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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173306
(43)【公開日】2022-11-18
(54)【発明の名称】システム
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/30 20060101AFI20221111BHJP
【FI】
C09K3/30 J
C09K3/30 D
C09K3/30 G
C09K3/30 R
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147313
(22)【出願日】2022-09-15
(62)【分割の表示】P 2019545644の分割
【原出願日】2018-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2017187614
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】速水 洋輝
(72)【発明者】
【氏名】福島 正人
(57)【要約】
【課題】放出性が十分であり、放出される成分の環境負荷が少ないシステムの提供。
【解決手段】1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと沸点が0℃以下の昇圧剤とを含有する組成物と、前記組成物が気相部と液相部を形成して内部に収容される容器と、前記気相部の圧力により前記液相部が前記容器の外部に放出される放出部と、を有するシステム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと沸点が0℃以下の昇圧剤とを含有する組成物と、
前記組成物が気相部と液相部を形成して内部に収容される容器と、
前記気相部の圧力により前記液相部が前記容器の外部に放出される放出部と、
を有するシステム。
【請求項2】
前記昇圧剤が、プロパン、ブタン、イソブタン、ジメチルエーテル、ヒドロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、二酸化炭素、圧縮空気、亜酸化窒素および窒素から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記昇圧剤が、二酸化炭素、圧縮空気、亜酸化窒素および窒素から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記昇圧剤が、窒素である、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記組成物の0℃における蒸気圧が大気圧より高い、請求項1~4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記組成物の35℃における前記容器内での圧力が0.8MPaG以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記組成物の全量に対する1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合は10質量%以上90質量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとからなり、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン全量に対する(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が50質量%以上99.99質量%以下である請求項1~7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記組成物の全量に対する酸分の含有量は1質量ppm未満である、請求項1~8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記組成物の全量に対する水分の含有量は20質量ppm以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射剤、噴射剤組成物および噴霧器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、噴射剤または各種薬剤を噴射剤とともに噴出する噴霧器において、噴射剤として、ヒドロフルオロカーボン(HFC)、例えば、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)が用いられていた。HFCの中でもHFC-134aは不燃であり、オゾン層への影響が少ないが、地球温暖化係数(GWP)が大きいことが知られている。
【0003】
そこで、近年、炭素-炭素二重結合を有しその結合が大気中のOHラジカルによって分解されやすいことから、オゾン層への影響が少なく、GWPが小さい、すなわち、地球環境に対して負荷が小さい、ヒドロフルオロオレフィン(HFO)、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)およびクロロフルオロオレフィン(CFO)に期待が集まっている(例えば、特許文献1参照)。本明細書においては、特に断りのない限り飽和のHFCをHFCといい、HFOとは区別して用いる。また、HFCを飽和のヒドロフルオロカーボンのように明記する場合もある。
【0004】
これらの中でも、例えば、HCFOとして、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224yd)は、地球環境に対して負荷が小さいことに加えて、低毒性であり、不燃性であるため噴射剤としての用途が期待されている。しかしながら、HCFO-1224ydの沸点は、Z体で14℃と高く、単独での使用では噴射性が十分でない点で問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-104873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記観点からなされたものであって、放出性が十分であり、放出される成分の環境負荷が少ないシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を有するシステムを提供する。
[1] 1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと沸点が0℃以下の昇圧剤とを含有する組成物と、前記組成物が気相部と液相部を形成して内部に収容される容器と、前記気相部の圧力により前記液相部が前記容器の外部に放出される放出部と、を有するシステム。
[2] 前記昇圧剤が、プロパン、ブタン、イソブタン、ジメチルエーテル、ヒドロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、二酸化炭素、圧縮空気、亜酸化窒素および窒素から選択される少なくとも1種である、[1]に記載のシステム。
[3] 前記昇圧剤が、二酸化炭素、圧縮空気、亜酸化窒素および窒素から選択される少なくとも1種である、[1]に記載のシステム。
[4] 前記昇圧剤が、窒素である、[1]に記載のシステム。
[5] 前記組成物の0℃における蒸気圧が大気圧より高い、[1]~[4]のいずれかに記載のシステム。
[6] 前記組成物の35℃における前記容器内での圧力が0.8MPaG以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のシステム。
[7] 前記組成物の全量に対する1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合は10質量%以上90質量%以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のシステム。
[8] 前記1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとからなり、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン全量に対する(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が50質量%以上99.99質量%以下である[1]~[7]のいずれかに記載のシステム。
[9] 前記組成物の全量に対する酸分の含有量は1質量ppm未満である、[1]~[8]のいずれかに記載のシステム。
[10] 前記組成物の全量に対する水分の含有量は20質量ppm以下である、[1]~[9]のいずれかに記載のシステム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、放出性が十分であり、放出される成分の環境負荷が少ないシステムが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の噴霧器の一例を示す概略構成図である。
図2図1に示す噴霧器の使用時の状態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記すが、本明細書では必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。また、略称として、ハイフン(-)より後ろの数字およびアルファベット小文字部分だけ(例えば、「HCFO-1224yd」においては「1224yd」)を用いることがある。
【0011】
また、幾何異性体を有する化合物の名称およびその略称に付けられた(E)は、E体(トランス体)を示し、(Z)はZ体(シス体)を示す。該化合物の名称、略称において、E体、Z体の明記がない場合、該名称、略称は、E体、Z体、およびE体とZ体の混合物を含む総称を意味する。
【0012】
本明細書において、「燃焼性」の有無は、以下を基準とする。
ASTM E-681-09に規定された設備を用いて、60℃±3℃、101.3kPa±0.7kPaに制御された容器内で検体と空気の混合物に対して燃焼試験を行った際に、混合物全体積に対する検体の割合が0体積%を超え100体積%までの全範囲で燃焼性を有しない場合、該検体を「燃焼性なし」とする。「不燃」の用語は「燃焼性なし」と同義に用いる。検体と空気の混合物において、いずれかの割合の混合物において燃焼性を有する場合、「燃焼性あり」または「燃焼範囲を有する」という。
【0013】
燃焼試験は、容器底部から1/3の高さに設置された電極付近において、該混合物を15kV、30mAで0.4秒間放電着火させ、火炎の広がりを目視にて確認し、上方への火炎の広がりの角度が90度以上の場合を、燃焼性を有するとし、90度未満の場合を、燃焼性を有しないとする。
【0014】
本明細書において、GWPは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(2014年)に示される、または該方法に準じて測定された100年の値である。また、混合物におけるGWPは、組成質量による加重平均とする。
本明細書において、「噴霧」とは噴霧器の内部に充填された噴射剤組成物が噴霧器の内部から外部へ液状、ガス状、固体状またはこれらの混合状態で噴出されることをいう。
本明細書において、数値範囲を表す「~」では、上下限を含む。
【0015】
以下に、図面を参照しながら本発明の噴射剤組成物を用いた本発明の噴霧器の実施形態についてまず説明する。
【0016】
[噴霧器]
本発明の噴霧器は、噴射剤組成物を収容する容器と、噴射剤組成物を容器の外部に噴出する噴霧部とを備え、噴射剤組成物として、本発明の噴射剤組成物を用いることを特徴とする。すなわち、本発明の噴霧器における構成部材としては、噴射剤組成物として本発明の噴射剤組成物を用いる以外は、従来公知の噴霧器の構成部材、例えば、容器および噴霧部等が特に制限なく使用できる。
【0017】
図1は本発明の噴霧器の一例を示す概略構成図であり、図2図1に示す噴霧器の使用時の状態を示す概略構成図である。図1において、噴霧器10は、容器1と容器1の内部に収容される噴射剤組成物Xと、噴射剤組成物Xを容器1の外部に噴出する噴霧部2を備える。図1では、噴射剤組成物Xは、1224ydと昇圧剤とを含有する噴射剤Y(YとY)と噴霧薬剤Eからなる噴射剤組成物である。本発明において噴射剤組成物は、噴射剤のみからなってもよい。
【0018】
図1において、容器1は収容部12と開口部11を有する。噴霧部2は容器1の開口部11に取り付けられ、容器1内部を密封する機能を有する。容器1内の噴射剤組成物Xは、容器1内部において気相部と液相部を形成する。気相部は気相の噴射剤Yからなり、液相部は液相の噴射剤Yと噴霧薬剤Eの混合物で構成される。噴射剤Yは、気相の噴射剤Yと液相の噴射剤Yの合計である。
【0019】
噴霧部2はボタン20と噴射口21とボタン20から容器1の底部まで伸長するノズル22を有する。噴霧器10は図1に示す状態では、密封状態である。図2に示す使用時において、噴霧部2のボタン20を押すことで、液相部がノズル22の先端から取り込まれ、ノズル22から噴霧部2内の流路を経由して噴射口21から噴出する。
【0020】
噴霧部2を用いた液相部の噴射口21からの放出は、気相の噴射剤Yを利用して行われる。図1に示す状態では、噴霧部2は、例えば、ガスケット等により流路が塞がれた状態である。そして、使用時に図2に示すようにボタン20を押すことでガスケットが下に移動して流路が開放され、気相部の圧力により液相部が噴射口21から放出される。
【0021】
図1図2において気相部に示す矢印は、気相部から液相部にかかる圧力を示す。図2において、さらに、放出される際の液相部の流れを矢印で示す。
【0022】
本発明の噴射剤組成物の0℃における蒸気圧は、容器の外の圧力、通常は大気圧より大きい。噴射剤組成物は、容器内での圧力が、高圧ガス保安法の規定内、すなわち35℃で0.8MPaG以下となるように調整されることが好ましい。なお、噴射剤組成物の蒸気圧は、通常、噴射剤の蒸気圧である。圧力単位における「G」はゲージ圧を示す。以下に本発明の噴射剤組成物について説明する。
【0023】
[噴射剤組成物]
本発明の噴射剤組成物は、噴射剤を含む。噴射剤は、1224ydと昇圧剤とを含有する。噴射剤組成物は、噴射剤のみからなってもよく、噴射剤に加えて噴霧薬剤を含有してもよい。さらには、必要に応じて、噴射剤および噴霧薬剤以外の成分(以下、「その他の成分」ともいう。)を含有してもよい。
【0024】
<噴射剤>
噴射剤は、使用環境において、噴霧器の容器内で噴射剤組成物の圧力が、容器外の圧力である大気圧より高くなるように調整する機能、すなわち、噴射性を有する成分である。噴射剤において、昇圧剤は1224ydの噴射性を補助する成分である。本明細書において、沸点は、特に断りがない限り、大気圧で、すなわち圧力が0.101MPaで、測定される値である。
【0025】
噴射性の指標として、噴射剤の0℃における蒸気圧が大気圧(=0.101MPa)より高いことが好ましい。噴射剤の0℃における蒸気圧が大気圧より高ければ、噴射剤組成物の0℃の蒸気圧を大気圧より高くすることができる。噴射剤は、液相における35℃での蒸気圧が0.8MPaG(=0.901MPa)以下であるのが好ましい。噴射剤の液相における35℃の蒸気圧が0.8MPaG以下であれば、噴射剤組成物を高圧ガス保安法の規定内とすることができる。
【0026】
噴射剤が含有する1224ydは不燃である。噴射剤は、燃焼性を有しないことが好ましいが、昇圧剤の種類および1224ydと昇圧剤の含有割合により燃焼性を有することがある。しかしながら、噴射剤が燃焼性を有する場合でも使用環境に留意することで、本発明の噴射剤組成物は問題なく使用できる。噴射剤が燃焼性を有する場合、噴射剤の燃焼熱が30MJ/kg以下であるのが好ましく、20MJ/kg以下であるのがより好ましい。
【0027】
(1224yd)
噴射剤が含有する1224yd(CF-CF=CHCl)は、燃焼性を抑えるハロゲンと、大気中のOHラジカルによって分解され易い炭素-炭素二重結合をその分子内に有する。1224ydには、互いに幾何異性体である、1224yd(Z)と1224yd(E)が存在する。1224yd(Z)の沸点は15℃であり、1224yd(E)の沸点は19℃である。GWPは、1224yd(Z)については1であり、1224yd(E)については<1である。1224yd(Z)は1224yd(E)に比べて化学的安定性が高い。
【0028】
ここで、1224ydは、分子内に塩素を有するため加工油等の有機物に対する溶解性が非常に高く、加工油の脱脂洗浄、フラックス洗浄、精密洗浄等に用いることができる。また、表面張力や粘度も低く浸透性に優れる等、洗浄剤として優れた性能を有している。したがって、1224ydは噴射剤としての機能に加えて、洗浄剤として使用できる。そのため、本発明の噴射剤組成物は、後述の噴霧薬剤を含有せずに、噴射剤のみで構成される場合においても、上記のように噴霧器から噴出させて、例えば、洗浄用途に使用できる。
【0029】
1224yd(Z)、1224yd(E)およびこれらの混合物、すなわち1224ydは不燃である。また、1224ydは、職業暴露限界値(以下、OELともいう。)が1000ppmである。なお、1224ydのOELは、OARS WEELが決定した値を用いるものとする。
【0030】
OELとは作業員の健康に基づいた、制御されるべき曝露レベルの空気中の濃度限界である。 通常、週に5日間、1日8時間の作業に対して許容できる濃度の上限値を表す。
【0031】
噴射剤における1224ydの含有割合は、噴射剤の全量に対して1~99質量%が好ましく、10~90質量%がより好ましい。噴射剤が含有する1224ydは、化学的安定性の観点から、1224yd全量に対する1224yd(Z)の含有割合が50~100質量%であるのが好ましい。80~100質量%がより好ましく、90~100質量%がさらに好ましく、99~100質量%がより一層好ましい。
【0032】
なお、1224yd(Z)の含有割合の上限値は生産効率の観点から99.99質量%が好ましい。すなわち、1224yd全量に対する1224yd(Z)の含有割合は、化学的安定性および生産効率の観点から50~99.99質量%であるのが好ましい。
【0033】
1224ydを製造する方法としては、例えば、(I)1,2-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロパン(HCFC-234bb)を脱塩化水素反応させる方法、および、(II)1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CFO-1214ya)を水素還元させる方法を挙げることができる。
【0034】
(I)234bbの脱塩化水素反応
234bbを液相中で、溶媒に溶解した塩基すなわち溶液状態の塩基と接触させ、234bbの脱塩化水素反応を行う。なお、234bbは、例えば、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)と塩素を溶媒中で反応させることにより製造する。
【0035】
(II)1214yaを水素還元させる方法
1214yaを触媒存在下、水素を用いて還元することで1234yfに変換され、その中間体として1224ydが得られる。また、この還元反応においては、1224yd以外に多種類の含フッ素化合物が副生する。1214yaは、例えば、3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225ca)等を原料として、相間移動触媒存在下にアルカリ水溶液で、またはクロム、鉄、銅、活性炭等の触媒存在下に気相反応で、脱フッ化水素反応させて製造する。
【0036】
上記したいずれの製造方法においても、1224ydは、1224yd(Z)と1224yd(E)との混合物として得られる。該混合物を公知の方法により精製して1224yd(Z)または1224yd(E)を単独で用いてもよいし、1224yd(E)と1224yd(Z)の混合物として用いてもよい。
【0037】
また、精製によって1224ydと分離しきれなかった不純物が微量に残留する場合がある。このような不純物の量は1224ydの全量に対して合計で1.5質量%未満であることが好ましい。不純物としては1224ydの製造原料、製造過程で精製する中間体等が挙げられる。ただし、製造原料、中間体のうち、後述の昇圧剤として機能する化合物は、昇圧剤として扱うものとする。
【0038】
(昇圧剤)
昇圧剤は、1224ydの噴射性を補助する成分であり、沸点が14℃未満である。昇圧剤の沸点は好ましくは0℃以下であり、-10℃以下がより好ましく、-20℃以下が特に好ましい。また、圧力降下の観点から昇圧剤の沸点は-75℃以上が好ましく、-50℃以上がより好ましい。なお、圧力降下とは、使用に際して、噴霧器の容器内で噴射剤組成物の圧力が、初期状態より降下することをいう。使用中に圧力降下が起きると噴射性が低下して、場合によっては、容器内の噴射剤組成物の一部が容器外へ噴出できなくなることがある。
【0039】
昇圧剤は、1224ydと組み合わせて噴射剤とした際に、液相において0℃の蒸気圧が大気圧より高いことが好ましい。昇圧剤は、1224ydと組み合わせて噴射剤とした際に、液相における35℃での蒸気圧が0.8MPaG以下であるのが好ましい。
【0040】
昇圧剤は不燃であることが好ましいが、燃焼性を有してもよい。昇圧剤の燃焼性は、不燃である1224ydと組み合わせて噴射剤とした際に、燃焼熱を30MJ/kg以下とできるものが好ましく、20MJ/kg以下とできるものがより好ましい。昇圧剤の燃焼熱は、例えば、50MJ/kg以下が好ましい。
【0041】
昇圧剤は、GWPおよびOELを勘案して選択される。昇圧剤のGWPは、GWPが1以下である1224ydと組み合わせて噴射剤とした際に、GWPを100以下とできるものが好ましく、50以下とできるものがより好ましく、10以下とできるものがさらに好ましい。昇圧剤のGWPは、例えば、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、10以下が特に好ましい。
【0042】
昇圧剤のOELは、OELが1000ppmである1224ydと組み合わせて噴射剤とした際に、OELを800ppm以上とできるものが好ましい。昇圧剤のOELは、例えば、500ppm以上が好ましく、800ppm以上がより好ましく、1000ppm以上が特に好ましい。
噴射剤における昇圧剤の含有割合は、噴射剤の全量に対して99~1質量%が好ましく、90~10質量%がより好ましい。
【0043】
昇圧剤として、具体的には、プロパン(沸点:-42℃)、ブタン(沸点:-1℃)、イソブタン(沸点:-12℃)、ジメチルエーテル(DME、沸点:-25℃)、ヒドロフルオロオレフィン(HFO)、ヒドロフルオロカーボン(HFC)、二酸化炭素、圧縮空気、亜酸化窒素、窒素、不活性ガス等が挙げられる。これらのうちでも、プロパン、ブタン、イソブタン、ジメチルエーテル、ヒドロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、二酸化炭素、圧縮空気、および窒素が好ましい。なお、HFOおよびHFCは沸点が15℃未満のHFOおよびHFCである。昇圧剤としては、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0044】
プロパン、ブタン、イソブタン、ジメチルエーテルについて、後述のHFOとしての1234yfおよび(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze(E))とともに、沸点、蒸気圧(0℃、35℃)GWP、燃焼熱、OEL、噴射剤としたときの温度変化による圧力変化(表中「噴射剤圧力変化」)を表1に示した。なお、噴射剤圧力変化は、温度35℃において0.4MPaGに設定した1224ydと各昇圧剤からなる噴射剤組成物の、温度0℃のときの圧力と温度35℃のときの圧力(0.4MPaG)との差を示す。噴射剤圧力変化は、0.8MPaG以下が好ましく、0.7MPaG以下がより好ましく、0.6MPaG以下がさらに好ましく、0.4MPaG以下が特に好ましく、0.3MPaG以下が最も好ましい。
【0045】
表1に示すように、プロパン、ブタン、イソブタンは、GWPが低く、OELが高い点で好ましい。また、噴射剤としたときの温度変化による圧力変化が少ない点で好ましい。1224ydと組み合せる際には、好ましくは0℃における噴射剤としての蒸気圧が大気圧を超えるように、さらに35℃における蒸気圧が0.8MPaG以下となるように組成を調整する。これらの化合物はいずれも単独での燃焼熱が高いことから、1224ydとの組成を調整して得られる噴射剤の燃焼熱を好ましくは、30MJ/kg以下、より好ましくは20MJ/kg以下とする。
【0046】
プロパンを昇圧剤として用いる場合、0℃における噴射剤としての蒸気圧が大気圧を超えるために、1224ydとプロパンの合計量に対するプロパンの割合は10質量%以上が好ましい。また、35℃における噴射剤としての蒸気圧を0.8MPaG以下とするために1224ydとプロパンの合計量に対するプロパンの割合は40質量%以下が好ましい。噴射剤としての燃焼熱を20MJ/kg以下とするために1224ydとプロパンの合計量に対するプロパンの割合は30質量%以下が好ましい。
【0047】
ブタンを昇圧剤として用いる場合、0℃における噴射剤としての蒸気圧が大気圧を超えるために、1224ydとブタンの合計量に対するブタンの割合は90質量%以上が好ましい。一方で、噴射剤としての燃焼熱を指標とすれば、これを30MJ/kg以下とするために、1224ydとブタンの合計量に対するブタンの割合は60質量%以下が好ましく、20MJ/kg以下とするために、上記割合は30質量%以下が好ましい。
【0048】
イソブタンを昇圧剤として用いる場合、0℃における噴射剤としての蒸気圧が大気圧を超えるために、1224ydとイソブタンの合計量に対するイソブタンの割合は30質量%以上が好ましい。一方で、噴射剤としての燃焼熱を指標とすれば、これを30MJ/kg以下とするために、1224ydとイソブタンの合計量に対するイソブタンの割合は60質量%以下が好ましく、20MJ/kg以下とするために、上記割合は30質量%以下が好ましい。
【0049】
DMEを昇圧剤とする場合、プロパン、ブタン、イソブタン等と同様の観点で1224ydとの組成を調整する。DMEについては、0℃における噴射剤としての蒸気圧が大気圧を超えるために、1224ydとDMEの合計量に対するDMEの割合は10質量%以上が好ましい。一方で、噴射剤としての燃焼熱を指標とすれば、これを20MJ/kg以下とするために、1224ydとDMEの合計量に対するDMEの割合は60質量%以下が好ましい。
【0050】
【表1】
【0051】
HFOは、HFCに比べてGWPが低く、概ね10未満である。HFOとして、具体的には、1234yf、1234ze、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz)が挙げられ、1234yf(沸点:-29℃、GWP:1)、1234ze(E)(沸点:-19℃、GWP:1)、1336mzz(Z)(沸点:9℃、GWP:2)が好ましい。
【0052】
HFOのうちでも、1234yf、1234ze(E)は共に燃焼範囲を有するが、GWPが1であり、1224ydより沸点が低く、噴射性の点で好ましい。1234yfは、噴射剤が0℃で大気圧を超える蒸気圧を得るために、1224ydと1234yfの合計量に対して20質量%以上の割合で用いることが好ましい。また、1224ydと1234yfの合計量に対する1234yfの割合は、燃焼性の観点から70質量%以下であることが好ましい。
【0053】
1234ze(E)については、噴射剤が0℃で大気圧を超える蒸気圧を得るために、1224ydと1234ze(E)の合計量に対して20質量%以上の割合で用いることが好ましい。また、1224ydと1234zeの合計量に対する1234zeの割合は、燃焼性の観点から80質量%以下が好ましい。
【0054】
HFCとしては、例えば、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a、沸点:-25℃)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a、沸点:-26℃)等が挙げられ、134aが好ましい。134aは、圧力降下が少なく噴射性の点で好ましい。134aは、不燃であるが、GWPが1430と高い。1224ydと組み合せることで、噴射剤としてのGWPを低くできるが、十分に低いGWPが得られる組成においては噴射性が低くなる傾向にある。
【0055】
二酸化炭素、圧縮空気、亜酸化窒素、窒素は、高圧ガス保安法の規定内とするために、通常、圧縮ガスといわれる液化させずに用いる昇圧剤である。これらは、いずれも、不燃であり、GWPが小さく、OELが大きい点では昇圧剤として好ましく使用できる。したがって、これらを使用した噴霧器においては、圧力降下の点を考慮して数回で使い切るような使用方法が好ましい。
【0056】
不活性ガスとしては、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が挙げられる。
【0057】
昇圧剤としては、噴射性の点からプロパン、DME、1234yfまたは1234ze(E)が好ましく、DME、1234yfまたは1234ze(E)がより好ましく、燃焼性の点から1234yfまたは1234ze(E)がさらに好ましい。
【0058】
(その他の成分)
本発明の噴射剤組成物が含有する噴射剤は1224ydと昇圧剤のみからなることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、1224ydを製造する際の上記不純物が挙げられる。
【0059】
噴射剤における1224ydと昇圧剤の含有割合は、昇圧剤として用いる各化合物に応じて、噴射性、GWP、燃焼性、OEL、圧力降下、温度環境による噴射性の変化量等を勘案して適宜選択され、具体的には化合物毎に上記した割合が挙げられる。
【0060】
本発明の噴射剤組成物における噴射剤の含有割合は、噴射剤組成物全量に対して20~100質量%が好ましく、30~100質量%がより好ましい。
【0061】
<噴霧薬剤>
本発明の噴射剤組成物は噴霧薬剤を含有してもよい。噴霧薬剤としては、噴霧器に噴射剤と共に使用される噴霧薬剤として従来公知の噴霧薬剤が特に限定なく使用可能である。具体的には、殺虫剤、消臭剤、潤滑剤、防錆剤、静電防止剤、極圧剤、防曇剤、浸透剤、湿潤剤、塗料、洗浄剤、化粧料、外用薬、染料、防汚剤、撥水剤、撥油剤等が挙げられる。上記噴射剤は、1224ydを含むことで、噴霧薬剤の溶解性にも優れ、潤滑剤や塗料のように、塗膜に均一性が求められる用途において好適に用いられる。
【0062】
本発明の噴射剤組成物における噴霧薬剤の含有割合は、噴射剤組成物全量に対して0~80質量%が好ましく、0~70質量%がより好ましい。通常、噴霧薬剤は、沸点が1224ydより相当に高く、噴霧器における気相部には存在しないか、存在してもごく僅かである。したがって、噴射剤組成物の蒸気圧は、噴射剤の蒸気圧と同じとして扱うことができる。
【0063】
具体的には、噴射剤組成物は、液相において0℃の蒸気圧が大気圧より高いことが好ましく、液相における35℃での蒸気圧が0.8MPaG以下であるのが好ましい。
【0064】
噴射剤組成物における燃焼熱は、30MJ/kg以下が好ましく、20MJ/kg以下が好ましい。噴射剤組成物はGWPが100以下であるのが好ましく、50以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。噴射剤組成物のOELは800ppm以上が好ましく、1000ppm以下がより好ましい。
【0065】
<任意成分>
本発明の噴射剤組成物は、さらに、安定剤等の公知の添加剤を任意に含有してもよい。安定剤は、熱および酸化に対する噴射剤や噴霧薬剤の安定性を向上させる成分である。安定剤としては、従来からハロゲン化炭化水素を含有する噴射剤組成物に用いられる公知の安定剤、例えば、耐酸化性向上剤、耐熱性向上剤、金属不活性剤等が特に制限なく採用できる。本発明に用いる噴射剤組成物においては、特に、1224ydの安定性を向上させる安定剤が好ましい。
【0066】
耐酸化性向上剤および耐熱性向上剤としては、フェノール系化合物、不飽和炭化水素基含有芳香族化合物、芳香族アミン化合物、芳香族チアジン化合物、テルペン化合物、キノン化合物、ニトロ化合物、エポキシ化合物、ラクトン化合物、オルトエステル化合物、フタル酸のモノまたはジアルカリ金属塩化合物、水酸化チオジフェニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0067】
また、金属不活性剤としては、イミダゾール化合物、チアゾール化合物、トリアゾール化合物といった複素環式窒素含有化合物や、アルキル酸ホスフェートのアミン塩またはそれらの誘導体が挙げられる。
【0068】
安定剤の含有量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、噴射剤組成物(100質量%)中、1質量ppm~10質量%が好ましく、5質量ppm~5質量%がより好ましい。
【0069】
<噴射剤組成物中の不純物>
噴霧器は、通常、製造から使用されるまで、所定の保管期間を有する。したがって、噴射剤組成物は、以下に説明する不純物が所定量以上含まれると問題となる場合がある。これら不純物は、各不純物において所定量以下とされることが好ましい。
【0070】
(酸分)
噴射剤組成物に酸分が存在すると、噴射剤や噴霧薬剤に含まれる成分の分解等、悪影響を及ぼす。噴射剤組成物における酸分は酸アルカリ滴定法による濃度として、1質量ppm未満が好ましく、0.8質量ppm以下が特に好ましい。なお、噴射剤組成物における所定の成分の濃度とは、噴射剤組成物の全量に対する該成分の含有量の質量割合を意味する。
【0071】
(水分)
噴射剤組成物に水分が混入すると、噴射剤や噴霧薬剤に含まれる成分の加水分解、容器内で発生した酸成分による材料劣化、コンタミナンツの発生等の問題が発生する。噴射剤組成物における水分含有量はカールフィッシャー電量滴定法により測定される水分含有量として、噴射剤組成物の全量に対して、20質量ppm以下が好ましく、15質量ppm以下が特に好ましい。
【0072】
(空気)
噴射剤組成物に空気(窒素:約80体積%、酸素:約20体積%)が混入すると、その性能に悪影響をおよぼすことから、空気の混入を極力抑制する必要がある。特に、空気中の酸素は、噴射剤成分と反応し、その分解を促進する。噴射剤組成物における空気濃度はガスクロマトグラムにより測定される空気濃度として、15000質量ppm未満が好ましく、8000質量ppm以下が特に好ましい。
【0073】
なお、本発明は、以下の態様を含む。
[1] 1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224yd)と昇圧剤とを含有する噴射剤を含む噴射剤組成物。
[2] 前記昇圧剤が、プロパン、ブタン、イソブタン、ジメチルエーテル、ヒドロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、二酸化炭素、圧縮空気、亜酸化窒素および窒素から選択される少なくとも1種である、[1]の噴射剤組成物。
[3] さらに、噴霧薬剤を含有する[1]または[2]の噴射剤組成物。
[4] 前記噴射剤組成物の0℃における蒸気圧が大気圧より高い、[1]~[3]のいずれかの噴射剤組成物。
[5] 前記噴射剤の全量に対する前記1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合は10質量%以上90質量%以下である、[1]~[4]のいずれかの噴射剤組成物。
[6] 前記1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなり、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン全量に対する(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が50質量%以上99.99質量%以下である[1]~[5]のいずれかの噴射剤組成物。
[7] [1]~[6]のいずれかの噴射剤組成物と、前記噴射剤組成物を収容する容器と、前記噴射剤組成物を前記容器の外部に噴出する噴霧部とを備える噴霧器。
[8] 1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224yd)と昇圧剤とを含有する噴射剤。
[9] 前記昇圧剤が、プロパン、ブタン、イソブタン、ジメチルエーテル、ヒドロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロカーボン、二酸化炭素、圧縮空気、亜酸化窒素および窒素から選択される少なくとも1種である、[8]の噴射剤。
[10] 前記噴射剤の全量に対する前記1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合は10質量%以上90質量%以下である、[8]または[9]の噴射剤。
【0074】
以上、本発明の噴霧器および噴射剤組成物の実施形態について説明したが本発明の噴霧器および噴射剤組成物は上記実施形態に限定されるものではない。これらの実施形態を、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、変更または変形することができる。
【実施例0075】
以下に本発明の実施例を説明する。なお、本明細書において、噴射剤の蒸気圧は、1224ydは、Akasaka, R.,Fukushima,M., Lemmon, E. W., "A Helmholtz Energy Equation of State for cis-1-chloro-2,3,3,3-tetrafluoropropene (R-1224yd(Z))", European Conference on Thermophysical Properties, Graz, Austria, September 3-8, 2017.に記載された物性値、1224yd以外の化合物は、NIST(アメリカ国立標準技術研究所)のREFPROP ver.9.1の物性値に基づきREFPROP ver.9.1にて算出した値である。
【0076】
[例1]
1224yd(Z)とプロパンを表2に示す割合で混合した噴射剤について、0℃、25℃、35℃における蒸気圧[MPa]および燃焼熱[MJ/kg]を算出した。結果を表2に示す。表2から、以下のことがわかる。
【0077】
0℃における噴射剤としての蒸気圧が大気圧を超えるために、1224ydとプロパンの合計量に対するプロパンの割合は10質量%以上が好ましい。また、35℃における噴射剤としての蒸気圧を0.8MPaG以下とするために1224ydとプロパンの合計量に対するプロパンの割合は40質量%以下が好ましい。噴射剤としての燃焼熱を20MJ/kg以下とするために1224ydとプロパンの合計量に対するプロパンの割合は30質量%以下が好ましい。
【0078】
【表2】
【0079】
[例2]
1224yd(Z)とブタンを表3に示す割合で混合した噴射剤について、0℃、25℃、35℃における蒸気圧[MPa]および燃焼熱[MJ/kg]を算出した。結果を表3に示す。表3から、以下のことがわかる。
【0080】
0℃における噴射剤としての蒸気圧が大気圧を超えるために、1224ydとブタンの合計量に対するブタンの割合は90質量%超が好ましい。一方で、噴射剤としての燃焼熱を指標とすれば、これを30MJ/kg以下とするために、1224ydとブタンの合計量に対するブタンの割合は60質量%以下が好ましく、20MJ/kg以下とするために、上記割合は30質量%以下が好ましい。
【0081】
【表3】
【0082】
[例3]
1224yd(Z)とイソブタンを表4に示す割合で混合した噴射剤について、0℃、25℃、35℃における蒸気圧[MPa]および燃焼熱[MJ/kg]を算出した。結果を表4に示す。表4から、以下のことがわかる。
【0083】
0℃における噴射剤としての蒸気圧が大気圧を超えるために、1224ydとイソブタンの合計量に対するイソブタンの割合は30質量%以上が好ましい。一方で、噴射剤としての燃焼熱を指標とすれば、これを30MJ/kg以下とするために、1224ydとイソブタンの合計量に対するイソブタンの割合は60質量%以下が好ましく、20MJ/kg以下とするために、上記割合は30質量%以下が好ましい。
【0084】
【表4】
【0085】
[例4]
1224yd(Z)とDMEを表5に示す割合で混合した噴射剤について、0℃、25℃、35℃における蒸気圧[MPa]および燃焼熱[MJ/kg]を算出した。結果を表5に示す。表5から、以下のことがわかる。
【0086】
0℃における噴射剤としての蒸気圧が大気圧を超えるために、1224ydとDMEの合計量に対するDMEの割合は10質量%以上が好ましい。一方で、噴射剤としての燃焼熱を指標とすれば、これを20MJ/kg以下とするために、1224ydとDMEの合計量に対するDMEの割合は60質量%以下が好ましい。
【0087】
【表5】
【0088】
[例5]
1224yd(Z)と1234yfを表6に示す割合で混合した噴射剤について、0℃、25℃、35℃における蒸気圧[MPa]および燃焼熱[MJ/kg]を算出した。結果を表6に示す。表6から、以下のことがわかる。
【0089】
1234yfは、噴射剤が0℃で大気圧を超える蒸気圧を得るために、1224ydと1234yfの合計量に対して20質量%以上の割合で用いることが好ましい。
【0090】
【表6】
【0091】
[例6]
1224yd(Z)と1234ze(E)を表7に示す割合で混合した噴射剤について、0℃、25℃、35℃における蒸気圧[MPa]および燃焼熱[MJ/kg]を算出した。結果を表6に示す。表6から、以下のことがわかる。
【0092】
1234ze(E)については、噴射剤が0℃で大気圧を超える蒸気圧を得るために、1224ydと1234ze(E)の合計量に対して20質量%以上の割合で用いることが好ましい。
【0093】
【表7】
【0094】
[例7]
プロパン、DME、1234yfおよび1234ze(E)について、1224yd(Z)と混合して、35℃における蒸気圧[MPaG]を0.7に調整し、その組成における0℃の蒸気圧[MPaG]を求めた。0℃と35℃における蒸気圧の差を、調整蒸気圧0.7[MPaG]における圧力変化とした。同様にして、調整蒸気圧0.6~0.3[MPaG]における0℃と35℃における蒸気圧の差を、圧力変化として求めた。結果を表8に示す。表中空欄は、調整蒸気圧が達成できない場合を示す。
【0095】
【表8】
【0096】
表8の結果から、プロパンは1224yd(Z)との混合物において、温度変化による圧力変化が小さいことがわかる。
【符号の説明】
【0097】
10…噴霧器、1…容器、11…開口部、12…収容部
2…噴霧部、20…ボタン、21…噴射口、22…ノズル、
G…噴射剤気相部、L…噴射剤液相部、E…噴霧薬剤
図1
図2