(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170604
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】カード又はパスポート用樹脂組成物、カード又はパスポート用フィルム、カード、及びパスポート
(51)【国際特許分類】
B42D 15/00 20060101AFI20221102BHJP
B42D 25/24 20140101ALI20221102BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20221102BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20221102BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20221102BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20221102BHJP
C08L 23/28 20060101ALI20221102BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20221102BHJP
C08G 63/12 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
B42D15/00 341B
B42D25/24
C08L67/02
C08L71/02
C08K5/10
C08K5/09
C08L23/28
C08L27/12
C08G63/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076859
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】重富 清恵
【テーマコード(参考)】
2C005
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
2C005HA10
2C005HA17
2C005HB02
4J002AE052
4J002BB032
4J002BB242
4J002BD142
4J002BD152
4J002BD162
4J002CF031
4J002CF051
4J002CH022
4J002EC026
4J002EC066
4J002EF026
4J002EF036
4J002EF046
4J002EF056
4J002EG016
4J002EH026
4J002EH036
4J002EH046
4J002EH056
4J002EP006
4J002EP016
4J002EV256
4J002FD090
4J002FD172
4J002FD176
4J002FD200
4J002GC00
4J029AA03
4J029AB01
4J029AD07
4J029AE03
4J029BA02
4J029BA03
4J029BA04
4J029BA05
4J029BD05
4J029BD06A
4J029BD07A
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CB12A
4J029CC04A
4J029CC05A
4J029CC09
4J029CG06
4J029DB02
4J029HA01
4J029HB01
4J029KB02
4J029KC06
4J029KE06
(57)【要約】
【課題】低温融着性、耐熱性、耐溶剤性を良好にしながら、帯電などを抑えて、取扱い性、加工性、耐擦傷性などを良好にする。
【解決手段】カード又はパスポート用樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)を含む樹脂成分と滑剤とを含有する樹脂組成物であって、該ポリエステル樹脂(A)が鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含み、該ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が90℃以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)を含む樹脂成分と滑剤とを含有する樹脂組成物であって、
該ポリエステル樹脂(A)が鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含み、
該ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が90℃以上である、カード又はパスポート用樹脂組成物。
【請求項2】
90℃における貯蔵弾性率が3×107Pa以上である、請求項1に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂(A)が脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む、請求項1又は2に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂(A)が、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、前記脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が65モル%超であるポリエステル樹脂を含む、請求項3に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂(A)が、エチレングリコールに由来する構造単位及びシクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂(A)が、エチレングリコールに由来する構造単位、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位、及びテトラメチルシクロブタンジオールに由来する構造単位を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
【請求項7】
前記滑剤が、ポリアルキレングリコール、脂肪酸エステル、脂肪族基を有する金属塩及びフッ素系ポリマーからなる群より選ばれる少なとも1種である、請求項1~6のいずれか1項に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
【請求項8】
前記滑剤が、ポリアルキレングリコール及び脂肪族基を有する金属塩を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
【請求項9】
前記滑剤が、脂肪酸エステル及びフッ素系ポリマーを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
【請求項10】
前記滑剤の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対し0.01質量部以上5質量部以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
【請求項11】
表面抵抗率が1×1014Ω以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
【請求項12】
再生原料を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
【請求項13】
ポリエステル樹脂を含む樹脂成分と滑剤とを含有する樹脂組成物であって、
該ポリエステル樹脂のガラス転移温度が90℃以上であり、
前記滑剤が、ポリアルキレングリコール、脂肪族基を有する金属塩及びフッ素系ポリマーからなる群より選ばれる少なとも1種を含む、カード又はパスポート用樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなるカード又はパスポート用フィルム。
【請求項15】
請求項14に記載のフィルムを備える、カード。
【請求項16】
請求項14に記載のフィルムを備える、パスポート。
【請求項17】
請求項1~13のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法であって、前記樹脂組成物に再生原料を配合する、樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カード又はパスポート用樹脂組成物、カード又はパスポート用フィルム、カード、及びパスポートに関する。
【背景技術】
【0002】
クレジットカード、キャッシュカード、IDカード、タグカード、保険証などのカードは、一般的に複数の樹脂シートが重ねられて加熱融着され、かつ打ち抜き加工がなされて製造されることが一般的である。また、パスポートも、同様に複数の樹脂シートが重ねられて製造されることが一般的である。カード又はパスポートに使用される樹脂シートにおいては、樹脂成分としてポリエステル、芳香族ポリカーボネートなどを含む熱可塑性樹脂組成物が使用されることが多い。
【0003】
例えば、特許文献1には、カード用の熱可塑性樹脂組成物として、ポリエステル及び芳香族ポリカーボネートから選ばれる1種または2種以上の熱可塑性樹脂と、無機板状充填剤とが配合してなる熱可塑性樹脂組成物が開示されている。特許文献1では、ポリエステルとして、グリコール単位が、エチレングリコール単位(I)と1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(II)のモル比(I)/(II)が、70/30であるポリエステルや、エチレングリコール単位(I)と1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(II)のモル比(I)/(II)が、35/65であるポリエステルが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複数枚の樹脂シートを加熱融着させてカードやパスポートを製造する際には、低温度で加熱融着できる低温融着性が求められることがある。また、樹脂シートは、他のシートとの熱融着性が悪い場合には接着剤が必要となったり、顔写真等を印刷する際に用いられる受像層を備える場合や、デザインやセキュリティー印刷などがされる際にはインクに接触したりするので、耐溶剤性が要求される。
【0006】
しかしながら、樹脂成分として芳香族ポリカーボネートを使用すると、低温融着性、耐溶剤性を良好にすることが難しい。一方で、特許文献1で使用されるポリエステルは、低温融着性が良好であるものの、耐熱性が十分ではなく、そのポリエステルから形成されたシートは加熱伸縮率が大きくなる。そのため、ポリエステルから形成されたシートと耐熱性の高いシート、例えば芳香族ポリカーボネートシート等とを積層してカードやパスポートを作製する際の寸法変化が大きくなり作業性が悪くなったり、出来上がったカードやパスポートに反りが発生したりするなどの不具合が発生することがある。さらに、耐溶剤性が不十分であることもある。
【0007】
また、特許文献1で使用されるポリエステルからなるシートは、静電吸着力により他のシートに付着したり、プレスする際にプレス板に付着したりして取扱い性が低下することがある。さらに、ロール状にした際には、繰り出す際に静電気によりスパークが発生してシート表面が傷ついたり、ロール等からシートを送り出す際の滑り性が低下し、蛇行し又は斜行して、ズレ、捻じれ、シワ等が発生したりして、加工性が低下することもある。さらに、特許文献1で使用されるポリエステルからなるシートは、シート表面を擦ると傷が付くことがあり、耐擦傷性も不十分である。
【0008】
そこで、本発明は、低温融着性、耐熱性、耐溶剤性を良好にしながら、帯電を抑えるなどして、取扱い性、加工性、耐擦傷性を良好にできる、カード又はパスポート用の樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定のポリエステル樹脂(A)と、滑剤とを使用することで、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]~[17]を提供する。
[1]ポリエステル樹脂(A)を含む樹脂成分と滑剤とを含有する樹脂組成物であって、
該ポリエステル樹脂(A)が鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含み、
該ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が90℃以上である、カード又はパスポート用樹脂組成物。
[2]90℃における貯蔵弾性率が3×107Pa以上である、上記[1]に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[3]前記ポリエステル樹脂(A)が脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む、上記[1]又は[2]に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[4]前記ポリエステル樹脂(A)が、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、前記脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が65モル%超であるポリエステル樹脂を含む、上記[3]に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[5]前記ポリエステル樹脂(A)が、エチレングリコールに由来する構造単位及びシクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[6]前記ポリエステル樹脂(A)が、エチレングリコールに由来する構造単位、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位、及びテトラメチルシクロブタンジオールに由来する構造単位を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[7]前記滑剤が、ポリアルキレングリコール、脂肪酸エステル、脂肪族基を有する金属塩及びフッ素系ポリマーからなる群より選ばれる少なとも1種である、上記[1]~[6]のいずれかに記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[8]前記滑剤が、ポリアルキレングリコール及び脂肪族基を有する金属塩を含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[9]前記滑剤が、脂肪酸エステル及びフッ素系ポリマーを含む、上記[1]~[8]のいずれかに記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[10]前記滑剤の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対し0.01質量部以上5質量部以下である、上記[1]~[9]のいずれかに記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[11]表面抵抗率が1×1014Ω以下である、上記[1]~[10]のいずれかに記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[12]再生原料を含む、上記[1]~[11]のいずれかに記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[13]ポリエステル樹脂を含む樹脂成分と滑剤とを含有する樹脂組成物であって、
該ポリエステル樹脂のガラス転移温度が90℃以上であり、
前記滑剤が、ポリアルキレングリコール、脂肪族基を有する金属塩及びフッ素系ポリマーからなる群より選ばれる少なとも1種を含む、カード又はパスポート用樹脂組成物。
[14]上記[1]~[13]のいずれかに記載の樹脂組成物からなるカード又はパスポート用フィルム。
[15]上記[14]に記載のフィルムを備える、カード。
[16]上記[14]に記載のフィルムを備える、パスポート。
[17]上記[1]~[13]のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、前記樹脂組成物に再生原料を配合する、樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、低温融着性、耐熱性、耐溶剤性を良好にしながら、帯電を抑えるなどして、取扱い性、加工性、耐擦傷性を良好にする樹脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】パスポートにおける層構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態を参考に詳細に説明する。但し、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、以下の説明において使用される用語「フィルム」と用語「シート」は明確に区別されるものではなく、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0013】
<カード又はパスポート用樹脂組成物>
本発明の第1の実施形態において、樹脂組成物は、カード又はパスポート用樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂(A)を含む樹脂成分と滑剤とを含有する。
【0014】
[ポリエステル樹脂(A)]
ポリエステル樹脂(A)は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含み、かつガラス転移温度が90℃以上である。ポリエステル樹脂(A)は、ガラス転移温度が90℃以上であることで、耐熱性が高くなり、樹脂組成物から形成されるフィルムなどを加熱した際の寸法変化が小さくなる。そのため、カード又はパスポートを作製する際の作業性が良好となり、さらに製造されるカード又はパスポートに反りなどが生じにくくなる。また、ポリエステル樹脂(A)は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことで、樹脂組成物の低温融着性が良好となりやすい。さらに、樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)を含むことで、耐溶剤性も良好である。
また、樹脂組成物は、上記ポリエステル樹脂(A)に加えて、滑剤を含有することで、後述する通り、帯電を抑えるなどして、取扱い性、加工性、耐擦傷性なども良好にできる。
【0015】
ポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸とジヒドロキシ化合物とを重縮合して得られるポリエステルである。なお、ジカルボン酸としては、ジカルボン酸のエステル、酸ハロゲン化物などのジカルボン酸誘導体がポリエステル樹脂(A)の合成に供されてもよい。
ポリエステル樹脂(A)を得るために使用されるジカルボン酸としては、耐熱性の観点から、芳香族ジカルボン酸を使用することが好ましく、したがって、ポリエステル樹脂(A)は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位を含むことが好ましい。
芳香族ジカルボン酸としては、特に制限はなく、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、ナフタレン-1,5-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、3-スルホイソフタル酸ナトリウム、2-クロロテレフタル酸、2,5-ジクロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸等が挙げられ、これらの中では、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、テレフタル酸が透明性の観点からより好ましい。
芳香族ジカルボン酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
また、ポリエステル樹脂(A)は、脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位を少量(通常40モル%以下、例えば30モル%以下、好ましくは20モル%以下の範囲で)含んでもよい。脂肪族ジカルボン酸としては、特に制限はなく、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、1,3または1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
芳香族ジカルボン酸由来の構造単位は、ポリエステル樹脂(A)中のジカルボン酸由来の構造単位中に、80モル%以上含まれることが好ましく、90モル%以上含まれることがさらに好ましい。また、上限に関しては、特に限定されず、100モル%以下であればよいが、最も好ましくは100モル%である。
【0018】
ポリエステル樹脂(A)に使用される鎖式ジヒドロキシ化合物は、直鎖であってもよいし、分岐構造を有してもよい。鎖式ジヒドロキシ化合物の具体例としては、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、トリエチレングリコール、1,2-ヘキサデカンジオール、1,18-オクタデカンジオールなどの炭素数2~18程度の鎖式ジヒドロキシ化合物やポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロプレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリグリコールが挙げられる。これらの中では、炭素数2~12の鎖式ジヒドロキシ化合物が好ましく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールから選択される1種又は2種以上であることがより好ましく、中でもエチレングリコール(EG)が特に好ましい。
鎖式ジヒドロキシ化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
ポリエステル樹脂(A)は、ジヒドロキシ化合物を2種以上共重合成分として使用した共重合体ポリエステル樹脂であることが好ましい。具体的には、ポリエステル樹脂(A)を得るために使用されるジヒドロキシ化合物として、鎖式ジヒドロキシ化合物に加えて、脂環式ジヒドロキシ化合物を使用することが好ましい。したがって、ポリエステル樹脂(A)は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に加えて、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有することが好ましい。脂環式ジヒドロキシ化合物を使用することで、耐熱性及び耐溶剤性などが良好となりやすい。
脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例としては、テトラメチルシクロブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールなどが挙げられ、これらの中ではテトラメチルシクロブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールが好ましい。なお、シクロヘキサンジメタノールとしては、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノールがあるが、工業的に入手が容易である点から、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。また、テトラメチルシクロブタンジオールとしては、一般的には、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールが使用される。
脂環式ジヒドロキシ化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物としては、少なくともシクロヘキサンジメタノールを使用することが好ましく、中でもテトラメチルシクロブタンジオールとシクロヘキサンジメタノールを併用することがより好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂(A)は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が65モル%超であることが好ましい。脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が65モル%を超えると、耐熱性が優れたものとなり、樹脂組成物の高温環境下での貯蔵弾性率が高くなる。そのため、本発明の樹脂組成物から形成されるフィルムなどの加熱伸縮率の値が低くなりやすい。
脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の上記割合は、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、90モル%以上がよりさらに好ましい。
また、鎖式ジヒドロキシ化合物を一定量以上含有させて、低温融着性を向上させる観点から、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の上記割合は、99モル%以下が好ましく、98モル%以下がより好ましく、95モル%以下がさらに好ましい。
【0021】
ポリエステル樹脂(A)に使用されるジヒドロキシ化合物としては、本発明の効果を損なわない範囲で、鎖式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物(「他のジヒドロキシ化合物」ともいう)を使用してもよい。ポリエステル樹脂(A)において、他のジヒドロキシ化合物由来の構造単位の含有量は、ポリエステル樹脂(A)中のジヒドロキシ化合物由来の構造単位100モル中、例えば20モル%以下、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、最も好ましくは0モル%である。
他のジヒドロキシ化合物としては、p-キシレンジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2-ヒドロキシエチルエーテル)、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン(ビスフェノールM)、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)、および1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカンなどが挙げられる。
【0022】
ポリエステル樹脂(A)は、上記した中でも、低温融着性、耐熱性及び耐溶剤性の観点から、エチレングリコールに由来する構造単位及びシクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位を含むことが好ましく、エチレングリコールに由来する構造単位、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位、及びテトラメチルシクロブタンジオールに由来する構造単位を含むことが特に好ましい。
【0023】
ポリエステル樹脂(A)において、エチレングリコールに由来する構造単位の含有量は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位100モル%中、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましく、5モル%以上がさらに好ましく、また、30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましい。
また、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位の含有量は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位100モル%中、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましく、また、90モル%以下が好ましく、85モル%以下がより好ましく、80モル%以下がさらに好ましい。
さらに、テトラメチルシクロブタンジオールに由来する構造単位の含有量は、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位の含有量より少ないことが好ましい。テトラメチルシクロブタンジオールに由来する構造単位の含有量は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位100モル%中、4モル%以上が好ましく、8モル%以上がより好ましく、13モル%以上がさらに好ましく、15モル%以上が特に好ましく、また、49モル%以下が好ましく、38モル%以下がより好ましく、30モル%以下がさらに好ましく、25モル%以下が特に好ましい。
【0024】
(ガラス転移温度)
ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、上記の通り、90℃以上である。ガラス転移温度が90℃未満となると、耐熱性が不十分となり、加熱伸縮率の値が高くなり、寸法安定性が低下して、カード又はパスポートを作製する際の寸法変化が大きくなる。そのため、カードやパスポートを作製する際の作業性が低下したり、カードやパスポートに反りが発生したりする。
耐熱性を高めて寸法安定性を良好にする観点から、ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、93℃以上が好ましく、95℃以上がより好ましく、98℃以上がさらに好ましく、100℃以上がよりさらに好ましい。ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、耐熱性の観点からは高いほうがよいが、低温融着性の観点からは低くした方がよく、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは115℃以下である。
なお、ガラス転移温度は、ポリエステル樹脂(A)について、粘弾性スペクトロメーターを用い、JIS K7244-4:1999に準拠して、歪み0.07%、周波数1Hz、昇温速度3℃/分、引張モードにて動的粘弾性の温度分散測定を行い、損失弾性率のピークトップの温度を求めることで得ることができる。
【0025】
ポリエステル樹脂(A)は、非晶性ポリエステルであることが好ましい。非晶性ポリエステルを使用することで、樹脂フィルムなどの他の部材に対する接着性が良好となりやすい。
非晶性ポリエステルは、実質的に非結晶性であるポリエステルであればよい。実質的に非結晶性(低結晶性のものも含む。)であるポリエステルとしては、示差走査熱量計(DSC)により、昇温時に明確な結晶融解ピークを示さないポリエステル、および、結晶性を有するものの結晶化速度が遅く、押出し製膜法などによる成形時に結晶性が高い状態とならないポリエステル、結晶性を有するものの示差走査熱量計(DSC)により、昇温時観測される結晶融解熱量(△Hm)が10J/g以下と低い値であるものを使用することができる。すなわち、本発明における非晶性ポリエステルには、“非結晶状態である結晶性のポリエステル”をも包含する。
ポリエステル樹脂(A)は、1種単独で使用してもよいが、2種以上を併用してもよい。
【0026】
[滑剤]
本発明の樹脂組成物は、滑剤を含有する。滑剤を含有することで、樹脂組成物からなるフィルムなどの表面抵抗率が低くなり帯電が抑制され、また、フィルムなどの表面の滑り性が向上することで、別のフィルムやプレス板に対して付着してはがれ難くなるという問題が発生しにくい。また、表面抵抗率が低くなるとロールからフィルムを繰り出した際に静電気が発生しにくく、繰り出し時にスパークが発生しフィルム等の表面に傷を付けたりすることも防止でき、さらに、滑り性の改善や表面抵抗率の低下により、ロールから繰り出してフィルム等を送り出す際に、フィルムが蛇行又は斜行して、ズレ、捻じれ、シワ等が発生したりすることを防止できる。そのため、取扱い性及び加工性が良好になる。さらに、表面抵抗率が低くなると、浮遊している塵埃が静電気により引き寄せられフィルム等の表面に付着し、得られる積層フィルムやカード中に異物が混入するといった問題も発生しにくくなり、防塵性が高められる。また、滑り性が良好となるため、フィルム表面を擦っても傷が付きにくく、耐擦傷性にも優れる。
さらに、滑剤により濡れ性が向上すると、樹脂組成物からなるフィルム上に印刷を行う場合に、印刷適正が向上すると推定される。なお、印刷適正とは、樹脂組成物からなるフィルムに印刷した際のインクとフィルムの馴染みやすさを意味する。印刷適正が向上すると、インクのハジキ等が生じずにフィルム上にきれいに印刷することができる。
【0027】
滑剤としては、一般的に分子中に酸、エステル、水酸基、アミド基、金属塩などの極性部分と、脂肪族基などの非極部分を有する化合物が挙げられる。また、これら化合物以外でも、金属、樹脂などの他の材料との滑り性を向上させる化合物であれば滑剤として使用できる。なお、極性部分を有する滑剤を使用することで表面抵抗率を低くできる。また、非極性部分を有する滑剤を使用することで、プレス板との貼り付きを抑制することができる。
具体的な滑剤としては、ポリアルキレングリコール、脂肪酸エステル、脂肪族基を有する金属塩、フッ素系ポリマー、脂肪酸アミド、脂肪族アルコール、脂肪酸、脂肪族炭化水素系化合物等が挙げられる。ポリエステル樹脂(A)に対して、これら滑剤を添加することで、上記した各種性能を発揮しやすくなる。これらの中でも、滑剤は、ポリアルキレングリコール、脂肪酸エステル、脂肪族基を有する金属塩、及びフッ素系ポリマーから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
(ポリアルキレングリコール)
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどでもよいし、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体などでもよい。また、ポリアルキレングリコールは分子骨格に分岐を有するものであってもよい。これらの中では、ポリエチレングリコールが好ましい。
ポリアルキレングリコールは、常温(23℃)で固体となる固体状ワックスであることが好ましい。固体状ワックスは、ペレットと混合しやすく、また、シートに加工する際に必要とされる熱により揮発しにくいので好ましい。固体状ワックスとなるポリアルキレングリコールは、その数平均分子量が例えば500~5000となるものである。なお、数平均分子量は、JIS K1577に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出される数平均分子をいう。
ポリアルキレングリコールは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
(脂肪酸エステル)
脂肪酸エステルとしては、滑剤として使用される公知の脂肪酸エステルを使用できる。脂肪酸エステルは、脂肪酸と各種のアルコールとを原料とするエステルであり、分子内に長鎖脂肪族基とエステル基を持つものが好ましい。
脂肪酸エステル系滑剤の具体例としては、例えば、一価アルコールの高級脂肪酸エステル、多価アルコールの高級脂肪酸エステル又は部分エステル、又はこれらの部分ケン化物などが挙げられる。高級脂肪酸エステルに使用される高級脂肪酸としては、例えば炭素原子数10以上、好ましくは炭素原子数12以上、より好ましくは炭素原子数16以上、さらに好ましくは炭素原子数20以上であり、また、好ましくは炭素原子数36以下、より好ましくは炭素原子数32以下である。
具体的には、モンタン酸エステル、モンタン酸部分ケン化エステル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、牛脂肪酸オクチルエステル、ラウリン酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ミリスチン酸セチル、ネオペンチルグリコールジオレート、ネオペンチルグリコールジカプリン酸エステルなどのネオペンチルポリオール脂肪酸エステル、トリメチロールプロパントリオレートなどのトリメチロールプロパントリ脂肪酸エステル、トリメチロールプロパンジカプリン酸エステルなどのトリメチロールプロパンジ脂肪酸エステルなどの各種のトリメチロールプロパン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールテトラオレートなどのペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサイソノナン酸エステルなどのジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド、ステアリン酸トリグリセライド、オレイン酸モノグリセライド、オレイン酸ジグリセライド、オレイン酸トリグリセライドなどの脂肪酸グリセライド、ペンタエリスリトール脂肪酸縮合エステル、トリメチロールプロパン脂肪酸縮合エステルなどが挙げられる。これらの中では、モンタン酸エステルが好ましい。
脂肪酸エステルは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
(脂肪族基を有する金属塩)
滑剤として使用される金属塩は、脂肪族基を有する金属塩であればよい。脂肪族基を有する金属塩を使用することで、表面抵抗率を低下させやすくなり、各種効果を発揮しやすくなる。脂肪族基としては、脂肪族炭化水素基、脂肪族アシル基などが挙げられる。脂肪族基としては、特に限定されないが、好ましくは炭素原子数8以上、より好ましくは炭素原子数10以上であり、また、好ましくは炭素原子数30以下、より好ましくは炭素原子数24以下、さらに好ましくは炭素原子数16以下である。
金属塩としては、具体的には、脂肪酸金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩が挙げられ、好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩である。
【0031】
脂肪酸金属塩としては、脂肪酸、例えば、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ひまし油脂肪酸などの炭素原子数8~30程度、好ましくは炭素原子数10~24の高級脂肪酸とアルミニウム、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、鉛およびバリウムなどの金属との塩であり、好ましくは、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどが挙げられる。
アルキルベンゼンスルホン酸金属塩としては、アルキル基の炭素原子数が好ましくは8~24、より好ましくは10~16のアルキルベンゼンスルホン酸金属塩が挙げられる。また、使用される金属としては、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウムなどが好ましく、特に好ましくはナトリウムである。
アルキルベンゼンスルホン酸金属塩の好適な具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
金属塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
(フッ素系ポリマー)
フッ素系ポリマーとしては、分子内に炭素-フッ素結合を有するフッ素樹脂が挙げられる。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ三フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パ-フルオロアルキルビニルエ-テル共重合体、ポリマー鎖の両末端または片末端にフルオロアルキル基を有するフッ素系重合体、パーフルオロカルボン酸エステル等が挙げられる。
中でも、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などが好ましい。
フッ素系ポリマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
(脂肪族アミド)
脂肪酸アミドとしては、滑剤として使用できる公知の脂肪酸アミドが挙げられる。脂肪酸アミドは、脂肪酸とアミンからなるアミドであり、分子内に長鎖脂肪族基とアミド基を持つものであり、脂肪酸アマイドとも呼ばれる。具体的には、モノアミド、置換アミド、ビスアミド、メチロールアミド、エタノールアミド、エステルアミド、置換尿素、脂肪酸とアミンの重縮合物などがある。使用される脂肪酸は、飽和であってもよいし、不飽和であってもよい。また、脂肪酸の炭素原子数は、例えば8~30程度、好ましくは10~24である。
好ましい脂肪酸アミドの例としては、例えば、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、N-オレイルパルミトアミド、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物などが挙げられる。
脂肪酸アミドは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
(脂肪族アルコール)
脂肪族アルコールとしては、滑剤として使用できる公知の脂肪族アルコールが挙げられる。脂肪族アルコールは、例えば炭素原子数6~30、好ましくは炭素原子数10~24の脂肪族アルコールである。脂肪族アルコールの具体例としては、例えば、カプロイルアルコール、カプリリルアルコール、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコールなどが挙げられ、好ましくは、ステアリルアルコールである。
脂肪酸アルコールは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
(脂肪酸)
脂肪酸としては、滑剤として使用できる公知の脂肪酸が挙げられる。脂肪酸としては、例えば、炭素原子数6~30、好ましくは炭素原子数10~24の脂肪酸が挙げられる。脂肪酸の具体例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、エルカ酸などの不飽和脂肪酸などが挙げられ、好ましくはステアリン酸である。
脂肪酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
(脂肪族炭化水素系化合物)
脂肪族炭化水素系化合物としては、滑剤として使用できる公知の脂肪族炭化水素系化合物が挙げられる。脂肪族炭化水素系化合物の具体例としては、例えば、炭素原子数16以上の流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、天然パラフィン、合成パラフィンなどのパラフィンワックス、ポリエチレンワックスなどのポリオレフィンワックス、およびこれらの部分酸化物、あるいはフッ化物、塩化物などが挙げられる。
脂肪族炭化水素化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
樹脂組成物において、滑剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、例えば、ポリアルキレングリコールと脂肪族基を有する金属塩とを併用することが好ましく、中でも、ポリエチレングリコールとアルキルベンゼンスルホン酸金属塩とを併用することがより好ましい。これら2種の滑剤を併用することで、本発明の樹脂組成物からなるフィルムが、他の樹脂フィルムのみならず、プレス板に対しても付着しにくくなるので、取扱い性及び加工性がより優れたものとなる。
ポリアルキレングリコールと、脂肪族基を有する金属塩を併用する場合、脂肪族基を有する金属塩に対するポリアルキレングリコールの比(ポリアルキレングリコール/金属塩)は、質量比で、好ましくは1/9以上9/1以下であり、より好ましくは1/5以上5/1以下、さらに好ましくは1/3以上3/1以下である。
【0038】
また、脂肪酸エステルとフッ素系ポリマーとを併用することも好ましい。これら2種の滑剤を併用することで、本発明の樹脂組成物からなるフィルムが、樹脂フィルムのみならず、プレス板に対しても付着しにくくなるので、取扱い性及び加工性がより優れたものとなる。脂肪酸エステルとフッ素系ポリマーを併用する場合、脂肪酸エステルに対するフッ素系ポリマーの比(フッ素系ポリマー/脂肪酸エステル)は、質量比で、好ましくは1/9以上9/1以下であり、より好ましくは1/6以上6/1以下、さらに好ましくは1/4以上4/1以下であり、よりさらに好ましくは1/3以上3/1以下である。
【0039】
また、滑剤は、3種以上を併用してもよく、例えば、ポリアルキレングリコール、脂肪族基を有する金属塩、脂肪酸エステル、及びフッ素系ポリマーの4種を併用してもよい。このように4種の滑剤を併用する場合、ポリアルキレングリコールと金属塩の含有量比、及び脂肪酸エステルとフッ素系ポリマーの含有量比は、上記の通りとすればよい。
【0040】
樹脂組成物における滑剤の含有量は、樹脂組成物に含有される樹脂成分100質量部に対し0.01質量部以上5質量部以下であることが好ましい。0.01質量部以上であることで、樹脂組成物から形成されたフィルムなどの表面抵抗率が低くなり、帯電が防止され、また、滑り性が良好となり、加工性、取扱い性、防塵性、耐擦傷性などが向上しやすくなる。また、濡れ性が適度に上がって、印刷適正も向上しやすくなると推定される。また、5質量部以下とすることで、含有量に見合った効果を発揮することができ、また、樹脂組成物から形成されるフィルムの物性を低下させたり、印刷適正を低下させたりすることも抑制できる。
以上の観点から、樹脂組成物における滑剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、0.1質量部以上がより好ましく、0.4質量部以上がさらに好ましく、0.6質量部以上がよりさらに好ましく、0.9質量部以上が特に好ましい。また、3質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることが更に好ましく、1.5質量部以下であることが特に好ましい。
【0041】
[ポリエステル樹脂(B)]
上記樹脂組成物は、樹脂成分として、上記したポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)を含有してもよい。ポリエステル樹脂(B)は、ジカルボン酸とジヒドロキシ化合物とを重縮合して得られるポリエステルである。なお、ジカルボン酸としては、ジカルボン酸のエステル、酸ハロゲン化物などのジカルボン酸誘導体がポリエステル樹脂(B)の合成に供されてもよい。樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)以外にポリエステル樹脂(B)を含有することで、様々な特性を有しやすくなり、例えば低温融着性などを向上させやすくなる。また、印刷適正も向上しやすい傾向となる。
【0042】
ポリエステル樹脂(B)は、ジカルボン酸として、耐熱性の観点から、芳香族ジカルボン酸を使用することが好ましく、したがって、ポリエステル樹脂(B)は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位を含むことが好ましい。芳香族ジカルボン酸の具体例としては、ポリエステル樹脂(A)で述べたとおりであり、好適な化合物も同様である。芳香族ジカルボン酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリエステル樹脂(B)において、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位は、ポリエステル樹脂(A)中のジカルボン酸由来の構造体中に、80モル%以上含まれることが好ましく、90モル%以上含まれることがさらに好ましく、また、100モル%以下含まれることが好ましく、最も好ましくは100モル%である。
また、ポリエステル樹脂(B)は、脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位を少量(通常、20モル%以下の範囲)含んでもよい。脂肪族ジカルボン酸の具体例は、ポリエステル樹脂(B)で述べたとおりである。
【0043】
ポリエステル樹脂(B)は、ジヒドロキシ化合物を2種以上共重合成分として使用した共重合体ポリエステル樹脂であることが好ましい。また、ポリエステル樹脂(B)は、ジヒドロキシ化合物として、鎖式ジヒドロキシ化合物、及び脂環式ジヒドロキシ化合物の少なくとも一方を使用するとよいが、これら両方を使用することが好ましい。したがって、ポリエステル樹脂(B)は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とを含有することが好ましい。
ポリエステル樹脂(B)で使用する鎖式ジヒドロキシ化合物の具体例は、ポリエステル樹脂(A)で述べたとおりであるが、好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールから選択される1種又は2種以上である。
また、ポリエステル樹脂(B)で使用する脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例は、ポリエステル樹脂(A)で述べたとおりであるが、好ましくはテトラメチルシクロブタンジオール及びシクロヘキサンジメタノールから選択される1種又は2種以上であり、より好ましくはシクロヘキサンジメタノールである。なお、シクロヘキサンジメタノールは、上記のとおり、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0044】
ポリエステル樹脂(B)は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が65モル%以下であるとよく、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下である。脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合を上記の通りに低くすると、ポリエステル樹脂(B)において鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有量が多くなり、樹脂組成物の低温融着性などを向上させやすくなる。
また、脂環式ジヒドロキシ化合物を一定量以上含有させて、耐熱性を向上させる観点から、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の上記割合は、5モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましい。
【0045】
ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は、90℃未満であるとよいが、
好ましくは88℃以下、より好ましくは85℃以下、さらに好ましくは82℃以下である。また、ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は、樹脂組成物の耐熱性、耐衝撃性を良好にする観点から、70℃以上が好ましく、73℃以上がより好ましく、75℃以上がさらに好ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)の測定方法は、上記のとおりである。
また、ポリエステル樹脂(B)は、非晶性ポリエステルであることが好ましい。非晶性ポリエステルを使用することで、樹脂フィルムなどの他の部材に対する接着性が良好となりやすい。
【0046】
(ポリエステル樹脂(A)、(B)の含有量)
樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計量100質量部に対して、50質量部より多いことが好ましい。ポリエステル樹脂(A)の含有量を50質量部より多くすると、低温融着性を向上させながらも、耐熱性を良好に維持でき、加熱加工時に寸法変化が生じにくくなる。そのため、カード又はパスポートを製造する際の作業性が良好となり、得られるカード又はパスポートに反りが生じたりすることを防止できる。さらには、耐溶剤性も良好となりやすい。また、耐衝撃性も良好となりやすく、長期使用における信頼性も向上しやすい。
樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計量100質量部に対して、60質量部以上であることがより好ましく、70質量部以上であることがさらに好ましい。
また、樹脂組成物は、上記の通りポリエステル樹脂(B)を含有しなくてもよく、したがって、樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計量100質量部に対して、100質量部以下であればよい。
ただし、ポリエステル樹脂(B)を樹脂組成物に含有させる場合にポリエステル樹脂(B)を含有させた効果を発揮しやすい点から、ポリエステル樹脂(B)の含有量は、一定量以上とするとよい。したがって、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計量100質量部に対して、ポリエステル樹脂(A)の含有量は、好ましくは95質量部以下であればよく、より好ましくは90質量部以下、さらに好ましくは85質量部以下である。
【0047】
(その他の成分)
樹脂組成物は、後述する通り、カード又はパスポードのコア用シート、レーザーマーキング用シート、保護用シートのいずれに使用してもよいが、使用されるシートに応じて適宜滑剤以外の添加剤が配合されてもよい。
【0048】
樹脂組成物は、例えばコア用シートに使用される場合、着色剤を含有することが好ましい。着色剤としては、白色顔料として酸化チタン、酸化バリウム、酸化亜鉛、黄色顔料として酸化鉄、チタンイエロー、赤色顔料として、酸化鉄、青色顔料としてコバルトブルー群青等が挙げられる。また、白色系染料などの染料を使用してもよい。ただし、コントラスト性を高めるため、薄い色付、淡彩色系となるものが好ましい。上記した着色剤の中でも、コントラスト性の際立つ、白色系染料、白色顔料がより好ましい。
【0049】
また、例えばレーザーマーキング用シートに使用される樹脂組成物は、レーザー発色剤を含有してもよい。レーザー発色剤は、レーザー光線の照射によって発熱する機能を有するものであれば特に限定されず、レーザー光の照射によってそれ自身が発色するいわゆる自己発色型発色剤でもよいし、それ自身は発色しないものであってもよい。レーザー発色剤は、発熱することにより、少なくともその周辺の形成材料が炭化し、レーザーマーキング用シートに所望の印字が表れる。さらに自己発色するレーザー発色剤を用いると、レーザー発色剤の発色と、積層体の形成材料が炭化することによって生じる炭化物による発色とが相乗して、色が濃く、視認性に優れた印字を表すことができる。レーザー発色剤が発色する場合、その色彩は特に限定されるものではないが、視認性の観点から、黒、紺、茶を含む濃色に発色し得るレーザー発色剤を用いることが好ましい。
【0050】
レーザー発色剤は、金属酸化物であってもよいし、金属酸化物以外の化合物であってもよい。金属酸化物としてはレーザー発色効果を有するものであれば限定されず、例えば、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化錫、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化ビスマス、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化ネオジウム、マイカ、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、スメクタイトなどが挙げられる。
また、金属酸化物以外のレーザー発色剤でもよく、鉄、銅、亜鉛、錫、金、銀、コバルト、ニッケル、ビスマス、アンチモン、アルミニウムなどの金属、それらの塩である塩化鉄、硝酸鉄、リン酸鉄、塩化銅、硝酸銅、リン酸銅、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、リン酸亜鉛、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、次炭酸ビスマス、硝酸ビスマスなどの金属塩、水酸化マグネシウム、水酸化ランタン、水酸化ニッケル、水酸化ビスマスなどの金属水酸化物、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン、ランタンホウ化物などの金属ホウ化物などでもよい。なお、金属ホウ化物は、六ホウ化物が近赤外吸収能を有しており、中でも六ホウ化ランタンはレーザー光の吸収効率に優れているため好ましい。また、例えば、フルオラン系、フェノチアジン系、スピロピラン系、トリフェニルメタフタリド系、ローダミンラクタム系などのロイコ染料などで代表される染料系や、カーボンブラックなども使用できる。
レーザー発色剤としては、酸化ビスマスや、ビスマスとZn、Ti、Al、Zr、Sr、NdおよびNbから選択される少なくとも1種の金属を含んだ金属酸化物等のビスマス系の金属酸化物を用いることが好ましい。
レーザー発色剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
樹脂組成物は、上記以外の樹脂材料に使用される公知の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、プロセス安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、艶消し剤、耐衝撃改良剤、加工助剤、金属不活化剤、残留重合触媒不活化剤、抗菌・防かび剤、抗ウイルス剤、帯電防止剤、難燃剤、充填材等が挙げられる。
【0052】
また、上記樹脂組成物は、樹脂成分として、ポリエステル樹脂(A)単独又はポリエステル樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)のみを使用してもよいが、本発明の趣旨に反しない範囲において、ポリエステル樹脂(A)、(B)以外の樹脂を含有してもよい。そのような樹脂としては、汎用的に使用される公知の樹脂を使用するとよいが、ポリエステル樹脂(A)、又はポリエステル樹脂(A)及び(B)と相溶性のある樹脂を用いることが好ましい。
樹脂組成物を構成する樹脂は、ポリエステル樹脂(A)、又はポリエステル樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)を主成分として含有するとよく、ポリエステル樹脂(A)及び(B)の合計含有量は、樹脂組成物に含有される樹脂全量に対して、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0053】
(貯蔵弾性率)
上記樹脂組成物は、90℃における貯蔵弾性率が3×107Pa以上であることが好ましい。90℃における貯蔵弾性率を3×107Pa以上とすると、加熱したときに変形が生じにくくなり、カードやパスポートを作製する際の作業性が良好となる。また、カードやパスポートに反りが発生しにくくなる。加えて、長期間の使用にも耐え得る耐久性も有しやすくなる。樹脂組成物の90℃における貯蔵弾性率は、1×108Pa以上がより好ましく、3×108Pa以上がさらに好ましく、5×108Pa以上であることがよりさらに好ましい。
また、貯蔵弾性率は、上限に関しては特に限定されないが、例えば5×1010Pa以下、好ましくは1×1010Pa以下である。
【0054】
貯蔵弾性率は、JIS K7244-4:1999に準拠した動的粘弾性測定から得られる引張貯蔵弾性率の値であり、詳しくは実施例に記載のとおりである。なお、引張貯蔵弾性率を得るための試験片は、樹脂組成物から、例えばプレス成形、押出成形などによりフィルムを作製し、そのフィルムを試験片とするとよい。押出成形などの場合には、延伸しないように作製するとよいが、方向性がある場合、MDについて測定するとよい。プレス成形などのように方向性がない場合には、一方向のみ測定して、その測定値を貯蔵弾性率とする。なお、MD(Machine Direction)は樹脂の流れ方向であり、TD(transverse direction)はフィルムの面方向に沿うMDに垂直な方向である。
【0055】
(再生原料)
本発明において、樹脂組成物は、再生原料を含有してもよい。再生原料を使用することにより、廃棄物の削減、エネルギー消費量削減など地球環境保護に貢献できる。再生原料は、回収された製品、廃棄物などを、化学反応を伴う化学的再生法により再生された原料であってもよい。また、回収された製品、廃棄物などを、物理的再生法(メカニカルリサイクル)により再生された原料であってもよい。
再生原料としては、上記ポリエステル樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)の少なくとも一部に再生原料を使用することが好ましく、ポリエステル樹脂(A)の少なくとも一部に再生原料を使用することがより好ましい。なお、再生原料により構成されるポリエステル樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)はそれぞれ、再生ポリエステル樹脂(A)、再生ポリエステル樹脂(B)ともいう。
【0056】
樹脂組成物における再生ポリエステル樹脂(A)及び再生ポリエステル樹脂(B)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)の合計量全体に対して、例えば30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。再生原料の含有量は、地球環境保護の観点から、高ければ高いほどよく、100質量%以下であれば特に制限されない。
【0057】
再生ポリエステル樹脂(A)又は再生ポリエステル樹脂(B)は、上記の通り化学的再生法により再生されたものであってもよい。具体的には、廃棄などされたポリエステル樹脂を解重合して、得られた中間体又はモノマーから、再度重合してポリエステル樹脂(A)又はポリエステル樹脂(B)を合成することで得ることができる。
また、再生ポリエステル樹脂(A)又は再生ポリエステル樹脂(B)は、ポリエステル樹脂製品や、生産過程で発生する端材などを回収して、必要に応じて選別、洗浄などを行ったうえで、溶融、粉砕などの加工を行い、次いで、造粒、微細化、ペレット化、フレーク化などの加工を適宜行い、粉体、粒状、ペレット、フレーク状などの樹脂組成物の原料として使用できる形態にして再生原料として使用すればよい。また、再生原料を得る過程において、固相重合などをして、分子量を高めてもよい。すなわち、再生ポリエステル樹脂(A)又は再生ポリエステル樹脂(B)は、化学反応を伴わない物理的再生法により再生したものであってもよいし、物理的再生法により再生しつつ化学変化により分子量を高めてもよい。
【0058】
再生ポリエステル樹脂(A)又は再生ポリエステル樹脂(B)は、生産過程で発生する端材から再生された再生ポリエステル樹脂であることが好ましい。生産過程で発生する端材は、原料組成が比較的安定し、また、原料組成が既知であることが多いことから、再生原料として再生しやすい。
なお、生産過程で発生する端材とは、合成されたポリエステル樹脂が、所定の製品形態(フィルム、シート、繊維、ストランド、ブロック、ペレット、粉体、その他の成形品などのあらゆる製品形態)に加工されるまでの間で発生し、製品として利用されないポリエステル樹脂である。
【0059】
<第2の実施形態における樹脂組成物>
以上の説明において、本発明の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)を含む樹脂成分と滑剤を含有するカード又はパスポート用樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂(A)が、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含み、かつガラス転移温度が90℃以上である第1の実施形態について説明したが、樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A)は、ガラス転移温度が90℃以上であれば、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む必要はない。鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有しないと、耐熱性が向上しやすい。
すなわち、別の実施形態(「第2の実施形態」ともいう)において、ポリエステル樹脂(A)は、ガラス転移温度が90℃以上であれば、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有しなくてもよい。
第2の実施形態においても、ポリエステル樹脂(A)は、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有することが好ましく、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が65モル%超であることが好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、90モル%以上がよりさらに好ましいが、上限値は100モル%である。
そして、第2の実施形態において、ポリエステル樹脂(A)は、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位と、テトラメチルシクロブタンジオールに由来する構造単位とを含有することが好ましい。
なお、第2の実施形態におけるその他のポリエステル樹脂(A)の構成は、第1の実施形態と同様であるので、その説明は省略する。
【0060】
第2の実施形態において使用される滑剤は、上記第1の実施形態で説明したとおりであるが、第2の実施形態において滑剤は、好ましくはポリアルキレングリコール、脂肪族基を有する金属塩及びフッ素系ポリマーのいずれか1種又は2種以上を含む。
第2の実施形態では、上記したポリエステル樹脂(A)とこれら滑剤を使用することで、表面抵抗率が適切に低くなり帯電が抑制され、また、滑り性が向上して、加工性、取扱い性、耐擦傷性、防塵性などが向上する。さらに濡れ性も向上して、上記した各効果を発揮しやすくなる。
【0061】
第2の実施形態において、樹脂組成物は、ポリアルキレングリコール、脂肪族基を有する金属塩及びフッ素系ポリマーから選ばれる1種又は2種以上と、これら以外の滑剤、具体的には、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪族アルコール、脂肪酸、脂肪族炭化水素系化合物などから選ばれる1種又は2種以上とを組み合わせて使用してもよい。
また、第2の実施形態において、滑剤を2種以上使用する場合、その組み合わせとしては、上記第1の実施形態と同様に、ポリアルキレングリコールと脂肪族基を有する金属塩とを併用することが好ましく、中でも、ポリエチレングリコールとアルキルベンゼンスルホン酸金属塩とを併用することがより好ましい。同様に、脂肪酸エステルとフッ素系ポリマーとを併用することも好ましい。また、滑剤は、3種以上を併用してもよく、例えば、ポリアルキレングリコール、金属塩、脂肪酸エステル、及びフッ素系ポリマーの4種を併用してもよい。これら2種又はそれ以上を併用する場合の含有量比の好適値は、第1の実施形態で説明したとおりである。
【0062】
また、第2の実施形態においても、樹脂組成物は、樹脂成分として、ポリエステル樹脂(A)に加えて、ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)を含有してもよい。ポリエステル樹脂(B)の詳細は、第1の実施形態で説明したとおりである。
さらに、第2の実施形態におけるその他の構成は、第1の実施形態で説明したとおりであり、その説明は省略する。
【0063】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の各実施形態に係る樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)、滑剤、任意で配合されるポリエステル樹脂(B)、任意の添加剤などの樹脂組成物を構成する原料を混合して、樹脂組成物を得るとよい。
また、樹脂組成物が再生原料を含有する場合、樹脂組成物に再生原料を配合して、その再生原料を他の原料とともに混合して、樹脂組成物を得るとよい。
原料の混合は、押出機、プラストミルなどにおいて加熱しながら溶融混練して行うとよいが、樹脂組成物を構成する原料をタンブラー等でドライブレンドしたものをそのまま用いてもよい。
溶融混錬の温度は、樹脂の種類や混合比率、添加剤の有無や種類に応じて適宜調整されるが、生産性等の観点から、220℃以上であることが好ましく、230℃以上であることがより好ましく、240℃以上であることがさら好ましい。また、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、270℃以下であることがさらに好ましい。溶融混錬温度がかかる範囲であれば、樹脂の分解や架橋を抑制しつつ、十分に流動させることが容易となる。
【0064】
<カード又はパスポート用フィルム>
本発明のカード又はパスポート用フィルム(以下、「本フィルム」ということがある)は、上記した樹脂組成物(第1又は第2の実施形態に係る樹脂組成物)からなるフィルムである。本フィルムの厚みは、特に限定されず、使用される目的によって適宜調整すればよいが、例えば、5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上であり、また、例えば1000μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは200μm以下である。
本フィルムは、単層構造を構成してもよいし、多層構造の積層体のうちの1つの層を構成してもよい。多層構造の積層体においては、1つの層のみが、本フィルムから構成されていてもよいが、2以上の層が本発明フィルムから構成されていてもよい。
なお、カード又はパスポートは、後述する通り、一般的に複数の樹脂層が重ねられて構成されるが、本フィルムは、そのうちの少なくとも1つを構成するとよい。
【0065】
(加熱伸縮率)
本フィルムは、100℃で10分間加熱処理した際の以下の式で表される加熱伸縮率が、-1%以上であることが好ましい。なお、加熱伸縮率は、測定サンプルに標準線を付けて、加熱処理前後の標準線の間隔を測定して算出するとよい。
加熱伸縮率(%)=[加熱処理後の標準線間隔-加熱処理前の標準線間隔]/加熱処理前の標準線間隔×100
【0066】
上記加熱伸縮率は、加熱により収縮した際にマイナスの値となり、加熱により伸長した際にはプラスの値となる。一般的に樹脂フィルムは、加熱により収縮するので、本フィルムの加熱伸縮率は、通常マイナスの値となるが、その絶対値は低い方が加熱した際の収縮が少ないことを表す。したがって、本フィルムの加熱伸縮率を上記の通り-1%以上とすると、カード又はパスポートを作製する際の寸法変化が小さくなり、作業性の低下や反りの発生を防止できる。
これら観点から、加熱伸縮率は-0.8%以上がより好ましく、-0.6%以上がさらに好ましく、-0.4%以上がよりさらに好ましく、-0.3%以上が特に好ましい。一方で、加熱伸縮率は、上記のとおり0%に近いほうがよく、したがって、加熱伸縮率の上限は一般的に0%である。
なお、以上述べた加熱伸縮率は、フィルムの面方向の一方向と、その一方向に垂直な方向の2方向について測定を行い、低い方の値(すなわち、熱収縮が大きいほうの値)を採用するとよいが、MD、TDの方向が判明している場合には、MD、TDの2方向について加熱伸縮率を測定するとよい。
【0067】
(表面抵抗率)
本フィルムの表面抵抗率は、好ましくは1×1014Ω以下、より好ましくは5×1013Ω以下、さらに好ましくは1×1013Ω以下、特に好ましくは7×1012Ω以下、最も好ましくは5×1012Ω以下である。本フィルムの表面抵抗率を上記の通り低くすると、フィルムへの帯電を防止して、取扱い性、加工性、防塵性、耐擦傷性などを向上させやすくなり、品質が良好なカード又はパスポートを効率的に製造しやすくなる。本フィルムは、樹脂組成物に特定の滑剤を配合することで、表面抵抗率を低くできる。
また、本フィルムの表面抵抗率は、下限に関して特に限定されないが、例えば、滑剤を必要以上に配合することを防止する観点から、例えば1×108Ω以上であり、好ましくは1×1010Ω以上である。
表面抵抗値は、電圧500V、温度23℃、湿度50%RHの条件で、測定して求めることができる。
【0068】
(濡れ性)
本フィルムの表面の濡れ性は、表面エネルギー値により評価できる。本フィルムの表面における表面エネルギー値は、37mN/m以上が好ましい。表面エネルギー値が37mN/m以上であると、濡れ性が良好となり、印字適正が優れたものとなる。したがって、本フィルム上に、印刷を行うと、インクのハジキ等が生じにくくなり、フィルム上にきれいに印刷することができると考えられる。
本フィルムの表面エネルギー値は、より好ましくは39mN/m以上であり、さらに好ましくは40mN/m以上である。表面エネルギー値の上限は、特に限定されないが、例えば60mN/m以下であり、好ましくは56mN/m以下である。
なお、本フィルムのエネルギー値は、市販のテンションチェッカーを使用して、引いた線に弾きや収縮が起こらず、線が保持される上限の値を測定値とする。
【0069】
(カード又はパスポート用フィルムの製造方法)
カード又はパスポート用フィルム(本フィルム)は、公知の方法で製造できるが、本フィルムを形成するための樹脂組成物を上記の通りに得て、その樹脂組成物をフィルム状にするとよい。樹脂組成物をフィルム状にする方法は、特に限定されないが、プレス成形などでもよいし、押出成形などでもよいが、生産性、コストの面からは押出成形が好ましい。
また、本フィルムによって多層構造の積層体を形成する場合には、公知のラミネート法により複数の樹脂フィルムを積層して形成してもよいし、樹脂フィルムの上に、別の樹脂層を形成するための樹脂組成物を溶融押し出して積層してもよい。また、共押出により多層構造としてもよい。
【0070】
<カード及びパスポート>
本発明のカードは、上記した本フィルムを備えるものである。また、本発明のパスポートは、上記した本フィルムを備えるものである。
カードとしては、ICカード、磁気カード、運転免許証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書、車検証、タグカード、プリペイドカード、キャッシュカード、クレジットカード、ETCカード、SIMカード、B-CASカードなどが挙げられる。
カード又はパスポートは、コア用シートを備えるとよい。また、カード又はパスポートは、コア用シートに加えて、レーザーマーキング用シート及び保護用シートの一方又は両方を備えてもよい。
【0071】
(カード)
以下、カードの好ましい層構成についてより詳細に説明する。カードは、好ましくはコア用シートの両方の面にレーザーマーキング用シートを積層する。具体的には、
図1(a)に示した、レーザーマーキング用シート1/コア用シート2/レーザーマーキング用シート1からなるカード20A、または、
図1(b)に示した、保護用シート4/レーザーマーキング用シート1/コア用シート2/レーザーマーキング用シート1/保護用シート4からなるカード20Bが好ましい。また、レーザーマーキング用シート1は省略してもよく、
図1(c)に示した、保護用シート4/コア用シート2/保護用シート4からなるカード20Cであってもよい。
また、各カード20A~20Cにおいて、コア用シート2の両面それぞれに設けられる層構造は、互いに同じであったが、各面上においては互いに異なっていてもよい。例えば、コア用シート2の一方の面にレーザーマーキング用シート1と、保護用シート4がこの順に設けられ、コア用シート2の他方の面に保護用シート4のみが設けられてもよい。
【0072】
レーザーマーキング用シート1は、単層の樹脂層からなってもよいが、複数の樹脂層からなる多層構造の積層体であることが好ましい。レーザーマーキング用シート1は、レーザー発色剤を含有する樹脂層を含むことが好ましく、単層の樹脂層からなる場合、その1つの樹脂層がレーザー発色剤を含有するとよい。また、多層構造の場合、複数の樹脂層のうち1つ以上の樹脂層がレーザー発色剤を含有するとよい。
【0073】
コア用シート2は、通常、単層の樹脂層からなるものであるが、複数の樹脂層かなるものでよい。コア用シートの厚さは例えば400~700μm程度である。また、コア用シートは、着色剤を適宜含有させた着色シートであることが好ましい。コア用シートに使用される着色剤の具体例は上記の通りである。
【0074】
レーザーマーキング用シートの最表面、或いは、レーザーマーキング用シートが省略される場合にはコア用シートの最表面には、昇華型熱転写受像層が設けられてもよい。レーザーマーキング用シート及びコア用シートにおいて、昇華型熱転写受像層は、視認側となる表側の表面に設けられるとよい、したがって、レーザーマーキング用シートに設けられた昇華型熱転写受像層は、コア用シートとは反対側に設けられるとよい。後述するパスポートでも同様である。
【0075】
昇華型熱転写受像層は従来公知のものを使用することができる。例えば、色材を転写または染着し易い樹脂を主成分とするワニスに、必要に応じて、離型剤、安定剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤を加えて構成される。
昇華型熱転写受像層に用いる染着し易い樹脂は、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル等のビニル系樹脂、及びこれらの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ボリアミド系樹脂、エチレンやプロピレン等のオレフィンと他のビニル系モノマーとの共重合体、アイオノマー、セルロース誘導体等の単体、又は混合物を用いることができ、これらの中でもポリエステル系樹脂、及び、ビニル系樹脂が好ましい。
昇華型熱転写受像層は、上述の樹脂を有機溶剤や水などの溶媒に溶解分散して塗布することによりを形成することができる。
【0076】
保護用シートは、カードを保護するために積層される。保護用シートは、単層の樹脂層からなってもよいし、複数の樹脂層からなり多層構造の積層体であってもよい。保護用シートは、オーバーシートとも呼ばれるものであり、一般的にはカードの最外層を構成する。
保護用シートは、レーザーマーキング用シート1の外側に積層される場合には、レーザー光照射によってレーザー印字部分が発泡する、いわゆる「膨れ」を抑制する。
【0077】
カードは、コア用シート、レーザーマーキング用シート及び保護用シートが、上記した層構造となるように、適宜重ね合わされてプレスして加熱融着させた後、打ち抜き加工などがなされて製造されるとよい。また、加熱融着の代わりに適宜接着剤などを使用して、シート同士を接着させてもよい。
【0078】
(パスポート)
次に、パスポートの好ましい層構成についてより詳細に説明する。パスポートとしては、ICチップを搭載した所謂電子パスポートに本フィルムが好ましく用いられるが、特にデータページをプラスチック化する場合は、ヒンジシートと、ヒンジシートの両面それぞれに設けられたコア用シートとを備え、そのコア用シートの表面にさらにレーザーマーキング用シートが積層されることが好ましい。また、パスポートは、保護用シートを備え、レーザーマーキング用シートの表面にはレーザーマーキング用シートを保護するために、保護用シートがさらに積層されることが好ましい。具体的には、
図2(a)に示した、レーザーマーキング用シート1/コア用シート2/ヒンジシート3/コア用シート2/レーザーマーキング用シート1からなるパスポート10A、または、
図2(b)に示した、保護用シート4/レーザーマーキング用シート1/コア用シート2/ヒンジシート3/コア用シート2/レーザーマーキング用シート1/保護用シート4からなるパスポート10Bが好ましい。また、レーザーマーキング用シート1は省略してもよく、
図2(c)に示した、保護用シート4/コア用シート2/ヒンジシート3/コア用シート2/保護用シート4からなるカード10Cであってもよい。
また、各パスポート10A、10B、10Cにおいて、ヒンジシート3の両面それぞれにおける層構成は、互いに同じであったが、各面上においては互いに異なっていてもよい。例えば、ヒンジシート3の一方の面にコア用シート2、レーザーマーキング用シート1、及び保護用シート4がこの順に設けられる一方で、ヒンジシート3の他方の面にコア用シート2及びマーキング用シート1がこの順に設けられ、保護用シート4が省略されてもよい。
【0079】
パスポートにおけるレーザーマーキング用シートは、上記カードで説明したとおり、昇華型熱転写受像層を備えてもよい。また、パスポートは、ICチップ等の記憶媒体に各種の情報を記憶させて配設したシート、いわゆるインレットシートを有してもよい。インレットシートは、例えばヒンジシートと、コア用シートの間に設けるとよい。
ヒンジシートは、記録層、コア用シート、インレットシートなどを保持し、パスポートの表紙と他のビザシート等と一体に堅固に綴じるための役割を担うシートである。そのため、堅固な加熱融着性、適度な柔軟性、加熱融着工程での耐熱性等を有するものが好ましい。
【0080】
ヒンジシートは、公知のものが使用可能であり、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリウレタン樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマーなどの熱可塑性樹脂や熱可塑性エラスマーなどにより構成される樹脂シートであってもよいし、織物、編物、または不織布などで構成されてもよいし、織物、編物、または不織布と、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラスマーなどとの複合材料であってもよい。また、パスポートにおけるコア用シートは、厚さ50~200μmであることが好ましい以外は、上記と同様である。また、パスポートにおける保護用シートは上記で説明したとおりである。
パスポートにおいても、コア用シート、レーザーマーキング用シート及び保護用シートは、上記した層構造となるように、適宜重ね合わされたうえでプレスして加熱融着させるとよい。また、加熱融着の代わりに接着剤によりシート同士が接着されてもよい。
【0081】
カード又はパスポートは、カード又はパスポートに設けられた、コア用シート、レーザーマーキング用シート及び保護用シートの少なくとも1つが上記した本フィルムを備えるとよい。これらシートの少なくともいずれかが本フィルムを備えることで、シート同士を低温で融着させることが容易となる。また、加熱された際に寸法変化が少ないことから、カード又はパスポートを製造する際の作業性が高くなり、カード又はパスポートに反りが生じることも防止できる。
さらには、本フィルムは、滑剤を含有するので、表面抵抗率が低くなり、また、滑り性が良好となり、取扱い性、加工性、耐擦傷性、防塵性なども向上する。また、濡れ性を高くして、本フィルムに印刷を行う場合に印字特性も良好になると推定される。
【0082】
カード又はパスポートにおいて、コア用シート、レーザーマーキング用シート及び保護用シートは、上記の通り多層構造を有する場合があるが、その場合には少なくとも1層が上記本フィルムからなるとよい。また、本フィルムは、各シートにおいて最外層に配置されるとよい。本フィルムが最外層に配置されたシートは、本フィルムを介して他のシートに積層されることになるので、低温加熱でも確実に他のシートに融着させることができる。また、各シートにおいて、本フィルムが最外層を構成すると、シート表面における帯電を効果的に防止できるので、各シートの取扱い性、防塵性、耐擦傷性なども向上させやすくなる。さらに、本フィルムは、濡れ性を高くして印刷適正を優れたものにもできるので、シートの最外層に配置され、印刷面を構成すると、インクのハジキ等が生じずにきれいな印刷を実現できる。
【0083】
なお、カード又はパスポートは、コア用シート、レーザーマーキング用シート及び保護用シートを構成する少なくとも1つの樹脂層が本フィルムより形成されればよく、他の樹脂層は、本フィルムにより形成されなくてもよい。そのような場合の他の樹脂層に用いられる樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば特に制限はないが、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、又はこれらの混合物などが挙げられる。
【実施例0084】
以下、実施例および比較例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものでは無い。
【0085】
評価方法及び測定方法は、以下のとおりである。
【0086】
(1)低温融着性
圧縮成形機「NF-37」(神藤金属工業所社製)を用いて、各実施例、比較例で得られたフィルム(大きさ100mm×300mm)同士を重ねてステンレス板で挟んで、プレス圧力1.5MPa、プレス時間5分、その後の冷却を室温に下がるまで約5分間行い、熱融着させた。その後、ステンレス板から融着したフィルムを取り出し、フィルム同士を引き剥がして、フィルムが剥離不可であるかどうか(材料破壊するかどうか)を確認した。プレス時の加熱温度は10℃刻みで上げていき、剥離不可のもの(材料破壊したもの)を融着していると判断し、融着した最低温度(材料破壊温度)を求めた。この材料破壊温度は、フィルムが適切に融着する温度であり、低いほど低温融着性に優れていることを示す。
【0087】
(2)耐溶剤性
室温環境下で、溶剤を入れたシャーレに各実施例、比較例のフィルム片を1分間浸し、外観を目視確認して、以下の評価基準で評価した。本試験は、溶剤として酢酸エチル、トルエン、及びメチルエチルケトン(MEK)それぞれを使用して実施した。
OK:変化がない
NG:溶ける
【0088】
(3)耐擦傷性
各実施例、比較例で得られたフィルムを8枚重ね、(1)低温融着性の評価条件と同様にして積層体を作製した。得られた積層体の表面に、プラスチックカードの角をあて、力をかけながら5cmを5往復して、傷の有無を目視で確認した。
A:傷がない
B:傷が薄く残った
C:傷が強く残った
【0089】
(4)ガラス転移温度(Tg)
使用した各ポリエステル樹脂について、粘弾性スペクトロメーター「DVA-200」(アイティー計測制御株式会社製)を用い、JIS K7244-4:1999に準拠して、歪み0.07%、周波数1Hz、昇温速度3℃/分、引張モードにて動的粘弾性の温度分散測定を行った。そして損失弾性率のピークトップの温度をガラス転移温度とした。
【0090】
(5)貯蔵弾性率
各実施例、比較例で得られたフィルムから4mm×25mmの試験片(厚み100μm)を切り出し、測定試料として得た。その測定試料を用いて、JIS K7244-4:1999に準拠して、粘弾性スペクトロメーター「DVA-200(アイティー計測制御株式会社製)」を用い、周波数1Hz、歪み0.07%、-100~180℃の間を昇温速度3℃/分で昇温させ、90℃における引張貯蔵弾性率をMDについて測定した。
【0091】
(6)加熱伸縮率
各実施例、比較例で得られたフィルムから大きさ120mm×120mmの試験片を切り出し、得られた試験片の中央に大きさ100mm×100mmの標準線を付け、100℃のオーブンで10分間加熱処理を施し、処理前後のMD及びTDのそれぞれの標準線間隔から、下記式を用いて算出した。なお、標準線間隔の測定は、標準線の中央で行った。
加熱伸縮率(%)=[加熱処理後の標準線間隔(mm)-100(mm)]/100(mm)×100
フィルムは、加熱伸縮率が0の値に近いほど、耐熱性が優れているといえる。
【0092】
(7)貼り付き性
各実施例、比較例で得られたフィルムを用い、(1)低温融着性の評価条件と同様にしてフィルムを熱融着させた。その後、ステンレス板から融着したフィルムを剥がす際に、ステンレス板への貼り付き性を評価した。ステンレス板への貼り付きが小さくステンレス板から容易に剥離できる場合を「OK」、ステンレス板への貼り付きが大きくステンレス板から剥離する場合に力を要するものを「NG」として評価した。
【0093】
(8)表面抵抗率
各実施例、比較例で得られたフィルムから大きさ120mm×120mmの試験片を切り出し、日東精工アナリテック社製 ハイレスターUP(MCP-HT450)を用いて、電圧500V、温度23℃、湿度50%RHの条件で、JIS K6911:2006(5.13)を参考にして、表面抵抗率を測定した。
【0094】
(9)濡れ性評価
各実施例、比較例で得られたフィルムに、表面エネルギー値の異なるテンションチェッカー(春日電機社製)で2cmの線を引いた。2秒経過した後、引いた線に弾きや収縮が起こらず、線が保持される上限のダイン値を測定値とした。ダイン値が大きいほど表面エネルギー値が高く、濡れ性が高いと言える。
【0095】
実施例、比較例で使用した原料は、以下の通りである。
(ポリエステル樹脂)
PCTG1:テレフタル酸からなるジカルボン酸と、エチレングリコール(EG)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-CHDM)、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール(TMCD)からなるジヒドロキシ化合物との共重合ポリエステル樹脂(非晶性)、ジヒドロキシ化合物(EG=8モル%、1,4-CHDM=74モル%、TMCD=18モル%)、端材より再生された再生ポリエステル樹脂、ガラス転移温度(Tg)=100℃
PCTG2:テレフタル酸からなるジカルボン酸と、EGと1,4-CHDMとTMCDからなるジヒドロキシ化合物との共重合ポリエステル樹脂(非晶性)、ジヒドロキシ化合物(EG=2モル%、1,4-CHDM=76モル%、TMCD21モル%)、端材より再生された再生ポリエステル樹脂、ガラス転移温度(Tg)=104℃
PETG:テレフタル酸からなるジカルボン酸成分と、EGと1,4-CHDMからなるジヒドロキシ化合物との共重合ポリエステル樹脂(非晶性)、ジヒドロキシ化合物(EG=70モル%、1,4-CHDM=30モル%)、ガラス転移温度78℃
(ポリカーボネート樹脂)
PC:住友ポリカーボネート社製「カリバー301-4」
(滑剤)
滑剤1:ポリエチレングリコール(数平均分子量3000):ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム=2:1(質量比)
滑剤2:モンタン酸エステルワックスとフッ素系ポリマーの混合物
【0096】
[実施例1~3]
表1に記載の配合に従い樹脂、又は樹脂及び添加剤を二軸押出機に投入して混練して、二軸押出機を用いて240℃で樹脂組成物を押出し、厚み100μmのフィルムを得た。
【0097】
[比較例1]
配合を表1の通りに変更し、かつ押出温度を240℃から250℃に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0098】
[比較例2、3]
配合を表1の通りに変更し、かつ押出温度を240℃から230℃に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
[比較例4]
配合を表1の通りに変更し、かつ押出温度を240℃から270℃に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0099】
【0100】
表1に記載の通り、実施例1~3の樹脂組成物は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含み、かつガラス転移温度が90℃以上であるポリエステル樹脂(A)、及び滑剤を含有することで、低温融着性に優れており、さらに、耐溶剤性も良好であった。また、90℃における貯蔵弾性率が高く、耐熱性が優れていたため、加熱伸縮率が0%に近い値となり、加熱伸縮率の値が低くなった。そのため、本樹脂組成物を使用して、カード又はパスポートを製造する際、熱加工時のサイズ変化が小さくなり、作業性が高く、かつ反りの発生を抑制できることが理解できる。また、表面抵抗率が低くなり帯電が防止され、かつ滑り性が高く、プレス板への貼り付きが防止され取扱い性及び加工性が良好となり、さらに耐擦傷性も良好となった。また、防塵性も良好になることが理解できる。さらに、濡れ性が高く、印刷適正も良好になると推定される。
【0101】
一方で、比較例1、3の樹脂組成物は、滑剤を含有しないので、表面抵抗率が高く帯電が防止されずに、プレス板への貼り付きが生じて取扱い性及び加工性が悪くなり、滑り性が低下して耐擦傷性も不十分となった。また、防塵性も良好にできないことが理解できる。さらに、濡れ性も低く、印刷適正も良好にならないと推定される。
比較例2の樹脂組成物は、滑剤及びポリエステル樹脂を含有するものの、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が90℃未満であったため、90℃における貯蔵弾性率が低く、加熱伸縮率の値も大きくなった。そのため、熱加工時のサイズ変化が大きくなるので、カード又はパスポートを製造する際、サイズのばらつきが生じて作業性が低くなり、また、反りの発生も抑制することが難しいことが理解できる。さらに、耐溶剤性も良好にできなかった。
なお、比較例2、3は、低温融着性に優れており、比較例2のフィルム同士や、比較例3のフィルム同士を低温で融着させると、サイズ変化が抑えられ、作業性は良好になるが、耐熱性が低いカードやパスポートしか得られなくなる。一方で、比較例2又は比較例3のフィルムを、耐熱性が高いフィルム(例えば、ポリカーボネートフィルム)に融着させ、カード又はパスポートの耐熱性を高めようとすると、融着温度を高くする必要があるが、融着温度が高いと、比較例2、3のフィルムにサイズ変化が生じて、作業性が低下し、また、反りが発生したりすることになる。すなわち、比較例2、3の樹脂組成物を使用すると、他のフィルムと組み合わせても本発明の効果を発揮することが難しいことが理解できる。
比較例4では、ポリエステル樹脂(A)の代わりにポリカーボネート樹脂を使用したため、耐熱性に優れるものの、耐溶剤性及び低温融着性を良好にできなかった。さらに、滑剤を含有しているにもかからず、滑り性が不十分で耐擦傷性が良好にならなかった。
【0102】
1 レーザーマーキング用シート
2 コア用シート
3 ヒンジシート
4 保護用シート
20A、20B、20C カード
10A、10B、10C パスポート