,6,6-トリメチル-2,4,5,6-テトラヒドロ-1H-ピローロ[3,2,1-ij]キノリン-8-イル)ビニル)-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル、ビス(3-トリフルオロメチル-5-(1-イソキノリル)ピラゾレート)(メチルジフェニルフォスフィン)ルテニウム、ビス[(4-n-ヘキシルフェニル)イソキノリン](アセチルアセトネート)イリジウム(III)、白金(II)オクタエチルポルフィン、ビス(2-メチルジベンゾ[f,h]キノキサリン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)、トリス[(4-n-ヘキシルフェニル)キソキノリン]イリジウム(III)等が挙げられる。
【0219】
電子輸送層を形成する材料としては、8-ヒドロキシキノリノレート-リチウム、2,2',2”-(1,3,5-ベンジントリル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)、2-(4-ビフェニル)5-(4-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、ビス(2-メチル-8-キノリノレート)-4-(フェニルフェノラト)アルミニウム、1,3-ビス[2-(2,2'-ビピリジン-6-イル)-1,3,4-オキサジアゾ-5-イル]ベンゼン、6,6'-ビス[5-(ビフェニル-4-イル)-1,3,4-オキサジアゾ-2-イル]-2,2'-ビピリジン、3-(4-ビフェニル)-4-フェニル-5-t-ブチルフェニル-1,2,4-トリアゾール、4-(ナフタレン-1-イル)-3,5-ジフェニル-4H-1,2,4-トリアゾール、2,9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、2,7-ビス[2-(2,2'-ビピリジン-6-イル)-1,3,4-オキサジアゾ-5-イル]-9,9-ジメチルフルオレン、1,3-ビス[2-(4-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾ-5-イル]ベンゼン、トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン、1-メチル-2-(4-(ナフタレン-2-イル)フェニル)-1H-イミダゾ[4,5f][1,10]フェナントロリン、2-(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、フェニル-ジピレニルフォスフィンオキサイド、3,3',5,5'-テトラ[(m-ピリジル)-フェン-3-イル]ビフェニル、1,3,5-トリス[(3-ピリジル)-フェン-3-イル]ベンゼン、4,4'-ビス(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)ビフェニル、1,3-ビス[3,5-ジ(ピリジン-3-イル)フェニル]ベンゼン、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム、ジフェニルビス(4-(ピリジン-3-イル)フェニル)シラン、3,5-ジ(ピレン-1-イル)ピリジン等が挙げられる。
【0220】
電子注入層を形成する材料としては、酸化リチウム(Li2O)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al23)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化ストロンチウム(SrF2)、三酸化モリブデン(MoO3)、アルミニウム、Li(acac)、酢酸リチウム、安息香酸リチウム等が挙げられる。
陰極材料としては、アルミニウム、マグネシウム-銀合金、アルミニウム-リチウム合金、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等が挙げられる。
【0221】
また、本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜からなる正孔注入層を有する有機EL素子の作製方法のその他の例は、以下のとおりである。
上記EL素子作製において、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の真空蒸着操作を行う代わりに、正孔輸送層(以下、正孔輸送性高分子層)、発光層(以下、発光性高分子層)を順次形成することによって本発明の電荷輸送性ワニスによって形成される電荷輸送性薄膜を有する有機EL素子を作製することができる。
具体的には、陽極基板上に本発明の電荷輸送性ワニスを塗布して上記の方法により正孔注入層を作製し、その上に正孔輸送性高分子層、発光性高分子層を順次形成し、さらに陰極電極を蒸着して有機EL素子とする。
【0222】
使用する陰極および陽極材料としては、上述のものと同様のものが使用でき、同様の洗浄処理、表面処理を行うことができる。
正孔輸送性高分子層および発光性高分子層の形成法としては、正孔輸送性高分子材料もしくは発光性高分子材料、またはこれらにドーパント物質を加えた材料に溶媒を加えて溶解するか、均一に分散し、正孔注入層または正孔輸送性高分子層の上に塗布した後、それぞれ焼成することで成膜する方法が挙げられる。
【0223】
正孔輸送性高分子材料としては、ポリ[(9,9-ジヘキシルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N'-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N'-ビス{p-ブチルフェニル}-1,1'-ビフェニレン-4,4-ジアミン)]、ポリ[(9,9-ビス{1'-ペンテン-5'-イル}フルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N'-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[N,N'-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N'-ビス(フェニル)-ベンジジン]-エンドキャップド ウィズ ポリシルシスキノキサン、ポリ[(9,9-ジジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(4,4'-(N-(p-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]等が挙げられる。
【0224】
発光性高分子材料としては、ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)等のポリフルオレン誘導体、ポリ(2-メトキシ-5-(2'-エチルヘキソキシ)-1,4-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)等のポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0225】
溶媒としては、トルエン、キシレン、クロロホルム等を挙げることができ、溶解または均一分散法としては撹拌、加熱撹拌、超音波分散等の方法が挙げられる。
塗布方法としては、特に限定されるものではなく、インクジェット法、スプレー法、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り等が挙げられる。なお、塗布は、窒素、アルゴン等の不活性ガス下で行うことが好ましい。
焼成する方法としては、不活性ガス下または真空中、オーブンまたはホットプレートで加熱する方法が挙げられる。
【0226】
本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜からなる正孔輸送層を有するEL素子の作製方法の例は、以下のとおりである。
陽極基板上に正孔注入層を形成する。その層の上に、上記の方法により本発明の電荷輸送性ワニスを塗布して焼成し、正孔輸送層を作製する。
この正孔輸送層の上に、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極をこの順で設ける。発光層、電子輸送層および電子注入層の形成方法および具体例は上述と同様のものが挙げられる。また、正孔注入層は、用いる材料の特性等に応じて、蒸着法、塗布法(ウェットプロセス)のいずれかで形成すればよい。
【0227】
正孔注入層を形成する材料としては、銅フタロシアニン、酸化チタンフタロシアニン、白金フタロシアニン、ピラジノ[2,3-f][1,10]フェナントロリン-2,3-ジカルボニトリル、N,N,N',N'-テトラキス(4-メトキシフェニル)ベンジジン、2,7-ビス[N,N-ビス(4-メトキシ-フェニル)アミノ]-9,9-スピロビフルオレン、2,2'-ビス[N,N-ビス(4-メトキシ-フェニル)アミノ]-9,9-スピロビフルオレン、N,N'-ジフェニル-N,N'-ジ[4-(N,N-ジトリルアミノ)フェニル]ベンジジン、N,N'-ジフェニル-N,N'-ジ[4-(N,N-ジフェニルアミノ)フェニル]ベンジジン、N4,N4'-(ビフェニル-4,4'-ジイル)ビス(N4,N4',N4'-トリフェニルビフェニル-4,4'-ジアミン)N1,N1'-(ビフェニル-4,4'-ジイル)ビス(N1-フェニル-N4,N4'-ジ-m-トリルベンゼン-1,4-ジアミン)、国際公開第2004/043117号、国際公開第2004/105446号、国際公開第2005/000832号、国際公開第2005/043962号、国際公開第2005/042621号、国際公開第2005/107335号、国際公開第2006/006459号、国際公開第2006/025342号、国際公開第2006/137473号、国際公開第2007/049631号、国際公開第2007/099808号、国際公開第2008/010474号、国際公開第2008/032617号、国際公開第2008/032616号、国際公開第2008/129947号、国際公開第2009/096352号、国際公開第2010/041701号、国際公開第2010/058777号、国際公開第2010/058776号、国際公開第2013/042623号、国際公開第2013/129249号、国際公開第2014/115865号、国際公開第2014/132917号、国際公開第2014/141998号および国際公開第2014/132834号に記載の電荷輸送材料等が挙げられる。
【0228】
陽極材料、発光層、発光性ドーパント、電子輸送層および電子ブロック層を形成する材料、陰極材料としては、上述と同じものが挙げられる。
【0229】
本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜からなる正孔注入輸送層を有する有機EL素子の作製方法の例は、以下のとおりである。
陽極基板上に正孔注入輸送層を形成し、この正孔注入輸送層の上に、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極をこの順で設ける。発光層、電子輸送層および電子注入層の形成方法および具体例は上述と同様のものが挙げられる。
【0230】
陽極材料、発光層、発光性ドーパント、電子輸送層および電子ブロック層を形成する材料、陰極材料としては、上述と同じものが挙げられる。
【0231】
なお、電極および上記各層の間の任意の間に、必要に応じてホールブロック層、電子ブロック層等を設けてもよい。例えば、電子ブロック層を形成する材料としては、トリス(フェニルピラゾール)イリジウム等が挙げられる。
【0232】
陽極と陰極およびこれらの間に形成される層を構成する材料は、ボトムエミッション構造、トップエミッション構造のいずれを備える素子を製造するかで異なるため、その点を考慮して、適宜材料選択する。
通常、ボトムエミッション構造の素子では、基板側に透明陽極が用いられ、基板側から光が取り出されるのに対し、トップエミッション構造の素子では、金属からなる反射陽極が用いられ、基板と反対方向にある透明電極(陰極)側から光が取り出されることから、例えば陽極材料について言えば、ボトムエミッション構造の素子を製造する際はITO等の透明陽極を、トップエミッション構造の素子を製造する際はAl/Nd等の反射陽極を、それぞれ用いる。
【0233】
本発明の有機EL素子は、特性悪化を防ぐため、定法に従い、必要に応じて捕水剤等とともに、封止してもよい。
【実施例0234】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、使用した装置は以下のとおりである。
(1)1H,19F-NMR:JEOL(株)製 核磁気共鳴装置 AL-300
(2)基板洗浄:長州産業(株)製 基板洗浄装置(減圧プラズマ方式)
(3)ワニスの塗布:ミカサ(株)製 スピンコーターMS-A100
(4)膜厚測定:(株)小坂研究所製 微細形状測定機サーフコーダET-4000
(5)膜の表面観察:レーザーテック社製 共焦点レーザー顕微鏡 リアルタイム走査型レーザー顕微鏡 1LM21D
(6)EL素子の作製:長州産業(株)製 多機能蒸着装置システムC-E2L1G1-N
(7)EL素子の輝度等の測定:(株)イーエッチシー製 多チャンネルIVL測定装置
(8)EL素子の寿命測定(輝度半減期測定):(株)イーエッチシー製 有機EL輝度寿命評価システムPEL-105S
(9)LDI-MS:Bruker 社製AutoFlex
【0235】
[1]オニウムボレート塩の合成
[合成例1]オニウムボレート塩(P-3)の合成
下式で示されるP-3は、以下の方法で合成した。
【化66】
【0236】
10L四ツ口フラスコに、ジエチルエーテル6,068mL、下記式(Q-1)で表される化合物151.7g、KCN9.4gを仕込み、34~36℃で3時間反応させた。反応後、常圧濃縮を行い、267.2gの褐色液体を得た。得られた褐色液体を、55℃でエバポレーターで濃縮後、35℃にて16時間減圧乾燥し、157.7gの薄い茶色の固体である式(Q-2)で表される中間体を得た。得られた中間体(Q-2)は、LDI-MSにて同定した。
LDI-MS m/Z found:1050.12([M]-calcd:
1049.97).
【0237】
【化67】
【0238】
300mL三角フラスコに、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムトリフルオロメタンスルホネート11.043g、中間体(Q-2)22.000g、イオン交換水110mL、ジエチルエーテル110mLを仕込み、25℃で16時間反応させた。反応後フラスコ内容物を300mL分液ロートに移し水層を分離した。イオン交換水100mLでエーテル層を5回洗浄した。エーテル層を40~45℃でエバポレータで濃縮後、20時間減圧乾燥し、24.000gの淡黄色の固体である目的物を得た。得られた目的物は、1H-NMRおよびLDI-MSにて同定した。
1H-NMR(300MHz、DMSO-D6):δ7.40~7.80(19H,m)
LDI-MS m/Z found:371.04([M]+calcd:
371.09).
LDI-MS m/Z found:1050.11([M]-calcd:
1049.97).
【0239】
[比較合成例1]P-4の合成
下式で示されるP-4は、国際公開第2006/025342号に記載された方法に従って合成した。
【化68】
【0240】
[比較合成例2]オニウムボレート塩(P-1)の合成
下式で示されるP-1は、東京化成工業(株)より市販されているものを購入し用いた。
【化69】
【0241】
[比較合成例3]オニウムボレート塩(P-2)の合成
下式で示されるP-2は、以下の方法で合成した。
【化70】
【0242】
2,000mL四つ口フラスコに、トリ(4-t-ブチルフェニルスルホニウム)トリフルオロメタンスルホネート5.7g、中間体(Q-2)12.7g、イオン交換水236.0g、ジエチルエーテル704mLを仕込み、21~22℃で16時間反応させた。反応後フラスコ内容物を1,000mL分液ロートに移し水層を分離した。次に、イオン交換水354.0gでエーテル層を3回洗浄した。エーテル層に無水硫酸ナトリウムを加え、水分を除去した後、ろ過し、ろ液を50℃で常圧濃縮後、40℃、18時間減圧乾燥し、13.4gの白色の固体である式(P-2)で表される目的物を得た。得られた目的物(P-2)は、1H-NMRにて同定した。
1H-NMR(300MHz、DMSO-D6):δ7.79(12H,m)、1.32(27H、s)
【0243】
[2]電荷輸送性ワニスの調製
[実施例1-1]
国際公開第2015/050253号の製造例12に記載された方法に従って合成した下記式で示されるT-1 160mgと、合成例1で得られたP-3 149mgとの混合物に、3-フェノキシトルエン8gおよび4-メトキシトルエン2gを加えて、室温で超音波を照射しながら撹拌して溶解させ、得られた溶液を、孔径0.2μmのシリンジフィルターでろ過して電荷輸送性ワニスを得た。
【0244】
【化71】
【0245】
[実施例1-2]
米国特許第8,017,241号の実施例1に記載された方法に従って合成した電荷輸送性物質であるS-ポリ(3-MEET)(スルホン化されているポリ(3-MEET))2.00gを28%アンモニア水(純正化学(株)製)100mLに溶解させ、室温にて終夜撹拌させた。反応液は、アセトン1,500mLにて再沈殿し、析出物をろ過にて回収した。得られた析出物は、再度、水20mL及びトリエチルアミン(東京化成工業(株)製)7.59gにて溶解させ、60℃で1時間撹拌した。反応液を冷却後、イソプロピルアルコール1,000mL及びアセトン500mLの混合溶媒にて再沈殿し、析出物をろ過にて回収した。得られた析出物は、0mmHg、50℃で1時間真空乾燥し、アンモニア水で処理したS-ポリ(3-MEET)-A 1.30gを得た。
得られたS-ポリ(3-MEET)-A 0.125gを、エチレングリコール(関東化学(株)製)2.28g、ジエチレングリコール(関東化学(株)製)2.28g、及びブチルアミン(東京化成工業(株)製)0.20gに溶解させ、ホットスターラーを用い、80℃で1時間撹拌させた。次いで、トリエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業(株)製)1.25gを加え、ホットスターラーを用い、400rpm、80℃で1時間撹拌させた。最後に、P-3を0.125g加え、ホットスターラーを用い、400rpm、40℃で10分間撹拌させ、得られた溶液を、孔径0.2μmのPPシリンジフィルターでろ過して4質量%の電荷輸送性ワニスを得た。
【0246】
[比較例1-1]
特許第5839203号の実施例4または実施例6~8に記載された方法に従って合成した下記式で示されるT-2 0.208gと、比較合成例1で得られたP-4 0.411gとの混合物に、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI) 6.6gと、(2,3-BD) 8.0gと、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM) 5.4gとを加えて、室温で撹拌して溶解させ、得られた溶液に、トリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン0.021g、トリメトキシフェニルシラン0.041gを加え、孔径0.2μmのシリンジフィルターでろ過して電荷輸送性ワニスを得た。
【0247】
【化72】
【0248】
[比較例1-2]
上記式で示されるT-1 158mgと、比較合成例2で得られたP-1 105mgとの混合物に、3-フェノキシトルエン4gおよび4-メトキシトルエン1gを加えて、室温で超音波を照射しながら撹拌して溶解させ、得られた溶液を、孔径0.2μmのシリンジフィルターでろ過して電荷輸送性ワニスを得た。
【0249】
[比較例1-3]
上記式で示されるT-1 134mgと、比較合成例3で得られたP-2 129mgとの混合物に、3-フェノキシトルエン4gおよび4-メトキシトルエン1gを加えて、室温で超音波を照射しながら撹拌して溶解させ、得られた溶液を、孔径0.2μmのシリンジフィルターでろ過して電荷輸送性ワニスを得た。
【0250】
[3]有機EL素子の作製および特性評価
[実施例2-1]
実施例1-1で得られたワニスを、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、大気雰囲気下、80℃で1分間乾燥した。次に、乾燥させたITO基板をグローブボックス内に挿入し、窒素雰囲気下、230℃で30分間焼成し、ITO基板上に50nmの薄膜を形成した。ITO基板としては、インジウム錫酸化物(ITO)が表面上に膜厚150nmでパターニングされた25mm×25mm×0.7tのガラス基板を用い、使用前にO2プラズマ洗浄装置(150W、30秒間)によって表面上の不純物を除去した。
次いで、薄膜を形成したITO基板に対し、蒸着装置(真空度1.0×10-5Pa)を用いてα-NPD(N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン)を0.2nm/秒にて30nm成膜した。次に、関東化学(株)製の電子ブロック材料HTEB-01を10nm成膜した。次いで、新日鉄住金化学(株)製の発光層ホスト材料NS60と発光層ドーパント材料Ir(PPy)3を共蒸着した。共蒸着はIr(PPy)3の濃度が6%になるように蒸着レートをコントロールし、40nm積層させた。次いで、Alq3、フッ化リチウムおよびアルミニウムの薄膜を順次積層して有機EL素子を得た。この際、蒸着レートは、Alq3およびアルミニウムについては0.2nm/秒、フッ化リチウムについては0.02nm/秒の条件でそれぞれ行い、膜厚は、それぞれ20nm、0.5nmおよび80nmとした。
なお、空気中の酸素、水等の影響による特性劣化を防止するため、有機EL素子は封止基板により封止した後、その特性を評価した。封止は、以下の手順で行った。酸素濃度2ppm以下、露点-76℃以下の窒素雰囲気中で、有機EL素子を封止基板の間に収め、封止基板を接着剤((株)MORESCO製、モレスコモイスチャーカット WB90US(P))により貼り合わせた。この際、捕水剤(ダイニック(株)製,HD-071010W-40)を有機EL素子と共に封止基板内に収めた。貼り合わせた封止基板に対し、UV光を照射(波長:365nm、照射量:6,000mJ/cm2)した後、80℃で1時間、アニーリング処理して接着剤を硬化させた。
【0251】
【化73】
【0252】
[実施例2-2]
実施例1-1で得られたワニスの代わりに、実施例1-2で得られたワニスを用い、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、真空乾燥機にて15分間乾燥したこと以外は、実施例2-1と同様の方法で各層を形成し、有機EL素子を作製した。
【0253】
[比較例2-1~2-3]
実施例1-1で得られたワニスの代わりに、比較例1-1~1-3で得られたワニスを用いたこと以外は、実施例2-1と同様の方法で各層を形成し、有機EL素子を作製した。
なお、比較例2-3については、比較例1-3で得られたワニスを用いて成膜することができず、素子を得ることができなかった。
【0254】
実施例2-1~2-2および比較例2-1~2-2の素子の特性を評価した。素子を10,000cd/m2で発光させた場合における駆動電圧、電流密度、電流効率、発光効率、外部発光量子収率(EQE)を表19に示す。素子の輝度の半減期(初期輝度10,000cd/m2)を表20に示す。
【0255】
【表19】
【0256】
【表20】
【0257】
表19および20に示されるように、本発明の電荷輸送性薄膜を備えるEL素子は好適に駆動した。また、寿命特性にも優れていた。