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特開2022-172760情報処理装置、情報処理方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172760
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
A61B5/11 210
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078938
(22)【出願日】2021-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506055405
【氏名又は名称】学校法人帝京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(72)【発明者】
【氏名】吉田 寛
(72)【発明者】
【氏名】酒井 理恵
(72)【発明者】
【氏名】田中 和哉
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA11
4C038VB15
(57)【要約】
【課題】 より適切なぐらつき判定を可能にする技術を提供する。
【解決手段】 取得部と、第1算出部と、第2算出部と、決定部と、を備える情報処理装置を提供する。取得部は、作業者の重心位置に関する時系列データを取得する。第1算出部は、時系列データをもとに、作業者の重心動揺の程度を表す第1評価値を算出する。第2算出部は、時系列データをもとに、作業者が動揺状態から立位状態に戻る時間を表す第2評価値を算出する。決定部は、第1評価値と第2評価値とに基づいて、作業者が動揺状態から立位状態に戻れるか否かの指標となる、第1評価値に関する閾値を決定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者の重心位置に関する時系列データを取得する取得部と、
前記時系列データをもとに、前記作業者の重心動揺の程度を表す第1評価値を算出する、第1算出部と、
前記時系列データをもとに、前記作業者が動揺状態から立位状態に戻る時間を表す第2評価値を算出する、第2算出部と、
前記第1評価値と前記第2評価値とに基づいて、前記作業者が動揺状態から立位状態に戻れるか否かの指標となる、前記第1評価値に関する閾値を決定する、決定部と、
を備える、情報処理装置。
【請求項2】
前記作業者が作業をしているときに取得された時系列データをもとに算出される前記第1評価値を、前記閾値と比較し、前記第1評価値が前記閾値を超過したかどうかを判定する、判定部と、
前記第1評価値が前記閾値を超過したと判定された場合に通知を出力する、通知部と、
をさらに備える、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記決定部は、
前記作業者に外乱を与えた場合に前記作業者が動揺状態から立位状態に戻るまでに取得された前記時系列データをもとに算出される、前記第1評価値の最大値と、前記第2評価値と、の複数のセットを蓄積し、
前記複数のセットをもとに、前記第2評価値が所定の基準値以下になるときの前記第1評価値の最大値に基づいて、前記閾値を決定する、
請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記立位状態は、前記作業者に外乱を与えない状態で取得された前記時系列データをもとに算出された前記第1評価値に基づいて判定される、
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記第1算出部は、前記第1評価値として前記作業者の重心動揺面積を算出する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記取得部は、前記作業者が乗る作業用器具の脚部に設けられたセンサからの信号に基づいて前記時系列データを取得する、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
情報処理装置が実行する情報処理方法であって、
作業者の重心位置に関する時系列データを取得することと、
前記時系列データをもとに、前記作業者の重心動揺の程度を表す第1評価値を算出することと、
前記時系列データをもとに、前記作業者が動揺状態から立位状態に戻る時間を表す第2評価値を算出することと、
前記第1評価値と前記第2評価値とに基づいて、前記作業者が動揺状態から立位状態に戻れるか否かの指標となる、前記第1評価値に関する閾値を決定することと、
を備える情報処理方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の情報処理装置の各部による処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、情報処理装置、情報処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
労働安全管理において、作業者の作業姿勢は、リスク判断要素の1つである。脚立や踏み台等の作業器具上で作業する作業者が姿勢を保持できない場合、転落のおそれがある。そこで、作業者の姿勢が労働安全管理上危険な段階にあるかどうかを判定する、ぐらつき判定を行うことが提案されている。
【0003】
例えば、脚立にセンサをつけ、作業者の重心位置が一定範囲から外れたときに警報を出力する装置を提供することが考えられる。立位時の重心動揺面積を測定して異常を検知する検査が提案されている(例えば、非特許文献1)。また、被験者を立位時から意図的に動揺させ、そこからの復帰の様子により異常を検知する検査も提案されている(例えば、非特許文献2、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ann L. Hunt and Kapil D. Sethi, “The Pull Test: A History”, Movement Disorders, Vol.21, No.7, July 2006, pp.894-899, <URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16685683/>
【非特許文献2】岡田 洋平ほか、「Hoehn & Yahr重症度分類3度以上のパーキンソン病患者におけるpull testと転倒との関係について」、理学療法科学24(1):49-52,2009、<URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/24/1/24_1_49/_pdf>
【非特許文献3】佐藤 哲哉ほか、「後方外乱に対するパーキンソニズムの立位姿勢反応-Postural Stress Testにおける検討-」、理学療法科学12(1):23-28,1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、正常な重心動揺状態には個人差があることがわかっており、重心動揺状態が正常範囲から逸脱したかどうかを判定するための閾値も個人によって異なる。また、逸脱した後の正常範囲への復帰の態様(例えば速度等)についても個人差があることがわかっており、労働安全管理上の危険を判断するための閾値も個人によって異なる。そのため、ぐらつき判定のための閾値の設定は容易でなく、より適切な判定指標が必要とされている。
【0006】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、より適切なぐらつき判定を可能にする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためにこの発明の第1の態様では、情報処理装置が、取得部と、第1算出部と、第2算出部と、決定部と、を備えるようにした。取得部は、作業者の重心位置に関する時系列データを取得する。第1算出部は、時系列データをもとに、作業者の重心動揺の程度を表す第1評価値を算出する。第2算出部は、時系列データをもとに、作業者が動揺状態から立位状態に戻る時間を表す第2評価値を算出する。決定部は、第1評価値と第2評価値とに基づいて、作業者が動揺状態から立位状態に戻れるか否かの指標となる、第1評価値に関する閾値を決定する。
【発明の効果】
【0008】
この発明の第1の態様によれば、作業者の重心動揺の程度を表す第1評価値と、作業者が動揺状態から立位状態に戻る時間を表す第2評価値と、に基づいて、作業者が動揺状態から立位状態に戻れるか否かの指標となる、第1評価値に関する閾値が決定される。閾値は、作業時の作業者の第1評価値と比較することで、重心動揺の程度がその作業者にとって危険であるかどうかを判断する指標として使用できる。第1評価値および第2評価値が作業者自身の時系列データに基づいて算出されるので、第1評価値と第2評価値とに基づいて決定される閾値もまた作業者の個性を反映する。これにより、作業者の個人差を考慮した、より適切なぐらつき判定を行うことができる。
【0009】
すなわちこの発明の各態様によれば、より適切なぐらつき判定を可能にする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、この発明の一実施形態に係る情報処理装置を備えるシステムの全体構成を示す図である。
図2図2は、図1に示した情報処理装置による正常値算出処理の処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
図3図3は、図1に示した情報処理装置による閾値決定処理の処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
図4図4は、ぐらつき状態の評価結果の一例を示す図である。
図5図5は、図4の結果に基づく加振量と時間の関係を表す略図である。
図6図6は、閾値決定イメージを示す略図である。
図7A図7Aは、評価結果の一例を示す図である。
図7B図7Bは、評価結果の他の例を示す図である。
図8図8は、図1に示した情報処理装置による転落リスク判定処理の処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
図9図9は、加振装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。なお、以降、説明済みの要素と同一または類似の要素には同一または類似の符号を付し、重複する説明については基本的に省略する。例えば、複数の同一または類似の要素が存在する場合に、各要素を区別せずに説明するために共通の符号を用いることがあるし、各要素を区別して説明するために当該共通の符号に加えて枝番号を用いることもある。
【0012】
[一実施形態]
(1)構成
(1-1)システム
図1は、この発明の一実施形態に係る情報処理装置を備えるぐらつき判定システム1の全体構成の一例を示す略図である。ぐらつき判定システム1は、ぐらつき判定装置10と、加振部20と、センサ32と、作業情報データベース100と、を備える。ぐらつき判定装置10は、一実施形態に係る情報処理装置の一例である。
【0013】
ぐらつき判定装置10と作業情報データベース100とは、インターネットなどのネットワークNWを介して無線または有線で接続される。なお、図1の例では、1つのぐらつき判定装置10を図示しているが、複数のぐらつき判定装置10が1つの作業情報データベース100に接続されてもよい。
【0014】
センサ32は、作業者50の重心位置に関する時系列データを収集する。センサ32は、一例として、作業者50が乗る脚立30の脚部31に分散して配置される複数のセンサを含む。各センサ32は、例えば、重量を計測可能な歪みセンサである。脚立30に作業者50が乗ると、各センサ32が歪みの大きさに応じたセンサ値を生成し出力する。センサ32は、センサ値を有線または無線によりぐらつき判定装置10に送信する。ぐらつき判定装置10は、4つのセンサ32から所定の間隔でセンサ値を受信し続けることで、作業者50の重心位置に関する時系列データを取得することができる。なお、センサ32の数は、4つに限定されず、3つ以上であればよい。センサ32の数が3つ以上であれば、作業者の重心の変動を検出することができる。
【0015】
ぐらつき判定装置10は、取得した時系列データに基づいて、作業者50の重量および重心位置を算出し、重心位置の変動を検出することができる。ぐらつき判定装置10はまた、取得した時系列データに基づいて、作業者50が脚立30に乗ったことを検知することができる。同様に、ぐらつき判定装置10は、取得した時系列データに基づいて、作業者50が脚立30から降りたまたは転落したことを判定することができる(例えば、センサ32の出力信号の電圧がゼロになる)。
【0016】
脚立30は、踏み台、三脚、作業台、および足場台など、作業者が当該器具に乗り、地面よりも高い位置で作業する際に用いられる器具であれば何でもよい。あるいは、脚立30とセンサ32の代わりに、センサを内蔵する重心動揺計を用いることもできる。
【0017】
作業者50は、ビーコン等の認識タグを所持するものとする。認識タグは、所持する作業者50を一意に識別する情報(以下、作業者ID(identification/identifier))を発信する。ぐらつき判定装置10は、例えば後述する取得部112により、作業者IDを取得する。
【0018】
加振部20は、作業者50が立っている脚立30に衝撃を与える(以下、「加振」とも言う)ことによって、作業者50に外乱を与える。加振部20は、作業者50自身に衝撃を与えるものでもよい。加振部20もまた、ぐらつき判定装置10に有線または無線で接続される。加振部20は、例えば、任意のタイミングで加振可能なアクチュエータであり、ぐらつき判定装置10から受信した制御信号に応じた加振を行う。
【0019】
ぐらつき判定装置10は、例えば、パーソナルコンピュータにより構成される。ぐらつき判定装置10は、処理回路11、メモリ12、通信インタフェース13、入力部14および出力部15を備える。処理回路11、メモリ12、通信インタフェース13、入力部14および出力部15は、互いにバス16を介して接続される。
【0020】
処理回路11は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ、またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの集積回路で構成される。プロセッサまたは集積回路が、メモリ12に記憶された処理プログラムを実行することにより、プロセッサまたは集積回路の一機能として、後述する各処理部(加振制御部111、取得部112、算出部113、決定部114、判定部115および通知制御部116)が実現される。
【0021】
メモリ12は、プログラムおよびデータを記憶するコンピュータ可読媒体である。メモリ12は、ROMなどの書換え不可の不揮発性メモリ、RAMなどの揮発性のワーキングメモリ、およびHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリなどの書換え可能な不揮発性メモリを含む。メモリ12は、センサ値、評価値、閾値および作業者IDなどのデータを格納する。メモリ12はまた、処理回路11に情報処理動作を実行させるための処理プログラムを格納する。ぐらつき判定装置10が、ネットワークNWを介して作業情報データベース100とデータを送受信可能な状況であれば、ぐらつき判定装置10でデータ(センサ値、評価値、閾値および作業者IDなど)を取得および生成するごとに作業情報データベース100に送信してもよく、メモリ12が過去のデータを保持しなくともよい。
【0022】
通信インタフェース13は、外部装置と通信するためのインタフェースである。ぐらつき判定装置10は、通信インタフェース13を介して、作業情報データベース100との間でデータ通信をすることができる。通信インタフェース13は一般的に用いられている、有線または無線の通信インタフェースを用いることが可能である。通信インタフェース13はまた、処理回路11と加振部20との間の通信、または処理回路11とセンサ32との間の通信に用いられてもよい。例えば、ぐらつき判定装置10は、通信インタフェース13を介して加振部20に制御信号を送信し、または通信インタフェース13を介してセンサ32からセンサ信号を受信し得る。
【0023】
入力部14は、作業者からの入力情報を受け付ける。入力部14は、例えば、マウス、キーボード、スイッチ、ボタン、タッチパネルディスプレイ、およびマイクなどを含む。入力部14はまた外部機器を接続するための端子を含んでよい。例えば、センサ32からの信号が専用端子を介して取り込まれてもよい。
【0024】
出力部15は、処理回路10が生成した各種の情報を外部に出力する。出力部15は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)または有機EL(Electro-luminescence)ディスプレイ等のディスプレイ、およびスピーカを含む。出力部15は、通知制御部から受け付けた制御信号に基づき、リスクが高い旨の通知(警報)を出力する通知部としても機能する。出力部15もまた外部機器を接続するための端子を含んでよい。例えば、加振部20への信号が専用端子を介して出力されてよい。
【0025】
作業情報データベース100は、処理回路10によって生成された作業情報を格納する。作業情報データベース100は、例えばクラウドサーバに用意されてもよいし、専用サーバに格納されてもよい。作業情報データベース100に格納される作業情報は、重量、重心位置、重心動揺面積、周波数、および時刻を含む。作業情報は、作業者IDに関連付けて格納される。作業情報データベース100に格納される作業情報はまた、作業者に対して加振した際に作業者が転落したか元の立位状態に戻れたかという情報と、そのときの最大重心動揺面積および周波数情報も格納する。
【0026】
処理回路11は、ぐらつき判定装置10の機能を実現するための制御を行う回路である。処理回路10は、一実施形態に係る情報処理装置の処理機能として、加振制御部111、取得部112、算出部113、決定部114、判定部115および通知制御部116を備える。
【0027】
加振制御部111は、加振部20に印加する制御信号を生成し、加振部20に出力する。加振制御部111により出力される制御信号は、ユーザ(作業者または労働管理者等)の操作を受け付けて、例えば加振量、加振速度および加振タイミング等を指示する。
【0028】
取得部112は、センサ32から受信したセンサ値を、作業者50の重心位置に関する時系列データとして、時刻情報とともに記録する。取得部112はまた、作業者50が所持する認識タグ等から作業者50の作業者IDを取得し、時系列データに関連付けてメモリ12に記録する。取得部112は、入力部14(例えばキーボード)を介して手作業で入力された情報から作業者IDを取得してもよい。
【0029】
算出部113は、メモリ12から時系列データを読み出し、作業者50の重心に関する種々の評価値を算出する。重心に関する評価値とは、例えば、重心位置、重心動揺の速度、重心動揺面積、およびパワースペクトル等である。重心動揺とは、作業者の直立の姿勢における重心位置の揺らぎを言う。重心動揺面積は、作業者の重心動揺の程度を表す第1評価値の一例であり、例えば、XYレコーダ等により記録された重心図における重心位置の軌跡の外周面積として算出されるが、これに限られない。パワースペクトルは、重心位置の左右方向(X軸)と前後方向(Y軸)の動揺波を周波数分析することによって得られる。これらの評価値は、一般的に用いられている方法により算出可能であるので詳細な説明は省略する。
【0030】
算出部113はまた、時系列データから作業者の重量を算出する。算出部113はまた作業者50が脚立30に乗った時刻を算出する。算出部113はまた、作業者50が加振された場合に動揺状態から立位状態に戻れたか否かを表す情報を取得する。作業者50が立位状態に戻れない場合の一例が脚立30から転落する場合である。転落したか否かは、例えば、重心動揺面積がゼロになる、または重量がゼロになることにより判定することができる。一方、作業者50が立位状態に戻れた場合、重心動揺面積は、一定量の重心動揺を伴う正常範囲に復帰する。算出部113はまた、作業者50が加振された後、動揺状態から立位状態に戻るまでの最大重心動揺面積を算出する。算出部113はまた、作業者50が加振された後、第2評価値として、動揺状態から立位状態に戻るまでの時間(以下、「反応速度」とも称する。)を算出する。反応速度は、例えば、加振タイミングから重心動揺面積が正常範囲に戻るまでの時間を計時することによって算出される。反応速度は他の方法で算出されてもよい。算出部113は、これらの算出結果を作業者IDに関連付けて作業情報データベース100に送信し、格納させる。
【0031】
決定部114は、第1評価値と第2評価値とに基づいて、作業者50が動揺状態から立位状態に戻れるか否かの指標となる、第1評価値に関する閾値を決定する。閾値の一例が、重心動揺面積に関する閾値である。閾値は、作業者50が転落するリスクを判定するための指標と言い換えることもできる。閾値の決定の詳細については後述する。決定部114は、決定された閾値を作業者IDに関連付けて作業情報データベース100に送信し、格納させる。言い換えれば、ぐらつき判定装置10は、決定部114により、作業中に地震や強風等で作業者が立位状態から姿勢を崩したときに、転落の危険性が大きいのか、元の立位状態に戻れるのか、の指標となる閾値を求める。
【0032】
判定部115は、決定された閾値をもとに、作業者50の作業時の転落リスクを判定する。具体的には、判定部115は、作業者50が作業をしている状態で算出される第1評価値を、上記閾値と比較し、第1評価値が閾値を超過する場合に、転落リスクが高いと判定する。一例として、判定部115は、作業者50が作業をしているときに取得された時系列データをもとにリアルタイム(または準リアルタイム)で算出される重心動揺面積を閾値と比較し、重心動揺面積が閾値を超過する場合に転落リスクが高いと判定する。言い換えれば、ぐらつき判定装置10は、判定部115により、決定された閾値と、実際の作業中に得られる評価値と、を比較し、評価値が閾値を超過した場合、作業をしている作業者の状態が不安定で立位状態に戻れない可能性が高いと判断する。
【0033】
通知制御部116は、判定部115により作業者50の転落リスクが高いと判定された場合に通知を出力する処理を行う。通知は、警報、警告またはアラートなどと言い換えられてもよい。通知は、作業者本人、他の作業者または管理者等に提示される。通知は、視覚的な表示、音声出力、光の明滅、振動など、様々な態様で出力され得る。通知は、例えば、出力部15としてのディスプレイ上に表示され、または出力部15としてのスピーカから出力される。
【0034】
(2)動作
次に、以上のように構成されたぐらつき判定装置10による情報処理動作について説明する。ぐらつき判定装置10の動作は、大まかに、(i)あらかじめ作業者の正常時の重心動揺面積を測定し蓄積する処理動作(正常値算出処理)と、(ii)閾値を決定する処理動作(閾値決定処理)と、(iii)転落リスクを判定する処理動作(転落リスク判定処理)と、を含む。以下では、一例として、第1評価値が重心動揺面積であり、第2評価値が、重心動揺面積が正常範囲に戻るまでの時間(反応速度の一例)であるものとして説明する。
【0035】
(2-1)正常値算出処理
ぐらつき判定装置10は、まず、あらかじめ作業者別に正常時における重心動揺面積を測定し蓄積する、正常値算出処理を実行する。正常値算出処理は、作業者50を脚立30に立たせ、所定の時間(例えば60秒)にわたって立位状態を維持させて、時系列データを収集し、重心動揺面積を算出することを含む。
【0036】
図2は、正常値算出処理の処理手順と処理内容の一例を示すフローチャートである。作業者50を脚立30に立たせてから以降の処理を開始するものとする。
ステップS101において、ぐらつき判定装置10は、処理回路11の制御の下、取得部112により、任意のタイミングで作業者IDを取得する。
【0037】
ステップS102において、ぐらつき判定装置10は、取得部112により、センサ32から出力される時系列データを取得する。作業者50には、加振などの意図的な外乱を与えることなく、脚立30の上で立位を維持させる。この状態を、ここでは正常時または正常状態と呼ぶ。
【0038】
ステップS103において、ぐらつき判定装置10は、処理回路11の制御の下、算出部113により、時系列データをもとに作業者50の重量を算出する。
【0039】
ステップS104において、ぐらつき判定装置10は、算出部113により、時系列データをもとに、例えば重心図を描くことにより、重心動揺面積を算出する。このステップは、上記の所定の時間(例えば60秒)が満了してから取得した時系列データをもとに実行されてもよいし、時系列データを取得しながら並行して実行されてもよい。
【0040】
ステップS105において、ぐらつき判定装置10は、算出部113により、算出された重量および重心動揺面積を作業者IDに関連付けて作業情報データベース100に送信し、蓄積させる。
【0041】
図2の処理は、個々の作業者について複数回繰り返される。このように算出され蓄積される重心動揺面積を、当該作業者についての「正常時の重心動揺面積」と呼ぶ。「正常範囲」は、正常時の重心動揺面積との対比によって定義される。一例として、正常範囲は、正常時の重心動揺面積の95%信頼度区間を指す。このように、正常時の重心動揺面積が個人ごとに測定され蓄積されるので、「正常範囲からの逸脱を判定するための閾値」が個人によって異なるという課題が解決される。なお、ステップS103における重量の算出は適宜省略されてもよい。
【0042】
(2-2)閾値決定処理
次に、ぐらつき判定装置10による閾値決定処理について説明する。閾値決定処理は、作業者50を脚立30に立たせ、重心動揺が正常範囲にあることを確認した後、作業者50にはそのタイミングを知らせずに加振部20により脚立30に複数回、異なる速度で意図的に衝撃を与えることを含む。衝撃は、強風や地震を再現しようとするものである。閾値決定処理はまた、衝撃を与えるたびに、作業者50を立位状態から姿勢を崩させたときの、衝撃後の最大重心動揺面積と、重心動揺面積が正常範囲に戻るまでの時間(正常範囲に戻らず転落した場合、無限大)と、を算出し、「衝撃後の最大重心動揺面積」と「重心動揺面積が正常範囲に戻るまでの時間」との関係性を求める。「重心動揺面積が正常範囲に戻るまでの時間」が一例として、「1秒で正常範囲内に復帰する値」を基準値とし、その際の最大加速度を求め、求めた最大加速度を閾値とすることが可能である。(例えば、1秒)となる「衝撃後の最大重心動揺面積」を、「転落リスクが労働安全管理上危険となる閾値」と決定する。
【0043】
図3は、その処理手順と処理内容の一例を示すフローチャートである。
まずステップS201において、ぐらつき判定装置10は、処理回路11の制御の下、取得部112により、任意のタイミングで作業者IDを取得する。その後、センサ値を監視し、作業者50の重心動揺が正常範囲内にあることを確認してから後続の処理に進む。ステップS202~S207は、所定回数繰り返される。
【0044】
ステップS202において、ぐらつき判定装置10は、処理回路11の制御の下、加振制御部111により、加振部20に加振制御信号を出力する。加振部20は、受信した加振制御信号において指示されたタイミングおよび速度で脚立30に加振する。加振制御信号は、処理が繰り返されるたびに異なる加振速度を指示する
ステップS203において、ぐらつき判定装置10は、処理回路11の制御の下、取得部112により、センサ32から出力されたセンサ値の時系列データを取得する。
【0045】
ステップS204において、ぐらつき判定装置10は、処理回路11の制御の下、算出部113により、時系列データから作業者50の重量を算出する。重量の算出は適宜省略されてもよい。
【0046】
ステップS205において、ぐらつき判定装置10は、算出部113により、時系列データから最大重心動揺面積を算出する。最大重心動揺面積は、重心動揺面積と同様、重心図における重心位置の軌跡の外周面積として算出される。重心動揺は加振直後の動揺状態から立位状態に戻るにつれて収束する傾向にあるので、便宜上、「最大」という表現を使用している。最大重心動揺面積は、作業者50に外乱を与えた場合に作業者が動揺状態から立位状態に戻るまでに取得された時系列データをもとに算出される、第1評価値の最大値、と言い換えることもできる。
【0047】
ステップS206において、ぐらつき判定装置10は、処理回路11の制御の下、算出部113により、時系列データをもとに、加振後に重心動揺面積が正常範囲に戻るまでの時間を算出する。この時間は、作業者50が動揺状態から立位状態に戻る時間を表す第2評価値の一例であり、反応速度の一例と言い換えることもできる。算出部113は、例えば、重心動揺面積の変化を監視し、加振タイミングから、重心動揺面積が正常範囲に復帰するまでの時間を計測し、計測された時間を反応速度として用いる。算出部113は、他の方法で反応速度を算出してもよい。上述したように、ステップS202~ステップS206の処理が所定回数繰り返されてから、ステップS207に移行する。
【0048】
ステップS207において、ぐらつき判定装置10は、処理回路11の制御の下、決定部114により、所定回数にわたって加振を行って得られた最大重心動揺面積と重心動揺面積が正常範囲に戻るまでの時間とに基づいて閾値を決定する。閾値は、作業者50が転落せずに姿勢を保持できたときの最大の重心動揺面積に対応し、作業者50が立位状態に戻れるか否かの指標となる。具体的には、決定部114は、作業情報データベース100から、作業者50が加振された場合に、加振後の最大重心動揺面積と、動揺状態から立位状態に戻る時間(反応速度)と、作業者50が転落したか立位状態に戻れたかの情報と、の複数のセットを読み出す。なお、転落した場合、動揺状態から立位状態に戻る時間は、無限大となる。決定部114は、最大重心動揺面積および反応速度が類似のものをグルーピングし、上述したように反応速度が労働安全管理上定めた一定の値(基準値)(例えば1秒)となる最大重心動揺面積に基づいて閾値を求める。
【0049】
ステップS208において、ぐらつき判定装置10は、処理回路11の制御の下、決定部114により、決定された閾値を作業者IDに関連付けて、作業情報データベース100に送信し、格納させる。
【0050】
図4は、ぐらつき状態の評価結果の一例を示す。
図示の例によれば、ある作業者に対し、第1の試行として、加振量200g、最大加速度1.0m/sの外乱(衝撃)を与えた場合、0.5秒で正常範囲内に復帰できた。同じ作業者に対し、第2の試行として、加振量400g、最大加速度2.0m/sの外乱を与えた場合も、2秒で正常範囲内に復帰できた。同じ作業者に対し、第3の試行として、加振量600g、最大加速度5.0m/sの外乱を与えた場合、転落した。このように、外乱が大きくなると、作業者は姿勢を維持できず、脚立から転落する可能性が高まる。しかし上述したように、重心動揺面積が正常範囲から逸脱したとみなすべき閾値には個人差が大きい。そこで、一実施形態では、複数回加振を行ってこのようなデータを取得し、重心に関する評価値を算出して蓄積することにより、各作業者のより適切な閾値を求めるようにした。
【0051】
図5は、図4の評価結果に基づく加振量と時間の関係を表す略図である。図5では、図4の評価結果が、加振量をY軸に、正常な重心動揺状態に戻るまでの時間をX軸にとってプロットされている。T1は上記第1の試行を表し、プロットT2は上記第2の試行を表し、プロットT3は上記第3の試行を表す。一例として、この図のように加振量と正常な重心動揺状態に戻るまでの時間との関係をプロットすることで、基準値である「1秒」に該当する加振量がない場合であっても、プロット間で値を線形に補間することによって、「1秒で正常範囲内に復帰する値」を基準値とし、その際の最大加速度を求め、求めた最大加速度を閾値とすることが可能である。
【0052】
図6は、他の閾値決定イメージを示す略図である。ぐらつき判定装置10は、加振を実行するたびに、作業者が転落したか立位姿勢に復帰できたか、の情報と、そのときに得られた重心動揺面積のうち最大の値と、加振タイミングから立位姿勢に復帰するまでの時間と、を収集する。加振タイミングから立位姿勢に復帰するまでの時間が短いほど反応速度は速く、時間が長いほど反応速度は遅い。図6は、収集された情報を、縦軸に反応速度(上に行くほど速い)、横軸に重心動揺面積の最大値(右に行くほど大きい)を取ってプロットしたイメージを示す。図6において、境界線(斜めの直線)よりも上の領域(ハッチングを付した領域)は、加振された場合に立位姿勢に復帰できたことを示し、境界線よりも下の領域(ハッチングなし)は、転落したことを示す。境界線は、回帰分析等、一般的な技術を用いて決定されてよい。図6によれば、重心動揺面積が大きくなるほど、立位姿勢に復帰するには反応速度が速くなければならず、反応速度が速いほど重心動揺面積が大きくても立位姿勢に復帰できることがわかる。反対に、反応速度が遅くなると重心動揺面積が小さくても立位姿勢に復帰できない。すなわち、反応速度が遅い場合には転落リスクが高いことがわかる。
【0053】
より具体的には、ぐらつき判定装置10は、加振したときに動揺状態から立位状態に戻れた場合の最大重心動揺面積と反応速度とに基づき、類似のもの(転落リスクが高いか、元の立位状態に戻れる可能性が高いか)をグルーピングする。グルーピングの方法は、クラスター分析など、一般的な統計的方法により行われてよい。グルーピングの後、反応速度が基準値(例えば、1秒)以下となる重心動揺面積を求め、これを、転落リスクを判定するための閾値として用いる。より具体的には、決定部114は、グループごとに転落した場合と立位状態に戻れた場合との境界線(例えば回帰直線)を描画し、反応速度が基準値以下となる重心動揺面積を算出し、これを閾値とする。ただしこれは一例にすぎず、他の方法で算出されてもよい。
【0054】
図7Aは、ある作業者における評価結果の一例を示す。この作業者は、重心動揺面積が52[cm]の場合、反応速度が1[秒]で、立位に戻ることができた。この計測結果は、図6で言えば境界線よりも上の領域(ハッチングを付した領域)にプロットされることになる。一方、この作業者は、重心動揺面積が70[cm]の場合、転落した(反応速度は測定できず無限大と判定される)。この結果は、図6で言えば、境界線よりも下の領域(ハッチングなしの領域)にプロットされることになる。この作業者については、反応速度1[秒]以下で立位に戻れたときの重心動揺面積(52[cm])を閾値とすることができる。
【0055】
図7Bは、図7Aと同じ作業者に対して加振して得られた他の評価結果を示す。この場合、重心動揺面積が50[cm]で、反応速度が0.9[秒]であった。図7Aにおいて得られた閾値52[cm]と対比すれば、重心動揺面積50[cm]の方が小さいので、作業者は立位に戻れると判断される。
【0056】
(2-3)転落リスク判定処理
続いて、ぐらつき判定装置10による、決定された閾値を用いて、作業者の作業中の転落リスクを判定する処理動作について説明する。転落リスク判定処理は、閾値決定に用いたのと同じ脚立30での作業環境において行われる。あるいは、転落リスク判定処理は、重心動揺を評価できれば、閾値を決定したのとは異なる作業環境において実行されることもできる。
【0057】
図8はその処理手順と処理内容の一例を示すフローチャートである。
まずステップS301において、ぐらつき判定装置10は、処理回路11の制御の下、取得部112により、任意のタイミングで作業者IDを取得する。
【0058】
ステップS302において、ぐらつき判定装置10は、取得部112により、作業者IDに関連付けられた閾値をメモリ12または作業情報データベース100から取得する。
【0059】
ステップS303において、ぐらつき判定装置10は、取得部112により、センサ32から出力される時系列データを取得する。
【0060】
ステップS304において、ぐらつき判定装置10は、処理回路11の制御の下、算出部113により、時系列データをもとに作業者50の重量を算出する。以降の処理は、例えば、作業者50が脚立30に乗ったと判定されてから実行される。作業者50の重量の算出は、以降の処理と並行して実行されてよい。
【0061】
ステップS305において、ぐらつき判定装置10は、算出部113により、重心動揺面積を算出する。ぐらつき判定装置10は、例えば単位時間ごとに、重心図から重心動揺面積を算出する。
【0062】
ステップS306において、ぐらつき判定装置10は、処理回路11の制御の下、判定部115により、単位時間ごとに算出された重心動揺面積と閾値とを比較し、重心動揺面積が閾値を超えるか否かを判定する。閾値を超える場合(YES)、ステップS307に進み、閾値以下の場合(NO)、次の判定タイミングまで待機する。次の判定タイミングは、例えば単位時間ごとに重心動揺面積が算出されるタイミングである。
【0063】
ステップS307において、ぐらつき判定装置10は、処理回路11の制御の下、通知制御部116により、転落リスクが高い旨を通知する警報を出力するための情報を生成し、出力部15により出力させる。一例として、通知制御部116は、転落リスクが高い旨の表示情報を生成し、出力部15を介して外付けディスプレイに表示させる。ぐらつき判定装置10は、作業者50の重量または重心動揺面積がゼロになった場合にも、作業者50が作業を終えて脚立30から降りた、または作業者50が脚立30から転落したと推定して、警報を出力するように構成されてもよい。
【0064】
(2-4)加振装置の代替例
図9は、加振部20の代わりに使用され得る加振装置の一例を示す。加振装置21は、おもり22と、固定具23と、を備える。おもり22は、例えば質量6.5kg程度のおもりである。固定具23は、例えば作業者50の腰部等に固定されるベルト等であり、ロープやケーブル等を介しておもり22に連結される。おもり22は、固定具23から水平方向に延びる経路を経て、方向転換滑車等を介して、鉛直方向に配置された円筒容器内で吊持される。おもり22は、人の手または機械式機構等により所定の高さに支持され、任意のタイミングで円筒容器内を自由落下させられる。おもり22が自由落下することにより、作業者50は、水平方向で後方に引かれる(Pull Test)。おもり22の重さまたは落下の高さを調整することによって、作業者50に与えられる加振量を制御することができる。円筒容器は、一例として、外径79.4mm、内径76.2mm、長さ650mmである。おもりの落下前の高さは例えば870mmである。
【0065】
(3)効果
以上詳述したように、この発明の一実施形態では、ぐらつき判定装置10は、まず、作業者ごとにあらかじめ正常時の重心に関する評価値を測定し、蓄積する。評価値の一例が重心動揺面積である。作業者には、脚立などの作業台の上で所定の時間にわたって立位を維持させ、意図的な加振は行わず、センサ値の時系列データが収集される。
【0066】
次いで、ぐらつき判定装置10は、作業者が立位状態に戻れるか否かの指標となる閾値を決定する。ぐらつき判定装置10は、作業者に意図的な加振を行って模擬的に外乱を与えた場合の重心に関する評価値を測定し、作業者が立位状態に戻れるか否かの指標となる閾値を決定する。ぐらつき判定装置10は、一例として、作業者が動揺状態から立位状態に戻ることができたときの、立位状態に戻るまでの時間が所定の値以下となる最大重心動揺面積として、閾値を決定する。
【0067】
続いて、ぐらつき判定装置10は、決定した閾値を用いて、作業者が作業をしているときの重心に関する評価値とリアルタイムで比較して、評価値が閾値を超過する場合には転落リスクが高いと判定し、通知を出力する。
【0068】
このように、ぐらつき判定装置10は、「正常範囲からの逸脱に関する閾値」が個人によって異なるという課題を、あらかじめ正常時における評価値を個人ごとに測定し蓄積することによって解消する。また、ぐらつき判定装置10は、「転落リスクが労働安全管理上危険となる閾値」が個人によって異なるという課題を、意図的に作業者に加振し、重心に関する評価値を算出し、算出した評価値に基づいて作業者ごとの閾値を決定することによって解消する。また、ぐらつき判定装置10は、脚立作業時に作業している個人を識別し、個人ごとの重心動揺面積と上記閾値とを常に比較し、超過した場合には通知を出力する。
【0069】
すなわち、ぐらつき判定装置10によって決定される「正常時からの逸脱に関する閾値」は、個人ごとの正常時の重心動揺面積の差異、および個人ごとのバランス崩れからの復帰能力の差異を加味した値となっており、より個人ごとの適切な「ぐらつき判定」が可能となる。したがって、より適切なぐらつき判定を行うことが可能となる。
【0070】
[他の実施形態]
なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、重心動揺の程度を表す第1評価値は、重心動揺面積に限定されない。第1評価値として、最大加速度、重心動揺の軌跡長または前後方向/左右方向の振幅値等が用いられてもよい。
【0071】
また、第1評価値と第2評価値のみに基づいて閾値を決定する例を示したが、さらに多くの評価値を用いることで、精度を向上させることができる。例えば図6では第1評価値と第2評価値という2つのパラメータに基づいて2次元平面上で転落する範囲を決定したが、パラメータを追加した場合、転落する範囲が多次元空間上の領域として決定されることになる。次元数が増加した場合でも同様にクラスター分析等の判定手法を適用して領域を決定することができる。また一例として、意図的な加振によって得られた時系列データから、上記のような重心動揺面積の閾値に加えて、各方向の位置ベクトルまたは速度ベクトルについて閾値が決定されてもよい。これにより、個人により異なる前後方向または左右方向の動揺の傾向を考慮して転落リスクの判定を行うことができる。
【0072】
ぐらつき判定装置10が備える各機能部は、複数の装置に分散配置され、これらの装置が互いに連携することにより処理を行うように構成されてもよい。また各機能部は、回路を用いることで実現されてもよい。回路は、特定の機能を実現する専用回路であってもよいし、プロセッサのような汎用回路であってもよい。
【0073】
さらに、以上で説明した各処理の流れは、説明した手順に限定されるものではなく、いくつかのステップの順序が入れ替えられてもよいし、いくつかのステップが同時並行で実施されてもよい。また、以上で説明した一連の処理は、時間的に連続して実行される必要はなく、各ステップは任意のタイミングで実行されてもよい。
【0074】
以上で記載した手法は、計算機(コンピュータ)に実行させることができるプログラム(ソフトウェア手段)として、例えば磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク等)、光ディスク(CD-ROM、DVD、MO等)、半導体メモリ(ROM、RAM、フラッシュメモリ等)等の記録媒体(記憶媒体)に格納し、また通信媒体により伝送して頒布することもできる。なお、媒体側に格納されるプログラムには、計算機に実行させるソフトウェア手段(実行プログラムのみならずテーブル、データ構造も含む)を計算機内に構成させる設定プログラムをも含む。上記装置を実現する計算機は、記録媒体に記録されたプログラムを読み込み、また場合により設定プログラムによりソフトウェア手段を構築し、このソフトウェア手段によって動作が制御されることにより上述した処理を実行する。なお、本明細書でいう記録媒体は、頒布用に限らず、計算機内部あるいはネットワークを介して接続される機器に設けられた磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶媒体を含むものである。
【0075】
なお、この発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0076】
1…ぐらつき判定システム、10…ぐらつき判定装置、20…加振部、100…作業情報データベース、11…処理回路、111…加振制御部、112…取得部、113…算出部、114…決定部、115…判定部、116…通知制御部、12…メモリ、13…通信インタフェース、14…入力部、15…出力部、16…バス、30…脚立、31…脚部、32…センサ、50…作業者、21…加振装置、22…おもり、23…固定具。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9