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特開2022-172659信号処理装置、信号処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172659
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】信号処理装置、信号処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
G10K11/178 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078704
(22)【出願日】2021-05-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)人とインタラクションの未来「分散配置アレイによる音空間の記録・再生技術基盤の構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小山 翔一
(72)【発明者】
【氏名】ジェスパー ブルンストローム
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061FF02
(57)【要約】
【課題】連続的な空間に適する能動騒音制御を実現すること。
【解決手段】 本開示の信号処理装置は、一以上の誤差マイクロフォン(11)と、一以上のスピーカ(12)と、前記スピーカの駆動信号(y)を生成する適応フィルタ(14)と、前記誤差マイクロフォン(11)で取得される誤差信号(e)に基づいて決定される対象領域(Ω)全体の音圧(L)を最小化するように、時間領域の補間フィルタ行列(A(i))に基づいて前記適応フィルタ(14)のフィルタ係数を更新する制御部と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一以上の誤差マイクロフォンと、
一以上のスピーカと、
前記スピーカの駆動信号を生成する適応フィルタと、
前記誤差マイクロフォンで取得される誤差信号に基づいて決定される対象領域全体の音圧を最小化するように、時間領域の補間フィルタ行列に基づいて前記適応フィルタのフィルタ係数を更新する制御部と、
を備える信号処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記誤差マイクロフォンの相対的な位置関係に基づいて、前記時間領域の補間フィルタ行列を算出する、
請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
一以上の参照マイクロフォンを更に備え、
前記適応フィルタは、前記参照マイクロフォンで検出された参照信号と、前記フィルタ係数と、に基づいて、前記駆動信号を生成する、
請求項1又は請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記適応フィルタは、前記誤差信号及び前記駆動信号に基づいて疑似的に導出される参照信号と、前記フィルタ係数とに基づいて、前記駆動信号を生成する、
請求項1又は請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記時間領域の前記補間フィルタ行列と、前記時間領域の前記誤差信号と、前記時間領域の前記参照信号と、に基づいて、前記フィルタ係数を更新する、
請求項3又は請求項4に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記時間領域の補間フィルタ行列と、二次経路の伝達関数と、前記時間領域の前記誤差信号と、前記時間領域の前記参照信号とに基づいて、時間領域において生成される勾配に基づいて、前記フィルタ係数を更新する、
請求項5に記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記時間領域の補間フィルタ行列と、前記時間領域の前記参照信号を複数含む参照信号ブロックと、前記時間領域の前記誤差信号を複数含む誤差信号ブロックと、に基づいて、前記フィルタ係数をブロック毎に更新する、
請求項3又は請求項4に記載の信号処理装置。
【請求項8】
前記制御部は、周波数領域フィルタと、前記参照信号ブロックをフーリエ変換した周波数領域の前記参照信号ブロックとを用いて、周波数領域ブロックを生成し、前記周波数領域フィルタは、前記時間領域の補間フィルタ行列及び二次経路の伝達関数を結合した時間領域フィルタ、又は、前記補間フィルタ行列及び前記伝達関数それぞれをフーリエ変換して構成され、
前記周波数領域ブロックと、前記誤差信号ブロックをフーリエ変換した前記周波数領域の前記参照信号ブロックとを用いて生成される周波数領域ブロックを逆フーリエ変換して前記時間領域の勾配ブロックを生成し、
前記勾配ブロックに基づいて、前記フィルタ係数を更新する、
請求項7に記載の信号処理装置。
【請求項9】
一以上の誤差マイクロフォンにおいて誤差信号を取得するステップと、
前記誤差信号に基づいて決定される対象領域全体の音圧を最小化するように、時間領域の補間フィルタ行列に基づいて、適応フィルタのフィルタ係数を更新するステップと、
前記適応フィルタを用いて、一以上のスピーカの駆動信号を生成するステップと、
を備える信号処理方法。
【請求項10】
一以上の誤差マイクロフォンにおいて誤差信号を取得するステップと、
前記誤差信号に基づいて決定される対象領域全体の音圧を最小化するように、時間領域の補間フィルタ行列に基づいて、適応フィルタのフィルタ係数を更新するステップと、
前記適応フィルタを用いて、一以上のスピーカの駆動信号を生成するステップと、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、能動騒音制御に関する信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二次音源(スピーカ)を用いて対象位置の音圧を抑制する能動騒音制御(Active Noise Control:ANC)が知られている。多くの場合、制御対象位置またはその近傍にマイクロフォンを配置し、観測された音圧をフィードバックすることで適応フィルタを更新し、スピーカの駆動信号を逐次的に求めるという手法が用いられる。
【0003】
ANCを空間的な制御に適用する場合、一次元の適応フィルタ理論を拡張し、対象領域に複数配置した制御点上での音圧を抑制する多点制御法(Multipoint pressure control:MPC)と呼ばれる方法が知られている(例えば、非特許文献1)。多点制御法では、当該対象領域に配置される複数の誤差マイクロフォン(Error microphone)の配置位置が、音圧抑制のための複数の制御点となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S.J.Elliott, I.M.Stothers, and P.A.Nelson, "A multiple error LMS algorithm and its application to the active control of sound and vibration," IEEE Transactions on Acoustics, Speech, and Signal Processing, vol.35, no.10, pp.1423-1434, 1987
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記多点制御法では、対象領域に配置される誤差マイクロフォンで取得される誤差信号の2乗l2ノルムを目的関数とし、これを最小化するように最適化問題を解くことで、適応フィルタのフィルタ係数が更新される。すなわち、上記多点制御法は、有限個の制御点のみでのパワーを最小化する最適化問題をベースとしている。このため、多点制御法は、対象領域に配置される各誤差マイクロフォンの配置位置(すなわち、各制御点)での音圧の抑制には有効であるが、当該対象領域全体では、十分に音圧を抑制できない恐れがある。
【0006】
そこで、本発明は、連続的な空間に適する能動騒音制御を実現する信号処理装置、信号処理方法及びプログラムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る信号処理装置は、一以上の誤差マイクロフォンと、一以上のスピーカと、前記スピーカの駆動信号を生成する適応フィルタと、前記誤差マイクロフォンで取得される誤差信号に基づいて決定される対象領域全体の音圧を最小化するように、時間領域の補間フィルタ行列に基づいて前記適応フィルタのフィルタ係数を更新する制御部と、を備える。
【0008】
この態様によれば、対象領域全体の音圧を最小化するように、時間領域の補間フィルタ行列に基づいて前記適応フィルタのフィルタ係数を更新されるので、誤差マイクロフォンの配置位置だけではなく、対象領域全体の音圧を抑制できる。
【0009】
上記態様において、前記制御部は、前記誤差マイクロフォンの相対的な位置関係に基づいて、前記時間領域の補間フィルタ行列を算出してもよい。この態様によれば、誤差マイクロフォンの相対的な位置関係に基づいて対象領域の音圧分布を推定できるので、対象領域全体の音圧の抑制精度を向上できる。
【0010】
上記態様において、一以上の誤差マイクロフォンを更に備え、前記適応フィルタは、前記参照マイクロフォンで検出された参照信号と、前記フィルタ係数と、に基づいて、前記駆動信号を生成してもよい。この態様によれば、フィードフォワード型ANCにおいて、対象領域全体の音圧を抑制できる。
【0011】
上記態様において、前記適応フィルタは、前記誤差信号及び前記駆動信号に基づいて疑似的に導出される参照信号と、前記フィルタ係数とに基づいて、前記駆動信号を生成してもよい。この態様によれば、フィードバック型ANCにおいて、対象領域全体の音圧を抑制できる。
【0012】
上記態様において、前記制御部は、前記時間領域の前記補間フィルタ行列と、前記時間領域の前記誤差信号と、前記時間領域の前記参照信号と、に基づいて、前記フィルタ係数を更新してもよい。
【0013】
上記態様において、前記制御部は、前記時間領域の補間フィルタ行列と、二次経路の伝達関数と、前記時間領域の前記誤差信号と、前記時間領域の前記参照信号とに基づいて、時間領域において生成される勾配に基づいて、前記フィルタ係数を更新してもよい。
【0014】
上記態様において、前記制御部は、前記時間領域の補間フィルタ行列と、前記時間領域の前記参照信号を複数含む参照信号ブロックと、前記時間領域の前記誤差信号を複数含む誤差信号ブロックと、に基づいて、前記フィルタ係数をブロック毎に更新してもよい。
【0015】
上記態様において、前記制御部は、周波数領域フィルタと、前記参照信号ブロックをフーリエ変換した前記周波数領域の前記参照信号ブロックとを用いて、周波数領域ブロックを生成し、前記周波数領域フィルタは、前記時間領域の補間フィルタ行列及び二次経路の伝達関数を結合した時間領域フィルタ、又は、前記補間フィルタ行列及び前記伝達関数それぞれをフーリエ変換して構成され、前記周波数領域ブロックと、前記誤差信号ブロックをフーリエ変換した前記周波数領域の前記参照信号ブロックとを用いて生成される周波数領域ブロックを逆フーリエ変換して前記時間領域の勾配ブロックを生成し、前記勾配ブロックに基づいて、前記フィルタ係数を更新してもよい。
【0016】
本発明の一態様に係る信号処理方法は、一以上の誤差マイクロフォンにおいて誤差信号を取得するステップと、前記誤差信号に基づいて決定される対象領域全体の音圧を最小化するように、時間領域の補間フィルタ行列に基づいて、適応フィルタのフィルタ係数を更新するステップと、前記適応フィルタを用いて、一以上のスピーカの駆動信号を生成するステップと、を備える。
【0017】
本発明の一態様に係るプログラムは、一以上の誤差マイクロフォンにおいて誤差信号を取得するステップと、前記誤差信号に基づいて決定される対象領域全体の音圧を最小化するように、時間領域の補間フィルタ行列に基づいて、適応フィルタのフィルタ係数を更新するステップと、前記適応フィルタを用いて、一以上のスピーカの駆動信号を生成するステップと、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、連続的な空間に適する能動騒音制御を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1の実施形態に係るフィードフォワード型ANCにおける配置の一例を示す図である。
図2】第1の実施形態に係るフィードフォワード型ANCの信号処理装置の構成の一例を示す図である。
図3】第1の実施形態に係る高速ブロックKI-FxLMSアルゴリズムの一例を示す図である。
図4】第1の実施形態に係るフィードフォワード型ANCの信号処理装置の物理的構成の一例を示す図である。
図5】第1の実施形態に係る信号処理装置と従来法に係るANCとの音圧の時間領域での比較の一例示す図である。
図6】第1の実施形態に係る信号処理装置と従来法に係るANCとの音圧抑制量の一例示す図である。
図7】第1の実施形態に係るフィードフォワード型ANCの動作の一例を示すフローチャートである。
図8】第2の実施形態に係るフィードバック型ANCにおける配置の一例を示す図である。
図9】第2の実施形態に係るフィードバック型ANCの信号処理装置の構成の一例を示す図である。
図10】第2の実施形態に係るフィードバック型ANCの動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。本実施形態において、空間能動騒音制御(空間ANC)とは、所定空間(例えば、2次元空間又は3次元空間)を対象領域(target region)(制御領域ともいう)とする能動騒音制御(ANC)である。
【0021】
本実施形態に係るANCでは、一次音源(例えば、後述するノイズ源N)から伝達経路を経由して制御点(例えば、後述する誤差マイクロフォン(Error microphone)11の配置位置)に到達する音圧信号(以下、「制御対象信号」という)dを抑制するため、適応フィルタを用いて二次音源(例えば、後述するスピーカ12)を制御する制御信号(以下、スピーカ12の「駆動信号」という)yが生成される。当該駆動信号yに基づく当該二次音源から伝達経路を経由して上記制御点に到達した音圧信号(以下、「キャンセル信号」という)vにより上記制御点において上記制御対象信号dが抑制される。また、キャンセル信号v及び制御対象信号dに基づいて誤差信号eが取得され、当該誤差信号eに基づいて上記適応フィルタのフィルタ係数が更新される。
【0022】
当該適応フィルタのフィルタ係数は、所定の(given)アルゴリズムを用いて適応的に更新される。以下では、当該所定のアルゴリズムの一例として、後述するカーネル補間(kernel interpolation)ベースのfiltered-X least mean square(KI-FxLMS)又は高速ブロック(fast block)KI-FxLMSを想定するが、これに限られない。当該フィルタ係数の更新により、当該フィルタ係数の適応フィルタを用いて生成される制御信号y及びキャンセル信号が更新されるので、ANCを適切に行うことができる。
【0023】
当該適応フィルタのフィルタ係数は、時間領域の補間フィルタ行列A(k)(又は、当該補間フィルタ行列A(k)に基づくアルゴリズム)を用いて更新される。補間フィルタ行列A(k)は、後述するカーネル補間フィルタに用いられる係数行列であり、重み行列フィルタ等とも呼ばれる。当該補間フィルタ行列A(k)は、誤差マイクロフォン11の相対的な位置関係に基づいて更新されてもよい。ここで、誤差マイクロフォン11の相対的な位置関係とは、例えば、複数の誤差マイクロフォン11の配置、複数の誤差マイクロフォン11の相対位置(relative positions)等、複数の誤差マイクロフォン11の位置間の相対的な関係であってもよい。これにより、対象領域Ωの音圧分布が推定されるので、上記制御点だけでなく、対象領域Ω全体の音圧を抑制できる。
【0024】
なお、本実施形態では、例えば、当該誤差マイクロフォン11の相対的な位置関係に基づいて周波数領域の重み行列A(ω)が導出され、当該重み行列A(ω)の逆フーリエ変換により時間領域の補間フィルタ行列A(k)が導出されるが、これに限られない。周波数領域の重み行列A(ω)を導出せずに時間領域の補間フィルタ行列A(k)が導出されてもよい。
【0025】
また、本実施形態に係るANCは、フィードフォワード型又はフィードバック型に適用できる。以下では、フィードフォワード型ANC(第1の実施形態)と、フィードバック型ANC(第2の実施形態)との一例について具体的に説明する。
【0026】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るフィードフォワード型ANCにおける配置の一例を示す図である。図1に示すように、フィードフォワード型ANCでは、複数の誤差マイクロフォン11と、複数のスピーカ(Loudspeaker)12と、複数の参照マイクロフォン(Reference microphone)13とが、用いられてもよい。なお、誤差マイクロフォン11、スピーカ12及び参照マイクロフォン13の数及び配置は、図1に示すものに限られない。誤差マイクロフォン11、スピーカ12及び参照マイクロフォン13の数はそれぞれ一以上であればよい。
【0027】
例えば、図1では、音圧の抑制対象となる領域である対象領域(target region)Ωを囲むように、誤差マイクロフォン11が略環状に配置される。また、誤差マイクロフォン11を囲むように、スピーカ12が略環状に配置される。また、ノイズ源Nを代表する参照信号xを検出できるように、参照マイクロフォン13が配置される。
【0028】
図1において、ノイズ源Nから誤差マイクロフォン11までの伝達経路(以下、「一次経路」という)を経由して、ノイズ源Nからの制御対象信号dが誤差マイクロフォン11に到達する。参照マイクロフォン13は、参照信号xを検出する。スピーカ12は、参照信号xから適応フィルタを用いて生成される駆動信号yに基づいて音圧信号を出力する。スピーカ12からの音圧信号が、スピーカ12から誤差マイクロフォン11までの伝達経路(以下、「二次経路」という)を経由して誤差マイクロフォン11に到達し、誤差マイクロフォン11においてキャンセル信号vとして観測される。誤差マイクロフォン11では、キャンセル信号vにより制御対象信号dがキャンセルされる(すなわち、ノイズがキャンセルされる)。なお、キャンセルは、抑制又は低減等と相互に言い換えられてもよい。
【0029】
図2は、第1の実施形態に係るフィードフォワード型ANCの信号処理装置の構成の一例を示す図である。図2に示すように、信号処理装置10は、誤差マイクロフォン11と、スピーカ12と、参照マイクロフォン13と、適応フィルタ14と、フィルタ係数更新部15と、補間フィルタ行列算出部16と、を備えてもよい。
【0030】
なお、図示しないが、信号処理装置10は、誤差マイクロフォン11、スピーカ12、参照マイクロフォン13及び適応フィルタ14の少なくとも一つを含まずに構成されてもよい。また、誤差マイクロフォン11、スピーカ12、参照マイクロフォン13は、それぞれ、一以上であり、図1で説明したように配置されてもよい。
【0031】
図2に示す参照マイクロフォン13は、ノイズ源Nを代表する参照信号xを検出し、生成した参照信号xを適応フィルタ14に出力する。具体的には、参照マイクロフォン13は、ノイズ源Nからの入力信号(例えば、周波数)に基づいて、時間nにおける参照信号x(n)を生成し、生成した参照信号x(n)を適応フィルタ14に出力してもよい。参照信号x(n)は、時間領域(例えば、離散時間領域)の信号である。参照信号x(n)は、参照マイク信号、参照マイクロフォン13における観測信号等とも呼ばれる。なお、時間nは、インデックスnで識別される所定の時間単位であり、サンプル時間、時刻、時間等と言い換えられてもよい。
【0032】
適応フィルタ14は、フィルタ係数更新部15で更新されたフィルタ係数W(i)を用いて、参照マイクロフォン13で検出された参照信号x(n)からスピーカ12の駆動信号y(n)を生成する。例えば、適応フィルタ14がフィルタ長Iの有限インパルス応答(finite impulse response:FIR)型適応デジタルフィルタである場合、時間nの駆動信号y(n)は、下記式(1)で示されてもよい。なお、駆動信号y(n)は、時間領域(例えば、離散時間領域)の信号である。また、駆動信号y(n)は、スピーカ駆動信号、二次音源信号、制御信号、又は、適応フィルタの出力信号等とも呼ばれる。
【数1】
ここで、W(i)(i=0,…,I-1)は、フィルタ長Iの適応フィルタ14のi次のフィルタ係数である。また、R個の参照マイクロフォン13及びL個のスピーカ12を用いる場合、x(n)∈RR、y(n)∈RL、W(i)∈RL×Rである。RRはR次元の実数値ベクトル空間であり、RLはL次元の実数値ベクトル空間であり、RL×RはL×R次元の実数値行列空間である。
【0033】
スピーカ12は、適応フィルタ14から入力された駆動信号y(n)に基づいて音圧信号を出力する。当該音圧信号は、二次経路を経て、誤差マイクロフォン11でキャンセル信号vとして検出される。
【0034】
誤差マイクロフォン11は、制御対象信号dとキャンセル信号vとに基づいて、誤差信号eを観測する。具体的には、誤差マイクロフォン11は、騒音源Nから一次経路を経由して到達した制御対象信号dとスピーカ12から二次経路を経由して到達したキャンセル信号vが重ね合わされた信号を誤差信号eとして観測する。例えば、誤差マイクロフォン11は、時間nにおける制御対象信号d(n)とキャンセル信号v(n)とに基づいて(例えば、下記式(2)により)、時間nにおける誤差信号e(n)を生成してもよい。誤差信号eは、時間領域(例えば、離散時間領域)の信号である。誤差信号eは、誤差マイク信号、誤差マイクロフォン11における観測信号等とも呼ばれる。
式(2)
e(n)=d(n)+v(n)
【0035】
上記キャンセル信号v(n)は、二次経路の伝達特性(以下、「二次経路特性」という)がフィルタ長JのFIRフィルタに近似するとすると、下記式(3)のように表現できる。なお、二次経路特性は、スピーカ12から誤差マイクロフォン11までのインパルス応答と言い換えることもできる。
【数2】
ここで、G(j)(j=0,…,J-1)は、二次経路特性を示すフィルタ長JのFIRフィルタにおけるj次のフィルタ係数(以下、伝達関数G(j)という)である。R個の参照マイクロフォン13及びM個の誤差マイクロフォン11を用いる場合、G(j)∈RM×R、RM×RはM×R次元の実数値行列空間である。伝達関数G(j)は事前の測定等により既知であるものとする。誤差信号e(n)は、上記式(2)及び(3)から下記式(4)で示される。
【数3】
誤差マイクロフォン11は、以上のように生成される誤差信号e(n)をフィルタ係数更新部15に出力する。
【0036】
フィルタ係数更新部15は、適応フィルタ14で用いられるフィルタ係数W(i)を更新する。具体的には、フィルタ係数更新部15は、時間nにおける対象領域Ωの圧力分布u(r,n)に基づいて推定される対象領域Ω全体の音圧の2乗積分値をコスト関数(cost function)Lとし、当該コスト関数Lを最小化する最適化問題を解くことで、フィルタ係数W(i)を更新してもよい。当該コスト関数Lは、例えば、式(5)で示される。なお、対象領域Ω全体の音圧の2乗積分値は、対象領域Ωの音場のパワー、音響エネルギー(acoustic energy)等と言い換えられてもよい。フィルタ係数更新部15は、時間nにおける誤差信号e(n)に基づいて決定される対象領域Ω全体の音圧を最小化するように、時間領域の補間フィルタ行列A(k)に基づいてフィルタ係数W(i)の更新を制御する制御部として機能する。
【数4】
ここで、E[]は、時間nに対する期待値演算を示す。
【0037】
図1に示すように、誤差マイクロフォン11が対象領域Ω内又は近傍の離散的な位置rに配置される場合、時間nにおいて位置rの誤差マイクロフォン11で取得される誤差信号e(n)から、音場のカーネル補間法の適用により、時間nにおける対象領域Ωの圧力分布(pressure distribution)u(r,n)を推定できる。ここで、音場のカーネル補間法とは、分散配置した複数の誤差マイクロフォン11から対象領域Ω内の連続的な音圧分布を推定する問題において、推定する関数がヘルムホルツ方程式に従うことを制約とするカーネルリッジ回帰に基づく補間手法である。カーネル補間フィルタとは、誤差信号e(n)を入力とし、カーネル補間法に基づいて対象領域Ω内の任意位置rでの音圧値を出力するフィルタである。
【0038】
フィルタ係数更新部15は、時間領域のカーネル補間フィルタz(r,i)を用いて、位置rの誤差マイクロフォン11で取得された誤差信号e(n)から、対象領域Ωの圧力分布u(r,n)を推定してもよい。なお、r∈R3であり、rは3次元のユークリッド空間における位置ベクトル又は位置である。
【0039】
フィルタ係数更新部15は、時間領域の適応フィルタアルゴリズムとしてKI-FxLMS又は高速ブロックKI-FxLMSを用いて、対象領域全体Ωの音圧(すなわち、上記コスト関数L)を最小化するように、時間領域の補間フィルタ行列A(k)に基づいてフィルタ係数W(i)を更新してもよい。以下では、KI-FxLMSアルゴリズム及び高速ブロックKI-FxLMSアルゴリズムについて説明する。
【0040】
<KI-FxLMSアルゴリズム>
時間nにおいて位置rの誤差マイクロフォン11で取得される誤差信号e(n)からの対象領域Ωの圧力分布u(r,n)の推定に用いられる時間領域のカーネル補間フィルタz(r,i)は、周波数領域におけるカーネル補間フィルタz(r,ω)に基づいて導出されてもよい。例えば、時間領域のカーネル補間フィルタz(r,i)は、下記式(6)に示すように、周波数領域における補間フィルタz(r,ω)を逆フーリエ変換(例えば、離散時間フーリエ変換)することによって与えられてもよい。
【数5】
ここで、F-1は、逆フーリエ変換を示し、ωは各周波数である。z(r,ω)は、周波数領域におけるカーネル補間フィルタであり、カーネルリッジ回帰(kernel ridge regression)に基づいて、例えば、下記式(7)によって示されてもよい。
【数6】
ここで、(・)Tは、転置を意味する。IMは、サイズMの単位行列、λは正則化パラメータ(λ≧0)を示す。また、上記K(ω)は、例えば、下記式(8)で示されるように、M個の誤差マイクロフォン11の位置r間の相対的な関係に基づく関数である。また、κ(r,ω)は、例えば、下記式(9)で示される。
【数7】
ここで、κ(r,r’,ω)はカーネル関数であり、例えば、下記式(10)で定義される関数を用いればよいことが知られている。
【数8】
ただし、cは音速である。音源方向の事前情報が利用可能な場合には、例えば、下記式(11)で定義されるカーネル関数が用いられてもよい。
【数9】
【0041】
フィルタ係数更新部15は、以上のような時間領域のカーネル補間フィルタz(r,i)を用いて、例えば、下記式(12)により、誤差信号e(n)から対象領域Ωの圧力分布u(r,n)を推定してもよい。
【数10】
【0042】
式(12)により推定された圧力分布u(r,n)に基づいて式(5)のコスト関数Lは、下記式(13)に書き換えられてもよい。
【数11】
ここで、Γ(i,j)は、時間領域のカーネル補間フィルタz(r,i)の係数行列(coefficient matrix)であり、例えば、下記式(14)で規定される。
【数12】
【0043】
フィルタ係数更新部15は、時間領域のカーネル補間フィルタz(r,i)の係数行列Γ(i,j)に基づいて、フィルタ係数W(i)の勾配Δ(i)を導出してもよい。フィルタ係数更新部15は、例えば、下記式(15)を用いて勾配Δ(i)を導出してもよい。
【数13】
ここで、上記式(14)から導出されるΓ(i、j)の対称性(すなわち、ΓT(i,j)=Γ(i,j))が用いられる。なお、二次経路特性G及び時間領域のカーネル補間フィルタの係数行列Γは、定常的であると仮定される。
【0044】
次に、μ=ν+kとなる変数変換を適用する。時間nの参照信号x(n)及び誤差信号e(n)が局所的な時間ウィンドウ内において定常的であると仮定されるなら、相互相関(cross correlation)E[e(n)xT(n-i)]は、時間差iに依存する。したがって、フィルタ係数更新部15は、時間領域における補間フィルタ行列A(k)に基づいて、勾配Δ(i)を導出してもよい。フィルタ係数更新部15は、例えば、下記式(16)を用いて勾配Δ(i)を導出してもよい。
【数14】
【0045】
時間領域における補間フィルタ行列A(k)は、実装の上では、因果的な(causal)FIRフィルタとして実装される必要がある。補間フィルタ行列A(k)を、フィルタ長2K+1の対象なFIRフィルタに切り捨てることにより、補間フィルタ行列Aを近似し、Kサンプルの遅延を加えて因果的にしてもよい。このとき、近似した時間領域の補間フィルタ行列A^(i)は、下記式(17)のように示されてもよい。
【数15】
【0046】
また、フィルタ係数更新部15は、補間フィルタ行列A^(k)と同一のKサンプルの遅延を誤差信号e(n)に加えることで、例えば、下記式(18)のように、勾配Δ(i)を導出してもよい。
【数16】
【0047】
また、フィルタ係数更新部15は、二次経路特性Gに関するFIRフィルタGT及び上記補間フィルタ行列Aに関するFIRフィルタA^を事前に結合した単一のフィルタHに基づいて、適応フィルタ14のフィルタ係数W(i)を更新してもよい。当該単一のフィルタH(i)は、例えば、下記式(19)に示されてもよい。
【数17】
【0048】
フィルタ係数更新部15は、上記単一のフィルタH(i)に基づいて、例えば、下記式(20)に示すように、適応フィルタ14のフィルタ係数W(i)を更新してもよい。なお、下記式(20)では、上記式(18)における期待値演算E[e(n-K)xT(n-i-j―k)]が瞬時値e(n-K)xT(n-i-j―k)に置き換えられる。
【数18】
ここで、添え字iは時間インデックスを示し、ηはステップサイズパラメータである。式(20)において式(18)の定数倍2は、ηに吸収される。上記フィルタH(i)だけでなく、補間フィルタ行列A(k)に関するFIRフィルタA^(k)も事前に計算されてもよい。ステップサイズパラメータηは、下記式(21)に示すように、濾波参照信号(filtered reference signal)のパワーによって時間ステップ毎に正規化されてもよい。濾波参照信号は、参照信号xを事前に測定された二次経路特性の伝達関数G(j)に畳み込むことによって得られる信号である。
【数19】
【0049】
なお、上記では、フィルタ係数更新部15は、例えば、式(19)及び(20)に示されるように、二次経路特性Gに関するFIRフィルタ及び時間領域のカーネル補間フィルタA^を事前に結合した単一のフィルタHを用いてフィルタ係数W(i)を更新するが、これに限られない。フィルタ係数更新部15は、単一のフィルタHの代わりに、二次経路特性Gに関するFIRフィルタ及び時間領域の補間フィルタ行列Aに関するFIRフィルタを用いて、フィルタ係数W(i)を更新してもよい。例えば、フィルタ係数更新部15は、例えば、上記式(18)に示される勾配Δ(i)に基づく下記式(22)又は下記式(23)を用いて、フィルタ係数W(i)を更新してもよい。
【数20】

式(23)では、G(j)が0≦j≦αの範囲で小さい値となるようなαが用いられるので、式(22)よりも遅延を軽減できる。また、式(20)に示されるように単一のフィルタHを用いる場合、式(22)又は式(23)に示されるように、二次経路特性Gに関するFIRフィルタ及び時間領域の補間フィルタ行列Aに関するFIRフィルタの双方を用いる場合と比較して計算コストを軽減できる。
【0050】
なお、二次経路特性Gに関するFIRフィルタは、当該FIRフィルタの重み行列、伝達関数G(j)等と言い換えられてもよい。また、時間領域の補間フィルタ行列A(k)に関するFIRフィルタは、当該FIRフィルタの重み行列、時間領域のカーネル補間フィルタ、当該カーネル補間フィルタのフィルタ係数、重み行列フィルタ、補間フィルタ等と言い換えられてもよい。また、上記単一のフィルタHは、当該単一のフィルタのフィルタ係数等と言い換えられてもよい。
【0051】
以上のようなKI-FxLMSアルゴリズムでは、時間領域で適応フィルタリングアルゴリズムを適用できる。周波数領域アルゴリズムから時間領域アルゴリズムを実行することは、ブロードバンドの騒音にとって簡単ではない。したがって、KI-FxLMSアルゴリズムは、ANCのため適応フィルタリングアルゴリズムとして好適に用いることができる。
【0052】
<高速ブロックKI-FxLMSアルゴリズム>
以上のようなKI-FxLMSアルゴリズムは、多数のチャンネルと長いフィルタが必要な場合、計算コストが高くなる恐れがある。このような場合、適応フィルタ14を有限ブロック内で一定にすることでブロック単位での演算を採用し、アルゴリズムを高速フーリエ変換(fast Fourier transform:FFT)で実装することで、計算コストを削減できる。このような手法は、標準的なFxLMSにも採用されており、高速ブロックFxLMSとも呼ばれる。フィルタ係数更新部15は、KI-FxLMSアルゴリズムをブロック化して実装した高速ブロックKI-FxLMSアルゴリズムを用いて、フィルタ係数Wを更新してもよい。
【0053】
図3は、本実施形態に係る高速ブロックKI-FxLMSアルゴリズムの一例を示す図である。各線形畳み込みと相関演算は、FFTを用いたオーバーラップ・セーブ・アルゴリズムとして実行されてもよい。図3では、ブロックのサイズをBとし、ブロックのインデックスをbとし、信号の各ブロックを角括弧で表す。例えば、参照信号ブロックx[b]は、b番目の参照信号ブロックであり、B個の参照信号x(n)(ここで、n∈[bB,(b+1)B-1])で構成される。制御フィルタIの長さもBとする。また、F2Bは、それぞれブロック長Bの2ブロックの系列に対するFFTを示す。F-1 2Bは、それぞれブロック長Bの2ブロックの系列に対する逆FFTを示す。
【0054】
図3において、2B個の参照信号x(n)に直列並列変換(serial-parallel conversion)を施すことにより、2つの参照信号ブロックx[b-1]及びx[b]が生成される。時間領域の2つの参照信号ブロックx[b-1]及びx[b]に対してFFT(F2B)を行って周波数領域に変換して周波数領域のフィルタH(ω)を乗算し、乗算結果に対して逆FFT(F-1 2B)を行う。ここで、周波数領域のフィルタH(ω)は、例えば、上記式(19)で示される二次経路特性Gに関するFIRフィルタ及び時間領域のカーネル補間フィルタの補間フィルタ行列A^の結合フィルタH(i)に対してFFT(F2B)を行い、時間領域から周波数領域に変換されたものであってもよい。参照信号ブロックx[b-1]及びx[b]から、フィルタH(ω)を用いて、二次経路特性Gが考慮されるとともにカーネル補間が適用された2つの参照信号ブロック(以下、「補間濾波(interpolated filtered)参照信号ブロック」という)XF[b-1]及びXF[b]が生成される。
【0055】
逆FFT(F-1 2B)により生成される時間領域の2つの補間濾波参照信号ブロックの一方(例えば、XF[b-1])は破棄され、他方の補間濾波参照信号ブロック(例えば、XF[b])が並列直列変換(parallel-serial conversion)される。2B個の補間濾波参照信号XF(n)に直列並列変換を施すことにより、2つの補間濾波参照信号ブロックXF[b-1]及びXF[b]が生成される。当該時間領域の2つの補間濾波参照信号ブロックXF[b-1]及びXF[b]はFFT(F2B)により周波数領域に変換される。
【0056】
一方、B個の誤差信号e(n)(ここで、n∈[bB,(b+1)B-1])に対してz-KによりKサンプルの遅延を誤差信号e(n)に加え、B個の誤差信号e(n-K)が生成される。B個の誤差信号e(n―K)の前にB個のゼロを付加して直列並列変換することにより、B個のゼロで構成されるブロック(以下、「ゼロブロック」という)とB個の誤差信号e(n-K)で構成される誤差信号ブロックe[b]が生成され、この2つのブロックがFFT(F2B)により周波数領域に変換される。
【0057】
周波数領域に変換されたゼロブロック及び誤差信号ブロックe[b]と、周波数領域に変換された2つの補間濾波参照信号ブロックとは乗算され、逆FFT(F-1 2B)により時間領域に変換され、並列直列変換することにより、勾配Δが生成される。勾配Δに対してステップパラメータのブロックη[b]を乗算し、乗算結果η[b]Δ(0:B)に基づいて、ブロック単位で、適応フィルタ14のフィルタ係数Wが更新されてもよい。
【0058】
なお、図3では、フィルタ係数更新部15は、二次経路特性Gに関するFIRフィルタ及び時間領域のカーネル補間フィルタA^を事前に結合した時間領域のフィルタH(i)(に基づく周波数領域のフィルタH(ω))に基づいて、ブロック単位でフィルタ係数Wを更新するが、これに限られない。フィルタ係数更新部15は、時間領域の二次経路フィルタG及び時間領域のカーネル補間フィルタAを別々に用いて、ブロック単位でフィルタ係数Wを更新してもよい。この場合、時間領域の二次経路フィルタG及び時間領域のカーネル補間フィルタAはそれぞれ逆FFTにより周波数領域に変換され、周波数領域において参照信号ブロックに乗算されてもよい。
【0059】
補間フィルタ行列算出部16は、フィルタ係数更新部15においてフィルタ係数W(i)の更新に用いられる上記時間領域の補間フィルタ行列A(k)を算出する。上記時間領域の補間フィルタ行列A(k)は、上記の通り、KI―FxLMSアルゴリズム又は高速ブロックKI―FxLMSアルゴリズムで用いられる。補間フィルタ行列算出部16は上記制御部の一部として構成されてもよい。
【0060】
具体的には、補間フィルタ行列算出部16は、誤差マイクロフォン11の相対的な位置関係に基づいて、時間領域の補間フィルタ行列A(k)を算出する。例えば、下記式(24)(25)に示すように、補間フィルタ行列算出部16は、誤差マイクロフォン11の相対的な位置関係に基づいて、周波数領域における重み行列A(ω)を算出し、当該周波数領域における重み行列A(ω)を逆フーリエ変換して、時間領域の補間フィルタ行列A(k)を算出してもよい。なお、算出は、単に、導出と言い換えられてもよい。
【数21】
ここで、P(ω):=(K(ω)+λIM-1である。
【0061】
なお、上記は例示にすぎず、補間フィルタ行列算出部16は、周波数領域における重み行列A(ω)を導出せずに、誤差マイクロフォン11の相対的な位置関係に基づいて、時間領域の補間フィルタ行列A(k)を導出してもよい。また、補間フィルタ行列算出部16は、上記誤差マイクロフォン11の相対的な位置関係に加えて、対象領域Ωで制御される波数k、対象領域Ωのサイズ(例えば、円形の対象領域Ωの場合はその半径)及びノイズ源Nに関する事前情報(例えば、ノイズ源Nの各方向のパワー分布、初期ノイズ方向等)の少なくとも一つに基づいて、時間領域の補間フィルタ行列A(k)を算出してもよい。
【0062】
また、補間フィルタ行列算出部16は、上記誤差マイクロフォン11の相対的な位置関係(及び、対象領域Ωで制御される波数k、対象領域Ωのサイズ及びノイズ源Nに関する事前情報の少なくとも一つ)に基づくカーネル補間フィルタz(r,ω)に基づいて周波数領域の重み行列A(ω)を導出してもよい。補間フィルタ行列算出部16は、当該周波数領域の重み行列A(ω)を逆FFTして、時間領域の補間フィルタ行列A(k)を導出してもよい。
【0063】
図4は、第1の実施形態に係るフィードフォワード型ANCの信号処理装置の物理的構成の一例を示す図である。信号処理装置10は、演算部に相当するCPU(Central Processing Unit)10aと、記憶部に相当するRAM(Random Access Memory)10bと、記憶部に相当するROM(Read only Memory)10cと、通信部10dと、入力部10eと、表示部10fと、を有する。これらの各構成は、バスを介して相互にデータ送受信可能に接続される。なお、本例では信号処理装置10が一台のコンピュータで構成される場合について説明するが、信号処理装置10は、複数のコンピュータが組み合わされて実現されてもよい。また、図2で示す構成は一例であり、信号処理装置10はこれら以外の構成を有してもよいし、これらの構成のうち一部を有さなくてもよい。
【0064】
CPU10aは、RAM10b又はROM10cに記憶されたプログラムの実行に関する制御やデータの演算、加工を行う制御部である。CPU10aは、対象領域Ω全体の音圧の2乗積分値に基づくコスト関数Lを最小化するようにフィルタ係数W(i)の更新を制御するプログラムを実行する演算部又は制御部である。CPU10aは、入力部10eや通信部10dから種々のデータを受け取り、データの演算結果を表示部10fに表示したり、RAM10bに格納したりする。
【0065】
RAM10bは、記憶部のうちデータの書き換えが可能なものであり、例えば半導体記憶素子で構成されてよい。RAM10bは、CPU10aが実行するプログラム、補間フィルタ行列A、フィルタ係数H等を記憶してよい。なお、これらは例示であって、RAM10bには、これら以外のデータが記憶されていてもよいし、これらの一部が記憶されていなくてもよい。
【0066】
ROM10cは、記憶部のうちデータの読み出しが可能なものであり、例えば半導体記憶素子で構成されてよい。ROM10cは、例えば信号処理プログラムや、書き換えが行われないデータを記憶してよい。
【0067】
通信部10dは、信号処理装置10を他の機器に接続するインターフェースである。通信部10dは、インターネット等の通信ネットワークに接続されてよい。
【0068】
入力部10eは、ユーザからデータの入力を受け付けるものであり、例えば、キーボード及びタッチパネルを含んでよい。
【0069】
表示部10fは、CPU10aによる演算結果を視覚的に表示するものであり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)により構成されてよい。
【0070】
信号処理プログラムは、RAM10bやROM10c等のコンピュータによって読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供されてもよいし、通信部10dにより接続される通信ネットワークを介して提供されてもよい。信号処理装置10では、CPU10aが信号処理プログラムを実行することにより、図1を用いて説明した様々な動作が実現される。なお、これらの物理的な構成は例示であって、必ずしも独立した構成でなくてもよい。例えば、信号処理装置10は、CPU10aとRAM10bやROM10cが一体化したLSI(Large-Scale Integration)を備えていてもよい。
【0071】
次に、図5及び図6を参照し、第1の実施形態に係る信号処理装置10と従来法に係るANCとを比較する。なお、図5及び6では、信号処理装置10は、KI-FxLMSアルゴリズム又は高速ブロックKI-FxLMSアルゴリズムを用いてフィルタ係数Wを更新する。一方、従来法に係る信号処理装置は、FxLMSアルゴリズム又は高速ブロックFxLMSアルゴリズムを用いてフィルタ係数Wを更新する。
【0072】
また、対象領域Ωは、0.6m×0.6m×0.1mの立方体で、その中心が原点であるものとする。誤差マイクロフォン11とスピーカ12の数は、それぞれ、M=48、L=32であるものとする。0.6m×0.6m×0.1mの正方形の対象領域Ωに沿って,24個の誤差マイクロフォン11は規則的に配置される。一方、24個の誤差マイクロフォン11は,0.6m×0.6mの正方形に沿って,z=0.5mと-0.5mの2つの平面に規則的に配置されたが,そのうちの半分は0.03m外側に移動させた。32個のスピーカ12は2.0m×2.0mの正方形に沿って配置されるものとする。評価点は対象領域Ωの内側に72点設定され、そのうち36個の評価点は0.6m×0.6mの正方形の中に,0.1m間隔で36点を規則的に配置し、z=0.025mと-0.025mの高さに0.1m間隔で36点を規則的に配置した。また、ノイズ源Nからは直接制御対象信号dが得られると仮定し、ノイズ源N及びスピーカ12は通常の密閉型ラウドスピーカーとした。誤差マイクロフォン11は無指向性とした。ノイズ源Nとスピーカ12の間のインパルス応答と、誤差マイクロフォン11と評価点の間のインパルス応答を、掃引正弦波信号を用いて,各ポイントで1つずつ測定した。また、部屋の寸法は約7.0m×6.4m×2.7mであり、残響時間T60は約0.38秒であった。
【0073】
また、サンプリング周波数は4000Hzとした。カーネル補間フィルタの切り捨て長K=77、適応フィルタ14の切り捨て長I=2048とした。高速ブロックKI―FxLMS又は高速ブロックFxLMSのブロックサイズBは2048とした.式(7)の正規化パラメータλは10-3、式(21)におけるステップサイズパラメータの更新に用いられるパラメータβも10-3とした。高速ブロックKI-FxLMS用に、定数パラメータη0は[101,103]から選択し、対数スケールで30値に均等に分割した。KI-FxLMS用に定数パラメータη0は[101,103]は,同じ範囲から決定したが、B = 2048で割られた。FxLMS及び高速FxLMSについても同様の手順が、[10-2,,101]の範囲で実施された。
【0074】
次に、パフォーマンス測定のために、時間領域における対象領域Ω内のパワー削減量を下記式(26)で示す。
【数22】
ここで、信号パワーは、インデックスνの時間間隔で計算され、当該時間間隔は2048サンプルとした。位置rjは、評価ポイントである。
【0075】
また、評価用のノイズ源Nとして、以下の2種類のノイズを検討した。
・通過帯域が50~900Hzのバンドパスフィルタでフィルタリングしたホワイトガウスノイズ(ノイズ)
・データセットから取り出したSecret MountainsのHigh Horse(音楽)
【0076】
図5(a)(b)では、対象領域Ω内のパワー削減量Predが時間軸で示される。図6では、アルゴリズム毎のパワー削減量Predが示される。ここで、パワー削減量Predを計算する時間間隔は60秒に設定し,60秒の適応後に240000サンプルを計算した。ノイズでは,結果として、KI-FxLMSと高速ブロックKI-FxLMSでは、FxLMS及び高速ブロックFxLMSよりも大きなノイズ低減効果を得ることができた。カーネル補間ベースの手法は、局所的なノイズを考慮しているためである。KI-FxLMSは、高速ブロックKI-FxLMSよりもノイズ低減効果がわずかに高いが、FxLMSと高速ブロックFxLMSのノイズ低減効果は略同等であった。音楽は非定常であるため、パワー削減量Predは時間とともに変化するが、図6に示すように、音楽のノイズ低減効果についても、カーネル補間ベースのKI-FxLMSと高速ブロックKI-FxLMSは、MPCベースのFxLMSと高速ブロックFxLMSを依然として上回った。非定常なノイズに対しては迅速な適応が必要であるため、KI-FxLMSと高速ブロックKI-FxLMSとのノイズ低減効果の差は、ノイズよりも音楽の方が大きかった。
【0077】
図7は、第1の実施形態に係るフィードフォワード型ANCの動作の一例を示すフローチャートである。図7に示すように、誤差マイクロフォン11は、ノイズ源Nから一次経路を経由した制御対象信号d(n)と、スピーカ12から二次経路を経由したキャンセル信号v(n)とに基づいて、誤差信号e(n)を取得する(ステップS101)。
【0078】
フィルタ係数更新部15は、誤差マイクロフォン11における誤差信号e(n)に基づいて決定される対象領域Ω全体の音圧を最小化するように、時間領域の重み系列A(i)に基づいて、適応フィルタ14のフィルタ係数W(i)を更新する(ステップS102)。具体的には、フィルタ係数更新部15は、上記KI―FxLMSアルゴリズム又は高速ブロックKI―FxLMSアルゴリズムを用いて、適応フィルタ14のフィルタ係数W(i)を更新してもよい。
【0079】
適応フィルタ14は、参照マイクロフォン13における参照信号x(n)から、ステップS102で更新されたフィルタ係数W(i)を用いて、スピーカ12の駆動信号y(n)を生成する(ステップS103)。スピーカ12は、駆動信号y(n)に基づいて、音圧信号を出力する(ステップS104)。当該音圧信号は二次経路を経て誤差マイクロフォン11にてキャンセル信号v(n)として観測される。
【0080】
信号処理装置10は、処理を終了するか否かを判定し(ステップS105)、処理を終了しない場合、ステップS101に戻る。
【0081】
以上のように、第1の実施形態によれば、対象領域Ω全体の音圧を最小化するように、時間領域の補間フィルタ行列A(k)に基づいて適応フィルタ14のフィルタ係数w(i)が更新されるので、フィードフォワード型ANCにおいて、誤差マイクロフォン11の配置位置だけではなく、対象領域Ω全体の音圧を抑制できる。
【0082】
また、時間領域の補間フィルタ行列A(k)に基づいて、フィルタ係数W(i)の更新に用いられる勾配Δ(i)が時間領域で導出される。このため、時間領域の補間フィルタ行列A(k)に基づく場合、周波数領域の重み係数A(ω)に基づいて勾配Δを周波数領域で導出する場合と比較して、周波数領域から時間領域への変換による遅延の発生を防止できる。
【0083】
(第2の実施形態)
図8は、第2の実施形態に係るフィードバック型ANCにおける配置の一例を示す図である。図8に示すように、フィードバック型ANCでは、複数の誤差マイクロフォン11と、複数のスピーカ12とを備えるが、複数の参照マイクロフォン13を備えない点で、第1の実施形態に係るフィードフォワード型ANCと異なる。なお、誤差マイクロフォン11及びスピーカ12の数及び配置は、図8に示すものに限られない。誤差マイクロフォン11及びスピーカ12の数はそれぞれ一以上であればよい。以下、第2の実施形態では、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0084】
図8において、一次経路を経由して、ノイズ源Nからの制御対象信号dが誤差マイクロフォン11に到達する。フィードバック型ANCでは、図1の参照マイクロフォン13が設けられないので、スピーカ12の駆動信号yと誤差マイクロフォン11で取得される誤差信号eとに基づいて、疑似的な参照信号(以下、「疑似参照信号」という)x^が生成される。スピーカ12は、疑似参照信号x^から適応フィルタを用いて生成される駆動信号yに基づいて、音圧信号を出力する。スピーカ12からの音圧信号が、二次経路を経由して、スピーカ12からのキャンセル信号vが誤差マイクロフォン11に到達し、誤差マイクロフォン11においてキャンセル信号vとして観測される。誤差マイクロフォン11では、キャンセル信号vにより制御対象信号dがキャンセルされる(すなわち、ノイズがキャンセルされる)。
【0085】
図9は、第2の実施形態に係るフィードバック型ANCの信号処理装置の構成の一例を示す図である。図9に示すように、信号処理装置20は、誤差マイクロフォン11と、スピーカ12と、適応フィルタ14と、フィルタ係数更新部15と、補間フィルタ行列算出部16と、を備えるが、参照マイクロフォン13を備えない。図9では、図2との相違点を中心に説明する。
【0086】
なお、図示しないが、信号処理装置20は、誤差マイクロフォン11、スピーカ12及び適応フィルタ14の少なくとも一つを含まずに構成されてもよい。また、誤差マイクロフォン11、スピーカ12、参照マイクロフォン13は、それぞれ、一以上であり、図8で説明したように配置されてもよい。また、信号処理装置20が疑似参照信号x^を生成する生成部を備えてもよいことは勿論である。
【0087】
図9に示すように、信号処理装置20は、参照マイクロフォン13を備えないので、疑似参照信号x^が、誤差マイクロフォン11で取得される誤差信号eとスピーカ12の駆動信号yとに基づいて生成されてもよい。具体的には、時間nにおける疑似参照信号x^(n)は、適応フィルタ14で生成される駆動信号y(n)と、二次経路の伝達関数G(j)と、誤差マイクロフォン11で取得される誤差信号e(n)に基づいて生成されてもよい。疑似参照信号x^(n)は、例えば、下記式(27)に基づいて生成されてもよい。
【数23】
【0088】
適応フィルタ14は、フィルタ係数更新部15で更新されたフィルタ係数Wを用いて、疑似参照信号x^(n)からスピーカ12の駆動信号y(n)を生成する。このように、信号処理装置20は、参照マイクロフォン13で検出される参照信号x(n)の代わりに、誤差信号e(n)と疑似参照信号x^(n)を用いる点で、信号処理装置10と異なる。信号処理装置20は、参照信号x(n)を疑似参照信号x^(n)に置き換えて、第1の実施形態で説明した信号処理装置10の適応フィルタ14、フィルタ係数更新部15を適用することができる。なお、信号処理装置20の補間フィルタ行列算出部16は、信号処理装置10の補間フィルタ行列算出部16と同様であってもよい。また、信号処理装置20の物理的構成は、図4に示す信号処理装置10の物理的構成を適宜用いることができる。
【0089】
図10は、第2の実施形態に係るフィードバック型ANCの動作の一例を示すフローチャートである。図10のステップS201、S204及びS205は、図7のステップS101、S104及びS205と同様である。
【0090】
フィルタ係数更新部15は、誤差マイクロフォン11で取得された誤差信号e(n)に基づいて決定される対象領域Ω全体の音圧を最小化するように、時間領域の補間フィルタ行列A(k)に基づいて、適応フィルタ14のフィルタ係数W(i)を更新する(ステップS202)。具体的には、フィルタ係数更新部15は、上記KI―FxLMSアルゴリズム又は高速ブロックKI―FxLMSアルゴリズムを用いて、適応フィルタ14のフィルタ係数Wを更新してもよい。上記KI―FxLMSアルゴリズム又は高速ブロックKI―FxLMSアルゴリズムでは、参照信号x(n)の代わりに、疑似参照信号x^(n)が用いられる。
【0091】
適応フィルタ14は、疑似参照信号x^(n)から、ステップS202で更新されたフィルタ係数W(i)の適応フィルタ14を用いて、スピーカ12の駆動信号y(n)を生成する(ステップS203)。
【0092】
以上のように、第1の実施形態によれば、対象領域Ω全体の音圧を最小化するように、時間領域の補間フィルタ行列A(k)に基づいて適応フィルタ14のフィルタ係数w(i)が更新されるので、フィードバック型ANCにおいて、誤差マイクロフォン11の配置位置だけではなく、対象領域Ω全体の音圧を抑制できる。また、時間領域の補間フィルタ行列A(k)に基づいて、フィルタ係数W(i)の更新に用いられる勾配Δ(i)が時間領域で導出されるので、周波数領域の重み係数A(ω)に基づいて勾配Δを周波数領域で導出する場合と比較して、周波数領域から時間領域への変換による遅延の発生を防止できる。
【0093】
(その他)
なお、上記第1及び第2の実施形態では、複数の誤差マイクロフォン11、複数のスピーカ12がそれぞれ略環状に配置されるが、これに限られず、例えば、直線形状、矩形形状、三角形、正方形、長方形等のどのような形状で配置されてもよい。同様に、上記第1の実施形態では、参照マイクロフォン13が略三角形に配置されるが、これに限られず、どのような形状で配置されてもよい。また、誤差マイクロフォン11、スピーカ12及び参照マイクロフォン13は二次元に限られず三次元で配置されてもよい。フィードフォワード型ANCでは、誤差マイクロフォン11、スピーカ12及び参照マイクロフォン13の順番で、対象領域Ωに近く配置されればよい。また、フィードバック型ANCでは、誤差マイクロフォン11、スピーカ12の順番で、対象領域Ωに近く配置されればよい。また、対象領域Ωは、例えば、円領域、楕円領域など、どのような形状であってもよい。
【0094】
また、上記第1及び第2の実施形態では、適応フィルタ14のフィルタ係数W(i)の更新に用いられるKIベースのアルゴリズムとして、KI-FxLMS及び高速ブロックFxLMSを例示したが、当該KIベースのアルゴリズムは上記のものに限られない。例えば、KIベースであれば、FxLMS又は高速ブロックFxLMSに限られず、LMS、正規化LMS(NLMS)、最小二乗法(recursive least-square)等の他のアルゴリズムが用いられてもよい。このように、本実施形態では、カーネル補間のための時間領域の補間フィルタ行列A(k)に基づくどのようなアルゴリズムを用いることも可能である。
【0095】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0096】
10…信号処理装置、10a…CPU、10d…通信部、10e…入力部、10f…表示部、11…誤差マイクロフォン、12…スピーカ、13…参照マイクロフォン、14…適応フィルタ、15…フィルタ係数更新部、16…補間フィルタ行列算出部、20…信号処理装置、N…ノイズ源
図1
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図10