(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172416
(43)【公開日】2022-11-16
(54)【発明の名称】樹脂シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20221109BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20221109BHJP
C08F 210/02 20060101ALN20221109BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C03C27/12 F
C08F210/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019192194
(22)【出願日】2019-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】新村 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】中原 淳裕
【テーマコード(参考)】
4F071
4G061
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA14
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4J100AK07R
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4J100CA04
4J100CA05
4J100DA40
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】透明性、強度、高温環境下での自立性、及び接着加工性に優れた樹脂シートを提供する。
【解決手段】樹脂を構成する全単量体単位を基準にして2.0~9.0モル%のカルボン酸単位、1.0~3.0モル%のカルボン酸中和物単位、及びエチレン単位を含有する樹脂を含んでなり、厚み0.2mm以上3mm未満であり、かつトルエン/酢酸(質量比)=75/25の混合溶媒における不溶分量が5~90質量%である、樹脂シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を構成する全単量体単位を基準にして2.0~9.0モル%のカルボン酸単位、1.0~3.0モル%のカルボン酸中和物単位、及びエチレン単位を含有する樹脂を含んでなり、厚み0.2mm以上3mm未満であり、かつトルエン/酢酸(質量比)=75/25の混合溶媒における不溶分量が5~90質量%である、樹脂シート。
【請求項2】
50℃での貯蔵弾性率が50~300MPaであり、かつ140℃での貯蔵弾性率が0.1~2.5MPaである、請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項3】
樹脂シートのカルボン酸単位の含有量をa(モル%)、不溶分量をb(質量%)とした場合に、
下記式(1)及び(2):
2≦a≦9 (1)
-7.8×a+96≦b≦90 (2)
を満たす、請求項1又は2に記載の樹脂シート。
【請求項4】
紫外線吸収剤及びシランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項5】
前記樹脂の含有量が、前記樹脂シートの質量に対して、95質量%以上である、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の樹脂シートからなる合わせガラス用中間膜。
【請求項7】
2つのガラス板と、該2つのガラス板の間に配置された請求項6に記載の合わせガラス用中間膜とを有する、合わせガラス。
【請求項8】
前記合わせガラスを140℃まで加熱後、0.1℃/分の速度で23℃に徐冷した後のヘーズが5.0%以下である、請求項7に記載の合わせガラス。
【請求項9】
カルボン酸単位、カルボン酸中和物単位、及びエチレン単位を含有する樹脂を含んでなる原料シートに、加速電圧が200~5000kVかつ照射線量が10~500kGyの電子線を照射する工程を含む、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項10】
原料シートの厚みをt(mm)、前記加速電圧をV(kV)、及び原料シートの比重をρ(g/m3)とした場合に、
下記式(3):
33.4×V5/3÷ρ≧t (3)
を満たす、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
原料シートのカルボン酸単位の含有量をa’(モル%)、及び前記照射線量をc(kGy)とした場合に、
下記式(4)及び(5):
2≦a’≦9 (4)
-15×a’+115≦c≦500 (5)
を満たす、請求項9又は10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラス用中間膜等として使用可能な樹脂シート及びその製造方法、該樹脂シートからなる合わせガラス用中間膜、並びに該合わせガラス用中間膜を有する合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の中和物であるアイオノマーは、弾性率、透明性、ガラスとの接着性等が高いため、合わせガラスの中間膜に多く使用されている(例えば、特許文献1)。近年、合わせガラスに対する要求性能が高くなり、アイオノマーに対しても、合わせガラスの製作条件によらず高い透明性を保持すること、高温においても高い弾性率を維持し、合わせガラスの強度を低下させないこと、さらには、より着色が少なく外観が優れること等が求められるようになってきた。
【0003】
特許文献2には、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の中和物をフィルム成型後に電離性放射線を照射することによって得られる合わせガラス用中間膜が記載されている。また、特許文献3には、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー層と熱接着性樹脂層とからなる積層フィルムであって、該アイオノマー層が電子線架橋されていることを特徴とする表皮用フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6432522号明細書
【特許文献2】特開昭60-86057号公報
【特許文献3】特開2000-85062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献2のような合わせガラス用中間膜は、透明性、高温環境下での自立性、ガラスとの密着性が十分でないことがわかった。また、特許文献3のような積層フィルムは厚みが小さいため、十分な強度が得られず、さらに架橋度が高すぎるため、合わせガラス作製時の接着加工性に劣ることがわかった。
【0006】
従って、本発明の目的は、透明性、強度、高温環境下での自立性、及び接着加工性に優れた樹脂シート及びその製造方法、該樹脂シートからなる合わせガラス用中間膜、並びに該合わせガラス用中間膜を有する合わせガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カルボン酸単位、カルボン酸中和物単位、及びエチレン単位を含有する樹脂を含んでなる樹脂シートにおいて、カルボン酸単位及びカルボン酸中和物単位の含有量がそれぞれ2.0~9.0モル%及び1.0~3.0モル%であり、該樹脂シートの厚みが0.2mm以上3mm未満であり、かつトルエン/酢酸(質量比)=75/25の混合溶媒における不溶分量が5~90質量%であると、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明には、以下のものが含まれる。
【0008】
[1]樹脂を構成する全単量体単位を基準にして2.0~9.0モル%のカルボン酸単位、1.0~3.0モル%のカルボン酸中和物単位、及びエチレン単位を含有する樹脂を含んでなり、厚み0.2mm以上3mm未満であり、かつトルエン/酢酸(質量比)=75/25の混合溶媒における不溶分量が5~90質量%である、樹脂シート。
[2]50℃での貯蔵弾性率が50~300MPaであり、かつ140℃での貯蔵弾性率が0.1~2.5MPaである、[1]に記載の樹脂シート。
[3]樹脂シートのカルボン酸単位の含有量をa(モル%)、不溶分量をb(質量%)とした場合に、
下記式(1)及び(2):
2≦a≦9 (1)
-7.8×a+96≦b≦90 (2)
を満たす、[1]又は[2]に記載の樹脂シート。
[4]紫外線吸収剤及びシランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂シート。
[5]前記樹脂の含有量が、前記樹脂シートの質量に対して、95質量%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂シート。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の樹脂シートからなる合わせガラス用中間膜。
[7]2つのガラス板と、該2つのガラス板の間に配置された[6]に記載の合わせガラス用中間膜とを有する、合わせガラス。
[8]前記合わせガラスを140℃まで加熱後、0.1℃/分の速度で23℃に徐冷した後のヘーズが5.0%以下である、[7]に記載の合わせガラス。
[9]カルボン酸単位、カルボン酸中和物単位、及びエチレン単位を含有する樹脂を含んでなる原料シートに、加速電圧が200~5000kVかつ照射線量が10~500kGyの電子線を照射する工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂シートの製造方法。
[10]原料シートの厚みをt(mm)、前記加速電圧をV(kV)、及び原料シートの比重をρ(g/m3)とした場合に、
下記式(3):
33.4×V5/3÷ρ≧t (3)
を満たす、[9]に記載の方法。
[11]原料シートのカルボン酸単位の含有量をa’(モル%)、及び前記照射線量をc(kGy)とした場合に、
下記式(4)及び(5):
2≦a’≦9 (4)
-15×a’+115≦c≦500 (5)
を満たす、[9]又は[10]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂シートは、透明性、強度、高温環境下での自立性、及び接着加工性に優れている。そのため、合わせガラス用中間膜として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[樹脂シート]
本発明の樹脂シートは、カルボン酸単位(A)、カルボン酸中和物単位(B)、及びエチレン単位(C)を含有する樹脂(アイオノマー又は樹脂(x)ともいう)を含んでなる。本明細書において、「単位」とは、「由来の構成単位」を意味するものであり、例えばカルボン酸単位とはカルボン酸由来の構成単位を示し、カルボン酸中和物単位とはカルボン酸中和物由来の構成単位を示し、エチレン単位とはエチレン由来の構成単位を示す。
【0011】
<樹脂>
カルボン酸単位(A)を構成する単量体としては、不飽和カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチルが好ましく、アクリル酸、メタクリル酸がより好ましく、メタクリル酸がさらに好ましい。カルボン酸単位は単独又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0012】
カルボン酸単位(A)の含有量は、樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、2.0~9.0モル%である。カルボン酸単位(A)の含有量が2.0モル%未満であると、透明性が低下する傾向があり、該含有量が9.0モル%を超えると、強度が低下する傾向がある。そのため、カルボン酸単位(A)の含有量が上記範囲であることで、透明性及び強度を向上することができる。カルボン酸単位(A)の含有量は、好ましくは2.5モル%以上、より好ましくは3.0モル%以上、さらに好ましくは4.0モル%以上、特に好ましくは5.0モル%以上であり、好ましくは8.5モル%以下、より好ましくは8.0モル%以下である。カルボン酸単位(A)の含有量が上記の下限以上であると、透明性をより向上しやすく、該含有量が上記の上限以下であると、強度をより向上しやすい。
【0013】
カルボン酸中和物単位(B)を構成する単量体としては、カルボン酸単位(A)を構成する単量体の中和物が好ましい。該カルボン酸中和物は、カルボン酸の水素イオンを金属イオンで置き換えたものである。金属イオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム等の1価金属;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、チタン等の多価金属のイオンが挙げられる。これらの金属イオンは、単独又は2種以上併用することができる。例えば、1価金属イオンの1種以上と2価金属イオンの1種以上の組み合わせであってもよい。
【0014】
カルボン酸中和物単位(B)の含有量は、樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、1.0~3.0モル%である。カルボン酸中和物単位(B)の含有量が1.0モル%未満であると、透明性及び高温環境下での自立性が低下する傾向があり、該含有量が3.0モル%を超えると、成形加工時の溶融粘度が高くなり、着色する傾向がある。そのため、カルボン酸中和物単位(B)の含有量が上記範囲であることで、透明性及び高温環境下での自立性を向上することができる。カルボン酸中和物単位(B)の含有量は、好ましくは1.5モル%以上であり、好ましくは2.5モル%以下である。カルボン酸中和物単位(B)の含有量が上記の下限以上であると、透明性及び高温環境下での自立性をより向上しやすく、該含有量が上記の上限以下であると、着色度を低減しやすい。
【0015】
エチレン単位(C)の含有量は、樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、さらに好ましくは88モル%以上であり、好ましくは97モル%以下である。エチレン単位(C)の含有量が上記の下限以上であると、樹脂シートの強度及び成形加工性を向上しやすく、該含有量が上記の上限以下であると、透明性、高温環境下での自立性及び接着加工性を向上しやすい。
【0016】
本発明の樹脂シートは、カルボン酸単位(A)、カルボン酸中和物単位(B)、及びエチレン単位(C)以外の他の構成単位を含有していてもよい。他の構成単位としては、例えばカルボン酸エステル単位(D)などが挙げられる。カルボン酸エステル単位を構成する単量体としては、不飽和カルボン酸エステル、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アリル等の(メタ)アクリル酸エステル、イタコン酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルなどが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エステル、特に(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチルがより好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチルがさらに好ましく、(メタ)アクリル酸メチルが最も好ましい。メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルでは、メタクリル酸エステルの方が、耐熱分解、低着色性に優れるため好ましい。これら(メタ)アクリル酸エステルは、単独又は2種以上組み合わせて使用できる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸又はアクリル酸を示す。
【0017】
カルボン酸エステル単位(D)の含有量は、樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、好ましくは2.0モル%以下、より好ましくは1.0モル%以下である。カルボン酸エステル単位(D)の含有量の下限は0モル%以上であり、樹脂がカルボン酸エステル単位(D)を含む場合は、好ましくは0.05モル%以上である。カルボン酸エステル単位(D)の含有量が上記範囲であると、透明性の点で有利である。
【0018】
本発明の樹脂シートに含まれる樹脂(x)中のカルボン酸単位、カルボン酸中和物単位、エチレン単位、及び任意にカルボン酸エステル単位の含有量は、以下の手順で分析することが可能である。まず、樹脂中の構成単位を熱分解ガスクロマトグラフィー(熱分解GC-MS)で同定した後、核磁気共鳴分光法(NMR)と元素分析を用いてそれぞれの含有量を評価することができる。また、IRやラマン分析を組み合わせることもできる。これらの分析の前に樹脂以外の成分を、再沈澱法やソックスレー抽出法にて除去しておくことが好ましい。なお、樹脂シートに含まれる樹脂の構成単位の比率は、原料樹脂の比率とほとんど変わらないため、上記方法により原料樹脂の各構成単位の比率を分析して求めてもよい。例えば実施例に記載の方法により求めることができる。
【0019】
本発明の一実施態様において、樹脂(x)の融点は、透明性及び加工性の観点から、50~200℃が好ましく、60~180℃がより好ましく、80~150℃がさらに好ましい。融点は、例えばJIS K7121:2012に記載の方法を参考に、示差走査熱量測定(DSC)を用いて、冷却速度-10℃/分、昇温速度10℃/分、2回目の昇温の融解ピークのピックトップ温度から求めることができる。
【0020】
本発明の一実施態様において、樹脂(x)の融解熱は、透明性の観点から、0J/g~25J/gが好ましい。融解熱は、例えばJIS K7122:2012に記載の方法を参考に、示差走査熱量測定(DSC)を用いて、冷却速度-10℃/分、昇温速度10℃/分、2回目の昇温時の融解ピークの面積から算出することができる。
【0021】
本発明の一実施態様において、樹脂(x)の190℃、2.16Kgfの条件で測定したメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.3g/10分以上、より好ましくは0.7g/10分以上、さらに好ましくは1.0g/10分以上、特に好ましくは2.0g/10分以上であり、好ましくは50g/10分以下、より好ましくは30g/10分以下である。樹脂のMFRが上記範囲であることで、熱による劣化を抑えた成形加工が容易になりやすい。樹脂のMFRは、分子量、並びにカルボン酸単位(A)、カルボン酸中和物単位(B)及びカルボン酸エステル単位(D)の含有率により調整し得る。
【0022】
本発明の一実施態様において、樹脂(x)の炭素1000個当たりの分岐度は、特に限定されないが、5~30が好ましく、6~20がより好ましい。炭素1000個当たりの分岐度の分析は、例えば固体NMRを用いてDDMAS法にて行うことができる。
【0023】
<樹脂シート>
本発明の樹脂シートは、前記樹脂を含んでなり、厚み0.2mm以上3mm未満であり、かつトルエン/酢酸(質量比)=75/25の混合溶媒(混合溶媒(A)ともいう)における不溶分量が5~90質量%である。そのため、本発明の樹脂シートは、透明性、強度、高温環境下での自立性及び接着加工性に優れている。また、本発明の樹脂シートは、優れたロール巻取り性及び低着色度を有することもできる。本明細書において、高温環境下での自立性とは、樹脂シートを合わせガラス用中間膜として合わせガラスに使用した場合に、高温環境下においてガラスが破損した状態になったとしても、破損したガラスが樹脂シート(合わせガラス用中間膜)を貫通しにくい特性又は樹脂シートが垂れにくい特性などを意味する。また、接着加工性とは、樹脂シートを合わせガラス用中間膜として用いて合わせガラスを作製する際に、ガラスと樹脂シートとが接着しやすい特性を意味する。また、着色度とは、着色の度合いを示し、例えば黄色度(YI)等により評価できる。さらに、透明性とは、樹脂シート自体の透明性、及び、該樹脂シートを中間膜として形成した合わせガラスの透明性の両方を含む意味である。なお、混合溶媒(A)における不溶分をトルエン/酢酸不溶分ということがある。
【0024】
本発明の樹脂シートは、混合溶媒(A)における不溶分量が5~90質量%である。本発明の樹脂シートを構成する樹脂は、電子線により架橋されていない状態では混合溶媒(A)に溶解し、電子線による架橋度が大きくなるにつれて混合溶媒(A)に対する溶解度が低下し、不溶分量が大きくなる。逆に電子線による架橋度が小さくなるにつれて不溶分量が小さくなる。そのため、混合溶媒(A)における不溶分量は、樹脂シートの電子線による架橋度(電子線架橋度ともいう)の指標となる。
【0025】
樹脂シートの混合溶媒(A)における不溶分量が5質量%未満であると、電子線架橋度が低すぎるため、樹脂シートを中間膜とする合わせガラス作製後に徐冷した際、結晶化が促進されて十分な透明性が得られない。また、樹脂シートの混合溶媒(A)における不溶分量が90質量%を超えると、140℃における弾性率が高くなりすぎて、合わせガラス作製時に十分な接着加工性が得られない。本発明の樹脂シートは、混合溶媒(A)における不溶分量が5~90質量%であり、樹脂の電子線による架橋度が適切な範囲に調整されているため、十分な透明性及び接着加工性を有することができる。なお、不溶分量は、例えば樹脂シートの照射工程における電子線の加速電圧や照射線量を適宜調整することにより、所定範囲にすることができる。電子線の加速電圧及び照射線量が大きくなるほど、電子線架橋度が大きくなるため、不溶分量が多くなる傾向にある。
【0026】
樹脂シートの混合溶媒(A)における不溶分量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、好ましくは85質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下である。樹脂シートの混合溶媒(A)における不溶分量が上記の下限以上であると、透明性を向上しやすく、該不溶分量が上記の上限以下であると、接着加工性を向上しやすい。なお、不溶分の質量は、樹脂シートを混合溶媒に混合させた後、固液分離し、固層を取り出し、質量変化がなくなるまで真空乾燥を行った後に質量を測定することで得られ、その割合である不溶分量(質量%)は、以下の式(6):
トルエン/酢酸不溶分の質量分率=Ma/Mc×100 (6)
[式中、Mcは樹脂シートの質量(g)であり、Maはトルエン/酢酸不溶分の質量(g)]
に従って算出でき、より詳細には実施例に記載の方法により算出できる。
【0027】
本発明の一実施態様において、本発明の樹脂シートは、カルボン酸単位の含有量をa(モル%)、不溶分量をb(質量%)とした場合に、
下記式(1)及び(2):
2≦a≦9 (1)
-7.8×a+96≦b≦90 (2)
を満たすことが好ましい。式(1)及び式(2)を満たすと、本発明の樹脂シートは優れた透明性を発現しやすい。具体的には、本発明の樹脂シートにおいて、カルボン酸単位の含有量が大きければ、樹脂シートを中間膜とする合わせガラス作製後に徐冷した際、結晶化が抑制されやすくなるため、架橋度が比較的小さくても透明性を担保しやすい。逆に架橋度が大きければ、該結晶化が抑制されやすいため、カルボン酸単位の含有量が小さくても透明性を担保しやすい。そのため、カルボン酸単位の含有量に応じて架橋度を最適化することができる。式(2)はカルボン酸単位(aモル%)の含有量と、架橋度に対応する不溶分量(b質量%)との関係を最適化した式である。さらに、本発明の樹脂シートが式(1)及び式(2)を満たすと、本発明の効果を発現するために最適なカルボン酸単位量と架橋度とをバランス良く有し得るため、強度、接着加工性及び高温環境下での自立性も向上しやすい。
【0028】
本発明の樹脂シートの厚みは0.2mm以上3mm未満である。樹脂シートの厚みが0.2mm未満であると、強度が十分でなく、また電子線の加速電圧にもよるが架橋度が高くなりすぎる傾向にあるため、十分な接着加工性が得られない傾向にある。また、樹脂シートの厚みが3mm以上であると、樹脂シートの透明性及びロール巻取り性が十分でなく、かつ着色度が高くなる傾向にある。また、電子線の加速電圧にもよるが厚み方向の照射ムラが生じやすい傾向にあるため、電子線架橋度のバラツキが生じ、これによる樹脂シートの透明度のバラツキや部分的な着色が発生しやすい傾向にある。本発明の樹脂シートは、厚みが0.2mm以上3mm未満であるため、十分な透明性、強度、接着加工性及びロール巻取り性、並びに低着色度を有することができる。
【0029】
本発明の樹脂シートの厚みは、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは0.8mm以上であり、好ましくは2.5mm以下、より好ましくは2.0mm以下である。樹脂シートの厚みが上記の下限以上であると、樹脂シートの強度及び接着加工性を向上しやすく、該厚みが上記の上限以下であると、樹脂シートの透明性及びロールの巻取り性を高めやすいとともに、着色度を低減しやすく、かつ透明性のバラツキや部分的な着色を抑制しやすい。なお、樹脂シートの厚さは、例えば接触式又は非接触式の厚み計などを用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0030】
本発明の樹脂シートは、50℃での貯蔵弾性率が、好ましくは50MPa以上、より好ましくは70MPa以上、さらに好ましくは100MPa以上であり、好ましくは300MPa以下、より好ましくは250MPa以下、さらに好ましくは200MPa以下である。50℃での貯蔵弾性率が上記範囲であると、高温環境下(例えば50℃程度)における優れた自立性を発現しやすい。なお、50℃における貯蔵弾性率は、例えば樹脂シートに含まれる樹脂のカルボン酸単位(A)及びカルボン酸中和物単位(B)の比率、特にカルボン酸中和物単位(B)の比率を適宜変更することにより、所定範囲にすることができる。樹脂のカルボン酸単位(A)及びカルボン酸中和物単位(B)の比率、特にカルボン酸中和物単位(B)の比率が大きくなるほど、50℃における貯蔵弾性率が高くなる傾向にある。
【0031】
本発明の樹脂シートは、140℃での貯蔵弾性率が、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.3MPa以上、さらに好ましくは0.5MPa以上であり、好ましくは2.5MPa以下、より好ましくは2.0MPa以下、さらに好ましくは1.5MPa以下、特に好ましくは1.3MPa以下である。140℃での貯蔵弾性率が上記範囲であると、合わせガラス作製時の優れた接着加工性を発現しやすい。貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置を用いて、測定温度50℃又は140℃、周波数1Hzの条件で測定することができ、例えば実施例に記載の方法により測定できる。なお、140℃における貯蔵弾性率は、例えば樹脂シートの照射工程における電子線の加速電圧や照射線量を適宜調整することにより、所定範囲にすることができる。電子線の加速電圧及び照射線量が小さくなるほど、電子線架橋度が低減されるため、140℃における貯蔵弾性率が低くなる傾向がある。
【0032】
本発明の一実施態様において、本発明の樹脂シートは着色度が小さく、好ましくは無色である。本発明の樹脂シートの黄色度(YI)は好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.5以下である。黄色度(YI)が上記の上限以下であると、低着色度を有しやすい。黄色度(YI)の下限は0以上である。なお、黄色度(YI)は測色色差計を用い、JIS Z8722に準拠して測定した値を基に、JIS K7373に準拠して測定でき、例えば実施例に記載の方法により算出できる。
【0033】
本発明の樹脂シートは、シート自体の透明性に優れるとともに、該樹脂シートを中間膜として形成した合わせガラスの透明性にも優れる。本発明の樹脂シートを中間膜として含む合わせガラスの透明性は、例えば、該合わせガラスを140℃まで加熱後、0.1℃/分の速度で23℃に徐冷した後のヘーズ(徐冷ヘーズともいう)で評価することができ、該徐冷ヘーズは、後述の[合わせガラス用中間膜及び合わせガラス]の項に記載のヘーズと同じである。
【0034】
本発明の樹脂シートは、ガラスとの接着性の観点から、含水量が少ない方が好ましい。含水量は、樹脂シートの質量に対して、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.02質量%以下であり、特に好ましくは0.01質量%以下である。
【0035】
本発明の樹脂シートに含まれる樹脂(x)の含有量は、該樹脂シートの質量に対して、好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。樹脂(x)の含有量が上記の下限以上であると、透明性、強度、高温環境下での自立性及び接着加工性を向上しやすく、かつ着色度を低減しやすい。また、該樹脂の含有量の上限は100質量%以下である。
【0036】
本発明の樹脂シートは、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、老化防止剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、光安定剤、膠着防止剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、有機色素、艶消し剤、蛍光体などの添加剤を含んでいてもよい。これらの中でも、紫外線吸収剤及びシランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0037】
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する機能を有する化合物である。
【0038】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類などが挙げられる。これらの紫外線吸収剤は単独又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0039】
ベンゾトリアゾール類は紫外線被照による着色などの光学特性低下を抑制する効果が高いため、紫外線吸収剤として好ましい。ベンゾトリアゾール類としては、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN329)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-t-オクチルフェノール]((株)ADEKA製;LA-31)、2-(5-オクチルチオ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tert-ブチル-4-メチルフェノールなどが挙げられる。
【0040】
また、トリアジン類の紫外線吸収剤としては、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン((株)ADEKA製;LA-F70)や、その類縁体であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製;TINUVIN477やTINUVIN460)、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジンなどが挙げられる。
【0041】
シランカップリング剤としては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジエトキシシランなどが挙げられる。これらのシランカップリング剤は単独又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0042】
老化防止剤としては、公知の材料を使用することができる。具体的には、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,5-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ(t-ブチル)-4-メチルフェノール、モノ(又はジ、又はトリ)(α-メチルベンジル)フェノール等のフェノール系化合物;2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)等のビスフェノール系化合物;2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトメチルベンズイミダゾール等のベンズイミダゾール系化合物;6-エトキシ-1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン、ジフェニルアミンとアセトンの反応物、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体等のアミン-ケトン系化合物;N-フェニル-1-ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン等の芳香族二級アミン系化合物;1,3-ビス(ジメチルアミノプロピル)-2-チオ尿素、トリブチルチオ尿素等のチオウレア系化合物などが挙げられる。これらの老化防止剤は単独又は2種以上組み合わせ使用できる。
【0043】
酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単体で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものである。例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。これらの酸化防止剤は単独又は2種以上組み合わせ使用できる。中でも、着色による光学特性の劣化防止効果の観点から、リン系酸化防止剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤との併用がより好ましい。
【0044】
リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを併用する場合、リン系酸化防止剤の使用量:ヒンダードフェノール系酸化防止剤の使用量は、質量比で、(1:5)~(2:1)が好ましく、(1:2)~(1:1)がより好ましい。
【0045】
リン系酸化防止剤としては、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト((株)ADEKA製;商品名:アデカスタブHP-10)、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製;商品名:IRGAFOS168)、3,9-ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサー3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン((株)ADEKA製;商品名:アデカスタブPEP-36)などが好ましい。
【0046】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(BASF社製;商品名IRGANOX1010)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製;商品名IRGANOX1076)などが好ましい。
【0047】
熱劣化防止剤は、実質上無酸素の状態下で高熱にさらされたときに生じるポリマーラジカルを捕捉することによって樹脂の熱劣化を防止できるものである。該熱劣化防止剤としては、2-t-ブチル-6-(3’-t-ブチル-5’-メチル-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(住友化学(株)製;商品名スミライザーGM)、2,4-ジ-t-アミル-6-(3’,5’-ジ-t-アミル-2’-ヒドロキシ-α-メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学(株)製;商品名スミライザーGS)などが好ましい。
【0048】
光安定剤は、主に光による酸化で生成するラジカルを捕捉する機能を有する化合物である。好適な光安定剤としては、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物等のヒンダードアミン類が挙げられる。
【0049】
膠着防止剤としては、脂肪酸の塩もしくはエステル、多価アルコールのエステル、無機塩、無機酸化物、粒子状の樹脂が好ましい。具体例としては、ステアリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、二酸化ケイ素(エボニック社製;商品名アエロジル)、粒子状のアクリル樹脂などが挙げられる。
【0050】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアロアミド酸、メチレンビスステアロアミド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、パラフィンワックス、ケトンワックス、オクチルアルコール、硬化油などが挙げられる。
【0051】
離型剤としては、例えば、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0052】
高分子加工助剤としては、通常、乳化重合法によって製造できる、0.05~0.5μmの粒子径を有する重合体粒子を用いることができる。該重合体粒子は、単一組成比及び単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよいし、また組成比又は極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。この中でも、内層に低い極限粘度を有する重合体層を有し、外層に5dl/g以上の高い極限粘度を有する重合体層を有する2層構造の粒子が好ましいものとして挙げられる。高分子加工助剤は、極限粘度が3~6dl/gであることが好ましい。極限粘度が小さすぎると成形性の改善効果が低い傾向がある。極限粘度が大きすぎると共重合体の成形加工性の低下を招く傾向がある。
【0053】
有機色素としては、紫外線を可視光線に変換する機能を有する化合物が好ましく用いられる。
【0054】
蛍光体としては、例えば蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤などが挙げられる。
【0055】
これらの添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜決定でき、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。また、添加剤の含有量の下限は0質量%以上である。
【0056】
本発明の樹脂シートは、樹脂及び任意に添加剤を含んでなる層(層(x)ともいう)のみ構成されていてもよく、層(x)を少なくとも1層含む積層体であってもよい。前記積層体としては、特に限定されないが、例えば、層(x)と他の層が積層した2層体や、2つの層(x)の間に他の層が配置されている積層体などが挙げられる。
【0057】
前記他の層としては、公知の樹脂を含む層が挙げられる。該樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエステルのうちポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリイミド、熱可塑性エラストマーなどを用いることができる。また、他の層も、必要に応じて、前記添加剤を含んでいてもよい。
【0058】
[樹脂シートの製造方法]
本発明の樹脂シートの製造方法は、特に限定されないが、例えば、カルボン酸単位、カルボン酸中和物単位、及びエチレン単位を含有する樹脂を含んでなる原料シートに、加速電圧が200~5000kVかつ照射線量が10~500kGyの電子線を照射する工程(以下、照射工程ともいう)を含む方法であることが好ましい。
【0059】
<原料樹脂の製造>
原料シートに含まれる樹脂(原料樹脂ともいう)は、本発明の樹脂(x)が電子線架橋される前のものである。そのため、原料樹脂を構成する構成単位は、電子線架橋されていないこと以外は、それぞれ、樹脂(x)に含まれる構成単位と同じである。すなわち、原料樹脂は、前記カルボン酸単位、前記カルボン酸中和物単位、前記エチレン単位、及び任意に前記他の構成単位(例えばカルボン酸エステル単位(D))を含有していてもよい。また、電子線架橋前後で、樹脂を構成する構成単位の比率はほとんど変化し得ないことから、原料樹脂(x)の各構成単位の比率は、例えば樹脂(x)の上記各構成単位の比率と同じ範囲から選択できる。
【0060】
原料樹脂の製造方法としては、特に限定されないが、例えばエチレン及びカルボン酸エステルを高温・高湿下で共重合してエチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)を得た後、そのカルボン酸エステル単位の全部又は一部をカルボン酸単位及びカルボン酸中和物単位に変換する方法が挙げられる。
カルボン酸エステル単位の全部又は一部をカルボン酸単位及びカルボン酸中和物単位に変換する方法としては、アルカリ、例えば水酸化ナトリウム等を用いてカルボン酸エステル単位の全部又は一部をけん化し、カルボン酸中和物単位に変換することで、エチレン-カルボン酸中和物共重合体、又はエチレン-カルボン酸エステル-カルボン酸中和物共重合体を得た後、該カルボン酸中和物単位の一部を酸により脱金属してカルボン酸単位に変換する方法(以下、方法(1)ともいう)が挙げられる。別の方法としては、上記けん化により、カルボン酸エステル単位の全部又は一部をカルボン酸中和物単位に変換した後、該カルボン酸中和物単位のすべてを酸により脱金属してカルボン酸単位に変換した後、さらにその一部をアルカリ金属又はアルカリ土類金属にて中和する方法(以下、方法(2)ともいう)が挙げられる。
なお、エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)のカルボン酸エステル単位の全部をカルボン酸単位及びカルボン酸中和物単位に変換した場合、エチレン単位、カルボン酸単位、及びカルボン酸中和物単位を有する原料樹脂を製造でき、該カルボン酸エステル単位の一部をカルボン酸単位及びカルボン酸中和物単位に変換した場合、エチレン単位、カルボン酸単位、カルボン酸中和物単位、及びカルボン酸エステル単位を有する原料樹脂を製造できる。
【0061】
上記製造方法の原料であるカルボン酸エステルとしては、例えば、上述の不飽和カルボン酸エステルを用いることができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル等の(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルとを比較すると、得られる樹脂の耐熱分解、低着色性に優れるため、メタクリル酸エステルの方が好ましい。カルボン酸エステルは、単独又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0062】
エチレン―カルボン酸エステル共重合体(X)の具体例としては、エチレン―アクリル酸メチル共重合体、エチレン―メタクリル酸メチル共重合体、エチレン―アクリル酸エチル共重合体、エチレン―メタクリル酸エチル共重合体、エチレン―アクリル酸n-プロピル共重合体、エチレン―メタクリル酸n-プロピル共重合体、エチレン―アクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン―メタクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン―アクリル酸n-ブチル共重合体、エチレン―メタクリル酸n-ブチル共重合体、エチレン―アクリル酸sec-ブチル共重合体、エチレン―メタクリル酸sec-ブチル共重合体等が挙げられる。これらの共重合体は、市販のものを用いてもよいし、米国特許出願公開第2013/0274424号明細書、特開2006-233059号公報、又は特開2007-84743号公報を参考に合成してもよい。
【0063】
エチレン―カルボン酸エステル共重合体(X)中のカルボン酸エステル単位の含有量としては、好ましくは3.0モル%以上、より好ましくは3.5モル%以上、さらに好ましくは4.0モル%以上であり、好ましくは12モル%以下、より好ましくは11モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。カルボン酸エステル単位の含有量が上記範囲であると、得られる樹脂のカルボン酸単位及びカルボン酸中和物単位の含有量を好適な範囲に調整しやすい。
【0064】
本発明の一実施態様において、エチレン―カルボン酸エステル共重合体(X)の190℃、2.16Kgfの条件で測定したメルトフローレート(MFR)は、好ましくは90g/10分以上、より好ましくは100g/10分以上、さらに好ましくは150g/10分以上であり、好ましくは400g/10分以下、より好ましくは350g/10分以下、さらに好ましくは330g/10分以下である。エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)のMFRを上記範囲にすることで、得られる樹脂の成形加工性と強度を両立しやすい。エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)のMFRは、該共重合体の重合度とカルボン酸エステル単位の含有率により調整し得る。
【0065】
本発明の一実施態様において、エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)の重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で、好ましくは15,000g/モル以上、より好ましくは20,000g/モル以上、さらに好ましくは30,000g/モル以上であり、好ましくは200,000g/モル以下、より好ましくは100,000g/モル以下である。また、エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)の数平均分子量(Mn)は、好ましくは5,000g/モル以上、より好ましくは10,000g/モル以上、さらに好ましくは15,000g/モル以上であり、好ましくは100,000g/モル以下、より好ましくは50,000g/モル以下である。エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)のMw及びMnが上記範囲であると、得られる樹脂の成形加工性、強度及び高温環境下での自立性を向上しやすい。なお、重量平均分子量及び数平均分子量は、例えば、カラム(TSKgel GMHHR-H(20)HTの3本直列)を用いて、カラム温度140℃及び1,2,4-トリクロロベンゼン溶媒で測定できる。また、原料樹脂の重量平均分子量(Mw)は、エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)のMwと同じ範囲から選択できる。
【0066】
本発明の一実施態様において、エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)の炭素1000個当たりの分岐度は、特に制限はないが、好ましくは5~30、より好ましくは6~20である。炭素1000個当たりの分岐度の分析は、例えばエチレン-カルボン酸エステル共重合体を重水素化オルトジクロロベンゼンに溶解させ、13C-NMRのインバースゲートデカップリング法を用いて行うことができる。
【0067】
上記方法(1)及び(2)において、アルカリにてけん化反応を行う際の溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;クロロホルム、ジクロロベンゼン等のハロゲン含有溶媒;メチルブチルケトン等の炭素数が6以上のケトン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は単独又は2種以上組み合わせて使用することができ、溶媒を2種以上用いる場合、例えば炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合溶媒や、芳香族系溶媒とアルコール系溶媒との混合溶媒などを使用してもよい。
【0068】
上記方法(1)及び(2)において、アルカリにてけん化反応を行う際の温度としては、その反応性及びエチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)の溶解性の観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましく、80℃以上が最も好ましい。該温度の上限は特に制限されないが、エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)が分解しない温度が好ましく、例えば300℃以下である。
【0069】
上記方法(1)及び(2)において、脱金属化に用いる酸としては、例えば酢酸、塩酸、硝酸、硫酸など公知の有機酸又は無機酸を用いることができる。脱金属化に用いる溶媒としては、けん化反応を行う際と同様の溶媒を選択することができる。
【0070】
方法(2)において、中和の際に用いる中和剤としては、上述の金属イオンを含有するイオン性の化合物であれば特に限定はない。金属イオンとしては、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属イオンや、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属イオンや、亜鉛、ニッケル、鉄、チタン等の遷移金属イオン、アルミニウムイオンなどが挙げられる。例えば、金属イオンがナトリウムカチオンの場合の中和剤としては、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。また、カルボン酸ナトリウム単位を含有するアイオノマー等の重合体も中和剤として用いることができる。
【0071】
原料樹脂の製造方法としては、上記の方法の他、エチレン、前記カルボン酸及び前記カルボン酸エステルを高温・高圧にて共重合した後、カルボン酸単位の一部を中和する方法などが挙げられ、例えば、特開昭59-133217号公報、米国特許第6518365号明細書、米国特許第8399096号明細書における樹脂の製造方法を参照することができる。
【0072】
<原料シートの製造>
本発明の原料シートの製造方法は、特に限定されず、例えば、原料樹脂、又は、原料樹脂に必要に応じて添加剤を添加した樹脂組成物を均一に混練、好ましくは溶融混練した後、押出法、カレンダー法、圧縮成形法、プレス法、溶液キャスト法、溶融キャスト法、インフレーション法等の公知の製膜方法により層を形成することで得ることができる。原料シートが積層体である場合、該層と他の層とを共押出法により成形して積層樹脂シートとしてもよい。なお、原料樹脂を混練、好ましくは溶融混練中に前記添加剤を添加してもよい。
【0073】
公知の製膜方法の中でも、特に圧縮成形法や押出法を用いた樹脂シートの製造方法が好ましく用いられる。圧縮成形時や押出時の樹脂温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上であり、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。樹脂温度が上記の上限以下であると、樹脂の分解や劣化を抑制しやすい。逆に樹脂温度が上記の下限以上であると、樹脂の成形性を向上しやすい。また、例えば押出機を使用する場合、揮発性物質を効率的に除去するためには、押出機のベント口から減圧により、揮発性物質を除去することが好ましい。
【0074】
<照射工程>
本発明の樹脂シートは、前記原料シートに、加速電圧が200~5000kVかつ照射線量が10~500kGyの電子線を照射する工程を含む方法により得ることができる。
【0075】
樹脂シートの電子線架橋度は、電子線の加速電圧及び照射線量の大きさにより調整することができ、加速電圧及び照射線量が大きくなるにつれて、樹脂シートの電子線架橋度が大きくなる傾向があり、逆に加速電圧及び照射線量が小さくなるにつれて、樹脂シートの電子線架橋度が小さくなる傾向にある。
【0076】
電子線の加速電圧は、樹脂シートの厚みに応じて適宜選択でき、好ましくは500kV以上、より好ましくは1000kV以上、さらに好ましくは1500kV以上であり、好ましくは4500kV以下、より好ましくは3500kV以下、さらに好ましくは2500kV以下である。加速電圧が上記の下限以上であると、樹脂シートの透明性を向上しやすい。また樹脂シートの深部まで架橋しやすいため、厚み方向の照射ムラが生じにくく、これによる樹脂シートの透明度のバラツキや部分的な着色を抑制しやすい。逆に、加速電圧が上記の上限以下であると、過剰な架橋を抑制しやすく、合わせガラス作製時の接着加工性を向上しやすい。
【0077】
電子線の照射線量は、原料樹脂のカルボン酸単位の量に応じて適宜選択でき、好ましくは15kGy以上、より好ましくは20kGy以上であり、好ましくは400kGy以下、より好ましくは300kGy以下、さらに好ましくは250kGy以下である。電子線の照射線量が上記の下限以上であると樹脂シートの透明性を向上しやすい。また、電子線の照射線量が上記の上限以下であると樹脂シートの接着加工性を向上しやすく、着色も抑制しやすい。
【0078】
本発明の一実施態様における製造方法において、原料シートの厚みをt(mm)、前記加速電圧をV(kV)、及び原料シートの比重をρ(g/m3)とした場合に、
下記式(3):
33.4×V5/3÷ρ≧t (3)
を満たすことが好ましい。式(3)は加速電圧Vに対する原料シートの厚み範囲を最適化したものであり、式(3)を満たすと、樹脂シートの深部まで架橋しやすいため、厚み方向の照射ムラが生じにくく、これによる樹脂シートの透明度のバラツキや部分的な着色を抑制しやすい。なお、原料シートの厚みt(mm)の上限は3mm未満であることが好ましい。
【0079】
本発明の一実施態様における製造方法において、原料シートのカルボン酸単位の含有量をa’(モル%)、及び前記照射線量をc(kGy)とした場合に、
下記式(4)及び(5):
2≦a’≦9 (4)
-15×a’+115≦c≦500 (5)
を満たすことが好ましい。式(5)はカルボン酸単位の含有量に対する電子線の照射線量cの範囲を最適化したものであり、式(4)及び式(5)を満たすと、カルボン酸単位の含有量に対する架橋度(不溶分量)を好適な範囲に調整しやすいため、得られる樹脂シートの透明性、強度、接着加工性及び高温環境下での自立性を高めやすい。
【0080】
電子線の照射方法としては、原料シートに所定の電子線が照射できれば、特に限定されないが、例えば、支持材上に樹脂シートを設置し、電子線照射装置等により、所定の電子線をシート面に照射する方法などが挙げられる。シート面に対する電子線の照射角度は、特に限定されないが、シート面に対して垂直方向から照射することが好ましい。
【0081】
このような本発明の製造方法を用いることにより、透明性、強度、高温環境下での自立性、及び接着加工性に優れた樹脂シートを得ることができる。
【0082】
[合わせガラス用中間膜及び合わせガラス]
本発明は、本発明の樹脂シートからなる合わせガラス用中間膜(単に中間膜ともいう)を包含する。また、本発明は、2つのガラス板と、該2つのガラス板の間に配置された該合わせガラス用中間膜とを有する合わせガラスも包含する。
【0083】
本発明の合わせガラスは、前記樹脂シートからなる合わせガラス用中間膜を有するため、透明性、強度、高温環境下での自立性、及び製造時の中間膜とガラス板との接着加工性に優れている。
【0084】
本発明の中間膜と積層させるガラス板は、例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、熱線吸収板ガラスなどの無機ガラスのほか、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートなどの従来公知の有機ガラス等を使用できる。これらは無色又は有色のいずれであってもよい。これらは1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、ガラスの厚さは、100mm以下であることが好ましい。
【0085】
本発明の樹脂シートを2枚のガラスに挟んでなる合わせガラスは、従来公知の方法で製造できる。例えば真空ラミネーター装置を用いる方法、真空バッグを用いる方法、真空リングを用いる方法、ニップロールを用いる方法等が挙げられる。また上記方法により仮圧着した後に、オートクレーブに投入して本接着する方法も挙げられる。
【0086】
真空ラミネーター装置を用いる場合、例えば1×10-6~1×10-1MPaの減圧下、60~200℃、特に80~160℃でガラス板、中間膜、及び任意に接着性樹脂層等がラミネートされる。真空バッグ又は真空リングを用いる方法は、例えば欧州特許第1235683号明細書に記載されており、約2×10-2~3×10-2MPa程度の圧力下、100~160℃でラミネートされる。
【0087】
ニップロールを用いる製造方法としては、中間膜の流動開始温度以下の温度でロールにより脱気した後、さらに流動開始温度に近い温度で圧着を行う方法が挙げられる。具体的には、例えば赤外線ヒーターなどで30~70℃に加熱した後、ロールで脱気し、さらに50~120℃に加熱した後ロールで圧着させる方法が挙げられる。
【0088】
上述の方法を用いて圧着させた後にオートクレーブに投入してさらに圧着を行う場合、オートクレーブ工程の運転条件は合わせガラスの厚さや構成により適宜選択されるが、例えば0.5~1.5MPaの圧力下、100~160℃にて0.5~3時間処理することが好ましい。
【0089】
本発明の合わせガラスは透明性に優れる。例えば、本発明の合わせガラスを140℃まで加熱後、0.1℃/分の速度で23℃に徐冷した後のヘーズ(徐冷ヘーズ)は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは4.0%以下、特に好ましくは3.5%以下、より特に好ましくは3.0%以下である。徐冷ヘーズが上記の上限以下であると、合わせガラスの透明性を向上しやすい。また、合わせガラスの徐冷ヘーズの下限は特に限定されないが、通常0.01%以上である。なお、合わせガラスの徐冷ヘーズは、合わせガラスを140℃まで加熱した後、0.1℃/分の速度で23℃に徐冷した後、ヘーズメーターを用いてJIS K7136:2000に準拠して測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0090】
本発明の合わせガラスは着色が少なく、可能な限り、無色であることが好ましい。本発明の合わせガラスの黄色度(YI)は、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.0以下、より特に好ましくは0.5以下である。本発明の合わせガラスの黄色度の下限は、特に限定されないが、通常0以上である。
【0091】
本発明の合わせガラスと中間膜の接着力は高い方が好ましい。例えば、国際公開第1999/058334号に記載の圧縮せん断強度試験(Compression shear strength test)により評価した値が15MPa以上であることが好ましく、20MPa以上がより好ましく、25MPa以上が最も好ましい。上限は特に規定されないが100MPa以下である。
【0092】
上記したように、本発明の樹脂シートは合わせガラス用中間膜として有用である。該合わせガラス用中間膜は、透明性、強度、高温環境下での自立性、及び製造時の接着加工性に優れる点から、特に、構造材料用合わせガラスの中間膜として好ましい。また、構造材料用合わせガラスの中間膜に限らず、自動車等の移動体、建築物、太陽電池などの各種用途における合わせガラス用中間膜としても好適であるが、これらの用途に限定されるものではない。
【実施例0093】
以下、実施例及び比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0094】
[実施例・比較例で用いる樹脂の分析]
樹脂シートの原料として用いた樹脂(IO1~IO7)について、メタクリル酸単位(カルボン酸単位)、メタクリル酸中和物単位(カルボン酸中和物単位)、及びエチレン単位の含有量の分析は以下のようにして行った。
【0095】
実施例及び比較例において、樹脂シートの原料として用いた樹脂を脱水トルエン/脱水酢酸(75/25(質量比))の混合溶媒に溶解し、100℃にて2時間反応させた後、アセトン/水(80/20(質量比))の混合溶媒に再沈殿させることでメタクリル酸中和物をメタクリル酸単位に変換した。得られた樹脂を十分水で洗浄した後、乾燥することにより樹脂を得た。
(1)次いで、熱分解GC-MSにより、得られた樹脂を構成する重合単位の成分分析を行った。
(2)次いで、JIS K0070-1992に準じて、得られた樹脂の酸価を測定した。
(3)また、重水素化トルエンと重水素化メタノールの混合溶媒にて、得られた樹脂の1H-NMR(400MHz、日本電子(株)製)測定を行った。
(4)また、樹脂シートの原料として用いた樹脂をそれぞれ硝酸によるマイクロ波分解前処理した後、ICP発光分析(Thermo Fisher Scientific iCAP6500Duo)にて、メタクリル酸中和物の金属イオンの種類と量を同定した。
上記(1)から、メタクリル酸単位の種類と構造を同定し、その情報を基に、(2)と(3)の情報から、エチレン単位/(メタクリル酸単位とメタクリル酸中和物単位の合計)の比率を算出した。さらに(4)の情報から、エチレン単位/メタクリル酸単位/メタクリル酸中和物単位の比率を算出した。
【0096】
[耐貫通性]
実施例及び比較例で得られた樹脂シートから縦60mm×横60mmの試験片を切り出し、落錘式衝撃試験機(インストロン社製CEAST9350)を用い、ASTM D3763に準拠して、測定温度23℃、荷重2kg、衝突速度9m/secの条件にて試験を行い、試験片貫通の際の、ストライカ先端が試験片に接した(試験力を感知した)瞬間から貫通する(試験力がゼロに戻る)までのSSカーブの面積から貫通エネルギー(J)を算出した。
【0097】
[貯蔵弾性率]
実施例及び比較例で得られた樹脂シートから縦40mm×横5mmの試験片を切り出し、(株)UBM製動的粘弾性測定装置を用いて、測定温度50℃、周波数1Hzの条件で、貯蔵弾性率(E’)を測定した。測定温度50℃における貯蔵弾性率が50~300MPaの範囲である場合、高温環境下における樹脂シート(合わせガラス用中間膜)の自立性が良好となる。
【0098】
また同様に、測定温度140℃、周波数1Hzの条件で、貯蔵弾性率(E’)を測定した。測定温度140℃における貯蔵弾性率が0.1~2.5MPaである場合、樹脂シート(合わせガラス用中間膜)を用いて合わせガラスを作製する際に接着加工性が良好となる。
【0099】
[着色性]
実施例及び比較例で得られた樹脂シートを日本電色工業(株)製の測色色差計「ZE-2000」(商品名)を用い、JIS Z8722に準拠して測定した。得られた値を元にJIS K7373に準拠して黄色度(YI)を算出した。
【0100】
[トルエン/酢酸不溶分の含有量(不溶分量)]
実施例及び比較例で得られた樹脂シート(0.1g)を脱水トルエン/脱水酢酸(75/25(質量比))の混合溶媒(9.9g)に浸漬して、マグネチックスターラーで撹拌下、60℃加熱下で5時間振とうさせたのち、ナイロンフィルターメッシュを用いて濾過し、固液分離した。膨潤体を含む固層を取り出し、質量変化がなくなるまで上記真空乾燥機を用いて0.1kPa、70℃の条件にて真空乾燥を行い、乾燥後の質量を測定し、トルエン/酢酸不溶分の質量とした。下記式(6)で表されるトルエン/酢酸不溶分の質量分率(不溶分量(質量%))を算出した。
トルエン/酢酸不溶分の質量分率=Ma/Mc×100 (6)
[式中、Mcは樹脂シートの質量(g)であり、Maはトルエン/酢酸不溶分の質量(g)]
【0101】
[ロール巻取性]
実施例及び比較例で得られた樹脂シートについて、オートグラフ((株)島津製作所製、AGS-5kNX)を使用して、JISK7117に準拠して3点曲げ試験を行い、変形速度1mm/minの速度でひずみ10%まで変形させた際の試験片にクラックなどの欠陥が生じなかった場合をA、試験片にクラックなどの欠陥が生じた場合をBと評価した。
【0102】
[透明性]
実施例及び比較例で得られた樹脂シートを厚さ2.7mmのフロートガラス2枚に挟み、真空ラミネーター(日清紡メカトロニクス(株)製 1522N)を使用し100℃で真空ラミネーター内を1分減圧し、減圧度、温度を保持したまま30kPaで5分プレスして、仮接着体を得た。得られた仮接着体をオートクレーブに投入し140℃、1.2MPaで30分処理して、合わせガラスを得た。
【0103】
上述の方法にて得られた合わせガラスを140℃まで加熱したのち、0.1℃/分の速度で23℃まで徐冷した。徐冷操作後の合わせガラスのヘーズをヘーズメーターHZ-1(スガ試験機(株)製)を用いてJIS K7136:2000に準拠して測定した。
【0104】
[膜厚の測定]
原料シートの厚みは、デジタルマイクロゲージを用いて測定した。
【0105】
[原料として用いた樹脂]
実施例及び比較例で得られた樹脂シートの原料として用いた樹脂(IO1~IO7)は、メタクリル酸単位(カルボン酸単位)、メタクリル酸中和物単位(カルボン酸中和物単位)、及びエチレン単位を有するアイオノマーであり、その含有量及び該中和物単位の金属種を表1に示す。
【0106】
【0107】
[実施例1]
表1に示すIO1(「ハイミラン1707」、三井・ダウ・ポリケミカル社製)50gをラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)により、200℃、100rpmで3分間溶融混練を行うことで溶融混練物を得た。得られた溶融混練物を200℃加熱下、50kgf/cm2の圧力にて5分間圧縮成形し、厚さ0.8mmの原料シートを得た。得られた原料シートを移動可能なカートに設置された支持材上に固定し、電子線照射装置(RDI社製ダイナミトロン型電子加速器)を用い、加速電圧2000kV、電流20mAの条件にて、合計の照射線量が200kGyとなるように、シート面と垂直方向より電子線を照射した。得られた樹脂シートを分析し特性を評価した。得られた樹脂シートの膜厚は原料シートの膜厚と同じであった。実施例1の態様は、式(1)~(5)の関係式を満たす。
【0108】
[実施例2]
電子線の照射線量を120kGyに変えたこと以外は、実施例1と同様の方法で樹脂シートを得た。得られた樹脂シートを分析し特性を評価した。得られた樹脂シートの膜厚は原料シートの膜厚と同じであった。実施例2の態様は、式(1)~(5)の関係式を満たす。
【0109】
[実施例3]
表1に示すIO2を原料樹脂として使用し、電子線の照射線量を30kGyに変えたこと以外は、実施例1と同様の方法で樹脂シートを得た。得られた樹脂シートを分析し特性を評価した。得られた樹脂シートの膜厚は原料シートの膜厚と同じであった。実施例3の態様は、式(1)~(5)の関係式を満たす。
【0110】
[実施例4]
表1に示すIO2を原料樹脂として使用し、シランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及び3-グリシドキシプロピルジエトキシシラン0.015gを溶融混練時に加え、及び電子線の照射線量を20kGyに変えたこと以外は、実施例1と同様の方法で樹脂シートを得た。得られた樹脂シートを分析し特性を評価した。得られた樹脂シートの膜厚は原料シートの膜厚と同じであった。実施例4の態様は、式(1)~(5)の関係式を満たす。
【0111】
[実施例5]
紫外線吸収剤として2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)0.2gを溶融混練時に加え、及び電子線の照射線量を150kGyに変えたこと以外は、実施例1と同様の方法で樹脂シートを得た。得られた樹脂シートを分析し特性を評価した。得られた樹脂シートの膜厚は原料シートの膜厚と同じであった。実施例5の態様は、式(1)~(5)の関係式を満たす。
【0112】
[比較例1]
表1に示すIO3(ハイミラン1601、三井・ダウ・ポリケミカル社製)を原料樹脂として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で樹脂シートを得た。得られた樹脂シートを分析し特性を評価した。得られた樹脂シートの膜厚は原料シートの膜厚と同じであった。比較例1の態様は、式(3)及び式(5)を満たすが、式(1)、(2)及び(4)を満たさない。
【0113】
[比較例2]
表1に示すIO4を原料樹脂として使用し、電子線の照射線量を30kGyに変えたこと以外は、実施例1と同様の方法で樹脂シートを得た。得られた樹脂シートを分析し特性を評価した。得られた樹脂シートの膜厚は原料シートの膜厚と同じであった。比較例2の態様は、式(2)及び式(5)を満たすが、式(1)及び式(4)を満たさない。
【0114】
[比較例3]
表1に示すIO5を原料樹脂として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で樹脂シートを得た。得られた樹脂シートを分析し特性を評価した。得られた樹脂シートの膜厚は原料シートの膜厚と同じであった。比較例3の態様は、式(1)~(5)の関係式を満たす。
【0115】
[比較例4]
電子線の照射線量を1000kGyに変えたこと以外は、実施例1と同様の方法で樹脂シートを得た。得られた樹脂シートを分析し特性を評価した。得られた樹脂シートの膜厚は原料シートの膜厚と同じであった。比較例4の態様は、式(1)及び式(4)を満たすが、式(2)及び式(5)を満たさない。
【0116】
[比較例5]
表1に示すIO6を原料樹脂として使用し、得られる樹脂シートの厚さを3.0mmにし、電子線の加速電圧を500kV及び照射線量を120kGyに変えたこと以外は、実施例1と同様の方法で樹脂シートを得た。得られた樹脂シートを分析し特性を評価した。得られた樹脂シートの膜厚は原料シートの膜厚と同じであった。比較例5の態様は、式(1)~(5)の関係式を満たす。
【0117】
[比較例6]
表1に示すIO7(ハイミラン1650、三井・ダウ・ポリケミカル社製)を原料樹脂として使用し、得られる樹脂シートの厚さを0.1mmにし、電子線の加速電圧を150kV及び照射線量を120kGyに変えたこと以外は、実施例1と同様の方法で樹脂シートを得た。得られた樹脂シートを分析し特性を評価した。得られた樹脂シートの膜厚は原料シートの膜厚と同じであった。比較例6の態様は、式(2)を満たさないが、式(1)及び式(3)~(5)を満たす。
【0118】
[比較例7]
電子線の加速電圧を200kV及び照射線量を180kGyに変えたこと以外は、実施例1と同様の方法で樹脂シートを得た。得られた樹脂シートを分析し特性を評価した。得られた樹脂シートの膜厚は原料シートの膜厚と同じであった。比較例6の態様は、式(2)及び式(3)を満たさないが、式(1)、式(4)及び式(5)を満たす。
【0119】
実施例1~5及び比較例1~7で得られた樹脂シートの耐貫通性、貯蔵弾性率、着色性、トルエン/酢酸不溶分の含有量(不溶分量)、ロール巻取性、及び合わせガラスの透明性の評価結果を表2に示す。
【表2】
【0120】
表2に示される通り、実施例1~5で得られた樹脂シートは、貫通エネルギー(J)が高く、50℃における貯蔵弾性率が50~300MPaの範囲であり、140℃における貯蔵弾性率が0.1~2.5MPaの範囲であり、YIが低く、ロール巻取り性の評価結果がAであり、かつ合わせガラスの徐冷ヘーズが低いことが確認された。これに対して、比較例1~7で得られた樹脂シートは、貫通エネルギー(J)、50℃における貯蔵弾性率、140℃における貯蔵弾性率及び徐冷ヘーズのうち、少なくとも1つ以上において不良な結果となった。比較例5ではさらにYI及びロール巻取り性も不良であった。
【0121】
従って、実施例1~5で得られた樹脂シートは、透明性、強度、高温環境下での自立性、合わせガラス作製時の接着加工性及びロール巻取り性に優れ、かつ低着色性であることがわかった。