(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173307
(43)【公開日】2022-11-18
(54)【発明の名称】溶射材料、溶射部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/04 20060101AFI20221111BHJP
【FI】
C23C4/04
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147497
(22)【出願日】2022-09-16
(62)【分割の表示】P 2019080045の分割
【原出願日】2019-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2018095947
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 康
(57)【要約】
【解決手段】(A)希土類フッ化物の粒子と、(B)希土類酸化物、希土類水酸化物及び希土類炭酸塩から選ばれる1種又は2種以上の希土類化合物の粒子とが固結した複合粒子である溶射材料。
【効果】本発明の溶射材料を用いることにより、基材上に、プロセスシフトや、パーティクルの発生が少ない希土類酸フッ化物を含む溶射層を、プラズマ溶射により、安定して形成することができる。この溶射層を備える溶射部材は、ハロゲン系ガスプラズマに対する耐食性に優れている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)希土類フッ化物の粒子と、(B)希土類酸化物、希土類水酸化物及び希土類炭酸塩から選ばれる1種又は2種以上の希土類化合物の粒子とが固結した複合粒子であることを特徴とする溶射材料。
【請求項2】
(A)粒子と(B)粒子との合計において、(B)粒子が5質量%以上40質量%以下、(A)粒子が残部であることを特徴とする請求項1記載の溶射材料。
【請求項3】
(A)粒子と(B)粒子との合計に対し、希土類有機化合物及び有機高分子化合物から選ばれる有機バインダーを0.05質量%以上3質量%以下の割合で含有することを特徴とする請求項1又は2記載の溶射材料。
【請求項4】
水分含有率が2質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の溶射材料。
【請求項5】
平均粒径が、10μm以上60μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の溶射材料。
【請求項6】
比表面積が、1.5m2/g以上5m2/g以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の溶射材料。
【請求項7】
嵩密度が、0.8g/cm3以上1.4g/cm3以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の溶射材料。
【請求項8】
希土類元素が、Y及びLaからLuまでの第3族元素から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の溶射材料。
【請求項9】
基材上に、溶射膜を備え、該溶射膜が請求項1乃至8のいずれか1項記載の溶射材料を用いてプラズマ溶射により形成した溶射層を含むことを特徴とする溶射部材。
【請求項10】
基材上に、溶射膜を備え、該溶射膜が、下地層と、請求項1乃至8のいずれか1項記載の溶射材料を用いて大気プラズマ溶射により成膜した溶射層とを含み、該溶射層が、少なくとも最表層を構成していることを特徴とする溶射部材。
【請求項11】
上記下地層が、単層又は複数層で構成され、各々の層が、希土類フッ化物層及び希土類酸化物層から選ばれることを特徴とする請求項10記載の溶射部材。
【請求項12】
上記溶射層の厚さが、150μm以上350μm以下であることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項記載の溶射部材。
【請求項13】
上記溶射層が、希土類酸フッ化物の相を主相として含み、かつ希土類酸フッ化物以外の希土類化合物の相を副相として含むことを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項記載の溶射部材。
【請求項14】
上記主相として含まれる希土類酸フッ化物が、Re5O4F7(ReはYを含む希土類元素を表す。)であることを特徴とする請求項13記載の溶射部材。
【請求項15】
上記希土類酸フッ化物以外の希土類化合物が、希土類酸化物及び希土類フッ化物の双方を含むことを特徴とする請求項13又は14記載の溶射部材。
【請求項16】
上記溶射層の200℃の体積抵抗率に対する23℃の体積抵抗率の比が、0.1以上30以下であることを特徴とする請求項9乃至15のいずれか1項記載の溶射部材。
【請求項17】
希土類元素が、Y及びLaからLuまでの第3族元素から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項9乃至16のいずれか1項記載の溶射部材。
【請求項18】
基材上に、請求項1乃至8のいずれか1項記載の溶射材料を用いて大気プラズマ溶射により溶射層を形成する工程を含むことを特徴とする溶射部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造におけるエッチング工程などにおいてハロゲン系ガスプラズマ雰囲気に曝される部材などとして好適な溶射部材及びその製造方法並びに溶射部材の製造に好適な溶射材料に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造においては、エッチング工程(エッチャー工程)において、腐食性が高いハロゲン系ガスプラズマ雰囲気で処理される。金属アルミニウム又は酸化アルミニウムなどのセラミックスの表面に、酸化イットリウム(特許文献1:特開2002-080954号公報、特許文献2:特開2007-308794号公報)や、フッ化イットリウム(特許文献3:特開2002-115040号公報、特許文献4:特開2004-197181号公報)を大気圧プラズマ溶射することで、これらの膜を成膜した部材が、耐腐食性に優れたものとなることが知られており、エッチング装置(エッチャー)のハロゲン系ガスプラズマに触れる部分には、そのような溶射部材が採用されている。半導体製品の製造工程で用いられるハロゲン系腐食ガスには、フッ素系ガスとしては、SF6、CF4、CHF3、ClF3、HFなどが、また、塩素系ガスとしては、Cl2、BCl3、HClなどが用いられる。
【0003】
酸化イットリウムをプラズマ溶射して製造する酸化イットリウム成膜部材は、技術的な問題が少なく、早くから半導体用溶射部材として実用化されている。しかし、酸化イットリウムの成膜部材には、エッチング工程のプロセス初期に、最表面の酸化イットリウムがフッ化物に反応し、エッチング装置内のフッ素ガス濃度が変化して、エッチング工程が安定しないという問題がある。この問題は、プロセスシフトと呼ばれる。
【0004】
この問題に対応するため、フッ化イットリウムの成膜部材を採用することが検討されている。しかし、フッ化イットリウムは、酸化イットリウムと比べて、僅かながらハロゲン系ガスプラズマ雰囲気での耐食性が低い傾向にある。また、フッ化イットリウム溶射膜は酸化イットリウム溶射膜と比べて、表面のヒビが多く、パーティクルの発生が多いという問題もある。
【0005】
そこで、溶射材料として、酸化イットリウムとフッ化イットリウムの両方の性質をもつオキシフッ化イットリウムが着目され、近年では、オキシフッ化イットリウムを用いる検討がなされ始めている(特許文献5:特開2014-009361号公報)。しかし、オキシフッ化イットリウム成膜部材は、オキシフッ化イットリウムを溶射材料として大気プラズマ溶射する際、酸化によってフッ素が減少し酸素が増加し、組成がずれて、酸化イットリウムを生成してしまうため、溶射膜をオキシフッ化イットリウムとして安定して成膜することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-080954号公報
【特許文献2】特開2007-308794号公報
【特許文献3】特開2002-115040号公報
【特許文献4】特開2004-197181号公報
【特許文献5】特開2014-009361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、酸化イットリウムやフッ化イットリウムと比べて、プロセスシフトや、パーティクルの発生が少ない希土類酸フッ化物を含む溶射層を得るため、プラズマ溶射で希土類酸フッ化物を含む溶射層を安定して成膜できる溶射材料、プラズマ溶射により好適に製造される溶射部材、及び溶射部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、希土類フッ化物の粒子と、希土類酸化物、希土類水酸化物及び希土類炭酸塩から選ばれる1種又は2種以上の希土類化合物の粒子とが固結した複合粒子を溶射材料として、プラズマ溶射により溶射層を形成することにより、プロセスシフトや、パーティクルの発生が少ない希土類酸フッ化物を含む溶射層を安定して形成することができ、希土類酸フッ化物を主相として含み、ハロゲン系ガスプラズマに対する耐食性に優れた溶射層を基材上に形成した溶射部材を得ることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記の溶射材料、溶射部材及びその製造方法を提供する。
1.(A)希土類フッ化物の粒子と、(B)希土類酸化物、希土類水酸化物及び希土類炭酸塩から選ばれる1種又は2種以上の希土類化合物の粒子とが固結した複合粒子であることを特徴とする溶射材料。
2.(A)粒子と(B)粒子との合計において、(B)粒子が5質量%以上40質量%以下、(A)粒子が残部であることを特徴とする1記載の溶射材料。
3.(A)粒子と(B)粒子との合計に対し、希土類有機化合物及び有機高分子化合物から選ばれる有機バインダーを0.05質量%以上3質量%以下の割合で含有することを特徴とする1又は2記載の溶射材料。
4.水分含有率が2質量%以下であることを特徴とする1乃至3のいずれかに記載の溶射材料。
5.平均粒径が、10μm以上60μm以下であることを特徴とする1乃至4のいずれかに記載の溶射材料。
6.比表面積が、1.5m2/g以上5m2/g以下であることを特徴とする1乃至5のいずれかに記載の溶射材料。
7.嵩密度が、0.8g/cm3以上1.4g/cm3以下であることを特徴とする1乃至6のいずれかに記載の溶射材料。
8.希土類元素が、Y及びLaからLuまでの第3族元素から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする1乃至7のいずれかに記載の溶射材料。
9.基材上に、溶射膜を備え、該溶射膜が1乃至8のいずれかに記載の溶射材料を用いてプラズマ溶射により形成した溶射層を含むことを特徴とする溶射部材。
10.基材上に、溶射膜を備え、該溶射膜が、下地層と、1乃至8のいずれかに記載の溶射材料を用いて大気プラズマ溶射により成膜した溶射層とを含み、該溶射層が、少なくとも最表層を構成していることを特徴とする溶射部材。
11.上記下地層が、単層又は複数層で構成され、各々の層が、希土類フッ化物層及び希土類酸化物層から選ばれることを特徴とする10記載の溶射部材。
12.上記溶射層の厚さが、150μm以上350μm以下であることを特徴とする9乃至11のいずれかに記載の溶射部材。
13.上記溶射層が、希土類酸フッ化物の相を主相として含み、かつ希土類酸フッ化物以外の希土類化合物の相を副相として含むことを特徴とする9乃至12のいずれかに記載の溶射部材。
14.上記主相として含まれる希土類酸フッ化物が、Re5O4F7(ReはYを含む希土類元素を表す。)であることを特徴とする13記載の溶射部材。
15.上記希土類酸フッ化物以外の希土類化合物が、希土類酸化物及び希土類フッ化物の双方を含むことを特徴とする13又は14記載の溶射部材。
16.上記溶射層の200℃の体積抵抗率に対する23℃の体積抵抗率の比が、0.1以上30以下であることを特徴とする9乃至15のいずれかに記載の溶射部材。
17.希土類元素が、Y及びLaからLuまでの第3族元素から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする9乃至16のいずれかに記載の溶射部材。
18.基材上に、1乃至8のいずれかに記載の溶射材料を用いて大気プラズマ溶射により溶射層を形成する工程を含むことを特徴とする溶射部材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の溶射材料を用いることにより、基材上に、プロセスシフトや、パーティクルの発生が少ない希土類酸フッ化物を含む溶射層を、プラズマ溶射により、安定して形成することができる。この溶射層を備える溶射部材は、ハロゲン系ガスプラズマに対する耐食性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例2で得られた溶射材料の粒度分布を示すグラフである。
【
図2】実施例2で得られた溶射材料の走査型電子顕微鏡の観察像である。
【
図3】実施例2で得られた溶射材料のXRDプロファイルを示す図である。
【
図4】比較例1で得られた溶射材料のXRDプロファイルを示す図である。
【
図5】比較例2で得られた溶射材料のXRDプロファイルを示す図である。
【
図6】(A)及び(B)は、実施例2で得られた溶射材料を用いて形成した溶射層の気孔率の測定に用いた反射電子組成画像である。
【
図7】実施例2で得られた溶射材料を用いて形成した溶射層のXRDプロファイルを示す図である。
【
図8】比較例1で得られた溶射材料を用いて形成した溶射層のXRDプロファイルを示す図である。
【
図9】比較例2で得られた溶射材料を用いて形成した溶射層のXRDプロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。なお、本発明において、溶射層は、本発明の溶射材料により形成した層を示す。一方、溶射膜には、本発明の溶射材料により形成した層のみからなる膜、及び下地層と、本発明の溶射材料により形成した層とからなる膜の双方が含まれる。
【0013】
本発明の溶射材料は、希土類フッ化物の粒子(以下、(A)粒子ということがある。)と、希土類酸化物、希土類水酸化物及び希土類炭酸塩から選ばれる1種又は2種以上の希土類化合物の粒子(以下、(B)粒子ということがある。)とが固結した複合粒子である。この複合粒子は、(A)粒子と(B)粒子の混合物であり、例えば、(A)粒子と(B)粒子を、必要に応じて他の成分(後述する(C)粒子、有機バインダー、溶媒など)を添加して混合し、必要に応じて圧縮、乾燥することにより、粒子同士を固体同士で接合(固結)させて一体化することにより得ることができる。粒子同士を接合させた後は、必要に応じて、粉砕し、分級して、所定の平均粒径の粒子として用いることができる。
【0014】
複合粒子中、(A)粒子と(B)粒子との合計において、(B)粒子が5質量%以上、特に10質量%以上で、40質量%以下、特に25質量%以下、とりわけ20質量%以下であることが好ましく、残部が(A)粒子であることが好ましい。複合粒子中、本発明の目的を損なわない程度であれば、(A)粒子の成分及び(B)粒子の成分以外の無機希土類化合物の粒子((C)粒子)が含まれていてもよいが、複合粒子中、無機希土類化合物の粒子は、(A)粒子及び(B)粒子のみで構成されていることがより好ましい。
【0015】
(A)粒子、即ち、希土類フッ化物(具体的にはReF3など(ReはYを含む希土類元素を表す。以下同じ。))の粒子は、従来公知の方法で製造されたものを用いることができ、例えば、希土類酸化物粉末と、希土類酸化物に対して1.1当量以上の酸性フッ化アンモニウム粉末とを混合し、窒素ガス雰囲気などの酸素のない雰囲気下で、300~800℃で、1時間以上10時間以下焼成することにより製造することができる。
【0016】
(B)粒子、即ち、希土類酸化物(具体的にはRe2O3など)、希土類水酸化物(具体的にはRe(OH)3など)及び希土類炭酸塩の粒子、及び(C)粒子は、いずれも、従来公知の方法で製造されたものを用いることができる。希土類炭酸塩は、正塩(正炭酸塩、具体的にはReCO3など)でも、塩基性塩(塩基性炭酸塩、具体的にはReCO2(OH)など)でもよい。
【0017】
希土類酸化物は、例えば、予め80℃以上にした希土類硝酸塩水溶液に、尿素を投入し、生成した希土類塩基性炭酸塩を、ろ過、水洗した後に、大気中、600~1,000℃で焼成することにより製造することができる。希土類水酸化物は、例えば、室温の希土類硝酸塩水溶液に、アンモニウム水溶液を投入し、生成した希土類水酸化物を、ろ過、水洗、乾燥することにより製造することができる。希土類正炭酸塩は、例えば、室温の希土類硝酸塩水溶液に、重炭酸アンモニウム水溶液を投入し、生成した希土類正炭酸塩を、ろ過、水洗、乾燥することにより製造することができる。希土類塩基性炭酸塩は、例えば、予め80℃以上にした希土類硝酸塩水溶液に、尿素を投入し、生成した希土類塩基性炭酸塩を、ろ過、水洗、乾燥することにより製造することができる。
【0018】
(A)粒子、(B)粒子及び(C)粒子は、いずれも、市販品を用いてもよい。(A)粒子、(B)粒子及び(C)粒子は、いずれも、必要に応じて、ジェットミルなどで粉砕し、空気分級などで分級して、所定の平均粒径の粒子として用いることができる。(A)粒子、即ち、希土類フッ化物の粒子の平均粒径は、0.1μm以上、特に0.5μm以上で、2μm以下、特に1.5μm以下であることが好ましい。本発明において、粒子の粒度分布は、レーザー回折法により、D10、D50(メジアン径)、D90などとして測定できるが、本発明において、粒子の平均粒径は、レーザー回折法による体積基準のD50(メジアン径)を適用することができる。また、希土類フッ化物の粒子の比表面積(BET比表面積)は、1m2/g以上30m2/g以下であることが好ましい。
【0019】
一方、(B)粒子、即ち、希土類酸化物、希土類水酸化物及び希土類炭酸塩の粒子、及び(C)粒子は、各々、平均粒径は、0.01μm以上、特に0.02μm以上で、1.5μm以下、特に0.2μm以下であることが好ましく、比表面積(BET比表面積)は、1m2/g以上30m2/g以下であることが好ましい。
【0020】
複合粒子は、有機バインダーとして、希土類有機化合物及び有機高分子化合物から選ばれる1種以上を含有していることが好ましい。有機バインダーは、粒子間に介在して、粒子同士をより強固に接合することができる結合剤として作用するものが好ましい。複合粒子中、有機バインダーの含有率は、(A)粒子と(B)粒子との合計、(C)粒子を含んでいる場合は、好ましくは(A)粒子と(B)粒子と(C)粒子との合計に対し、0.05質量%以上で、3質量%以下、特に2.5質量%以下の割合で含有していることが好ましい。有機バインダーは、プラズマ溶射中に分解するが、その炭素の一部を溶射層に残留させることができることから、溶射層に導電性を高めたい場合には、含有率を高く、絶縁性を高めたい場合には、含有率を低くするのがよい。希土類有機化合物としては、例えば、希土類酢酸塩、希土類オクチル酸塩などの希土類カルボン酸塩、希土類アセチルアセトナートなどのケトン類などが挙げられる。有機高分子化合物としてはポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、アクリル酸系バインダーなどが挙げられ、水溶性の化合物が好ましい。また、粒子同士を接合させるためには、粒子の混合時に、水、有機溶媒などの溶媒(液体)を添加することもできる。
【0021】
複合粒子は、造粒法(一般に、小粒径の粒子を集合させて大粒径の粒子を直接形成する方法)により得ることもでき、このような方法としては、例えば、(A)粒子と(B)粒子と溶媒(液体)を、必要に応じて他の成分((C)粒子、有機バインダーなど)を添加して混合し、得られたスラリーからスプレードライ法により粒子を得る方法などが挙げられる。スラリーの溶媒としては、水、有機溶媒などを用いることができるが、水を用いることが好ましい。スラリーは、溶媒以外((A)粒子、(B)粒子、必要に応じて添加される他の成分((C)粒子、有機バインダーなど))が、例えば20~35質量%となるように調製すればよい。有機バインダーは、この場合も、スラリーに、(A)粒子と(B)粒子との合計、(C)粒子を含んでいる場合は、(A)粒子と(B)粒子と(C)粒子との合計に対し、0.05質量%以上、特に0.1質量%以上で、3質量%以下、特に2.5質量%以下の割合で添加すればよい。
【0022】
溶射材料(複合粒子)には、原料である(A)粒子、(B)粒子及び(C)粒子由来の水分が含まれることがある。また、溶媒として水を用いて、スラリーからスプレードライ法により複合粒子を得た場合、スラリー由来の水分が含まれる場合もある。溶射材料中の水分含有率は2質量%(20,000ppm)以下、特に1質量%(10,000ppm)以下であることが好ましい。溶射材料は、水分が全く含まれていないものであってもよいが、本発明の複合粒子及びその製造に好適な上述したような方法の特性上、溶射材料中、0.1質量%(1,000ppm)以上、特に0.3質量%(3,000ppm)以上の含有率で水分を含むことが通常である。
【0023】
本発明の溶射材料(複合粒子)の平均粒径は、10μm以上、特に15μm以上で、60μm以下、特に45μm以下であることが好ましい。また、溶射材料(複合粒子)の比表面積(BET比表面積)は、1.5m2/g以上、特に2m2/g以上で、5m2/g以下、特に3.5m2/g以下であることが好ましい。更に、溶射材料(複合粒子)の嵩密度は、1.4g/cm3以下、特に1.3g/cm3以下であることが好ましく、また、0.7g/cm3以上、特に0.8g/cm3以上であることが好ましい。
【0024】
本発明の溶射材料を構成する各成分において、希土類(元素)は、Y及びLaからLuまでの第3族元素から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。これらの希土類元素のなかでも、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、希土類元素として、イットリウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム及びイッテルビウムのいずれかを含むこと、特に、希土類元素が、イットリウムのみ、又は主成分(例えば90モル%以上)であるイットリウムと、残部のイッテルビウム又はルテチウムとで構成されていることが好ましい。
【0025】
本発明の溶射材料は、プラズマ溶射、特に、大気雰囲気下でプラズマを形成する大気プラズマ溶射に好適に用いられる。本発明の溶射材料から、プラズマ溶射により、希土類酸フッ化物を主相とする溶射層を安定して形成することができる。希土類フッ化物と、希土類酸化物、希土類水酸化物及び希土類炭酸塩から選ばれる1種又は2種以上とを含む溶射材料を用いることにより、希土類フッ化物の酸化により、希土類酸フッ化物の相を主相とする溶射層を形成することができる。例えば、大気プラズマ溶射すると、溶射材料を構成する希土類化合物の酸素濃度(酸素含有率)が増える一方、フッ素濃度(フッ素含有率)は減少し、希土類フッ化物から希土類酸フッ化物の生成が優位に進行する。このような理由から、希土類酸フッ化物の相を主相とする溶射層を形成するための溶射材料として、本発明の溶射材料は有利である。
【0026】
本発明の溶射材料は、これを用いて大気プラズマ溶射などのプラズマ溶射により形成される溶射層の特性、例えば、耐食性の観点から、溶射材料を構成する原料成分の粒子が混合したままの状態、具体的には、原料成分間の反応による他の化合物の生成が、実質的に起こっていない状態であることが有効である。例えば、(A)粒子と(B)粒子とを混合して、高温で加熱すると、(A)粒子の成分と(B)粒子の成分とが反応して、粒子同士が接している部分から希土類酸フッ化物が生成してしまう。この観点から、本発明の溶射材料における複合粒子は、希土類酸フッ化物(例えば、ReOF、Re5O4F7、Re7O6F9など)を含有しないことが好ましく、本発明の溶射材料は、(A)粒子と(B)粒子とが、各々、混合前の粒子の成分が実質的に変質せずに維持されていることが好ましい。そのため、本発明の溶射材料は、(A)粒子と(B)粒子との混合後に300℃以上、好ましくは180℃以上の温度に曝される熱履歴を経ていないものであることが好ましい。
【0027】
本発明の溶射材料を用いて、基材上に、溶射膜を備える溶射部材を製造することができる。基材としては、半導体製造装置用部材などを構成するアルミニウム、ニッケル、クロム、亜鉛、それらの合金、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、石英ガラスなどが挙げられる。
【0028】
本発明においては、溶射膜を単層又は複数層(好ましくは2層又は3層)で構成し、その1層以上を本発明の溶射材料を用いて、プラズマ溶射、好ましくは大気プラズマ溶射により形成した溶射層とすることが好ましい。この溶射層の厚さは、単層の場合はその厚さ、複数層の場合は合計の厚さが、150μm以上、特に180μm以上で、350μm以下、特に320μm以下であることが好ましい。本発明の溶射材料を用いて形成した溶射層は、単層又は複数層で構成された溶射膜の少なくとも最表層を構成していること、換言すれば、溶射膜が単層の場合は、その単層が、溶射膜が複数層の場合は、少なくとも基板から最も離間する側の層が本発明の溶射材料を用いて形成した溶射層であることが好ましい。
【0029】
溶射膜が複数層の場合は、本発明の溶射材料を用いて形成した溶射層以外の層として、該層と基材との間に形成された下地層を含んでいてもよい。下地層は、単層で構成しても、複数層(好ましくは2層)で構成してもよい。下地層の厚さは、単層又は複数層を構成する各々の層が、50μm以上、特に70μm以上で、250μm以下、特に150μm以下であることが好ましく。下地層と溶射層との合計の厚さが、150μm以上、特に180μm以上で、500μm以下、特に350μm以下であることが好ましい。下地層を構成する各々の層は、希土類フッ化物層又は希土類酸化物層とすることが好ましい。このような下地層は、希土類フッ化物や希土類酸化物を用いた大気プラズマ溶射などのプラズマ溶射により形成することができる。
【0030】
プラズマガスとしては、アルゴンガス、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガスから選択される1種の単体ガス又は2種以上を組み合わせた混合ガスであることが好ましく、アルゴンガス/水素ガス/ヘリウムガス/窒素ガスの4種の混合ガス、アルゴンガス/水素ガス/窒素ガスなどの3種の混合ガス、窒素ガス/水素ガス、アルゴンガス/水素ガス、アルゴンガス/ヘリウムガス、アルゴンガス/窒素ガスなどの2種の混合ガス、アルゴンガス、窒素ガスなどの単体ガスなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0031】
溶射の雰囲気、即ち、プラズマを取り囲む雰囲気は、酸素を含有するガスを含む雰囲気とすることが好ましい。酸素を含有するガスを含む雰囲気としては、酸素ガス雰囲気、酸素ガスと、アルゴンガスなどの希ガス及び/又は窒素ガスとの混合ガス雰囲気などが挙げられ、典型的には、大気雰囲気が挙げられる。また、大気雰囲気は、大気と、アルゴンガスなどの希ガス及び/又は窒素ガスとの混合ガス雰囲気であってもよい。大気プラズマ溶射において、プラズマが形成される場の圧力は、大気圧下などの常圧の他、加圧下、減圧下であってもよいが、半導体製造装置用の溶射部材の製造においては、常圧プラズマ溶射又は減圧プラズマ溶射で実施されることが好ましい。
【0032】
プラズマ溶射における、溶射距離、電流値、電圧値、ガス種類、ガス供給量などの溶射条件に、特に制限はなく、従来公知の条件を適用することができ、基材、溶射材料、得られる溶射部材の用途などに応じて、適宜設定すればよい。溶射の具体的方法を説明するとまず、粉末供給装置にパウダー、即ち、複合粒子である溶射材料を充填し、パウダーホースを用いてキャリアガス(アルゴンガスなど)により、プラズマ溶射ガン先端部まで溶射材料を供給する。プラズマ炎の中に溶射材料を連続供給することで、溶射材料が溶融して液化し、プラズマジェットの力で液状フレーム化する。そして、基板に液状フレームを接触させることにより、溶融した溶射材料が、基材表面に付着し、固化して堆積する。この原理で、溶射膜(下地層、溶射層)は、自動機械(ロボット)や人間の手を使って、液化フレームを基材表面に沿って左右又は上下に動かしながら、基板表面上の所定の範囲を走査することによって形成することができる。
【0033】
本発明の溶射材料を用いたプラズマ溶射により、希土類酸フッ化物、特に、Re5O4F7で表される希土類酸フッ化物の相を主相として含み、かつ希土類酸フッ化物以外の希土類化合物の相を副相として含む溶射層を形成することができ、基材上に、このような溶射層を含む溶射膜を備える溶射部材を製造することができる。本発明の溶射材料を用いたプラズマ溶射により形成される溶射層は、更に、Re7O6F9で表される希土類酸フッ化物を副相として含んでいてもよい。また、本発明の溶射材料を用いたプラズマ溶射により形成される溶射層には、ReOFで表される希土類酸フッ化物は、副相として少量含まれていてもよいが、ReOFは含まれていない方がよい。一方、希土類酸フッ化物以外の希土類化合物としては、希土類酸化物及び希土類フッ化物の一方又は双方、特に、希土類酸化物及び希土類フッ化物の双方を含むことが好ましい。
【0034】
本発明の溶射材料を用いたプラズマ溶射により形成される溶射層における主相は、X線回折(XRD)分析により測定される最も高いピークが属する相とし、それ以外の相を副相とする。特に、X線回折(XRD)分析により測定される、溶射層を構成する結晶相の各相のメインピーク(最大ピーク)の強度の和に対して、主相のメインピークの強度が50%以上、特に60%以上であることが好ましい。X線回折(XRD)分析の特性X線としては、一般に、CuKα線が用いられる。
【0035】
本発明の溶射材料を用いたプラズマ溶射により溶射層を形成することにより、気孔率が4体積%以下、特に2体積%以下の緻密な溶射層を得ることができる。また、本発明の溶射材料を用いたプラズマ溶射により溶射層を形成することにより、表面硬度(ビッカース硬度)が270HV以上、特に330HV以上の高硬度の溶射層を得ることができる。なお、希土類酸フッ化物の相を主相として含む溶射層の表面硬度(ビッカース硬度)は、通常400HV以下である。
【0036】
本発明の溶射材料を用いたプラズマ溶射により溶射層を形成することにより、200℃の体積抵抗率が、3×1010Ω・cm以上、特に6×1010Ω・cm以上で、8×1011Ω・cm以下、特に3×1011Ω・cm以下である溶射層を形成することができ、また、200℃の体積抵抗率に対する23℃の体積抵抗率の比が、0.1以上、特に0.5以上で、30以下、特に15以下である溶射層を形成することができる。200℃の体積抵抗率や体積抵抗率の比が上記の範囲である溶射層は、静電チャックやその周辺の部材などに用いられる溶射層において有利である。
【0037】
本発明において、溶射膜(下地層、溶射層)を構成するReOF、Re5O4F7、Re7O6F9などの希土類酸フッ化物、希土類酸化物、希土類フッ化物などにおける希土類(元素)は、Y及びLaからLuまでの第3族元素から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。これらの希土類元素のなかでも、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、希土類元素として、イットリウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム及びイッテルビウムのいずれかを含むこと、特に、希土類元素が、イットリウムのみ、又は主成分(例えば90モル%以上)であるイットリウムと、残部のイッテルビウム又はルテチウムとで構成されていることが好ましい。
【実施例0038】
以下に、調製例、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0039】
[調製例1]
(B)粒子である希土類酸化物粒子を調製した。表1に示される3種の希土類酸化物(Y2O3、Gd2O3、Dy2O3)粒子は、予め95℃にした、対応する希土類硝酸塩の水溶液(0.1mol/L)に、尿素を希土類硝酸塩水溶液1L当たり15mol投入し、生成した沈殿を、ろ過、水洗した後に、大気中、700℃で焼成し、得られた希土類酸化物を、ジェットミルで粉砕し、空気分級することにより、所定の平均粒径の希土類酸化物粒子を得た。得られた粒子の粒度分布は、粒子を、0.1質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に混合して、40Wで1分間、超音波を照射して分散させたものを用い、粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製 MT3300)でレーザー回折法により測定した(以下の調製例において同じ。)。実施例及び比較例で用いた各々の粒子の平均粒径D50を表1に示す。また、後述する調製例2における(A)粒子の原料として、Sm2O3粒子及びYb2O3粒子を同様の方法で調製した。
【0040】
[調製例2]
(A)粒子である希土類フッ化物粒子を調製した。表1に示される4種の希土類フッ化物(YF3、YYbF3、GdF3、SmF3)粒子は、調製例1と同様の方法で得た対応する希土類酸化物(Y2O3、Yb2O3、Gd2O3、Sm2O3)と、酸性フッ化アンモニウム(NH4HF2)粉末を1:1(質量比)で混合し、窒素ガス雰囲気中、650℃で、4時間焼成し、得られた希土類フッ化物を、ジェットミルで粉砕し、空気分級することにより、所定の平均粒径の希土類フッ化物粒子を得た。なお、実施例8におけるYとYbとの比率はY:Yb=95:5(モル比)とした。実施例及び比較例で用いた各々の粒子の平均粒径D50を表1に示す。
【0041】
[調製例3]
(B)粒子であるイットリウム水酸化物粒子を調製した。イットリウム水酸化物(Y(OH)3)粒子は、室温(20℃)のイットリウム硝酸塩水溶液(0.05mol/L)に、アンモニウム水溶液(4質量%)をイットリウム硝酸塩水溶液1L当たり0.1L投入し、生成した沈殿を、ろ過、水洗した後に、70℃で乾燥し、得られたイットリウム水酸化物を、ジェットミルで粉砕し、空気分級することにより、所定の平均粒径のイットリウム水酸化物粒子を得た。実施例で用いた各々の粒子の平均粒径D50を表1に示す。
【0042】
[調製例4]
(B)粒子であるイットリウム塩基性炭酸塩粒子を調製した。イットリウム塩基性炭酸塩(YCO2OH)粒子は、予め95℃にしたイットリウム硝酸塩水溶液(0.1mol/L)に、尿素をイットリウム硝酸塩水溶液1L当たり15mol投入し、生成した沈殿を、ろ過、水洗した後に、70℃で乾燥し、得られたイットリウム塩基性炭酸塩を、ジェットミルで粉砕し、空気分級することにより、所定の平均粒径のイットリウム塩基性炭酸塩粒子を得た。実施例で用いた各々の粒子の平均粒径D50を表1に示す。
【0043】
[調製例5]
(B)粒子であるイットリウム正炭酸塩粒子を調製した。イットリウム正炭酸塩(Y2(CO3)3)粒子は、室温(20℃)のイットリウム硝酸塩水溶液(0.05mol/L)に、重炭酸アンモニウム水溶液(1mol/L)をイットリウム硝酸塩水溶液1L当たり0.2L投入し、生成した沈殿を、ろ過、水洗した後に、110℃で乾燥し、得られたイットリウム正炭酸塩を、ジェットミルで粉砕し、空気分級することにより、所定の平均粒径のイットリウム正炭酸塩粒子を得た。実施例で用いた粒子の平均粒径D50を表1に示す。
【0044】
[実施例1~10]
調製例2で得た(A)粒子及び調製例1、3~5で得た(B)粒子を表1に示される比率で総量5kg用い、(A)粒子及び(B)粒子全体の含有率が20~30質量%となるように水に投入し、更に、表1に示される有機バインダー(なお、表1中、CMCはカルボキシルメチルセルロース、アクリルはアクリルエマルジョン、PVAはポリビニルアルコールを表す。)を、(A)粒子及び(B)粒子の全体に対して表1に示される比率で添加し、これらを15mmφのナイロンボールが入ったナイロンポットに入れて、約6時間混合し、スラリーを得た。次に、得られたスラリーからスプレードライヤー(大河原化工機(株)製 DBP-22、以下同じ)を用いて造粒して、複合粒子である溶射材料を得た。
【0045】
得られた粒子を以下の方法で評価した。得られた粒子の粒度分布(D10、平均粒径D50、D90)は、粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製 MT3300EXII)でレーザー回折法により測定した。得られた粒子の水分量は、電量法水分計((株)三菱ケミカルアナリテック製 CA200型)でカールフィッシャー法により測定した。得られた粒子の炭素濃度(C濃度)は、硫黄炭素分析装置(LECO社製 SC-632)で燃焼赤外吸収法により測定した。得られた粒子のBET比表面積は、全自動比表面積測定装置((株)マウンテック製、Macsorb HM model-1280)で測定した。得られた粒子の結晶相は、X線回折装置(PANalytical社製 X-Part Pro MPD、CuK
α線)で分析した。得られた粒子の嵩密度は、パウダーテスタ(ホソカワミクロン(株)製 PT-X)でJIS法により測定した。得られた粒子の顆粒強度は、微小圧縮試験機((株)島津製作所製 MCTM-500PC)で測定した。評価結果を表2に示す。また、実施例2で得た溶射材料の粒度分布を
図1、走査型電子顕微鏡による観察像(写真)を
図2に、X線回折プロファイルを
図3に、各々示す。
【0046】
図3に示されるように、実施例2で得た溶射材料は、Y
2O
3を示す、回折角2θが20.5°付近、29.2°付近(メインピーク)及び33.8°付近のピークと、YF
3を示す、回折角2θが24.1°付近、24.6°付近、26.0°付近、27.9°付近(メインピーク)、31.0°付近及び36.1°付近のピークとが検出され、YF
3及びY
2O
3が含まれていた。また、希土類酸フッ化物のピークは検出されなかった。更に、実施例1及び3~10で得た溶射材料においても、希土類フッ化物及び希土類酸化物のピークが検出され、希土類酸フッ化物のピークは検出されなかった。
【0047】
[比較例1]
調製例2で得た(A)粒子のみを5kg用い、含有率が30質量%となるように水に投入し、更に、表1に示される有機バインダーを、(A)粒子に対して表1に示される比率で添加し、これらを15mmφのナイロンボールが入ったナイロンポットに入れて、約6時間混合し、スラリーを得た。次に、得られたスラリーからスプレードライヤーを用いて造粒し、更に、窒素ガス雰囲気中、800℃で、4時間焼成して溶射材料を得た。得られた粒子を実施例と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。また、溶射材料のX線回折プロファイルを
図4に示す。
【0048】
図4に示されるように、比較例1で得た溶射材料は、YF
3を示す、回折角2θが24.1°付近、24.6°付近、26.0°付近、27.9°付近(メインピーク)、31.0°付近及び36.1°付近のピークが検出され、YF
3が含まれていたが、Y
2O
3のピークは検出されなかった。また、酸フッ化イットリウムのピークも検出されなかった。
【0049】
[比較例2、3]
調製例2で得た(A)粒子及び調製例1で得た(B)粒子を表1に示される比率で総量5kg用い、(A)粒子及び(B)粒子全体の含有率が30質量%となるように水に投入し、更に、表1に示される有機バインダーを、(A)粒子及び(B)粒子の全体に対して表1に示される比率で添加し、これらを15mmφのナイロンボールが入ったナイロンポットに入れて、約6時間混合し、スラリーを得た。次に、得られたスラリーからスプレードライヤーを用いて造粒し、更に、窒素ガス雰囲気中、800℃で、4時間焼成して溶射材料を得た。得られた粒子を実施例と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。また、比較例2で得た溶射材料のX線回折プロファイルを
図5に示す。
【0050】
図5に示されるように、比較例2で得た溶射材料は、Y
5O
4F
7を示す、回折角2θが23.2°付近、28.1°付近(メインピーク)、32.2°付近、及び33.1°付近のピークが検出され、Y
5O
4F
7が含まれていたが、YF
3及びY
2O
3を示すピークは、いずれも検出されなかった。更に、比較例3で得た溶射材料においても、Y
5O
4F
7のピークが検出され、YF
3及びY
2O
3のピークは、いずれも検出されなかった。
【0051】
【0052】
【0053】
〔溶射膜の形成及び溶射部材の製造〕
まず、100mm角、厚さ5mmのA6061アルミニウム合金基材の表面を、コランダム研磨材を用いて粗面化処理した。粗面化処理後、実施例1~10においては、アルミニウム合金基材の表面に、エリコンメテコ社製の溶射装置F4で、常圧下の大気プラズマ溶射により、表3に示される材質の1層又は2層構成の下地層を、表3に示される厚さに形成した。次に、実施例1~10及び比較例1~3で得た各々の溶射材料を用い、エリコンメテコ社製の溶射装置F4で、常圧下の大気プラズマ溶射により、溶射層を表3に示される厚さに形成して、下地層及び実施例1~10の溶射材料を用いて形成した溶射層からなる溶射膜、又は比較例1~3の溶射材料を用いて形成した溶射層のみからなる溶射膜を形成して、溶射部材を得た。この場合、下地層及び溶射層のいずれの溶射も、プラズマ印加電力(溶射電力)を40kWとし、プラズマガス流量を、アルゴンガスを約35L/min、水素ガスを6L/minとして実施した。
【0054】
〔溶射膜(溶射層)評価〕
得られた溶射膜を、以下の方法で評価した。得られた溶射膜の表面硬度は、ビッカース硬度計((株)アカシ(現(株)ミツトヨ)製 AVK-C1)でビッカース硬度として測定した。得られた溶射膜の溶射層の酸素濃度(O濃度)は、LECO社製、THC600で不活性ガス融解赤外吸収法により測定した。得られた溶射膜の溶射層の炭素濃度(C濃度)は、硫黄炭素分析装置(LECO社製 SC-632)で燃焼赤外吸収法により測定した。得られた溶射膜の溶射層の気孔率は、溶射層の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、2視野を撮像して、画像解析により、2視野の平均値として求めた。具体的には、ASTM E2109に準拠して、溶射膜を樹脂埋めして、走査型電子顕微鏡観察のサンプルとし、1000倍の倍率で、反射電子組成画像(COMPO像)を撮像した。実施例2で得た溶射膜の溶射層の2視野の反射電子組成画像を
図6(A)及び
図6(B)に示す。反射電子組成画像では、気孔部分が暗く、溶射膜部分が薄い灰色となる。この明暗差を、画像解析ソフト(Sction Image(ウェブサイトから入手可能))を用いて、画像中の気孔部分と溶射膜部分として2値化し、観察対象の全体面積に対する気孔部分の面積の比を気孔率として求めた。以上の評価結果を表3に示す。
【0055】
【0056】
得られた溶射膜の外観(色相)は、ColorMeter(コニカミノルタ(株)製 色彩色差計CR-200)でLab表色系(CIE 1976 L
*a
*b
*色空間)として測定した。得られた溶射膜の溶射層の結晶相は、得られた溶射膜から溶射層を削り取り、X線回折装置(PANalytical社製 X-Part Pro MPD、CuK
α線)で分析した。溶射層の結晶相を同定し、それらのメインピークの強度から、主相及び副相を決定した。得られた溶射膜の体積抵抗率は、デジタル超高抵抗/微小電流計((株)エーディーシー製 8340A型)で、ASTM(D257:2007)に準拠して、23℃と200℃の体積抵抗を各々測定し、膜厚から体積抵抗率を算出し、3回の試験の平均値を求め、平均値から200℃の体積抵抗率に対する23℃の体積抵抗率の比(23℃の体積抵抗率/200℃の体積抵抗率)を算出した。以上の評価結果を表4に示す。また、実施例2で得た溶射膜の溶射層のX線回折プロファイルを
図7、比較例1で得た溶射層のX線回折プロファイルを
図8、比較例2で得た溶射層のX線回折プロファイルを
図9に、各々示す。
【0057】
図7に示されるように、実施例2で得た溶射膜の溶射層は、Y
5O
4F
7を示す、回折角2θが28.1°付近(メインピーク)、32.2°付近及び33.1°付近のピークと、Y
2O
3を示す、回折角2θが29.2°付近(メインピーク)のピークと、YF
3を示す、回折角2θが26.0°付近のピークとが検出され、Y
5O
4F
7(主相)、Y
2O
3(副相)及びYF
3(副相)が含まれていた。更に、実施例1及び3~10で得た溶射膜の溶射層においても、希土類酸フッ化物(主相)、希土類酸化物(副相)及び希土類フッ化物(副相)のピークが検出された。
【0058】
図8に示されるように、比較例1で得た溶射層は、Y
2O
3を示す、回折角2θが29.2°付近(メインピーク)及び33.8°付近のピークと、YF
3を示す、回折角2θが24.1°付近、24.6°付近、26.0°付近、27.9°付近(メインピーク)、31.0°付近及び36.1°付近のピークとが検出され、YF
3及びY
2O
3が含まれていた。また、酸フッ化イットリウムのピークは検出されなかった。
【0059】
図9に示されるように、比較例2で得た溶射層は、Y
5O
4F
7を示す、回折角2θが23.2°付近、28.1°付近(メインピーク)、32.2°付近及び33.1°付近のピークと、YOFを示す、回折角2θが28.7°付近(メインピーク)のピークとが検出され、Y
5O
4F
7及びYOFが含まれていたが、YF
3及びY
2O
3を示すピークは、いずれも検出されなかった。更に、比較例3で得た溶射層においても、Y
5O
4F
7及びYOFのピークが検出され、YF
3及びY
2O
3のピークは、いずれも検出されなかった。
【0060】
得られた溶射膜のパーティクルの発生量は、以下の方法で評価した。1Lの純水に、溶射部材を浸漬し、60分間、超音波を照射して溶射部材を引き上げ、パーティクルを含む水に硝酸を添加して、パーティクルを溶解し、溶射層を構成する希土類元素(Y、Sm、Gd、Dy、Yb)の溶解量を、ICP発光分析により測定した。評価結果を表4に示す。この場合、希土類元素の溶解量が少ない程、パーティクルが少ないことを意味する。
【0061】
得られた溶射膜の耐食性は、以下の方法で評価した。溶射膜に対して、マスキングテープでマスキングした部分と、マスキングテープでマスキングしていない露出部分を形成し、リアクティブイオンプラズマ試験装置にセットして、周波数:13.56MHz、プラズマ出力:1,000W、エッチングガス:CF4(80vol%)+O2(20vol%)、エッチングガス流量:50sccm、ガス圧:50mtorr(6.7Pa)、12時間の条件で、プラズマ耐食性試験を行った。次に、試験後、マスキングテープを剥がし、レーザー顕微鏡を使用して、マスキング部分と露出部分の各々で、高さを4点ずつ測定し、各々の部分の平均値の差を、腐食により生じた高さの変化量として求めることにより、耐食性を評価した。結果を表4に示す。
【0062】
【0063】
本発明の複合粒子である溶射材料を用いて、大気プラズマ溶射で溶射層を形成した実施例では、溶射中に、希土類フッ化物粒子が酸化されて、希土類酸フッ化物が生成し、希土類酸フッ化物、希土類酸化物及び希土類フッ化物を含む溶射層が形成される。溶射材料中の希土類フッ化物ベースの酸素濃度が、溶射材料中の仕込み原料量から換算した酸素濃度に対して1~4質量%増加した、即ち、溶射材料のフッ化物が酸フッ化物へと酸化されて溶射層が形成された実施例では、希土類酸フッ化物を主相とする溶射層が得られている。実施例では、気孔率が低い緻密な膜であり、高硬度で、かつ耐食性に優れた溶射層が得られている。この場合、XRDプロファイルに示されるように、実施例で得られた希土類酸フッ化物を主相とする溶射層は、希土類酸フッ化物相の結晶子径が小さく、結晶子の細かさが高硬度に寄与し、硬度が高いほど、耐食性も高くなる。
(A)粒子と(B)粒子との合計に対し、希土類有機化合物及び有機高分子化合物から選ばれる有機バインダーを0.05質量%以上3質量%以下の割合で含有することを特徴とする請求項1又は2記載の溶射材料。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、酸化イットリウムやフッ化イットリウムと比べて、プロセスシフトや、パーティクルの発生が少ない希土類酸フッ化物を含む溶射層を得るため、プラズマ溶射で希土類酸フッ化物を含む溶射層を安定して成膜できる溶射材料、及び溶射部材の製造方法を提供することを目的とする。