(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173894
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素凝集粒子
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20221115BHJP
H01B 3/30 20060101ALI20221115BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221115BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C01B21/064 G
H01B3/30 Q
C08L101/00
C08K3/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079939
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】台木 祥太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悟
【テーマコード(参考)】
4J002
5G305
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002BB001
4J002BD031
4J002BD121
4J002BG061
4J002CC031
4J002CC161
4J002CC181
4J002CD001
4J002CF211
4J002CP031
4J002DK006
4J002GC00
4J002GM00
5G305AA20
5G305AB02
5G305AB23
5G305BA18
5G305CA03
5G305CA12
5G305CA15
5G305CA19
5G305CA20
5G305CA26
5G305CA27
5G305CA32
5G305CA38
5G305CA47
5G305CC04
5G305CD01
5G305CD06
5G305CD08
5G305CD17
5G305DA22
(57)【要約】
【課題】 樹脂に充填して得られる樹脂組成物に極めて高い絶縁耐力と熱伝導率を付与することができ、また、密度を低減することが可能な六方晶窒化ホウ素凝集粒子を提供する。
【解決手段】 六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子であって、長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にあり、且つ、倍率10000倍のSEM観察像より、凝集粒子表面において確認できる一次粒子の最大径が4μm以下であり、金属不純物元素の含有量が500ppm以下であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子であって、長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にあり、且つ、倍率10000倍のSEM観察像より、凝集粒子表面において確認できる一次粒子の最大径が4μm以下であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素凝集粒子。
【請求項2】
金属不純物元素の含有量が500ppm以下である請求項1記載の六方晶窒化ホウ素凝集粒子。
【請求項3】
請求項1又は2記載の六方晶窒化ホウ素凝集粒子と、六方晶窒化ホウ素単粒子とを含み、上記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合が5%以上であり、湿式レーザー回折粒度分布法により測定される粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)が5~150μmである六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
水銀圧入法により測定される細孔の体積基準メディアン径が3.0μm以下である請求項3に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
請求項3又4に記載の六方晶窒化ホウ素粉末を含む樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5記載の樹脂組成物からなる樹脂シート。
【請求項7】
絶縁耐力が80kV/mm以上である請求項6記載の樹脂シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な六方晶窒化ホウ素凝集粒子に関する。詳しくは、樹脂に充填して得られる樹脂組成物に極めて高い絶縁耐力と熱伝導率を付与することができ、且つ、上記樹脂組成物の密度を低減し、軽量化することが可能な六方晶窒化ホウ素凝集粒子を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素粉末は、一般に黒鉛と同様の六方晶系の層状構造を有する白色粉末であり、高熱伝導性、高電気絶縁性、高潤滑性、耐腐食性、離型性、高温安定性、化学的安定性等の多くの特性を有する。そのため、六方晶窒化ホウ素粉末を充填した樹脂組成物は、成形加工することで熱伝導性絶縁シートとして好適に使用されている。
【0003】
また、近年においては、高周波用デバイス向けに低誘電率、低誘電正接、熱伝導率絶縁シートの需要が高まっており、他の高熱伝導フィラーである窒化アルミニウムや酸化アルミニウムに比べて低誘電率である六方晶窒化ホウ素粉末の需要が高まっている。
【0004】
特に、車載向けの低比重熱伝導率絶縁シートとしての用途においては、他の高熱伝導フィラーである窒化アルミニウムや酸化アルミニウムに比べて低比重である六方晶窒化ホウ素粉末は注目されつつある。
【0005】
六方晶窒化ホウ素粉末を構成する六方晶窒化ホウ素凝集粒子は、結晶構造に由来する鱗片状粒子よりなる一次粒子を含み、該鱗片状粒子は熱的異方性を有している。それ故、上記鱗片状粒子を単粒子として含む窒化ホウ素粉末を充填剤として用いた熱伝導性絶縁シートの場合、該熱伝導性絶縁シートの面方向に鱗片状粒子が配向するため、鱗片状粒子の熱伝導率の低いc軸方向に熱が伝わり、該熱伝導性絶縁シートの厚さ方向の熱伝導率は低い。
【0006】
このような鱗片状の構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子の熱的異方性を改善するために、六方晶窒化ホウ素の鱗片状粒子がランダムな方向を向いて凝集した凝集粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末が提案されている。
【0007】
例えば、非晶質窒化ホウ素粉末をスプレードライ等で噴霧造粒し再加熱することにより、鱗片状粒子がランダムに配向した凝集粒子としたものや、非晶質窒化ホウ素粉末と酸化物などの助剤の混合粉末をプレス成形して焼結後、鱗片状粒子がランダムに配向した焼結体を破砕したものなどが提案されている(特許文献1参照)。これらの凝集粒子は、凝集を構成する一次粒子である鱗片状粒子の径が大きく、殆どの一次粒子が10μmを超える大きさを有している。そして、上記凝集粒子よりなる窒化ホウ素粉末は、樹脂に充填した際に、鱗片状一次粒子間の空隙内に樹脂が浸入して空隙が埋まることにより、大きな気泡が樹脂組成物中に存在し難いことで高い絶縁耐性を示すとされている。
【0008】
しかしながら、上記絶縁耐性については、未だ改善の余地がある。即ち、樹脂に充填した際、大きな空隙には樹脂が容易に浸入するが、凝集粒子の中心部に向かって間隙が小さくなったり、連続した長い間隙が形成されていたりする場合、樹脂組成物において、絶縁耐性を低下させる比較的大きいボイドが残存することが懸念される。特に、樹脂の粘度が高い場合、この傾向は顕著となる。また、前記焼結体にあっては、上記問題に加え、焼結助剤としての不純物元素の含有に伴う絶縁耐力の低下を招く原因となることが懸念される。
【0009】
また、凝集粒子内の空隙に樹脂を浸入させることによりボイドを減少させる前記凝集粒子においては、樹脂組成物における窒化ホウ素粉末の比重はバルク体とほぼ等しく、樹脂組成物の軽量化を図ることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子の凝集により熱伝導の異方性を解消して樹脂に充填時の高い熱伝導率を発現しつつ、樹脂に充填した際に得られる樹脂組成物に極めて高い絶縁耐力を付与することが出来、更に、かかる樹脂組成物の軽量化を図ることも可能な六方晶窒化ホウ素凝集粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、還元窒化法により窒化ホウ素を得るための原料として知られている、含酸素ホウ素化合物、カーボン源及び含酸素カルシウム化合物を用いて還元窒化反応を行う、特定の製造方法を採用することによって得られた六方晶窒化ホウ素凝集粒子は、凝集により熱的異方性が解消されると共に、上記反応時に凝集粒子が生成することにより鱗片状一次粒子が小さく、それ故、ランダムに向いた鱗片状一次粒子間に形成される間隙が極めて小さいため、樹脂に充填した際、かかる間隙にボイドが形成されても樹脂組成物の絶縁耐力を低下することなく、しかも、かかるボイドが存在することにより凝集粒子における見かけ密度が低減され、樹脂組成物の軽量化をも図ることができ、前記課題を全て解消できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明によれば、六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子であって、長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にあり、且つ、倍率10000倍のSEM観察像より、凝集粒子表面において確認できる一次粒子の最大径が4μm以下であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素凝集粒子(以下、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子ともいう。)が提供される。
【0014】
上記六方晶窒化ホウ素凝集粒子は、金属不純物元素の含有量が500ppm以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子は、細孔を持たない六方晶窒化ホウ素単粒子と共に使用することにより、絶縁耐力を低下させることなく、単粒子の熱的異方性をカバーした六方晶窒化ホウ素粉末を構成することができる。即ち、本発明によれば、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子と六方晶窒化ホウ素単粒子とを含み、上記特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合が5%以上であり、湿式レーザー回折粒度分布法により測定される粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)が5~150μmである六方晶窒化ホウ素粉末が提供される。
【0016】
上記六方晶窒化ホウ素単粒子と混合して得られる六方晶窒化ホウ素粉末は、水銀圧入法により測定される細孔の体積基準メディアン径が3.0μm以下であることが好ましい。
【0017】
更にまた、本発明は、前記窒化ホウ素粉末をフィラーとして充填した、熱伝導性に優れ、高い絶縁耐力を示す樹脂組成物、上記樹脂組成物よりなる樹脂シートをも提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子は、微細な六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子の凝集粒子より構成され、凝集による熱伝導性の異方性を解消できるという効果を発揮し、更に、上記特性に加えて、凝集粒子表面に微細な細孔を有していることにより、従来の凝集体に無い優れた特性を発揮する。即ち、本発明の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子を構成する一次粒子が微細であることにより粒子間の間隙が極めて小さい且つ、従来の板状粒子凝集粒子同士の間隙とは異なり、樹脂に充填した際にかかる間隙に存在するボイドが絶縁耐力にほとんど影響せず、これを含む六方晶窒化ホウ素粉末を充填した樹脂組成物は極めて高い絶縁耐力を発揮することができる。また、凝集粒子内に存在する上記間隙により、六方晶窒化ホウ素粉末の軽量化、延いてはこれを充填して得られる樹脂組成物の軽量化を図ることも可能である。
【0019】
また、本発明の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子は、焼結助剤を必要とする焼結法を採用することなく製造でき、不純物元素含有量が少なく、高純度化が可能であり、これにより前記樹脂組成物の絶縁耐力の低下を最大限に抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1で得られた六方晶窒化ホウ素凝集粒子のSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0021】
(六方晶窒化ホウ素凝集粒子)
本発明の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子は、六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子であって、長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にあり、且つ、倍率10000倍のSEM観察像より、凝集粒子表面において確認できる一次粒子の最大径が4μm以下であることを特徴としている。
【0022】
尚、六方晶窒化ホウ素の同定は、試料粉末を、X線回折測定において、六方晶窒化ホウ素以外の帰属ピークが無いことを確認し、六方晶窒化ホウ素粉末として同定した。ここで、上記X線回折測定は、Rigaku社製、全自動水平型多目的X線回折装置SmartLab(商品名)を用いた。測定条件はスキャンスピード20度/分、ステップ幅0.02度、スキャン範囲10~90度とした。また、六方晶窒化ホウ素粉末の結晶性を表すGI値は、六方晶窒化ホウ素粉末のX線回折スペクトルの(100)、(101)及び(102)回折線の積分強度比(面積比)から、式、GI=[{(100)+(101)}/[(102)]によって算出した。六方晶窒化ホウ素粉末のGI値は2.5以下であり、実施例において得られた特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子においてもそれを確認している。
【0023】
本発明の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子は、六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子の凝集体よりなるが、かかる凝集体は、従来の造粒方法や焼結方法のように、一度製造された鱗片状の六方晶窒化ホウ素単粒子を凝集させる製法ではなく、六方晶窒化ホウ素を合成する特定の反応条件を採用し、凝集粒子を生成せしめることによって得ることができるものである。
【0024】
それ故、本発明の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子は、微細な六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子より構成されており、倍率10000倍のSEM観察像より、凝集粒子表面において確認できる一次粒子の最大径が4μm以下、特に3μm以下という極めて小さい一次粒子より構成されている。そして、これにより、凝集粒子内の間隙が極めて小さく、樹脂に充填した際、上記間隙に存在するボイドが絶縁耐力にほとんど影響せず、得られる樹脂組成物は極めて高い絶縁耐力を発揮することができる。また、凝集粒子内及び表面に細孔(間隙)が存在することにより、六方晶窒化ホウ素粉末を充填して得られる樹脂組成物の軽量化を図ることも可能である。
【0025】
本発明の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子は、長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にあるものが、他の六方晶窒化ホウ素粒子と併用して樹脂組成物に配合する場合、流動性に優れ、樹脂への充填性の向上効果を高め、樹脂組成物の熱伝導性を向上させるために有効である。
【0026】
尚、前記上記長径、短径は、倍率10000倍のSEM観察像から算出した。また、円形度は、倍率10000倍のSEM観察像を、画像解析ソフトを用いて4π×(面積)/(周囲長)2の式を用いて求めた。
【0027】
後述する製造方法によれば、本発明の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子のみからなる純粋な粉末を製造することは困難であり、種々の形状や大きさを有する凝集粒子が生成する。そのため、分級等により粗粒や微細粒子を除去して特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合を高めた粉末として使用することが好ましい。
【0028】
上記の通り、本発明の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子について、細孔のメディアン径は選択的に測定することはできないが、後述の製造方法によって得られた六方晶窒化ホウ素粉末を構成する凝集粒子は同様な細孔構造を有していることを確認しており、これより、上記六方晶窒化ホウ素粉末について細孔径を測定し、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子の細孔のメディアン径を特定することができる。本発明において、かかる特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子の細孔のメディアン径は、3.0μm以下、好ましくは2.8μm、更に好ましくは2.5μm以下であることが好ましい。同様にして、本発明の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子について、細孔径が3μm以下の範囲の細孔の細孔容積が、0.5cm3/g以上、好ましくは、0.5~2.0cm3/gであることが好ましい。
【0029】
前記細孔体積基準メディアン径、細孔容積は、Micromeritics社製、オートポアIV9520を使用した水銀圧入法により、0.0036μm~200μmの細孔を測定し、横軸に細孔径、縦軸に積算細孔容積をプロットした積算細孔分布から算出した。
【0030】
本発明の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子は、後述する製造方法により焼結助剤を使用しない方法により得られるため、焼結助剤による純度低下が無く、高純度であり、例えば、絶縁シートを構成する樹脂組成物にフィラーとして使用した際、前記細孔の小さいことによる効果と共に働いて、耐電圧性の向上に寄与する。即ち、本発明の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子は、不純物元素の含有量が、500ppm以下、特に400ppm以下であることが好ましい。
【0031】
ここでいう不純物元素とは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、リチウム、ストロンチウム、鉄、硫黄、ニッケル、クロム、マンガン、ケイ素、リン、チタン、バリウム、コバルト元素のことである。前記不純物元素の含有量は、上記不純物元素の総含有量をいう。
【0032】
六方晶窒化ホウ素凝集粒子の不純物元素含有割合は、後述の製造により得られた六方晶窒化ホウ素粉末を蛍光X線分析法によって測定した値である。また、蛍光X線分析装置として、実施例においては、Rigaku社製ZSX Primus2(商品名)を使用した。
【0033】
本発明の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子は、C%が0.04%以下、O%が0.4%以下であることが、前記不純物元素量の少ないことと相まって、熱伝導率、絶縁耐力の向上により効果的である。
【0034】
六方晶窒化ホウ素凝集粒子のO%は、堀場製作所製:酸素/窒素分析装置EMGA-620を使用して測定した。六方晶窒化ホウ素粉末のC%は、堀場製作所製、EMIA-110を用いて測定した。
【0035】
本発明の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子は、他の六方晶窒化ホウ素粒子と併用して六方晶窒化ホウ素粉末を構成することができる。上記六方晶窒化ホウ素粉末は、実質的には、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子及び反応において不可避的に生成する六方晶窒化ホウ素凝集粒子よりなる六方晶窒化ホウ素粉末と、他の六方晶窒化ホウ素粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末との混合物となる。それ故、他の六方晶窒化ホウ素粒子を混合した粉末を「混合六方晶窒化ホウ素粉末」ともいう。
【0036】
混合六方晶窒化ホウ素粉末は、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子と他の六方晶窒化ホウ素粒子、特に、六方晶窒化ホウ素単粒子とを含み、上記特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合が5%以上、好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上であり、湿式レーザー回折粒度分布法により測定される粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)が5~150μm、好ましくは、20~100μmであることが好ましい。
【0037】
尚、本発明において、上記混合六方晶窒化ホウ素粉末も含め、六方晶窒化ホウ素粉末における特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合(%)は、以下の方法を用いて求めることができる。まず、KOWA株式会社の乾式振動篩KFC-500-1Dを用いて、目開き45μmのSUSメッシュを用いて、六方晶窒化ホウ素粉末を30分間、45μm篩上下に篩い分けし、45μm篩下重量割合X%を求めた。その後、回収した45μm篩下品の倍率500倍SEM観察像より、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子とそれ以外の粒子とを選別し、45μm篩下の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子のSEM観察像面積割合Y%を求めた。最終的に、45μm篩下重量割合X%と45μm篩下の六方晶窒化ホウ素凝集粒子のSEM観察像面積割合Y%を掛け合わせた割合(X×Y×0.01)%を、本発明における六方晶窒化ホウ素凝集粒子割合とした。例えば、六方晶窒化ホウ素粉末の45μm篩下重量割合Xが20wt%で、45μm篩下の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子のSEM観察像面積割合Yが60%であれば、本発明六方晶窒化ホウ素凝集粒子割合Zは、20×60×0.01=12%と算出する。
【0038】
本発明において、前記混合される他の六方晶窒化ホウ素粉末は特に制限されるものではないが、樹脂に充填後にボイドの発生が抑制される六方晶窒化ホウ素単粒子よりなる粉末が好適である。上記六方晶窒化ホウ素単粒子は、一般に扁平状の形状をしたものが多く、熱伝導の異方性を有しているが、樹脂への充填時、本発明の六方晶窒化ホウ素凝集粒子と接触することにより上記異方性が解消され、優れた熱伝導性を発揮することができる。
【0039】
上記六方晶窒化ホウ素単粒子としては、粒子のアスペクト比(粒子の長径と厚みとの比(長径/厚み)が、3~20、また、長径が1~30μmのものが好ましい。また、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子による本発明の効果を著しく阻害しない範囲で、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子以外の六方晶窒化ホウ素凝集粒子を併用することも可能である。
【0040】
特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子を含む本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、樹脂への充填性を勘案すれば、湿式レーザー回折粒度分布法における粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)が5~150μmであり、好ましくは、6~100μm、特に7~80μmの粒子径が推奨される。
【0041】
本発明において、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子と他の六方晶窒化ホウ素粒子とを含む六方晶窒化ホウ素粉末の細孔のメディアン径は、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子と同様、3.0μm以下、好ましくは2.8μm以下、更に好ましくは2.5μm以下であることが好ましい。また、上記六方晶窒化ホウ素粉末は、細孔径が3μm以下の範囲の細孔の細孔容積が、0.5cm3/g以上、好ましくは、0.5~2.0cm3/gであることが好ましい。上記のように、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子の特性を維持するためにも、六方晶窒化ホウ素粉末における他の六方晶窒化ホウ素粒子としては、単粒子が好適である。
【0042】
前記細孔体積基準メディアン径、細孔容積の測定は、前記特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子と同様に行うことができる。
【0043】
(特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子の製造方法)
本発明において、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子の製造方法は、特に制限されるものではないが、代表的な製造方法を例示すれば、425μm篩上残分が3重量%以下の含酸素ホウ素化合物、カーボン源、含酸素カルシウム化合物を、含酸素ホウ素化合物に含まれるB源とカーボン源に含まれるC源の割合であるB/C(元素比)換算で0.63~0.73、含酸素ホウ素化合物とカーボン源との合計量(B2O3、C換算値)100質量部に対して含酸素カルシウム化合物をCaO換算で4~12質量部となる割合で混合し、窒素雰囲気下にて1910~2000℃の最高温度に加熱して、還元窒化した後、反応生成物中に存在する窒化ホウ素以外の副生成物を酸洗浄により除去することを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法が挙げられ、かかる製造方法により、本発明の六方晶窒化ホウ素凝集粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末が得られる。
【0044】
(原料)
上記本発明の製造方法の最大の特徴は、原料として、粒径の制御された含酸素ホウ素化合物、カーボン源、含酸素カルシウム化合物を、後述するように、所定の割合で混合し、1910℃以上の高温で還元窒化する点にある。各原料が示す役割については以下の通りである。
【0045】
(含酸素ホウ素化合物)
前記製造方法において、原料の含酸素ホウ素化合物としては、ホウ素原子を含有する化合物が制限なく使用される。例えば、ホウ酸、無水ホウ酸、メタホウ酸、過ホウ酸、次ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウムなどが使用できる。一般的には、入手が容易なホウ酸、酸化ホウ素が好適に用いられる。また、使用する含酸素ホウ素化合物の平均粒子径を、425μm篩上残分が3質量%以下、好ましくは、1.5質量%以下にすることが好ましい。特に、300μm篩上残分が50%以下であることがより好ましく、250μm篩上残分が70%以下であることが更に好ましい。即ち、含酸素ホウ素化合物の425μm篩上残分が3重量%以上であると、150μm以上の粗大窒化ホウ素凝集粒子が残存し易くなり、粗大凝集粒子内の残存空隙が増加して、得られる六方晶窒化ホウ素粉末において細孔のメディアン径が3μmを超え、絶縁耐力の低下を招く。
【0046】
(含酸素カルシウム化合物)
前記製造方法において、含酸素カルシウム化合物は、含酸素ホウ素化合物と複合酸化物を形成することで、高融点の複合酸化物を形成し、含酸素ホウ素化合物の揮散を防止する役割を有する。
【0047】
前記製造方法において、触媒及び含酸素ホウ素化合物の揮散防止剤として使用される含酸素カルシウム化合物としては、公知のものが特に制限無く使用されるが、特に、酸素とカルシウムが含まれる含酸素カルシウム化合物が好適に使用される。含酸素カルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム等が挙げられる。これら2種類以上を混合して使用することも可能である。その中でも、酸化カルシウム、炭酸カルシウムを使用するのが好ましい。
【0048】
上記含酸素カルシウム化合物は、2種類以上を混合して使用することも可能である。また、上記含酸素カルシウム化合物の平均粒子径は、平均粒子径0.01~200μmが好ましく、0.05~120μmがより好ましく、0.1~80μmが特に好ましい。
【0049】
(カーボン源)
前記製造方法において、カーボン源としては、還元剤として作用する公知の炭素材料が特に制限無く使用される。例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー等の非晶質炭素の他、ダイヤモンド、グラファイト、ナノカーボン等の結晶性炭素、モノマーやポリマーを熱分解して得られる熱分解炭素等が挙げられる。そのうち、反応性の高い非晶質炭素が好ましく、更に、工業的に品質制御されている点で、カーボンブラックが特に好適に使用される。また、上記カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用することができる。また、上記カーボン源の平均粒子径は、0.01~5μmが好ましく、0.02~4μmがより好ましく、0.05~3μmが特に好ましい。即ち、該カーボン源の平均粒子径を5μm以下とすることにより、カーボン源の反応性が高くなり、また、0.01μm以上とすることにより、取り扱いが容易となる。
【0050】
前記製造方法において、上記の各原料を含む混合物の反応への供給形態は特に制限されず、粉末状のままでもよいが、造粒体を形成して行ってもよい。
【0051】
本発明の製造方法において、前記原料の混合方法は特に制限されず、振動ミル、ビーズミル、ボールミル、ヘンシェルミキサー、ドラムミキサー、振動攪拌機、V字混合機等の一般的な混合機が使用可能である。
【0052】
また、造粒を行う場合の造粒方法も、必要に応じてバインダーを使用し、押出造粒、転動造粒、コンパクターによる造粒など、公知の方法により実施することができる。この場合、造粒体の大きさは、5~10mm程度が好適である。
【0053】
(原料の調製)
前記製造方法において、還元窒化反応は、カーボン源と窒素の供給により実施されるが、目的とする六方晶窒化ホウ素凝集粒子を効果的に得るためには、含酸素ホウ素化合物に含まれるB源とカーボン源との割合は、B/C(元素比)換算で0.63~0.73、好ましくは0.65~0.72とすることが必要である。即ち、該モル比が0.73を超えると、還元されずに揮散するホウ素化合物の割合が増加し、Ca助剤と複合酸化物を形成し易く、また上記複合酸化物の融点が低く、板状粒子が粒成長しやすく、目的とする一次粒子が小粒径で細孔を有した凝集粒子が得難い。また、該モル比が0.63未満では、カーボン含有割合が多く、カーボン由来の不純物残存の恐れがある。
【0054】
前記製造方法において、目的とする六方晶窒化ホウ素凝集粒子を効果的に得るためには、含酸素ホウ素化合物とカーボン源との合計量(B2O3、C換算値)100質量部に対して含酸素カルシウム化合物をCaO換算で4~12質量部となる割合で混合することが必要である。このとき、CaO換算質量部が4質量部以下では、還元されずに揮散するホウ素化合物の割合が増加し、収率が低下するばかりでなく、残存するホウ素化合物と形成するCaO-B2O3複合酸化物の融点が下がり、六方晶窒化ホウ素粒子の粒成長が促進され、目的とする細孔を有した凝集粒子を形成し難く好ましくない。CaO換算質量部が12質量部以上では、カルシウム由来の不純物が残存する虞があり好ましくない。
【0055】
本発明においては、上記原料粒径、組成比を調整することで、目的とする過度な粒成長が行われず、一次粒子径の小さい凝集粒子を高選択的に作製することが出来る。
(還元窒化)
前記製造方法において、反応系への窒素源の供給は、公知の手段によって形成することが出来る。例えば、後に例示した反応装置の反応系内に窒素ガスを流通させる方法が最も一般的である。また、使用する窒素源としては、上記窒素ガスに限らず、還元窒化反応において窒化が可能なガスであれば特に制限されない。具体的には、前記窒素ガスの他、アンモニアガスを使用することも可能である。また、窒素ガス、アンモニアガスに、水素、アルゴン、ヘリウム等の非酸化性ガスを混合したガスも使用可能である。
【0056】
前記製造方法において、結晶性の高く、且つ細孔を有する六方晶窒化ホウ素粉末を得るために、還元窒化反応における加熱温度は、通常1910℃~2000℃、好ましくは、1920~1980℃の温度を採用することが必要である。加熱温度を1910℃~2000℃にすることで、六方晶窒化ホウ素粒子の結晶性が向上し、一次粒子形状外周がより、シャープになり、粒子同士の微小な細孔が増える効果を有する。また、かかる温度が1910℃未満では還元窒化反応が未進行、且つ、結晶性の高い白色の六方晶窒化ホウ素を得ることが困難であり、2000℃を超える温度では、効果が頭打ちとなり、経済的に不利であるだけでなく、加熱炉へのダメージが増加し好ましくない。
【0057】
また、還元窒化反応の時間は適宜決定されるが、一般に、6~30時間程度である。
【0058】
上述の製造方法は、反応雰囲気制御の可能な公知の反応装置を使用して行うことができる。例えば、高周波誘導加熱やヒーター加熱により加熱処理を行う雰囲気制御型高温炉が挙げられ、バッチ炉の他、プッシャー式トンネル炉、竪型反応炉等の連続炉も使用可能である。
【0059】
(酸洗浄)
前記製造方法において、上述の還元窒化によって得られる反応生成物は、六方晶窒化ホウ素粉末の他に、酸化ホウ素―酸化カルシウムから成る複合酸化物等の不純物が存在するため、酸を用いて洗浄することが好ましい。かかる酸洗浄の方法は特に制限されず、公知の方法が制限無く採用される。例えば、窒化処理後に得られた副生成物含有窒化ホウ素を解砕して容器に投入し、該不純物を含有する六方晶窒化ホウ素粉末の5~10倍量の希塩酸(5~20質量%HCl)を加え、4~8時間接触せしめる方法などが挙げられる。
【0060】
上記酸洗浄時に用いる酸としては、塩酸以外にも、硝酸、硫酸、酢酸等を用いることも可能である。
【0061】
上記酸洗浄の後、残存する酸を洗浄する目的で、純水を用いて洗浄する。上記洗浄の方法としては、上記酸洗浄時の酸をろ過した後、使用した酸と同量の純水に酸洗浄した窒化ホウ素を分散させ、再度ろ過する。
【0062】
(乾燥)
上記、酸洗浄、水洗浄後の、含水塊状物を乾燥条件としては、50~250℃の大気、もしくは減圧下での乾燥が好ましい。乾燥時間は、特に指定しないが、含水率が0%に限りなく近づくまで乾燥することが好ましい。
【0063】
(分級)
乾燥後の窒化ホウ素粉末は、必要に応じて、解砕後、篩等による粗粒の除去や、気流分級等による微粉除去、湿式分級を行い、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合を高めた六方晶窒化ホウ素粉末とすることが好ましい。上記分級は、特に乾式篩分級処理が好ましく、目開きとして30~90μmが好ましい。
【0064】
(窒化ホウ素粉末の用途)
本発明の六方晶窒化ホウ素凝集粒子を含む窒化ホウ素粉末の用途は、特に限定されず、公知の用途に特に制限無く適用可能である。好適に使用される用途を例示するならば、電気絶縁性向上や熱伝導性付与等の目的で樹脂に充填剤として使用する用途が挙げられる。上記窒化ホウ素粉末の用途において、得られる樹脂組成物は、高い熱伝導性と共に絶縁耐力が80kV/mm以上の高い電気絶縁性を有する。
【0065】
本発明の樹脂組成物は制限無く公知の用途に使用することが出来るが、後述する樹脂と混合し熱伝導性樹脂組成物あるいは熱伝導性成形体とすることでポリマー系放熱シートやフェイズチェンジシート等のサーマルインターフェイスマテリアル、放熱テープ、放熱グリース、放熱接着剤、ギャップフィラー等の有機系放熱シート類、放熱塗料、放熱コート等の放熱塗料類、PWBベース樹脂基板、CCLベース樹脂基板等の放熱樹脂基板、アルミベース基板、銅ベース基板等のメタルベース基板の絶縁層、パワーデバイス用封止材、層間絶縁膜等の用途に好ましく用いることが出来る。
【0066】
また、本発明の窒化ホウ素粉末は樹脂組成物とする際に、一般的な高熱伝導絶縁フィラーである窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等の熱伝導性フィラーと混合して使用することが出来る。
【0067】
前記樹脂としては、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、ナイロン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂等の熱硬化性樹脂、フッ素樹脂、液晶性ポリマー、合成ゴムなどが挙げられる。
【0068】
また、上記樹脂組成物には、必要に応じて樹脂組成物の配合剤として公知の重合開始剤、硬化剤、重合禁止剤、重合遅延剤、カップリング剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、抗菌剤、有機フィラー、有機無機複合フィラーなどの公知の添加剤を含んでもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で他の無機フィラーを含んでいてもよい。
【0069】
また、本発明の窒化ホウ素粉末は、立方晶窒化ホウ素や窒化ホウ素成型品等の窒化ホウ素加工品製品の原料、エンジニアリングプラスチックへの核剤、フェーズチェンジマテリアル、固体状または液体状のサーマルインターフェイスマテリアル、溶融金属や溶融ガラス成形型の離型剤、化粧品、複合セラミックス原料等の用途にも使用することができる。
【実施例0070】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
尚、実施例において、各測定は、以下の方法により測定した値である。
【0072】
[細孔体積基準メディアン径(μm)]
[3μm以下の細孔の容積(cm3/g)]
試料六方晶窒化ホウ素粉末について、細孔体積基準メディアン径D1は、水銀圧入法で測定した。0.0036μm~200μmの細孔分布を求めた際の、横軸に細孔径、縦軸に積算細孔容積をプロットした積算細孔分布から、細孔体積基準メディアン径、3μm以下の細孔の容積を算出した。Micromeritics社製、オートポアIV9520を用いて算出した。
【0073】
[六方晶窒化ホウ素粉末の湿式粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D2)(μm)]
試料六方晶窒化ホウ素粉末について、HORIBA社製:LA-950V2を用いて粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)を測定した。六方晶窒化ホウ素粉末の粒度分布は、日機装株式会社製:粒子径分布測定装置MT3000を使用して測定した。なお、測定サンプルは、以下に示す方法により調製した。まず、50mLスクリュー管瓶にエタノール20gを分散媒として加え、エタノール中に六方晶窒化ホウ素粉末1gを分散させた。得られた粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)を(D2)とした。
【0074】
[六方晶窒化ホウ素粉末不純物元素濃度(質量%)]
試料六方晶窒化ホウ素粉末について、Rigaku社製ZSX Primus2(商品名)を用いて六方晶窒化ホウ素粉末の不純物元素(カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、リチウム、ストロンチウム、鉄、硫黄、ニッケル、クロム、マンガン、ケイ素、リン、チタン、バリウム、コバルト)の濃度を測定した。
【0075】
実施例1
425μm篩上残分が2.1重量%の酸化ホウ素195g、カーボンブラック99g、炭酸カルシウム55.2gを、スパルタンミキサーを使用して混合した。該混合物の(B/C)元素比換算は0.68、含酸素ホウ素化合物、カーボン源の、B2O3、C換算質量合計量100質量部に対する上記含酸素カルシウム化合物のCaO換算質量含有割合は10.5質量部である。該混合物1500gを、黒鉛製タンマン炉を用い、窒素ガス雰囲気下、1500℃6時間、1940℃で4時間保持することで窒化処理した。
【0076】
次いで、副生成物含有窒化ホウ素を解砕して容器に投入し、該副生成物含有窒化ホウ素の5倍量の塩酸(7質量%HCl)を加え、スリーワンモーター回転数350rpmで24時間撹拌した。該酸洗浄の後、酸をろ過し、使用した酸と同量の純水に、ろ過して得られた窒化ホウ素を分散させ、再度ろ過した。この操作をろ過後の水溶液が中性になるまで繰り返した後、200℃で12時間真空乾燥させた。
【0077】
乾燥後に得られた粉末を目開き45μmの篩にかけて、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子を含む白色の六方晶窒化ホウ素粉末を得た。得られた六方晶窒化ホウ素粉末中、倍率10000倍のSEM観察像より、長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にあり、凝集粒子表面において確認できる一次粒子の最大径が4μm以下である事を確認した。また、500倍のSEM観察像の面積割合より計算した、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子の存在割合は、53%であった。また、得られた特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子の平均粒径付近の一粒子について、具体的な長径、長径/短径、円形度、及び、一次粒子の最大径を表2に示す。更に、得られた六方晶窒化ホウ素粉末の測定値より特定される特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子の不純物元素の含有量、細孔体積メディアン径D1(μm)、細孔径が3μm以下の細孔の細孔容積(cm3/g)を表1に併せて示した。また、不純物元素濃度は40ppmであった。酸素濃度は0.2%、炭素濃度は0.01%であった。
【0078】
また、実施例1において得られた代表的な特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子のSEM画像を
図1に示す。
【0079】
[混合六方晶窒化ホウ素粉末及び樹脂組成物]
このようにして製造された特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子を含む窒化ホウ素粉末100質量部に対して、市販の六方晶窒化ホウ素単粒子よりなる六方晶窒化ホウ素粉末(湿式粒度分布D2=10μm、平均アスペクト比10、不純物元素濃度は40ppm、酸素濃度は0.2%、炭素濃度は0.01%)5質量部を混合して、混合六方晶窒化ホウ素粉末を得た。得られた混合六方晶窒化ホウ素粉末について、細孔体積メディアン径D1(μm)、細孔径が3μm以下の細孔の細孔容積(cm3/g)、湿式粒度分布の累積体積頻度50%の粒径D2(μm)を表2に示した。
【0080】
上記混合六方晶窒化ホウ素粉末をエポキシ樹脂に充填し樹脂組成物を作製し、熱伝導率の評価を行った。エポキシ樹脂は、(三菱化学株式会社製JER828)100質量部と硬化剤(イミダゾール系硬化剤、四国化成株式会社製キュアゾール2E4MZ)5質量部と溶媒としてメチルエチルケトン210質量部の混合物を準備した。次に、基材樹脂35体積%と、前記六方晶窒化ホウ素粉末65体積%となるように上記ワニス状混合物と六方晶窒化ホウ素粉末を自転・公転ミキサー(倉敷紡績株式会社製MAZERUSTAR)にて混合して樹脂組成物を得た。
【0081】
上記樹脂組成物を,テスター産業社製自動塗工機PI-1210を用いて、PETフィルム上に厚み250~300μm程度に塗工・乾燥し、減圧下、温度:200℃、圧力:5MPa、保持時間:30分の条件で硬化させ、厚さ220μmのシートを作製した。該シートを温度波熱分析装置にて解析し、熱伝導率を算出した。また、耐電圧試験機(多摩電測株式会社製)にて絶縁耐力を測定した。結果を表2に併せて示した。
【0082】
実施例2
酸化ホウ素の425μm篩上残分が2.8重量%、(B/C)元素比換算を0.73、含酸素ホウ素化合物、カーボン源、の、B2O3、C換算質量合計量100質量部に対する上記含酸素カルシウム化合物のCaO換算質量含有割合を8.2質量部とした以外は実施例1と同様にした。各条件、測定値を表1に示した。また、不純物元素濃度は20ppmであった。酸素濃度は0.2%、炭素濃度は0.01%であった。
【0083】
[混合六方晶窒化ホウ素粉末及び樹脂組成物]
このようにして製造された特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子を含む窒化ホウ素粉末を使用して、実施例1と同様にして、混合六方晶窒化ホウ素粉末を調製し、更に、これを樹脂と混合して樹脂組成物を作成し、熱伝導率、絶縁耐力の測定を行った。結果を表2に併せて示した。
【0084】
実施例3
酸化ホウ素の425μm篩上残分が1.0重量%、(B/C)元素比換算を0.66、含酸素ホウ素化合物、カーボン源、の、B2O3、C換算質量合計量100質量部に対する上記含酸素カルシウム化合物のCaO換算質量含有割合を7質量部とした以外は実施例1と同様にした。各条件、測定値を表1に示した。また、不純物元素濃度は20ppmであった。酸素濃度は0.2%、炭素濃度は0.01%であった。
【0085】
[混合六方晶窒化ホウ素粉末及び樹脂組成物]
このようにして製造された特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子を含む窒化ホウ素粉末を使用して、実施例1と同様にして、混合六方晶窒化ホウ素粉末を調製し、更に、これを樹脂と混合して樹脂組成物を作成し、熱伝導率、絶縁耐力の測定を行った。結果を表2に併せて示した。
【0086】
実施例4
酸化ホウ素の425μm篩上残分が0.1重量%且つ、300μm篩上残分が15.0重量%とした以外は実施例1と同様にした。各条件、測定値を表1に示した。また、不純物元素濃度は20ppmであった。酸素濃度は0.2%、炭素濃度は0.01%であった。
【0087】
[混合六方晶窒化ホウ素粉末及び樹脂組成物]
このようにして製造された特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子を含む窒化ホウ素粉末を使用して、実施例1と同様にして、混合六方晶窒化ホウ素粉末を調製し、更に、これを樹脂と混合して樹脂組成物を作成し、熱伝導率、絶縁耐力の測定を行った。結果を表2に併せて示した。
【0088】
実施例5
酸化ホウ素の425μm篩上残分が0.5重量%、(B/C)元素比換算を0.70、含酸素ホウ素化合物、カーボン源の、B2O3、C換算質量合計量100質量部に対する上記含酸素カルシウム化合物のCaO換算質量含有割合を8質量部とした以外は実施例1と同様にした。測定値を表1に示した。また、不純物元素濃度は20ppmであった。酸素濃度は0.2%、炭素濃度は0.01%であった。
【0089】
実施例6
実施例1で製造した、特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子を含む窒化ホウ素粉末100質量部に対して、市販の六方晶窒化ホウ素単粒子よりなる六方晶窒化ホウ素粉末(湿式粒度分布D2=10μm、平均アスペクト比10、不純物元素濃度は40ppm、酸素濃度は0.2%、炭素濃度は0.01%)15質量部を混合して混合六方晶窒化ホウ素粉末を調製し、更に、これを実施例1と同様に、樹脂と混合して樹脂組成物を作成し、熱伝導率、絶縁耐力の測定を行った。結果を表2に併せて示した。
【0090】
【0091】
【0092】
上記のように、実施例1~6で作製した六方晶窒化ホウ素粉末を充填したシートの熱伝導率は、9.0W/m・K以上であり、高熱伝導率を示した。また、80kV/mm以上と高絶縁耐力であり、樹脂組成物内の絶縁耐力低下原因となる大きな空隙量が少ない事が示唆された。
【0093】
尚、比較対象として、実施例1の特定六方晶窒化ホウ素凝集粒子に代えて、一次粒子径が8μmの凝集粒子よりなり、D50が25μmである市販の六方晶窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にして混合六方晶窒化ホウ素粉末を調製し、これを使用して樹脂組成物を作成し、各種試験を行ったところ、熱伝導率が8.8W/m・K、絶縁耐力が65kV/mmと低い値を示した。