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<図1>
  • 特開-ガラスフィラメントの製造方法 図1
  • 特開-ガラスフィラメントの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173836
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】ガラスフィラメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/08 20060101AFI20221115BHJP
【FI】
D01F9/08 C
D01F9/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079801
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】深澤 博之
(72)【発明者】
【氏名】塩原 利夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】伊香賀 敏文
(72)【発明者】
【氏名】金 慶孝
(72)【発明者】
【氏名】大越 豊
【テーマコード(参考)】
4L037
【Fターム(参考)】
4L037CS23
4L037CT06
4L037FA01
4L037PA29
4L037PA31
4L037PF18
4L037UA02
(57)【要約】
【課題】 水酸基含有量が少なく、誘電損失の少ない極細のガラスフィラメントの製造方法を提供すること。
【解決手段】
SiO2を70質量%以上含み、原糸直径100~2000μmの原糸に、0.7~100μmの波長を持つレーザー光を照射し、前記原糸を加熱して延伸することにより、水酸基(Si-OH)含有量300ppm以下、かつ、直径1~20μmのガラスフィラメントを得るガラスフィラメントの製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2を70質量%以上含み、原糸直径100~2000μmの原糸に、0.7~100μmの波長を持つレーザー光を照射し、前記原糸を加熱して延伸することにより、水酸基(Si-OH)含有量300ppm以下、かつ、直径1~20μmのガラスフィラメントを得ることを特徴とするガラスフィラメントの製造方法。
【請求項2】
前記レーザー光のレーザー源が、炭酸ガス系、YAG系、Nd/ガラス、Nd/バナデート、ダイオード、ファイバー、ディスク、HeCd、銅蒸気レーザー、ヨウ素レーザー、アルゴンレーザー、クリプトンレーザーおよび化学レーザーから選択される請求項1記載のガラスフィラメントの製造方法。
【請求項3】
前記原糸が、SiO2を99質量%以上含む石英ガラスからなる請求項1または2記載のガラスフィラメントの製造方法。
【請求項4】
前記原糸に炭酸ガスレーザーを照射し、当該原糸を1700℃以上の温度まで加熱して延伸する請求項3記載のガラスフィラメントの製造方法。
【請求項5】
前記原糸に炭酸ガスレーザーを照射し、当該原糸を加熱して1000倍率以上に延伸することにより、直径が3~10μmのガラスフィラメントを得る請求項3または4記載のガラスフィラメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスフィラメントの製造方法に関し、さらに詳述すると、水酸基含有量が少ない極細のガラスフィラメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、第五世代移動通信システム(5G)の普及、IoT機器の開発・生産が進められており、情報処理の高速化、通信の高周波化に対応できる高機能なプリント配線基板が求められている。そのため、プリント配線基板用のガラスクロスには、より信号劣化を抑えられる低誘電損失のものが要求されている。
一般的なガラス繊維と比べ、SiO2含有量が高いガラス繊維は誘電特性に優れることが知られている。特に、SiO2からなり、純度が高い石英ガラス繊維は、比誘電率、誘電正接が共に小さいため誘電損失が非常に小さく、プリント配線基板用ガラスクロスとして使用拡大が見込まれている。
【0003】
石英ガラスフィラメントは、石英ガラスロッドを2000℃近くまで加熱して延伸することで製造できることが報告されている(特許文献1)。この製造法では、極細石英ガラスロッドを酸水素炎バーナーで加熱して延伸しているが、酸水素炎の生成水分で水酸基が増加するため、得られる石英ガラスフィラメントの誘電損失が大きくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-28240号公報
【特許文献2】特開昭58-55349号公報
【特許文献3】米国特許出願第3981705号明細書
【特許文献4】特許第4748513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、水酸基含有量が少なく、誘電損失の少ない極細のガラスフィラメントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、SiO2含量の高いガラス原糸に対し、レーザー光照射による加熱延伸技術を応用することで、延伸工程での水酸基の増加が防止され、誘電損失の少ない極細のガラスフィラメントが得られることを見出し、本発明を完成した。
なお、光ガラスファイバーへのレーザー光照射は古くから知られている技術であり、例えば、特許文献2では、接合箇所へレーザー光が照射することが開示され、特許文献3では、レーザー光照射によって光学的導波管用のガラス繊維の精密な直径制御を可能とすることが開示されているが、ガラスフィラメント製造の加熱延伸にレーザー光照射を行う技術ではない。
また、特許文献4には、有機樹脂へのレーザー光照射による極細繊維の製造技術が開示されているが、有機物質への適用であり、無機物質のガラスフィラメント製造の加熱延伸にレーザー光照射を行うことについては開示されていない。
【0007】
すなわち、本発明は、
1. SiO2を70質量%以上含み、原糸直径100~2000μmの原糸に、0.7~100μmの波長を持つレーザー光を照射し、前記原糸を加熱して延伸することにより、水酸基(Si-OH)含有量300ppm以下、かつ、直径1~20μmのガラスフィラメントを得ることを特徴とするガラスフィラメントの製造方法、
2. 前記レーザー光のレーザー源が、炭酸ガス系、YAG系、Nd/ガラス、Nd/バナデート、ダイオード、ファイバー、ディスク、HeCd、銅蒸気レーザー、ヨウ素レーザー、アルゴンレーザー、クリプトンレーザーおよび化学レーザーから選択される1のガラスフィラメントの製造方法、
3. 前記原糸が、SiO2を99質量%以上含む石英ガラスからなる1または2のガラスフィラメントの製造方法、
4. 前記原糸に炭酸ガスレーザーを照射し、当該原糸を1700℃以上の温度まで加熱して延伸する3のガラスフィラメントの製造方法、
5. 前記原糸に炭酸ガスレーザーを照射し、当該原糸を加熱して1000倍率以上に延伸することにより、直径が3~10μmのガラスフィラメントを得る3または4のガラスフィラメントの製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のガラスフィラメントの製造方法では、レーザー光照射による加熱・延伸を行っているため、従来の酸水素炎による加熱延伸では水酸基が増加して誘電損失特性が低下する、SiO2の含有量が高いガラス種でも、延伸工程での水酸基の増加を防止できる結果、水酸基が少なく、誘電損失の少ないガラスフィラメントを得ることができる。
また、本発明の製造方法は、全工程を電気炉加熱で行う製法に比べ、生産性、経済性に優れるうえに、延伸時における熱履歴が少ないためガラスフィラメント表面の歪量が少なく、得られるガラスフィラメントの強度の低下を抑えることができる。
本発明の製法で得られる、SiO2を70質量%以上含むガラスフィラメントは、優れた誘電特性を有し、特にSiO2含有量が99質量%以上の高純度石英ガラスからなるガラスフィラメントは、さらに優れた耐熱性、耐候性、熱衝撃耐力、化学的安定性、低熱膨張率、電気特性等を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のガラスフィラメント製造方法に用いられるガラスフィラメント延伸装置の一例を示す概略側面図である。
図2図1のガラスフィラメント延伸装置が備える、レーザー光を照射して原糸を加熱する照射・加熱手段を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係るガラスフィラメントの製造方法は、SiO2を70質量%以上含み、原糸直径100~2000μmの原糸に、0.7~100μmの波長を持つレーザー光を照射し、上記原糸を加熱して延伸することにより、水酸基(Si-OH)含有量300ppm以下、かつ、直径1~20μmのガラスフィラメントを得るものである。
【0011】
[1]原料ガラス
本発明のガラスフィラメントの製造方法に用いられる原糸を構成する原料ガラスは、SiO2を70質量%以上含み、低誘電損失に優れるガラスであり、例えば、SiO2含有量が72wt%でB23やその他の金属酸化物を含むDガラス、SiO2含有量が90質量%以上の石英ガラス、SiO2含有量が99質量%以上の高純度石英ガラス等が挙げられる。
一般に、SiO2含有量の増加に伴い誘電損失は改善されることから、本発明で用いる原料ガラスは、SiO2含有量が90質量%以上の石英ガラスが好ましく、SiO2含有量が99質量%以上の高純度石英ガラスがより好ましい。
【0012】
[2]原糸
本発明の製造方法に用いられる原糸は、直径100~2000μmのものである。
この原糸は、例えば、上述した原料ガラスからなる平均直径100mmのインゴットを、電気炉で1700~2300℃に加熱して延伸して得ることができる。
本発明で用いる原糸の形状には特に制約がなく、最大直径2mmのガラスインゴットやモノフィラメント、マルチフィラメント等が挙げられる。
なお、原糸直径は、後述の実施例に示すとおり、ノギス((株)ミツトヨ製、CD-20)を用いて測定することができる。
【0013】
[3]レーザー源
本発明の製造方法では、原糸に吸収させ、熱軟化するための光源としてレーザー光を用いる。レーザー光は、光線の平行性が高く、集光や平行光束の形成が容易であること、および大きな出力が得られることから本発明の製法に適している。
レーザー源としては、波長0.7~100μmのレーザー光源であれば持に制限はなく、例えば、炭酸ガス系、YAG系、Nd/ガラス、Nd/バナデート、ダイオード、ファイバー、ディスク、HeCd、銅蒸気レーザー、ヨウ素レーザー、アルゴンレーザー、クリプトンレーザーおよび化学レーザーから選択されるレーザー源を用いることができる。
これらの中でも、特に、波長10.6μmの炭酸ガスレーザー、Ndをドーピングした波長1.06μmのYAGレーザーやYVOレーザーが好ましく、高出力で短時間にガラスを加熱できることから炭酸ガスレーザーがより好ましい。
【0014】
[4]ガラスフィラメントの製造条件
本発明の製造方法では、上述した原糸に張力を与えながら波長0.7~100μmのレーザー光を照射して加熱し、軟化させて延伸する。
この場合、原糸に吸収させるレーザー光のエネルギー量は、レーザー光の波長、原糸の直径、密度、熱容量、原糸送り速度、糸速度、レーザー光吸収率に依存するため一概には規定できないが、原糸を1700℃以上、好ましくは1800℃以上、より好ましくは1900℃以上の温度まで加熱させるエネルギー量が好適である。
原糸のレーザー光吸収率は、加熱効率から0.6以上が好ましく、0.9以上がより好ましい。吸収率が0.6未満では原糸の加熱が不十分で延伸張力が高くなり、糸切れを起こし易くなる虞がある。
延伸倍率は、目的の平均直径のガラスフィラメントが得られる限り特に制限はないが、1000倍率以上が好ましく、1050倍以上がより好ましい。
【0015】
[5]ガラスフィラメント延伸装置
本発明の製造方法に用いるガラスフィラメント延伸装置には特に制限はなく、例えば、図1に示されるように、基本的には一定速度vで連続的に原糸1を供給可能な供給手段10と、この速度vよりも速い速度Vでフィラメントを巻取る巻取手段11と、これら各供給手段10,11の間に、走行する原糸1を軟化させて延伸するため、レーザー光を照射して原糸を加熱する照射・加熱手段13とを備えた装置を用いることができる。
【0016】
照射・加熱手段13では、図2に示されるように、レーザー光15をレンズ16により集光している。この場合、レーザー光15の焦点は、図2中、原糸1の左側に位置しているが、右側でもかまわない。このように原糸1の走行位置をレーザー光15の焦点からずらすことによって、レーザー光15の照射領域を幅のあるものにすることができる。また、図2中、原糸1のさらに右側には、空冷または水冷された遮蔽板20が設けられており、この遮蔽板20に原糸1に吸収されなかったレーザー光15を吸収させる。遮蔽板20を構成する材料としては、煉瓦等の耐熱素材、表面を粗面化して耐熱塗料を塗布した金属等が適している。
【0017】
なお、ガラスフィラメント延伸装置は、上記基本構成以外に、必要に応じ、例えば、照射・加熱手段の上流部に設置して原糸を予熱し、原糸巻きグセを解消するための原糸予熱手段、原糸を正確にレーザー照射スポットに供給するため、原糸径よりわずかに大きく、その中に原糸を通過させ供給するためのガイド手段、マルチフィラメント状態の原糸を使用する場合に、照射・加熱手段の下流部に設置される、フィラメントを集束してハンドリングを容易にするための油剤処理手段、照射・加熱手段の下流部に設置される、細繊化されたフィラメントを保温して繊維破断発生を抑制するための保温手段、細繊化された繊維を外乱影響から保護するための保護手段(カバー)等を備えていてもよく、特に、巻き取りにおける空気抵抗影響を緩和するため保護手段内にはエアー等を流すことが好ましく、糸流れ方向にエアーを流すことがより好ましい。
【0018】
[6]ガラスフィラメント
以上説明した本発明の製造方法で得られるガラスフィラメントは、水酸基含有量が300ppm以下であるが、200ppm以下が好ましく、150ppm以下がより好ましい。
また、得られるガラスフィラメントの直径は、上述した延伸条件によって1~20μmに設定できるが、3~10μmが好ましく、3~7μmがより好ましい。
なお、フィラメントの直径は、後述の実施例に示すとおり、(株)トプコン製走査型顕微鏡(型式:DS130-S)を使用して測定できる。また、フィラメントの直径は、質量(体積)保存則より原糸直径/√延伸倍率で算出することもできる。
【実施例0019】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
以下において、原糸直径およびガラスフィラメントの径は、次のようにして測定した。
原糸直径の測定は、ノギス((株)ミツトヨ製、CD-20)にて測定した。
延伸後フィラメント径は、(株)トプコン製走査型顕微鏡(型式:DS130-S)を使用して測定した。なお、原糸直径と延伸倍率から算出したフィラメント径との整合性があることを確認し、実施例ではその換算値で示した。
また、ガラスフィラメントの水酸基含有量は、拡散反射法 IRにより測定した。
【0020】
[実施例1]
SiO2を99.9質量%含む石英ガラスインゴットからなる原糸直径230μmの原糸に、レーザー直径3.5mm、波長10.6μm、出力22.2Wの炭酸ガスレーザーを照射して表面温度2208℃まで加熱昇温し、原糸供給速度0.074m/分、フィラメント巻取り速度80.0m/分で1080倍に延伸して直径7μmのガラスフィラメントを得た。なお、原糸のレーザー光吸収率は0.9で、得られたフィラメントの水酸基含有量は、110ppmであった。
【0021】
[実施例2]
実施例1と同一の原糸に、レーザー直径3.5mm、波長10.6μm、出力20Wの炭酸ガスレーザーを照射して表面温度2090℃まで加熱昇温し、原糸供給速度0.074m/分、フィラメント巻取り速度224m/分で3300倍に延伸して直径4μmのガラスフィラメントを得た。なお、得られたフィラメントの水酸基含有量は、135ppmであった。
【0022】
[比較例1]
実施例1と同一の原糸を、酸素と水素の混合ガスからなる酸水素炎バーナーにより表面温度2010℃まで加熱昇温し、540倍に延伸して平均直径10μmのガラスフィラメントを得た。このフィラメントの水酸基含有量は、450ppmであった。
【符号の説明】
【0023】
1 原糸
10 供給手段
11 巻取手段
13 照射・加熱手段
15 レーザー光
16 レンズ
20 遮蔽板
図1
図2