(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170310
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】低臭気性パーム椰子種子殻
(51)【国際特許分類】
B09B 3/70 20220101AFI20221102BHJP
C10L 5/44 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
B09B3/00 304Z
C10L5/44 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076364
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】川口 育三
(72)【発明者】
【氏名】別府 佳紀
【テーマコード(参考)】
4D004
4H015
【Fターム(参考)】
4D004AA02
4D004AB02
4D004CA12
4D004CA34
4D004CA40
4D004CC03
4D004CC15
4D004DA03
4D004DA10
4D004DA11
4H015AA03
4H015BA08
4H015BB13
4H015CB01
(57)【要約】
【課題】 核油を搾取した後のパーム椰子種子殻(PKS)の取扱い時に発生する悪臭が効果的に抑制された低臭気性PKSを提供する。
【解決手段】 核油を搾取して得られたパーム椰子種子殻の核油成分の含有量を500ppm以下とすることにより、上記PKSの取扱い時(製造、輸送及び貯蔵)の悪臭の発生が効果的に抑制された低臭気性PKSである。また、含水率を18質量%以下に調整することにより、上記悪臭の発生抑制効果がより向上する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化物を実質的に含有せず、且つ、核油成分の含有量が500ppm以下であることを特徴とする低臭気性パーム椰子種子殻。
【請求項2】
水分量が18質量%以下である請求項1記載の低臭気性パーム椰子種子殻。
【請求項3】
搾油後のパーム椰子種子殻を、水に低相溶性の極性有機溶媒を含む水系洗浄剤により洗浄する洗浄工程を含むことを特徴とする低臭気性パーム椰子種子殻の製造方法。
【請求項4】
前記水系洗浄剤における低相溶性の極性有機溶媒の濃度が、0.5~20容量%である請求項3記載の低臭気性パーム椰子種子殻の製造方法。
【請求項5】
搾油後のパーム椰子種子殻より異物を除去する異物分離工程を含む請求項3又は4に記載の低臭気性パーム椰子種子殻の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取り扱い時における臭気が低減された新規なパーム椰子種子殻(以下、PKSともいう。)に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電に使用する石油や石炭等の化石燃料の利用を抑制するため、近年、種々のバイオマス燃料が検討されている。その中に、PKSがある。上記PKSは、パーム椰子の果肉から分離され、胚平からパーム核油を搾取した後の殻であり、燃焼時の発熱量は4400kca1/kgと木屑と比較して高いものである。
【0003】
前記パーム椰子の生産量の増大と共に年間1000万トン程度のPKSが発生し、その処理が問題となっている中で、該PKSを大量に処理する手段の一つとして、石炭等の発電用燃料としての利用が検討されている(特許文献1参照)。
【0004】
ところが、PKSは、産地で収集され、燃料庫に移送されるが、核油成分として高級脂肪酸を含有し、その一部が移送中に分解・変質して低級脂肪酸やアルデヒド類等を生成することが臭気の原因とされている。そのため、使用に向けて、大量に輸送したり、輸送先で大量に貯蔵したりする際の臭気の発生が懸念され、その使用量も限られていた。
【0005】
前記かかる臭気を低減する方法として、消臭剤の散布等が考えられるが、安価な燃料として優位性があるPKSに対して、高価な消臭剤を大量に必要とするため処理費用の増大を招き、工業的な実施が困難である。また、特に、臭気の原因となる核油成分を分解し、且つ、粉砕性を高めるため、PKSを炭化処理する方法も提案されており(特許文献2参照)、かかる方法によれば、PKSの臭気も低減することは予測されるが、炭化処理は、多大な設備とエネルギーとを必要とし、やはり、処理費用の増大を招くという課題は解消されない。
【0006】
更に、PKSの水分量を低く維持する方法も提案されている(特許文献3)。この方法は臭気対策として有効な方法であるが、臭気の発生を十分抑制するまでには至っていない。
【0007】
また、PKSに水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどの中和物質を含む中和剤を付着させたのちに、水洗することで臭気対策を提案されている(特許文献4)。この方法は、PKS産地国であるインドネシアやマレーシアの搾油工場で採用されているが、PKSに付着している核油に由来した高級脂肪酸や分解・変質した低級脂肪酸などの核油成分の除去を十分行うことが出来ず、臭気対策としては不十分であった。
【0008】
このように、PKSの利用において、臭気対策は、実用化に向けての大きな壁となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003-268394号公報
【特許文献2】WO2012/023479号公報
【特許文献3】特開2016-93790号
【特許文献4】WO2020/245906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、核油成分を分解する炭化処理を経ず、即ち、炭化物を実質的に含有せず、且つ、核油成分を含むにも拘らず、取扱い時において、発生する臭気が十分に低減された低臭気性PKSを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、PKSの核油成分を特定量以下に調整することにより、取扱い時に発生する臭気が効果的に抑制され、著しく低減すること、更に、PKSを特定の成分を含む水よりなる洗浄剤で洗浄することにより、核油成分を上記範囲にまで低減させる可能となり、本発明の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明によれば、炭化物を実質的に含有せず、且つ、核油成分の含有量が500ppm以下であることを特徴とする低臭気性パーム椰子種子殻が提供される。
【0013】
本発明の低臭気性PKSは、水分量が18質量%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の低臭気性PKSは、搾油後のパーム椰子種子殻を、水に低相溶性の極性有機溶媒を含む水系洗浄剤により洗浄する洗浄工程を含む製造方法によって好適に得ることができる。
【0015】
また、上記製造方法は、搾油後のパーム椰子種子殻より異物を除去する異物分離工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、PKSに付着した核油成分の含有量を500ppm以下にすることにより、PKSの取扱い時に発生する臭気を効果的に抑制し、環境汚染を抑えることができる。また、前記PKSの含水率を18質量%以下に調整することにより、臭気をより効果的に抑制することができる。
【0017】
本発明において、核油成分を500ppm以下とすることにより臭気が著しく抑制される作用機構は明らかではないが、本発明者らは、前記範囲まで核油成分を減少させると、残分は多孔質であるPKSの孔内に閉じ込められるため、分解が効果的に抑制されることによるものと推定している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、PKSに残存する核油成分を、例えば、後述の特定の洗浄方法を採用して、特定値以下に調整することにより、取扱い時における臭気の発生を極めて効果的に抑制できるという知見に基づくものである。
【0019】
本発明において、PKSはパーム核油を採取後の殻であり、公知の方法によりパーム核油を採取する工程を経たものであれば、その産地などは特に制限されない。
【0020】
一般に入手可能なPKSには、パーム椰子房、パーム椰子ファイバー、石、木屑等の異物を含んでいることが多く、これらの異物は、品質の安定性を阻害したり、荷揚げ時におけるベルトコンベヤーの破損を生じ、更には、PKSの用途の一つである発電設備のボイラーでの燃焼を妨げたり、供給ラインの閉塞といった問題を引き起こす場合があるので、これらを除去したものであることが好ましい。
【0021】
本発明において、PKSにおいて含有量が制限される核油成分は、核油であるパーム油に由来する成分、具体的にはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸をいう。
【0022】
尚、本発明において、PKSにおける上記核油成分の含有量は、実施例に示す方法によって測定した値である。
【0023】
本発明の特徴は、前記核油成分の含有量が500ppm以下、好ましくは450ppm以下に調整されたことにある。核油成分の含有量をかかる量に調整された低臭気性PKSは取り扱い時、即ち、保管、輸送時などにおける臭気の発生を長期間にわたり効果的に抑制することができ、環境汚染を抑えることができる。
【0024】
上記核油成分は前記範囲内で低いほど好ましいが、過度に低くするのは工業的ではなく、その下限は、100ppm程度で十分である。
【0025】
また、本発明の低臭気性PKSは、水分量が18質量%以下、特に、15質量%以下に調整されることにより、上記臭気の抑制効果が高まるため好ましい。上記水分量も、5質量%程度を下限とするのが工業的に好ましい。
【0026】
本発明の低臭気性PKSは、炭化物を実質的に含有しないことも特徴の一つである。即ち、従来技術として挙げているように、PKSを炭化する方法は知られており、炭化処理を行ったPKSは、核油成分の殆どが分解する。これに対して、本発明の低臭気性PKSは、炭化処理を行うこと無く核油成分を低減したことを特徴とするものであり、前記「炭化物を実質的に含有しない」構成は、炭化処理して得られたPKSと区別するための要件である。
【0027】
但し、後述の製造方法において、操作中に不可避的に混入する炭化物、即ち、機械処理等において擦れなどの作用により、PKSの一部が高温になり生成した炭化物を含む態様は、本発明でいう炭化物を実質的に含有しない態様に含まれる。
【0028】
(低臭気性PKSの製造方法)
本発明の低臭気性PKSの製造方法は特に制限されるものではないが、搾油後のパーム椰子種子殻を、水に低相溶性の極性有機溶媒を含む水系洗浄剤(以下、特定水系洗浄剤ともいう)により洗浄する洗浄工程を含む製造方法によって好適に得ることができる。
【0029】
前記したように、一般に入手可能なPKSにはパーム椰子房、パーム椰子ファイバー、石、木屑等の異物が存在するため、上記製造方法においては、これらを除去する、異物分離工程を含むことが好ましい。かかる除去方法は特に限定されないが、メッシュ30mm×30mm~メッシュ50mm×50mm(JIS規格3553、JIS記号CR―S)の篩にPKSをかけ、通過分を回収する方法が簡便であり、しかも、十分な除去効果を有する。
【0030】
本発明の方法において、上記異物除去工程はいつ実施してもよいが、洗浄工程の前に行うのが、洗浄効率が良いため好ましい。また、除去操作に際してPKSの大きさは、核油を搾取して得られるそのままの状態の大きさが一般的であるが、必要に応じて適当な大きさに粉砕されていてもよい。
【0031】
本発明の低臭気性PKSの製造方法は、PKSに付着した核油成分を特定水系洗浄剤で洗浄する洗浄工程を含むことにより、核油成分の含有量を500ppm以下に調整することができる。
【0032】
前記方法において使用される特定水系洗浄剤の必須成分である極性有機溶媒は、水に低相溶性である。ここで、水に低相溶性とは、水と少量しか相溶しない特性であり、具体的には、60℃における水に対する溶解度が50容量%以下、好ましくは、30容量%以下の特性をいう。また、溶解度の下限は、極性有機溶媒としては10容量%程度である。
【0033】
極性有機溶媒として水に低相溶性の特性を有するものは、油の溶解性、界面活性能に富むために、PKS表面に付着している核油成分を直接溶解させ易く、PKSに含有されている核油成分を効果的に水相に取り込むことができ、効果的な除去を可能とする。また、水に低相溶性の有機溶媒であっても、ノルマルパラフィン等の非極性有機溶媒では、水との相性が極端に悪いため、得られる洗浄剤は水相中に均一に存在することができず、PKSに対して均一な処理行うことができない。尚、フロン系溶剤あるいはハロゲン系溶剤は、地球環境の破壊問題、人体への影響が懸念されるため、好ましくない。
水に低相溶性の極有機溶媒は、前記性状を有する公知の有機溶媒が制限なく使用できるが、優れた洗浄性が発揮するものとして、例えば、グリコールエーテル化合物、ピロリドン化合物、イミダゾリジノン化合物等に属するものが挙げられ、特にグリコールエーテル化合物が好ましい。
【0034】
上記グリコールエーテル化合物としては、アルキレングリコールアルキルエーテル化合物(但し、アルキレン基は炭素数3~10、アルキル基は炭素数1~7である。)が好ましい。そのうち、特に、プロピレングリコールアルキルエーテル化合物を用いることが好ましく、具体的には、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメテルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリプロピレングリコールtert-ブチルエーテル等を挙げることができる。これらのうち、特に、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテル(但し、アルキレン基は炭素数3~10、アルキル基は炭素数1~7である。)が、とりわけ、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルが好適である。
【0035】
本発明の特定水系洗浄剤において、水に低相溶性の極性溶媒の水に対する濃度は、排液の処理を考慮した場合に、洗浄効果を有する範囲で低いほど好ましい。具体的には、0.5~20容量%、好ましくは、5~10容量%の濃度で使用することが好ましい。
【0036】
また、特定水系洗浄剤には、前記極性溶媒の他、核油成分の洗浄効果を向上させる任意な成分や、核油成分の洗浄効果を著しく阻害しない任意の成分を添加することができる。
【0037】
ところで、上述の組成を有する特定水系洗浄剤は、金属部品の脱脂洗浄用の水系洗浄剤として市販されており、これらの水系洗浄剤を本発明における特定水系洗浄剤として使用することができる。
【0038】
好適に使用される市販の水系洗浄剤を具体的に示すと、ダウケミカル社製、ダワノールPnP(商品名)、ダワノールDPnP(商品名)、ダワノールPnB(商品名)、ダワノールDPnB(商品名)、トクヤマMETEL社製、エリーズK1055(商品名)、エリーズK1248(商品名)、エリーズK4055(商品名)、エリーズK9055(商品名)及び、ユトルーナN(商品名)などのグリコールエーテル系極性溶媒を含有する水系洗浄剤が挙げられる。
【0039】
上記市販の特定水系洗浄剤は、そのまま使用してもよいが、極性溶媒の濃度が前記範囲内となるように希釈して使用することが好ましい。
【0040】
前記洗浄工程において、特定水系洗浄剤を使用したPKSの洗浄方法はPKSと特定洗浄剤とを接触せしめる方法であれば特に制限されないが、好適な方法を例示すれば、PKSを特定水系洗浄剤に浸漬する方法、網状体などの通液性面を有する基材に載置したPKSに特定水系洗浄剤をシャワーリングする方法などが挙げられる。上記シャワーリングは、洗浄液を循環使用することもできる。中でも、PKSが特定水系洗浄剤とより均一に接触させることができる浸漬が好適である。かかる浸漬による処理において、液を撹拌したり、液を揺動させたりして、液を流動させる操作、更には液に超音波を照射するなどの操作を実施することは、洗浄効果を高めるために好ましい態様である。
【0041】
前記特定水系洗浄剤による洗浄において。PKSに対する特定水系洗浄剤の使用量は、PKS1容量部に対して0.5容量部以上、特に、1~20容量部の割合が好ましい。
【0042】
また、洗浄工程において、洗浄時の温度は高いほど好ましいが、経済性を考慮すれば、20~70℃、特に、30~50℃が好ましい。
【0043】
一般に、PKSを採取した時点では、殆どが前記核油成分である高級脂肪酸の状態で存在している。そして、時間の経過と共に上記高級脂肪酸が分解・変質して生成する酢酸、プロパン酸、イソ酪酸、n-酪酸、イソ吉草酸等の低級脂肪酸や、イソブチルアルデヒド等のアルデヒド類、更に発酵が進んで生成するオクチルアルコール、フェノール等のアルコール類、ジアセチル等有機物が生成する。上記洗浄工程においては、洗浄処理されるPKSに前記経時的に発生した有機物が存在する場合でも、核油成分より除去され易いため、核油成分の除去と同時に除去される。それ故、前記洗浄工程を経て得られる本発明の低臭気性PKSの臭気は、製造直後から極めて低く、且つ、核油成分の低減による上記有機物の発生が経時的に抑制される効果と相まって、長期間にわたり臭気を極めて低レベルに維持することができる。具体的には、後述の、嫌気性雰囲気下、常温で2週間放置後における臭い評価の値で350以下に維持することが可能である。
【0044】
前記洗浄工程を経たPKSは、ろ過、遠心分離等、公知の固液分離手段によりPKSを特定水系洗浄剤から分離し、必要に応じてリンス工程を設けて水洗を行った後、乾燥工程において乾燥することが好ましい。
【0045】
尚、上記リンス工程で得られた排水を、油水分離槽を用いて油分を分離し、水をリンス工程に再利用する循環工程を設けることは、環境汚染を防止する上で好ましい。
【0046】
一般に、前記固液分離手段により固液分離した得られるPKSの含水率は約30質量%と高く、これをそのまま取り扱うと、残存する核油成分から臭気成分の発生を助長する可能性があるため、上記含水率は可及的に低くすることが好ましい。具体的には、含水率が18質量%以下、好ましくは、15質量%以下となるように乾燥を行うことが好ましい。
【0047】
上記乾燥工程において、乾燥方法は特に制限されるものではなく、公知の乾燥方法が特に制限なく採用される。例えば、PKSの産地においては、自然乾燥、天日乾燥が好適であり、PKSの貯蔵設備において、バックホー、ショベルカー、ユンボなどの重機により切り返しを行うことにより乾燥を促進することが好ましい。また、熱源がある場合は、公知の乾燥装置を使用して強制的に乾燥を行うことも可能である。
【0048】
前記本発明の低臭気性PKSの製造方法は、前記特定水系洗浄剤を使用して簡便に処理が可能であるため、PKSの処理量が1t以上、更には5t以上の規模において、工業的メリットが大きい。
【実施例0049】
以下本発明を更に具体的に説明するため、実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
尚、実施例において、PKSにおける核油成分の含有量、核油成分の除去率、含水率の測定、及び、臭いの評価は以下のようにして行った。
【0051】
1.PKSにおける核油成分の含有量(ppm)
PKSの堆積物の表面から内部にわたる任意の10箇所よりそれぞれ100gずつ採取し、上記採取したPKSより10gを分取して10個の試料PKSを準備した。
【0052】
試料PKSを、ヘキサン(和光純薬特級)100ccを入れた300ccフラスコに入れて縦型振とう機を用いて、温度25℃、200rpmの振とう回数で10分間振とうし、ヘキサン抽出を行い、ヘキサン中に抽出された核油成分(高級脂肪酸)の重量(W1)をガスクロマトグラフ/質量(GC/MS)分析計装置を用いて測定し、算出した。
上記高級脂肪酸として、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸およびミリスチン酸が検出された。
【0053】
尚、分析装置及び分析条件は以下の表1に示すとおりである。
【0054】
【0055】
(3)PKSにおける核油成分の含有量(ppm)の算出
前記方法で測定された試料PKS中の高級脂肪酸の量(W1)より下記式よりPKSの核油成分の含有量を求め、全試料の平均値として示した。
核油成分の含有量(ppm)=(W1/W)×106
【0056】
2.PKSの含水率
前記1.で採取した各試料より10g(W)ずつを分取し、10個の測定用試料PKSを準備した。上記測定用試料PKSについて、絶乾状態に至るまでの水分重量(W2)を測定した。上記測定値より、次式により水分率を算出し、全試料の平均値として示した。
水分率(質量%)=(W2/W)×100
【0057】
3.臭いの評価
上記2.で採取した試料PKSの一部(約50g)を鉄製の蓋付き容器(容量100cc)に収容し、室温で2週間放置した後に容器内のガスを採取し、新コスモス電機株式会社製(XP-329III 商品名)ニオイセンサを用いて臭気の強さを測定し、各測定時点における全試料の平均値として示した。
【0058】
4.洗浄剤
実施例で使用した洗浄剤は以下の表2に示すとおりである。
【0059】
【0060】
実施例1~6
以下の方法により低臭気性PKSを製造した。
【0061】
パーム核油を採取後の、炭化処理をしていない粗PKSを、メッシュ50mm×50mm(JIS規格3553、JIS記号CR―S)の篩に掛けて異物を除去して得られた約1tのPKSを得た。
上記PKSを、表3に示す水系洗浄剤成分(水に低相溶性の極性有機溶媒)を表3に示す濃度で含む水系洗浄剤により洗浄を行った。洗浄は、PKS1容量部に対して10容量部の水系洗浄剤にPKSを投入し、振とう機を用いて、温度25℃、200rpmの振とう回数で20分間振とうすることにより行った。その後、PKSを濾別したのちに、20℃の流水で10分間すすぎ、次いで80℃で30分間乾燥することにより、低臭気性PKSを得た。
【0062】
得られた低臭気性PKSについて、核油成分の含有量、水分量を測定した結果、及び臭い評価の結果を表1に併せて示す。
【0063】
比較例1
実施例1において、水系洗浄剤に代えて、水を使用した以外は同様にしてPKSの処理を行った。得られたPKSについて、核油成分の含有量、水分量を測定した結果、及び臭い評価の結果を表3に併せて示す。
【0064】
比較例2、3
実施例1において、水系洗浄剤に代えて、表3に示す物質を含む水系洗浄剤を使用した以外は同様にしてPKSの処理を行った。得られたPKSについて、核油成分の含有量、水分量を測定した結果、及び臭い評価の結果を表3に併せて示す。
【0065】
【0066】
実施例7~12
実施例1~6において得られたPKSをさらに天日下(湿度約50%、気温約25℃)で風乾して、PKSの含水率を調整した低臭気性PKSを得た。得られた低臭気性PKSについて、臭い評価の結果を表4に示す。
【0067】