(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173817
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】半導体製造用プロセス溶液供給装置及び半導体材料の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/66 20060101AFI20221115BHJP
C02F 1/58 20060101ALI20221115BHJP
C02F 1/70 20060101ALI20221115BHJP
C02F 1/72 20060101ALI20221115BHJP
C02F 1/78 20060101ALI20221115BHJP
C02F 1/20 20060101ALI20221115BHJP
H01L 21/306 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C02F1/66 510A
C02F1/58 H
C02F1/66 521A
C02F1/66 521B
C02F1/66 521E
C02F1/66 522A
C02F1/66 522B
C02F1/66 522F
C02F1/66 530L
C02F1/66 530Q
C02F1/66 540H
C02F1/70 Z
C02F1/72 Z
C02F1/78
C02F1/20 A
H01L21/306 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079773
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】顔 暢子
【テーマコード(参考)】
4D037
4D038
4D050
5F043
【Fターム(参考)】
4D037AB11
4D037BA23
4D037BB03
4D037BB05
4D037CA03
4D037CA09
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4D050AA05
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4D050BA05
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4D050BD04
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4D050CA13
5F043AA26
5F043BB18
5F043DD10
5F043EE28
5F043EE29
5F043EE31
5F043GG02
(57)【要約】
【課題】 配線金属としてのモリブデンなどのクロム族元素を所定量だけ溶解させる処理液を製造・供給可能な半導体製造用プロセス溶液供給装置を提供する。
【解決手段】 半導体製造用プロセス溶液供給装置1は、pH調整水製造部2と、酸化還元電位調整溶媒製造部3とを備える。pH調整水製造部2は、超純水Wの供給ライン21に白金族金属担持樹脂カラム22を設け、pH調整剤注入ライン23Aを備え、さらに酸化還元電位調整剤注入ライン24Aが合流していて、pH調整水を貯留する第一の貯留槽25に連通している。酸化還元電位調整溶媒製造部3は、イソプロピルアルコールSの供給ライン31に、酸化還元電位調整剤注入ライン32Aが合流していて、酸化還元電位調整溶媒を貯留する第二の貯留槽33が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水供給ラインと、この超純水供給ラインに配置された過酸化水素除去機構と、過酸化水素を除去した超純水に対し所定のpHになるようにpH調整剤を添加するpH調整機構と、pHを調整したpH調整水のpHを監視するための第一の水質監視機構と、前記第一の水質監視機構で測定された水質に基づいて所望のpHとなるように前記pH調整機構によるpH調整剤の添加量を制御する制御機構と、製造されたpH調整水を貯留する第一の貯留槽とを備えたpH調整水製造部、
非水系溶媒供給ラインと、この非水系溶媒供給ラインに配置された前記非水系溶媒に対し所定の酸化還元電位になるよう酸化還元電位調整剤を添加する酸化還元電位調整機構と、製造された酸化還元電位調整溶媒を貯留する第二の貯留槽とを備えた酸化還元電位調整溶媒製造部、
及び前記第一の貯留槽に貯留されたpH調整水と第二の貯留槽に貯留された酸化還元電位調整溶媒とをそれぞれ供給する供給手段
を有する、半導体製造用プロセス溶液供給装置。
【請求項2】
前記超純水供給ラインの過酸化水素除去機構の後段に、所定の酸化還元電位になるように酸化還元電位調整剤を添加する酸化還元電位調整機構と、酸化還元電位を調整した調整水の酸化還元電位を監視するための第二の水質監視機構と、前記第二の水質監視機構で測定された水質に基づいて所望の酸化還元電位となるように前記酸化還元電位調整機構による酸化還元電位調整剤の添加量を制御する制御機構とを備える、請求項1に記載の半導体製造用プロセス溶液供給装置。
【請求項3】
前記供給手段が前記第一の貯留槽に貯留されたpH調整水と前記第二の貯留槽に貯留された酸化還元電位調整溶媒とを交互に供給可能である、請求項1又は2に記載の半導体製造用プロセス溶液供給装置。
【請求項4】
前記pH調整水製造部における前記pH調整剤が、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、TMAH、コリンの1種又は2種以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体製造用プロセス溶液供給装置。
【請求項5】
前記pH調整水製造部における前記酸化還元電位調整剤が水素ガス、シュウ酸、硫化水素、ヨウ化カリウムの1種又は2種以上である、請求項2に記載の半導体製造用プロセス溶液供給装置。
【請求項6】
前記酸化還元電位調整溶媒製造部における酸化還元電位調整剤が、過酸化水素、オゾンガス、酸素ガス、硝酸、ヨウの1種又は2種以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の半導体製造用プロセス溶液供給装置。
【請求項7】
前記pH調整水製造部における前記pH調整剤又は酸化還元電位調整剤が液体であり、該pH調整剤又は酸化還元電位調整剤をポンプあるいは密閉タンクと不活性ガスを用いる加圧手段により超純水供給ラインへ薬注する、請求項2又は4に記載の半導体製造用プロセス溶液供給装置。
【請求項8】
前記pH調整水製造部における前記pH調整剤又は酸化還元電位調整剤が気体であり、該pH調整剤又は酸化還元電位調整剤を気体透過性膜モジュールあるいはエゼクタによる直接気液接触装置を用いたガス溶解により添加する、請求項2又は4に記載の半導体製造用プロセス溶液供給装置。
【請求項9】
前記酸化還元電位調整溶媒製造部における酸化還元電位調整剤が液体であり、該酸化還元電位調整剤をポンプあるいは密閉タンクと不活性ガスを用いる加圧手段により非水系溶媒供給ラインへ薬注する、請求項1~8のいずれか1項に記載の半導体製造用プロセス溶液供給装置。
【請求項10】
前記酸化還元電位調整溶媒製造部における前記酸化還元電位調整剤が気体であり、該酸化還元電位調整剤を気体透過性膜モジュールあるいはエゼクタによる直接気液接触装置を用いたガス溶解により添加する、請求項1~8のいずれか1項に記載の半導体製造用プロセス溶液供給装置。
【請求項11】
前記pH調整水中の溶存酸素を除去する機構を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の半導体製造用プロセス溶液供給装置。
【請求項12】
前記第一の貯留槽に不活性ガスのパージ機構を備える、請求項1~11のいずれか1項に記載の半導体製造用プロセス溶液供給装置。
【請求項13】
前記pH調整水のpHが9以上13以下で酸化還元電位が-0.4V以上0.4V以下あり、前記酸化還元電位調整溶媒の酸化還元電位が0V以上1.7V以下である、請求項1~12のいずれか1項に記載の半導体製造用プロセス溶液供給装置。
【請求項14】
前記pH調整水及び前記酸化還元電位調整溶媒をクロム族元素が露出する半導体材料の表面を洗浄もしくは溶解する工程に用いる、請求項1~13のいずれか1項に記載の半導体製造用プロセス溶液供給装置。
【請求項15】
非水系溶媒に対して所定の酸化還元電位になるよう酸化還元電位調整剤を添加して酸化還元電位調整溶媒を製造し、この酸化還元電位調整溶媒により半導体材料の表面を処理する第一工程と、
超純水に対してpH調整剤を添加してpH調整水を製造し、このpH調整水により半導体材料の表面を処理する第二工程と
を備える、半導体材料の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体製造プロセスで使用する溶液の供給装置に関し、特に配線金属としてモリブデンなどのクロム族元素を使用する半導体の配線製造工程で、配線金属を所定量だけ溶解させる処理液を製造・供給可能な半導体製造用プロセス溶液供給装置に関する。また、本発明は配線金属としてモリブデンなどのクロム族元素を使用する半導材料の配線製造工程で、配線金属を所定量だけ溶解させる半導体材料の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体の微細化に伴い、配線幅も縮小が進んでいる。従来の半導体製造プロセスにおける配線製造工程では、以前から製造装置由来による配線の位置ずれが発生していたが、配線幅が広かったため配線の位置ずれによる影響は無視できるものであり、歩留まりにも影響しなかった。しかしながら、配線幅の微細化が進んだことで、従来は無視できていた配線の位置ずれが、例え極僅かであって歩留まりに影響するため、無視できなくなってきた。配線の微細化は今後も続く上、配線の位置ずれは製造装置に起因するため、配線の位置ずれそのものの発生を防止することは困難である。
【0003】
そこで、配線の位置ずれによる半導体の性能の劣化を防止する方法として、配線層の極微小エッチング技術の開発が進められている。この極微小エッチング技術とは、予め配線層を極微小に溶解しておくことで、配線間に存在する層間絶縁膜を堤防のように利用し、万一配線の位置ずれが発生した場合でも配線同士が接触しないような構造とすることで、無用な短絡を防止する技術であり、微細化が進む限り必要とされる技術である。
【0004】
タングステンやモリブデンのようなクロム族元素からなる配線向けの極微小エッチングにはウェット処理が適用されており、オゾン水と希釈過酸化水素水の2液で交互に処理し金属表面の酸化と溶解を繰り返し徐々に配線金属を除去するデジタルエッチ(digital etch)と呼ばれる手法などが一般的に用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のデジタルエッチのような極微小エッチング技術では、配線幅の違いにより金属の溶解量(=溶解深さ、以下メタルロス(metal loss)と呼ぶ)が異なり(以下パターンローディング(pattern loading)と呼ぶ)、たとえ極微小エッチングができたとしても半導体の性能に悪影響を及ぼす、という問題がある。また、極微小エッチング後の配線金属の表面粗さが増加することで半導体の電気特性が悪化する、という問題もある。特にクロム族元素(モリブデン)から成る配線製造工程において、配線幅の大きさの違いによらずメタルロスを一定とすることが望ましい。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、配線金属としてモリブデンなどのクロム族元素を使用する半導体の配線製造工程で、配線金属を所定量だけ溶解させる処理液を製造・供給可能な半導体製造用プロセス溶液供給装置を提供することを目的とする。また、本発明は、配線金属としてモリブデンなどのクロム族元素を使用する半導材料の配線製造工程で、配線金属を所定量だけ溶解させることの可能な半導体材料の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的に鑑み、本発明は第一に、超純水供給ラインと、この超純水供給ラインに配置された過酸化水素除去機構と、過酸化水素を除去した超純水に対し所定のpHになるようにpH調整剤を添加するpH調整機構と、pHを調整したpH調整水のpHを監視するための第一の水質監視機構と、前記第一の水質監視機構で測定された水質に基づいて所望のpHとなるように前記pH調整機構によるpH調整剤の添加量を制御する制御機構と、製造されたpH調整水を貯留する第一の貯留槽とを備えたpH調整水製造部、非水系溶媒供給ラインと、この非水系溶媒供給ラインに配置された前記非水系溶媒に対し所定の酸化還元電位になるよう酸化還元電位調整剤を添加する酸化還元電位調整機構と、製造された酸化還元電位調整溶媒を貯留する第二の貯留槽とを備えた酸化還元電位調整溶媒製造部、及び前記第一の貯留槽に貯留されたpH調整水と第二の貯留槽に貯留された酸化還元電位調整溶媒とをそれぞれ供給する供給手段を有する、半導体製造用プロセス溶液供給装置を提供する(発明1)。
【0008】
かかる発明(発明1)によれば、pH調整水製造部においては、超純水供給ラインから超純水を過酸化水素除去機構に通水することにより、超純水中に微量含まれる過酸化水素を除去し、この過酸化水素を除去した超純水に所望とするpHとなるようにpH調整剤を添加してpH調整水を調製し、第一の貯留槽に貯留する。一方、酸化還元電位調整溶媒製造部においては、非水系溶媒供給ラインから非水系溶媒を供給し、この非水系溶媒に所望とする酸化還元電位となるように酸化還元電位調整剤を添加し酸化還元電位調整溶媒を調整し、第二の貯留槽に貯留する。そして、第一の貯留槽のpH調整水と、第二の貯留槽の酸化還元電位調整溶媒とで半導体を処理することができるので、モリブデンなどのクロム族元素を配線金属として使用する半導体の配線製造工程で配線金属を所定量だけ溶解することが可能となる。
【0009】
上記発明(発明1)においては、前記超純水供給ラインの過酸化水素除去機構の後段に、所定の酸化還元電位になるように酸化還元電位調整剤を添加する酸化還元電位調整機構と、酸化還元電位を調整した調整水の酸化還元電位を監視するための第二の水質監視機構と、前記第二の水質監視機構で測定された水質に基づいて所望の酸化還元電位となるように前記酸化還元電位調整機構による酸化還元電位調整剤の添加量を制御する制御機構とを備えることが好ましい(発明2)。
【0010】
かかる発明(発明2)によれば、超純水に所望とする酸化還元電位となるように酸化還元電位調整剤を添加することで、酸化還元電位を調整したpH調整水(pH・酸化還元電位調整水)を調製し、第一の貯留槽に貯留する。そして、pH・酸化還元電位調整水と、第二の貯留槽の酸化還元電位調整溶媒とで半導体を処理することができるので、モリブデンなどのクロム族元素を配線金属として使用する半導体の配線製造工程で配線金属を所定量だけ溶解することが可能となる。
【0011】
上記発明(発明1,2)においては、前記供給手段が前記第一の貯留槽に貯留されたpH調整水と前記第二の貯留槽に貯留された酸化還元電位調整溶媒とを交互に供給可能であることが好ましい(発明3)。
【0012】
かかる発明(発明3)によれば、第二の貯留槽の酸化還元電位調整溶媒と、第一の貯留槽のpH調整水とで交互に洗浄を行うことができるので、モリブデンなどのクロム族元素を配線金属として使用する半導体の配線製造工程で配線金属を所定量だけ溶解することが可能となる。
【0013】
上記発明(発明1~3)においては、前記pH調整水製造部における前記pH調整剤が、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、TMAH、コリンの1種又は2種以上であることが好ましい(発明4)。
【0014】
かかる発明(発明4)によれば、これらのpH調整剤を適宜選択するとともにその添加量を適宜調整することで、種々のpH調整水を製造することができるので、半導体の配線金属や線幅に応じて、種々のpH調整水で処理を行うことができる。
【0015】
上記発明(発明2)においては、前記pH調整水製造部における前記酸化還元電位調整剤が水素ガス、シュウ酸、硫化水素、ヨウ化カリウムの1種又は2種以上であることが好ましい(発明5)。
【0016】
かかる発明(発明5)によれば、これらの酸化還元電位調整剤を適宜選択するとともにその添加量を適宜調整することで、種々のpH・酸化還元電位調整水を製造することができるので、半導体の配線金属や線幅に応じて、種々のpH調整水で処理を行うことができる。
【0017】
上記発明(発明1~5)においては、前記酸化還元電位調整溶媒製造部における酸化還元電位調整剤が、過酸化水素、オゾンガス、酸素ガス、硝酸、ヨウの1種又は2種以上であることが好ましい(発明6)。
【0018】
かかる発明(発明6)によれば、これらの酸化還元電位調整剤を適宜選択するとともにその添加量を適宜調整することで、種々の酸化還元電位調整溶媒を製造することができるので、半導体の配線金属や線幅に応じて、種々の酸化還元電位調整溶媒で処理を行うことができる。
【0019】
上記発明(発明2,4)においては、前記pH調整水製造部における前記pH調整剤又は酸化還元電位調整剤が液体であり、該pH調整剤又は酸化還元電位調整剤をポンプあるいは密閉タンクと不活性ガスを用いる加圧手段により超純水供給ラインへ薬注する、ことが好ましい(発明7)。
【0020】
かかる発明(発明7)によれば、pH調整水製造部における液体のpH調整剤又は酸化還元電位調整剤の添加量を容易かつ微細に制御することができる。
【0021】
上記発明(発明2,4)においては、前記pH調整水製造部における前記pH調整剤又は酸化還元電位調整剤が気体であり、該pH調整剤又は酸化還元電位調整剤を気体透過性膜モジュールあるいはエゼクタによる直接気液接触装置を用いたガス溶解により添加する、ことが好ましい(発明8)。
【0022】
かかる発明(発明8)によれば、pH調整水製造部における気体のpH調整剤又は酸化還元電位調整剤の添加量を容易かつ微細に制御することができる。
【0023】
上記発明(発明1~8)においては、前記酸化還元電位調整溶媒製造部における酸化還元電位調整剤が液体であり、該酸化還元電位調整剤をポンプあるいは密閉タンクと不活性ガスを用いる加圧手段により非水系溶媒供給ラインへ薬注することが好ましい(発明9)。
【0024】
かかる発明(発明9)によれば、酸化還元電位調整溶媒における液体の酸化還元電位調整剤の添加量を容易かつ微細に制御することができる。
【0025】
上記発明(発明1~8)においては、前記酸化還元電位調整溶媒製造部における前記酸化還元電位調整剤が気体であり、該酸化還元電位調整剤を気体透過性膜モジュールあるいはエゼクタによる直接気液接触装置を用いたガス溶解により添加することが好ましい(発明10)。
【0026】
かかる発明(発明10)によれば、酸化還元電位調整溶媒における気体の酸化還元電位調整剤の添加量を容易かつ微細に制御することができる。
【0027】
上記発明(発明1~10)においては、前記pH調整水中の溶存酸素を除去する機構を有することが好ましい(発明11)。
【0028】
かかる発明(発明11)によれば、溶存酸素の影響により、pH調整水又はpH調整水のpHや酸化還元電位が変動するのを抑制して、所望とするpH調整水を製造することができる。
【0029】
上記発明(発明1~11)においては、前記第一の貯留槽に不活性ガスのパージ機構を備えることが好ましい(発明12)。
【0030】
かかる発明(発明12)によれば、pH・酸化還元電位調整を第一の貯留槽に貯留している間に酸素や二酸化炭素などが溶解して、pH調整水のpHや酸化還元電位が変動するのを抑制することができる。
【0031】
上記発明(発明1~12)においては、前記pH調整水のpHが9以上13以下で酸化還元電位が-0.4V以上0.4V以下あり、前記酸化還元電位調整溶媒の酸化還元電位が0V以上1.7V以下であることが好ましい(発明13)。
【0032】
かかる発明(発明13)によれば、このような酸化還元電位の酸化還元電位調整溶媒は、モリブデンなどのクロム族元素が不導体化しやすく、これにより溶解しづらくなるのでモリブデンの溶解速度を低く抑制することができる一方、このようなpH及び酸化還元電位のpH調整水は、配線幅の違いによらず一定のメタルロスとして、短い処理時間で例えばメタルロス10nmの極微小エッチング処理が可能となる。
【0033】
上記発明(発明1~13)においては、前記pH調整水及び前記酸化還元電位調整溶媒をクロム族元素が露出する半導体材料の表面を洗浄もしくは溶解する工程に用いることが好ましい(発明14)。
【0034】
かかる発明(発明14)によれば、モリブデンなどのクロム族元素の溶解を抑制可能なpH及び酸化還元電位の調製水と、クロム族元素の溶解を微調整可能な異なる酸化還元電位の非水系溶媒とで交互に洗浄することで、配線幅の違いによらず一定のメタルロスとして、短い処理時間で例えばメタルロス10nmの極微小エッチング処理が可能となる。
【0035】
また、本発明は第二に、非水系溶媒に対して所定の酸化還元電位になるよう酸化還元電位調整剤を添加して酸化還元電位調整溶媒を製造し、この酸化還元電位調整溶媒により半導体材料の表面を処理する第一工程と、超純水に対してpH調整剤を添加してpH調整水を製造し、このpH調整水により半導体材料の表面を処理する第二工程とを備える、半導体材料の処理方法を提供する(発明15)。
【0036】
かかる発明(発明15)によれば、最初にモリブデンなどのクロム族元素の溶解を抑制可能な酸化還元電位調整溶媒と、クロム族元素の溶解を微調整可能なpH調整水とで交互に処理することで、配線幅の違いによらず一定のメタルロスとして、安定した極微小エッチング処理が可能となる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の半導体製造用プロセス溶液供給装置によれば、酸化還元電位調整溶媒とpH調整水とで交互に洗浄を行うことができるので、最初にモリブデンなどのクロム族元素の溶解を抑制可能な酸化還元電位調整溶媒と、クロム族元素の溶解を微調整可能な異なるpH調整水とで交互に処理することで、配線幅の違いによらず一定のメタルロスとして、短い処理時間で極微小エッチング処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の一実施形態による半導体製造用プロセス溶液供給装置を示す概略図である。
【
図2】実施例1におけるIPA中の過酸化水素濃度とモリブデンの溶解膜厚の合計量との関係を示すグラフである。
【
図3】実施例1におけるIPA中の過酸化水素濃度とモリブデンの各工程ごとの溶解膜厚との関係を示すグラフである。
【
図4】比較例1におけるオゾン水と過酸化水素水中の浸漬時間とモリブデンの溶解膜厚との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の半導体製造用プロセス溶液供給装置について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0040】
〔半導体製造用プロセス溶液供給装置〕
図1は、本発明の一実施形態による半導体製造用プロセス溶液供給装置を示しており、
図1において半導体製造用プロセス溶液供給装置1は、pH調整水製造部2と、酸化還元電位調整溶媒製造部3とを備える。
【0041】
(pH調整水製造部2)
pH調整水製造部2は、超純水Wの供給ライン21に過酸化水素除去機構たる白金族金属担持樹脂カラム22を設け、この供給ライン21にはpH調整剤タンク23に連通した給液機構(給液ポンプ)23Bを備えたpH調整剤注入ライン23Aが接続しており、本実施形態においては、さらに第一の酸化還元電位調整剤タンク24に連通した給液機構(給液ポンプ)24Bを備えた酸化還元電位調整剤注入ライン24Aが合流している。この酸化還元電位調整剤注入ライン24Bの後段には、pH調整水を貯留する第一の貯留槽25が設けられていて、この第一の貯留槽25は、本実施形態においては不活性ガス(IG)でパージされている。そして、供給ライン21はこの第一の貯留槽25からユースポイントUPに延在している。なお、26,27はそれぞれ第一の開閉弁及び第二の開閉弁である。
【0042】
そして、本実施形態においては、供給ライン21のpH調整剤注入ライン23A及び酸化還元電位調整剤注入ライン24Aの下流側には、図示しない第一の水質監視機構であるpH計測手段としてのpH計と、第二の水質監視機構である酸化還元電位計測手段としてのORP計などの調整水質監視機構が設けられていて、これらpH計やORP計は、パーソナルコンピュータなどの制御装置に接続している。そして、この制御装置は、これらpH計及びORP計の計測値に基づいてpH調整剤注入量、酸化還元電位調整剤注入量を制御可能となっている。
【0043】
<超純水>
本実施形態において、原水となる超純水Wとは、例えば、抵抗率:18.1MΩ・cm以上、微粒子:粒径50nm以上で1000個/L以下、生菌:1個/L以下、TOC(Total Organic Carbon):1μg/L以下、全シリコン:0.1μg/L以下、金属類:1ng/L以下、イオン類:10ng/L以下、過酸化水素;30μg/L以下、水温:25±2℃のものが好適である。
【0044】
<過酸化水素除去機構>
本実施形態においては、過酸化水素除去機構として白金族金属担持樹脂カラム22を使用する。
【0045】
(白金族金属)
本実施形態において、白金族金属担持樹脂カラム22に用いる白金族金属担持樹脂に担持する白金族金属としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金を挙げることができる。こられの白金族金属は、1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもでき、2種以上の合金として用いることもでき、あるいは、天然に産出される混合物の精製品を単体に分離することなく用いることもできる。これらの中で白金、パラジウム、白金/パラジウム合金の単独又はこれらの2種以上の混合物は、触媒活性が強いので好適に用いることができる。また、これらの金属のナノオーダーの微粒子も特に好適に用いることができる。
【0046】
(担体樹脂)
白金族金属担持樹脂カラム22において、白金族金属を担持させる担体樹脂としては、イオン交換樹脂を用いることができる。これらの中で、アニオン交換樹脂を特に好適に用いることができる。白金系金属は、負に帯電しているので、アニオン交換樹脂に安定に担持されて剥離しにくいものとなる。アニオン交換樹脂の交換基は、OH形であることが好ましい。OH形アニオン交換樹脂は、樹脂表面がアルカリ性となり、過酸化水素の分解を促進する。
【0047】
<pH調整剤注入装置>
本実施形態において、pH調整剤注入装置としては、特に制限はなく、一般的な薬注装置を用いることができる。pH調整剤が液体の場合には、ダイヤフラムポンプなどのポンプを用いることができ、pH調整剤タンク23内は、不活性ガスを用いてパージしたり、脱気膜を用いてタンク内のpH調整剤液中の溶存酸素を除去する機構を設けたりすることが望ましい。また、密閉容器にpH調整剤または酸化還元電位調整剤をN2ガスなどの不活性ガスとともに入れておき、不活性ガスの圧力によりこれらの剤を押し出す加圧式ポンプも好適に用いることができる。さらに、pH調整剤が気体の場合には、気体透過膜モジュールやエゼクタ等の直接的な気液接触装置を用いることができる。
【0048】
<pH調整剤>
本実施形態において、pH調整剤タンク23から注入するpH調整剤としては特に制限はなく、pH7未満に調整する場合には、クエン酸、ギ酸、塩酸などの液体やCO2などの気体を用いることができるが、本実施形態においては液体を用いる。また、pH7以上に調整する場合には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はTMAH等を用いることができる。pH調整水をモリブデンなどのクロム族元素が露出しているウェハの洗浄水として用いる場合には、アルカリ性とするのが好ましいが、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属溶液は、金属成分を含有するため適当でない。したがって、本実施形態においては、アンモニアやクエン酸などを用いることが最も好ましい。
【0049】
<酸化還元電位調整剤注入装置>
本実施形態において、酸化還元電位調整剤注入装置としては特に制限はなく、一般的な薬注装置を用いることができる。酸化還元電位調整剤が液体の場合には、ダイヤフラムポンプなどのポンプを用いることができ、酸化還元電位調整剤のタンク24,32内は、不活性ガスを用いてパージしたり、脱気膜を用いてタンク内のpH調整剤液中の溶存酸素を除去する機構を設けたりすることが望ましい。また、密閉容器に酸化還元電位調整剤をN2ガスなどの不活性ガスとともに入れておき、不活性ガスの圧力によりこれらの剤を押し出す加圧式ポンプも好適に用いることができる。さらに、酸化還元電位調整剤が気体の場合には、気体透過膜モジュールやエゼクタ等の直接的な気液接触装置を用いることができる。
【0050】
<酸化還元電位調整剤>
本実施形態において、酸化還元電位調整剤タンク24,32から注入する酸化還元電位調整剤としては特に制限はないが、酸化還元電位を正側に調整するには、過酸化水素水などの液体やオゾンガス、酸素ガスなどのガス体を用いることができる。また、酸化還元電位を負側に調整するにはシュウ酸などの液体や水素などのガス体を用いることができる。ただし、本実施形態においては液体を用いる。例えば、モリブデンなどの遷移金属が露出しているウェハの洗浄水として用いる場合には、これらの材料の溶出を抑制するために酸化還元電位は正に調整するのが好ましいことから、過酸化水素水を用いることが最も好ましい。
【0051】
(酸化還元電位調整溶媒製造部3)
酸化還元電位調整溶媒製造部3は、非水系溶媒としてのイソプロピルアルコール(IPA)Sの供給ライン31に、第二の酸化還元電位調整剤タンク32に連通した給液機構(給液ポンプ)32Bを備えた酸化還元電位調整剤注入ライン32Aが合流していて、この酸化還元電位調整剤注入ライン32Aの後段には、酸化還元電位調整溶媒を貯留する第二の貯留槽33が設けられていて、この第二の貯留槽33は、本実施形態においては不活性ガス(IG)でパージされている。そして、第二の貯留槽33に接続した合流管34が供給ライン21に第一の開閉弁26の下流側で合流している。なお、35は第三の開閉弁である。
【0052】
そして、本実施形態においては、供給ライン31の酸化還元電位調整剤注入ライン32Aの下流側には、図示しない酸化還元電位計測手段としてのORP計などの酸化還元電位調整溶媒監視機構が設けられていて、このORP計は、パーソナルコンピュータなどの制御装置に接続している。そして、この制御装置は、これらORP計の計測値に基づいて酸化還元電位調整剤注入量を制御可能となっている。
【0053】
<半導体製造用プロセス溶液供給方法>
前述したような構成を有する本実施形態の半導体製造用プロセス溶液の製造装置1を用いた半導体製造用プロセス溶液の供給方法について以下説明する。
【0054】
(pH調整水の製造方法)
原水としての超純水W中には、一般的に数十ppbレベルの過酸化水素が含まれているため、調整水の酸化還元電位を精度良くコントロールするためには、超純水W中の過酸化水素を予め除去しておく必要がある。そこで、まず供給ライン21から超純水Wを白金族金属担持樹脂カラム22に供給する。この白金族金属担持樹脂カラム22では白金族金属の触媒作用により、超純水W中の過酸化水素を分解除去する、すなわち過酸化水素除去機構として機能する。
【0055】
そして、供給ライン21では、pH調整剤タンク23からpH調整剤を注入する。このpH調整剤の添加は、所望とするpHと供給ライン21の超純水Wの流量とpH調整剤の濃度とに応じて適宜設定すればよく、例えば、遷移金属の微細線を有する半導体の洗浄に際しアルカリ性とする場合には、洗浄液のpHが9~13の範囲となる量を添加すればよい。なお、酸性とする場合には、例えば、洗浄液のpHが0~3.5の範囲となる量を添加すればよい。
【0056】
次に、酸化還元電位調整剤タンク24から酸化還元電位調整剤を注入する。この酸化還元電位調整剤の添加は、所望とする酸化還元電位と供給ライン21の超純水Wの流量と酸化還元電位調整剤の濃度とに応じて適宜設定する。例えば、遷移金属の微細線を有する半導体の洗浄には、調整水の酸化還元電位が-0.4V以上0.4V以下となる量を添加すればよい。これにより本実施形態においては、pH調整水はpH・酸化還元電位調整水W1となる。
【0057】
このようにして、pH・酸化還元電位調整水W1を製造したら、第一の貯留槽25に貯留するが、この第一の貯留槽25は不活性ガス(IG)でパージされているので、得られたpH・酸化還元電位調整水W1を貯留している間に、pH・酸化還元電位調整水W1に酸素や炭酸ガスが溶解して、pHや酸化還元電位が変動することを防止することができる。このとき、図示しないpH計及びORP計の計測結果に基づいて、制御装置でpH調整剤タンク23からのpH調整剤の添加量と、酸化還元電位調整剤タンク24からの酸化還元電位調整剤の添加量を制御することで、所望とするpH及び酸化還元電位のpH・酸化還元電位調整水W1を安定して製造して供給することができる。
【0058】
(酸化還元電位調整溶媒の製造方法)
一方、供給ライン31では非水系溶媒としてのイソプロピルアルコール(IPA)Sを供給し、この非水系溶媒Sに酸化還元電位調整剤タンク32から酸化還元電位調整剤を注入する。この酸化還元電位調整剤の添加は、所望とする酸化還元電位と非水系溶媒Sの種類と流量と酸化還元電位調整剤の濃度とに応じて適宜設定すればよく、例えば、遷移金属の微細線を有する半導体の洗浄には、酸化還元電位調整溶媒S1の酸化還元電位が0~1.7Vの範囲となる量を添加すればよい。
【0059】
このようにして、酸化還元電位調整溶媒S1を製造したら、第二の貯留槽33に貯留するが、この第二の貯留槽33は不活性ガス(IG)でパージされているので、得られた酸化還元電位調整溶媒S1を貯留している間に、酸化還元電位調整溶媒S1に酸素や炭酸ガスが溶解して、酸化還元電位が変動することを防止することができる。このとき、図示しないORP計の計測結果に基づいて、制御装置で酸化還元電位調整剤タンク32からの酸化還元電位調整剤の添加量を制御することで、所望とする酸化還元電位のpH・酸化還元電位調整水W1を安定して製造して供給することができる。
【0060】
(pH調整水及び酸化還元電位調整溶媒の供給方法)
そして、このようにして製造したpH・酸化還元電位調整水W1は、第一の開閉弁26及び第二の開閉弁27を開成し、第三の開閉弁35を閉鎖することによりユースポイントUPに送液することができる。また、第一の開閉弁26を閉鎖し、第二の開閉弁27及び第三の開閉弁35を開成することにより、酸化還元電位調整溶媒S1をユースポイントUPに送液することができる。このようにしてpH・酸化還元電位調整水W1と酸化還元電位調整溶媒S1を交互にユースポイントUPに供給することができる。
【0061】
(pH調整水及び酸化還元電位調整溶媒の供給例)
以下、上述したようなpH・酸化還元電位調整水W1及び酸化還元電位調整溶媒S1で、クロム族元素であるモリブデンを用いた半導体の配線の極微小エッチング処理を行う場合を例に説明する。
【0062】
モリブデンからなる配線の極微小エッチングにおいてデジタルエッチと呼ばれる手法が用いられている。これは金属表面の酸化と酸化膜の溶解とを繰り返し、金属を段階的に溶解していく手法である。デジタルエッチで遷移金属としてのモリブデンを極微小エッチングする場合、第一工程ではモリブデンを溶解せずにモリブデン表面に酸化膜を形成し、第二工程ではモリブデンは溶解せずに第一工程で形成した金属酸化膜のみを溶解する必要がある。
【0063】
ある[電位-pH]条件下の水溶液中で金属がどのような状態の化学種が最も安定かを示したプールベ図によると、クロム族元素、特にモリブデンはアルカリ条件下では、水溶液のpHおよび酸化還元電位の違いによらず溶解することがわかる。一方、酸性条件下では、水溶液のpHおよび酸化還元電位の違いによって溶解・不動態化といった挙動が異なることがわかる。また、モリブデン膜付きウェハ表面のXPS分析結果から、モリブデン膜はMoO3、MoO2、金属Moで構成されていることがわかった。しかしながら、pHおよび過酸化水素濃度を変動させたモリブデン膜付きウェハの浸漬試験から、モリブデン酸化物であるMoO3はH2Oによって溶解し、その溶解速度はpHが高い程速いことが確認された。また、処理液のpHによらず、過酸化水素濃度が高くなるほどモリブデン溶解速度は速く、過酸化水素濃度が同等の場合のモリブデン溶解速度は処理液pHによって変化することも確認された。そのため、デジタルエッチの第一工程でモリブデン溶解を防ぎつつ表面を酸化させるには、酸化力を持つ非水溶媒もしくは水分量を極力低下させた溶液を用い、モリブデン膜表面にMoO3を生成させる必要がある。
【0064】
一方、第二工程では、第一工程で生成したMoO3のみを除去する必要があるが、前述のとおりMoO3はH2Oで溶解し、pHが高い程その溶解速度は速くなるため、製造工程のスループット等を考慮するとアルカリ性水溶液を用いることが特に好ましい。この時、処理液中に何かしらの酸化剤が含まれると、モリブデン溶解と同時にモリブデン表面の酸化も発生しモリブデン溶解量が変化し、パターンローディングの発生につながる。そのため、第二工程で使用するアルカリ性水溶液は酸化剤を極限まで除去されたものである必要がある。
【0065】
以上により、パターンローディングの発生を抑制しつつ所定時間内に所定量だけクロム族元素(モリブデン)を極微小エッチングするには、最もクロム族元素(特にモリブデン)の溶解が起こりにくい酸化還元電位及び含水量になるよう調整された酸化還元電位調整溶媒と、より素早くクロム族(モリブデン)酸化物を除去し、同時にパターンローディングを発生させないようpH、さらに必要に応じて酸化還元電位が調整されたpH調整水とを交互に供給する必要がある。
【0066】
具体的には、これらに鑑みパターンローディングの発生を抑制しつつ所定時間内に所定量だけモリブデンを極微小エッチングするには、IPAに酸化還元電位調整剤としての過酸化水素水を添加して酸化還元電位が0V以上1.7V以下である非水系溶媒、すなわち酸化還元電位調整溶媒S1を調整する。このとき、供給ライン21の第一開閉弁26を閉鎖するとともに合流管34の第三の開閉弁35を開成して合流管34がユースポイントUPに連通する状態としておく。そして、供給ライン31からユースポイントUPに酸化還元電位調整溶媒S1を供給して第一工程の洗浄を行う。これによりモリブデンを溶解せずにモリブデン表面に酸化膜を形成する。
【0067】
次に所定時間内で所定量だけモリブデンを極微小エッチングする。このときモリブデン酸化膜除去速度を加速させるために、超純水WにpH調整剤としてのアンモニア水と酸化還元電位調整剤としての過酸化水素水を添加してpHが9~13の範囲で酸化還元電位が0~0.4VとなるようにpH・酸化還元電位調整水W1を調整する。そして、合流管34の第三の開閉弁35を閉鎖して、酸化還元電位調整溶媒S1の供給を停止するとともに、第一の開閉弁26を開成して供給ライン21からユースポイントUPにpH・酸化還元電位調整水W1を供給して第二工程の洗浄を行う。これによりモリブデン酸化皮膜を極微小にエッチングすることができる。
【0068】
このようにして、モリブデンからなる配線を有する半導体の該配線の極微小エッチングを効率良く行うことができる。
【0069】
以上、本発明の半導体製造用プロセス溶液供給装置について添付図面を参照して説明してきたが、本発明は前記実施形態に限らず種々の変更実施が可能である。例えば、本実施形態においては、pH・酸化還元電位調整水W1としたが、酸化還元電位を調整せずにpH調整剤のみを添加してpH調整水としてもよい。また、工程によっては酸化還元電位調整剤として水素ガスを溶解することで、酸化還元電位をマイナスの方向に調整してもよい。
【実施例0070】
以下の具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0071】
[実施例1]
300mmΦのMoブランケットウェハを30mm角にカットし試験片とした。この試験片を下記に示す処理条件で1液及び2液に順次浸漬した後の処理液中のモリブデン(Mo)濃度をICP-MSで分析し、溶解したMoの膜厚を導出した。Moの溶解膜厚の合計量を
図1に及びMoの各工程ごとの溶解膜厚を
図2にそれぞれ示す。
【0072】
・処理方法 デジタルエッチ
・処理液 1液:IPA+H2O2(0、1、10、100、1000ppm)
2液:アンモニア水(アンモニア濃度:100ppm)
・処理時間 1液:1分、2液:2分
・デジタルエッチ 繰り返し回数 5回
・処理温度 室温
・分析方法 ICP-MS(処理後のMo溶解膜の膜厚の分析)
【0073】
実施例1で本発明のMo溶解膜厚を検証した。Moの溶解は(1)~(3)式のような反応を経て発生している。
Mo+2H2O → MoO2+4H++4e- ・・・(1)
MoO2+H2O → MoO3+2H++2e- ・・・(2)
MoO3+H2O → HMoO4+H+ ・・・(3)
【0074】
このようにして1液のIPA+H2O2中ではMoメタル、MoO2が酸化されMoO3が生成するが、MoO3の溶解は発生しにくいと考えられる。一方、2液中ではMoO3のみが溶解し、Moメタル、MoO2の溶解や酸化は起こらないと考えられる。
【0075】
1液としてIPAのみ(H
2O
2:0ppm)と、NH
4OH水溶液中1、10、100、1000ppm)、2液として100ppmNH
4OH溶液を用いた場合のMo溶解膜厚を示す
図1及び
図2から明らかなとおり、IPAのみで処理した場合、Mo酸化膜は生成しにくいため、その後のNH
4OH溶液中でのMoの溶解はほとんど発生しないことがわかる。一方、IPAにH
2O
2を添加した場合、添加量が100ppm以下の場合はIPA+H
2O
2溶媒中でのMoの溶解はほとんど発生せず、IPAのみ(H
2O
2を添加しない)場合と同程度であり、第二工程でのNH
4OH水溶液中でのMo溶解量はIPAに添加したH
2O
2濃度に比例し増加する。このことから、IPA中のH
2O
2濃度が100ppm以下の場合、IPA+H
2O
2溶媒中で生成するMo酸化膜厚はH
2O
2濃度に比例し厚くなったと考えられる。一方、IPAへのH
2O
2の添加量を1000ppmとした場合、NH
4OH水溶液中だけでなく、IPA+H
2O
2溶媒中でのMo溶解膜厚も増加している。これはIPA+H
2O
2溶媒中のH
2O
2濃度が高くなりMo酸化膜が生成しやすくなった一方で、H
2O
2由来のH
2Oの増加によりIPAの含水率が上がりIPA+H
2O
2溶媒中でもMo酸化膜溶解が発生したと考えられる。そのため、IPA++H
2O
2溶媒中のH
2O
2濃度が100ppm以下であれば、1液中ではMo溶解を起こすことなくMo表面を酸化させることができ、2液中では1液中で生成したMo酸化膜のみを溶解することが出来るため、パターンローディングは発生しないと考えられる。
【0076】
[比較例1]
従来例として、実施例1において処理液を1液:O
3(オゾン)溶解水(オゾン濃度20ppm)、2液:希釈過酸化水素水(過酸化水素濃度:0.05%)に変更して、試験片を1液及び2液にそれぞれ75秒浸漬した後の処理液中のモリブデン(Mo)濃度をICP-MSで分析し、溶解したMoの膜厚を導出した。結果を
図3に示す。
【0077】
図3から明らかなように、O
3溶解水に試験片を浸漬した場合、Mo溶解膜厚は浸漬時間に比例して増加することから、O
3溶解水中ではMo酸化とMo酸化膜溶解が同時に発生しているとみられる。そのため、1液ではMo酸化のみを実施し、2液でMo酸化膜を溶解するデジタルエッチの目的とは解離してしまう。また、1液中でMo酸化とMo酸化膜溶解が同時に発生するため、各処理工程で溶解するMo膜厚や生成するMo酸化膜厚が不均等になりパターンローディングが発生することがわかる。