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特開2022-174730樹脂組成物、硬化性樹脂組成物、硬化物及び電気・電子部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174730
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】樹脂組成物、硬化性樹脂組成物、硬化物及び電気・電子部品
(51)【国際特許分類】
   C07D 311/60 20060101AFI20221116BHJP
   C08G 65/40 20060101ALI20221116BHJP
   C08G 59/62 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
C07D311/60
C08G65/40
C08G59/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077087
(22)【出願日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2021080502
(32)【優先日】2021-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】山本 愛子
(72)【発明者】
【氏名】吉村 凌
(72)【発明者】
【氏名】浦野 航
【テーマコード(参考)】
4J005
4J036
【Fターム(参考)】
4J005AA24
4J005BA00
4J005BB02
4J005BD05
4J036AA02
4J036AD04
4J036AD07
4J036DB05
4J036FB08
4J036JA01
4J036JA03
4J036JA04
4J036JA06
4J036JA07
4J036JA08
4J036JA11
4J036JA13
4J036JA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】成形性及び溶剤溶解性に優れ、耐熱性に優れた硬化物を与える樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される構造のフェノール樹脂を含む樹脂組成物。

(R、Rは、水素原子、直鎖状脂肪族炭化水素基等。R~R10は、水素原子、ハロゲン原子、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基等。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造のフェノール樹脂を含む樹脂組成物。
【化1】
(上記式(1)中、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基を表すが、R、Rがともに水素原子の場合は除く。R~R10は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基を表すが、R~R10のうち少なくとも一つは下記式(2)で示される置換基である。R~R10の隣り合う基は結合して環を形成していてもよい。)
【化2】
(上記式(2)中、Yは、直接結合、-SO-、-O-、-CO-、-C(CF-、-S-及び炭素数1~20の脂肪族炭化水素基から選ばれる2価の連結基である。R21は水素原子、炭素数1~10の炭化水素基又はハロゲン原子である。)
【請求項2】
前記式(1)で表される構造のフェノール樹脂100質量部に対し、下記式(3)で表される化合物を0.1~100000質量部含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化3】
(上記式(3)中、Xは、直接結合、-SO-、-O-、-CO-、-C(CF-、-S-及び炭素数1~20の脂肪族炭化水素基から選ばれる2価の連結基である。R11およびR12は、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基又はハロゲン原子であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物100質量部に対し、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、前記式(1)で表される構造のフェノール樹脂以外のフェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、シアネートエステル樹脂、活性エステル樹脂、ラジカル重合性の官能基を有する樹脂、イソシアネート樹脂、酸無水物樹脂及びカルボジイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を0.01~10000質量部含む硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項5】
請求項4に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む電気・電子部品。
【請求項6】
下記式(1)で表される構造に由来する構造を含む硬化物。
【化4】
(上記式(1)中、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基を表すが、R、Rがともに水素原子の場合は除く。R~R10は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基を表すが、R~R10のうち少なくとも一つは下記式(2)で示される置換基である。R~R10の隣り合う基は結合して環を形成していてもよい。)
【化5】
(上記式(2)中、Yは、直接結合、-SO-、-O-、-CO-、-C(CF-、-S-及び炭素数1~20の脂肪族炭化水素基から選ばれる2価の連結基である。R21は水素原子、炭素数1~10の炭化水素基又はハロゲン原子である。)
【請求項7】
請求項6に記載の硬化物を含む電気・電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物、硬化性樹脂組成物、硬化物及び電気・電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性を有する樹脂組成物は、その硬化性を利用し、熱硬化性成形材料等として様々な分野に使用されている。なかでも、フェノール樹脂はエポキシ樹脂の硬化剤として好適に使用されており、フェノール樹脂とエポキシ樹脂を組み合わせた熱硬化性樹脂組成物は、耐熱性、接着性等の諸特性に優れる点から、プリント配線基板材料、ビルトアップ基板の層間絶縁材料、半導体封止材料、導電性接着剤材料等として半導体や電子部品の分野で広く用いられている。
【0003】
フェノール樹脂には、様々な骨格・構造を有するものが知られており、例えば、特許文献1、2には、レゾルシノール類とカルボニル化合物の重縮合によって得られる、フラバン骨格を有する多価フェノール化合物が提案されている。
特許文献3には、プロペニル基を有するフェノール樹脂が開示されており、このプロペニル基含有フェノール樹脂と、1分子中にマレイミド基を2以上有するマレイミド化合物を含有する耐熱性に優れた樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-241353公報
【特許文献2】特開平8-169937公報
【特許文献3】特開2019-019149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、半導体はLSIなどの比較的小さな電流や電力で使用されるものが大半であったが、近年、モーターや照明などの制御や電力の変換に半導体を使用する、パワー半導体等の開発が急速に進んでいる。これに伴い、従来よりも高い電力や電流にも使用可能な半導体並びに半導体封止材が希求され、半導体封止材にあっては、従来よりも、高い耐熱性が求められている。また、電気・電子機器に使用されるプリント配線板においても、高温環境等の過酷環境下で適用することが多くなってきており、高い耐熱性が求められている。
また、プリント配線板の中でも、特に多層プリント配線板に対し、更なる高多層化、高密度化、薄型化、軽量化と、信頼性及び成形加工性の向上等が要求されている。
また、配線の微細化が進んでいく中で、基板材料となる樹脂側への特性としては、より一層の高耐熱性や成形性が必要とされる。
更に、プリント配線板用途においては、硬化性樹脂組成物を溶剤に溶解させてワニスとして使用する場合があるため、使用される樹脂には高い溶剤溶解性が求められる。
【0006】
このような要求に対して、特許文献1、2に記載のフラバン骨格を有する多価フェノール化合物は、耐熱性の点において満足いくものではなかった。
また、フラバン骨格を有するフェノール樹脂の多くがフラバン骨格に直接OH基が多数置換しており水素結合が多く形成されるため、融点や粘度が高くなり、更なる微細化・複雑化が進むプリント配線基板用途における成形性が不十分となる恐れがあった。
【0007】
一方、特許文献3に記載のプロペニル基含有フェノール樹脂とマレイミド化合物を含有する樹脂組成物は、上述したような用途に使用されるための耐熱性もしくは、成形のための低粘度性や溶剤溶解性の点において満足いくものではなかった。
【0008】
本発明は、成形性及び溶剤溶解性に優れ、耐熱性に優れた硬化物を与える樹脂組成物及びこれを用いた硬化性樹脂組成物と、その硬化物及び電気・電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、フラバン骨格を有するフェノール樹脂の構造と、得られる樹脂組成物の粘度、Tg、耐熱性とに相関があるという考えのもと、ある特定の構造を有するフラバン骨格含有のフェノール樹脂、具体的には、プロペニル基を有するフェニル基を少なくとも一つ有し、且つ該フラバン骨格上に置換されたOH基の位置と数が制御された構造を有するものが、上記課題を解決することを見出し、本発明の完成に至った。
即ち本発明の要旨は以下の[1]~[7]に存する。
【0010】
[1] 下記式(1)で表される構造のフェノール樹脂を含む樹脂組成物。
【0011】
【化1】
【0012】
(上記式(1)中、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基を表すが、R、Rがともに水素原子の場合は除く。R~R10は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基を表すが、R~R10のうち少なくとも一つは下記式(2)で示される置換基である。R~R10の隣り合う基は結合して環を形成していてもよい。)
【0013】
【化2】
【0014】
(上記式(2)中、Yは、直接結合、-SO-、-O-、-CO-、-C(CF-、-S-及び炭素数1~20の脂肪族炭化水素基から選ばれる2価の連結基である。R21は水素原子、炭素数1~10の炭化水素基又はハロゲン原子である。)
【0015】
[2] 前記式(1)で表される構造のフェノール樹脂100質量部に対し、下記式(3)で表される化合物を0.1~100000質量部含む、[1]に記載の樹脂組成物。
【0016】
【化3】
【0017】
(上記式(3)中、Xは、直接結合、-SO-、-O-、-CO-、-C(CF-、-S-及び炭素数1~20の脂肪族炭化水素基から選ばれる2価の連結基である。R11およびR12は、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基又はハロゲン原子であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0018】
[3] [1]又は[2]に記載の樹脂組成物100質量部に対し、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、前記式(1)で表される構造のフェノール樹脂以外のフェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、シアネートエステル樹脂、活性エステル樹脂、ラジカル重合性の官能基を有する樹脂、イソシアネート樹脂、酸無水物樹脂及びカルボジイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を0.01~10000質量部含む硬化性樹脂組成物。
【0019】
[4] [3]に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【0020】
[5] [4]に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む電気・電子部品。
【0021】
[6] 下記式(1)で表される構造に由来する構造を含む硬化物。
【0022】
【化4】
【0023】
(上記式(1)中、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基を表すが、R、Rがともに水素原子の場合は除く。R~R10は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基を表すが、R~R10のうち少なくとも一つは下記式(2)で示される置換基である。R~R10の隣り合う基は結合して環を形成していてもよい。)
【0024】
【化5】
【0025】
(上記式(2)中、Yは、直接結合、-SO-、-O-、-CO-、-C(CF-、-S-及び炭素数1~20の脂肪族炭化水素基から選ばれる2価の連結基である。R21は水素原子、炭素数1~10の炭化水素基又はハロゲン原子である。)
【0026】
[7] [6]に記載の硬化物を含む電気・電子部品。
【発明の効果】
【0027】
本発明の樹脂組成物は、成形性及び溶剤溶解性に優れ、耐熱性に優れた硬化物を与える樹脂組成物である。このため、本発明の樹脂組成物及び硬化性樹脂組成物は、半導体封止材、積層板等の電気・電子部品に特に有効に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下の説明は本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0029】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、下記式(1)で表される構造のフェノール樹脂(以下、「フェノール樹脂(1)」と称す場合がある。)を含むことを特徴とする。なお、下記式(1)で表される構造は、繰り返し構造を含むものではなく、単分子構造ではあるが、当業界では「フェノール樹脂」と表現されるものであり、「フェノール樹脂」として販売されることもある。また、当業界では、「フェノール化合物(硬化していないもの)」も「フェノール樹脂」と呼称されているため、下記式(1)で表される化合物も「フェノール樹脂」と呼称することから、フェノール樹脂(1)は、一般的に「フェノール樹脂」と呼称されている。
【0030】
【化6】
【0031】
(上記式(1)中、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基を表すが、R、Rがともに水素原子の場合は除く。R~R10は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基を表すが、R~R10のうち少なくとも一つは下記式(2)で示される置換基である。R~R10の隣り合う基は結合して環を形成していてもよい。)
【0032】
【化7】
【0033】
(上記式(2)中、Yは、直接結合、-SO-、-O-、-CO-、-C(CF-、-S-及び炭素数1~20の脂肪族炭化水素基から選ばれる2価の連結基である。R21は水素原子、炭素数1~10の炭化水素基又はハロゲン原子である。)
【0034】
<フェノール樹脂(1)>
上記式(1)中のR、Rの炭素数1~6の直鎖状脂肪族炭化水素基としては、好ましくは、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基などが挙げられる。
炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などが挙げられる。
炭素数2~6のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルビニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基などが挙げられる。
炭素数2~6のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基などが挙げられる。
【0035】
、Rの置換又は無置換のアリール基としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、エチルフェニル基、スチリル基、キシリル基、n-プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、メシチル基、エチニルフェニル基、ナフチル基、ビニルナフチル基などが挙げられる。該アリール基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられ、該置換基の分子量は、通常500以下である。
【0036】
、Rの置換又は無置換のヘテロアリール基としては、1価の遊離原子価を有する、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、カルバゾール環、チエノチオフェン環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、ペリミジン環などが挙げられる。該ヘテロアリール基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられ、該置換基の分子量は、通常500以下である。
【0037】
これらの中でも、R、Rが、水素原子又は炭素数1~6の直鎖状脂肪族炭化水素基であることが好ましく、耐熱性を向上させることができるという観点から、より好ましくは、R、Rは共に炭素数1~6の直鎖状脂肪族炭化水素基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、最も好ましくは、メチル基である。R、Rがともに水素原子の場合は溶剤溶解性に劣るため、R、Rが共に水素原子である場合は除く。
【0038】
前記式(1)中のR~R10は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基を表すが、R~R10のうち少なくとも一つは前記式(2)で示される置換基である。
【0039】
~R10のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0040】
~R10の脂肪族炭化水素基としては、特に限定されないが、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基などが挙げられる。該脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基などが挙げられる。該置換基の分子量は、400以下であることが好ましい。
置換又は無置換のアルキル基としては次のようなものが挙げられる。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、シクロヘプチル基、メチルシクロヘキシル基、n-オクチル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル基、n-デシル基、シクロデシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、シクロドデシル基、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、トリメチルベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基、2-フェニルイソプロピル基等である。
置換又は無置換のアルコキシ基としては次のようなものが挙げられる。例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペントキシ基、イソペントキシ基、ネオペントキシ基、tert-ペントキシ基、シクロペントキシ基、n-ヘキシロキシ基、イソヘキシロキシ基、シクロヘキシロキシ基、n-ヘプトキシ基、シクロヘプトキシ基、メチルシクロヘキシロキシ基、n-オクチロキシ基、シクロオクチロキシ基、n-ノニロキシ基、3,3,5-トリメチルシクロヘキシロキシ基、n-デシロキシ基、シクロデシロキシ基、n-ウンデシロキシ基、n-ドデシロキシ基、シクロドデシロキシ基、ベンジロキシ基、メチルベンジロキシ基、ジメチルベンジロキシ基、トリメチルベンジロキシ基、ナフチルメトキシ基、フェネチロキシ基、2-フェニルイソプロポキシ基等である。
置換又は無置換のアルケニル基としては次のようなものが挙げられる。例えば、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルビニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基、シンナミル基、ナフチルビニル基等である。
置換又は無置換のアルキニル基としては次のようなものが挙げられる。例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1,3-ブタンジエニル基、フェニルエチニル基、ナフチルエチニル基等である。
【0041】
~R10の置換又は無置換のアリール基としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、エチルフェニル基、スチリル基、キシリル基、n-プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、メシチル基、エチニルフェニル基、ナフチル基、ビニルナフチル基などが挙げられる。該アリール基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられ、該置換基の分子量は、通常200以下である。
【0042】
~R10の置換又は無置換のヘテロアリール基としては、1価の遊離原子価を有する、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、カルバゾール環、チエノチオフェン環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、ペリミジン環などが挙げられる。該ヘテロアリール基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられ、該置換基の分子量は、通常500以下である。
【0043】
また、R~R10のうち少なくとも一つは前記式(2)で示される置換基(以下、「置換基(2)」と称す場合がある。)である。
【0044】
前記式(2)において、Yの炭素数1~20の脂肪族炭化水素基としては、好ましくは炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、特に好ましくは炭素数1~10の分岐を有していてもよいアルキレン基が挙げられる。Yは、好ましくは、直接結合又は炭素数1~10の脂肪族炭化水素基であり、より好ましくは直接結合、メチレン基、又はイソプロピリデン基であり、更に好ましくは直接結合又はイソプロピリデン基であり、最も好ましくは、Yは直接結合である。
【0045】
21のハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。また、R21の炭素数1~10の炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキル基が挙げられる。好ましくは、R21は水素原子又はメチル基であり、最も好ましくは水素原子である。
【0046】
置換基(2)は、プロペニル基を有することから、耐熱性に寄与する効果を有し、且つ軟化点もしくは融点が高くなりすぎず、流動性、成形性に優れる傾向にある。
前記式(2)において、プロペニル基は、Yが結合する炭素原子に対してメタ位に存在することが反応性の観点から好ましい。また、水酸基は、Yが結合する炭素原子に対してパラ位又はオルト位に存在することが反応性の観点から好ましい。また、R21は、Yが結合する炭素原子に対してメタ位に存在することが反応性の観点から好ましい。
【0047】
なお、式(1)中に、置換基(2)が複数存在する場合、各々のY、R21は同一であってもよく、異なるものであってもよい。
【0048】
~R10の隣り合う基は結合して環を形成していてもよい。その場合、形成される環は、芳香環、非芳香環のどちらでもよいが、好ましくは芳香環である。R~R10の隣り合う基は結合して環を形成する場合、該環の分子量は通常300以下である。
【0049】
本発明において好ましいフェノール樹脂(1)は、前記式(1)において、R~Rのうち1つが置換基(2)で、残り3つが、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基であり、且つ、R~R10のうち1つが置換基(2)であり、残り3つが、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基であるものであり、より好ましいフェノール樹脂(1)は、式(1)において、R,Rが置換基(2)で、R,R,R,R,R,R10が、水素原子又は炭素数1~12の脂肪族炭化水素基、特に好ましくは炭素数2~3の不飽和脂肪族炭化水素基であるものである。
【0050】
フェノール樹脂(1)は、耐熱性と成形性(低粘度性)の観点から、下記式(1A)で表される構造のフェノール樹脂が最も好ましい。
【0051】
【化8】
【0052】
(上記式(1A)中、Y,R21は、式(2)におけるY,R21と同義であり、好ましいものも同じである。R,Rは式(1)におけるR,Rと同義であり、好ましいものも同じである。)
【0053】
式(1A)で表される構造のフェノール樹脂は、フラバン骨格とフェニル基を併せ持つことから、より高い耐熱性を示す傾向にある。また、プロペニル基を有することから、マレイミド樹脂と混合して調製された硬化性樹脂組成物は優れた熱硬化性を示すとともに高い耐熱性を有する硬化物を与えることが可能となる。
【0054】
式(1A)におけるR,R,R21は、好ましくは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、最も好ましくはいずれも水素原子である。
【0055】
<化合物(3)>
本発明の樹脂組成物は、フェノール樹脂(1)100質量部に対し、下記式(3)で表される化合物(以下、「化合物(3)」と称す場合がある。)を0.1~100000質量部含むことが好ましい。
【0056】
【化9】
【0057】
(上記式(3)中、Xは、直接結合、-SO-、-O-、-CO-、-C(CF-、-S-および炭素数1~20の脂肪族炭化水素基から選ばれる2価の連結基である。R11およびR12は、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基又はハロゲン原子であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0058】
上記式(3)において、Xの炭素数1~20の脂肪族炭化水素基としては、好ましくは炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、特に好ましくは炭素数1~10の分岐を有していてもよいアルキレン基が挙げられる。Xは、好ましくは、直接結合又は炭素数1~10の脂肪族炭化水素基であり、より好ましくは直接結合、メチレン基、又はイソプロピリデン基であり、更に好ましくは直接結合又はイソプロピリデン基であり、最も好ましくは、Xは直接結合である。
【0059】
11,R12のハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。また、R11,R12の炭素数1~10の炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキル基が挙げられる。好ましくは、R11,R12は各々独立に水素原子又はメチル基であり、最も好ましくはいずれも水素原子である。
【0060】
本発明の樹脂組成物は、上記化合物(3)の含有量が前記フェノール樹脂(1)に対して多いほど溶融粘度が低くなる傾向があり、少ないほど溶剤溶解性が高くなる傾向がある。このような観点から、本発明の樹脂組成物は、フェノール樹脂(1)100質量部に対し、化合物(3)を1~1000質量部含むことがより好ましく、更に好ましくは2~800質量部である。
【0061】
<溶融粘度>
本発明の樹脂組成物は、150℃における溶融粘度が0.01~100.0Pであることが好ましく、より好ましくは0.05~90P、さらに好ましくは0.1~80Pである。溶融粘度が上記上限値以下であれば、低粘度のため、後述のマレイミド樹脂やエポキシ樹脂等との混合が容易となる。溶融粘度が上記下限値以上であれば、金型等に成形するときにブリードアウトが起こりにくい。
なお、樹脂組成物の溶融粘度は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0062】
<軟化点もしくは融点>
本発明の樹脂組成物の軟化点もしくは融点は40~150℃であることが好ましく、より好ましくは50~140℃、さらに好ましくは55~120℃である。軟化点もしくは融点が上記下限値以上であればブロッキングが起こりにくく、上記上限値以下であれば加熱時に短時間で流動する。
なお、樹脂組成物の軟化点もしくは融点は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0063】
<フェノール樹脂(1)の製造>
フェノール樹脂(1)を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、下記式(4)及び/又は(5)で表されるアリル基を有するフェノール化合物(以下、それぞれ「フェノール化合物(4)」、「フェノール化合物(5)」と称し、これらを「フェノール化合物(4),(5)」と総称する場合がある。)を加熱してフラバン化する方法が挙げられる。フェノール化合物(4),(5)は単独で使用してもよく、併用してもよい。加熱する際、フェノール化合物(4),(5)を溶剤に溶解させてもよく、また、触媒を添加してもよい。
【0064】
【化10】
【0065】
(上記式(4),(5)中、R~R10は前記式(1)におけるR~R10と同義である。なお、好ましくは、式(4)においては、Rが置換基(2)で、R,R,Rが水素原子であり、式(5)においては、Rが置換基(2)で、R,R,R10が水素原子である。)
【0066】
フラバン化反応に用いる溶剤としては、フェノール化合物(4),(5)を溶解するものであればよい。例えば、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルセロソルブ、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラヒドロフランが挙げられる。溶剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
溶剤を用いる場合は、フェノール化合物(4),(5)100質量部に対して10~1000質量部、特に50~500質量部用いることが好ましい。
【0068】
フラバン化反応に触媒を添加する場合、触媒としては例えば、硫酸、塩酸、p-トルエンスルホン酸、酢酸などの酸性触媒が挙げられる。触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
触媒を使用する場合、その使用量は、フェノール化合物(4),(5)の水酸基の合計モル量に対して、0.001~5.0倍モルが好ましく、0.002~2.0倍モルがより好ましい。
【0070】
フラバン化反応の反応温度は、50~200℃が好ましく、80~160℃がより好ましい。反応温度が上記下限値以上であれば、フラバン化反応が進行しやすい。反応温度が上記上限値以下であれば、副反応が起きにくい。
【0071】
フラバン化反応後には、必要に応じて、反応生成物に対し、蒸留等による未反応の原料の除去、濃縮、精製(洗浄、カラムクロマトグラフィー等)等の処理を行ってもよい。
【0072】
<化合物(3)の製造>
化合物(3)を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、下記式(6)で表される二価のフェノール化合物(以下、「二価フェノール化合物(6)」と略記することがある。)をアリル化し、下記式(7)で表されるアリルオキシ基含有化合物(以下、「アリルオキシ基含有化合物(7)」と略記することがある)を得、次いで、アリルオキシ基含有化合物(7)のアリル基を転移させて下記式(8)で表される2-プロペニル基含有フェノール化合物(8)を得、この2-プロペニル基含有フェノール化合物(8)の2-プロペニル基を1-プロペニル基に変えて、化合物(3)とする方法が挙げられる。
【0073】
【化11】
【0074】
(上記式(6),(7),(8)中、X、R11、R12は、前記式(3)におけると同義である。)
【0075】
二価フェノール化合物(6)をアリル化する方法としては、例えば、二価フェノール化合物(6)とハロゲン化アリルとを反応させ、少なくとも一部の水酸基をアリルエーテル化して-O-CH-CH=CHに変換する方法が挙げられる。
【0076】
この反応において、ハロゲン化アリルは、二価フェノール化合物(6)に対して2.0~8.0倍モル、特に3.0~6.0倍モル用いることが、反応を効率的に進めつつ、生産コストを抑える観点から好ましい。
【0077】
二価フェノール化合物(6)とハロゲン化アリルによるアリルエーテル化反応は、触媒の存在下で行うことが好ましい。
【0078】
アリルエーテル化反応の触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属類、ジアザビシクロノネン、ジアザビシクロウンデセン、トリエチルアミン等のアミン類、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムtert-ブトキシド、リチウムジイソプロピルアミド、ケイ素-塩基性アミン、リチウムテトラメチルピペリジン等が挙げられる。これらの中でも、比較的安価であり、副反応が起こりにくい点で、アルカリ金属類、ジアザビシクロノネン、ジアザビシクロウンデセンが好ましい。触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
アリルエーテル化反応の触媒の使用量は、ハロゲン化アリルの使用モル量に対して、0.7~2.0倍モルが好ましく、0.8~1.5倍モルがより好ましい。触媒の使用量が少なすぎると、反応速度が遅く、使用量が多すぎると、余剰のアルカリを除去しなくてはならなくなり、生産性が低下する。
【0080】
また、アリルエーテル化反応は、溶剤の存在下で行うことが好ましく、アリルエーテル化反応の溶剤としては、後述のプロペニル化反応に用いる極性溶剤等が挙げられる。
【0081】
アリルエーテル化反応の反応温度は、二価フェノール化合物(6)の水酸基とハロゲン化アリルとが反応する温度であれば特に限定されず、10~150℃が好ましく、40~130℃が好ましい。
【0082】
アリルエーテル化反応後には、必要に応じて、反応生成物に対し、蒸留等による未反応の原料の除去、濃縮、精製(洗浄、カラムクロマトグラフィー等)等の処理を行ってもよい。
【0083】
二価フェノール化合物(6)のアリル化で得られたアリルオキシ基含有化合物(7)のアリル基の転移は、例えば、アリル化反応後のアリルオキシ基含有化合物(7)を加熱することによるクライゼン転位反応で実施できる。クライゼン転位反応により、アリルオキシ基含有化合物(7)のベンゼン環に結合したアリルオキシ基(-O-CH-CH=CH)のアリル基が、アリルオキシ基が存在した箇所のオルソ位に転位する。
【0084】
クライゼン転位反応は常法に従って行えばよく、例えばアリルオキシ基含有化合物(7)をカルビトール、パラフィンオイル、N,N’-ジメチルアニリン、N,N’-ジエチルアニリン等の高沸点溶媒の存在下又は無溶剤下において加熱する。溶媒は、アリルオキシ基含有化合物(7)100質量部に対して、10~200質量部必要に応じて使用される。反応終了後、必要により使用した溶剤を除去して2-プロペニル基含有フェノール化合物(8)を得ることができる。反応後、2-プロペニル基含有フェノール化合物(8)は反応液を水酸化ナトリウム水溶液に滴下し、分離した水層を酸溶液中に滴下して撹拌することで回収することができる。
【0085】
このクライゼン転位反応時の加熱温度は、150~220℃が好ましく、170~200℃がより好ましく、窒素等の不活性ガス存在下の転位反応がさらに好ましい。加熱温度が上記下限値以上であれば、アリル基の転位反応が起こりやすい。加熱温度が上記上限値以下であれば、アリル基の重合が起きにくい。
【0086】
反応後、必要に応じて、反応生成物に対し、水洗等の処理を行ってもよい。
【0087】
反応後の水酸化ナトリウム水溶液への滴下時間は、10分~30分が好ましい。滴下時間が上記下限値以上であれば、混和による発熱を抑え安全に製造できる。滴下時間が上記上限値以下であれば生産性が向上する。酸溶液への滴下後の撹拌時間は、15分~60分が好ましい。撹拌時間が上記下限値以上であれば、中和反応が進行し、続く分離工程での収率が向上する。撹拌時間が上記上限値以下であれば生産性が向上する。
【0088】
2-プロペニル基含有フェノール化合物(8)の2-プロペニル基を1-プロペニル基とする方法としては、2-プロペニル基含有フェノール化合物(8)を溶剤に溶解させ、プロペニル化反応の触媒下に加熱する方法が挙げられる。
【0089】
プロペニル化反応に用いる溶剤としては、2-プロペニル基含有フェノール化合物(8)を溶解するものであればよく、典型的には極性溶剤が挙げられる。
極性溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルセロソルブ、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラヒドロフランが挙げられる。溶剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
溶剤は、2-プロペニル基含有フェノール化合物(8)100質量部に対して20~900質量部、特に50~600質量部用いることが好ましい。
【0091】
プロペニル化反応の触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属類、ジアザビシクロノネン、ジアザビシクロウンデセン、トリエチルアミン等のアミン類、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムtert-ブトキシド、リチウムジイソプロピルアミド、ケイ素-塩基性アミン、リチウムテトラメチルピペリジン等が挙げられる。なかでも、比較的安価であり、副反応が起こりにくい点から、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが好ましい。触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
プロペニル化反応の触媒の使用量は、2-プロペニル基含有フェノール化合物(8)の水酸基の合計モル量に対して、0.4~6.0倍モルが好ましく、1.0~4.0倍モルがより好ましい。触媒の使用量が少なすぎると、プロペニル化反応が進みにくく、使用量が多すぎると、余剰のアルカリを除去しなくてはならなくなり、生産性が低下する。
【0093】
プロペニル化反応の反応温度は、40~140℃が好ましく、70~120℃がより好ましい。反応温度が上記下限値以上であれば、プロペニル化反応が進行しやすい。反応温度が上記上限値以下であれば、プロペニル基の重合が起きにくい。
【0094】
プロペニル化反応後には、必要に応じて、反応生成物に対し、蒸留等による未反応の原料の除去、濃縮、精製(洗浄、カラムクロマトグラフィー等)等の処理を行ってもよい。
【0095】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、フェノール化合物(4),(5)を加熱してフラバン化して得られたフェノール樹脂(1)と化合物(3)とを用意してそれらを混合して本発明の樹脂組成物とする方法もあるが、上述したように、二価フェノール化合物(6)をアリル化し、アリルオキシ基含有化合物(7)を得、次いで、アリルオキシ基含有化合物(7)のアリル基を転移させて2-プロペニル基含有フェノール化合物(8)を得、この2-プロペニル基含有フェノール化合物(8)の2-プロペニル基を1-プロペニル基に変えて、化合物(3)としたものをフラバン化反応して、フェノール樹脂(1)を製造し、且つ化合物(3)を残存させることで、本発明の樹脂組成物とすることも可能である。
【0096】
なお、本発明の樹脂組成物は、フェノール樹脂(1)、好ましくはフェノール樹脂(1)と化合物(3)とを含むものである。本発明の樹脂組成物100質量%中のフェノール樹脂(1)の含有量或いはフェノール樹脂(1)と化合物(3)との合計の含有量は、特に限定されないが、好ましくは30質量%以上、特に40質量%以上、とりわけ50~100質量%であることが好ましい。
【0097】
本発明の樹脂組成物を、二価フェノール化合物(6)をアリル化してアリルオキシ基含有化合物(7)を得、次いで、アリルオキシ基含有化合物(7)のアリル基を転移させて2-プロペニル基含有フェノール化合物(8)を得、この2-プロペニル基含有フェノール化合物(8)の2-プロペニル基を1-プロペニル基に変えて化合物(3)としたものをフラバン化反応して、フェノール樹脂(1)を製造し、且つ化合物(3)を残存させることで製造した場合、得られる樹脂組成物中のフェノール樹脂(1)及び化合物(3)の含有量は、フラバン化の反応温度や反応時間、触媒の添加等によっても異なるが、通常、フェノール樹脂(1)の含有量が1~99質量%、化合物(3)の含有量が1~99質量%で、その他、一連の反応で副生する高分子量体等の副生成物を1~60質量%程度含有する樹脂組成物が得られる。
このような樹脂組成物は、そのまま本発明の硬化性樹脂組成物の製造或いは後述の本発明の硬化物(1)の製造に用いてもよいし、クロマト分離や晶析等によりフェノール樹脂(1)及び化合物(3)以外のその他の反応副生成物を除去した後、これらの用途に用いてもよい。
【0098】
[硬化性樹脂組成物]
本発明の硬化性樹脂組成物は、前述した本発明の樹脂組成物と、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、フェノール樹脂(1)以外のフェノール樹脂(以下、「その他のフェノール樹脂」と称す場合がある。)、ベンゾオキサジン樹脂、シアネートエステル樹脂、活性エステル樹脂、ラジカル重合性の官能基を有する樹脂、イソシアネート樹脂、酸無水物樹脂及びカルボジイミド樹脂からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂(以下、これらを「硬化成分」と称す場合がある。)を含むものであり、該硬化成分は、好ましくは、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂及びその他のフェノール樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂である。
【0099】
本発明の硬化性樹脂組成物では、本発明の樹脂組成物が有するフェノール樹脂(1)中のプロペニル基と、マレイミド樹脂のマレイミド基とが、所定の条件下で反応することで硬化が進行する。このように、本発明の樹脂組成物はマレイミド樹脂に対する硬化剤として機能する。
また、エポキシ樹脂の場合は、本発明の樹脂組成物が有するフェノール樹脂(1)中のの水酸基とエポキシ樹脂のエポキシ基が反応することにより硬化反応が進行する。この場合も、本発明の樹脂組成物はエポキシ樹脂に対する硬化剤として機能する。
また、その他のフェノール樹脂は、エポキシ樹脂と併用することができる。
本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化物の密着性に優れる点、および硬化反応が進行しやすく硬化物の分子量が大きくなりやすい点から、特に半導体封止材の用途においては、硬化成分としてエポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0100】
本発明の硬化性樹脂組成物において、硬化成分の含有割合は、本発明の樹脂組成物100質量部に対して、0.01~10000質量部であり、0.1~1000質量部が好ましく、1.0~500質量部がより好ましい。硬化成分の含有割合が上記下限値以上であれば、耐熱性に優れ、接着性が良好な硬化物が得られる。硬化成分の含有割合が上記上限以下であれば均一で硬化性に優れる硬化物が作製可能である。
【0101】
<硬化成分>
以下に、本発明の硬化性樹脂組成物に含まれる各硬化成分について説明する。
【0102】
<マレイミド樹脂>
マレイミド樹脂は、1分子中にマレイミド基を平均1以上有するマレイミド化合物である。マレイミド樹脂としては、例えば、1分子中にマレイミド基を2つ有するビスマレイミド類、ポリフェニルメタンマレイミド等が挙げられる。
【0103】
ビスマレイミド類としては、例えば、アルキルビスマレイミド、ジフェニルメタンビスマレイミド、フェニレンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド等の4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼンが挙げられる。
ポリフェニルメタンマレイミドは、マレイミド基が置換した3以上のベンゼン環がメチレン基を介して結合した重合体である。
【0104】
マレイミド樹脂としては、本発明のプロペニル基含有組成物との相溶性に優れる点、および比較的安価である点から、上述したマレイミド樹脂の中でも4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、ポリフェニルメタンマレイミドが好ましい。
【0105】
マレイミド樹脂は、市販品を用いてもよい。マレイミド樹脂の市販品としては、例えば、大和化成工業社製の製品名「BMI-1100」(4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド)、製品名「BMI-2300」(ポリフェニルメタンマレイミド)が挙げられる。
【0106】
マレイミド樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0107】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂としては、特に限定されず、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有エポキシ樹脂、リン原子含有エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0108】
エポキシ樹脂として、プロペニル基含有組成物の水酸基の少なくとも一部がエポキシ化されたエポキシ樹脂を用いてもよい。水酸基のエポキシ化は、公知の方法により実施できる。例えばプロペニル基含有組成物とエピクロロヒドリンとを反応させることで、プロペニル基含有組成物の水酸基の一部又は全部が-OZ(ここで、Zはグリシジル基である。)となった構造のエポキシ樹脂を得ることができる。
【0109】
エポキシ樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0110】
<その他のフェノール樹脂>
本発明の樹脂組成物中に含まれるフェノール樹脂(1)以外のその他のフェノール樹脂としては、例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノールなどのフェノール類および/又はα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレンなどのナフトール類と、ホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドなどのアルデヒド基を有する化合物とを、酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂;フェノール類および/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルとから合成されるフェノール・アラルキル樹脂;ビフェニレン型フェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂などのアラルキル型フェノール樹脂;フェノール類および/又はナフトール類とジシクロペンタジエンとの共重合によって合成されるジシクロベンタジエン型フェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトールノボラック樹脂などのジシクロペンタジエン型フェノール樹脂;トリフェニルメタン型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂;パラキシリレンおよび/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂;メラミン変性フェノール樹脂;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂;ならびにこれらのうち2種以上を共重合して得られるフェノール樹脂などが挙げられる。
【0111】
これらのその他のフェノール樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0112】
<ベンゾオキサジン樹脂>
ベンゾオキサジン樹脂としては、例えば、6,6-(1-メチルエチリデン)ビス(3,4-ジヒドロ-3-フェニル-2H-1,3-ベンゾオキサジン)、6,6-(1-メチルエチリデン)ビス(3,4-ジヒドロ-3-メチル-2H-1,3-ベンゾオキサジン)等が挙げられる。ベンゾオキサジン樹脂は、そのオキサジン環が開環重合した構造を含んでもよい。
ベンゾオキサジン樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0113】
<シアネートエステル樹脂>
シアネートエステル樹脂としては、例えば、ビスフェノールAジシアネート、ポリフェノールシアネート(オリゴ(3-メチレン-1,5-フェニレンシアネート))、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルフェニルシアネート)、4,4’-エチリデンジフェニルジシアネート、ヘキサフルオロビスフェノールAジシアネート、2,2-ビス(4-シアネート)フェニルプロパン、1,1-ビス(4-シアネートフェニルメタン)、ビス(4-シアネート-3,5-ジメチルフェニル)メタン、1,3-ビス(4-シアネートフェニル-1-(メチルエチリデン))ベンゼン、ビス(4-シアネートフェニル)チオエーテル、及びビス(4-シアネートフェニル)エーテル等の2官能シアネート樹脂、フェノールノボラック及びクレゾールノボラック等から誘導される多官能シアネート樹脂、これらシアネート樹脂が一部トリアジン化したプレポリマーなどが挙げられる。
【0114】
シアネートエステル樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0115】
<活性エステル樹脂>
活性エステル樹脂としては、特に制限はないが、一般にフェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等の反応活性の高いエステル基を1分子中に2個以上有する化合物が好ましく用いられる。活性エステル樹脂は、カルボン酸化合物及び/又はチオカルボン酸化合物とヒドロキシ化合物及び/又はチオール化合物との縮合反応によって得られるものが好ましい。特に耐熱性向上の観点から、カルボン酸化合物とヒドロキシ化合物とから得られる活性エステル樹脂が好ましく、カルボン酸化合物とフェノール化合物及び/又はナフトール化合物とから得られる活性エステル樹脂がより好ましい。
該カルボン酸化合物としては、例えば安息香酸、酢酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸等が挙げられる。
該フェノール化合物又はナフトール化合物としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールフタリン、メチル化ビスフェノールA、メチル化ビスフェノールF、メチル化ビスフェノールS、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、カテコール、α-ナフトール、β-ナフトール、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、フロログルシン、ベンゼントリオール、ジシクロペンタジエン型ジフェノール化合物、フェノールノボラック等が挙げられる。ここで、「ジシクロペンタジエン型ジフェノール化合物」とは、ジシクロペンタジエン1分子にフェノール2分子が縮合して得られるジフェノール化合物をいう。
【0116】
具体的には、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル樹脂、ナフタレン構造を含む活性エステル樹脂、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル樹脂、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル樹脂が好ましく、中でもナフタレン構造を含む活性エステル樹脂、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル樹脂がより好ましい。ここで、「ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造」とは、フェニレン-ジシクロペンタレン-フェニレンからなる2価の構造単位を表す。
【0117】
活性エステル樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0118】
<ラジカル重合性の官能基を有する樹脂>
ラジカル重合性官能基を有する樹脂としては、炭素-炭素二重結合を有するエチレン性不飽和基を分子中に1個以上有する樹脂が挙げられる。エチレン性不飽和基は、アクリル基、メタクリル基、スチリル基、オレフィン基及びマレイミド基からなる群より選ばれる1以上の基であることが好ましい。オレフィン基の好ましい例としては、アリル基、ビニル基、プロペニル基が挙げられる。よって、好適な一実施形態において、ラジカル重合性官能基は、アクリル基、メタクリル基、スチリル基、アリル基、ビニル基、プロペニル基及びマレイミド基からなる群から選択される1種以上である。
ラジカル重合性官能基を有する樹脂は、1種又は2種以上のラジカル重合性官能基を有してよい。
【0119】
ラジカル重合性官能基を有する樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0120】
<イソシアネート樹脂>
イソシアネート樹脂としては、分子中に1個以上のイソシアネート基を有する樹脂が挙げられる。イソシアネート樹脂は、分子中にイソシアネート基を2個以上有することが好ましい。イソシアネート樹脂としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0121】
イソシアネート樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0122】
<酸無水物樹脂>
酸無水物樹脂としては、分子中に1個以上の酸無水物基を有する樹脂が挙げられる。酸無水物樹脂としては、例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンソフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、3,3’-4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-C]フラン-1,3-ジオン、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、スチレンとマレイン酸とが共重合したスチレン・マレイン酸樹脂などのポリマー型の酸無水物などが挙げられる。
【0123】
酸無水物樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0124】
<カルボジイミド樹脂>
カルボジイミド樹脂としては、分子中に1個以上のカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する樹脂が挙げられる。カルボジイミド樹脂は、分子中にカルボジイミド基を2個以上有することが好ましい。カルボジイミド樹脂の具体例としては、日清紡ケミカル(株)製の「V-03」、「V-07」等が挙げられる。
【0125】
カルボジイミド樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0126】
<他の成分>
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明の樹脂組成物および上記の硬化成分に加えて、その他の成分を1種類以上含んでいてもよい。他の成分としては、硬化促進剤、無機フィラー、溶剤、離型剤、表面処理剤、着色剤、熱可塑性の高分子、有機充填材、難燃剤等が挙げられる。
【0127】
硬化促進剤としては、特に制限されないが、具体例としては、イミダゾール類、有機過酸化物類、リン系化合物、第3級アミン、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。
【0128】
イミダゾール類としては、例えば、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、2-ウンデ__シルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、1-ビニル-2-メチルイミダゾール、1-プロピル-2-メチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、1-シアノメチル-2-メチル-イミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾールが挙げられる。
【0129】
有機過酸化物類としては、例えば、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステルが挙げられる。
【0130】
リン系化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリス-2,6-ジメトキシフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、亜リン酸トリフェニル等が挙げられる。
第3級アミンとしては、2-ジメチルアミノメチルフェノール、ベンジルジメチルアミン、α-メチルベンジルジメチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等が挙げられる。
【0131】
硬化促進剤としては、高温で比較的安定で、溶剤溶解性が良好で、取り扱いが容易なものが好ましく、イミダゾール類の2-エチル-4-メチルイミダゾールが、有機過酸化物類のジアルキルパーオキサイドのジクミルパーオキサイドが、リン系化合物のトリフェニルホスフィンが好ましい。
【0132】
これらの硬化促進剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0133】
本発明の硬化性樹脂組成物が硬化促進剤を含む場合、その含有量は、マレイミド樹脂等の硬化成分に対して0.1~5.0質量%が好ましい。
【0134】
無機フィラーとしては、結晶性シリカ粉、溶融性シリカ粉、石英ガラス粉、タルク、ケイ酸カルシウム粉、ケイ酸ジルコニウム粉、アルミナ粉、炭酸カルシウム粉等が挙げられる。これらのうち、結晶性シリカ粉、溶融性シリカ粉が好ましい。無機フィラーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0135】
本発明の硬化性樹脂組成物が無機フィラーを含む場合、その含有量は、硬化性樹脂組成物全体に対して30~90質量%が好ましい。
【0136】
本発明の硬化性樹脂組成物を、封止材を形成するための熱硬化性成形材料として用いる場合、本発明の硬化性樹脂組成物は硬化促進剤と無機フィラーを含有することが好ましい。
【0137】
本発明の硬化性樹脂組成物は、溶剤を配合してマレイミド樹脂、エポキシ樹脂等の硬化成分を溶剤に溶解させることで樹脂ワニスとすることができる。溶剤としては、フェノール樹脂組成物、硬化成分等を溶解するものであれば特に制限はなく、フラバン化反応の説明で挙げたものと同じものが挙げられる。溶剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0138】
樹脂ワニスは、本発明の樹脂組成物と、マレイミド樹脂、エポキシ樹脂等の硬化成分と、溶剤とを必須成分とするが、この樹脂ワニスを用いて、後述の通り、例えば銅張り積層板等の積層板を製造することができる。
【0139】
樹脂ワニス中の溶剤の含有量は、樹脂ワニスの固形分濃度に応じて適宜設定される。樹脂ワニスの固形分濃度は、用途によっても異なるが、20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましい。
なお、樹脂ワニスの固形分濃度は、樹脂ワニスの総質量に対する、樹脂ワニスから溶剤を除いた質量の割合である。
【0140】
樹脂ワニスは、マレイミド樹脂、エポキシ樹脂等の硬化成分と、本発明の樹脂組成物と、必要に応じて配合されるその他の成分と溶剤とを混合することで製造できる。各成分の混合は、上述の手法により行うことができる。
【0141】
樹脂ワニスの製造にあたっては、マレイミド樹脂等の硬化成分と、本発明の樹脂組成物と溶剤とを混合した後、マレイミド樹脂等と本発明の樹脂組成物とを前反応させてもよい。ワニス状態で前反応を行うことで、結晶性が高いマレイミド樹脂等が樹脂ワニスから析出することを抑制できる。
【0142】
前反応を行う際の反応温度は、50~150℃が好ましく、70~130℃がより好ましく、80~120℃がさらに好ましい。反応温度が過度に低いと反応が進みにくい。反応温度が過度に高いと反応をコントロールすることが難しくなり、樹脂ワニスを安定的に得ることが難しくなる。
【0143】
離型剤としては、例えばカルナバワックス等の各種ワックス類等が挙げられる。
表面処理剤としては、公知のシランカップリング剤等が挙げられる。
着色剤としては、カーボンブラック等が挙げられる。
【0144】
熱可塑性の高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、キシレン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、シリコーン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂等が挙げられる。
【0145】
有機充填材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル樹脂、シリコーン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂等よりなる均一構造の樹脂フィラー、アクリル酸エステル系樹脂、メタクリル酸エステル系樹脂、共役ジエン系樹脂等よりなるゴム状態のコア層と、アクリル酸エステル系樹脂、メタクリル酸エステル系樹脂、芳香族ビニル系樹脂、シアン化ビニル系樹脂等よりなるガラス状態のシェル層とを持つコアシェル構造の樹脂フィラーなどが挙げられる。
【0146】
難燃剤としては、例えば、臭素や塩素を含有する含ハロゲン系難燃剤;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、リン酸エステル系化合物、赤リン等のリン系難燃剤;スルファミン酸グアニジン、硫酸メラミン、ポリリン酸メラミン、メラミンシアヌレート等の窒素系難燃剤;シクロホスファゼン、ポリホスファゼン等のホスファゼン系難燃剤;三酸化アンチモン等の無機系難燃剤等が挙げられる。
【0147】
本発明の硬化性樹脂組成物の硬化は、硬化温度を150~250℃に制御して行うことが好ましい。硬化操作の一例としては、一旦前記の好適な硬化温度で30秒間以上3時間以下の硬化を行った後、さらに、前記の好適な硬化温度で1~20時間の後硬化を行う方法が挙げられる。
【0148】
本発明の硬化性樹脂組成物の用途については更に後述するが、例えば、半導体等の電子部品の封止材、電気絶縁材料、銅張り積層板用樹脂、レジスト、液晶のカラーフィルター用樹脂、各種コーティング剤、接着剤、ビルドアップ積層板材料、繊維強化プラスチック(FRP)等が挙げられる。
【0149】
本発明の硬化性樹脂組成物は、これらの用途に対して硬化後に使用してもよく、これらの用途に適用する製造工程で硬化させて用いてもよい。
【0150】
[硬化物]
<本発明の硬化性樹脂組成物よりなる硬化物>
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させることにより、本発明の硬化物を得ることができる。本発明の硬化性樹脂組成物を硬化してなる本発明の硬化物は、耐熱性、接着性において優れた特性を有するものである。
【0151】
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させる方法については特に限定されないが、通常、加熱による熱硬化反応により硬化物を得ることができる。熱硬化反応時には、用いた硬化成分の種類によって硬化温度を適宜選択することが好ましい。例えば、マレイミド樹脂を用いた場合、硬化温度は通常80~250℃であり、エポキシ樹脂では通常100~200℃である。またこれらの硬化成分に硬化促進剤を添加することで、その硬化温度を下げることも可能である。硬化反応の時間は、1~20時間が好ましく、より好ましくは2~18時間、さらに好ましくは3~15時間である。反応時間が上記下限値以上であると硬化反応が十分に進行しやすくなる傾向にあるために好ましい。一方、反応時間が上記上限値以下であると加熱による劣化、加熱時のエネルギーロスを低減しやすいために好ましい。
【0152】
<硬化物(1)>
本発明の別態様の硬化物は、下記式(1)で表される構造に由来する構造を含む硬化物(以下、「硬化物(1)」と称す場合がある。)であり、前述の本発明の樹脂組成物又は本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させることにより得ることができる。
【0153】
【化12】
【0154】
(上記式(1)中、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基を表すが、R、Rがともに水素原子の場合は除く。R~R10は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基、置換又は無置換のアリール基、或いは置換又は無置換のヘテロアリール基を表すが、R~R10のうち少なくとも一つは下記式(2)で示される置換基である。R~R10の隣り合う基は結合して環を形成していてもよい。)
【0155】
【化13】
【0156】
(上記式(2)中、Yは、直接結合、-SO-、-O-、-CO-、-C(CF-、-S-及び炭素数1~20の脂肪族炭化水素基から選ばれる2価の連結基である。R21は水素原子、炭素数1~10の炭化水素基又はハロゲン原子である。)
【0157】
上記式(1)及び式(2)については、前述のフェノール樹脂(1)における式(1)及び式(2)の説明が適用される。
【0158】
硬化物(1)もまた、式(1)で表される構造に由来する構造を有することにより耐熱性、接着性に優れた特性を有する。
【0159】
[用途]
本発明の硬化性樹脂組成物は溶剤溶解性、成形性、耐熱性に優れ、本発明の硬化性樹脂組成物を用いた硬化物及び硬化物(1)は、耐熱性、接着性に優れる。
【0160】
従って、本発明の樹脂組成物、硬化性樹脂組成物及びその硬化物並びに硬化物(1)は、これらの物性が求められる用途であれば、いかなる用途にも有効に用いることができる。例えば、光学材料、自動車用電着塗料等の自動車用塗料、船舶・橋梁用重防食塗料、飲料用缶の内面塗装用塗料等の塗料分野;複合材料、積層板、半導体封止材、液状絶縁封止材、絶縁粉体塗料、コイル含浸用等の電気電子分野;橋梁の耐震補強、コンクリート補強、建築物の床材、水道施設のライニング、排水・透水舗装、構造・車両・航空機用接着剤の土木・建築・接着剤分野等の用途にいずれにも好適に用いることができる。これらの中でも特に電気・電子部品に有用である。
【0161】
[積層板]
本発明の硬化性樹脂組成物を用いる積層板の製造方法としては、繊維質基材に本発明の硬化性樹脂組成物よりなる前述の樹脂ワニスを含浸させたプリプレグを含む積層物を加熱加圧して硬化させて積層板を製造する方法が挙げられる。
【0162】
より具体的には、樹脂ワニスを繊維質基材に含浸させて乾燥し、溶剤を除去してプリプレグとする。このプリプレグと、必要に応じて使用する他の基材とを積層して積層物を形成し、該積層物を加熱加圧して硬化させ、積層板を得る。
【0163】
該積層物におけるプリプレグの積層数は、1層であってもよく、2層以上であってもよい。該積層物においては、プリプレグ以外の他の基材を積層してもよい。他の基材としては、例えば、銅箔等の金属箔が挙げられる。
【0164】
繊維質基材を構成する繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ステンレス繊維等の無機繊維;綿、麻、紙等の天然繊維;ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の合成有機繊維が挙げられる。これらの繊維は、いずれか1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0165】
繊維質基材の形状は、特に限定されず、例えば、短繊維、ヤーン、マット、シート等が挙げられる。
【0166】
繊維質基材に含浸させる樹脂ワニスの量としては、特に限定されず、例えば、含浸させる樹脂ワニスの固形分量が、繊維質基材(100質量%)に対して30~50質量%程度となるようにする。
積層物を加熱加圧する際の加熱温度は、前述の硬化温度が好ましい。加圧条件としては、2~20kN/mが好ましい。
【0167】
このようにして製造される積層板は、繊維質基材と樹脂ワニスの硬化物とを含む繊維強化樹脂層を備える。積層板が備える繊維強化樹脂層の数は1層でもよく2層以上でもよい。前述の通り、積層板は、銅箔等の金属箔層を有していてもよい。
【0168】
[封止材]
本発明の硬化性樹脂組成物を封止材として用いる場合、本発明の硬化性樹脂組成物が適用される封止材の形状は、特に限定されず、例えば、公知の半導体等で採用される形状と同様の形状を採用できる。
本発明の硬化性樹脂組成物を用いて封止材を形成する方法としては、例えばトランスファー成形法、圧縮成形法等を用いて半導体を封止する方法が挙げられる。
【実施例0169】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0170】
[使用材料]
以下の実施例及び比較例で用いた化合物、樹脂は以下の通りである。
【0171】
・マレイミド樹脂:下記構造式で表されるポリフェニルメタンマレイミド(大和化成工業社製「BMI-2300」)
【0172】
【化14】
【0173】
・その他のフェノール樹脂:下記構造式で表されるフェノールノボラック(群栄化学工業社製「PSM4261」)
【0174】
【化15】
【0175】
・その他のフラバン構造含有フェノール樹脂:下記構造式で表される4’,7-イソフラバンジオール(東京化成工業製)。
【0176】
【化16】
【0177】
・その他のプロペニル樹脂:下記構造式で表されるフェノールビフェニレン樹脂のプロペニル体(群栄化学工業社製「BPN-01S」)
【0178】
【化17】
【0179】
・エポキシ樹脂:下記構造式で表されるテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製「YX4000」)
【0180】
【化18】
【0181】
・硬化促進剤:トリフェニルホスフィン
【0182】
[実施例1:フェノール樹脂(1)を含む樹脂組成物Aの製造]
<アリル化>
10LのオートクレーブにN,N-ジメチルホルムアミド840mL、アリルクロライド575g(7.51mol)、炭酸カリウム1245g(9.01mol)、ビフェノール280g(1.50mol)を加えて密閉し、40℃まで加熱した後、1時間かけて65℃まで昇温した。65℃で5時間熟成した後、室温まで冷却してオートクレーブを開放した。ここに、水1678gとメチルイソブチルケトン1600gを加えて無機塩と結晶を溶解させ、分液操作にて水層を除去した。残ったメチルイソブチルケトン層に水1678gを加えて60℃で水洗する操作を3回繰り返した後、メチルイソブチルケトンを留去し、下記式(7-1)で表される化合物(以下、「化合物(7-1)」と称す。)を得た。
【0183】
【化19】
【0184】
<クライゼン転位反応>
化合物(7-1)165g(620mmol)とN,N-ジエチルアニリン825mLを2Lの四つ口フラスコに入れ、200℃で6時間加熱した後、室温まで冷却した。続いて2Lのセパラブルフラスコに水495mLと50質量%水酸化ナトリウム水溶液149mL(1.86mol)を入れ10℃に冷却したところに、先のN,N-ジエチルアニリン溶液を滴下し、30分撹拌した後静置し、上層と下層をそれぞれ抜出した。次に2Lのセパラブルフラスコに水495mLと濃硫酸93.1g(1.86mol)を入れ10℃に冷却した後、前の操作で抜き出した下層を滴下し、1時間撹拌した。析出した固体をろ過によって回収し、水洗した後減圧乾燥したところ、灰色固体として2-プロペニル基含有フェノール化合物(8)である下記式(8-1)で表される化合物(以下、「化合物(8-1)」と称す。)を148g(1.19mol、2段階収率80.4%)得た。
【0185】
【化20】
【0186】
<プロペニル化>
化合物(8-1)100質量部、メタノール100質量部を反応容器に仕込み、撹拌、溶解後、粒状の水酸化カリウム(純度85%)79質量部を添加した。添加後、加熱しながらメタノールを留去し、内温を100℃に保持しながら4時間反応を行った。次いでメチルイソブチルケトン203質量部を加え、硫酸で中和を行った後、水洗を繰り返した。次いで油層から120℃の加熱減圧下においてメチルイソブチルケトンを留去することにより、プロペニル基含有フェノール化合物(3)である下記式(3-1)で表される化合物(以下、「化合物(3-1)」と称す。)を含む樹脂組成物95質量部を得た。
【0187】
【化21】
【0188】
<フラバン化>
上記プロペニル化で得られた化合物(3-1)を含む樹脂組成物を反応容器に仕込み、撹拌、加熱しながら内温を120℃に保持しながら2.5時間反応を行うことにより、フェノール樹脂(1)である下記式(1-1)で表される構造のフェノール樹脂(以下、「化合物(1-1)」と称す。)を含む樹脂組成物Aを100質量部得た。
【0189】
【化22】
【0190】
この樹脂組成物Aは、以下の組成分析から明らかなように、化合物(1-1)と、化合物(3-1)とを含むものである。
【0191】
<NMR分析によるフェノール樹脂(1)を含む樹脂組成物の同定>
得られた樹脂組成物Aを重クロロホルムに溶解して、BRUKER社製 AVANCE NEO 分光計を使用し、H-NMR、DOSY、COSY、H-13C HSQC、H-13C HMBC分析を行うことで、分子構造を同定した。樹脂組成物Aを分析し、帰属した結果、化合物(1-1)の構造を確認することができた。
【0192】
得られた樹脂組成物Aを下記方法によって組成分析を行った。また、下記方法で溶剤溶解性試験を行った。結果を表1に示す。
【0193】
<樹脂組成物の組成分析>
樹脂組成物Aをテトラヒドロフランに対して0.1質量%となるように溶解して、東ソー(株)製「HLC-8320GPCEcoSEC(登録商標)」を使用し、下記条件で分析を行った。
装置:Agilent1100シリーズ
カラム:東ソー(株)製「TSKGELSuperHM-H+H5000+
H4000+H3000+H2000」
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.5mL/min
検出:RI
温度:40℃
インジェクション:10μl
【0194】
<溶剤溶解性試験>
試験溶剤としてトルエンを用い、樹脂組成物Aの濃度が75質量%となるように、トルエンに樹脂組成物Aを添加して試験液を調製し、50mLのバイアル瓶に計量した。その後、加温して樹脂組成物Aを完全に溶解させた後、23℃で保管し1日以内に結晶が析出せず、その後、-5℃で保管し1週間以内に結晶が析出しなかったものを溶剤溶解性優良「○」、23℃で保管し1日以内に結晶が析出せず、その後、-5℃で保管し1日以内に結晶が析出したものを溶剤溶解性良「△」、23℃で保管し1日後に結晶が析出したものを溶剤溶解性不良「×」と評価した。
【0195】
[実施例2:フェノール樹脂(1)を含む樹脂組成物Bの製造]
実施例1において、<フラバン化>における反応時間を2.5時間から10分に変更した以外は同様に実施し、フェノール樹脂(1)を含む樹脂組成物Bを得、実施例1と同様の組成分析と溶剤溶解性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0196】
[実施例3:フェノール樹脂(1)を含む樹脂組成物Cの製造]
実施例1において、<フラバン化>における反応時間を2.5時間から10時間に変更した以外は同様に実施し、フェノール樹脂(1)を含む樹脂組成物Cを得、同様の組成分析と溶剤溶解性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0197】
[実施例4:フェノール樹脂(1)を含む樹脂組成物Dの製造]
<プロペニル化>
化合物(8-1)の代りに、下記式(8-2)で表される2-プロペニル基含有フェノール化合物(大和化成社製「DABPA」)を用いたこと以外は実施例1と同様にプロペニル化を行って、プロペニル基含有フェノール化合物(3)である下記式(3-2)で表される化合物(以下、「化合物(3-2)」と称す。)を含む樹脂組成物を得た。
【0198】
【化23】
【0199】
<フラバン化>
上記プロペニル化で得られた化合物(3-2)を含む樹脂組成物を反応容器に仕込み、実施例1におけると同様にフラバン化を行って、フェノール樹脂(1)である下記式(1-2)で表される構造のフェノール樹脂(以下、「化合物(1-2)」と称す。)を含む樹脂組成物Dを得た。
この樹脂組成物Dについて、実施例1と同様の組成分析と溶剤溶解性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0200】
【化24】
【0201】
【表1】
【0202】
[比較例1:その他のフェノール樹脂]
フェノールノボラック樹脂(群栄化学工業社製「PSM4261」)を使用。
【0203】
[比較例2:その他のフラバン構造含有フェノール樹脂]
4’,7-イソフラバンジオール(東京化成工業製)を使用。
【0204】
実施例1,2,4の樹脂組成物A,B,D及び比較例1,2のフェノール樹脂について、以下の評価を行い、結果を表2に示した。
【0205】
<樹脂組成物の軟化点の測定>
JIS K7234に準じて、樹脂組成物の軟化点を測定した。
【0206】
<樹脂組成物の融点の測定>
示差走査熱量計(DSC:セイコーインスツルメント社製EXSTAR7020)を用いて、30℃から250℃まで1℃/分で昇温して樹脂組成物の融点を測定した。
【0207】
<樹脂組成物の溶融粘度の測定>
150℃に調整したコーンプレート粘度計(東海八神(株)製)の熱板の上に樹脂組成物を溶融させ、回転速度750rpmで溶融粘度を測定した。
【0208】
<樹脂組成物の5%重量減少温度の測定>
熱分析装置(TG/DTA:セイコーインスツルメント社製EXSTAR7200)を用いて、熱分析を行った(昇温速度:10℃/分、測定温度範囲:30℃から600℃、空気:流量200mL/分)。樹脂組成物の重量が5%減少した時点の温度を測定し、5%重量減少温度とした。
【0209】
【表2】
【0210】
[実施例5~7、比較例3]
表3に示す割合で樹脂組成物A,B,D又はその他のプロペニル樹脂(BPN-01S)と、マレイミド樹脂(BMI-2300)と、硬化促進剤を混合して硬化性樹脂組成物を得た後、120℃で2時間、その後200℃で6時間硬化反応を実施して硬化物を作製した。
得られた硬化物に対して、下記方法でTg(tanδ)を測定した。また、製造した硬化性樹脂組成物を用いて下記方法で金属(Cu)に対するせん断接着強度を測定した。結果を表3に示す。
【0211】
<硬化物:Tg(tanδ)および貯蔵弾性率E’(40℃),E’(250℃)>
硬化物を縦5cm、横1cm、厚さ4mmに切削して得られた試験片を用いて、以下の条件にて動的粘弾性測定(DMA:DynamicMechanicalAnalysis)を行い、Tg(tanδ)および40℃と250℃での貯蔵弾性率(E’)を測定した。
分析装置:セイコーインスツルメント社製 EXSTAR6100
測定モード:3点曲げモード
測定温度範囲:30℃から300℃
昇温速度:5℃/min
降温速度:5℃/min
※tanδのピークトップでの温度をTg(tanδ)とした。
【0212】
<金属に対するせん断接着強度>
JIS-K6850に準拠して実施した。すなわち、幅25mm×長さ100mm×厚み1.6mmの金属片(銅板(ユタカパネルサービス社製両面鏡面タイプ))2枚の間に、硬化性樹脂組成物を幅25mm×長さ12.5mmとなるように塗布した。塗布後、恒温槽に投入して120℃で2時間、200℃で6時間硬化させて剥離試験片を作製した。
作製した剥離試験片を、引張試験機「Instron5582」(インストロン社製)を用いて5mm/分の速度により試験数n=3で引張せん断試験を実施し、引張せん断強度を測定し、その平均値を求めた。
【0213】
【表3】
【0214】
[実施例8、比較例4]
表4に示す割合で樹脂組成物A又は化合物(8-1)と、マレイミド樹脂(BMI-2300)と、硬化促進剤を混合して硬化性樹脂組成物を得た後、120℃で2時間、その後200℃で6時間硬化反応を実施して硬化物を作製した。
得られた硬化物に対して、上記方法で貯蔵弾性率E’(40℃),E’(250℃)及びTg(tanδ)を測定した。また、下記方法で線膨張係数を求めた。結果を表4に示す。
なお、比較例4では、貯蔵弾性率E’(40℃)及び貯蔵弾性率E’(250℃)及びTg(tanδ)の試験では硬化物が脆く、試験片を作製できず、評価を行えなかった。
【0215】
<線膨張係数>
硬化物を直径約7mm、厚さ4mmの円柱状試験片に切削し、熱機械分析装置(TMA:セイコーインスツルメント社製 EXSTAR6000)を用いて、圧縮モードで下記条件で熱機械分析を行った
測定加重:30mN
昇温速度:5℃/分で2回
測定温度範囲:30℃から300℃
2回目の測定結果から、表4に記載の温度範囲における線膨張係数を求めた。
【0216】
【表4】
【0217】
[結果の評価]
表1より、本発明の樹脂組成物(実施例1~4)は、溶剤溶解性に優れたものであることがわかる。
表2より、本発明の樹脂組成物(実施例1、2、4)は、溶融粘度が低く、さらに、軟化点もしくは融点に関して、その他のフラバン構造含有フェノール樹脂(4’,7-イソフラバンジオール、比較例2)の融点に比べて低く、成形性に優れることがわかる。また、耐熱性に関しては、フェノールノボラック樹脂(PSM4261、比較例1)、および、その他のフラバン構造含有フェノール樹脂(4’,7-イソフラバンジオール、比較例2)に対して5%重量減少温度が高く、耐熱性に優れていることがわかる。
表3より、本発明の樹脂組成物を用いた硬化物(実施例5~7)は、その他のプロペニル樹脂を用いた硬化物(比較例3)に比べ、耐熱性に優れるとともに、金属に対して高接着性を示すことがわかる。
表4より、本発明の樹脂組成物を用いた硬化物(実施例8)は、化合物(8-1)を用いた硬化物(比較例4)に比べ、強度が高く、低線膨張係数を示すことがわかる。