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特開2022-16954離型用油脂組成物、並びに、該離型用油脂組成物を用いた加熱調理食品の製造方法、および加熱調理食品の加熱用調理器具への付着を抑制する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022016954
(43)【公開日】2022-01-25
(54)【発明の名称】離型用油脂組成物、並びに、該離型用油脂組成物を用いた加熱調理食品の製造方法、および加熱調理食品の加熱用調理器具への付着を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
A23D9/00 508
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020119968
(22)【出願日】2020-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】木島 遼
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 忠久
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DG01
4B026DX01
(57)【要約】
【課題】乳化剤を用いなくても、十分な離型効果が得られる離型用油脂組成物を提供すること。
【解決手段】本技術では、麦由来の油を含有する離型用油脂組成物を提供する。また、本技術では、麦由来の油を含有する離型用油脂組成物を用いて食品を加熱調理する、加熱調理食品の製造方法、および、麦由来の油を含有する離型用油脂組成物を、食品を加熱調理する際に使用することによる、加熱調理食品の加熱用調理器具への付着を抑制する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦由来の油を含有する離型用油脂組成物。
【請求項2】
前記麦は、オーツ麦である、請求項1に記載の離型用油脂組成物。
【請求項3】
離型用油脂組成物中に、前記麦由来の油を0.3質量%以上含有する、請求項1又は2に記載の離型用油脂組成物。
【請求項4】
麦由来の油を含有する離型用油脂組成物を用いて食品を加熱調理する、加熱調理食品の製造方法。
【請求項5】
麦由来の油を含有する離型用油脂組成物を、食品を加熱調理する際に使用することによる、加熱調理食品の加熱用調理器具への付着を抑制する方法。
【請求項6】
前記離型用油脂組成物を、食品を加熱調理する際に使用する加熱用調理器具に塗布することによる、請求項5に記載の加熱調理食品の加熱用調理器具への付着を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型用油脂組成物に関する。より詳しくは、食品を加熱調理する際に使用することによって、加熱調理食品の加熱用調理器具への付着を抑制するための離型用油脂組成物、並びに、該離型用油脂組成物を用いた加熱調理食品の製造方法、および加熱調理食品の加熱用調理器具への付着を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱処理を行うことで工業的に製造される食品は、加熱処理後の外観や作業効率等を良好にするために、加熱処理を行う際に、加熱用調理器具への食品の付着を防止すべく、離型用油脂組成物が使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、レシチンをリン脂質含量として0.1~8質量%、HLBが7以上である合成乳化剤を0.01~5質量%及び動植物性ワックスを0.1~8質量%含有することにより、手塗であっても薄く均一に塗布することができ、離型性が良好で、風味が良く、焼洋菓子の焼成面がきれいに仕上がる離型油が開示されている。
【0004】
特許文献2には、油脂と、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるポリグリセリン脂肪酸エステルとを含有し、前記油脂は、3飽和トリグリセリドの含有量が5.0~40質量%であり、2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.5~3.0であり、かつトランス脂肪酸量が0.1~3.0質量%とすることにより、心臓疾患が懸念されるトランス脂肪酸量が少なく、かつ製造機内での油脂の結晶化と微細化が促進され、型に充填した食品生地の離型性、型への塗布性およびスプレー噴霧時のハンドリング性が良好で、かつ食品本来の風味を損なうことがない離型用油脂組成物が開示されている。
【0005】
特許文献3には、リン脂質等の調理器具剥離剤、精留油(例えば、精留パーム油、または精留やし油)、および一酸化二窒素、液化炭化水素、またはこれらの混合物のような加圧気体等の噴霧剤を含有する噴霧可能な調理器具剥離組成物が開示されている。
【0006】
特許文献4には、食用油脂を主体とし、導電率5000~200000pS/mを有することにより、静電塗油装置によって必要最小限度の量を、菓子類やパン類を焼成する際の天板や焼き型に均一に塗布することができ、しかも少ない塗布量であっても製品の離型性に優れた製パン用静電塗布離型油脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-123882号公報
【特許文献2】特開2016-202075号公報
【特許文献3】特表2007-501630号公報
【特許文献4】特開2001-299197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の通り、離型用油脂組成物については、様々な技術が開示されているが、従来の離型用油脂組成物の多くは、レシチン等の種々の乳化剤が用いられており、これにより離型効果が発揮されていた。
【0009】
そこで、本技術では、乳化剤を用いなくても、十分な離型効果が得られる離型用油脂組成物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、乳化剤不使用の離型用油脂組成物の組成について鋭意研究を行った結果、麦由来の油を用いることで、意外にも、乳化剤を用いなくても、十分な離型効果が得られる離型用油脂組成物を得ることに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本技術では、まず、麦由来の油を含有する離型用油脂組成物を提供する。
本技術に係る離型用油脂組成物に用いる前記麦由来の油としては、オーツ麦由来の油を用いることができる。
本技術では、離型用油脂組成物中に、前記麦由来の油を0.3質量%以上含有させることができる。
【0012】
本技術では、次に、麦由来の油を含有する離型用油脂組成物を用いて食品を加熱調理する、加熱調理食品の製造方法を提供する。
【0013】
本技術では、更に、麦由来の油を含有する離型用油脂組成物を、食品を加熱調理する際に使用することによる、加熱調理食品の加熱用調理器具への付着を抑制する方法を提供する。
本技術に係る付着抑制方法では、前記離型用油脂組成物を、食品を加熱調理する際に使用する加熱用調理器具に塗布することで、加熱調理食品の加熱用調理器具への付着を抑制することができる。
【0014】
ここで、本技術に係る技術用語の定義付けを行う。
本技術において、「加熱用調理器具」とは、加熱調理を行う際に、直接食品に触れる調理器具全般を包含する概念である。例えば、焼く、炒める、蒸す、炊く、燻す、電子レンジ加熱等の加熱調理時に用いる型、板、釜、容器、フライパン、鍋等の調理器具が挙げられる。加熱調理器具の大きさや形状、家庭用や業務用等は特に限定されず、パンや焼き菓子等の焼き型や、フライパンや鍋、炊飯釜、銅板、鉄板、たい焼き器等の凹凸がある形状の焼成器、さらには、工場の製造ライン等で用いられる焼成ライン等も含まれる。加熱調理器具の素材は特に限定されず、鉄、アルミ、銅、ステンレス等の金属製、紙製、シリコン製、プラスチック製等であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本技術によれば、乳化剤を用いなくても、十分な離型効果が得られる離型用油脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実験例1および実験例2において、試験例1および試験例8の離型用油脂組成物を用いた場合の小麦粉生地を型から取り出した後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0018】
<離型用油脂組成物>
本技術に係る離型用油脂組成物は、麦由来の油を含有することを特徴とする。
【0019】
(1)麦由来の油
本技術に係る離型用油脂組成物には、例えば、小麦、デュラム小麦、ライ麦、大麦、オーツ麦等の麦由来の油を用いることができる。この中でも、本技術では、加熱用調理器具への離型効果の観点から、オーツ麦由来の油を用いることが好ましい。
【0020】
前記麦由来の油は、公知の方法で製造することができる。例えば、抽出法や圧搾法を用いて、前記麦由来の油を製造することができる。本技術では特に、前記麦由来の油として、水、メタノール、エタノールなどの極性溶媒を用いて抽出されたものが好ましく、特にエタノールを用いて抽出されたものがより好ましい。
【0021】
本技術において、離型用油脂組成物中の前記麦由来の油の含有量は、本技術の効果を損なわない限り限定されないが、離型用油脂組成物中に、前記麦由来の油を0.3質量%以上含有させることが好ましく、0.5質量%以上含有させることがより好ましく、1質量%以上含有させることが更に好ましく、2質量%以上含有させることがより更に好ましい。離型用油脂組成物中に、前記麦由来の油を0.3質量%以上含有させることで、離型効果をより向上させることができる。
【0022】
また、本技術において、離型用油脂組成物中の前記麦由来の油の含有量の上限値も、本技術の効果を損なわない限り限定されないが、離型用油脂組成物中に、前記麦由来の油の含有量を、50質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下とすることがより好ましく、10質量%以下とすることがさらに好ましい。離型用油脂組成物中に、前記麦由来の油の上限値を、50質量%以下とすることで、加熱調理中に発生する臭いを抑えたり、食品の風味低下を防止することができる。
【0023】
(2)ベース油脂
本技術に係る離型用油脂組成物を構成するベースとなる油脂は、本技術の効果を損なわない限り、一般的な離型用油脂組成物に用いられているベースとなる油脂を、1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。例えば、大豆油、ナタネ油(キャノーラ油を含む)、コーン油、綿実油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、米油、ゴマ油、アマニ油、落花生油、ココナッツ油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、シソ油、サフラワー油、ひまわり油、オリーブ油、カカオ脂、藻類油、動物性油脂(牛脂、ラード、魚油、鯨油、乳脂等)が挙げられる。植物油脂は、遺伝子組換えの技術を用いて品種改良した植物から抽出したものであってもよく、例えば、ナタネ油、ヒマワリ油、紅花油、大豆油などでは、オレイン酸含量を高めたハイオレイックタイプの品種から得られた油脂を使用することができる。また、水素添加油脂、グリセリンと脂肪酸のエステル化油、エステル交換油、分別油脂なども適宜使用することができる。
【0024】
(3)その他
本技術に係る離型用油脂組成物には、本技術の効果を損なわない限り、酸化防止剤や消泡剤等の一般的な離型用油脂組成物に用いられている材料や食品添加物を1種又は2種以上、自由に組み合わせて用いることができる。
【0025】
なお、本技術に係る離型用油脂組成物は、乳化剤を用いなくても、優れた離型効果を発揮することができるが、一般的な離型用油脂組成物に用いられている乳化剤を添加することも可能である。例えば、レシチン、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、シュガーエステル、有機酸モノグリセリド等の乳化剤を、必要に応じて、1種又は2種以上用いることができる。
【0026】
本技術に係る離型用油脂組成物は、界面張力が通常の油脂よりも低いことが好ましい。例えば、界面張力が11mN/m以下であることが好ましく、10.5mN/m以下であることがより好ましく、10.0mN/m以下であることがさらに好ましい。なお、本技術において、界面張力は、接触角計を用いて、懸滴法(ペンダント・ドロップ法)にて測定した値である。具体的には、界面張力は、例えば、接触角計DMs-401(協和界面科学株式会社製)を用いて測定することができる。
【0027】
<加熱調理食品の製造方法・加熱調理食品の加熱用調理器具への付着を抑制する方法>
本技術に係る加熱調理食品の製造方法は、前述した離型用油脂組成物を用いて食品を加熱調理することで、加熱調理食品を製造する方法である。
また、本技術に係る加熱調理食品の加熱用調理器具への付着を抑制する方法は、前述した離型用油脂組成物を、食品を加熱調理する際に使用することによって、加熱調理食品の加熱用調理器具への付着を抑制する方法である。以下、具体的な方法について、説明する。
【0028】
(1)加熱用調理器具へ塗布する方法
本技術では、例えば、食パン等のパン類、ホットケーキ、どら焼きの皮、たい焼き、今川焼き、焼きドーナツ、マフィン、マドレーヌ、パウンドケーキ等の焼き菓子類、お好み焼き、たこ焼き、餃子、卵焼き等を焼成する際、焼きそば、炒飯、野菜炒め等の炒め料理、蒸し料理、および燻し料理を調理する際、電子レンジを用いて加熱調理する際、並びに、炊飯する際等に用いる、型、板、釜、容器、フライパン、鍋等の加熱用調理器具に、本技術に係る離型用油脂組成物を塗布して加熱調理を行うことで、加熱用調理器具への食品の付着を防止することができる。本技術に係る離型用油脂組成物は、特に、ベーカリー食品や麺類等の小麦粉製品、米飯等の澱粉主体の食材を加熱調理する際に、好適に用いることができる。
【0029】
加熱用調理器具へ離型用油脂組成物を塗布する際の具体的な方法は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、離型用油脂組成物を加熱用調理器具へ塗布する一般的な方法を自由に採用することができる。例えば、手塗、刷毛やスポンジ等の器具を使用する方法、スプレー噴霧、スタンプ塗布、静電塗布等を用いることができる。
【0030】
(2)食品へ添加する方法
本技術では、例えば、加熱前の食品に対して、本技術に係る離型用油脂組成物を添加して加熱調理を行うことで、加熱用調理器具への加熱調理食品の付着を防止することができる。より具体的には、例えば、炊飯時に、生穀類や野菜等の具材と水に対して、本技術に係る離型用油脂組成物を添加して炊飯することで、釜や鍋等の加熱用調理器具への穀類の付着を防止することができ、釜離れ等を向上させることができる。また、例えば、加熱前の生地(食パン等のパン類、ホットケーキ、どら焼きの皮、たい焼き、今川焼き、焼きドーナツ、マフィン、マドレーヌ、パウンドケーキ等の焼き菓子類、お好み焼き、たこ焼き等の生地)等に対して、本技術に係る離型用油脂組成物を添加して加熱調理を行うことで、型、板、釜、容器、フライパン等の加熱用調理器具への生地等の付着を防止することができる。本技術に係る離型用油脂組成物は、食品へ添加して使用する場合、特に、炊飯時に、好適に用いることができる。
【実施例0031】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0032】
<実験例1>
実験例1では、小麦粉生地を焼成する際の型に、組成の異なる離型用油脂組成物を塗布した場合の離型効果や小麦粉生地の風味について検討した。
【0033】
(1)小麦粉生地焼成品の製造
強力粉1000gに、水800gを加えてミキシングし、ドウ状の小麦粉生地を調製した。パン用の型(アルミ製、縦27cm・横6cm・深さ4.5cm)に、下記表1に示す組成の離型用油脂組成物を、0.2g塗布した。前記で調製した小麦粉生地を、150gずつ、型の底面に張り付けるように入れた。これを一試験例あたり10個作製し、200℃で10分間焼成して、小麦粉生地焼成品(以下、「小麦粉生地」ともいう)を製造した。なお、各試験例は、下記表1に示す通りである。
【0034】
(2)評価
製造時の離型効果および製造した小麦粉生地の風味について、下記の評価基準に基づいて、評価を行った。
【0035】
[離型性]
○:型を反転させたときに、9~10個の小麦粉生地が自然に離型し、非常に良好
△:型を反転させたときに、6~8個の小麦粉生地が自然に離型し、良好
×:型を反転させたときに、5個以下の小麦粉生地が自然に離型し、不良
【0036】
[型への付着性]
◎:型から小麦粉生地を取り出したあとに、生地が型に全く付着しておらず、非常に良好
○:型から小麦粉生地を取り出したあとに、生地が型にほとんど付着しておらず、良好
△:型から小麦粉生地を取り出したあとに、型に付着している生地が少し見られるが、許容範囲
×:型から小麦粉生地を取り出したあとに、型に残っている生地が多く、不良
【0037】
[小麦粉生地の風味]
○:違和感がまったくなく、非常に良好
△:離型用油脂組成物由来の風味をやや感じるが、良好
×:風味に違和感があり、不良
【0038】
(3)結果
結果を下記表1に示す。また、試験例1および後述する試験例8の離型用油脂組成物を用いた場合の小麦粉生地を型から取り出した後の写真を図1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示す通り、ベース油脂のみの試験例1およびゴマ油を含有する試験例3に係る離型用油脂組成物を用いた場合、型を反転させたときに、自然に小麦粉生地が離型することはなかった。図1の試験例1の写真に示す通り、型から小麦粉生地を取り出したあとに、型に残っている生地が多かった。一方、麦由来の油を含有する試験例2および4に係る離型用油脂組成物を用いた場合、型を反転させたときに、自然に小麦粉生地を離型させることが可能であった。特に、オーツ麦由来の油を含有する試験例2は、型を反転させたときに、すべての小麦粉生地が自然に離型し、非常に良好であった。また、ベース油脂のみの試験例1およびゴマ油を含有する試験例3に係る離型用油脂組成物を用いた場合、小麦粉生地を型から取り出したあとに、型に残っている生地が多かったが、オーツ麦抽出油を含有する試験例2に係る離型用油脂組成物を用いた場合、小麦粉生地を型から取り出したあとに、生地が型に全く付着しておらず、非常に良好であり、小麦胚芽油を含有する試験例4に係る離型用油脂組成物を用いた場合、小麦粉生地を型から取り出したあとに、生地がほとんど型に付着しておらず、良好であった。
【0041】
これらの結果から、離型用油脂組成物に、麦由来の油を含有させることで、加熱用調理器具への加熱調理食品の付着を防止することができることが分かった。また、麦由来の油を含有すれば、本技術の効果を発揮することができるが、特に、オーツ麦由来の油を用いることが好ましいことが分かった。
【0042】
<実験例2>
実験例2では、離型用油脂組成物中の麦由来の油の含有量や界面張力の違い等による離型効果や小麦粉生地の風味について検討した。
【0043】
(1)小麦粉生地の製造
前記実験例1と同様の方法にて、小麦粉生地を製造した。各試験例は、下記表2に示す通りである。
【0044】
(2)評価
製造時の離型効果および製造した小麦粉生地の風味について、前記実験例1と同様の評価基準に基づいて、評価を行った。
【0045】
(3)結果
結果を下記の表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示す通り、離型用油脂組成物中に、麦由来の油を0.3~1質量%含有させた試験例5~7、および14は、型を反転させたときに、6~8個の小麦粉生地が自然に離型し、離型性が良好であった。また、型への付着性の評価についても、型から小麦粉生地を取り出したあとに、一部生地が型に付着しているものもあるが、良好であった。型への付着性については、試験例5よりも試験例6の方が型に付着した生地が少なく、試験例7はさらに少なかった。この結果から、麦由来の油を、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上含有させることで、離型効果をより向上させることが分かった。更に、麦由来の油を2質量%以上含有させた試験例8~13、15、および16は、型を反転させたときに、9~10個の小麦粉生地が自然に離型し、離型性が非常に良好であった。また、型への付着性の効果が良好であった。図1の試験例8の写真に示す通り、試験例8は、型から小麦粉生地を取り出したあとに、生地が型に全く付着しておらず、非常に良好であった。この結果から、離型用油脂組成物中に、麦由来の油を2質量%以上含有させることで、離型効果が更に向上することが分かった。
【0048】
また、麦由来の油を30質量%以上含有させた試験例11~13は、焼成中に離型用油脂組成物由来と考えられる加熱臭を若干感じた。この結果から、離型用油脂組成物中の麦由来の油の含有量の上限は、30質量%以下とすることが好ましいことがわかった。
【0049】
また、離型用油脂組成物の界面張力が11mN/mを超える試験例5に比べて、11mN/m以下の試験例6~13の方が、型への付着性の効果が良好であった。この結果から、
離型用油脂組成物の界面張力を11mN/m以下とすることで、離型効果がより向上することが分かった。
【0050】
<実験例3>
実験例3では、ロールパンを焼成する際の型に、組成の異なる離型用油脂組成物を塗布した場合の離型効果について検討した。
【0051】
(1)ロールパンの製造
ミキサーに小麦粉(クオリテ(昭和産業株式会社))1000gと、冷凍生地製パン改良剤(ジョーカーS500キモ・ロング(ピュラトスジャパン株式会社))15gと、砂糖30gと、食塩20gと、冷凍生地用生イースト(カネカイーストGA(株式会社カネカ))50gと、水600gを入れて、低速で4分、中速8分ミキシングした。ショートニングを80g入れ、さらに低速で3分、中速で4分ミキシングし、生地を調製した。生地の捏上温度は、20℃とした。室温(25分)で10分間フロアタイムを取った後、60gに分割して丸めた。その後、室温で10分間ベンチタイムを取った後、ロール状に成型し、30分間、-40℃の冷凍庫で凍結させ、1週間保存した。実験例1および2で使用したものと同じ、アルミ製のパン用の型に、下記表3に示す組成の離型用油脂組成物を、0.2g塗布した。冷凍庫から冷凍生地を取り出し、前記パン用の型に入れ、室温で2時間解凍した。これを一試験例あたり10個作製し、38℃、相対湿度80%で、60分間のホイロをとり、上火180℃、下火200℃で10分間焼成して、ロールパンを製造した。なお、各試験例は、下記表3に示す通りである。
【0052】
(2)評価
製造時の離型効果および製造したロールパンの風味について、前記実験例2と同様の評価基準(前記実験例2の評価基準中の「小麦粉生地」を「ロールパン」に読み替えた評価基準)に基づいて、評価を行った。
【0053】
(3)結果
結果を下記の表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3に示す通り、ベース油脂のみの試験例17に比べて、麦由来の油を含有する試験例18~20の方が、離型性および付着性の効果が良好であった。特に、離型用油脂組成物中に、麦由来の油を2質量%以上含有させた試験例19および20は、型を反転させたときに9~10個のロールパンが自然に離型し、非常に良好であった。
【0056】
<実験例4>
実験例4では、ホットケーキを焼成する際の銅板に、組成の異なる離型用油脂組成物を塗布した場合の離型効果について検討した。
【0057】
(1)ホットケーキの製造
ボウルに全卵50gと牛乳200mLを入れて、泡立て器でよく混ぜ、ホットケーキミックス(ホットケーキミックス(昭和産業株式会社))200gを加えて、ダマがなくなるまで軽く混ぜた。銅板に、下記表4に示す組成の離型用油脂組成物を、2g均一に塗布した。銅板を熱し、生地を90gずつ流し入れた。180℃で3分間程焼き、表面に泡が出てきたら裏返して2~3分間焼き、ホットケーキを製造した。なお、各試験例は、下記表4に示す通りである。
【0058】
(2)評価
製造時の離型効果、製造したホットケーキの風味、および加熱調理中の臭いについて、下記の評価基準に基づいて、評価を行った。
【0059】
[離型性]
○:銅板からホットケーキを剥がす際に、抵抗を感じずに剥がすことができ、作業性が非常に良好
△:銅板からホットケーキを剥がす際に、やや抵抗を感じたが剥がすことができ、作業性が良好
×:銅板からホットケーキを剥がす際に、生地の一部が銅板に残ってしまい、不良
【0060】
[ホットケーキの風味]
○:違和感がまったくなく、非常に良好
△:やや離型用油脂組成物由来の風味を感じるが、良好
×:風味に違和感があり、不良
【0061】
[加熱調理中の臭い]
○:離型用油脂組成物由来の加熱臭をほとんど感じない
△:離型用油脂組成物由来の加熱臭をやや感じるが、許容範囲
×:離型用油脂組成物由来の加熱臭を強く感じる
【0062】
(3)結果
結果を下記表4に示す。
【0063】
【表4】
【0064】
表4に示す通り、ベース油脂のみの試験例21に比べて、麦由来の油を含有する試験例22~24の方が、離型性の効果が良好であった。離型用油脂組成物中に、麦由来の油を100質量%含有させた試験例24は、試験例21~23に比べて加熱調理中の臭いをやや強く感じた。この結果から、離型用油脂組成物中の麦由来の油が100質量%の場合、加熱調理食品の風味に影響が出ることが分かった。
【0065】
<実験例5>
実験例5では、米を炊飯する際に、組成の異なる離型用油脂組成物を添加した場合の離型効果について検討した。
【0066】
(1)炊飯米の製造
千葉県産コシヒカリに対して水を加え(加水145質量%)、下記表5に示す組成の離型用油脂組成物を1%添加し、炊飯器を用いて炊飯米を調製した。なお、各試験例は、下記表5に示す通りである。
【0067】
(2)評価
炊飯後に釜から炊飯米を取り出した際の離型効果、釜に付着した粘着物質の量、および炊飯米の風味について、下記の評価基準に基づいて、評価を行った。
【0068】
[離型性]
○:炊飯釜に炊飯米が付着しておらず、非常に良好
△:炊飯釜に炊飯米がやや付着していたが、良好
×:炊飯釜に炊飯米が付着しており、不良
【0069】
[粘着物質の量]
釜に付着した粘着物質の量を観察した。
【0070】
[炊飯米の風味]
○:違和感がまったくなく、非常に良好
△:やや離型用油脂組成物由来の風味を感じるが、良好
×:風味に違和感があり、不良
【0071】
(3)結果
結果を下記表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
表5に示す通り、ベース油脂のみの試験例25に比べて、麦由来の油を含有する試験例26~28の方が、離型性の効果が良好であった。この結果から、本技術に係る離型用油脂組成物は、加熱調理器具に塗布せずに、加熱調理を行う食品に添加した場合でも、離型効果が発揮されることが示された。
【0074】
また、離型用油脂組成物中に、麦由来の油を50質量%含有させた試験例28は、釜に付着した粘着物質の量が多く、炊飯米に、やや離型用油脂組成物由来の風味を感じる結果であった。この結果から、離型用油脂組成物中の麦由来の油の含有量が50質量%を超えると、加熱調理食品の風味に影響が出ることが分かった。
【0075】
<実験例6>
実験例6では、焼きそばを炒める際の鉄製のフライパンに、組成の異なる離型用油脂組成物を塗布した場合の離型効果について検討した。
【0076】
(1)焼きそばの製造
フライパンに、下記表6に示す組成の離型用油脂組成物を、4g均一に塗布した。フライパンを熱し、市販の焼きそば麺150g(冷蔵)と水10gを入れ、中火で1分程度炒め、焼きそばを製造した。なお、各試験例は、下記表6に示す通りである。
【0077】
(2)評価
製造時の離型効果、焼きそばの風味、および加熱調理中の臭いについて、下記の評価基準に基づいて、評価を行った。
【0078】
[離型性]
○:炒めている際にフライパンに麺が付着せず、作業性が非常に良好
△:炒めている際にフライパンに麺がやや付着したが、作業性が良好
×:炒めている際にフライパンに麺が付着し、作業性が悪い
【0079】
[焼きそばの風味]
○:違和感がまったくなく、非常に良好
△:やや離型用油脂組成物由来の風味を感じるが、良好
×:風味に違和感があり、不良
【0080】
[加熱調理中の臭い]
○:離型用油脂組成物由来の加熱臭をほとんど感じない
△:離型用油脂組成物由来の加熱臭をやや感じるが、許容範囲
×:離型用油脂組成物由来の加熱臭を強く感じる
【0081】
(3)結果
結果を下記表6に示す。
【0082】
【表6】
【0083】
表6に示す通り、ベース油脂のみの試験例29に比べて、麦由来の油を含有する試験例30~32の方が、離型性の効果が良好であった。離型用油脂組成物中に、麦由来の油を100質量%含有させた試験例32は、やや離型用油脂組成物由来の風味を感じる結果であった。この結果から、離型用油脂組成物中の麦由来の油の含有量が100質量%の場合、加熱調理食品の風味に影響が出ることが分かった。
図1