(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172512
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】酸化亜鉛鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 19/02 20060101AFI20221110BHJP
C22B 7/02 20060101ALI20221110BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
C22B19/02
C22B7/02 A
C22B1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078309
(22)【出願日】2021-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】越野 哲也
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA30
4K001BA14
4K001CA06
4K001CA16
4K001GA07
(57)【要約】
【課題】酸化亜鉛鉱の製造において、最終的に処理系外に排出する処理済み排ガスの水銀濃度を、低コストで、迅速に、且つ、高い精度で制御することができる酸化亜鉛鉱の製造方法を提供すること。
【解決手段】蛍光X線分析によって乾燥加熱工程装入物の鉛含有率を測定し、測定した鉛含有率から乾燥加熱工程装入物の水銀濃度を算出する、水銀濃度算出処理ST31と、乾燥加熱工程装入物の水銀濃度と乾燥加熱工程S30への装入量との積を、水銀負荷量とみなし、必要に応じて水銀負荷量を増加又は減少させる調整によって、排ガス処理工程S40から排出される処理済み排ガスの水銀濃度を所定の管理規準値範囲内に維持する、水銀負荷量調整処理ST32と、を行う、酸化亜鉛鉱の製造方法とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛を主成分とし、更に鉛及び水銀を含有する、乾燥加熱工程装入物を、乾燥加熱炉で焼成して、酸化亜鉛鉱を得る、乾燥加熱工程と、前記乾燥加熱工程で発生した排ガスから水銀を除去する、排ガス処理工程と、を含んでなる、酸化亜鉛鉱の製造方法であって、
蛍光X線分析によって前記乾燥加熱工程装入物の鉛含有率を測定し、測定した前記鉛含有率から前記乾燥加熱工程装入物の水銀濃度を算出する、水銀濃度算出処理と、
前記乾燥加熱工程装入物の水銀濃度と前記乾燥加熱工程への装入量との積を、水銀負荷量とみなし、必要に応じて前記水銀負荷量を増加又は減少させる調整によって、前記排ガス処理工程から排出される処理済み排ガスの水銀濃度を所定の管理規準値範囲内に維持する、水銀負荷量調整処理と、を行う、
酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥加熱工程装入物は、処理系外から前記乾燥加熱工程に直接装入される補助粗酸化亜鉛原料を含んでなり、
前記水銀負荷量調整処理においては、前記補助粗酸化亜鉛原料以外の乾燥加熱工程装入物のみの乾燥加熱工程への装入量の調整を、前記補助粗酸化亜鉛原料の装入量の調整よりも優先的に行う、
請求項1に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥加熱工程装入物は、前記排ガス処理工程から排出される排ガスダストを含有する排ガスダスト含有ケーキを含んでなり、
前記水銀負荷量調整処理は、前記排ガスダスト含有ケーキのみの前記乾燥加熱工程への装入量の調整を、他の装入物の装入量の調整よりも優先的に行う、
請求項1又は2に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項4】
前記水銀負荷量調整処理においては、前記乾燥加熱工程装入物を、前記乾燥加熱炉への装入前に処理系外へ排出する処理と、該処理により排出された前記乾燥加熱工程装入物を、処理系内に戻して前記乾燥加熱炉へ装入する処理と、を選択的に行うことにより、前記水銀負荷量を増加又は減少させる、
請求項1から3の何れかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項5】
前記排ガス処理工程から排出される処理済み排ガスの水銀濃度を連続的に測定する処理済排ガス水銀濃度測定処理を行い、
前記水銀負荷量調整処理においては、前記処理済み排ガスの水銀濃度が所定の上限値を超えた場合には、前記水銀負荷量を減少させる調整を行い、前記処理済み排ガスの水銀濃度が所定の下限値未満となった場合には、前記水銀負荷量を増加させる調整を行う、
請求項1から4の何れかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛鉱の製造方法に関する。本発明は、詳しくは、鉄鋼ダスト等、亜鉛と共に不純物として更に鉛及び微量の水銀を含有する原料を用いて、酸化亜鉛鉱を製造する場合に好適な酸化亜鉛鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、亜鉛製錬所における亜鉛地金の原料として、酸化亜鉛鉱が広く用いられている。酸化亜鉛鉱の原料となる粗酸化亜鉛は、例えば、鉄鋼業における高炉や電気炉等の製鋼炉から発生する鉄鋼ダストからも得ることができる。資源リサイクルの促進の観点からは、鉄鋼ダストの再利用は望ましいものである。しかし、一方で、鉄鋼ダストには、その主成分である酸化鉄や酸化亜鉛以外に、不純物として微量の水銀が含有されている。そして、最終的に製造プラントの処理系外に排出する処理済み排ガスの水銀濃度については、厳密に法定基準値を下回るように処理を行うことが必須であり、様々な方法によって処理系内で発生する排ガスから水銀を除去する排ガス処理が行われている(特許文献1参照)。
【0003】
水銀濃度を十分に低減させるための上記の排ガス処理は、従来、主として原料段階での水銀濃度を管理することによって最終的に処理系外に排出される処理済み排ガスの水銀濃度を一定濃度範囲内に制御する方法が広く採用されていた。この原料段階での水銀濃度の管理は、通常、原料として処理系外から処理系内に持ち込まれる水銀量、より具体的には、水銀濃度既知の各種原料の処理系内への投入量比を調整することによって行われていた。
【0004】
しかしながら、鉄鋼ダスト等の原料は、同じ原料であっても水銀濃度のバラツキが大きく、又、これを処理する酸化亜鉛鉱の製造過程においても、亜鉛回収率向上を目的として、下流側工程での回収物を上流側工程へ繰り返す処理も大量に行われる。このように、様々な水銀濃度の原料が、複雑な工程を経る酸化亜鉛鉱の製造工程において、最終的に処理系外に排出する「処理済み排ガスの水銀濃度」を、酸化亜鉛鉱を製造する全体の工程において、その原料調合段階での水銀濃度に依拠して推定する上記のような方法では、高い精度で「処理済み排ガスの水銀濃度」の管理を行うことは困難であった。
【0005】
従って、原料段階での水銀濃度に依拠する上記方法によって処理済み排ガスの水銀濃度を推定する場合には、十分な余裕を持って同濃度を規準値以下に保つために、処理済み排ガス水銀濃度の上記推定値のぶれ幅を十分に織り込んだ操業条件の調整が必要となる。このため、確実に安全性を維持するには、酸化亜鉛鉱の生産性についてはある程度、犠牲にした操業条件とせざるをえない場合が多くあった。
【0006】
これに対して、近年においては、水銀濃度を十分に低減させるための上記の排ガス処理を、最終製品となる酸化亜鉛鉱を産出する乾燥加熱工程に装入する中間生成物の水銀濃度と製品産出量とに基づいて水銀負荷量を求め、これを所定の管理規準値範囲内に維持する調整を行うことにより、最終的に処理系外に排出する「処理済み排ガスの水銀濃度」を高い精度で制御する方法も開発されている(特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、そもそも、ごく微量の割合で含まれているにすぎない水銀の濃度を、乾燥加熱工程に装入する上記の中間生成物段階で正確に測定するためには、専用の分析設備における分析が必須である。この分析は、具体的には、例えば、一定時間毎にサンプリングした粗酸化亜鉛ケーキを溶解処理して、原子吸光分析装置で測定することによって行うことができる(特許文献2段落[0035]参照))が、これには多くの時間と費用を要する。このため、酸化亜鉛鉱の製造現場では、排ガスの水銀濃度の制御コストを更に圧縮することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-79456号公報
【特許文献2】特開2020-132970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、酸化亜鉛鉱の製造において、最終的に処理系外に排出する処理済み排ガスの水銀濃度を、低コストで、迅速に、且つ、高い精度で制御することができる酸化亜鉛鉱の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、酸化亜鉛鉱の製造を行う全体プロセスの中で、乾燥加熱工程に装入する中間生成物や同工程に直接追加する補助的な原料(本明細書においては、これらを合わせて「乾燥加熱工程装入物」と言う)に、通常数%~60%程度の割合で含有されている鉛の含有率を、蛍光X線分析によって測定し、この測定値から、「乾燥加熱工程装入物」中に、ごく微量の割合で含まれている水銀の濃度を、十分な精度で算出可能なことに想到した。そして、このようにして算出した水銀濃度の値を活用することにより、処理系外に排出する処理済み排ガスの水銀濃度を、より低コストで、迅速に、且つ、高い精度で制御することができることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 亜鉛を主成分とし、更に鉛及び水銀を含有する、乾燥加熱工程装入物を、乾燥加熱炉で焼成して、酸化亜鉛鉱を得る、乾燥加熱工程と、前記乾燥加熱工程で発生した排ガスから水銀を除去する、排ガス処理工程と、を含んでなる、酸化亜鉛鉱の製造方法であって、蛍光X線分析によって前記乾燥加熱工程装入物の鉛含有率を測定し、測定した前記鉛含有率から前記乾燥加熱工程装入物の水銀濃度を算出する、水銀濃度算出処理と、前記乾燥加熱工程装入物の水銀濃度と前記乾燥加熱工程への装入量との積を、水銀負荷量とみなし、必要に応じて前記水銀負荷量を増加又は減少させる調整によって、前記排ガス処理工程から排出される処理済み排ガスの水銀濃度を所定の管理規準値範囲内に維持する、水銀負荷量調整処理と、を行う、酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0012】
(1)の酸化亜鉛鉱の製造方法によれば、酸化亜鉛鉱の製造において、独自の態様で行う「水銀濃度算出処理」と、「水銀負荷量調整処理」とを、必須の処理とすることによって、処理系外に排出する処理済み排ガスの水銀濃度を、低コストで、迅速に、且つ、高い精度で制御することができる。
【0013】
(2) 前記乾燥加熱工程装入物は、処理系外から前記乾燥加熱工程に直接装入される補助粗酸化亜鉛原料を含んでなり、前記水銀負荷量調整処理においては、前記補助粗酸化亜鉛原料以外の乾燥加熱工程装入物のみの乾燥加熱工程への装入量の調整を、前記補助粗酸化亜鉛原料の装入量の調整よりも優先的に行う、(1)に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0014】
(2)の酸化亜鉛鉱の製造方法においては、処理系外から乾燥加熱工程に直接装入される「補助粗酸化亜鉛原料」は、他の装入物と比較して、水銀濃度のバラツキが相対的に小さいことに着目し、それ以外の、相対的に水銀濃度のバラツキが大きい装入物、即ち、処理系外に排出する処理済み排ガスの水銀濃度の急激な変動を引き起こしやすい装入物について、優先的に乾燥加熱工程への装入量を調整することとした。これにより、各種の装入物の装入量調整の作業負担を減じることができ、より効率的に、且つ、高い精度で、処理済み排ガスの水銀濃度を抑制することができる。
【0015】
(3) 前記乾燥加熱工程装入物は、前記排ガス処理工程から排出される排ガスダストを含有する排ガスダスト含有ケーキを含んでなり、前記水銀負荷量調整処理は、前記排ガスダスト含有ケーキのみの乾燥加熱工程への装入量の調整を、他の装入物の装入量の調整よりも優先的に行う、(1)又は(2)に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0016】
(3)の酸化亜鉛鉱の製造方法においては、排出される排ガスダストを含有するケーキ(本明細書において「排ガスダスト含有ケーキ」と言う)が、相対的に水銀濃度が最も高い「乾燥加熱工程装入物」であることに着目し、他の装入物よりも優先的に乾燥加熱工程への装入量を調整することとした。これにより、乾燥加熱工程における生産量の変動幅を小さく抑えながら、処理済み排ガスの水銀濃度を抑制することができる。
【0017】
(4) 前記水銀負荷量調整処理においては、前記乾燥加熱工程装入物を、前記乾燥加熱炉への装入前に処理系外へ排出する処理と、該処理により排出された前記乾燥加熱工程装入物を処理系内に戻して前記乾燥加熱炉へ装入する処理と、を選択的に行うことにより、前記水銀負荷量を増加又は減少させる、(1)から(3)の何れかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0018】
(4)の酸化亜鉛鉱の製造方法によれば、操業中における、頻繁な水銀負荷量の変動に対して、より迅速且つ柔軟に、処理済み排ガスの水銀濃度を抑制することができる。
【0019】
(5) 前記排ガス処理工程から排出される処理済み排ガスの水銀濃度を連続的に測定する処理済排ガス水銀濃度測定処理を行い、前記水銀負荷量調整処理においては、前記処理済み排ガスの水銀濃度が所定の上限値を超えた場合には、前記水銀負荷量を減少させる調整を行い、前記処理済み排ガスの水銀濃度が所定の下限値未満となった場合には、前記水銀負荷量を増加させる調整を行う、(1)から(4)の何れかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0020】
(5)の酸化亜鉛鉱の製造方法においては、処理系外に排出する処理済み排ガスの水銀濃度が、様々な要因によって、突発的に変動した場合であっても、迅速に対応することができ、操業期間中全体において、処理済み排ガスの水銀濃度の管理の安全性を極めて高い水準で維持することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、酸化亜鉛鉱の製造において、最終的に処理系外に排出する処理済み排ガスの水銀濃度を、低コストで、迅速に、且つ、高い精度で制御することができる酸化亜鉛鉱の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法のフローの一例を示すフロー図である。
【
図2】
図1の酸化亜鉛鉱の製造方法における各種の「乾燥加熱工程装入物」の製処理経路の一例を示すフロー図である。
【
図3】「乾燥加熱工程装入物」中の鉛含有率(%)と水銀濃度指数との関係を示す相関グラフ図である。
【
図4】「乾燥加熱工程装入物」中の亜鉛含有率(%)と水銀濃度指数との関係を示す相関グラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<全体プロセス>
本発明の適用対象である酸化亜鉛鉱の製造方法は、鉄鋼ダスト等、不純物としての水銀を、ごく微量の割合で含有し、且つ、一定量以上の鉛を含有する原料から、酸化亜鉛鉱を製造するプロセスである。このプロセスは、通常、
図1に示す各工程、即ち、還元焙焼工程S10、湿式工程S20、乾燥加熱工程S30、排ガス処理工程S40、及び、排水処理工程S50を加えた全体プロセスとして実施される。尚、上述した「原料中のごく微量の水銀濃度」とは、具体的には、通常、原料に含まれる鉛含有量の10,000分の1程度である。
【0024】
本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法は、上記各工程のうち、少なくとも、乾燥加熱工程S30と排ガス処理工程S40とを含んで構成され、且つ、これらの2つの工程と連動する必須の処理として、水銀濃度算出処理ST31と、水銀負荷量調整処理ST32とを、合わせて行う複合的な部分プロセスである。
【0025】
乾燥加熱工程S30は、「乾燥加熱工程装入物」を焼成して製品である酸化亜鉛鉱を産出する工程である。そして、この乾燥加熱工程S30から、水銀を含有する排ガスの大部分は、この乾燥加熱工程S30において発生する。
【0026】
又、排ガス処理工程S40は、乾燥加熱工程S30において発生した水銀を含有する排ガスから、水銀及びその他の有害物質を分離除去する工程である。
【0027】
そして、水銀濃度算出処理ST31は、
図1に例示される酸化亜鉛鉱の製造を行う全体プロセスの中で、乾燥加熱工程S30に装入する「乾燥加熱工程装入物」の水銀濃度を算出する処理である。
【0028】
又、水銀負荷量調整処理ST32は、水銀濃度算出処理ST31によって算出された水銀濃度から求めた「水銀負荷量」を調整する処理である。
【0029】
尚、このような本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法は、特に、水銀の濃度のバラツキが大きい鉄鋼ダストを主たる原料として用いる製造プラントにおいて、とりわけ有利な効果を発揮する。以下においては、酸化亜鉛鉱の主たる原料として、鉄鋼ダストを用いる場合における実施態様を、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法の好ましい実施態様の具体例として、その詳細を説明する。
【0030】
<還元焙焼工程>
還元焙焼工程S10は、通常、大型の回転式加熱炉である還元焙焼ロータリーキルン(RRK)によって、鉄鋼ダスト等の原料(一次原料)を、還元剤と共に高温で焙焼する工程である。還元焙焼処理の焙焼温度については、被処理物の最高温度が1050℃以上1200℃以下程度となるように還元焙焼ロータリーキルン(RRK)の炉内温度を保持管理することが好ましい。
【0031】
還元焙焼ロータリーキルン(RRK)の炉内で、鉄鋼ダスト等の原料は還元焙焼され、揮発した金属亜鉛が炉内で再酸化されて粉状の酸化亜鉛となる。粉状の酸化亜鉛は、還元焙焼ロータリーキルンからの排出ガス(RRK排出ガス)と共に集塵機に導入されて、回収ダストとして捕捉される。このとき、原料に含まれていた水銀も、上記のRRK排出ガスへの活性炭の噴霧と集塵等により同様に回収ダストとして捕捉され、水銀を含有するこれらの回収ダストが、粗酸化亜鉛ダストとして次工程である湿式工程S20に装入される。
【0032】
尚、この還元焙焼工程S10において揮発せずにキルン内に残った還元焙焼残渣は、通常、含鉄クリンカーと称する製品としてキルン排出端より回収され、還元された鉄分が多く含有されるため、鉄鋼メーカー向けの鉄原料等として払い出される。
【0033】
<湿式工程>
湿式工程S20は、還元焙焼工程S10において回収された粗酸化亜鉛ダストを、工業用水等でレパルプし、フッ素等の水溶性不純物の分離処理を行う工程である。
【0034】
尚、湿式工程S20には、鉄鋼ダスト等の一次原料由来であり上流工程である還元焙焼工程S10を経て生成された粗酸化亜鉛ダストの他に、粗酸化亜鉛ダストと同等の化学組成であり亜鉛を含有する粗酸化亜鉛粉等が、二次原料として、還元焙焼工程S10を経ずに、湿式工程に直接装入され、一次原料由来の粗酸化亜鉛ダストと同様の分離処理が行われる。
【0035】
上記の分離処理を経てスラリーとなった粗酸化亜鉛ダストは、pH調整及び濃縮処理、脱水処理が行われて、粗酸化亜鉛ケーキとされる。そして、この粗酸化亜鉛ケーキが「乾燥加熱工程装入物」として、次工程である乾燥加熱工程S30に装入される(
図1、2参照)。尚、上記の濃縮及び脱水処理については、シックナー等の重力沈降式スラリー濃縮装置や真空脱水機等の脱水装置を適宜用いることができる。
【0036】
ここで、湿式工程S20には、下流側の工程で回収した各種の亜鉛含有物も繰り返し処理のために装入される。排ガス処理工程S40から得られた排ガスダストも、再度、湿式工程S30を経て、「排ガスダスト含有ケーキ」とされて、この繰り返し処理に付される(
図2参照)。尚、この「排ガスダスト含有ケーキ」には、通常、処理系内を循環する中で濃縮された水銀が、他の亜鉛含有物よりも高い濃度で含まれている。
【0037】
<乾燥加熱工程>
乾燥加熱工程S30は、湿式工程S20で得た粗酸化亜鉛ケーキを、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)等の乾燥加熱炉に装入して焼成する工程である。この乾燥加熱工程S30により、水銀を含む残留不純物を揮発させて、高品位の酸化亜鉛鉱を得ることができる。乾燥加熱処理の焼成温度については、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)等から産出される際の被焼成物の温度が1000℃以上1200℃以下、好ましくは、1100℃以上1150℃以下の範囲となるように炉内温度を保持管理することが好ましい。
【0038】
尚、
図2に示す通り、乾燥加熱工程S30においては、上流側の工程である湿式工程S20から排出される粗酸化亜鉛ケーキと共に、必要に応じて、「補助粗酸化亜鉛原料」、及び、排ガス処理工程S40から繰り返される排ガスダストを含んでなる「排ガスダスト含有ケーキ」も、「乾燥加熱工程装入物」の一部として、それぞれ乾燥加熱炉に装入される。
【0039】
ここで、本明細書において「補助粗酸化亜鉛原料」とは、酸化亜鉛鉱の製造を行う製造設備の処理系外から湿式工程S20を経ずに、直接、乾燥加熱工程S30に装入される原料のことを言う。具体的には、上記の二次原料同様、亜鉛を含有する粗酸化亜鉛粉等を「補助粗酸化亜鉛原料」として用いることができる。
【0040】
そして、乾燥加熱工程S30においては、上述の各種の「乾燥加熱工程装入物」に、それぞれ一定量範囲で含まれる水銀のほぼ全量が、排ガス側に分配され、水銀含有排ガスとして、下流工程側の排ガス処理工程S40に送られる(
図1参照)。
【0041】
<排ガス処理工程>
排ガス処理工程S40は、乾燥加熱工程S30で発生した水銀等を含有する排ガスを除塵、無害化して水銀及びその他の不純物を除去し、無害化された処理済み排ガスとする工程である。この工程を行う設備としては、洗浄塔、湿式電気集塵機、水銀吸着剤が充填されている充填塔の組合せが一般的である。尚、上記の水銀吸着剤としては、粒コークス等の炭素化合物の表面に、銅精鉱、亜鉛精鉱、鉛精鉱等から選択される1種以上の硫化物を付着させたものが広く用いられている。
【0042】
上記構成からなる排ガス処理設備において排ガス処理工程S40を行う場合においては、排ガス中の水銀は、90%程度の回収率で充填塔内の水銀吸着剤に吸着回収されるが、水銀を含む排ガスダストについては、主成分が酸化亜鉛であることから、これを、更に、湿式工程S20に繰り返して循環装入することにより、金属資源の有効利用が図られている。
【0043】
<排水処理工程>
排水処理工程S50は、湿式工程S20において粗酸化亜鉛ダストから分離されたフッ素、カドミウム等の水溶性不純物を高濃度で含有する廃液から、カドミウム等の一部の重金属を除去し、その後、廃液中に微量に残留した重金属、及び、フッ素を消石灰による中和処理により沈殿除去し、最終的にpH調整処理ST51を施して無害の処理済み排水とする工程である。
【0044】
<処理済み排ガスの水銀濃度の制御方法>
本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法は、
図1に酸化亜鉛鉱の製造の全体プロセスに適用可能な部分プロセスであり、少なくとも、乾燥加熱工程S30と排ガス処理工程S40とを含んで構成され、且つ、これらの2つの工程と連動する必須の処理として、水銀濃度算出処理ST31と、水銀負荷量調整処理ST32とを、合わせて行う複合的な部分プロセスである(
図1参照)。
【0045】
上記構成からなる本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法は、「処理済み排ガスの水銀濃度の制御方法」と位置付けることもできる技術思想である。そして、その目的を達成するために、「乾燥加熱工程装入物」にごく微量の割合で含まれている水銀の濃度を、水銀の10,000倍程度の含有率で含まれている鉛の含有率から間接的に算出する水銀濃度算出処理ST31を必須の処理とした。その上で、そのようにして算出された水銀濃度に基づいて得ることができる水銀負荷量を、引き続き行われる水銀負荷量調整処理ST32において、処理済み排ガスの水銀濃度を制御するための指標として活用するプロセスとした。
【0046】
水銀負荷量調整処理ST32においては、具体的に、水銀濃度算出処理ST31で得た「乾燥加熱工程装入物」の水銀濃度と、「乾燥加熱工程装入物」の装入量との積を、「水銀負荷量」とみなし、処理済み排ガスの水銀濃度を所定の管理規準値範囲内に維持するように、「乾燥加熱工程装入物」の装入量等を増減させることによって「水銀負荷量」を、適宜調整する。
【0047】
[水銀濃度算出処理ST31]
水銀濃度算出処理ST31は、「粗酸化亜鉛ケーキ」、「補助粗酸化亜鉛原料」、「排ガスダスト含有ケーキ」等(以下、これらをまとめて「ケーキ等」とも言う)からなる「乾燥加熱工程装入物」の水銀濃度を、乾燥加熱工程S30を行う乾燥加熱炉への装入前の段階で間接的に算出する処理である。
【0048】
水銀濃度算出処理ST31における水銀濃度の算出処理は、先ず、「乾燥加熱工程装入物」中の水銀の濃度ではなく、「乾燥加熱工程装入物」中の鉛の含有率を測定する作業を先行して行う。そして、この鉛の含有率の測定は、蛍光X線分析によって行う。
【0049】
水銀濃度の算出処理のための前処理となる鉛の含有率の測定は、具体的には、一定時間毎にサンプリングした「乾燥加熱工程装入物」を乾燥処理して得ることができる測定用の試料中の鉛の含有率を、蛍光X線測定装置を用いた蛍光X線分析によって測定することによって行うことができる。又、乾燥加熱工程S30に装入する「乾燥加熱工程装入物」には、湿式工程S20から排出される粗酸化亜鉛ケーキ、「排ガスダスト含有ケーキ」、及び「補助粗酸化亜鉛原料」があるが、これらの各種の「ケーキ等」は、それぞれ水銀濃度が大きく異なる場合がある。よって、各種の「ケーキ等」毎に上記のサンプリングを行い、それぞれの鉛含有率を先ず個別に測定することが好ましい。
【0050】
そして、次に、予め、取得してある鉛含有率と水銀濃度の相関関係の基礎データから得られる関係式に上記の鉛含有率の測定値を当てはめて、「乾燥加熱工程装入物」の水銀濃度を算出する。
図3は、鉛含有率と、水銀濃度を所定の値で除した水銀濃度指数との相関を示す基礎データの具体的な一例である。
【0051】
上述の通り、各種の「ケーキ等」は、それぞれ水銀濃度が大きく異なる場合があるので、各種の「ケーキ等」毎に、それぞれ個別に上記算出方法によって水銀濃度を算出することが好ましい。
【0052】
ここで、従前の方法により、「乾燥加熱工程装入物」に含まれる鉛の含有量の10,000分の1程度である、ごく微量の水銀濃度を測定するためには、専用設備での湿式分析が必須であり、対象物の前処理から分析まで24時間程度を要していた。そして、更に前処理から分析までの作業を専門の技量を有する技術者が行う必要があった。これに対して、本発明における上述の算出方法による水銀濃度の算出に要する作業時間は3~4時間程度であり、そのうちの大部分はサンプルの乾燥に要する時間である。又、蛍光X線装置を使用した測定は、専門の技量を有する技術者による必要はなく、酸化亜鉛鉱の製造にあたっているオペレーターで十分に対応することができる。従って、水銀濃度算出処理ST31における上述の手順による水銀濃度の算出処理によれば、従来とは異なり、酸化亜鉛鉱の製造を行なう製造設備内において、極めて小さな追加コストで、極めて迅速に(3~4時間以内のタイムラグで)「乾燥加熱工程装入物」に含まれる鉛の含有量の10,000分の1程度の水銀濃度を簡易に短時間で特定することができる。
【0053】
尚、水銀濃度算出処理ST31における水銀濃度の算出処理は、上記以外のその他の実施態様として、
図4に示す亜鉛含有率と水銀濃度の相関(
図4は、亜鉛含有率と、水銀濃度を所定の値で除した水銀濃度指数との関係を示す)から、水銀濃度を算出する手法によることも可能である。このような手法による、水銀濃度の算出は、例えば、「乾燥加熱工程装入物」中の亜鉛品位が特に高く、一方で鉛含有率が特に低い場合に、有効な代替手法となり得る。
【0054】
[水銀負荷量調整処理ST32]
水銀負荷量調整処理ST32は、水銀濃度算出処理ST31で得た「乾燥加熱工程装入物」の水銀濃度と、「乾燥加熱工程装入物」の装入量との積を、「水銀負荷量」とみなし、処理済み排ガスの水銀濃度を所定の管理規準値範囲内に維持するように、この「水銀負荷量」を調整する処理である。処理済み排ガスの水銀濃度が、所定の管理規準値範囲の上限値を超える場合には、水銀負荷量を減少させる調整を行い、処理済み排ガスの水銀濃度が、所定の管理規準値範囲の下限値未満となる場合には、水銀負荷量を増加させる調整を行う。
【0055】
上記の「乾燥加熱工程装入物」の装入量の測定は、例えば、乾燥加熱工程S30に装入されるそれぞれの「乾燥加熱工程装入物(「ケーキ等」)」を搬送するベルトコンベアに設けられたコンベアスケールで搬送量を測定することによって行うことができる。
【0056】
水銀負荷量調整処理ST32における水銀負荷量の調整は、乾燥加熱工程S30に装入する「乾燥加熱工程装入物」、詳しくは、上記の各種の「ケーキ等」のそれぞれの装入量を適宜増減させることよって行うことができる。この装入量の調整は、具体的には、「乾燥加熱工程装入物(「ケーキ等」)」を搬送するベルトコンベアの搬送量を調整するか、或いは、ホッパーからの切り出しコンベアの回転数と切出量の関係から求めることができる切出量を測定し、必要に応じて、この量を調整することによって行うことができる。
【0057】
或いは、「乾燥加熱工程装入物」の乾燥加熱工程S30への装入量の増減は、粗酸化亜鉛ケーキや「排ガスダスト含有ケーキ」等、それぞれの装入物の処理系外への排出と、一旦処理系外に排出されたそれらの各装入物の処理系内への再装入とを、「水銀負荷量」の変動に応じて選択的に行う方法による手順によることもできる。「乾燥加熱工程装入物」の装入量の増減を上記手順によって行う場合、具体的には、処理済み排ガスの水銀濃度が所定の上限値を超える場合には、水銀濃度測定処理ST31において算出された水銀濃度に基づいて得られる「水銀負荷量」を減らすべく、「乾燥加熱工程装入物」の一部を乾燥加熱炉への装入前に処理系外へ排出し、一時的に処理系外の保管場所に保管する。又、処理済み排ガスの水銀濃度が所定の下限値を下回る場合には、上記の「水銀負荷量」を増やすべく、一時的に系外に保管されている上記の「乾燥加熱工程装入物」を処理系内へ戻して乾燥加熱炉に装入する。
【0058】
又、水銀負荷量調整処理ST32による「乾燥加熱工程装入物」を構成する各種の「ケーキ等」の、それぞれの装入量の増減については、各「ケーキ等」毎の固有の水銀濃度やそのバラツキの傾向に応じて、装入量の調整対象としての優先度を適切に最適化することが好ましい。
【0059】
上記の装入量の調整対象としての優先度の最適化の具体例の一例として、補助粗酸化亜鉛原料以外の乾燥加熱工程装入物のみの乾燥加熱工程への装入量の調整を、補助粗酸化亜鉛原料の装入量の調整よりも優先的に行う最適化手順を挙げることができる。処理系外から乾燥加熱工程に直接装入される「補助粗酸化亜鉛原料」は、通常、他の装入物と比較して、水銀濃度のバラツキが相対的に小さいので、それ以外の装入物について、優先的に乾燥加熱工程への装入量を調整することにより、各種の装入物の装入量調整の作業負担を減じることができ、より効率的に、且つ、高い精度で、処理済み排ガスの水銀濃度を抑制することができる。
【0060】
又、上記の装入量の調整対象としての優先度の最適化の具体例の他の一例として、排ガス処理工程S40から排出される排ガスダストを含有する「排ガスダスト含有ケーキ」のみの乾燥加熱工程への装入量の調整を、他の装入物の装入量の調整よりも優先的に行う最適化手順を挙げることができる。処理系内において、水銀は主に排ガスに分配することから「排ガスダスト含有ケーキ」は、通常、相対的に水銀濃度最も高い。よって、この「排ガスダスト含有ケーキ」の装入量を優先的に調整することによって、乾燥加熱工程における生産量の変動幅を小さく抑えながら、より効率的に処理済み排ガスの水銀濃度を抑制することができる。
【0061】
このようにして、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法によれば、処理済み排ガスの水銀濃度を実現容易な方法によって高い精度で制御することができる。
【0062】
尚、酸化亜鉛鉱の製造を行なう製造設備が、排ガス処理工程S40から排出される処理済み排ガスの水銀濃度を測定する手段を備える場合であれば、処理済み排ガスの水銀濃度を連続的に測定する処理済排ガス水銀濃度測定処理(図示せず)を行い、この水銀濃度の変動に係る情報を、水銀負荷量調整処理ST32にフィードバックする制御を行うことが、より好ましい。このような制御を行うことにより、処理済み排ガスの水銀濃度が、様々な要因によって、突発的に変動した場合であっても、操業期間中全体において、処理済み排ガスの水銀濃度の管理の安全性を極めて高い水準で維持することができる。
【実施例0063】
<試験操業1(水銀濃度管理の精度確認)>
湿式工程から得た「粗酸化亜鉛ケーキ」:2~5t/h、「排ガスダスト含有ケーキ」:0~2t/h、「補助粗酸化亜鉛原料」:0.5~2t/h、乾燥加熱工程を行う乾燥加熱炉への装入前に処理系内から抜き取った粗酸化亜鉛ケーキ(以下「抜き取り粗酸化亜鉛ケーキ」と言う):0.5~4t/h、及び、乾燥加熱工程を行う乾燥加熱炉への装入前に処理系内から抜き取った「排ガスダスト含有ケーキ」(以下「抜き取り排ガスダスト含有ケーキ」と言う):0~1t/h、そして、これら5種の装入物合計の装入量:7~12t/hとする操業条件で、酸化亜鉛製造の試験操業を12日間に亘って行った。
【0064】
上記試験操業の前半(1日目~6日目)においては、本発明の製造方法によらずに操業を行った。具体的に、この間は1回/日の頻度で湿式分析により水銀の分析を行い、この結果に従い、水銀濃度と装入量の積である「水銀負荷量」を、処理済み排ガスの水銀濃度が所定の管理規準値範囲内に維持されるように、「粗酸化亜鉛ケーキ」、「排ガスダスト含有ケーキ」、「補助粗酸化亜鉛原料」、「抜き取り粗酸化亜鉛ケーキ」、「抜き取り排ガスダスト含有ケーキ」それぞれの装入量を制御した。尚、上記の湿式分析は、各ケーキを溶解処理して、原子吸光分析装置で測定する方法により行った。
【0065】
試験操業の後半(7日目~12日目)においては、本発明の製造方法によって操業を行った。この間、「粗酸化亜鉛ケーキ」、「排ガスダスト含有ケーキ」、「補助粗酸化亜鉛原料」、「抜き取り粗酸化亜鉛ケーキ」及び「抜き取り排ガスダスト含有ケーキ」について、それぞれ3回/日の頻度でサンプリングを行い、この後、3時間の乾燥処理を経て、蛍光X線測定装置を使用して各試料の鉛含有率を測定した。尚、蛍光X線測定装置としては、「ZSX PrimusIV(株式会社リガク社製)」を用いた。
【0066】
鉛含有率の測定後、予め、取得してある鉛含有率と水銀濃度の相関関係の基礎データから得られる関係式に鉛含有率の測定値を当てはめて、上記5種の各ケーキの水銀濃度を算出した。鉛含有率から水銀濃度を算出するための基礎データとしては、
図3に示す鉛含有率と水銀濃度の相関関係に係るデータを用いた。
【0067】
そのようにして算出した水銀濃度に従い、「粗酸化亜鉛ケーキ」、「排ガスダスト含有ケーキ」、「補助粗酸化亜鉛原料」、「抜き取り粗酸化亜鉛ケーキ」、「抜き取り排ガスダスト含有ケーキ」の各装入量を調整することによって、前半の操業と同様に、「水銀負荷量」を、処理済み排ガスの水銀濃度が所定の管理規準値範囲内に維持されるように、制御を行った。
【0068】
試験操業1における水銀濃度管理の精度確認の結果は、下記表1に示す通りであった。従来プロセスによって行った試験操業期間の前半においては、処理済排ガス中の水銀濃度指数の平均値が181であったのに対して、バラツキ(標準偏差)が112であった。これに対して、試験操業期間の後半においては、処理済排ガス中の水銀濃度指数の平均値が182であったのに対して、バラツキ(標準偏差)が45となり、バラツキ(標準偏差)が60%減少したことが確認された。
【0069】
【0070】
<試験操業2(原料処理量の確認)>
操業期間の前半7か月間は、湿式工程から得た「粗酸化亜鉛ケーキ」、「排ガスダスト含有ケーキ」、「補助粗酸化亜鉛原料」、「抜き取り粗酸化亜鉛ケーキ」、及び、「抜き取り排ガスダスト含有ケーキ」の5種の装入物合計の装入量を7~11t/hとする操業条件で試験操業を行った。そして引続き、後半7か月間は、上記5種の装入物合計の装入量を9~12t/hとする操業条件で試験操業を行った。
【0071】
上記試験操業の前半(1か月目~7か月目)においては、本発明の製造方法によらずに操業を行った。具体的に、この間は2回/週の頻度で湿式分析により水銀の分析を行い、この結果に従い、水銀濃度と装入量の積である「水銀負荷量」を、処理済み排ガスの水銀濃度が所定の管理規準値範囲内に維持されるように、「粗酸化亜鉛ケーキ」、「排ガスダスト含有ケーキ」、「補助粗酸化亜鉛原料」、「抜き取り粗酸化亜鉛ケーキ」、「抜き取り排ガスダスト含有ケーキ」それぞれの装入量を制御した。尚、上記の湿式分析は、各ケーキを溶解処理して、原子吸光分析装置で測定する方法により行った。
【0072】
試験操業の後半(8か月目~14か月目)においては、本発明の製造方法によって操業を行った。この間、「粗酸化亜鉛ケーキ」、「排ガスダスト含有ケーキ」、「補助粗酸化亜鉛原料」、「抜き取り粗酸化亜鉛ケーキ」及び「抜き取り排ガスダスト含有ケーキ」について、それぞれ5回/週の頻度でサンプリングを行い、この後、3時間の乾燥処理を経て、蛍光X線測定装置を使用して各試料の鉛含有率を測定した。尚、蛍光X線測定装置としては、試験操業1で用いた装置を用いた。
【0073】
鉛含有率の測定後、予め、取得してある鉛含有率と水銀濃度の相関関係の基礎データから得られる関係式に鉛含有率の測定値を当てはめて、上記5種の各ケーキの水銀濃度を算出した。鉛含有率から水銀濃度を算出するための基礎データとしては、
図3に示す鉛含有率と水銀濃度の相関関係に係るデータを用いた。
【0074】
そのようにして算出した水銀濃度に従い、水銀濃度と装入量の積である「水銀負荷量」を、処理済み排ガスの水銀濃度が所定の管理規準値範囲内に維持されるように、「粗酸化亜鉛ケーキ」、「排ガスダスト含有ケーキ」、「補助粗酸化亜鉛原料」、「抜き取り粗酸化亜鉛ケーキ」、「抜き取り排ガスダスト含有ケーキ」の装入量を調整した。
【0075】
試験操業2における原料処理量確認の結果は、下記表2に示す通りであった。従来プロセスによって行った試験操業期間の前半においては、処理系外に抜き出した「抜き取り粗酸化亜鉛ケーキ」及び、「抜き取り排ガスダスト含有ケーキ」の処理量(再装入量)を、2倍以上に増加させることができた。この結果から、本発明の製造方法の採用によって、原料の仕掛在庫を圧縮できること、及び、原料の処理量の大幅な増加が可能であることが確認された。
【0076】
【0077】
上記操業結果を
図5に示す。本発明によれば、前記抜き取り粗酸化亜鉛ケーキ、前記抜き取り排ガスダスト含有ケーキの処理量が256t/Dから538t/Dへと、2倍以上に増加、改善したことが分かる。