IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社前川製作所の特許一覧

<>
  • 特開-切り花の保存方法 図1
  • 特開-切り花の保存方法 図2
  • 特開-切り花の保存方法 図3
  • 特開-切り花の保存方法 図4
  • 特開-切り花の保存方法 図5
  • 特開-切り花の保存方法 図6
  • 特開-切り花の保存方法 図7
  • 特開-切り花の保存方法 図8
  • 特開-切り花の保存方法 図9
  • 特開-切り花の保存方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169901
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】切り花の保存方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 5/06 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
A01G5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075609
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】比留間 直也
(57)【要約】
【課題】切り花の鮮度を保持する保存方法を提供する。
【解決手段】切り花を相対湿度85%以上の高湿度冷却空気の通風下で冷却し、及びその後、代謝停止することを含む、切り花の保存方法。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切り花を相対湿度85%以上の高湿度冷却空気の通風下で冷却し、及びその後、代謝停止することを含む、切り花の保存方法。
【請求項2】
前記冷却空気の温度が、0~10℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷却を、切り花の品質低下に及ぼす温度の影響を表す危険度に応じて設定した時間行う工程を含み、但し、該危険度と該時間が、温度を30℃から20℃まで冷却する時間を30分以内とし、温度を20℃から10℃まで冷却する時間を30分以内とし、及び/又は、温度を10℃から0℃まで冷却する時間を200分以内とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記代謝停止が、所定の冷却温度に到達してから1時間~120時間、前記温度と湿度を保持して代謝を停止させる工程を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記冷却を、採花後60分以内又は30分以内、採花と加工及び梱包との間、及び、加工及び梱包と輸送との間行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記冷却をさらに、輸送、花卉市場、及び/又は、小売店で行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記切り花を穴空き容器に梱包する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記高湿度冷却空気が、高湿度空気冷却装置によって形成される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高湿度冷却空気を通風することを含む切り花の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切り花の鮮度を保つための方法として、例えば、切り花を冷蔵庫内でその切り口を冷却水に漬けること、切り花の切り口を保水材で覆うことなどの方法が、通常、行われている(特許文献1)。また、微生物による汚染を防止するために、二酸化イオウ発生装置を使用して切り花を保存する方法(特許文献2)、塩化カリウム、次亜塩素酸及び界面活性剤を含む電気化学的に処理したpH4.5~6.0の水溶液中で切り花を保存する方法(特許文献3)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-030569号公報
【特許文献2】米国特許第9974309号明細書
【特許文献3】米国特許第9451762号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
切り花は、呼吸速度が速く自己発熱(呼吸熱)が多く、高温、乾燥及びエチレンに弱く、萎れやすい、葉が黄ばみやすい、カビなどの微生物によって汚染されるなどのように、その鮮度を保持することが極めて難しく、小売店での花のロスが課題となっている。また、わが国では、バラ、カーネーションなどの切り花は、ケニア、コロンビア、エクアドル、アフリカ、オーストラリア、欧州など海外からの輸入が増加している、或いは我国から海外へ輸出しているが、空輸だけでなく、海上輸送でその鮮度を如何にして保持するかが課題になっている。
【0005】
これらの課題を解決するための決定的な保存方法は見いだされていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、切り花を高湿度冷却空気の通風下で冷却することによって、普通冷蔵庫での保存と比べて、格別に切り花の鮮度を保持できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
したがって、本発明は、以下の特徴を包含する。
[1]切り花を相対湿度85%以上の高湿度冷却空気の通風下で冷却し、及びその後、代謝停止することを含む、切り花の保存方法。
[2]前記冷却空気の温度が、0~10℃である、[1]に記載の方法。
[3]前記冷却を、切り花の品質低下に及ぼす温度の影響を表す危険度に応じて設定した時間行う工程を含み、但し、該危険度と該時間が、温度を30℃から20℃まで冷却する時間を30分以内とし、温度を20℃から10℃まで冷却する時間を30分以内とし、及び/又は、温度を10℃から0℃まで冷却する時間を200分以内とする、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記代謝停止が、所定の冷却温度に到達してから1時間~120時間、前記温度と湿度を保持して代謝を停止させる工程を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記冷却を、採花後60分以内又は30分以内、採花と加工及び梱包との間、及び、加工及び梱包と輸送との間行う、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記冷却をさらに、輸送、花卉市場、及び/又は、小売店で行う、[5]に記載の方法。
[7]前記切り花を穴空き容器に梱包する、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記高湿度冷却空気が、高湿度空気冷却装置によって形成される、[1]~[7]のいずれかに記載の方法
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法は、長期間にわたり切り花の鮮度を保持することができるため、切り花の海上輸送を可能にし、また、小売店での花の損失量を減少させるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】この図は、相対湿度90%以上の高湿度冷却空気の通風による冷却(A;本発明)と、普通冷蔵庫での冷風による冷却(B;対照区)による、切り花のない庫内の温度と湿度を測定した結果を示すグラフである。
図2】この図は、図1に示した本発明と対照区での切り花(バラとカーネーション、合計30本)を梱包した穴あき段ボール箱内部の冷却速度を示すグラフである。段ボール箱の一方の側面に3つの丸い穴、及び反対側の側面に1つの丸い穴を開け、前記3つの穴のそれぞれにダクトを差し込み、該ダクトを通して段ボール箱内部に強制通風するようにし、本発明では相対湿度90%以上の高湿度冷却空気、対照区では単なる冷却空気をそれぞれ通風した。
図3】この図は、図2に示したように、本発明と対照区での切り花(バラとカーネーション、合計30本)を穴あき段ボールに入れ、水に漬けないでダクトで段ボール内に冷気を送り込み48時間にわたり冷却したときの切り花の重量歩留り(%)を示すグラフである。
図4】この図は、図2に示した本発明と対照区での切り花(バラとカーネーション、合計30本)を通気性のあるプラスチックコンテナに入れて48時間にわたり冷却したときの切り花の重量歩留り(%)を示すグラフである。
図5】この図は、穴あき段ボール箱に入れた切り花(バラとカーネーション)を10℃以下に冷却後、約40℃まで昇温したときの、温度とエチレン発生量の相関を示すグラフである。
図6】この図は、切り花(バラとカーネーション)のコンテナ輸送の状態を想定した、相対湿度90%以上の高湿度冷却空気の通風による冷却(本発明)と、普通冷蔵庫での冷風による冷却(従来法)による冷却速度を比較したグラフである。(注)エチレン計測も同時に行うためのエチレンセンサーに結露防止用ヒーターが付いているため、温度が通常より約4℃高く計測された。
図7】この図は、図6と同じ試験において、切り花(バラとカーネーション)のコンテナ輸送の状態を想定した、相対湿度90%以上の高湿度冷却空気の通風による冷却(本発明)と、普通冷蔵庫での冷風による冷却(従来法)によるエチレン発生量を比較したグラフである。
図8】この図は、切り花(バラとカーネーション)のコンテナ輸送後に分荷し店頭販売した状態を想定した、相対湿度90%以上の高湿度冷却空気の通風による冷却(本発明)と、普通冷蔵庫での冷風による冷却(従来法)による冷却開始から2週間後の切り花の重量歩留り(%)を比較したグラフである。
図9】この図は、切り花(バラとカーネーション)の店頭販売した状態を想定した、相対湿度90%以上の高湿度冷却空気の通風による冷却(B;本発明)と、普通冷蔵庫での冷風による冷却(A;従来法)した切り花を、水揚げし常温で10日間保存したときの切り花の状態を観察した結果を示す。
図10】この図は、高湿度冷却空気の通風下で切り花を冷却する庫内(SF)の外観を示す。1は、冷蔵庫を示す。2は、冷凍機を示す。3は、空気の吹き出しを示す。4は、ファンを示す。5は、散水式冷却コイルを示す。6は、空気の吸い込みを示す。7は、水タンクであり、水はポンプ(8)で汲み上げて散水(5)される。9は、切り花を入れた穴あき容器を示す。10は、湿度調整部を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明をさらに詳細に説明する。
1.切り花の保存の問題
切り花は、青果物と比べて相当に高温や乾燥に弱いという特徴がある。また、エチレンを発生して老化(熟成や開花など)が促進されやすい。我国では、バラ、カーネーションなどの切り花は輸入が大半を占め、例えばコロンビアやケニアなど赤道付近の国から空輸で輸入されている。航空機による空輸は、輸送時間は短いが、温度管理設備が無く品質が下がるという問題がある。
【0011】
一方、リーファーコンテナを使った海上輸送は空輸と比べて温度が一定で輸送コストが1/5程度に抑えられるが、時間がかかる(1週間~1か月)し、普通冷蔵のため冷却能力が低い、1箱に100本以上を梱包することにより40℃近い呼吸熱が発生し切り花の老化が促進される、輸送中に徐々に乾燥が進む、カビが発生するなどの理由のために、これに見合った輸送プログラムが十分確立されていない。このような理由のために、国内においても切り花は、採花から、梱包、輸送、分荷、市場、そして小売りまでの間、基本的にコールドチェーン(低温物流)になっているが、品質にばらつきがある。
【0012】
2.本発明の方法
本発明は、切り花を相対湿度85%以上、好ましくは90%以上の高湿度冷却空気の通風下で冷却し、その後、代謝停止することを含む、切り花の保存方法を提供する。
【0013】
切り花は、採花後でさえ呼吸を行い個体維持のためのエネルギーを得ている。このため、段ボール箱などの容器内の切り花は、外から冷風を当てても十分に冷えないし、また上記セクション1.に記載した理由のために、採花から小売店までの間に鮮度が低下しやすい。
【0014】
本明細書中で使用する切り花は、特に制限はなく、輸入される、輸出される、市場に出回るすべての花、並びに、国内における出荷や開花調整時のすべての花、などを包含する。切り花の例は、カーネーション、キク、バラ、ユリ、トルコキキョウ、スイートピー、リンドウ、チューリップ、ラン、アストランティア、アスチルベ、カスミソウ、ラナンキュラス、デルフィニウム、グロリオサ、デンファレ、モカラなどである。
【0015】
本発明の方法は、切り花の呼吸を抑制し、乾燥を防ぎ、及びエチレンの発生を抑制することができるため、従来の普通冷蔵庫による空冷や真空冷却などの方式と異なる。その特徴の一つが「相対湿度85%以上の高湿度冷却空気」の通風であり、このような空気の通風による切り花の冷却を、採花から小売店までの間、例えば、採花直後(例えば、採花から30~60分以内、好ましくは30分以内)、採花と加工及び梱包との間、及び、加工及び梱包と輸送との間行う、場合により、さらに、輸送、花卉市場、及び/又は、小売店で行うことによって、切り花の鮮度を保持することができる。
【0016】
本発明の方法によれば、高湿度冷却空気の通風下で行うため、湿式輸送のような切り花の切り口を水に活けた状態での輸送と異なり、水に活ける必要がないという利点がある。また、高湿度冷却空気の通風下で行うため、保管中に水揚げを別途しなくてもよく、本発明は、産地冷蔵庫、集荷場の出荷調整庫や小売店での保管に利用することで、切り花の鮮度を好適に保持することができる。
【0017】
本明細書中で使用する「相対湿度85%以上の高湿度冷却空気」なる用語は、冷蔵庫内で85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の飽和に近い、かつ、冷却した空気(すなわち、「高湿度冷却空気」)を通風し、好ましくは循環することを意味し、これによって、切り花への結露を防ぎながら蒸散を防ぎ(又は、除湿もしくは乾燥させないで)、切り花の呼吸を抑制し、かつエチレンの発生を抑制する。
【0018】
冷却空気の温度は、好ましくは0~10℃、例えば1~8℃、2~6℃、0~5℃、又は1~4℃である。また、切り花は採花直後から段ボール箱に例えば100本以上詰めるときには、段ボール箱内部の温度が呼吸熱のために40℃近くなることもあることから、切り花の箱を搭載した庫内の温度を迅速に下げる必要がある。このとき、段ボール箱の中の温度を約10~5℃まで下げるのに、例えば約60分以内、好ましくは約30分以内とすることが好ましい。0℃より低い温度では花の凍結が起こるため花の組織が破壊されるし、一方、10℃より高い温度では呼吸速度が高くなる、また温度の上昇や湿度の低下によりエチレン発生量が増加するなどのため、望ましくない。
【0019】
本明細書中「代謝停止」又は「代謝を停止させる」という用語は、相対湿度85%以上の高湿度冷却空気の通風により、出荷前に冷却によって切り花の生体の代謝を停止又は停止に近い状態まで下げて一定時間、所定の冷却温度(例えば、0~10℃)及び湿度(相対湿度85%以上)に維持することを意味し、完全に代謝を停止することのみを意味しない。代謝とは生命活動に必要な呼吸等を示し、切り花の種類によって異なる。特に呼吸は温度と高い相関性があり、温度を下げると呼吸速度も遅くなる。しかし所定の温度まで冷却したとしても、切り花自体の温度(「品温」という)が所定の温度になる時間と実際に呼吸速度が遅くなる所定値まで低下する時間にはタイムラグがあるため、生体の代謝を停止又は停止に近い状態まで下げてから次の工程(例えば、保管、輸送など)に移すことが好ましい。そうすることによって、万一保管や輸送時に切り花の品温が上がったとしても品質に対する影響を少なくすることができる。
【0020】
一般に、切り花は、収穫後も生命活動を維持するために、体内の糖や有機酸を有酸素的に分解して生命活動に必要なエネルギーを作るために呼吸反応をしている。切り花の品質と呼吸速度と温度には密接な関係がある。呼吸速度を対数軸で示すと温度と呼吸速度の間には直線関係が成り立つ。これはGoreが提唱する式Q=a×10bTで示される。Q;呼吸速度、T;温度(℃)、aとbは定数で切り花の種類によって異なる。また温度が10℃変化したときの呼吸速度の比を呼吸の温度係数Q10と呼び、例えば30℃の呼吸速度が20℃の呼吸速度の2倍であるとQ10は2となる(椎名武夫,野菜情報,2016年9月,農畜産業振興機構調査情報部)。したがって、冷却することによって呼吸速度は遅くなるとともに、乾燥防止と冷却によりエチレンの発生量も抑制できるので、品質低下を防ぐことが可能になる。上記の代謝停止は、呼吸反応を実質的に停止又は顕著に抑制することである。ここで、呼吸反応は、ブドウ糖と酸素を基質にして水と二酸化炭素が生成する反応であり、1モルのブドウ糖から686kcalのエネルギーが発生する。
【0021】
本発明の方法のさらなる特徴は、収穫から冷却に入るまでの工程、冷却起点から所定温度に至るまでの冷却の工程、及び、切り花の代謝を停止させる工程の最適化である。
【0022】
収穫から冷却に入るまでの工程では、切り花の収穫から30分~60分以内に上記高湿度冷却空気の通風によって冷却に入ることが好ましい。特に呼吸速度が速い切り花は、収穫から冷却に入るまでの工程が非常に重要であり収穫から30分以内に冷却することが好ましい。収穫から冷却までの時間が30分を超える時間が長いほど、切り花の品質がより低下し易い。このため、次の工程で、切り花の呼吸速度を品質低下の危険の少ない温度域に所定時間で素早く下げる必要がある。この工程では、収穫後の冷却で通過する温度域を温度が10℃変化すると呼吸速度が2倍になるQ102.0を基準に危険度に係数を割り当てる。本明細書で使用する「危険度」は、切り花の品質低下に及ぼす温度の影響を表す。
【0023】
10℃毎に4つの区分に分け、それぞれ危険度1~4で示す。
危険度4(係数8):雰囲気温度30℃以上40℃未満
危険度3(係数4):雰囲気温度20℃以上30℃未満
危険度2(係数2):雰囲気温度10℃以上20℃未満
危険度1(係数1):雰囲気温度0℃以上10℃未満
ここで、「雰囲気温度」は、切り花周辺の温度を指す。
【0024】
各危険度への放置時間と係数の積で切り花の品質を数値化することができる。危険度1~4の温度域はそれぞれの区分で以下に示す時間で通過することが好ましい。
【0025】
冷却起点から所定の温度に至るまでの冷却の工程は、温度による切り花の品質低下の危険度に応じて設定した時間、上記冷却を行う工程を含み、但し、該危険度と該時間が、危険度4から危険度3への移行、つまり温度を30℃から20℃まで冷却する時間を30分以内とし、危険度3から危険度2への移行、つまり温度を20℃から10℃まで冷却する時間を30分以内とし、及び/又は、危険度2から危険度1への移行、つまり温度を10℃から0℃まで冷却する時間を200分以内とする。
【0026】
また、収穫から冷却までの時間が短ければ影響は小さいが、例えば10分以内など、極端に短い時間である必要はない。
【0027】
例えば同じ時間、30℃に放置された切り花(係数8)は、例えば10℃に放置された切り花(係数2)より品質低下が4倍早い計算になる。品質低下は不可逆的であり、高い温度に長い時間放置された後、いかに早く冷却しても意味がないことを示している。
【0028】
切り花の代謝を停止させる工程では、所定の冷却温度(例えば0~10℃の間の設定温度)に到達してから一定時間、好ましくは1時間~120時間、又はそれ以上の時間、温度と湿度を保持して切り花の代謝を停止させる、又は停止に近い状態にする(図1)。
【0029】
呼吸速度が速い切り花は所定の冷却温度に到達しても直ちに代謝が停止できないため、所定の冷却温度に到達してから一定時間、所定の温度と湿度を保持して切り花の代謝を停止させる工程が必要になる。もしこの工程を設けず直ちに温度を上げると、出荷先で切り花の品質又は棚持ちが低下する。
【0030】
高湿度冷却空気を形成する装置は、高湿度空気冷却装置、例えば図10に示す装置である。加湿器を別途必要とせず、冷蔵庫内の相対湿度を85%以上、好ましくは90%以上に維持しながら切り花の乾燥や結露を防ぐことができる。乾燥について、本発明の方法では例えば2~5%以下の減損とすることができる。一方、通常の冷却法である普通冷蔵では重量で約20~30%減損することがある。このことは、海外からの例えばリーファーコンテナによる輸送では、輸送期間が長いため、普通冷蔵の影響は大きく、輸送中に徐々に乾燥が進みやすいが、本発明を用いた場合、乾燥を抑えて輸送できる。
【0031】
高湿度冷却空気を作る高湿度空気冷却装置は、例えば図10に示されるように、具体的には、水タンク(7)からポンプ(8)によって汲み上げられた水を散水する散水式冷却コイル(5)を、庫外に設置された冷凍機(2)を用いて所定温度に冷却し、水タンク(5)の上部から吸い込まれた空気(6)を散水式冷却コイル(5)で冷却され及び相対湿度を維持しながら湿度調整部(10)で水滴を除去し、上部から、ファン(4)で高湿度冷却空気を庫内に吹き出し(3)、庫内に積載された穴あき容器(9)内の切り花を高湿度冷却空気の通風(例えば容器内の風速は、好ましくは約1~2m/秒である。)によって冷却することができる。このような装置によって、庫内の温度と湿度を実質的に所定値に安定に保持することが可能になり、結露の発生の原因となる加湿器を使用しないため、切り花を除湿することなく(すなわち、乾燥させることなく)、切り花を所定温度に冷却することができる。また、このような装置は、従来の冷却装置(場合により、加湿器との組み合わせ)を用いるときに生じるクーラーへの霜付き、デフロスト、加湿不足、過飽和による結露やカビの発生などの問題を引き起こさない。湿度調整部として例えば、デミスターが挙げられ、塩化ビニル等の樹脂を不織布状に編み込んだフィルターや、細い金属線(例えばステンレス線)を編んで作った網を2枚1組として交互に重ね合わせ、90%以上の空間率を有するフィルターであり、例えばワイヤーメッシュデミスターが市販されている。
【0032】
或いは、高湿度冷却空気は、上記装置の方法と異なり、例えば、吸い込まれた空気に直接、外部で冷却した水を散水することによって該空気を冷却かつ高湿度にすることができる装置によって作製されてもよい。
【0033】
切り花は、穴あき段ボール箱、プラコンテナなどの、穴あき容器(もしくは通気性の良い容器)の中に所定個数配置される。穴あき容器の中を、冷却空気が通り抜け可能なように穴が所定個数配置される。穴について、容器内の切り花に損傷が生じない、及び、容器内部を冷却空気が通り抜け可能である限り、穴の大きさ、穴の形状、穴の数、及び穴の位置などを任意とすることができる。このとき、容器内に高湿度冷却空気が入り込める空間を有するように切り花を配置することが好ましい。空気は、庫内を循環し、各容器内部で切り花を萎れさせることなく冷却することができる。また、本発明を採花した切り花をそのままプラコンテナ等に入れて、0~10℃の高湿度冷却空気により冷却することができる。この場合、水揚げをしないでもでき、切り花を萎れさせることなく保管できる。
【0034】
本発明で使用する高湿度空気冷却装置は、温度及び湿度を一定に保持することが可能であり(図1)、約30分以内に10℃以下の温度に下げることが可能であり(図2図6)、切り花の重量歩留りを例えば約90~95%もしくはそれ以上、好ましくは95%以上とする(すなわち、乾燥を防ぐ)ことが可能である(図3図4図8)。エチレンは乾燥のダメージとも相関があり、乾燥すると発生量が増える。また温度との相関もあり、温度が高いほど発生量が増える。この結果、冷却および保管中に乾燥した切り花は、低温の間は変化が少なく、店舗等で常温に移した時点で急速にエチレンが発生して傷む結果となる。一方、乾燥を抑えて冷却、保管した切り花は常温に移してもエチレンの発生量を抑制する(すなわち、老化を抑制する)ことが可能である(図7、後述の実施例3)。このような特性のために、実施例2(後述)で証明されるように、本発明の方法により2週間保管した後、水揚げした切り花の状態は常温で10日目であっても、蕾のほとんどが開花し、葉や花はピンとした状態を維持することができる(図9B)。これに対し、従来法による普通冷蔵庫での冷風による冷却では、花が開かない、首が垂れるなどの状態となり、本発明の方法による結果と顕著な差が認められた(図9A)。
【実施例0035】
下記の実施例を参照しながら本発明をさらに具体的に説明する。
【0036】
[実施例1] 切り花の冷却試験と結果
<冷却方法>
小売店から購入したバラとカーネーション(合計30本)を容器のサイズに整形し、水揚げ後に、一本ずつ重量を測定し、温度センサーを内部に取り付けた穴あき段ボール箱(280W×440D×130H(単位mm))に箱詰めし、25℃に昇温した後、相対湿度90%以上のSF冷蔵庫内の高湿度冷却空気(本発明、温度2.5℃)を段ボール箱の穴を通して内部に通風し冷却を開始した。対照(従来法)として、普通冷蔵庫内での冷却を行った。
【0037】
穴あき段ボール箱は、一方の側面に3つの穴(直径35mm)を有し、この穴にダクトを接続し、床面のスリットに流れる冷気がダクトを介して段ボール箱内部に流れるようにした。また、反対側の側面には、同じ大きさの穴を1つ開け、この穴から冷気が排出されるようにした。段ボール箱容器内の風速は約1~2m/秒であった。
【0038】
<冷蔵庫内の温度と湿度>
SF冷蔵庫(本発明、「SF」)と普通冷蔵庫(「対照区」)の各庫内の湿度(上)と温度(下)を測定した結果を図1A(SF)と図1B(対照区)に示した。
【0039】
およそ2日間の試験で、SFでは、湿度と温度がほぼ一定しているのに対し、対照区では、湿度と温度のいずれも変動が認められた。
【0040】
<穴あき段ボール箱容器内の切り花の冷却速度及び重量歩留り>
穴あき段ボール箱容器内のSFと対照区の冷却速度を図2に、また重量歩留り(%)を図3に示した。
【0041】
図2から、対照区(約30分)がSF(約50分)より速く一定の温度に到達した。
【0042】
図3から、48時間後、対照区の重量歩留りは約79%であるのに対し、SFでは約96%であり、SFでの切り花からの水分蒸散が顕著に抑制された。
【0043】
上記の<冷却方法>において、水揚げをしないで、切り花を水槽に漬けて、SFと対照区の冷蔵庫内で冷却を行ったときの各切り花の重量歩留り(%)を図4に示した。48時間後、対照区の重量歩留りは約72%であるのに対し、SFでは約97%であり、明らかに、SFは、切り花の重量歩留りが高いことが判った。
【0044】
<温度とエチレン発生量の関係>
小売店から入荷当日の切り花(バラとカーネーション)を購入し、穴あき段ボール箱に入れて梱包し、約8℃に冷却した。穴あき段ボール箱内部にエチレンセンサーを入れてエチレン発生量を測定した。穴あき段ボール箱を恒温機の中に入れ、約170分かけて徐々に温度を約42℃まで上昇させ、その後、恒温機の電源を切った。
【0045】
結果を図5に示した。明らかに、温度とエチレン発生量には相関があり、温度が高いほどエチレン発生量が多かった。この結果から、切り花の冷却温度を10℃以下に下げることによってエチレン発生量を顕著に抑制することが可能である。
【0046】
また、入荷後7日の見切り品を購入し、30℃に昇温し、同温度で約60分間、エチレン発生量を測定したとき、花が古くなるほどエチレン発生量が増加した。
【0047】
[実施例2] 切り花のコンテナ輸送を想定した冷却試験と結果
<冷却方法>
小売店から購入したバラとカーネーション(合計30本)を容器のサイズに整形し、水揚げ後に、一本ずつ重量を測定し、温度センサーとエチレンセンサー(及び、結露を防ぐためのヒーター)を内部に取り付けた穴あき段ボール箱(280W×440D×130H(単位mm))に箱詰めし、25℃に昇温した後、相対湿度90%以上のSF冷蔵庫内の高湿度冷却空気(本発明、温度2.5℃)を段ボール箱の穴を通して内部に通風し冷却を開始し2週間保管した。対照(従来法)として、リーファーコンテナを想定し、専用の段ボール箱を使用した以外は同様に箱詰め、昇温し、普通冷蔵庫内での冷風による冷却を2週間行った。
【0048】
穴あき段ボール箱は、本発明及び対照のいずれにおいても、一方の側面に3つの穴(直径35mm)を有し、この穴にダクトを接続し、床面のスリットに流れる冷気がダクトを介して段ボール箱内部に流れるようにした。また、反対側の側面には、同じ大きさの穴を1つ開け、この穴から冷気が排出されるようにした。段ボール箱容器内の風速は約1~2m/秒であった。
【0049】
冷蔵保管後、切り花の重量を測定し、その後、分荷し店頭販売した状態を想定し、水揚げして常温で10日間保管し、花の状態を観察した。また、本発明と従来法での冷却速度、並びにエチレン発生量を測定した。
【0050】
<結果>
冷却開始から6時間にわたる本発明と従来法での冷却速度の測定結果を図6に、エチレン発生量を図7にそれぞれ示した。
【0051】
本発明では、約20分で10℃以下、約60分で約5℃となり、それ以後、5~10℃の間の温度にほぼ一定となったのに対し、従来法では、6時間かけてほぼ一定の温度に到達した。なお、この実験では結露防止のためにヒーターを使用したことによって測定温度が約4℃高くなった。
【0052】
また、エチレン発生量については、本発明では、エチレン発生量が約30分で急激に減少し、その後の保管で1ppm以下、例えば約0.6~0.8ppm付近に落ち着くのに対し、従来法では、エチレン発生量が本発明と同レベルになるのに240時間以上かかった。すなわち、本発明では、従来法に比べてエチレン発生量が有意に低い結果となった。
【0053】
さらに、切り花を冷却開始から2週間後の切り花の重量は、冷却開始時の重量を100%としたとき、本発明では約89%となり約11%の水分が減少したのに対し、従来法では約78%となり約22%の水分が減少した(図8)。この結果から、本発明は、従来法に比べて普通冷蔵保管のときの水分減少量が約2分の一に抑制された。
【0054】
全ての花を切り口から2cmの部分を剪定ばさみで斜めに切り戻し、水揚げし、0日目から10日目まで花の外観を従来法(図9A)及び本発明(図9B)について比較した。図9に示されるように、従来法では、花が開かない、首が垂れるなどの症状が見られたのに対し、本発明では、水揚げ後も順調に開花し、0日目の花、葉、茎の状態をほぼ維持した。
【0055】
[実施例3] 切り花の乾燥とエチレン発生量の関係
<実験>
小売店からバラとトルコキキョウ(いずれも切り花)を入手し、無作為に対照(Cont.)区とSF区に振り分けた。次の手順で両区の重量計測とエチレン量の計測を行った。
(a)初期値の重量計測を行った。
(b)Cont.区(温度1℃/湿度80%)とSF区(温度1℃/湿度90%)の2条件で低温保管し、異なる乾燥状態の切り花を作成した。保管期間は、バラについて7日間、トルコキキョウについて5日間とした。
(c)保管後の重量計測を行った。
(d)低湿度と高湿度の材料は別々のフィルム容器で隔離し、次の条件にて常温保管を行い、エチレンを計測した。条件は、常温保管(エチレン計測)、温度25℃、保管期間はバラ24時間、トルコキキョウ36時間とした。
【0056】
<結果>
結果を、低温保管中の重量歩留まりについて表1に、常温に戻した後のエチレン発生量について表2にそれぞれ示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
上記の表1及び表2の結果から、切り花は低温保管中に乾燥する程度が高いほど、常温に戻したときにエチレン発生量が増加する傾向にあることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明により、切り花の鮮度を維持したまま保存することができるため、切り花の海上輸送が可能になる、小売店での花の損失量が減少するなど、産業上有用である。
【符号の説明】
【0061】
1 冷蔵庫
2 冷凍機
3 空気の吹き出し
4 ファン
5 散水式冷却コイル
6 空気の吸い込み
7 水タンク
8 ポンプ
9 穴あき容器
10 湿度調整部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10