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特開2022-174017タンパク質を固定化したコアシェル構造を有する繊維
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174017
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】タンパク質を固定化したコアシェル構造を有する繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/12 20060101AFI20221115BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20221115BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20221115BHJP
   C12N 9/00 20060101ALI20221115BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20221115BHJP
   D01F 8/02 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
D01F8/12 Z
D01D5/04
D04H1/728
C12N9/00
C12N9/14
D01F8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076892
(22)【出願日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2021079517
(32)【優先日】2021-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2021年(令和3年)5月11日 第70回高分子学会WEB予稿集にて発表 2021年(令和3年)5月26日 第70回高分子学会年次大会にて発表 2021年(令和3年)6月24日 第31回バイオ・高分子シンポジウムにて発表にて発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「不織布型の新規酵素固定化担体の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000216162
【氏名又は名称】天野エンザイム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】水野 稔久
(72)【発明者】
【氏名】石黒 泰良
(72)【発明者】
【氏名】山城 寛
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 柚奈
【テーマコード(参考)】
4B050
4L041
4L045
4L047
【Fターム(参考)】
4B050GG10
4B050LL05
4L041AA03
4L041BA02
4L041BA06
4L041BA21
4L041BA24
4L041BC02
4L041BD11
4L041BD20
4L041CA21
4L041CA52
4L041CB25
4L041CB28
4L041DD01
4L041DD18
4L045AA01
4L045AA08
4L045BA18
4L045BA34
4L045CB08
4L045DA03
4L047AA23
4L047AA27
4L047AB08
4L047CC03
4L047EA22
(57)【要約】
【課題】タンパク質の高い再利用性を達成できる、タンパク質固定化繊維、上記タンパク質固定化繊維の製造方法、及び上記タンパク質固定化繊維を用いた反応方法を提供すること。
【解決手段】コア部分と、前記コア部分を被覆するシェル部分とから構成されるコアシェル構造を有する繊維であって、前記コア部分にタンパク質が固定化されており、前記シェル部分がポリアミドを含む、繊維。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部分と、前記コア部分を被覆するシェル部分とから構成されるコアシェル構造を有する繊維であって、前記コア部分にタンパク質が固定化されており、前記シェル部分がポリアミドを含む、繊維。
【請求項2】
タンパク質が酵素である、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
ポリアミドがナイロンである、請求項1に記載の繊維。
【請求項4】
コア部分が、親水性高分子を含む、請求項1に記載の繊維。
【請求項5】
繊維径が、10nm~10μmである、請求項1から4の何れか一項に記載の繊維。
【請求項6】
シェル部分の厚さが、1nm~1μmである、請求項1から4の何れか一項に記載の繊維。
【請求項7】
タンパク質の含有量が、繊維1gあたり0.01mg~200mgである、請求項1から4の何れか一項に記載の繊維。
【請求項8】
不織布の形態である、請求項1から4の何れか一項に記載の繊維。
【請求項9】
親水性高分子とタンパク質とを含む第一の溶液と、アミドを含む第二の溶液とを用いて電界紡糸を行うことを含む、請求項1から4の何れか一項に記載の繊維の製造方法。
【請求項10】
第一の溶液が、架橋剤をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から4の何れか一項に記載の繊維と基質とを接触させて反応を行うことを含む、反応方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再利用性に優れた、タンパク質を固定化したコアシェル構造を有する繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布を酵素を固定化するための担体として用いる方法として、酵素を繊維表面に固定化して利用することが知られている。例えば、Ran Xuらは酸処理により活性化されたポリアクリロニトリルからなる不織布の繊維表面にラッカーゼを共有結合により固定化し、酵素固定化担体としての機能評価を行なっている(非特許文献1)。
【0003】
また、不織布の繊維内部に酵素を固定化して利用する報告も知られている。例えば、小枝らはポリγグルタミン酸(PGA)の側鎖カルボキシ基にシリカ架橋材である3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン(GPTMS)を修飾し、シリカ部分のソルゲル反応によりPGAを架橋した高分子を母材とすることで、不織布繊維内部に酵素であるαキモトリプシンを変性させることなく固定化した、酵素固定化不織布を作製することに成功している(非特許文献2及び特許文献1)。これにより、水に不溶な繊維内部に、酵素を変性させることなく固定化させることができ、固定化されたαキモトリプシンは高い酵素活性が発揮された。しかし、もともと水中でゲル化する架橋高分子を母材に用いているため、実用的な利用を考えた時に、構造的脆さを持っている点が問題であった。
【0004】
さらに、コアシェル不織布の繊維内部に酵素を固定化する報告もある(非特許文献3)。ここでは、ポリアクリルアミド系高分子をコア部分の部材に用い、シェル部分にはポリεカプロラクトン(PCL)を用いている。シェル部分は疎水性高分子であるPCLを用いたため基質分子の浸透性が危惧されたが、シェル部分の厚みが200nm以下と薄かったため、コア部分に固定化されたαキモトリプシンは、高い酵素活性が発揮された。また、PCLをシェルとして持つために、構造的な脆さは大幅に改善された。しかし工業的な利用を考えた場合に、固定化された酵素が高い再利用性を持つことも大事であったが、ラクターゼを固定化し用いた場合では5回の再利用で6割程度まで酵素活性の低下が見られ、この再利用性の向上が求められた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ACS Appl. Mater. Interfaces, 5, 12554-12560(2013)
【非特許文献2】Langmuir 32, 221-229 (2016)
【非特許文献3】Bull. Chem. Soc. Jpn., 93, 1155-1163 (2020)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-15959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酵素は様々な用途で使用されているが、安定性や再利用性に課題があり、酵素を固定化する技術が研究されている。固定化の方法として担体の表面に固定化する技術が一般的であるが、繊維内部に酵素を固定化する技術も公知である。繊維内部に酵素を固定化する場合、繊維の構造的強度が問題となり、繊維表層のシェル部分に構造的に安定な部材(PCL)を用いる技術も知られているが、再利用性が低いという課題があった。
【0008】
本発明は、タンパク質の高い再利用性を達成できる、タンパク質固定化繊維、上記タンパク質固定化繊維の製造方法、及び上記タンパク質固定化繊維を用いた反応方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、シェル部分の高分子材料としてポリアミドを用いたコアシェル不織布を酵素の固定化担体として用いることにより、上記の課題を解決できることを見出した。本発明は、この知見に基づいて完成したものである。本発明によれば以下の発明が提供される。
【0010】
<1> コア部分と、前記コア部分を被覆するシェル部分とから構成されるコアシェル構造を有する繊維であって、前記コア部分にタンパク質が固定化されており、前記シェル部分がポリアミドを含む、繊維。
<2> タンパク質が酵素である、<1>に記載の繊維。
<3> ポリアミドがナイロンである、<1>又は<2>に記載の繊維。
<4> コア部分が、親水性高分子を含む、<1>から<3>の何れか一に記載の繊維。
<5> 繊維径が、10nm~10μmである、<1>から<4>の何れか一に記載の繊維。
<6> シェル部分の厚さが、1nm~1μmである、<1>から<5>の何れか一に記載の繊維。
<7> タンパク質の含有量が、繊維1gあたり0.01mg~200mgである、<1>から<6>の何れか一に記載の繊維。
<8> 不織布の形態である、<1>から<6>の何れか一に記載の繊維。
<9> 親水性高分子とタンパク質とを含む第一の溶液と、ポリアミドを含む第二の溶液とを用いて電界紡糸を行うことを含む、<1>から<8>の何れか一に記載の繊維の製造方法。
<10> 第一の溶液が、架橋剤をさらに含む、<9>に記載の方法。
<11> <1>から<8>の何れか一に記載の繊維と基質とを接触させて反応を行うことを含む、反応方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のタンパク質固定化繊維によれば、タンパク質の高い再利用性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、コアシェル不織布を構成するナノ繊維の構造(上)とシェル成分の原料となるPCLとnylon 6(下)を示す。
図2図2は、コア成分の原料となるpoly(AM/DAAM)およびpoly(HPMA/DAMA)と、架橋剤であるADHの構造を示す。これらが反応することでポリアクリルアミド系の架橋高分子poly(AM/DAAM)/ADHおよびpoly(HPMA/DAMA)/ADHとなる。
図3図3は、シェルにPCLを用いたコアシェル不織布poly(AM/DAAM)/ADH-PCLとシェルにnylon 6を用いたpoly(AM/DAAM)/ADH-nylon 6のSEM画像(電界紡糸直後のサンプル(上)と、バッファー浸漬後(下)のナノ繊維構造の比較)を示す。
図4図4は、シェルにnylon 6を用いたコアシェル不織布を示す。poly(AM/DAAM)/ADH-nylon 6のナノ繊維1本のTEM画像(コア部分に重金属成分(リンタングステン酸ナトリウム)を含ませることで、シェル成分とのコントラストを取れるようにして測定。コア部分が黒くなる);加速電圧 200 kVで測定
図5図5は、コアナノ繊維部分にあらかじめ内包していたfluoresceinの浸漬バッファー溶液への漏洩挙動を示す。
図6図6は、コアナノ繊維部分にあらかじめ内包していたFITC修飾リゾチームの浸漬バッファー溶液への漏洩挙動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によれば、コア部分と、前記コア部分を被覆するシェル部分とから構成されるコアシェル構造を有する繊維であって、前記コア部分にタンパク質が固定化されており、前記シェル部分がポリアミドを含む、繊維が提供される。
【0014】
コアシェル構造を有する繊維とは、鞘芯構造を有する1nmから10μm径の繊維である。コアの部分(芯となる繊維の部分)に用いる高分子材料とシェルの部分(芯となる繊維を覆う部分)に用いる高分子材料としては、任意の異なる材料を選択可能であるが、本発明においては、シェル部分がポリアミドを含む。タンパク質は、繊維表面やシェルの部分ではなく、コアの部分に固定化されている。
【0015】
<タンパク質>
本発明において使用するタンパク質は、酵素でも、酵素以外のタンパク質でもよいが、好ましくは酵素である。
酵素としては、生体触媒として有用である任意の酵素を使用することができる。
酵素の具体例としては、加水分解酵素、酸化還元酵素、異性化酵素、転移酵素、リアーゼ、リガーゼなどが挙げられるが、これらに限定されない。酵素とともに、補酵素を一緒に固定化してもよい。
【0016】
加水分解酵素としては、糖加水分解酵素、エステル加水分解酵素、ペプチド結合加水分解酵素などが挙げられる。糖加水分解酵素としては、グリコシダーゼ、グルコシダーゼ、アミラーゼ、ラクターゼ、プルラナーゼ、デキストラナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼ、ヘスペリジナーゼ、ナリンギナーゼ、マルターゼ、サッカラーゼ、リゾチームなどが挙げられる。エステル加水分解酵素としては、エステラーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、ヌクレアーゼ、タンナーゼ、フィターゼ、ホスファターゼが挙げられる。ペプチド結合加水分解酵素としては、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、トリプシン、パパイン、サーモリシン、キモトリプシン、コラゲナーゼなどが挙げられる。その他にも、デアミナーゼ、グルタミナーゼ、プロテイングルタミナーゼ、アシラーゼなどが挙げられる。
【0017】
酸化還元酵素としては、アルコールデヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、グリセロールリン酸デヒドロゲナーゼ、ラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)(乳酸脱水素酵素とも言う)、ガラクトースデヒドロゲナーゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシブチレートデヒドロゲナーゼ、グルコースオキシターゼ、コレステロールオキシターゼ、ガラクトースオキシターゼ、コリンオキシターゼ、ピルビン酸オキシターゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、アミノ酸オキシターゼ、アミノオキシターゼ、ザルコシンオキシターゼ、ジアホラーゼ、ウリカーゼ、パーオキシダーゼ、カタラーゼ、リボキシゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、リジルオキシダーゼ、ラッカーゼ、ビリルビンオキシダーゼなどが挙げられる。
【0018】
異性化酵素としては、エピメラーゼおよびラセマーゼなどが挙げられる。
【0019】
転移酵素としては、メチルトランスフェラーゼ、カルボキシルトランスフェラーゼ、トランスアルドラーゼ、アシルトランスフェラーゼ、グリコシルトランスフェラーゼ、アミノトランスフェラーゼ、ホスホトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、クレアチンホスキナーゼ、ピルベートキナーゼ、ヘキソキナーゼ、グリセロールキナーゼ、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ、トランスグルタミナーゼ、等が挙げられる。
【0020】
リアーゼとしては、デカルボキシラーゼ、アルデヒドリアーゼ、およびデヒドラターゼなどが挙げられる。
【0021】
リガーゼとしては、アスパラギンシンテターゼ、グルタチオンシンテターゼなどが挙げられる。
【0022】
酵素としては、加水分解酵素が好ましく、グリコシダーゼがより好ましく、一例としてはラクターゼを挙げることができる。
【0023】
酵素以外のタンパク質としては、抗体、生理活性ペプチドなどが挙げられる。
【0024】
繊維におけるタンパク質の含有量は、特に限定されないが、一般的には繊維1gあたり0.01mg~200mgである。繊維におけるタンパク質の含有量の下限は、繊維1gあたり0.02mg以上、0.05mg以上、0.1mg以上、0.2mg以上、又は0.3mg以上でもよい。繊維におけるタンパク質の含有量の上限は、繊維1gあたり、100mg以下、50mg以下、20mg以下、10mg以下、5mg以下、1mg以下、又は0.6mg以下でもよい。
【0025】
<コアシェル構造を有する繊維>
本発明における繊維は、コア部分と、前記コア部分を被覆するシェル部分とから構成されるコアシェル構造を有する。
コア部分に用いる高分子材料としては、固定化する酵素を含有した状態で酵素を変性させないために、親水性高分子が好ましい。親水性高分子としては、非架橋性の親水性高分子又は架橋性の親水性高分子の何れもでもよい。
【0026】
非架橋性の親水性高分子としては、ポリエチレングリコール(ポリエチレンオキサイド)、ポリビニルアルコール、アルギン酸金属塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなどを挙げることができる。これらの親水性高分子は、分子量および官能基の数によって水溶性になるが、原料としては水に対して溶解し、成形した後には常温の水に溶解しないように分子量(重合度)または官能基数を有する高分子を選択することが好ましい。
【0027】
架橋性の親水性高分子としては、ポリカルボン酸(例えば、ポリγ-グルタミン酸、ポリα -グルタミン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、カルボキシメチルセルロースなど)又はポリアミン(例えば、ポリリジンなど)と架橋剤とから形成させる親水性高分子を挙げることができる。一例としては、架橋反応の反応点となるジアセトンアクリルアミド(DAAMとも表記する)あるいはジアセトンメタクリルアミド(DAMA)のような、ケトン基あるいはアルデヒド基を側鎖に持つモノマーユニットを含む親水性高分子を、ジヒドラジド誘導体(例えば、アジピン酸ジヒドラジドなど)あるいはジアミン誘導体と反応して得られる架橋体を挙げることができる。ケトン基あるいはアルデヒド基を側鎖に持つモノマーユニットを含む親水性高分子としては、ケトン基あるいはアルデヒド基を側鎖に持つモノマーユニットと、それ以外のモノマーユニット(例えば、アクリルアミド由来ユニット、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド由来ユニットなど)との共重合体でもよい。
【0028】
シェル部分は、ポリアミドを含む。ポリアミドとしては、脂肪族ポリアミド又は芳香族ポリアミドのいずれでもよいが、脂肪族ポリアミドがより好ましい。
【0029】
脂肪族ポリアミドとしては、脂肪族ナイロン及びその共重合体が挙げられる。具体的には、ポリカプラミド(ナイロン-6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン-7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン-9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン-11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン-12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン-2,6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン-4,6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン-6,6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン-6,10)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン-6,12)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン-8,6)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン-10,8)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン-6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン-6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン-6/6,6)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン-12/6,6)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン-2,6/6,6)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン-6/6,6/6,10)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン-6/6,6/6,10)等が挙げられる。
上記の中でも、脂肪族ポリアミドとしては、ナイロン-6が好ましい。
【0030】
芳香族ポリアミドとしては、例えば、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミン等の芳香族ジアミンと、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸又はその誘導体との重縮合反応で得られる芳香族ポリアミドが挙げられる。
【0031】
タンパク質の活性を発揮させるためには、繊維径及びシェル部分の厚さは小さいことが好ましい。
繊維径は、好ましくは10nm~10μmである。繊維径の下限は20nm以上、50nm以上、100nm以上、200nm以上、300nm以上、又は400nm以上でもよい。繊維径の上限は、5μm以下、3μm以下、2μm以下、1μm以下、800nm以下、又は600nm以下でもよい。
【0032】
シェル部分の厚さは、好ましくは1nm~1μmである。シェル部分の厚さの下限は、5nm以上、10nm以上、20nm以上、30nm以上、又は50nm以上でもよい。シェル部分の厚さの上限は、800nm以下、500nm以下、300nm以下、200nm以下、150nm以下、又は100nm以下でもよい。
【0033】
上記した繊維径およびシェル部分の厚さは、繊維の透過型電子顕微鏡(TEM)の画像から測定できる。具体的には、まず、TEM画像で、ナノファイバの長さ方向と垂直な断面が観察できる複数の繊維(例えば、30本)を選択する。そして、それぞれの箇所で、繊維径およびシェル部分を測定して、平均値を算出することができる。
【0034】
本発明の繊維の形態は特に限定されず、単繊維でもよいし、多数の単繊維から構成される繊維束(撚糸、紡績糸、編紐など)、繊維束を集束した集束糸などでもよい。これらの繊維を二次元や三次元に織った織物(織布、不織布などを含む)等の形態に加工されていてもよい。好ましくは、本発明の繊維は、不織布の形態として使用することができる。
【0035】
<繊維の製造方法>
本発明の繊維は、親水性高分子とタンパク質とを含む第一の溶液と、ポリアミドを含む第二の溶液とを用いて電界紡糸を行うことによって、製造することができる。
【0036】
電界紡糸によれば、高分子溶液を用いて、ナノファイバなどの繊維を容易に作製することができる。電界紡糸においては、2種類の高分子溶液を同時に射出しながら紡糸を可能とするコアキシャルスピナレットを利用することで、コアシェル構造を持った繊維、およびこの集積体であるコアシェル不織布の作製が可能となる。
【0037】
親水性高分子とタンパク質とを含む第一の溶液は、上記した親水性高分子を含む溶液に上記したタンパク質を溶解させることによって調製することができる。第一の溶液における親水性高分子の濃度は特に限定されないが、一般的には1質量%~50質量%である。第一の溶液におけるタンパク質の濃度は特に限定されないが、一般的には0.01質量%~50質量%である。第一の溶液には、架橋剤をさらに含めてもよい。
【0038】
ポリアミドを含む第二の溶液としては、上記したポリアミドを適当な溶媒(一例としては、トリフルオロエタノールなど)に溶解した溶液を使用することができる。第二の溶液中におけるポリアミドの濃度は特に限定されないが、一般的には、1質量%~30質量%である。
【0039】
電界紡糸とは、高分子溶液をシリンジに入れ、シリンジのニードルとコレクター間に高電圧をかけながらポリマー溶液を射出させ、電圧がしきい値を超えると、電荷の反発力がポリマー液滴の表面張力に打ち勝って電荷を帯びた噴流が発生し、電場内で噴流は伸長して非常に細いファイバーを形成し、コレクター上にファイバーが集積され紡糸する技術である。電界紡糸により極細の繊維が形成される。
【0040】
コアキシャルスピナレットを利用することで、第一の溶液に含まれる親水性高分子を取り囲むように第二の溶液に含まれるポリアミドが包みつつ電界紡糸が可能となるため、コア部分となるタンパク質を含有した親水性高分子からなる繊維表面を、シェル層としてポリアミドが被覆した鞘芯構造を有する繊維が形成される。
【0041】
<反応方法>
本発明によれば、上記した本発明の繊維と、固定化されるタンパク質に対する基質とを接触させて反応を行うことを含む、反応方法が提供される。
【0042】
本発明によれば、固定化されたタンパク質は容易にリサイクルすることができる。即ち、本発明のタンパク質を固定化した繊維は、反応混合物から濾過などにより簡単に回収することができ、回収後に、更なる反応に再利用することができる。
【0043】
本発明の繊維の用途は特に限定されないが、例えば、繊維に固定化したタンパク質(酵素など)を利用して物質の生産を行うバイオリアクター、繊維に固定化したタンパク質(酵素など)を利用して物質の検知を行うバイオセンサ、食品加工用素材、並びに消臭性、防汚性又は抗菌性などの機能を有する機能性繊維などの用途において使用することができる。
【0044】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例0045】
コアシェル不織布の構成として、以下の不織布を使用した。
(i)シェル部分にポリεカプロラクトン(PCL、図1左下)、酵素を内包するコア部分にポリアクリルアミド系の架橋高分子poly(AM/DAAM)/ADH(図2)を用いた不織布;
(ii)シェル部分にナイロン6(Nylon 6、図1右下)、酵素を内包するコア部分にポリアクリルアミド系の架橋高分子poly(AM/DAAM)/ADH(図2)を用いた不織布。
(iii)シェル部分にナイロン6(Nylon 6、図1右下)、酵素を内包するコア部分にポリアクリルアミド系の架橋高分子poly(HPMA/DAMA)/ADHを用いた不織布。
【0046】
実施例1:ラクターゼ固定化コアシェル不織布の作製
20 wt% poly(AM/DAAM)の10 mM borate buffer(pH 9.2)溶液2.5 mL(0.5 gのpoly(AM/DAAM)を含む)にラクターゼ3 mgを溶解し、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)124 mgを加えた溶液を不織布のコアファイバー前駆体溶液として調製した(poly(AM/DAAM)/ADHの化学構造は、図2参照)。
【0047】
一方、8質量%のPCLあるいは14質量%のnylon 6(アルドリッチ製)のトリフルオロエタノール(TFE)溶液をシェル成分前駆体溶液として調製した。
【0048】
上記した、コアファイバー前駆体溶液、及びシェル成分前駆体溶液をそれぞれ、異なる10 mLシリンジ(Luer lockシリンジ)に移した。
上記の2つのシリンジを、リニアアクチュエーターを備えた異なるシリンジポンプ(KDS-100、KD Scientific、米国)に配置し、PTFEチューブを介して、27Gニードル(テルモ社、poly(AM / DAAM)/ ADH)のコア溶液用)を備えたコアキシャルスピナレット(MECC Co. Ltd、日本)に接続した。 上記の溶液を、高電圧(25 kV)下において、poly(AM/DAAM)/ ADH溶液では0.1 mL/h、PCL溶液では0.4 mL/h、nylon 6溶液では0.4 mL/hの線形押出速度で電界紡糸した(SD-02、MECC Co. Ltd、日本)。 得られた不織布のコア成分はpoly(AM/DAAM)/ADHであり、シェル成分はPCLまたはnylon 6である。コアキシャルスピナレットの先端と、接地されたコレクター(アルミニウムプレート、150 mm ×200 mm)との間の距離は150 mmとした。
【0049】
実施例2:不織布のナノ繊維構造の確認
<走査型電子顕微鏡(SEM)測定>
コアシェル不織布は、JEE-420T真空エバポレーター(JEOL、日本)を使用してプラズマ化学蒸着によってOsO4を真空蒸着した。コアシェル不織布の繊維外観と集積構造は、走査型電子顕微鏡(SEM)(JSM-6301F、JEOL、日本)を使用した測定により評価した。ナノファイバーの平均直径とその標準偏差は、ソフトウェアImageJを使用して30本のナノファイバーのSEM画像から評価した。
【0050】
<透過型電子顕微鏡(TEM)測定>
繊維内部のコアシェル構造の形成は、コア部分の繊維前駆体溶液にリンタングステン酸ナトリウム(0.001 wt%)を添加して作製したコアシェル不織布を用い、透過型電子顕微鏡(TEM)により評価した。リンタングステン酸塩を添加することで、コア部分とシェル部分でコントラストを得られるようにした。TEM 画像は、JEM-z2500装置(JEOL、日本)を使用して、200 kVの加速電圧で取得した。
【0051】
<結果>
得られた不織布の、SEM画像を図3に示し、TEN画像を図4に示した。
図3のSEM画像から、PCLをシェル成分とした場合と同様に、nylon 6をシェル成分に用いた場合にも、フィルム状に得られた不織布内部では、繊維同士で融合の見られない繊維積層構造が形成され、かつそれぞれの繊維の繊維径は比較的均一であることが確認された(496 ± 97 nm)。
【0052】
また、図4のTEM画像から、繊維内部にコア繊維部分とシェル部分からなる鞘芯構造の形成が見られ、更にシェル部分の厚みは100 nm以下であることも確認された。不織布繊維の繊維径が1 μmを切るほどに細く、かつシェル部分の厚みが200 nm以下であることは、コア繊維部分に固定化された酵素が高い活性を発揮する上で大事である。さらに、このコアシェル不織布をバッファー溶液(50 mM phosphate buffer (pH 7))に3日浸漬後のSEM画像を図3に示したが、繊維同士の融合や繊維系の大きな変化は見られず、コアシェル構造が維持されていることが示唆された。
【0053】
PCLを用いた場合と比べて、nylon 6を用いた方が、不織布作製時に、繊維同士が融合してしまう割合が低くなる傾向も見られた(1本、1本のナノ繊維が分離している)。またTEM測定より(図4)、シェルとコアナノ繊維部分がそれぞれ観測され、想定通りコア繊維をシェル部分が覆った二重構造を取っていることも確認された。
【0054】
実施例3:コアシェル不織布の酵素保持能力と、低分子基質の浸透性の評価
コアシェル不織布型の酵素固定化担体の特徴として、(分子量の大きな)酵素分子はコアナノ繊維部分から漏洩することなく保持できる一方で、分子量の小さな基質分子はシェル部分を浸透し、酵素分子の閉じ込められたコアナノ繊維部分まで到達できるという性質がある。こちらが、nylon 6をシェルに用いた不織布についても発揮されるか、評価を行なった。ここでは酵素分子の代わりにFITCで蛍光ラベル化したリゾチーム、低分子基質の代わりにfluoresceinを代用し、それぞれをコアナノ繊維部分にあらかじめ内包したコアシェル不織布を作製し、これをバッファー溶液に浸漬した時の漏洩挙動から評価を行なった。
【0055】
図5より、分子量の小さな低分子(fluorescein, MW 332)については、バッファー溶液への浸漬直後から、効率良い漏洩が見られた。この結果は、低分子量基質に関してはシェルにPCL、nylon 6、いずれを用いた場合にでも、浸漬バッファーに溶けたものとの素早い交換が可能であることを示唆した。一方で分子量の大きな蛋白質(リゾチーム, MW 1.4 kDa)に関しては、図6から外液への漏洩はほとんど見られないことが分かった。
【0056】
実施例4:固定化されたラクターゼの酵素活性の評価
<ラクターゼの酵素活性評価>
重さの異なるラクターゼ固定化不織布(PCLをシェルに用いたものの固定化量は0.39 mg(酵素)/g(不織布)、nylon 6をシェルに用いたものは0.46 mg(酵素)/g(不織布))を準備し50 mM phosphate buffer(pH 7)に150分間、室温で浸漬・振盪(150 rpm)する操作を施した。これにより、繊維内部に内包固定化できていないラクターゼを除き切った。その後残った不織布を用いて、o-Nitrophenyl-β-D-galactopyranosideを基質に用いた加水分解反応を行なった。10 mL サンプル瓶に、重さの異なる不織布と、4 mLの50 mM phosphate buffer (pH 7)を加え、さらに終濃度6 mMとなるようにo-Nitrophenyl-β-D-galactopyranosideを添加した。37℃で20分間反応させたのち(スターラーチップを入れて溶液を攪拌)不織布を溶液から取り除き、500 mM 炭酸ナトリウム水溶液を1 mL加えて反応を停止した。生成するo-Nitrophenolの量を吸収スペクトル測定により定量し、横軸に内包されている酵素量(mg)、縦軸に1分あたりで生成したo-Nitrophenolの量(nmol)をプロットし線型近似を行うことで、この傾き(nmol/(min mg))から酵素活性の評価を行った。なお取り出した不織布は、50 mM Phosphate buffer(pH 7)で洗浄後、再度同じ実験に用いた。この再利用実験は4セット行った。また再利用2回目と3回目の間では、一旦酵素固定化不織布を洗浄乾燥し4℃で3日間放置して利用した。また、同じ量のラクターゼがバッファー溶液中に溶けている場合の活性との比較も行なった。この結果を表1及び表2にまとめた。
【0057】
【化1】
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
表1より、シェルにnylon 6を用いたラクターゼ固定化不織布の場合には、初回使用時に関しては溶液に同量の酵素を溶かした場合とほぼ同じ活性(約100%)が見られ、その後更に4回再利用を行なったが、4回目においても80%以上(80.3 %)の活性維持が見られた。一方で表2より、シェルにPCLを用いたラクターゼ固定化不織布の場合には、初回使用時が溶液に同量の酵素を溶かした場合の5割弱(48.3 %)、その後更に4回再利用を行なった場合に、3割程度(30.0 %)まで、活性低下が見られた。
【0061】
一方で再利用した場合の酵素活性の変化に関しては、nylon 6をシェルに用いた場合の方が、PCLをシェルに用いた場合と比較し、再利用時の活性低下が小さくなる傾向が見られた。
【0062】
実施例5:ラクターゼ固定化コアシェル不織布
(作製方法)
20 wt% poly(AM/DAAM)の100 mM phosphate buffer(pH 8.0)溶液2.5 mL(0.5 gのpoly(AM/DAAM)を含む)にラクターゼ6 mgを溶解し、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)187 mgを加えた溶液を不織布のコアファイバー前駆体溶液として調製した(poly(AM/DAAM)、ADHの化学構造は、図2参照)。
【0063】
一方、8質量%のPCLあるいは10質量%のnylon 6(アルドリッチ製)のトリフルオロエタノール(TFE)溶液をシェル成分前駆体溶液として調製した。
【0064】
上記した、コアファイバー前駆体溶液、及びシェル成分前駆体溶液をそれぞれ、異なる10 mLシリンジ(Luer lockシリンジ)に移した。
上記の2つのシリンジを、リニアアクチュエーターを備えた異なるシリンジポンプ(KDS-100、KD Scientific、米国)に配置し、PTFEチューブを介して、27Gニードル(テルモ社、poly(AM/DAAM)/ADH)のコア溶液用)を備えたコアキシャルスピナレット(MECC Co. Ltd、日本)に接続した。 上記の溶液を、高電圧(25 kV)下において、poly(AM/DAAM)/ADH溶液では0.2 mL/h、PCL溶液では0.8 mL/h、nylon 6溶液では1.0 mL/hの線形押出速度で電界紡糸した(SD-02、MECC Co. Ltd、日本)。 得られた不織布のコア成分はpoly(AM/DAAM)/ADHであり、シェル成分はPCLまたはnylon 6である。コアキシャルスピナレットの先端と、接地されたコレクター(アルミニウムプレート、150 mm × 200 mm)との間の距離は150 mmとした。
【0065】
(評価)
実施例4の<ラクターゼの酵素活性評価>に記載の方法と同様に、再利用実験を10セット行った(10回の繰り返し実験)。
その結果、PCLをシェルに持つLactase固定化不織布では、再使用10回目の相対的な酵素活性(%)は80%であった。また、Nylon 6をシェルに持つLactase固定化不織布では、再使用10回目の相対的な酵素活性(%)は90%であった。実施例5においては、溶媒としてリン酸バッファーpH 8.0を使用したことによりADHによる架橋反応が早くなったことから、繊維外に酵素が漏洩しにくくなり、高い酵素活性が維持されたものと考えられる。
【0066】
実施例6:リパーゼ固定化コアシェル不織布
(作製方法)
20 wt% poly(AM/DAAM)の100 mM phosphate buffer(pH 8.0)溶液2.5 mL(0.5 gのpoly(AM/DAAM)を含む)にFITC修飾リパーゼ25 mgを溶解し、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)187 mgを加えた溶液を不織布のコアファイバー前駆体溶液として調製した(poly(AM/DAAM)、ADHの化学構造は、図2参照)。
【0067】
一方、8質量%のPCLあるいは10質量%のnylon 6(アルドリッチ製)のトリフルオロエタノール(TFE)溶液をシェル成分前駆体溶液として調製した。
【0068】
上記した、コアファイバー前駆体溶液、及びシェル成分前駆体溶液をそれぞれ、異なる10 mLシリンジ(Luer lockシリンジ)に移した。
上記の2つのシリンジを、リニアアクチュエーターを備えた異なるシリンジポンプ(KDS-100、KD Scientific、米国)に配置し、PTFEチューブを介して、27Gニードル(テルモ社、poly(AM/DAAM)/ADH)のコア溶液用)を備えたコアキシャルスピナレット(MECC Co. Ltd、日本)に接続した。上記の溶液を、高電圧(25 kV)下において、poly(AM/DAAM)/ADH溶液では0.2 mL/h、PCL溶液では0.8 mL/h、nylon 6溶液では1.0 mL/hの線形押出速度で電界紡糸した(SD-02、MECC Co. Ltd、日本)。得られた不織布のコア成分はpoly(AM /DAAM)/ADHであり、シェル成分はPCLまたはnylon 6である。コアキシャルスピナレットの先端と、接地されたコレクター(アルミニウムプレート、150 mm × 200 mm)との間の距離は150 mmとした。
【0069】
(評価1)水中での形状維持
5 mm×5 mm 程度に切った不織布を、2.0 mL エッペンチューブに入れ、1.5 mL 程度のイオン交換水に浸漬した。7日間室温で浸漬後の外観とSEM画像による繊維径を確認した。
その結果、PCLをシェルに持つリパーゼ固定化不織布は溶解したが、Nylonをシェルに持つリパーゼ固定化不織布は形状を維持し、繊維径は、イオン交換水に浸漬前は422 ± 115 nmであり、イオン交換水への浸漬後は475 ± 98 nmであった。
【0070】
(評価2)加水分解活性評価
50 mM リン酸緩衝液(pH 7)2 mL に、所定量のリパーゼ固定化不織布を浸漬した。ここへ、60 mM p-ニトロフェニル酪酸のアセトン溶液を60 μL 添加し、37℃で30分反応した。各リパーゼ固定化不織布の添加量は内包されているリパーゼ量を基準に決定し、1つの反応溶液あたりリパーゼが5、10、15、20、25 μg 添加されるようにした。反応後不織布を反応溶液から分離し、加水分解反応に進行に伴い生成するp-ニトロフェノラートに由来する吸光度から、各反応条件での反応生成物の量を評価した。酵素活性は、酵素1 mg が1 分あたりに基質分子(nmol)を加水分解する活性を1ユニット(nmol/(mg min))と定義し評価した。同様の実験を3回繰り返した。この結果を表3にまとめた。
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示す通り、PCL、Nylon 6のいずれの部材を用いた場合でもリパーゼの加水分解活性が確認できた。加水分解活性に関しては、Nylon 6を用いた場合の方が、高い活性を示し、繰り返し使用における活性保持率も高い結果となった。
【0073】
(評価3)エステル交換活性評価
tert-ブチルメチルケトン2.5 mL に(±)-1-フェニルエタノール 0.5 mmol、酢酸ビニル2.5 mmol を溶解し、ここへ所定量のリパーゼ固定化不織布を浸漬した。そのまま37℃で48、100時間後、反応後不織布を反応溶液から分離し、1H-NMR を用いた反応率の算出と、キラルカラム(ダイセル社、CHIRALCELL OD-H)を用いた反応の不斉選択性の評価を行った。酵素1 mg が1 時間あたりに基質分子(μmol)エステル交換する量を1ユニット(μmol/(mg hour))と定義する。この結果を表4に示す。
【0074】
【表4】
【0075】
表4に示す通り、PCL、Nylon6のいずれの部材を用いた場合でもエステル交換活性が確認できた。また、不斉選択性も維持されていた。
【0076】
実施例7:乳酸脱水素酵素(LDH)固定化コアシェル(Poly(HPMA/DAMA))不織布
(作製方法)
25 wt% poly(HPMA/DAAM)(HPAA:DAMA=8:2)( Poly(HPMA/DAMA)には細胞毒性がない)の100 mM phosphate buffer(pH 7.0)溶液2.0 mL(0.5 gのpoly(HPMA/DAMA)を含む)にFITC修飾LDH 5 mgを溶解し、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)57.6 mgを加えた溶液を不織布のコアファイバー前駆体溶液として調製した(poly(HPMA/DAMA)、ADHの化学構造は、図2参照)。HPMAは、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドを意味する。 DAMAは、ジアセトンメタクリルアミドを意味する。
【0077】
一方、10質量%のnylon 6(アルドリッチ製)のトリフルオロエタノール(TFE)溶液をシェル成分前駆体溶液として調製した。
【0078】
上記した、コアファイバー前駆体溶液、及びシェル成分前駆体溶液をそれぞれ、異なる10 mLシリンジ(Luer lockシリンジ)に移した。
上記の2つのシリンジを、リニアアクチュエーターを備えた異なるシリンジポンプ(KDS-100、KD Scientific、米国)に配置し、PTFEチューブを介して、27Gニードル(テルモ社、poly(HPMA/DAAM) / ADH)のコア溶液用)を備えたコアキシャルスピナレット(MECC Co. Ltd、日本)に接続した。 上記の溶液を、高電圧(25kV)下において、poly(HPMA/DAAM)/ ADH溶液では0.3 mL/h、nylon 6溶液では1.2 mL/hの線形押出速度で電界紡糸した(SD-02、MECC Co. Ltd、日本)。 得られた不織布のコア成分はpoly(HPMA/DAAM)/ADHであり、シェル成分はnylon 6である。コアキシャルスピナレットの先端と、接地されたコレクター(アルミニウムプレート、150 mm × 200 mm)との間の距離は150 mmとした。
【0079】
(活性の評価)
0.2 M Tris-HCl酸緩衝液(pH 8)1 mLに、所定量のLDH固定化不織布(0, 0.5, 1.0, 1.5, 2.0, 2.5, 3.0 mg)を3時間振とうしながら浸漬した。ここへ、反応液(320 mM L-乳酸、150mM 1-MPMS、6.4 mM NAD+、2.6 mM WST-1)を1 mL添加し、遮光下、室温で30分反応した。1M酢酸1 mLを添加して反応停止後、438nmの吸光度を測定した。
【0080】
測定された酵素活性は、1.01 U[nmol/(mg min)] であった。ただし、ここで用いた質量は、酵素の質量ではなく不織布の質量である。コア部材として細胞毒性がないpoly(HPMA/DAMA)を用いて乳酸脱水素酵素を内包した不織布において乳酸脱水素酵素活性を確認することができた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6