(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169847
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】炭化水素吸着剤、炭化水素吸着剤の製造方法及び炭化水素の吸着方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/18 20060101AFI20221102BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20221102BHJP
C01B 39/20 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
B01J20/18 D
B01J20/30
C01B39/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075523
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】碓氷 豊浩
(72)【発明者】
【氏名】中尾 圭太
【テーマコード(参考)】
4G066
4G073
【Fターム(参考)】
4G066AA53D
4G066AA61B
4G066AA62B
4G066AB19D
4G066BA20
4G066BA26
4G066BA36
4G066CA51
4G066DA02
4G066FA03
4G066FA12
4G066FA22
4G066FA37
4G066FA38
4G066FA40
4G073BA02
4G073BA48
4G073BA69
4G073BA70
4G073BA75
4G073BA82
4G073BB04
4G073BB15
4G073BB63
4G073CZ03
4G073FA03
4G073GA01
4G073GA02
4G073GA12
4G073GA19
4G073UA06
(57)【要約】
【課題】
耐熱性に優れた炭化水素吸着剤を提供すること、及び該炭化水素吸着剤を使用する炭化水素の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
YO
2-X
2O
3で表され、Yは4価の元素であり、かつ、Xは3価の元素であるFAU型ゼオライトを含み、前記FAU型ゼオライトが、リンと、銅と、を含有し、Xに対するリンのモル比が0.001以上0.5以下であることを特徴とする、炭化水素吸着剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
YO2-X2O3で表され、Yは4価の元素であり、かつ、Xは3価の元素であるFAU型ゼオライトを含み、
前記FAU型ゼオライトが、リンと、銅と、を含有し、
Xに対するリンのモル比が0.001以上0.5以下であることを特徴とする、炭化水素吸着剤。
【請求項2】
銅の含有量が、前記FAU型ゼオライトに対して0.5質量%以上4.0質量%以下である、請求項1に記載の炭化水素吸着剤。
【請求項3】
X2O3に対するYO2のモル比が2以上200以下である、請求項1又は2に記載の炭化水素吸着剤。
【請求項4】
前記FAU型ゼオライトに対してリンを含有させるリン含有工程と、
前記FAU型ゼオライトに対して銅を含有させる銅含有工程と、を有することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の炭化水素吸着剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の炭化水素吸着剤を使用する、炭化水素の吸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭化水素吸着剤、炭化水素吸着剤の製造方法及び炭化水素の吸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や船舶などの移動体に使用されている内燃機関から排出される排ガスは炭化水素を多く含み、該炭化水素は下流に配置される三元触媒により浄化される。三元触媒が機能するためには200℃以上の温度環境が必要であるため、いわゆるコールドスタート時など三元触媒が機能しない温度域では、炭化水素吸着剤に炭化水素を吸着し、三元触媒が機能し始める温度域で吸着剤から炭化水素を放出し、これを三元触媒で分解・浄化している。
【0003】
自動車排ガスの温度はエンジン運転状況により、900℃以上に達する。また運転状況に応じ、排ガスの組成は変化する。混合気体中の酸素と燃料混合物が過不足なく反応する時の空燃比(空気/燃料混合物)を理論空燃比という。実際の運転では、常に理論空燃比で燃焼しているわけではなく、理論空燃比を上回る酸素濃度でのリーンバーンと、理論空燃比を下回る酸素濃度でのリッチバーンを負荷状況により使い分けている。リーンバーンとは燃料混合物の完全燃焼よりも高い酸素濃度での燃焼であり、排ガスは3体積%以上15体積%以下の酸素を含有しており、酸化雰囲気である。リッチバーンとは燃料過剰の燃焼であり、排ガスには未燃の炭化水素を含んでいるため還元雰囲気である。すなわち、炭化水素吸着剤には酸化・還元雰囲気における高い耐熱性が求められる。
【0004】
特許文献1では、高温高湿の還元雰囲気への暴露後であっても高い炭化水素吸着特性を示す炭化水素吸着剤として、銅を含有するFAU型ゼオライトが開示されている。FAU型ゼオライトが銅を含有することで炭化水素とFAU型ゼオライトの相互作用がより強くなり、吸着した炭化水素がFAU型ゼオライトから再放出されにくくなることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、窒素酸化物の還元反応の触媒活性種としての銅を含有するCHA型ゼオライトがリンを含有することで、優れた耐熱性を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-150822
【特許文献2】特開2017-048106
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炭化水素吸着剤に使用されるFAU型ゼオライトにおいて、さらなる耐熱性の向上が求められている。
【0008】
本開示は、耐熱性に優れた炭化水素吸着剤、該炭化水素吸着剤の製造方法及び該炭化水素吸着剤を使用する炭化水素の吸着方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、リン及び銅を含有するFAU型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤において、リンの含有量を一定の範囲とすることで、FAU型ゼオライトの水熱耐久後の結晶度維持率が高く、高温高湿環境において優れた耐熱性を有することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は特許請求の範囲のとおりであり、本開示の要旨は以下のとおりである。
[1] YO2-X2O3で表され、Yは4価の元素であり、かつ、Xは3価の元素であるFAU型ゼオライトを含み、前記FAU型ゼオライトは、リンと、銅と、を含有し、Xに対するリンのモル比が0.001以上0.5以下であることを特徴とする、炭化水素吸着剤。
[2] 銅の含有量が、前記FAU型ゼオライトに対して0.5質量%以上4.0質量%以下である、[1]に記載の炭化水素吸着剤。
[3] X2O3に対するYO2のモル比が2以上200以下である、[1]又は[2]に記載の炭化水素吸着剤。
[4] 前記FAU型ゼオライトに対してリンを含有させるリン含有工程と、前記FAU型ゼオライトに対して銅を含有させる銅含有工程と、を有することを特徴とする、[1]乃至[3]のいずれかに記載の炭化水素吸着剤の製造方法。
[5] [1]乃至[3]のいずれかに記載の炭化水素吸着剤を使用する、炭化水素の吸着方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、耐熱性に優れた炭化水素吸着剤、該炭化水素吸着剤の製造方法及び該炭化水素吸着剤を使用する炭化水素含有の吸着の少なくともいずれかを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例及び比較例の炭化水素吸着剤に係る温度と炭化水素脱離量の関係を表すグラフである。
【
図2】実施例及び比較例の炭化水素吸着剤に係る温度と炭化水素脱離量の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の炭化水素吸着剤について、実施形態の一例を示して説明する。
【0014】
本実施形態の炭化水素吸着剤は、YO2-X2O3で表され、Yは4価の元素であり、かつ、Xは3価の元素であるFAU型ゼオライトを含み、前記FAU型ゼオライトは、リンと、銅と、を含有し、Xに対するリンのモル比が0.001以上0.5以下であることを特徴とする。
【0015】
本実施形態の炭化水素吸着剤は、その構成要件に基づいて、高い耐熱性を有するものとなる。
【0016】
(FAU型ゼオライト)
本実施形態において、「ゼオライト」は、骨格原子(以下、「T原子」ともいう。)が酸素(O)を介した規則的構造を有する化合物であり、T原子が金属原子、半金属原子及びそれ以外の原子の少なくともいずれかからなる化合物である。金属原子として、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、スズ(Sn)及びチタン(Ti)からなる群より選ばれる少なくとも1種、その他遷移金属元素が挙げられ、半金属原子として、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)及びテルル(Te)からなる群より選ばれる少なくとも1種が例示でき、それ以外の原子としてリン(P)が例示できる。
【0017】
本実施形態の炭化水素吸着剤に含まれるFAU型ゼオライトは、結晶性アルミノシリケートであることが好ましい。結晶性アルミノシリケートは、アルミニウム(Al)とケイ素(Si)とが酸素(O)を介したネットワークの繰り返しからなる結晶構造を有する。すなわち、本実施形態の炭化水素吸着剤に含まれるFAU型ゼオライトはYO2としてSiO2を、X2O3としてAl2O3を含み、YはSiであり、XはAlであることが好ましい。本実施形態の炭化水素吸着剤に含まれるFAU型ゼオライトはアルミノシリケート以外にも、フェロシリケート、ガロシリケート等のメタロシリケートや、SAPO(シリコアルミノリン酸塩)やAlPO(アルミノリン酸塩)等のゼオライト類縁物質であってもよい。
【0018】
以下では、本実施形態の炭化水素吸着剤に含まれるFAU型ゼオライトが、結晶性アルミノシリケートであるものを例示して、本実施形態の炭化水素吸着剤について説明する。
【0019】
ゼオライトの骨格構造(結晶構造と互換的に使用され、以下、「ゼオライト構造」ともいう。)は、国際ゼオライト学会(International ZeoliteAssociation)のStructure Commissionが定めている構造コード(以下、単に「構造コード」ともいう。)で特定される骨格構造であり、Collection of simulated XRD powder patterns for zeolites,Fifth revised edition(2007)に記載された各ゼオライト構造のXRDパターン(以下、「参照パターン」ともいう。)と、対象とするゼオライトのXRDパターンとの対比によって同定できる。
【0020】
本実施形態において、XRDパターンは例えば以下の条件のXRD測定より得られるものが挙げられる。
【0021】
加速電流・電圧 : 40mA・40kV
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : 連続スキャン
スキャン条件 : 40°/分
測定範囲 : 2θ=3°以上43°以下
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
検出器 : D/teX Ultra
Niフィルター使用
本実施形態の炭化水素吸着剤に含まれるFAU型ゼオライトのX2O3に対するYO2のモル比(以下、「YO2/X2O3比」ともいい、X2O3がAl2O3、YO2がSiO2である場合、「SiO2/Al2O3比」ともいう。)は、1.25以上200以下を挙げることができ、2以上200以下であることが好ましく、更には炭化水素の脱離開始温度が高い点で、3.0以上30.0以下であることが好ましい。特に好ましいSiO2/Al2O3比として、3.0以上25.0以下が挙げられ、4.0以上12.0以下であることがより好ましく、4.5以上9.5以下であることが更に好ましい。
【0022】
本実施形態の炭化水素吸着剤に含まれるFAU型ゼオライトは、炭化水素の脱離開始温度が高くなりやすくなる観点から、BET比表面積は200m2/g以上1000m2/g以下であることが好ましく、300m2/g以上900m2/g以下であることがより好ましく、500m2/g以上870m2/g以下であることが更に好ましい。
【0023】
FAU構造は、酸素4員環及び酸素6員環からなるソーダライトケージ、並びに、二重酸素6員環(以下、「D6R」ともいう。)の構造ユニットからなり、これらの構造ユニットが三次元的に結合して形成された酸素12員環からなる細孔(酸素12員環細孔)を有するゼオライト構造である。これにより、FAU型ゼオライトは芳香族炭化水素などの嵩高い炭化水素であっても高い吸着性を示し、また、炭化水素の脱離開始温度が高くなる傾向がある。
【0024】
本実施形態においては、特定のゼオライト構造からなるゼオライト、更には特定のゼオライト構造のみからなるゼオライトを「~型ゼオライト」ともいい、FAU型ゼオライトは、FAU構造からなるゼオライトである。FAU型ゼオライトとして、ゼオライトX、ゼオライトLSX、ゼオライトY及びゼオライトUSYの群から選ばれる1以上が挙げられ、好ましくはゼオライトY及びゼオライトUSYの少なくともいずれかである。本実施形態の炭化水素吸着剤に含まれるFAU型ゼオライトは、上記のゼオライト構造のうち2以上を有する連晶体で構成されていてもよい。
【0025】
本実施形態の炭化水素吸着剤に含まれるFAU型ゼオライトは、平均結晶径が0.1μm以上であることが挙げられ、0.3μm以上であることが好ましい。還元雰囲気のみならず高温高湿の酸化雰囲気への暴露後における炭化水素吸着特性が高くなる傾向があるため、FAU型ゼオライトの平均結晶径は0.4μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることが更に好ましい。
【0026】
吸着剤担体への塗布性などの操作性を改善する観点から、FAU型ゼオライトの平均結晶径は2.5μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましく、1.0μm以下であることが更に好ましい。還元雰囲気と酸化雰囲気の何れの高温高湿雰囲気への暴露後においても高い炭化水素吸着特性を示すため、FAU型ゼオライトは、平均結晶径が0.4μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.6μm以上0.9μm以下であることが特に好ましい。
【0027】
本実施形態において、FAU型ゼオライトの平均結晶径は一次粒子の平均粒子径である。ここで、一次粒子とは、単結晶が集合して形成された多結晶体の粒子であり、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」ともいう。)で観察される独立した最小単位の粒子である。本開示のFAU型ゼオライトの一次粒子は略立方体形状および略立方体の双晶形状の少なくともいずれかの形状を有する。一次粒子の粒子径は、これら一次粒子の辺の長さを観察することで確認でき、平均結晶径は複数の当該一次粒子の粒子径の平均値である。平均結晶径の測定方法として、3,000倍以上20,000倍以下の倍率で観察された一次粒子80個以上150個以下を抽出し、当該一次粒子の粒子径を計測し、その平均値を平均結晶径とする方法が挙げられる。粒子径を計測する一次粒子の抽出にあたり、使用されるSEM観察像の数は1以上であればよい。
【0028】
(リン及び銅含有ゼオライト)
本実施形態の炭化水素吸着剤に含まれるFAU型ゼオライトは、リン及び銅を含有する。リン及び銅を含有するFAU型ゼオライト(以下、「リン及び銅含有ゼオライト」ともいう。)は、リン及び銅を含有しないFAU型ゼオライトと比較して、耐熱性が向上する。すなわち、本実施形態の炭化水素吸着剤に含まれるFAU型ゼオライトは、リンを含有することによって、高温高湿環境への暴露後であっても、ゼオライト構造が変化せずに維持される傾向がある。ゼオライト構造の変化については、例えば高温高湿環境への暴露前後でFAU型ゼオライトのXRDパターンを測定して比較し、結晶度維持率を算出することによって評価することができる。結晶度維持率は、以下の式により算出される。
【0029】
結晶度維持率(%)=I1/I0×100
I1:水熱耐久処理後のゼオライトのXRDパターンにおける回折角2θが15°以上24°以下の範囲の積分強度
I0:水熱耐久処理前のゼオライトのXRDパターンにおける回折角2θが15°以上24°以下の範囲の積分強度
結晶度維持率は、79%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。通常、水熱耐久処理によりゼオライトの結晶度は低下するため、結晶度維持率は100%以下となるが、これに限定されない。例えば、水熱耐久処理によってゼオライトの結晶成長が起こった結果、結晶度維持率が100%を超えることも発生しうるが、このような場合も本開示の実施形態に含まれる。
【0030】
ここで、積分強度は一般的な解析ソフト(例えば、SmartLab StudioII、リガク社製)を使用したXRDパターンの解析において、ピークトップの2θが特定され検出されるピーク面積である。XRDパターンの解析条件として、以下の条件が挙げられる。
【0031】
フィッティング条件 :自動、バックグラウンドを精密化
分散型擬Voigt関数(ピーク形状)
バックグラウンド除去方法:フィッティング方式
Kα2除去方法 :Kα1/Kα2比=0.497
平滑化方法 :B-Spline曲線
平滑化条件 :二次微分法、σカット値=3、χ閾値=1.5
本実施形態において、FAU型ゼオライトに含有されるリンは、例えば、リン、リン酸、その他のリン化合物、及びそれらのイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の状態を挙げることができるが、本実施形態のFAU型ゼオライトに含有されるリンの質量は、リン酸(H3PO4)として算出すればよい。
【0032】
本実施形態において、FAU型ゼオライトのX(すなわち、Al)に対するリンのモル比(以下、「P/Xモル比」ともいい、XがAlである場合「P/Alモル比」ともいう。)は0.001以上0.5以下であることが挙げられ、0.005以上0.4以下であることが好ましく、0.06以上0.38以下であることがより好ましい。これにより、水熱耐久処理後のFAU型ゼオライトの結晶度維持率が向上する。P/Xモル比がこの範囲外の値であると、水熱耐久処理後のFAU型ゼオライトの結晶度が著しく低下しやすくなる。
【0033】
本実施形態のリン及び銅含有FAU型ゼオライトは、炭化水素の保持力に優れる。銅を含有しないゼオライトを含む炭化水素吸着剤に吸着された殆どの炭化水素は、炭化水素吸着剤の温度上昇に伴って容易に放出される。ゼオライトが銅を含有することで炭化水素とゼオライトの相互作用がより強くなり、これを含む炭化水素吸着剤に吸着された炭化水素が炭化水素吸着剤から放出されにくくなるものと考えられる。特にFAU型ゼオライトにおいては、D6Rを構成するアルミニウムと銅とが特に強く相互作用する。これにより、銅が炭化水素吸着剤中、主としてゼオライト構造中に、分散して保持されることで、FAU型ゼオライトの炭化水素吸着特性が向上するものと考えられる。
【0034】
本実施形態において、リン及び銅含有FAU型ゼオライトに含有される銅の状態は、T原子以外の状態であればよく、二価の銅(Cu2+)であることが好ましく、分散性の高い二価の銅(以下、「分散銅」ともいう。)であることがより好ましい。分散銅としてCu2+イオン及びCuOクラスターの少なくともいずれかが挙げられ、Cu2+イオンであることが好ましい。
【0035】
炭化水素吸着剤の銅含有量は、0.5質量%以上4.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以上2.8質量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
本実施形態において、リン及び銅含有FAU型ゼオライトの銅含有量は、ゼオライトに含有される金属及び半金属を酸化物換算した質量に対する、銅の質量割合である。例えば、リン(P)、銅(Cu)及びアルカリ金属(M)を含有するゼオライト(アルミノシリケート)の銅含有量は以下の式から求めることができる。
【0037】
銅含有量(質量%)=W‘Cu/(WAl+WSi+WM+WCu)×100
上式において、W‘Cuは炭化水素吸着剤中の銅(Cu)の含有量である。WAl、WSi、WM及びWCuはそれぞれ、炭化水素吸着剤中のアルミニウム(Al)を酸化物(Al2O3)換算した質量、ケイ素(Si)を酸化物(SiO2)換算した質量、アルカリ金属(M)を酸化物(M2O)換算した質量、及び銅を酸化物(CuO)換算した質量である。
【0038】
本実施形態において、リン及び銅含有FAU型ゼオライトはアルカリ金属を含有してもよい。本実施形態において、リン及び銅含有FAU型ゼオライトが含有するアルカリ金属はカリウム(K)及びナトリウム(Na)の少なくともいずれかであることが挙げられ、特にナトリウムであることが挙げられる。
【0039】
本実施形態の炭化水素吸着剤は、上記以外の成分を含んでいてもよい。上記以外の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、バインダー等が挙げられる。
【0040】
(リン及び銅含有FAU型ゼオライトの製造方法)
次に、本実施形態の炭化水素吸着剤に含まれるリン及び銅含有FAU型ゼオライトの製造方法について説明する。本実施形態の炭化水素吸着剤に含まれるリン及び銅含有FAU型ゼオライトは、FAU型ゼオライトにリンを含有させるリン含有工程と、前記リン含有工程後のFAU型ゼオライトに銅を含有させる銅含有工程と、を有する炭化水素吸着剤の製造方法により得ることができる。
【0041】
(FAU型ゼオライトの製造方法)
本実施形態の供するFAU型ゼオライトは公知のFAU型ゼオライトを使用してよく、本実施形態に供するFAU型ゼオライトの製造方法は、特に限定されない。FAU型ゼオライトの製造方法として、例えば、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、及び、水を含む組成物(以下、「原料組成物」ともいう。)を水熱処理することで結晶化物を得る結晶化工程、を有する製造方法により得られたFAU型ゼオライトが挙げられる。
【0042】
シリカ源は、ケイ素を含有する塩及び化合物の少なくともいずれかであればよく、例えば、コロイダルシリカ、無定形シリカ、珪酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート及びアルミノシリケートゲルからなる群の少なくとも1種が挙げられ、これらのうち、コロイダルシリカ及び無定形シリカの少なくともいずれかが好ましい。
【0043】
アルミナ源は、アルミニウムを含有する塩及び化合物の少なくともいずれかであればよく、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミノシリケートゲル及び金属アルミニウムからなる群の少なくとも1種が挙げられ、これらのうち、水酸化アルミニウム及び硫酸アルミニウムの少なくともいずれかが好ましい。
【0044】
アルカリ源としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、アンモニウムの水酸化物、ハロゲン化物及び炭酸塩などの各種の塩からなる群の少なくとも1種が挙げられ、ナトリウム、カリウム、又はアンモニウムの水酸化物が好ましい。
【0045】
原料に使用されるアルミノシリケートのカチオンタイプは特に限定されない。好ましいカチオンタイプとして、ナトリウム型(Na+型)、プロトン型(H+型)及びアンモニウム型(NH4
+型)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、さらにはプロトン型であることが挙げられる。
【0046】
本実施形態の炭化水素吸着剤に含まれるFAU型ゼオライトの製造方法において、上記原料組成物が、さらに種結晶を含むことが好ましい。種結晶を用いることにより、結晶化時間が短くなる。
【0047】
種結晶は、LTL構造、LTA構造、MOR構造、MFI構造、*BEA構造及びFAU構造からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有するゼオライトが好ましい。
【0048】
種結晶のSiO2/Al2O3モル比は、2以上100以下であることが好ましく、3以上60以下であることがより好ましい。
【0049】
種結晶の含有量は、少ない方が好ましいが、反応速度や不純物の抑制効果等を考慮すると、原料組成物に含まれるシリカ成分に対して、0.1質量%以上60質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
原料組成物の好ましい組成として、以下の組成が例示できる。
【0051】
SiO2/Al2O3モル比 =2以上40以下
M/SiO2モル比 =0以上0.50以下
H2O/SiO2モル比 =3以上100以下
(結晶化工程)
結晶化工程では、上記の原料組成物を水熱処理することにより結晶化する。水熱耐久処理の条件としては特に限定されるものではないが、例えば、以下の条件を挙げることができる。
【0052】
温度 : 80℃以上200℃以下
時間 : 1時間以上10日間以下
圧力 : 自生圧
上記の水熱耐久処理によって原料組成物が結晶化し、FAU型ゼオライトが得られる。得られたFAU型ゼオライトは、任意の方法で回収、洗浄、乾燥、及び焼成の各工程に供してもよく、さらには、脱アルミニウム処理してSiO2/Al2O3比を任意の値としてもよい。
【0053】
(リン含有工程)
リン含有工程は、FAU型ゼオライトとリン源とを接触させるリン源接触工程と、リン源接触工程後のFAU型ゼオライトを焼成する焼成工程と、を有する。
【0054】
リン源は、ホスホニウムカチオンを含む化合物、さらにはホスホニウムカチオンの硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物及び水酸化物からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。ホスホニウムカチオンは、テトラエチルホスホニウムカチオン(以下、「TEP」ともいう。)及びテトラメチルホスホニウムカチオンの少なくとも1種であること、さらにはTEPであることが好ましい。特に好ましいリン源として、テトラエチルホスホニウム水酸化物(以下、「TEPOH」ともいう。)、テトラエチルホスホニウムブロミド(以下、「TEPBr」ともいう。)、テトラエチルホスホニウムクロライド(以下、「TEPCl」ともいう。)、及びテトラエチルホスホニウムヨージド(以下、「TEPI」ともいう。)からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。
【0055】
FAU型ゼオライトとリン源との接触方法は公知の方法を適用することができ、イオン交換法、含浸担持法、蒸発乾固法、沈殿担持法及び物理混合法の群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、イオン交換法及び含浸担持法の少なくともいずれかであることが好ましく、含浸担持方法であることがより好ましい。
【0056】
リン源接触工程後の焼成工程における焼成条件としては特に限定されるものではないが、例えば以下の条件を挙げることができる。
【0057】
焼成雰囲気 : 窒素雰囲気又は酸化雰囲気
焼成温度 : 400℃以上700℃以下
焼成時間 : 30分以上15時間以下
上記リン含有工程により、リンを含有するFAU型ゼオライトが得られる。
【0058】
(銅含有工程)
銅含有工程は、上記リン含有工程後のFAU型ゼオライト(リンを含有するFAU型ゼオライト)と銅源とを接触させる銅源接触工程と、銅源接触工程後のFAU型ゼオライトを焼成する焼成工程と、を有する。
【0059】
銅源接触工程において、銅源は銅(Cu)を含む化合物であり、銅の塩であることが好ましく、銅を含む硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、錯塩、酸化物及び複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、硝酸銅、硫酸銅及び酢酸銅からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがさらに好ましい。
【0060】
FAU型ゼオライトと銅源との接触方法は公知の方法を適用することができ、イオン交換法、含浸担持法、蒸発乾固法、沈殿担持法及び物理混合法からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、イオン交換法及び含浸担持法の少なくとも1種であることが好ましく、含浸担持法であることがより好ましい。
【0061】
FAU型ゼオライトと銅源との接触後、FAU型ゼオライトは任意の方法で洗浄及び乾燥してもよい。洗浄方法として十分量の水による洗浄が挙げられ、乾燥方法として空気中100℃~150℃で5時間~30時間処理することが挙げられる。
【0062】
銅源接触工程後の焼成工程における焼成条件としては、例えば以下の条件を挙げることができる。
【0063】
焼成雰囲気 : 酸化雰囲気、好ましくは空気雰囲気
焼成温度 : 400℃以上700℃以下
焼成時間 : 30分以上5時間以下
焼成工程は空気流通下で行うことが好ましく、流通させる空気は低含水率であることが好ましい。低含水率の空気中で焼成することで、銅とゼオライト構造の骨格を構成するアルミニウムとの相互作用がより強くなり、耐熱性が向上する傾向がある。流通させる空気の好ましい含水率としては0.7体積%以下、より好ましくは0.5体積%以下、さらに好ましくは0.3体積%以下である。含水率の下限は特に限定されず、0体積%以上であればよい。
【0064】
上記銅含有工程により、リン及び銅を含有するFAU型ゼオライトが得られる。
【0065】
(炭化水素吸着剤及びその製造方法)
本実施形態の炭化水素吸着剤は、上述の方法で得られたリン及び銅含有FAU型ゼオライトをそのまま本実施形態の炭化水素吸着剤として使用してもよい。また、本実施形態の炭化水素吸着剤は用途に応じた任意の形状であればよく、粉末及び成形体の少なくともいずれかが挙げられる。具体的な成形体の形状として、球状、略球状、楕円状、円板状、円柱状、多面体状、不定形状及び花弁状からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。
【0066】
炭化水素吸着剤を粉末として利用する場合、上記の炭化水素吸着剤を水やアルコール等の溶媒に混合してスラリーとし、当該スラリーを基材にコーティングした吸着部材とすることができる。
【0067】
本実施形態の炭化水素吸着剤を成形体とする場合、上記の炭化水素吸着剤を、必要によりバインダーと混合し、任意の方法で成形すればよい。好ましくは、結合剤は、例えばシリカ、アルミナ、カオリン、アタパルジャイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アロェン及びセピオライトからなる群の少なくとも1種が挙げられる。成形方法は、例えば、転動造粒成形、プレス成形、押し出し成形、射出成形、鋳込み成形及びシート成形からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。
【0068】
本実施形態の炭化水素吸着剤は、炭化水素の吸着方法に使用でき、炭化水素吸着剤が高温に暴露される環境下における炭化水素の吸着方法に使用することが好ましく、内燃機関の排ガスからの炭化水素の吸着方法に使用することがより好ましく、移動体の内燃機関の排ガスからの炭化水素の吸着方法に使用することがさらに好ましい。
【0069】
本実施形態の炭化水素吸着剤は、炭化水素含有流体と本実施形態の炭化水素吸着剤とを接触させる工程(以下、「接触工程」ともいう。)を有する方法により、炭化水素を吸着することができる。炭化水素含有流体としては、例えば、炭化水素含有気体又は炭化水素含有液体を挙げることができる。
【0070】
炭化水素含有気体は、炭化水素を含有する気体である。該炭化水素は脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の少なくともいずれかであればよく、炭素数6以上15以下の炭化水素であることが好ましく、芳香族炭化水素であることがより好ましく、ベンゼン、トルエン及びキシレンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることがさらに好ましい。
【0071】
炭化水素含有気体の炭化水素濃度は、メタン換算で0.001体積%以上5体積%以下であることが挙げられ、0.005体積%以上3体積%以下であることが好ましい。また、炭化水素含有気体は、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び水からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0072】
接触工程において、炭化水素吸着剤と炭化水素含有気体とを接触させる条件は任意である。接触条件として以下の条件を例示することができる。
【0073】
空間速度 : 100hr-1以上500000hr-1以下
接触吸着 : -30℃以上200℃以下
接触温度 : 室温以上200℃以下
【実施例0074】
以下、実施例及び比較例に基づいて本実施形態の炭化水素吸着剤を具体的に説明する。ただし、本実施形態の炭化水素吸着剤はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0075】
実施例1
TEPBr0.25gを水1.00gに溶解して得られたTEPBr水溶液を、FAU型ゼオライト(東ソー社製 HSZ-341NHA カチオンタイプ:プロトン型、SiO2/Al2O3モル比=7)4.40gに添加し、乳鉢にて混合することで、TEPBrをFAU型ゼオライトに含浸担持した。110℃で一晩乾燥させた後、窒素雰囲気下にて室温から600℃まで2時間で昇温、600℃で12時間保持して焼成を行うことで、リン含有FAU型ゼオライトを作製した。
【0076】
さらに、硝酸銅六水和物0.22gを水1.00gに溶解して得られた硝酸銅水溶液を、上記リン含有FAU型ゼオライト(リン担持FAU型ゼオライト)3.78gに添加し、乳鉢にて混合することで硝酸銅を該ゼオライトに含浸担持した。110℃で一晩乾燥させた後、空気雰囲気下にて室温から550℃まで2時間で昇温し、550℃で2時間保持して焼成を行い、リン及び銅を含有するFAU型ゼオライトを含む本実施形態の炭化水素吸着剤を作製した。
【0077】
実施例2
TEPBr0.49gを水1.00gに溶解して得られたTEPBr水溶液を使用してリン含有FAU型ゼオライトを作製したこと、及び、当該リン含有FAU型ゼオライトを3.73g、硝酸銅0.21gを水1.00gに溶解して得られた硝酸銅水溶液を使用したこと以外は実施例1と同様にして、リン及び銅を含有するFAU型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤を作製した。
【0078】
実施例3
TEPBr0.25gを水1.00gに溶解して得られたTEPBr水溶液を使用してリン含有FAU型ゼオライトを作製したこと、当該リン含有FAU型ゼオライトを4.39g、硝酸銅0.25gを水1.00gに溶解して得られた硝酸銅水溶液を使用したこと、及び、TEPBr水溶液とFAU型ゼオライトの混合後の焼成を空気雰囲気下で行ってリン含有FAU型ゼオライトを作製したこと以外は実施例1と同様にして、リン及び銅を含有するFAU型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤を作製した。
【0079】
実施例4
TEPBr0.49gを水1.00gに溶解して得られたTEPBr水溶液を使用してリン含有FAU型ゼオライトを作製したこと、及び、当該リン含有FAU型ゼオライトを3.73g、硝酸銅0.21gを水1.00gに溶解して得られた硝酸銅水溶液を使用したこと以外は実施例3と同様にして、リン及び銅を含有するFAU型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤を作製した。
【0080】
実施例5
TEPBr1.48gを水1.00gに溶解して得られたTEPBr水溶液を使用してリン含有FAU型ゼオライトを作製したこと、及び、当該リン含有FAU型ゼオライトを3.62g、硝酸銅0.21gを水1.00gに溶解して得られた硝酸銅水溶液を使用したこと以外は実施例3と同様にして、リン及び銅を含有するFAU型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤を作製した。
【0081】
実施例6
TEPBr0.24gを水1.00gに溶解して得られたTEPBr水溶液を使用してリン含有FAU型ゼオライトを作製したこと、及び、当該リン含有FAU型ゼオライトを4.39g、硝酸銅0.25gを水1.00gに溶解して得られた硝酸銅水溶液を使用したこと以外は実施例3と同様にして、リン及び銅を含有するFAU型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤を作製した。
【0082】
比較例1
硝酸銅0.29gを水1.94gに溶解して得られた硝酸銅水溶液を、FAU型ゼオライト(カチオンタイプ:プロトン型、SiO2/Al2O3モル比:7)5.00gに添加し、乳鉢にて混合した。110℃で一晩乾燥させた後、空気雰囲気下にて室温から550℃まで2時間で昇温、550℃で2時間保持して焼成を行い、銅含有FAU型ゼオライト(銅担持FAU型ゼオライト)を作製した。
【0083】
比較例2
TEPBr3.96gを水2.00gに溶解して得られたTEPBr水溶液を使用してリン含有FAU型ゼオライトを作製したこと、当該リン含有FAU型ゼオライトを1.55g、硝酸銅0.09gを水0.50gに溶解して得られた硝酸銅水溶液を使用したこと、及び、TEPBr水溶液とFAU型ゼオライトの混合後の焼成を空気雰囲気下で行ってリン含有FAU型ゼオライトを作製したこと以外は実施例1と同様にして、リン及び銅を含有するFAU型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤を作製した。
【0084】
(組成分析)
フッ酸と硝酸の混合水溶液に実施例及び比較例で得られた炭化水素吸着剤を溶解して試料溶液を調製した。一般的なICP装置(装置名:OPTIMA5300DV、PerkinElmer社製)を使用して、当該試料溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)で測定した。得られたSi、Al、Na、K、Cu及びPの測定値から、実施例及び比較例で得られた炭化水素吸着剤の銅含有量及びP/Alモル比を求めた。結果を表1に示す。
【0085】
(結晶構造の同定)
一般的なX線回折装置(装置名:UltimaIV Protectus、リガク社製)を使用し、実施例及び比較例で得られた炭化水素吸着剤のXRD測定をした。測定条件は以下のとおりである。
【0086】
加速電流・電圧 : 40mA・40kV
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : 連続スキャン
スキャン条件 : 40°/分
測定範囲 : 2θ=3°以上43°以下
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
検出器 : D/teX Ultra
Niフィルター使用
得られたXRDパターンと参照パターンとを比較し、試料の結晶構造を同定した。
【0087】
(BET比表面積の測定)
測定試料を350℃で2時間処理した。その後、通常の窒素吸着装置(装置名:BELSORP-mini、MicrotracBEL社製)を使用し、測定温度77Kにおける窒素吸着等温線を測定した。得られた窒素吸着等温線の相対圧力0.01以上0.15以下の範囲について、BET法を使用してBET比表面積を算出した。
【0088】
(炭化水素吸着剤測定試料の作製及び前処理)
実施例及び比較例で得られた炭化水素吸着剤を、各々加圧成形及び粉砕し、凝集径20メッシュ以上30メッシュ以下の不定形の成形体とし、得られた成形体をそれぞれ測定試料とした。各測定試料1gをそれぞれ常圧固定床流通式反応管に充填し、窒素流通下、500℃で1時間処理した後、50℃まで降温することで前処理とした。
【0089】
(水熱耐久処理)
前処理後の炭化水素吸着剤に対し、以下の条件で処理ガスを流通させることで炭化水素吸着剤を処理し、水熱耐久処理とした。
【0090】
処理ガス : 水 10体積%
窒素 残部
ガス流量 : 300mL/分
空間速度 : 6000hr-1
処理温度 : 900℃
処理時間 : 1時間
(結晶度維持率の算出)
炭化水素吸着剤の高温高湿環境下での耐久性を評価するため、水熱耐久処理前後の炭化水素吸着剤中のゼオライトの結晶構造をXRD測定によって同定し、以下の式によりゼオライトの結晶度維持率を算出した。算出結果を表1に示す。
【0091】
結晶度維持率(%)=I1/I0×100
I1:水熱耐久処理後のゼオライトのXRDパターンにおける回折角2θが15°以上24°以下の範囲の積分強度
I0:水熱耐久処理前のゼオライトのXRDパターンにおける回折角2θが15°以上24°以下の範囲の積分強度
ここで、積分強度は解析ソフト(製品名:SmartLab StudioII、リガク社製)を使用したXRDパターンの解析において、ピークトップの2θが特定され検出されるピーク面積である。XRDパターンの解析条件を以下に示す。
【0092】
フィッティング条件 :自動、バックグラウンドを精密化
分散型擬Voigt関数(ピーク形状)
バックグラウンド除去方法:フィッティング方式
Kα2除去方法 :Kα1/Kα2比=0.497
平滑化方法 :B-Spline曲線
平滑化条件 :二次微分法、σカット値=3、χ閾値=1.5
【0093】
【0094】
表1に示すように、P/Alモル比が0.65以上である比較例2は、水熱耐久処理後にアモルファス化しており、FAU型ゼオライトに由来する回折ピークが検出されず、結晶度維持率が大きく低下した。さらに、P/Alモル比が0.65以上であると、銅のみを含有するFAU型ゼオライトよりも結晶度維持率が低下した。
【0095】
実施例1乃至6のゼオライトの結晶度維持率は、比較例1及び2のゼオライトの結晶度維持率よりも高い値であった。この結果より、リン及び銅を含有するFAU型ゼオライトにおいて、P/Alモル比が一定の範囲内であることで、FAU型ゼオライトの水熱耐久処理後の結晶度維持率が向上することが分かった。
【0096】
(炭化水素吸着量の測定)
上記の水熱耐久処理を施した各炭化水素吸着剤に炭化水素含有ガスを流通させて炭化水素吸着処理を行い、吸着された炭化水素の量を測定した。炭化水素含有ガスの組成及び測定条件を以下に示す。
【0097】
炭化水素含有ガス :トルエン 3000体積ppmC(メタン換算濃度)
水 3体積%
窒素 残部
ガス流量 :200mL/分
測定温度 :50℃から600℃
昇温速度 :10℃/分
吸着量の測定は、水素イオン化検出器(FID)を使用し、炭化水素吸着剤を通過した後のガス中の炭化水素を連続的に定量分析した。常圧固定床流通式反応管の入口側の炭化水素含有ガスの炭化水素濃度(メタン換算濃度;以下、「入口濃度」とする。)と、常圧固定床流通式反応管の出口側の炭化水素含有ガスの炭化水素濃度(メタン換算濃度;以下、「出口濃度」とする。)を測定した。入口濃度の積分値をもって炭化水素吸着剤を通過した炭化水素量とし、当該炭化水素量から、出口濃度の積分値を差し引いた値を求め、炭化水素吸着量とした。各吸着剤における炭化水素吸着量を、リン成分の質量を除くゼオライト質量で除し、リン成分の質量を除くゼオライト質量当たりの炭化水素吸着量(μmolC/g)として、各吸着剤に含まれるゼオライト質量当たりの炭化水素吸着量を比較した。ゼオライトに含まれるリン成分の質量は、加えたTEPBrのリンがすべてH3PO4になったものとして算出した。
【0098】
図1及び
図2に、実施例及び比較例における、温度と、単位時間(秒)における各炭化水素吸着剤に含まれるリンを除くゼオライト質量あたりの炭化水素脱離量と、の関係を表す脱離量曲線を示す。
図1において、実線は比較例1、点線は実施例1、破線は実施例2、及び、一点鎖線は実施例3の結果を表す。
図2において、実線は比較例1、点線は実施例4、破線は実施例5、及び、一点鎖線は実施例6の結果を表す。ここで、負の脱離量は吸着を意味し、正の脱離量は脱離を意味する。
図1及び
図2より、炭化水素吸着処理時の昇温過程における炭化水素の吸着と脱離の挙動を見出すことができる。例えば、50℃より昇温開始直後においてはいずれの例も炭化水素を吸着し、昇温とともに吸着した炭化水素が脱離する。
(初期吸脱着量)
各炭化水素吸着剤について、50℃から炭化水素の脱離量が極大となる温度(以下、「脱離量極大温度」ともいう。)までのリンを除くゼオライト質量あたりの炭化水素の吸着量と脱離量それぞれの絶対値の合計である初期吸脱着量を求め、水熱耐久処理後に吸着及び脱離可能な炭化水素の量を評価した。
【0099】
すなわち、初期吸脱着量とは、
図1及び
図2における各例の炭化水素吸着量を表す面積(各例の脱離量曲線と、T=50の直線と、脱離量=0の直線とで囲まれた面積)と、各例の炭化水素脱離量を表す面積(脱離量曲線と、T=極大温度の直線と、脱離量=0の直線とで囲まれた面積)と、の合計を求め、上記の昇温速度で除したものである。各実施例及び比較例の初期吸脱着量を表2に示す。
【0100】
【0101】
実施例1乃至6のリン及び銅を含有するFAU型ゼオライトは、比較例1の銅のみを含有するFAU型ゼオライトと比較して、高い初期吸脱着量を示すことが確認できた。