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  • 特開-細胞外小胞の検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170125
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】細胞外小胞の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20221102BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20221102BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221102BHJP
   G01N 33/58 20060101ALI20221102BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
C12N15/12
C12N5/10
G01N33/58 A
G01N33/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076036
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松永 太一
(72)【発明者】
【氏名】兜坂 健太
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G045CB30
2G045DA36
2G045FB01
2G045FB14
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QR77
4B063QX02
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】 特定細胞から放出された細胞外小胞を簡便かつ高精度に検出する方法を提供すること。
【解決手段】 (a)細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたは(b)細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質とを個別に発現可能なポリヌクレオチドを特定細胞に遺伝子導入する工程と、前記導入した特定細胞を培養し細胞外小胞を放出させる工程と、前記(a)で遺伝子導入した特定細胞が放出した細胞外小胞に局在するタンパク質量と前記(b)で遺伝子導入した特定細胞が放出した細胞外小胞に局在するタンパク質量とをそれぞれ測定し前記(a)で遺伝子導入した特定細胞での測定値を前記(b)で遺伝子導入した特定細胞での測定値で補正する工程とを含む、細胞外小胞の検出方法により、前記課題を解決する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)細胞外小胞に局在するタンパク質を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを特定細胞に遺伝子導入する工程と、
(2)前記導入した特定細胞を培養し細胞外小胞を放出させる工程と、
(3)前記放出した細胞外小胞に局在するタンパク質を検出する工程とを含む、当該小胞の検出方法であって、
前記(1)の工程が、(a)細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または(b)細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質とを個別に発現可能なポリヌクレオチドを、特定細胞に遺伝子導入する工程であり、
前記(3)の工程が、前記(a)で遺伝子導入した特定細胞が放出した細胞外小胞に局在するタンパク質量と前記(b)で遺伝子導入した特定細胞が放出した細胞外小胞に局在するタンパク質量とをそれぞれ測定し、前記(a)で遺伝子導入した特定細胞での測定値を前記(b)で遺伝子導入した特定細胞での測定値で補正する工程である、前記検出方法。
【請求項2】
細胞外小胞に局在するタンパク質が4回膜貫通タンパク質である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質とを個別に発現可能なポリヌクレオチドが、細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質との間に自己切断ペプチドを挿入したポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである、請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の検出方法で得られた結果に基づき、特定細胞が放出した細胞外小胞の精製を最適化する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定細胞から放出された細胞外小胞を検出する方法に関する。特に本発明は、前記細胞外小胞に局在するタンパク質を測定し検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液などの体液や細胞の培養液などには、当該体液や培養液中に存在する細胞から放出される、細胞外小胞が含まれていることが知られている。細胞外小胞は、脂質二重膜で覆われたコロイド状の粒子であり、代表的なものにエクソソームやアポトーシス小胞があげられる。細胞外小胞は生体内の細胞間コミュニケーションの媒介役としての機能や、がん等の疾患や生理現象との関連性が近年報告されており、生理学的な機能の解明や疾患検査への応用に向けた研究が進められている。
【0003】
細胞外小胞の検出法としては、当該小胞の膜表面タンパク質を標的とした検出法が報告されている(特許文献1)。また細胞外小胞を含む試料から超遠心法などによって当該小胞を精製/濃縮後、前記小胞内部に存在するタンパク質を質量分析法やイムノブロット法やEnzyme-Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)法などで検出することで、前記小胞を検出する方法が知られている。しかしながら、これらの検出法は煩雑であり、かつ、使用する抗体の質に大きく依存するため、高感度な検出は困難であった。また、細胞外小胞を含む試料が細胞培養上清の場合、ウシ胎児血清など培養液中に含まれる成分由来の細胞外小胞を除去する必要があり、培養細胞が放出した細胞外小胞を選択的に回収するための培養条件を最適化する必要がある。
【0004】
これらの課題に対して、細胞外小胞に局在することが報告されているCD63と検出用タンパク質であるナノルシフェラーゼ(Nluc)との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを細胞に導入し、当該細胞の培養上清中のルシフェラーゼ活性を測定することで、細胞外小胞を検出する方法が報告されている(非特許文献1)。しかしながら、非特許文献1に記載の方法は、前記融合タンパクが、凝集した遊離タンパク質として培養上清中に存在するなど細胞外小胞中に局在していない可能性があり、かつ細胞外小胞に局在したタンパク質が非選択的に細胞外小胞内に内包された量を排除できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012-508577号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Scientific Reports,8,2018,14035
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、特定細胞から放出された細胞外小胞を簡便かつ高精度に検出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明の第一の態様は、
(1)細胞外小胞に局在するタンパク質を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを特定細胞に導入する工程と、
(2)前記導入した特定細胞を培養し細胞外小胞を放出させる工程と、
(3)前記放出した細胞外小胞に局在するタンパク質を検出する工程とを含む、当該小胞の検出方法であって、
前記(1)の工程が、(a)細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または(b)細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質とを個別に発現可能なポリヌクレオチドを、特定細胞に導入する工程であり、
前記(3)の工程が、前記(a)で遺伝子導入した特定細胞が放出した細胞外小胞に局在するタンパク質量と前記(b)で遺伝子導入した特定細胞が放出した細胞外小胞に局在するタンパク質量とをそれぞれ測定し、前記(a)で遺伝子導入した特定細胞での測定値を前記(b)で遺伝子導入した特定細胞での測定値で補正する工程である、前記検出方法である。
【0010】
また本発明の第二の態様は、細胞外小胞に局在するタンパク質が4回膜貫通タンパク質である、前記第一の態様に記載の検出方法である。
【0011】
また本発明の第三の態様は、細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質とを個別に発現可能なポリヌクレオチドが、細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質との間に自己切断ペプチドを挿入したポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである、前記第一または第二の態様に記載の検出方法である。
【0012】
また本発明の第四の態様は、前記第一から第三の態様のいずれかに記載の検出方法で得られた結果に基づき、特定細胞が放出した細胞外小胞の精製を最適化する方法である。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明において細胞外小胞とは、能動的/受動的に関わらず細胞が放出した、直径1nmから1μmの脂質で覆われた小胞のことをいう。一例として、エクソソーム、マイクロベシクル、エクトソーム、メンブレンパーティクル、エクソソーム様小胞、アポトーシス小胞が挙げられる(Nature Reviews,9,2009,581-593)。一般的に細胞外小胞は、放出元の細胞とは異なる組成の脂質やタンパク質で構成されていると報告されている(BioScience,65,2015,783-797)。
【0015】
本発明において、細胞外小胞の由来は特に限定されない。例えば、体液、細胞懸濁液、細胞培養後の培養液や培養上清、組織細胞の破砕液が挙げられる。中でも、体液や細胞培養後の培養上清が好ましい。体液の例として、全血、血清、血漿、血液成分、各種血球、血餅、血小板等の血液組成成分や、尿、精液、母乳、汗、間質液、間質性リンパ液、骨髄液、組織液、唾液、胃液、関節液、胸水、胆汁、腹水、羊水が挙げられる。中でも好ましくは血液組成成分であり、クエン酸、ヘパリン、EDTA等の抗凝固剤で処理したものでもよい。
【0016】
本発明において、細胞外小胞に局在するタンパク質に特に限定はない。一例として、CD63、CD9、TM4SF1(Transmembrane 4 Superfamily Member 1)といった4回膜貫通タンパク質(Transmembrane 4 superfamily、Tetraspanin)や、Integrin、Cadherinがあげられる。中でも、細胞外小胞に局在するタンパク質として4回膜貫通タンパク質を用いると好ましい。
【0017】
本発明において、検出用タンパク質も特に限定はなく、実験の簡便性や必要とする感度を考慮し、適宜選択すればよい。一例として、ルシフェラーゼやβガラクトシダーゼなどの発光タンパク質、GFP(緑色蛍光タンパク質)、RFP(赤色蛍光タンパク質)やDsRED(Discosoma赤色蛍光タンパク質)などの蛍光タンパク質、FLAGタグ、MYCタグ、HisタグやV5タグなどのエピトープタグペプチドが挙げられる。中でも、トゲオキヒオドシエビ由来のルシフェラーゼ(Nluc)が、ATP非依存的に基質を発光させることができ、検出のダイナミックレンジが広く、高感度であり、かつホタルやウミシイタケ由来のルシフェラーゼやGFPよりも分子量が小さい点で好ましい。
【0018】
細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質との融合タンパク質を設計する際、融合方法の限定は特にない。例えば、コドンフレームを合わせた上で、間にリンカー配列を挿入してもよいし、挿入せず直接融合してもよい。ただし、GSリンカー(例えば、配列番号10)などのグリシンとセリンから構成されるリンカーをコードするオリゴヌクレオチドを挿入すると、発現した融合タンパク質の柔軟性が向上するため、好ましい。また細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質との配置も特に限定はなく、細胞外小胞に局在するタンパク質をN末端側に、検出用タンパク質をC末端側にそれぞれ配置してもよいし、逆の配置にしてもよい。さらに検出感度向上のため、これらタンパク質をタンデムに複数配置してもよい。
【0019】
本発明では、前述した融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを特定細胞に導入するとともに、細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質とを個別に発現可能なポリヌクレオチドを別の特定細胞に導入することを特徴としている。細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質とを個別に発現可能な遺伝子導入細胞を作製する方法は特に限定はない。例えば、細胞外小胞に局在するタンパク質をコードするポリヌクレオチドと検出用タンパク質をコードするポリヌクレオチドとを、それぞれ異なるプロモーターの下流に別々に配置した、遺伝子組換え用プラスミドで特定細胞に遺伝子導入し、作製してもよい。また、細胞外小胞に局在するタンパク質をコードするポリヌクレオチドと検出用タンパク質をコードするポリヌクレオチドとの間にIRES(Internal Ribosome Entry Site)や2Aペプチドなどの自己切断ペプチドをコードするオリゴヌクレオチドといったリンカーヌクレオチドを挿入したものを含む、遺伝子組換え用プラスミドで特定細胞に遺伝子導入し、作製してもよい。中でも、プラスミドに挿入するポリヌクレオチドとして、細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質との間に自己切断ペプチドを挿入したポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いると、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを用いたときとほぼ同等の遺伝子組換えプラスミドが構築できる点で好ましい。自己切断ペプチドの一例である2Aペプチドには、P2A(配列番号1)、T2A(配列番号2)、E2A(配列番号3)、F2A(配列番号4)などが知られているが、切断活性が一般的に高いP2A(配列番号1)が特に好ましい。
【0020】
本発明において、特定細胞の遺伝子導入は、当該細胞を前述したポリヌクレオチドで導入できればよく、特に限定しない。Lipofectamine3000(ThermoFisher社製)、FuGENE(Promega社製)などの市販試薬を用いて一過的に遺伝子を導入してもよいし、エレクトロポレーション法やPiggyBacシステム(System Biosciences社製)などを用いて、導入遺伝子の安定発現細胞を樹立してもよい。また前述したポリヌクレオチドの塩基長が、一般的な動物細胞発現用プラスミドへの挿入が困難なサイズ(例えば5kbp以上)の場合、検出用タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、特定細胞が保有するゲノムDNAに、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)-CasシステムやTALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)などのゲノム編集技術を用いて直接挿入してもよい。
【0021】
本発明では、細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質との融合タンパク質をコードするポリペプチドを特定細胞に導入して得られる遺伝子導入細胞(以下、単に「融合タンパク質発現細胞」と表記する)、および細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質とを個別に発現可能なポリヌクレオチドを特定細胞に導入して得られる遺伝子導入細胞(以下、単に「非融合タンパク質発現細胞」とも表記する)が、それぞれ放出した細胞外小胞に局在するタンパク質量を測定し、融合タンパク質発現細胞での測定値を非融合タンパク質発現細胞での測定値で補正して、特定細胞が放出した細胞外小胞を検出する。細胞外小胞に局在するタンパク質の検出は、特定細胞に導入した検出用タンパク質に基づき、行なえばよい。一例として、検出用タンパク質としてNlucなどのルシフェラーゼを用いる場合は、ルシフェリンを作用させ、それ由来の発光の有無およびその強度に基づき、検出すればよい。非融合タンパク質発現細胞での測定値による融合タンパク質発現細胞での測定値の補正は、測定値の絶対値の差や比に基づき補正してもよいし、測定値の相対値の差や比に基づき補正してもよい。本補正により、特定細胞が放出した細胞外小胞を精度高く検出できる。
【0022】
本発明の検出結果に基づき、特定細胞が放出した細胞外小胞の精製方法を最適化することができる。また、細胞外小胞の精製方法に特に限定はなく、例えば、一般的に超遠心法を用いる方法が最もオーソドックスであるが、他にも単純に大量の細胞外小胞を沈降し回収できる方法を例示することができる。例えば超遠心法に、更に密度勾配法やスクロースクッション法を組み合わせることによって、より精製度の高い細胞外小胞を得ることができる。しかしながら、超遠心法は高い遠心力が必要な方法であり、後の工程に影響がある場合は、適宜、下に挙げるサイズ排除クロマトグラフィーやアフィニティー法などの別の方法を活用する必要がある。
また、サイズ排除クロマトグラフィーを例示することができるが、この方法は細胞外小胞の精製度は高いものの、多検体処理には時間を要し、溶出した細胞外小胞画分はより希釈されるため、インプット前や溶出後にサンプルを濃縮する必要がある場合がある。さらに、アフィニティー法では簡便に細胞外小胞を濃縮するメリットがあるが、全細胞外小胞の内、特定のマーカーを有する細胞外小胞のサブタイプのみを選択的に精製する可能性がある。他にもポリマー沈殿法を例示することができるが、簡便に比較的なインタクトな細胞外小胞を回収できるメリットがある。
上記のような各種の精製方法の特徴を踏まえ、超遠心法、サイズ排除クロマトグラフィー法、細胞膜ホスファチジルセリン(PS)やCD9などの細胞外小胞膜に局在す分子をターゲットとしたアフィニティー法、ポリマー沈殿法などの中から、実験系や設備に合わせて、適宜選択すればよい。
【0023】
上記に示した精製法において最適な選択方法に特に限定はない。例えば、細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質との融合タンパク質が局在する細胞外小胞をスパイク用に精製する。上記、精製した細胞外小胞を模擬サンプルにスパイクしたのち、各細胞外小胞の精製を実施し、最終的に精製した画分間のうち検出用タンパク質の量を指標に、最も適した細胞外小胞の精製法を選択してもよい。
【0024】
また、特定の精製法の各工程の条件検討に活用してもよい。例えば、細胞外小胞の精製工程において塩濃度や界面活性剤、糖濃度が異なる洗浄用緩衝液や懸濁液の条件を準備し、最終的に精製した画分にて検出用タンパク質の量を指標に、最も適した精製工程や試薬を選択してもよい。
【0025】
さらに、細胞外小胞の精製時に正しく回収できなかった原因探索のために、使用してもよい。例えば、実験に使用するチューブやデバイスなどの実験機材のうち非特異吸着の可能性が疑われる基材に対して、界面活性剤を含む溶液で回収する。得られた検出用タンパクの残存率が最も多かった基材に非特異吸着しているという原因探索に活用しうる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、(1)細胞外小胞に局在するタンパク質を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを特定細胞に導入する工程と、(2)前記導入した特定細胞を培養し細胞外小胞を放出させる工程と、(3)前記放出した細胞外小胞に局在するタンパク質を検出する工程とを含む、当該小胞の検出方法において、前記(1)の工程を、(a)細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または(b)細胞外小胞に局在するタンパク質と検出用タンパク質とを個別に発現可能なポリヌクレオチドを、特定細胞に導入する工程とし、前記(3)の工程を、前記(a)で遺伝子導入した特定細胞が放出した細胞外小胞に局在するタンパク質量と前記(b)で遺伝子導入した特定細胞が放出した細胞外小胞に局在するタンパク質量とをそれぞれ測定し、前記(a)で遺伝子導入した特定細胞での測定値を前記(b)で遺伝子導入した特定細胞での測定値で補正する工程とすることを特徴としている。
【0027】
本発明により、特定細胞が放出する細胞外小胞を当該小胞に局在するタンパク質に基づき、簡便かつ精度よく検出できる。本発明の方法は、細胞外小胞に局在するタンパク質の機能解析や細胞外小胞の生理学的な機能の解明だけでなく、疾患検査等に用いる検量線用の標準品としての応用も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施例で特定細胞への遺伝子導入に用いたプラスミドのマップ。
図2】特定細胞内で発現した組換えタンパク質の細胞外小胞への局在を示す結果。
【実施例0029】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0030】
実施例1 遺伝子導入がん細胞の調製
(1)遺伝子導入用プラスミドの設計
EF1αプロモーターを有する動物細胞発現用プラスミド(pBApo-EF1α Pur DNA[製品コード:3244]、タカラバイオ社製)のEF1αプロモーター(配列番号5)下流に、表1(i)から(iv)に示すポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをそれぞれ挿入した、組換えプラスミドを構築した。なおナノルシフェラーゼ(Nluc、配列番号9)をコードするポリヌクレオチドは、NanoLuc Vector(Promega社製)に挿入されているNluc reporter geneを利用した。
【0031】
【表1】
【0032】
(2)細胞培養と遺伝子導入
(2-1)ヒト前立腺がん細胞(PC-3細胞)を5%CO環境下、15%(v/v)FBS(ウシ胎児血清)を含むHam’s F-12K(富士フイルム和光純薬社製)を用いて37℃で培養した。
【0033】
(2-2)(2-1)で用いた培地を6ウェルプレートに2mL/ウェルで入れた後、(2-1)で培養したPC-3細胞を5×10cells/ウェルとなるよう播種し懸濁した。
【0034】
(2-3)1日培養後、前記(i)から(iv)に示すポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挿入したプラスミドを0.5μg/ウェルで添加し、遺伝子導入試薬(Lipofectamine 3000、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて遺伝子導入し、前記(i)から(iv)に示すポリペプチドを発現可能な細胞(遺伝子導入がん細胞)をそれぞれ得た。
【0035】
実施例2 遺伝子導入がん細胞から放出される細胞外小胞の測定
(1)細胞外小胞の精製
(1-1)実施例1で得られた各遺伝子導入がん細胞をさらに3日間培養した後、培養上清を全量(約2mL)回収した。300G、10分間、室温で遠心分離して浮遊細胞を除去後、上清1.5mLを回収した(培養上清、以下「CM」とも表記)。
【0036】
(1-2)CMをさらに3000G、10分間、4℃で遠心分離して細胞デブリを除去後、上清1.2mLを回収した。回収した上清をさらに16000G、60分間、4℃で遠心分離し、上清1mLを別のチューブに移した(遠心分離操作A)。残った沈殿物をPBS(Phosphate Buffered Saline)1mLで懸濁し、16000G、60分間、4℃で遠心分離して洗浄後、上清1mLを除去した。残った沈殿物を含む懸濁液0.2mLをマイクロベシクル画分(以下、「MV画分」とも表記)とした。
【0037】
(1-3)(1-2)の遠心分離操作Aでチューブに移した上清1mLとPBS1mLとを混合し、2590000G、70分間、4℃で超遠心分離した。上清1.8mLを別のチューブに移し、これを遊離タンパク質画分(以下、「SP画分」とも表記)とした。一方、残った沈殿物を含む懸濁液0.2mLをエクソソーム画分(以下、「EX画分」とも表記)とした。
【0038】
(2)発光量(ルシフェラーゼ活性)の測定
(2-1)(1)で調製した各画分(CM、MV画分、SP画分、EX画分)を、発光測定用の96ウェルプレートに、100μL/ウェル入れた。
【0039】
(2-2)Nano-Glo Luciferase Assay System(Promega社製)に付属の反応液(付属Substrateを付属Bufferにて50倍希釈した溶液)を、各画分を入れたウェルに、100μL/ウェル添加した。
【0040】
(2-3)室温で3分反応後、ルミノメーター(Infinite Lumi、TECAN社製)を用いて発光量を測定し、この測定値をもって遺伝子導入がん細胞で発現させたルシフェラーゼ(Nluc)の活性とした。CMでの発光量を100%としたときの相対発光量を計算し、各画分の発光量(ルシフェラーゼ活性)を比較した。
【0041】
結果を表2および図2に示す。(i)TM4SF1-Nluc融合タンパク質発現細胞の培養上清中におけるMV画分、EX画分、SP画分のルシフェラーゼ活性の割合は、それぞれ65.09±8.15%、18.03±6.68%、11.65±2.68%であり、MV画分中のルシフェラーゼ活性の割合が最も高く、SP画分中のルシフェラーゼ活性の割合が最も低かった(表2(i)および図2(i))。前記(i)の遺伝子導入がん細胞で発現させたNlucとTM4SF1とは融合しているため局在が一致する。つまり上記結果はTM4SF1がMV画分に局在していることを示している。
【0042】
一方、(ii)TM4SF1-Nluc非融合タンパク質発現細胞の培養上清中におけるMV画分、EX画分、SP画分のルシフェラーゼ活性の割合は、それぞれ23.95±8.49%、19.25±4.85%、36.99±11.36%であり、SP画分中のルシフェラーゼ活性の割合が高く、MV画分およびEX画分中のルシフェラーゼ活性の割合は低かった(表2(ii)および図2(ii))。前記(ii)の遺伝子導入がん細胞で発現させたNlucとTM4SF1は個別に発現しており、発現したNlucはTM4SF1の局在位置(MV画分)とは関係なく、SP画分に多く存在していることがわかる。そしてSP画分中のルシフェラーゼ活性を測定することで、遊離タンパク質として局在しているノイズを測定できる。
【0043】
なお、前記(ii)の遺伝子導入がん細胞の培養上清中においても、MV画分中で23.95±8.49%のルシフェラーゼ活性があったことから、過剰発現させた場合では、非選択的にMV画分中にNlucが局在することがわかる。つまり、前記(i)の遺伝子導入がん細胞での結果と前記(ii)の遺伝子導入がん細胞での結果とを組み合わせることで、バックグラウンドノイズに相当するMV画分のルシフェラーゼ活性を測定でき、より正確にTM4SF1が局在している細胞外小胞を定量できることが分かる。
【0044】
なお細胞外小胞上での局在が報告されているCD63やCD9についてNlucとの融合タンパク質を発現する遺伝子導入がん細胞を評価したところ、(iii)CD63-Nluc融合タンパク質発現細胞の培養上清中におけるMV画分、EX画分、SP画分のルシフェラーゼ活性の割合は、それぞれ49.12±7.44%、25.26±6.46%、20.13±4.80%であり、(iv)CD9-Nluc融合タンパク質発現細胞の培養上清中におけるMV画分、EX画分、SP画分のルシフェラーゼ活性の割合は、それぞれ63.63±8.98%、20.28±4.81%、16.18±2.56%であり、いずれもTM4SF1と同様、MV画分に局在していることがわかる。
【0045】
【表2】
図1
図2
【配列表】
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