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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171452
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】微粒子識別装置及び微粒子識別方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/14 20060101AFI20221104BHJP
   G01N 21/53 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
G01N15/14 B
G01N21/53 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078102
(22)【出願日】2021-04-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度独立行政法人環境再生保全機構 環境研究総合推進費「地球温暖化に関わる北極エアロゾルの動態解明と放射影響評価」による委託研究業務 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109221
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 充広
(74)【代理人】
【識別番号】100171848
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 裕美
(72)【発明者】
【氏名】茂木 信宏
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB09
2G059DD12
2G059EE01
2G059EE02
2G059GG01
2G059HH02
2G059JJ19
2G059KK01
2G059KK03
2G059LL01
2G059MM01
2G059MM03
2G059MM17
(57)【要約】
【課題】粒子軌道に対してビームウエストの位置を適正化して適切な複素散乱振幅の取得を可能にする微粒子識別装置を提供すること。
【解決手段】微粒子識別装置は、フローセルに流れる微粒子を識別する微粒子識別装置であって、フローセルに照射されるレーザービームを射出するレーザー照射器22と、レーザービームを収束させてビームウエストを形成する光学系30と、ビームウエストより後方に配置されて光強度を検出する少なくとも2つの検出器を有する光強度検出装置41と、光強度検出装置により検出された光強度に基づいて微粒子の識別を行なう制御装置90と、を備え、制御装置90は、光強度検出装置により検出された光強度に相当する計測信号から得た複数の所定波形特性に基づいて、フローセル内の粒子の光軸方向の位置、及びビームウエストサイズが所定範囲内で任意として、微粒子の複素散乱振幅を導出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定流路に沿って流れる微粒子を識別する微粒子識別装置であって、
前記所定流路に照射されるレーザービームを射出するレーザー照射器と、
前記レーザービームを収束させてビームウエストを形成する光学系と、
前記ビームウエストより後方に配置されて光強度を検出する少なくとも2つの検出器を有する光強度検出装置と、
前記光強度検出装置により検出された光強度に基づいて微粒子の識別を行なう制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記光強度検出装置により検出された前記光強度に相当する計測信号から得た複数の所定波形特性に基づいて、前記所定流路内の微粒子の光軸方向の位置、及びビームウエストサイズが所定範囲内で任意として、前記微粒子の複素散乱振幅を導出する、微粒子識別装置。
【請求項2】
前記所定流路は、フローセルによって形成される、請求項1に記載の微粒子識別装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記微粒子の複素散乱振幅を導出する際に、前記フローセルに流す媒質の屈折率、及び前記媒質の厚さが所定範囲内で任意であるとする、請求項2に記載の微粒子識別装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記フローセルに多数の試験微粒子を流すことによって得られる前記計測信号から得られる前記複数の所定波形特性の分布パターンから前記フローセルの流路中心に前記ビームウエストが形成されているか否かを判定し、
前記制御装置は、前記フローセルの前記流路中心に前記ビームウエストが形成されていると判定した場合に、被検微粒子をフローセルに供給して、前記被検微粒子の複素散乱振幅を決定する、請求項2及び3のいずれか一項に記載の微粒子識別装置。
【請求項5】
前記複数の所定波形特性は、前記光強度検出装置により検出された全体的な光強度の波幅及び波高に対応する値を含む、請求項4に記載の微粒子識別装置。
【請求項6】
前記光強度検出装置は、前記レーザービームから分離した参照用レーザービームの光強度を検出する参照用検出器をさらに備え、
前記制御装置は、前記光強度検出装置により検出された全体的な光強度として、前記少なくとも2つの検出器により検出された前記計測信号の総和から前記参照用検出器により検出された参照光強度の計測信号を減じたものを用いる、請求項5に記載の微粒子識別装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記ビームウエストの前記ビームウエストサイズを、前記所定流路に多数の前記試験微粒子を流して得られる前記計測信号から得られる前記複数の所定波形特性に基づいて推定し、推定したビームウエストサイズが適正であるか否かを判定する、請求項1~6のいずれか一項に記載の微粒子識別装置。
【請求項8】
前記所定流路に前記被検微粒子を流して計測される前記計測信号から得られる前記複数の所定波形特性に基づいて、前記被検微粒子の複素散乱振幅を決定する、請求項1~7のいずれか一項に記載の微粒子識別装置。
【請求項9】
前記光強度検出装置は、前記光学系の光軸に垂直で前記所定流路に沿って微粒子が流れる第1方向に配列される一対の検出器と、前記光学系の光軸と前記第1方向とに垂直な第2方向に配列される一対の検出器とを有し、
前記制御装置は、前記第1方向に配列される一対の検出器によって計測される前記計測信号の差分と、4つの前記検出器によって計測される前記計測信号の総和の対応する値とに基づいて、前記被検微粒子の複素散乱振幅の実部と虚部とを計算する、請求項1~8のいずれか一項に記載の微粒子識別装置。
【請求項10】
前記被検微粒子の複素散乱振幅の計算は、前記所定流路に沿って流れる微粒子が局所的な平面波に照射され、前記球面波の散乱光を発生させる干渉モデルに基づく電場理論式を用いて計算される、請求項9に記載の微粒子識別装置。
【請求項11】
前記電場理論式は、前記複数の所定信号特性の他に、前記所定流路から前記4つの検出器までの距離、及び前記4つの検出器における散乱波の波面曲率半径に関連する機器パラメーターを含み、
前記制御装置は、非線形方程式の反復解法を用いて前記被検微粒子の複素散乱振の実部と虚部とを計算する、請求項10に記載の微粒子識別装置。
【請求項12】
所定流路に沿って流れる微粒子を識別する微粒子識別方法であって、
レーザービームを収束させてビームウエストを形成し、
前記ビームウエストより後方における光強度を少なくとも2つの検出器によって検出し、
前記2つの検出器により検出された前記光強度に相当する計測信号から得た複数の所定波形特性に基づいて、前記所定流路内の微粒子の位置、及びビームウエストサイズが所定範囲内で任意として、前記微粒子の複素散乱振幅を導出する、微粒子識別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子の識別を可能にする情報を取得することができる微粒子識別装置及び微粒子識別方法に関し、特にフローセルに流れる微粒子について情報を取得することができる微粒子識別装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子識別装置として、収束させたレーザー光の入射波と、そのビームを横断する粒子による散乱波との干渉が作り出す、前方方向における光強度の空間分布を観測することにより、散乱波の振幅及び位相を同時に測定するSPES法と呼ばれるものが研究されている(非特許文献1)。このSPES法では、粒子がレーザーを横断する際の測定光強度の時間波形から、入射波に対する散乱波の振幅及び位相と等価な情報を含み粒子の特性を表す複素散乱振幅が得られる。光強度検出装置として4分割された検出領域を有し、2つの検出領域をフローセルにおいて微粒子が流れる第1方向に配列し、残りの2つの検出領域を第1方向とに垂直な第2方向に配列する提案もなされている(特許文献1)。
【0003】
これまでのSPES法では、粒子軌道がビームウエストの位置を横切るという前提で複素散乱振幅を評価している。つまり、粒子軌道がビームウエストの位置から光軸方向にずれることを想定したものとなっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】"Measuring the complex field scattered by single submicron particles", Marco A. C. Potenza, Tiziano Sanvito, Albert Pullia1, AIP Advances 5, 117222 (2015)
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2020/067149号
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、粒子軌道に対してビームウエストの位置を適正化して適切な複素散乱振幅の取得を可能にする微粒子識別装置及び微粒子識別方法を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る微粒子識別装置は、所定流路に沿って流れる微粒子を識別する微粒子識別装置であって、所定流路に照射されるレーザービームを射出するレーザー照射器と、レーザービームを収束させてビームウエストを形成する光学系と、ビームウエストより後方に配置されて光強度を検出する少なくとも2つの検出器を有する光強度検出装置と、光強度検出装置により検出された光強度に基づいて微粒子の識別を行なう制御装置と、を備え、制御装置は、光強度検出装置により検出された光強度に相当する計測信号から得た複数の所定波形特性に基づいて、所定流路内の微粒子の光軸方向の位置、及びビームウエストサイズが所定範囲内で任意として、微粒子の複素散乱振幅を導出する。ここで、微粒子は、固体に限られるものではなく、例えば液体粒子を含む。
【0008】
上記微粒子識別装置では、制御装置がフローセル内の微粒子の光軸方向の位置、及びビームウエストサイズが所定範囲内で任意として微粒子の複素散乱振幅を導出するので、例えばフローセル内の微粒子の光軸方向の位置がビームウエストの位置からずれていても、このようなずれを修正した状態で所定波形特性を取得することができ、各微粒子について、より正確な複素散乱振幅を決定することができ、液体中の固体その他の微粒をより適正に判別することができる。
【0009】
本発明の具体的な側面によれば、所定流路は、フローセルによって形成される。この場合、微粒子の流路を正確に規定することができる。
【0010】
本発明の別の側面によれば、制御装置は、微粒子の複素散乱振幅を導出する際に、フローセルに流す媒質の屈折率、及び媒質の厚さが所定範囲内で任意であるとする。この場合、検査対象の微粒子の変更等に柔軟に対処した計測が可能となる。
【0011】
本発明のさらに別の側面によれば、制御装置は、フローセルに多数の試験微粒子を流すことによって得られる計測信号から得られる複数の所定波形特性の分布パターンからフローセルの流路中心にビームウエストが形成されているか否かを判定し、制御装置は、フローセルの流路中心にビームウエストが形成されていると判定した場合に、被検微粒子をフローセルに供給して、被検微粒子の複素散乱振幅を決定する。フローセルの流路中心にビームウエストが形成されている場合、決定される複素散乱振幅の信頼度が高まると考えられる。
【0012】
本発明のさらに別の側面によれば、複数の所定波形特性は、光強度検出装置により検出された全体的な光強度の波幅及び波高に対応する値を含む。この場合、複数の所定波形特性を、フローセル内の微粒子の光軸方向の位置がビームウエストの位置からずれている程度等を反映したものとすることができるので、複数の所定波形特性の分布パターンからフローセルの流路中心にビームウエストが形成されているか否かの判定が容易になる。
【0013】
本発明のさらに別の側面によれば、光強度検出装置は、レーザービームから分離した参照用レーザービームの光強度を検出する参照用検出器をさらに備え、制御装置は、光強度検出装置により検出された全体的な光強度として、少なくとも2つの検出器により検出された計測信号の総和から参照用検出器により検出された参照光強度の計測信号を減じたものを用いる。これにより、レーザー照射器等に起因するレーザービームのノイズや揺らぎの影響を緩和することができる。
【0014】
本発明のさらに別の側面によれば、制御装置は、ビームウエストのビームウエストサイズを、所定流路に多数の試験微粒子を流して得られる計測信号から得られる複数の所定波形特性に基づいて推定し、推定したビームウエストサイズが適正であるか否かを判定する。この場合、試験微粒子のサイズに対してビームウエストサイズを適正に設定することができ、複素散乱振幅の算出値の信頼性を確保することができる。
【0015】
本発明のさらに別の側面によれば、所定流路に被検微粒子を流して計測される計測信号から得られる複数の所定波形特性に基づいて、被検微粒子の複素散乱振幅を決定する。例えば所定流路(具体的にはフローセル内の流路)に対してビームウエストの位置を修正した状態で所定波形特性を利用すれば、各微粒子について信頼度の高い複素散乱振幅を決定することができる。
【0016】
本発明のさらに別の側面によれば、光強度検出装置は、光学系の光軸に垂直で所定流路に沿って微粒子が流れる第1方向に配列される一対の検出器と、光学系の光軸と第1方向とに垂直な第2方向に配列される一対の検出器とを有し、制御装置は、第1方向に配列される一対の検出器によって計測される計測信号の差分と、4つの検出器によって計測される計測信号の総和の対応する値とに基づいて、被検微粒子の複素散乱振幅の実部と虚部とを計算する。第1方向に配列される一対の検出器によって計測される計測信号の差分は、微粒子がビームウエストを横切る際に正のピークと負のピークとを示し、複素散乱振幅の実部だけでなくその虚部に応じて変化するものであり、被検微粒子を特定する観点で極めて重要である。
【0017】
本発明のさらに別の側面によれば、被検微粒子の複素散乱振幅の計算は、所定流路に沿って流れる微粒子が局所的な平面波に照射され、球面波の散乱光を発生させる干渉モデルに基づく電場理論式を用いて計算される。
【0018】
本発明のさらに別の側面によれば、電場理論式は、複数の所定波形特性の他に、所定流路から4つの検出器までの距離、及び4つの検出器における散乱波の波面曲率半径に関連する機器パラメーターを含み、制御装置は、非線形方程式の反復解法を用いて被検微粒子の複素散乱振の実部と虚部とを計算する。
【0019】
本発明に係る微粒子識別方法は、所定流路に沿って流れる微粒子を識別するものであって、レーザービームを収束させてビームウエストを形成し、ビームウエストより後方における光強度を少なくとも2つの検出器によって検出し、2つの検出器により検出された光強度に相当する計測信号から得た複数の所定波形特性に基づいて、所定流路内の微粒子の位置、及びビームウエストサイズが所定範囲内で任意として、微粒子の複素散乱振幅を決定する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の微粒子識別装置の構成を説明するブロック図である。
図2】フローセルにおけるレーザー光の状態を説明する側方断面図である。
図3】観測光検出装置を構成する4つの検出器の配置を説明する図である。
図4図3に示す検出器が出力する計測信号から得られる波形を説明する図である。
図5】微粒子識別装置の動作について説明する図である。
図6】フローセルの相対位置を変えた場合のWFA(T-R)及びWFA(A-C)の関係を示す図である。
図7図6と同じデータセットについてのWFW(T-R)及びWFA(T-R)の関係を示す図である。
図8】WFA(A-C)及びWFA(T-R)の系統的誤差を説明する図である。
図9】2つの異なる条件の間で、サンプルの複素散乱振幅Sの実数部と虚数部とのヒストグラムを比較するものである。
図10】PS球とシリカ球について測定されたS値を理論的なS値とともに複素平面上にプロットしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照しつつ、本発明に係る微粒子識別装置又は微粒子識別方法の具体的な実施形態について説明する。
【0022】
[1.微粒子識別装置の構成]
図1は、実施形態の微粒子識別装置100の構成の概略を説明する図である。実施形態の微粒子識別装置100は、自己参照干渉計であり、レーザー光LBを照射するレーザー照射器22と、レーザー照射器22からのレーザー光LBをフローセル10の照射領域に導いたり参照光RBを分岐する光学系30と、微粒子を含む試料水が所定の流量で供給されるフローセル10と、フローセル10から見てレーザー光LBの進行方向側に配置された観測光検出装置41と、参照光RBを検出する参照光用センサー51と、フローセル10を支持して配置を調整するセルステージ61と、観測光検出装置41を支持して配置を調整するセンサーステージ62と、微粒子を含む試料水の供給装置71と、装置全体を制御する制御装置90とを備える。
【0023】
レーザー照射器22は、フローセル10に照射すべきレーザー光LBとして、理想的なガウシアンモードのレーザービーム又はこれに近似できるレーザービームを出射する。具体的には、例えば波長0.6328μmの直線偏光を出射するHeNeレーザーを用いることができる。レーザービームのビームパワーは約2mWであり、TEM00モードの純度は少なくとも95%である。レーザー照射器22に付随してレーザー照射器22に規定の動作を行わせる照射駆動回路23が設けられている。照射駆動回路23は、制御装置90の制御下で動作し、レーザー照射器22の動作状態を監視し、その動作状態を制御装置90にフィードバックする。
【0024】
光学系30は、反射光がレーザー照射器22に戻るのを防止するための光アイソレーター31と、観測光L1と参照光L2とのビーム分割比を制御するために回転マウントに搭載された1/2波長板32と、観測光L1と参照光L2とを分割する偏光ビームスプリッタ33と、偏光ビームスプリッタ33からの観測光(コリメートビーム)L1のビーム径を拡大するビームエキスパンダー34と、ビーム径が拡大された観測光L1を収束させる集光レンズ35とを備える。偏光ビームスプリッタ33によって分岐された参照光L2は、参照光用センサー51に入射する。ビームエキスパンダー34は交換可能とした。具体的には、倍率が×2、×10、×20の3つのビームエキスパンダー(それぞれThorlabs社製、GBE2-A、GBE10-A、GBE2O-A)のいずれかを、約2~20μmの範囲内で目標とするビームウエスト径すなわちビームウエストサイズω0を達成するように選択した。集光レンズ35は、焦点距離50mmの回折限界非球面レンズ(Thorlabs社製、AL2550G-A)を使用してビーム焦点を形成した。本装置では、フローセル10中に形成される集光スポット近傍の電場の空間分布も理想的なガウシアンビームで近似できることが必要であるため、集光レンズ35には、ストレール比が値1に近い無収差性能が求められる。
【0025】
フローセル10は、溶融石英ガラスで形成され、観察領域において一対の平行平板11,12を含むチューブ状のフローセル(Japan Cell製)である。フローセル10の観察領域における流路すなわちチャネルFCは、一対の平行平面に挟まれたものとなっている。フローセル10のガラス壁の厚さlgとチャネルFCの半分の厚さlwは、それぞれlg=1.5mmとlw=25μmであった。ガラス壁材料(すなわち、溶融石英)及び作業流体(すなわち、水)の波長λ=0.6328μmでの屈折率は、それぞれng=1.453及びnw=1.33154であるとした。フローセル10の観察領域において、微粒子を含む試料水の平均流速vmeanは、約0.2ms-1に維持された。
【0026】
観測光検出装置41は、観測光L1の強度を検出するものであり、4分割された4つの検出器、具体的には4つのフォトダイオードSA~SD(OSI Optoelectronics社製、PIN-SPOT-9DMI)により構成されている。観測光検出装置41に付随してフォトダイオードSA~SDに検出動作を行わせるセンサー駆動回路42が設けられている。センサー駆動回路42は、制御装置90の制御下で動作し、4つのフォトダイオードSA~SDからの検出信号をデジタル化したデータを制御装置90に出力する。
【0027】
参照光用センサー51は、観測光L1の強度を検出するものであり、観測光検出装置41を構成する4つのフォトダイオードSA~SDとノイズ特性を一致させるため、受光感度と端子間容量とがフォトダイオードSA~SDと略同一のもの(例えばOSI Optoelectronics社製、PIN-6D)を用いるのが好ましい。参照光用センサー51に付随して参照光用センサー51に検出動作を行わせるセンサー駆動回路52が設けられている。センサー駆動回路52は、制御装置90の制御下で動作し、参照光用センサー51からの検出信号をデジタル化したデータを制御装置90に出力する。
【0028】
セルステージ61は、制御装置90の制御下で動作する。セルステージ61は、フローセル10の観察領域が光軸AX上に配置されるように、xy面に平行なx方向やy方向に沿ってフローセル10を粗動させ或いは微動させることができる。また、セルステージ61は、フローセル10の観察領域がビームウエストに配置されるように、光軸AXに平行なz方向に沿ってフローセル10を粗動させ或いは微動させることができる。具体例では、ステッピングモーター駆動の線形平行移動ステージ(Thorlabs社製,LNR25ZFS)を使用して、後に詳述するzf値を、十分な精度と再現性(<約0.5μm)で変更できるようにした。
【0029】
センサーステージ62は、制御装置90の制御下で動作する。センサーステージ62は、観測光検出装置41の検出面である4つのフォトダイオードSA~SDが適正な位置に配置されるように、観測光検出装置41をx方向、y方向、及びz方向に沿って3次元的に移動させることができる。
【0030】
供給装置71は、ペリスタルティック・ポンプを備え、樹脂製チューブ(Tygon(商標)チューブ)を介して、フローセル10のチャネルFCに所定流量の微粒子を含む試料水を供給する。これにより、フローセル10の観察領域において微粒子を含む試料水の流速を目標値に設定することができる。供給装置71は、微粒子を含む試料水として、〔1〕初期設定用の試験微粒子を含むものと、〔2〕測定目的の対象である被検微粒子を含むものとを供給する。
【0031】
制御装置90は、演算処理装置及び周辺機器を備えるコンピューターであり、具体的には、CPU91、記憶装置92、入力装置93、出力装置94、通信装置95等を備える。制御装置90は、記憶装置92に保管されたアプリケーションソフトに従って動作し、微粒子識別装置100を適正な初期状態に設定し、入力装置93を介して入力されたオペレーターの指示に応じて動作する。測定に際して、制御装置90は、セルステージ61によってフローセル10を適正な位置に配置し、供給装置71によってフローセル10に被検微粒子等を含む試料水を供給する。また、制御装置90は、レーザー照射器22を動作させつつ、観測光検出装置41のセンサー駆動回路42から出力される計測値を取り込み、参照光用センサー51のセンサー駆動回路52から出力される計測値を取り込む。
【0032】
図2は、フローセル10におけるレーザー光LB又は観測光L1の状態を説明する側方断面図である。レーザー光LBは、真空波長λで、TEM00モードの集束ガウシアンビームである。レーザー光LBは、空気中にガラス製のフローセル10を配置した状態で、空気中の+z方向に伝搬している。レーザー光LBは、ビームウエストにおいて光線径が絞られてビームウエストサイズがω0となっている。以下では、ビームウエストサイズω0をスポットサイズとも呼ぶ、ビームを横切って移動する個々の微粒子PAの軌道は、x軸に平行であると想定される。本明細書において、座標系O(xyz)の原点は、フローセル10がない場合のビームウエスト中心位置として定義される。微粒子PAの位置は、rpであり、x方向に速度vで移動する。フローセル1を通過したレーザー光LBは、観測光検出装置41の検出面41aに入射する。検出面41aは、z方向に関して位置z=zpdに配置され、入射ビーム場と散乱ビーム場とを重ね合わせたものを計測する。詳細は後述するが、レーザー光LBは、近似的には、ビーム輪郭LBcが最も細くなるビームウエスト付近では平面波としてふるまい、ビームウエストより遠方では、ビームウエストから広がる球面波としてふるまうとして扱うことができる。つまり、レーザー光LBのビームウエスト付近の断面内に存在する微粒子PAは局所的な平面波により励起される。微粒子PAの後方に球面波(具体的には波面WFsとして示す)として広がる遠方散乱場のうち、前方方向の有限立体角内で球面状に広がるガウスビーム入射波と波数ベクトルとが一致し共通する偏光成分をもつものが、入射波(具体的には波面WFiとして示す)の入射場と干渉する。散乱場の波源位置(微粒子PAの位置)及び微粒子PAの複素散乱振幅で決まる散乱波の位相と振幅とに応じて、前方方向の有限立体角内に置かれた検出面41a上では異なる干渉強度分布が観測される。
【0033】
[2.微粒子識別方法の基本]
フローセル10のチャネルFCのz方向の中央をフローセル位置zfとした場合、詳細は後述するが、フローセル位置zfは、以下の式(E1)で規定される範囲内に設定されることが計測の前提となっている。
ここで、lgは、フローセル10の本体ガラスのz方向の厚みであり、lwは、流路すなわちチャネルFCのz方向の厚みの半分(媒質の厚さの半分)であり、naは、空気の屈折率であり、ngは、本体ガラスの屈折率であり、nwは、チャネルFCを流れる媒質の屈折率である。
【0034】
特に、フローセル位置zfは、ビーム径ω(z)が最も小さくなっている位置に相当するビームウエストが流路中心(すなわちチャネルFCのz方向の中心)にあるようなものであることが望ましく、具体的には、以下の式(E2)で規定される最適値zf0に設定されることが望ましい。
【0035】
図3は、観測光検出装置41を構成する4つの検出器の配置説明する図である。第1フォトダイオードSAは、フローセル10の流れ方向に平行な第1方向であるx方向と、フローセル10の流れ方向に垂直な第2方向であるy方向とに対して45度をなして直交する2直線により分割される4分割平面のうち、フローセル10の流れの上流側に位置する領域に配置されており、残りの第2~第4フォトダイオードSB~SDは、第1フォトダイオードSAが配置された領域から観測光の進行方向から見て時計回りに、順番に配置されている。すなわち、フローセル10の流れの上流側(x軸のマイナス側)に第1フォトダイオードSAが配置され、下流側(x軸のプラス側)に第2フォトダイオードSCが配置され、紙面右側(y軸のマイナス側)に第2フォトダイオードSBが配置され、紙面左側(y軸のプラス側)に第4フォトダイオードSDが配置されている。観測光検出装置41では、ビーム断面全体を観測する必要から、発散ガウシアンビームであるレーザー光LBのビーム径ω(zpd)(具体的には最大強度の1/e2)が検出面41aの直径よりも若干小さくなるようにビームウエストから検出面41aまでの距離を調節する。必要以上に距離を近づけることは、観測対象ではない散乱光の混入が大きくなるだけなので望ましくない。本実施形態では、集光レンズ35の焦点距離として50mmを用いたときにこの距離を40mmとした。
【0036】
観測光検出装置41の4つのフォトダイオードSA~SDと、参照光用センサー51とにより検出される計測信号を、それぞれ光強度Pext(A)~Pext(D),Pext(R)とし、これらの経時的変化に伴う波形特性を制御装置90によって評価し、微粒子PAの識別に利用する。
【0037】
図4は、図3に示す第1~第4フォトダイオードSA~SD等によって得られる信号に対して、制御装置90において演算処理を行って得られる波形WV1,WV2を説明する図である。図示のチャートにおいて横軸ξは、詳細な定義については後述するが、微粒子PAのx方向の位置xpを無次元化したものであり、微粒子PAの速度等に基づいて時間から換算される。制御装置90は、得られた光強度Pext(A)~Pext(D),Pext(R)に基づいて、消散パワーを反映する3つの独立した波形Pext(A-C)/Pinc、Pext(B-D)/Pinc,Pexts(T-R)/Pincを取得し、それらの経時的な変化から計測信号としての波形WV1,WV2を計算する。なお、Pext(B-D)/Pincは、本実施形態において粒子識別に用いないこともあり、図示を省略している。。
【0038】
以上において、計測信号Pext(A-C)は、観測光検出装置41の上下の一対領域(第1及び第3フォトダイオードSA,SC)で検出される光強度Pext(A),Pext(C)の差分であり、具体的には、Pext(A)-Pext(C)で与えられる。また、計測信号Pext(B-D)は、左右の一対領域(第2及び第4フォトダイオードSB,SD)で検出される光強度Pext(B),Pext(D)の差分であり、具体的には、Pext(B)-Pext(D)で与えられる。計測信号Pextsc(T-R)は、第1~第4フォトダイオードSA~SDの検出値の総和から参照光用センサー51の検出値を差し引いたものであり、具体的には、Pext(A)+Pext(B)+Pext(C)+Pext(D)-Pext(R)で与えられる。計測信号Pincは、粒子が存在しない場合における第1~第4フォトダイオードSA~SDの検出値の総和を示す。波形Pext(A-C)、Pext(B-D)等をPincで割ることにより、規格化された信号波形を得ることができる。
【0039】
制御装置90は、両波形WV1,WV2について特性値又は特性パラメーターを決定する。具体的には、計測信号Pext(A-C)/Pincと計測信号Pextsc(T-R)/Pincとのそれぞれについて、波形振幅(WFA)と波形幅(WFW)を定義する。2つの観測パラメーター(WFA,WFW)は、観測された信号波形から簡単に抽出できる特性値のセットとみなされる。波形特性WFA(A-C)は、波高を反映するものであり、Pext(A-C)/Pinc(ξ+)-Pext(A-C)/Pinc(ξ-)の1/2倍によって定義される。ここで、ξ-及びξ+は、負および正のξ領域のそれぞれにおけるPext(A-C)/Pinc(ξ)の極値点である。波形特性WFW(A-C)は、波幅を反映するものであり、2つの極値点ξ+及びξ-間の距離である。波形特性WFA(T-R)は、波高を反映するものであり、波形の谷の深さ-Pextsc(T-R)/Pinc(ξ=0)によって定義され、常に正である。波形特性WFW(T-R)は、波幅を反映するものであり、-Pextsc(T-R)/Pinc(ξ)波形の半値全幅(FWHM)によって定義される。WFAとWFWとは、微粒子PAの通過に伴う各検出イベントで観測された信号波形から計算される。単一の微粒子PAのWFAおよびWFWは、複素散乱振幅Sを推定するためのデータ反転を含む各種解析に使用することができる。単一の微粒子PAについてPext(A-C)/PincやPextsc(T-R)/Pincを推定する理論的なシミュレーションが可能であり、観測される波形特性WFAとWFWとをシミュレーションによって決定することができる。理論的上、ξ=0のWFAをζ依存のアーティファクトのない「理想的な」WFAとする。なお、多数の既知の微粒子について得たWFA(T-R)とWFW(T-R)との組み合わせは、ビームウエストの位置がフローセル10のチャネルFCの中央にあるか否か、つまりξ=0であるか否かを判定する基準とすることができ、ビームウエストの位置ずれの方向や程度を判定する判断材料として用いることができる。
【0040】
上記した波形特性又はデータであるWFAから、検出された個々の微粒子の複素散乱振幅Sを決定するためのデータ反転方法すなわち反転アルゴリズムについて説明する。波形特性WFAは、zRwが流路媒質中でのレイリー長であるとして、最適化された条件|zf-zf0|/zRw≒0で取得されたと想定している。検出された粒子のζ座標は、ζ=0の周りに分布するため、Pext(A-C)/PincおよびPextsc(T-R)/Pincの観測された信号波形は、ζ=0でのそれらの理論式から、レイリー長をzRaとし、ReSを複素散乱振幅Sの実部とし、ImSを複素散乱振幅Sの虚部とし、以下の式(E3)及び(E4)で表すことができる。
ここで、η=0は、微粒子のy座標が0であることを意味する。δは、検出面41aの位置zpdの逆数に比例し、δ≡zRa/zpdで与えられる無次元の機器パラメーターであり、εは、位置zpdでの散乱波面の曲率半径の理想条件からのズレΔzpdに比例し、位置zpdの逆数に比例し、ε≡Δzpd/zpdで与えられる無次元の機器パラメーターである。また、D()はDawson関数である。これらの理論波形のWFAは、以下の式(E5)及び(E6)によって与えられる。
ここで、Pext(A-C)/Pinc波形の対称性を利用し、正の極値ξ+のみを使用して理論上のWFA(A-C)を記述している。
上記式(E5)及び(E6)は、取得された一対のデータである波形特性WFA(A-C)及びWFA(T-R)を与えるようなReSとImSとについての非線形方程式であり、後述する反転アルゴリズムによって、ReSとImS、つまり複素散乱振幅Sの実部と虚部とを決定することができる。
【0041】
具体的な装置では、センサー駆動回路42として、3dBのカットオフ周波数約1MHzの自作アナログ電子回路を使用して、各フォトダイオードセグメントからの光電流信号の差動増幅を実行した。また、14ビットの分解能と2.5MHzのサンプリングレートを備えたデジタイザー(NI社製,PCI-6133)を使用して、得られた元の波形を制御装置90であるデスクトップコンピューターに継続的にインポートした。次に、トリガー基準の適切なセットに従って、個々の単一粒子信号波形が元の波形(最大100個の粒子s-1)から抽出された。実験と理論とをより詳細に比較するために、詳細は後述する|η|<約0.2の粒子検出イベントのみを選択した。その際、Pext(B-D)/Pincの波形のピーク振幅は、Pext(A-C)/Pincの波形のピーク振幅の0.5倍未満とした。Pext(B-D)/Pinc信号は、イベントフィルタリング操作にのみ使用された。
【0042】
反転アルゴリズムでは、ニュートン法を用いた反復計算によって上記式(E5)及び(E6)を解く。ニュートン法では、初期推定から微分値を用いて解を漸次修正する。この際、複素散乱振幅Sに依存するパラメーターξ+も各反復における現在の複素散乱振幅Sの推定値に従って更新されるようにする。この反転アルゴリズムは、ζ≒0付近で検出された粒子の統計的ζ分布を、導出された真値に近いReSおよびImS値の2次元分布において連続的にマッピングするように設計された。以下の表1は計算手順全体の概要を示す。
【表1】
【0043】
<ビームウエストでのスポットサイズの推定>
この推定では、上述した式(E5)及び(E6)によって与えられるデータ又は波形特性WFA(A-C)及びWFA(T-R)に関して、シミュレーションデータと実験データとの間の最良の一致を数値的に見つける。具体的には、平均二乗残差誤差(MSRE)の最小値を与えるようなポットサイズすなわちビームウエストサイズω0を見つける。
ここで、黄金分割探索法を使用し、式(E7)中の各角括弧は、単一微粒子についてのデータ点のシミュレートされた(下付き文字「sim」)又は測定された(下付き文字「mea」)算術平均を示す。以下の表2はω0を推定する手順を示す。
【表2】
【0044】
[3.微粒子識別装置で実行される測定方法]
図5を参照して、微粒子識別装置100の動作について説明する。予め、光学系30を構成する光学要素の調整等によって、レーザー光LBのビームウエストサイズω0について初期設定を行う(ステップS11)。この際、フローセル10に流す流体の屈折率やフローセル10の流路厚は、対象流体やセル構造から得られる既定値として、予め入力される。
【0045】
次に、フローセル10をセルステージ61にセットし、セルステージ61を適宜動作させことによってフローセル位置を調整し、フローセル10の流路すなわちチャネルFC中にビームウエストが配置されるように初期位置にセットする(ステップS12)。つまり、式(E1)を満たすようにフローセル位置zfが調整される。フローセル10に対するビームウエストの位置は、目視や画像の観察によって可能であるが、フローセル10の周辺に画像センサーを配置することによっても計測することができる。
【0046】
フローセル10が初期位置にセットされた状態で、フローセル10にチェック用の試験微粒子を供給しつつ、観測光検出装置41の4つのフォトダイオードSA~SDを計測し、評価値である観測パラメーター又は波形特性WFA(A-C)、WFA(T-R)、WFW(T-R)等を決定する(ステップS13)。波形特性WFA(A-C)、WFA(T-R)、WFW(T-R)等は、多数の試験微粒子について個別に計算され、WFA(A-C)、WFA(T-R)等を一組とするデータクラスターを得ることができる。
【0047】
次に、ステップS13で得たデータクラスターについてエラー評価を行う(ステップS14)。データクラスターについてのエラー評価は、後に詳述する波形特性WFA(T-R)、WFW(T-R)、及びζの散布図から統計的に判断することができる。多数の試験微粒子について得たWFA(T-R)とWFW(T-R)との組み合わせは、例えば散布図としてマッピングされ、そのデータクラスターの分布パターンが馬蹄型であるときは、ビームウエストの位置がフローセル10のチャネルFCの中央からずれており、データクラスターの分布パターンが直線的であるときは、ビームウエストの位置がフローセル10のチャネルFCの中央にあると考えられる。さらに、馬蹄型の分布パターンにおいて、馬蹄型の分布パターンの幅つまりWFA(T-R)の数値範囲の広がり程度に対応するものとして、ビームウエストの光軸AX方向すなわちz方向に関する位置ずれの程度を判定することができる。
【0048】
ステップS14の判断でデータクラスターのエラー評価が許容範囲を超える場合、ステップS14のエラー評価に際して得たビームウエストの光軸AX方向に関する位置ずれの程度に基づいて、光軸AX方向に関する位置ずれを解消するようにセルステージ61を動作させてフローセル10のz位置を修正し、フローセル10にチェック用の試験微粒子を再度供給しつつ、観測光検出装置41の4つのフォトダイオードSA~SDを計測し、波形特性WFA(A-C)、WFA(T-R)、WFW(T-R)等を決定する(ステップS15)。つまり、ビームウエストの位置がフローセル10のチャネルFCの中央により近づいた状態に修正して、WFA(A-C)、WFA(T-R)、WFW(T-R)等を得る。
【0049】
ステップS14の判断でデータクラスターのエラー評価が許容範囲内に収まった場合、ビームウエストの光軸AX方向に関する位置ずれが減少し、ビームウエストの位置がフローセル10のチャネルFCの略中央にある状態となる。なお、計測信号を理論的に与える式(E3)~(E6)において、機器パラメーターεは、微粒子の位置zpの関数であるため、チャネルFCの位置zfにも依存する。よって、位置zfを最適化すると、それに応じて機器パラメーターεも修正される。
【0050】
ステップS14の判断でデータクラスターのエラー評価が許容範囲内に収まった場合、レーザー光LBのビームウエストサイズω0を、式(E7)を用いたシミュレーションによって推定する(ステップS16)。この際、ビームウエストサイズω0が試験微粒子のサイズに対して適正であったか否かを評価することができる。詳細は後述するが、ビームウエストサイズω0が試験微粒子のサイズの数倍程度以上であることが平面波散乱による近似を適合性があるものとする観点で必要である。一方、ビームウエストサイズω0が試験微粒子のサイズよりも一桁以上大きくなると試験微粒子による散乱成分が小さくなり、十分なS/N比でWFA(A-C)、WFA(T-R)等を得ることができない。ビームウエストサイズω0が適正でない場合、データクラスターの信頼性が十分とは言えず、以後に行われる本計測の信頼性も低くなると考えれる。よって、その後の本計測を中止することができるが、ステップS11に戻って、光学系30を構成する光学要素を再調整し、ビームウエストサイズω0が適正になるような修正を加えることもできる。なお、計測信号を理論的に与える式(E3)~(E6)において、機器パラメーターδは、レイリー長zRaに依存しているためω0の関数である。PS粒子等の試験微粒子を使ってω0を実験的に最適化すると、それに応じてδも修正される。つまり、オペレーターが、上記のように流路の位置zfを実験的に最適化し、かつ、ビームウエスト径ω0を実験的に最適化するだけで、機器パラメーターδやεの値が(ソフトウェア中で)自動的に更新される。
【0051】
ビームウエストサイズω0の評価後、フローセル10に目的とする被検微粒子を供給しつつ、観測光検出装置41の4つのフォトダイオードSA~SDを計測し、波形特性WFA(A-C)、WFA(T-R)、WFW(T-R)等を決定する(ステップS17)。WFA(A-C)、WFA(T-R)、WFW(T-R)等は、多数の被検微粒子について個別に計算され、WFA(A-C)、WFA(T-R)等を一組とするデータクラスターを得ることができる。
【0052】
最後に、ステップS17で得た波形特性WFA(A-C)、WFA(T-R)等を用い、式(E5)及び(E6)を利用する反転アルゴリズムによって、被検微粒子の複素散乱振幅Sの実部と虚部とを決定する(ステップS18)。この際、被検微粒子のサイズがステップS16で推定したレーザー光LBのビームウエストサイズω0に対して適正な範囲であること(数分の一以下のサイズであって、一桁を超えて小さくないこと)を確認する。ビームウエストサイズω0が適正でない場合、被検微粒子について得た複素散乱振幅Sの信頼性が低いといえる。よって、ステップS11に戻って光学系30を構成する光学要素を再調整し、ステップS12~S18の動作を繰り返し、より信頼度の高い複素散乱振幅Sを再取得することもできる。
【0053】
[4.実験]
実験結果と理論値との定量的比較を行うために、dpの公称サイズが0.3~5.0μmの範囲である12種の異なる標準ポリスチレン(PS)球(Thermo Scientific、3000および4000シリーズ)を使用した。λ=0.6328μmでのPSの複素屈折率は、1.5854+6.1764×10-7iであると仮定された。別の粒子の屈折率のデータを例示するために、dpの公称サイズが約0.5~1.6μmの範囲である3種の異なる標準シリカ球(Thermo Scientific、8000シリーズ)も使用された。λ=0.6328μmでのシリカ球の複素屈折率は、1.457+0iであると仮定された。フローセル10に供給する試料については、媒質(水)中の粒子数濃度が約108粒子cm-3未満になるように調整され、2つの連続する検出イベント間の波形オーバーラップの発生を低減した。
<微粒子のζ座標がWFAに及ぼす影響>
WFAとWFWに対する粒子軌道のz座標に相当するζ座標の影響の重要性を示し、測定誤差を最小限に抑えるためにフローセル位置zfを最適化する必要性を明らかにする。本欄では、lw/zRw>約0.1と仮定し、最適化された条件がzf=zf0であるとし、式(E1)で与えられる調整可能な範囲内のzfの関数であり、-lw/zRw<ζ<+lw/zRwの範囲内にあるζの関数として観測される(WFA,WFW)値がかなり変化するようにする。具体例によって説明するため、ω=3.34μm及びlw/zRw=0.339の機器条件で、粒子径dp=0.803μmのPSサンプルについて得られたデータセット(WFA,WFW)について説明する。
【0054】
図6は、3つの異なる値zf-zf0(-10μm,0μm,+10μm)での約1000個の微粒子に対するWFA(T-R)とWFA(A-C)の散布図を示している。図中の各矩形領域において、エラーバー付きの中抜き丸のマークは、ドット状に記載された単一微粒子のWFAデータの平均と標準偏差とを示している。左、中央、及び右の列は、それぞれ実験結果、平面波散乱理論(PW)のシミュレーション結果、及びガウスビーム散乱理論(GB)のシミュレーション結果を示している。上段の矩形領域(a)-(c)はzf-zf0=-10μmでの結果を示し、中段の矩形領域(d)-(f)はzf-zf0=0μmでの結果を示し、下段の矩形領域(g)-(i)はzf-zf0=+10μmでの結果を示している。右端の濃淡スケールは、粒子軌道のζ座標を示す。
【0055】
図6は、WFAデータのクラスターの形状が粒子軌道のζ座標に依存することを示している。WFAの平均と標準偏差はζ値の範囲によって変化する。最適なzf0からのzfの偏差は、原点ζ=0からのζの分布に対応するシフトにより、測定されたWFAの理想的なWFAからの系統的な偏差をもたらす。結果は、|zf-zf0|/zRw<約0.1がWFAの系統的誤差を最小限に抑えるようにフローセル位置zfを事前設定することが望ましいことを意味する。最適なフローセル位置zf=zf0でも、ζ分布の幅が有限であり、データが理想的なWFAの周辺で非対称に広がっているため(図6(d)-(f)を参照)、平均のWFAは、ζ=0での理想的なWFAとは異なる可能性があることに注意する必要がある。
【0056】
図7は、図6と同じデータセットについてのWFW(T-R)とWFA(T-R)の散布図を示している。表示されるWFW(T-R)値の物理単位は0.4μsで、デジタイザのサンプリング時間間隔である。WFW(T-R)は、サンプルの流量に反比例するため、ここで絶対値は重要ではない。
【0057】
図7中の各矩形領域において、WFW(T-R)は、主にzpに依存する粒子速度に応じて変化する。WFA(T-R)-WFW(T-R)平面では、|zf-zf0|/zRwの大きさに応じて、データクラスターの輪郭形状が著しく変化した。|zf-zf0|/zRw<約0.05の場合は、「単線」形状、それ以外の場合は「馬蹄形」であり、|zf-zf0|/zRwの増加に伴い「馬蹄形」が図面横方向に広がった。この経験則は、lw/zRw<<1でない限り、他のPSサイズや他の実験条件に適用できることがわかった。lw/zRw>約0.1の場合、WFA(T-R)-WFW(T-R)平面上のデータクラスターの輪郭形状は、|zf-zf0|/zRwの正確な指標であり、これは、最適位置zf0の周りの微細なzf調整にとって実際に重要である。|zf-zf0|/zRw≒0のような最適化されたzf条件の下では、WFW(T-R)値をしきい値処理することによって相対的に大きな|ζ|のデータポイントが発生することを回避することができ、WFA測定の精度と解像度をさらに向上させることができる。ただし、この実験では、簡単にするために、このようなWFW(T-R)しきい値を設定していない。
w/zRw<<1である場合、フローチャネル内の粒子のζ分布の幅は小さすぎて、他のノイズ源の存在下では、WFA(T-R)のζに依存する変動を識別できない。さらに、WFA(T-R)は、式(E1)の調整可能な範囲内でzfの関数として感知できるほど変化しない。このため、式(E1)の条件を満たすように粗いzf調整を行った後は、実際にはzfをさらに微調整する必要はない。
【0058】
<平面波散乱理論の適用性>
正確なガウスビーム散乱理論(GB)との比較を通じて、平面波散乱理論(PW)の適用性をテストした。この理論的テストの実用的な意義は、与えられた実験条件とターゲット粒子サイズ範囲の下で、測定されたWFAから粒子のS(PW)を推測するために設計されたデータ反転アルゴリズムを適用するときに平面波散乱理論の仮定を使用して十分な精度が暗に想定されることから、確認することができる。
【0059】
図8は、実験で使用した2つのω0条件(ω0=3.34~17.3μm)での粒子径dpの関数として、上記GBを想定したものと比較した上記PWを想定した単一のPS球のシミュレートされたWFA(A-C)及びWFA(T-R)の系統的誤差を、「nonabs.」として示している。同図中には、「abs.」として、実線及び点線で、単一の吸収性の球(虚数部が0.05)に対する結果も示している。左上の矩形領域は、ω0=3.34μmでの結果を示し(図8(a))、左下の矩形領域は、ω0=17.3μmでの結果を示し(図8(c))を示す。右列の図8(b)及び(d)は左列の図8(a)及び(c)を10倍に拡大したものとなっている。
【0060】
ω0=3.34μmの場合、PW仮定を使用したWFAの系統的誤差は、サブミクロンサイズ範囲のdp<約1μmで、常に±1%未満であった。ω0=17.3μmの場合、WFAの対応する系統誤差は、dp<-5μmの粒子サイズ範囲でほとんどの場合±1%未満であった。図示の例では、非吸収球についての大きなdp領域の複雑な波形構造は、入射ビームの形状に依存する球内の電磁波の共鳴に起因すると考えられる。この仮説は、粒子の屈折率の虚数部が増加するにつれて、これらの複雑な特徴が滑らかになるという事実によって裏付けられる。これらの結果から、今回の実験では、粒子径dpが3×ω0より小さい場合、PWの仮定を使用した場合の系統誤差はほとんどの場合±約1%未満であると仮定した。式(E5)及び(E6)を利用する反転アルゴリズムによって被検微粒子の複素散乱振幅Sの実部と虚部とを決定する場合において、PWを仮定するこの適用基準に違反しない限り、S(PW)をSと表記する。
【0061】
<ビームウエストでのスポットサイズの評価に関する実験>
様々な原因で波面収差が形成され、ビームウエストでのスポットサイズすなわちビームウエストサイズω0の正確な予測は簡単ではない。波面収差の要因としては、レーザー照射器22の出力ビームにおけるより高い横モードの寄与、光学部品のミスアライメント、傾斜、表面粗さ等、ガラス板を介した集束によって引き起こされる球面収差などが挙げられる。スポットサイズを評価するため、算術平均の計算には約103のデータポイントを使用した。ビームウエストω0の値は、倍率が×20、×10、及び×2のビームエキスパンダーを用いた場合に、それぞれ1.92μm、3.34μm、及び17.3μmと推定された。
【0062】
<精度と解像度>
以下では、反転アルゴリズムによって導出されたサイズ標準PS球の複素数Sのデータ(複素散乱振幅Sは、本明細書で複素数Sとも呼ぶ)を提示し、ω0及びdpのさまざまな条件間で結果を比較する。特に、複素数Sデータの精度と解像度は、lw/zRw<<1でない限り、主に無次元パラメーターlw/zRwによって制御されることを示す。
【0063】
図9は、2つの異なる条件(ω0=1.92μm(lw/zRw=1.02)とω0=3.34μm(lw/zRw=0.339))の間で、サイズdp=0.401μmのサンプルの複素数Sのデータの実数部と虚数部とのヒストグラムを比較するものである。(a)及び(b)は、ω0=1.92μm(lw/zRw=1.02)の場合を示し、(c)及び(d)は、ω0=3.34μm(lw/zRw=0.339)の場合を示す。dp=0.401±0.006μm(平均±拡張不確実性(k=2))の理論上のS値も、各矩形領域にひし形のマークで示されている。
【0064】
各ヒストグラムプロットにおいて、真の値に近い単一モードがあってテールが左に長い偏った統計分布(つまり、負の偏り)を示す。実数及び虚数のS分布の負の偏りは、それぞれの平均値に真の値からの負のシフトを引き起こすことから、実数および虚数のS値の測定で負の系統誤差が発生する。シミュレートされたノイズのないWFAを使用したデータ反転プロセスの詳細な解析により、図9に見られるような実数及び虚数のS値の負に歪んだ確率分布は、|ζ|≦lw/zRwのζドメイン内の対称的なζ分布からの非線形マッピングの結果として得られたものであることがわかる(図6(d)~(f)参照)。したがって、S分布の幅は、図9に示す実験結果から、ζ分布の幅(つまり、約2lw/zRw)とともに増加することが予測される。図9の各矩形領域において、実験WFAから得られたS分布は、シミュレートされたWFAから得られたものよりも広い。この違いは、主に検出された粒子の統計的ζ分布と取得された波形のバックグラウンドノイズとによる、実験的なWFAデータの追加の不確実性に起因すると考えられる。
【0065】
以下の表3は、すべての実験条件下で得られたサイズ標準PS球の複素数Sのデータ(ReS,ImS)の系統的誤差及びランダム誤差をまとめたものである。
【表3】
各サンプルの系統誤差とランダム誤差はそれぞれ以下のように評価された。
及び
ここで、xはReSまたはImSのいずれかであり、Xtrueはサンプルの公称粒子サイズdpの対応する理論値であり、山括弧は算術平均を示す。
【0066】
表3にリストされているシミュレートされたノイズのないWFAから導出された(ReS、ImS)データの理論的な系統的誤差及びランダム誤差は、無次元パラメーターlw/zRwが複素数Sの測定の精度と分解能の主要な制御要因であることを示唆している。測定されたWFAから得られたデータ(ReS,ImS)の系統的誤差の符号と大きさは、理論的予測に定性的に一致していた。
【0067】
ω0=1.92及び3.34μmの場合、測定ReSの系統誤差は、対応する理論上のReSの系統誤差よりも負(-5%)であって、測定ImSの系統誤差は、理論上のImSの系統誤差のより正で(約+3~-10%)あった。これらの不一致は、ビームエキスパンダー、レンズ、及びフローセルを介して蓄積されたガウスビームの波面収差が原因である可能性がある。これらの2つのケースと比較して、ω0=17.3μmの場合の系統的な不一致が小さいのは、ビーム発散角θFFが小さいため、波面収差の大きさがそれほど深刻ではないためと考えられる。
【0068】
さらに、測定されたWFAから導出されたReSおよびImSのランダム誤差は、バックグラウンドノイズからの追加の寄与を除いて、理論的予測とかなり一致していた。
【0069】
図10に、サイズ標準のPS球とシリカ球の測定されたSデータ(ReS,ImS)を、ω0=3.34および17.3μmの場合の複素平面上の理論的なS値(ReS,ImS)とともにプロットした。矩形領域(a)と(c)は、それぞれω0=3.34および17.3μmで取得されたデータセットを示している。矩形領域(b)と(d)はそれぞれ、長方形の点線で示された(a)と(c)の部分領域を拡大したものである。小さなドットの散布図は、単一粒子のデータポイントを示している。エラーバーの付いた丸のマークは、約10の単一粒子データの平均と標準偏差とを示す。トリプレットの白四角のマークは、拡張された不確実性範囲(k=2)内のdpの下限、中心、及び上限に対応する理論値(ReS、ImS)を示す。実線と破線の曲線は、それぞれPS(1.5854+6.1764×10-7i)とシリカ(1.457+0i)の屈折率を仮定した球の理論的なS曲線を示している。
【0070】
測定されたSデータの系統的誤差及びランダム誤差は表3に示されている。ω0=17.3μmの場合、各dpの測定値と理論の一致は、PSサンプルとシリカサンプルの両方で優れていた。一方、ω0=3.34μmの場合、PSサンプルとシリカサンプルの両方の|S|eの測定値と理論値との間に位相シフトΔの系統的な不一致が残る。すべての粒子サンプルに共通のΔバイアスは、前述のように、ガウスビームの系統的な波面収差の存在を意味する。
【0071】
以上の実験結果は、波面収差及びバックグラウンドノイズの機器に依存する大きさは別として、自己参照干渉計を使用したS値の測定の精度と分解能とが、両方とも主に、粒子軌道の統計的ζ分布の幅を拘束する無次元のパラメーターlw/zRwを介して決定されることを示している。比較的大きなWFWの検出イベントを除外した場合、ζに依存する誤差を小さくすることができる(図7(d)~(f)参照)。このWFWベースのフィルタリングは、lw/zRw<約1の場合にζ依存の誤差を減らすのに効果的である。幸いなことに、許容範囲内の粒子軌道のη座標の統計的分布|η|<約0.2は、S値の測定の算出誤差の原因としてはあまり重要ではない。
【0072】
[5.計測理論]
<5.1 入射ビーム場>
図2を参照して、入射ビーム場について説明する。ここでは、真空波長λで、ビームウエストサイズω0のTEM00モードの集束ガウシアンビームが、空気中、ガラス製フローセルが存在可能な状況下で、空気中の+z方向に伝搬している。ビームを横切って移動する個々の粒子の軌道は、x軸に平行であると想定される。前提となる座標系O(xyz)の原点は、フローセルがない場合のビームウエスト中心位置として定義される。ビームは、z=zpdでのビーム断面全体のパワー密度分布を監視する観測光検出装置41の検出面41aに入射する。ビーム場の説明で、スカラー場近似を使用した近軸理論は、遠方場の輻輳角θff=λ/naπω0)が約1ラジアン未満であると仮定して使用される。ここで、naは空気の屈折率である。ここでは、フローセルシステムが一対の同一のガラス板(屈折率ngで各厚lg)と作業流体又は作動流体で満たされた平面平行流路(屈折率nw、厚さ半分lw)とで構成されていると仮定する。フローセルシステムの個々の均質層の厚さは、波長よりもはるかに大きいと想定される(lg,lw>>λ)。この条件は、幾何光学的近似のフレームワーク内で理論的手法を使用して各層内の電界を正確に予測するために必要である。フローチャネルの中心位置によって定義されるフローセル位置Zfは、z変換ステージを使用してオペレーターが調整可能であり、ビームウエスト位置z0がフローチャネル内に配置されるように粗く調整されていると仮定する。ガウスビーム伝搬の光線行列法によれば、ビームウエスト位置z0は、以下の関係
を通じてフローセル位置zfに依存する。ビームウエスト位置z0は、フローセル位置zfとともにシフトする。これは、フローセルシステムを取り付けるモーター駆動のz変換用のセルステージ61を介して微調整することができる。zfの範囲は、
であり、z0がフローチャネル内に配置されるようにする。zfの最適値を次のように定義し、
ここでビームウエストは流路すなわちチャネルの中心にあるとしている。観察可能なzf-zf0の指標が利用可能でない限り、フローセルの位置zfを最適な位置zf0に十分に近づけるように調整することは簡単ではない。zf-zf0の指標については、図7等を用いて説明したように、データクラスターの輪郭形状を用いる。
【0073】
検出器の表面の任意の位置r=rpd≡(x,y,zpd)でのガウスビームの電界は、次の式で与えられる。
ここで、E0は、ビームウエストの中心での場の振幅であり、ω(z)は、zに依存するスポットサイズであり、Rbeam(z)は波面のzに依存する曲率半径であり、kaは、空気中の波数であり、φ(zpd、z0)は、層状媒体を介したz=z0からz=zpdへの伝搬中の平面波位相シフトであり、ψ(zpd、z0)は、媒体を介したz=z0からz=zpdへの伝搬中のグイ(Guoy)位相シフトである。e-iωt時間依存性は、すべての場で想定されている。ガウスビーム伝搬のレイマトリックス法によれば、Rbeam(zpd)とω(zpd)はそれぞれ次の式で与えられる。
ここで、空気中のレイリー長zRa≡naπω0 2/λ、及び、修正された検出器の位置zpd*≡zpd-Δzpdbが用いられた。
式(3)の評価では、層状媒体(m=1,2,…)を通るガウスビームのグイ(Gouy)位相シフトがψ=tan-1(ΣmΔzm/zRm)で与えられるという事実を用いる。ここで、Δzm及びzRmは、ビームウエストが第1層内にあると仮定した場合の、m番目の層の厚さ及びレイリー長である。対応する平面波の位相シフトは、ψ=ΣmmΔzmで簡単に与えられ、ここで、kmはm番目の層の波数である。
【0074】
<5.2 散乱場>
平面波散乱理論の枠組みでは、複素数Sは粒子の物理的特性からのみ決定され、媒体波長以外のビームパラメータには依存しない。このため、平面波散乱理論は、複素数Sの測定のための汎用プロトコルを構築する理論的枠組みとして魅力的である。平面波散乱理論を仮定することの妥当性を評価するには、正確なガウスビーム散乱理論を使用する必要がある。先行技術でも行われているが、[長さ]の物理的ディメンジョンを伴う複素散乱振幅Sの定義を採用した。このセクションのサブセクションにおいて、z=zpdでの散乱場は、平面波散乱理論とガウスビーム散乱理論との各フレームワーク内で定式化される。
【0075】
<平面波散乱理論>
ここでは、散乱粒子が流路内のr=rp≡(xp,yp,zp)に位置し、ガウスビームで照射されていると仮定する(図2参照)。散乱粒子の最大寸法が波面曲率半径Rbeam(zp)とビームのスポットサイズω(zp)の両方と比較して十分に小さい限り、rpの周りに局在する平面波によって散乱粒子が励起されているかのように問題を扱うことができる。単純な幾何学的解析は、局所化された平面波数ベクトルとビーム軸とによって定められた角度θが、任意のzについての領域√(x2+y2)≦ω(z)内で、最大でθFF/√2、つまり約0.1/√2未満であることを示した。ここでは、平面波散乱理論の枠組み内のSをS(PW)と表記する。これは、θFFが約0.1ラジアン未満であると想定されているため、S(PW)(θ)をS(PW)(0°)で近似し、以降は単にS(PW)と表記する。この近似は、粒子サイズが波長よりもはるかに大きくない限り正確である。
【0076】
上記の考察から、r=rpdでの散乱場は次の式で与えられる。
ここで、Rsca(z)は、散乱場の波面のz依存曲率半径であり、φ(rpd,rp)は、散乱波の位相シフトであり、次のように近似できる。
inc(rp)は、散乱粒子に入射する局所的な平面波場である。球面波伝搬の光線行列法によると、Rsca(zpd)は次の式で与えられる。
式(4)のEinc(rp)は、以下で与えられる。
ここで、波面の曲率半径Rbeam(zp)とスポットサイズω(zp)は、それぞれ次の式で与えられる。
ここで、zRwは作業流体のレイリー長、すなわちzRw≡nwπω0 2/λであり、zp*≡zp-z0は、ビームウエスト位置に対する散乱粒子の軸方向位置である。球形で均質な等方性粒子による平面波の散乱の厳密な解は、ローレンツ・ミー(Lorenz-Mie)理論(LMT)によって与えられる。単一の球状粒子の理論的なS(PW)値は、LMTの公開された数値アルゴリズムを使用して計算された。
<ガウスビーム散乱理論>
球形で均質な等方性粒子によるガウスビームの散乱の厳密な説明は、一般化ローレンツ・ミー理論(GLMT)によって与えられる。GLMTは、粒子の位置rpを中心とする座標系を使用して定式化されている。このため、GLMTの複素数Sは、以降S(GB)と表され、粒子の物理的特性に加えて、rにおける入射場の振幅と位相シフトを、ビームウエストの中心におけるそれらと比較したものとして考慮にいれている。結果として、式(4)に対応するEsca(rpd)式は、以下によって与えられる。
ここで、パラメーターS(GB)(rp)は、散乱粒子に入射する局所励起場Einc(rp)のrp依存性を暗黙的に反映する。単一の球形粒子の理論的なS(GB)(rp)値は、ガウスビームの局所モデルに従って、ビーム形状係数を計算するための公開された数値アルゴリズムを使用して計算される。
【0077】
<5.3信号パワー密度>
このサブセクションでは、rpdでの光パワー密度[Wm-2]を計算するために必要な一連の式を提示する。
ここで、|Einc2、|Esca2、2Re(Eincsca *)は、それぞれ、摂動されていないビームパワー密度、散乱パワー密度、及び干渉パワー密度である。信号成分|Einc(rpd)|2、Eincsca *(rpd)は、ビーム内の粒子位置の関数として定式化される。便宜上、ビーム内の粒子の位置について、スケーリングされた座標(ξ,η,ζ)のセットを使用する。
また、z=zpdでの観測平面上の2次元位置についてスケーリングされた座標
のセットを使用する。
【0078】
<平面波散乱理論>
ここでは、平面波散乱理論の|Esca(rpd)|2とEscainc*(rpd)の詳細な表現を導き出す。散乱パワー密度|Esca(rpd)|2の角度依存性は、光検出器の表面によって定まる立体角内では無視できると仮定する。式(4)、(5)、及び(8)から、以下を得ることができ、
ここで、Pinc=π(ω002/2は、ガウスビームの全パワー[W]であり、近似Rsca 2(zpd)≒zpd 2を使用できる。式(3)~(5)から、Escainc *(rpd)は、次のように記述できる。
ここで、3つのφ項がキャンセルされる。式(10)の2つのψ項は、ψ(zp,z0)tan-1ζ及びψ(zpd,z0)≒π/2-zRa/zpdによって与えられる。散乱場及びビームの波面の曲率半径は、zpds/zpd及びzpdb/zpdの2次以上の高次項を無視して
と近似された。これらの近似と正確な関係式
Δzpds-Δzpdb=(na/nw)zp*
及び
w(xp 2+yp 2)/[2Rbeam(zp)]=ζ(ξ2+η2
を用いることにより、式(10)は以下の式(11)に換算される。
ここで、無次元のパラメーターε≡zpds/zpd及びδ≡zRa/zpdを導入し、位相不官能振幅についての近似関係Rsca(zpd)≒zpd及びω(zpd)≒ω0pd/zRaを使用する。式(11)において、ε及びδの2次以上の高次項を無視している。Escainc*(rpd)モデルに1次までのεとδの両方を組み込むことは、実験における数値範囲で、すべての無次元パラメーター
に関して近似次数を一貫したものとするために必要となる。
【0079】
粒子の(ε,δ,ξ,)の3次元位置の関数である干渉パワー密度2Re[Escainc*(rpd)]は、式(11)を使用して評価することができる。ここで得られた|Esca(rpd)|2とEscainc *(rpd)の式は、ε=δ=ζ=0の場合のSPES法に関する以前の研究における対応する式と等価である。
【0080】
<ガウスビーム散乱理論>
次に、ガウスビーム散乱理論の場合の|Esca(rpd)|2とEscainc*(rpd)の詳細な式を導き出す。平面波散乱理論の場合と同様に、散乱パワー密度|Esca(rpd)|2は、検出器の光電面全体で均一であると仮定する。式(6)から、
を得る。式(11)と同様の手法を用いて、式(3)及び(6)からEscainc *(rpd)を簡潔化した式
を得る。ここで、無次元の機器パラメーターβ≡kwRwを導入した。
【0081】
|Esca(rpd)|2とEscain c*(rpd)の式の数値結果は、ω0/dp→∞の時の平面波散乱理論のそれらと略同等である。実際のω0/dp値に対して、平面波の式(9)及び(11)の精度は、これらのガウスビームの式と比較することによって評価することができる。
【0082】
<5.4信号波形>
観測された信号パワー[W]は、観測光検出装置41を構成する光信号検出器の検出面41a上の信号パワー密度|Esca(rpd)|2+2Re[Escainc *(rpd)]の積分である。観測光検出装置41は、粒子の移動方向(x軸)に沿って少なくとも2つの感光セグメントを持ち、光軸に関して干渉パワー密度分布の非対称成分と対称成分との両方を測定する必要があり、ここで非対称成分と対称成分とは、S(0°)の実数部と虚数部とである。さらに、粒子軌道の横方向の位置を推定するために、y軸に沿って少なくとも2つの感光セグメントを配置することが望ましい。これは、サンプル流の横方向の寸法がビームスポットサイズより大きい限り、単一粒子のS(0°)の測定に必須のパラメーターの1つである。光信号検出器のその他の要件は、測光精度の観点で、応答特性の優れた一様性と、光電面全体に対して小さなセグメント間ギャップとである。これらすべての要件を満たすために、セグメント間ギャップが無視できるほど小さい半径aの円形象限型フォトダイオード(QPD)を使用し、座標系O(xyz)の特定位置z=zpdに配置した(図3参照)。
【0083】
このQPDの方位において、QPD表面の2つの直交するセグメント間のギャップは、x軸とy軸に対して45°の方向に向けられる。後における便宜上、ビーム充填係数fを次のように定義する。
これは実験ではf≒0.5に設定される。
【0084】
|Esca(rpd)|は、θFF/f値が小さいため、QPD表面によって定められた立体角全体で一様であると仮定しているため、QPD表面全体で積分された散乱信号パワー密度Psca(Tot)は、次の式で与えられる。
【0085】
散乱パワー密度|Esca(rpd)|2とは対照的に、干渉パワー密度2Re[Escainc *(rpd)]の面積分は、その不均一性がQPD表面上に亘るため、細心の注意が必要である。図3のQPDの構成は、極座標
に対して面積分を実行するのに便利であり、これは、以下の関係式
により、デカルト座標
に関連付けられている。なお、本明細書において、半径
は、ρとも記載する。
【0086】
図3のQPDの構成によって得られた観測信号を評価するために、次の4つの量、すなわちQPDの表面全体にわたる2Re[Escainc *(rpd)]の面積分を定義する。
x軸に沿った2つのフォトダイオードセグメント(A及びC)間の面積分の差は以下となり
y軸に沿った2つのフォトダイオードセグメント(B及びD)間の面積分の差は以下となり、
そして式(15)、(16)の総和は以下となる。
QPDからの光電流信号を使用して、参考資料A(N. Moteki, "Capabilities and limitations of the single-particle extinction and scattering method for estimating the complex refractive index and size-distribution of spherical and non-spherical submicron particles," J. Quant. Spectrosc. Radiat. Transf. 243, 106811 (2020).)に記載されているように、ビームパワー正規化信号Pext(A-C)/Pinc、Pext(B-D)/Pinc、及びPextsc(Tot)/Pincを定量化できる。
【0087】
ビームパワーで正規化された信号であって、各粒子軌道に沿った粒子座標ξに対しての信号を、「信号波形」として定義する。式(16)~(18)より、信号波形の解析式は、補遺A及びBに説明するように導出された。この導出では、面積分を解析的に実行するためにη=0を仮定した。
【0088】
〔変形例その他〕
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0089】
図3では、観測光検出装置41が4つのフォトダイオードSA~SDを備えるとしたが、フォトダイオードSA,SCに相当する流路方向に並んで配置される2つの光センサーによって得た計測信号から、Pext(A-C)/PincおよびPextsc(T-R)/Pinc等、或いはWFA(A-C)およびWFW(T-R)等に相当する修正した値又は波形特性を導くことができ、対象粒子の複素散乱振幅等を決定することができる。
【0090】
図1では、フローセル10によってチャネル(流路)FCを形成しているが、所定流路が形成されればよく、フローセル10は必須のものではない。例えば中空に微粒子の流路を形成することができる。この場合も、気流を形成すれば微粒子を一定速度で移動させることができる。この際、式(E1)等において、nw=ng=1とすればよい。
【0091】
計測信号を理論的に与える式(E3)~(E6)の導出に際して、微粒子が均質で等方性を有する球形散乱体であることが前提となっていたが、各微粒子について測定される複素位相振幅を特定の3次元配向での観測値とみなすことにより、不均質で異方性を有する非球形散乱体にも適用することができる。上記実施形態の装置の場合、入射場はO(xyz)のy軸に沿って偏光されているため、パラメーターSは、複素散乱振幅行列のS22要素とみなされる。
【0092】
以上では略したが、上記実施形態の装置によって被検微試料について複素散乱振幅Sが得られた場合、かかる複素散乱振幅Sから、微粒子の種類(複数種の場合を含む)を特定することができるだけでなく、微粒子の形状や粒径に関する情報を得ることができる。
【0093】
測定の対象となる微粒子は、固体に限らず、液体、気体等であってもよい。例えば、本方法により、水中の油粒子等を識別することができ、水中のガスバブルを識別することもできる。
【0094】
<補遺A>平面波散乱理論の解析信号波形
ここでは、平面波散乱理論の解析信号波形を示す。式(9)及び(14)から、η=0での粒子軌道に沿った正規化された信号波形Psca(Tot)/Pincは、次の式で与えられる。
この式(A1)を使用し、式(19)から信号波形Pextsc(Tot)/Pincを導出する。式(11)から、η=0でのEscainc *は(rpd、次のように書き替えることができる。
ρ及びφに関して式(A2)の積分を解析的に扱いやすくするために、ρ依存項であるexp(iδρ2)及びexp[i(ζρ2-tan-1ζ)]を、次の切り捨てを行ったテイラー級数式で近似し、
及び
それぞれ、δ<<1及び|ζ|<約1と仮定している。テイラー級数展開の前に、ρに依存するexp(iζρ2)及びρに依存しないexp(-i tan-1ζ)を意図的に組み合わせることによって、これらの重要な項ζに関する切り捨て次数を統一することの重要性を強調した。式(16)、(17)、(A2)~(A4)から、波形式Pext(Tot)/PincとPext(A-C)/Pincは、次の式で与えらる。
ここで、Σ=Tot又はA-CのU(Σ)は、それぞれ解析的に積分可能な関数
及び
であり、ここで、Q(ρ2,δ,ζ)≡式(A3)×(A4)である。式(A5)の実際の計算では、次の近似
及び
もそれぞれ使用し、δ<<1及び|ζ|<約1と仮定している。(A6)及び(A7)の積分を実行した後の波形Pext(Tot)/PincとPext(A-C)/Pincとのための解析式は、参考資料B(N. Moteki, "Analytical formulae of signal waveforms for self-reference interferometry with CAS-v1 protocol (Zenodo)," https://doi.org/10.5281/zenodo.4643041, (2021).)からMATEMATICA(登録商標)のnotebookファイルとして入手できる。信号波形Pextsc(Tot)/Pincは、式(A6)を伴う式(A5)のPext(Tot)/Pinc波形と、式(A1)のPsca(Tot)/Pinc波形との和によって与えられる。
【0095】
ε=δ=ζ=0である特定のケースでは、波形Pext(Tot)/Pinc及びPext(A-C)/Pincは、以下にそれぞれ換算され、
及び
それぞれは、SPES法の対応する波形と数学的に同一である(上記文献N. Motekiにおけるη=0での式(21)及び(22)を参照)。
【0096】
なお、ξ=0のη座標に沿ったPext(B-D)/Pinc波形は、Pext(A-C)/Pinc波形のξとηとを入れ替えるとによって簡単に与えられる。
【0097】
<補遺B>ガウスビーム散乱理論の信号波形
ここでは、ガウスビーム散乱理論の解析信号波形を示す。式(12)、(14)、及び(15)から、以下が得られる。
式(13)から、η=0でのEscainc *(rpd)は、以下となる。
ρ及びφに関して式(B2)の積分を解析的に扱いやすくするために、ρに依存する項、exp(iζρ2)を、次の切り捨てを行ったテイラー級数式で近似し、
また、ρに依存する項、exp(iδρ2)を、式(A3)で近似する。式(16)、(17)、(B2)、及び(B3)から、Pext(Tot)/Pinc及びPext(A-C)/Pincの波形式は、以下によって与えられる。
ここで、Σ=Tot又はA-CのV(Σ)は、それぞれ積分可能な関数であり、以下によってそれぞれ定義され、
及び
ここで、R(ρ2,δ,ζ)≡式(A3)×(A4)である。式(B4)の実際の計算では、切り捨てを行った式(A8)のテイラー級数近似を用いた。Pext(Tot)/Pinc及びPext(A-C)/Pincの波形に対する式(B4)の最終的な解析式は、上記参考資料Bから入手できる。信号波形Pextsc(Tot)/Pincは、式(B5)を伴う式(B4)のPext(Tot)/Pinc波形と式(B1)のPsca(Tot)/Pinc波形との和によって与えられる。
【0098】
ε=δ=ζ=0の特定のケースでは、波形Pext(Tot)/Pinc及びPext(A-C)/Pincは、次のようにそれぞれ換算される。
及び
式(B7)及び(B8)の波形は、S(GB)パラメーターに組み込まれている入射場の振幅スケーリング係数exp(-ξ2)を除いて、平面波の対応式(A10)及び(A12)に類似する。
【0099】
<補遺C>データシミュレーション手順
ここでは、平行平板チャネルを流れる検出された粒子の信号波形のアンサンブル(全体)をシミュレートするための計算手順が示される(図1、2参照)。
【0100】
粒子のスケーリングされたz座標である
を、以下の式を用いて定義する。
ここで、zpとzfは、それぞれ粒子及びフローセルのz座標であり、lwはフローチャネルの半分の厚さである(図2参照)。平行平板チャネルの層流条件を想定し、正のx方向に向かうZpに依存する粒子速度は次の式で与えられる。
ここで、Vは定義域-1≦Zp≦1内の平均v(Zp)を示す。z=zpでの粒子速度とビームスポットサイズから、粒子のξ座標は時間の関数として次のように記述できる。
pの値を取得すると、ξ(t)及び補遺A及びBで与えられる波形式により時間の関数としての信号波形を計算することができる。
【0101】
次に、流速プロファイル式(C2)に従って、特定の確率密度関数からランダムなZpサンプルを取得するためのアルゴリズムについて説明する。フローチャネル中の粒子数の密度はランダムであるが一様であると仮定すると、Zp発生の確率密度関数は次の式で与えられる。
ここで、g(Zp)は正規化条件
を満たす。ここで、逆変換法を使用し、確率密度関数g(Zp)からZpのランダムなサンプルを選択する。この方法では、g(Zp)の累積分布関数を作成する。
次に、Zpに関して次の式の数値解を計算する。
ここで、u[0,1]は、区間[0,1]に一様に分布する確率変数を示す。
【符号の説明】
【0102】
AX…光軸、 FC…チャンネル、 L1…観測光、 L2…参照光、 LB…レーザー光、 PA…微粒子、 SA-SD…フォトダイオード、 Zf…フローセル位置、 dp…粒子径、 10…フローセル、 22…レーザー照射器、 23…照射駆動回路、 30…光学系、 31…光アイソレーター、 32…波長板、 33…偏光ビームスプリッタ、 34…ビームエキスパンダー、 35…集光レンズ、 41…観測光検出装置、 41a…検出面、 42…センサー駆動回路、 51…参照光用センサー、 61…セルステージ、 62…センサーステージ、 71…供給装置、 90…制御装置、 100…微粒子識別装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10