(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173447
(43)【公開日】2022-11-18
(54)【発明の名称】無人航空機の使用方法
(51)【国際特許分類】
B64B 1/26 20060101AFI20221111BHJP
B64D 47/08 20060101ALI20221111BHJP
B64B 1/36 20060101ALI20221111BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
B64B1/26
B64D47/08
B64B1/36
B64C39/02
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155789
(22)【出願日】2022-09-29
(62)【分割の表示】P 2018095026の分割
【原出願日】2018-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2017157044
(32)【優先日】2017-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 竜
(72)【発明者】
【氏名】森 雄一郎
(57)【要約】
【課題】屋内での使用に適した無人航空機を提供する。
【解決手段】無人航空機1は、送風機3と、空気よりも比重の小さい気体が充填されたバルーン4とを備え、バルーン4の浮力は、無人航空機1の全体に働く重力よりも大きく、送風機3は、上方向の成分を有する方向D1に送風可能であり、送風機3による送風によって、無人航空機1は降下が可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送風機と、
空気よりも比重の小さい気体が充填されたバルーンとを備えた無人航空機の使用方法であって、
前記バルーンの浮力は、前記無人航空機の全体に働く重力よりも大きく、
前記送風機は、上方向の成分を有する第1の方向に送風可能であり、
前記無人航空機は、前記送風機による送風によって降下が可能であり、
前記使用方法は、
屋内において、前記送風機を停止させた状態で、前記バルーンの浮力によって前記無人航空機を浮上させる浮上ステップと、
前記送風機を停止させた状態で、前記無人航空機が、前記屋内の空中の固定物または天井に接触することにより静止する静止ステップと、
前記送風機を上方向の成分を有する第1の方向に送風させることにより、前記無人航空機を降下させる降下ステップと、
を有する、無人航空機の使用方法。
【請求項2】
前記送風機は、水平方向の成分を有する第2の方向に送風可能である、請求項1に記載の無人航空機の使用方法。
【請求項3】
撮影モジュールをさらに備えた、請求項1または2に記載の無人航空機の使用方法。
【請求項4】
前記送風機を水平方向の成分を有する第2の方向に送風させることにより、前記無人航空機を横方向に移動させる移動ステップをさらに有する、請求項1~3のいずれかに記載の無人航空機の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無人航空機の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ドローンと呼ばれる無人航空機が普及している。一般にドローンは、撮影モジュールと、複数のプロペラとを搭載し、プロペラの回転によって浮力を得る。また、下記の特許文献1および2には、落下時の機体損傷の防止や、運用の効率化を図るために、さらにバルーンを備えたドローンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-61174号公報
【特許文献2】実用新案登録第3208050号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、ドローンは、主に空影や荷物配送などに活用されているが、屋内での使用は想定されていない。ドローンを屋内で飛行させることについて、法的な規制はないが、仮に、現行のドローンを屋内で使用する場合、プロペラが天井や壁に接触することによる事故が起きやすくなる。また、高速で回転するプロペラから発生する音が屋内に響き渡ることによる騒音被害も懸念される。
【0005】
特許文献1および2に開示されているドローンも、飛行のためにプロペラを回転させる必要があるため、プロペラからの騒音の問題は解消できない。例えば、特許文献2では、ドローンをホバリング状態とすることが記載されている。ここで、ホバリングとは、ヘリコプターが空中で停止した状態を意味するため、ホバリング状態におけるドローンのプロペラは回転しており、常に騒音が発生することとなる。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、屋内での使用に適した無人航空機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、無人航空機に、機体全体に働く重力よりも浮力の大きなバルーンを搭載し、送風機の送風によって降下可能とすることにより、無人航空機を屋内での使用に適用させることができることを見出した。
【0008】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様を有する。
項1.
送風機を備えた無人航空機であって、
空気よりも比重の小さい気体が充填されたバルーンをさらに備え、
前記バルーンの浮力は、前記無人航空機の全体に働く重力よりも大きく、
前記送風機は、上方向の成分を有する第1の方向に送風可能であり、
前記送風機による送風によって降下が可能である、無人航空機。
項2.
前記送風機は、水平方向の成分を有する第2の方向に送風可能である、項1に記載の無人航空機。
項3.
前記送風機は、
少なくとも前記第1の方向の気流を形成可能な第1の送風手段と、
前記第1の送風手段の下方に設けられ、少なくとも下方向の成分を有する第3の方向の気流を形成可能な第2の送風手段と、
前記第1の送風手段と前記第2の送風手段との間に設けられ、気流の方向を前記第2の方向から前記第1の送風手段に向かう前記第1の方向に切り換えるとともに、前記第2の方向の反対方向から前記第2の送風手段に向かう前記第3の方向に切り換える風向切換板と、
を備えた、項2に記載の無人航空機。
項4.
前記風向切換板は、前記第1の送風手段および前記第2の送風手段の配列方向に延びる軸周りに、前記第1の送風手段および前記第2の送風手段に対して相対的に回転可能である、項3に記載の無人航空機。
項5.
前記第1の送風手段は、前記第3の方向の気流を形成可能であり、
前記第2の送風手段は、前記第1の方向の気流を形成可能である、項3または4に記載の無人航空機。
項6.
撮影モジュールをさらに備えた、項1~5のいずれかに記載の無人航空機。
項7.
項1~6のいずれかに記載の無人航空機の使用方法であって、
屋内において、前記送風機を停止させた状態で、前記バルーンの浮力によって前記無人航空機を浮上させる浮上ステップと、
前記無人航空機が、前記屋内の空中の固定物または天井に接触することにより静止する静止ステップと、
前記送風機を上方向の成分を有する第1の方向に送風させることにより、前記無人航空機を降下させる降下ステップと、
を有する、無人航空機の使用方法。
項8.
前記送風機を水平方向の成分を有する第2の方向に送風させることにより、前記無人航空機を横方向に移動させる移動ステップをさらに有する、項7に記載の無人航空機の使用方法。
項9.
授業者が行う研究授業の様子を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段が撮影した画像を、前記研究授業の評価を行うレビュアが使用するレビュア用クライアントに、前記研究授業用の学習指導案とともに配信する配信手段と、
前記レビュア用クライアントに前記画像および前記学習指導案を表示する表示手段と、
前記レビュアによる操作を受け付けてアノテーションデータを作成するアノテーションデータ作成手段と、
前記アノテーションデータを前記画像および前記学習指導案と関連付けたレビュー結果を保存する保存手段と、
を備えた研究授業レビュー支援システムであって、
前記撮影手段は、項6に記載の無人航空機が備える前記撮影モジュールである、研究授業レビュー支援システム。
項10.
授業者が行う研究授業の様子を撮影する撮影ステップと、
前記撮影ステップにおいて撮影した画像を、前記研究授業の評価を行うレビュアが使用するレビュア用クライアントに、前記研究授業用の学習指導案とともに配信する配信ステップと、
前記レビュア用クライアントに前記画像および前記学習指導案を表示する表示ステップと、
前記レビュアによる操作を受け付けてアノテーションデータを作成するアノテーションデータ作成ステップと、
前記アノテーションデータを前記画像および前記学習指導案と関連付けたレビュー結果を保存する保存ステップと、
を備えた研究授業レビュー支援方法であって、
前記撮影ステップでは、項6に記載の無人航空機が備える前記撮影モジュールによって撮影する、研究授業レビュー支援方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、屋内での使用に適した無人航空機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)および(b)はそれぞれ、本発明の一実施形態に係る無人航空機の底面図および側面図である。
【
図5】研究授業レビュー支援システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図6】研究授業レビュー支援システムの一部を示すブロック図である。
【
図7】レビュア用クライアントに表示される画面の一例である。
【
図8】授業者用クライアントに表示される画面の一例である。
【
図9】研究授業レビュー支援方法の手順を示すフローチャートである。
【
図10】(a)~(c)はそれぞれ、本発明の実施例に係る無人航空機の側面図、斜視図および断面図である。
【
図11】(a)および(b)はそれぞれ、本発明の実施例に係る無人航空機の移動・撮影ユニットの正面図、背面図である。
【
図12】(a)および(b)はそれぞれ、上記移動・撮影ユニットの左側面図、右側面図である。
【
図13】
図11(a)に示す移動・撮影ユニットのA-A断面図である。
【
図15】(a)~(e)はそれぞれ、上記移動・撮影ユニットの上部ファンダクトの平面図、正面図、底面図、B-B断面図および斜視図である。
【
図16】(a)~(d)はそれぞれ、上記移動・撮影ユニットの方向転換ダクトフォルダの平面図、正面図、底面図および斜視図である。
【
図17】(a)~(f)は、上記移動・撮影ユニットの方向転換ダクトの平面図、正面図、底面図、C-C断面図、左上方向からの斜視図および右上方向からの斜視図である。
【
図18】(a)~(e)はそれぞれ、上記移動・撮影ユニットの下部ファンダクトの平面図、正面図、底面図、背面図および斜視図である。
【
図19】(a)~(c)はそれぞれ、上記移動・撮影ユニットの安定化リングの平面図、正面図および斜視図である。
【
図20】(a)~(e)はそれぞれ、上記移動・撮影ユニットの基盤フォルダの平面図、正面図、底面図、側面図および斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(無人航空機の構成)
図1(a)および(b)はそれぞれ、本発明の一実施形態に係る無人航空機1の底面図および側面図である。無人航空機1は、撮影モジュール2と、送風機3と、バルーン4と、制御モジュール5と、フレーム6と、接続パッド7と、を備えている。
【0013】
撮影モジュール2は、無人航空機1の下部に搭載されている。撮影モジュール2としては、CCDカメラ等を用いることができる。
【0014】
送風機3は、無人航空機1の中心部に搭載されている。送風機3は、任意の方向に指向するように取り付けられている。現行のドローンに搭載されるプロペラは下方向に送風するものであるが、送風機3はこれとは異なり、上方向の成分を有する第1の方向(例えば、
図1(b)に示す方向D1)に送風可能である。
【0015】
図2は、送風機3の方向D1からの平面図である。
図2に示すように、送風機3は、円筒31と、プロペラ32と、を備えている。プロペラ32は、円筒31の中空部に配置されており、図示しないモータによって駆動される。なお、プロペラ32の代わりに、シロッコファン、ターボファンなどの他の送風手段を用いてもよい。
【0016】
図1に示すバルーン4は、空気よりも比重の小さい気体が充填された風船である。本実施形態では、バルーン4の形状は直方体であり、8つのバルーン4が、送風機3を取り囲む矩形枠を構成するように互いに接着されている。バルーン4に充填される気体としては、例えば、水素ガス、ヘリウムガスが挙げられるが、安全性および浮力の観点から、ヘリウムガスが好ましい。
【0017】
バルーン4の個数、形状および大きさは、無人航空機1の全体を浮上させるために十分な浮力を発生する気体を充填可能なものであれば、特に限定されない。例えば、浮き輪のような円環形状の1つのバルーンを用いてもよい。なお、
図1(b)では、8つのバルーン4のうち、送風機3を挟んで互いに対向する2つのバルーン4以外の6つのバルーン4の図示を省略している。
【0018】
制御モジュール5は、撮影モジュール2および送風機3の動作を制御するものである。制御モジュール5には、制御用のマイクロコンピュータの他、バッテリーや、無線通信用アンテナ等が内蔵されている。撮影モジュール2および送風機3の動作は、ユーザが無線通信を介して制御してもよいし、マイクロコンピュータにあらかじめインストールされたプログラムに従って制御してもよい。
【0019】
フレーム6は、撮影モジュール2、送風機3および制御モジュール5を無人航空機1に固定するための部材である。フレーム6は十字状に形成されており、4つの端部が接続パッド7を介してバルーン4に固定されている。フレーム6の中心部には、フレーム6およびお制御モジュール5を貫通する垂直軸8が固定されている。
図1(b)に示すように、垂直軸8の下端には、撮影モジュール2が取り付けられており、垂直軸8の上端には、送風機3が取り付けられている。
【0020】
以上のような構成を有する無人航空機1では、バルーン4の浮力が、無人航空機1の全体に働く重力よりも大きいことを特徴としている。これにより、送風機3が停止した状態で無人航空機1を浮上させることができる。また、無人航空機1が天井等に到達した後も、送風機3を停止させたまま、無人航空機1を静止させることができる。よって、騒音を発することなく無人航空機1を使用することができる。また、現行のドローンのように、プロペラが天井や壁に接触する事故のリスクもないため、安全性も確保できる。
【0021】
また、送風機3は上方向の成分を有する第1の方向に送風可能であり、無人航空機1は送風機3による送風によって降下が可能である。よって、天井等において静止した無人航空機1を送風機3によって撤去することができる。さらに、送風機3が水平方向の成分を有する第2の方向に送風可能であることにより、後述するように、無人航空機1を浮上させたまま横方向に移動させることができる。
【0022】
以上のように、本実施形態に係る無人航空機1は、送風機3が停止した状態で浮上でき、天井等において静止できるので、静粛性を確保できる。また、送風機3が故障しても無人航空機1が落下することはないので、安全性も担保される。したがって、屋内での使用に適した無人航空機を提供できる。
【0023】
(無人航空機の使用方法)
続いて、無人航空機1の使用方法について説明する。上述のように、無人航空機1は、屋内での使用に適しており、以下では、無人航空機1を屋内で飛行させる例について
図3を参照して説明する。
【0024】
図3(a)に示すように、屋内において、送風機3を停止させた状態で、バルーン4の浮力によって無人航空機1を浮上させる(浮上ステップ)。屋内が無風状態の場合、無人航空機1は真上方向に浮上する。そのため、ユーザは、無人航空機1を静止させたい位置の直下において、無人航空機1を手放せばよい。
【0025】
その後、
図3(b)に示すように、無人航空機1は、屋内の天井Cに接触することにより静止する(静止ステップ)。このとき、バルーン4の浮力により、無人航空機1は天井Cに押し当てられるため、無人航空機1は、送風機3を駆動させることなく天井Cに接触した状態で静止することができる。これにより例えば、無人航空機1を試験の監視装置として用いる場合、試験が行われる部屋にのみ、無人航空機1を天井Cに静止させることで、全ての部屋に監視カメラを設置する必要がなくなる。また、騒音が発生しないため、試験の進行に支障は生じない。
【0026】
なお、無人航空機1を静止させる位置は天井Cに限らず、屋内の空中の固定物(例えば、掲示板の下面)であってもよい。
【0027】
無人航空機1を撤去する場合は、
図3(c)に示すように、送風機3を上方向の成分を有する第1の方向に送風させることにより、無人航空機1を降下させる(降下ステップ)。
図3(c)では、送風機3は真上方向D2に送風しているが、斜め上方向に送風してもよい。無人航空機1をユーザの手の届く位置にまで降下させることにより、無人航空機1を撤去することができる。
【0028】
図3に示した例では、無人航空機1を鉛直方向に移動させていたが、必要に応じて、無人航空機1を横方向に移動させてもよい。
【0029】
例えば、
図4(a)に示すように、天井Cにおける無人航空機1の静止位置の近くに、火災検知器等の突起物Pが存在しているとする。この静止位置から突起物Pを越えた位置に無人航空機1を移動させる場合、
図4(b)に示すように、一旦、送風機3を真上方向D2に送風させて、無人航空機1を降下させる。無人航空機1を降下させる距離は、突起物Pの高さよりも大きいことが好ましい。
【0030】
続いて、
図4(c)に示すように、送風機3を水平方向の成分を有する方向D3に送風させることにより、無人航空機1を横方向に移動させる(移動ステップ)。
図4(c)では、方向D3は斜め上方向であるが、水平方向であってもよい。
【0031】
その後、無人航空機1が突起物Pを越えて、突起物Pの左側の所望の位置の直下に到達したときに、送風機3を停止させることにより無人航空機1を浮上させる。これにより、
図4(d)に示すように、無人航空機1を元の静止位置から突起物Pを越えた位置に移動させることができる。
【0032】
なお、上述の移動ステップは、無人航空機1が空中を浮遊している状態であれば、天井C等に接触して静止しているか否かにかかわらず、いつでも実施可能である。また、移動ステップにおける無人航空機1の移動方向は、水平方向に限らず、斜め上方向または斜め下方向であってもよい。例えば、
図4(a)に示す状態において、送風機3を斜め上方向に送風させることにより、無人航空機1を斜め下方向に移動させてもよい。
【0033】
例えば、無人航空機1を試験の監視装置として用いる場合に、撮影モジュール2が受験生全員を含む画像を一度に撮影できなかったとしても、無人航空機1を横方向に間欠的に移動させることで、受験生全員を監視することができる。
【0034】
(適用例)
本実施形態に係る無人航空機1は、特に、授業者不在の遠隔授業の教室において生徒の状況を監視する用途に好適である。中山間地域などの過疎地域では、TV会議システムによって小規模校間の遠隔合同授業が行われている。現在、導入されている遠隔講義システムは、遠隔教室の生徒の様子を正面から撮影して授業者がモニタリングする方式を用いており、授業者はネットワークを介した対話を通じて授業を行う。しかし、問題演習時などに行われる机間巡視による生徒の観察には対応できず、従来の授業と同様に生徒の状態を把握することは難しい。また、遠隔教室にはサポート教員1名が配置されているが、教材の配布などの作業を行う以外に、授業中に授業者とコミュニケーションをとることが困難であるため、授業者に生徒の状況を細かく報告し、連携した指導を行うことは容易ではない。
【0035】
これに対し、天井へ監視カメラを設置することが考えられる。しかし、固定された監視カメラでは全ての生徒の手元を撮影することは困難である。また、位置が固定的でなくかつ生徒上方からの撮影が可能なレール式のネットワークカメラを設置することも有効であるが、全ての教室にこのようなカメラを導入することはコスト面からも実現性に乏しい。
【0036】
そこで、撮影モジュール2を備えた無人航空機1を横方向に適宜移動させながら高い位置から俯瞰撮影することにより、経済性、安全性、静粛性、機能・操作性の各条件を満足しながら、生徒の状況を監視することができる。具体的には、授業や試験を行う場合にのみ、無人航空機1を用いることにより、各教室に監視カメラを設置する必要がなくなり、コストを低減することができる。また、無人航空機1は送風機3を停止させた状態で天井に静止することができるため、安全性および静粛性を確保できる。また、室内では、ほとんど無風状態であり、ユーザは、天井の所望の位置の直下で無人航空機1を手放すだけで無人航空機1を設置できるため、機能・操作性も、現行のドローンに比べ格段に優れている。
【0037】
(研究授業レビュー支援システムへの適用例)
以下、本発明に係る無人航空機を研究授業レビュー支援システムに適用した具体例について説明する。まず、現状の研究授業レビュー支援システムの背景および問題点について説明する。
【0038】
現在少人数クラスを余儀なくされている過疎地域の学校においては、教員不足を補うことを目的として、他の学校との遠隔合同授業などの導入が進められている。このような状況の学校においては、教師の教育力向上のための研修として従来より行われている研究授業を実施するにあたり、地域に所属する教師数の少なさなどのため、十分なレビュー効果が得られない場合も多い。
【0039】
若年教員にとっては、他教員により行われる研究授業に参加したり、同僚に依頼するなどの手段によって、他教員により作成された学習指導案を参考として学ぶ機会は少ない。また、学習指導案を用いて研究授業が実際にどのように行われたかに関する情報や、研究授業により得られたレビュー結果、レビュー結果にもとづく授業改善に関する情報などを得ることは難しい。
【0040】
そこで本適用例では、地理的要因等により参加者を集めることが困難な状況であっても、十分なレビュー結果が得られる研究授業を実施するための方法およびシステムであって、研究授業の様子を撮影する手段として、本発明に係る無人航空機に搭載された撮影モジュールを用いた方法およびシステムについて説明する。
【0041】
図5は、本適用例に係る研究授業レビュー支援システム100の全体構成を示すブロック図であり、
図6は、研究授業レビュー支援システム100の一部を示すブロック図である。
図5に示すように、研究授業レビュー支援システム100は、無人航空機110、授業者用クライアント120、収録・レビューサーバ130、レビュア用クライアント140、遠隔レビューサーバ150、レビュア用クライアント160、配信サーバ170および閲覧用クライアント180を備えている。
【0042】
無人航空機110、授業者用クライアント120、収録・レビューサーバ130およびレビュア用クライアント140は、授業者(教師)が研究授業を行う屋内の教室S内に設けられている。無人航空機110と収録・レビューサーバ130、ならびに、収録・レビューサーバ130と授業者用クライアント120およびレビュア用クライアント140は、LAN通信により接続されている。
【0043】
遠隔レビューサーバ150、レビュア用クライアント160、配信サーバ170および閲覧用クライアント180は、教室S外に設けられている。遠隔レビューサーバ150は、授業者用クライアント120、収録・レビューサーバ130、レビュア用クライアント160および配信サーバ170と、WAN通信により接続されている。また、配信サーバ170は、閲覧用クライアント180と、WAN通信により接続されている。
【0044】
なお、
図5および
図6では、LAN通信による接続を実線の直線矢印で示し、WAN通信による接続を破線の直線矢印で示している。
【0045】
教室Sでは、授業者が生徒に対して研究授業を行う。無人航空機110には、撮影モジュール111が搭載されており、撮影モジュール111によって、研究授業の様子を撮影する。撮影モジュール111の台数は特に限定されないが、本適用例では、1台の撮影モジュール111によって、授業者を正面から撮影し、他の複数台の撮影モジュール111によって、生徒を正面および俯瞰方向から撮影する。無人航空機110および撮影モジュール111としては、上記の実施形態に係る無人航空機1および撮影モジュール2を用いることができる。
【0046】
撮影モジュール111が撮影した画像は、リアルタイムで収録・レビューサーバ130に送信される。なお、本適用例では、画像は動画であるが、静止画であってもよい。
【0047】
授業者用クライアント120は、研究授業を行う授業者が用いるコンピュータ端末である。授業者は、授業者用クライアント120を用いて研究授業用の学習指導案を作成し、学習指導案の電子化されたデータを収録・レビューサーバ130にアップロードする。
【0048】
図6に示すように、収録・レビューサーバ130は、記憶部131および配信手段132を備えている。記憶部131には、授業者用クライアント120からアップロードされた学習指導案Lが記憶されている。配信手段132は、撮影モジュール111が撮影した画像を、レビュア用クライアント140に学習指導案Lとともに配信する。
【0049】
レビュア用クライアント140は、研究授業の評価を行うレビュアのうち、教室Sに来場しているレビュアが使用する端末である。一方、後述するレビュア用クライアント160は、教室Sに来場していないレビュアが使用する端末である。レビュア用クライアント140,160は、汎用のパーソナルコンピュータやタブレット端末で構成することができる。
【0050】
図6に示すように、レビュア用クライアント140は、表示手段141およびアノテーションデータ作成手段142を備えている。表示手段141は、レビュア用クライアント140に、配信手段132から配信された画像および学習指導案を表示する。アノテーションデータ作成手段142は、図示しないキーボードやタッチパネル等の入力装置を介したレビュアによる操作を受け付けてアノテーションデータを作成する。
【0051】
図7は、レビュア用クライアント140に表示される画面の一例である。領域R1には、授業者を正面から撮影した画像が表示され、領域R2には、生徒の画像が表示され、領域R3には、学習指導案が表示され、領域R4には、指導項目情報が表示される。なお、指導項目情報は任意の表示項目である。また、領域R2には、生徒を複数のアングルから撮影した画像を切り換えながら表示してもよい。
【0052】
領域R5は、レビュアが入力したコメントを表示するコメント表示フィールドである。レビュアは、領域R1~R4に表示される画像から、授業者の板書、話し方、進行方法、および、生徒の反応等を観察することができる。さらにレビュアは、授業者へフィードバックする情報として、領域R1~R4の任意の位置に、アノテーションマーカMを付すことができ、さらに、アノテーションマーカMに関連付けるためのコメントを領域R5に入力することができる。レビュアが、領域R5にコメントを入力した後、追加ボタンB1が押下されると、アノテーションデータ作成手段142は、コメントデータと、これに関連付けられたアノテーションマーカMに関する情報とを含むアノテーションデータを作成する。
【0053】
レビュアは、研究授業の間、アノテーションマーカMのマーキング、およびコメントの入力を行うことができる。アノテーションマーカMに関連付けられたコメントの一覧は、アノテーションリストとして領域R6に表示される。なお、アノテーションリストから特定のコメントを削除する場合には、削除したいコメントを選択して削除ボタンB2を押下する。
【0054】
以上のように、アノテーションデータ作成手段142によってアノテーションデータを作成することができる。レビュー作業終了後、レビュアは、作成されたアノテーションデータを、収録・レビューサーバ130を介して、遠隔レビューサーバ150にアップロードする。
【0055】
図6に示すように、遠隔レビューサーバ150は、記憶部151、保存手段152および配信手段153を備えている。レビュア用クライアント140から遠隔レビューサーバ150にアノテーションデータがアップロードされると、保存手段152は、アノテーションデータを画像および学習指導案と関連付けたレビュー結果Rを記憶部151に保存する。配信手段153は、収録・レビューサーバ130の配信手段132から配信される画像および学習指導案を中継して、レビュア用クライアント160に配信する。
【0056】
レビュア用クライアント160は、教室Sに来場していないレビュアが使用する端末であり、レビュア用クライアント140と同様の構成を有している。すなわち
図6に示すように、レビュア用クライアント160は、表示手段161およびアノテーションデータ作成手段162を備えている。表示手段161は、レビュア用クライアント160に、配信手段153から配信された画像および学習指導案を表示する。アノテーションデータ作成手段162は、図示しないキーボード等の入力装置を介したレビュアによる操作を受け付けてアノテーションデータを作成する。
【0057】
なお、レビュア用クライアント160からの画像および学習指導案の配信は、研究授業の進行と同期的であってもよいし、非同期的であってもよい。
【0058】
レビュア用クライアント160には、
図7と同様の画面が表示される。これにより、研究授業に参加できないレビュアであっても、遠隔で研究授業の様子を確認しながら、アノテーションマーカMのマーキング、およびコメントの入力を行うことができ、アノテーションデータ作成手段162は、アノテーションデータを作成する。レビュー作業終了後、レビュアは、作成されたアノテーションデータを、遠隔レビューサーバ150にアップロードする。遠隔レビューサーバ150の保存手段152は、アップロードされたアノテーションデータを画像および学習指導案と関連付けたレビュー結果Rを記憶部151に保存する。
【0059】
このようにして、レビュア用クライアント140およびレビュア用クライアント160から遠隔レビューサーバ150にアノテーションデータがアップロードされ、記憶部151にレビュー結果Rとして保存される。
【0060】
授業者は、授業者用クライアント120から遠隔レビューサーバ150にアクセスすることにより、レビュー結果Rを閲覧することができる。
図8は、授業者用クライアント120に表示される画面の一例である。この画面の構成は、追加ボタンB1および削除ボタンB2が設けられていない点を除き、
図7に示す画面と略同一である。領域R11~R14には、レビュア用クライアント140,160における領域R1~R4に表示されたものと同一の画像が表示される。領域R15には、アノテーションマーカMに関連付けられたコメントが表示され、領域R16には、アノテーションリストが表示される。これにより、授業者は、レビュー結果として収集されたアノテーションを、画像や学習指導案の該当箇所と照らし合わせながら閲覧し、コメントとして記載された指摘内容を検討することにより、学習指導案や授業方法の改善を図ることができる。また授業者は、領域R16に表示されたアノテーションリストから任意のアノテーションを選択することで、対象となる動画、学習指導案および指導項目情報などの該当箇所を同期的に表示・再生することができる。さらに授業者は、シークバーB3を操作することで、時間軸に沿って動画やそれに対応する学習指導案の項目を逐次表示することも可能である。
【0061】
さらに、遠隔レビューサーバ150の記憶部151に保存されたレビュー結果Rは、配信サーバ170を介して、閲覧用クライアント180に配信することができる。本適用例において、閲覧用クライアント180は、授業者以外の教員が使用する端末であり、所定のID等を入力して配信サーバ170にログインすることにより、レビュー結果Rを閲覧することができる。これにより、研究授業に参加することが不可能な教員であっても、閲覧用クライアント180によってレビュー結果Rを閲覧することにより、自身の教育力向上の参考にすることができる。
【0062】
なお、本適用例では、授業者用クライアント120および閲覧用クライアント180によってレビュー結果Rを閲覧していたが、レビュー結果Rを閲覧する態様は特に限定されない。また、レビュア用クライアント140,160の台数も、特に限定されない。仮に、レビュア全員が教室Sに来場しない場合は、レビュア用クライアント140を省略し、レビュア用クライアント160のみを設けてもよい。
【0063】
図9は、本適用例に係る研究授業レビュー支援方法の手順を示すフローチャートである。本方法では、撮影ステップS1において、授業者が行う研究授業の様子を撮影する。配信ステップS2では、撮影ステップS1において撮影した画像を、研究授業の評価を行うレビュアが使用するレビュア用クライアント140,160に、研究授業用の学習指導案とともに配信する。表示ステップS3では、レビュア用クライアント140,160に画像および学習指導案を表示する。アノテーションデータ作成ステップS4では、レビュアによる操作を受け付けてアノテーションデータを作成する。保存ステップS5では、アノテーションデータを画像および学習指導案と関連付けたレビュー結果を保存する。閲覧ステップS6では、授業者用クライアント120および閲覧用クライアント180によってレビュー結果Rを閲覧する。
【0064】
以上のように、本適用例に係る研究授業レビュー支援システムおよび方法によれば、授業の様子を撮影手段によって撮影し、撮影された画像を学習指導要領と組み合わせて表示してアノテーションデータを作成することにより、従来の紙ベースによる学習指導案を用いた研究授業では不可能であった同期的および非同期的な遠隔レビューが可能となる。これにより、地理的要因等により参加者を集めることが困難な状況であっても、十分なレビュー結果が得られる研究授業を実施することができ、授業者だけでなく、他の教員も、レビュー結果を参照することにより、教育力向上を図ることができる。
【0065】
さらに、本適用例では、撮影手段は、本実施形態に係る無人航空機1が備える撮影モジュール2である。そのため、研究授業を行う場合にのみ無人航空機1を使用すればよく、教室Sに固定カメラを設置する必要がなくなる。よって、研究授業を行うためのコストを削減することができる。また、無人航空機1は送風機3を停止させた状態で天井に静止することができるため、無人航空機1の使用によって研究授業の進行が妨げられることはない。
【0066】
(付記事項)
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0067】
例えば、上記の実施形態では、無人航空機1を屋内の高所からの撮影する手段として用いるために、無人航空機1は撮影モジュール2を搭載していたが、本発明はこれに限定されない。無人航空機1の用途に応じて、撮影モジュール2の代わりに、例えば、集音装置、スピーカーなどの音響機器や、温度センサ、湿度センサなどの各種センサ、LEDライトなどの照明装置を無人航空機1に搭載してもよい。
【実施例0068】
以下、本発明に係る無人航空機の実施例について説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0069】
(無人航空機の構成)
図10(a)~(c)はそれぞれ、本実施例に係る無人航空機1aの側面図、斜視図および断面図である。無人航空機1aは、バルーン4aおよび移動・撮影ユニット10を備えている。バルーン4aは、内部にヘリウムガスが充填されており、
図10(b)に示すように、中央孔41を有する円環形状に形成されている。移動・撮影ユニット10は、無人航空機1aの動力となる送風機や、撮影モジュール等を一体的に構成した円筒形状の複合機器である。移動・撮影ユニット10は、上部がバルーン4aの中央孔41に下方から挿入された状態で、接着剤等でバルーン4aに固定されている。
【0070】
図11(a)および(b)はそれぞれ、移動・撮影ユニット10の正面図、背面図であり、
図12(a)および(b)はそれぞれ、移動・撮影ユニット10の左側面図、右側面図である。また、
図13は、
図11(a)に示す移動・撮影ユニット10のA-A断面図であり、
図14は、移動・撮影ユニット10の斜視図である。移動・撮影ユニット10は、主な構成要素として、上部ファンダクト11、方向転換ダクト12、方向転換ダクトフォルダ13、下部ファンダクト14、安定化リング15、基盤フォルダ16、第1のプロペラ(第1の送風手段)32a、第2のプロペラ(第2の送風手段)32b、撮影モジュール2、制御モジュール5およびバッテリー9を備えている。主に、上部ファンダクト11、方向転換ダクト12、方向転換ダクトフォルダ13、下部ファンダクト14、第1のプロペラ32aおよび第2のプロペラ32bが、送風機として機能する。なお、
図14では、第1のプロペラ32aおよび第2のプロペラ32bを把握しやすいように、上部ファンダクト11、方向転換ダクト12、方向転換ダクトフォルダ13の一部および下部ファンダクト14を透明に示している。
【0071】
図15(a)~(e)はそれぞれ、上部ファンダクト11の平面図、正面図、底面図、B-B断面図および斜視図である。上部ファンダクト11は、移動・撮影ユニット10の最上部に位置しており、円筒体11a、3つの補強バー11b~11dおよび軸受11e備えている。上部ファンダクト11の軽量化を図るため、円筒体11aには、円形および八角形の孔が多数形成されている。上部ファンダクト11が
図10に示すバルーン4aの中央孔41に挿入されることにより、移動・撮影ユニット10がバルーン4aに取り付けられる。補強バー11b,11cは、円筒体11aの上部開口部の径方向に延伸し、かつ、互いに直角に交差するように設けられており、補強バー11dは、円筒体11aの下部開口部の径方向に延伸するように設けられている。これにより、上部ファンダクト11がバルーン4aの中央孔41の内周縁からの圧力によって変形することを防止している。
【0072】
図14に示すように、上部ファンダクト11の円筒体11aの内部には、第1のプロペラ32aが配置されている。第1のプロペラ32aは、円筒体11aの中心軸方向に延伸し軸受11eに接続されたDCモータ17aによって回転する。これにより、第1のプロペラ32aは、上方向の成分を有する第1の方向、および下方向の成分を有する第3の方向の気流を形成することができる。以下では、第1のプロペラ32aが第1の方向の気流を形成する回転を正回転とする。なお、第1のプロペラ32aは、双方向に回転可能であることが好ましいが、正回転のみ可能であってもよい。
【0073】
方向転換ダクト12および方向転換ダクトフォルダ13は、上部ファンダクト11と下部ファンダクト14との間に設けられている。方向転換ダクト12は、上部ファンダクト11と下部ファンダクト14とのいずれにも接続されておらず、上部ファンダクト11と下部ファンダクト14とは、方向転換ダクトフォルダ13を介して接続されている。
【0074】
先に、方向転換ダクトフォルダ13の構造について説明する。
図16(a)~(d)はそれぞれ、方向転換ダクトフォルダ13の平面図、正面図、底面図および斜視図である。方向転換ダクトフォルダ13は、上部リング13a、下部リング13bおよび4つの接続バー13c~13fを備えている。上部リング13aおよび下部リング13bは、直径が互いに等しく、上下方向に延びる接続バー13c~13fによって接続されている。上部リング13aの内周縁には、上部ファンダクト11の下端が嵌め込まれ、下部リング13bの内周縁には、下部ファンダクト14の上端が嵌め込まれる。これにより、上部ファンダクト11と下部ファンダクト14とが、方向転換ダクトフォルダ13を介して接続される。
【0075】
方向転換ダクトフォルダ13の接続バー13c~13fによって取り囲まれる領域には、方向転換ダクト12が配置される。
図17(a)~(f)は、方向転換ダクト12の平面図、正面図、底面図、C-C断面図、左上方向からの斜視図および右上方向からの斜視図である。方向転換ダクト12は、円筒体12a、風向切換板12bおよび回転軸12cを主に備えている。円筒体12aには、2つの略円形の開口12d,12eが形成されており、開口12d,12eは、回転軸12cを挟んで対向している。
【0076】
風向切換板12bは、円筒体12aの内部空間を2つの空間に区分する隔壁である。風向切換板12bの形状は、傾斜した平板状であってもよいが、本実施例のように、上方に張り出したエルボー型(雨どいの曲がり角の形状)であることが好ましい。風向切換板12bによって区分された空間のうち、上部の空間は、開口12dおよび円筒体12aの上部開口を介して外部空間と連通しており、下部の空間は、開口12eを介して外部空間と連通している。回転軸12cは、円筒体12aの中心軸に沿って延伸しており、風向切換板12bを貫通している。回転軸12cは、
図13に示す方向転換ダクト用ステッピングモータ17cに接続されている。回転軸12cが回転することにより、方向転換ダクト12の全体が、上部ファンダクト11、方向転換ダクトフォルダ13および下部ファンダクト14に対して相対的に回転する。
【0077】
図18(a)~(e)はそれぞれ、下部ファンダクト14の平面図、正面図、底面図、背面図および斜視図である。下部ファンダクト14は、方向転換ダクト12の下方に位置しており、円筒体14a、2つの補強バー14b,14cおよび軸受14dを備えている。円筒体14aは、下方に突出する2つの突出部14e,14fを備えている。突出部14e,14fには、下部ファンダクト14を安定化リング15に接続するための接続用孔が形成されている。補強バー14b,14cは、円筒体14aの変形を防止するため、円筒体14aの上部開口部の径方向に延伸し、かつ、互いに直角に交差するように設けられている。軸受14dは、
図14に示す第2のプロペラ32bを回転可能に支持するものであり、第2のプロペラ32bは、
図13に示すDCモータ17bによって回転する。これにより、第2のプロペラ32bは、上方向の成分を有する第1の方向、および下方向の成分を有する第3の方向の気流を形成することができる。以下では、第2のプロペラ32bが第3の方向の気流を形成する回転を正回転とする。なお、第2のプロペラ32bは、双方向に回転可能であることが好ましいが、正回転のみ可能であってもよい。
【0078】
図19(a)~(c)はそれぞれ、安定化リング15の平面図、正面図および斜視図である。安定化リング15には、周方向に配列する多数の孔が形成されている。これらの孔のうち、互いに直交する2つの対角線上に位置する4つの接続用孔を介して、安定化リング15は、下部ファンダクト14および基盤フォルダ16と接続される。
【0079】
図20(a)~(e)はそれぞれ、基盤フォルダ16の平面図、正面図、底面図、側面図および斜視図である。基盤フォルダ16は、リング16aおよび支持フレーム16bを備えている。リング16aは、上方に突出する2つの突出部16c,16dを備えている。突出部16c,16dは、リング16aの径方向に対向しており、突出部16c,16dには、基盤フォルダ16を安定化リング15に接続するための接続用孔が形成されている。
【0080】
支持フレーム16bは、
図14に示す撮影モジュール2、制御モジュール5およびバッテリー9を支持する部材である。撮影モジュール2は、鉛直方向を撮影するように支持フレーム16bに取り付けられる。制御モジュール5は、撮影モジュール2、DCモータ17a,17bおよび方向転換ダクト用ステッピングモータ17cの駆動を制御するものである。バッテリー9は、撮影モジュール2、制御モジュール5、DCモータ17a,17bおよび方向転換ダクト用ステッピングモータ17cに電力を供給する。
【0081】
安定化リング15は、4つの接続用孔を介して、下部ファンダクト14および基盤フォルダ16と接続されている。これらの接続態様を、ウェーブワッシャ(図示省略)を用いたユニバーサルジョイントによる接続とすることにより、上部ファンダクト11、方向転換ダクト12、方向転換ダクトフォルダ13、下部ファンダクト14の中心軸が鉛直方向からある程度(20℃程度)傾いた状態となっても、撮影モジュール2の撮影方向を鉛直方向のまま維持することができる。これにより、例えば、バルーン4aが凹凸のある箇所に当接した場合であっても、撮影モジュール2の撮影方向を維持することができる。
【0082】
(無人航空機の動作)
以上のような構成を有する無人航空機1aの動作について、
図13に基づいて説明する。上述のように、第1のプロペラ32aおよび第2のプロペラ32bはそれぞれ、DCモータ17a,17bによって回転する。第1のプロペラ32aおよび第2のプロペラ32bの各回転方向は、互いに独立して制御可能である。また、第1のプロペラ32aと第2のプロペラ32bとの間に設けられた風向切換板12bは、第1のプロペラ32aおよび/または第2のプロペラ32bによって形成された気流の方向を略90°切り換える。
【0083】
例えば、第1のプロペラ32aが正回転した場合、方向転換ダクト12の上側において上方向の気流が形成され、方向転換ダクト12の開口12dから空気が取り込まれる。このとき、開口12dから取り込まれた空気は、第2の方向(略水平方向)に流れるが、風向切換板12bが、気流を第2の方向から第1のプロペラ32aに向かう第1の方向(略上方向)に切り換える。これにより、開口12dから取り込まれた空気は、上部ファンダクト11を通過した後、上部ファンダクト11の上部から外部に排出される。反対に、第1のプロペラ32aが逆回転した場合、方向転換ダクト12の上側において下方向の気流が形成され、上部ファンダクト11の上部から空気が取り込まれる。当該空気は、上部ファンダクト11を通過した後、方向転換ダクト12の風向切換板12bによって略水平方向に移動し、開口12dから外部に排出される。
【0084】
また、第2のプロペラ32bが正回転した場合、方向転換ダクト12の下側において下方向の気流が形成され、方向転換ダクト12の開口12eから空気が取り込まれる。このとき、開口12eから取り込まれた空気は、第2の方向の反対方向(略水平方向)に流れるが、風向切換板12bが、気流を当該反対方向から第2のプロペラ32bに向かう第3の方向(略下方向)に切り換える。これにより、開口12dから取り込まれた空気は、下部ファンダクト14を通過した後、制御モジュール5の上面に当たって略水平方向に放射状に排出される。反対に、第2のプロペラ32bが逆回転した場合、方向転換ダクト12の下側において上方向の気流が形成され、下部ファンダクト14の下部から空気が取り込まれる。当該空気は、方向転換ダクト12の風向切換板12bによって略垂直方向に移動し、方向転換ダクト12の開口12eから外部に排出される。
【0085】
例えば、無人航空機1aを天井に接触した状態から垂直に降下させる場合、第1のプロペラ32aを正回転させると同時に、第2のプロペラ32bを、第1のプロペラ32aと同じ回転速度で正回転させる。このとき、空気が上部ファンダクト11の上部から排出されることにより、無人航空機1aに下方向の力が働き、無人航空機1aは天井から離脱する。また、第1のプロペラ32aの回転によって、方向転換ダクト12の開口12dから空気が取り込まれることにより、無人航空機1aには左方向の力が働くが、第2のプロペラ32bの回転によって、方向転換ダクト12の開口12eから空気が取り込まれることにより、無人航空機1aには右方向の力が働く。これらの力が相殺されることにより、無人航空機1aは水平方向に移動することなく、垂直方向に降下することができる。
【0086】
その後、無人航空機1aの降下を停止させる場合、第1のプロペラ32aおよび第2のプロペラ32bの回転を停止させる。このとき、無人航空機1aにはバルーン4aの浮力が働くため、無人航空機1aの降下が停止する。なお、バルーン4aの浮力が小さい場合、無人航空機1aの質量による慣性のため、停止までの時間が長くなる。そのため、無人航空機1aの降下を停止させる場合、第1のプロペラ32aおよび第2のプロペラ32bを一時的に逆回転させる(逆舵)ことが好ましい。これにより、無人航空機1aには、バルーン4aの浮力に加えて、上方向の力が制動力として働くため、停止までの時間を短縮できる。
【0087】
また、無人航空機1aを空中で停止させる場合、降下時と同様、第1のプロペラ32aを正回転させると同時に、第2のプロペラ32bを、第1のプロペラ32aと同じ回転速度で正回転させるが、空気が上部ファンダクト11の上部から排出されることによって無人航空機1aに働く下方向の力が、バルーン4aの浮力と等しくなるように、第1のプロペラ32aおよび第2のプロペラ32bの回転速度を調整する。この状態で、第2のプロペラ32bを停止させると、開口12eから空気が取り込まれなくなるため、無人航空機1aには
図13における右方向の力のみが働く。これにより、無人航空機1aは、水平右方向に移動する。
【0088】
また、方向転換ダクト12は、方向転換ダクト用ステッピングモータ17cによって、上部ファンダクト11、方向転換ダクトフォルダ13および下部ファンダクト14に対して相対的に回転可能である。すなわち、風向切換板12bは、第1のプロペラ32aおよび第2のプロペラ32bの配列方向に延びる軸周りに、第1のプロペラ32aおよび第2のプロペラ32bに対して相対的に回転可能である。よって、例えば、無人航空機1aを水平方向に移動させる際に、方向転換ダクト12を回転させて、開口12dの方向を調節することにより、無人航空機1aを所望の方向に水平移動させることができる。
【0089】
このように、第1のプロペラ32a、第2のプロペラ32bおよび風向切換板12bを組み合わせ、第1のプロペラ32aおよび第2のプロペラ32bの回転によって、無人航空機1aの上下方向および水平方向の移動を制御することができる。よって、送風方向を調節するサーボモータを排除して、無人航空機1aの軽量化を図ることができる。また、本実施例では、移動・撮影ユニット10を主に構成する上部ファンダクト11、方向転換ダクト12、方向転換ダクトフォルダ13、下部ファンダクト14、安定化リング15および基盤フォルダ16をいずれも円筒形状に形成し、これらを同軸上に配列している。これにより、移動・撮影ユニット10をバルーン4aの中央孔41に容易に取り付けることができる。また、移動・撮影ユニット10の構成要素で比較的重い制御モジュール5、バッテリー9、撮影モジュール2を移動・撮影ユニット10の下部に配置し、それら以外の構成要素を、プラスチック樹脂などの軽い材料で構成することにより、無人航空機1aの中央バランスの確保と低重心化を図ることができる。
本発明に係る無人航空機は、上述の試験や遠隔授業の監視の他、室内の高所において行うことが有利な様々な用途に利用できる。例えば、撮影モジュールを搭載した無人航空機の場合、災害時の避難場所(体育館など)において、被災者に体調が悪化している者がいるかを無人航空機によって監視することができる。
また、本発明者の一人は、障害者支援のため、超音波センサや視覚センサを取り付けた白杖を用いて、階段や部屋の出入り口などの屋内の構造を取得する技術を研究している。この技術において、無人航空機を用いて屋内を撮影し、屋内の構造を解析したデータを作成しておき、障害者が入室すると同時に、上述の白杖に当該データを無線で入力することにより、精度が高くより安全な障害者支援を行うことが可能になる。さらには、自動掃除機によって屋内を掃除する場合に、無人航空機を用いて屋内を撮影してゴミや障害物の位置を示すデータを作成しておき、自動掃除機に当該データを無線で入力することにより、さらに効率的な掃除を行うことができる。このように、屋内構造のセンシング手段としての無人航空機を他の機器と連携させることで、当該機器による作業の効率化を図ることができる。
また、スピーカーを搭載した無人航空機の場合、屋内の各部屋にスピーカーを設置することなく、必要に応じて部屋にBGMやアナウンスなどの音声を流すことできる。また、無人航空機はバッテリーによって駆動するため、上述の災害時の避難場所に停電が発生した場合に、被災者等に対する情報伝達手段として活用できる。さらに、無人航空機にLEDライトを搭載することにより、例えば、停電時の避難場所において夜間の照明として活用できる。
また、無人航空機にレーザポインタを用いた計測装置を搭載することにより、屋内の高所の構造を容易に確認することができる。さらに、レーザポインタによる計測データを、撮影モジュールによる画像データと組み合わせて解析することにより、屋内の3次元的な空間構造をより高精度に把握することができる。