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特開2022-172674積層ポリエステルフィルム、硬化樹脂層付き積層フィルム及び金属積層フィルム
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  • 特開-積層ポリエステルフィルム、硬化樹脂層付き積層フィルム及び金属積層フィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172674
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム、硬化樹脂層付き積層フィルム及び金属積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20221110BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20221110BHJP
   H01Q 1/38 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
B32B27/36
H05K9/00 W
H01Q1/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078736
(22)【出願日】2021-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智博
【テーマコード(参考)】
4F100
5E321
5J046
【Fターム(参考)】
4F100AB00E
4F100AK01C
4F100AK01D
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100CA02C
4F100CA02D
4F100EH20
4F100EH46C
4F100EJ38
4F100GB41
4F100HB00E
4F100JB12C
4F100JB12D
4F100JG05A
4F100JN01
5E321BB21
5E321BB44
5E321BB53
5E321GG05
5J046AA03
5J046AB13
5J046PA07
5J046PA09
(57)【要約】
【課題】
高速通信対応可能な低誘電特性及び透明性に優れた積層ポリエステルフィルム、硬化樹脂層付き積層フィルム及び金属積層フィルムを提供することにある。
【解決手段】
2層以上のポリエステル層を有する積層ポリエステルフィルムであって、少なくとも一方の表層に前記ポリエステル層の少なくとも1つの層Aを有し、前記層Aの厚みが積層ポリエステルフィルムの総厚みの10~70%であり、28GHzにおける誘電正接が、0.0060以下である、積層ポリエステルフィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層以上のポリエステル層を有する積層ポリエステルフィルムであって、少なくとも一方の表層に前記ポリエステル層の少なくとも1つの層Aを有し、
前記層Aの厚みが積層ポリエステルフィルムの総厚みの10~70%であり、
28GHzにおける誘電正接が、0.0060以下である、積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記層Aの28GHzにおける比誘電率が、3.0以下である、請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記層Aの28GHzにおける誘電正接が、0.0050以下である、請求項1又は2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記層Aが、ジカルボン酸成分(a-1)としてテレフタル酸単位、ジオール成分(a-2)として1,4-シクロヘキサンジメタノール単位を有するポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートが、ジカルボン酸成分(a-1)として、さらに、イソフタル酸単位を有する、請求項4に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記層A以外の他の層が、ジカルボン酸成分(b-1)としてテレフタル酸単位、ジオール成分(b-2)としてエチレングリコール単位を有するポリエチレンテレフタレートを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
ヘーズが4.0%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項8】
総厚みが1~300μmである、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層上に硬化樹脂層を有し、該硬化樹脂層が、架橋剤を不揮発成分に対して70質量%以上含有する樹脂組成物から形成される、硬化樹脂層付き積層フィルム。
【請求項10】
前記積層ポリエステルフィルムの両表層上に前記硬化樹脂層を有し、少なくとも一方の硬化樹脂層表面のオリゴマー析出量が0.40mg/m以下である、請求項9に記載の硬化樹脂層付き積層フィルム。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の硬化樹脂層付き積層フィルムの前記硬化樹脂層上に金属層を備える、金属積層フィルム。
【請求項12】
前記金属層がパターン化された、請求項11に記載の金属積層フィルム。
【請求項13】
前記金属層が銅又は銀からなる、請求項11又は12に記載の金属積層フィルム。
【請求項14】
高速通信回路用である、請求項1~8のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項15】
透明アンテナフィルム用である、請求項14に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項16】
高速通信回路用である、請求項9又は10に記載の硬化樹脂層付き積層フィルム。
【請求項17】
透明アンテナフィルム用である、請求項16に記載の硬化樹脂層付き積層フィルム。
【請求項18】
高速通信回路用である、請求項11~13のいずれか1項に記載の金属積層フィルム。
【請求項19】
透明アンテナフィルム用である、請求項18に記載の金属積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ポリエステルフィルム、硬化樹脂層付き積層フィルム及び金属積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気、電子機器の高性能、高機能化に伴い、情報の高速通信対応が必要とされている。例えば、スマートフォンにおいては、5G(第五世代移動通信システム)の高速通信サービスの開始に伴い、民生分野だけではなく、産業分野(工場、自動車などの車両等)でも高速通信サービスが普及する状況にある。
5Gの高速大容量のデータ通信には、「ミリ波」(波長1~10mm、周波数30~300GHz)帯の電波が用いられる。ミリ波の長所としては、一度に送信できるデータが大容量であること、得られる画像が高精細化できること等が挙げられる。
【0003】
一方で、回路基板に前記ミリ波のような高周波のデジタル信号を流すと、送信されたデジタル信号の一部が回路基板の配線上で熱として消費される誘電損失が起こり、減衰したデジタル信号として受信側に到達する、いわゆる「伝送損失」が発生する。そのため、使用する部材においても、伝送損失低減対策が必要とされる状況にある。前記伝送損失は、誘電損失と導体損失の総和であり、該誘電損失αは下記式(1)から算出される。
【0004】
【数1】
【0005】
なお、fは周波数、cは光速、εは比誘電率、tanδは誘電正接である。
【0006】
例えば、樹脂フィルムと銅箔で形成される柔軟な回路基板であるFPC(Flexible Printed Circuits)では、伝送損失低減として、樹脂フィルムには誘電損失αの低減が求められている。より具体的には、εやtanδを下げること、特にはtanδを下げる試みがなされている。
具体的には、FPCの材料として用いられるポリイミド(PI)に対して、誘電損失が約1/10である、液晶ポリマー(LCP)、誘電損失が約1/50である、シクロオレフィンポリマー(COP)、誘電損失が約1/100である、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂が挙げられている(非特許文献1)。
【0007】
しかしながら、LCP及びCOPは耐熱性が低いという問題があり、フッ素樹脂は銅箔などの他の部材との密着強度が低く、またUV吸収体の関係でUVレーザーによる穴あけ加工が困難であるとの問題がある。さらにフッ素樹脂は高価である。そこで、誘電損失が低く、かつ汎用性のある樹脂フィルムが要望されている。
【0008】
汎用性が高い樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルムが挙げられる。ポリエステルフィルムは、耐熱性、耐候性、機械的強度、透明性などに優れており、かつ、価格的にも入手し易いことから、包装材料、光学用途などの各種用途に使用されているが、低誘電特性に関してはあまり検討されていない。
【0009】
例えば、特許文献1には、優れた低誘電特性を有するポリエステルフィルムとして、内部に5~45体積%の空洞を含有する積層二軸延伸ポリエステルフィルムが開示されている。空洞を含有することで、空隙(空気)を分散させることができ、低誘電率化や低誘電正接化を達成している。
【0010】
ところで、今般、透明なフィルム上に、視認されない超微細金属メッシュ配線を形成した「透明アンテナフィルム」が検討されており、フィルムの誘電損失の低減、より具体的には、フィルムの低誘電率化や低誘電正接化が求められている。
前記ミリ波は、従来のマイクロ波に比べて近傍製品の影響を受けやすいため、アンテナ設置場所の自由度が低いといった課題や、電波の直進性が強いために従来以上の通信環境を確保するにはアンテナの設置数を増やすといった課題がある。
こうした課題に対して検討されている透明アンテナフィルムは、意匠性を損なうことがないため、モバイル機器のみならず、窓ガラスなどの建造物や車体のガラス等に貼付して5G電波を受信することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006-352470号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「高周波対応部材の開発動向と5G、ミリ波レーダーへの応用」、技術情報協会、第3章、第2節、p.77-84「高速、高周波対応FPCの開発動向と低伝送損失化」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献1に記載の空洞含有積層二軸延伸ポリエステルフィルムは、異種材料を混合して空洞を形成するものであるが、このような場合、空洞のサイズあるいは異種材料の分散状態を制御することが難しく、例えば、異種材料の分散状態が不十分な場合には、所望する低誘電特性が得られないことがある。
さらに、使用する異種材料によっては、ポリエステルフィルム本来の透明性が得られない場合がある。それに加えて、空洞の界面で光が屈折することで、透明性が低下してしまう場合があった。
【0014】
本発明で解決しようとする課題は、上記の問題点を解決し、汎用性の高い積層ポリエステルフィルムでありながら、それでいて優れた低誘電特性及び透明性を有する積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。本発明は、その一態様において以下の[1]~[19]を要旨とする。
[1]2層以上のポリエステル層を有する積層ポリエステルフィルムであって、少なくとも一方の表層に前記ポリエステル層の少なくとも1つの層Aを有し、前記層Aの厚みが積層ポリエステルフィルムの総厚みの10~70%であり、28GHzにおける誘電正接が、0.0060以下である、積層ポリエステルフィルム。
[2]前記層Aの28GHzにおける比誘電率が、3.0以下である、上記[1]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[3]前記層Aの28GHzにおける誘電正接が、0.0050以下である、上記[1]又は[2]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[4]前記層Aが、ジカルボン酸成分(a-1)としてテレフタル酸単位、ジオール成分(a-2)として1,4-シクロヘキサンジメタノール単位を有するポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートを含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
[5]前記ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートが、ジカルボン酸成分(a-1)として、さらに、イソフタル酸単位を有する、上記[4]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[6]前記層A以外の他の層が、ジカルボン酸成分(b-1)としてテレフタル酸単位、ジオール成分(b-2)としてエチレングリコール単位を有するポリエチレンテレフタレートを含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
[7]ヘーズが4.0%以下である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
[8]総厚みが1~300μmである、上記[1]~[7]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層上に硬化樹脂層を有し、該硬化樹脂層が、架橋剤を不揮発成分に対して70質量%以上含有する樹脂組成物から形成される、硬化樹脂層付き積層フィルム。
[10]前記積層ポリエステルフィルムの両表層上に前記硬化樹脂層を有し、少なくとも一方の硬化樹脂層表面のオリゴマー析出量が0.40mg/m以下である、上記[9]に記載の硬化樹脂層付き積層フィルム。
[11]上記[9]又は[10]に記載の硬化樹脂層付き積層フィルムの前記硬化樹脂層上に金属層を備える、金属積層フィルム。
[12]前記金属層がパターン化された、上記[11]に記載の金属積層フィルム。
[13]前記金属層が銅又は銀からなる、上記[11]又は[12]に記載の金属積層フィルム。
[14]高速通信回路用である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
[15]透明アンテナフィルム用である、上記[14]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[16]高速通信回路用である、上記[9]又は[10]に記載の硬化樹脂層付き積層フィルム。
[17]透明アンテナフィルム用である、上記[16]に記載の硬化樹脂層付き積層フィルム。
[18]高速通信回路用である、上記[11]~[13]のいずれかに記載の金属積層フィルム。
[19]透明アンテナフィルム用である、上記[18]に記載の金属積層フィルム。
【発明の効果】
【0016】
本発明の積層ポリエステルフィルム、硬化樹脂層付き積層フィルム及び金属積層フィルムは、高速通信対応可能な優れた低誘電特性を有する。
さらに、本発明の積層ポリエステルフィルム、硬化樹脂層付き積層フィルム及び金属積層フィルムは、透明性にも優れているため、特に透明アンテナフィルム用に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】マイクロストリップラインの一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、高速通信回路用のような回路基板に高周波の電気信号を通過させると、電界強度は回路基板である導体配線の直下で最も大きくなるため、導体配線直下に配置する層Aを低誘電特性化、特には、低誘電正接化させることで、効率的に伝送損失を低減させられると考えた。
また、導体配線直下の層Aを低誘電特性化させて効率的に伝送損失を低減させることで、ポリエチレンテレフタレートフィルムに代表されるポリエステルフィルムが有する優れた耐熱性、耐候性、機械的強度、コストパフォーマンス性を損なうことがなく、汎用性の高い積層ポリエステルフィルムを提供できると考えた。
以下、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明の内容が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<<積層ポリエステルフィルム>>
本発明の実施形態の一例に係る積層ポリエステルフィルム(以下、「本積層ポリエステルフィルム」とも称する)は、2層以上のポリエステル層を有する積層ポリエステルフィルムであり、少なくとも一方の表層に前記ポリエステル層の少なくとも1つの層Aを有し、前記層Aの厚みが、積層ポリエステルフィルムの総厚みの10~70%であり、28GHzにおける誘電正接が、0.0060以下であることを特徴とする。
本発明において、積層ポリエステルフィルムとは、2層以上のポリエステル層を有する積層ポリエステルフィルムを意味し、表層とは、積層ポリエステルフィルムの最も表面側に配置される層を意味する。表層の上には後述する硬化樹脂層、金属層等を配することができ、硬化樹脂層、金属層等を配置した積層ポリエステルフィルムは、それぞれ硬化樹脂層付き積層フィルム、金属積層フィルムと称し、積層ポリエステルフィルムとは区別される。
【0020】
本積層ポリエステルフィルムにおいて、積層するポリエステル層の層数は、10層以下であることが好ましい。10層以下であれば、各層の厚みが十分となるため、製膜時の積層性が十分となり、フローマーク等が発生しにくくなり、フィルムの品質が十分保たれる。中でも製造コストを抑える観点から、2層以上3層以下が最も好ましい。
【0021】
本積層ポリエステルフィルムは、2層以上のポリエステル層を有し、少なくとも一方の表層に前記ポリエステル層の少なくとも1つの層Aを有する。例えば、前記層A以外の他のポリエステル層を層Bとした場合、本積層ポリエステルフィルムは、層A及び層B以外のその他の層を有していてもよいが、製膜性、層間密着性の観点から、層Aと層Bのみから構成されていることが好ましい。
【0022】
また、効率的に伝送損失を低減させる目的から、層A/層Bの2層構成であればよいが、設備の汎用性を重視する場合は、層A/層B/層A又は層A/層B/層Bの3層構成であることが好ましい。
【0023】
以下、本積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステル層について詳細に説明するが、本発明に係る形態の一例として、少なくとも一方の表層のポリエステル層を層A、前記層A以外の他のポリエステル層を層Bとし、層A及び層Bのみから構成される場合を説明する。
なお、層Aと層Bは、同一のポリエステルからなる層であってもよいし、異なるポリエステルからなる層であってもよい。
【0024】
<層A>
層Aは、本積層ポリエステルフィルムに低誘電特性を付与するためのポリエステル層であり、28GHzにおける誘電正接が0.0050以下であることが好ましい。層Aの誘電正接が0.0050以下であれば、積層ポリエステルフィルム全体の誘電正接を低下させることができ、十分な伝送損失の低減効果が得られる。以上の観点から、層Aの誘電正接は、より好ましくは0.0045以下、さらに好ましくは0.0040以下である。下限値は、特に制限されないが、0.001以上である。
また、同様の観点から、層Aの28GHzにおける比誘電率は、3.0以下であることが好ましく、2.9以下であることがより好ましく、2.8以下であることがさらに好ましい。下限値は、特に制限されないが、2.0以上である。
なお、層Aの誘電正接及び比誘電率は、実施例に記載の方法により測定した値である。
【0025】
前記層Aの厚みは、積層ポリエステルフィルムの総厚みの10~70%である。前記層Aの厚みが10%未満であると、十分な低誘電性が得られない。一方、前記層Aの厚みが70%を超えると、耐熱性、耐候性、機械的強度等に劣り、また汎用性が低くなるとともに、コスト高となる。
以上の観点から、すなわち、耐熱性、耐候性、機械的強度、コストなどのバランスや汎用性が良好であるとの観点から、層Aの厚みは、積層ポリエステルフィルムの総厚みの15~60%であることが好ましく、20~50%であることがさらに好ましい。層Aの厚みは、積層ポリエステルフィルムを製造する際のポリエステル原料を押出すときの吐出量の比率によって調整することができる。
なお、層Aの厚みはSAICAS(登録商法)によりフィルムの斜め切削面を作成し、飛行時間型二次イオン質量分析機(TоF-SIMS)を用いて、イオンピーク強度データから層厚みを求めることができる。
【0026】
また、本積層ポリエステルフィルムの総厚みは、1~300μmであることが好ましく、30~250μmであることがより好ましく、50~200μmであることがさらに好ましい。
総厚みが1μm以上であれば、フィルム強度が実用範囲内に保たれる。一方、総厚みが300μm以下であれば、モバイル機器等に組み込むことが容易である。
なお、本積層ポリエステルフィルムの総厚みは、本積層ポリエステルフィルムから一辺40mmの略正方形の試料片を切り出し、目量1/1000mmのダイヤルゲージにて、フィルム面内の任意の5箇所で厚みを測定し、その平均値を求めた。
【0027】
上述のとおり、層Aは、低誘電特性を有するポリエステル層であり、低誘電特性を有するポリエステルを使用して形成することができる。
また、低誘電特性を有するポリエステルとしては、とりわけ、骨格としてナフタレン環やシクロヘキサン環等の環状構造を有するポリエステルを使用することが好ましい。骨格として前述の環状構造を有することで優れた低誘電特性を有する機構については、環状構造のスタッキングによって双極子運動を抑制することができ、低誘電正接化を図れるためだと推定している。
【0028】
前記ナフタレン環を有するポリエステルとしては、例えば、ジカルボン酸成分に、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等を含むポリエステルを挙げることができる。
また、前記ナフタレン環を有するポリエステルの前記ジカルボン酸成分は、該ポリエステルを構成するジカルボン酸成分の主成分であることが好ましい。
なお、主成分とは、該ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分の中で最も含有割合の多い成分を意味し、好ましくは全ジカルボン酸成分中50モル%以上、より好ましくは全ジカルボン酸成分中70モル%以上を占める成分をいう。
ただし、前記ナフタレン環を有するポリエステルとしては、上記のものに制限されず、例えば、ジオール成分にナフタレン環を有していてもよい。
【0029】
また、シクロヘキサン環を有するポリエステルとしては、例えば、ジオール成分に、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等を含むポリエステルを挙げることができる。
また、前記シクロヘキサン環を有するポリエステルの前記ジオール成分は、該ポリエステルを構成するジオール成分の主成分であることが好ましい。
なお、主成分とは、該ポリエステルを構成する全ジオール成分の中で最も含有割合の多い成分を意味し、好ましくは全ジオール成分中50モル%以上、より好ましくは全ジオール成分中70モル%以上を占める成分をいう。
ただし、前記シクロヘキサン環を有するポリエステルとしては、上記のものに制限されず、例えば、ジカルボン酸成分にシクロヘキサン環を有していてもよい。
【0030】
また、前記低誘電特性を有するポリエステルとして、なかでも、後述する層Bとの層間密着性及び低誘電特性の観点から、ジカルボン酸成分(a-1)としてテレフタル酸単位を、ジオール成分(a-2)として1,4-シクロヘキサンジメタノール単位を有するポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートが好ましく、延伸加工性向上の観点から、前記ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートが、ジカルボン酸成分(a-1)として、さらに、イソフタル酸単位を有することがより好ましい。
また、層Aが前記ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートを含むことで、オリゴマーが析出・結晶化して起こるフィルム外観の白化による視認性低下抑制にも効果がある。
【0031】
層Bとの層間密着性の観点から、ジカルボン酸成分(a-1)として、テレフタル酸単位を50モル%以上含有することがより好ましく、さらに好ましくは60モル%以上、特に好ましくは70モル%以上、とりわけ好ましくはジカルボン酸成分80モル%以上がテレフタル酸単位である。
また、延伸加工性の観点から、ジカルボン酸成分(a-1)として、さらにイソフタル酸単位を3モル%以上含有することが好ましく、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは8モル%以上である。上限値は、結晶性の観点から、イソフタル酸単位は25モル%以下が好ましく、より好ましくは20モル%以下である。
【0032】
前記ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートを構成するテレフタル酸及びイソフタル酸以外のジカルボン酸成分(a-1)としては、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、2,4-フランジカルボン酸、3,4-フランジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも成形性の観点から、2,5-フランジカルボン酸、2,4-フランジカルボン酸、3,4-フランジカルボン酸が好ましい。これらのジカルボン酸成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、前記テレフタル酸及びイソフタル酸以外のジカルボン酸成分の含有量は、テレフタル酸及びイソフタル酸を含む全ジカルボン酸成分中10モル%以下であることが好ましい。
【0033】
また、耐熱性及び延伸加工性の観点から、ジオール成分(a-2)として、1,4-シクロヘキサンジメタノール単位を80モル%以上含有することがより好ましく、さらに好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、とりわけ好ましくはジオール成分(a-2)の全て(100モル%)が1,4-シクロヘキサンジメタノール単位である。
【0034】
前記ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートを構成する1,4-シクロヘキサンジメタノール以外のジオール成分(a-2)としては、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、ヒドロキノン、ビスフェノール、スピログリコール、2,2,4,4,-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオール、イソソルバイド等が挙げられる。これらの中でも成形性の観点からエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。これらのジオール成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、前記1,4-シクロヘキサンジメタノール以外のジオール成分の含有量は、1,4-シクロヘキサンジメタノールを含む全ジオール成分中10モル%以下であることが好ましい。
【0035】
ポリエステルの重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えばチタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物等が挙げられる。
【0036】
オリゴマー成分の析出量を抑えるために、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルを原料としてフィルムを製造してもよい。オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を用いることができ、例えばポリエステル製造後に固相重合する方法等が挙げられる。
また、ポリエスエルは、エステル化もしくはエステル交換反応をした後に、さらに反応温度を高くして減圧下で溶融重縮合して得てもよい。
【0037】
また、層Aには、本発明の効果を損なわない範囲において、ポリエステル以外の他の樹脂を含むことができる。当該他の樹脂としては、例えばポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂(アラミド系樹脂を含む)、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、及び、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0038】
層Aには、易滑性の付与及び各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を含有させることも可能である。粒子の種類は、易滑性の付与が可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等が挙げられる。
さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0039】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。
また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、1種単独で使用してもよいし、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0040】
用いる粒子の平均粒径は、通常5μm以下が好ましく、さらに好ましくは0.01~3μmの範囲である。5μm以下であると、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎることがなく、後工程において各種の表面機能層を形成させる場合等に不具合が生じない。また、フィルムの透明性が十分となり好ましい。
なお、粒子の平均粒径は、遠心沈降式粒度分布測定装置を用いて測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒径(d50)から算出される。
【0041】
さらに、層A中の粒子含有量は、通常5質量%未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.0003~3質量%の範囲である。粒子が無い場合、あるいは少ない場合は、フィルムの透明性が高くなり、透明性の点から良好なフィルムとなるが、滑り性が不十分となる場合があるため、塗布層中に粒子を入れることにより、滑り性を向上させる等の工夫が必要な場合がある。一方、粒子含有量が5質量%未満であれば、フィルムの透明性が良好となる。
【0042】
層A中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化又はエステル交換反応終了後、添加するのが好ましい。
【0043】
なお、層A中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0044】
<層B>
層Bを構成するポリエステルとしては、特に制限されるものではなく、下記のようなジカルボン酸成分(b-1)及びジオール成分(b-2)からなるものが挙げられる。
ジカルボン酸成分(b-1)としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、フタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2-カリウムスルホテレフタル酸、5-ソジウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、コハク酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、p-ヒドロキシ安息香酸、トリメリット酸モノカリウム塩及びそれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0045】
ジオール成分(b-2)としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオ-ル、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオ-ル、2-メチル-1,5-ペンタンジオ-ル、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノ-ル、p-キシリレングリコ-ル、ビスフェノールA-エチレングリコ-ル付加物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコ-ル、ポリプロピレングリコ-ル、ポリテトラメチレングリコ-ル、ポリテトラメチレンオキシドグリコ-ル、ジメチロ-ルプロピオン酸、グリセリン、トリメチロ-ルプロパン、ジメチロ-ルエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロ-ルプロピオン酸カリウム等が挙げられる。
上記化合物の中から、それぞれ適宜1種以上を選択し、常法の重縮合反応によりポリエステルを合成すればよい。
【0046】
なお、層Bを構成するポリエステルは、前記層Aを構成するポリエステルと同一であってもよいし、異なるものであってもよい。
【0047】
上記ポリエステルのうち、耐熱性、耐候性、機械的強度、コストなどのバランスや汎用性向上の観点から、ジカルボン酸成分(b-1)としてテレフタル酸単位を、ジオール成分(b-2)としてエチレングリコール単位を有するポリエチレンテレフタレートを含むことが好ましい。
結晶性及び耐熱性の観点から、ジカルボン酸成分(b-1)として、テレフタル酸単位を60モル%以上含有することがより好ましく、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、とりわけ好ましくはジカルボン酸成分(b-1)の全て(100モル%)がテレフタル酸単位である。
また、同様の観点から、ジオール成分(b-2)として、エチレングリコール単位を60モル%以上含有することがより好ましく、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、とりわけ好ましくはジオール成分(b-2)の全て(100モル%)がエチレングリコール単位である。
【0048】
ポリエステルの重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えばチタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物等が挙げられる。
【0049】
オリゴマー成分の析出量を抑えるために、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルを原料としてフィルムを製造してもよい。オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を用いることができ、例えばポリエステル製造後に固相重合する方法等が挙げられる。
また、ポリエスエルは、エステル化もしくはエステル交換反応をした後に、さらに反応温度を高くして減圧下で溶融重縮合して得てもよい。
【0050】
なお、層B中にも、層Aと同様、粒子、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0051】
<積層ポリエステルフィルムの製造方法>
本積層ポリエステルフィルムの製造方法について説明する。ただし、以下の説明は積層ポリエステルフィルムを製造する方法の一例であり、本発明の積層ポリエステルフィルムは係る製造方法により製造される積層ポリエステルフィルムに限定されるものではない。
【0052】
例えば二軸延伸フィルムを製造する場合、先に述べた原料となるポリエステルを、複数の押出機を用いてダイから溶融シートとして押し出し、回転冷却ドラムで冷却固化して未延伸積層シートを得る方法が好ましい。この場合、積層シートの平面性を向上させるため積層シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法及び/又は液体塗布密着法が好ましく採用される。このようにして、未延伸積層シートを得る。
なお、原料となるポリエステルは、ペレットなどとして、適宜乾燥されたうえで押出機に供給されるとよい。また、粒子、紫外線吸収剤、その他の添加剤などは、適宜ペレットに配合されてもよい。
【0053】
次に、前記方法により得られた未延伸積層シートを一方向にロール又はテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70~120℃、好ましくは80~110℃であり、延伸倍率は通常2.5~7倍、好ましくは3.0~6倍である。
次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70~170℃であり、延伸倍率は通常3.0~7倍、好ましくは3.5~6倍である。
【0054】
そして、引き続き180~270℃の温度で緊張下又は30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸延伸フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0055】
また、積層ポリエステルフィルムの製造に同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70~120℃、好ましくは80~110℃で温度コントロールされた状態で長手方向及び幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4~50倍、好ましくは7~35倍、さらに好ましくは10~25倍である。
そして、引き続き、170~250℃の温度で緊張下又は30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式及びリニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0056】
なお、フィルムの長手方向(MD)とは、フィルムの製造工程でフィルムが進行する方向、すなわちフィルムロールの巻き方向をいう。幅方向(TD)とは、フィルム面に平行かつ長手方向と直交する方向をいい、すなわち、フィルムロール状としたときロールの中心軸と平行な方向である。
【0057】
<積層ポリエステルフィルムの物性>
本積層ポリエステルフィルムの28GHzにおける誘電正接は、0.0060以下である。誘電正接が0.0060を超えると十分な伝送損失の低減効果が得られない。以上の観点から、積層ポリエステルフィルムの誘電正接は、0.0058以下であることがより好ましく、0.0056以下であることがさらに好ましい。下限値は、特に制限されないが、0.001以上である。
本積層ポリエステルフィルムの誘電正接が、かかる範囲であれば、本積層ポリエステルフィルムの低誘電特性が良好となり、高速通信回路用として好適に使用することができる。
なお、誘電正接は、層A及び層Bに使用するポリエステルや、積層ポリエステルフィルムの製膜及び延伸条件によって調整することができる。
【0058】
本積層ポリエステルフィルムの28GHzにおける比誘電率は、3.5以下であることが好ましく、3.3以下であることがより好ましく、3.1以下であることがさらに好ましい。下限値は、特に制限されないが、2.0以上である。
本積層ポリエステルフィルムの比誘電率が、かかる範囲であれば、本積層ポリエステルフィルムの低誘電特性が良好となり、高速通信回路用として好適に使用することができる。
なお、積層ポリエステルフィルムの誘電正接及び比誘電率は、実施例に記載の方法で測定した値である。
【0059】
本積層ポリエステルフィルムのヘーズは、4.0%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましく、2.5%以下であることがさらに好ましく、2.0%以下であることが特に好ましく、1.5%以下であることがとりわけ好ましく、1.0%以下であることが最も好ましい。下限値は、特に制限されないが、0.1%以上である。
ヘーズがかかる範囲にあれば、本積層ポリエステルフィルムが良好な透明性を有しているといえ、特に透明アンテナフィルム用に好適に使用できる。
なお、ヘーズは実施例に記載の方法により測定した値である。
【0060】
本積層ポリエステルフィルムの150℃、30分間熱処理後の熱収縮率は、長手方向(MD)及び幅方向(TD)のいずれも、-5~5%であることが好ましく、-3~3%であることがより好ましく、-2~2%であることがさらに好ましい。熱収縮率がかかる範囲であれば、フィルムとして十分な平面性及び耐熱性を有する。なお、熱収縮率は実施例に記載の方法により測定され、正の数値は収縮率であり、負の値は膨張率となる。
【0061】
(伝送損失低減率(%))
本積層ポリエステルフィルムを用いた場合の伝送損失低減率(%)は、実施例に記載のシミュレーションから得られた伝送損失(dB)を用いて以下のように算出した。
[伝送損失低減率(%)]=(1-[本積層ポリエステルフィルムを用いた場合の伝送損失(dB)]/[ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた場合の伝送損失(dB)])×100
伝送損失低減率は、5%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましい。伝送損失低減率は高ければ高いほど好ましいが、5%以上であれば、導体配線直下に配置する層Aを低誘電特性化させた本積層ポリエステルフィルムを用いることで、効率的に伝送損失を低減させられるといえる。
【0062】
<<硬化樹脂層付き積層フィルム>>
本発明の積層ポリエステルフィルムは、金属層に対する密着性向上を目的として、必要に応じて、積層ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層上に硬化樹脂層を有していてもよく、該硬化樹脂層は、架橋剤を不揮発成分に対して70質量%以上含有する樹脂組成物から形成されることが好ましい。なかでも、積層ポリエステルフィルムの両表層上に硬化樹脂層を設けることがより好ましい。ここで、硬化樹脂層を有する積層ポリエステルフィルムは、前述の通り、硬化樹脂層付き積層フィルムと称する。
なお、積層ポリエステルフィルムと前記硬化樹脂層との間には、その他の層を有していてもよい。
【0063】
前記架橋剤としては、種々公知の架橋剤が使用でき、例えば、オキサゾリン化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、シランカップリング化合物等が挙げられる。
これらの中でも、硬化樹脂層上に金属層を設ける場合、耐久密着性が向上するという観点から、オキサゾリン化合物が好適に用いられる。
また、加熱によるフィルム表面へのオリゴマーの析出防止や、硬化樹脂層の耐久性向上という観点からは、メラミン化合物が好適に用いられる。
【0064】
(オキサゾリン化合物)
オキサゾリン化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物であり、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン及び2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限はなく、例えばアルキル(メタ)アクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基及びシクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド及びN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の含ハロゲンα,β-不飽和モノマー類;スチレン、α-メチルスチレン等のα,β-不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上のモノマーを使用することができる。
塗膜の耐久性向上の観点から、オキサゾリン化合物のオキサゾリン基量は、好ましくは0.5~10mmol/g、より好ましくは3~9mmol/g、さらに好ましくは5~8mmol/gの範囲である。
【0065】
(メラミン化合物)
メラミン化合物とは、化合物中にメラミン骨格を有する化合物のことであり、例えばアルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、及びこれらの混合物を用いることができる。エーテル化に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール及びイソブタノール等が好適に用いられる。
また、メラミン化合物としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。さらに、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できるし、メラミン化合物の反応性を上げるために触媒を使用することも可能である。
【0066】
(エポキシ化合物)
エポキシ化合物とは、分子内にエポキシ基を有する化合物であり、例えばエピクロロヒドリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン及びビスフェノールA等の水酸基やアミノ基との縮合物や、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物、グリシジルアミン化合物等がある。
ポリエポキシ化合物としては、例えばソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル及びトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等が挙げられる。ジエポキシ化合物としては、例えばネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル及びポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。モノエポキシ化合物としては、例えばアリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル及びフェニルグリシジルエーテル等が、グリシジルアミン化合物としてはN,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0067】
(イソシアネート化合物)
イソシアネート化合物とは、イソシアネート、あるいはブロックイソシアネートに代表されるイソシアネート誘導体構造を有する化合物のことである。イソシアネートとしては、例えばトリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート及びナフタレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族イソシアネート;メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)及びイソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族イソシアネート等が例示される。また、これらイソシアネートのビュレット化物、イソシアヌレート化物、ウレトジオン化物及びカルボジイミド変性体等の重合体や誘導体も挙げられる。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。上記イソシアネートの中でも、紫外線による黄変を避けるために、芳香族イソシアネートよりも脂肪族イソシアネート又は脂環族イソシアネートがより好ましい。
【0068】
ブロックイソシアネートの状態で使用する場合、そのブロック剤としては、例えば重亜硫酸塩類、フェノール、クレゾール及びエチルフェノールなどのフェノール系化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ベンジルアルコール、メタノール及びエタノールなどのアルコール系化合物;イソブタノイル酢酸メチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル及びアセチルアセトンなどの活性メチレン系化合物;ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系化合物;ε‐カプロラクタム、δ‐バレロラクタムなどのラクタム系化合物;ジフェニルアニリン、アニリン及びエチレンイミンなどのアミン系化合物;アセトアニリド、酢酸アミドの酸アミド化合物;ホルムアルデヒド、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム及びシクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物が挙げられ、これらは単独でも2種以上の併用であってもよい。
【0069】
また、イソシアネート化合物は単体で用いてもよいし、各種ポリマーとの混合物や結合物として用いてもよい。イソシアネート化合物の分散性や架橋性を向上させるという意味において、ポリエステル樹脂やウレタン樹脂との混合物や結合物を使用することが好ましい。
【0070】
(カルボジイミド化合物)
カルボジイミド化合物とは、カルボジイミド構造を有する化合物のことであり、分子内にカルボジイミド構造を1つ以上有する化合物であるが、より良好な密着性等のために、分子内に2つ以上のカルボジイミド構造を有するポリカルボジイミド化合物がより好ましい。
【0071】
カルボジイミド化合物は従来公知の技術で合成することができ、一般的には、ジイソシアネート化合物の縮合反応が用いられる。ジイソシアネート化合物としては、特に限定されるものではなく、芳香族系、脂肪族系いずれも使用することができ、具体的には、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0072】
カルボジイミド化合物に含有されるカルボジイミド基の含有量は、カルボジイミド当量(カルボジイミド基1molを与えるためのカルボジイミド化合物の重さ[g])で、通常100~1000、好ましくは250~700、より好ましくは300~500の範囲である。上記範囲で使用することで、塗膜の耐久性が向上する。
【0073】
さらに本発明の主旨を損なわない範囲において、ポリカルボジイミド化合物の水溶性や水分散性を向上するために、界面活性剤を添加することや、ポリアルキレンオキシド、ジアルキルアミノアルコールの四級アンモニウム塩及びヒドロキシアルキルスルホン酸塩などの親水性モノマーを添加して用いてもよい。
【0074】
(シランカップリング化合物)
シランカップリング化合物とは、1つの分子中に有機官能基とアルコキシ基などの加水分解基を有する有機ケイ素化合物である。例えば、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニル基含有化合物;p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシランなどのスチリル基含有化合物;3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどの(メタ)アクリル基含有化合物;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ基含有化合物;トリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス(トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレートなどのイソシアヌレート基含有化合物;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどのメルカプト基含有化合物などが挙げられる。
【0075】
これらの架橋剤は、単独でも2種以上の併用であってもよいが、2種以上併用することにより、硬化樹脂層上に設ける金属層との密着性及び加熱後のオリゴマーの析出防止性を向上させることができる。その中でも、特に硬化樹脂層上の金属層との密着性を向上させられるオキサゾリン化合物と、加熱後のオリゴマーの析出防止性が良好なメラミン化合物との組み合わせが好ましい。
【0076】
また、硬化樹脂層上の金属層との密着性をより向上させるためには、3種以上の架橋剤を組み合わせることがより好ましく、3種以上の架橋剤の組み合わせとしては、架橋剤の1つとしてメラミン化合物を選択することが好適であり、メラミン化合物と組み合わせる相手方の架橋剤としては、オキサゾリン化合物とエポキシ化合物、カルボジイミド化合物とエポキシ化合物がさらに好ましい。
【0077】
本発明に係る硬化樹脂層を形成する樹脂組成物中の全不揮発成分に対する割合として、前記架橋剤は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。70質量%以上であれば、硬化樹脂層上に設けた金属層との密着性及び加熱後のオリゴマー析出防止性が良好となる。
【0078】
前記樹脂組成物は、硬化樹脂層の外観の向上や、硬化樹脂層上に設ける金属層との密着性向上等のために、本発明の主旨を損なわない範囲において、バインダー樹脂を含有することも可能である。
前記バインダー樹脂としては、従来公知のものを使用できるが、硬化樹脂層上に設ける層との密着性向上の観点から、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂を使用することが好ましい。
【0079】
また、前記樹脂組成物は、ブロッキング、滑り性改良を目的として、粒子を含有することも可能である。その平均粒径は、フィルムの透明性の観点から、1.0μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.2μm以下がさらに好ましい。一方、滑り性をより効果的に向上させるために、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.03μm以上、特に好ましくは硬化樹脂層の膜厚よりも大きい範囲である。
なお、粒子の具体例としては、シリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、有機粒子等が挙げられる。
【0080】
さらに、本発明の主旨を損なわない範囲において、前記樹脂組成物には必要に応じて、架橋触媒、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料等を併用することが可能である。
【0081】
硬化樹脂層の膜厚(乾燥後)としては、0.003~1.0μmが好ましく、0.005~0.5μmがより好ましく、0.01~0.2μmがさらに好ましい。膜厚が1.0μm以下であれば、硬化樹脂層の外観や耐ブロッキング性が十分である。一方、膜厚が0.003μm以上であれば、フィルムから析出するオリゴマー析出量が少なく、良好となる。
【0082】
前記樹脂組成物は、一般的に、水、有機溶剤、又はこれらの混合液により希釈されていることが好ましく、硬化樹脂層は、樹脂組成物の希釈液を、積層ポリエステルフィルムの表面に塗布液としてコーティングして、乾燥することにより形成するとよい。
【0083】
積層ポリエステルフィルムの表面には必要に応じてコーティングを施すことができ、コーティングにより、前記硬化樹脂層を形成するとよい。硬化樹脂層の形成方法としては、インラインコーティング及びオフラインコーティングがあるが、インラインコーティングで行うことが好ましい。インラインコーティングは、積層ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、原料であるポリエステルを溶融押し出ししてから延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融、急冷して得られる未延伸積層シート、延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルム、熱固定後で巻き上げ前の積層ポリエステルフィルムの何れかにコーティングするが、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に幅方向(横方向)に延伸する方法が好ましい。
【0084】
<硬化樹脂層付き積層フィルムの物性>
本発明に係る硬化樹脂層は、金属層に対する密着性向上だけでなく、加熱によるフィルム表面へのオリゴマーの析出防止にも効果がある。オリゴマーの析出を低減させることで、オリゴマーが析出・白化して起こるフィルム外観の白化による視認性低下を抑制することができる。
本発明の硬化樹脂層付き積層フィルムにおいて、積層ポリエステルフィルムの両表層上に硬化樹脂層を有する態様では、少なくとも一方の硬化樹脂層表面のオリゴマー(エステル環状三量体)析出量は、0.40mg/m以下であることが好ましく、0.35mg/m以下であることがより好ましく、0.30mg/m以下であることがさらに好ましく、0.25mg/m以下であることが特に好ましい。オリゴマー析出量が0.40mg/m以下であれば、表面にオリゴマーが析出・結晶化して起こるフィルム外観の白化による視認性の低下、後加工での欠陥の発生及び工程内や部材の汚染などがなく好ましい。下限値は特に制限されないが、0.01mg/m以上である。
なお、硬化樹脂層表面のオリゴマー析出量は、使用するポリエステルや、積層ポリエステルフィルムの層構成から調整することができる。
また、前記層A上の硬化樹脂層表面のオリゴマー析出量が、前記層B上の硬化樹脂層表面のオリゴマー析出量よりも少なくなる場合には、視認性低下抑制の観点からは、層A/層Bの2層構成や層A/層B/層Bの3層構成よりも層A/層B/層Aの3層構成が好ましい。
なお、オリゴマー析出量は実施例に記載の方法により得られる値である。
【0085】
<<金属積層フィルム>>
本発明の金属積層フィルムにおいて、前記硬化樹脂層上には金属層を有していてもよい。なお、前記硬化樹脂層と金属層との間には、その他の層を有していてもよい。
金属層は、金属を主成分として含有する層である。ここでいう、主成分とは、金属層の50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上を金属が占めるという意味である。
使用する金属に関しては、銅、銅合金、銀、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金などが挙げられるが、電磁波遮蔽特性の観点から、銅、銀が好ましく、柔軟性(フレキシブル性)の観点から、銅がより好ましい。
【0086】
金属層は、積層ポリエステルフィルム及び硬化樹脂層付き積層フィルムが有する透明性を保持する観点から、例えば、メッシュ形状やワイヤー形状のようにパターン化されていることが好ましい。
【0087】
金属層の厚みは、2~30μmであることが好ましく、3~25μmであることがより好ましい。金属層の厚みが上記下限値以上であると、導電性が十分に担保され、上記上限値以下であると金属層を設けた際に視認性を低減することができる。
なお、金属層の厚みはサンプル断面を電子顕微鏡で観察する方法により、測定できる。
【0088】
<<用途>>
本発明の積層ポリエステルフィルム、硬化樹脂層付き積層フィルム及び金属積層フィルムは、透明性を損なわず、優れた低誘電特性を有する。
したがって、高速通信回路用に好適に用いることができる。高速通信回路用途としては、樹脂フィルムと銅箔で形成される柔軟な回路基板であるFPC(Flexible Printed Circuits)や、透明なフィルム上に視認されない超微細金属メッシュ配線を形成した透明アンテナフィルム等が挙げられる。中でも、高い透明性が求められる透明アンテナフィルム用として好適に用いることができる。
【0089】
<<語句の説明など>>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0090】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0091】
<評価方法>
(1)ポリエステルの固有粘度
ポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(質量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0092】
(2)積層ポリエステルフィルムの誘電正接と比誘電率
実施例及び比較例で得られた積層ポリエステルフィルムについて、株式会社エーイーティー社製の誘電率測定システム(空洞共振器(TEモード)、制御ソフトウェア、ベクトルネットワークアナライザMS46122B(アンリツ株式会社製))を用いてJIS R1641に準じて、周波数28GHzにおける誘電正接及び比誘電率を測定した。
【0093】
(3)層Aの誘電正接と比誘電率
層Aの原料を小型二軸スクリュー押出機に投入し、300℃で溶融押出を行い、厚さ200μmの未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを、バッチ式小型ニ軸延伸機によって、100℃で3.0×3.0の倍率で延伸し、二軸延伸フィルムサンプルを得た。得られたフィルムサンプルについて、上記と同様の方法を用いて、周波数28GHzにおける層Aの誘電正接及び比誘電率を測定した。
【0094】
(4)ヘーズ
JIS K7136に準拠し、日本電色工業(株)製ヘーズメーター DH-2000を用いて測定した。
【0095】
(5)熱収縮率
1.5cm×15cmの試料フィルムを無張力状態で所定の温度(150℃)に保った熱風式オーブン中、30分間熱処理を施し、その前後の試料フィルムの長さを測定して下記式にて算出した。なお、フィルムの長手方向(MD)と幅方向(TD)のそれぞれについて測定した。
熱収縮率(%)={(熱処理前のサンプル長)-(熱処理後のサンプル長)}÷(熱処理前のサンプル長)×100
【0096】
(6)シミュレーションによる伝送損失評価
フィルム回路基板上のパターンとして、マイクロストリップラインにて、特性インピーダンスが50Ωとなる適切な線路幅(50Ω線路幅)と伝送損失(挿入損失、S21)を求める電磁界シミュレーションを実施した。
シミュレーションモデルとして、ポリエステルフィルム(基板)の厚みを125μmとした。なお、シミュレーションに使用した各ポリエステル層の28GHzにおける比誘電率及び誘電正接は、表1に記載のとおりである。
また、基板上に金属層(銅箔、厚み18μm、表面粗さ(Rz)1.0μm、線路長100mm)を積層したシミュレーションモデルを作製した。
電磁界シミュレーションは、特性インピーダンスを50Ω、周波数を28GHzとする条件で行った。
【0097】
図1は、マイクロストリップラインの一例を示す断面図である。マイクロストリップライン10は、基板11と、金属層からなるマイクロストリップ線路12と、金属層からなるグランド面13とを有する。
【0098】
【表1】
【0099】
(7)加熱による硬化樹脂層表面のオリゴマー(エステル環状三量体)析出量
実施例及び比較例で得られた硬化樹脂層付き積層フィルムについて、縦300mm、横225mmのサイズの試料サンプルとして、所定の温度(180℃)に保った熱風式オーブン中、120分間熱処理を施した。熱処理後、測定面を内面として、縦200mm、横125mmの上部が開いている箱型の形状を作製した。
次いで、上記の箱型形状の中にDMF(ジメチルホルムアミド)10mLを入れて3分放置した後、DMFを回収し、液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製:LC-7A 移動相A:アセトニトリル、移動相B:2%酢酸水溶液、カラム:三菱ケミカル株式会社製「MCI GEL ODS 1HU」、カラム温度:40℃、流速:1mL/分、検出波長:254nm)に供給して、DMF中のエステル環状三量体量を求め、この値を、DMFを接触させたフィルム面積で割って、硬化樹脂層表面のオリゴマー(エステル環状三量体)量(mg/m)とした。DMF中のエステル環状三量体は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。
なお、標準試料は、予め分取したエステル環状三量体を正確に秤量し、正確に秤量したDMFに溶解し、作製した。
【0100】
<使用した材料>
[ポリエステル原料]
原料A:ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(ジカルボン酸成分:テレフタル酸/イソフタル酸(モル比)=92/8、ジオール成分:1、4-シクロヘキサンジメタノール100モル%)(固有粘度=0.80dL/g)
原料B:ホモポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.64dL/g)
【0101】
[硬化樹脂層]
硬化樹脂層を形成するための樹脂組成物としては下記を用いた。
(A1):ヘキサメトキシメチロールメラミン
(A2):オキサゾリン化合物であるエポクロス(株式会社日本触媒製) オキサゾリン基量7.7mmоl/g
(A3):ポリグリセロールポリグリシジルエーテル
(B1):平均粒径0.07μmのシリカ粒子
また、実施例で用いた塗布液の組成は表2に示すとおりである。
【0102】
【表2】
【0103】
(実施例1)
原料Aを層Aの原料とし、原料Bを層Bの原料とした。そして、表層の原料として原料Aを、中間層の原料として原料Bを、もう一方の表層の原料として原料Bを、それぞれ別に二軸スクリュー押出機に投入し、層Aは290℃、層Bは280℃で共押出をして、15℃に設定した冷却ロール上で冷却固化させることで、層A/層B/層Bの2種3層の未延伸積層シートを得た。
次いで、得られた未延伸積層シートをロール延伸機で長手方向(MD)に88℃で3.0倍に延伸した。さらに、テンター内にて120℃で予熱した後、幅方向(TD)に130℃で3.7倍に延伸した。最後に250℃で熱処理を施し、厚み125μm(層A/層B/層B=50/50/25(μm))の二軸延伸積層ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層ポリエステルフィルムの特性は、上記の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
【0104】
(実施例2)
実施例1の長手方向(MD)延伸後、幅方向(TD)延伸前に、一軸延伸積層ポリエステルフィルムの両面に、前記塗布液を塗布し、膜厚(乾燥後)が0.04μmの硬化樹脂層を有する二軸延伸積層ポリエステルフィルム(硬化樹脂層付き積層フィルム)を得た。
得られた硬化樹脂層付き積層フィルムの評価結果を下記表4に示す。
【0105】
(実施例3)
実施例1において、幅方向(TD)の延伸倍率を3.8倍としたこと以外は、実施例1と同様にして、厚み125μm(層A/層B/層B=25/75/25(μm))の二軸延伸積層ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層ポリエステルフィルムの特性は、上記の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
【0106】
(実施例4)
実施例3の長手方向(MD)延伸後、幅方向(TD)延伸前に、一軸延伸積層ポリエステルフィルムの両面に、前記塗布液を塗布し、膜厚(乾燥後)が0.04μmの硬化樹脂層を有する二軸延伸積層ポリエステルフィルム(硬化樹脂層付き積層フィルム)を得た。
得られた硬化樹脂層付き積層フィルムの評価結果を下記表4に示す。
【0107】
(実施例5)
原料Aを層Aの原料とし、原料Bを層Bの原料とした。そして、両表層の原料として原料Aを、中間層の原料として原料Bを、それぞれ別に二軸スクリュー押出機に投入し、層Aは290℃、層Bは280℃で共押出をして、15℃に設定した冷却ロール上で冷却固化させることで、層A/層B/層Aの2種3層の未延伸積層シートを得た。
次いで、得られた未延伸積層シートをロール延伸機で長手方向(MD)に90℃で3.0倍に延伸した。さらに、テンター内にて120℃で予熱した後、幅方向(TD)に130℃で3.8倍に延伸した。最後に250℃で熱処理を施し、厚み125μm(層A/層B/層A=25/75/25(μm))の二軸延伸積層ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層ポリエステルフィルムの特性は、上記の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
【0108】
(実施例6)
実施例5の長手方向(MD)延伸後、幅方向(TD)延伸前に、一軸延伸積層ポリエステルフィルムの両面に、前記塗布液を塗布し、膜厚(乾燥後)が0.04μmの硬化樹脂層を有する二軸延伸積層ポリエステルフィルム(硬化樹脂層付き積層フィルム)を得た。
得られた硬化樹脂層付き積層フィルムの評価結果を下記表4に示す。
【0109】
(比較例1)
原料Bを二軸スクリュー押出機に投入し、280℃で押出をして、20℃に設定した冷却ロール上で冷却固化させることで、未延伸シートを得た。
次いで、得られた未延伸シートをロール延伸機で長手方向(MD)に85℃で3.2倍に延伸した。さらに、テンター内にて110℃で予熱した後、幅方向(TD)に140℃で4.3倍に延伸した。最後に240℃で熱処理を施し、厚み125μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
得られたポリエステルフィルムの特性は、上記の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
【0110】
(比較例2)
比較例1の長手方向(MD)延伸後、幅方向(TD)延伸前に、一軸延伸ポリエステルフィルムの両面に、前記塗布液を塗布し、膜厚(乾燥後)が0.04μmの硬化樹脂層を有する二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
得られた硬化樹脂層付きフィルムの評価結果を下記表4に示す。
【0111】
なお、下記表3中のTPAはテレフタル酸、IPAはイソフタル酸、CHDMは1,4-シクロヘキサンジメタノール、EGはエチレングリコールである。
また、表3及び表4中の上面とはマイクロストリップ線路を設ける面であり、下面とはグランド面を設ける面を表し、例えば、実施例1の場合は、上面は層A、下面は層Bとなる。
【0112】
【表3】
【0113】
【表4】
【0114】
実施例1、3、及び5の結果から、本発明の積層ポリエステルフィルムは、伝送損失の低減率が高く、汎用樹脂であるポリエチレンテレフタレートを用いたフィルム構成であっても、低誘電特性フィルムとしての可能性を示唆する結果である。また、ヘーズが低く、透明性に優れる。さらに、ポリエチレンテレフタレートを用いた構成であることから、耐熱性、耐候性、機械的特性、加工性に優れ、またコストの点からも有利である。
また、硬化樹脂層付き積層フィルムにおいては、実施例2、4、及び6の結果から、層A上に硬化樹脂層を有することで、硬化樹脂層表面のオリゴマー析出量を低減させ得る。したがって、本発明の積層ポリエステルフィルム及び硬化樹脂層付き積層フィルムは、視認性も良好であり、特に透明アンテナフィルム用として好適である。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の積層ポリエステルフィルム及び硬化樹脂層付き積層フィルムは、優れた低誘電特性及び透明性を有することから、高速通信回路用途として、特に高い透明性が求められる透明アンテナフィルム用として非常に有用である。
【符号の説明】
【0116】
10 マイクロストリップライン
11 基板
12 マイクロストリップ線路
13 グランド面
図1