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特開2022-174406MoSi2ヒーター及び該ヒーター用端子部材並びにMoSi2ヒーターの製造方法及び該ヒーター用端子部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174406
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】MoSi2ヒーター及び該ヒーター用端子部材並びにMoSi2ヒーターの製造方法及び該ヒーター用端子部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/03 20060101AFI20221116BHJP
   H05B 3/02 20060101ALI20221116BHJP
   H05B 3/14 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
H05B3/03
H05B3/02 A
H05B3/14 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080181
(22)【出願日】2021-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成田 里安
(72)【発明者】
【氏名】岡田 悠希
(72)【発明者】
【氏名】高村 博
【テーマコード(参考)】
3K092
【Fターム(参考)】
3K092PP09
3K092QA01
3K092QA03
3K092QB11
3K092QB24
3K092QB26
3K092QB45
3K092QC03
3K092QC13
3K092QC19
3K092QC42
3K092QC50
(57)【要約】
【課題】本発明は、電極部に形成した金属膜の剥離を防止し、ヒーターの長寿命化を可能にすることができるMoSiヒーター及び該ヒーターに用いる端子部材を提供することを課題とする。
【解決手段】発熱部と端子部と該端子部の一端に設けられた電極部とを備えたMoSiヒーターであって、電極部はMoSi基材の表面を金属膜で被覆して構成され、端子部の直径:電極部の基材の直径=1:0.91~0.98であることを特徴とするMoSiヒーター。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱部と端子部と該端子部の一端に設けられた電極部とを備えたMoSiヒーターであって、電極部はMoSi基材の表面を金属膜で被覆して構成され、端子部の直径:電極部の基材の直径=1:0.91~0.98であることを特徴とするMoSiヒーター。
【請求項2】
端子部の長手方向において、前記端子部にオーバーラップするように前記金属膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のMoSiヒーター。
【請求項3】
前記金属膜は、Al又はAl合金から構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のMoSiヒーター。
【請求項4】
端子部と該端子部の一端に設けられた電極部とを備えたMoSiヒーター用端子部材であって、電極部はMoSi基材の表面を金属膜で被覆して構成され、端子部の直径:電極部の基材の直径=1:0.91~0.98であることを特徴とするMoSiヒーター用端子部材。
【請求項5】
端子部の長手方向において、前記端子部にオーバーラップするように前記金属膜が形成されていることを特徴とする請求項4に記載のMoSiヒーター用端子部材。
【請求項6】
前記金属膜は、Al又はAl合金から構成されることを特徴とする請求項4又は5に記載のMoSiヒーター用端子部材。
【請求項7】
発熱部と端子部と該端子部の一端に設けられた電極部とを備えたMoSiヒーターの製造方法であって、端子部の直径:電極部の基材の直径=1:0.91~0.98となるように前記電極部の基材を研削した後、前記電極部の基材の表面を金属膜で被覆し、該端子部材に発熱部となるMoSi棒材を接合することを特徴とするMoSiヒーターの製造方法。
【請求項8】
端子部と該端子部の一端に設けられた電極部とを備えたMoSiヒーター用端子部材の製造方法であって、端子部の直径:電極部の基材の直径=1:0.91~0.98となるように前記電極部の基材を研削した後、前記電極部の基材の表面を金属膜で被覆することを特徴とするMoSiヒーター用端子部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MoSiヒーター及び該ヒーター用端子部材並びにMoSiヒーターの製造方法及び該ヒーター用端子部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MoSi(二珪化モリブデン)ヒーターは優れた耐酸化特性を有することから、大気又は酸化性雰囲気下で使用する超高温ヒーターとして古くから使用され、現在まで幅広い用途で使用されている。このヒーターは、主成分として、MoSiを含有し、電気抵抗を増加させるために、SiOなどの絶縁性酸化物等が添加されることがある。本開示においては、MoSiヒーターは、MoSiを70wt%以上含有する材料からなるものをいう。
【0003】
現在、ガラス工業やセラミックス焼成、その他多くの分野で使用されているMoSiヒーターには、図1に示すように、U字形状(図1(a))、L字形状(図1(b))、W字形状あるいはマルチU字形状(図1(c))、立体U字形状(図1(d))、マルチ円周U字形状(図1(e))、断熱材組込型(図1(f))など、様々な形状・サイズのものが存在し、これらは、目的や用途に応じて使い分けられている。
【0004】
図2に従来型のU字形状ヒーターの模式図を示す。ヒーターには様々な形状があるが、基本的には、発熱部23と両端の端子部21とから構成され、そして、端子部の一端には外部電源と接続される電極部22が設けられている。ヒーターに通電すると、径の細い高抵抗の部分が高温になって、発熱部としての役割を担い、径の太い低抵抗の部分は発熱を抑えて、給電する部分を低温に保つための端子部の役割を担う。発熱部の直径と端子部の直径は、約1:2の関係にある。
【0005】
現在、市販されているMoSiヒーターは、発熱部と端子部の直径がそれぞれ、3mm/6mm、4mm/9mm、6mm/12mm、9mm/18mm、12mm/24mm、等である。また、電極部の長さは、25mm(端子部の直径:6mm、9mm)、45mm(端子部の直径:12mm)、75mm(端子部の直径:18mm)、100mm(端子部の直径:24mm)、等となっている。このように発熱部の太さと端子部の太さの組み合わせ、あるいは電極部の長さには、業界標準の値がある。
【0006】
図3に、MoSiヒーターの外部電源への接続方法の一例を示す。電極部33には、アルミ編組線31を繋ぎ、金具(クランプ)32で固定して、外部電源から電極部を介して端子部34へ給電される。アルミ編組線とクランプとをひとまとめにしたものを接続帯ともいう。図3(a)は、ヒーターに接続帯を付けた状態の写真であり、写真では、説明の都合上、片側のみに接続帯を付けたものであり、実際に使用する際には両側に接続帯が取り付けられる。図3(b)は、ヒーターの電極部に接続帯を付けた場合の模式図(正面図)であり、図3(c)は、図3(b)を上からみた図(平面図)である。
【0007】
一般にMoSiヒーターの電極部は、電気的な接続を高めるために、その表面に金属膜(Al溶射膜等)を形成することが行われている。溶射法による金属膜の形成工程では、はじめに、基材表面の絶縁性の酸化被膜を除去して導電性を確保する目的、及び溶射膜の密着性を高める目的でブラスト処理し、その後、ガス式や電気式溶射にて膜付けされる。ヒーターの電極部の劣化を防止するために、電極部において酸化被膜を除去した部分に金属膜を形成するとともに、端子部の酸化被膜が除去されていない部分に該金属膜をオー
バーラップさせることが記載されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-48937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、電極部に形成した金属膜の剥離を防止し、ヒーターの長寿命化を可能にすることができるMoSiヒーター及び該ヒーターに用いる端子部材並びにMoSiヒーターの製造方法及び該ヒーター用端子部材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一形態は、発熱部と端子部と該端子部の一端に設けられた電極部とを備えたMoSiヒーターであって、電極部はMoSi基材の表面を金属膜で被覆して構成され、端子部の直径:電極部の基材の直径=1:0.91~0.98であることを特徴とするMoSiヒーターである。
本発明の別の形態は、端子部と該端子部の一端に設けられた電極部とを備えたMoSiヒーター用端子部材であって、電極部はMoSi基材の表面を金属膜で被覆して構成され、端子部の直径:電極部の基材の直径=1:0.91~0.98であることを特徴とするMoSiヒーター用端子部材である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、MoSiヒーターにおいて、電極部に形成された金属膜の剥離を防止し、ヒーターの長寿命化を可能にすることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】MoSiヒーターの形状の例示である。
図2】従来型のMoSiヒーター(U字形状の場合)の説明図である。
図3】ヒーター電極部への接続帯の取り付けを示す説明図である。
図4】MoSi材の切断面(軸方向に対して垂直)を示すSEM写真である。
図5】電極部における基材の直径と低密度層の厚さの関係を示したものである。
図6】本実施形態のMoSiヒーター(U字形状の場合)の加工順序の一例を示す説明図である。
図7】棒材Aの切断面(軸方向に対して垂直)におけるSEM写真である。
図8】棒材Bの切断面(軸方向に対して垂直)におけるSEM写真である。
図9】実施例1、比較例1の金属膜の剥離の有無を観察したSEM写真である。
図10】実施例2、比較例2の金属膜の剥離の有無を観察したSEM写真である。
図11】実施例、比較例の金属膜の剥離試験の結果をまとめたものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
MoSiヒーターの端子部は、発熱部に比べて抵抗加熱は小さいが、端子部の一端に設けられた電極部(以下、端子電極部ということもある。)は、高温となる発熱部からの熱伝導によって温度が上昇する。また、炉の構造によっては、電極部が閉空間になっている場合があり、その場合には外気による冷却はされにくいため、温度が上がりやすくなる。MoSiヒーターでは一般に、電極部の温度は300℃以下が推奨されているが、それ以上の温度で使用される場合がある。
【0014】
MoSiは、低温域(300℃~800℃)では、MoとSiの同時酸化が起こる。これは俗にいうペスト現象である。一般に電極部には、アルミなどの金属が溶射されて金
属膜が被覆されているが、溶射膜の場合、偏平粒子の堆積となるので緻密性に限度があり、溶射膜を通してMoSi基材表面にまで酸素が到達する。このとき、MoSi基材と金属膜の界面ではMoSiにおけるMoとSiの同時酸化が起こり、界面に隙間が生じて、時間とともにその範囲が広がり、終には金属膜が剥がれてしまうことがある。金属膜が剥がれた場合、その部分で電気抵抗が上昇するため、異常発熱やスパークにより端子部が断線し、ヒーター寿命を迎えることになる。
【0015】
本発明者はMoSi基材の軸方向に対して垂直な断面の構造を観察したところ、図4に示すように、表面から中心に向かって酸化物が蒸発して、多数の空孔が存在する低密度層の存在を発見した。また、詳細に調査したところ、図5に示すようにMoSi基材の直径に対して、低密度層の厚さが異なることを確認した。
【0016】
通常、電極部に金属膜を形成する場合、MoSi基材の酸化被膜の除去と溶射膜の密着性を高めるためにブラスト処理が行われるが、それによって除去される領域はせいぜい20μm程度であるため、この低密度層までは除去されず、したがって、この低密度層の上に金属膜付けが行われることになる。しかし、本発明者は、この低密度層を除去した上で、通常のブラスト処理を施し、次いで、金属膜を形成したところ、高温化での金属膜の密着耐久性が格段に向上することを見出した。
【0017】
上記知見に基づき、本発明の一実施形態におけるMoSiヒーターは、発熱部と端子部と該端子部の一端に設けられた電極部とを備えたMoSiヒーターであって、電極部はMoSi基材の表面を金属膜で被覆して構成され、端子部の直径:電極部の基材の直径=1:0.91~0.98であることを特徴とする。
前記電極部において、低密度層を除去し、電極部の基材の直径を端子部の直径より小さくした上で、金属膜を被覆することにより、MoSi基材と金属膜との界面でのMoとSiの同時酸化が抑制され、電極部における金属膜の剥がれが生じ難くなる。そして、金属膜が剥がれにくくなることで、電極部での断線がなくなり、ヒーター自体の長寿命化が可能になる。
【0018】
前記低密度層は、MoSi基材の最表面から内部(軸中心)に向かって、厚さ60~220μm(公称基材直径:6mm)、厚さ75~250μm(公称基材直径:9mm)、厚さ180~520μm(公称基材直径:12mm)で存在する。この低密度層の厚みは、基材の直径に対して、0.9~3.7%(公称基材直径:6mm)、0.8~2.8%(公称基材直径:9mm)、1.5~4.5%(公称基材直径:12mm)に相当する。この低密度層を除去する目的で基材を研削等するため、電極部の基材の直径は、研削前の直径(端子部の直径に相当)に比べて小さくなる。研削量は、基材の直径と形成される低密度層の厚みを考慮して決定することができる。
【0019】
MoSi基材の外周層の密度が低い場合、界面に到達した酸素が空孔を通じて外周層に広く供給され、また、空孔の存在によりMoSiの比表面積が大きくなっているため、MoSi基材の外周層の密度が高い場合に比べてペスト現象が起こり易い。したがって、電極部の外周に存在する低密度層を除去して、端子部の直径:電極部の基材の直径=1:0.91~0.98とすることで、その低密度層が除去された基材を下地として、金属膜を形成することで、ペスト現象を抑制して、金属膜の剥離等を防止することができる。
【0020】
例えば、公称基材直径:12mmの場合、研削後の電極部の基材の直径は10.92mm~11.64mm(端子部と電極部の基材の直径比は1:0.91~0.97)になる。これは、基材の片側の実質的な研削量を0.18mm~0.54mmとすることにより、電極部の基材の直径が0.36mm~1.08mm減に相当する。この研削により、低
密度層(0.18~0.52mm)が除去されることになる。低密度層の厚みは、基材の直径によって異なるため、その直径に応じて研削量を変えることが好ましい。
【0021】
通常、MoSi基材は、MoSiを主成分とする原料粉末を成形、焼成して作製されるが、焼成の際に、MoSiの酸化が生じないように不活性雰囲気や還元雰囲気下で処理される。そのため、MoSi基材の外周に位置するガラス成分(酸化物)が高温焼成時に蒸発して、外周層に多数の空孔が発生して、低密度層が形成される。低密度層が形成される領域(厚さ)は、原料の成分や粒径、焼成条件、基材の直径等によって変動する。そのため、事前にSEM像などを用いて、低密度層が形成される厚みを把握し、その上で、低密度層が除去されるよう研削量を決定し、研削後のMoSi基材(つまり、低密度層が除去された基材)を下地層として金属膜を形成すれば、本発明の効果を得ることができる。但し、研削量が多すぎると、抵抗の増大及び強度が低下することがあるため、低密度層の除去を超えて研削する必要はない。
【0022】
本実施形態において、金属膜は、溶射法、めっき、イオンプレーティング等の方法を用いて形成することができる。特に、Al又はAl合金の膜が有効である。また、金属膜は50μm以上300μm以下形成することが好ましい。また、金属膜の形成の前には、酸化被膜の除去および密着性向上のために、ブラスト処理を施すことが好ましい。ブラスト処理としては、サンドブラスト等が挙げられる。
【0023】
本実施形態は、低密度層が除去された部分に金属膜を形成して電極部とするが、低密度層が除去された部分と除去されなかった部分との境界(端子部材の長手方向の段差部)では、構造上、酸素が侵入しやすくなる。したがって、端子部材の長手方向において、低密度層が除去されていない部分にもオーバーラップするように金属膜を形成することで効果的に酸素の侵入を抑制することができる。好ましい形態は、前記境界から端子部にかけて0.4mm以上2mm以下の範囲で、低密度層が除去されていない部分にオーバーラップするように金属膜が形成されていることが好ましい。
【0024】
本実施形態に係るMoSiヒーター(U字形状の場合)の加工手順の一例を、図6を用いて説明する。なお、本実施形態は、この加工手順に限定されず、他の加工方法や加工手順を用いて作製してもよい。
図6(a):MoSiを主成分とする原料を成形、焼成してMoSi棒材を作製する。これは、後に端子部材となるものである。発熱部の記載は省略しているが、この端子部材より径の小さいMoSi棒材を作製することになる。原料や成形、焼成の条件には、特に限定はなく、一般的な方法、条件を用いればよい。
【0025】
図6(b):MoSi棒材の一端をペン先のように細く切削する。ここは、後に発熱部が取り付けられる部分となる。端子部と太さと発熱部の太さの関係には業界標準があるため、それに合わせてペン先の径を決めることができる。また、端子部から発熱部に亘る傾斜比率(高さ:長さ)についても適宜、決めることができる。
次に、MoSi棒材の他端において、電極部となる部位の低密度層を除去する。除去の方法として切削が簡便であるが、研削(研磨)を用いることもできる。また、前記機械加工の他、レーザー加工等他の方法を用いてもよい。このとき、事前にMoSi材の軸方向に対して垂直な断面をSEM像で観察して、低密度層の厚みを把握し、それに応じた厚みを研削することが好ましい。
【0026】
図6(c):除去した部分をアルミ溶射する。ここでは、例としてアルミ溶射を挙げているが、金属膜を形成すればよいので、ニッケル、クロム、チタン等の他の金属や他の成膜方法を用いることができる。また、アルミ溶射膜(金属膜の一例)の密着性を上げるために、除去した部分の表面をブラスト処理によって荒らすことが好ましい(図6(c-1
))。MoSi基材の酸化被膜は前工程で除去できているので、ブラスト処理は任意の工程である。
さらに、アルミ溶射膜(金属膜の一例)は切削した部分よりもやや外側(段差部を含めた端子部側)まで形成することが好ましい(図6(c-2))。前記の除去により、端子部と電極部の間に段差が形成され、MoSiが剥き出しとなるため、酸素が侵入し易い。したがって、酸素の侵入を防止するために、端子部の一部までオーバーラップするようにアルミ溶射を行うのが好ましい。
【0027】
図6(d):MoSi棒材をU字形状に曲げ加工する。このMoSi棒材は、最終的に発熱部となるものであり、上記で説明したMoSi棒材(端子部材)よりも、太さ(径)が小さいものである。なお、W字形状のヒーターを作製する場合には、U字形状の棒材3本を交互に逆向きで組み合わせればよく、立体型U字形状あるいはマルチ円周U字形状のヒーターを作製する場合には、複数のU字形状の棒材を立体的に組み合わせることで作製することができる。また、用途によっては、U字形状とせず、直線状或いは曲線状としてもよい。
【0028】
図6(e):アルミ溶射した端子部材(図6(c))とU字形状に曲げ加工した発熱部(図6(d))とを接合して、U字形状のMoSiヒーターを作製する。接合方法には特に限定はなく、MoSiで一般的に行われている通電や誘導加熱による圧着法(通電溶接とも言う)などを用いることができる。また、ここでは、U字形状を一例として図示したが、ヒーターとして、発熱部の両端に端子部材(図6(c))を溶接すればよいので、両端を除く発熱部の一又は複数を適宜組み合わせて、溶接等することで、ヒーターの形状を比較的自由に設計することができる。
【0029】
本発明の実施形態に係るMoSiヒーターの加工方法は上記の通りであるが、図6(c)に示すような端子部材単独でも取り扱うことができる。このようなことから、別の実施形態に係るMoSiヒーター用端子部材は、端子部と該端子部の一端に設けた電極部とを有するMoSiヒーター用の端子部材であって、電極部はMoSi基材の表面を金属膜で被覆して構成され、端子部の直径:電極部の基材の直径=1:0.91~0.98であることを特徴とするものである。
【実施例0030】
以下、実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例により何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0031】
(棒材の作製)
MoSi粉とSiO粉末を96:4(wt%)の割合で秤量し、粉砕機で平均粒径を5μmになるよう混合粉砕した後、10wt%のバインダーを添加して、ミキサーで混合を行った。次に、この混合物を、押し出し機を使用して棒状に成形した後、窒素雰囲気下で脱脂、アルゴン雰囲気下で焼結を行った。その後、炉から取り出し、大気中にて通電焼結を行い、棒材A(直径6mm)、棒材B(直径9mm)を得た。
これらの棒材A、Bを軸方向に対して切断し、その切断面をSEMによって観察した。断面SEMによるそれぞれの組織画像を図7、8に示す。図7に示すように、棒材A、棒材Bともには、外周層に低密度層(厚さ200μm)存在していた。
【0032】
(実施例1、比較例1)
実施例1として、棒材Aを長さ100mmで切断し、片側のみ片端から24mmの箇所について、低密度層を除去するため表面から中心(軸)に向かって200μm切削加工し
た。切削しなかった箇所(端子部に相当)の直径と切削した箇所(電極部の基材に相当)の直径との比は1:0.93である。次に、切削した箇所に、深さ約20μmのブラスト処理した後、アルミのプラズマ溶射を施し、膜厚160~200μmの金属膜を形成した。
一方、比較例1として、低密度層を除去せず、片側のみ片端から24mmの箇所に、ブラスト処理した後、アルミのプラズマ溶射を施し、膜厚160~200μmの金属膜を形成した。
これらアルミ溶射が施された棒材Aを大気中450℃で1~4週間保持し、金属膜の剥がれの有無を観察した。それぞれの期間経過後における棒材Aの断面SEM写真を図9に示す。実施例1では、1週間後、4週間後でも金属膜の剥がれは見られなかったが、比較例1では、1週間後の時点で、金属膜がMoSi基材から剥がれている(隙間が生じている)のが観察された。なお、比較例1では、1週間で剥がれたため、4週間の試験は行っていない。
【0033】
(実施例2、比較例2)
実施例2として、棒材Bを長さ100mmで切断し、片側のみ片端から24mmの箇所について、低密度層を除去するため表面から中心(軸)に向かって200μm切削加工した。切削しなかった箇所(端子部に相当)の直径と切削した箇所(電極部の基材に相当)の直径との比は1:0.96である。次に、切削した箇所に、深さ約20μmのブラスト処理した後、アルミのプラズマ溶射を施し、膜厚160~200μmの金属膜を形成した。
一方、比較例2として、低密度層を除去せず、片側のみ片端から24mmの箇所に、ブラスト処理した後、アルミのプラズマ溶射を施し、膜厚160~200μmの金属膜を形成した。
これらアルミ溶射が施された棒材Bを大気中450℃で1~4週間保持し、金属膜の剥がれの有無を観察した。それぞれの期間経過後における棒材Bの断面SEM写真を図10に示す。実施例2では、2週間後、4週間後でも金属膜の剥がれは見られなかったが、比較例2では、1週間後の時点で金属膜がMoSi基材から剥がれている(隙間が生じている)のが観察された。なお、比較例1では1週間で剥がれたため、2週間以降の試験は行っていない。以上の金属膜の剥離試験の結果をまとめたものを図11に示す。
【0034】
なお、工業製品としてMoSiヒーターを製造する場合、直径6mmもしくは9mm棒材の片側(金属膜を形成していない側)をペン先状に加工し、その後、U字加工された直径3mmもしくは4mmのMoSi材(発熱部に相当)と溶接して、U字ヒーターに仕上げるが、上記の溶接の有無は、本発明の効果を確認する上で関係ないため、実施例、比較例では、溶接しない状態で剥離試験を行っている。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、MoSiヒーターにおいて、高温環境下でも電極部に形成された金属膜の剥離を防止し、ヒーターの長寿命化を可能にするという優れた効果を有する。本発明に係るMoSiヒーターは、超高温ヒーターとしての使用に優れ、ガラス工業やセラミックス焼成、その他多くの分野で技術的な貢献を果たすものである。
【符号の説明】
【0036】
21 端子部
22 電極部
23 発熱部
31 アルミ編組線
32 金具(クランプ)
33 電極部
34 端子
41 外周層(低密度層)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11