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特開2022-171026ヒドロキシアルキルシラン化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171026
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】ヒドロキシアルキルシラン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/08 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
C07F7/08 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077394
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】清森 歩
【テーマコード(参考)】
4H049
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ02
4H049VQ18
4H049VR24
4H049VS02
4H049VS12
4H049VU36
4H049VV05
4H049VV16
4H049VW02
4H049VW33
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヒドロキシアルキルシラン化合物を、温和な条件で収率良く製造できる方法を提供する。
【解決手段】化合物(1)と化合物(2)との求核置換反応を行い化合物(3)を得る工程、次いでpH1~7の水を混合し加水分解反応を行い化合物(3)を含む混合物を得る工程、蒸留により副生成物を除去する工程、蒸留後の混合物と水又はアルコール化合物を混合して脱シリル化反応を行い化合物(4)を得る工程を含む。




(Xはハロゲン原子;RはC1~10の直鎖状又は分岐鎖状の2価炭化水素基;mは各々独立に0又は1;mが0の場合MはLi;mが1の場合MはMg;R~Rは各々独立にH又はC1~10の直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の1価炭化水素基;Yはハロゲン原子又はC1~6のアルコキシ基)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)
【化1】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、R1は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の2価炭化水素基を表し、mは、それぞれ独立して0または1を表し、mが0の場合、Mはリチウムを表し、mが1の場合、Mはマグネシウムを表す。)
で示される有機金属化合物と、下記一般式(2)
【化2】
(式中、R2~R4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~10の直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の1価炭化水素基を表し、Yは、ハロゲン原子または炭素数1~6のアルコキシ基を表す。)
で示されるシリル化剤との求核置換反応を行い、下記一般式(3)
【化3】
(式中、R1~R4は、前記と同じ意味を表す。)
で示されるビスシリル化合物を含む反応液を得る工程、
(B)前記ビスシリル化合物を含む反応液と、pH1~7の水を混合して加水分解反応を行い、前記求核置換反応により副生した金属塩を除去して、前記一般式(3)で示されるビスシリル化合物と、下記一般式(4)
【化4】
(式中、R1~R4は、前記と同じ意味を表す。)
で示されるヒドロキシアルキルシラン化合物と、下記一般式(5)
【化5】
(式中、R2~R4は、前記と同じ意味を表す。)
で示されるシロキサン化合物および/または下記一般式(6)
【化6】
(式中、R2~R4は、前記と同じ意味を表す。)
で示されるシラノール化合物とを少なくとも含む混合物を得る工程、
(C)前記混合物から、加水分解反応により副生した前記一般式(5)で示されるシロキサン化合物および/または一般式(6)で示されるシラノール化合物を蒸留により除去する工程、
(D)前記シロキサン化合物および/またはシラノール化合物が除去された前記式(3)で示されるビスシリル化合物および前記式(4)で示されるヒドロキシアルキルシラン化合物を含む混合物と、水またはアルコール化合物を混合して脱シリル化反応を行い、前記一般式(4)で示されるヒドロキシアルキルシラン化合物を得る工程
を少なくとも含むヒドロキシアルキルシラン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記(D)工程の脱シリル化反応において、アルコール化合物を用いる請求項1記載のヒドロキシアルキルシラン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記アルコール化合物が、炭素数1~3のアルコール化合物である請求項1または2記載のヒドロキシアルキルシラン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシアルキルシラン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシアルキルシランは、ハロゲン原子を含まず、蓄電デバイスの電解質、電解液等として好適に用いられるケイ素含有イオン液体の中間体として使用されている。ケイ素含有イオン液体は、ハロゲン原子を含まないことから、環境に対する負荷が低く、また、高イオン電導性、広い電位窓を有しており、電気化学的特性に優れている。
さらに、ヒドロキシアルキルシランは、ヒドロキシベンゾフェノン紫外線吸収剤に良好な油溶性を付与することが知られており、化粧品製剤および医薬品製剤の開発においても有用である。
【0003】
ヒドロキシアルキルシランは、ω-ハロアルカノールから合成できることが知られている(非特許文献1)。
具体的には、ω-ハロアルカノールにグリニャール試薬等の有機金属試薬を作用させて、対応するω-ハロアルコキシド化合物に導いた後、得られたアルコキシド化合物とマグネシウムの反応によりグリニャール試薬を調製する。続いて、そのグリニャール試薬とシリル化剤の反応、ヒドロキシ基上の脱シリル化反応を順次行うことによって、ヒドロキシアルキルシランが得られる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tetrahedron 1990年,第46巻,6号,P1885-1898
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1の方法では、反応終了後に塩化アンモニウム水溶液を加えて塩を除去した後、反応液に濃塩酸を加え、さらに還流させることによって、脱シリル化反応を行っている。本来であれば、脱シリル化反応は、塩化アンモニウム水溶液を加える工程で完結するはずである。しかし、この反応では、塩の溶解工程と脱シリル化反応工程を一度に行っているため、塩化アンモニウム水溶液を加えるだけでは、脱シリル化反応が完結しない。これは、水相に塩が溶け込むことによって、水相と有機相の混和性が低下し、脱シリル化反応に必要となる水分が有機相へ移行しにくくなったためと考えられる。そのため、脱シリル化反応を完結させるためには、塩を除去した後の反応液に濃塩酸を加えて還流させなければならない。しかし、工業的に用いられる金属製の反応装置や部材への負荷を考慮すると、濃塩酸存在下、高温条件で反応を行うことは、工業的な製造方法として好ましくない。
【0006】
また、ヒドロキシアルキルシランとそのヒドロキシ基がシリル化されたシロキシアルキルシランは、同程度の沸点を有する場合がある。このため、非特許文献1の方法では、蒸留精製工程において同程度の沸点を有するヒドロキシアルキルシランとそのシリル化体であるシロキシアルキルシランを分離することが難しくなる場合があり、収率良くヒドロキシアルキルシランを得ることができない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、ヒドロキシアルキルシラン化合物を、温和な条件で収率良く製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、有機金属化合物とシリル化剤との求核置換反応により得られたビスシリル化合物を加水分解する過程において生じた、ビスシリル化合物と、ヒドロキシアルキルシラン化合物と、シロキサン化合物および/またはシラノール化合物とを少なくとも含む混合物から、シロキサン化合物および/またはシラノール化合物を除去した後、その混合物に水またはアルコール化合物を混合することによって、温和な条件で脱シリル化反応を完結させて、収率良くヒドロキシアルキルシラン化合物を製造できる方法を見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. (A)下記一般式(1)
【化1】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、R1は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の2価炭化水素基を表し、mは、それぞれ独立して0または1を表し、mが0の場合、Mはリチウムを表し、mが1の場合、Mはマグネシウムを表す。)
で示される有機金属化合物と、下記一般式(2)
【化2】
(式中、R2~R4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~10の直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の1価炭化水素基を表し、Yは、ハロゲン原子または炭素数1~6のアルコキシ基を表す。)
で示されるシリル化剤との求核置換反応を行い、下記一般式(3)
【化3】
(式中、R1~R4は、前記と同じ意味を表す。)
で示されるビスシリル化合物を含む反応液を得る工程、
(B)前記ビスシリル化合物を含む反応液と、pH1~7の水を混合して加水分解反応を行い、前記求核置換反応により副生した金属塩を除去して、前記一般式(3)で示されるビスシリル化合物と、下記一般式(4)
【化4】
(式中、R1~R4は、前記と同じ意味を表す。)
で示されるヒドロキシアルキルシラン化合物と、下記一般式(5)
【化5】
(式中、R2~R4は、前記と同じ意味を表す。)
で示されるシロキサン化合物および/または下記一般式(6)
【化6】
(式中、R2~R4は、前記と同じ意味を表す。)
で示されるシラノール化合物とを少なくとも含む混合物を得る工程、
(C)前記混合物から、加水分解反応により副生した前記一般式(5)で示されるシロキサン化合物および/または一般式(6)で示されるシラノール化合物を蒸留により除去する工程、
(D)前記シロキサン化合物および/またはシラノール化合物が除去された前記式(3)で示されるビスシリル化合物および前記式(4)で示されるヒドロキシアルキルシラン化合物を含む混合物と、水またはアルコール化合物を混合して脱シリル化反応を行い、前記一般式(4)で示されるヒドロキシアルキルシラン化合物を得る工程
を少なくとも含むヒドロキシアルキルシラン化合物の製造方法、
2. 前記(D)工程の脱シリル化反応において、アルコール化合物を用いる1のヒドロキシアルキルシラン化合物の製造方法、
3. 前記アルコール化合物が、炭素数1~3のアルコール化合物である1または2のヒドロキシアルキルシラン化合物の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヒドロキシアルキルシランを温和な条件で収率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
[1](A)工程
まず、下記一般式(1)で示される有機金属化合物(以下、「化合物(1)」という。)と、下記一般式(2)で示されるシリル化剤(以下、「化合物(2)」という。)との求核置換反応により、下記一般式(3)で示されるビスシリル化合物(以下、「化合物(3)」という。)を含む反応液を得る工程について説明する。
【0012】
【化7】
【0013】
上記一般式(1)において、Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を表すが、有機金属試薬の反応性を担保する観点から、塩素原子または臭素原子が好ましい。
1は、炭素数1~10、好ましくは炭素数2~8、より好ましくは炭素数3~6の直鎖状または分岐鎖状の2価炭化水素基を表す。
1の直鎖状2価炭化水素基としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン基等の直鎖状アルキレン基が挙げられ、分岐鎖状2価炭化水素基としては、プロピレン、イソブチレン、イソペンチレン基等の分岐鎖状アルキレン基が挙げられる。
これらの中でも、原料調達の観点から、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン基等の炭素数3~6の直鎖状アルキレン基が好ましい。
mは、それぞれ独立して0または1を表し、mが0の場合にMはリチウムを表し、mが1の場合にMはマグネシウムを表す。有機金属試薬のハンドリング性を考慮する観点から、Mはマグネシウムであることが好ましい。
【0014】
化合物(1)の具体例としては、3-クロロマグネシオプロポキシマグネシウムクロライド、4-クロロマグネシオブトキシマグネシウムクロライド、5-クロロマグネシオペントキシマグネシウムクロライド、6-クロロマグネシオヘキソキシマグネシウムクロライド、3-ブロモマグネシオプロポキシマグネシウムクロライド、4-ブロモマグネシオブトキシマグネシウムクロライド、5-ブロモマグネシオペントキシマグネシウムクロライド、6-ブロモマグネシオヘキソキシマグネシウムクロライド、3-クロロマグネシオプロポキシマグネシウムブロマイド、4-クロロマグネシオブトキシマグネシウムブロマイド、5-クロロマグネシオペントキシマグネシウムクロライド、6-クロロマグネシオヘキソキシマグネシウムブロマイド、3-ブロモマグネシオプロポキシマグネシウムブロマイド、4-ブロモマグネシオブトキシマグネシウムブロマイド、5-ブロモマグネシオペントキシマグネシウムクロライド、6-ブロモマグネシオヘキソキシマグネシウムブロマイド、3-クロロマグネシオプロポキシリチウム、4-クロロマグネシオブトキシリチウム、5-クロロマグネシオペントキシリチウム、6-クロロマグネシオヘキソキシリチウム、3-ブロモマグネシオプロポキシリチウム、4-ブロモマグネシオブトキシリチウム、5-ブロモマグネシオペントキシリチウム、6-ブロモマグネシオヘキソキシリチウム、3-リチオプロポキシマグネシウムクロライド、4-リチオブトキシマグネシウムクロライド、5-リチオペントキシマグネシウムクロライド、6-リチオヘキソキシマグネシウムクロライド、3-リチオプロポキシマグネシウムブロマイド、4-リチオブトキシマグネシウムブロマイド、5-リチオペントキシマグネシウムクロライド、6-リチオヘキソキシマグネシウムブロマイド、3-リチオプロポキシリチウム、4-リチオブトキシリチウム、5-リチオペントキシリチウム、6-リチオヘキソキシリチウム等が挙げられる。
【0015】
なお、化合物(1)は、公知の方法、例えば、ω-ハロアルカノールとグリニャール試薬や有機リチウム化合物等の脱プロトン化剤を反応させてω-ハロアルコキシドを調製した後、そのω-ハロアルコキシドとマグネシウムまたはリチウムを反応させる方法で得ることができる。
【0016】
上記一般式(2)において、Yは、ハロゲン原子または炭素数1~6、好ましくは炭素数1~4、より好ましくは炭素数1または2のアルコキシ基を表す。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ基等が挙げられる。これらの中でも、シリル化剤の反応性を担保する観点から、ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。
【0017】
2~R4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~3の直鎖状、分岐鎖状または環状の1価炭化水素基を表す。
2~R4の1価炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、デシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、テキシル、2-エチルヘキシル基等の分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル基等の環状アルキル基;ビニル、アリル(2-プロペニル)、2-ブテニル、3-ブテニル基等のアルケニル基;フェニル、トリル、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。これらの中でも、原料調達の観点から、メチル、エチル、イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル基が好ましい。
【0018】
化合物(2)の具合例としては、トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン、tert-ブチルジメチルクロロシラン、トリイソプロピルクロロシラン、ジメチルクロロシラン、tert-ブチルジフェニルクロロシラン、トリメチルブロモシラン、トリエチルブロモシラン、tert-ブチルジメチルブロモシラン、トリイソプロピルブロモシラン、ジメチルブロモシラン、tert-ブチルジフェニルブロモシラン、トリメチルヨードシラン、トリエチルヨードシラン、tert-ブチルジメチルヨードシラン、トリイソプロピルヨードシラン、ジメチルヨードシラン、tert-ブチルジフェニルヨードシラン、メトキシトリメチルシラン、メトキシトリエチルシラン、メトキシ-tert-ブチルジメチルシラン、メトキシトリイソプロピルシラン、ジメチルメトキシシラン、メトキシ-tert-ブチルジフェニルシラン、エトキシトリメチルシラン、エトキシトリエチルシラン、エトキシ-tert-ブチルジメチルシラン、エトキシトリイソプロピルシラン、エトキシジメチルシラン、エトキシ-tert-ブチルジフェニルシラン等が挙げられる。
【0019】
化合物(2)の使用量は特に限定されないが、生産性の観点から、化合物(1)1molに対して、1.5~4.0molが好ましく、2.0~3.0molがより好ましい。
上記反応時の圧力に制限はないが、常圧が好ましい。
反応雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下が好ましい。
反応温度は特に限定されないが、0~200℃が好ましく、20~150℃がより好ましい。
反応時間も特に限定されないが、1~60時間が好ましく、1~30時間がより好ましい。
【0020】
なお、上記反応は無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。
使用可能な溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらの溶媒は1種を単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0021】
上記反応で得られる化合物(3)の具体例としては、3-(トリメチルシロキシ)プロピルトリメチルシラン、4-(トリメチルシロキシ)ブチルトリメチルシラン、5-(トリメチルシロキシ)ペンチルトリメチルシラン、6-(トリメチルシロキシ)ヘキシルトリメチルシラン、3-(トリエチルシロキシ)プロピルトリエチルシラン、4-(トリエチルシロキシ)ブチルトリエチルシラン、5-(トリエチルシロキシ)ペンチルトリエチルシラン、6-(トリエチルシロキシ)ヘキシルトリエチルシラン、3-(tert-ブチルジメチルシロキシ)プロピル-tert-ブチルジメチルシラン、4-(tert-ブチルジメチルシロキシ)ブチル-tert-ブチルジメチルシラン、5-(tert-ブチルジメチルシロキシ)ペンチル-tert-ブチルジメチルシラン、6-(tert-ブチルジメチルシロキシ)ヘキシル-tert-ブチルジメチルシラン、3-(トリイソプロピルシロキシ)プロピルトリイソプロピルシラン、4-(トリイソプロピルシロキシ)ブチルトリイソプロピルシラン、5-(トリイソプロピルシロキシ)ペンチルトリイソプロピルシラン、6-(トリイソプロピルシロキシ)ヘキシルトリイソプロピルシラン、3-(ジメチルシロキシ)プロピルジメチルシラン、4-(ジメチルシロキシ)ブチルジメチルシラン、5-(ジメチルシロキシ)ペンチルジメチルシラン、6-(ジメチルシロキシ)ヘキシルジメチルシラン、3-(tert-ブチルジフェニルシロキシ)プロピル-tert-ブチルジフェニルシラン、4-(tert-ブチルジフェニルシロキシ)ブチル-tert-ブチルジフェニルシラン、5-(tert-ブチルジフェニルシロキシ)ペンチル-tert-ブチルジフェニルシラン、6-(tert-ブチルジフェニルシロキシ)ヘキシル-tert-ブチルジフェニルシラン等が挙げられる。
【0022】
[2](B)工程
次に、工程(A)で得られた化合物(3)を含む反応液と、pH1~7の水を混合して加水分解反応を行い、求核置換反応により副生した金属塩を除去して、化合物(3)と、下記一般式(4)示されるヒドロキシアルキルシラン化合物(以下、「化合物(4)」という。)と、下記一般式(5)で示されるシロキサン化合物(以下、「化合物(5)」という。)および/または下記一般式(6)で示されるシラノール化合物(以下、「化合物(6)」という。)を少なくとも含む混合物を得る工程について説明する。
【0023】
【化8】
【0024】
上記加水分解反応に用いる水のpHは1~7であるが、1~5が好ましく、1~3がより好ましい。水のpHが7を超えると、求核置換反応で副生した金属塩を完全に溶解させることができない。
pH1~7の水の調製方法は、予め精製水に塩酸、硫酸、硝酸等の酸を加える方法のほか、反応液中で精製水および酸を混合する方法等が挙げられる。なお、予めpH1~7の水を調製する場合、上記化合物(3)を含む反応液と水の混合方法は特に限定されないが、生産性の観点から、化合物(1)と化合物(2)との反応液に、pH1~7の水を加える方法が好ましい。
【0025】
水の使用量は特に限定されないが、生産性の観点から、化合物(1)1molに対して、100~600gが好ましく、100~400gがより好ましい。
求核置換反応により副生した金属塩は、加水分解反応に用いる水に溶解するため、化合物(3)を含む反応液とpH1~7の水を混合すると、有機相と上記金属塩を含む水相が得られる。これらを分離することにより、化合物(3)を含む反応液から金属塩を除去することができる。金属塩の除去方法は特に限定されないが、生産性の観点から、化合物(3)を含む反応液を水に溶解させて、有機相と水相を分離する方法が好ましい。
【0026】
金属塩除去後の有機相は、化合物(3)と、化合物(4)と、化合物(5)および/または(6)とを含む混合物である。なお、化合物(5)および化合物(6)は、化合物(3)のシロキシ基が加水分解されることによって生じた化合物である。
【0027】
化合物(4)の具体例としては、3-ヒドロキシプロピルトリメチルシラン、4-ヒドロキシブチルトリメチルシラン、5-ヒドロキシペンチルトリメチルシラン、6-ヒドロキシヘキシルトリメチルシラン、3-ヒドロキシプロピルトリエチルシラン、4-ヒドロキシブチルトリエチルシラン、5-ヒドロキシペンチルトリエチルシラン、6-ヒドロキシヘキシルトリエチルシラン、3-ヒドロキシプロピル-tert-ブチルジメチルシラン、4-ヒドロキシブチル-tert-ブチルジメチルシラン、5-ヒドロキシペンチル-tert-ブチルジメチルシラン、6-ヒドロキシヘキシル-tert-ブチルジメチルシラン、3-ヒドロキシプロピルトリイソプロピルシラン、4-ヒドロキシブチルトリイソプロピルシラン、5-ヒドロキシペンチルトリイソプロピルシラン、6-ヒドロキシヘキシルトリイソプロピルシラン、3-ヒドロキシプロピルジメチルシラン、4-ヒドロキシブチルジメチルシラン、5-ヒドロキシペンチルジメチルシラン、6-ヒドロキシヘキシルジメチルシラン、3-ヒドロキシプロピル-tert-ブチルジフェニルシラン、4-ヒドロキシブチル-tert-ブチルジフェニルシラン、5-ヒドロキシペンチル-tert-ブチルジフェニルシラン、6-ヒドロキシヘキシル-tert-ブチルジフェニルシラン等が挙げられる。
【0028】
化合物(5)の具体例としては、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ジ-tert-ブチルテトラメチルジシロキサン、ヘキサトリイソプロピルジシロキサン、テトラメチルジシロキサン、ジ-tert-ブチルテトラフェニルジシロキサン等が挙げられる。
【0029】
化合物(6)の具体例としては、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、tert-ブチルジメチルシラノール、トリイソプロピルシラノール、ジメチルシラノール、tert-ブチルジフェニルシラノール等が挙げられる。
【0030】
[3](C)工程
次に、下記スキームに示されるように、(B)工程で得られた混合物から、加水分解反応で副生した化合物(5)および/または化合物(6)を蒸留により除去する工程について説明する。
【0031】
【化9】
【0032】
本来であれば、ヒドロキシ基がシリル化された化合物は、pH1~7の水と反応して、シロキシ基が完全に加水分解される。しかし、本発明では、求核置換反応により副生した金属塩の溶解工程と脱シリル化反応工程を一挙に行うため、pH1~7の水を加えるだけでは、化合物(3)に対する脱シリル化反応が完結しない。これは、水相に金属塩が溶け込むことによって、水相と有機相の混和性が低下し、脱シリル化反応に必要となる水分が、有機相へ移行しにくくなったためである。このため、脱シリル化反応を完結すべく、この(C)工程および次の(D)工程を行う。
【0033】
金属塩除去後の混合物中の化合物(3)と化合物(4)は、化合物(5)および/または化合物(6)との不均化反応により、平衡状態になっている。そのため、化合物(3)に対する脱シリル化反応を完結させるためには、化合物(5)および/または化合物(6)を有機相から除去しなくてはならない。
また、化合物(5)および/または化合物(6)を有機相からから除去することにより、塩酸等の強酸性化合物を用いることなく化合物(3)に対する脱シリル化反応を完結させることができる。
【0034】
(C)工程で行う蒸留は、常圧蒸留でも減圧蒸留でもよい。
蒸留時の圧力は特に限定されないが、0.1~101.3kPaが好ましく、1.0~101.3kPaがより好ましい。
蒸留雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気が好ましい。
蒸留温度は、特に限定されないが、0~300℃が好ましく、20~200℃がより好ましい。
蒸留時間も特に限定されないが、1~60時間が好ましく、1~30時間がより好ましい。
【0035】
[4](D)工程
次に、上記(C)工程で得られた、化合物(5)および/または化合物(6)が除去された化合物(3)および化合物(4)を含む混合物と、水またはアルコール化合物を混合して、化合物(4)を得る工程について説明する。この工程により化合物(4)と沸点が近い化合物(3)は、消失する。
【0036】
【化10】
【0037】
水またはアルコール化合物としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の炭素数1~4のアルコール化合物が挙げられるが、十分な反応性を担保する観点から、水またはメタノールが好ましい。
水またはアルコール化合物の使用量は特に限定されないが、脱シリル化反応を円滑に進行させる観点から、化合物(1)1molに対して、0.01~10molが好ましく、1~5molがより好ましい。
【0038】
上記反応の圧力に制限はないが、常圧が好ましい。
反応雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下が好ましい。
反応温度は特に限定されないが、0~200℃が好ましく、20~150℃がより好ましい。
反応時間も特に限定されないが、1~60時間が好ましく、1~30時間がより好ましい。
【0039】
なお、上記反応は無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。
使用可能な溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらの溶媒は1種を単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0040】
本発明の製造方法によって得られるヒドロキシアルキルシラン(化合物(4))は、脱シリル化反応を完結させる(D)工程後の粗生成物をそのまま用いてもよいが、その目的品質に応じて、蒸留、濾過、洗浄、カラム分離、固体吸着剤等の各種の精製法によってさらに精製して使用してもよい。高純度にするためには、蒸留による精製が特に好ましい。
【実施例0041】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
窒素置換した撹拌機、還流器、滴下ロートおよび温度計を備えたフラスコに、マグネシウム25.5g(1050mmol)、テトラヒドロフラン(以下、「THF」という。)315mLを仕込み、50℃で撹拌した。そこに、n-プロピルクロライド86.5g(1103mmol)を1時間かけて滴下し、65℃で2時間撹拌した。反応液を0℃まで冷却し、3-クロロプロパノール94.5g(1000mmol)を1時間かけて滴下した。その後、25℃でさらに1時間撹拌し、3-クロロプロポキシマグネシウムクロライドを得た。
窒素置換した撹拌機、還流器、滴下ロートおよび温度計を備えたフラスコに、マグネシウム24.8g(1020mmol)、THF300mLを仕込み、50℃で撹拌した。そこに、3-クロロプロポキシマグネシウムクロライドを1時間かけて滴下し、60℃で2時間撹拌した。続いて、トリメチルクロロシラン222.6g(2050mmol)を2時間かけて滴下し、60℃でさらに2時間撹拌した((A)工程)。
反応液を25℃まで冷却し、pH1の水になるように20質量%塩酸38.3g、水357.0gを加えて副生した塩を溶解させた。分液操作にて水相を除去した後、有機相に6質量%炭酸水素ナトリウム水溶液150gを加え、25℃で1時間撹拌した。再度分液操作を行い、水相を除去した。
有機相を蒸留装置に仕込み、蒸留操作にてヘキサメチルジシロキサン、THF等からなる低沸成分を除去した((C)工程)。
低沸成分を除去した有機相にメタノール150gを加え、還流条件で1時間撹拌した後((D)工程)、蒸留精製を行うことによって、3-ヒドロキシプロピルトリメチルシランを単離収率88%で得た。
【0043】
[比較例1]
(D)工程においてメタノールを加えないこと以外は、実施例1と同様にして3-ヒドロキシプロピルトリメチルシランを製造した。反応液を蒸留精製することによって、3-ヒドロキシプロピルトリメチルシランを単離収率63%で得た。
【0044】
[比較例2]
(C)工程を実施しない、すなわち、蒸留操作にてヘキサメチルジシロキサン、THF等からなる低沸成分を除去しないこと以外は、実施例1と同様にして3-ヒドロキシプロピルトリメチルシランを製造した。反応液を蒸留精製することによって、3-ヒドロキシプロピルトリメチルシランを単離収率61%で得た。