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特開2022-169684有機ボレート系触媒、これを用いたイソブテンオリゴマーの製造方法およびこれにより製造されたイソブテンオリゴマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169684
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】有機ボレート系触媒、これを用いたイソブテンオリゴマーの製造方法およびこれにより製造されたイソブテンオリゴマー
(51)【国際特許分類】
   C08F 110/10 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
C08F110/10
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132448
(22)【出願日】2022-08-23
(62)【分割の表示】P 2021551827の分割
【原出願日】2020-08-19
(31)【優先権主張番号】10-2019-0101203
(32)【優先日】2019-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0101204
(32)【優先日】2019-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、キョン-シン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、チ-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ウォン-ヒ
(72)【発明者】
【氏名】イ、チン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、トン-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、チョン-シク
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヒドロキシ基含有化合物を含む有機ボレート系触媒を用いた製造方法により製造された新規のイソブテンオリゴマーを提供する。
【解決手段】イソブテンオリゴマーは、イソブテンオリゴマーの末端に位置した炭素‐炭素二重結合、オリゴマーの末端ですぐ隣接した位置の炭素‐炭素結合に存在する二重結合、およびイソブテンのカチオン重合で異性化反応が行われる場合に形成され得る種類の官能基であり、イソブテンオリゴマーの合成時に異性化反応が起こると、すべて不可欠に形成される官能基を含み、下記化学式f[式中、Xはハロゲン原子である]で表される官能基を含んでおらず、数平均分子量が1,000以上である。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される化合物およびヒドロキシ基含有化合物を含み、
前記化学式1で表される化合物のケイ素原子(Si)と前記ヒドロキシ基含有化合物の酸素原子(O)が共有結合を形成している、有機ボレート系触媒。
【化34】

[前記化学式1中、
0は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリール基または炭素数6~20のアリールオキシ基であり、
1~R4は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン基または炭素数1~20のアルキル基であり、
o、p、qおよびrは、それぞれ独立して、1~5の整数である。]
【請求項2】
前記R0は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基または炭素数6~12のアリールオキシ基であり、
前記R1~R4は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン基または、ハロゲン基で置換された炭素数1~12のアルキル基である、請求項1に記載の有機ボレート系触媒。
【請求項3】
前記ヒドロキシ基含有化合物は、水(H2O)または下記化学式2で表される化合物である、請求項1に記載の有機ボレート系触媒。
【化35】

[前記化学式2中、
5~R7は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ基、炭素数1~20のヒドロキシアルキル基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数5~20のヘテロアリール基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、炭素数7~20のアルキルアリール基または炭素数7~20のアリールアルキル基である。]
【請求項4】
前記ヒドロキシ基含有化合物は、化学式2で表される化合物であり、
前記R5~R7は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数5~20のヘテロアリール基、炭素数7~20のアルキルアリール基または炭素数7~20のアリールアルキル基である、請求項3に記載の有機ボレート系触媒。
【請求項5】
前記有機ボレート系触媒は、下記化学式3で表される化合物である、請求項3に記載の有機ボレート系触媒。
【化36】

[前記化学式3中、
0は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリール基または炭素数6~20のアリールオキシ基であり、
1~R4は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン基または炭素数1~20のアルキル基であり、
o、p、qおよびrは、それぞれ独立して、1~5の整数であり、
5~R7は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ基、炭素数1~20のヒドロキシアルキル基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数5~20のヘテロアリール基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、炭素数7~20のアルキルアリール基または炭素数7~20のアリールアルキル基である。]
【請求項6】
前記化学式1で表される化合物および前記ヒドロキシ基含有化合物の重量比は、1:0.5~1:4である、請求項1に記載の有機ボレート系触媒。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の有機ボレート系触媒の存在下で、イソブテン単量体を重合するステップを含む、イソブテンオリゴマーの製造方法。
【請求項8】
前記重合は、ハロゲン非含有溶媒の存在下で行われる、請求項7に記載のイソブテンオリゴマーの製造方法。
【請求項9】
前記ハロゲン非含有溶媒は、ブタン、ペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびエチルベンゼンからなる群から選択される1つ以上である、請求項8に記載のイソブテンオリゴマーの製造方法。
【請求項10】
前記重合は、10~30℃の温度で行われる、請求項7に記載のイソブテンオリゴマーの製造方法。
【請求項11】
下記化学式a~eで表される官能基を含み、
下記化学式fで表される官能基を含んでおらず、
数平均分子量が1,000以上である、イソブテンオリゴマー。
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
【化41】
【化42】

[前記化学式f中、
Xは、ハロゲン原子である。]
【請求項12】
前記化学式a~eで表される官能基は、それぞれ、下記化学式a‐1~e‐1で表される官能基である、請求項11に記載のイソブテンオリゴマー。
【化43】

【化44】

【化45】

【化46】

【化47】

[前記化学式a‐1~e‐1中、
nは、1~200の整数である。]
【請求項13】
前記化学式aで表される官能基は、化学式a~eで表される官能基の全量に対して70~95モル%である、請求項11に記載のイソブテンオリゴマー。
【請求項14】
前記化学式bおよびcで表される官能基の合計は、化学式a~eで表される官能基の全量に対して3~12モル%である、請求項11に記載のイソブテンオリゴマー。
【請求項15】
前記化学式dで表される官能基は、化学式a~eで表される官能基の全量に対して3~10モル%である、請求項11に記載のイソブテンオリゴマー。
【請求項16】
前記化学式eで表される官能基は、化学式a~eで表される官能基の全量に対して0.1~10モル%である、請求項11に記載のイソブテンオリゴマー。
【請求項17】
化学式a~eで表される官能基の全量に対して、化学式aで表される官能基70~90モル%と、化学式bおよびcで表される官能基の合計3~10モル%と、化学式dで表される官能基3~10モル%と、化学式eで表される官能基0.1~10モル%とを含む、請求項11に記載のイソブテンオリゴマー。
【請求項18】
数平均分子量は1,100以上であり、分子量分布は1.5~3.5である、請求項11に記載のイソブテンオリゴマー。
【請求項19】
炭化水素溶媒に下記化学式1で表される化合物およびヒドロキシ基含有化合物を投入し、撹拌するステップを含む、有機ボレート系触媒の製造方法。
【化48】

[前記化学式1中、
0は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリール基または炭素数6~20のアリールオキシ基であり、
1~R4は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン基または炭素数1~20のアルキル基であり、
o、p、qおよびrは、それぞれ独立して、1~5の整数である。]
【請求項20】
前記撹拌は、0.5~20時間行う、請求項19に記載の有機ボレート系触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年8月19日付けの韓国特許出願第10‐2019‐0101204号および2019年8月19日付けの韓国特許出願第10‐2019‐0101203号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、ヒドロキシ基含有化合物を含む有機ボレート系触媒、これを用いたイソブテンオリゴマーの製造方法およびこれにより製造されたイソブテンオリゴマーに関する。
【背景技術】
【0003】
一般的に、単量体をカチオン重合してオリゴマーまたはポリマーを製造する工程において、成長するポリマー鎖は、正電荷を有する活性部位を含む。例えば、活性部位は、カルボカチオンまたはオキソニウムイオンであり得る。かかるカチオン重合が可能な単量体の例としては、スチレン、イソブテン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンおよびその誘導体などがあり、イソブテンが重合されたポリイソブテンが最も代表的な例である。
【0004】
ポリイソブテンは、分子量範囲によって、低分子量、中分子量および高分子量範囲に分けられる。低分子量のポリイソブテンは、数平均分子量1万以下程度の範囲であり、通常のポリブテンと高反応性ポリブテン(High Reactive Polybutene、HR‐PB)の製品群がある。前記高反応性ポリブテンは、炭素‐炭素二重結合の位置が主にポリブテンの末端に位置したものであり、末端のビニリデン官能基(>80%)を用いて官能基を導入した後、燃料添加剤やエンジンオイル添加剤として使用される。また、中分子量のポリイソブテンは、数平均分子量が3万~10万程度の範囲であり、粘着体、接着剤、シーラントおよびワックスなどに主に使用され、ポリエチレンのリフォーミング剤として使用されるか、天然ゴムと合成ゴムに配合し、耐老化性・耐オゾン性の改善に使用され得る。
【0005】
前記ポリイソブテンの重合のために、従来技術としてBF3のようなホウ素系触媒を使用するが、これは毒性があり、気体タイプであるため、取り扱いが難しいという問題がある。また、反応性と選択性を高めるために、ホウ素‐アルコールまたはホウ素‐エーテル複合体を製造して使用することもあるが、時間の経過に伴い触媒の活性度が低下するという問題がある。
【0006】
一方、ミュンヘン工科大学のKuhn教授が研究した溶媒結着(solvent‐ligated)有機金属触媒の場合(Macromol.Rapid Commun.,vol.20,no.10,pp.555‐559)、前記従来技術のホウ素系ルイス酸触媒のような毒性成分による製品品質の低下および腐食性などの問題は解消されるが、高い転化率のためには、基本的に反応時間が16時間と長く、反応時間が長くなるにつれて生成物の一部が触媒と反応し構造異性化(structural isomerization)が生じることでexo‐含量が低くなるため、前記ルイス酸触媒に比べて競争力が低い。
【0007】
前記ポリイソブテンを合成するときに、高純度のイソブテンを原料として使用する場合、重合溶媒としては、メチルクロライド(CH3Cl)またはジクロロメタン(CH2Cl2)のようなハロゲン含有溶媒を使用する。このように製造されたポリイソブテンは、燃料添加剤または潤滑油に多く使用されるが、このときに残っているハロゲンが内燃機関で腐食の問題を引き起こし、排出される場合、環境汚染の問題も引き起こす。また、上述の従来の触媒をハロゲン含有溶媒に使用する場合、触媒活性を無くすため、高反応性ポリブテンを製造することが難しく、特に、極限の重合環境を設定せず温和な反応条件で高い効率でカチオン重合反応を起こすことはほぼ不可能な状況であった。
【0008】
上記のような背景の下で、本発明者らは、既存に使用されてきた触媒よりも安定性に優れ、高反応性のポリブテンを高い効率で製造することができる触媒を開発するために研究した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国登録特許公報第10‐0486044号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ヒドロキシ基含有化合物を含む新規の有機ボレート系触媒およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、上記有機ボレート系触媒を用いたイソブテンオリゴマーの製造方法を提供することを他の目的とする。
【0012】
本発明は、上記製造方法で製造された新規のイソブテンオリゴマーを提供することをさらに他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、下記化学式1で表される化合物およびヒドロキシ基含有化合物を含み、化学式1で表される化合物のケイ素原子(Si)とヒドロキシ基含有化合物の酸素原子(O)が共有結合を形成している有機ボレート系触媒を提供する。
【化1】
【0014】
前記化学式1中、
0は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリール基または炭素数6~20のアリールオキシ基であり、R1~R4は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン基または炭素数1~20のアルキル基であり、o、p、qおよびrは、それぞれ独立して、1~5の整数である。
【0015】
また、本発明は、前記有機ボレート系触媒の存在下で、イソブテン単量体を重合するステップを含むイソブテンオリゴマーの製造方法を提供する。
【0016】
また、本発明は下記化学式a~eで表される官能基を含み、下記化学式fで表される官能基を含んでおらず、数平均分子量が1,000以上であるイソブテンオリゴマーを提供する。
【化2】
【0017】
【化3】
【0018】
【化4】
【0019】
【化5】
【0020】
【化6】
【0021】
【化7】
前記化学式f中、
Xは、ハロゲン原子である。
【0022】
また、本発明は、炭化水素溶媒に前記化学式1で表される化合物およびヒドロキシ基含有化合物を投入して撹拌するステップを含む有機ボレート系触媒の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の新規の有機ボレート系触媒は、従来使用されている触媒よりも安定性が高いことからオリゴマーまたはポリマーの製造に有用に使用可能であり、高い触媒活性を有して相対的に使用量を低減することができ、経済的で環境にやさしく使用可能である。また、本発明の触媒は、カチオン重合反応に使用されたときに開始ステップで触媒から由来した一部の構造がオリゴマーまたはポリマーに残る問題が発生しないため、所望しなかった一部の官能基が高分子内に混合されることを防止し、純度の高いオリゴマーおよびポリゴマーを効率的に製造できるという利点がある。
【0024】
また、これを用いるときに、ハロゲン含有溶媒を使用しない場合、残留ハロゲンによる毒性を低減して、内燃機関の腐食、環境汚染などを防止することができ、温和な反応条件でも優れた転化率で重合反応を行うことができる。
【0025】
本発明で提供する新規のイソブテンオリゴマーは、末端炭素‐炭素二重結合を高い含量で含んでおり、反応性が高いことから商業的な利用に有用であり、且つ、オリゴマーの内部に位置する様々な形態の二重結合をさらに含んでおり、イソブテンオリゴマーの加工性が向上したことを特徴とする。また、かかる様々な形態の二重結合それぞれの反応性の差を用いて、既存の物性を維持しながら互いに異なる官能基をポリマーあるいはオリゴマーの中間、末端に導入し得るという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施例によるイソブテンオリゴマーの1H NMRスペクトルを示す図である。
図2】本発明の一比較例によるイソブテンオリゴマーの1H NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に関する理解を容易にするために、本発明をより詳細に説明する。本明細書および請求の範囲で使用されている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適宜定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0028】
本明細書で使用されている用語は、単に例示的な実施例を説明するために使用されたものであって、本発明を限定することを意図しない。単数の表現は、文脈において明白に異なる意味を有していない限り、複数の表現を含む。
【0029】
有機ボレート系触媒
従来、カチオン重合のための触媒または開始剤として、アルミニウムまたはホウ素系のルイス酸が一般的に使用されてきた。ルイス酸触媒の例としては、AlX3、BX3(X=F、Br、Cl、I)などがあるが、これは、腐食性であり、クエンチング過程において、HCl、HFなどのハロゲン成分が発生し、これが製品に残って品質の低下を引き起こすという問題がある。また、ルイス酸触媒は、多量の触媒を要し、反応後、触媒を除去するために多量の塩基物(NaOH、KOH、NH4OHなど)を使用し、さらに水で洗うことから多量の廃水を発生させる。
【0030】
本発明の有機ボレート系触媒は、前記のような従来のカチオン重合用ルイス酸触媒が有する様々な問題点を解消するために開発された新規の触媒であって、従来のルイス酸触媒とは異なり、腐食性がなく、触媒活性が高いことから、同等な水準の効果を得るために必要な触媒の使用量が少なくて触媒費用が削減される。
【0031】
それだけでなく、従来のルイス酸触媒の場合、反応終了後、NaOHのような塩基塩で水洗により触媒を除去するに伴い多量の高毒性廃水が発生する問題がある一方、本発明の有機ボレート系触媒は、単純フィルタで触媒の除去が可能であるため、廃水が発生することを防止することができる。また、従来のルイス酸触媒の場合、クエンチング過程でHF、HClが発生し、ハロゲンが製品に残って品質の低下を引き起こす問題があるが、本発明の有機ボレート系触媒は、かかる問題が解消され、きれいに高品質の製品の生産が可能である。
【0032】
具体的には、本発明の触媒は、ケイ素原子(Si)と酸素原子(O)が共有結合を形成して複合体をなしている構造であり、有機ボレート系化合物が単独で存在することに比べて触媒安定性が著しく向上した。このように安定化した触媒は、単量体を重合してオリゴマーを製造する際に用いることができ、特に、イソブテン単量体をカチオン重合してオリゴマーを形成する場合、exo‐含量が高くて反応性に優れたオリゴマーを効率的に製造できることを特徴とする。
【0033】
本発明の有機ボレート系触媒は、下記化学式1で表される化合物およびヒドロキシ基含有化合物を含み、化学式1で表される化合物のケイ素原子(Si)とヒドロキシ基含有化合物の酸素原子(O)が共有結合を形成していることを特徴とする。
【0034】
【化8】
【0035】
前記化学式1中、
0は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリール基または炭素数6~20のアリールオキシ基であり、好ましくは、水素、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基または炭素数6~12のアリールオキシ基であり、より好ましくは、水素、炭素数1~6のアルキル基または炭素数1~6のアルコキシ基であり、
1~R4は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン基または炭素数1~20のアルキル基であり、好ましくは、ハロゲン基で置換された炭素数1~12のアルキル基、より好ましくは、ハロゲン基で置換された炭素数1~4のアルキル基であり、
o、p、qおよびrは、それぞれ独立して、1~5の整数である。
【0036】
前記化学式1に含まれた有機ボレートである
【化9】
は、具体的には、テトラキス(フェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス[3,5‐ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレートおよびその誘導体からなる群から選択される1種以上であってもよく、好ましくは、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートであってもよい。
【0037】
前記「アルキル基(alkyl group)」とは、1価の脂肪族飽和炭化水素を意味し得、メチル、エチル、プロピルおよびブチルなどの直鎖状アルキル基およびイソプロピル(isopropyl)、セカンダリーブチル(sec‐butyl)、ターシャリーブチル(tert‐butyl)およびネオペンチル(neo‐pentyl)などの分岐状アルキル基をすべて含む意味であり得る。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert‐ブチル基、sec‐ブチル基、1‐メチル‐ブチル基、1‐エチル‐ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert‐ペンチル基、1‐メチルペンチル基、2‐メチルペンチル基、4‐メチル‐2‐ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、4‐メチルヘキシル基、5‐メチルヘキシル基、ヘプチル基などがあるが、これらに制限されない。
【0038】
前記「アルコキシ基(alkoxy group)」とは、直鎖状、分岐状または環状であってもよい。具体的には、メトキシ、エトキシ、n‐プロポキシ、イソプロポキシ、i‐プロピルオキシ、n‐ブトキシ、イソブトキシ、tert‐ブトキシ、sec‐ブトキシ、n‐ペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、n‐ヘキシルオキシ、3,3‐ジメチルブチルオキシ、2‐エチルブチルオキシ、n‐オクチルオキシ、n‐ノニルオキシ、n‐デシルオキシ、ベンジルオキシ、p‐メチルベンジルオキシなどがあるが、これらに制限されない。
【0039】
前記「アリール基(aryl group)」とは、環状の芳香族炭化水素を意味し得、また、1個の環が形成された単環芳香族炭化水素(monocyclic aromatic hydrocarbon)または2個以上の環が結合された多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbon)をすべて含む意味であり得る。単環芳香族炭化水素としては、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基などであってもよく、多環芳香族炭化水素としては、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ピレニル基、ペリレニル基、トリフェニル基、クリセニル基、フルオレニル基などがあるが、これらに制限されない。
【0040】
前記「アリールオキシ基(aryloxy group)」とは、フェノキシ、p‐トリルオキシ、m‐トリルオキシ、3,5‐ジメチル‐フェノキシ、2,4,6‐トリメチルフェノキシ、p‐tert‐ブチルフェノキシ、3‐ビフェニルオキシ、4‐ビフェニルオキシ、1‐ナフチルオキシ、2‐ナフチルオキシ、4‐メチル‐1‐ナフチルオキシ、5‐メチル‐2‐ナフチルオキシ、1‐アントリルオキシ、2‐アントリルオキシ、9‐アントリルオキシ、1‐フェナントリルオキシ、3‐フェナントリルオキシ、9‐フェナントリルオキシなどがあるが、これらに制限されない。
【0041】
本発明において、前記ヒドロキシ基含有化合物は、水(H2O)または下記化学式2で表される化合物であってもよい。
【0042】
【化10】
【0043】
前記化学式2中、
5~R7は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ基、炭素数1~20のヒドロキシアルキル基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数5~20のヘテロアリール基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、炭素数7~20のアルキルアリール基または炭素数7~20のアリールアルキル基である。
【0044】
好ましくは、前記ヒドロキシ基含有化合物は、化学式2で表される化合物であり、この際、前記R5~R7は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数5~20のヘテロアリール基、炭素数7~20のアルキルアリール基または炭素数7~20のアリールアルキル基であってもよい。
【0045】
例えば、前記化学式2で表される化合物は、第一級アルコール、第二級アルコール、第三級アルコールのいずれでも該当し得、第一級アルコールとしては、メタノール(methanol)、エタノール(ethanol)、プロパノール(propanol)、ブタノール(butanol)、ペンタノール(pentanol)、ヘキサノール(hexanol)、ヘプタノール(heptanol)、オクタノール(octanol)、ノナノール(nonanol)、デカノール(decanol)またはこれらの組み合わせを含み、第二級アルコールとしては、プロパン‐2‐オル(propan‐2‐ol)、ブタン‐2‐オル(butan‐2‐ol)、ペンタン‐2‐オル(pentan‐2‐ol)、ヘキサン‐2‐オル(hexan‐2‐ol)、ヘプタン‐2‐オル(heptan‐2‐ol)、オクタン‐2‐オル(octan‐2‐ol)、ノナン‐2‐オル(nonan‐2‐ol)、デカン‐2‐オル(decan‐2‐ol)、ブタン‐3‐オル(butan‐3‐ol)、ペンタン‐3‐オル(pentan‐3‐ol)、ヘキサン‐3‐オル(hexan‐3‐ol)、ヘプタン‐3‐オル(heptan‐3‐ol)、オクタン‐3‐オル(octan‐3‐ol)、ノナン‐3‐オル(nonan‐3‐ol)、デカン‐3‐オル(decan‐3‐ol)またはこれらの組み合わせを含み、第三級アルコールとしては、2‐メチルプロパン‐2‐オル(2‐methylpropan‐2‐ol)、2‐メチルブタン‐2‐オル(2‐methylbutan‐2‐ol)、2‐メチルペンタン‐2‐オル(2‐methylpentan‐2‐ol)、2‐メチルヘキサン‐2‐オル(2‐methylhexan‐2‐ol)、2‐メチルヘプタン‐2‐オル(2‐methylheptan‐2‐ol)、3‐メチルペンタン‐3‐オル(3‐methylpentan‐3‐ol)、3‐メチルヘキサン‐3‐オル(3‐methylhexan‐3‐ol)、3‐メチルヘプタン‐3‐オル(3‐methylheptan‐3‐ol)、3‐メチルオクタン‐3‐オル(3‐methyloctan‐3‐ol)、2‐フェニルプロパン‐2‐オル(2‐phenylpropan‐2‐ol)、2‐フェニルブタン‐2‐オル(2‐phenylbutan‐2‐ol)、2‐フェニルペンタン‐2‐オル(2‐phenylpentan‐2‐ol)、2‐フェニルヘキサン‐2‐オル(2‐phenylhexan‐2‐ol)、2‐フェニルヘプタン‐2‐オル(2‐phenylheptan‐2‐ol)、3‐フェニルペンタン‐3‐オル(3‐phenylpentan‐3‐ol)、3‐フェニルヘキサン‐3‐オル(3‐phenylhexan‐3‐ol)、3‐フェニルヘプタン‐3‐オル(3‐phenylheptan‐3‐ol)、3‐フェニルオクタン‐3‐オル(3‐phenyloctan‐3‐ol)またはこれらの組み合わせであってもよく、好ましくは、2‐メチルプロパン‐2‐オル(2‐methylpropan‐2‐ol)、2‐フェニルプロパン‐2‐オル(2‐phenylpropan‐2‐ol)またはこれらの組み合わせを含むが、これに制限されない。前記化学式bで表される化合物に該当すれば、その種類は制限されず、本発明にいずれも適用可能である。
【0046】
本発明において、前記有機ボレート系触媒は、下記化学式3で表される化合物であってもよい。
【0047】
【化11】
【0048】
前記化学式3中、
0は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリール基または炭素数6~20のアリールオキシ基であり、好ましくは、水素、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基または炭素数6~12のアリールオキシ基であり、より好ましくは、水素、炭素数1~6のアルキル基または炭素数1~6のアルコキシ基であり、
1~R4は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン基または炭素数1~20のアルキル基であり、好ましくは、ハロゲン基で置換された炭素数1~12のアルキル基、より好ましくは、ハロゲン基で置換された炭素数1~4のアルキル基であり、
o、p、qおよびrは、それぞれ独立して、1~5の整数であり、
5~R7は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ基、炭素数1~20のヒドロキシアルキル基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数5~20のヘテロアリール基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、炭素数7~20のアルキルアリール基または炭素数7~20のアリールアルキル基、好ましくは、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数5~20のヘテロアリール基、炭素数7~20のアルキルアリール基または炭素数7~20のアリールアルキル基である。
【0049】
前記化学式3のように、本発明の触媒は、化学式1で表される化合物に含まれたケイ素原子とヒドロキシ基含有化合物に含まれた酸素原子が相互作用をしている構造であり、ヒドロキシ基の酸素‐水素結合を活性化させる。このように活性化した酸素‐水素結合は、単量体が存在する条件で水素原子が単量体と反応を行うことになり、炭素プロトンを作って重合が開始する。
【0050】
例えば、本発明において、化学式1で表される化合物が[Et3Si][B(C654]であり、ヒドロキシ基含有化合物が2‐フェニルプロパン‐2‐オルである場合、本発明の触媒は、下記構造を有する化合物である。
【0051】
【化12】
【0052】
本発明において、前記化学式1で表される化合物およびヒドロキシ基含有化合物の重量比は、1:0.5~1:4であってもよく、好ましくは1:1~1:4、1:0.1~1:2、より好ましくは1:1~1:2であってもよい。
【0053】
本発明の触媒は、化学式1で表される化合物とヒドロキシ基含有化合物が反応して複合体をなす形態であるため、二つの化合物の反応効率を考慮して前記化学式1で表される化合物およびヒドロキシ基含有化合物をそれぞれ同じ重量で使用することができるが、通常の技術者であれば、適切な比率に調節して使用することができる。
【0054】
有機ボレート系触媒の製造方法
前記有機ボレート系触媒の製造方法は、炭化水素溶媒に下記化学式1で表される化合物およびヒドロキシ基含有化合物を投入し、撹拌するステップを含むことを特徴とする。
【0055】
【化13】
【0056】
化学式1に関する定義は、上述のとおりである。
【0057】
本発明において、前記撹拌に行われる時間は、0.5時間以上、1時間以上、20時間以下、15時間以下であってもよいが、これに制限されない。
【0058】
前記撹拌により炭化水素溶媒内で化学式1で表される化合物とヒドロキシ基含有化合物が十分に混合されることで、化学式1で表される化合物のケイ素原子とヒドロキシ基含有化合物の酸素原子が互いに共有結合を形成することになり、本発明の有機ボレート系触媒が製造される。
【0059】
従来の触媒は、触媒の製造過程でカルボカチオン(carbocation)が形成されて重合反応を進め、触媒が製造された後、すぐ単量体と反応しない場合、カルボカチオンの不安定性によって触媒が逆反応により前のステップに戻ろうとする性質が大きいため、触媒の製造後、所定の時間保管して使用することが不可能である。
【0060】
この場合、触媒製品自体としての貯蔵安定性が劣るだけでなく、触媒活性を示すためには不安定な性質のカルボカチオンが形成されなければならないため、投入する原料に比べ、実質的に触媒の役割を果たす含量が大きくなく、触媒使用工程の経済成果効率性が低下するという問題がある。
【0061】
一方、本発明の触媒は、前記撹拌するステップによりケイ素原子と酸素原子が共有結合を形成した複合体形態を有するが、かかる形態は、安定性に優れるため、製造後、所定の時間後に使用してもよいという利点がある。本発明の触媒を製造した後、数分~数時間の所定の時間保管してから使用した場合、保管する間には上述のように撹拌を行い続けることができ、または十分に撹拌して複合体が形成された場合、撹拌なしに静置させることができる。
【0062】
本発明による有機ボレート系触媒は、有機ボレート系触媒の存在下で、単量体を重合するステップを含んで、オリゴマーまたはポリマーの製造に使用され得る。
【0063】
前記「オリゴマー(oligomer)」とは、単量体が重合されて形成され、数平均分子量が10,000未満の重合体を意味する。
【0064】
前記「ポリマー(polymer)」とは、単量体が重合されて形成され、数平均分子量が10,000以上の重合体を意味する。
【0065】
具体的には、前記重合するステップは、有機ボレート系触媒内のヒドロキシ基から由来した水素カチオンによって開始されてもよく、例えば、水素カチオンによる単量体重合の開始反応は、下記反応で行われ得る。
【0066】
【化14】
【0067】
前記反応のように、本発明の有機ボレート系触媒を重合反応に用いる場合、単量体の二重結合が水素カチオンと反応してカチオン重合が開始される。
【0068】
従来の触媒を使用する場合、上述のように、水素カチオンではなく重合を開始した触媒または別の反応開始剤から形成されたカルボカチオンが単量体に結合して重合が開始し、最終的に製造されたオリゴマーまたはポリマーにも触媒または反応開始剤から由来した構造が残り、無駄な末端構造が位置する。一方、本発明の触媒を用いる場合、上述のように、触媒または反応開始剤由来の官能基がオリゴマーやポリマーに含有されないことがある。このように、本発明の有機ボレート系触媒をオリゴマーまたはポリマーの製造に用いることで、原子は、構造のオリゴマーまたはポリマーを高い純度で製造することができる。
【0069】
前記単量体は、イソブテン、スチレン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、テトラヒドロフラン、その誘導体またはこれらの組み合わせであってもよいが、これに制限されない。
【0070】
前記単量体を重合するステップにおいて、単量体は、反応物の全重量に対して1重量%以上、5重量%以上、50重量%以下、25重量%以下であってもよい。また、前記有機ボレート系触媒は、反応物の全重量に対して0.005重量%以上、0.01重量%以上、1重量%以下、0.025重量%以下であってもよい。
【0071】
前記有機ボレート系触媒は、単量体の重量基準で0.01重量%以上、1重量%以下、0.05重量%以下であってもよく、具体的には、化学式1で表される化合物は、単量体の重量基準で0.005重量%以上、0.01重量%以上、0.05重量%以下、0.03重量%以下であってもよく、ヒドロキシ基含有化合物は、単量体の重量基準で0.005重量%以上、0.01重量%以上、0.05重量%以下、0.03重量%以下であってもよいが、これに制限されない。前記重合は30分~120分間行うことができる。
【0072】
本発明の有機ボレート系触媒を用いて製造されたオリゴマーとして、高反応性ポリブテン(HR‐PB、High Reactive Polybutene)の場合、exo‐含量が50~99%、好ましくは80~99%であってもよい。前記exo‐含量は、炭素‐炭素二重結合がポリオレフィンの末端に位置する場合を示すものであり、exo‐含量が高いほど反応性が高いことを意味する。
【0073】
また、本発明の有機ボレート系触媒を用いて製造されたオリゴマーは、数平均分子量が10,000未満、3,000以下、2,000以下、800以上、900以上であってもよく、本発明の有機ボレート系触媒を用いて製造された中分子量以上のポリマーは、数平均分子量が10,000以上、40,000以上、100,000以下、80,000以下であってもよい。
【0074】
また、前記オリゴマーまたはポリマーの分子量分布は、1.5~5.0であってもよい。
【0075】
前記オリゴマーまたはポリマーの製造方法は、単量体を重合するステップの後、有機ボレート系触媒を除去するステップをさらに含むことができる。
【0076】
本発明の有機ボレート系触媒は、物理的に単純濾過する工程により効率的に除去され得ることから、従来のルイス酸触媒に比べて使用および除去がはるかに容易である。
【0077】
具体的には、単量体を重合した後、有機溶媒を除去して、有機溶媒をオリゴマーまたはポリマーの40重量%以下、20重量%以下または5重量%以下に調節することができる。
【0078】
次に、流動性があるオリゴマーまたはポリマーの場合、80メッシュ以上、100メッシュ以上または200メッシュ以上のガラスフィルタを使用して不溶性物質をフィルタリングするステップを行う。または、シリカ、セライトまたはゼオライトフィルタを使用して、流動性があるオリゴマーまたはポリマーを通過させることで触媒を除去することができる。
【0079】
一方、流動性が少ないオリゴマーまたはポリマーの場合、直鎖状アルキル溶媒、例えば、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、およびエーテル溶媒、例えば、ジエチルエーテル、石油エーテルからなる群から選択される1種以上を使用して流動性を付与した後、前記ガラスフィルタ、シリカ、セライトまたはゼオライトフィルタによりフィルタリングするステップを行うことができる。
【0080】
通常、生成されたオリゴマーまたはポリマーをペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ジエチルエーテルまたは石油エーテルなどの有機溶媒に溶解した後、水洗して有機金属触媒を除去する。しかし、本発明は、前記のような単純濾過ステップにより有機ボレート系触媒を効率的に除去することができ、別の水洗ステップを行わないことができる。
【0081】
イソブテンオリゴマーの製造方法
本発明のイソブテンオリゴマーの製造方法は、上述の有機ボレート系触媒の存在下で、イソブテン単量体を重合するステップを含むことを特徴とする。
【0082】
前記重合は、ハロゲン非含有溶媒の存在下で行われてもよく、また、ハロゲン化炭化水素溶媒は全く含まないこともある。すなわち、ハロゲン非含有溶媒をハロゲン化炭化水素溶媒と混合して使用するか、ハロゲン非含有溶媒のみを単独で溶媒として使用することができる。
【0083】
前記ハロゲン非含有溶媒は、脂肪族炭化水素溶媒または芳香族炭化水素溶媒であってもよい。例として、前記脂肪族炭化水素溶媒は、ブタン、ペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタンおよびオクタンからなる群から選択される1種以上であってもよく、前記芳香族炭化水素溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびエチルベンゼンからなる群から選択される1種以上であってもよいが、これに制限されない。
【0084】
前記ハロゲン化炭化水素溶媒は、クロロメタン、ジクロロメタン、卜リクロロメタン、1‐クロロブタンおよびクロロベンゼンからなる群から選択される1種以上であってもよいが、これに制限されない。
【0085】
本発明において、ハロゲン非含有溶媒およびハロゲン化炭化水素溶媒を混合して溶媒として使用する場合、体積比は、100:1~1:2であってもよく、具体的には100:1~1:1であってもよいが、これに制限されない。
【0086】
本発明では、上述のように、化学式1で表される化合物のケイ素原子とヒドロキシ基含有化合物の酸素原子が共有結合を先ず形成して安定した触媒システムをなす複合体を生成した後、これをイソブテン単量体と混合して重合反応を開始し、化学式1で表される化合物とヒドロキシ基含有化合物が複合体をなさず、個別の物質としてそれぞれイソブテン単量体と同時に混合された場合、重合反応がまともに行われない。
【0087】
例えば、前記製造方法は、本発明の有機ボレート系触媒をハロゲン非含有溶媒に溶解して準備し、イソブテン単量体を他のハロゲン非含有溶媒に溶解して準備した後、二つの溶液を混合することで行われ得る。
【0088】
前記イソブテン単量体の重合は、10~30℃、具体的には15~30℃、より具体的には20~30℃で行われ得る。
【0089】
本発明の製造方法は、化学式1で表される化合物とヒドロキシ基含有化合物がなした複合体を触媒として使用することから、ハロゲン非含有溶媒下で重合を行っても-30℃以下の極低温ではなく、10~30℃程度の温和な反応条件で重合を行うことが可能である。これにより、極低温温度を設定するために必要な反応設備、費用などを節約することができるという利点がある。
【0090】
本発明において、前記重合は、下記数学式1で計算される転化率(%)の値が80%以上であってもよい。
【0091】
【数1】
【0092】
本発明の製造方法で製造されたイソブテンオリゴマーの末端炭素‐炭素二重結合の含量は、85モル%以上であってもよく、具体的には90モル%以上、または94モル%以上であってもよい。イソブテンオリゴマーの末端に位置する炭素‐炭素二重結合をエキソ‐オレフィン(exo‐olefin)と称することもあり、末端炭素‐炭素二重結合は、オリゴマーの鎖内部に向かって反応を行うことがより容易であり、末端炭素‐炭素二重結合(exo‐含量)は、イソブテンオリゴマーの品質を決定する重要な要因として作用し、前記含量が高いほど反応性に優れたイソブテンオリゴマーであることを意味する。
【0093】
本発明の製造方法で製造されたイソブテンオリゴマーの数平均分子量は、5,500以下、または4,000以下、または2,000以下であってもよく、500以上、または750以上、または900以上であってもよい。
【0094】
本発明の製造方法で製造されたイソブテンオリゴマーの分子量分布は、5.0以下であってもよく、具体的には1.5~5.0であってもよい。
【0095】
前記イソブテン単量体の重合は、バッチ式または連続式工程で行われてもよく、重合方法としては、媒体を使用する溶液重合法、懸濁重合法、少量の重合体に高濃度の触媒溶液を含浸する気相重合法などが使用され得る。重合に使用される反応器は、イソブテン単量体の重合に使用される公知の反応器をそのまままたは加工して使用することができる。
【0096】
前記イソブテン単量体の重合において、イソブテン単量体の含量は、重合溶液の全重量に対して1~50重量%、好ましくは5~25重量%であってもよい。また、化学式1で表される化合物の含量は、重合溶液の全重量に対して0.005~1重量%、好ましくは0.01~0.025重量%であってもよい。前記数値範囲を満たす場合、重合が効率的に行われ得、前記数値範囲よりも過量で投入される場合、原料費用の増加に比べて重合効率はそれほど向上しないこともある。
【0097】
本発明のイソブテンオリゴマーの製造方法は、前記重合後、重合生成物を水洗して前記触媒を除去するステップを別に行わなくてもよい。その代わりに、重合生成物をフィルタリングして容易に触媒を除去することができる。
【0098】
前記フィルタリングは、多孔性物質、例えば、セライト、シリカおよびゼオライト、アルミナからなる群から選択される1種以上を含むフィルタを用いて行われ得る。この際、多孔性物質などの吸着原理により触媒が濾過されるとみなされる。したがって、ガラス繊維または微細な気孔径を有するフィルタを用いる場合には触媒濾過効率が低下し得る。
【0099】
本発明のイソブテンオリゴマーの製造方法は、前記フィルタリングステップの後に残留溶媒を乾燥するステップをさらに含むことができる。例として、乾燥温度は、30~200℃、または40~150℃であってもよく、真空度は、300torr以下、200torr以下、または100torr以下であってもよい。これにより、所望のイソブテンオリゴマーを効率的に取得することができる。また、乾燥方式は、特に制限されず、通常の方式によることができる。
【0100】
また、本発明のイソブテンオリゴマーの製造方法は、前記重合後、前記フィルタリングの前に溶媒を乾燥するステップを別に行うか、行わなくてもよい。乾燥ステップを行う場合、乾燥条件は、上述のように行われてもよく、特に制限されない。
【0101】
溶媒を乾燥するステップを別に行う場合、より高純度のイソブテンオリゴマーを取得することができるという利点がある。ただし、本発明によると、上述のような単純フィルタリングにより容易に触媒を除去することができ、前記重合後、前記フィルタリングの前に別の溶媒乾燥ステップを省略することができ、工程が単純化するという利点がある。
【0102】
イソブテンオリゴマー
本発明のイソブテンオリゴマーは、下記化学式a~eで表される官能基を含み、下記化学式fで表される官能基を含まず、数平均分子量が1,000以上であることを特徴とする。これは、上述の有機ボレート系触媒の存在下で、イソブテン単量体をカチオン重合するステップを含む製造方法により製造され得る。
【0103】
【化15】
【0104】
【化16】
【0105】
【化17】
【0106】
【化18】
【0107】
【化19】
【0108】
【化20】
【0109】
前記化学式f中、
Xは、ハロゲン原子である。
【0110】
前記化学式aで表される官能基(以下、「exo‐官能基」と混用する)は、イソブテンオリゴマーの末端に位置した炭素‐炭素二重結合、すなわち、ビニリデン二重結合を示すものであり、イソブテンオリゴマーの末端に位置する二重結合は、他のポリマー鎖の内部に向かって反応することがより容易であるため、exo‐官能基の含量は、イソブテンオリゴマーの反応性の評価指標として活用可能であり、前記含量が高いということは、イソブテンオリゴマーの反応性に優れるということを意味する。
【0111】
前記化学式aで表される官能基は、下記化学式a‐1で表される官能基であってもよい。
【0112】
【化21】
【0113】
前記化学式a‐1中、
nは、1~200の整数である。
【0114】
また、前記化学式aで表される官能基の含量は、化学式a~eで表される官能基の全量に対して、70~95モル%であってもよく、より具体的には70~90モル%、80~95モル%、80~93モル%であってもよい。
【0115】
本発明のイソブテンオリゴマーは、前記のように高い含量で化学式aで表される官能基を含んでいることから、反応性に優れ、商業的な利用に適し、後述するように、化学式aで表される官能基の含量が高く、且つオリゴマーの内部に位置する様々な形態の二重結合をはじめ加工性もともに改善したため、高い反応性および加工性をいずれも具現することができる。
【0116】
前記化学式bで表される官能基(以下、「endo―官能基」と混用する)は、オリゴマーの末端ですぐ隣接した位置の炭素‐炭素結合に存在する二重結合であり、下記反応式1に例示したように、化学式aで表される官能基が形成されるメカニズムの中に水素移動(proton transfer)反応が発生することで生成され得る。
【0117】
【化22】
【0118】
前記化学式bで表される官能基は、下記化学式b‐1で表される官能基であってもよい。
【0119】
【化23】
【0120】
前記化学式b‐1中、
nは、1~200の整数である。
【0121】
また、本発明のイソブテンオリゴマーは、下記化学式c~eで表される官能基をいずれも含む。
【0122】
【化24】
【0123】
【化25】
【0124】
【化26】
【0125】
前記化学式c~eで表される官能基は、イソブテンのカチオン重合で異性化反応が行われる場合に形成され得る種類の官能基であり、イソブテンオリゴマーの合成時に異性化反応が起こると、すべて不可欠に形成される官能基である。
【0126】
しかし、従来使用されてきたオリゴマーは、反応性の向上のために化学式aで表される官能基、すなわち、exo‐官能基の含量を高めようとし、このために、カチオン重合時に重合反応の温度を10℃未満、好ましくは0℃未満、または-10℃未満にして重合反応を行ってきた。このように極低温環境で製造されたオリゴマーは、前記反応式1で表された経路の反応が主に行われ、化学式aおよびbで表される官能基のみ確認され、化学式c~eで表される官能基は形成されなかった。
【0127】
これとは異なり、本発明のオリゴマーは、上述の有機ボレート系触媒を使用して20℃以上の温和な温度条件で生成されたオリゴマーであり、かかる温度条件では、重合過程で様々な異性化反応が生じ、そのため、化学式c~eで表される官能基をいずれも含む新規の構造を有するものである。
【0128】
すなわち、本発明のオリゴマーは、有機ボレート系触媒を使用して製造されることで、従来イソブテンオリゴマーに含まれていた官能基だけでなく、これと異性体の関係にある化学式c~eで表される官能基をいずれも含むオリゴマーであり、これと同時に、末端二重結合も高い含量で含むことから高い反応性を有する。
【0129】
前記化学式cで表される官能基は、下記化学式c‐1で表される官能基であってもよい。
【0130】
【化27】
【0131】
前記化学式c‐1中、
nは、1~200の整数である。
【0132】
前記化学式cで表される官能基は、カチオン重合反応で下記のように水素アニオン移動およびメチル移動を経て製造され得る。
【0133】
【化28】
【0134】
前記化学式bおよびcで表される官能基の含量の合計をモル%で示すと、化学式a~eで表される官能基の全量に対して3~12モル%、4~10モル%であってもよい。
【0135】
前記化学式dで表される官能基は、下記化学式d‐1で表される官能基であってもよい。
【0136】
【化29】
【0137】
前記化学式d‐1中、
nは、1~200の整数である。
【0138】
前記化学式dで表される官能基は、カチオン重合反応で、下記のように水素アニオン移動およびメチル移動を経て製造され得る。
【0139】
【化30】
【0140】
前記化学式dで表される官能基の含量は、化学式a~eで表される官能基の全量に対して3~10モル%、3~8モル%、4~6モル%であってもよい。
【0141】
前記化学式eで表される官能基は、下記化学式e‐1で表される官能基であってもよい。
【0142】
【化31】
【0143】
前記化学式e‐1中、
nは、1~200の整数である。
【0144】
本発明のイソブテンオリゴマーは、前記化学式eで表される官能基のように反応性が高い官能基を含んでおり、オリゴマー内への機能性の導入が容易であるという利点がある。
【0145】
前記化学式eで表される官能基は、カチオン重合反応で下記のような反応を経て製造され得る。
【0146】
【化32】
【0147】
前記化学式eで表される官能基の含量は、化学式a~eで表される官能基の全量に対して、0.1~10モル%、0.5~10モル%、0.5~8モル%、0.5~6モル%であってもよい。
【0148】
本発明のイソブテンオリゴマーは下記化学式fで表される官能基を含まない。
【0149】
【化33】
【0150】
前記化学式f中、
Xは、ハロゲン原子である。
【0151】
前記化学式fで表される官能基は、金属ハロゲン化物触媒(metal halide catalyst、MX3、M:Al、Fe、Ga、Ti、X:F、Cl、Br、I)を使用した場合、反応中にMX4-のカウンターアニオンが存在するため、オリゴマー鎖がすべて形成された後、終結(termination)過程でカルボカチオンにハロゲン原子イオンと反応しながら生じる官能基であるが、これは、イソブテンオリゴマーに末端二重結合を最大限に多く含有して官能基を導入するための目的に邪魔になり、水洗過程で水によってHClまたはHFのような物質が発生し、これは、イソブテンオリゴマーの末端二重結合にヒドロハロゲン化反応により導入される問題が発生し得る。また、イソブテンオリゴマーに官能基を導入してエンジンオイル、燃料添加剤などとして使用する場合、燃焼しながらハロゲンが含まれた有害物質が排出されて環境汚染を引き起こす問題も生じ得る。
【0152】
本発明のイソブテンオリゴマーは、上述の有機ボレート系触媒を用いて製造されたものであり、オリゴマー内の前記化学式fで表される官能基を含んでおらず、したがって、オリゴマー内の化学式fで表される官能基によって引き起こされる前記問題点が生じないという優れた特徴を有する。
【0153】
また、本発明のイソブテンオリゴマーは、化学式a~eで表される官能基をそれぞれ、化学式a~eで表される官能基の全量に対して、化学式aで表される官能基70~90モル%と、化学式bおよびcで表される官能基の合計5~10モル%と、化学式dで表される官能基3~10モル%と、化学式eで表される官能基0.1~10モル%とを含むことができる。
【0154】
前記のように、本発明のイソブテンオリゴマーは、末端炭素‐炭素二重結合である化学式aの官能基を高い含量で含むだけでなく、カチオン重合過程で様々な異性化により形成された二重結合である化学式b~eの官能基を含む。このように異性化を起こして様々な二重結合を含んでいるにもかかわらず、オリゴマーの末端炭素‐炭素二重結合の含量、すなわち、化学式aで表される官能基の含量は依然として高いため、末端二重結合による高い反応性は失わず、様々な官能基を含んでおり、加工性を改善したという利点がある。
【0155】
本発明のイソブテンオリゴマーは、数平均分子量が1,000以上、1,100以上であってもよく、分子量分布は1.5~3.5であってもよい。
【0156】
上述のように、本発明のイソブテンオリゴマーは、化学式fで表される官能基を含まないが、化学式fで表される官能基が存在する場合、これは、金属ハロゲン化物触媒によって活性化し、再度カウンターアニオンを発生させ、高分子鎖の成長を継続することになり、したがって、金属ハロゲン化物触媒で製造されたイソブテンオリゴマーが前記水準の高い数平均分子量を有するためには、化学式fで表される官能基が含まれるしかない。
【0157】
一方、本発明では、金属ハロゲン化物触媒を使用しておらず、アニオン部としてバルキーな有機ボレートを含んでカルボカチオンを安定化させることで、カチオン重合中にオリゴマーの分子量を一気に高くすることができるという利点がある。
【0158】
実施例
以下、本発明の理解を容易にするために、好ましい実施例を提示するが、下記の実施例は、本発明を例示するものであって、本発明の範疇および技術思想の範囲内で様々な変更および修正が可能であることは、通常の技術者にとって明らかであり、かかる変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することは言うまでもない。
【0159】
触媒の製造
[製造例1]
単量体の重量に対して[Et3Si][B(C654]0.01重量%および2‐フェニルプロパン‐2‐オル0.02重量%をそれぞれトルエンに溶解した後、1時間撹拌した。
【0160】
[製造例2~4、比較製造例1および2]
使用物質の種類と含量を下記表1のように変更した以外は、製造例1と同じ方法で触媒を製造した。
【表1】
【0161】
[実施例1]
コンベクションオーブンでよく乾燥したアンドリューガラスフラスコにマグネチックバーを入れた後、真空をかけて1時間ほど維持した。アセトン‐ドライアイスを用いて、-20℃のアイスバスを作り、アンドリューガラスフラスコを入れて冷却し、20gのイソブテンを注入した後、シリンジを用いて精製されたトルエンを溶媒として添加した。
【0162】
前記製造例1で準備した触媒は、トルエンに希釈し、シリンジに入れて準備した。準備した触媒を前記アンドリューガラスフラスコに添加し、30℃に設定したバスに移して重合を行った。反応時間は45分とし、反応終了後、アンドリューガラスフラスコを開けて残っているイソブテンを除去した後、メタノールで反応をクエンチングした。残っている溶媒を回転蒸発器により除去した後、残っている重合体を真空下で重量の変化がなくなるまで完全に乾燥した。
【0163】
[実施例2~9、比較例1~6]
触媒、重合温度、溶媒の種類を下記表1のように変更した以外は、前記実施例1と同様にイソブテンオリゴマーを製造した。
【0164】
[比較例7]
製造例2と同じ含量で[Et3Si][B(C654]および2‐フェニルプロパン‐2‐オルを使用するが、これらを混合および撹拌して複合体に製造するステップを省略し、イソブテン単量体にそれぞれ投入し、イソブテンオリゴマーを製造した。
【0165】
【表2】
【0166】
<実験例1>
前記実施例および比較例のイソブテンオリゴマーを対象として、転化率、exo‐含量、数平均分子量および分子量分布値を下記方法にしたがって測定し、表3にまとめた。
【0167】
(1)転化率(%)
乾燥したイソブテンオリゴマーの重量を測定し、転化率を計算した。
【0168】
(2)exo‐含量
500MHz NMR(Varian社製)を使用して1H NMRを測定した。ピークの位置によって二重結合がそれぞれ異なる位置に存在するexo‐官能基、endo‐官能基、tri‐官能基、tetra‐官能基、PIB‐coupled‐官能基の存在可否を確認し、下記数式にしたがってexo‐含量(%)を計算した。
【0169】
‐exo‐含量(%)=(exo‐官能基モル数/exo‐官能基モル数+endo‐官能基モル数+tri‐官能基モル数+tetra‐官能基モル数+PIB‐coupled‐官能基モル数)×100
【0170】
(3)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)およびピーク平均分子量(Mp)
下記ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析の条件下で測定した。
‐カラム:PL MiniMixed B×2
‐溶媒:THF
‐流速:0.3ml/min
‐試料の濃度:2.0mg/ml
‐注入量:10μl
‐カラム温度:40℃
‐Detector:Agilent RI detector
‐Standard:Polystyrene(三次関数で補正)
‐Data processing:ChemStation
【0171】
(4)分子量分布(MWD)
重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で計算した。
【0172】
【表3】
【0173】
前記表3に示されているように、本発明の有機ボレート系触媒である製造例1~4を用いて、様々な反応条件で、exo‐含量が高いイソブテンオリゴマーを製造することができることを確認した。また、反応溶媒としてDCMのようなハロゲン化炭化水素溶媒、トルエンのような非極性炭化水素溶媒を使用することができ、これらを混合して使用することも可能であった。
【0174】
溶媒の混合比を変更して実験した実施例を比較すると、同じ製造例1触媒を使用した実施例1~3、同じ製造例2触媒を使用した実施例4および5、製造例3触媒を使用した実施例6および7、製造例4触媒を使用した実施例8および9を比較すると、溶媒のトルエン含量の増加に伴いオリゴマーのexo‐含量は増加し、分子量分布が狭いイソブテンオリゴマーを製造することができることが分かった。
【0175】
すなわち、本発明の有機ボレート系触媒を用いて、ハロゲン化炭化水素溶媒の外非極性炭化水素溶媒の混合比、撹拌時間などを適切に調節して使用することで、目的とするexo‐含量および転化率を同時に満たすことができるイソブテンオリゴマーを効率的に製造することができることを確認したものである。
【0176】
一方、化学式1で表される化合物ではないB(C653と2‐フェニルプロパン‐2‐オルを混合して製造した触媒を用いた比較例1~4では、実施例の触媒よりも10倍多い量を使用して同じ条件でカチオン重合反応を行ったにもかかわらず、すべての条件でカチオン重合反応の触媒としての活性を示すことができず、イソブテンオリゴマーを製造することができなかった。これは、B(C653と2‐フェニルプロパン‐2‐オルは、本発明の有機ボレート系触媒とは異なり、安定した複合体を形成することができないため、触媒活性をまともに示すことができないことを示すものである。
【0177】
また、化学式1で表される化合物のみを使用し、ヒドロキシ基含有化合物が除外された比較例5および6の場合、転化率が特に著しく低くなることを確認した。
【0178】
また、比較例7でも、[Et3Si][B(C654]のケイ素原子と2‐フェニルプロパン‐2‐オルの酸素原子が共有結合をなさず、個別の独立した物質としてイソブテン単量体の重合に使用されているが、この場合にも重合反応がほとんど行われないことが分かった。
【0179】
触媒安定性の分析
[実施例1‐1]
本発明による触媒の経時変化安定性を確認するために、有機ボレート系触媒を製造した後、すぐ使用した実施例1の結果と比較した。具体的には、有機ボレート系触媒を製造し、15時間経過してから使用した以外は、実施例1と同じ条件でイソブテンオリゴマーを製造した。
【0180】
[実施例2‐1、6‐1、7‐1、比較例3‐1]
有機ボレート系触媒を製造し、15時間経過してから使用した以外は、それぞれ実施例2、6、7、比較例3と同じ条件でイソブテンオリゴマーを製造した。
【0181】
【表4】
【0182】
<実験例2>
前記実施例および比較例を対象として、実験例1と同じ方法でexo‐含量、数平均分子量および分子量分布値を測定し、表5にまとめた。
【0183】
【表5】
【0184】
前記結果のように、本発明の有機ボレート系触媒を使用した実施例では、触媒を製造してから15時間が経過した後に使用しても、製造直後と同等な水準の転化率が示され、類似した物性のイソブテンオリゴマーが製造されることを確認した。すなわち、本発明の触媒は、優れた安定性を有するため、所定の時間貯蔵するか流通した後に使用しても品質の低下が発生しないことが分かった。
【0185】
<実験例3>
前記実験例1で500MHz NMR(Varian社製)使用して1H NMRを測定した結果から、実施例1~9のイソブテンオリゴマーのtri+endo‐含量、tetra‐含量、PIB‐coupled‐含量を計算した。
【0186】
‐tri+endo‐含量(%)=(tri‐官能基モル数+endo‐官能基モル数)/(exo‐官能基モル数+endo‐官能基モル数+tri‐官能基モル数+tetra‐官能基モル数+PIB‐coupled‐官能基モル数)×100
【0187】
‐tetra‐含量(%)=(tetra‐官能基モル数)/(exo‐官能基モル数+endo‐官能基モル数+tri‐官能基モル数+tetra‐官能基モル数+PIB‐coupled‐官能基モル数)×100
【0188】
‐PIB‐coupled‐含量(%)=(PIB‐coupled‐官能基モル数)/(exo‐官能基モル数+endo‐官能基モル数+tri‐官能基モル数+tetra‐官能基モル数+PIB‐coupled‐官能基モル数)×100
【0189】
市販の物質にかかる官能基が含まれているか否かを確認するために、比較例8として大林産業社製のHRPB 1300を購入し、比較例9として大林産業社製のHRPB 2300を購入して、同様に1H NMRを測定および計算を行った。
【0190】
また、実施例8の1H NMRスペクトルを図1に示し、比較例8の1H NMRスペクトルを図2に示している。
【0191】
【表6】
【0192】
本発明による実施例8のイソブテンオリゴマーは、図1に示されているように、exo‐官能基およびendo‐官能基のピーク外にも様々なピークが検出された。
【0193】
具体的には、図1に表示したように、5.20ppm付近でendo‐官能基を示すピークの他に、さらなるピークの存在によりtri‐官能基の存在を確認し、2.90ppm付近のピークでtetra‐官能基の存在を確認した。さらに、exo‐官能基の存在を示す4.90ppm、4.70ppm付近のピークの他にも、4.80ppmと4.90ppmとの間のピークが存在することにより、PIB‐coupled‐官能基が存在することが分かった。
【0194】
一方、図2に示されているように、従来常用されてきたイソブテンオリゴマーの場合、exo‐官能基を示す4.90ppmおよび4.70ppm付近のピーク、endo‐官能基を示す5.20ppm付近のピークのみがはっきりと示され、オリゴマー内にexo‐官能基およびendo‐官能基のみが存在するだけであって、本発明は、イソブテンオリゴマーとは異なり、tri‐官能基、tetra‐官能基、PIB‐coupled‐官能基などオリゴマー内部に位置する他の二重結合は存在しないことを確認することができた。
【0195】
このように、比較例8および9など、従来常用されたイソブテンオリゴマーの場合、exo‐官能基およびendo‐官能基のみが確認された。前記表において、tri‐官能基およびendo含量を合わせて15%と示しているが、これは、NMRスペクトルでtri‐官能基とendo‐官能基のピークが非常に隣接するためであり、実際、図2を参照すると、比較例では、tri‐官能基は存在しないことが分かる。すなわち、exo‐含量が85%、endo含量が15%であるイソブテンオリゴマーである。
【0196】
一方、本発明による実施例のイソブテンオリゴマーでは、比較例と類似する程度にexo‐含量が高く現れながらも、tri‐官能基、tetra‐官能基およびPIB‐coupled‐官能基がいずれも存在し、各官能基の含量が前記表のように計算された。
【0197】
すなわち、比較例の場合、exo‐含量が本発明のオリゴマーと類似しているものの残りはすべてendo‐官能基からなっており、様々な異性化反応による二重結合を含まない一方、本発明のイソブテンオリゴマーは前記のようにexo‐含量が低くならず、且つ様々なオリゴマー内部二重結合(tri‐官能基、tetra‐官能基、PIB‐coupled‐官能基)を含んでいるものであって、比較例と構造、形態および物性がいずれも相違する新規のイソブテンオリゴマーである。
【0198】
<実験例4>
前記で製造した実施例8および比較例8のイソブテンオリゴマーを対象として粘度を測定し、その値を下記表7に示している。
【0199】
(1)粘度(cst)
100℃でASTM D445動粘度測定法で測定した。
【0200】
【表7】
【0201】
前記表7に示されているように、本発明のイソブテンオリゴマーは、比較例に比べ数平均分子量がより高いとともに粘度が低く示され、加工性が向上し、様々な用途に容易に適用できることが分かった。
【0202】
<実験例5>
前記実施例1にしたがってイソブテンオリゴマーを重合した後、重合された溶液そのままセライト(Celite)充填されたカラムに通過させ、触媒を除去した。
【0203】
次に、前記セライトフィルタにより触媒を除去した場合、従来の方式として有機溶媒に溶解した後、水洗により触媒を除去した場合、また、触媒を除去しない場合、それぞれに対して、下記方法にしたがってICPおよびIC分析をそれぞれ行い、その結果を下記表8に示している。
【0204】
(1)F、Cl分析
燃焼IC(ICS‐2100/AQF‐5000、Thermo Scientific Dionex)を使用し、以下の条件下で測定した。
‐Column:IonPac AS18 analytical(4×250mm)、IonPac AG18 guard(4×50mm)
‐Eluent種類:KOH(30.5mM)
‐Eluent流量:1mL/min
‐Detector:Suppressed Conductivity Detector
‐SRS Current:76mA
‐Injection volumn:20μL
‐Isocratic/Gradient条件:Isocratic
【0205】
【表8】
【0206】
前記結果から分かるように、本発明の有機ボレート系触媒を用いてイソブテンオリゴマーを製造した後、フィルタに通過させる簡単な方法により、別の水洗過程を経らなくても残留する触媒を効果的に除去することができることが分かった。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-08-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式a~eで表される官能基を含み、
下記化学式fで表される官能基を含んでおらず、
数平均分子量が1,000以上である、イソブテンオリゴマー。
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
【化41】
【化42】

[前記化学式f中、
Xは、ハロゲン原子である。]
【請求項2】
前記化学式a~eで表される官能基は、それぞれ、下記化学式a‐1~e‐1で表される官能基である、請求項1に記載のイソブテンオリゴマー。
【化43】

【化44】

【化45】

【化46】

【化47】

[前記化学式a‐1~e‐1中、
nは、1~200の整数である。]
【請求項3】
前記化学式aで表される官能基は、化学式a~eで表される官能基の全量に対して70~95モル%である、請求項1または2に記載のイソブテンオリゴマー。
【請求項4】
前記化学式bおよびcで表される官能基の合計は、化学式a~eで表される官能基の全量に対して3~12モル%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のイソブテンオリゴマー。
【請求項5】
前記化学式dで表される官能基は、化学式a~eで表される官能基の全量に対して3~10モル%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のイソブテンオリゴマー。
【請求項6】
前記化学式eで表される官能基は、化学式a~eで表される官能基の全量に対して0.1~10モル%である、請求項1~5のいずれか一項に記載のイソブテンオリゴマー。
【請求項7】
化学式a~eで表される官能基の全量に対して、化学式aで表される官能基70~90モル%と、化学式bおよびcで表される官能基の合計3~10モル%と、化学式dで表される官能基3~10モル%と、化学式eで表される官能基0.1~10モル%とを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のイソブテンオリゴマー。
【請求項8】
数平均分子量は1,100以上であり、分子量分布は1.5~3.5である、請求項1~7のいずれか一項に記載のイソブテンオリゴマー。