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特開2022-173818アカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチド
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  • 特開-アカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチド 図1
  • 特開-アカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチド 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173818
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】アカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6888 20180101AFI20221115BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20221115BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20221115BHJP
【FI】
C12Q1/6888 Z
C12Q1/6851 Z ZNA
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079775
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古井 聡
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】検疫対象病害虫のトラップ調査において、アカマダラカツオブシムシを他の主要食品害虫や他のマダラカツオブシムシ類と区別して正確かつ迅速に、しかも低コストで検出できる検査系を確立すること。
【解決手段】アカマダラカツオブシムシのミトコンドリアDNAの特徴的な塩基配列を含む、2種以上のオリゴヌクレオチドから構成される、アカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセット、該オリゴヌクレオチドセットを含むアカマダラカツオブシムシ検出キット、及び該オリゴヌクレオチドセットを用いるアカマダラカツオブシムシの検出方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アカマダラカツオブシムシのミトコンドリアDNAの特徴的な塩基配列を含む、2種以上のオリゴヌクレオチドから構成される、アカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセット。
【請求項2】
前記ミトコンドリアDNAの特徴的な塩基配列が、チトクロムcオキダーゼサブユニット1(CO1)領域内の塩基配列である、請求項1に記載のアカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセット。
【請求項3】
前記オリゴヌクレオチドが、プライマー及びプローブとして使用されるものである、請求項1又は請求項2に記載のアカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセット。
【請求項4】
前記オリゴヌクレオチドセットが、下記の配列番号1~3に示す塩基配列もしくはその相補配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1~3に示す塩基配列もしくはその相補配列における連続する少なくとも15塩基を含む塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成される、オリゴヌクレオチドセットである、請求項1~3のいずれか1項に記載のアカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセット。
配列番号1:5'-CCTAGCTGTACGATTGACAGC-3'
配列番号2:5'-GGACTGGATTATTGCGACAGC-3'
配列番号3:5'-CACAGGAACTCACTTATCACTAGCC-3'
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のアカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセットを含む、アカマダラカツオブシムシ検出用キット。
【請求項6】
被検試料より抽出したDNAを鋳型とし、請求項1~4のいずれか1項に記載のアカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセットを用いてPCR増幅を行い、得られた増幅産物を検出する工程を含む、アカマダラカツオブシムシの検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチド、アカマダラカツオブシムシ検出用キット、及びアカマダラカツオブシムシの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アカマダラカツオブシムシ(Trogoderma varium (Matsumura et Yokoyama))は、コウチュウ(Coleoptera)目カツオブシムシ(Dermestidae)科マダラカツオブシムシ(Trogoderma)属に分類され、日本では最も一般的に棲息しているマダラカツオブシムシである。マダラカツオブシ(Trogoderma)属に属する昆虫(マダラカツオブシムシ類と称する)は、日本では、アカマダラカツオブシムシのほか、クロマダラカツオブシムシ、チャマダラカツオブシムシ、ヒメマダラカツオブシムシ、ヒメアカカツオブシムシ、カザリマダラカツオブシムシ、キマダラカツオブシムシの7種が知られている(非特許文献1、2)。これらのマダラカツオブシムシ類のなかには、植物検疫上重要な害虫として問題になるものも含まれている。
【0003】
日本において害虫による被害を受けやすい代表的な貯穀は米である。米は日本の主要な輸出対象品目の1つとして位置づけられており、農林水産省等においても、和食の国際的な普及促進活動と、それに伴い海外の日本食レストラン用に日本産米や加工品である日本酒の消費を促すとともに、輸出用米の作付拡大を進めている。
【0004】
一方、諸外国では病害虫の侵入及びまん延を防止するためにそれぞれの植物検疫制度を設けており、日本から輸出する農作物は、輸出先国側の植物検疫条件に適合している必要がある。そのため、農林水産省では、我が国の農産物の輸出環境を整備するため、諸外国に対して輸出解禁要請を行っている。例えば、中国向けの精米の輸出に際しては、「中華人民共和国向け精米の輸出検疫実施要領(平成20年6月20日付け20消安第3741号消費安全局長通知)」が定められており、同実施要項では、中国側が認可した指定登録施設で精米・燻蒸等がなされた精米のみ輸出できることとなっている。指定登録施設における認可手続きでは、同施設内に誘引剤フェロモンを用いたトラップを設置して、マダラカツオブシムシ類が無発生であることの確認(トラップ調査)が必要とされている。中国側が検疫対象としているマダラカツオブシムシ類は、ヒメアカカツオブシムシ、カザリマダラカツオブシムシ及びヒメマダラカツオブシムシであり、これらが同施設で見つかった場合には、輸出停止措置を取り、燻蒸等による対象種の撲滅措置及び効果の確認を経るなどの管理が必要となり、時間的にも手間等にもコストがかかる厄介なプロセスが追加発生する(非特許文献3)。
【0005】
植物検疫は、まず検疫の対象の種であるか否かを明確にし、検疫対象であれば燻蒸などの措置を行うため、種の同定は極めて重要である。これまで、マダラカツオブシムシ類のフェロモントラップ調査では、アカマダラカツオブシムシ、クロマダラカツオブシムシ、ヒメマダラカツオブシムシが捕獲され、これらのうちアカマダラカツオブシムシが大多数を占めていたことが報告されている(非特許文献4、5)。中国への輸出に際しては、ヒメアカカツオブシムシ、カザリマダラカツオブシムシ及びヒメマダラカツオブシムシの3種を同定する必要があるが、マダラカツオブシムシ類は形態が互いに酷似していることや、その成虫には体表に鱗片が密植しており、特徴的な斑紋が認められるものの、この斑紋は良く似ているものが多く、棲息している現場で採集されたものについては物理的な接触等による摩耗で鱗片そのものが脱落してしまっていること、オイルで捕獲するタイプの誘引剤(フェロモン)を用いた捕獲器(トラップ)で浸漬された個体は斑紋が損傷なく残っていたとしてもオイルによって黒色調となって斑紋のコントラストが不明瞭となっていること等から、目視による種判別は極めて困難である。
【0006】
近年、昆虫においてもDNA分析が良く用いられており、目視による鑑定が非常に困難な場合に特に有用である。平成20年度に環境省が纏めた環境循環型社会白書には、全世界の既知の総生物種数は約175万種で、このうち、哺乳類は約6,000種、鳥類は約9,000種、昆虫は約95万種、維管束植物は約27万種との記載がある。これによると、生物の約55%は昆虫が占めており、極めて多様な昆虫をDNAで分類・鑑定することは理に叶っている。
【0007】
細胞内に存在するDNAは、核(ゲノム)DNAの他に、ミトコンドリアDNAや葉緑体DNAに分けられる。核DNAは、犯罪捜査や親子などの血縁の関係、作物や家畜における品種鑑定に用いられている。これらのうち、ミトコンドリアDNAは核DNAよりも変異の頻度が高く、1細胞あたりのコピー数がゲノムよりも多いため、昆虫の種判定に有用であるとされている。
【0008】
DNAによる検査手法には、従来から用いられているPCR法の他に、LAMP (Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、DNAの塩基配列決定を用いるもの、サザンハイブリダイゼーション、DNAマイクロアレイ等様々な方法がある。これらのうち、鑑定に用いられている手法としては、LAMP法、DNAの塩基配列決定を用いるDNAバーコーディング法等が挙げられる。LAMP法は特異性が高く、PCR法のようにDNA反応時の温度の厳密で多段階の変更ステップがないため有用であるが、その反面、プライマー設計の難易度が高すぎ、遺伝子組換えトウモロコシ系統の検出に利用する例が報告されているが(特許文献1)、プライマー設計が出来る配列が限られ、使用しづらいという欠点がある。また、DNAバーコーディング法は、DNAの配列を解読し、その配列情報を既知の配列情報と比較して利用するため、昆虫名まで同定することが出来る。しかしながら、本法はPCR法を行った分析用試料をDNAシークエンサーによって塩基配列を解読後、専用のソフトウェアにより1検体ずつ配列を比較するため、操作が頻雑でコストも高く、時間が掛かることが難点であり、特に大量の試料を分析する際には効率が悪い。
【0009】
PCR法は、前述したDNAバーコーディングとは異なり、予め検出対象が決まっており、それに由来するDNAが試料の中に含まれているか否かを調べる手法である。検査は抽出したDNAをPCRに供するだけで検出対象の生物のDNAの有無が判定可能であり、大量・高速に判定できるという特長がある。1つの典型的な例は、対象昆虫種がおおよそ分かっている場合、例えば前述のフェロモントラップによってある程度選択的に捕捉された昆虫の同定等には特に有用である。また、昆虫の誘引にフェロモントラップを用いた場合には、その特性上、誘引対象の昆虫の近縁種など、外見が似ている個体が多数捕獲される可能性があるが、適切に設計されたプライマーやプローブを用いれば鑑定対象であるか否かを迅速・大量・正確に確認できる。
【0010】
PCR法の増幅産物の解析方法として、電気泳動によらず、蛍光シグナルの測定によって定量的な解析を可能とするリアルタイムPCR法も知られており、そのためのプライマーと検出用プローブがセットとして提供されている。例えば、特許文献2には細菌病原体を迅速に検出及び同定するための特異的及び普遍的プローブ及び増幅プライマーについて記載されている。本発明者は、グラナリアコクゾウムシやヒメアカカツオブシムシなどの主要な食品害虫をPCR法やリアルタイムPCR法で検出するためのオリゴヌクレオチドセットを順次確立してきた(特許文献3)。上記のとおり、輸出検疫対象にも含まれるマダラカツオブシムシ類はその形態が酷似していることや、その鱗片の斑紋による識別も現場では不確実であることから、目視による種判別が著しく困難であるため、PCR法やリアルタイムPCR法による検査系を確立することが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4899180号公報
【特許文献2】特開2007-125032号公報
【特許文献3】特許第6600831号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】大林延夫、カツオブシ科、原色日本甲虫図鑑III、pp.125-130 (1985)
【非特許文献2】吉田敏治、渡辺直、尊田望之、図説「貯蔵食品の害虫」実用的識別法から防除法まで、268頁、1989年10月26日、全国農村教育協会
【非特許文献3】農林水産省、植物防疫所、病害虫情報、「中国向け精米の輸出検疫」No.85 (2008)
【非特許文献4】平尾素一、杉本可能、「フェロモントラップによるマダラカツオブシムシ類(Trogoderma属)の捕獲成績」、ペストロジー学会誌、第7巻、第1号、pp.4-8 (1992)
【非特許文献5】平尾素一、食品原料関連施設におけるフェロモントラップによるマダラカツオブシムシ類(Trogoderma属)の捕獲成績、環動昆、第6巻、第4号、pp.182-186 (1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、上記の実情に鑑み、精米施設や輸出関連倉庫における検疫対象病害虫のトラップ調査において大量に捕獲された昆虫群のなかでも、特に目視による種判別が困難であるマダラカツオブシムシ類の一種であるカツオブシムシ科アカマダラカツオブシムシをPCR法やリアルタイムPCR法で検出するためのオリゴヌクレオチドを開発し、アカマダラカツオブシムシを他のマダラカツオブシムシ類と区別して正確かつ迅速に、しかも低コストで検出できる検査系を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カツオブシムシ科アカマダラカツオブシムシのミトコンドリアから未知のチトクロムcオキダーゼサブユニット1(CO1)をコードするDNA領域を入手後、配列情報を解析した。次いで、この配列情報からアカマダラカツオブシムシに特徴的な塩基配列を見出し、これらの塩基配列を含むオリゴヌクチドを組み合わせて、アカマダラカツオブシムシを正確かつ迅速に検出できるオリゴヌクレオチドセットを確立することに成功した。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0015】
(1)アカマダラカツオブシムシのミトコンドリアDNAの特徴的な塩基配列を含む、2種以上のオリゴヌクレオチドから構成される、アカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセット。
(2)前記ミトコンドリアDNAの特徴的な塩基配列が、チトクロムcオキダーゼサブユニット1(CO1)領域内の塩基配列である、(1)に記載のアカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセット。
(3)前記オリゴヌクレオチドが、プライマー及びプローブとして使用されるものである、(1)又は(2)に記載のアカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセット。
(4)前記オリゴヌクレオチドセットが、下記の配列番号1~3に示す塩基配列もしくはその相補配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1~3に示す塩基配列もしくはその相補配列における連続する少なくとも15塩基を含む塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成される、オリゴヌクレオチドセットである、(1)~(3)のいずれかに記載のアカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセット。
配列番号1:5'-CCTAGCTGTACGATTGACAGC-3'
配列番号2:5'-GGACTGGATTATTGCGACAGC-3'
配列番号3:5'-CACAGGAACTCACTTATCACTAGCC-3'
(5)(1)~(4)のいずれかに記載のアカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセットを含む、アカマダラカツオブシムシ検出用キット。
(6)被検試料より抽出したDNAを鋳型とし、(1)~(4)のいずれかに記載のアカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセットを用いてPCR増幅を行い、得られた増幅産物を検出する工程を含む、アカマダラカツオブシムシの検出方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、食品害虫であるアカマダラカツオブシムシを検出するためのオリゴヌクレオチドセット、当該オリゴヌクレオチドセットを含むアカマダラカツオブシムシ検出用キット、及び当該オリゴヌクレオチドセットを用いるアカマダラカツオブシムシの検出方法が提供される。従って、本発明によれば、アカマダラカツオブシムシを正確かつ迅速に、しかも低コストで検出できるので、食品の管理や保証に活用することで品質の信頼性を強化できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、TaqManTMプローブを用いたリアルタイムPCR法によるアカマダラカツオブシムシの検出結果を示す。本法では、配列番号1の塩基配列を上流側プライマー、配列番号2の塩基配列を下流側プライマー、配列番号3の塩基配列の5’側をレポーター色素(FAM)、3’側をクエンチャー(TAMRA)でそれぞれ標識した塩基配列をTaqManTMプローブとして用いた(アカマダラカツオブシムシ以外の代表的な貯穀害虫等:タバコシバンムシ、コナナガシンクイムシ、カクムネヒラタムシ、ノコギリヒラタムシ、コクヌストモドキ、ガイマイゴミムシダマシ、ヒメゴミムシダマシ、チャイロコメノゴミムシダマシ、ヒラタコクヌストモドキ、カシミールコクスヌトモドキ、オオツノコクヌストモドキ、ヒメコクヌストモドキ、アズキゾウムシ、コクゾウムシ、ココクゾウムシ、グラナリアコクゾウムシ、ノシメマダラメイガ、バクガ、ヒメマルカツオブシムシ、ヒメアカカツオブシムシ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマダラカツオブシムシ、オオムギ、コメ、トウモロコシ、コムギ)。
図2図2は、Simplex PCR法によるアカマダラカツオブシムシの検出結果を示す。本法では、配列番号1の塩基配列を上流側プライマー、配列番号2の塩基配列を下流側プライマーとして用いた(1:タバコシバンムシ、2:コナナガシンクイムシ、3:カクムネヒラタムシ、4:ノコギリヒラタムシ、5:コクヌストモドキ、6:ガイマイゴミムシダマシ、7:ヒメゴミムシダマシ、8:チャイロコメノゴミムシダマシ、9:ヒラタコクヌストモドキ、10:カシミールコクスヌトモドキ、11:オオツノコクヌストモドキ、12:ヒメコクヌストモドキ、13:アズキゾウムシ、14:コクゾウムシ、15:ココクゾウムシ、16:グラナリアコクゾウムシ、17:ノシメマダラメイガ、18:バクガ、19:ヒメマルカツオブシムシ、20:ヒメアカカツオブシムシ、21:ヒメカツオブシムシ、P:アカマダラカツオブシムシ、22:ヒメマダラカツオブシムシ、23:オオムギ、24:コメ、25:トウモロコシ、26:コムギ、N:鋳型なし、M:Gene Ladder 100 DNAマーカー)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.アカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセット及び検出用キット
本発明のアカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセットは、検出対象のアカマダラカツオブシムシのミトコンドリアDNAの特徴的な塩基配列を含む、2種以上のオリゴヌクレオチドから構成される。オリゴヌクレオチドの塩基長は、限定はされないが、通常プライマーの場合は、15~30塩基長、好ましくは18~25塩基長であり、プローブの場合は、10~30塩基長である。
【0019】
検出対象のアカマダラカツオブシムシのミトコンドリアDNAの特徴的な塩基配列とは、広範囲の食品害虫の既知のミトコンドリアDNAの塩基配列と相同性が低く、かつ、検出対象となるアカマダラカツオブシムシにのみ特徴的と考えられる、長さが10塩基以上、好ましくは15塩基以上、より好ましくは20塩基以上の塩基配列をいう。
【0020】
上記のミトコンドリアDNAの特徴的な塩基配列を特定するにあたり、まず、アカマダラカツオブシムシのミトコンドリアDNAの塩基配列情報を入手する。アカマダラカツオブシムシの塩基配列情報は、データベース(NCBI、DDBJ等)には登録がないため、後記実施例に示すように、直接的に塩基配列を解析して入手することができる。
【0021】
本発明において、アカマダラカツオブシムシのミトコンドリアDNAの特徴的な塩基配列としては、例えば、チトクロムcオキダーゼサブユニット1(CO1)領域の塩基配列が挙げられる。
【0022】
次に、特定した特徴的な塩基配列に基づき、プライマーを設計する。プライマーの設計は、オリゴヌクレオチドの長さ、GC含量、Tm値、オリゴヌクレオチド間の相補性、オリゴヌクレオチド内の二次構造などを考慮して行うが、例えば、「PCR法最前線-基礎技術から応用まで」(蛋白質・核酸・酵素 臨時増刊号 1996年 共立出版株式会社)や、「バイオ実験イラストレイテッド3 本当にふえるPCR:細胞工学別紙 目で見る実験ノートシリーズ」(中山広樹著 株式会社秀潤社)、「PCRテクノロジー-DNA増幅の原理と応用-」(Henry A Erlich編、加藤邦之進 監修、宝酒造株式会社)等を参考にすればよい。
【0023】
具体的に採用した設計基準は以下のとおりである。
(a)アカマダラカツオブシムシのミトコンドリアDNAの特徴的な配列のPCR増幅産物を電気泳動した場合に増幅産物が明確に検出されること。
(b) PCR増幅産物が100~500bp、好ましくは100~250bpであること。
(c) プライマー長は鋳型DNAとの間の特異的なアニーリングを可能とするために、15~30bpの範囲であること。
(d)アニーリング温度はTm(melting temperature)に依存するので、特異性の高いPCR増幅産物を得るため、Tm値が50~70℃、好ましくは55~65℃であり、互いに近似したプライマーを選定すること。
(e)プライマーの3’末端の塩基配列と鋳型DNA配列との相同性が高いこと。
(f) プライマーはダイマーや立体構造を形成しないように、両プライマー間の相補的配列を避けること。
(g) 鋳型DNAとの安定な結合を確保するため、GC含量をなるべく約50%とするようにし、プライマー内においてはできるだけGC-richあるいはAT-richが偏在しないように配慮する。
【0024】
また、プローブの設計は、ABI Prism 7900HT Real-time PCR System (ライフテクノロジーズジャパン株式会社)等の市販のリアルタイムPCR装置に付属しているソフトウェアのプロトコルに基づいて行えばよい。プローブの設計基準としては、GC含量が20-80%の範囲内であること、配列内に4塩基以上のG又はCの連続を避けること、対応するプライマー対のTm値よりも8-10℃程度高く設定すること、プローブの5'側末端がGにならないことが一般論として挙げられる。
【0025】
上記基準に基づき、本発明のアカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセットとして以下のものを確立した。
[アカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセット]
配列番号1:5'-CCTAGCTGTACGATTGACAGC-3'
配列番号2:5'-GGACTGGATTATTGCGACAGC-3'
配列番号3:5'-CACAGGAACTCACTTATCACTAGCC-3'
【0026】
本発明のオリゴヌクレオチドセットを構成するオリゴヌクレオチドは、上記の「配列番号1~3に示す塩基配列もしくはその相補配列からなるオリゴヌクレオチド」のみならず、アカマダラカツオブシムシ検出用のプライマー又はプローブとして機能しうる限り、その変異オリゴヌクレオチドであってもよい。例えば、変異オリゴヌクレオチドとしては、「配列番号1~3に示す塩基配列もしくはその相補配列における連続する少なくとも15塩基を含む塩基配列からなるオリゴヌクレオチド」が挙げられる。連続する少なくとも15塩基以外の塩基の種類、連続する少なくとも15塩基の変異オリゴヌクレオチドの存在部位(3’末端側、5’末端側)について特に制限はない。また、変異オリゴヌクレオチドの全長は、15~30塩基程度が好ましい。一般に、プローブが鋳型DNAに相補的に結合する際には、両末端の領域に付加される塩基配列の重要性は低い。従って、上記のオリゴヌクレオチドセットに含まれるオリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合は、各配列番号の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの両末端に5個以下の任意の塩基が付加又は欠失されていてもよい。
【0027】
本発明において検出対象となる食品害虫は、糧として食しうる物質を直接食害する、又は混入することで物質の品質低下を招きうる害虫である、アカマダラカツオブシムシであり、その成虫、蛹、幼虫、卵のいずれをも含む。また、アカマダラカツオブシムシが混入する物質としては、食品に限られず、植物由来残渣等も含む。
【0028】
プライマー又はプローブとなるオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの合成法として当技術分野で公知の方法、例えば、ホスホロアミダイト法、H-ホスホネート法等により、通常用いられるDNA自動合成装置(例えば、Applied Biosystems社製Model 394など)を利用して合成することが可能である。
【0029】
上記オリゴヌクレオチドセットはキット化することもできる。本発明のキットは、上記のオリゴヌクレオチドセットを含むものであればよく、必要に応じて、DNA抽出用試薬、PCR用緩衝液やDNAポリメラーゼ等のPCR用試薬、反応の陽性コントロールとなるPCR増幅領域を含むDNA溶液、染色剤や電気泳動用ゲル等の検出用試薬、説明書などを含んでいてもよい。
【0030】
2.アカマダラカツオブシムシの検出方法
本発明の食品害虫を検出する方法は、被検試料からDNAを抽出し、該DNAを鋳型とし、上記オリゴヌクレオチドセットに含まれるオリゴヌクレオチドから選ばれる2種のオリゴヌクレオチドを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、該PCRにより得られた増幅産物を検出する工程を含む。
【0031】
被検試料としては、アカマダラカツオブシムシそのものだけでなく、アカマダラカツオブシムシが食害又は混入する可能性のある食品原料、加工過程にある材料、加工食品等の製品などが用いられ、特に制限されない。具体的には、穀物粒やその粉砕物のような非加工状態のものや、米飯、チョコレート、カップ麺、納豆等の加工品などが挙げられる。本発明の方法により得られた検出結果は、食品の安全性表示に利用できるほか、生産者の意図していない製造ラインにおける食品害虫混入の有無の確認に利用できる。
【0032】
被検試料からのDNAの抽出は、核酸抽出法として当業者に公知のいかなる方法を用いてもよく、例えば、フェノール抽出法、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)法、アルカリSDS法等が挙げられる。また、これらの方法は適宜改変して行ってもよく、試薬メーカーより販売されている各種DNA抽出キットを用いてもよい。試料の種類によっては、メンブランフィルターによる濾過やホモジナイズを行う。また、試薬メーカーより販売されているDNeasy Plant mini Kit(株式会社キアゲン製)等の各種DNA抽出キットを用いても良い。これらの方法により抽出したDNAは、PCRの鋳型として用いるのに適した状態で保持することが好ましく、例えば適切な緩衝液に溶解させて低温下で保管することが好ましい。また、DNAの抽出後、クロロホルム/イソアミルアルコール処理、イソプロパノール沈澱、フェノール/クロロホルムによる除蛋白、エタノール沈澱などの精製処理を行ってもよい。
【0033】
また、上記のオリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合は、増幅産物に由来する蛍光シグナルを検出するための標識物質で標識されていてもよい。標識プローブとしては、蛍光物質と消光物質で二重標識したTaqManTMプローブが好ましい。TaqManTMプローブは、通常、核酸プローブの5’末端を蛍光物質(レポーター蛍光色素)で修飾し、3’末端を消光物質(クエンチャー蛍光色素)で修飾する。レポーター蛍光色素の例としては6-FAM(6-カルボキシフルオレセイン)、TET(6-カルボキシ-4, 7, 2',7'-テトラクロロフルオレセイン)、HEX(6-カルボキシ-2',4',7',4,7-ヘキサクロロフルオレセイン)等のフルオレセイン系蛍光色素が挙げられ、クエンチャー蛍光色素の例としては、6-カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)等のローダミン系蛍光色素が挙げられる。これらの蛍光色素は公知であり、市販のリアルタイムPCR用キットに含まれているのでそれを用いることができる。
【0034】
次いで、抽出したDNAを鋳型とし、上記の本発明のオリゴヌクレオチドセットに含まれるオリゴヌクレオチドから選ばれる2種を用いて、PCR増幅を行う。PCR増幅は前述のオリゴヌクレオチドセットを用いる以外は特に制限はなく、常法に従って行えばよい。具体的には、鋳型DNAの変性、プライマーへの鋳型へのアニーリング、及び耐熱性酵素(TaqポリメラーゼやThermus thermophilus由来のTth DNAポリメラーゼなどのDNAポリメラーゼ)を用いたプライマーの伸長反応を含むサイクルを繰り返すことにより、検出対象となるアカマダラカツオブシムシのミトコンドリアDNAの特徴的な塩基配列を増幅させる。PCR溶液の組成(鋳型DNA量、緩衝液の種類、プライマー濃度、DNAポリメラーゼの種類や濃度、dNTP濃度、塩化マグネシウム濃度等)、PCR反応条件(温度サイクル、サイクルの回数等)は、当業者であれば適切に選択及び設定することができる。
【0035】
例えば、鋳型となるDNA0.1~100ng、10×PCR反応用緩衝液、プライマー各0.25~1μM、DNAポリメラーゼ(Taq ポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼなど)0.25~2.5U、dNTP各250μMを混合した後、全液量が10~100μlとなるように希釈したものについて、94~96℃ 5分×1サイクル、(94~96℃ 30秒、52~58℃ 30秒、70~74℃ 1分)×30サイクル、70~74℃ 5分×1サイクルで反応を行う。これは一例にすぎず、PCR溶液の組成、反応温度や時間は、プライマーとなるオリゴヌクレオチド配列の長さや塩基組成などに応じて適宜設定することができる。これらPCRの一連の操作は、市販のPCRキットやPCR装置を利用して、その操作説明書に従って行うことができる。
【0036】
PCR増幅産物の検出は、アガロースゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動などの慣用の電気泳動、DNAハイブリダイゼーションやリアルタイムPCR等の方法を用いて確認できる。例えば、アガロースゲル電気泳動では、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出し、その大きさに基づいて食品害虫の有無や種類を判定する。また、予め標識物質により標識したプライマーを用いて当該PCRを行い、増幅産物を検出することもできる。標識物質としては、当該技術分野においてよく知られる蛍光物質、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等を用いることができる。また、DNAハイブリダイゼーションでは、マイクロアレイなどの固定化担体に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認する。検出用の固定化担体は、検出すべきアカマダラカツオブシムシのミトコンドリアDNAの特徴的な配列とハイブリダイズしうる配列を有するオリゴヌクレオチドが固定化されている支持体である。支持体としては、例えば、ナイロン膜、ニトロセルロース膜、ガラス、シリコンチップなどを用いることができる。
【0037】
リアルタイムPCR法には、プライマー対とともに二本鎖DNAに結合することによって蛍光を発する化合物であるSYBR Green IなどのインターカレーターをPCR反応系に加えるインターカレーター法、又は、5'末端をレポーターと呼ばれる蛍光物質で、3'末端をクエンチャーと呼ばれる消光物質で標識したプローブ(TaqManTMプローブ)をPCR反応系に加えるTaqMan法があり、いずれも本発明において用いることができるが、TaqMan法が好ましい。TaqMan法では、TaqManTMプローブがPCRによる増幅反応においてポリメラーゼの伸長反応に使用される条件下で鋳型DNAに特異的にハイブリダイズし、DNA鎖の伸長、すなわち鋳型DNAの増幅に伴って分解され、蛍光物質を遊離することによりPCR溶液中の蛍光量が増加する。この蛍光量の増加が鋳型DNAの増幅の指標となり、PCRにおける増幅の様子をリアルタイムで簡便に検出することができる。リアルタイムPCR法は、上記のオリゴヌクレオチドセットを用いる以外は、当業者に知られている通常の方法に基づいて、市販のリアルタイムPCRキットやリアルタイムPCR装置を用い、それらに添付の操作説明書に従って行えばよい。リアルタイムPCR装置としては、例えば、ABI Prism 7900HT Real-time PCR System等が用いられる。
【0038】
被検試料中のアカマダラカツオブシムシを検出する場合は、次のように行う。まず、被検試料でリアルタイムPCR法を実施し、増幅曲線を得る。次に蛍光シグナルの増加がサイクル数に対して指数関係にある領域で、蛍光量増加(ΔRn)の適当な閾値(Threshold)を設定し、増幅曲線と閾値(Threshold)が交わるか否かにより、被検試料中の食品害虫DNAの有無を判断する。この増幅曲線と閾値(Threshold)との交わるサイクル数をCt値(Threshold Cycle)と呼ぶ。
【実施例0039】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)アカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチド(プライマー・プローブの設計)
(1)DNAの抽出
専門家による形態学的鑑定によりアカマダラカツオブシムシと同定された検体についてDNA抽出を行った。DNAの抽出には、DNeasy Blood & Tissue Kit(株式会社キアゲン製)を使用し、検体害虫約25mgを1.5mlのチューブに入れ、DNeasy Blood & Tissue Kitに付属のプロティナーゼ(Proteinase)K 20μlを含む200μlのBuffer ATLに加えてペッスルで磨りつぶしつつ混合し、56℃で一夜保温した。リボヌクレアーゼ(RNase)A 4μlを加えて混合し、室温で5分間保温した。その後200μlのBuffer ALを添加し、十分に混合後、200μlのエタノール(96~100%)を添加し、再度十分に混合した。
【0041】
混合液を、DNeasy Blood & Tissue Kitに添付のDNeasy Spin Columnに加えて遠心分離を行い、フィルターにDNAを吸着させた。続いて200μlのBuffer AW1を加えて遠心分離を行い、DNAが吸着したフィルターを洗浄した。その後、200μlのBuffer AW2を加えて遠心分離後、フィルターからミトコンドリアDNAを含むトータルDNAを溶出した。
【0042】
(2)ミトコンドリアDNAのチトクロムC酸化酵素サブユニット(CO1)領域のDNAシーケンス分析及びアカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドの設計
アカマダラカツオブシムシのミトコンドリアDNAの塩基配列情報はデータベース(NCBI、DDBJ等)には登録がなかったため、新たにDNAバーコーディング法で標準的に用いられる動物のチトクロムcオキダーゼサブユニット1遺伝子(CO1)領域増幅用の共通プライマーであるLCO1490:5’-GGTCAACAAATCATAAAGATATTGG-3’(配列番号4)及びHCO2198: 5’-TAAACTTCAGGGTGACCAAAAAATCA-3’(配列番号5)[0. Folmerら, DNA primers for amplification of mitochondrial Cytochrome C oxidase subunit I from diverse metazoan invertebrates Molecular Marine Biology and Biotechnology 3(5), 294-299(1994)]を用いて増幅後、その近傍を更に解析して新規に塩基配列情報を入手した。
【0043】
次に、入手した上記の塩基配列情報と、近縁種の公知のCO1の配列情報を鋭意精査して比較し、標的配列長が比較的短く、高い特異性が得られると判断された箇所について下記のDNA配列を設計し、アカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドとした。
配列番号1:5'-CCTAGCTGTACGATTGACAGC-3'
配列番号2:5'-GGACTGGATTATTGCGACAGC-3'
配列番号3:5'-CACAGGAACTCACTTATCACTAGCC-3'
【0044】
(実施例2)アカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドの性能確認(TaqManTMプローブを用いたリアルタイムPCR法)
実施例1で設計したアカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドセットを用いてリアルタイムPCR法(TaqManTMプローブ法)によってアカマダラカツオブシムシの検出を行った。配列番号1の塩基配列を上流側プライマー、配列番号2の塩基配列を下流側プライマー、配列番号3の塩基配列の5’側をレポーター色素(FAM)、3’側をクエンチャー(TAMRA)でそれぞれ標識した塩基配列をTaqManTMプローブとして用いた。
【0045】
供試試料として、アカマダラカツオブシムシを含む以下の貯穀害虫(23種)、及び貯穀害虫が食害する穀物(4種)を用いた。DNA抽出法は、実施例1(1)のDNAの抽出によった。なお、穀物DNAは、GM Quicker2(株式会社ニッポンジーン製)を用い、キットに添付された手法に従ってDNAを抽出した。
【0046】
<貯穀害虫>
タバコシバンムシ、コナナガシンクイムシ、カクムネヒラタムシ、ノコギリヒラタムシ、コクヌストモドキ、ガイマイゴミムシダマシ、ヒメゴミムシダマシ、チャイロコメノゴミムシダマシ、ヒラタコクヌストモドキ、カシミールコクスヌトモドキ、オオツノコクヌストモドキ、ヒメコクヌストモドキ、アズキゾウムシ、コクゾウムシ、ココクゾウムシ、グラナリアコクゾウムシ、ノシメマダラメイガ、バクガ、ヒメマルカツオブシムシ、ヒメアカカツオブシムシ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマダラカツオブシムシ及びアカマダラカツオブシムシ
【0047】
<貯穀害虫が食害する穀物>
オオムギ、コメ、トウモロコシ、コムギ
【0048】
各試料より実施例1(1)の方法に従ってミトコンドリアDNAを含むトータルDNAを抽出し、これらを鋳型DNAとして、リアルタイムPCR法(TaqManTMプローブ法)によるアカマダラカツオブシムシの検出を次のようにして行った。1ウェルあたりSsoAdvanced Universal Probes Supermix(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)5μl、配列番号3の5’末端をFAM、3’末端をTAMRAでそれぞれラベルした0.2μM TaqManTMプローブ、0.5μM 各プライマー対(配列番号1及び配列番号2)、1 ng トータルDNAを含む反応液(総量10μl)を調製し、それぞれ、CFX96 TouchTMリアルタイム PCR 解析システム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)で95℃30秒保温したのち、95℃5秒→60℃5秒を30サイクル繰り返して増幅することにより検出した。
【0049】
検査陽性/陰性の判定は、CFX96 TouchTMリアルタイム PCR 解析システムにおいて、スレッシュホールド値(Th値)を500に固定した際のCt値で判断することにより行った。
【0050】
結果を図1に示す。図1に示されるように、16サイクルの付近からアカマダラカツオブシムシのミトコンドリアDNAの増幅産物由来の蛍光量が明瞭に検出された。他方、本実験に供試した鋳型DNAを含まない反応液、アカマダラカツオブシムシ以外の貯穀害虫であるタバコシバンムシ、コナナガシンクイムシ、カクムネヒラタムシ、ノコギリヒラタムシ、コクヌストモドキ、ガイマイゴミムシダマシ、ヒメゴミムシダマシ、チャイロコメノゴミムシダマシ、ヒラタコクヌストモドキ、カシミールコクスヌトモドキ、オオツノコクヌストモドキ、ヒメコクヌストモドキ、アズキゾウムシ、コクゾウムシ、ココクゾウムシ、グラナリアコクゾウムシ、ノシメマダラメイガ、バクガ、ヒメマルカツオブシムシ、ヒメアカカツオブシムシ、ヒメカツオブシムシ及びヒメマダラカツオブシムシ(計22種)の反応液、及び穀物であるオオムギ、コメ、トウモロコシ、コムギ(計4種)の反応液についてはミトコンドリアDNAの増幅産物由来の蛍光は認められなかった。また、Th値を500に固定した際に算出されるアカマダラカツオブシムシ由来のCt値は実数である20.01として得られたが、その他貯穀害虫はN/A(検出できず)であり、明確に蛍光検出の有無を判別できた。以上の判定結果から、配列番号1~3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いたリアルタイムPCR法では、多数の貯穀害虫や穀物のなかから、アカマダラカツオブシムシを特異的に検出できることが示された。
【0051】
(実施例3)アカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドの性能確認(Simplex PCR法)
実施例1で設計したアカマダラカツオブシムシ検出用オリゴヌクレオチドを用いてSimplex PCR法によってアカマダラカツオブシムシの検出を行った。配列番号1の塩基配列を上流側プライマー、配列番号2の塩基配列を下流側プライマーとして用いた。
【0052】
各試料より実施例1(1)の方法に従ってミトコンドリアDNAを抽出し、これらを鋳型DNAとして、Simplex PCR法によるアカマダラカツオブシムシの検出を次のようにして行った。即ち、1ウェルあたりAmpliTaq Gold DNA Polymerase (Thermo Fisher Scientific 社製)0.25U、1×PCR BufferII(Mg2+ free)、200μM 各 dNTP、1.5mM MgCl2、0.5μM 各プライマー対(配列番号1及び配列番号2)、1 ng トータルDNAを含む反応液(総量10μl)を調製し、それぞれ、 S1000TMサーマルサイクラーで95℃10分保温したのち、95℃30秒→60℃30秒→72℃30秒を40サイクル繰り返して増幅した。
【0053】
検査陽性/陰性の判定は、各10μlの反応液をDNAマーカーであるGene Ladder 100 (0.1-2kbp)と共に、3%アガロースゲルによる電気泳動に供し、エチジウムブロマイドによるゲルの染色を経て、UVトランスイルミネーターによる紫外線の照射下で染色されたDNAバンドの有無を確認することにより行った。
【0054】
結果を図2に示す。レーン番号PにおいてアカマダラカツオブシムシのミトコンドリアDNA由来の増幅産物を示す約161bpのバンドが明瞭に検出された。他方、アカマダラカツオブシムシ以外の貯穀害虫であるタバコシバンムシ(レーン番号1)、コナナガシンクイムシ(レーン番号2)、カクムネヒラタムシ(レーン番号3)、ノコギリヒラタムシ(レーン番号4)、コクヌストモドキ(レーン番号5)、ガイマイゴミムシダマシ(レーン番号6)、ヒメゴミムシダマシ(レーン番号7)、チャイロコメノゴミムシダマシ(レーン番号8)、ヒラタコクヌストモドキ(レーン番号9)、カシミールコクスヌトモドキ(レーン番号10)、オオツノコクヌストモドキ(レーン番号11)、ヒメコクヌストモドキ(レーン番号12)、アズキゾウムシ(レーン番号13)、コクゾウムシ(レーン番号14)、ココクゾウムシ(レーン番号15)、グラナリアコクゾウムシ(レーン番号16)、ノシメマダラメイガ(レーン番号17)、バクガ(レーン番号18)、ヒメマルカツオブシムシ(レーン番号19)、ヒメアカカツオブシムシ(レーン番号20)、ヒメカツオブシムシ(レーン番号21)及びヒメマダラカツオブシムシ(レーン番号22)の反応液、穀物であるオオムギ(レーン番号23)、コメ(レーン番号24)、トウモロコシ(レーン番号25)、コムギ(レーン番号26)及び本実験に供試した鋳型DNAを含まない反応液(レーン番号N)についてはミトコンドリアDNAの増幅産物由来のバンドは認められなかった。MkはGene Ladder 100 DNAマーカーである。以上の判定結果から、配列番号1、2に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いたSimplex PCR法では、多数の貯穀害虫や穀物のなかから、アカマダラカツオブシムシを特異的に検出できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、食品製造及び食品加工分野において、アカマダラカツオブシムシなどの食品害虫の有無の確認に利用できる。
図1
図2
【配列表】
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