(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170121
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】粒子径分布算出方法、粒子径分布測定装置、及び、粒子径分布算出プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 15/02 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
G01N15/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076028
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】安藤 嘉健
(72)【発明者】
【氏名】森 哲也
(57)【要約】
【課題】ハードウエアの改造や追加を行うことなく、屈折率の異なる複数の粒子が含まれる試料において各粒子の粒子径分布を簡単な手法で算出できる粒子径分布算出方法を提供する。
【解決手段】分散媒中に第1屈折率を有する第1粒子を含む第1試料で測定された第1生光強度分布と、前記第1屈折率とは異なる第2屈折率を有する第2粒子が前記第1試料にさらに混合された第2試料で測定された第2生光強度分布と、を具備する生信号行列を生成する生信号行列生成ステップと、前記生信号行列に基づいて、各生光強度分布に対する第1粒子の寄与度である第1寄与分布と、各生光強度分布に対する第2粒子の寄与度である第2寄与分布と、を具備する純粒子信号行列を算出する純粒子信号行列算出ステップと、前記純粒子信号行列に基づいて、第2粒子の粒子径分布を算出する粒子径分布算出ステップと、を備えた。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒中に第1屈折率を有する第1粒子を含む第1試料で測定された第1生光強度分布と、前記第1屈折率とは異なる第2屈折率を有する第2粒子が前記第1試料にさらに混合された第2試料で測定された第2生光強度分布と、を具備する生信号行列を生成する生信号行列生成ステップと、
前記生信号行列に基づいて、各生光強度分布に対する第1粒子の寄与度である第1寄与分布と、各生光強度分布に対する第2粒子の寄与度である第2寄与分布と、を具備する純粒子信号行列を算出する純粒子信号行列算出ステップと、
前記純粒子信号行列に基づいて、第2粒子の粒子径分布を算出する粒子径分布算出ステップと、を備えた粒子径分布算出方法。
【請求項2】
Nが2以上の自然数とし、それぞれ異なる第1~第N屈折率を有する第1~第N粒子があり、第1~第N粒子を含む試料を第N試料とした場合において、
第(N-1)試料に第N粒子を添加して第N試料を生成する粒子添加ステップと、
第N試料に光を照射して得られる回折/散乱光の第N生光強度分布を測定する生信号取得ステップと、をさらに備え、
前記生信号行列生成ステップにおいて、第1~第N生光強度分布を具備する前記生信号行列を生成する請求項1記載の粒子径分布算出方法。
【請求項3】
分散媒に第1試料を添加する第1粒子添加ステップと、
前記第1試料に光を照射して得られる回折/散乱光の第1生光強度分布を測定する第1生信号取得ステップと、をさらに備え、
前記粒子添加ステップと前記生信号取得ステップとを交互に繰り返して、第2~第N生光強度分布をそれぞれ測定する請求項2記載の粒子径分布算出方法。
【請求項4】
第1~第(N-1)試料に対応する第1~第(N-1)生光強度分布が既知であり、
第N試料についてのみ前記粒子添加ステップと、前記生信号取得ステップが行われる請求項2記載の粒子径分布算出方法。
【請求項5】
粒子を含まない分散媒に対して光を照射して得られる回折/散乱光の分散媒光強度分布を測定する分散媒測定ステップをさらに備え、
前記生信号行列生成ステップにおいて、前記分散媒光強度分布と前記第1~第N生光強度分布とを具備する前記生信号行列を生成する請求項2乃至4いずれか一項に記載の粒子径分布算出方法。
【請求項6】
前記純粒子信号行列算出ステップにおいて、前記第1~第N生光強度分布を具備する前記生信号行列に基づいて、第1~第N生光強度分布に対する第1~第N粒子の寄与分である第1~第N寄与分布を具備する前記純粒子信号行列を算出する請求項2乃至5いずれか一項に記載の粒子径分布算出方法。
【請求項7】
前記純粒子信号行列生成ステップにおいて、第1~第N試料のそれぞれにおける第1~第N粒子の相対濃度分布を具備する濃度行列と未知行列である前記純粒子信号行列の積が、前記生信号行列に等しいと仮定した連立方程式に基づいて、前記純粒子信号行列の解を得る請求項2乃至6いずれか一項に記載の粒子径分布算出方法。
【請求項8】
前記生信号行列をM、前記濃度行列をC、Cの擬似逆行列をC+、前記純粒子信号行列をS、Sの擬似逆行列をS+とした場合に、
前記純粒子信号行列生成ステップが、
S=C+×Mによって前記純粒子信号行列Sを得る解算出ステップと、
前記解算出ステップで得られたSを用い、C=M×S+によって前記濃度行列を更新する濃度行列更新ステップと、
前記濃度更新ステップで得られたCの各要素CijについてCij<0ならば、Cij=0に置き換える濃度行列修正ステップと、を備え、
前記解算出ステップ、前記濃度行列更新ステップ、及び、前記濃度行列修正ステップをこの順番で繰り返して、収束した前記純粒子信号行列Sを得る請求項7記載の粒子径分布算出方法。
【請求項9】
前記粒子径分布算出ステップが、
第N試料の第N生光強度分布MNjと、前記純粒子信号行列Sの擬似逆行列であるS+と、に基づいて、第N試料における分散媒の相対濃度CN0と第1~第N粒子の相対濃度CNj(j=1~N)をそれぞれ算出する相対濃度算出ステップと、
前記相対濃度算出ステップで算出された相対濃度CN0、CNjと、前記純粒子信号行列Sと、に基づいて、第N試料における第1~第N粒子のそれぞれの個別光強度分布Xj(j=1~N)を算出する個別光強度分布算出ステップと、
分散媒の個別光強度分布X0及び前記個別光強度分布Xjと、第1~第N粒子の第1~第N屈折率とに基づいて、第N試料における第1~第N粒子の粒子径分布を算出する個別粒子径算出ステップと、を備えた請求項8記載の粒子径分布算出方法。
【請求項10】
前記個別光強度分布算出ステップで算出された第N試料における第1~第N粒子の個別光強度分布又は個別光強度分布の線形和をディスプレイに表示する個別光強度分布表示ステップをさらに備えた請求項9記載の粒子径分布算出方法。
【請求項11】
分散媒中に第1屈折率を有する第1粒子を含む第1試料で測定された第1生光強度分布と、前記第1屈折率とは異なる第2屈折率を有する第2粒子が前記第1試料にさらに混合された第2試料で測定された第2生光強度分布と、を具備する生信号行列を生成する生信号行列生成部と、
前記生信号行列に基づいて、各生光強度分布に対する第1粒子の寄与度である第1寄与分布と、各生光強度分布に対する第2粒子の寄与度である第2寄与分布と、を具備する純粒子信号行列を算出する純粒子信号行列算出部と、
前記純粒子信号行列に基づいて、第2粒子の粒子径分布を算出する個別粒子径分布算出部と、を備えた粒子径分布測定装置。
【請求項12】
分散媒中に第1屈折率を有する第1粒子を含む第1試料で測定された第1生光強度分布と、前記第1屈折率とは異なる第2屈折率を有する第2粒子が前記第1試料にさらに混合された第2試料で測定された第2生光強度分布と、を具備する生信号行列を生成する生信号行列生成部と、
前記生信号行列に基づいて、各生光強度分布に対する第1粒子の寄与度である第1寄与分布と、各生光強度分布に対する第2粒子の寄与度である第2寄与分布と、を具備する純粒子信号行列を算出する純粒子信号行列算出部と、
前記純粒子信号行列に基づいて、第2粒子の粒子径分布を算出する個別粒子径分布算出部と、としての機能をコンピュータに発揮させる粒子径分布算出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率の異なる粒子が複数含まれる試料における粒子径分布の測定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料中の粒子の粒子径分布を測定するために粒子径分布測定装置が用いられている。粒子径分布測定装置は、セル内に収容されている試料に対してレーザ光を照射し、試料中の粒子で回折又は散乱された光を複数の受光素子で受光する。各受光素子が出力する回折又は散乱光による光強度分布と、粒子の屈折率とに基づいて、試料中の粒子径分布は算出される。
【0003】
また、従来の粒子径分布測定装置は、試料に含まれる粒子は1種類であり、屈折率も1つしかないという前提で粒子径分布の算出を行うように構成されているものが多い。このため、試料中に屈折率の異なる粒子が複数含まれていても、粒子の種類ごとに粒子径分布の測定できないことがある。
【0004】
ところで、特許文献1では2種類の屈折率の異なる粒子を含む試料において各粒子の粒子径分布を得る算出方法が提案されている。具体的には、各粒子が均一の寸法と仮定したときに得られる理論的な散乱光又は回折光による光強度分布モデルを事前に複数求めておき、それらを線形結合して試料で測定された光強度分布と一致したときの係数ベクトルに基づいて、各粒子の粒子径分布がそれぞれ算出される。
【0005】
しかしながら、上記の方法では各粒子について妥当な粒子径分布を得られるようにするには、各粒子の粒子径との大小関係に応じて多数の理論的な光強度分布モデルを事前に求めておく必要があるが、例えば未知試料であれば凝集などによって粒子径が不明であるため、理論的な光強度分布モデルを準備することは難しい。また、試料中に含まれる粒子の種類が多数になるほど係数ベクトルのサイズは大きくなるため、係数ベクトルを求める演算処理を行うこと自体が難しくなる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、ハードウエアの改造や追加を行うことなく、屈折率の異なる複数の粒子が含まれる試料において各粒子の粒子径分布を簡単な手法で算出できる粒子径分布算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る粒子径分布測定方法は、分散媒中に第1屈折率を有する第1粒子を含む第1試料で測定された第1生光強度分布と、前記第1屈折率とは異なる第2屈折率を有する第2粒子が前記第1試料にさらに混合された第2試料で測定された第2生光強度分布と、を具備する生信号行列を生成する生信号行列生成ステップと、前記生信号行列に基づいて、各生光強度分布に対する第1粒子の寄与度である第1寄与分布と、各生光強度分布に対する第2粒子の寄与度である第2寄与分布と、を具備する純粒子信号行列を算出する純粒子信号行列算出ステップと、前記純粒子信号行列に基づいて、第2粒子の粒子径分布を算出する粒子径分布算出ステップと、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る粒子径分布測定装置は、分散媒中に第1屈折率を有する第1粒子を含む第1試料で測定された第1生光強度分布と、前記第1屈折率とは異なる第2屈折率を有する第2粒子が前記第1試料にさらに混合された第2試料で測定された第2生光強度分布と、を具備する生信号行列を生成する生信号行列生成部と、前記生信号行列に基づいて、各生光強度分布に対する第1粒子の寄与度である第1寄与分布と、各生光強度分布に対する第2粒子の寄与度である第2寄与分布と、を具備する純粒子信号行列を算出する純粒子信号行列算出部と、前記純粒子信号行列に基づいて、第2粒子の粒子径分布を算出する個別粒子径分布算出部と、を備えたことを特徴する。
【0010】
このようなものであれば、前記生信号行列に含まれる第1生光強度分布と第2生光強度分布の違いに基づいて、各粒子の各生光強度分布における寄与度を算出できるので、複数の粒子が含まれる第2試料における第2粒子の粒子径分布を算出できる。
【0011】
本発明に係る粒子径分布算出方法は、2種類以上の粒子が含まれている試料についても、各粒子の個別の粒子径分布を算出することができる。この算出のために必要となる複数組の粒子径分布を測定するための具体的な手順としては、Nが2以上の自然数とし、それぞれ異なる第1~第N屈折率を有する第1~第N粒子があり、第1~第N粒子を含む試料を第N試料とした場合において、第(N-1)試料に第N粒子を添加して第N試料を生成する粒子添加ステップと、第N試料に光を照射して得られる回折/散乱光の第N生光強度分布を測定する生信号取得ステップと、をさらに備え、前記生信号行列生成ステップにおいて、第1~第N生光強度分布を具備する前記生信号行列を生成するものが挙げられる。
【0012】
第1~第N試料に対応する第1~第N生光強度分布を順次測定できるようにするには、分散媒に第1試料を添加する第1粒子添加ステップと、前記第1試料に光を照射して得られる回折/散乱光の第1生光強度分布を測定する第1生信号取得ステップと、をさらに備え、前記粒子添加ステップと前記生信号取得ステップとを交互に繰り返して、第2~第N生光強度分布をそれぞれ測定すればよい。
【0013】
例えばデータベース等に記憶されている過去の複数種類の粒子が含まれる試料について測定された生光強度分布を用いて、さらに別の粒子が添加された試料における各粒子の個別の粒子径分布を算出できるようにするとともに、実測の回数を減らせるようにするには、第1~第(N-1)試料に対応する第1~第(N-1)生光強度分布が既知であり、第N試料についてのみ前記粒子添加ステップと、前記生信号取得ステップが行えばよい。
【0014】
分散媒による回折又は散乱による影響を考慮して、第N試料における各粒子の粒子径分布を正確に算出できるようにするには、粒子を含まない分散媒に対して光を照射して得られる回折/散乱光の分散媒光強度分布を測定する分散媒測定ステップをさらに備え、前記生信号行列生成ステップにおいて、前記分散媒光強度分布と前記第1~第N生光強度分布とを具備する前記生信号行列を生成すればよい。
【0015】
前記純粒子信号行列算出ステップにおいて、前記第1~第N生光強度分布を具備する前記生信号行列に基づいて、第1~第N生光強度分布に対する第1~第N粒子の寄与分である第1~第N寄与分布を具備する前記純粒子信号行列を算出すれば、多数の粒子を含む試料においても、各粒子の個別の粒子径分布を算出することが可能となる。
【0016】
前記純粒子信号行列を算出するための具体的な手順としては、前記純粒子信号行列生成ステップにおいて、第1~第N試料のそれぞれにおける第1~第N粒子の相対濃度分布を具備する濃度行列と未知行列である前記純粒子信号行列の積が、前記生信号行列に等しい又はほぼ等しいと仮定した連立方程式に基づいて、前記純粒子信号行列の解を得るものが挙げられる。
【0017】
前記純粒子信号行列を簡単な行列演算によって算出するには、前記生信号行列をM、前記濃度行列をC、Cの擬似逆行列をC+、前記純粒子信号行列をS、Sの擬似逆行列をS+とした場合に、前記純粒子信号行列生成ステップが、S=C+×Mによって前記純粒子信号行列Sを得る解算出ステップと、前記解算出ステップで得られたSを用い、C=M×S+によって前記濃度行列を更新する濃度行列更新ステップと、前記濃度更新ステップで得られたCの各要素CijについてCij<0ならば、Cij=0に置き換える濃度行列修正ステップと、を備え、前記解算出ステップ、前記濃度行列更新ステップ、及び、前記濃度行列修正ステップをこの順番で繰り返して、収束した前記純粒子信号行列Sを得ればよい。
【0018】
多数の粒子が含まれている未知試料で測定された生光強度分布、前記純粒子信号行列、及び、前記濃度行列に基づいて、未知試料における各粒子の粒子径分布を算出するには、前記粒子径分布算出ステップが、第N試料の第N生光強度分布MNjと、前記純粒子信号行列Sの擬似逆行列であるS+と、に基づいて、第N試料における分散媒の相対濃度CN0と第1~第N粒子の相対濃度CNj(j=1~N)をそれぞれ算出する相対濃度算出ステップと、前記相対濃度算出ステップで算出された相対濃度CN0、CNjと、前記純粒子信号行列Sと、に基づいて、第N試料における第1~第N粒子のそれぞれの個別光強度分布Xj(j=1~N)を算出する個別光強度分布算出ステップと、分散媒の個別光強度分布X0及び前記個別光強度分布Xjと、第1~第N粒子の第1~第N屈折率とに基づいて、第N試料における第1~第N粒子の粒子径分布を算出する個別粒子径算出ステップと、を備えればよい。また、算出された個別光強度分布が妥当なものであるかをユーザがすぐに確認できるようにするには、前記個別光強度分布算出ステップで算出された第N試料における第1~第N粒子の個別光強度分布又は個別光強度分布の線形和をディスプレイに表示する個別光強度分布表示ステップをさらに備えればよい。
【0019】
既存の粒子径分布測定装置においてハードウエアの追加や改造を行わなくてもソフトウエアの更新のみで多数の粒子が含まれる試料中における各粒子の個別の粒子径分布を算出できるようにするには、分散媒中に第1屈折率を有する第1粒子を含む第1試料で測定された第1生光強度分布と、前記第1屈折率とは異なる第2屈折率を有する第2粒子が前記第1試料にさらに混合された第2試料で測定された第2生光強度分布と、を具備する生信号行列を生成する生信号行列生成部と、前記生信号行列に基づいて、各生光強度分布に対する第1粒子の寄与度である第1寄与分布と、各生光強度分布に対する第2粒子の寄与度である第2寄与分布と、を具備する純粒子信号行列を算出する純粒子信号行列算出部と、前記純粒子信号行列に基づいて、第2粒子の粒子径分布を算出する個別粒子径分布算出部と、としての機能をコンピュータに発揮させる粒子径分布算出プログラムを用いれば良い。
【0020】
なお、粒子径分布算出プログラムは、電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、フラッシュメモリ等のプログラム記録媒体に記録されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0021】
このように本発明に係る粒子径分布算出方法は、それぞれ含まれている粒子の種類が異なる試料で測定された生光強度分布を利用して、最終的な複数の粒子が含まれる試料中における各粒子の個別の粒子径分布を算出することができる。この算出方法は、従来の粒子径分布測定装置においてハードウエアの追加や改造を必要としない。加えて、各粒子の屈折率や照射されるレーザ光の波長と粒子径の関係等を考慮した精緻な光学モデルを構築しなくても、簡単な行列演算等で各粒子の個別の粒子径分布を算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る粒子径分布測定装置の一実施形態を示す模式図。
【
図2】同実施形態における演算装置の構成を示す機能ブロック図。
【
図3】同実施形態における粒子を順次添加して第1~第N試料の生光強度分布を測定する手順を示す模式図。
【
図4】同実施形態における純粒子信号行列を算出するために用いられる各行列の構成を示す模式図。
【
図5】同実施形態において2種類の粒子が分散媒に分散される場合の各時点での生光強度分布。
【
図6】同実施形態における分散媒単独、第1粒子単独、及び、第2粒子単独での光強度分布の算出結果。
【
図7】同実施形態における分散媒+第1粒子、及び、分散媒+第2粒子の光強度分布の算出結果。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明に係る粒子径分布測定装置100の一実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態の粒子径分布測定装置100は、分散媒中に屈折率の異なる複数の粒子が分散している場合に、各粒子についてそれぞれ粒子径分布を算出するように構成されている。
【0024】
具体的には粒子径分布測定装置100は、
図1に示すように、粒子に光を照射した際に生じる回折光又は散乱光の拡がり角度に応じた光強度分布が、回折理論及びMIE散乱理論から粒子径によって定まることを利用し、回折光又は散乱光を検出することによって粒子径分布を測定するものである。粒子径分布測定装置100はハードウエアとして装置本体10と演算装置20と、を備えている。
【0025】
装置本体10は、測定対象である粒子を収容するセル11と、そのセル11内の粒子にレンズ12を介してレーザ光を照射する光源13たるレーザ発振器と、レーザ光の照射により生じる回折光又は散乱光の光強度を拡がり角度に応じて検出する複数の光検出器14とを備えたものである。複数の光検出器14はそれぞれが個別のチャンネル(ch)として機能し、チャンネルの番号とそのチャンネル番号の光検出器14から出力される光強度が対となった光強度分布がベクトルデータとして測定ごとにデータベース内に保存される。なお、ここでのセル11はバッチ式のセルであるが、循環式のセルであっても良いし、空気中に固体粒子や液体粒子が分散した乾式のものであっても良い。
【0026】
測定対象となる粒子としては、医薬品、食品、化学工業品などを挙げることができ、ここでの粒子はセル11に収容されたに分散媒中に分散されている。なお、分散媒は湿式であれば液体であり、乾式であれば気体である。また、セル11内の分散媒内に分散されている粒子としては、1種類に限られるものではなく、それぞれ屈折率が異なる複数の粒子が分散されている場合もある。加えて、セル11内の分散媒に粒子が分散されていない場合もある。粒子は固体状のものに限られず、例えば気泡等を粒子として取り扱ってもよい。また、粒子の形状は特に限定されず、球形、楕円形、針状等様々な形状もあり得る。
【0027】
演算装置20は、物理的に言えば、CPU、メモリ、入出力インターフェース等を備えた汎用乃至専用のコンピュータであり、当該メモリの所定領域に記憶させた所定のプログラムにしたがって、CPUや周辺機器を協働させることにより、
図2に示すように、受付部21、生光強度分布記憶部22、生信号行列生成部23、濃度行列生成部24、純粒子信号行列算出部25、個別粒子径分布算出部26としての機能を少なくとも発揮するように構成されている。
【0028】
受付部21は、ユーザからの入力を受け付けて、各部の動作を制御するものである。具体的にはユーザの入力に基づいて、粒子径分布の算出に必要となる生光強度分布のデータベースへの記録や、各種パラメータの設定が行われる。
【0029】
生光強度分布記憶部22は、各光検出器14から出力される光強度をチャンネル番号と紐付け、生光強度分布として記憶する。ここで、受付部21に入力されている測定時のセル11内に収容されている試料に含まれている粒子の種類が生光強度分布に紐付けられる。本実施形態では光強度分布の測定は、分散媒に対して新たな粒子が追加される度に行われる。
【0030】
より具体的には、
図3に示すようにまずセル11内に分散媒のみを満たした状態で分散媒生光強度分布が測定される。次に分散媒に第1粒子が添加されて、当該第1粒子が分散された状態の第1試料で第1生光強度分布が測定される。さらに分散媒に第2粒子が添加されて、分散媒に第1粒子と第2粒子が分散している状態の第2試料で第2生光強度分布が測定される。このような粒子の添加及び生光強度分布の測定を繰り返し、最後の粒子である第N粒子(以下、Nは2以上の任意の自然数)が添加された分散媒に第1~第N粒子を含む第N試料の第N生光強度分布が測定されることで一連の測定が終了する。ここで、添加される第1~第N粒子はそれぞれ異なる屈折率を有するものである。また、セル11内においてレーザ光が通過する距離となるセル11の厚みは第1~第N粒子が分散媒に添加された状態において多重化しないように構成されている。すなわち、ある粒子で回折又は散乱された光が別の粒子で回折又は散乱された後に光検出器14で検出されるといったことはほぼ生じず、ある粒子において一度回折又は散乱した光は直接光検出器14に入射するように構成されている。例えばセル11は高濃度試料を測定するために用いられる微小隙間を有する平行平板を具備する高濃度セルを用いればよい。
【0031】
図3に示すように新たな粒子が添加されるごとに光強度分布は変化することになる。また、各回での測定で得られた各生光強度分布は、各測定時に受付部21に入力されている分散媒に含まれている粒子の数及び種類とともに生光強度分布記憶部22に記憶される。分散媒と第1~第N試料において測定された分散媒生光強度分布、及び、第1~第N生光強度分布が記憶されるので、少なくとも(N+1)組の生光強度分布のデータセットが生光強度分布記憶部22に記憶されるが、本実施形態では各組について2回の測定を行うようにして、各回の測定誤差を低減するようにしてある。
【0032】
以下では生光強度分布記憶部22に記憶されている分散媒及び第1~第N試料の生光強度分布に基づいて、第N試料における第1~第N試料の個別の粒子径分布を算出する手順について説明する。また、その説明に併せて生信号行列生成部23、濃度行列生成部24、純粒子信号行列算出部25、個別粒子径分布算出部26、及び、算出結果表示部27の構成についても説明する。
【0033】
本実施形態ではまず、第N試料の光強度分布における第1~第N粒子のそれぞれの寄与度を第1~第N試料で測定された多数の光強度分布に基づいて算出する(ステップS1)。次に得られた第N試料における第1~第N粒子の光強度分布に対する寄与度に基づいて、第N試料の光強度分布を分散媒及び第1~第N粒子による光強度分布に分解する(ステップS2)。最後に分解された分散媒の光強度分布と、第1~第N粒子のいずれか1つの光強度分布の線形和を求めて、得られた光強度分布から第N試料における個別の粒子の粒子径分布を算出する(ステップS3)。
【0034】
まず、ステップS1について詳述する。
【0035】
生信号行列生成部23は、生光強度分布記憶部22に記憶されている各光強度分布に基づいて、生信号行列Mを生成する。
図4に示すように生信号行列Mは、各行ベクトルが分散媒又は第1~第N試料で測定された第1~第N生光強度分布であり、各光強度分布を列方向に並べたものである。本実施形態では列番号が生光強度分布のチャンネル番号と一致させてある。行方向に対して各生光強度分布は測定された順番に並べてある。本実施形態では分散媒及び第1~第N試料において2回光強度分布を測定しているので、生信号行列Mは、2(N+1)行×最大チャンネル番号列の行列となる。
【0036】
また、濃度行列生成部24は受付部21によるユーザの入力又は初期設定値に基づいて、分散媒及び第1~第N試料における分散媒及び各粒子の相対濃度を規定する濃度行列Cを生成する。この濃度行列Cは
図4に示すように最初は第1~第N試料において含まれている粒子については1が設定され、含まれていない粒子については0が設定される。濃度行列Cの各要素は後述する収束演算の間に変化することになる。
【0037】
純粒子信号行列算出部25は、生信号行列M及び濃度行列Cに基づいて、各試料の光強度分布における各粒子の寄与度を示す純粒子信号行列Sを算出する。純粒子信号行列Sは、未知の行列であり、行ベクトルは生信号行列Mの対応する行の生光強度分布における各粒子の寄与度分布を示すものとなる。言い換えると、寄与度分布は測定された光強度分布において、濃度影響等を考慮せずに算出した各粒子単独の光強度分布である。最終的には全ての粒子が含まれている第N試料で測定された第N生光強度分布における各粒子の寄与度分布を得ることが目的となる。本実施形態では、M=C×Sの連立方程式に基づいて、純粒子信号行列算出部25は数値計算により純粒子信号行列Sを決定する。
【0038】
具体的には濃度行列Cの擬似逆行列をC+、純粒子信号行列Sの擬似逆行列をS+とした場合に、純粒子信号行列算出部25は、以下の解算出ステップ、濃度行列更新ステップ、及び、濃度行列修正ステップの3つのステップを純粒子信号行列Sの収束条件を満たして収束するまで繰り返す。
【0039】
解算出ステップでは、純粒子信号行列算出部25はS=C+×Mを演算して純粒子信号行列Sを算出する。次に濃度行列更新ステップでは、純粒子信号行列算出部25は解算出ステップで得られたSを用い、C=M×S+によって濃度行列Cを更新する。最後に濃度行列修正ステップでは、純粒子信号行列算出部25は濃度更新ステップで得られたCの各要素CijについてCij<0ならば、Cij=0に置き換えて濃度行列Cを修正する。このような3つのステップを所定回数繰り返すことで、最終的な純粒子信号行列Sが決定される。例えば所定回数繰り返し演算を行っても現在の純粒子信号行列Sと前回の重粒子信号行列Sにおける各要素の差が所定値以内に収束していない場合にはエラー通知がユーザに対してされる。
【0040】
次にステップS2について詳述する。このステップS2は相対濃度算出ステップと、個別光強度分布算出ステップとからなる。
【0041】
相対濃度算出ステップでは、個別粒子径分布算出部26が、第N試料の第N生光強度分布MNjと、純粒子信号行列Sの擬似逆行列であるS+と、に基づいて、第N試料における分散媒の相対濃度CN0と第1~第N粒子の相対濃度CNj(j=1~N)をそれぞれ算出する。
【0042】
個別光強度分布算出ステップでは、個別粒子径分布算出部26が、相対濃度算出ステップで算出された相対濃度CN0、CNjと、純粒子信号行列Sと、に基づいて、第N試料における第1~第N粒子のそれぞれの個別光強度分布Xj(j=1~N)を算出する。個別粒子径分布算出部26はこの個別光強度分布は例えばディスプレイに表示する。
【0043】
最後にステップS3について説明する。
【0044】
個別粒子径分布算出部26は、分散媒の個別光強度分布X0及び個別光強度分布Xjと、第1~第N粒子の第1~第N屈折率とに基づいて、第N試料における第1~第N粒子の粒子径分布を算出する。
【0045】
このように構成された粒子径分布測定装置100による効果について、分散媒に最終的に第1粒子及び第2粒子の2種類の粒子が分散される場合(すなわち、N=2の場合)における各粒子の個別の光強度分布を算出した結果である
図5乃至
図7を参照しながら説明する。
【0046】
図5の各グラフは分散媒生光強度分布、第1粒子が分散媒に分散された状態で測定された第1生光強度分布、第1粒子及び第2粒子が分散媒に分散された状態で測定された第2生光強度分布を示す。新たな粒子が添加されるごとに光強度分布が変化することが分かる。
【0047】
図6は前述した手順により算出された分散媒単独の光強度分布、第1粒子単独の光強度分布、第2試料単独の光強度分布を示す。
図7は
図6の結果に基づいて算出された分散媒に第1粒子のみが分散されている状態での光強度分布の算出結果と、分散媒に第2粒子のみが分散されている状態での光強度分布の算出結果を示す。これらの算出結果のグラフ等は算出結果表示部27がディスプレイ上に表示する。分散媒に第1粒子のみが分散されている状態の光強度分布は実測されている第1生光強度分布とほぼ同じ形状をしていることから、第1粒子及び第2粒子が分散している第2試料の生光強度分布から、分散媒に第2粒子が分散している状態での光強度分布の算出結果も所定の精度で分離できていることが分かる。したがって、本実施形態の手法であれば屈折率の異なる複数の粒子が混合されている試料で測定された生光強度分布から、分散媒に所望の粒子のみが分散されている状態での光強度分布を推定できる。また、このように複数の粒子が混合した状態の試料で測定された生光強度分布から各粒子単独の光強度分布が算出できるので、算出された光強度分布に基づいて、粒子ごとの粒子径分布も既存の手法に基づいて算出できる。
【0048】
その他の実施形態について説明する。
【0049】
前記実施形態では、全ての生光強度分布について逐次測定していたが、一部の光強度分布のみを実測し、その他の生光強度分布についてはデータベースに保存されている過去の生光強度分布を用いてもよい。すなわち、第1~第(N-1)試料に対応する第1~第(N-1)生光強度分布が既知であり、第N試料についてのみ粒子添加ステップと、生信号取得ステップが行われるようにしてもよい。
【0050】
粒子については複数種類の粒子のグループを1つの粒子として取り扱ってもよい。例えば複数の粒子が混合されている試料においてある1つの粒子の個別粒子径分布は正確に算出したいが、その他の複数種の粒子については個別粒子径分布をそれぞれ算出する必要がない場合には、その他の複数種の粒子を1種の粒子として取り扱って前記実施形態の手法で演算を行えば良い。
【0051】
本発明の適用対象となる試料は屈折率が異なる粒子が2種含まれているものに限られず、例えば屈折率の異なる粒子が3種類(N=3)であってもよいし、さらに多数の粒子(N≧4)が混合されていてもよい。本発明に係る手法であれば、粒子が3種類以上分散媒中に混合されていたとしても各粒子の個別粒子径分布を算出することができる。また、各粒子の個別の光強度分布についても推定できる。
【0052】
生信号行列を構成する分散媒及び第1~第N試料で測定される各生光強度分布については、それぞれ同数の2回ずつ測定するものに限られない。例えば一部の光強度分布については3回等の異なる回数だけ測定を行ってもよい。すなわち、生信号行列は分散媒又は第1~第N試料の光強度分布の行がそれぞれ同数のものに限られず、分散媒又は第1~第N試料によって行数が一部又は全部が異なっていても良い。このような場合には生信号行列の構成にあわせて濃度行列や純信号行列の構成を適宜設定すればよい。
【0053】
個別粒子径分布算出部が算出する第N試料における各粒子の粒子径分布は、分散媒単独の光強度分布と対象となる粒子の光強度分布の線形和に基づいて算出されたものであったが、例えば分散媒単独の光強度分布を用いずに各粒子単独の光強度分布だけから各粒子の個別の粒子径分布を算出するようにしてもよい。
【0054】
生信号行列M、濃度行列C、及び、純粒子信号行列Sからなる連立方程式については誤差行列Eを用いてM=C×S+Eで規定してもよい。このような連立方程式に基づいて濃度行列C及び純粒子信号行列Sを繰り返し演算によって決定する場合の収束判定条件としては、誤差行列Eが十分に小さくなったかという判定条件が挙げられる。
【0055】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0056】
100 :粒子径分布測定装置
10 :装置本体
11 :セル
12 :レンズ
13 :光源
14 :光検出器
20 :演算装置
21 :受付部
22 :生光強度分布記憶部
23 :生信号行列生成部
24 :濃度行列生成部
25 :純粒子信号行列算出部
26 :個別粒子径分布算出部