(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169811
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】SiC結晶の成長方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20221102BHJP
C30B 19/04 20060101ALI20221102BHJP
C30B 19/12 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B19/04
C30B19/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019176257
(22)【出願日】2019-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】吉川 健
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 大翔
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BE08
4G077CG02
4G077CG07
4G077EC02
4G077HA12
4G077QA04
4G077QA12
4G077QA27
4G077QA71
(57)【要約】
【課題】新規なSiC結晶の成長方法を提供する。
【解決手段】SiCおよびCの少なくとも一方を含む粒子22を、Siを含む溶媒24に混合してなる成長層材料20を生成する。そして成長層材料20をSiC基板10と接触させ、加熱する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiCおよびCの少なくとも一方を含む粒子を、Siを含む溶媒に混合してなる成長層材料を生成するステップと、
前記成長層材料をSiC基板と接触させ、加熱するステップと、
を備えることを特徴とするSiC結晶の成長方法。
【請求項2】
前記粒子の平均粒径は、1ミクロンより小さいことを特徴とする請求項1に記載の成長方法。
【請求項3】
前記溶媒は、遷移金属をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の成長方法。
【請求項4】
前記粒子は、α-SiC粒子を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の成長方法。
【請求項5】
前記粒子は、炭素微粒子を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の成長方法。
【請求項6】
前記遷移金属はCr、Fe、Niの少なくともひとつを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の成長方法。
【請求項7】
前記溶媒は、Alをさらに含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC結晶の成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC(炭化ケイ素)デバイスは、高耐圧、低損失、高周波特性に優れるため、SiCを利用した次世代パワーデバイスが注目を集めており、一部で実用化されはじめている。SiCデバイスのさらなる普及のためには、高品質で大口径なSiC単結晶ウェハ(エピ基板)を低コストでエピタキシャル成長する技術が求められる。またSiCのエピタキシャル層は熱的、化学的に安定であることから、耐熱性、耐酸化性、耐薬品性が高く、過酷な環境に曝される材料のコーティング層としても利用することができる。
【0003】
エピ基板製造のためのSiCのエピタキシャル成長としては、膜の均一性と量産性の観点から、気相成長法である化学気相蒸着法が主流であるが、高品質を維持しようとした場合、結晶成長の速度は20~30μm/h程度に制限されているのが現状である。
【0004】
気相成長法とは別のアプローチとして、近年では溶液法の開発が進められている。溶液法としては、Sliding Boat法、Dipping法、Top seed法などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-303125号公報
【特許文献2】特開2012-162439号公報
【特許文献3】特開2019-94228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的は、新規なSiC結晶の成長方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、SiC結晶の成長方法に関する。この成長方法は、SiCおよびCの少なくとも一方を含む粒子を、Siを含む溶媒に混合してなる成長層材料を生成するステップと、成長層材料をSiC基板と接触させ、加熱するステップと、を備える。
【0008】
SiCを含む粒子が溶媒中に溶解すると、SiC基板に向かって、SiおよびCの濃度勾配が発生し、拡散場が形成される。あるいはCを含む粒子が溶媒中に溶解すると、溶媒中のSiと結合してSiC粒子となり、それが溶解してSiおよびCの濃度勾配が発生し、拡散場が形成される。その結果、成長層材料中のSiおよびCが、濃度勾配に比例する速度でSiC基板に向かって拡散し、結晶成長させることができる。この方法では、SiCの高濃度領域が、SiC基板から非常に近い位置に形成されるため、SiCの移動速度が速くなり、高い成長速度を得ることができる。
【0009】
粒子の平均粒径は、1ミクロンより小さくてもよい。サブミクロン粒子(ナノ粒子ともいう)はその大きな表面積、すなわちエネルギーが故に、粗大粒子に比べて高い溶解度を有するため、SiCの濃度勾配を大きくすることができ、これにより高い成長速度を実現できる。
【0010】
溶媒は、Cr,Fe,Sc,Ti、V,Mn,Co,Ni,Y,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Hf,Ta,W,La,Ce,Pr,Nd,Tb,Dyなどの遷移金属を含んでもよい。遷移金属を含む溶媒を用いることで、成長速度を高めることができる。
【0011】
粒子は、α-SiC粒子、β-SiC粒子のいずれも用いることができるが、α-SiC粒子を用いると、β-SiCを用いた場合に比べて成長速度を高めることができる。
【0012】
粒子は、カーボンブラックなどの炭素微粒子を含んでもよい。
【0013】
溶媒は、Cr,Fe,Niの少なくともひとつを含んでもよい。炭素溶解度が高い遷移金属であるCr,Fe,Niを用いることで、溶媒中に高濃度でSiC粒子を溶解することができる。
【0014】
溶媒は、Alをさらに含んでもよい。Alを混合することで、結晶成長層の表面を平滑化するとともに、SiC結晶のオン抵抗を下げることができる。またAlは、p型ドーパントであるため、Alの濃度を最適化することで、SiC基板の極性を制御できる。
【0015】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を装置、方法、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、新規なSiC結晶の成長方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態1に係るSiC結晶の成長方法を説明する図である。
【
図2】実施の形態1に係る結晶成長により得られたサンプルの一例の断面図である。
【
図3】3C-SiC粒子を溶融Si(Crを含まず)と混合した成長層材料を用いた実験結果を示す図である。
【
図4】4H-SiC粒子を溶融Si(Crを含まず)と混合した成長層材料を用いた実験結果を示す図である。
【
図5】6H-SiC粒子を溶融Si(Crを含まず)と混合した成長層材料を用いた実験結果を示す図である。
【
図6】4H-SiC粒子および6H-SiC粒子を、SiとCrの合金(Si-40mol%Cr alloy)と混合した成長層材料を用いた実験結果を示す図である。
【
図7】4H-SiC粒子および6H-SiC粒子を、Si、Cr、Alの合金(Si-40mol%Cr-4mol%Al alloy)と混合した成長層材料を用いた実験結果を示す図である。
【
図8】
図8(a)は、4H-SiC微粒子をSi溶媒と混合したサンプルの断面図およびラマンスペクトルを示す図であり、
図8(b)は、6H-SiC微粒子をSi溶媒と混合したサンプルの断面図およびラマンスペクトルを示す図である。
【
図9】
図9(a)、(b)は、4H-SiC微粒子をSi-Cr合金と混合したサンプルの表面写真およびラマンスペクトルを示す図である。
【
図10】実施の形態2に係るSiC結晶の成長方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0019】
また各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係るSiC結晶の成長方法を説明する図である。この成長方法では、種結晶であるSiC基板10の上に、さらにSiC結晶をエピタキシャル成長させる。
【0021】
はじめにSiC粒子22を、Siと遷移金属を含む溶媒24に混合し、ブリケット状あるいはペースト状の成長層材料20を用意する。SiC粒子22は、ミクロン、好ましくはサブミクロンオーダーの平均粒径を有する。
【0022】
溶媒24は、Siと遷移金属を混合した溶融合金を用いることができる。遷移金属は、炭素溶解度(あるいはSiC溶解度)が高いCrやFe、Niが好適である。溶媒24にCr,Fe,Niの少なくとも一つを加えることで、溶媒24中に高濃度でSiC粒子を溶解することができる。溶媒24は、Cr,Fe,Niに代えて、あるいはそれに加えて、その他の遷移金属、たとえばSc,Ti、V,Mn,Co,Y,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Hf,Ta,W,La,Ce,Pr,Nd,Tb,Dyのひとつ、または複数を含んでもよい。なお溶媒24として、Siと遷移金属の化合物(たとえばSiCr)を原料に用いてもよい。
【0023】
続いて成長層材料20をSiC基板10と接触させ、加熱する。加熱はAr雰囲気中で行ってもよい。SiC粒子22が溶媒24に溶解する。この過程において、オストワルド成長により、より径の大きなSiC粒子22が形成される。
【0024】
そして成長層材料20内には、SiならびにCの濃度勾配が発生し、拡散場が形成される。この拡散場は、初期状態において、SiC粒子の表面において濃度が高く、SiC基板に向かうほど低くなっている。この拡散場において、成長層材料20中のSiC粒子22から溶解したSiおよびCは、濃度勾配に比例する速度でSiC基板10に向かって拡散し、SiC基板10上にて結晶成長し、成長層30が形成される。その後、成長層30が所望の膜厚まで成長すると、SiC基板10が冷却される。
【0025】
以上がSiC結晶の成長方法である。
【0026】
図2は、実施の形態1に係る結晶成長により得られたサンプルの一例の断面図である。このサンプルでは、SiC基板10としてSiC単結晶基板を用いており、成長層材料20として、SiCナノ粒子を、Si-Cr溶融合金に混合したものを用いてる。成長層材料20をSiC基板10に塗布した後、Ar雰囲気で1600℃まで昇温し、1分間保持した後に、急冷している。成長層30の厚さは30μmであるから、30μm/minの非常に高速な成長速度が達成できている。
【0027】
(実験結果)
続いて、本発明者らが行った実験結果を説明する。実験は、異なるポリタイプのSiC粒子22と、異なる溶媒24との組み合わせで行った。SiC粒子22は、3C-,4H-,6H-の3種類を用意し、溶媒24は、Siのみを含むもの(溶融Si)、SiとCrを含む合金、Si,Cr,Alを含む合金の3通りを用意した。SiC基板10としては、4H-SiCを用いた。
【0028】
実験に用いたSiC結晶は、4°オフ4H-SiC(000-1)基板である。
また3C-SiC粒子(β-SiC)は、Alfa Aesar社製のものを用い、平均粒径は0.64μmである。
4H-SiC粒子(α-SiC)は、アイシンナノテクノロジーズ社により高純度単結晶を粉砕したものを用い、その平均粒径は0.13μmである。
6H-SiC粒子(α-SiC)は、高純度科学研究所のものを用い、その平均粒径は0.5μmである。
【0029】
図3は、3C-SiC粒子を溶融Si(Crを含まず)と混合した成長層材料を用いた実験結果を示す図である。
【0030】
図4は、4H-SiC粒子を溶融Si(Crを含まず)と混合した成長層材料を用いた実験結果を示す図である。
図5は、6H-SiC粒子を溶融Si(Crを含まず)と混合した成長層材料を用いた実験結果を示す図である。溶媒24中のSiの比率は、20vol%、23vol%,30vol%の3通りとしている。
【0031】
図6は、4H-SiC粒子および6H-SiC粒子を、SiとCrの合金(Si-40mol%Cr alloy)と混合した成長層材料を用いた実験結果を示す図である。
【0032】
図7は、4H-SiC粒子および6H-SiC粒子を、Si、Cr、Alの合金(Si-40mol%Cr-4mol%Al alloy)と混合した成長層材料を用いた実験結果を示す図である。
【0033】
図3~
図7における横軸は、目標温度での保持時間(分)を表し、0分は目標温度に到達すると同時に、加熱を停止することを表す。また
図3~
図7における縦軸は、成長層の厚みを示す。
【0034】
図8(a)は、4H-SiC微粒子をSi溶媒と混合したサンプルの断面図およびラマンスペクトルを示す図であり、
図8(b)は、6H-SiC微粒子をSi溶媒と混合したサンプルの断面図およびラマンスペクトルを示す図である。いずれのサンプルも、1973Kにて240分間保持したものである。ラマンスペクトルから、成長層は種結晶と同じ4H-SiCか異種ポリタイプの6H-SiCであると同定される。成長層と種結晶は同じポリタイプとはならないことから、SiC微粒子の溶解-再析出を利用したエピタキシャル成長が得られていることが裏付けられる。
【0035】
なお、異種ポリタイプの発生要因として、結晶のテラス上での2D核生成やマクロステップからの成長時に積層欠陥が入るためと推察される。どちらもステップバンチングが要因であり、ステップバンチングを抑制することがポリタイプの制御に重要である。
【0036】
図9(a)、(b)は、4H-SiC微粒子をSi-Cr合金と混合したサンプルの表面写真およびラマンスペクトルを示す図である。このサンプルは1873Kまで昇温して1分後に冷却したものである。視野内の左側の平らな領域は種結晶部であり、右側のステップ状組織の領域が成長結晶部である。ラマンスペクトルに着目すると、ピークの波数から、結晶成長部30は、SiC基板10と同じ4H-SiCと同定され、積層欠陥を示すバンドは見受けられない。したがって、ステップバンチングは生じるものの比較的良好な結晶を成長させることができる。
【0037】
(Crの影響)
Crを含む溶媒24を用いたサンプルの結果(
図6)と、含まない溶媒24を用いたサンプル(
図4,
図5)を比較すると、同じポリタイプ、同じ温度では、Crを含む溶媒24を用いた場合の方が、成長速度が高い傾向にある。
【0038】
たとえば、Crを含む溶媒24を用いた6H-SiCのサンプル(
図6)では、1873K、0分で10μmの成長層厚が得られる一方、Crを含まない溶媒24を用いたサンプル(
図5)では6μmに留まっており、Crなどの遷移金属を添加することの優位性が見いだされる。
【0039】
(SiCの粒径について)
(6H-SiC粒子 1mol):(Si 2.7mol):(Cr 1.8mol)の割合で混合した成長層材料20について、異なる粒径の6H-SiC粒子を用いて成長速度の比較を行った。実験では、1873K(1600℃)で1分保持したときの、成長層の厚さを測定した。
(i)サンプル1
ジャパンメタルサービス社製α-SiC(6H-SiC)の平均粒径は1.22μmであり、これを用いた場合の成長層厚は3μm以下であった。
(ii)サンプル2
PlasmaChem社製α-SiC(6H-SiC)の平均粒径0.04μmであり、これを用いた場合の成長層厚は約10μmであった。
【0040】
(iii)高純度科学研究所の6H-SiC粒子(α-SiC)の平均粒径は0.5μmであり、これを用いた場合の成長層厚は10μmであった(
図6の1600℃の結果参照)。
【0041】
以上の比較から、SiC粒子の平均粒径が1μmを超えると、1分間での成長層厚が減少することがわかる。SiC粒子として、平均粒径がサブミクロンのナノ粒子を用いることで、極時間保持で10μmの成長厚を実現することが可能となる。
【0042】
以上が実施の形態1に係る成長方法である。この成長方法は以下の利点を有する。
1. 成長速度
成長層材料20内の拡散場において、SiC粒子の高濃度領域が、SiC基板10から非常に近い位置に形成されるため、SiCの移動速度が速くなり、高い成長速度を得ることができる。
【0043】
加えて、SiC粒子22として、平均粒径が1ミクロン以下のサブミクロン粒子(ナノ粒子)を用いることにより、その大きな表面積、すなわちエネルギーが故に、粗大粒子に比べて高い溶解度を有するため、SiCの濃度勾配を大きくすることができる。これにより一層高い成長速度を実現できる。
【0044】
2. 選択的成長
従来のこれまでのLPE(Liquied Phase Epitaxy)では、基板を溶液に浸漬あるいは付着して行われるのが一般的である。一方、本実施の形態に係る成長方法はSiC粒子22と溶媒24の分散相が接触した部分でのみエピタキシャル成長が得られる。したがって、ペースト状あるいはブリケット状の成長層材料20を選択的に配置し、局所的に加熱することにより、凝固した合金と未反応の混合粉末ペーストを酸溶解した後に、基板上に選択的に成長層を形成することができる。
【0045】
3. オン抵抗や導電型の制御
さらに、窒素ガスの導入と成長層材料20へのAlの添加を行うことで、導電型(p,n型)を制御したSiCの超構造を作製することができる。この技術は例えば超高耐圧(~10kV)のPiNダイオードのメサ構造や低オン抵抗化に向けたスーパージャンクション構造のためのトレンチ形成技術に応用できる可能性がある。
【0046】
4. 量産性
従来のLPEは溶液に基板を浸漬あるいは付着することでエピタキシャル成長が得られるのが一般的である。したがって、ウエハ上に成長する場合には1つの育成装置で同時にウエハ1枚しかエピタキシャルできず、3~6枚のウエハを同時に均質にエピタキシャル成長できるCVD(Chemical Vaper Deposition)法に比べて劣っていた。本実施の形態に係る成長方法では、CVDよりも高速でエピタキシャル成長でき、成長層材料20を設置したウエハの等温保持を要するだけなので、より大量生産に適したプロセスといえる。
【0047】
5. 適用範囲の広さ
また、半導体ウェハに限らず様々な構造のSiC基セラミックス表面にコーティングすることも可能であるため、応用の可能性は高い。またSiCを材料とする容器と蓋を、本実施の形態に係る結晶成長技術によって形成した成長層によって密着させ、封止することも可能である。
【0048】
なお、成長層の電気的特性については実験では測定しておらず、本実施の形態に係る結晶成長方法で得られる成長層が、必ずしもSiC半導体デバイスの活性層として利用できる程度の性能を有しているとは言えないが、それであったとしても、本実施の形態に係る結晶成長方法は、工業的に有用である。
【0049】
(実施の形態2)
図10は、実施の形態2に係るSiC結晶の成長方法を説明する図である。
【0050】
はじめに炭素(C)粒子26を、Siと遷移金属を含む溶媒24に混合し、ブリケット状あるいはペースト状の成長層材料20Aを用意する。C粒子26は、直径30~500nm程度のカーボンブラックである。
【0051】
C粒子26が溶媒24中のSiと結合することにより、SiC粒子22を含む成長層材料20Bが生成される。その後の結晶成長のメカニズムは実施の形態1と同様である。すなわちSiC粒子22を含むオストワルド成長により、より径の大きなSiC粒子22が形成される。
【0052】
そして成長層材料20B内において、SiC粒子22がSiとCに分解され、SiおよびCの濃度勾配が発生し、拡散場が形成される。この拡散場は、初期状態において、SiC粒子22の表面において濃度が低く、SiC基板に向かうほど低くなっている。この拡散場において、成長層材料20中のSiC粒子22から溶解したSiとCは、濃度勾配に比例する速度でSiC基板10に向かって拡散し、SiC基板10上にて結晶成長し、成長層30が形成される。
【0053】
実施の形態2に係る成長方法によっても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0054】
実施の形態にもとづき、具体的な用語を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0055】
10 SiC基板
20 成長層材料
22 SiC粒子
24 溶媒
26 C粒子
30 成長層