(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170610
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】鋼材識別装置、方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 19/06 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
G01N19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076875
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏
(72)【発明者】
【氏名】岡本 天駆
(57)【要約】
【課題】鋼材を研削したときに発生する火花の画像における火花の破裂部を特定することなく、鋼材の種類を精度よく認識する。
【解決手段】鋼材識別システム10の鋼材識別装置14は、鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する。そして、鋼材識別装置14は、火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う。鋼材識別装置14は、二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を記憶する。鋼材識別装置14は、マッチング結果から、短直線の角度に関する指標及び火花の線の太さに関する指標の少なくとも一方を表す識別指標を生成する。鋼材識別装置14は、生成された識別指標と、鋼材を研削したときの湿度とに基づいて、識別指標を補正する。鋼材識別装置14は、補正された識別指標に基づいて、鋼材の成分を識別する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部と、
前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部と、
前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を取得する短直線マッチング処理部と、
前記短直線マッチング処理部によって取得された前記マッチング結果から、前記短直線の角度に関する指標及び前記火花の線の太さに関する指標の少なくとも一方を表す識別指標を生成する識別指標生成部と、
前記識別指標生成部により生成された前記識別指標と、前記鋼材を研削したときの湿度とに基づいて、前記識別指標を補正する補正部と、
前記補正部により補正された前記識別指標に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部と、
を有する鋼材識別装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記湿度が大きいほど、補正後の前記識別指標の値が大きくなるように、前記識別指標を補正する、
請求項1に記載の鋼材識別装置。
【請求項3】
前記補正部は、補正前の前記識別指標と、予め設定された1または複数の定数と、前記湿度とによる補正式に従って、前記識別指標を補正する、
請求項1又は請求項2に記載の鋼材識別装置。
【請求項4】
前記補正部は、補正前の前記識別指標と、予め設定された定数a,bと、前記湿度とに基づいて、以下の補正式(1)に従って、前記識別指標を補正し、補正後の前記識別指標を計算する、
請求項3に記載の鋼材識別装置。
補正後の識別指標=補正前の識別指標+a×湿度×(補正前の識別指標-b)2
(1)
【請求項5】
前記鋼材識別処理部は、前記補正部により補正された前記識別指標と、成分の含有量が既知である鋼材から予め生成された多変量解析モデルとに基づいて、前記鋼材の成分を識別する、
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の鋼材識別装置。
【請求項6】
前記鋼材識別処理部は、前記補正部により補正された前記識別指標と、予め設定された閾値とに基づいて、前記鋼材の成分を識別する、
請求項1又は請求項2に記載の鋼材識別装置。
【請求項7】
前記識別指標には、前記火花の破裂部における破裂密度に関する指標がさらに含まれる、
請求項1~請求項5の何れか1項に記載の鋼材識別装置。
【請求項8】
鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換し、
前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行い、
前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を取得し、
取得された前記マッチング結果から、前記短直線の角度に関する指標及び前記火花の線の太さに関する指標の少なくとも一方を表す識別指標を生成し、
生成された前記識別指標と、前記鋼材を研削したときの湿度とに基づいて、前記識別指標を補正し、
補正された前記識別指標に基づいて、鋼材の成分を識別する、
処理をコンピュータに実行させる鋼材識別方法。
【請求項9】
コンピュータを、
鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部、
前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部、
前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を取得する短直線マッチング処理部、
前記短直線マッチング処理部によって取得された前記マッチング結果から、前記短直線の角度に関する指標及び前記火花の線の太さに関する指標の少なくとも一方を表す識別指標を生成する識別指標生成部、
前記識別指標生成部により生成された前記識別指標と、前記鋼材を研削したときの湿度とに基づいて、前記識別指標を補正する補正部、及び
前記補正部により補正された前記識別指標に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材識別装置、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼の火花試験により生じる火花を画像処理して鋼材の成分を識別する鋼材識別装置が知られている(例えば、特許文献1又は特許文献2を参照)。
【0003】
特許文献1の鋼材識別装置は、火花の画像をグレースケールの火花画像に変換し、グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う。そして、鋼材識別装置は、二値化された火花画像に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチングされたテンプレートの種類と位置を記憶する。鋼材識別装置は、マッチングされたテンプレートが任意の火花画像の範囲において所定の数以上である場合に火花の破裂部とみなして破裂部を抽出し、火花画像全体の破裂部の総数である破裂数、及び、火花画像全体のマッチングされたテンプレートの総数である短直線数をカウントする。そして、鋼材識別装置は、破裂数を短直線数で除した破裂密度と、湿度と、に
基づいて鋼材を識別する。
【0004】
一方、特許文献2の鋼材識別装置は、鋼材を研削したときに発生する火花の画像における火花の破裂部を特定することなく、鋼材の成分を識別する。具体的には、特許文献2の鋼材識別装置は、火花の画像における短直線の角度の分布に関する指標及び火花の線の太さの分布に関する指標に基づいて、鋼材の成分を識別する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-3358号公報
【特許文献2】特開2019-74340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋼材の成分を識別する際には、なるべく簡易な処理を用いて、かつ鋼材の成分を精度よく識別することが好ましい。
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載の技術では、火花画像に映る火花の破裂部を特定する必要があるため、鋼材の成分の識別の精度が火花の破裂部の抽出精度に依存してしまう。このため、火花の破裂部の抽出精度が低い場合には、鋼材の成分を精度よく識別することができない。
【0008】
また、上記特許文献2に記載の技術は、破裂部を特定することなく鋼材の成分を識別するものの、上記特許文献1に記載の技術のように湿度による補正はなされていない。このため、測定環境の違いにより、鋼材の成分を精度よく識別することができないという課題がある。
【0009】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたもので、鋼材を研削したときに発生する火花の画像における火花の破裂部を特定することなく、鋼材の種類を精度よく認識することができる鋼材識別装置、方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明に係る鋼材識別装置は、鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部と、前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部と、前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を取得する短直線マッチング処理部と、前記短直線マッチング処理部によって取得された前記マッチング結果から、前記短直線の角度に関する指標及び前記火花の線の太さに関する指標の少なくとも一方を表す識別指標を生成する識別指標生成部と、前記識別指標生成部により生成された前記識別指標と、前記鋼材を研削したときの湿度とに基づいて、前記識別指標を補正する補正部と、前記補正部により補正された前記識別指標に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部と、を有する鋼材識別装置である。
【0011】
本発明の鋼材識別方法は、鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換し、前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行い、前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を取得し、取得された前記マッチング結果から、前記短直線の角度に関する指標及び前記火花の線の太さに関する指標の少なくとも一方を表す識別指標を生成し、生成された前記識別指標と、前記鋼材を研削したときの湿度とに基づいて、前記識別指標を補正し、補正された前記識別指標に基づいて、鋼材の成分を識別する、処理をコンピュータに実行させる鋼材識別方法である。
【0012】
本発明のプログラムは、コンピュータを、鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部、前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部、前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を取得する短直線マッチング処理部、前記短直線マッチング処理部によって取得された前記マッチング結果から、前記短直線の角度に関する指標及び前記火花の線の太さに関する指標の少なくとも一方を表す識別指標を生成する識別指標生成部、前記識別指標生成部により生成された前記識別指標と、前記鋼材を研削したときの湿度とに基づいて、前記識別指標を補正する補正部、及び前記補正部により補正された前記識別指標に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明の鋼材識別装置、方法、及びプログラムによれば、鋼材を研削したときに発生する火花の画像における火花の破裂部を特定することなく、鋼材を識別するための識別指標を周囲環境の湿度で補正することにより、鋼材の種類を精度よく認識することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の鋼材識別システムの概略構成の一例を示す図である。
【
図2】鋼材識別装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【
図7】本実施形態に係る鋼材成分識別処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【
図8】本実施形態に係る鋼材識別処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して実施形態を詳細に説明する。
【0016】
<実施形態>
図1は、本実施形態の鋼材識別システムの構成を示すブロック図である。鋼材識別システム10は、カメラ12と、湿度検出部13と、鋼材識別装置14と、入力装置27と、出力装置32とを含む。
【0017】
本実施形態の鋼材識別システム10のカメラ12は、
図1に示されるように、検査対象の鋼材AとグラインダBとが接触して発生した火花Cを撮像する。鋼材識別システム10の鋼材識別装置14は、カメラ12によって撮像された火花Cの画像に基づいて、鋼材Aの成分を識別する。本実施形態では、火花Cの画像全体から鋼材Aの成分を識別するため、破裂部Dを特定することなく、鋼材Aの成分を識別することができる。以下、具体的に説明する。
【0018】
カメラ12は、鋼材を研削したときに発生する火花の画像を逐次撮像する。
【0019】
湿度検出部13は、鋼材が研削されているときの周囲環境の湿度を計測する。
【0020】
鋼材識別装置14は、カメラ12によって撮像された火花の画像及び湿度検出部13によって計測された湿度に基づいて、鋼材の成分を識別する。鋼材識別装置14は、
図1に示されるように、CPU16、後述する各処理ルーチンを実現するためのプログラムを記憶したROM17、データを一時的に記憶するRAM18、及びHDD等の記憶装置(図示省略)を含むコンピュータによって構成されている。この鋼材識別装置14を機能ブロックで表すと、
図2に示されるように、情報取得部20と、輝度変換処理部21と、二値化処理部22と、短直線マッチング処理部23と、マッチング結果記憶部24と、識別指標生成部25と、補正部26と、データ記憶部28と、鋼材識別処理部29とを含んだ構成で表すことができる。
【0021】
情報取得部20は、カメラ12によって撮像された火花の画像を取得する。また、情報取得部20は、湿度検出部13によって計測された、鋼材が研削されているときの周囲環境の湿度を取得する。
【0022】
輝度変換処理部21は、カメラ12によって撮像された火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する。例えば、輝度変換処理部21は、火花の画像中の各画素のRGB値を、所定の変換式である、Y=R×0.299+G×0.587+B×0.114によってグレースケール値Yへ変換する。
【0023】
二値化処理部22は、輝度変換処理部21によって得られたグレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行い、火花を表す画素を黒画素とし、火花を表していない画素を白画素とする。二値化手法としては、例えば、抽出対象が火花のような線状の場合に適している十字二値化を用いることができる(例えば、上記特許文献1及び上記特許文献2を参照)。
【0024】
短直線マッチング処理部23は、二値化処理部22によって二値化された火花画像の火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングする(例えば、上記特許文献1及び上記特許文献2を参照)。そして、短直線マッチング処理部23は、当該マッチングされたテンプレートの種類を、マッチング結果としてマッチング結果記憶部24へ記憶する。
【0025】
識別指標生成部25は、短直線マッチング処理部23によって取得されたマッチング結果から、短直線の角度に関する指標及び火花の線の太さに関する指標を含む識別指標を生成する。以下、本実施形態の識別指標について説明する。
【0026】
本実施形態では、画像1枚の中での識別指標の12個の統計量(データ数、平均値、中央値、最大値、最小値、レンジ、分散、標準偏差、第1最頻値、第2最頻値、尖度、及び歪度)を計算し、そのそれぞれの値を新たな識別指標とする。
【0027】
本実施形態では1回の火花試験に対して、50枚の画像が取得され、そのすべての画像に対して画像処理が行われる。さらに画像1枚の中での指標の12個の統計量に対して、50枚での統計量をさらに計算することで、また新たな識別指標が生成される。
【0028】
したがって、ある一つの識別指標を考えた場合、(1枚の画像内の12個の統計量)×(50枚での12個の統計量)=(144個の識別指標)が生成される。
【0029】
最終的な識別指標の名称は、1つの識別指標に対し統計量が2つ付いた状態で表すこととする。たとえば、識別指標「太さ」の1枚の画像中でのデータ数に対して、50枚での平均値を求めたものは、「太さ_データ数_平均値」のように表す。この点を前提とし、各識別指標について説明する。なお、各識別指標については、特許文献1、2に開示されているものもある。
【0030】
(連結数)
この識別指標は、火花の線を表す流線の長さの総量を表す指標である。連結数は、短直線マッチングによって認定された短直線の数をカウントすることにより得られる。なお、この識別指標は1枚の画像内の統計量が存在しない。
【0031】
(太さ)
この識別指標は火花の太さを表す指標である。太さは、短直線マッチングにおいて1つ1つの短直線に対してその太さを測定してカウントすることにより得られる。つまり、この指標のデータ数は短直線の数と等しくなる。例えば「太さ_平均値_平均値」の値が大きいほど流線の太い火花であると考えられる。
【0032】
(火花画素数)
この識別指標は火花量がどの程度であるかを表す指標である。まず、画像がグレースケール化され、既知の十字二値化によって白黒画像に変換される。このとき背景は白色、火花は黒色となっている。この白黒画像内の黒画素の数を数えることにより、火花画素数が測定される。
【0033】
(絶対角度)
この識別指標は火花の飛ぶ方向を表す指標である。短直線マッチングにおいて各短直線の画像内での絶対角度が取得されるため、それをカウントすることにより絶対角度が取得される。つまり、この識別指標のデータ数は短直線の数と等しくなる。また、例えば「絶対角度_分散_平均値」の値が大きいほど、火花の広がりが大きいことが考えられる。
【0034】
(角度変化)
この識別指標は火花の曲がり具合を表す指標である。まず、短直線マッチングにおいて、各短直線の画像内での絶対角度が取得される。次に、連続した短直線において、それらの絶対角度の差を計算することによって、その火花がどれだけ曲がったかが分かる。この連続した短直線間の絶対角度の差をカウントしたものが角度に相当する。例えば、「角度変化_平均値_平均値」の値が大きいほど火花がカーブしていることが考えられる。逆に「角度変化_平均値_平均値」の値が小さいほど火花はまっすぐ飛んでいると考えられる。
【0035】
(花粉サイズ)
この識別指標は流線ほどの長さはなく流線とつながっていない火花(以下、花粉と称する)の大きさを表している。花粉サイズの測定は既知の手法によって実行される。例えば、短直線マッチングによって短直線が検出された後に、二値化画像内全体が探索され、検出した火花の中で短直線以外のものにラベリングがされ、1つ1つのラベリングをした領域の大きさが測定される。たとえば「花粉サイズ_平均値_平均値」の値が大きいほど、1つ1つの花粉の大きさが大きいことを示している。また、「花粉サイズ_データ数_平均値」の値が大きいほど花粉の数が多いことを示している。
【0036】
(根本火花量)
この識別指標は火花の根本部分(火花の発生直後の部分)での量を示している。
図3に根本火花量を説明するための図を示す。
図3に示されるように、根本火花量は火花Fが写っている画像Im中の根本部分Rの火花量である。この根本部分Rの左側に識別対象の鋼材が位置している。根本火花量を計算する際には、短直線マッチングをした後に、二値化画像において、画像の左側(火花発生方向)中央の一定範囲内である根本部分Rの火花の量をカウントする。なお、この指標は1枚の画像内の統計量が存在しないため、「根本火花量_データ数」が1枚の画像内での根本火花量となる。つまり「根本火花量_データ数_平均値」の値が大きいほど、根本火花量が多いことになる。根本部分Rは破裂が含まれることが少ないため、破裂に影響されにくい指標でもある。
【0037】
(Y方向火花量)
この識別指標は火花の飛翔方向と垂直の方向(Y方向または上下方向)においての分布を示している。
図4にY方向火花量を説明するための図を示す。
図4に示されるように、Y方向火花量は、画像Im内において火花が存在する領域F_yの画素のY座標をカウントすることにより得られる。Y方向火花量を計算する際には、まず、画像を二値化した後、画像内のすべての画素を探索し、その画素が火花画素であればその画素が存在するY方向の座標値をカウントしていく。「Y方向火花量_分散_平均値」の値が大きいほど、火花の広がりが大きいことが考えられる。
【0038】
(開始時角度)
この識別指標は火花の流線の開始時点での角度を示している。
図5に開始時角度を説明するための図を示す。
図5に示されるように、開始時角度は、火花Fのうちの流線Stにおける開始時Sの角度S_aである。開始時角度を計算する際には、短直線マッチングにおいて、流線開始時Sの短直線の角度がカウントされる。つまり「開始時角度_データ数」は1枚の画像内の流線数と等しくなる。
【0039】
(終了時角度)
この識別指標は火花の流線の終了時点での角度を示している。
図5に示されるように、終了時角度は、火花Fのうちの流線Stにおける終了時Eの角度E_aである。終了時角度を計算する際には、短直線マッチングにおいて、流線の終了時Eの短直線の角度をカウントしていく。開始時角度と同様に「終了時角度_データ数」は1枚の画像内の流線数と等しくなる。
【0040】
(開始時太さ)
この識別指標は火花流線の開始時点での太さを示している。
図5に示されるように、開始時太さは、火花Fのうちの流線Stにおける開始時Sの流線の太さS_tである。開始時太さを計算する際には、短直線マッチングにおいて、流線の開始時Sの短直線の太さをカウントしていく。開始時角度と同様に「開始時太さ_データ数」は1枚の画像内の流線数と等しくなる。また「開始時太さ_平均値_平均値」の値が大きいほど流線の開始時Sでの太さが太いことを示している。
【0041】
(角度ヒストグラム)
この識別指標は短直線の絶対角度の分布を示している。
図6に絶対角度の分布を説明するための図を示す。
図6に示されるように、火花の確度の分布Anをヒストグラム化したものが角度ヒストグラムである。なお、この識別指標は上記の各識別指標とは異なり、すべての統計量は計算しておらず、50枚の画像内でのデータ数のみのカウントである。短直線マッチングが実行されることにより短直線の角度も取得されるが、角度ヒストグラムを計算する際には、
図6に示されるように角度は下方向を0度とし180度までを61分割した絶対角度において、その内のどの角度に一番近いかを判定している。その61分割した角度それぞれについて、カウントしていく。つまり、0度の角度のものがいくつあるか、3度の角度のものがいくつあるか、6度以降も同様にすべてカウントし、ヒストグラムが生成される。
【0042】
上記の各識別指標のうち、絶対角度、角度変化、開始時角度、終了時角度、及び角度ヒストグラムは、短直線の角度に関する指標の一例である。また、上記の各識別指標のうち、太さ及び開始時太さは、火花の線の太さに関する指標の一例である。
【0043】
補正部26は、識別指標生成部25により生成された識別指標と、情報取得部20により取得された湿度とに基づいて、識別指標を補正する。例えば、補正部26は、補正前の識別指標と、予め設定された1または複数の定数と、湿度とによる補正式に従って、識別指標を補正する。例えば、補正部26は、以下の式(1)に従って、識別指標を補正することにより、補正後の識別指標を計算する。以下の式(1)によれば、湿度が大きいほど補正後の識別指標の値が大きくなるように、識別指標が補正される。
【0044】
補正後の識別指標=補正前の識別指標+a×湿度×(補正前の識別指標-b)2
(1)
【0045】
なお、定数a,bは予め設定される。後述するように、補正後の識別指標に基づいて、鋼材の成分が識別される。
【0046】
入力装置27は、鋼材の種類を識別するための正準判別分析のパラメータを受け付ける。入力装置27は、例えば、キーボードやマウス等であり、例えば、ユーザの操作により入力されたパラメータを受け付ける。正準判別分析については後述する。
【0047】
データ記憶部28には、正準判別分析のパラメータが格納される。
【0048】
鋼材識別処理部29は、補正部26により補正された識別指標に基づいて、鋼材の成分を識別する。具体的には、鋼材識別処理部29は、補正部26により補正された識別指標と、成分の含有量が既知である鋼材から予め生成された多変量解析モデルの一例である正準判別分析のモデルとに基づいて、鋼材の成分を識別する。
【0049】
正準判別分析は、以下の式によって表される分析手法である。本実施形態では、鋼材の種類を10種類に分類することにより、鋼材の成分を識別する。具体的には、本実施形態では、10-1=9個の目的変数Y1,Y2,・・・Y9へ変換する。
【0050】
【0051】
上記式におけるX1,X2,・・・Xnは補正後の識別指標であり説明変数である。また、a1,a2,・・・,an,a0,b1,b2,・・・,bn,b0,・・・,i1,i2,・・・,in,i0は、データ記憶部28に格納される正準判別分析のパラメータである。正準判別分析のパラメータは、炭素成分の含有量が既知である鋼材から予め生成される。教師データとテストデータとを入れ替えて交差検証をすることにより、パラメータが得られる。
【0052】
鋼材識別処理部29は、補正部26によって得られた補正後の識別指標X1,X2,・・・Xnを、上記式(2)へ入力することにより、目的変数Y1,Y2,・・・Y9を取得する。そして、鋼材識別処理部29は、取得された識別対象の9次元のベクトルであるY1,Y2,・・・Y9と、炭素成分の含有量が既知である鋼材の9次元のベクトルのグループの重心との距離に基づいて、識別対象の9次元のベクトルY1,Y2,・・・Y9が、何れのグループに分類されるのかを識別する。
【0053】
例えば、識別対象の9次元のベクトルY1,Y2,・・・Y9が、S10Cの鋼材のグループの重心に最も近い場合には、識別対象の9次元のベクトルY1,Y2,・・・Y9が得られた鋼材はS10Cであると識別される。そして、鋼材識別処理部29は、識別結果を出力する。
【0054】
出力装置32は、鋼材識別処理部29によって得られた識別結果を出力する。出力装置32は、例えば、ディスプレイ等によって実現される。出力装置32がディスプレイによって実現される場合には、鋼材の識別結果がディスプレイに表示される。
【0055】
<鋼材識別システム10の作用>
【0056】
次に、本実施形態の鋼材識別システム10の作用について説明する。鋼材識別システム10が起動し、カメラ12によって識別対象の鋼材の火花の画像が撮像され始めると、鋼材識別装置14は、
図7に示す鋼材成分識別処理ルーチンを実行する。
【0057】
ステップS100において、情報取得部20は、カメラ12によって撮像された火花の画像と湿度検出部13によって計測された湿度を取得する。
【0058】
ステップS102において、輝度変換処理部21は、上記ステップS100で読み込まれた火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する。
【0059】
ステップS104において、二値化処理部22は、上記ステップS102で得られたグレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う。
【0060】
ステップS106において、短直線マッチング処理部23は、上記ステップS104で二値化された火花画像の火花の線に対し、短直線マッチングを行う。
【0061】
次に、ステップS108において、ステップS106で得られた短直線マッチング結果に基づいて、鋼材の成分を識別する。ステップS108は、
図8に示す鋼材識別処理ルーチンによって実現される。
【0062】
<鋼材識別処理ルーチン>
【0063】
ステップS200において、鋼材識別処理部29は、マッチング結果記憶部24に記憶されたマッチングの結果に基づいて、上記の各識別指標を計算する。
【0064】
ステップS202において、鋼材識別処理部29は、上記ステップS200で計算された各識別指標と、上記ステップS100で取得された湿度とに基づいて、上記式(1)に従って各識別指標を補正する。なお、上記式(1)における定数a,bは、識別指標毎に予め設定されている。このため、各識別指標の補正度合いは異なるものとなる。
【0065】
ステップS204において、鋼材識別処理部29は、データ記憶部28に格納された正準判別分析のパラメータを読み込む。次に、ステップS204において、鋼材識別処理部29は、パラメータが反映された上記式(2)に対して、補正後の識別指標X1,X2,・・・Xnを入力することにより、9次元のベクトルY1,Y2,・・・Y9を計算する。
【0066】
ステップS206において、鋼材識別処理部29は、上記ステップS204で得られた識別対象の9次元のベクトルY1,Y2,・・・Y9に最も近い、炭素含有量が既知である鋼材のグループの重心を特定することにより、識別対象の鋼材の成分を識別する。
【0067】
次に、鋼材成分識別処理ルーチンのステップS110に戻り、ステップS108で得られた鋼材の識別結果を出力して、鋼材成分識別処理ルーチンを終了する。
【0068】
以上説明したように、実施形態に係る鋼材識別装置は、鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換し、グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う。鋼材識別装置は、二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を取得する。鋼材識別装置は、取得されたマッチング結果から、短直線の角度に関する指標及び火花の線の太さに関する指標の少なくとも一方を含む識別指標を生成する。鋼材識別装置は、識別指標と鋼材を研削したときの湿度とに基づいて、識別指標を補正する。そして、鋼材識別装置は、補正された識別指標に基づいて、鋼材の成分を識別する。これにより、火花画像に映る火花の破裂部を特定することなく、鋼材を識別するための識別指標を周囲環境の湿度で補正することにより、鋼材の種類を精度よく認識することができる。
【実施例0069】
次に実施例について説明する。
図9~
図12は、各識別指標についての湿度による補正の変化を表す図である。
図9~
図12は、炭素含有量が異なる鋼材(S10C,S15C,S20C,S25C,S30C,S35C,S40C,S45C,S50C,S55C)についての、補正前後の識別指標を示したものである。左側が補正前の識別指標であり、右側が補正後の識別指標である。
【0070】
図9は識別指標「太さ_平均値_平均値/連結数_平均値_平均値」の湿度補正による変化を表し、
図10は「絶対角度_分散_平均値/連結数_平均値_平均値」の湿度補正による変化を表し、
図11は「絶対角度_分散_平均値」の湿度補正による変化を表し、
図12は「破裂密度」の湿度補正による変化を表す。「絶対角度_分散_平均値/連結数_平均値_平均値」は、絶対角度_分散_平均値を連結数_平均値_平均値で除した値である。
【0071】
図9~
図12に示されるように、補正前は「高湿度」「中湿度」「低湿度」でばらついていた各識別指標が、湿度補正を行うことにより「高湿度」「中湿度」「低湿度」間でのばらつきが低減されていることがわかる。これにより、湿度の影響を低減することができているといえる。なお、「高湿度」は湿度70%以上を表し、「中湿度」は湿度30%~70%を表し、「低湿度」は湿度30%以下を表す。
【0072】
また、
図13に、湿度補正による正解率の変化を示す。
図13に示される「教師データ」は、炭素含有量が既知である鋼材の画像から得られるデータであって、正準判別分析のパラメータを求める際に用いられるデータである。また、「テストデータ」は、炭素含有量が既知である鋼材の画像から得られるデータであって、正準判別分析による正解率がどの程度であるのか、をテストするためのデータである。
【0073】
なお、「完全一致」とは、鋼材の本来の炭素含有量と識別された炭素含有量とが完全に一致したことを表し、「炭素量±0.05%」とは鋼材の本来の炭素含有量と識別された炭素含有量との間に0.05%の差異があったことを表す。
【0074】
例えば、炭素含有量が異なる鋼材(S10C,S15C,S20C,S25C,S30C,S35C,S40C,S45C,S50C,S55C)が存在していた場合を考える。この場合、本実施形態の鋼材識別装置が、S30Cの鋼材から得られた火花の画像に基づき鋼材の成分を識別し、その識別結果が「S30C」であった場合には、「完全一致」に該当する。一方、本実施形態の鋼材識別装置が、S30Cの鋼材から得られた火花の画像に基づき鋼材の成分を識別し、その識別結果が「S25C」、「S30C」、及び「S35C」の何れかであった場合には、「炭素量±0.05%」に該当する。
【0075】
なお、
図13の「太平平div連平平」は「太さ_平均値_平均値/連結数_平均値_平均値」を表す。「絶分平div連平平」は「絶対角度_分散_平均値/連結数_平均値_平均値」を表す。
【0076】
例えば、
図13の「太平平div連平平」における湿度補正前の「教師データ:中湿度」「テストデータ:完全一致:低湿度」の欄は正解率「61%」であるが、これは中湿度の教師データを用いて正準判別分析のパラメータを求め、そのパラメータを用いて低湿度のテストデータを判別したときの正解率である。
【0077】
図13に示されるように、全ての識別指標において湿度補正前よりも湿度補正後の方が、正解率が高くなっていることがわかる。このため、識別指標を湿度補正することにより、鋼材の成分を精度良く識別することができることがわかる。
【0078】
具体的には、
図13に示されるように、「太平平div連平平」において「低+中+高湿度」の教師データ及びテストデータを用いた場合、湿度補正前は「完全一致」の正解率が57%であったのに対し、温度補正後の「完全一致」の正解率は70%へと上昇している。また、「太平平div連平平」において「低+中+高湿度」の教師データ及びテストデータを用いた場合、湿度補正前は「炭素量±0.05%」の正解率が98%であったのに対し、温度補正後の「炭素量±0.05%」の正解率は100%へと上昇している。
【0079】
また、同様に、
図13に示されるように、「絶分平div連平平」において「低+中+高湿度」の教師データ及びテストデータを用いた場合、湿度補正前は「完全一致」の正解率が61%であったのに対し、温度補正後の「完全一致」の正解率は71%へと上昇している。また、「絶分平div連平平」において「低+中+高湿度」の教師データ及びテストデータを用いた場合、湿度補正前は「炭素量±0.05%」の正解率が97%であったのに対し、温度補正後の「炭素量±0.05%」の正解率は99%へと上昇している。
【0080】
また、同様に、
図13に示されるように、「絶対角度_分散_平均値」において「低+中+高湿度」の教師データ及びテストデータを用いた場合、湿度補正前は「完全一致」の正解率が60%であったのに対し、温度補正後の「完全一致」の正解率は68%へと上昇している。また、「絶対角度_分散_平均値」において「低+中+高湿度」の教師データ及びテストデータを用いた場合、湿度補正前は「炭素量±0.05%」の正解率が97%であったのに対し、温度補正後の「炭素量±0.05%」の正解率は99%へと上昇している。
【0081】
また、
図14には、識別指標として破裂密度(例えば、特許文献1を参照。)を採用した場合の湿度補正による正解率の変化を示す。破裂密度においても、湿度補正前よりも湿度補正後の方が、正解率が高くなっていることがわかる。具体的には、
図14に示されるように、「破裂密度」において「低+中+高湿度」の教師データ及びテストデータを用いた場合、湿度補正前は「完全一致」の正解率が67%であったのに対し、温度補正後の「完全一致」の正解率は81%へと上昇している。一方、「破裂密度」において「低+中+高湿度」の教師データ及びテストデータを用いた場合、湿度補正前は「炭素量±0.05%」の正解率で既に100%であり、温度補正後の「炭素量±0.05%」の正解率も100%となっている。
【0082】
このため、識別指標を湿度補正することにより、鋼材の成分を精度良く識別することができることがわかる。具体的には、
図13に示される各識別指標を湿度補正した場合には、「完全一致」の正解率が8%~13%程度上昇しており、各識別指標を湿度補正することは、際だって優れた効果を有しており顕著な効果があるといえる。また、
図14に示される破裂密度を湿度補正した場合には、「完全一致」の正解率が14%程度上昇しており、破裂密度を湿度補正することも有用といえる。
【0083】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0084】
例えば、上記実施形態では、破裂部を特定せずに鋼材の種類を識別する場合を例に説明したが、破裂部を特定しそこから得られる識別指標(例えば、破裂密度)(例えば、特許文献1を参照。)をさらに利用して鋼材の種類を識別するようにしてもよい。その際には、当該識別指標を湿度補正するようにしてもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、正準判別分析により鋼材を識別する場合を例に説明したがこれに限定されるものではない。例えば、湿度により補正された識別指標と、予め設定された閾値とに基づいて、鋼材の成分を識別するようにしてもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、上記式(1)に従って識別指標を補正する場合を例に説明したがこれに限定されるものではない。湿度に基づいて識別指標を補正するものであれば、どのようなものであってもよい。
【0087】
また、本願明細書中において、プログラムが予めインストールされている実施形態として説明したが、当該プログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して提供することも可能である。