IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧 ▶ 大塚メディカルデバイス株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171277
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】温度上昇評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01K 11/12 20210101AFI20221104BHJP
   G01K 15/00 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
G01K11/12 A
G01K15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077837
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】512046383
【氏名又は名称】大塚メディカルデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100119426
【弁理士】
【氏名又は名称】小見山 泰明
(72)【発明者】
【氏名】高木 亮
(72)【発明者】
【氏名】乾 康二
【テーマコード(参考)】
2F056
【Fターム(参考)】
2F056VA02
2F056VA05
2F056XA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】人体組織を焼灼する超音波を照射可能な治療装置を評価するシステムにおいて、ピントずれの発生を抑制し、鮮明な画像を取得することを可能とするために、温度分布を取得する移動機構制御・情報処理手段を提供する。
【解決手段】特定の感温領域内で温度により色相が変化する性質を有し、治療装置から超音波を受けるときの人体組織の温度変化を模擬する模擬組織10と、模擬組織を取り囲むように配置された、全周から面状の光を照射する光源12と、模擬組織の光の照射面における断面カラー画像を撮像する撮像装置14とを有し、色・温度変換テーブル17を使用して、撮像した模擬組織の画像の各位置の色相から模擬組織の温度分布を取得する移動機構制御・情報処理部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体組織を加熱する超音波を照射可能な治療装置を定量評価するシステムであって、
特定の感温領域内で温度により色相が変化する性質を有する模擬組織であって、前記治療装置から超音波を受けるときの人体組織の温度変化を模擬する模擬組織と、
前記模擬組織に対して面状の光を照射する光源と、
前記模擬組織の光の照射面における断面カラー画像を撮像する撮像装置と、
前記光源と前記撮像装置とを前記模擬組織に対して当該撮像装置の撮影軸方向に相対的に移動させる移動機構と、
前記模擬組織の画像の色相から温度を換算するための色・温度変換テーブルと、
光の照射面と前記撮像装置との距離を一定に保った状態で前記光源と当該撮像装置とが移動するように前記移動機構を制御し、更に、前記色・温度変換テーブルを使用して、撮像した前記模擬組織の画像の各位置の色相から当該模擬組織の温度分布を取得する移動機構制御・情報処理手段と、
を備える、システム。
【請求項2】
前記移動機構制御・情報処理手段は、前記色・温度変換テーブルを使用して、撮像条件通りに撮像した画像の各々から前記模擬組織の撮影軸方向にわたる温度分布を取得し、当該模擬組織の温度分布から3次元温度分布を出力する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
取得した前記模擬組織の温度分布を画像として保持する画像保持手段を更に備え、
前記移動機構制御・情報処理手段は、保持された温度分布画像に基づいて、前記模擬組織の温度分布の時間変化を出力する、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記模擬組織内に配置された熱電対を更に備え、
前記移動機構制御・情報処理手段は、前記熱電対の測定温度と前記模擬組織の画像の色相とに基づいて前記色・温度変換テーブルを作成する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
水温を調節可能な水槽であって、前記模擬組織を収容可能な水槽を更に備え、
前記移動機構制御・情報処理手段は、前記水槽の水温と当該水槽内の水の中に収容された前記模擬組織の画像の色相とに基づいて、前記色・温度変換テーブルを作成する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記光源は、前記模擬組織を360°方向から囲む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記光源は、前記模擬組織を挟んで対称の位置に配置される、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
人体組織を加熱する超音波を照射可能な治療装置を評価するシステムで使用されるプログラムであって、
前記システムが、
特定の感温領域内で温度により色相が変化する性質を有し、前記治療装置から超音波を受けるときの人体組織の温度変化を模擬する模擬組織であって、当該治療装置を配置可能な挿入穴を有する、模擬組織と、
前記模擬組織に対して面状の光を照射する2つの光源であって、前記模擬組織を挟んで対称の位置に配置される2つの光源と、
前記模擬組織の光の照射面における断面カラー画像を撮像する撮像装置と、
前記光源と前記撮像装置とを前記模擬組織に対して当該撮像装置の撮影軸方向に相対的に移動させる移動機構と、
前記模擬組織の画像の色相から温度を換算するための色・温度変換テーブルと、
光の照射面と前記撮像装置との距離を一定に保った状態で前記光源と当該撮像装置とが移動するように前記移動機構を制御し、更に、前記色・温度変換テーブルを使用して、撮像した前記模擬組織の画像の各位置の色相から当該模擬組織の温度分布を取得する移動機構制御・情報処理手段と、
前記模擬組織内の前記挿入穴近傍であって前記光源のいずれか一方から見て当該模擬組織の当該挿入穴に重ならない第1領域(Cal_1)に配置された第1熱電対及び当該模擬組織の当該挿入穴に重なる第2領域(Cal_2)に配置された第2熱電対と、
を備え、
前記治療装置が前記模擬組織の前記挿入穴内に配置される、
システムで使用されるプログラムにおいて、前記移動機構制御・情報処理手段に、
前記治療装置に超音波を照射させて前記模擬組織を加熱させる加熱工程と、
加熱された前記模擬組織の前記第1及び第2熱電対近傍の色変化を前記撮像装置を通じて監視する監視工程と、
前記模擬組織の前記第1及び第2熱電対近傍の色変化が観察されると、前記治療装置による超音波照射を停止させる停止工程と、
前記模擬組織の温度を前記第1及び第2熱電対の各々に測定させる温度測定工程と、
前記模擬組織を前記撮像装置に撮像させる第1撮像工程と、
撮像した画像を、前記第1領域(Cal_1)と前記第2領域(Cal_2)とに分ける画像分割工程と、
測定した温度と前記第1領域(Cal_1)内の前記第1熱電対の位置に最も近い位置の色相とに基づいて、前記色・温度変換テーブルの当該第1領域(Cal_1)に対応するテーブルの値を校正する第1テーブル校正工程と、
測定した温度と前記第2領域(Cal_2)内の前記第2熱電対の位置に最も近い位置の色相とに基づいて、前記色・温度変換テーブルの当該第2領域(Cal_2)に対応するテーブルの値を校正する第2テーブル校正工程と、
を実行させる、プログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のプログラムにおいて、更に、前記移動機構制御・情報処理手段に、
前記模擬組織が感温領域の下限温度に至るまで、所定時間ごとに、
前記模擬組織を前記撮像装置に撮像させる第2撮像工程と、
撮像した画像を、前記第1領域(Cal_1)と前記第2領域(Cal_2)とに分ける画像分割工程と、
校正された前記色・温度変換テーブルを使用して、前記模擬組織の前記第1領域(Cal_1)と前記第2領域(Cal_2)から各々の温度分布を取得する温度分布取得工程と、
を繰り返し実行させる、プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムにおいて、
前記システムが、取得した前記模擬組織の温度分布を画像として保持する画像保持手段を更に備え、
前記温度分布取得工程は、取得した温度分布を前記画像保持手段が保持する画像保持工程を含み、
システム使用者の要求に応じて、前記移動機構制御・情報処理手段に、前記模擬組織の温度分布の時間変化を出力する出力工程を実行させる、プログラム。
【請求項11】
人体組織を焼灼する超音波を照射可能な治療装置を評価するシステムで使用されるプログラムであって、
前記システムが、
特定の感温領域内で温度により色相が変化する性質を有し、前記治療装置から超音波を受けるときの人体組織の温度変化を模擬する模擬組織であって、当該治療装置を配置可能な挿入穴を有する、模擬組織と、
前記模擬組織に対して面状の光を照射する2つの光源であって、前記模擬組織を挟んで対称の位置に配置される2つの光源と、
前記模擬組織の光の照射面における断面カラー画像を撮像する撮像装置と、
前記光源と前記撮像装置とを前記模擬組織に対して当該撮像装置の撮影軸方向に相対的に移動させる移動機構と、
前記模擬組織の画像の色相から温度を換算するための色・温度変換テーブルと、
光の照射面と前記撮像装置との距離を一定に保った状態で前記光源と当該撮像装置とが移動するように前記移動機構を制御し、更に、前記色・温度変換テーブルを使用して、撮像した前記模擬組織の画像の各位置の色相から当該模擬組織の温度分布を取得する移動機構制御・情報処理手段と、
水温を調節可能な水槽であって、前記模擬組織を収容可能な水槽と、
を備え、
システムで使用されるプログラムにおいて、前記移動機構制御・情報処理手段に、
前記水槽内の水を所定温度に制御する温度制御工程と、
前記水槽内の水の中に収納された前記模擬組織を前記撮像装置に撮像させる撮像工程と、
撮像した画像を、前記光源から見て前記模擬組織の前記挿入穴に重ならない第1領域(Cal_1)と重なる第2領域(Cal_2)とに分ける画像分割工程と、
前記第1領域(Cal_1)と前記第2領域(Cal_2)のそれぞれで、前記水槽内の水温と撮像した前記模擬組織の画像の色相とに基づいて前記色・温度変換テーブルを校正するテーブル校正工程と、
を実行させ、更に、前記移動機構制御・情報処理手段に、
前記模擬組織の感温領域の下限温度から上限温度まで感温領域全体にわたって、前記温度制御工程と前記撮像工程と前記画像分割工程と前記テーブル校正工程とを繰り返し実行させる、プログラム。
【請求項12】
請求項11に記載のプログラムにおいて、
前記システムは、前記治療装置が前記模擬組織の前記挿入穴内に配置され、
前記移動機構制御・情報処理手段に、
前記治療装置に超音波を照射させて前記模擬組織を加熱させる加熱工程と、
所定時間ごとに前記模擬組織を前記撮像装置に撮像させる撮像工程と、
撮像した画像を、前記第1領域(Cal_1)と前記第2領域(Cal_2)とに分ける画像分割工程と、
校正された前記色・温度変換テーブルを使用して、前記模擬組織の前記第1領域(Cal_1)と前記第2領域(Cal_2)から各々の温度分布を取得する温度分布取得工程と、
を実行させ、
前記模擬組織の感温領域の下限温度から上限温度まで感温領域全体にわたって、前記移動機構制御・情報処理手段に、前記加熱工程と前記撮像工程と前記画像分割工程と前記温度分布取得工程とを繰り返し実行させる、プログラム。
【請求項13】
請求項12に記載のプログラムにおいて、
前記システムが、取得した前記模擬組織の温度分布を画像として保持する画像保持手段を更に備え、
前記温度分布取得工程は、取得した温度分布を前記画像保持手段が保持する画像保持工程を含み、
システム使用者の要求に応じて、前記移動機構制御・情報処理手段に、前記模擬組織の温度分布の時間変化を出力する出力工程を実行させる、プログラム。
【請求項14】
人体組織を焼灼する超音波を照射可能な治療装置を評価するシステムの計測を校正する方法であって、
前記システムが、
特定の感温領域内で温度により色相が変化する性質を有し、前記治療装置から超音波を受けるときの人体組織の温度変化を模擬する模擬組織であって、当該治療装置を配置可能な挿入穴を有する、模擬組織と、
前記模擬組織に対して面状の光を照射する光源と、
前記模擬組織の光の照射面における断面カラー画像を撮像する撮像装置と、
前記光源と前記撮像装置とを前記模擬組織に対して当該撮像装置の撮影軸方向に相対的に移動させる移動機構と、
前記模擬組織の画像の色相から温度を換算するための色・温度変換テーブルと、
光の照射面と前記撮像装置との距離を一定に保った状態で前記光源と当該撮像装置とが移動するように前記移動機構を制御し、更に、前記色・温度変換テーブルを使用して、撮像した前記模擬組織の各位置の色相の画像から当該模擬組織の温度分布を取得する移動機構制御・情報処理手段と、
前記模擬組織内に配置された熱電対と、
を備え、
前記治療装置が前記模擬組織の前記挿入穴内に配置される、
校正する方法において、
前記治療装置が超音波を照射して前記模擬組織全体を加熱する工程と、
加熱された前記模擬組織の前記熱電対近傍の色変化を監視する工程と、
前記模擬組織の前記熱電対近傍の色変化が観察されると、前記治療装置による超音波照射を停止する工程と、
前記熱電対が前記模擬組織の温度を測定する工程と、
前記撮像装置が前記模擬組織を撮像する工程と、
測定した温度と撮像した画像の前記熱電対近傍の色相とに基づいて前記色・温度変換テーブルを校正する工程と、
を備える、校正する方法。
【請求項15】
人体組織を焼灼する超音波を照射可能な治療装置を評価するシステムの計測を校正する方法であって、
前記システムが、
特定の感温領域内で温度により色相が変化する性質を有し、前記治療装置から超音波を受けるときの人体組織の温度変化を模擬する模擬組織であって、当該治療装置を配置可能な挿入穴を有する、模擬組織と、
前記模擬組織に対して面状の光を照射する光源と、
前記模擬組織の光の照射面における断面カラー画像を撮像する撮像装置と、
前記光源と前記撮像装置とを前記模擬組織に対して当該撮像装置の撮影軸方向に相対的に移動させる移動機構と、
前記模擬組織の画像の色相から温度を換算するための色・温度変換テーブルと、
光の照射面と前記撮像装置との距離を一定に保った状態で前記光源と当該撮像装置とが移動するように前記移動機構を制御し、更に、前記色・温度変換テーブルを使用して、撮像した前記模擬組織の画像の各位置の色相から当該模擬組織の温度分布を取得する移動機構制御・情報処理手段と、
水温を調節可能な水槽であって、前記模擬組織を収容可能な水槽と、
を備える、
校正する方法において、
所定温度に制御された前記水槽内の水の中に収納された前記模擬組織を撮像する工程と、
前記模擬組織の感温領域の下限温度から上限温度まで感温領域全体にわたって前記水槽内の水温を変更して前記撮像する工程を繰り返し、当該水槽内の水温と撮像した当該模擬組織の画像の色相とに基づいて感温領域全体にわたって前記色・温度変換テーブルを校正する工程と、
を備える、校正する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
温度上昇評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動態高血圧治療の治療法の一つとして、近年、腎交感神経除神経術(renal sympathetic denervation(RDN))というカテーテル治療が注目を集めている。腎臓周りの交感神経の活動が亢進すると、血管収縮等を招き、血圧上昇を引き起こすことが分かっている。RDNは腎動脈周囲の交感神経を焼灼のターゲットとし、その働きを抑制して血圧の上昇を低減する治療法である。焼灼手段として、主に、電極により直接血管壁を焼灼しながら交感神経を焼灼するRF治療と、超音波デバイスにより、血管壁を直接傷つけず、血管径外約5mm程度の範囲の交感神経のみを焼灼する超音波治療等がある。これらデバイスの開発時および臨床適用時のデバイス評価手法として、デバイスにより焼灼される血管周りの温度上昇を自動でかつ簡便に可視化する手法がないことが課題の一つである。血管周りの3次元空間の温度上昇を簡便に計測することができれば、開発時や臨床適用時のデバイスの3次元(XYZ)空間における破損や欠陥等の発見につながることも期待できる。また、新規デバイス開発においても、血管径外組織の温度上昇を最適化するためのデバイス評価手法としても適用できることが期待できる。先行技術として、ハイドロフォン(超音波センサ)等を用いて、デバイスによって生じた超音波音場内を3次元的にスキャン計測することで、デバイスによる3次元音場分布を測定することができるが、実際の生体内、もしくは、生体を模擬したファントムの温度上昇を実測できない。
【0003】
また、熱電対を生体ファントムに挿入し、直接温度上昇を評価する先行技術もあるが、基本的に有限点での計測になり、3次元空間(例えば、縦×横×奥行=50mm×50mm×50mm程度)のすべての生体内および生体ファントムの温度上昇を計測することは困難である。熱電対挿入によって、超音波の音場を乱してしまう懸念もある。そこで、温度上昇を3次元的に可視化する手法として、感温液晶(コレステリック液晶等)を封入したファントムを作成して、デバイスによる温度上昇をスリット光源によって可視化する手法が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T. Iwahashi et al., Adv Biomed Eng. 7: pp. 1-7, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、デバイスによる温度上昇をスリット光源によって可視化する手法は、強力集束超音波(High Intensity Focused Ultrasound:HIFU)治療器の温度上昇を評価することを主目的にしており、先述の腎デナベーション治療器の評価においては、カメラを固定したまま、光源をスキャンさせると、カメラと被写体(スリット光源に照らされている面)の距離が変わってしまい、ピントがずれるために、鮮明な画像が取れない可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載のシステムは、
人体組織を加熱する超音波を照射可能な治療装置を定量評価するシステムであって、
特定の感温領域内で温度により色相が変化する性質を有する模擬組織であって、前記治療装置から超音波を受けるときの人体組織の温度変化を模擬する模擬組織と、
前記模擬組織に対して面状の光を照射する光源と、
前記模擬組織の光の照射面における断面カラー画像を撮像する撮像装置と、
前記光源と前記撮像装置とを前記模擬組織に対して当該撮像装置の撮影軸方向に相対的に移動させる移動機構と、
前記模擬組織の画像の色相から温度を換算するための色・温度変換テーブルと、
光の照射面と前記撮像装置との距離を一定に保った状態で前記光源と当該撮像装置とが移動するように前記移動機構を制御し、更に、前記色・温度変換テーブルを使用して、撮像した前記模擬組織の画像の各位置の色相から当該模擬組織の温度分布を取得する移動機構制御・情報処理手段と、
を備える、ことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載のシステムは、請求項1に記載のシステムにおいて、
前記移動機構制御・情報処理手段は、前記色・温度変換テーブルを使用して、撮像条件通りに撮像した画像の各々から前記模擬組織の撮影軸方向にわたる温度分布を取得し、当該模擬組織の温度分布から3次元温度分布を出力する、
ことを特徴とすれば、
模擬組織の温度分布を3次元で把握できるので好ましい。
【0008】
請求項3に記載のシステムは、請求項1又は2に記載のシステムにおいて、
取得した前記模擬組織の温度分布を画像として保持する画像保持手段を更に備え、
前記移動機構制御・情報処理手段は、保持された温度分布画像に基づいて、前記模擬組織の温度分布の時間変化を出力する、
ことを特徴とすれば、本構成を有しない場合に比して、
模擬組織の温度分布の変化を時間軸で評価できるので好ましい。
【0009】
請求項4に記載のシステムは、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシステムにおいて、
前記模擬組織内に配置された熱電対を更に備え、
前記移動機構制御・情報処理手段は、前記熱電対の測定温度と前記模擬組織の画像の色相とに基づいて前記色・温度変換テーブルを作成する、
ことを特徴とすれば、本構成を有しない場合に比して、
模擬組織の温度分布をより正確に把握できるので好ましい。
【0010】
請求項5に記載のシステムは、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシステムにおいて、
水温を調節可能な水槽であって、前記模擬組織を収容可能な水槽を更に備え、
前記移動機構制御・情報処理手段は、前記水槽の水温と当該水槽内の水の中に収容された前記模擬組織の画像の色相とに基づいて、前記色・温度変換テーブルを作成する、
ことを特徴とすれば、本構成を有しない場合に比して、
校正用の模擬組織を用いることなく、模擬組織の温度分布をより正確に把握できるので好ましい。
【0011】
請求項6に記載のシステムは、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のシステムにおいて、
前記光源は、前記模擬組織を360°方向から囲む、
ことを特徴とすれば、
模擬組織の挿入穴に配置される治療装置の影の影響を排除して模擬組織の画像を撮像できるので好ましい。
【0012】
請求項7に記載のシステムは、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のシステムにおいて、
前記光源は、前記模擬組織を挟んで対称の位置に配置される、
ことを特徴とすれば、
模擬組織の挿入穴に配置される治療装置の影の影響を軽減して模擬組織の画像を撮像できるので好ましい。
【0013】
上記課題を解決するために、請求項8に記載のプログラムは、
人体組織を加熱する超音波を照射可能な治療装置を評価するシステムで使用されるプログラムであって、
前記システムが、
特定の感温領域内で温度により色相が変化する性質を有し、前記治療装置から超音波を受けるときの人体組織の温度変化を模擬する模擬組織であって、当該治療装置を配置可能な挿入穴を有する、模擬組織と、
前記模擬組織に対して面状の光を照射する2つの光源であって、前記模擬組織を挟んで対称の位置に配置される2つの光源と、
前記模擬組織の光の照射面における断面カラー画像を撮像する撮像装置と、
前記光源と前記撮像装置とを前記模擬組織に対して当該撮像装置の撮影軸方向に相対的に移動させる移動機構と、
前記模擬組織の画像の色相から温度を換算するための色・温度変換テーブルと、
光の照射面と前記撮像装置との距離を一定に保った状態で前記光源と当該撮像装置とが移動するように前記移動機構を制御し、更に、前記色・温度変換テーブルを使用して、撮像した前記模擬組織の画像の各位置の色相から当該模擬組織の温度分布を取得する移動機構制御・情報処理手段と、
前記模擬組織内の前記挿入穴近傍であって前記光源のいずれか一方から見て当該模擬組織の当該挿入穴に重ならない第1領域(Cal_1)に配置された第1熱電対及び当該模擬組織の当該挿入穴に重なる第2領域(Cal_2)に配置された第2熱電対と、
を備え、
前記治療装置が前記模擬組織の前記挿入穴内に配置される、
システムで使用されるプログラムにおいて、前記移動機構制御・情報処理手段に、
前記治療装置に超音波を照射させて前記模擬組織を加熱させる加熱工程と、
加熱された前記模擬組織の前記第1及び第2熱電対近傍の色変化を前記撮像装置を通じて監視する監視工程と、
前記模擬組織の前記第1及び第2熱電対近傍の色変化が観察されると、前記治療装置による超音波照射を停止させる停止工程と、
前記模擬組織の温度を前記第1及び第2熱電対の各々に測定させる温度測定工程と、
前記模擬組織を前記撮像装置に撮像させる第1撮像工程と、
撮像した画像を、前記第1領域(Cal_1)と前記第2領域(Cal_2)とに分ける画像分割工程と、
測定した温度と前記第1領域(Cal_1)内の前記第1熱電対の位置に最も近い位置の色相とに基づいて、前記色・温度変換テーブルの当該第1領域(Cal_1)に対応するテーブルの値を校正する第1テーブル校正工程と、
測定した温度と前記第2領域(Cal_2)内の前記第2熱電対の位置に最も近い位置の色相とに基づいて、前記色・温度変換テーブルの当該第2領域(Cal_2)に対応するテーブルの値を校正する第2テーブル校正工程と、
を実行させる、ことを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載のプログラムは、請求項8に記載のプログラムにおいて、
更に、前記移動機構制御・情報処理手段に、
前記模擬組織が感温領域の下限温度に至るまで、所定時間ごとに、
前記模擬組織を前記撮像装置に撮像させる第2撮像工程と、
撮像した画像を、前記第1領域(Cal_1)と前記第2領域(Cal_2)とに分ける画像分割工程と、
校正された前記色・温度変換テーブルを使用して、前記模擬組織の前記第1領域(Cal_1)と前記第2領域(Cal_2)から各々の温度分布を取得する温度分布取得工程と、
を繰り返し実行させる、
ことを特徴とすれば、本構成を有しない場合に比して、
領域ごとに校正された色・温度変換テーブルを使用して、模擬組織の挿入穴に配置される治療装置の影の影響を軽減できるので好ましい。
【0015】
請求項10に記載のプログラムは、請求項9に記載のプログラムにおいて、
前記システムが、取得した前記模擬組織の温度分布を画像として保持する画像保持手段を更に備え、
前記温度分布取得工程は、取得した温度分布を前記画像保持手段が保持する画像保持工程を含み、
システム使用者の要求に応じて、前記移動機構制御・情報処理手段に、前記模擬組織の温度分布の時間変化を出力する出力工程を実行させる、
ことを特徴とすれば、
模擬組織の感温領域全体にわたって温度分布の変化を時間軸で評価できるので好ましい。
【0016】
上記課題を解決するために、請求項11に記載のプログラムは、
人体組織を焼灼する超音波を照射可能な治療装置を評価するシステムで使用されるプログラムであって、
前記システムが、
特定の感温領域内で温度により色相が変化する性質を有し、前記治療装置から超音波を受けるときの人体組織の温度変化を模擬する模擬組織であって、当該治療装置を配置可能な挿入穴を有する、模擬組織と、
前記模擬組織に対して面状の光を照射する2つの光源であって、前記模擬組織を挟んで対称の位置に配置される2つの光源と、
前記模擬組織の光の照射面における断面カラー画像を撮像する撮像装置と、
前記光源と前記撮像装置とを前記模擬組織に対して当該撮像装置の撮影軸方向に相対的に移動させる移動機構と、
前記模擬組織の画像の色相から温度を換算するための色・温度変換テーブルと、
光の照射面と前記撮像装置との距離を一定に保った状態で前記光源と当該撮像装置とが移動するように前記移動機構を制御し、更に、前記色・温度変換テーブルを使用して、撮像した前記模擬組織の画像の各位置の色相から当該模擬組織の温度分布を取得する移動機構制御・情報処理手段と、
水温を調節可能な水槽であって、前記模擬組織を収容可能な水槽と、
を備え、
システムで使用されるプログラムにおいて、前記移動機構制御・情報処理手段に、
前記水槽内の水を所定温度に制御する温度制御工程と、
前記水槽内の水の中に収納された前記模擬組織を前記撮像装置に撮像させる撮像工程と、
撮像した画像を、前記光源から見て前記模擬組織の前記挿入穴に重ならない第1領域(Cal_1)と重なる第2領域(Cal_2)とに分ける画像分割工程と、
前記第1領域(Cal_1)と前記第2領域(Cal_2)のそれぞれで、前記水槽内の水温と撮像した前記模擬組織の画像の色相とに基づいて前記色・温度変換テーブルを校正するテーブル校正工程と、
を実行させ、更に、前記移動機構制御・情報処理手段に、
前記模擬組織の感温領域の下限温度から上限温度まで感温領域全体にわたって、前記温度制御工程と前記撮像工程と前記画像分割工程と前記テーブル校正工程とを繰り返し実行させる、ことを特徴とする。
【0017】
請求項12に記載のプログラムは、請求項11に記載のプログラムにおいて、
前記システムは、前記治療装置が前記模擬組織の前記挿入穴内に配置され、
前記移動機構制御・情報処理手段に、
前記治療装置に超音波を照射させて前記模擬組織を加熱させる加熱工程と、
所定時間ごとに前記模擬組織を前記撮像装置に撮像させる撮像工程と、
撮像した画像を、前記第1領域(Cal_1)と前記第2領域(Cal_2)とに分ける画像分割工程と、
校正された前記色・温度変換テーブルを使用して、前記模擬組織の前記第1領域(Cal_1)と前記第2領域(Cal_2)から各々の温度分布を取得する温度分布取得工程と、
を実行させ、
前記模擬組織の感温領域の下限温度から上限温度まで感温領域全体にわたって、前記移動機構制御・情報処理手段に、前記加熱工程と前記撮像工程と前記画像分割工程と前記温度分布取得工程とを繰り返し実行させる、
ことを特徴とすれば、
模擬組織の感温領域全体にわたって温度分布の変化を取得できるので好ましい。
【0018】
請求項13に記載のプログラムは、請求項12に記載のプログラムにおいて、
前記システムが、取得した前記模擬組織の温度分布を画像として保持する画像保持手段を更に備え、
前記温度分布取得工程は、取得した温度分布を前記画像保持手段が保持する画像保持工程を含み、
システム使用者の要求に応じて、前記移動機構制御・情報処理手段に、前記模擬組織の温度分布の時間変化を出力する出力工程を実行させる、
ことを特徴とすれば、
模擬組織の感温領域全体にわたって温度分布の変化を時間軸で評価できるので好ましい。
【0019】
上記課題を解決するために、請求項14に記載の校正する方法は、
人体組織を焼灼する超音波を照射可能な治療装置を評価するシステムの計測を校正する方法であって、
前記システムが、
特定の感温領域内で温度により色相が変化する性質を有し、前記治療装置から超音波を受けるときの人体組織の温度変化を模擬する模擬組織であって、当該治療装置を配置可能な挿入穴を有する、模擬組織と、
前記模擬組織に対して面状の光を照射する光源と、
前記模擬組織の光の照射面における断面カラー画像を撮像する撮像装置と、
前記光源と前記撮像装置とを前記模擬組織に対して当該撮像装置の撮影軸方向に相対的に移動させる移動機構と、
前記模擬組織の画像の色相から温度を換算するための色・温度変換テーブルと、
光の照射面と前記撮像装置との距離を一定に保った状態で前記光源と当該撮像装置とが移動するように前記移動機構を制御し、更に、前記色・温度変換テーブルを使用して、撮像した前記模擬組織の各位置の色相の画像から当該模擬組織の温度分布を取得する移動機構制御・情報処理手段と、
前記模擬組織内に配置された熱電対と、
を備え、
前記治療装置が前記模擬組織の前記挿入穴内に配置される、
校正する方法において、
前記治療装置が超音波を照射して前記模擬組織全体を加熱する工程と、
加熱された前記模擬組織の前記熱電対近傍の色変化を監視する工程と、
前記模擬組織の前記熱電対近傍の色変化が観察されると、前記治療装置による超音波照射を停止する工程と、
前記熱電対が前記模擬組織の温度を測定する工程と、
前記撮像装置が前記模擬組織を撮像する工程と、
測定した温度と撮像した画像の前記熱電対近傍の色相とに基づいて前記色・温度変換テーブルを校正する工程と、
を備える、ことを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決するために、請求項15に記載の校正する方法は、
人体組織を焼灼する超音波を照射可能な治療装置を評価するシステムの計測を校正する方法であって、
前記システムが、
特定の感温領域内で温度により色相が変化する性質を有し、前記治療装置から超音波を受けるときの人体組織の温度変化を模擬する模擬組織であって、当該治療装置を配置可能な挿入穴を有する、模擬組織と、
前記模擬組織に対して面状の光を照射する光源と、
前記模擬組織の光の照射面における断面カラー画像を撮像する撮像装置と、
前記光源と前記撮像装置とを前記模擬組織に対して当該撮像装置の撮影軸方向に相対的に移動させる移動機構と、
前記模擬組織の画像の色相から温度を換算するための色・温度変換テーブルと、
光の照射面と前記撮像装置との距離を一定に保った状態で前記光源と当該撮像装置とが移動するように前記移動機構を制御し、更に、前記色・温度変換テーブルを使用して、撮像した前記模擬組織の画像の各位置の色相から当該模擬組織の温度分布を取得する移動機構制御・情報処理手段と、
水温を調節可能な水槽であって、前記模擬組織を収容可能な水槽と、
を備える、
校正する方法において、
所定温度に制御された前記水槽内の水の中に収納された前記模擬組織を撮像する工程と、
前記模擬組織の感温領域の下限温度から上限温度まで感温領域全体にわたって前記水槽内の水温を変更して前記撮像する工程を繰り返し、当該水槽内の水温と撮像した当該模擬組織の画像の色相とに基づいて感温領域全体にわたって前記色・温度変換テーブルを校正する工程と、
を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、人体組織を焼灼する超音波を照射可能な治療装置を評価するシステムにおいて、ピントずれの発生を抑制し、鮮明な画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態に係る3次元温度分布高速計測システムの構成を示す概要図である。
図2図1に示す3次元温度分布高速計測システムで使用される光源の外観図である。
図3】第1実施形態に係る3次元温度分布高速計測システムの校正時の構成を示す概要図である。
図4】第1実施形態に係る校正時の感温ファントムを撮像装置から撮像した際の正面図である。
図5】第1実施形態に係る3次元温度分布高速計測システムで実行される校正方法のフローチャートである。
図6】第1実施形態に係る3次元温度分布高速計測システムで実行される校正において、校正用感温ファントム11を撮像装置14から撮像した際の正面図の時間履歴である。
図7】(a)は60℃~70℃の範囲で呈色する感温ファントムを使用した際に、撮像装置と熱電対で取得した、RGB値(縦軸)と温度(横軸)の関係であり、(b)は、主成分分析を取得したRGB値に施すことにより、RGB値を第1主成分(横軸)と第2主成分(縦軸)に投影した図であり、(c)は、投影データの重心Xから各投影データの位相角・温度のデータを取得し、位相角と温度を1対1で対応させたテーブル(色・温度変換テーブル)である。
図8】第1実施形態に係る3次元温度分布高速計測システムで実行される評価方法のフローチャートである。
図9】得られた感温ファントムの温度上昇分布において、63℃以上の昇温領域のみを抽出し、X=0の断面で切断した温度分布の時間履歴である。(表示方法の1例)
図10】第2実施形態に係る3次元温度分布高速計測システムの校正時の構成を示す概要図である。
図11】光源を用いて校正用感温ファントムに光を照射したときの状態を説明する図であり、図11(a)は、一方向から(校正用感温ファントムに対して図の右方向から)光を照射したときの状態を示し、図11(b)は、校正用感温ファントムを挟んで両側から光を照射したときの状態を示す。
図12】光源によって光を照射され取得された画像を、治療装置の影の影響を受けない第1領域(Cal_1)と影の影響を受ける第2領域(Cal_2)とに分けた状態を示す図である。
図13図12における、第1領域・第2領域それぞれの色・温度変換テーブルの概要図である。
図14(a)】感温ファントムの温度と第1領域(Cal_1)の色相とに基づいて色・温度変換テーブル全体の値を校正し、これを用いて取得した感温ファントム全体の温度分布を示す。
図14(b)】感温ファントムの温度と第2領域(Cal_2)の色相とに基づいて色・温度変換テーブル全体の値を校正し、これを用いて取得した感温ファントム全体の温度分布を示す。
図14(c)】図14(a)に示す温度分布の第1領域(Cal_1)の温度分布と、図14(b)に示す温度分布の第2領域(Cal_2)の温度分布とを組み合わせた結果を示す。
図15】第3実施形態に係る3次元温度分布高速計測システムの構成を示す概要図である。
図16】第3実施形態に係る3次元温度分布高速計測システムで実行される校正方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、腎ナベーション治療器に適用した実施形態を用いて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されることは無く、他の疾患の治療装置やRFカテーテルを用いた治療装置の性能評価に適用可能である。例えば、高血圧治療では、腎デナベーション治療は、カテーテルを通して腎血管周りの交感神経を焼灼することで血圧を低下させる。適用範囲として、例えば、RF(電極)焼灼や、超音波焼灼がある。
【0024】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る3次元温度分布高速計測システム1の構成を示す概要図であり、図2は、図1に示す3次元温度分布高速計測システム1で使用される光源の外観図である。ここで、「高速」の表現に関しては、先に述べたハイドロフォン(超音波センサ)等を用いてHIFU音場を計測する場合に比べた際の比較において、「高速」という表現を用いている。通常のハイドロフォンを用いた音場計測では、ハイドロフォンを機械的にスキャンさせるため、測定ピッチや計測範囲にも依存するが、2次元の音場計測においては、1~2時間程度、3次元計測においては、3~4時間程度かかる。それに対して、本システムにおいては、瞬時に2次元の光学画像を取得し、1軸のみの機械スキャンのみで、3次元の測定を行えることから、ハイドロフォンによる音場計測に比べて、1/200程度(2次元:数~数十秒、3次元:数十秒~数分)で、高速に計測することができる。
【0025】
3次元温度分布高速計測システム1は、温度により色相が変化する性質を有する半透明な素材で構成された感温ファントム10と、ドーナツ形状を有し、ドーナツの穴の位置に置かれる感温ファントム10を取り囲むように配置され、感温ファントム10に対して全周から面状の光を照射する光源12と、例えばCCDカメラ等で構成され、光源12から照射される光の面に対して垂直の撮影軸Pの方向から、感温ファントム10の全体を撮像する撮像装置14と、例えば情報処理装置(CPU)で構成され、感温ファントム10の画像の色相から当温度を換算するための色・温度変換テーブル17を有し、撮像された感温ファントム10の画像の各位置の色相から感温ファントム10の温度分布を取得すると共に、後述する光源移動機構22と撮像装置移動機構24とを制御する、移動機構制御・情報処理手段の一例としての移動機構制御・情報処理部16と、例えばメモリやHD等の記憶手段で構成され、撮像された感温ファントム10の画像から取得される温度分布を画像として保持する、画像保持手段の一例としての画像保持部18と、を備えて構成される。光源12が感温ファントム10に対して面状の光を照射すると、撮像装置14は、光の照射面における感温ファントム10の断面カラー画像を撮像する。
【0026】
感温ファントム10は、その中央に、撮像装置14の撮影軸Pの方向に延在する挿入穴7であって血管径を模した挿入穴7を有し、治療装置5(後述)を受け入れるよう構成されている。感温ファントム10は、挿入穴7内に配置される治療装置5から超音波を受けて昇温するときに人体組織の温度変化を模擬する模擬組織として機能する。光源12は、ドーナツ状に配置されたLEDを有し、感温ファントム10に対して光を出射するスリットをドーナツの穴の内側に有して構成されている(図2参照)。撮像装置14は、感温ファントム10全体を撮像するために、撮影軸が感温ファントム10の中央(挿入穴7)を通るように配置されている。画像保持部18は取得した感温ファントム10の温度分布画像を保持し、移動機構制御・情報処理部16は感温ファントム10の温度分布の時間変化を出力する。ここで、治療装置5は、人体組織を焼灼する超音波を照射可能な単板、円筒の超音波トランスデューサ、または、複数の微小超音波振動子で構成される超音波アレイトランスデューサを含んで構成されている。また、人体組織の一例として、腎動脈周辺の交感神経、又は、腎動脈の血管壁が考えられる。
【0027】
また、3次元温度分布高速計測システム1は、光源12と撮像装置14とを感温ファントム10に対して撮影軸P方向に相対的に移動させる移動機構の一例として、例えばモータとリニアガイド等で構成される、撮像装置14の撮影軸Pの方向に平行に光源12を移動させる光源移動機構22と、同じくモータとリニアガイド等で構成され撮影軸Pの方向に平行に撮像装置14を移動させる撮像装置移動機構24と、を更に備える。測定前において、移動機構制御・情報処理部16により、測定範囲の設定、測定面間の距離(ピッチ等)を予め設定する。ここで、移動機構制御・情報処理部16によって光源移動機構22と撮像装置移動機構24とは撮影軸Pの方向に連携して動作するように制御され、光の照射面と撮像装置14との距離を一定に保つよう構成されている。これにより、移動の間は撮像装置14の焦点が光の照射面(合焦面)に合った状態にあり、撮像装置14から見て感温ファントム10の最も遠い位置から最も近い位置まで撮影軸Pの方向に光の照射面が移動するように光源12と撮像装置14とを連動して移動させ、感温ファントム10全体の断面画像を順次撮像することが可能になる。撮像した感温ファントム10全体の画像を画像保持部18が保持する。尚、光源移動機構22は撮像装置移動機構24の動作とは別に撮像装置14の位置を微調整することが可能であり、撮像装置14の焦点を光の照射面に合わせることができる。3次元温度分布高速計測システム1は、遮光ボックス28内に配置され、外光の影響を排除している。
【0028】
ここで、3次元温度分布高速計測システム1による具体的な測定準備工程・評価工程の手順を示す。評価を始める前の準備工程として、感温ファントム10の昇温による色相(撮像装置14で取得されたRGB値)の変化と実際の温度を紐づける校正作業を行う。ここでは、校正方法について説明し、その後、評価方法を説明する。
【0029】
(校正方法)
図3は、3次元温度分布高速計測システム1の校正時の構成を示す概要図である。図3に示すように、3次元温度分布高速計測システム1に校正用の感温ファントム11を設置する。ここで、校正用感温ファントム11は、評価用の感温ファントム10と同じロットから形成され、かつ、形状・大きさ等も同じである必要がある。校正時と評価時の感温ファントムにおける感温材の濃度・ファントム形状等が異なる場合、校正時と評価時の色・温度変換の関係が変わってしまう懸念があるためである。
【0030】
温度と色相の関係を取得するため、熱電対60を校正用感温ファントム11に挿入する。図4は、校正用感温ファントム11を撮像装置14から撮像した際の正面図である。図4に示すように、熱電対60は、治療装置5から数mm~数cm程度離して挿入する。挿入位置に関しては、最適な位置は、治療装置5や昇温領域の大きさに依存するため、一概に定義することはできないが、昇温領域において、感温材の色相とその温度の関係が取得できる領域であればよい。
【0031】
(初期設定(焦点合わせ))
3次元温度分布高速計測システム1において、治療装置5が校正用感温ファントム11の挿入穴8内に配置された状態で実行される校正方法を説明する。図5は、3次元温度分布高速計測システム1で実行される校正方法のフローチャートである。初めに、光源12が校正用感温ファントム11に面状の光を照射し、撮像装置14が校正用感温ファントム11を撮影して、光の照射面の位置が撮像装置14の焦点に合っているかを確認する。焦点が合っていないとき、撮像装置移動機構24が動作して撮像装置14の位置を微調整し、ピントずれをなくす。焦点が合うと、光源移動機構22と撮像装置移動機構24とが連動して光の照射面と撮像装置14との距離を一定に保った状態で、光の照射面の位置と撮像装置14とを初期位置(本実施形態では校正用感温ファントム11の中央付近)へ移動させて、初期設定工程(S102)を完了する。
【0032】
(校正のための色相・温度データ取得)
初期設定が完了すると、移動機構制御・情報処理部16は、治療装置5を起動させて超音波照射を開始させる。治療装置5からの超音波照射を受けて、校正用感温ファントム11は振動し全体が昇温する(加熱工程:S110)。このとき、移動機構制御・情報処理部16は、撮像装置14を通じて校正用感温ファントム11の色変化を監視する(監視工程:S112)。監視し、昇温領域が熱電対60を含む領域まで拡大した時間で、治療装置5の出力を停止する(加熱停止工程:S114)。加熱停止後、校正用感温ファントム11の色相と実際の温度の関係を取得するために、撮像・温度測定を開始する(温度・画像測定工程:S116)。熱電対がファントム呈色温度の下限値になるまで、撮像・温度測定を繰り返す(S118)。
【0033】
上記フローチャートS110~S118の工程の概要を図示したものが図6である。図6は、校正用感温ファントム11を撮像装置14から撮像した際の正面図の時間履歴である。時間が0のとき、治療装置5の出力をONにして、校正用感温ファントム11の加温を開始する(S110)。治療装置5付近から校正用感温ファントム11が徐々に呈色し始め、熱電対60領域まで、呈色領域が拡大した時点(t=T2)で、加熱を停止し(S114)、撮像・温度測定を開始する(S116:第1撮像工程)。その後は、先述したとおり、熱電対がファントム呈色温度の下限値になるまで、撮像・温度測定を繰り返す(S118)。
【0034】
このように、超音波照射による校正用感温ファントム11の昇温と、超音波照射を停止した状態での校正用感温ファントム11の撮像とを分けることで、超音波照射によって熱電対60が振動し、その近傍だけが他の部分よりも局所的に温度が高くなることの影響を排除した状態で、色・温度変換テーブル17を取得することができる。
【0035】
(得られたデータを用いた校正)
ファントム呈色温度の下限値になるまで、色相(RGB値)とその時の温度を測定し、その時間履歴を保存する(S120)。保存したRGB値とその温度の値を使って、色・温度変換テーブルの作成(校正工程:S130)を行う。色相と温度情報を紐づける方法は、様々な方法が提案、または、考案され得るが、ここでは、非特許文献1に示すRGB値の主成分分析による方法を説明する。しかしながら、校正工程については、この方法に限らず、RGB値と温度が1対1で紐づけることができ、実際のファントム色相から温度を推定できる方法であれば、どのような手段であっても構わない。
【0036】
図7(a)に示すのが、60℃~70℃の範囲で呈色する校正用感温ファントム11を使用した際に、撮像14と熱電対60で取得した、RGB値(縦軸)と温度(横軸)の関係である。ここで、主成分分析をRGB値に施すことにより、RGB値を第1主成分(横軸)と第2主成分(縦軸)に投影する(図7(b))。その投影データの重心Xから各投影データの位相角・温度のデータを取得し、位相角と温度が1対1で対応するようなテーブルを作成する(図7(c))。こうすることによって、実際の呈色温度(RGB値)と温度が紐づけられ、実際の評価において、校正用感温ファントム11の色相から、実際の温度を推定することができる。
【0037】
(評価方法)
上記校正工程が終了し、色・温度変換テーブル17を移動機構制御・情報処理部16に保存後、図1の系により、治療装置5による実際の温度分布測定を開始する。図8に評価のフローチャートを示す。初期設定S202では、上記校正工程における、焦点合わせに加え、使用者が取得したい3次元分布の範囲、各測定面間の距離(ピッチ)、設定撮像時間等を設定する。初期設定完了後、加熱を開始し(S204)、光源移動機構22と撮像装置移動機構24とが連動して撮像装置14の撮影軸Pの方向に光の照射面を動かし、撮像装置14から見て評価用の感温ファントム10の最も遠い位置から最も近い位置まで撮影軸Pの方向の評価用感温ファントム10全体の断面画像を撮像する(S206:第2撮像工程)。設定撮像時間に達するまで(S208:No)、撮像を繰り返し、設定撮像時間に達したら(S208:Yes)、撮像を停止する(S210)。撮像停止後、撮像データの時間履歴が画像保持部18に一時的に保存され(S302)、あらかじめ保存しておいた温度変換テーブル17を用いて、移動機構制御・情報処理部16が温度変換を行い(S304)、3次元温度分布画像の時間履歴を画像保持部18に保存する(S306)。
【0038】
使用者の要求(入力手段は不図示)に応じて、評価用感温ファントム10の温度分布を表示手段(不図示)に出力する。画像保持部18には評価時の3次元温度分布の設定時間履歴画像が保持されているので、使用者の要求に応じて温度分布の時間変化を表示することもできる。
【0039】
図9に、温度分布を可視化して3次元表示した図の時間履歴の一例を示す。図9は、評価用感温ファントム10の63℃以上の昇温領域のみを抽出し、X=0の断面で切断した温度分布の時間履歴である。3次元温度分布取得後は、このように使用者の観察したい温度分布の面や角度、時間履歴等を自由に、かつ、定量的に観察することが可能になる。こうすることによって、実際の3次元生体内と時間次元も含む、4次元の昇温領域の様子を定量的に確認することが可能になり、治療装置の安全性チェックや治療計画の策定等に役立つことが期待できる。
【0040】
(第2実施形態)
図10は、第2実施形態に係る3次元温度分布高速計測システム50の校正時の構成を示す概要図である。第1実施形態に係る3次元温度分布高速計測システム1との同一又は類似の要素については、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。第1実施形態に係る3次元温度分布高速計測システム1では校正用感温ファントム11や評価用感温ファントム10に対して全周から光が照射される構成(図1図3参照)であったのに対して、以下に説明する第2実施形態に係る3次元温度分布高速計測システム50では、校正用感温ファントム11や評価用感温ファントム10の左右両側から光が照射される点で相違する。
【0041】
3次元温度分布高速計測システム50は、校正用感温ファントム11に対して面状の光を照射する光源12a、12bを備えて構成される。光源12a、12bは、校正用感温ファントム11を挟んで対称の位置に配置され、校正用感温ファントム11の両側から面状の光を全体に照射する。光源12a、12bの各々は、例えば一列に配置されたLEDと、校正用感温ファントム11に対して光を出射するように配置されたスリットとで構成される。
【0042】
ここで、光源12a、12bが校正用感温ファントム11に対して面状の光を照射するときの状態を図面を用いて説明する。図11は、光源12a、12bを用いて校正用感温ファントム11に光を照射したときの状態を説明する図であり、図11(a)は、一方向から(校正用感温ファントム11に対して図の右方向から)光を照射したときの状態を示し、図11(b)は、校正用感温ファントム11を挟んで両側から光を照射したときの状態を示す。図11(a)に示されるように、図の右方向(光源12a)から光を照射するとき、挿入穴8内に配置された治療装置5により、治療装置5を挟んで光源12aとは反対側に影ができる。これに対して、校正用感温ファントム11を挟んで両側の対称の位置に光源12a、12bを配置して光を照射すると、図11(b)に示されるように、治療装置5の影の影響を低減することができる。しかし、校正用感温ファントム11の温度分布をよく観察すると、治療装置5の影の影響を完全に排除して切れていないことが分かる。
【0043】
校正用感温ファントム11を挟んで両側に配置された光源12a、12b(図10)から光を照射したときの、影の影響を排除する校正方法を図面を用いて説明する。図12は、光源12a、12bによって光を照射され取得された画像を、治療装置5の影の影響を受けない第1領域(Cal_1)と影の影響を受ける第2領域(Cal_2)とに分けた状態を示す図である。治療装置5の影の影響を受ける第2領域(Cal_2)、即ち、治療装置5を挟んで光源12aに対して反対の領域(Cal_2_12a)と、治療装置5を挟んで光源12bに対して反対の領域(Cal_2_12b)は、治療装置5の影の影響を受けない第1領域(Cal_1)よりも光源から受ける光量が少ない。即ち、治療装置5の影の影響を完全に排除して切れていない。
【0044】
そこで、その影の影響を取り除くため、第1領域に挿入した第1熱電対61と第2領域に挿入した第2熱電対62を使って、2種類のファントム色相・温度の関係を取得して、それぞれの領域において、それぞれ別々の色・温度変換を行うこととする。校正方法のフローチャートは、図5とほぼ同様であるが、第1領域、第2領域それぞれで、温度測定を行い(S116)、それぞれの領域の色・温度変換テーブルを作成する(S130)点が、第1実施形態の校正方法と異なる。図13に、第1領域・第2領域それぞれの色・温度変換テーブルの概要を示す。ここで、色相と温度を1対1で紐づける校正手段は、先述した主成分分析を用いた方法でも良いし、その他の方法でも構わない。
【0045】
(評価方法)
第2実施形態における、評価方法のフローチャートも第1実施形態(図8)とほぼ同様である。初期設定時に、第1領域、第2領域の範囲を使用者が設定する点、保存したそれぞれの領域の色・温度変換テーブル(図13)を温度換算時に使用する(S304)点が異なる。その他、使用者の要求(入力手段は不図示)に応じて、感温ファントム10の温度分布や温度分布の時間変化を出力することができる点は、第1実施形態と同じである。
【0046】
左右2つの光源から受ける光量が治療装置5の影の影響を受けない第1領域(Cal_1)と影の影響を受ける第2領域(Cal_2)とで異なることに起因して生じる不具合を図面を用いて説明する。図14(a)は、評価用の感温ファントム10の温度と第1領域(Cal_1)の色相とに基づいて色・温度変換テーブル17のみを用いて校正した際の感温ファントム10のある面の温度分布を示す。図14(b)は、感温ファントム10の温度と第2領域(Cal_2)の色相とに基づいて色・温度変換テーブル17のみを用いて校正した際の感温ファントム10の図14(a)と同じ面の温度分布を示す。図14(c)は、図14(a)に示す温度分布の第1領域(Cal_1)の温度分布と、図14(b)に示す温度分布の第2領域(Cal_2)の温度分布とを組み合わせた結果を示す。
【0047】
感温ファントム10の温度と第1領域(Cal_1)の色相とに基づいて色・温度変換テーブル17のみを用いて校正すると、図14(a)に示されように、第1領域(Cal_1)は比較的適切に校正され温度換算されるが、第2領域(Cal_2)は本来の温度より高く表示されたり、逆に低く表示されたりする。これに対して、感温ファントム10の温度と第2領域(Cal_2)の色相とに基づいて色・温度変換テーブル17のみを用いて校正すると、図14(b)に示すように、第2領域(Cal_2)は比較的適切に校正され温度換算されるが、第1領域(Cal_1)は温度が低く換算され表示される傾向にある。従って、色・温度変換テーブル17の第1領域(Cal_1)に対応するテーブルの値の校正には感温ファントム10の温度と第1領域(Cal_1)の色相との第1の関係を用い、色・温度変換テーブル17の第2領域(Cal_2)に対応するテーブルの値の校正には感温ファントム10の温度と第2領域(Cal_2)の色相との第2の関係を用いて、それぞれの温度分布を形成し、それらを組み合わせて、図14(c)に示す温度分布を得る。
【0048】
(第3実施形態)
図15は、第3実施形態に係る3次元温度分布高速計測システム70の構成を示す概要図である。第1実施形態又は第2実施形態に係る3次元温度分布高速計測システム1,50との同一又は類似の要素については、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。第2実施形態に係る3次元温度分布高速計測システム50では、熱電対60が測定した感温ファントムの温度と撮像した画像の色相とに基づいて色・温度変換テーブル17を校正する構成であったのに対して、以下に説明する第3実施形態に係る3次元温度分布高速計測システム70は、水温を調節可能な水槽80を備え、水槽80内の水温と感温ファントム10の画像の色相とに基づいて色・温度変換テーブル17を作成する点で相違する。尚、第3実施形態に係る3次元温度分布高速計測システム70の光源は、第1実施形態に係る3次元温度分布高速計測システム1の光源でも、第2実施形態に係る3次元温度分布高速計測システム50の光源(感温ファントム10の左右両側から光を照射)でも構わない。
【0049】
図15に示す第3実施形態に係る3次元温度分布高速計測システム70は、ヒータ(不図示)により所定温度に調節可能な水槽80を備え、水槽80は内部に感温ファントム10を収容する。移動機構制御・情報処理部16は、水槽80内の水温を制御し、また、水槽80内の水温と関連付けて感温ファントム10の画像の色相を取得する。これにより、移動機構制御・情報処理部16は、温度と色相とに基づいて色・温度変換テーブル17を取得する。評価方法・データ表示等に関しては、第1実施形態、第2実施形態とほぼ同様である。校正方法にのみ相違があるため、第3実施形態に係る3次元温度分布高速計測システム70における校正方法について以下に説明する。
【0050】
(校正方法)
第3実施形態に係る3次元温度分布高速計測システム70で実行される校正方法を以下に説明する。図16は、3次元温度分布高速計測システム70で実行される色・温度変換テーブル17の取得方法のフローチャートである。焦点合わせは、第1実施形態又は第2実施形態のシステム1,50での初期設定の焦点合わせと同じなので説明を省略する。初期設定において、第1実施形態の光源を用いる場合は、ファントム色相の測定点を1か所指定し、第2実施形態の光源を用いる場合は、2か所指定する(先述の第1領域:Cal_1と第2領域:Cal_2)。
【0051】
初期設定が完了すると、移動機構制御・情報処理部16は、水槽80内の水をヒータ(不図示)により感温領域の下限温度まで加温して(温度制御工程:S410)、感温領域の下限温度に至るとヒータを停止して、感温ファントム10の温度が安定するまで待つ(停止工程:S412)。感温ファントム10全体の温度が安定したところで、撮像装置14が感温ファントム10全体を撮像し、その時の水温=感温ファントム温度を測定する(撮像・温度測定工程:S414)。
【0052】
続けて、水槽80内の水を所定の温度幅だけ加熱し(温度制御工程:S410)、上と同じように、感温ファントム10全体の温度が安定したところで(停止工程:S412)、感温ファントム10全体の画像を撮像し、温度を測定する(撮像・温度測定工程:S414)。感温領域の上限温度になるまで、ファントム色相・温度の関係を取得し、上限温度に達したら、撮像画像と温度測定の時間履歴を保存する(保存工程:S120)。その後、先述した方法を用いて、色・温度変換テーブルの作成を行う(校正工程:S130)。S130において、第1実施形態の光源を用いる場合は、1種類の色・温度変化テーブルが作成され、第2実施形態の光源を用いる場合は、2種類(先述の第1領域:Cal_1と第2領域:Cal_2)の色・温度変化テーブルが作成される。
【0053】
以上の説明では、感温ファントム10が昇温する過程の温度分布画像取得の例を説明したが、同じ構成で、感温ファントム10が自然冷却する過程で温度分布画像を取得することは可能である。
【0054】
(評価方法)
第3実施形態における、評価方法のフローチャートも第1実施形態(図8)とほぼ同様である。先述したとおり、用いる光源の種類によって、色・温度変換テーブルの個数が異なる。その他、使用者の要求(入力手段は不図示)に応じて、感温ファントム10の温度分布や温度分布の時間変化を出力することができる点は、第1実施形態、第2実施形態と同じである。
【0055】
第3実施形態の利点は、校正用の感温ファントムを別途用意する必要がないことである。第1実施形態、第2実施形態においては、熱電対によって、感温ファントムが侵襲されてしまうため、評価用に別途感温ファントムを用意する必要があった。しかし、第3実施形態においては、感温ファントムによる校正終了後、感温ファントムを入れ替える必要なく、評価に移行することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14(a)】
図14(b)】
図14(c)】
図15
図16