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  • 特開-風味付与剤及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170213
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】風味付与剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20221102BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20221102BHJP
【FI】
A23D9/00 504
A23L27/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076196
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【弁理士】
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】青柳 寛司
(72)【発明者】
【氏名】関口 吉則
【テーマコード(参考)】
4B026
4B047
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DH10
4B026DP03
4B026DP10
4B026DX01
4B047LB04
4B047LB08
4B047LB09
4B047LE05
4B047LG05
4B047LG10
4B047LP05
(57)【要約】
【課題】油脂をベースとする、風味が改善された、特に炭素数6~14のラクトンが呈する甘い香り及び/又は乳の香りを有する風味付与剤を提供する。
【解決手段】特定の構成脂肪酸を有するグリセリドを140℃以上で酸化加熱して炭素数6~14のラクトンを特定量生成させることで、甘い香り及び/又は乳の香りを有する風味付与剤を得ることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風味付与剤の製造方法であって、
グリセリドを140℃以上で酸化加熱処理して炭素数6~14のラクトンを生成させ、前記炭素数6~14のラクトンを5質量ppm以上含む風味付与剤を調製する工程を含み、
前記グリセリドの構成脂肪酸の10質量%以上が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸であり、
前記ラクトンが、γラクトン及び/又はδラクトンである、
方法。
【請求項2】
前記グリセリドの構成脂肪酸の0~5質量%が、不飽和脂肪酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グリセリドの構成脂肪酸の60質量%以上が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記グリセリドの構成脂肪酸が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸のみからなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記グリセリドが、トリグリセリドである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化加熱処理の後に追加のグリセリドを更に混合して、炭素数6~14のラクトンを5質量ppm以上含む風味付与剤を調製する工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
風味付与剤の全質量に対して、80質量%以上のグリセリドと、5ppm以上の炭素数6~14のラクトンとを含む風味付与剤であって、
前記グリセリドの構成脂肪酸の0~5質量%が、不飽和脂肪酸であり、
前記グリセリドの構成脂肪酸の10質量%以上が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸であり、
前記ラクトンが、γラクトン及び/又はδラクトンである、
風味付与剤。
【請求項8】
前記グリセリドが、7.5以上の過酸化物価、及び/又は1.0以上のアニシジン価を有する、請求項7に記載の風味付与剤。
【請求項9】
前記グリセリドの構成脂肪酸の60質量%以上が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸である、請求項7又は8に記載の風味付与剤。
【請求項10】
前記グリセリドの構成脂肪酸が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸のみからなる、請求項7~9のいずれか1項に記載の風味付与剤。
【請求項11】
前記グリセリドが、トリグリセリドである、請求項7~10のいずれか1項に記載の風味付与剤。
【請求項12】
甘い香り及び/又は乳の香りを有する、請求項7~11のいずれか1項に記載の風味付与剤。
【請求項13】
グリセリドに風味を付与する方法であって、
グリセリドを140℃以上で酸化加熱処理し、炭素数6~14のラクトンを5質量ppm以上生成させる工程を含み、
前記グリセリドの構成脂肪酸の10質量%以上が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸であり、
前記ラクトンが、γラクトン及び/又はδラクトンである、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のグリセリド及びラクトンを含む風味付与剤、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂(脂質)は三大栄養素であるだけではなく、食品に美味しさを付与する重要な成分である。油脂は食品の味をマイルドにし、かつ、コクを与える。油脂があるために美味しくなる食品は、例えば、天ぷら、フライ食品、らーめん、パイ、チョコレート、クリーム及びチーズなどが挙げられる。油脂には、サラダ油のように無味無臭に近い油脂から、焙煎胡麻油、バターのように独特の風味が重宝される油脂まで、さまざまな油脂がある。これらの油脂は、用途に合わせて使用されている。
【0003】
油脂組成物、特にバターの風味を改善する方法として、非酵素的に、油脂組成物においてラクトンを富化する方法が知られている(特許文献1)。特許文献1は、具体的には、水分含量が300ppm以上1200ppm以下である油脂組成物を、油脂組成物中に固体脂が存在する温度(好ましくは10℃以上35℃以下)で保持して、又は、油脂組成物中に水分子と水素結合を形成する性質をもつ添加剤を添加し、40~60℃の温度で保持して、油脂組成物中の4-又は5-ヒドロキシ脂肪酸を含むトリグリセリドから、非酵素的にγ-ラクトン又はδ-ラクトンを生成させる工程を含む、ラクトン類が富化された油脂組成物の製造方法を開示している。
【0004】
また、油脂の風味、特にベースとなるコク味を強める方法として、油脂に特定のココナッツオイルを特定量含める方法が知られている(特許文献2)。特許文献2は、具体的には、0.001~15質量%のバージンココナッツオイルを含有する油脂を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再表2013/105624号公報
【特許文献2】特開2017-213004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の製造方法は、特許文献1の請求項1や図1に示されるように4-又は5-ヒドロキシ脂肪酸の存在を必須とする製造方法であり、同脂肪酸が存在しない条件では、ラクトンが十分に生成されない。また、特許文献2の油脂組成物に含まれるバージンココナッツオイルには、酸敗臭の原因となる不飽和脂肪酸が多く含まれるため、バージンココナッツオイル中のラクトンの香りが十分に感じられない。
【0007】
本発明の課題は、油脂をベースとする、風味が改善された、特に炭素数6~14のラクトンが呈する甘い香り及び/又は乳の香りを有する風味付与剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構成脂肪酸を有するグリセリドを140℃以上で酸化加熱して炭素数6~14のラクトンを特定量生成させることで、甘い香り及び/又は乳の香りを有する風味付与剤を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を含むものである。
〔1〕風味付与剤の製造方法であって、
グリセリドを140℃以上で酸化加熱処理して炭素数6~14のラクトンを生成させ、前記炭素数6~14のラクトンを5質量ppm以上含む風味付与剤を調製する工程を含み、
前記グリセリドの構成脂肪酸の10質量%以上が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸であり、
前記ラクトンが、γラクトン及び/又はδラクトンである、
方法。
〔2〕前記グリセリドの構成脂肪酸の0~5質量%が、不飽和脂肪酸である、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記グリセリドの構成脂肪酸の60質量%以上が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記グリセリドの構成脂肪酸が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸のみからなる、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の方法。
〔5〕前記グリセリドが、トリグリセリドである、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の方法。
〔6〕前記酸化加熱処理の後に追加のグリセリドを更に混合して、炭素数6~14のラクトンを5質量ppm以上含む風味付与剤を調製する工程を含む、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法。
〔7〕風味付与剤の全質量に対して、80質量%以上のグリセリドと、5ppm以上の炭素数6~14のラクトンとを含む風味付与剤であって、
前記グリセリドの構成脂肪酸の0~5質量%が、不飽和脂肪酸であり、
前記グリセリドの構成脂肪酸の10質量%以上が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸であり、
前記ラクトンが、γラクトン及び/又はδラクトンである、風味付与剤。
〔8〕前記グリセリドが、7.5以上の過酸化物価、及び/又は1.0以上のアニシジン価を有する、前記〔7〕に記載の風味付与剤。
〔9〕前記グリセリドの構成脂肪酸の60質量%以上が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸である、前記〔7〕又は〔8〕に記載の風味付与剤。
〔10〕前記グリセリドの構成脂肪酸が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸のみからなる、前記〔7〕~〔9〕のいずれか1項に記載の風味付与剤。
〔11〕前記グリセリドが、トリグリセリドである、前記〔7〕~〔10〕のいずれか1項に記載の風味付与剤。
〔12〕甘い香り及び/又は乳の香りを有する、前記〔7〕~〔11〕のいずれか1項に記載の風味付与剤。
〔13〕グリセリドに風味を付与する方法であって、
グリセリドを140℃以上で酸化加熱処理し、炭素数6~14のラクトンを5質量ppm以上生成させる工程を含み、
前記グリセリドの構成脂肪酸の10質量%以上が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸であり、
前記ラクトンが、γラクトン及び/又はδラクトンである、
方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、油脂をベースとする、風味が改善された、特に炭素数6~14のラクトンが呈する甘い香り及び/又は乳の香りを有する風味付与剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、原料グリセリド(O.D.O)を180℃で加熱し、サンプル温度が180℃に達した時点からの時間と、ラクトン類生成量の分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、風味付与剤の製造方法であって、グリセリドを140℃以上で酸化加熱処理して炭素数6~14のラクトンを生成させ、前記炭素数6~14のラクトンを5質量ppm以上含む風味付与剤を調製する工程を含み、前記グリセリドの構成脂肪酸の10質量%以上が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸であり、前記ラクトンが、γラクトン及び/又はδラクトンである方法に関する。
【0013】
原料となるグリセリドにおいて、その構成脂肪酸の10質量%以上、例えば、30質量%以上、60質量%以上、75質量%以上、90質量%以上、又は全て(100質量%)が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸である。炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸として、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸等が挙げられ、好ましくはカプリル酸及び/又はカプリン酸、もしくはラウリン酸及び/又はミリスチン酸である。より好ましくはカプリル酸及び/又はカプリン酸であり、最も好ましくはカプリル酸である。構成脂肪酸の10質量%以上が炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸であることにより、所望量の炭素数6~14のラクトンを生成させることができる。なお、グリセリドの構成脂肪酸の量と比較して生成されるラクトンの量はごくわずかであるため、グリセリドの量や構成脂肪酸割合(質量比)は、脂肪酸からラクトンへの生成による影響をほとんど受けない。そのため、酸化加熱処理の前後において、グリセリドの量や構成脂肪酸質量比は実質的に同じである。
【0014】
グリセリド中に炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸以外の構成脂肪酸として不飽和脂肪酸が含まれる場合、不飽和脂肪酸が酸化されて発生する酸敗臭が風味付与剤に付加される恐れがあるため、不飽和脂肪酸の量は少ないことが好ましい。例えば、グリセリドの構成脂肪酸の0~5質量%が不飽和脂肪酸であることが好ましく、0~3質量%が不飽和脂肪酸であることがより好ましい。不飽和脂肪酸が含まれる場合には、植物油を構成する炭素数16~22の直鎖不飽和脂肪酸であることが好ましく、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸から選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましい。
【0015】
原料グリセリドは、モノグリセリド、ジグリセリド又はトリグリセリドの1種以上を含んでもよく、好ましくは原料グリセリドの50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は100質量%がトリグリセリドである。これらの原料グリセリドは、脂肪酸とグリセリンのエステル化反応、脂肪酸エステルとグリセリン、あるいは脂肪酸と油脂等のエステル交換反応、脂肪酸のメチルあるいはエチルエステルとグリセリン又は油脂とのエステル交換反応により得ることができる。また、不飽和脂肪酸が含まれる場合には、脂肪酸、脂肪酸のメチルあるいはエチルエステル、グリセリドに水素添加して不飽和結合を減少させてもよい。また、水素添加されたヤシ油やパーム核油を用いることもできる。なお、原料グリセリドの構成脂肪酸の10質量%以上が炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸となる範囲内で、その他の油脂、例えば、ヤシ油、パーム核油、パーム油、パーム分別油(パームオレイン、パームスーパーオレイン、パームミッドフラクション、パームステアリン等)、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、えごま油、亜麻仁油、落花生油、乳脂、ココアバター等の動植物油脂やこれらの混合油、加工油脂等を混合することができる。
【0016】
原料グリセリドとしては、食用に精製されたものを用いるのが好ましく、精製グリセリドと未精製グリセリドを混合して用いてもよい。未精製グリセリドの含有量は、得られる風味付与剤の風味の観点から、原料グリセリドの総質量に対して、0~20質量%であることが好ましく、0~10質量%であることがより好ましく、0~5質量%であることが更に好ましい。食用の精製処理としては、脱ガム、脱酸、脱色、脱臭等が挙げられる。
【0017】
原料グリセリドの酸化加熱処理における温度は、炭素数6~14のラクトンが生成される温度であればよく、140℃以上、好ましくは150℃~250℃、より好ましくは160℃~225℃、更に好ましくは170℃~200℃である。加熱時間は、加熱温度によるが、原料グリセリドを酸化させてラクトンを生成するのに十分な時間であればよい。例えば、加熱温度が180℃以上の場合、原料グリセリドが180℃に達してから5分以上、好ましくは10~120分、20~90分又は45~75分加熱してもよい。また、例えば、加熱温度が160~180℃の場合、原料グリセリドが160℃に達してから10分以上、好ましくは15~160分、30~120分加熱してもよい。また、例えば、加熱温度が140~160℃の場合、原料グリセリドが140℃に達してから15分以上、好ましくは90~180分、90~160分加熱してもよい。加熱処理条件としては、原料グリセリドを酸化させてラクトンを生成できる条件であれば特に制限はなく、好ましくは、酸素存在下、例えば大気下において、原料グリセリドを加熱してもよい。
【0018】
酸化加熱処理によって、原料グリセリド中の構成脂肪酸に対応する炭素数のラクトンが生成される。本発明の方法においては、炭素数6~14、好ましくは炭素数8~14、より好ましくは炭素数8~10、さらに好ましくは炭素数8のラクトンが生成される。
【0019】
本発明の方法では、風味付与剤中の炭素数6~14のラクトン含有量が5ppm以上となる量、好ましくは、15ppm以上、30ppm以上、60ppm以上、90ppm以上、120ppm以上、150ppm以上、200ppm以上、250ppm又は300ppm以上となる量のラクトンが生成される。風味付与剤中の炭素数6~14のラクトン含有量は、例えば、600ppm以下、500ppm以下、400ppm以下又は350ppm以下であってもよい。炭素数6~14のラクトン含有量が5ppm以上であることによって、風味付与剤は甘い香り及び/又は乳の香りを呈する。この範囲の量の炭素数6~14のラクトンが生成されるのであれば、炭素数5以下又は15以上のラクトンが生成されてもよい。
【0020】
炭素数6~14のラクトンとしては、安定な構造を有するγ-ラクトン及び/又はδ-ラクトンが生成される。炭素数6~14のγ-ラクトンとδ-ラクトンの質量比(γ:δ)には特に制限は無く、例えば、100:0~0:100であってもよい。また、例えば、炭素数6~10のγ-ラクトンとδ-ラクトンの質量比(γ:δ)の場合は、90:10~10:90、80:20~20:80、70:30~30:70、60:40~40:60、55:45~45:55であってもよい。例えば、炭素数11~14のγ-ラクトンとδ-ラクトンの質量比(γ:δ)の場合は、50:50~0:100、40:60~0:100、30:70~0:100、20:80~0:100、10:90~0:100、又は5:95~0:100であってもよい。
【0021】
本発明の方法は、原料グリセリドの酸化加熱処理の後に、追加のグリセリドを更に混合して、炭素数6~14のラクトンを5ppm以上含む風味付与剤を調製する工程を含んでもよい。追加のグリセリドの混合には、従来公知の混合手段を特に制限なく使用することができる。追加のグリセリドは、原料グリセリドと同じであっても異なっていてもよく、食品に通常添加され得るものであれば、任意のグリセリドであってよい。追加のグリセリドの混合量は、最終的に得られる風味付与剤中に酸化加熱処理で生成された炭素数6~14のラクトンが5ppm以上含まれる量であれば、特に制限は無い。
【0022】
本発明はまた、グリセリドに風味を付与する方法であって、グリセリドを140℃以上で酸化加熱処理し、炭素数6~14のラクトンを5質量ppm以上生成させる工程を含み、前記グリセリドの構成脂肪酸の10質量%以上が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸であり、前記ラクトンが、γラクトン及び/又はδラクトンである方法に関する。原料グリセリドや生成される炭素数6~14のラクトン、酸化加熱処理の条件については、上述の風味付与剤の製造方法に関するものと同様である。
【0023】
本発明はまた、風味付与剤の全質量に対して、80質量%以上のグリセリドと、5ppm以上の炭素数6~14のラクトンとを含む風味付与剤であって、前記グリセリドの構成脂肪酸の0~5質量%が、不飽和脂肪酸であり、前記グリセリドの構成脂肪酸の10質量%以上が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸であり、前記ラクトンが、γラクトン及び/又はδラクトンである風味付与剤に関する。
【0024】
風味付与剤に含まれるグリセリドは、上記原料グリセリドの酸化加熱後の生成物に含まれるものであってよく、任意に、上記追加のグリセリドが含まれていてもよい。風味付与剤に含まれるグリセリドは、その構成脂肪酸の10質量%以上、例えば、30質量%以上、60質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は全て(100質量%)が、炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸である。炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸として、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸等が挙げられ、好ましくはカプリル酸及び/又はカプリン酸、もしくはラウリン酸及び/又はミリスチン酸である。より好ましくはカプリル酸及び/又はカプリン酸であり、最も好ましくはカプリル酸である。
【0025】
グリセリド中に炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸以外の構成脂肪酸として不飽和脂肪酸が含まれる場合、不飽和脂肪酸が酸化されて発生する酸敗臭が風味付与剤に付加される恐れがあるため、不飽和脂肪酸の量は少ないことが好ましい。本発明の風味付与剤においては、グリセリドの構成脂肪酸の0~5質量%が不飽和脂肪酸であることが好ましく、0~3質量%が不飽和脂肪酸であることがより好ましい。不飽和脂肪酸が含まれる場合には、植物油を構成する炭素数16~22の直鎖不飽和脂肪酸であることが好ましく、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸から選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましい。
【0026】
風味付与剤に含まれるグリセリドは、脂肪酸とグリセリンのエステル化反応、脂肪酸エステルとグリセリン、あるいは脂肪酸と油脂等のエステル交換反応、脂肪酸のメチルあるいはエチルエステルとグリセリン又は油脂とのエステル交換反応により得ることができるグリセリドを含んでもよい。また、不飽和脂肪酸が含まれる場合には、脂肪酸、脂肪酸のメチルあるいはエチルエステル、グリセリドに水素添加して不飽和結合を減少させてもよい。また、水素添加されたヤシ油やパーム核油を用いることもできる。なお、風味付与剤に含まれるグリセリドの構成脂肪酸の10質量%以上が炭素数6~14の直鎖飽和脂肪酸となる範囲内で、その他の油脂、例えば、ヤシ油、パーム核油、パーム油、パーム分別油(パームオレイン、パームスーパーオレイン、パームミッドフラクション、パームステアリン等)、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、えごま油、亜麻仁油、落花生油、乳脂、ココアバター等の動植物油脂やこれらの混合油、加工油脂等を混合することができる。
【0027】
風味付与剤に含まれるグリセリドは、モノグリセリド、ジグリセリド又はトリグリセリドの1種以上を含んでもよく、好ましくは風味付与剤に含まれるグリセリドの50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は100質量%がトリグリセリドである。
【0028】
本発明の風味付与剤は、好ましくは上記の風味付与剤の製造方法に記載されている酸化加熱処理を経たグリセリドを含む。グリセリドの酸化の程度は過酸化物価、アニシジン価で示され、酸化によってこれらの指標が上昇する。
【0029】
風味付与剤に含まれるグリセリドは、7.5以上の過酸化物価を有することが好ましい。風味付与剤に含まれるグリセリドは、より好ましくは10~100、15~90、20~80、25~70又は30~60の過酸化物価を有する。グリセリドの過酸化物価が7.5以上であることによって、酸化を一定レベル以上受けたことが確認できる。過酸化物価は、基準油脂分析試験法(日本油化学会編)2.5.2.1-2013「過酸化物価(酢酸-イソオクタン法)」に従って測定することができる。
【0030】
また、酸化加熱処理により、別の酸化指標であるアニシジン価も上昇する。風味付与剤に含まれるグリセリドは、例えば、0.8以上のアニシジン価を有してもよく、1.0以上のアニシジン価が好ましい。より好ましくは、風味付与剤に含まれるグリセリドは、0.9~10.0、1.0~8.0、1.5~6.0、2.0~5.5、2.5~5.0又は3.0~4.5のアニシジン価を有してもよい。グリセリドのアニシジン価が0.8以上であることによって、酸化を一定レベル以上受けたことが確認できる。アニシジン価は、基準油脂分析試験法(日本油化学会編)2.5.3-2013「アニシジン価」に従って測定することができる。
【0031】
なお、同じ酸化加熱処理においては、炭素数6~10の直鎖飽和脂肪酸の場合は過酸化物価が上昇する傾向にあり、炭素数11~14の直鎖飽和脂肪酸の場合はアニシジン価が上昇する傾向にある。風味付与剤に含まれるグリセリドは、7.5以上の過酸化物価、及び/又は1.0以上のアニシジン価を有することが好ましい。炭素数6~10の直鎖飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするグリセリドの場合は、10~100、15~90、20~80、25~70、30~60のいずれかの範囲から選ばれる過酸化物価を有することがより好ましく、1.0~8.0、1.5~6.0、2.0~5.5、2.5~5.0、3.0~4.5のいずれかの範囲から選ばれるアニシジン価を有することがより好ましい。また、炭素数11~14の直鎖飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするグリセリドの場合は、1.0~8.0、1.0~6.0、1.0~5.0、1.0~4.0、1.0~3.0、1.0~2.0のいずれかの範囲から選ばれるアニシジン価を有することがより好ましい。
【0032】
風味付与剤におけるグリセリドの含有量は、風味付与剤の全質量に対して、80質量%以上であり、好ましくは、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、99質量%以上であってもよい。グリセリドの含有量が上記範囲内であれば、風味付与剤の基材として十分な効果を有する。
【0033】
風味付与剤に含まれる炭素数6~14のラクトンは、γ-ラクトン及び/又はδ-ラクトンであり、上記原料グリセリドの酸化加熱後の生成物に含まれるものであってもよい。風味付与剤における炭素数6~14のラクトンの含有量は、風味付与剤の全質量に対して、5ppm以上であり、好ましくは、15ppm以上、30ppm以上、60ppm以上、90ppm以上、120ppm以上、150ppm以上、200ppm以上、250ppm又は300ppm以上である。また、風味付与剤における炭素数6~14のラクトンの含有量は、例えば、600ppm以下、500ppm以下、400ppm以下又は350ppm以下であってもよい。炭素数6~14のラクトン含有量が5ppm以上であることによって、風味付与剤は甘い香り及び/又は乳の香りを呈する。
【0034】
風味付与剤に含まれる炭素数6~14のγ-ラクトンとδ-ラクトンの質量比(γ:δ)には特に制限は無く、例えば、100:0~0:100であってもよい。また、例えば、炭素数6~10のγ-ラクトンとδ-ラクトンの質量比(γ:δ)の場合は、90:10~10:90、80:20~20:80、70:30~30:70、60:40~40:60又は55:45~45:55であってもよい。例えば、炭素数11~14のγ-ラクトンとδ-ラクトンの質量比(γ:δ)の場合は、50:50~0:100、40:60~0:100、30:70~0:100、20:80~0:100、10:90~0:100、又は5:95~0:100であってもよい。
【0035】
本発明により、甘い香り及び/又は乳の香りを有する風味付与剤が提供される。「甘い香り」とは、炭素数6~10のγ-ラクトン及び/又はδ-ラクトンに由来する香りを意味する。また、「乳の香り」とは、炭素数11~14のγ-ラクトン及び/又はδ-ラクトンに由来する香りを意味する。
【0036】
風味付与剤は、甘い香り及び/又は乳の香りの風味を損なわない範囲で、食品に通常添加され得る任意のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、乳化剤、酸化防止剤、アルコール、水、pH調整剤、調味剤、着色料、香料、消泡剤、糖類、糖アルコール類、安定剤等が挙げられる。乳化剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレート、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリソルベート、レシチン等が挙げられる。酸化防止剤としては、トコフェロール類、トコトリエノール類、カロテン類、ポリフェノール類、アスコルビン酸、アスコルピン酸誘導体等が挙げられる。
【実施例0037】
(原料グリセリド)
原料グリセリドとして、以下のものを使用した。
O.D.O(「中鎖脂肪酸トリグリセリド」日清オイリオグループ株式会社製、構成脂肪酸:カプリル酸75%、カプリン酸25%)
O.D.O+Toc(O.D.Oに大豆由来のトコフェロールを500ppm添加したサンプル)
C10R(「中鎖脂肪酸トリグリセリド」日清オイリオグループ株式会社製、構成脂肪酸:カプリル酸30%、カプリン酸70%)
トリカプリリン(「中鎖脂肪酸トリグリセリド」日清オイリオグループ株式会社製、構成脂肪酸:カプリル酸 約100%)
トリカプリン(「中鎖脂肪酸トリグリセリド」日清オイリオグループ株式会社製、構成脂肪酸:カプリン酸 約100%)
トリラウリン(「Trilaurin」東京化成工業株式会社製、構成脂肪酸:ラウリン酸 約98%)
トリミリスチン(「Trimyristin」東京化成工業株式会社製、構成脂肪酸:ミリスチン酸 約95%)
【0038】
(酸化加熱処理)
200mLビーカーに50.00gのO.D.Oをサンプルとして採取し、大気下、PID温調付きマントルヒーターを用いて180℃で加熱した。サンプルの温度が140℃を超えたあたりから、甘い香りが発生し始めた。サンプルの温度が180℃に達した時点から、0、5、15、30、及び60分後に、直ちに窒素置換した褐色瓶に移し、蓋をして20℃になるまで放置した。
【0039】
O.D.O+Toc、C10R、トリカプリリン、トリカプリン、トリラウリン、及びトリミリスチンについては、サンプルの温度が180℃に達した時点から60分後に褐色瓶に移した以外は、O.D.Oと同様に処理した。
【0040】
(分析)
未処理のO.D.O、トリラウリン及びトリミリスチン、並びに処理後の各サンプルについて、過酸化物価(POV)を、基準油脂分析試験法(日本油化学会編)2.5.2.1-2013「過酸化物価(酢酸-イソオクタン法)」に従って測定した。
【0041】
未処理のO.D.O、トリラウリン及びトリミリスチン、並びに処理後の各サンプルについて、アニシジン価(AnV)を準油脂分析試験法(日本油化学会編)2.5.3-2013「アニシジン価」に従って測定した。
【0042】
未処理のO.D.O、トリラウリン及びトリミリスチン、並びに処理後の各サンプルについて、ラクトン類含有量を以下の条件でGC/MSにて測定した。
GC/MS条件
・カラム :DB-1HT(15m×φ0.25mm×0.1μm)
・昇温条件 :40℃[3分]-4℃/分-170℃-25℃/分-370℃[7分]
・キャリアガス:ヘリウム
・注入口 :370℃、スプリット比=20:1
・イオン源 :EI
・検出器 :MSD
・溶液濃度 :0.1mg/mL
・注入量 :1μL
・解析方法 :C8~C14ラクトンSTD溶液を外部標準として定量(ppm)
【0043】
過酸化物価(POV)及びアニシジン価(AnV)の分析結果を表1に、ラクトン類含有量の分析結果を表1及び図1に示す。
【表1】
【0044】
未処理のO.D.O、トリラウリン及びトリミリスチン、並びに抗酸化剤としてトコフェロールを添加したO.D.O+Tocでは、ラクトン類は確認されなかった。なお、酸化加熱処理後の各サンプルには、ラクトン類としては、原料グリセリドの構成脂肪酸の炭素数に対応する炭素数8、10、12及び/又は14のラクトンのみが存在し得る。また、酸化加熱処理の前後において、グリセリドの量や構成脂肪酸質量比は実質的に変化しない。
【0045】
(香り評価1)
未処理のO.D.Oと、酸化加熱処理したO.D.O、O.D.O+Toc、C10R、トリカプリリン、及びトリカプリンの各サンプル(20℃)の香りを、10名のパネラーにより、以下の基準で評価した。サンプル2の香りを2点として相対評価を行った。結果(平均点)を表2に示す。
0点:甘い香りはない。
1点:ほのかな甘い香りを感じる(サンプル2より弱い)。
2点:甘い香りを感じる(サンプル2と同等)。
3点:甘い香りをやや強く感じる(サンプル2より強いが約2倍未満)
4点:甘い香りを強く感じる(サンプル2の約2倍程度)
5点:甘い香りをかなり強く感じる(サンプル2の約2倍超)
【0046】
【表2】
【0047】
炭素数8のラクトンは、炭素数8の脂肪酸(カプリル酸)から生成し、炭素数10のラクトンは、炭素数10の脂肪酸(カプリン酸)から生成する。甘い香りの強さとラクトン類の生成量には相関がみられた。
【0048】
(香り評価2)
未処理のトリラウリン及びトリミリスチンと、酸化加熱処理したトリラウリン及びトリミリスチンの各サンプル(20℃)について、10名のパネラーにより、乳の香りの有無を以下の基準で評価した。結果(平均点)を表3に示す。
0点:乳の香りはない。
1点:乳の香りを感じる。
【0049】
【表3】
【0050】
炭素数12のラクトンは、炭素数12の脂肪酸(ラウリン酸)から生成し、炭素数14のラクトンは、炭素数14の脂肪酸(ミリスチン酸)から生成する。炭素数12又は14のラクトンを含むサンプルは乳の香りを有していた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により提供される風味付与剤は、食品への風味の付与に利用することができる。
図1