(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174674
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】ウイルス検出方法及びウイルス検出装置
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6844 20180101AFI20221116BHJP
C12Q 1/70 20060101ALI20221116BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z
C12Q1/70
C12M1/34 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080637
(22)【出願日】2021-05-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り https://conference-apps-online.net/web/jsmbe2020/、令和2年5月18日(掲載日) 第59回日本生体医工学会大会 ポスター発表、令和2年5月26日(発表日)
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】池内 真志
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA08
4B029BB13
4B029DG08
4B029FA15
4B029GB09
4B063QA18
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR79
4B063QS24
4B063QS25
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】簡便な構成でウイルスを検出する。
【解決手段】ウイルス検出方法は、被験者から採取したサンプルに核酸分解酵素を失活させ、ウイルスタンパクを分解し、核酸を溶出させるための第1の試薬を添加し、核酸を抽出するステップと、サンプルに添加された第1の試薬を失活させるためにサンプルを加熱する第1加熱ステップと、サンプルに含まれる標的ウイルスを増幅するための第2の試薬をサンプルに添加し、所定温度でサンプルを加熱する第2加熱ステップと、サンプルに含まれる標的ウイルスを検出するステップと、を備える。第1加熱ステップと第2加熱ステップの少なくとも一方において、発熱材から発せられる熱によりサンプルが加熱される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取したサンプルに核酸分解酵素を失活させ、ウイルスタンパクを分解し、核酸を溶出させるための第1の試薬を添加し、核酸を抽出するステップと、
前記サンプルに添加された第1の試薬を失活させるために前記サンプルを加熱する第1加熱ステップと、
前記サンプルに含まれる標的ウイルスを増幅するための第2の試薬を前記サンプルに添加し、所定温度で前記サンプルを加熱する第2加熱ステップと、
前記サンプルに含まれる標的ウイルスを検出するステップと、
を備え、
第1加熱ステップと第2加熱ステップの少なくとも一方において、発熱材から発せられる熱により前記サンプルが加熱される
ウイルス検出方法。
【請求項2】
前記第1加熱ステップにおいて、前記発熱材から発せられる熱により前記サンプル及び潜熱材が加熱され、
前記第2加熱ステップにおいて、前記潜熱材から発せられる熱により前記サンプルが加熱される
請求項1に記載のウイルス検出方法。
【請求項3】
前記第2加熱ステップにおいて、前記サンプルを収容したサンプル容器が前記潜熱材に接触するように設置される
請求項2に記載のウイルス検出方法。
【請求項4】
前記潜熱材は、融点が前記所定温度付近である物質を含む
請求項2又は3に記載のウイルス検出方法。
【請求項5】
前記第2加熱ステップは、前記サンプルを収容したサンプル容器と前記潜熱材とを収納した断熱容器内で実行される
請求項2から4のいずれかに記載のウイルス検出方法。
【請求項6】
前記第1加熱ステップにおいて、前記断熱容器の内部が加熱される
請求項5に記載のウイルス検出方法。
【請求項7】
被験者から採取したサンプルを収容するサンプル容器と、
前記サンプルに添加された、核酸分解酵素を失活させ、ウイルスタンパクを分解し、核酸を溶出させるための第1の試薬を失活させるために前記サンプルを加熱する第1加熱ステップと、前記サンプルに含まれる標的ウイルスを増幅するための第2の試薬が添加された前記サンプルを加熱する第2加熱ステップの少なくとも一方において前記サンプルを加熱するための発熱材と、
前記第1加熱ステップにおいて前記サンプル容器と前記発熱材とを収納するための耐熱容器と、
を備えるウイルス検出装置。
【請求項8】
前記第2加熱ステップにおいて前記サンプル容器を加熱するための潜熱材を更に備える
請求項7に記載のウイルス検出装置。
【請求項9】
前記第2加熱ステップにおいて前記潜熱材と前記サンプル容器とを収納するための断熱容器を更に備える
請求項8に記載のウイルス検出装置。
【請求項10】
前記潜熱材を収容し、前記断熱容器に収納可能な熱伝導性容器を更に備える
請求項9に記載のウイルス検出装置。
【請求項11】
前記耐熱容器は、前記第1加熱ステップにおいて、前記サンプル容器、前記発熱材、及び前記潜熱材を収容した前記熱伝導性容器を収納可能に構成される
請求項10に記載のウイルス検出装置。
【請求項12】
前記熱伝導性容器は、厚さが500μm以下である熱伝導性材料のシート又はフィルムで構成される
請求項11に記載のウイルス検出装置。
【請求項13】
前記耐熱容器は、前記第1加熱ステップにおいて、前記断熱容器を更に収納可能に構成される
請求項11又は12に記載のウイルス検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はウイルスを検出する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases:NTDs)は、世界保健機関(WHO)が「人類の中で制圧しなければならない熱帯病」と定義している18の疾患の総称であり、貧困層を中心に世界の約10億人が感染し、年間50万人が死亡していると言われている。デング熱や狂犬病などのウイルス感染症の感染拡大や症状の重篤化を抑えるためには、早期診断が極めて重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたLAMP法などを用いた従来のウイルス検出装置は、電気的に制御されるため、NTDsの流行地域の多くを占める無電化地域では使用できない。無電化地域における早期診断を実現するためには、電気を使用しない簡便な構成でウイルスを検出することを可能とする技術が求められる。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、ウイルスを簡便に検出するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様のウイルス検出方法は、被験者から採取したサンプルに核酸分解酵素を失活させ、ウイルスタンパクを分解し、核酸を溶出させるための第1の試薬を添加し、核酸を抽出するステップと、サンプルに添加された第1の試薬を失活させるためにサンプルを加熱する第1加熱ステップと、サンプルに含まれる標的ウイルスを増幅するための第2の試薬をサンプルに添加し、所定温度でサンプルを加熱する第2加熱ステップと、サンプルに含まれる標的ウイルスを検出するステップと、を備える。第1加熱ステップと第2加熱ステップの少なくとも一方において、発熱材から発せられる熱によりサンプルが加熱される。
【0007】
本開示の別の態様は、ウイルス検出装置である。この装置は、被験者から採取したサンプルを収容するサンプル容器と、サンプルに添加された、核酸分解酵素を失活させ、ウイルスタンパクを分解し、核酸を溶出させるための第1の試薬を失活させるためにサンプルを加熱する第1加熱ステップと、サンプルに含まれる標的ウイルスを増幅するための第2の試薬が添加されたサンプルを加熱する第2加熱ステップの少なくとも一方においてサンプルを加熱するための発熱材と、第1加熱ステップにおいてサンプル容器と発熱材とを収納するための耐熱容器と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、簡便な構成でウイルスを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係るウイルス検出装置の構成を示す図である。
【
図2】実施の形態に係るウイルス検出装置の構成を示す図である。
【
図3】実施の形態に係るウイルス検出方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】発熱材で耐熱容器内を加熱したときの耐熱容器内の温度変化を示す図である。
【
図5】潜熱材で断熱容器内を加熱したときの断熱容器内の温度変化を示す図である。
【
図6】実施例1と比較実施例1の各サンプルの検出結果を示す図である。
【
図7】実施例2と比較実施例2の各サンプルの検出結果を示す図である。
【
図8】実施例3と比較実施例3の各サンプルの検出結果を示す図である。
【
図9】実施例4と比較実施例4の各サンプルの検出結果を示す図である。
【
図10】実施例5と比較実施例5の各サンプルの検出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において、被験者から採取した唾液などのサンプル中に含まれる標的ウイルスを増幅して検出する技術について説明する。実施の形態に係るウイルス検出装置は、SalivaDirect法などの方法によりサンプルに含まれるDNA及びRNAを精製し、LAMP法などの方法により標的ウイルスを増幅して検出する。SalivaDirect法において、DNA及びRNAを精製する際に核酸分解酵素を失活させ、ウイルスタンパクを分解し、核酸を溶出させるためにサンプルに添加されるプロテイナーゼKは、後続のウイルス増幅における反応を阻害するので、ウイルス増幅の前に加熱して失活させる必要がある。本実施の形態のウイルス検出装置は、この加熱を、発熱材を用いて実行する。また、本実施の形態のウイルス検出装置は、標的ウイルスを増幅して検出する方法として、サンプルに試薬を添加して一定温度で所定時間加熱するだけで標的ウイルスを増幅可能な、LAMP法などの核酸等温増幅手法を採用する。そして、この一定温度での加熱を、潜熱材を用いて実行する。この潜熱材は、プロテイナーゼKを失活させるために発熱材により発せられた熱で融解させておく。このように、本開示の技術によれば、電気的な制御や電気を使用した加熱を要することなく、簡便にウイルスを検出することができるので、無電化地域や、災害などにより停電している地域などにおいても、標的ウイルスの感染の有無を検査することができる。これにより、標的ウイルスに感染している患者を早期に発見し、症状の重篤化や感染の拡大を防ぐことができる。
【0011】
図1及び
図2は、実施の形態に係るウイルス検出装置の構成を示す。
図1及び
図2に示すウイルス検出装置10は、被験者から採取された唾液に含まれるDNA及びRNAをSalivaDirect法により精製し、標的ウイルスのDNA又はRNAをLAMP法により増幅して検出する。
【0012】
ウイルス検出装置10は、耐熱容器11、蓋12、断熱容器13、ポリプロピレン容器14、スタンド15、発熱材16、ポリプロピレン容器内スタンド18、潜熱材19、及びサンプル容器20を備える。
図1は、耐熱容器11の蓋12が閉じられた状態を示し、
図2は、耐熱容器11の蓋12が開けられた状態を示す。
【0013】
図3は、実施の形態に係るウイルス検出方法の手順を示すフローチャートである。
【0014】
実験者は、被験者から唾液を採取してサンプル容器20内に収容する(S10)。サンプル容器20は、容量が0.1ml~0.5ml程度のPCRチューブであってもよいし、容量が1.5ml程度の大容量チューブであってもよい。また、ウイルス検出装置10は、100nl~1μl程度の量のサンプルでウイルスの検出が可能なマイクロデバイスであってもよい。
【0015】
つづいて、サンプルにプロテイナーゼKを添加することにより、サンプル中に含まれるDNA分解酵素及びRNA分解酵素を不活化するとともに、ウイルスタンパクを変性させて、ウイルスDNA及びRNAを溶出させる(S12)。
【0016】
つづいて、サンプルに添加したプロテイナーゼKを失活させるために、サンプルを発熱材16により加熱する(第1加熱ステップ)。発熱材16は、水との化学反応により発熱する化合物を含んでもよい。発熱材16は、例えば、生石灰とアルミニウム粉を含んでもよい。この場合、発熱材16に水を添加することにより、下記の化学反応が起こる。
CaO+H2O=Ca(OH)2+15.2kcal
Al+1/2Ca(OH)2+2H2O=1/2CAO-Al2O3+3/2H2+93.8kcal
【0017】
蒸発を防止するためのミネラルオイルをサンプルに添加し(S14)、サンプル容器20をスタンド15に設置する(S16)。スタンド15は、サンプル容器20の大きさ、形状、容量などに応じて交換可能に構成されてもよい。耐熱容器11内に、蓋を外した断熱容器13と、ポリプロピレン容器内スタンド18及び固体状態の潜熱材19が収容されたポリプロピレン容器14と、サンプル容器20が保持されたスタンド15と、発熱材16とを収納する(S18)。耐熱容器11内に水を添加すると(S20)、上記の化学反応により熱が発せられるので、蓋12を閉じて(S22)、バンドなどで蓋12を固定し、耐熱容器11内を95℃で5分間加熱する(S24)。これにより、プロテイナーゼKが失活するので(S26)、後続のウイルス増幅における反応阻害を防止することができる。また、このときに、ポリプロピレン容器14内に収容された潜熱材19が融解する(S28)とともに、断熱容器13の内部が加熱される(S30)。
【0018】
耐熱容器11及び蓋12は、発熱材16から発せられる熱に耐えうる材質で構成される。蓋12には、発熱材16から発せられる熱により蒸発した水蒸気や、発熱材16から生成された水素などの気体を耐熱容器11の外部に逃がすための孔17が設けられる。
【0019】
5分経過すると、蓋12を開けてサンプル容器20を取り出し、反応後のサンプルにLAMP試薬を添加する(S30)。LAMP試薬は、標的遺伝子を増幅するための4種類又は6種類のプライマーと鎖置換合成酵素を含む。
【0020】
LAMP試薬を含むサンプルが収容されたサンプル容器をポリプロピレン容器内スタンド18に設置する(S32)。このとき、ポリプロピレン容器14内の潜熱材19は、少なくとも一部が融解して液体状態となっている。サンプル容器は、潜熱材19に直接接触するように設置される。
【0021】
サンプル容器が保持されたポリプロピレン容器内スタンド18及び潜熱材19が収容されたポリプロピレン容器14を断熱容器13内に収納し(S34)、蓋をしてサンプルを1時間加熱する(S36)(第2加熱ステップ)。ポリプロピレン容器14は、断熱容器13の内部にちょうど収納されるような大きさ及び形状を有する。潜熱材19は、LAMP法における反応温度付近の融点を有する物質を含む。LAMP法における最適な反応温度は、約60~65℃であるから、潜熱材19は、融点が55~70℃、より好ましくは60~65℃である物質を含んでもよい。潜熱材19は、例えば、パルミチン酸(融点62.9℃)、マルガリン酸(融点61℃)、カリウム(融点64℃)、ピリジン-N-オキシド(融点65℃)などであってもよい。パラフィンは、炭化水素の連鎖型や分子量を調整する事で、47~75℃の融点のものを作り出す事ができるので、融点が上記の最適な反応温度に調整されたパラフィンを潜熱材としてもよい。パルミチン酸やマルガリン酸などの水に不溶な物質は、発生した水蒸気に溶解しないので、再利用が可能である。液体状態の潜熱材19と固体状態の潜熱材19が共存している間は、潜熱材19の温度が融点に保たれるので、サンプルを一定温度で加熱することができる。また、断熱容器13内にサンプル容器及び潜熱材19を収納するので、周囲の環境に依存することなく、サンプルを一定温度で加熱することができる。潜熱材19とポリプロピレン容器内スタンド18を、熱伝導率の高いポリプロピレンなどの熱伝導性材料のシート又はフィルムで構成された容器内に収容し、ポリプロピレン容器14を断熱容器13内に収納する二重構造を採用しているので、固体となった潜熱材19をポリプロピレン容器14ごと断熱容器13から取り出すことができる。これにより、熱効率を高めつつ、潜熱材19を再利用することができる。ポリプロピレン容器14を構成するシート又はフィルムの厚さは500μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。サンプルを一定温度で所定時間加熱することが可能な量の潜熱材19がポリプロピレン容器14内に収容される。潜熱材19の量は、一度に反応させるサンプル容器の数と容量に応じて調整されてもよい。
【0022】
1時間経過すると、蓋を開けてサンプル容器を取り出し、サンプルの濁度、蛍光、色などを観察してウイルスを検出する(S38)。サンプル中に標的ウイルスが含まれる場合は、増幅反応における副産物としてピロリン酸イオンが産生される。それがサンプル内の金属イオンと結合することで、不溶性のピロリン酸マグネシウムが産出され、サンプルが白濁するので、ウイルスの有無を目視で検出することができる。また、LAMP試薬中にカルセイン-マンガンイオン複合体が含まれる場合は、マンガンイオンと結合して消光したカルセインが、ピロリン酸イオンにマンガンイオンを奪われて蛍光を発し、さらに反応液中のマグネシウムイオンと結合して蛍光が増強されるので、ウイルスの有無を目視で検出することができる。
【0023】
以上のように、本実施の形態のウイルス検出装置10は、電気を使用することなく、サンプル中の標的ウイルスを検出することができる。また、発熱材16以外の構成を何度も再利用することができるので、多数のサンプルを安価に検査することができる。
【0024】
また、断熱容器13内に、LAMP試薬を収容したサンプル容器と保冷剤を収容しておくことにより、低温保存を要するLAMP試薬を長時間保存することができる。
【0025】
[実施例]
本発明者らは、実施の形態に係るウイルス検出装置10を試作し、実験を実施した。
【0026】
図4は、発熱材16で耐熱容器11内を加熱したときの耐熱容器11内の温度変化を示す。加熱開始から1分程度経過すると、耐熱容器11内の温度が約95℃に到達し、約14分の間は約95℃のまま維持された。加熱開始3分後から14分後までの平均温度は、94.77±0.24℃であった。プロテイナーゼKの失活に必要な95℃で5分以上の加熱を発熱材16により実行可能であることが示された。
【0027】
図5は、潜熱材19で断熱容器13内を加熱したときの断熱容器13内の温度変化を示す。潜熱材19として、融点が62.9℃であるパルミチン酸を用いた。加熱開始2分後から65分後までの平均温度は、62.73±0.61℃であった。LAMP反応に必要な60~65℃で1時間以上の加熱を潜熱材19により実行可能であることが示された。
【0028】
[実施例1]
1000copies/μlのアデノウイルスDNAを含む唾液(実施例1)と、健常者の唾液(比較実施例1)をサンプルとしてPCRチューブに収容し、試作したウイルス検出装置10によりウイルスを検出した。
【0029】
図6は、各サンプルの検出結果を示す。
図6(a)は、自然光下で撮影した写真を示し、
図6(b)は、励起光下で撮影した写真を示す。
図6(a)及び
図6(b)において、左は、アデノウイルスを含まない比較実施例1を試作したウイルス検出装置10で検出した結果を示し、中は、アデノウイルスを含む実施例1を従来のウイルス検出装置で検出した結果を示し、右は、アデノウイルスを含む実施例1を試作したウイルス検出装置10で検出した結果を示す。比較実施例1ではアデノウイルスは検出されず、実施例1ではアデノウイルスが検出された。自然光下でも目視で検出可能であった。
【0030】
[実施例2]
LAMP試薬付属のPC RNAを含む唾液(実施例2)と、健常者の唾液(比較実施例2)をサンプルとして1.5mlチューブに収容し、試作したウイルス検出装置10によりウイルスを検出した。
【0031】
図7は、各サンプルの検出結果を示す。
図7(a)は、自然光下で撮影した写真を示し、
図7(b)は、励起光下で撮影した写真を示す。
図7(a)及び
図7(b)において、左は、PC RNAを含まない比較実施例2を試作したウイルス検出装置10で検出した結果を示し、右は、PC RNAを含む実施例2を試作したウイルス検出装置10で検出した結果を示す。比較実施例2ではPC RNAは検出されず、実施例2ではPC RNAが検出された。自然光下でも目視で検出可能であった。1.5mlチューブ内における大容量試薬でのウイルス検出も可能であることが示された。
【0032】
[実施例3]
LAMP試薬と保冷剤を収納した断熱容器13を常温で0、24、72、120時間保存した。LAMP試薬付属のPC RNAを含む唾液(実施例3)と、健常者の唾液(比較実施例3)をサンプルとしてPCRチューブに収容し、それぞれのLAMP試薬を用いて、試作したウイルス検出装置10によりウイルスを検出した。
【0033】
図8は、各サンプルの検出結果を示す。
図8(a)は、自然光下で撮影した写真を示し、
図8(b)は、励起光下で撮影した写真を示す。
図8(a)及び
図8(b)において、左端は、PC RNAを含まない比較実施例3の検出結果を示し、残りは、PC RNAを含む実施例3を、0、24、72、120時間保存したLAMP試薬を用いて検出した結果を示す。比較実施例3ではPC RNAは検出されず、実施例3では、いずれの場合もPC RNAが検出された。断熱容器13内に保冷剤とともに収納しておくことにより、LAMP試薬を120時間後も使用可能な状態に保存できることが示された。
【0034】
[実施例4]
PCRチューブを使用した場合の限界検出濃度を検証した。1、2、10、20、100、200copies/μlのアデノウイルスDNAを含む唾液25μl(実施例4)と、健常者の唾液25μl(比較実施例4)をサンプルとしてPCRチューブに収容し、試作したウイルス検出装置10によりウイルスを検出した。
【0035】
図9は、各サンプルの検出結果を示す。
図9(a)は、自然光下で撮影した写真を示し、
図9(b)は、励起光下で撮影した写真を示す。
図9(a)及び
図9(b)において、左から順に、アデノウイルスを含まない比較実施例4、アデノウイルスを200、100、20、10、2、1copies/μl含む実施例4を試作したウイルス検出装置10で検出した結果を示す。比較実施例4と、アデノウイルスを1copy/μl含む実施例4ではアデノウイルスは検出されず、アデノウイルスを2copies/μl以上含む実施例4ではアデノウイルスが検出された。自然光下でも目視で検出可能であった。
【0036】
[実施例5]
1.5mlチューブを使用した場合の限界検出濃度を検証した。0.5、1copy/μlのアデノウイルスDNAを含む唾液100μl(実施例5)と、健常者の唾液100μl(比較実施例5)をサンプルとして1.5mlチューブに収容し、試作したウイルス検出装置10によりウイルスを検出した。
【0037】
図10は、各サンプルの検出結果を示す。
図10(a)は、自然光下で撮影した写真を示し、
図10(b)は、励起光下で撮影した写真を示す。
図10(a)及び
図10(b)において、左から順に、アデノウイルスを含まない比較実施例5、アデノウイルスを1、及び、0.5copy/μl含む実施例5を試作したウイルス検出装置10で検出した結果を示す。比較実施例5ではアデノウイルスは検出されず、アデノウイルスを0.5copy/μl以上含む実施例5ではアデノウイルスが検出された。自然光下でも目視で検出可能であった。
【0038】
新型コロナウイルス(covid-19)の発症時に患者の唾液中に含まれるウイルス濃度は約10~1000copies/μlである。本実施の形態のウイルス検出装置10は、新型コロナウイルスに感染した患者から採取された唾液中に含まれるウイルスを検出するのに十分な検出精度を有することが示された。
【0039】
以上、本開示を、実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0040】
実施の形態においては、核酸精製手法としてSalivaDirect法について説明したが、他の核酸精製手法が採用されてもよい。例えば、FTA cardによる精製手法などが採用されてもよい。この場合、核酸分解酵素を失活させるための手法としてプロテイナーゼK以外の試薬が用いられてもよい。
【0041】
実施の形態においては、核酸等温増幅手法としてLAMP法について説明したが、他の核酸等温増幅手法が採用されてもよい。例えば、SmartAmp法(最適反応温度:約67℃)を用いる場合、潜熱材19としてステアリン酸(融点70℃)などを使用可能である。また、RPA法(最適反応温度:約37℃)を用いる場合、潜熱材19としてエルカ酸(融点35℃)、シアバター(主成分:ステアリン酸、オレイン酸)(融点37℃)などを使用可能である。また、WGA法(最適反応温度:約30℃)を用いる場合、潜熱材19としてガリウム(融点30℃)、カプリン酸(融点31℃)などを使用可能である。また、NASBA法(最適反応温度:40~55℃)を用いる場合、潜熱材19としてラウリン酸(融点44℃)、ネルボン酸(融点43℃)、エライジン酸(融点43~45℃)、黄リン(融点44℃)アジンホスエチル(融点53℃)、N-ビニルアセトアミド(融点54℃)などを使用可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 ウイルス検出装置、11 耐熱容器、12 蓋、13 断熱容器、14 ポリプロピレン容器、15 スタンド、16 発熱材、17 孔、18 ポリプロピレン容器内スタンド、19 潜熱材、20 サンプル容器。