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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172920
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/481 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
G01S7/481 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079270
(22)【出願日】2021-05-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)2020年5月11日に、ウェブサイトのアドレス https://www.osapublishing.org/abstract.cfm?uri=CLEO_AT-2020-JTu2G.34、にて発表 (2)2020年5月12日に、CLEO2020会議(https://event.crowdcompass.com/cleo20)のオンライン会議で、発表番号JTu2G.34として発表
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109221
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 充広
(74)【代理人】
【識別番号】100171848
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 裕美
(72)【発明者】
【氏名】セット ジイヨン
(72)【発明者】
【氏名】張 哲元
(72)【発明者】
【氏名】張 超
(72)【発明者】
【氏名】山下 真司
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AA05
5J084AA10
5J084AD02
5J084BA11
5J084BA22
5J084BA36
5J084BA40
5J084BB02
5J084BB04
5J084BB40
5J084CA03
5J084CA07
5J084CA08
5J084CA10
5J084CA19
5J084CA31
5J084CA32
5J084CA48
5J084CA49
5J084DA01
5J084DA08
5J084DA09
5J084EA05
5J084EA33
(57)【要約】
【課題】連続高速スキャンが可能である計測装置を提供すること。
【解決手段】計測装置100は、非機械的に波長掃引したパルス状の一連のレーザ光ILを出力する波長可変レーザ10と、非機械的な光学特性により一連のレーザ光ILを空間的に分散させて対象OBに照射し、対象OBからの反射光RLを逆行させる空間分散デバイス20と、空間分散デバイス20を介して、反射光RLを受光する受信装置30と、受信装置30による反射光RLの検出タイミングと波長可変レーザ10からのレーザ光ILの出力タイミングとから対象OBまでの距離を決定する信号処理装置40とを備え、信号処理装置40は、一連のレーザ光ILのタイミング情報から各レーザ光ILの射出方向に関する情報を決定する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非機械的に波長掃引したパルス状の一連のレーザ光を出力する波長可変レーザと、
非機械的な光学特性により前記一連のレーザ光を空間的に分散させて対象に照射し、前記対象からの反射光を逆行させる空間分散デバイスと、
前記空間分散デバイスを介して、前記反射光を受光する受信装置と、
前記受信装置による反射光の検出タイミングと前記波長可変レーザからのレーザ光の出力タイミングとから前記対象までの距離を決定する信号処理装置と、
を備え、
前記信号処理装置は、前記一連のレーザ光のタイミング情報から各レーザ光の射出方向に関する情報を決定する計測装置。
【請求項2】
前記波長可変レーザは、パルス変調による分散チューニングを行い、前記一連のレーザ光を、繰り返し周波数が変わり続けるパルス列として出力する、請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記波長可変レーザは、光を増幅する光増幅器と、強度変調を行う強度変調器と、波長を分散調整する高分散媒質とを有する、請求項1及び2のいずれか一項に記載の計測装置。
【請求項4】
前記高分散媒質は、チャープファイバブラッググレーティングである、請求項3に記載の計測装置。
【請求項5】
前記光増幅器は、半導体光増幅器である、請求項3及び4のいずれか一項に記載の計測装置。
【請求項6】
前記空間分散デバイスは、前記レーザ光を平行光にするコリメータと、前記コリメータを経た前記レーザ光を空間的に分散させる分散部とを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の計測装置。
【請求項7】
前記分散部は、1つ以上のグレーティングを有する、請求項6に記載の計測装置。
【請求項8】
前記信号処理装置は、前記パルス列のタイミング情報から各レーザ光の射出方向に関する情報を決定し、前記対象までの距離を決定するために、前記パルス列を構成するパルス単位で前記レーザ光から得た参照信号と前記反射光の計測信号との位相差を計算する、請求項2~7のいずれか一項に記載の計測装置。
【請求項9】
波長掃引した一連のレーザ光をパルス列として出力する波長可変レーザと、
非機械的な光学特性により前記パルス列を空間的に分散させて対象に照射し、前記対象からの反射光を逆行させる空間分散デバイスと、
前記空間分散デバイスを介して、前記反射光を受光する受信装置と、
前記パルス列のタイミング情報から各レーザ光の射出方向に関する情報を決定する信号処理装置と、
を備え、
前記信号処理装置は、前記対象までの距離を決定するために、前記パルス列を構成するパルス単位で前記レーザ光から得た参照信号と前記反射光の計測信号との位相差を計算する計測装置。
【請求項10】
前記信号処理装置は、前記参照信号にヒルベルト変換を行った信号と前記計測信号との乗算処理を行う、請求項9に記載の計測装置。
【請求項11】
前記乗算処理後のロックインデータに対してフィルタリングを行う、請求項10に記載の計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AMCW(amplitude-modulated continuous-wave)に似ている方式で測距を行う計測装置に関し、特に連続高速スキャンが可能な計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の計測装置として、機械駆動でレーザビームを偏向させて掃引するものがある(例えば、特許文献1及び2参照)。機械駆動の計測装置は、掃引速度や振動耐力等の点において向上性が乏しいという問題点がある。
【0003】
また、波長掃引光源や、回折格子等の空間分散デバイスを組み合わせてビームスキャンを非機械式で行う技術がある(例えば、非特許文献1及び2参照)。しかしながら、非特許文献1及び2の技術では、波長掃引光源が機械駆動に基づいており、掃引速度や振動耐力等の上記問題点を解消できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-18941号公報
【特許文献2】特開2003-4850号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y. Zhai, et al. "Non-mechanical beam-steer lidar system based on swept-laser source." Optical Fiber Sensors. Optical Society of America, 2018.
【非特許文献2】M. Okano, et al. "Swept Source Lidar: simultaneous FMCW ranging and nonmechanical beam steering with a wideband swept source." Optics Express 28.16 (2020): 23898-23915.
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、連続高速スキャンが可能である計測装置を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る計測装置は、非機械的に波長掃引したパルス状の一連のレーザ光を出力する波長可変レーザと、非機械的な光学特性により一連のレーザ光を空間的に分散させて対象に照射し、対象からの反射光を逆行させる空間分散デバイスと、空間分散デバイスを介して、反射光を受光する受信装置と、受信装置による反射光の検出タイミングと波長可変レーザからのレーザ光の出力タイミングとから対象までの距離を決定する信号処理装置とを備え、信号処理装置は、一連のレーザ光のタイミング情報から各レーザ光の射出方向に関する情報を決定する。
【0008】
上記計測装置では、信号処理装置がレーザ光の出力タイミング、検出タイミング、及び一連のレーザ光のタイミング情報により対象までの距離や方向に関する情報を取得する。この際、波長掃引光源である波長可変レーザと空間分散デバイスとを組み合わせて、波長掃引及びレーザビームの偏向を、全て非機械式構成を用いて行うことにより、掃引速度を従来の機械式構成よりも数オーダ高くすることができ、かつ装置の振動耐力を向上させることができる。
【0009】
本発明の具体的な側面では、上記計測装置において、波長可変レーザは、パルス変調による分散チューニングを行い、一連のレーザ光を、繰り返し周波数が変わり続けるパルス列として出力する。ここで、分散チューニングとは、能動モード同期発生状態で変調周波数を変化させることにより、発振波長を制御することを意味する。パルス変調は、正弦波変調と異なり、高周波成分を含むため、波長可変帯域を確保しつつ、狭いパルス幅で実効的に変調を行うことができる。
【0010】
本発明の別の側面では、波長可変レーザは、光を増幅する光増幅器と、強度変調を行う強度変調器と、波長を分散調整する高分散媒質とを有する。高分散媒質により、波長の純度が高いパルスを得ることができる。
【0011】
本発明のさらに別の側面では、高分散媒質は、チャープファイバブラッググレーティングである。この場合、共振器の長さを短縮することができ、計測装置の小型化の達成が可能となる。
【0012】
本発明のさらに別の側面では、光増幅器は、半導体光増幅器である。
【0013】
本発明のさらに別の側面では、空間分散デバイスは、レーザ光を平行光にするコリメータと、コリメータを経たレーザ光を空間的に分散させる分散部とを有する。この場合、波長可変レーザの出力が発散光であっても、レーザ光の精密な空間的な分散が可能になる。
【0014】
本発明のさらに別の側面では、分散部は、1つ以上のグレーティングを有する。この場合、波長分散を容易に制御することができる。
【0015】
本発明のさらに別の側面では、信号処理装置は、パルス列のタイミング情報から各レーザ光の射出方向に関する情報を決定し、対象までの距離を決定するために、パルス列を構成するパルス単位でレーザ光から得た参照信号と反射光の計測信号との位相差を計算する。距離算出に関してパルス列を構成するパルス単位で参照信号と計測信号との位相差を算出することにより信号トレースの動的位相変化を取得することができる。これにより、連続高速スキャンが可能となる。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明に係る計測装置は、波長掃引した一連のレーザ光をパルス列として出力する波長可変レーザと、非機械的な光学特性によりパルス列を空間的に分散させて対象に照射し、対象からの反射光を逆行させる空間分散デバイスと、空間分散デバイスを介して、反射光を受光する受信装置と、パルス列のタイミング情報から各レーザ光の射出方向に関する情報を決定する信号処理装置とを備え、信号処理装置は、対象までの距離を決定するために、パルス列を構成するパルス単位でレーザ光から得た参照信号と反射光の計測信号との位相差を計算する。
【0017】
上記計測装置では、信号処理装置が参照信号と計測信号との位相差やパルス列のタイミング情報により対象までの距離や方向に関する情報を取得する。この際、波長掃引光源である波長可変レーザと空間分散デバイスとを組み合わせつつ、距離算出に関してパルス列を構成するパルス単位で参照信号と計測信号との位相差を算出することにより信号トレースの動的位相変化を取得することができる。これにより、連続高速スキャンが可能となる。
【0018】
本発明の別の側面では、信号処理装置は、参照信号にヒルベルト変換を行った信号と計測信号との乗算処理を行う。この場合、ヒルベルト変換によって参照信号の全ての周波数成分に位相情報が与えられ、不均一な振幅によって引き起こされる位相エラーを回避することができる。
【0019】
本発明のさらに別の側面では、乗算処理後のロックインデータに対してフィルタリングを行う。この場合、乗算処理後のロックインデータから無関係な周波数成分を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態の計測装置を説明する概念図である。
図2】(A)は、信号発成器での掃引波形を示す概念図であり、(B)は、シンセサイザでの変調波形を示す概念図であり、(C)は、パルス発生器での変調パルス波形を示す概念図であり、(D)は、波長可変レーザから射出する光掃引パルス波形を示す概念図である。
図3】波長可変レーザから出力される光掃引パルスのスペクトルである。
図4図1に示す計測装置の空間分散デバイスを説明する概念図である。
図5】(A)は、波長可変レーザから出力された各出力パルスの波長の時間変化を示す概念図であり、(B)は、空間分散デバイスから射出されるレーザ光の各出力パルスに対応する射出角度を示す概念図である。
図6】レーザ光から得た参照信号と反射光の計測信号との位相シフトについて説明する図である。
図7】信号処理装置での信号処理を説明する概念図である。
図8】計測装置の具体的な実施例について説明する概念図である。
図9】(A)は、計測信号の波形であり、(B)は、参照信号の波形であり、(C)は、(A)の一部を拡大した波形であり、(D)は、(B)の一部を拡大した波形である。
図10】(A)及び(B)は、計測信号及び参照信号の周波数領域情報をそれぞれ説明する図であり、(C)及び(D)は、(A)及び(B)の変調周波数720MHz~726MHzの範囲のメインピークを示す図である。
図11図7に示す信号処理装置での処理手順の具体例を説明する概念図である。
図12】(A)は、ロックインデータの振幅であり、(B)は、ロックインデータの位相であり、(C)は、(A)の一部を拡大した図であり、(D)は、(B)の一部を拡大した図であり、(E)は、ロックインデータのRFスペクトルであり、(F)は、(E)の一部を拡大した図である。
図13】(A)及び(B)は、フィルタリングされた後のロックインデータの振幅と位相とを示す図である。
図14】(A)は、平面サンプルを非多義距離のスパンでライン走査した結果を示す図であり、(B)は、平面サンプルを異なる平均化回数の4mmスパンでライン走査した結果を示す図である。
図15】(A)は、距離測定のために使われる2枚の金属板の模式的な平面図であり、(B)は、ライン走査の結果を示す図である。
図16】第2実施形態の計測装置を説明する概念図である。
図17】第3実施形態の計測装置を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1実施形態〕
以下、図1等を参照して、本発明の第1実施形態に係る計測装置について説明する。
【0022】
図1に示すように、計測装置100は、波長可変レーザ10と、空間分散デバイス20と、受信装置30と、信号処理装置40とを備える。また、計測装置100は、出力光と受信光とを光路的に分岐する出力側サーキュレータ50を含む。計測装置100は、X軸方向にレーザ光ILを走査可能であり、X軸方向のスキャンによって1次元計測を行うことができる。
【0023】
波長可変レーザ10は、非機械的に波長掃引したパルス状の一連のレーザ光ILを出力する。換言すれば、波長可変レーザ10は、波長掃引した一連のレーザ光ILをパルス列として出力する。ここで、パルス状の一連のレーザ光ILとは、パルスを時系列的に変化させたレーザ光を意味する。波長可変レーザ10は、パルス変調による分散チューニングを行う。ここで、分散チューニングとは、能動モード同期発生状態で変調周波数を変化させることにより、発振波長を制御することを意味する。波長掃引光源に分散チューニング方式を採用した分散チューニング掃引レーザ(DTSL:dispersion-tuned swept laser)を用いることにより、高速な非機械式掃引が可能となる。本実施形態では、波長可変レーザ10はリング型のレーザである。
【0024】
波長可変レーザ10は、分散チューニングの原理を利用し、共振器内に高分散デバイスを挿入することで波長分散値を大きくし、その状態で強度変調をかけることによりレーザ光を能動モード同期発振させている。この際、変調周波数を変化させることにより、発振周波数を制御することができる。モード同期では、共振器内の光の往復時間に合わせて変調を与えて縦モードを同期させており、変調周波数を変動させることにより、発振波長を掃引することができる。波長可変レーザ10は、発振波長を電気的に制御するため、機械的な制限がなく、高速で広帯域な波長掃引が可能となる。波長可変レーザ10から出力されるパルスレーザ光は、例えば、10kHzの掃引速度で50nm以上の掃引帯域となっている。
【0025】
波長可変レーザ10は、信号発生器11と、シンセサイザ12と、パルス発生器13と、内部光増幅器14と、強度変調器15と、高分散媒質16と、内部サーキュレータ17と、出力側光増幅器18とを有する。波長可変レーザ10において、内部光増幅器14、強度変調器15、高分散媒質16、及び内部サーキュレータ17は、共振器として機能する。波長可変レーザ10の各構成は、光ファイバ19で接続されている。
【0026】
信号発生器11は、シンセサイザ12に連続的な周波数変化を示す同期信号を出力する同期回路である。図2(A)に示すように、信号発生器11におけるランプ信号(掃引信号)の掃引波形は、例えば鋸歯状波や三角波等の線形波形である。信号発生器11の掃引周波数は、例えば10kHzである。
【0027】
シンセサイザ12は、信号発生器11からのランプ信号に対応する波形の駆動信号を変調信号として形成する電気回路である。つまり、シンセサイザ12は、ファンクションジェネレータであり、信号発生器11からのランプ信号を変調信号として連続的に周波数掃引する。図2(B)に示すように、シンセサイザ12における変調信号の波形は、連続的に周波数を変化させた(チャープした)正弦波である。掃引波形の1スイープにおいて、信号発生器11のランプ電圧が低い場合、シンセサイザ12の変調信号の周波数が低くなり、信号発生器11のランプ電圧が高い場合、シンセサイザ12の変調信号の周波数が高くなる。変調信号の変調周波数は、例えば788MHz~795MHz又は716MHz~726MHzである。
【0028】
パルス発生器13は、シンセサイザ12からの変調信号に対応するパルス信号を生成する。パルス発生器13は、例えば50ps~250psの間でパルス幅を変化させることができる。図2(C)に示すように、パルス発生器13におけるパルス信号の波形は、連続的に周波数を変化させた(チャープした)パルスである。掃引波形の1スイープにおいて、シンセサイザ12の変調信号が低周波数から高周波数に変化する場合、パルス発生器13で発生するパルス列の波長が長波長から短波長に変化する。パルス信号の変調周波数は、例えば788MHz~795MHz又は716MHz~726MHzである。
【0029】
内部光増幅器14は、例えば半導体光増幅器(SOA)であり、半導体素子に外部から光を入射することで、誘導放出による光の増幅を行う。
【0030】
強度変調器15は、例えばニオブ酸リチウム結晶を利用した光変調器であり、パルス発生器13から出力されたパルス信号を受けてレーザ光の透過率を調整することによって強度変調を行う。レーザ光の強度変調は、パルス型であり、例えば788MHz~795MHz又は716MHz~726MHzの周波数が用いられる。パルス変調は、正弦波変調と異なり、高周波成分を含むため、波長可変帯域を確保しつつ、狭いパルス幅で実効的に変調を行うことができる。
【0031】
高分散媒質16は、波長を分散調整する。つまり、高分散媒質16は、波長に関して分散調整する。高分散媒質16により、波長の純度が高いパルスを得ることができる。高分散媒質16としては、チャープファイバブラッググレーティング(CFBG:Chirped Fiber Bragg Grating)や回折格子対等が挙げられる。これより、共振器の長さを短縮することができ、計測装置100の小型化の達成が可能となる。本実施形態では、高分散媒質16がCFBGである例を示している。CFBGの分散は、例えば+10ps/nmで、65%の光を反射する。残りの35%の光は出力側光増幅器18によって増幅された後、出力され、レーザ光ILとして利用される。高分散媒質16により、共振器中の分散が高くなっているため、共振周波数間隔(FSR:Free Spectral Range)が波長により大きく変化し、発振波長の選択性が生じる。高分散媒質16からは、共振条件を満たした例えば波長1530nm~1580nm又は1530nm~1600nmのパルスが掃引して出力される。
【0032】
内部サーキュレータ17は、強度変調器15を経た光を高分散媒質16に入射させ、高分散媒質16で反射された光を内部光増幅器14に導く。
【0033】
分散チューニングにおいては、高分散媒質16を共振器中に意図的に挿入し、強度変調をかけることにより、能動モード同期を発生させる。能動モード同期を発生させた状態で変調周波数を変化させることにより、発振波長を制御することができる。つまり、分散チューニングでは、機械的な波長選択フィルタを用いずに発振波長を制御することができる。これにより、高速かつ広帯域な波長掃引が可能となる。分散チューニングにおいて、掃引方法はモード同期の変調周波数を変更(周波数変調)するだけであり、掃引波形(つまり、変調の範囲やレート)を適切に設定することによりスペクトル形状を制御することもできる。縦モードの周波数間隔であるFSRは光ファイバ中の光の屈折率に依存しており、波長分散の大きい共振器においては、FSRは変調周波数依存性を有する。共振器の外部からFSRの整数倍の周波数信号を用いて変調をかけると、変調周波数に対応するFSRを持つ波長のみにモード同期がかかり発振する。この変調周波数を変化させると、発振波長は変調周波数とともに比例的に変化していき、波長可変なレーザ光ILとなる。変調周波数を線形に変化させる掃引を行うと、発振波長も線形に変化して対応する掃引が行われる。分散チューニングの波長可変幅は、利得媒質の利得帯域によって決まり、その最大値は変調周波数の可変範囲によって決まる。共振器の全分散量及び変調周波数が小さいほど波長可変帯域の最大値が大きくなる。分散値が大きい共振器において、モード同期のパルスはチャープしたパルスとなる。パルスのスペクトル幅は、変調周波数が大きいほど、また分散量が大きいほど線幅が小さくなる。
【0034】
図2(D)は、波長可変レーザ10から出力される光掃引パルスの時間変化を示す。波長可変レーザ10から出力されるレーザ光ILは、信号発生器11から出力される掃引信号(図2(A)参照)に基づき、長波長から短波長に変化して波長掃引される。掃引波形の1スイープにおいて、波長が時系列的に異なる複数のパルスで構成されるパルス列が生成される。パルス発生器13で生成されるパルス信号と波長可変レーザ10から出力されるパルス信号とは、時間間隔tで1対1の関係となっている。隣接するパルスとパルスとの波長差nΔは、FSRに相当し、FSRの変調周波数依存性は共振器分散によって決まる。
【0035】
図3は、波長可変レーザ10から出力される分散調整されたレーザ光ILのスペクトルを示す。共振器、具体的には高分散媒質16から出力されたレーザ光ILの出力パワーは例えば6dBm又は-2dBmである。共振器のキャビティ長さは、例えば11.9mであり、基本のFSRは波長1550nmの場合17MHzであり、変調する周波数範囲は788MHz~795MHzである。波長可変レーザ10の掃引速度は例えば10kHzであり、掃引波長は例えば1530nm~1580nmである。また、共振器のキャビティ長さを例えば11.1mとすると、波長1550nmの光の基本的なFSRが約18.6MHzとなる。この場合、716MHz~726MHzの変調周波数で、掃引波長は例えば1530nm~1600nmとなる。
【0036】
図1に戻って、出力側光増幅器18は、例えばファイバ増幅器であり、詳細な説明を省略するが、エルビウムがドープされたファイバ増幅部と、励起光源と、励起光源からの光をファイバ増幅部に導くカプラとを有する。なお、出力側光増幅器18は、内部光増幅器14と同様に、SOA等であってもよい。出力側光増幅器18で増幅されたレーザ光ILのパワーは、例えば16dBm又は14.6dBmである。
【0037】
出力側サーキュレータ50は、波長可変レーザ10を経たレーザ光ILを空間分散デバイス20に入射させ、空間分散デバイス20を経た反射光RLを受信装置30に入射させる。
【0038】
空間分散デバイス20は、非機械的な光学特性により一連のレーザ光IL又はパルス列を空間的に分散させて対象OBに照射し、対象OBからの反射光RLを逆行させる。波長掃引した光を空間分散デバイス20に照射することにより、機械に頼らないビーム偏向が可能となる。空間分散デバイス20を介したレーザスキャニング範囲は、例えばX軸方向(横方向)に4°又は1cmであり、分解能は10μmである。空間分散デバイス20に入射したレーザ光ILのパワーが例えば16dBmの場合、空間分散デバイス20を経て対象OBで反射された反射光RLの受光パワーは-50dBmとなる。計測装置100の測定可能距離は、波長可変レーザ10から出力されるレーザ光ILの掃引パワーに依存する。
【0039】
図4に示すように、空間分散デバイス20は、コリメータ21と、分散部22と、レンズ23とを有する。これにより、波長可変レーザ10の出力が発散光であっても、レーザ光ILの精密な空間的な分散が可能になる。なお、レンズ23は、対象OBまでの距離によっては設けなくてもよい。
【0040】
コリメータ21は、レーザ光ILを平行光にする。コリメータ21でコリメートされたレーザビームの直径は、例えば2mmである。
【0041】
分散部22は、コリメータ21を経たレーザ光ILを空間的に分散させる。分散部22としては、例えばグレーディング(回折格子)、プリズム、角度増幅レンズ、フォトニック結晶、フェーズアレイ等が挙げられる。空間分散デバイス20が分散部22を有することにより、波長分散を容易に制御することができる。本実施形態では、分散部22は、2つのグレーティング22a,22bを有する。分散部22の分散量(具体的には、1つのグレーティングにおける分散量)は、例えば0.04°/nmであり、60%~80%の回折効率を有する。なお、図4では、分散部22に関して反射型のグレーティングの例を挙げたが、透過型のグレーティングを用いてもよい。また、分散部22は、1つ又は3つ以上のグレーティングを有していてもよい。
【0042】
レンズ23は、分散された各波長の光の色収差等を補正しつつ、集光する。レンズ23は、例えばアクロマティックレンズである。レンズ23の焦点距離は、例えば15cmである。
【0043】
図5(A)に示すように、波長可変レーザ10から出力された各出力パルス(例えば、波長が異なるパルス番号1~5,…の光掃引パルス)又は各出力パルス列は、空間分散デバイス20から射出されると、図5(B)に示すように、各出力パルスに応じて射出角度が変化する。この出力パルスと射出角度との関係に関する情報は、後述する信号処理装置40において決定され、記憶されており、対象OBの距離算出に利用される。
【0044】
受信装置30は、空間分散デバイス20を介して、反射光RLを受光する。受信装置30は、フォトダイオード31を有する。フォトダイオード31は、反射光RLを検出し、反射光RLに対応する計測信号を出力する。
【0045】
信号処理装置40は、受信装置30による反射光RLの検出タイミングと波長可変レーザからのレーザ光IL又はパルス列の出力タイミングとから対象OBまでの距離を決定する。また、信号処理装置40は、一連のレーザ光IL又はパルス列のタイミング情報から各レーザ光ILの射出方向に関する情報を決定する。レーザ光ILのタイミング情報には、例えば、実験的な裏付けによる、出力パルスの順番や波長差等の演算処理に必要な情報が含まれる。また、信号処理装置40は、対象OBまでの距離を決定するために、パルス列を構成するパルス単位でレーザ光ILから得た参照信号RSと反射光RLの計測信号MSとの位相差を計算する。
【0046】
信号処理装置40は、信号収集装置41と、信号演算処理装置42とを有する。詳細は実施例で後述するが、図6に示すように、本実施形態の計測装置100では、レーザ光ILの変調周波数がチャープして参照信号RSと計測信号MSとの位相シフト量Δφ~Δφが時系列的に変化する。そのため、信号処理装置40での信号処理では、繰り返し周波数が変わり続ける(チャープする)信号トレースの動的位相変化を取得するために、チャープ強度変調位相シフト測定(CAMPS:Chirped Amplitude-modulated Phase-shift Measurement)技術を利用する。
【0047】
図7は、CAMPS技術を利用する信号処理装置40の構成を説明する概念図である。信号処理装置40の信号収集装置41は、信号演算処理装置42でデジタルデータ処理をするためのA/D変換器を含む高速信号処理回路であるが、例えばオシロスコープであってもよく、その場合、信号発生器11の信号を基に周波数掃引と同期をとることを可能にしつつ、計測信号と参照信号とを比較可能に同期させて取り込む。
【0048】
信号演算処理装置42は、コンピュータその他の演算処理部を含み、計測装置100から対象OBまでの距離OBDを決定する。また、信号演算処理装置42は、波長可変レーザ10から出力された一連のレーザ光ILのタイミング情報から各レーザ光ILの射出方向に関する情報を決定する。また、信号演算処理装置42には、図5(B)に示す各出力パルスに対応する射出角度に関する情報が、X軸方向の空間的な位置情報として予め記録されている。
【0049】
信号演算処理装置42は、ヒルベルト変換部42aと、乗算部42bと、ローパスフィルタ42cと、位相検出部42dと、位相・距離変換部42eとを有する。ヒルベルト変換部42aは、乗算部42bでの乗算処理前に、参照信号RSをヒルベルト変換し、ヒルベルト変換された参照信号RSaとする。すなわち、ヒルベルト変換部42aは、参照信号RSに関して、近接した位相情報を処理するため、ヒルベルト変換により実信号を複素時間信号に変換する。ヒルベルト変換とは与えられた実数値関数に対し調和共役を与え、複素信号に変換する操作である。ヒルベルト変換により、複素数値関数が複素上半平面まで延長可能となり、信号の位相情報が得られる。乗算部42bは、計測信号MSとヒルベルト変換された参照信号RSaとを乗算し、ロックインデータDT1を取得する。ローパスフィルタ42cは、乗算部42bで乗算されて取得されたロックインデータDT1をフィルタ処理することにより、無関係な周波数成分を除去したロックインデータDT2を取得する。その後、位相検出部42dは、フィルタリングされたロックインデータDT2を用いて位相シフト量PSを検出する。位相・距離変換部42eは、位相検出部42dで検出された位相シフト量PSに基づいて計測装置100から対象OBまでの距離OBDを算出する。
【0050】
参照信号RSと計測信号MSとの位相シフト量PSに基づく位相差は、レーザ光ILの出力タイミングと、反射光RLの検出タイミングとの差に相当し、計測装置100から対象OBまでの距離OBDに関する情報を与える。なお、シンセサイザ12から出力される参照信号RSと、波長可変レーザ10から出力されるパルス信号との間に回路的な遅延時間がある場合には、この遅延時間を考慮した校正手段を利用して参照信号RSと計測信号MSとの位相差を算出する。
【0051】
信号演算処理装置42では、上述した参照信号RS及び計測信号MSの位相差から算出される距離情報と、上述のレーザ光ILの射出角度に基づく空間的な位置情報とによって、対象OBの形状を求めることができる。
【0052】
(実施例)
<波長可変レーザ>
以下、計測装置100のうち主に波長可変レーザ10の実施例について説明する。
【0053】
図1を参照して、波長可変レーザ10は、既述の要素11,12,13,14,15,16,17,18を含む能動モードロックファイバーレーザであり、特定の変調周波数でキャビティ内の光強度を変調することによってモードロックされる。上記要素のうち要素14,15,16,17は、分散チューニング部として機能する。波長可変レーザ10のキャビティに大量の波長分散を導入して、各波長のFSRを異なるようにする。これにより、FSRが変調周波数に対応する波長のみをモードロックすることができる。特定の長さのレーザキャビティが与えられると、このキャビティのFSRは次式のようになる。
ここで、cは真空中の光速であり、lはレーザキャビティの長さであり、nはキャビティ内の屈折率である。FSRの整数倍の強度変調を適用することにより、高調波モードロック条件を満たすことができる。中心変調周波数をfm0とし、中心波長をλ0とすると、掃引レーザ波長は、次式で表すことができる。
ここで、fmは掃引変調周波数であり、Dはキャビティ内の全分散である。変調周波数を掃引することにより、波長掃引を伴うパルス光出力が実現される。
【0054】
波長の最大チューニング範囲Δλmaxは、主にゲイン帯域幅によって決まる。ただし、変調周波数の変化が1FSRを超えると、隣接する高調波モードの2つの波長が同時に現れる可能性があるため、単一波長出力の最大チューニング範囲は、以下で表される。
ここで、fFSR0は中心波長λ0のFSRである。この式によれば、広いチューニング範囲を実現するには、キャビティ内の全分散Dと中心変調周波数fm0とを小さくすることが望ましい。ただし、キャビティ内の全分散Dと中心変調周波数fm0とを小さくすると、レーザ波長が不安定になり、線幅の拡張が生じる。したがって、波長調整範囲と瞬間的な線幅との間にはトレードオフの関係がある。非機械式ビームスキャナの場合、上記の波長調整範囲によって最大横方向走査角度が決まり、瞬間的な線幅の広がりによって横方向の分解能が制限されるともいえる。多用途の非機械式スキャナは、レーザ光源のパラメータを変更することで実現できる。
【0055】
実施例の波長可変レーザ10は、図1の構成と同様である。実施例の波長可変レーザ10のキャビティの全長は11.1mである。これは、波長1550nmの光の基本的なFSRが約18.6MHzであることを意味する。これにより、716MHz~726MHzの変調周波数で、波長1530nm~1600nmのモードロックパルス出力を取得できる。高速波長掃引の場合、信号発生器11は、10kHzのランプ信号を提供して、0.1ミリ秒ごとに変調周波数を掃引する。パルス発生器13は、レーザのスペクトル線幅を減少させるために、シンセサイザ12によって生成された正弦波を短いパルス列に変換するために使用される。実施例において、パルス発生器13で生成されるパルスのパルス幅は100psであるため、変調周波数が716MHz~726MHzの場合、デューティサイクルは0.0716~0.0726になる。パルス発生器13を使用すると、レーザ出力の線幅を約40%向上させることができる。
【0056】
波長可変レーザ10は、キャビティに内部光増幅器14であるSOAを挿入して100nmの範囲で広帯域光利得を提供し、出力素子としてだけでなく分散素子として高分散媒質16であるCFBGを採用している。CFBGの波長分散は10ps/nmであり、反射率は65%であり、キャビティ電力の35%が出力としてCFBGを通過する。CFBGはキャビティの長さを大幅に短縮できるため、波長掃引速度の向上に効果的である。上記のオプトエレクトロニクスの取り組みにより、平均パワーが-2dBm、パルス幅が約100psのパルス光出力が得られる。波長可変レーザ10の出力波長は10kHzの周波数で掃引され、瞬間スペクトルの半値全幅(FWHM:full width at half maximum)は約0.3nmである。
【0057】
ただし、レーザ検出の用途では、より高い光パワーレベルが要求されるため、出力は出力側光増幅器18のようなエルビウムドープファイバ増幅器(EDFA:Erbium-doped fiber amplifier)で増幅される。
【0058】
<計測装置>
以下、図8を参照しつつ、計測装置100の具体的な実施例について説明する。図8は、計測装置100の一例として、全体的な非機械的スペクトル走査レーザ検出システムを示す。符号10Aは、図1に示す内部光増幅器14、強度変調器15、高分散媒質16、及び内部サーキュレータ17に対応する分散チューニング部を示す。空間分散デバイス20は、コリメータ21とビームスプリッタ24(具体的には、ペリクルビームスプリッタ(Thorlabs社製BP145B3))と分散部22(具体的には、テレコム透過型回折格子(LightSmyth社製T-966C-27x10-94))とで構成される。実施例では、出力側サーキュレータ50を設けずに、ビームスプリッタ24によってレーザ光ILと反射光RLとが分離される。受信装置30は、レンズ32とフォトダイオード31(具体的には、InGaAs可変ゲインタイプのアバランシェフォトダイオード(APD、APD450C))とで構成される。実施例の計測装置100は、実験系の構成であり、信号収集装置41は、複数スイープを統合するオシロスコープであり、信号発生器11と同期している。
【0059】
計測装置100において、波長可変レーザ10からの平均パワーが-2dBmの光出力は、出力側光増幅器18であるEDFAによって14.6dBmに増幅され、空間分散デバイス20において、ビーム径2mmのコリメータ21を使用して自由空間に向けてコリメートされる。分散部22である高効率のテレコム透過型回折格子を使用して、波長掃引光を約0.09°/nmの空間分散と94%の回折効率とで回折する。分散部22の空間分散と走査角度との関係は次のように計算できる。
ここで、Δλは波長調整範囲であり、dは単一の回折格子の分散である。この式を使用すると、スキャン角度は3.5°と見積もることができる。
【0060】
計測装置100から出力された光ビーム(レーザ光IL)が対象OBの表面に当たると、2種類の反射、つまり鏡面反射と拡散反射とが発生する可能性がある。ほとんどの屋内物体からの戻り光(反射光RL)では光拡散反射が支配的であるため、後者の光拡散反射は、レーザ検出の用途でより重要である。ランベルトの余弦則によれば、理想的な拡散反射面から観測されたステラジアンあたりの反射パワーは、次式のように表すことができる。
ここで、PTは光源からの二乗平均平方根(RMS)の放射パワーであり、ρは表面の拡散反射率であり、θは入射光の方向と表面の法線との偏向角である。実験では、反射光パワーを最大化するために、θ=0の同軸構成を用いた。対象OBからの反射光RLは、同じ光路を通ってビームスプリッタ24に戻り、フォトダイオード31によって電気信号に変換される。実施例の計測装置100では、検出器アレイではなく、単一ピクセル検出器を使用できるため、高感度のアバランシェフォトダイオード(APD)又は光電子増倍管(PMT)と互換性がある。信号収集装置41であるオシロスコープは、計測信号と基準信号とを同期させることにより、光検出器である受信装置30からデータを収集し、後データ処理を実行する。
【0061】
ランベルトの余弦則は、拡散光が全ての方向に反射されることも示唆している。対象OBを計測装置100に近づけるほど、より多くの反射光RLを検出できる。計測装置100は、対象OBから最大30cm離れた場所で測定可能な反射光RLを検出できる。スキャン角度を考慮すると、30cmでの最大スキャン範囲は約1.8cmである。より高い光パワーとすることにより、より長い検出距離を達成することができる。波長可変レーザ10の波長は連続的に調整できるため、横方向の分解能は主にビームスポットのサイズと瞬間的な線幅とによって決まる。計測装置100で横方向の解像度を制限する主な要因は、2mmのビームサイズである。ビームサイズの小さいコリメータやレンズシステムを使用することで、改善が期待される。
【0062】
<チャープ強度変調位相シフト測定(CAMPS)>
ここでは、CAMPSの手順を説明するために、平面サンプルに対して実行された非機械的なライン走査のデータを例として取り上げる。サンプルには、アノーディックコーティングを施した金属板が使用される。図9(A)~9(D)、及び図10(A)~10(D)は、生信号である計測信号と参照信号との時間領域及び周波数領域の情報を示している。図9(A)は、計測信号の波形であり、図9(C)は、図9(A)の一部を拡大した波形である。図9(B)は、参照信号の波形であり、図9(D)は、図9(B)の一部を拡大した波形である。図10(A)及び10(B)は、計測信号及び参照信号の周波数領域情報(RFスペクトル)をそれぞれ示し、図10(C)及び10(D)は、図10(A)及び10(B)の変調周波数720MHz~726MHzの範囲のメインピークを示す。
【0063】
図9(A)~9(D)に示すように、計測信号と参照信号の2つの波形は、瞬間周波数が同じになるように同期される。参照信号又は参照データとは異なって、サンプルの表面が異なる場所で一定の反射光RLを提供するとは限らないため、計測信号又は信号データの振幅は一定ではない。
【0064】
図10(B)及び10(D)に示すように、参照信号又は参照データとしては、720MHz~726MHzの変調周波数のピークが最も高く、他の周波数成分はほぼ一定である。2番目に高いピークは、メインピークよりも10dB以上低くなっている。しかしながら、図10(A)及び10(C)に示すように、計測信号又は信号データの場合、波形はDC成分や2fm成分等の正弦波ではなくパルス波であるため、同等の強度を持つ複数のピークが存在する。
【0065】
本実施形態の計測装置100では、変調周波数が一定の標準的な強度変調連続波(AMCW:amplitude-modulated continuous-wave)とは異なり、変調周波数も変調されるため、ミキサーを使用するのではなく、信号処理装置40のコンピュータで後データ処理を実行して信号トレースの動的位相変化を取得する。計測信号の正規化された連続強度Isgn(t)、参照信号の正規化された連続強度Iref(t)、及び連続相対位相Δφ(t)は次式のように計算することができる。
ここで、φsgn(t)とφref(t)とは、それぞれ計測信号と参照信号の連続位相角である。φsgn(t)とφref(t)とは、主周波数領域上の時系列(temporal train)にバンドパスフィルタを適用し、他の無関係な周波数成分を除去することによって簡単に取得できる。ただし、変調周波数は一定ではなく、計測信号は正弦波ではなくパルス波であるため(図9(C)参照)、図10(C)及び10(D)に示すように、フィルタは720MHz~726MHzの主周波数領域全体をカバーする必要があるが、広くなりすぎてノイズを完全に除去できない。周波数領域での掃引繰返し率のサイドローブは、変調周波数が掃引している間は互いに重なり合うため、フィルタで除去することはほとんどできない。ここでは、この問題を解決するために、高速チャープAM位相検出のデータ処理にCAMPS技術を使用する。
【0066】
図11は、図7に示す信号処理装置40での処理手順の具体例を説明する図である。強度トレースの振幅は均一ではないため、計測信号Isgn(t)の正規化された連続強度は、次式のように表す必要がある。
ここで、A(t)は計測信号の連続振幅の包絡線を表す。信号処理装置40では、ロックイン技術を利用して、計測信号と参照信号との間の位相シフトを、それらの乗算にローパスフィルタを適用することによって抽出する。バンドパスフィルタを計測信号と計測基準とに個別に適用する場合と比較して、この方法は、掃引繰返し率によって引き起こされ周波数領域でオーバーラップするサイドローブの影響を受けないため、より高い精度を提供することができる。クラマース・クローニッヒの関係により不均一な振幅によって引き起こされる位相エラーを回避するため、参照信号RSは信号演算処理装置42のヒルベルト変換部42aで最初にヒルベルト変換されて全ての周波数成分に位相情報を与えられる。次に、ヒルベルト変換された参照信号RSaは、乗算部42bで計測信号MSと乗算されてロックインデータDT1を取得する。ロックインデータは次式のように表すことができる。
ここで、第1項は計測信号MSとヒルベルト変換された参照信号RSa(基準信号)との間の位相シフトであり、第2項は望ましくない高周波ノイズである。
【0067】
図12(A)は、ロックインデータDT1の振幅であり、図12(C)は、図12(A)の一部を拡大した図である。図12(B)は、ロックインデータDT1の位相であり、図12(D)は、図12(B)の一部を拡大した図である。図12(E)は、ロックインデータDT1のRFスペクトルであり、図12(F)は、図12(E)の一部を拡大した図である。
【0068】
RFスペクトルのDCピークは、参照信号RSと計測信号MSとの間のホモダイン情報を表すため、ロックインデータDT1は信号演算処理装置42のローパスフィルタ42cによってフィルタ処理され、高周波ノイズが除去される。具体的には、高速フーリエ変換(FFT)を実行した後、デジタルローパスフィルタを適用して、高周波ノイズを除去する。ここでは、長方形のウィンドウ関数ではなく、ブラックマンのウィンドウ関数がデータ用ローパスフィルタとして使用される。後者は、不連続点のために望ましくないリップルを引き起こす可能性がある。フィルタリングされた時間波形は、逆FFT(iFFT)を実行した後に取得される。
【0069】
図13(A)及び13(B)は、フィルタリングされた後のロックインデータの振幅と位相とを示す図である。連続相対位相Δφ(t)は次式のように計算できる。
ここで、Sreal(t)とSimg(t)とは、それぞれローパスフィルタ42cを使用したロックインデータDT1の実数部と虚数部である。掃引繰返し率が異なるFSRに対応するため、得られた位相シフトは傾斜している。変調周波数が726MHzから720MHzに掃引されると、非多義距離(非不確実な距離)は20.66cm~20.83cmに変化する。
【0070】
計測信号MSとヒルベルト変換された参照信号RSa(基準信号)との間の位相シフトは、ロックインデータDT1の位相検出後に取得でき、次式に示す距離に変換できる。
ここで、d(t)は相対距離であり、Δφ(t)は連続相対位相であり、fm(t)は変調周波数であり、tは0から0.1ミリ秒まで変化する単一掃引の時間であり、Nは非多義距離のサイクル数である。
【0071】
<検証実験>
図14(A)は、アノーディックコーティングを施した平面サンプルを非多義距離(最大連続探知範囲)のスパンでライン走査した結果を示す図であり、図14(B)は、平面サンプルを異なる平均化回数の4mmスパンでライン走査した結果を示す図である。
【0072】
距離変換とバックグラウンド補正との後、平面サンプルの相対距離情報を位相シフトから取得できる。サンプルはスキャナから約20cm離れて配置されるため、対応する横方向の走査範囲は約12mmである。20cmの軸方向スパンを考慮すると、結果は図14(A)に示すように予想通り直線を示している。ミリメートルスパンで1mm未満の誤差が観察される。複数の走査で結果を平均化することにより、ランダムノイズを最小限に抑えることができる。図14(B)に示すように、平均化回数が8を超えることで、ほとんどのノイズを除去するのに十分となる。
【0073】
図14(B)に示すように、平均化によって抑制できるランダムノイズの他に、再現性のある変動がある。平均化された結果は、サンプルには存在しない振幅が約1mmのシステムエラーを示唆しているため、これをシステムエラーと見なすことができる。同じ場所の走査結果から高度に平均化(96回)された結果を差し引くことにより、システムエラーを補正し、検出システムの精度を評価することができる。
【0074】
図15(A)は、距離測定のために使われる2枚の金属板の模式的な平面図であり、図15(B)は、ライン走査の結果を示す図である。
【0075】
実施例では、2枚の金属板を並べて階段状の表面を形成したサンプルOB1に対して距離(具体的には、相対距離d1)を測定した。図15(A)に示すように、サンプルOB1の段差71の深さは13mmであり、走査光であるレーザ光ILはサンプルOB1の段差71をカバーするように適切に照射される。図15(B)は、32回の平均化回数でのライン走査の結果を示している。この結果から、深さの違いがはっきりと観察され、サンプルOB1の13mmの段差深さとよく一致している。段差71のエッジの領域は、ビームサイズに対応する2mm幅の緩やかな傾斜を生じさせる。ビームサイズは、現在のシステムの横方向の解像度を制限する主な要因である。将来的には、ビームサイズを小さくするか、検出距離を長くすることで改善できる。
【0076】
以上のように、分散チューニングレーザと新しいCAMPS技術とを用いて、全体的な非機械的スペクトル走査型レーザ距離計の実証と提案とに成功した。高速波長掃引パルス出力を備えた分散チューニングレーザのおかげで、機械的スキャンデバイスも振幅変調用の追加の外部強度変調器も含まれていない。CAMPS技術を使用して、分散チューニングレーザを利用し、チャープされた振幅変調信号から位相シフト情報を継続的に復元することができる。距離測定の結果は、提案されたシステムが概念実証として、10kHz及び約1mmの軸方向分解能での高速連続ラインスキャンを達成できることを示している。現在のシステムでの検出範囲の制限は、送信電力やビームサイズである。自由空間システムの電力効率を改善し、コリメータをより小さなビームサイズに置き換えることにより、検出範囲の拡大と横方向の解像度の改善とが期待できる。
【0077】
上記計測装置100では、信号処理装置40がレーザ光ILの出力タイミング、検出タイミング、及び一連のレーザ光ILのタイミング情報により対象OBまでの距離や方向に関する情報を取得する。この際、波長掃引光源である波長可変レーザ10と空間分散デバイス20とを組み合わせて、波長掃引及びレーザビームの偏向を、全て非機械式構成を用いて行うことにより、掃引速度を従来の機械式構成よりも数オーダ高くすることができ、かつ装置の振動耐力を向上させることができる。
【0078】
波長可変レーザ10は、一連のレーザ光をパルス列として出力し、信号処理装置40は、パルス列のタイミング情報から各レーザ光ILの射出方向に関する情報を決定し、対象OBまでの距離を決定するために、パルス列を構成するパルス単位でレーザ光IL(実際には、シンセサイザ12)から得た参照信号RSと反射光RLの計測信号MSとの位相差を計算する。距離算出に関してパルス列を構成するパルス単位で参照信号RSと計測信号MSとの位相差を算出することにより繰り返し周波数が変わり続ける(チャープする)信号トレースの動的位相変化を取得することができる。これにより、連続高速スキャンが可能となる。
【0079】
〔第2実施形態〕
以下、第2実施形態に係る計測装置について説明する。なお、第2実施形態に係る計測装置は、第1実施形態を変形したものであり、特に説明しない部分については、第1実施形態と同様である。
【0080】
図16に示すように、本実施形態の計測装置110は、図1に示す計測装置100をY軸方向に複数個積み重ねたものである。なお、計測装置110において、空間分散デバイス20のうち分散部122のグレーティング122a,122bは、それぞれアレイ状になっている。
【0081】
計測装置110が複数の計測装置100を複数個積み重ねることにより、Y軸方向のスキャンが可能となり、計測装置100の個々のX軸方向のスキャンと組み合わせて2次元計測を行うことができる。
【0082】
〔第3実施形態〕
以下、第3実施形態に係る計測装置について説明する。なお、第3実施形態に係る計測装置は、第1実施形態等を変形したものであり、特に説明しない部分については、第1実施形態等と同様である。
【0083】
図17に示すように、本実施形態の計測装置120において、空間分散デバイス20は、コリメータ21と、バーチャリイメージドフェーズドアレイ25(VIPA:Virtually Imaged Phased Arrays)と、アレイ状の分散部222とを有する。VIPA25は、入力光の波長に従って空間的に区別可能な出力光を生成するものであり、シリンドリカルレンズ25aとガラス板25bとで構成される。計測装置120は、空間分散デバイス20にVIPA25を組み込むことにより、自動的な非機械的2次元スキャナとして機能する。
【0084】
図16及び図17に示す計測装置110,120は、3次元計測に応用することができる。例えば、計測装置110,120は、工業製品の外観検査に用いられる3次元レーザスキャナへの適用が考えられる。物体形状測定は多種の分野に需要があり、鋳型の形状測定、加工製品の外観検査、プリント基板上の半田形状検査等に応用されている。これまで、部品表面の細かい傷、ひび割れ等の検査は、技術者の触感や視覚により行われてきたが、上記実施形態の計測装置110,120の実用化により、スマートファクトリの実現に拍車をかけることが期待できる。また、自動運転車においても計測装置が用いられているが、最も知られている自動運転用計測装置は機械駆動に基づいており、また、自動車一台以上のコストがかかる。上記実施形態の計測装置による非機械式計測装置を用いることにより、自動運転業界の3次元計測を一新する可能性がある。
【0085】
〔その他〕
以上実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0086】
上記実施形態において、内部光増幅器14の駆動電流を直接変調して波長変調してもよい。
【0087】
上記実施形態において、パルス変調の方法や波長掃引の方法等は適宜変更することができる。また、変調周波数、掃引速度等も適宜変更することができる。また、掃引波形は、線形、非線形、上り掃引、下り掃引等適宜変更することができる。
【0088】
上記実施形態において、波長可変レーザ10、空間分散デバイス20、受信装置30、信号処理装置40等の構成は、適宜変更することができる。
【0089】
上記実施形態において、波長可変レーザ10の波長掃引光源が機械駆動を含む構成としても、レーザ光ILの変調周波数がチャープして参照信号RSと計測信号MSとの位相シフト量が時系列的に変化した場合の信号処理にCAMPS技術を利用することができる。
【符号の説明】
【0090】
10…波長可変レーザ、 11…信号発生器、 12…シンセサイザ、 13…パルス発生器、 14…内部光増幅器、 15…強度変調器、 16…高分散媒質、 17…内部サーキュレータ、 18…出力側光増幅器、 19…光ファイバ、 20…空間分散デバイス、 21…コリメータ、 22,122,222…分散部、 22a,22b,122a,122b…グレーティング、 23…レンズ、 30…受信装置、 31…フォトダイオード、 40…信号処理装置、 41…信号収集装置、 42…信号演算処理装置、 42a…ヒルベルト変換部、 42b…乗算部、 42c…ローパスフィルタ、 42d…位相検出部、 42e…位相・距離変換部、 50…出力側サーキュレータ、 100,110,120…計測装置、 IL…レーザ光、 OB,OB1…対象、 RL…反射光
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