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特開2022-170046コアシェル型量子ドット及びコアシェル型量子ドットの製造方法
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  • 特開-コアシェル型量子ドット及びコアシェル型量子ドットの製造方法 図1
  • 特開-コアシェル型量子ドット及びコアシェル型量子ドットの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170046
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】コアシェル型量子ドット及びコアシェル型量子ドットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20221102BHJP
   C09K 11/56 20060101ALI20221102BHJP
   C09K 11/88 20060101ALI20221102BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20221102BHJP
   C01B 19/04 20060101ALI20221102BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20221102BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20221102BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20221102BHJP
【FI】
C09K11/08 G ZNM
C09K11/08 A
C09K11/56
C09K11/88
G02B5/20
C01B19/04 A
B82Y20/00
B82Y40/00
B82Y30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075918
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸司
(72)【発明者】
【氏名】鳶島 一也
(72)【発明者】
【氏名】野島 義弘
【テーマコード(参考)】
2H148
4H001
【Fターム(参考)】
2H148AA07
2H148AA09
4H001CC07
4H001CC09
4H001XA16
4H001XA21
4H001XA30
4H001XA52
4H001XB20
4H001XB40
(57)【要約】
【課題】
量子収率、蛍光発光効率が向上し、発光の半値幅の狭いコアシェル型量子ドット及び該コアシェル型量子ドットの製造方法を提供する。
【解決手段】
コアシェル型量子ドットであって、Znと、S、Se又はTeの少なくとも一種とを含む第II-VI族元素からなる半導体ナノ結晶コアと、前記半導体ナノ結晶コアを被覆し、第II-VI族元素からなる単一層又は複数層のシェル層を含む半導体ナノ結晶シェルとを備え、前記シェル層の少なくとも一層はMgを含有するシェル層であるコアシェル型量子ドット。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル型量子ドットであって、
Znと、S、Se又はTeの少なくとも一種とを含む第II-VI族元素からなる半導体ナノ結晶コアと、
前記半導体ナノ結晶コアを被覆し、第II-VI族元素からなる単一層又は複数層のシェル層を含む半導体ナノ結晶シェルとを備え、
前記シェル層の少なくとも一層はMgを含有するシェル層であることを特徴とするコアシェル型量子ドット。
【請求項2】
前記半導体ナノ結晶コアが、ZnTeSe1-x又はZnTe1-yから選択される半導体ナノ結晶又はこれらの混晶からなるものであることを特徴とする請求項1に記載のコアシェル型量子ドット。
【請求項3】
前記Mgを含有するシェル層が、ZnαMg1-αSe又はZnβMg1-βSから選択される半導体ナノ結晶又はこれらの混晶からなるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のコアシェル型量子ドット。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のコアシェル型量子ドットを含む波長変換部材。
【請求項5】
コアシェル型量子ドットの製造方法であって、
溶液中で、Znと、S、Se又はTeの少なくとも一種とを含む第II-VI族元素からなる半導体ナノ結晶コアを合成するステップと、
ZnとMgとを含むクラスター化合物が溶解した溶液と、第VI族前駆体が溶解した溶液を、前記半導体ナノ結晶コアを合成した前記溶液に添加して、前記半導体ナノ結晶コアの表面にMgを含有するシェル層を形成するステップとを含むことを特徴とするコアシェル型量子ドットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアシェル型量子ドット及びコアシェル型量子ドットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ナノ粒子単結晶において、結晶のサイズが励起子のボーア半径以下になると強い量子閉じ込め効果が生じ、エネルギー準位が離散的になる。エネルギー準位は結晶のサイズに依存することになり、光吸収波長や発光波長は結晶サイズで調整が可能となる。また、半導体ナノ粒子単結晶の励起子再結合による発光が量子閉じ込め効果により高効率となり、またその発光は基本的に輝線であることから、大きさの揃った粒度分布が実現できれば、高輝度狭帯域な発光が可能となることから注目を集めている。このようなナノ粒子における強い量子閉じ込め効果による現象を量子サイズ効果と呼び、その性質を利用した半導体ナノ結晶を量子ドットとして広く応用展開に向けて検討が行われている。
【0003】
量子ドットの応用として、ディスプレイ用蛍光体材料への利用が検討されてきている。狭帯域高効率な発光を実現できれば既存技術で再現できなかった色を表現できることになることから、次世代のディスプレイ材料として注目されてきている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nozik et al, Highly efficient band-edge emission from InP quantum dots, Appl. Phys. Lett. 68, 3150(1996)
【非特許文献2】J. P. Park, J.-J. Lee, S.-W.Kim, Highly luminescent InP/GaP/ZnS QDs emitting in the entire colorrange via a heating up process,Sci. Rep. 6: 30094(2016)
【非特許文献3】Yang Li, Xiaoqi Hou, Xingliang Dai, Zhenlei Yao, Liulin Lv, Yizheng Jin,and Xiaogang Peng, Stoichiometry-controlled InP-based Quantum Dots: Synthesis,Photoluminescence, and Electroluminescence,J.Am.Chem.Soc.2019,141,6448-6452
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最も発光特性の良い量子ドットとしてCdSeが検討されてきたが、その高い毒性により使用の制限があり、Cdフリーの材料を検討する必要があった。そこで、注目された材料が、InPをコアとした量子ドットである。CdSeがMITのグループから報告された3年後の1996年には可視光の発光が確認され(非特許文献1)、その後、量子サイズ効果により、RGB(赤:λ=630nm、1.97eV、緑:λ=532nm、青:λ=465nm)をカバーできることが明らかとなり、精力的に検討がなされてきた。
【0006】
しかし、CdSeに比べてInPは光学特性が劣ることがわかっている。問題の一つがInP量子ドットの量子収率の改善である。基本的にナノサイズの半導体結晶粒子である量子ドットの表面は非常に活性であり、バンドギャップの小さいコアは非常に反応性が高くなっているため、CdSeやInPなどのコアだけでは結晶表面にダングリングボンド等の欠陥が生じやすい。そのため、コアよりもバンドギャップが大きく、格子ミスマッチの小さい半導体ナノ結晶をシェルとした、コアシェル型の半導体結晶粒子の製造がなされてきた。例えば、CdSe系の量子ドットでは、100%に近い量子収率が得られている。一方で、InP系の量子ドットでも同様にシェルで覆うことで量子収率が改善するが、量子収率は60%~80%に留まっておりさらなる量子収率の改善が望まれている。また、CdSe系の量子ドットでは発光の半値幅(FWHM)が30nmを下回り、ディスプレイ用途で求められるシャープな発光特性を実現できている。一方、InP系の量子ドットではFWHMが35nm以上と大きくなっており、量子収率の改善と共にFWHMの改善も望まれている。
【0007】
FWHMが大きくなってしまう原因として、InPはCdSeに比べて粒径変化に対するバンドギャップの変化が大きく、CdSeと同様な粒度分布であっても、そのFWHMは広くなってしまうことが挙げられる。有効質量の小さなInPは、CdSeに比べて粒径に対するバンドギャップ変化が大きくなってしまうためである。
【0008】
そのため、有効質量が大きく、量子サイズ効果により緑色、赤色の発光が可能な材料が求められている。その有力な量子ドットとして、ZnTeにZnSe又はZnSを混晶にした組成の半導体ナノ粒子がある。ZnS、ZnSeやZnTeは有効質量が大きく、半値幅の小さいものを作ることが可能となっているが、それぞれ単体では緑色、赤色の発光は得られない。しかし、ZnTeとZnSe又はZnSの混晶になると、大きなバンドギャップボーイングが起き、緑色、赤色の発光が可能となることから、半値幅が狭い発光材料の有力な候補となっている。実際、非特許文献2では発光波長535nmで半値幅が26nmのものが得られており、良好な発光特性が期待できるが、量子収率が低いことが課題として挙げられている。
【0009】
一方で、非特許文献3ではZnSeTeに対してZnSe、ZnSのシェル層を成長させ、80%以上の高い量子収率を得ることができているが、半値幅は519nmで45nmと大きくなってしまっている。これはシェル層の成長の際に発光波長が長波長シフトしていることから、コアシェル構造における励起子の閉じ込めが不十分であり、シェル部分の広い範囲まで励起子が染み出してしまい、コアの粒度分布だけではなくシェル成長分布によって半値幅が大きく影響を受けてしまうことが原因として挙げられる。
【0010】
以上のように、例えば、ZnTeと、ZnSe又はZnSの混晶をコアとして用いるような第II-VI族元素からなる量子ドットは、量子収率が低いという問題があった。量子収率を改善する方法として、ZnSe、ZnS等のシェルを形成する方法が検討されており、量子収率は80%まで改善することが明らかとなっているが、発光波長の長波長シフトの問題や、発光の半値幅が35nmと広く、さらに改善が必要である。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、量子収率、蛍光発光効率が向上し、発光の半値幅の狭いコアシェル型量子ドット及び該コアシェル型量子ドットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、コアシェル型量子ドットであって、Znと、S、Se又はTeの少なくとも一種とを含む第II-VI族元素からなる半導体ナノ結晶コアと、前記半導体ナノ結晶コアを被覆し、第II-VI族元素からなる単一層又は複数層のシェル層を含む半導体ナノ結晶シェルとを備え、前記シェル層の少なくとも一層はMgを含有するシェル層であるコアシェル型量子ドットを提供する。
【0013】
このようなコアシェル型量子ドットによれば、励起子の染み出しを効果的に抑えることができ、シェルの厚さに依存せず効果的に量子収率、蛍光発光効率を改善することが可能となり、結果として発光の半値幅が狭い量子ドットとなる。
【0014】
このとき、前記半導体ナノ結晶コアが、ZnTeSe1-x又はZnTe1-yから選択される半導体ナノ結晶又はこれらの混晶からなるものであるコアシェル型量子ドットとすることができる。
【0015】
これにより、有効質量が大きくなり、発光の半値幅がより狭いものとなる。
【0016】
このとき、前記Mgを含有するシェル層が、ZnαMg1-αSe又はZnβMg1-βSから選択される半導体ナノ結晶又はこれらの混晶からなるものであるコアシェル型量子ドットとすることができる。
【0017】
これにより、励起子の閉じ込め効果がより改善されたものとなる。
【0018】
このとき、上記コアシェル型量子ドットを含む波長変換部材とすることができる。
【0019】
これにより、高品質な波長変換部材となる。
【0020】
本発明は、また、上記目的を達成するためになされたものであり、コアシェル型量子ドットの製造方法であって、溶液中で、Znと、S、Se又はTeの少なくとも一種とを含む第II-VI族元素からなる半導体ナノ結晶コアを合成するステップと、ZnとMgとを含むクラスター化合物が溶解した溶液と、第VI族前駆体が溶解した溶液を、前記半導体ナノ結晶コアを合成した前記溶液に添加して、前記半導体ナノ結晶コアの表面にMgを含有するシェル層を形成するステップとを含むコアシェル型量子ドットの製造方法を提供する。
【0021】
このようなコアシェル型量子ドットの製造方法によれば、安定して高いMgのドーピングを行うことを可能とし、量子収率、蛍光発光効率が向上し、また、発光の半値幅が狭いコアシェル型量子ドットを製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明のコアシェル型量子ドットによれば、Znと、S、Se又はTeの少なくとも一種とを含む第II-VI族元素からなる半導体ナノ結晶コアに、Mgを含有するシェル層を少なくとも1層を形成することで、励起子の染み出しを効果的に抑えることができ、シェルの厚さに依存せず効果的に量子収率、蛍光発光効率を改善することが可能となり、結果として発光の半値幅が狭い量子ドットとなる。また、本発明のコアシェル型量子ドットの製造方法によれば、上記のような量子ドットを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係るコアシェル型量子ドットの一例を示す。
図2】本発明に係るコアシェル型量子ドットの製造方法の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
上述のように、量子収率、蛍光発光効率を向上し、発光の半値幅が狭いコアシェル型量子ドット及び該コアシェル型量子ドットの製造方法が求められていた。本発明者らが、この課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、Zn(亜鉛)と、S(硫黄)、Se(セレン)又はTe(テルル)の少なくとも一種とを含む第II-VI族元素からなる半導体ナノ結晶コアと、前記半導体ナノ結晶コアを被覆し、第II-VI族元素からなる単一層又は複数層のシェル層を含む半導体ナノ結晶シェルとを備え、前記シェル層の少なくとも一層はMgを含有するシェル層であるコアシェル型量子ドットにより、量子収率、蛍光発光効率の向上が可能となり、結果として発光の半値幅が狭いコアシェル型量子ドットとなることを見出し、本発明を完成した。
【0026】
また、本発明者らは、コアシェル型量子ドットの製造方法であって、溶液中で、Znと、S、Se又はTeの少なくとも一種とを含む第II-VI族元素からなる半導体ナノ結晶コアを合成するステップと、ZnとMgとを含むクラスター化合物が溶解した溶液と、第VI族前駆体が溶解した溶液を、前記半導体ナノ結晶コアを合成した前記溶液に添加して、前記半導体ナノ結晶コアの表面にMgを含有するシェル層を形成するステップとを含むコアシェル型量子ドットの製造方法により、上記のような、量子収率、蛍光発光効率が改善され、発光の半値幅が狭いコアシェル型量子ドットを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0027】
以下、図面を参照して説明する。
【0028】
[コアシェル型量子ドット]
図1に、本発明に係るコアシェル型量子ドットの一例を示す。図1に示されるように、本発明に係るコアシェル型量子ドット10は、半導体ナノ結晶コア1と、半導体ナノ結晶コア1を被覆する半導体ナノ結晶シェル2とを備えている。半導体ナノ結晶コア1は、Znと、S、Se又はTeの少なくとも一種とを含む第II-VI族元素からなるものである。半導体ナノ結晶シェル2は、第II-VI族元素からなる単一層又は複数層のシェル層を備え、シェル層の少なくとも一層はMgを含有するシェル層2A(以下、「Mg含有シェル層2A」ということがある)である。図1に示す例では、半導体ナノ結晶シェル2は、Mg含有シェル層2Aのほかにもう1層のシェル層2Bを備えている。
【0029】
(半導体ナノ結晶コア)
次に、半導体ナノ結晶コア1について説明する。半導体ナノ結晶コア1は、Znと、S、Se又はTeの少なくとも一種とを含む第II-VI族元素からなるものであれば特に限定されない。特に、少なくともZnTeを含み、ZnSe、ZnSから選択される半導体ナノ結晶又はその混晶を含むことが好ましく、ZnTeSe1-x(0<x<1)又はZnTe1-y(0<y<1)から選択される半導体ナノ結晶又はこれらの混晶からなるものであることがより好ましい。このような組成であれば有効質量が大きく、発光の半値幅がより狭いものとなる。SeやSをドープすることで大きなバンドギャップボーイングが生じるため、430nm~500nmの発光が可能なZnTeナノ粒子の発光波長を、長波長シフト(~630nm)させることが可能となる。さらに、発光の半値幅が改善する。
【0030】
(半導体ナノ結晶シェル)
次に、半導体ナノ結晶シェルについて説明する。半導体ナノ結晶シェルは、第II-VI族元素からなる単一層又は複数層のシェル層を含み、該シェル層のうちの少なくとも一層がMg含有シェル層であればよい。
【0031】
Mg含有シェル層2Aは、第II-VI族元素からなりMgを含んでいれば特に限定されない。半導体ナノ結晶シェル2が複数層のシェル層を含む場合、Mg含有シェル層2A以外のシェル層、例えば図1におけるシェル層2Bは、Mgを含んでいても、含んでいなくてもよい。また、Mg含有シェル層2AとしてMgを含むZnSeのシェル層を用い、Mg含有シェル層2Aの外側のシェル層2BとしてZnSe系以外のシェル層を形成する場合、ZnSのシェル又はMgを含むZnSシェルを形成すると、格子ミスマッチが小さくなるため好ましい。また、MgSeやMgSは空気中の水、酸素等と反応しやすいため、最表面は大気中でも安定となるZnSで被覆することが好ましい。
【0032】
また、Mg含有シェル層2Aは、ZnαMg1-αSe(0<α<1)又はZnβMg1-βS(0<β<1)から選択される半導体ナノ結晶又はこれらの混晶からなるものであることが好ましい。これにより、励起子の閉じ込め効果がより改善されたものとなる。コアシェル構造による励起子の閉じ込めを改善するには、コアとシェル間のバンドオフセットの位置関係を調整する必要がある。ZnTe、ZnTeSe1-x又はZnTe1-y等をコアとする場合、Teの影響によりZnSeやZnSと比べてLUMOの位置が大きく上昇してしまうため、特に電子の閉じ込めが困難である。ZnSeのコアにZnSのシェルをつける場合も同様に、ZnSeの量子閉じ込め効果によるバンドギャップの上昇により、ZnSeSでは閉じ込めが困難となるため、量子収率が改善しづらく、ZnSであると格子ミスマッチが大きく、きれいにシェル層が形成できにくい。そこで、シェル材料のLUMOの位置をより高くすることができる材料を選択することで、励起子の閉じ込めを改善することができると考えられる。
【0033】
LUMOの位置を高くする材料として最適なものは、MgSe又はMgSであると考えられる。バンドギャップが、MgSeでは3.59eV(Zinc blend)、MgSでは4.45eV(Zinc blend)となっており、それぞれZnSeの2.82eV、ZnSの3.78eVよりも大きなバンドギャップを有しており、シェルとして好適に利用することができる。また、格子定数もZnSeやZnSとそれぞれ値が近く、混晶を形成することが可能である。ただし、コア材料がZnTeSe又はZnTeSなどのZn系II-VI族半導体ナノ粒子の場合、結晶構造は閃亜鉛鉱型となる。MgSeやMgSは塩化ナトリウム型の構造が安定構造であるため、安定した成長のためには、ZnSeやZnSとの混晶としてZnαMg1-αSeやZnβMg1-βS又はこれらの混晶とすることが好ましい。ZnSeやZnSの混晶とすれば、閃亜鉛鉱型になるためである。また、ZnαMg1-αSeやZnβMg1-βSシェルにおいて、好ましくはMgを10%以上添加するとよい。このようなMgの量であれば、励起子の閉じ込めに必要なポテンシャル障壁をより安定して稼ぐことができるからである。
【0034】
また、シェル構造を多段化するとさらに量子収率が改善することから、ZnMgSeシェル層を形成し、次いでZnMgSe及びZnMgSの混晶シェル層を形成しても良い。
【0035】
さらにZnSe及びZnSの混晶シェル層を形成し、最後にZnS層を形成しても良い。
【0036】
なお、上記シェル層形成の確認は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により得られる粒子画像を計測し、粒子サイズの増大を測定し、エネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive X-ray spectrometry:EDX)により元素分析を行い、Mg含有シェル層合成後のZn、Mg元素の割合を算出することが可能である。
【0037】
また、本発明に係るコアシェル型量子ドットは、分散性を付与し、表面欠陥を低減するため、表面にリガンドと呼ばれる有機配位子が配位していることが望ましい。リガンドは非極性溶媒への分散性向上の観点から脂肪族炭化水素を含むことが好ましい。このようなリガンドとしては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリル酸、デカン酸、オクタン酸、オレイルアミン、ステアリル(オクタデシル)アミン、ドデシル(ラウリル)アミン、デシルアミン、オクチルアミン、オクタデカンチオール、ヘキサデカンチオール、テトラデカンチオール、ドデカンチオール、デカンチオール、オクタンチオール、トリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキシド、トリブチルホスフィン、トリブチルホスフィンオキシド等が挙げられ、これらを1種単独で用いても複数組み合わせても良い。
【0038】
[波長変換部材]
本発明に係る波長変換部材は、本発明に係るコアシェル型量子ドットを含むものである。これにより高品質な波長変換部材を提供できる。波長変換部材としては、例えば、本発明に係るコアシェル型量子ドットを樹脂中に分散させた樹脂組成物を用いたものが挙げられる。波長変換部材の具体的な形態は特に限定されないが、例えばコアシェル型量子ドットを樹脂に分散させた波長変換フィルムやカラーフィルタ等が挙げられる。この場合の樹脂材料は特に限定されないが、コアシェル型量子ドットの凝集、蛍光発光効率の劣化が起きないものが好ましく、例えば、シリコーン樹脂やアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。これらの材料は、波長変換材料として蛍光発光効率を高めるために、透過率が高いことが好ましく、透過率が70%以上であることが特に好ましい。
【0039】
青色LEDが結合された導光パネル面に、上記波長変換部材、例えば、波長変換フィルムを設置したバックライトユニット及び該バックライトユニットを備えた画像表示装置を提供することもできる。また、青色LEDが結合された導光パネル面と液晶ディスプレイパネルとの間に上記波長変換部材を配置した画像表示装置を提供することもできる。このようなバックライトユニットや画像表示装置において、波長変換部材は、光源である1次光の青色光の少なくとも一部を吸収し、1次光よりも波長の長い2次光を放出することにより、量子ドットの発光波長に依存した任意の波長分布を有する光に変換することができる。
【0040】
[コアシェル型量子ドットの製造方法]
次に、本発明に係るコアシェル型量子ドットの製造方法について説明する。本発明に係るコアシェル型量子ドットの製造方法は図2に示すように、溶液中で、Znと、S、Se又はTeの少なくとも一種とを含む第II-VI族元素からなる半導体ナノ結晶コアを合成するステップ(コア合成ステップ:S1)と、ZnとMgとを含むクラスター化合物が溶解した溶液と、第VI族前駆体が溶解した溶液を、半導体ナノ結晶コアを合成した前記溶液に添加して、前記半導体ナノ結晶コアの表面にMgを含有するシェル層を形成するステップ(Mg含有シェル層形成ステップ:S2)とを含んでいる。
【0041】
(コア合成ステップ)
まず、図1のS1に示す、Znと、S、Se又はTeの少なくとも一種とを含む第II-VI族元素からなる半導体ナノ結晶コアを合成するステップについて説明する。S1では、Znを含む第II族前駆体溶液に、S、Se又はTeの少なくとも一つを含む第VI族前駆体溶液を150℃以上350℃以下の高温条件で添加することで、第II-VI族元素からなる半導体ナノ結晶コアを合成できる。又は、高沸点の有機溶媒と凝集を抑える目的で加えられた有機酸やアミン、ホスフィンなどのリガンドを含む溶液に、Znを含む第II族前駆体溶液と、S、Se又はTeの少なくとも一つとを含む第VI族前駆体溶液を150℃以上350℃以下の高温条件で添加することで、第II-VI族からなる半導体ナノ結晶コアを合成できる。
【0042】
第II族前駆体としては、例えば、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、酢酸亜鉛、アセチルアセトナト亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、亜鉛カルボキシル酸塩、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられる。これらの内から、反応させる第VI族前駆体の反応性に合わせて原料を選ぶことで、良好なZnと、S、Se又はTeの少なくとも一種とを含む混晶を作製することができる。例えば、S=TOP(トリオクチルホスフィン)溶液、Se=TOP溶液、Te=TOP溶液などと反応させる場合、反応性の高いジエチル亜鉛を第II族前駆体として用いることで、第VI族が均一にドープされた第II-VI族半導体ナノ結晶コアを合成できる。また、S=TOP溶液のような第VI族前駆体を水素化ホウ素リチウム(例えば、「Super-Hydride」(登録商標)など)で処理して求核性を向上させた場合や、反応性の調整としてTOPの代わりにジフェニルホスフィンにTeやSe、Sを溶解させた第VI族前駆体を用いる場合は、酸化亜鉛や酢酸亜鉛、炭酸亜鉛にリガンドとなる有機酸を反応させた亜鉛前駆体を用いることで、第VI族元素が均一にドープされた第II-VI族からなる半導体ナノ結晶コアを合成できる。
【0043】
また、第II族前駆体を溶媒に溶解させる方法については特に限定されず、例えば、100℃~180℃の温度に加熱して溶解させる方法が望ましい。特に、この際に減圧にすることで、溶解させた溶液から溶存酸素や水分などが取り除けるため好ましい。
【0044】
第VI族前駆体としては、所望の粒径、粒度分布が得られるように反応性を制御する観点から適宜選択すればよく、例えば、Se、S、Teのいずれか一種以上を1-オクタデセン、1-ヘキサデセン、1-ドデセンなどの脂肪族不飽和炭化水素、n-オクタデカン、n-ヘキサデカン、n-ドデカンなどの脂肪族飽和炭化水素、トリオクチルホスフィン、ジフェニルホスフィンなどのホスフィン、オレイルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミンなどの長鎖アルキル基を有するアミンなどの溶液に溶解させた第VI族前駆体や、アルキルチオール、トリアルキルホスフィンスルフィド、ビストリアルキルシリルスルフィド、トリアルキルホスフィンセレン、トリアルケニルホスフィンセレン、ビストリアルキルシリルセレン、トリアルキルホスフィンテルル、トリアルケニルホスフィンテルル、ビストリアルキルシリルテルル等から選択すると良い。
【0045】
また、固体の第VI族前駆体を溶媒に溶解させる方法については特に限定されず、例えば、100℃~250℃の温度に加熱して溶解させる方法が望ましい。
【0046】
溶媒については特に限定されず、合成温度や前駆体の溶解性により適宜選択してよく、例えば、1-オクタデセン、1-ヘキサデセン、1-ドデセンなどの脂肪族不飽和炭化水素、n-オクタデカン、n-ヘキサデカン、n-ドデカンなどの脂肪族飽和炭化水素、トリオクチルホスフィンなどのアルキルホスフィン、オレイルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミンなどの長鎖アルキル基を有するアミン等が好適に利用できる。
【0047】
また、合成温度や保持時間についても同様に、所望の粒径、粒度分布が得られるように適宜調整できるため特に限定されない。
【0048】
(Mg含有シェル層形成ステップ)
次に、半導体ナノ結晶コアの表面にMgを含有するシェル層を形成するステップ(S2)について説明する。本発明者らは、Mgをドーピングしたシェル層の形成反応について様々方法を検討したが、通常の方法ではMgのドーピング量が低く、数%程度しかドーピングできず、ドーピング効率が悪かった。通常、酢酸亜鉛又は亜鉛長鎖カルボン酸塩を前駆体とした場合、ドーピングに用いるMg前駆体はハロゲン化マグネシウムやマグネシウム長鎖カルボン酸塩である。しかしながら、Mg前駆体の反応性が低く、ほとんどシェル層に導入できなかった。一方で、反応性の高いアルキルマグネシウム試薬とアルキル亜鉛試薬を混合した場合は、反応は進行するものの、ほとんどシェルとして成長せず、別々の粒子として成長してしまった。
【0049】
そこで、本発明者らは、安定して高いドーピングを行う方法、例えば10%以上のドーピング量を実現する方法として、ZnとMgとを含むクラスター化合物(MgがZnクラスター化合物に固溶した亜鉛マグネシウムクラスター化合物)を利用することを見出した。酢酸亜鉛やステアリン酸亜鉛などの亜鉛カルボニル酸塩は、不活性雰囲気下で100℃~260℃に脱気しながら加熱し、さらに240℃~360℃に加熱することで熱分解が起き、亜鉛4核錯体や亜鉛7核錯体などのクラスター化合物を形成する。このクラスター化合物形成の際にMgをドーピングしていけば、ZnMgSe層の形成に好適なZnMg前駆体であるZnとMgとを含むクラスター化合物を作製できる。
【0050】
また、Znクラスター化合物はその他にもポリオキソメタレート(POM)、有機-無機構造体(MOF)や塩基性炭酸亜鉛が好適に利用できるが、ZnとMgが混合され一体となっていればよく、特に限定されない。
【0051】
Zn前駆体としては、例えば、酢酸亜鉛、アセチルアセトナト亜鉛、亜鉛カルボキシル酸塩等が挙げられる。
【0052】
Mg前駆体としては、例えば、酢酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムなどのマグネシウムカルボキシル酸塩等が挙げられ、Zn前駆体に合わせて適宜選択すればよい。
【0053】
第VI族前駆体については、コア合成ステップで示した方法と同様に、所望の粒径、粒度分布が得られるように反応性を制御する観点から適宜選択すればよく、例えば、硫黄、アルキルチオール、トリアルキルホスフィンスルフィド、ビストリアルキルシリルスルフィド、セレン、トリアルキルホスフィンセレン、トリアルケニルホスフィンセレン、ビストリアルキルシリルセレン等が挙げられるが、特に限定されない。
【0054】
ZnMg前駆体であるZnとMgとを含むクラスター化合物を溶媒に溶解させる方法については特に限定されず、例えば、100℃~180℃の温度に加熱して溶解させる方法が望ましい。特に、この際に減圧にすることで、溶解させた溶液から溶存酸素や水分などが取り除けるため好ましい。また、固体の第VI族前駆体を溶媒に溶解させる方法については特に限定されず、例えば、100℃~250℃の温度に加熱して溶解させる方法が望ましい。
【0055】
また、固体のZnとMgを含むクラスター化合物(亜鉛マグネシウムクラスター化合物)を溶媒に溶解させる方法については特に限定されず、例えば、50℃~180℃の温度に加熱して溶解させる方法が望ましい。特に、この際に減圧にすることで、溶解させた溶液から溶存酸素や水分などが取り除けるため好ましい。
【0056】
また、合成温度や保持時間については所望の特性が得られるように適宜調整可能であることから特に限定されない。
【0057】
ここで、ZnとMgを含むクラスター化合物の生成を確認する方法としては、MALDI-TOFMS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計)を用いた測定が挙げられる。MALDI-TOFMS測定により得られたフラグメントピークが、シミュレーションされたフラグメントピークと一致することからZnクラスター化合物にMgが含有されていることを確認できる。また、不安定なクラスター化合物の場合、粉末X線結晶構造解析からもMgが含有されることによるピークのシフトを確認できる。
【0058】
(シェル層形成ステップ)
図2のS3のように、さらにシェル層2Bを形成することができる。シェル層2BはMgを含有しても良いしMg非含有のシェル層としてもよい。製造の簡便化のため、上述のMg含有シェル層を形成するステップ後の反応溶液にそのままシェル層を成長させることが好ましい。シェル層2Bの構造は、ZnSe、ZnS又はその混晶を含むシェル構造が好ましく、特に限定されないが、安定性の観点から最表面はZnSを用いることが好ましい。シェル層合成後の凝集を抑える目的でリガンドを溶解させた溶液に第II族前駆体、第VI族前駆体をそれぞれ添加して溶解させることが望ましい。反応は第II族前駆体溶液をバッファー層合成工程後の反応溶液に加えて混合溶液を作製した後、第VI族前駆体溶液を150℃以上350℃以下の高温条件で添加することで第II-VI族半導体ナノ結晶シェルを合成できる。
【0059】
第II族前駆体としては、コア合成ステップと同様に、例えば、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、酢酸亜鉛、アセチルアセトナト亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、亜鉛カルボキシル酸塩、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられる。シェル層の形成においては、高い反応性は必要ないため、取り扱いの容易さや溶媒への相溶性、等から亜鉛カルボキシル酸塩や酢酸亜鉛、ハロゲン化亜鉛が好適に利用できる。また、固体の第II族前駆体原料を溶媒に溶解させる方法については特に限定されず、例えば、100℃~180℃の温度に加熱して溶解させる方法が望ましい。特に、この際に減圧にすることで、溶解させた溶液から溶存酸素や水分などが取り除けるため好ましい。
【0060】
第VI族前駆体としては、例えば、硫黄、アルキルチオール、トリアルキルホスフィンスルフィド、ビストリアルキルシリルスルフィド、セレン、トリアルキルホスフィンセレン、トリアルケニルホスフィンセレン、ビストリアルキルシリルセレン等があげられる。これらのうち硫黄源については、得られるコアシェル粒子の分散安定性の観点から、ドデカンチオールなどの長鎖アルキル基をもつアルキルチオールが好ましい。固体の第VI族前駆体原料を溶媒に溶解させる方法については特に限定されず、例えば、100℃~180℃の温度に加熱して溶解させる方法が望ましい。
【0061】
[波長変換部材の製造方法]
波長変換部材として例えば波長変換フィルムを作成する場合に、本発明に係るコアシェル型量子ドットを樹脂と混合することで樹脂中に分散させることができる。この工程においては、コアシェル型量子ドットを溶媒に分散させたものを樹脂に添加混合し樹脂中に分散させることができる。また溶媒を除去し粉体状となったコアシェル型量子ドットを樹脂に添加し混練することで、樹脂中に分散させることもできる。あるいは樹脂の構成要素のモノマーやオリゴマーを、コアシェル型量子ドット共存下で重合させる方法がある。コアシェル型量子ドットの樹脂中への分散方法は特に制限されず、目的に応じ適宜選択できる。
【0062】
コアシェル型量子ドットを分散させる溶媒は、用いる樹脂との相溶性があれば良く、特に制限されない。また樹脂材料は特に制限されず、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を所望の特性に応じ適宜選択できる。これらの樹脂は、波長変換材料として効率を高めるためには透過率が高いことが望ましく、透過率が80%以上であることが特に望ましい。
【0063】
また、コアシェル型量子ドット以外の物質が含まれていても良く、光散乱体としてシリカやジルコニア、アルミナ、チタニアなどの微粒子が含まれていても良く、無機蛍光体や有機蛍光体が含まれていても良い。無機蛍光体としては、YAG、LSN、LYSN、CASN、SCASN、KSF、CSO、β-SIALON、GYAG、LuAG、SBCAが、有機蛍光体としては、ペリレン誘導体、アントラキノン誘導体、アントラセン誘導体、フタロシアニン誘導体、シアニン誘導体、ジオキサジン誘導体、ベンゾオキサジノン誘導体、クマリン誘導体、キノフタロン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ピラリゾン誘導体などが例示される。
【0064】
また、コアシェル型量子ドットを樹脂に分散させた樹脂組成物を、PETやポリイミドなどの透明フィルムに塗布し硬化させ樹脂層を形成し、ラミネート加工することで波長変換材料を得ることもできる。透明フィルムへの塗布は、スプレーやインクジェットなどの噴霧法、スピンコート、バーコーター、ドクターブレード法、グラビア印刷法やオフセット印刷法を用いることができる。また、樹脂層及び透明フィルムの厚さは特に制限されず、用途に応じ適宜選択することができる。
【実施例0065】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0066】
[実施例1]
(コア合成ステップ)
はじめに半導体ナノ結晶コアとして、ZnSeTeコアを合成した。まず、フラスコ内にオレイン酸を2mL、1-オクタデセンを10mL加え、減圧下、100℃で加熱攪拌を行い、1時間脱気を行った。その後、窒素をフラスコ内にパージし、290℃に加熱した。溶液の温度が安定したところで、別途トリオクチルホスフィンにTeを加えて溶解させ、0.3Mに調整したTe=TOP溶液と、トリオクチルホスフィンにSeを加えて溶解させ、0.3Mに調整したSe=TOP溶液をジエチル亜鉛溶液に所望の組成比になるように加え、亜鉛-第VI族前駆体溶液として調整した溶液を加え、270℃で30分保持した。溶液が赤褐色に着色し、コア粒子が生成しているのを確認した。
【0067】
(Mg含有シェル層形成ステップ)
次いで、Mg含有シェル層としてZnMgSeを形成した。別のフラスコにステアリン酸亜鉛2.53g(4.0mmol)、ステアリン酸マグネシウム1.18g(2.0mmol)を加え、150℃に加熱して攪拌を行い、溶解させながら1hr脱気を行い、さらに320℃に加熱して1時間保持した後にオクタデセンを6mL加え、ステアリン酸亜鉛マグネシウムクラスター前駆体オクタデセン溶液を用意した。このステアリン酸亜鉛マグネシウムクラスター前駆体オクタデセン溶液4.5mL(2.8mmol)を270℃のコア合成後の反応溶液に添加して30分攪拌した。次いで、別のフラスコにセレン0.4g(5mmol)、トリオクチルホスフィン4mLを加えて150℃に加熱して溶解させ、セレントリオクチルホスフィン溶液1.25Mを用意した。調整したセレントリオクチルホスフィン溶液を反応溶液に2.4mL(3.0mmol)添加して30分攪拌した。
【0068】
(シェル層形成ステップ)
次に、ZnSシェル層を形成した。別のフラスコにステアリン酸亜鉛3.0g(4.74mmol)とオクタデセンを15mL加え、100℃に加熱して溶解させて、真空化で1時間攪拌して脱気させて亜鉛前駆体溶液を調整した。この亜鉛前駆体溶液を、Mg含有シェル層を合成した270℃の反応溶液に10mL加えて30分保持した。次いで、硫黄0.16g(5mmol)、トリオクチルホスフィン4mLを加えて150℃に加熱して溶解させ、硫黄トリオクチルホスフィン溶液1.25Mを調整して、反応溶液に1.0mL加えて1時間攪拌した。酢酸亜鉛を0.44g(2.2mmol)加え、減圧下、100℃に加熱して攪拌することで溶解させた。再びフラスコ内を窒素でパージして230℃まで昇温し、1-ドデカンチオールを0.98mL(4mmol)添加して1時間保持した。
【0069】
得られた溶液を室温まで冷却し、エタノールを加え、遠心分離することにより、ナノ粒子を沈殿させて上澄み液を除去した。さらにヘキサンを加えて分散させ、エタノールを再度加えて遠心分離し、上澄み液を除去してヘキサンに再分散させてZnSeTe/ZnMgSe/ZnSヘキサン溶液を調整した。
【0070】
[比較例1]
(コア合成ステップ)
Mg含有シェル層形成ステップを除き、実施例1の条件と同様に調整したコア合成溶液を作製した。
【0071】
(シェル層形成ステップ)
コアを被覆するシェル層として、ZnSeS、ZnSを順に形成した。別のフラスコにステアリン酸亜鉛6.0g(9.48mmol)とオクタデセンを30mL加え、100℃に加熱して溶解させて、真空下で1時間攪拌して脱気させて亜鉛前駆体溶液を調整した。この亜鉛前駆体溶液を、コアを合成した270℃の反応溶液に10mL加えて30分保持した。次いで、硫黄0.11g(3.5mmol)、セレン0.12g(1.5mmol)、トリオクチルホスフィン4mLを加えて150℃に加熱して溶解させ、硫黄セレントリオクチルホスフィン溶液1.25Mを調整し、1.0mL加えて1時間攪拌した。次いで、調整しておいた亜鉛前駆体溶液を再度10mL加えて30分攪拌し、別のフラスコに硫黄0.16g(5mmol)、トリオクチルホスフィン4mLを加えて150℃に加熱して溶解させ、硫黄トリオクチルホスフィン溶液1.25Mを調整して1.0mL加えてさらに1時間攪拌した。酢酸亜鉛を0.44g(2.2mmol)加え、減圧下、100℃に加熱して攪拌することで溶解させた。再びフラスコ内を窒素でパージして230℃まで昇温し、1-ドデカンチオールを0.98mL(4mmol)添加して1時間保持した。
【0072】
得られた溶液を室温まで冷却し、エタノールを加え、遠心分離することにより、ナノ粒子を沈殿させて上澄み液を除去した。さらにヘキサンを加えて分散させ、エタノールを再度加えて遠心分離し、上澄み液を除去してヘキサンに再分散させてZnSeTe/ZnSeS/ZnSヘキサン溶液を調整した。
【0073】
[実施例2]
実施例1の条件と同様にMg含有シェル層まで調整した反応溶液を作製した。次いで、別のフラスコにステアリン酸亜鉛6.0g(9.48mmol)とオクタデセンを30mL加え、100℃に加熱して溶解させて、真空下で1時間攪拌して脱気させて亜鉛前駆体溶液を調整し、Mg含有シェル層まで調整した270℃の反応溶液に10mL加えて30分保持した。次いで、硫黄0.11g(3.5mmol)、セレン0.12g(1.5mmol)、トリオクチルホスフィン4mLを加えて150℃に加熱して溶解させ、硫黄セレントリオクチルホスフィン溶液1.25Mを調整し、1.0mL加えて1時間攪拌した。次いで、調整しておいた亜鉛前駆体溶液を再度10mL加えて30分攪拌し、別のフラスコに硫黄0.16g(5mmol)、トリオクチルホスフィン4mLを加えて150℃に加熱して溶解させ、硫黄トリオクチルホスフィン溶液1.25Mを調整して1.0mL加えてさらに1時間攪拌した。酢酸亜鉛を0.44g(2.2mmol)加え、減圧下、100℃に加熱して攪拌することで溶解させた。再びフラスコ内を窒素でパージして230℃まで昇温し、1-ドデカンチオールを0.98mL(4mmol)添加して1時間保持した。
【0074】
得られた溶液を室温まで冷却し、エタノールを加え、遠心分離することにより、ナノ粒子を沈殿させて上澄み液を除去した。さらにヘキサンを加えて分散させ、エタノールを再度加えて遠心分離し、上澄み液を除去してヘキサンに再分散させてZnSeTe/ZnMgSe/ZnSeS/ZnSヘキサン溶液を調整した。
【0075】
[平均粒子径測定]
得られたコアシェル型量子ドットの平均粒子径の測定は、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いて少なくとも20個の粒子を直接観察し、粒子の投影面積と同一面積を有する円の直径を算出し、それらの平均の値を用いた。
【0076】
[元素分析]
コア合成後、Mg含有シェル層形成後、シェル層形成後にそれぞれサンプルを採取し、エタノールを加えて粒子を沈殿させ、ヘキサンを加えて再分散させることで各工程のサンプル溶液を調整し、エネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive X-ray spectrometry:EDX)により元素分析を行い、Zn、Mg、Te、Se、Sについて元素の割合を算出した。
【0077】
[発光波長、発光半値幅、発光効率測定]
実施例1,2及び比較例1において、量子ドットの蛍光発光特性評価としては、大塚電子株式会社製:量子効率測定システム(QE-2100)用いて、励起波長450nmにおける量子ドットの発光波長、蛍光発光の半値幅及び蛍光発光効率(内部量子効率)を測定した。
【0078】
実施例1、2及び比較例1の測定結果を表1にまとめて示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示すとおり、上記のように、実施例1、2は、Mg含有シェル層合成後において、コア合成後より平均粒子径が2nm程度大きくなった。さらに元素分析からMg元素が検出され、ZnMgSeが形成されているものとみられる。なお、実施例1,2のシェル層は、Mg含有シェル層を形成した溶液中で形成したためにMgを含んでいる。その後、シェル層を形成した後の発光特性を比較してみると、比較例1よりも実施例1、2は発光波長が長波長シフトしているものの、発光の半値幅は比較例に比べると小さくなっており、格子ミスマッチの小さいシェルになるためシェル層がきれいに成長しやすくなったことを示唆していた。蛍光発光効率(内部量子効率)は、実施例1、2が比較例1よりも高いことが確認でき、Mg含有シェル層が量子収率の改善に効果があることが示された。また、シェル層を形成しても凝集による発光の半値幅の悪化を伴う長波長シフトが起きないことから、発光波長の調整が容易であることが示された。コアシェル型量子ドットの製造方法についても、コア合成、Mg含有シェル層形成、シェル層形成を連続的に行えることからスケールアップも容易な製造方法であることが示された。
【0081】
以上のとおり、本発明の実施例によれば、量子収率、蛍光発光効率を向上させ、発光の半値幅の狭いコアシェル型量子ドットを得ることができた。
【0082】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0083】
1…半導体ナノ結晶コア、 2…半導体ナノ結晶シェル、 2A…Mg含有シェル層、
2B…シェル層、 10…コアシェル型量子ドット。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-03-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0058
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0058】
(シェル層形成ステップ)
図2のS3のように、さらにシェル層2Bを形成することができる。シェル層2BはMgを含有しても良いしMg非含有のシェル層としてもよい。製造の簡便化のため、上述のMg含有シェル層を形成するステップ後の反応溶液を用いてそのままシェル層を成長させることが好ましい。シェル層2Bの構造は、ZnSe、ZnS又はその混晶を含むシェル構造が好ましく、特に限定されないが、安定性の観点から最表面はZnSを用いることが好ましい。シェル層合成後の凝集を抑える目的でリガンドを溶解させた溶液に第II族前駆体、第VI族前駆体をそれぞれ添加して溶解させることが望ましい。反応は第II族前駆体溶液をMg含有シェル層形成ステップ後の反応溶液に加えて混合溶液を作製した後、第VI族前駆体溶液を150℃以上350℃以下の高温条件で添加することで第II-VI族半導体ナノ結晶シェルを合成できる。