(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172175
(43)【公開日】2022-11-15
(54)【発明の名称】光学測定用セル及びこれを用いた粒子径分布測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/03 20060101AFI20221108BHJP
G01N 21/05 20060101ALI20221108BHJP
G01N 15/02 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
G01N21/03 Z
G01N21/05
G01N15/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130922
(22)【出願日】2022-08-19
(62)【分割の表示】P 2018117570の分割
【原出願日】2018-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2017122551
(32)【優先日】2017-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018106008
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲司
(72)【発明者】
【氏名】万木 利和
(72)【発明者】
【氏名】名倉 誠
(72)【発明者】
【氏名】金馬 崇
(72)【発明者】
【氏名】森 哲也
(57)【要約】
【課題】光学測定用セルの組み立てを容易にするとともに、スペーサの取り扱いを気にすることなく光路長を短くできる。
【解決手段】互いに対向する対向面21a、22aを有する一対の透光板21、22を有し、一対の透光板21、22における一対の対向面21a、22a間に被検液Xが収容される光学測定用セル2であって、一方の対向面21aに、他方の対向面22aに接触して一対の対向面21a、22a間の距離を規定するスペーサ膜25が形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光の照射により生じる回折/散乱光を検出することによって粒子径分布を測定する粒子径分布測定装置に用いられるバッチ式の光学測定用セルであって、
互いに対向する対向面を有する一対の透光板を有し、当該一対の透光板における一対の対向面間に流体が収容されるものであり、
前記一対の対向面のうち一方の対向面に、他方の対向面に接触して前記一対の対向面間の距離を規定するスペーサ膜が形成されており、
前記一対の透光板の少なくとも一方に、前記一対の対向面間に前記流体を導入する導入部となる貫通孔、及び、前記流体を導出する導出部となる貫通孔が設けられており、
前記一対の対向面間に前記流体が導入された状態で前記貫通孔が栓により封止される、光学測定用セル。
【請求項2】
前記栓は、前記粒子径分布測定装置における測定時において前記レーザ光を遮らない位置に設けられている、請求項1に記載の光学測定用セル。
【請求項3】
請求項1又は2記載の光学測定用セルを用いた粒子径分布測定装置。
【請求項4】
前記光学測定用セルがセルホルダにセットされて測定を行うものであり、
前記光学測定用セルは、前記栓が前記レーザ光の光路から退避した位置となるように前記セルホルダにセットされる、請求項3に記載の粒子径分布測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学測定用セル及びこれを用いた粒子径分布測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粒子物性測定装置として被検液に含まれる粒子の粒子径分布を測定する粒子径分布測定装置がある。従来の粒子径分布測定装置では、特許文献1に示すように、例えばインクの原液等の高濃度且つ低粘度の被検液を測定する場合に、一対の透光板の間にスペーサを挟んで構成された光学測定用セルを用いている。なお、スペーサとしては、テフロン製や金属製のものが用いられている。
【0003】
ここで、高濃度の被検液を希釈することなく測定するためには、光学測定用セルに収容された被検液が所定の透過率となるように光路長の短くする必要がある。そのため、特許文献1に記載の光学測定用セルの構成では、光路長に対応した薄いスペーサを用いなくてはならない。
【0004】
しかしながら、薄いスペーサを用いて光学測定用セルを組み立てる場合には、一対の透光板の間に当該スペーサを挟み込む際にスペーサが歪む等の変形をしてしまい、その組み立て作業が困難である。また、薄いスペーサはその取り扱いが難しく、一対の透光板に挟む際や光学測定用セルを洗浄する際にスペーサが破損しやすく使い回すことが難しい。これらの問題はスペーサが薄くなればなるほど顕著になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上述した課題を解決すべくなされたものであり、光学測定用セルの組み立てを容易にするとともに、スペーサの取り扱いを考慮することなく光路長を短くできることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る光学測定用セルは、互いに対向する対向面を有する一対の透光板を有し、当該一対の透光板における一対の対向面間に流体が収容される光学測定用セルであって、前記一対の対向面のうち一方の対向面に、他方の対向面に接触して前記一対の対向面間の距離を規定するスペーサ膜が形成されていることを特徴とする。
【0008】
このような光学測定用セルであれば、一対の透光板における一方の対向面にスペーサ膜を形成しているので、一対の透光板を重ね合わせるだけで所定の光路長を有する光学測定用セルを構成することができ、光学測定用セルの組み立てを容易にすることができる。また、対向面に一体的に形成されるスペーサ膜の膜厚により光路長を規定することができるので、別体のスペーサを用いた場合に生じるスペーサの変形や破損を考慮する必要がなく、光路長を短くすることができる。さらに、別体のスペーサを用いないので、光学測定用セルの組み立て誤差を低減することができ、その結果、粒子物性測定の前に行う光学測定用セルに対する光軸合わせを容易にすることができる。その他、スペーサ膜が一方の透光板に一体的に形成されているので、光学測定用セルを洗浄する場合にその作業を簡単にすることができる。
【0009】
スペーサ膜の具体的な実施の態様としては、透光板の対向面に堆積して一体的に形成される膜であり、前記一方の対向面に形成された蒸着膜、めっき膜、スパッタ膜、又は印刷膜であることが考えられる。これらの膜を用いることにより、光路長を例えば1μm~2μmといった微小なものにすることができる。
【0010】
前記スペーサ膜が形成された透光板に、前記一対の対向面間に前記流体を導入する導入部、及び、前記流体を導出する導出部が設けていることが望ましい。この構成であれば、スペーサ膜の成膜処理工程において、導入部及び導出部の構成を利用して透光板を保持することができる。
【0011】
前記一対の透光板の少なくとも一方に、発熱部となる導電膜が形成されていることが望ましい。この構成において、導電膜に透明導電膜を用いることにより光が入射又は出射する領域を含めた全体を加熱することができる。
【0012】
光学測定用セルの具体的な実施の態様としては、前記一対の透光板は板厚が互いに異なる構成であることが考えられる。この構成であれば、板厚の小さい方の透光板は、板厚の大きい方の透光板よりも流体の温度やその変動を反映しやすくなる。そして、板厚の小さい方の透光板の温度を例えば放射温度計により検出することによって、セル内の流体の温度を精度良く測定することができる。また、このとき前記導電膜は、板厚の大きい方の透光板に形成することが望ましい。
【0013】
また、本発明に係る粒子物性測定装置は、上述した光学測定用セルを具備することを特徴とするものである。
このような粒子物性測定装置であれば、上述した光学測定用セルと同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
このように構成した本発明によれば、一対の透光板における一方の対向面にスペーサ膜を形成しているので、光学測定用セルの組み立てを容易にするとともに、スペーサの取り扱いを考慮することなく光路長を短くできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の光学測定用セルを用いた粒子物性測定装置の概略構成図である。
【
図2】同実施形態の光学測定用セル及びセルホルダの構成を模式的に示す斜視図である。
【
図3】同実施形態の光学測定用セルの構成を模式的に示す断面図である。
【
図4】同実施形態の一対の透光板の構成を模式的に示す部分拡大断面図である。
【
図6】同実施形態の光学測定用セルの製造方法を示す模式図である。
【
図7】変形実施形態の光学測定用セルの構成を模式的に示す断面図及び一対の透光板の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明に係る光学測定用セルを用いた粒子物性測定装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
本実施形態に係る粒子物性測定装置100は、粒子に光を照射した際に生じる回折/散乱光の拡がり角に応じる光強度分布が、MIE散乱理論から粒子径によって定まることを利用し、前記回折/散乱光を検出することによって粒子径分布を測定する粒子径分布測定装置である。
【0018】
具体的に粒子物性測定装置100は、
図1及び
図2に示すように、セルホルダ7にセットされた例えばバッチ式の光学測定用セル2と、光学測定用セル2内の被検液Xにレンズ3を介してレーザ光を照射する光源たるレーザ装置4と、レーザ光の照射により生じる回折/散乱光の光強度を拡がり角に応じて検出する複数の光検出器5と、各光検出器5から出力された光強度信号を受信して被検液Xに含まれる粒子の粒子径分布を算出する演算装置6とを備えている。
【0019】
なお、本実施形態の粒子物性測定装置100では、セルホルダ7がレール8上をスライドするスライド部材9上に設けられており、セルホルダ7にセットされた光学測定用セル2が光路上に位置する光照射位置と、光路上から退避した退避位置との間で移動可能に構成されている。
図1において、スライド部材9上には光学測定用セル2がセットされた複数のセルホルダ7が設けられた例を示している。その他、スライド部材9上には、光学測定用セル2とは複数種類の異なる測定セル(乾式セル又は湿式フローセル等)がセットされたセルホルダを設けてもよい。また、セルホルダ7は、レーザ光が光学測定用セル2に垂直に入射しないようにレーザ光に対して光学測定用セル2が傾斜するように保持している。
【0020】
このスライド部材9を有する構成を生かして以下のようにしてもよい。
例えば、溶媒のみを収容した光学測定用セル2を保持した第1セルホルダ7と、溶媒及び粒子からなる被検液Xを収容し、光路長が1μmに設定された光学測定用セル2を保持した第2セルホルダ7と、溶媒及び粒子からなる被検液Xを収容し、光路長が3μmに設定された光学測定用セル2を保持した第3セルホルダ7を、スライド部材9上にセットする。その他のセルホルダ7を有するものであってもよい。
そして、第1セルホルダ7の光学測定用セル2を光照射位置に移動させてバックグラウンド測定(透過光測定)を行う。その後、第2セルホルダ7の光学測定用セル2及び第3セルホルダ7の光学測定用セル2を順次光照射位置に移動させて光路長を変えて透過光測定を行う。そして、透過率が85~90%となる光路長を有する光学測定用セル2を決定し、当該光学測定用セル2を用いて粒子径分布測定を行う。
【0021】
以下、光学測定用セル2について
図3~
図6を参照しながら説明する。なお、
図3~
図6に示す部材のうち、少なくとも膜厚については、説明を明確にするため誇張して示している。
【0022】
光学測定用セル2は、所定の粘弾性を有する被検液Xを収容するバッチ式のものである。本実施形態の光学測定用セル2は、インクなどの高濃度且つ低粘度の試料を収容するものであり、例えば0.1cP~100cPの粘度を有する被検液Xを分析するために用いられる。その他、光学測定用セル2は、アルコールや有機溶媒を収容するものであってもよい。
【0023】
具体的に光学測定用セル2は、
図3に示すように、互いに対向する対向面21a、22aを有する一対の透光板21、22と、当該一対の透光板21、22を外側から挟み込んで保持する挟持機構23とを備えている。
【0024】
各透光板21、22は、光源4から照射されたレーザ光を透過する例えば石英ガラス(SiO
2)製のものである。各透光板21、22の少なくとも対向面21a、22aは平面状をなすものであり、本実施形態の各透光板21、22は平板である。また、各透光板21、22は、平面視において同一形状をなすものであり、本実施形態では平面視において概略円形状をなすものである(
図5参照)。なお、各透光板21、22の側面に形成された切り欠き部21x、22xは、後述する挟持機構23に対する透光板21、22の周方向の位置決めを行うためのものである。
【0025】
各透光板21、22のレーザ光通過領域には、
図3に示すように、反射防止膜24が形成されている。本実施形態では、レーザ光通過領域を含む中央部に反射防止膜24が形成されている。この反射防止膜24は、透光板21、22の内向き面(対向面21a、22a)と外向き面の両方に形成されている。本実施形態の反射防止膜24は、蒸着法によって形成された蒸着膜である。なお、各反射防止膜24は全体に亘って実質的に同一の膜厚を有するものであり、各対向面21a、22aに形成された反射防止膜24は互いに同一の膜厚である。
【0026】
然して、
図3~
図5に示すように、一方の透光板21(以下、第1透光板21ともいう。)の対向面21aの外縁部には、全周に亘ってスペーサ膜25が形成されている。
【0027】
このスペーサ膜25は、特に
図4に示すように、他方の透光板22(以下、第2透光板22ともいう。)の対向面22aに接触して、一対の対向面21a、22a間の距離を規定するものであり、全周に亘って実質的に同一の膜厚を有するものである。
【0028】
スペーサ膜25は、第1透光板21の対向面21aに直接堆積して一体的に形成されたものである。つまりスペーサ膜25は、対向面21aに成膜されて対向面21aに直接接触したものである。このスペーサ膜25は、蒸着法を用いて形成された蒸着膜、スパッタ法を用いて形成されたスパッタ膜、めっき法を用いて形成されためっき膜、印刷法を用いて形成された印刷膜である。本実施形態のスペーサ膜25は、透光板と同じ材質の二酸化ケイ素(SiO2)からなる薄膜である。このスペーサ膜25によって、第1透光板21の対向面21aには、その外縁部に凸条部が一体的に形成されることになる。さらに、スペーサ膜25は、有機溶媒等の腐食性を有する被検液に対して耐腐食性を有する材料から形成されている。
【0029】
本実施形態では、一対の対向面21a、22aにおいてスペーサ膜25の内側には、反射防止膜24が形成されている。そのため、スペーサ膜25の膜厚は、一対の反射防止膜24間の距離が所望の光路長(例えば1μm)となるように、一対の対向面21a、22aが所定距離離間する値とされている。つまり、スペーサ膜25の膜厚は、前記所望の光路長と対向面21a、22aの反射防止膜24の膜厚とを足し合わせた値に設定されている。具体的にスペーサ膜25の膜厚は5μm以下であり、スペーサ膜25が蒸着膜の場合には、その最小値は1原子層分である。
【0030】
なお、対向面21a、22a全体に反射防止膜24が形成されており、当該反射防止膜24上にスペーサ膜25を形成する場合には、スペーサ膜25の膜厚は反射防止膜24の膜厚を考慮せずに、所望の光路長と同一の値に設定される。
【0031】
また、スペーサ膜25が形成された第1透光板21には、一対の対向面21a、22a間に被検液Xを導入する導入部26及び被検液Xを導出する導出部27が設けられている。この導入部26及び導出部27は、スペーサ膜25の内側に設けられており、本実施形態では、第1透光板21を貫通して設けられた貫通孔である。これらの貫通孔26、27は、栓28、29により封止される。なお、スペーサ膜25が蒸着膜である場合には、
図6に示すように、第1透光板21の対向面21aが下方を向くように、前記貫通孔26、27を介して第1透光板21を支持治具により保持して成膜することができる。
【0032】
なお、光学測定用セル2を栓28、29により封止した状態で、光学測定用セル2は、
図2に示す状態でセルホルダ7にセットされる。つまり、測定において栓28、29が光源4の光を遮らないようにセットされる。具体的には、粒子物性測定装置が2種類の光源4(例えばレーザ光源及びLED)を有する構成において、各光源4の光路から栓28、29が退避した位置となるようにセットされる。なお、
図2では、LEDが斜め上方から光を照射する構成を想定しており、栓28、29が左右に位置するようにセットされている。また、光学測定用セル2を栓28、29で封止することで被検液Xの蒸発を防ぐことができる。
【0033】
さらに、第1透光板21の板厚は、第2透光板22の板厚よりも大きい構成としてある。板厚の小さい方の透光板(第2透光板22)は、板厚の大きい方の透光板(第1透光板21)よりも被検液Xの温度及びその変動を反映しやすくなる。そのため、板厚の小さい方の透光板(第2透光板22)の温度を例えば粒子物性測定装置に内蔵された放射温度計(不図示)により検出することによって、光学測定用セル2内の被検液Xの温度を精度良く測定することができる。
【0034】
挟持機構23は、一対の透光板21、22を外側から挟んで一対の対向面21a、22a間に被検液収容空間Sを形成するものである。この被検液収容空間Sは、スペーサ膜25の内側に形成される空間である。
【0035】
本実施形態の挟持機構23は、
図3に示すように、一対の透光板21、22を収容する収容部231aを有する第1挟持要素231と、当該第1挟持要素231との間で一対の透光板21、22を挟み込む第2挟持要素232とを備えている。そして、第1挟持要素231に対して第2挟持要素232を螺合させることによって、一対の透光板21、22が挟持されるように構成されている。このように各挟持要素231、232を螺合して挟持することによって、一対の透光板21、22に周方向全体に亘って均一に押圧力が加わり、スペーサ膜25を第2透光板の対向面22aに周方向全体に亘って均一に押し付けることができる。これにより、光路長を精度良く定めることができる。
【0036】
ここで、第1挟持要素231の収容部231aには、一対の透光板21、22の側面に形成された切り欠き部21x、22xに当接して位置決めするための位置決め部(不図示)が設けられている。また、第1挟持要素231及び第2挟持要素232には、一対の透光板21、22にレーザ光が通過するように開口部231H、232Hが形成されている。その他、少なくとも第2挟持要素232の外側周面には、螺合する際の滑り止めとなるローレット加工等の滑り止め加工が施されている。
【0037】
一対の透光板21、22を重ね合わせて、挟持機構23によりそれらを挟持することによって光学測定用セル2が構成される。このように構成された光学測定用セル2は、セルホルダ7にセットされる。この状態で、導入部26から被検液Xを導入して被検液収容空間Sを被検液Xで満たす。この状態で光源4からレーザ光を照射して被検液Xに含まれる粒子の粒子径分布を算出する。
【0038】
ここで、光学測定用セル2のセル長(光路長)は、スペーサ膜25の膜厚で決まっているので、粒子径分布において光路長よりも大きい粒子径は測定誤差により生じたものであることがわかる。そのため、演算装置6において光路長以上の粒子径の算出結果は削除又は無視する等のデータ処理を行うことができる。このとき、光路長以上の粒子径の算出結果を削除又は無視したことに伴って、その光路長以上の粒子径分を用いて、その光路長未満の粒子径分布を補正することが考えられる。
【0039】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態の粒子物性測定装置100によれば、一対の透光板21、22における一方の対向面21aにスペーサ膜25を形成しているので、一対の透光板21、22を重ね合わせるだけで所定の光路長を有する光学測定用セル2を構成することができ、光学測定用セル2の組み立てを容易にすることができる。また、対向面21aに一体的に形成されるスペーサ膜25の膜厚により光路長を規定することができるので、別体のスペーサを用いた場合に生じるスペーサの変形や破損を考慮する必要がなく、光路長を短くすることができる。さらに、別体のスペーサを用いないので、光学測定用セル2の組み立て誤差を低減することができ、その結果、粒子径分布測定の前に行う光学測定用セル2に対する光軸合わせを容易にすることができる。その他、スペーサ膜25が第1透光板21に一体的に形成されているので、光学測定用セル2を洗浄する場合にその作業を簡単にすることができる。
【0040】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0041】
例えば、前記実施形態では、第1透光板21に導入部26及び導出部27を形成した構成であったが、第1透光板21に導入部26又は導出部27の一方を形成し、第2透光板22に導入部26又は導出部27の他方を形成する構成であっても良い。この構成であれば、第1透光板21及び第2透光板22の構成を共通化することができ、部品点数を削減することができる。
【0042】
また、第1透光板21又は第2透光板22の少なくとも一方の外向き面に、発熱部となる導電膜を形成しても良い。この構成において、導電膜に透明導電膜を用いることにより光が入射又は出射する領域を含めた全体を加熱することができる。この導電膜を用いて被検液Xの温度を例えば80℃に温調することができる。このとき、板厚の小さいほうの透光板(第2透光板22)が放射温度計等によって温度検出される場合には、導電膜は、板厚の大きい方の透光板(第1透光板21)に形成する。透明導電膜でない場合には、透光板のレーザ光通過領域を避けて導電膜を形成することが考えられる。
【0043】
前記導電膜は透光板の内向き面(対向面)に形成してもよい。この場合、導電膜とスペーサ膜とを兼用してもよい。つまり、スペーサ膜を導電膜から構成してもよい。透光板の構成を簡単にすることができるとともに、その製造コストを安価にすることができる。
【0044】
さらに、前記実施形態ではスペーサ膜25が第1透光板21の外縁部の全周に亘って設けられていたが、外縁部に間欠的に設けられたものであっても良い。この場合、互いに隣り合うスペーサ膜25の間から被検液Xが外部に出るので、一対の透光板21、22の外部から漏れ出ないように挟持機構等にシール構造を設けることが考えられる。
【0045】
前記実施形態では、一対の透光板21、22の側面に切り欠き部21x、22xが形成されたものであったが、これらの切り欠き部を形成しない構成であっても良い。この場合、スペーサ膜25が形成されない第2透光板22を裏表関係なく使用することもできる。
【0046】
前記実施形態では、透光板が平面視において概略円形状をなすものであったが、例えば平面視において矩形状をなすもの等、その他の形状であってもよい。
【0047】
前記実施形態では導入部26から光学測定用セル2内に被検液Xを導入するものであったが、導入部26を介さずに光学測定用セル2内に被検液Xを収容するものであってもよい。例えば、光学測定用セル2を組み立てる前に、被検液Xを第1透光板のスペーサ膜25の内側に例えばスポイト等を使って垂らして留めておき、この状態に第1透光板21と第2透光板22とを重ね合わせて光学測定用セル2を組み合わせてもよい。
【0048】
前記実施形態では光学測定用セル2は一対の透光板21、22を挟持機構23により挟持するものであったが、一対の透光板21、22及び挟持機構23において被検液収容空間Sと外部との間をシールするシール部材を設けてシール性を向上させたものであってもよい。このような光学測定用セル2であれば、被検液XがH2OやO2を嫌うものの場合に好適に用いることができる。また、この光学測定用セル2に被検液を収容する場合には、グローブボックス内等の不活性ガス雰囲気下で行う。なお、導入部26及び導出部27に設けられる栓28、29においてもシール部材を設けてシール性を向上させる。
【0049】
光学測定用セル2は導入部及び導出部となる2つの貫通孔を有する構成の他、1つの貫通孔を有する構成であってもよい。
【0050】
光学測定用セル2は、被検液等の液体を収容するものの他、試料ガスを収容するものであってもよい。
【0051】
前記実施形態の光学測定用セル2はバッチ式のものであったが、被検液Xが光学測定用セル2に入れ替わるフロー式のものであってもよい。この場合、導入部26から被検液Xを連続的に導入することによってフロー式にすることができる。例えば、導入部26から被検液Xを導入すると、光路長が小さいことから、表面張力によって毛細管現象が生じて被検液Xが一対の透光板21、22の間を流れることになる。
【0052】
前記実施形態では透光板の反射防止膜を形成していたが、
図7に示すように反射防止膜を形成しないものであってもよい。反射防止膜を形成しない場合には、セルホルダの傾きを調整して反射光が光検出器に入らないようにその傾き角度を調整する必要があるが、透光板の洗浄時に反射防止膜を傷つける心配もなくなり、また、透光板の製造コストも安価にすることができる。また、反射防止膜を形成しない場合において、反射光が光検出器に入る場合には、その光検出器の光強度信号を粒子径分布の算出に用いないようにすることも可能である。
【0053】
加えて、前記実施形態の粒子径分布測定装置は、いわゆる回折/散乱式のものであったが、光学測定用セル内の被検液にレーザ光を照射して、その際にサンプル中の粒子のブラウン運動に起因して発生する散乱光の揺らぎを解析することにより粒子径分布を測定するように構成された、いわゆる動的光散乱式のものであっても構わない。
【0054】
さらに、本発明に係る光学測定用セルは、粒子径分布測定装置のほか、例えば赤外分光法などを利用した光学分析装置に用いても良い。
【0055】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0056】
100・・・粒子物性測定装置
2・・・光学測定用セル
21、22・・・透光板
21a・・・一方の対向面
22a・・・他方の対向面
24・・・反射防止膜
25・・・スペーサ膜
26・・・導入部
27・・・導出部