(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173250
(43)【公開日】2022-11-18
(54)【発明の名称】樹脂組成物、フィルム、多層フィルム、延伸フィルム及び包装材
(51)【国際特許分類】
C08G 63/181 20060101AFI20221111BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20221111BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221111BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
C08G63/181
C08L67/02
C08L101/00
C08J5/18 CFD
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141975
(22)【出願日】2022-09-07
(62)【分割の表示】P 2018105069の分割
【原出願日】2018-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2017108371
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】原口 修一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
(57)【要約】
【課題】2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位と、を構成単位として有するポリエステル樹脂(A)を含む樹脂組成物のガスバリア性を向上させる。
【解決手段】2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有するポリエステル樹脂(A)を含み、示差走査型熱量計(DSC)により測定した際に、ポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークが135℃以上である、樹脂組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有するポリエステル樹脂(A)、および、テレフタル酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有するポリエステル樹脂(B)を含む樹脂組成物であって、示差走査型熱量計(DSC)により測定した際に、ポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークが135℃以上であり、
前記樹脂組成物が前記ポリエステル樹脂(A)を50質量%以上99.9質量%以下含む、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂(A)の全構成単位中、2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位との合計が50モル%以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂(A)との相溶性があり、結晶化温度が135℃以上である熱可塑性樹脂をさらに含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有するポリエステル樹脂(A)、および、テレフタル酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有するポリエステル樹脂(B)を含む樹脂組成物からなるフィルムであって、前記樹脂組成物が前記ポリエステル樹脂(A)を50質量%以上99.9質量%以下含み、
該フィルムを示差走査型熱量計(DSC)により測定した際に、ポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークが135℃以上である、フィルム。
【請求項5】
2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有するポリエステル樹脂(A)、および、テレフタル酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有するポリエステル樹脂(B)を含む樹脂組成物からなる層を有する多層フィルムであって、前記樹脂組成物が前記ポリエステル樹脂(A)を50質量%以上99.9質量%以下含み、
該多層フィルムを示差走査型熱量計(DSC)により測定した際に、ポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークが135℃以上である、多層フィルム。
【請求項6】
請求項4または5のいずれか1項に記載フィルムを延伸した延伸フィルム。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、バイオマス由来の原料から製造可能なポリエステル樹脂を含む樹脂組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境配慮型又は環境持続型材料として、バイオマス由来の2,5-フランジカルボン酸を用いたポリマーが注目されている。例えば、特許文献1に開示されているように、2,5-フランジカルボン酸単位と脂肪族ジオール単位とを構成単位として有するポリエステル樹脂は、ガスバリア性に優れたフィルムとなり得る。また、特許文献2に開示されているように、フランジカルボン酸単位を有するポリエステル樹脂のうち特定の粘度かつ特定の末端酸価を有するものは、優れた機械物性を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-229395号公報
【特許文献2】特開2013-155388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているように、2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有するポリブチレン-2,5-フランジカルボキシレート(PBF)を含む樹脂組成物は、ジオール単位としてエチレングリコール単位を有するポリエチレン-2,5-フランジカルボキシレート(PEF)を含む樹脂組成物と比較して、ガスバリア性を向上させ難いという課題がある。当該課題は、特許文献2に開示されているようにポリエステルの還元粘度や末端酸価を調整しても解決することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有するポリエステル樹脂(A)を含み、示差走査型熱量計(DSC)により測定した際に、ポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークが135℃以上である、樹脂組成物を開示する。
【0006】
「示差走査型熱量計(DSC)により測定した際に、ポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークが135℃以上である」とは、示差走査型熱量計(DSC)を用いてJIS K-7121に準じて測定した際に、135℃以上の温度においてポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークが確認されることを意味する。具体的には、樹脂組成物をDSC測定パンに仕込み、窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/分で300℃まで昇温し、3分保持した後に、降温速度10℃/分で0℃まで降温した場合に得られるDSC曲線において、降温時、135℃以上の温度において、ポリエステル樹脂(A)の結晶化に由来するピークの頂点が存在することを意味する。
【0007】
本開示の樹脂組成物は、前記ポリエステル樹脂(A)の全構成単位中、2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位との合計が50モル%以上であることが好ましい。
【0008】
本開示の樹脂組成物は、前記ポリエステル樹脂(A)との相溶性があり、結晶化温度が135℃以上である熱可塑性樹脂をさらに含むことが好ましい。
【0009】
本開示の樹脂組成物は、テレフタル酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有するポリエステル樹脂(B)をさらに含むことが好ましい。
【0010】
本願は上記課題を解決するための手段の他の一つとして、
2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有するポリエステル樹脂(A)を含む樹脂組成物からなるフィルムであって、該フィルムを示差走査型熱量計(DSC)により測定した際に、ポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークが135℃以上である、フィルムを開示する。
【0011】
本願は上記課題を解決するための手段の他の一つとして、
2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有するポリエステル樹脂(A)を含む樹脂組成物からなる層を有する多層フィルムであって、該多層フィルムを示差走査型熱量計(DSC)により測定した際に、ポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークが135℃以上である、多層フィルムを開示する。
【0012】
また、上記フィルムおよび多層フィルムは、延伸された延伸フィルムであってもよい。
また、本願の樹脂組成物は、該樹脂組成物を含む包装材として適用可能である。
【発明の効果】
【0013】
本開示の樹脂組成物は、2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有するポリエステル樹脂(A)を含み、示差走査型熱量計(DSC)により測定した際に、ポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークが135℃以上である。すなわち、ポリエステル樹脂(A)を含む樹脂組成物が高温で容易に結晶化し、高いガスバリア性を発揮する。例えば、溶融押出成形等の一般的な方法によって溶融させた樹脂組成物をフィルム状に成形する場合、溶融させた樹脂組成物を急速に冷却したとしても樹脂組成物が適切に結晶化し、フィルムに高いガスバリア性を確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に開示する実施形態は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0015】
1.樹脂組成物
本開示の樹脂組成物は、2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有するポリエステル樹脂(A)を含み、示差走査型熱量計(DSC)により測定した際に、ポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークが135℃以上であることに一つの特徴を有する。このような樹脂組成物を用いることにより、上述の通り、結晶化が容易となり、高いガスバリア性を有するフィルムを提供することができるが、より結晶化を容易とさせるために、ポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークは140℃以上であることが好ましい。
【0016】
1.1.ポリエステル樹脂(A)
ポリエステル樹脂(A)は、2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有する。なお、ポリエステル樹脂(A)を構成する全構成単位中、2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位との合計は、特段の制限はないが、通常50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。最も好ましくは、ポリエステル樹脂(A)は、2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位のみからなる。ポリエステル樹脂(A)は、ガスバリア性や(延伸する場合は)延伸性を有する。
【0017】
1.1.1.ジカルボン酸単位
ポリエステル樹脂(A)は2,5-フランジカルボン酸単位を含む。2,5-フランジカルボン酸単位を構成し得る単量体としては、2,5-フランジカルボン酸及びその誘導体が挙げられる。2,5-フランジカルボン酸の誘導体としては炭素数1~4のアルキルエステルが挙げられ、中でもメチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル等が好ましく、メチルエステルがより好ましい。
【0018】
ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジカルボン酸単位中の2,5-フランジカルボン酸単位の割合は、特段の制限はないが、通常50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。最も好ましくはポリエステル樹脂(A)を構成する全ジカルボン酸単位が2,5-フランジカルボン酸単位からなる。2,5-フランジカルボン酸単位の割合を当該下限以上とすることで、ポリエステル樹脂(A)の結晶性が維持され、高いガスバリア性及び耐熱性が得られる傾向にある。
【0019】
ポリエステル樹脂(A)は、上記した課題を解決できる範囲で、2,5-フランジカルボン酸単位以外のジカルボン酸単位が共重合されていてもよい。2,5-フランジカルボン酸単位以外のジカルボン酸単位は、好ましくは全ジカルボン酸単位の10モル%以下であり、より好ましくは5モル%以下である。また、好ましくは0.1モル%以上である。
これらの範囲であることで、結晶性を損なうことなく融点を若干下げることができる。それによって重合温度や加工温度を低めに設定することができ、溶融時の分解反応や分子量低下を抑制することが可能となる傾向にある。共重合可能なジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族(脂環式も含む)ジカルボン酸、これらをエステル化等した誘導体等が挙げられる。
【0020】
1.1.2.ジオール単位
ポリエステル樹脂(A)は1,4-ブタンジオール単位を含む。1,4-ブタンジオール単位を構成し得る単量体としては、1,4-ブタンジオール及びその誘導体が挙げられる。誘導体としては炭素数1~4のアルキルエステルが挙げられ、中でもメチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル等が好ましく、メチルエステルがより好ましい。
【0021】
ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジオール単位中の1,4-ブタンジオール単位の割合は、特段の制限はないが、通常50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。最も好ましくはポリエステル樹脂(A)を構成する全ジオール単位が1,4-ブタンジオール単位からなる。
【0022】
ポリエステル樹脂(A)は、上記した課題を解決できる範囲で、1,4-ブタンジオール単位以外のジオール単位が共重合されていてもよい。その場合は、ポリエステル樹脂(A)の全ジオール単位中の10モル%以下、好ましくは5モル%以下とする。共重合可能なジオールとしては、1,4-ブタンジオール以外の脂肪族ジヒドロキシ化合物、芳香族ジヒドロキシ化合物、ビスフェノール、これらの誘導体等が挙げられる。
【0023】
1.1.3.その他の共重合単位
ポリエステル樹脂(A)は、上記した課題を解決できる範囲で、上記した単位に加えて、それ以外の共重合単位を含んでいてもよい。その場合は、ポリエステル樹脂(A)の全構成単位中の10モル%以下、好ましくは5モル%以下とする。上限値以下とすることで、ポリエステル樹脂(A)の結晶性が維持され、耐熱性が得られる傾向にある。少量の共重合単位を構成し得る単量体としては、ヒドロキシカルボン酸、ジアミン、これらの誘導体等が挙げられる。
【0024】
ポリエステル樹脂(A)には、上記した課題を解決できる範囲で、上記した共重合単位以外のその他の共重合単位として、3官能以上の官能基を含有する単位を導入してもよい。3官能以上の官能基を有する単位を構成し得る単量体としては、3官能以上の多価アルコール;3官能以上の多価カルボン酸或いはその無水物、酸塩化物、又はエステル;及び3官能以上のヒドロキシカルボン酸或いはその無水物、酸塩化物、又はエステル;3官能以上のアミン類;からなる群から選ばれた少なくとも1種の3官能以上の多官能化合物が挙げられる。具体的には、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール;リンゴ酸、酒石酸又はクエン酸が挙げられる。
【0025】
ポリエステル樹脂(A)の製造に際しては、ジイソシアネート、ジフェニルカーボネート、ジオキサゾリン、珪酸エステル等の鎖延長剤を使用してもよい。特に、ジフェニルカーボネート等のカーボネート化合物を使用する場合は、これらのカーボネート化合物をポリエステル樹脂(A)の全構成成分に対して20モル%以下、好ましくは10モル%以下添加して、ポリエステルカーボネートを得てもよい。
【0026】
ポリエステル樹脂(A)は、ポリエステル末端基をカルボジイミド、エポキシ化合物、単官能性のアルコール又はカルボン酸で封止してもよい。
【0027】
1.1.4.ポリエステル樹脂(A)の物性
本開示の樹脂組成物は、示差走査型熱量計(DSC)により測定した際に、ポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークが135℃以上であることで、DSCで求められるポリエステル樹脂(A)の結晶化温度(TC)も135℃以上となり得る。すなわち、ポリエステル樹脂(A)が高温で容易に結晶化し、高いガスバリア性を発揮する。例えば、溶融押出成形等の一般的な方法によって溶融させた樹脂組成物をフィルム状に成形する場合、溶融させた樹脂組成物を急速に冷却したとしてもポリエステル樹脂(A)が適切に結晶化し、フィルムに高いガスバリア性を確保できる。ポリエステル樹脂(A)の結晶化温度(TC)を135℃以上とするための具体的な手法については後述する。なお、ガスバリア性をより高めるために、ポリエステル樹脂(A)の結晶化温度(Tc)は、140℃以上であることが好ましい。
尚、「結晶化温度(TC)」とは、示差走査型熱量計(DSC)を用いてJIS K-7121に準じて測定される結晶化温度をいう。具体的には、樹脂組成物をDSC測定パンに仕込み、窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/分で300℃まで昇温し、3分保持した後に、降温速度10℃/分で0℃まで降温した場合に得られるDSC曲線において、降温時に確認される樹脂の結晶化に由来するピークの頂点における温度をいう。
【0028】
ポリエステル樹脂(A)は、還元粘度(ηred=ηsp/c;ηspは比粘度、cはポリマー濃度を意味する)が0.8dl/g以上であることが好ましい。これにより、例えば、軟包材に求められる柔軟性が確保できる。
尚、「還元粘度」とは、フェノール/テトラクロロエタン(1:1重量比)中、ポリエステル樹脂濃度0.5g/dlで、30℃にて測定した溶液粘度から求められるものである。
【0029】
ポリエステル樹脂(A)は、その末端酸価が100μeq/g以下であることが好ましい。これにより、例えば、高い熱安定性を確保できる。
尚、「末端酸価」とは、中和滴定によって測定されるものである。具体的には、試料を粉砕した後、熱風乾燥機にて140℃で15分間乾燥させ、デシケーター内で室温まで冷却した試料から、0.1gを精秤して試験管に採取し、ベンジルアルコール3mlを加えて、乾燥窒素ガスを吹き込みながら195℃、3分間で溶解させ、次いで、クロロホルム5mlを徐々に加えて室温まで冷却する。この溶液にフェノールレッド指示薬を1~2滴加え、乾燥窒素ガスを吹き込みながら撹拌下に、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で滴定し、黄色から赤色に変じた時点で終了とする。また、ブランクとして、試料を溶解させずに同様の操作を実施し、以下の式(I)によって末端酸価を算出する。
末端酸価(μeq/g)=(a-b)×0.1×f/w (I)
(ここで、aは、試料の滴定に要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μl)、bは、ブランクでの滴定に要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μl)、wはポリエステル樹脂の試料の量(g)、fは、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価である。)
【0030】
上記式(I)において、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価(f)は以下の方法で求める。すなわち、試験管にメタノール5mlを採取し、フェノールレッドのエタノール溶液を指示薬として1~2滴加え、0.lNの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液0.4mlで変色点まで滴定し、次いで力価既知の0.1Nの塩酸水溶液を標準液として0.2ml採取して加え、再度、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で変色点まで滴定する(以上の操作は、乾燥窒素ガス吹き込み下で行う)。以下の式(II)によって力価(f)を算出する。
力価(f)=0.1Nの塩酸水溶液の力価×0.1Nの塩酸水溶液の採取量(μl)/0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の滴定量(μl) (II)
【0031】
1.1.5.ポリエステル樹脂(A)の製造方法
ポリエステル樹脂(A)の製造方法としては、一般的なポリエステル樹脂の製造方法が採用できる。例えば、特許第5233390号明細書の記載を例示することができる。
【0032】
1.2.ポリエステル樹脂(A)以外の成分
本開示の樹脂組成物は少なくともポリエステル樹脂(A)を含み、さらに任意にその他の樹脂や添加剤等を含み得る。
【0033】
1.2.1.ポリエステル樹脂(B)
本発明者らの新たな知見によれば、後述するように、例えば、ポリエステル樹脂(A)を含む樹脂組成物中に、結晶化温度(TC)が135℃以上のポリエステル樹脂(B)をさらに含ませることで、示差走査型熱量計(DSC)により測定した際に、ポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークが135℃以上である樹脂組成物とすることができる。この場合、メカニズムについては後述するが、ポリエステル樹脂(A)の結晶化温度(TC)を135℃以上とすることができ、単独では結晶化が困難であったポリエステル樹脂(A)の結晶化が可能となり、ガスバリア性を高めることができる。なお、ここでは、好ましい形態として135℃以上の結晶化温度を有するポリエステル樹脂(B)について説明するが、上述のように、ポリエステル樹脂(A)を含み、かつ示差走査型熱量計(DSC)により測定した際に、ポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークが135℃以上とすることが出来る限りにおいて、ポリエステル樹脂(B)の代わりに、ポリエステル樹脂(B)とは異なる化合物等を用いてもよい。
【0034】
ポリエステル樹脂(B)は、135℃以上の結晶化温度を有する限りにおいて、ジカルボン酸単位に特段の制限はない。例えば、テレフタル酸単位やナフタレン-2,6-ジカルボン酸単位等の芳香族ジカルボン酸単位である。中でも、ポリエステル樹脂(B)はジカルボン酸単位としてテレフタル酸単位を含むことが好ましい。テレフタル酸単位を構成し得る単量体としてはテレフタル酸及びその誘導体が挙げられる。誘導体としては炭素数1~4のアルキルエステルが挙げられ、中でもメチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル等が好ましく、メチルエステルがより好ましい。
【0035】
ジカルボン酸単位としてテレフタル酸単位を採用する場合、ポリエステル樹脂(B)を構成する全ジカルボン酸単位中のテレフタル酸単位の割合は、特段の制限はないが、通常50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。最も好ましくはポリエステル樹脂(B)を構成する全ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位からなる。
【0036】
尚、ポリエステル樹脂(B)は、上記した課題を解決できる範囲で、上記以外のジカルボン酸単位が共重合されていてもよい。
【0037】
ポリエステル樹脂(B)は、135℃以上の結晶化温度を有する限りにおいて、ジオール単位に特段の制限はない。例えば、脂肪族ジオール単位である。中でも、ポリエステル樹脂(B)はジオール単位として1,4-ブタンジオール単位を含むことが好ましい。1,4-ブタンジオール単位を構成し得る単量体としては、1,4-ブタンジオール及びその誘導体が挙げられる。誘導体としては炭素数1~4のアルキルエステルが挙げられ、中でもメチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル等が好ましく、メチルエステルがより好ましい。
【0038】
ジオール単位として1,4-ブタンジオール単位を採用する場合、ポリエステル樹脂(B)を構成する全ジオール単位中の1,4-ブタンジオール単位の割合は、特段の制限はないが、通常50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。最も好ましくはポリエステル樹脂(B)を構成する全ジオール単位が1,4-ブタンジオール単位からなる。
【0039】
尚、ポリエステル樹脂(B)は、上記した課題を解決できる範囲で、上記以外のジオール単位が共重合されていてもよい。
【0040】
ジカルボン酸単位としてテレフタル酸単位、ジオール単位として1,4-ブタンジオール単位を採用する場合、ポリエステル樹脂(B)を構成する全構成単位中、テレフタル酸単位と1,4-ブタンジオール単位との合計は、特段の制限はないが、通常50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。
【0041】
ポリエステル樹脂(B)は、ポリエステル樹脂(A)と同様に、上記以外の少量の共重合単位を含んでいてもよい。共重合可能なジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸化合物、脂肪族(脂環式も含む)ジカルボン酸、これらをエステル化等した誘導体等が挙げられ、共重合可能なジオールとしては、1,4-ブタンジオール以外の脂肪族ジヒドロキシ化合物、芳香族ジヒドロキシ化合物、ビスフェノール、これらの誘導体等が挙げられる。その他、少量の共重合単位を構成し得る単量体としては、ヒドロキシカルボン酸、ジアミン、これらの誘導体、ポリテトラメチレングリコール単位等がある。また、上述の共重合単位以外のその他の共重合単位として、3官能以上の官能基を含有する単位を導入してもよい。さらには、ポリエステル樹脂(B)の製造に際し、ポリエステル樹脂(A)の製造方法と同様に、鎖延長剤や末端封止剤を使用してもよい。
【0042】
上述したように、ポリエステル樹脂(B)は結晶化温度(TC)が135℃以上である。好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは160℃以上、特に好ましくは170℃以上、最も好ましくは180℃以上である。後述する推定メカニズムからすると、ポリエステル樹脂(B)の結晶化温度が高いほど、樹脂組成物を溶融状態から冷却した場合に高温で結晶核が生じ易く、ポリエステル樹脂(A)を135℃以上で容易に結晶化することができるものと考えられる。一方、結晶化温度が高すぎるとポリエステル樹脂(A)との溶融混合が困難になる場合があるため、ポリエステル樹脂(B)の結晶化温度(Tc)は、好ましくは250℃以下であり、より好ましくは240℃以下であり、特に好ましくは230℃以下である。
【0043】
ポリエステル樹脂(B)は固有粘度が0.6~2.0(dl/g)の範囲であることが好ましい。これにより、軟包材としての柔軟性を付与することができるとともに、押出成形時の製膜性が良好となる。
尚、「固有粘度」とは、1,1,2,2-テトラクロロエタン/フェノール=1/1(重量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定されるものである。
【0044】
ポリエステル樹脂(B)は、その末端酸価が60μeq/g以下であることが好ましい。これにより、高い熱安定性を確保できる。
【0045】
ポリエステル樹脂(B)の製造方法は、一般的なポリエステル樹脂の製造方法が採用できる。例えば、特開2004-137455号公報を参照することができる。或いは、市販のPBT樹脂を使用することも可能である。例えば、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製NOVADURAN 5020(ホモポリブチレンテレフタレート樹脂、固有粘度1.20dl/g)や、ウィンテックポリマー株式会社製ジュラネックス500FP(ホモポリブチレンテレフタレート樹脂、固有粘度0.875dl/g)等が挙げられる。また、ポリブチレンテレフタレート系共重合体の市販品としては、例えば、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製NOVADURAN 5505S(固有粘度1.15dl/g)等が挙げられる。
【0046】
本開示の樹脂組成物中にポリエステル樹脂(A)とともにポリエステル樹脂(B)を含ませた場合、以下の推定メカニズムによって、ポリエステル樹脂(A)の結晶化温度が135℃以上となるものと考えられる。
【0047】
すなわち、溶融させた樹脂組成物を冷却した場合、135℃以上の高温においてポリエステル樹脂(B)の結晶が析出し、ポリエステル樹脂(B)の結晶を核としてポリエステル樹脂(A)の結晶化が促進されるものと考えられる。ここで、ポリエステル樹脂(B)は、ポリエステル樹脂(A)に対して適度な相溶性を有することから、樹脂組成物は溶融状態においてポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とが互いに均一に混ざり合うこととなり、樹脂組成物全体においてポリエステル樹脂(B)の結晶の析出、及び、ポリエステル樹脂(A)の結晶化の促進が図られることとなる。結果として、ポリエステル樹脂(A)を速やかに結晶化させることができるものと考えられる。このように、ポリエステル樹脂(B)はポリエステル樹脂(A)の結晶核剤として機能するものと考えられる。
【0048】
尚、本発明者らの新たな知見によれば、ポリエステル樹脂(A)を含む樹脂組成物中に、タルクやワックスといった従来公知の結晶核剤をさらに含ませただけでは、ポリエステル樹脂(A)の結晶化温度を135℃以上とすることはできない。上述したように、ポリエステル樹脂(A)の結晶化温度を135℃以上とするには、ポリエステル樹脂(A)を含む樹脂組成物中に、(1)135℃以上の高温で結晶核を生成すること、(2)ポリエステル樹脂(A)に対して適度な相溶性を有すること、の2つの要件を満たす成分を混合することが有効と考えられる。特に、ポリエステル樹脂(B)を含ませることで、ポリエステル樹脂(A)の結晶化を促進させるだけでなく、樹脂組成物に機械物性や耐熱性等の種々の機能を付与することもできる。
【0049】
1.2.2.ポリエステル樹脂(B)以外の成分
上記した2つの要件を満たす成分はポリエステル樹脂(B)に限られない。ポリエステル樹脂(B)に替えて、上記した2つの要件を満たすポリエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド等)を含ませた場合にも、ポリエステル樹脂(A)の結晶化温度を135℃以上とすることができるものと考えられる。このように、種々の熱可塑性樹脂を含ませることで、ポリエステル樹脂(A)の結晶化温度を一層高めつつ、樹脂組成物に対して新たな機能を付与することができるものと考えられる。
【0050】
また、本開示の樹脂組成物においては、上記したポリエステル樹脂(A)以外に、その特性が損なわれない範囲において、各種の添加剤、例えば熱安定剤、酸化防止剤、加水分解防止剤、結晶核剤、結晶化遅延剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料や顔料等の着色剤等を添加してもよい。また、上記以外の熱可塑性樹脂を配合してもよい。
【0051】
1.3.組成
本開示の樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A)の含有量は、上記した課題を解決できる限り、特に限定されるものではない。例えば、樹脂組成物においてポリエステル樹脂(A)を50質量%以上99.9質量%以下含ませることができる。ポリエステル樹脂(A)の含有量を多くした場合、より高いガスバリア性を確保できる。
ポリエステル樹脂(A)の含有量としては、より好ましくは、60質量%以上98質量%以下であり、さらに好ましくは65質量%以上95質量%以下である。
【0052】
本開示の樹脂組成物においてポリエステル樹脂(B)を含ませる場合、その含有量は、上記した課題を解決できる限り、特に限定されるものではない。例えば、樹脂組成物においてポリエステル樹脂(B)を0.1質量%以上50質量%以下含ませることができる。
下限がより好ましくは5質量%以上であり、上限がより好ましくは40質量%以下である。ポリエステル樹脂(B)の含有量を多くした場合、より高い機械物性や耐熱性を確保できる。
【0053】
本開示の樹脂組成物においてポリエステル樹脂(B)を含ませる場合、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との質量比は、上記した課題を解決できる限り、特に限定されるものではない。例えば、前記ポリエステル樹脂(A)と前記ポリエステル樹脂(B)との合計の質量を基準(100質量%)として、前記ポリエステル樹脂(B)を0.1質量%以上含有することが好ましく、一方、50重量%以下含有することが好ましい。当該範囲とすることで、ガスバリア性と柔軟性及び保香性とのバランスがより良好なものとなる。
また、上記質量比は、前記ポリエステル樹脂(B)を2質量%以上40質量%以下含有数することがより好ましく、5質量%以上35質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0054】
本開示の樹脂組成物において各種添加剤や他の熱可塑性樹脂を含ませる場合、その含有量は、上記した課題を解決できる限り、特に限定されるものではない。目的とする性能に応じて含有量を適宜決定すればよい。
【0055】
2.樹脂組成物の製造方法
本開示の樹脂組成物は、上記した各成分を溶融混錬すること等によって容易に製造することができる。尚、本発明者らの知見によれば、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とをそれぞれ溶融させた後で共押出等によって直接積層した場合においても、当該ポリエステル樹脂(A)からなる層とポリエステル樹脂(B)からなる層との少なくとも界面においてポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とが混合され、ポリエステル樹脂(A)を含み、且つ、ポリエステル樹脂(A)に由来する結晶化ピークが135℃以上である樹脂組成物からなる層が得られる。すなわち、本願にいう樹脂組成物とは、このように溶融樹脂を共押出等によって直接積層した場合に形成される混合層を含むものとする。
【0056】
3.樹脂組成物の用途
本開示の樹脂組成物は成形した後で各種用途に適用できる。例えば、当該樹脂組成物からなるフィルムや、当該樹脂組成物からなる層を備える多層フィルムや、当該樹脂組成物を含む包装材等である。
【0057】
3.1.フィルム
溶融押出成形、熱プレス等の一般的な成形方法により、本開示の樹脂組成物をフィルムとすることができる。フィルムは延伸されていても延伸されていなくてもよい。延伸フィルムの場合は、公知の方法に従って、一軸又は二軸延伸して延伸フィルムを得ることが出来る。二軸延伸は同時二軸延伸であっても逐次二軸延伸であっても構わない。上述したように、ポリエステル樹脂(A)はガスバリア性のほか延伸性にも寄与することから、フィルムを容易に延伸することができる。フィルムの厚み等は用途に応じて適宜決定すればよい。また、フィルムは本開示の樹脂組成物のみから成る単層フィルムでもよく、共押出やドライラミネート等の一般的な成形方法により、それ以外の1層以上の層を有する多層フィルムとしてもよい。
3.2 単層フィルム
単層フィルムは例えば溶融押出の場合流路が単純であり、低コストで生産できるメリットがある。単層フィルムは延伸されていても延伸されていなくてもよい。延伸フィルムの場合は、公知の方法に従って、一軸又は二軸延伸して延伸フィルムを得ることが出来る。
二軸延伸は同時二軸延伸であっても逐次二軸延伸であっても構わない。単層フィルムの厚み等は用途に応じて適宜決定すればよい。単層フィルムの製造方法は当業者にとって周知であることから、ここではこれ以上の詳細な説明を省略する。
【0058】
3.3.多層フィルム
多層フィルムは単層フィルムと同様に延伸されていても延伸されていなくてもよい。延伸フィルムの場合は、公知の方法に従って、一軸又は二軸延伸して延伸フィルムを得ることが出来る。二軸延伸は同時二軸延伸であっても逐次二軸延伸であっても構わない。上述したように、ポリエステル樹脂(A)はガスバリア性のほか延伸性にも寄与することから、多層フィルムを容易に延伸することができる。多層フィルムの厚み等は用途に応じて適宜決定すればよい。尚、上述したように、ポリエステル樹脂(A)とその他の樹脂(ポリエステル樹脂(B)等)とを共押出等によって直接積層することで、結果的に、本開示の樹脂組成物を満たす層が形成されてもよい。なお、本発明の樹脂組成物からなる混合層を形成する観点から、多層フィルムは、共押出により形成することが好ましい。もちろん、本開示の樹脂組成物とその他の樹脂又は樹脂組成物とを直接的又は間接的に積層して多層フィルムとしてもよい。多層フィルムの製造方法は当業者にとって周知であることから、ここではこれ以上の詳細な説明を省略する。
【0059】
フィルム用途に用いる場合は、必要に応じて各種の無機または有機の不活性微粒子を含有させることでフィルムの易滑性を向上させることができ生産性が良好となる。不活性微粒子の例としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、リン酸リチウム、リン酸マグネシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、セライト、カオリン、タルク、カーボンブラックおよび特公昭59-5216号公報に記載の架橋高分子微粒子を挙げることができる。これらの微粒子は、必要に応じて1種類または2種類以上を併用することができる。
【0060】
不活性微粒子の平均粒径は0.5μm以上4.0μm以下であることが好ましく、0.8μm以上3.0μmであることがさらに好ましい。ここで、不活性微粒子の平均粒径とは、コールターカウンター(日本化学機械社製)を使用して計測し、累積重量分率が50%になる時の平均粒径の値である。
また、当該微粒子の添加量は、フィルム中の含有量として0.005重量%以上0.5重量%以下が好ましく、0.01重量%以上0.1重量%以下がさらに好ましい。
微粒子の平均粒径が小さすぎたり、添加量が少なすぎたりすると、微粒子を添加することによる取り扱い性、生産性の向上効果を十分に得ることができない場合があるが、微粒子の平均粒径が4.0μmを超える、あるいは添加量が0.5重量%を超えると、フィルムの平面性および/または透明性が損なわれる恐れがある。
【0061】
なお、フィルムにこのような不活性微粒子を配合する場合、3層以上の積層構造とし、両表面層又は一方の表面層のみに不活性微粒子を含有させ、中間層は不活性微粒子を含有しない層とすることが、透明性と取り扱い性の両立の面で好ましい。
【0062】
3.4.包装材
本開示の樹脂組成物は高いガスバリア性を発揮することから包装材を構成する材料として好適である。例えば、野菜、果物、魚、肉、惣菜、レトルト食品、お菓子、調味料、洗剤、シャンプーなどの包装材に適用可能である。或いは、臭気の強い産業廃棄物や汚物等の医療用廃棄物の処理袋にも好適である。
【実施例0063】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0064】
1.原料
1.1.ポリエステル樹脂(A)
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧口を備えた反応容器に、原料として、2,5-フランジカルボン酸ジメチル56.07重量部、1,4-ブタンジオール42.51重量部、及びオルトチタン酸テトライソプロピルを予め2重量%溶解させた1,4-ブタンジオール溶液1.42重量部を仕込んだ。
容器内容物を攪拌下、容器内に窒素ガスを導入し、減圧置換によって系内を窒素雰囲気にした。次に、160℃のオイルバスに反応容器を浸漬し、系内を攪拌しながら3時間反応させた。次に、2時間かけて240℃まで昇温し、続いて昇温開始から30分後に、1時間30分かけて180Pa以下になるように徐々に減圧した。さらに、この温度で加熱減圧状態を保持したまま重合を1時間継続した後、重合を終了し、ポリエステル樹脂(A)(ポリブチレン-2,5-フランジカルボキシレート)を得た。得られたポリエステル樹脂(A)の還元粘度は1.3dl/g、末端酸価は86μeq/gであった。
【0065】
1.2.ポリエステル樹脂(B1)
テレフタル酸、1,4-ブタンジオールのホモポリエステル樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製NOVADURAN 5008)を用いた。
【0066】
1.3.ポリエステル樹脂(B2)
テレフタル酸、1,4-ブタンジオール、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)の共重合ポリエステル樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製NOVADURAN 5505S)を用いた。
【0067】
1.4.結晶核剤
結晶核剤としてタルク(富士タルク工業社製PKP-53S)、ポリエチレンワックス(Honeywell社製ACumist A6)を用いた。
【0068】
2.評価方法
2.1.結晶化温度
2.1.1 樹脂組成物のDSC測定
SII社製DSC-6220を使用しJIS K-7121に準じて各樹脂の結晶化温度を測定した。すなわち、各試料をDSC測定パンに仕込み、窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/分で、300℃まで昇温し、3分保持した後に、降温速度10℃/分で0℃まで降温して測定を行った。降温時のDSC曲線における結晶化ピークの頂点の温度を結晶化温度(TC)とした。
2.1.2 フィルムのDSC測定
2.1.1と同様の方法でフィルムのDSCを測定し、降温時のDSC曲線における結晶化ピークの頂点の温度を結晶化温度(Tc)とした。なお、積層フィルムについては、積層フィルム全体のDSCを測定した。
【0069】
2.2.ガスバリア性(酸素透過度)
JIS K7126-2に基づいて以下の条件にて行った。
装置 :OX-TRAN 2/21(MOCON社製)
温度 :23℃
湿度 :90%RH
透過面積 :50cm2
酸素透過度が小さいほど、ガスバリア性に優れる。尚、酸素透過度はフィルム厚みに反比例するため、下記では慣習的に用いられる20μm厚みに換算した数値を記載した。
【0070】
3.樹脂組成物の製造及び評価
[実施例1、2]
乾燥したポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B1)とを、ラボプラストミル(東洋精機社製、ローラミキサ R60)にて、下記表1に示した組成にて溶融混練することで、樹脂組成物を得た。混練温度は240℃、混練時間は3分間とした。下記表1に、得られた樹脂組成物に含まれるポリエステル樹脂(A)又はポリエステル樹脂(B)の結晶化温度(TC)を示す。
【0071】
[比較例1~4]
ポリエステル樹脂(A)のみを用いたこと(比較例1)、ポリエステル樹脂(B1)のみを用いたこと(比較例2)、或いは、ポリエステル樹脂(B1)の代わりに、下記表1に示した組成にてタルクおよびポリエチレンワックスを混練したこと(比較例3~5)以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。下記表1に、得られた樹脂組成物に含まれるポリエステル樹脂(A)又はポリエステル樹脂(B)の結晶化温度(TC)を示す。
【0072】
【0073】
表1中、実施例1、比較例2~5においては、結晶化ピークが一つのみ確認された。
一方、実施例2においては、145℃を頂点とする結晶化ピークと189℃を頂点とする結晶化ピークとが確認された。145℃がポリエステル樹脂(A)由来の結晶化温度で、189℃がポリエステル樹脂(B)由来の結晶化温度である。
【0074】
4.フィルムの製造及び評価
[実施例3]
乾燥したポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B2)とを、押出機直径がφ20mmとφ30mmで両押出機先端に1つTダイを設置したTダイ式製膜機(東測精密工業社製)、引取りロールを使用してフィルム製膜を行い、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B2)とが直接積層し、少なくとも界面においてポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B2)とが溶融混合した層を有する、未延伸の多層フィルムを得た。なお、樹脂の乾燥は熱風乾燥機、100℃×8時間にて行い、ポリエステル樹脂(A)はφ20mm側、ポリエステル樹脂(B2)はφ30mm側のホッパーに投入し、樹脂温度はいずれも245℃とした。フィルムの引取速度は6.3m/min、ロール温度は20℃、フィルム総厚みは90μmに調整した。また、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B1)の層厚み比率が1:1になるように各押出機の回転数を調整した。
得られたフィルムから長さ100mm、幅100mmを切り出し、バッチ式二軸延伸装置(アイランド工業社製)で、ひずみ速度10mm/min、延伸倍率3.0倍の同時二軸延伸を行うことで延伸多層フィルムを得た。なお延伸温度は170℃とした。
得られた延伸フィルムを切り出し、結晶化温度測定および酸素透過性測定を行った。各種評価結果を表2に示す。
【0075】
[比較例6]
乾燥したポリエステル樹脂(A)を2つの押出機のホッパーに投入した以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂(A)からなる未延伸の単層フィルムを取得した。なおフィルム厚みは100μmに調整した。
得られたフィルムから長さ100mm、幅100mmを切り出し、バッチ式二軸延伸装置(アイランド工業社製)で、ひずみ速度10mm/min、延伸倍率3.0倍の同時二軸延伸を行うことで延伸多層フィルムを得た。なお延伸温度は50℃とした。以降のサンプル取得および各種評価は実施例3と同様に行った。結果を表2に示す。
【0076】
[比較例7]
乾燥したポリエステル樹脂(B2)を2つの押出機のホッパーに投入した以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂(B2)からなる未延伸の単層フィルムを取得した。なおフィルム厚みは80μmに調整した。なおこのフィルムは延伸を行わずに、以降のサンプル取得および各種評価は実施例3と同様に行った。結果を表2に示す。
【0077】
【0078】
表2中、実施例3においては、144℃を頂点とする結晶化ピークと186℃を頂点とする結晶化ピークとが確認された。144℃がポリエステル樹脂(A)由来の結晶化温度で、186℃がポリエステル樹脂(B)由来の結晶化温度である。
比較例6においては、120℃に結晶化ピークが確認された。これは溶融押出時の熱分解により樹脂の分子量が低下したことに起因するものと推測される。
比較例7においては、185℃にポリエステル樹脂(B)由来の結晶化ピークが確認された。
【0079】
[実施例4]
乾燥したポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B1)とを実施例1に記載の組成でラボプラストミル(東洋精機社製、ローラミキサ R60)にて溶融混練することで、樹脂組成物を得た。混練温度は240℃、混練時間は3分間とした。次に、得られた樹脂を熱プレス(IMC-180C、井元製作所社製)することで200μmのシートを得た。熱プレス温度は240℃、時間は2分間とした。さらに、比較例6に記載の方法で延伸することで二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムのTcは143℃であった。得られた延伸フィルムは、高い酸素バリア性を示す。
【0080】
5.考察
表1、2に示す通り、2,5-フランジカルボン酸単位と、1,4-ブタンジオール単位を構成単位とするポリエステル樹脂(A)は、上記した結晶化温度を有さずに非晶質のまま冷却されるか(比較例1)、或いは、結晶化温度を有していたとしても当該温度が極めて低いことが分かる(比較例6)。このような場合、十分なガスバリア性は確保できない。
また、表1に示す通り、ポリエステル樹脂(A)を含む樹脂組成物において、従来公知の結晶核剤(タルクやワックス)を添加したとしても(比較例3~5)、樹脂組成物が135℃以上の範囲に結晶化ピークを有さないことが分かる。
一方、表1に示す通り、ポリエステル樹脂(A)を含む樹脂組成物において、ポリエステル樹脂(B1)を混合した場合(実施例1、2)、樹脂組成物が135℃以上の範囲に結晶化ピークを有しており、ポリエステル樹脂(A)を135℃以上の高温で結晶化させることができることが分かる。
また、表2に示す通り、ポリエステル樹脂(A)単独の場合(比較例6)、及び、ポリエステル樹脂(B2)単独の場合(比較例7)と比べて、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B2)とを双方用いた場合(実施例3)に、樹脂(A)と樹脂(B2)とが相乗的に作用して、樹脂(A)の結晶化温度が高まり、ガスバリア性が飛躍的に増大することが分かる。
【0081】
以上の通り、樹脂組成物が2,5-フランジカルボン酸単位と1,4-ブタンジオール単位とを構成単位として有するポリエステル樹脂(A)を含み、且つ、樹脂組成物が135℃以上の範囲において結晶化ピークを有する時、樹脂組成物および樹脂組成物を含むフィルムのガスバリア性が大幅に向上することが分かった。
本開示の樹脂組成物からなるフィルムやこの樹脂組成物を含む多層フィルムは、高いガスバリア性を有することから、包装用途に好適である。例えば、野菜、果物、魚、肉、惣菜、レトルト食品、お菓子、調味料、洗剤、シャンプーなどの包装用途が挙げられる。