(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172851
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】スイッチング電源回路
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20221110BHJP
G05F 1/10 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
H02M3/155 H
G05F1/10 302C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079133
(22)【出願日】2021-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮島 一之
【テーマコード(参考)】
5H410
5H730
【Fターム(参考)】
5H410BB01
5H410BB04
5H410CC02
5H410DD02
5H410EA11
5H410EA32
5H410EB01
5H410FF03
5H410FF25
5H410HH02
5H410JJ03
5H730AS01
5H730BB13
5H730BB57
5H730DD04
5H730EE59
5H730FD01
5H730FF02
5H730FG05
(57)【要約】
【課題】回路レイアウト面積や端子数の増加を抑えながら、安定した位相補償を行う。
【解決手段】スイッチング電源回路は、スイッチング素子のスイッチング動作によって、負荷に印加される電圧が所定値になるように、電源回路からの電力を前記負荷に供給する。当該回路は、誤差増幅器と、発振回路と、比較器と、位相補償回路とを備える。位相補償回路は、誤差増幅器の前記出力電圧を第1電流信号及び第2電流信号にそれぞれ変換するための第1抵抗及び第2コンデンサと、第1電流信号及び第2電流信号がそれぞれ入力される第1カレントミラー回路及び第2カレントミラー回路と、第1カレントミラー回路及び第2カレントミラー回路の出力電流が入力され、比較器の入力端子に対する出力電圧を生成するための第2抵抗と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子のスイッチング動作によって、負荷に印加される電圧が所定値になるように、電源回路からの電力を前記負荷に供給可能なスイッチング電源回路であって、
出力端子に第1コンデンサが接続されており、前記負荷に印加される電圧に応じて、線形又は非線形に変化する出力検出電圧と参照電圧との差分に基づく信号を前記出力端子から出力可能な誤差増幅器と、
一定の周期を有する三角波電圧を発生可能な発振回路と、
前記誤差増幅器の出力電圧と前記発振回路の前記三角波電圧とを比較することにより、前記スイッチング素子の前記スイッチング動作を制御可能な比較器と、
前記誤差増幅器の前記出力端子と前記比較器の入力端子との間に挿入された位相補償回路と、
を備え、
前記位相補償回路は、
前記誤差増幅器の前記出力電圧を第1電流信号に変換するための第1抵抗と、
前記誤差増幅器の前記出力電圧を第2電流信号に変換するための第2コンデンサと、
前記第1電流信号及び前記第2電流信号がそれぞれ入力される第1カレントミラー回路及び第2カレントミラー回路と、
前記第1カレントミラー回路及び前記第2カレントミラー回路の出力電流が入力され、前記比較器の前記入力端子に対する出力電圧を生成するための第2抵抗と、
を備える、スイッチング電源回路。
【請求項2】
前記位相補償回路は、前記第2カレントミラー回路の出力電流から直流成分を相殺するための電流を供給可能な電流源を更に備える、請求項1に記載のスイッチング電源回路。
【請求項3】
起動時に前記第1コンデンサを充電するための充電回路を更に備える、請求項1又は2に記載のスイッチング電源回路。
【請求項4】
前記スイッチング動作が検知された場合、前記充電回路による前記第1コンデンサの充電動作が終了されるように構成された、請求項3に記載のスイッチング電源回路。
【請求項5】
前記充電回路は、前記位相補償回路に内蔵されている、請求項3又は4に記載のスイッチング電源回路。
【請求項6】
前記第2カレントミラー回路は、前記充電回路によって前記第1コンデンサを充電している間、前記第2カレントミラー回路からの出力電流が遮断されるように構成される、請求項5に記載のスイッチング電源回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スイッチング電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
電力の供給先となる負荷を安定的に動作させるために、電源からの電圧を所定の値に安定化させるための電源回路として、スイッチング素子のスイッチング動作を利用した、いわゆるスイッチング電源回路が知られている(例えば特許文献1)。この種のスイッチング電源回路は複合電源IC等の態様で用いられ、例えば車両では、他の回路(アンプやLDO(Low Drop-Out)等)と共に搭載され、12Vの車載バッテリの電源電圧を降圧して、車両に搭載された負荷である各種機器(マイコン等)に対して電力供給を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで背景技術に係るスイッチング電源回路について、
図7及び
図8を参照して説明する。
図7及び
図8は、それぞれ参考技術に係るスイッチング電源回路1A´、1B´を周辺構成とともに示す回路図である。尚、
図7及び
図8では、電圧帰還形の降圧スイッチング電源回路が例示されており、破線より左側は、IC(集積回路)の内部回路を示し、破線より右側はICの外付け回路の構成を示している。
【0005】
図7に示すスイッチング電源回路1A´は、誤差増幅器AMP1及び比較器COMP1を備える。誤差増幅器AMP1は、一対の入力端子、すなわち反転入力端子2及び非反転入力端子4と、反転入力端子2及び非反転入力端子4の電位差に応じた差動の出力を取り出すための差動出力端子6とを有する。反転入力端子2には、出力電圧Voutを帰還抵抗RFB1、RFB2で分圧した帰還電圧(出力検出電圧)が入力されるとともに、非反転入力端子4には基準電圧VREFが入力され、両者の差分を増幅した電圧が差動出力端子6から出力される。比較器COMP1は、差動出力端子6からの出力電圧が入力される非反転入力端子8と、発振回路7で生成された一定の周期を有する三角波(又は鋸波)電圧が入力される反転入力端子10とを有し、両者の比較結果に応じた電圧が出力端子12から出力される。比較器COMP1の出力電圧はゲート駆動回路14に入力され、ゲート駆動回路14は、これに対応するゲート駆動電圧を端子GATEに出力する。
【0006】
出力用トランジスタMP1は、Pチャンネル型のMOSトランジスタ(MOSFET)であり、そのソースは電源電圧VBATに接続されており、そのドレインはインダクタンスL1を介して負荷抵抗RLに接続されており、そのゲートは端子GATEに接続される。出力用トランジスタMP1は、ゲートに端子GATEからゲート駆動電圧が入力され、ゲート駆動電圧に応じてソース-ドレイン間を同通又は遮断するスイッチング動作を行うことにより、電源VBAT側から負荷抵抗RLに対して、所定の出力電圧VOUTで電力供給を行う。
【0007】
スイッチング電源回路1A´では、負荷として負荷抵抗RLを有しており、帰還抵抗RFB1及びRFB2を含む帰還回路15に、位相補償用コンデンサCFBが設けられている。より詳しくは、位相補償用コンデンサCFBは、帰還回路15の入力側と、帰還抵抗RFB1とRFB2の間のノードとの間に設けられる。ここで複合電源ICでは、部品数を抑えるために、これら帰還抵抗RFB1、RFB2及び位相補償用コンデンサCFB等の各素子をIC内に搭載することが要求されることがある。この場合、スイッチング電源回路1A´の出力電圧VOUTが比較的高くなると、動作中に位相補償用コンデンサCFBに印加される電圧が大きくなるため、高い耐電圧の位相補償用コンデンサCFBが必要となる。半導体の製造プロセスによっては、このような高い耐電圧の位相補償用コンデンサCFBを製造することができなかったり、仮に製造できたとしても単位面積当たりの容量値が小さいため、必要な容量値を実現しようとするとその面積が大きくなるため、IC内に搭載することが難しい。
【0008】
また
図8に示すように、負荷に発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)が含まれるスイッチング電源回路1B´では、以下の課題もある。
スイッチング電源回路1B´は、前述のスイッチング電源回路1A´と比較して、負荷に発光ダイオードLED1、LED2が含まれる。これらの発光ダイオードLED1、LED2は、負荷の抵抗成分RLEDに流れる電流が一定になるようにスイッチング電源回路1B´の出力電圧を制御するために、
図7のスイッチング電源回路1A´のように帰還回路15に位相補償用コンデンサCFBを設けることができない。そのためスイッチング電源回路1B´では、出力用トランジスタMP1のソースと電源電圧VBATとの間に、電流検出用抵抗RSENSEを配置するとともに、出力用トランジスタMP1のソースと電流検出用抵抗RSENSEとの間に設けられたノードの電位を検出するためのSENSE端子を増設することで、出力用トランジスタMP1のソース電流をモニタリングして電流モード制御を行う方法が取られる場合がある。
【0009】
複合電源ICとして構成されるスイッチング電源回路では、端子数をできるだけ削減して他の回路のピンに割り当てることが好ましいが、スイッチング電源回路1B´のように負荷に発光ダイオードが含まれる場合には、上述のようにSENSE端子の増設が必要となり、端子数が増加してしまう。またICの外付け回路についても汎用性を高めるよりも、その仕様に限定して部品点数を減らすことが好ましいが、スイッチング電源回路1B´では電流検出用抵抗RSENSEが必要になり、部品点数が増加してしまう。また電流検出用抵抗RSENSEを設けることで動作時に少なからず電力消費が増加し、損失も発生する。
【0010】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、回路レイアウト面積や端子数の増加を抑えながら、安定した位相補償を行うことが可能なスイッチング電源回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施形態に係るスイッチング電源回路は、上記課題を解決するために、
スイッチング素子のスイッチング動作によって、負荷に印加される電圧が所定値になるように、電源回路からの電力を前記負荷に供給可能なスイッチング電源回路であって、
出力端子に第1コンデンサが接続されており、前記負荷に印加される電圧に応じて、線形又は非線形に変化する出力検出電圧と参照電圧との差分に基づく信号を前記出力端子から出力可能な誤差増幅器と、
一定の周期を有する三角波電圧を発生可能な発振回路と、
前記誤差増幅器の出力電圧と前記発振回路の前記三角波電圧とを比較することにより、前記スイッチング素子の前記スイッチング動作を制御可能な比較器と、
前記誤差増幅器の前記出力端子と前記比較器の入力端子との間に挿入された位相補償回路と、
を備え、
前記位相補償回路は、
前記誤差増幅器の前記出力電圧を第1電流信号に変換するための第1抵抗と、
前記誤差増幅器の前記出力電圧を第2電流信号に変換するための第2コンデンサと、
前記第1電流信号及び前記第2電流信号がそれぞれ入力される第1カレントミラー回路及び第2カレントミラー回路と、
前記第1カレントミラー回路及び前記第2カレントミラー回路の出力電流が入力され、前記比較器の前記入力端子に対する出力電圧を生成するための第2抵抗と、
を備える。
【発明の効果】
【0012】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、回路レイアウト面積や端子数の増加を抑えながら、安定した位相補償を行うことが可能なスイッチング電源回路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係るスイッチング電源回路の構成を示す回路図である。
【
図2】
図1の位相補償回路の構成を示す回路図である。
【
図3】第2実施形態に係るスイッチング電源回路が有する位相補償回路を示す回路図である。
【
図4】スイッチング電源回路内の各信号波形を示す図である。
【
図5】第3実施形態に係るスイッチング電源回路の回路図である。
【
図7】参考技術に係るスイッチング電源回路を示す回路図である。
【
図8】参考技術に係るスイッチング電源回路を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0015】
まず本開示に係る実施形態の前提として、
図7を参照して前述した参考技術に係るスイッチング電源回路1A´における基本的な位相補償について説明する。スイッチング電源回路1A´においてコンデンサCOUT及びインダクタンスL1で構成される出力部16における共振周波数f
0は、以下のように表される。
【0016】
位相補償においては、誤差増幅器AMP1の出力端子6(EOUT端子)と接地点との間に接続された第1コンデンサCEO及び抵抗REOにより発生するゼロと、位相補償用コンデンサCFB及び帰還抵抗RFB1により生じるゼロとを、式(1)で表される共振周波数f0の付近に設定することで、インダクタンスL1及びコンデンサCOUTの共振周波数で生じる位相の遅れを打ち消す。第1コンデンサCEO及び抵抗REOにより発生するゼロの周波数f
Z1、及び、帰還抵抗RFB1により生じるゼロの周波数f
Z2は、それぞれ以下のように表される。
【0017】
(第1実施形態)
続いて
図1及び
図2を参照して第1実施形態に係るスイッチング電源回路1Aについて説明する。
図1は第1実施形態に係るスイッチング電源回路1Aの構成を示す回路図であり、
図2は
図1の位相補償回路20Aの構成を示す回路図である。
【0018】
スイッチング電源回路1Aは、負荷に対して所定の電圧で電力供給を行うための回路である。
図1では、スイッチング電源回路1Aの負荷として抵抗RLが例示されているが、負荷には
図8のスイッチング電源回路1B´に示すように発光ダイオードLEDが含まれてもよい。スイッチング電源回路1Aは、位相補償を行う機能を有する位相補償回路20Aを備える。位相補償回路20Aは、誤差増幅器AMP1の出力端子6と比較器COMP1の非反転入力端子8との間に挿入されるように配置され、抵抗や発光ダイオードを含む多彩な素子を含む負荷に対して電力を供給するスイッチング電源回路に適用可能である。
【0019】
位相補償回路20Aは、
図2に示すように、誤差増幅器AMP1の出力電圧を第1電流信号CS1に変換するための第1抵抗R1と、誤差増幅器AMP1の出力電圧を第2電流信号CS2に変換するための第2コンデンサC2と、第1電流信号CS1及び第2電流信号CS2がそれぞれ入力される第1カレントミラー回路CM1及び第2カレントミラー回路CM2と、第1カレントミラー回路CM1及び第2カレントミラー回路CM2の出力電流が入力され、比較器COMP1に対する出力電圧を生成するための第2抵抗R2と、を備える。
【0020】
位相補償回路20Aは、入力端子であるSIN端子、及び、出力端子であるSOUT端子を有する。SIN端子には、誤差増幅器AMP1からSIN端子に入力される電圧をバッファするためのNチャンネル型のMOSトランジスタ(MOSFET)であるトランジスタMN1及びMN2が接続される。より詳しくは、トランジスタMN1は、そのゲートがSIN端子に接続され、そのソースが第2コンデンサC2に接続され、そのドレインが第2カレントミラー回路CM2に接続される。またトランジスタMN2は、そのゲートがSIN端子に接続され、そのソースが第1抵抗R1に接続され、そのドレインが第1カレントミラー回路CM1に接続される。第1抵抗R1は、トランジスタMN2のソースと接地点GNDとの間に接続されており、誤差増幅器AMP1からの出力電圧を第1電流信号CS1に変換する。第2コンデンサC2は、トランジスタMN1のソースと接地点GNDとの間に接続されており、誤差増幅器AMP1の出力電圧を第2電流信号CS2に変換する。
【0021】
第1電流信号CS1は、Pチャンネル型のMOSトランジスタ(MOSFET)であるトランジスタMP2及びMP3を含む第1カレントミラー回路CM1で折り返される。第1カレントミラー回路CM1は、トランジスタMP2及びMP3を有する。より詳しくは、トランジスタMP2は、そのゲート及びドレインがトランジスタMN2のドレインに接続され、そのソースがトランジスタMP3のソースに接続される。またトランジスタMP3は、そのゲートがトランジスタMN2のドレインに接続され、そのソースがトランジスタMP2のソースに接続され、そのドレインがSOUT端子に接続される。
【0022】
第2電流信号CS2は、Pチャンネル型のMOSトランジスタ(MOSFET)であるトランジスタMP4及びMP5を含む第2カレントミラー回路CM2で折り返される。第2カレントミラー回路CM2は、トランジスタMP4及びMP5を有する。より詳しくは、トランジスタMP4は、そのゲート及びドレインがトランジスタMN1のドレインに接続され、そのソースがトランジスタMP5のソースに接続される。またトランジスタMP5は、そのゲートがトランジスタMN1のドレインに接続され、そのソースがトランジスタMP4のソースに接続され、そのドレインがSOUT端子に接続される。
【0023】
第1カレントミラー回路CM1及び第2カレントミラー回路CM2の出力側には、SOUT端子と接地点GNDとの間に第2抵抗R2が接続されている。このように位相補償回路20Aの出力端子SOUTは、第2抵抗R2、カレントミラー回路CM1及びCM2の出力が互いに接続されたノードとして構成され、比較器COMP1の非反転入力端子8に接続される。
【0024】
このような構成を有する位相補償回路20Aでは、誤差増幅器AMP1の出力電圧が、SIN端子からトランジスタMN1及びMN2のゲートに入力される。トランジスタMN1及びMN2は、SIN端子から入力された電圧信号のバッファとして機能し、トランジスタMN1及びMN2のゲート-ソース間電位差(Vgs)だけ低下した電圧を、それぞれのソースに接続された第2コンデンサC2及び第1抵抗R1に印加する。トランジスタMN1及びMN2のドレイン電流(第1電流信号CS1及び第2電流信号CS2)は、第1カレントミラー回路CM1及び第2カレントミラー回路CM2によって折り返され、第2抵抗R2に流れる。また電流源I1は、トランジスタMP4及びMP5を含む第2カレントミラー回路CM2に直流バイアス電流を流すための構成であり、このような位相補償回路20Aの伝達関数は以下のように表される。
ここでv
so:SOUT端子における電圧(小信号)、v
si:SIN端子における電圧(小信号)、m:トランジスタMP4及びMP5のドレイン電流比である。
【0025】
上記式(4)により、本実施形態においてゼロとなる周波数f
z3は以下のように求められる。
【0026】
ここでmはトランジスタMP4及びMP5による第2カレントミラー回路CM2の入力(トランジスタMP4のドレイン電流)と出力(トランジスタMP5のドレイン電流)との比であり、トランジスタMP4及びMP5のゲートアスペクト比により決定されるパラメータである。式(5)に示すゼロとなる周波数fz3は、mの値に依存するため、mの値を調整することで変化させる事が可能である。そのため、仮に位相補償回路20Aに含まれる第2コンデンサC2の容量値が小さい場合であっても、mの値を調整することで、低い周波数にゼロを生じさせることができる。このことは、大きなレイアウト面積を必要とするコンデンサを削減してスイッチング電源回路全体のレイアウト面積を縮小することに貢献する。
【0027】
このように本実施形態によれば、従来例のような高い耐圧の位相補償用コンデンサCFBが不要となる上に位相補償回路20Aの第2コンデンサC2を小さい容量値とすることが可能でありレイアウト面積を削減し、端子数の増加も伴うことなく、安定的な位相補償を実施可能な位相補償回路20Aを構成できる。スイッチング電源回路1Aは、このような位相補償回路20Aを備えることで、全体のレイアウト面積を効果的に縮小可能である。
【0028】
ここで
図2に示す位相補償回路20Aでは、トランジスタMN1のソースに接続される電流源I1によって、第2カレントミラー回路CM2の入力側にあるトランジスタMP4に直流を印加し、そのゲート-ソース間に閾値以上の電圧を発生させている。この電流は、トランジスタMN2のドレイン電流に比べて小さい場合には問題は生じないが、SIN端子の入力電圧とは無関係に常に流れるため、SOUT端子の電圧に対して直流バイアスとして作用し、mの値に比例して増加する。そのため、mの値を大きく設定すると、比較器COMP1で比較対象となる三角波(又は鋸波)電圧に対してSOUT端子の電圧が下がり切らず、比較器COMP1がオンデューティーの低い信号を出力できなくなるなど、スイッチング電源回路1Aにおいて安定的な動作が困難になるおそれがある。このような課題は、以下に説明する第2実施形態に係るスイッチング電源回路1Bによって解消可能である。
【0029】
(第2実施形態)
図3は第2実施形態に係るスイッチング電源回路が有する位相補償回路20Bを示す回路図である。尚、第2実施形態に係るスイッチング電源回路のうち位相補償回路20Bを除く構成は前述の第1実施形態に係るスイッチング電源回路1Aと同様であるため、ここでは詳述を省略する。
【0030】
この第2実施形態の位相補償回路20Bでは、前述の位相補償回路20A(
図2を参照)と比較して、第3カレントミラー回路CM3を更に備える。第3カレントミラー回路CM3はトランジスタMN3、MN4及びMN5を有する。より詳しくは、トランジスタMN3は、そのゲート及びドレインが第2電流源I2に接続され、そのソースが接地点GNDに接続される。またトランジスタMN4は、そのゲートが第2電流源I2に接続され、そのソースが接地点GNDに接続され、そのドレインがトランジスタMN1のソースと第2コンデンサC2との間に設けられたノードに接続される。またトランジスタMN5は、そのゲートがトランジスタMN3及びMN4のゲートに接続され、そのソースが接地点GNDに接続され、そのドレインがSOUT端子に接続される。ここで、第3カレントミラー回路CM3の入力(トランジスタMN3のドレイン電流)と出力(トランジスタMN5のドレイン電流)との比を、第2カレントミラー回路CM2のトランジスタMP4及びMP5のドレイン電流比と同じmに設定する。
【0031】
この回路構成では、第3カレントミラー回路CM3によって電流源I2のm倍の電流がトランジスタMN5によりSOUT端子からシンクし、前述の直流バイアス分を打ち消すことができる。これにより、mの値を大きく設定した場合であっても、スイッチング電源回路1Aの動作を安定的に維持することができる。
【0032】
ここで前述の位相補償回路20A(位相補償回路20Bも同様)では、SOUT端子の電圧は、SIN端子の電圧がトランジスタMN1及びMN2の閾値電圧Vthnに達するまで変化しない。そのためスイッチング電源回路の起動時に、SIN端子(EOUT端子)の電圧が0VからトランジスタMN1、MN2の閾値電圧Vthnまで増加しないと、第1カレントミラー回路CM1、第2カレントミラー回路CM2が動作しないため、SOUTの出力電圧は0Vのままであり、その後、SIN端子の電圧がトランジスタMN1、MN2の閾値電圧Vthnまで増加してようやくSOUT端子の出力電圧が増加する。そのため、出力用トランジスタMP1がスイッチング動作を開始するまでに時間を要してしまう。
【0033】
また
図1中の比較器COMP1の反転入力端子10に入力される三角波(又は鋸波)電圧は、
図4に示すように、上限値VOSCHと下限値VOSCLとの間を周期的に変動する波形を有する。特に、この三角波(又は鋸波)電圧は、SOUT端子の電圧が0Vになった際に出力用トランジスタMP1がONしないために、常にVOSCL以上になる。その結果、
図1においてスイッチング電源回路1Aの起動時にEOUT端子の電圧が0Vから上昇して出力用トランジスタMP1がスイッチング動作を開始する電圧V
EOSWは、トランジスタMN1及びMN2の閾値電圧Vthnを用いて、以下のように表される。
【0034】
図1に示すように、EOUT端子には位相補償用の第1コンデンサCEOが接続されている。そのため、スイッチング電源回路1Aの起動時には、EOUT端子の電圧が0Vから上昇して電圧V
EOSWに達するまで、誤差増幅器AMP1によって第1コンデンサCEOを充電するための時間がかかり、VOUT端子の電圧が規定値に達するまでに遅れ時間が生じてしまう。このような遅れ時間を短縮するためには、出力用トランジスタMP1がスイッチング動作を開始するまでに要する時間を短縮する必要がある。このような課題は以下に説明する第3実施形態に係るスイッチング電源回路1Cによって好適に解消可能である。
【0035】
(第3実施形態)
図5は第3実施形態に係るスイッチング電源回路1Cの回路図であり、
図6は
図5の位相補償回路20Cを示す回路図である。
【0036】
スイッチング電源回路1Cは、起動時に第1コンデンサCEOを充電するための充電回路30を更に備える。充電回路30は、トランジスタMP6及びMP7を備える。より詳しくは、トランジスタMP6は、そのゲートがCONT端子に接続され、そのソースが第3電流源I3に接続され、そのドレインがSIN端子に接続される。またトランジスタMP7は、そのゲートがCONT端子に接続され、そのソースが第3電流源I3に接続され、そのドレインがトランジスタMN1のドレインに接続される。
【0037】
充電回路30には、CONT端子からラッチ回路24の出力電圧が入力される。ラッチ回路24の出力電圧は起動時にLowであり、トランジスタMP6、MP7がON状態となる。このとき、電流源I3はトランジスタMP6を介してSIN端子から第1コンデンサCEOに向けて充電電流Ic(
図5を参照)を印加する。
【0038】
第1コンデンサCEOは、電流源I3からの充電電流Icによって次第に充電され、時間の経過に伴ってEOUT端子の電圧が上昇する。そしてSOUT端子電圧がVOCSLに達すると比較器COMP1の出力電圧がHighからLowに切り替わり、出力用トランジスタMP1のスイッチング動作が開始する。このとき比較器COMP1の出力端子12の電圧はラッチ回路24のIN端子にも入力され、スイッチング動作が開始するタイミングで、ラッチ回路24のOUT端子の出力がLowからHighに切り替わり、以後、High状態が保持される。このようにラッチ回路24の出力電圧がHighになると、充電回路30のトランジスタMP6、MP7はOFF状態になり、第1コンデンサCEOの充電は終了する。
【0039】
このように本実施形態では、スイッチング電源回路1Cの起動時に充電回路30によって第1コンデンサCEOを充電する。また充電回路30は、出力用トランジスタMP1のスイッチング動作が検知されたことを条件に充電完了を判定し、第1コンデンサCEOの充電動作を終了する。これにより、出力用トランジスタMP1がスイッチング動作を開始するまでに要する時間を効果的に短縮できる。尚、充電回路30による第1コンデンサCEOの充電が完了した後は、位相補償回路20Cは、前述の位相補償回路20A,20Bと同様に位相補償を行う。
【0040】
本実施形態の充電回路30は、
図6に示すように、位相補償回路20Cに内蔵されている。これにより、スイッチング電源回路1Cの回路構成の複雑化を抑えつつ、効率的なレイアウトでスイッチング電源回路1Cに充電回路30を搭載することができる。尚、
図6では充電回路30が位相補償回路20Cに内蔵された場合が例示されているが、充電回路30は位相補償回路20Cとは別構成としてスイッチング電源回路1Cに搭載されていてもよく、例えば、誤差増幅器AMP1のような他の構成に内蔵されていてもよい。
【0041】
ここで充電回路30による第1コンデンサCEOの充電時間を短縮するためには電流源I3の出力電流値を大きく設定すればよいが、これに伴ってSIN端子の電圧が急激に上昇すると第2コンデンサC2に印加される電圧も急激に増加する。すると、第2カレントミラー回路CM2を構成するトランジスMP5のドレイン電流が一時的に増加し、SOUT端子の電圧も上昇することで、いわゆるオーバーシュートが生じることがある。このようなオーバーシュートは、EOUT端子の出力電圧が十分に上昇する前に誤差増幅器AMP1の出力がHighに切り替わり、トランジスタMP6がOFF状態に切り替わることで、EOUT端子の充電が終了してしまうおそれがある。
【0042】
本実施形態の位相補償回路20Cは、このような課題を解決するために、充電回路30によって第1コンデンサCEOを充電している間、第2カレントミラー回路CM2からの出力電流が遮断されるように構成される。具体的には、トランジスタMP7は、起動時に第1コンデンサCEOを充電している間、トランジスタMP4、MP5を含む第2カレントミラー回路CM2の動作を止める。同時に、トランジスタMN6は、そのゲートがCONT端子に接続されており、第1コンデンサCEOを充電している間トランジスタMN6をOFF状態にすることで、トランジスタMN5のドレイン電流を停止させる。これにより、第1コンデンサCEOが充電されている間に電流源I3からの充電電流が停止することを防ぐこともできる。
【0043】
以上説明したように上記各実施形態によれば、帰還回路15(
図7を参照)で位相補償を行う必要がないため、高い耐圧のコンデンサを必要とすることなく、またLEDを含む負荷に対しても位相補償を行うことが可能なスイッチング電源回路を実現できる。特に位相補償回路では、第2コンデンサC2に流れる電流を第2カレントミラー回路CM2で増加させることができるため、第2コンデンサC2の容量値が小さくて済み、集積回路上のレイアウト面積を効果的に縮小できる。このような特性を生かし、少ない端子数で安定した位相補償を行うことが可能なスイッチング電源回路を提供できる。
【0044】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0045】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0046】
(1)一態様に係るスイッチング電源回路は、
スイッチング素子(例えば上記実施形態の出力用トランジスタMP1)のスイッチング動作によって、負荷に印加される電圧が所定値になるように、電源回路からの電力を前記負荷に供給可能なスイッチング電源回路(例えば上記実施形態のスイッチング電源回路1A、1B、1C)であって、
出力端子に第1コンデンサ(例えば上記実施形態の第1コンデンサCEO)が接続されており、前記負荷に印加される電圧に応じて、線形又は非線形に変化する出力検出電圧と参照電圧との差分に基づく信号を前記出力端子から出力可能な誤差増幅器(例えば上記実施形態の誤差増幅器AMP1)と、
一定の周期を有する三角波電圧を発生可能な発振回路(例えば上記実施形態の発振回路7)と、
前記誤差増幅器の出力電圧と前記発振回路の前記三角波電圧とを比較することにより、前記スイッチング素子の前記スイッチング動作を制御可能な比較器(例えば上記実施形態の比較器COMP1)と、
前記誤差増幅器の前記出力端子と前記比較器の入力端子との間に挿入された位相補償回路(例えば上記実施形態の位相補償回路20A、20B、20C)と、
を備え、
前記位相補償回路は、
前記誤差増幅器の前記出力電圧を第1電流信号に変換するための第1抵抗(例えば上記実施形態の第1抵抗R1)と、
前記誤差増幅器の前記出力電圧を第2電流信号に変換するための第2コンデンサ(例えば上記実施形態の第2コンデンサC2)と、
前記第1電流信号及び前記第2電流信号がそれぞれ入力される第1カレントミラー回路(例えば上記実施形態の第1カレントミラー回路CM1)及び第2カレントミラー回路(例えば上記実施形態の第2カレントミラー回路CM2)と、
前記第1カレントミラー回路及び前記第2カレントミラー回路の出力電流が入力され、前記比較器の前記入力端子に対する出力電圧を生成するための第2抵抗(例えば上記実施形態の第2抵抗R2)と、
を備える。
【0047】
上記(1)の態様によれば、位相補償用の第2コンデンサのレイアウト面積を削減し、端子数の増加も伴うことなく、安定的な位相補償を実施可能な位相補償回路を構成できる。
【0048】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記位相補償回路は、前記第2カレントミラー回路の出力電流から直流成分を相殺するための電流を供給可能な電流源(例えば上記実施形態の電流源I3)を更に備える。
【0049】
上記(2)の態様によれば、第2カレントミラー回路が備えるトランジスタのゲートアスペクト比を大きく設定した場合においても、スイッチング電源回路においてスイッチング動作を安定的に確保できる。
【0050】
(3)他の態様では、上記(1)又は(2)の態様において、
起動時に前記第1コンデンサを充電するための充電回路(例えば上記実施形態の充電回路30)を更に備える。
【0051】
上記(3)の態様によれば、スイッチング電源回路の起動時に充電回路によって第1コンデンサを充電することにより、出力用トランジスタがスイッチング動作を開始するまでに要する時間を効果的に短縮できる。
【0052】
(4)他の態様では、上記(3)の態様において、
前記スイッチング動作が検知された場合、前記充電回路による前記第1コンデンサの充電動作が終了されるように構成される。
【0053】
上記(4)の態様によれば、出力用トランジスタのスイッチング動作が開始された際に第1コンデンサの充電動作を終了することで、無駄な電力消費を抑えつつ、出力用トランジスタのスイッチング動作を迅速に開始できる。
【0054】
(5)他の態様では、上記(3)又は(4)の態様において、
前記充電回路は、前記位相補償回路に内蔵されている。
【0055】
上記(5)の態様によれば、スイッチング電源回路の回路構成の複雑化を抑えつつ、効率的なレイアウトでスイッチング電源回路に充電回路を搭載することができる。
【0056】
(6)他の態様では、上記(5)の態様において、
前記第2カレントミラー回路は、前記充電回路によって前記第1コンデンサを充電している間、前記第2カレントミラー回路からの出力電流が遮断されるように構成される。
【0057】
上記(6)の態様によれば、充電回路による第1コンデンサの充電時間を短縮するために充電電流を大きく設定した場合であっても、位相補償回路の出力電圧にオーバーシュートが生じることを効果的に防止できる。
【符号の説明】
【0058】
1 スイッチング電源回路
7 発振回路
10 位相補償回路
14 ゲート駆動回路
15 帰還回路
16 出力部
24 ラッチ回路
30 充電回路
AMP1 誤差増幅器
COMP1 比較器
CEO 第1コンデンサ
C2 第2コンデンサ
CM1 第1カレントミラー回路
CM2 第2カレントミラー回路
CM3 第3カレントミラー回路
I1、I2、I3 電流源