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特開2022-174756基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置、およびプログラム
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  • 特開-基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置、およびプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174756
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/318 20060101AFI20221116BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20221116BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20221116BHJP
   C23C 16/02 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
H01L21/318 B
H01L21/31 B
C23C16/42
C23C16/02
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137565
(22)【出願日】2022-08-31
(62)【分割の表示】P 2021158822の分割
【原出願日】2019-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】318009126
【氏名又は名称】株式会社KOKUSAI ELECTRIC
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】早稲田 崇之
(72)【発明者】
【氏名】中川 崇
(72)【発明者】
【氏名】中谷 公彦
(72)【発明者】
【氏名】出貝 求
(72)【発明者】
【氏名】橋本 良知
(57)【要約】      (修正有)
【課題】下地の表面へのダメージを抑制しつつ、選択成長における選択性を高めることができる基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】基板処理方法は、酸素非含有の第1下地と、酸素を含有する第2下地と、表面に保護膜が形成された酸素及び窒素非含有の第3下地と、を表面に有する基板を与える工程と、選択成長において、第3下地の表面に保護膜が形成された状態で、基板に対して、フッ素含有ガスを供給することで、第2下地の表面をフッ素終端させるように改質させるステップC及び第2下地の表面が改質された状態で、基板に対して成膜ガスを供給することで、第1下地の表面上に膜を形成するステップDを有する処理シーケンスを含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)酸素非含有の第1下地と、酸素を含有する第2下地と、表面に保護膜が形成された酸素及び窒素非含有の第3下地と、を表面に有する基板を与える工程と、
(b)前記第3下地の表面に前記保護膜が形成された状態で、前記基板に対して、フッ素含有ガスを供給することで、前記第2下地の表面をフッ素終端させるように改質させる工程と、
(c)前記第2下地の表面が改質された状態で、前記基板に対して成膜ガスを供給することで、前記第1下地の表面上に膜を形成する工程と、
を有する基板処理方法。
【請求項2】
前記保護膜は酸素を含有する請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記保護膜はシリコンと酸素とを含有する請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記保護膜は、前記第3下地の表面を酸化させることで形成されてなる請求項2または3に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記保護膜は、前記第3下地の表面を酸化剤により酸化させることで形成されてなる請求項2または3に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記保護膜は、前記第1下地の表面が酸化されない条件下で、前記第3下地の表面を酸化させることで形成されてなる請求項2~5のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
(b)では、前記保護膜の表面もフッ素終端させるように改質させる請求項2~6のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項8】
(b)では、前記第2下地の表面を、エッチングさせることなくフッ素終端させるように改質させる請求項1~7のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項9】
(b)では、シリコンが存在する雰囲気下で、前記基板に対して前記フッ素含有ガスを供給する請求項1~8のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項10】
(b)は、
(b1)前記第2下地の表面にシリコンを吸着させる工程と、
(b2)前記第2下地の表面に吸着させたシリコンと、前記フッ素含有ガスとを反応させて、前記第2下地の表面をフッ素終端させる工程と、
を有する請求項1~9のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項11】
(b1)では、前記保護膜の表面にもシリコンを吸着させ、
(b2)では、前記保護膜の表面に吸着させたシリコンと、前記フッ素含有ガスとを反応させて、前記保護膜の表面をもフッ素終端させる請求項10に記載の基板処理方法。
【請求項12】
(b)は、
(b1)前記基板に対してアミノシラン系ガスを供給する工程と、
(b2)前記基板に対して前記フッ素含有ガスを供給する工程と、
を有する請求項1~11のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項13】
(a)を行う前に、(d)前記基板の表面に形成された自然酸化膜を除去する工程を更に有する請求項1~12のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項14】
(d)では、前記第1下地の素材を剥き出しにして露出させる請求項13に記載の基板処理方法。
【請求項15】
(d)では、前記第3下地の素材を剥き出しにして露出させる請求項13または14に記載の基板処理方法。
【請求項16】
前記第1下地は窒化膜を含み、前記第2下地は酸化膜を含み、前記第3下地は半導体物質を含む請求項1~15のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項17】
前記第1下地はシリコンおよび窒素を含有し、前記第2下地はシリコンおよび酸素を含有し、前記第3下地はシリコンを含有する請求項1~16のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項18】
前記第1下地はシリコン窒化膜を含み、前記第2下地はシリコン酸化膜を含み、前記第3下地は単結晶シリコン、エピタキシャルシリコン膜、多結晶シリコン膜、およびアモルファスシリコン膜のうち少なくともいずれかを含む請求項1~17のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項19】
(a)酸素非含有の第1下地と、酸素を含有する第2下地と、表面に保護膜が形成された酸素及び窒素非含有の第3下地と、を表面に有する基板を与える工程と、
(b)前記第3下地の表面に前記保護膜が形成された状態で、前記基板に対して、フッ素含有ガスを供給することで、前記第2下地の表面をフッ素終端させるように改質させる工程と、
(c)前記第2下地の表面が改質された状態で、前記基板に対して成膜ガスを供給することで、前記第1下地の表面上に膜を形成する工程と、
を有する半導体装置の製造方法。
【請求項20】
基板が処理される処理室と、
前記処理室内の基板に対してフッ素含有ガスを供給するフッ素含有ガス供給系と、
前記処理室内の基板に対して成膜ガスを供給する成膜ガス供給系と、
(a)酸素非含有の第1下地と、酸素を含有する第2下地と、表面に保護膜が形成された酸素及び窒素非含有の第3下地と、を表面に有する基板を与える処理と、(b)前記第3下地の表面に前記保護膜が形成された状態で、前記基板に対して、前記フッ素含有ガスを供給することで、前記第2下地の表面をフッ素終端させるように改質させる処理と、(c)前記第2下地の表面が改質された状態で、前記基板に対して前記成膜ガスを供給することで、前記第1下地の表面上に膜を形成する処理と、を行わせることが可能なよう構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項21】
(a)酸素非含有の第1下地と、酸素を含有する第2下地と、表面に保護膜が形成された酸素及び窒素非含有の第3下地と、を表面に有する基板を与える手順と、
(b)前記第3下地の表面に前記保護膜が形成された状態で、前記基板に対して、フッ素含有ガスを供給することで、前記第2下地の表面をフッ素終端させるように改質させる手順と、
(c)前記第2下地の表面が改質された状態で、前記基板に対して成膜ガスを供給することで、前記第1下地の表面上に膜を形成する手順と、
をコンピュータによって基板処理装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程の一工程として、基板の表面に露出した複数種類の下地のうち特定の下地の表面上に選択的に膜を成長させて形成する処理(以下、この処理を選択成長または選択成膜ともいう)が行われることがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-243193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、下地の表面へのダメージを抑制しつつ、上述した選択成長における選択性を高めることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、
(a)酸素非含有の第1下地と、酸素を含有する第2下地と、酸素及び窒素非含有の第3下地と、が表面に露出した基板に対して処理ガスを供給することで、前記第3下地の表面に保護膜を形成する工程と、
(b)前記第3下地の表面に前記保護膜を形成した後の前記基板に対してフッ素含有ガスを供給することで、前記第2下地の表面をフッ素終端させるように改質させる工程と、
(c)前記第2下地の表面を改質させた後の前記基板に対して成膜ガスを供給することで、前記第1下地の表面上に選択的に膜を形成する工程と、
を行う技術が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、下地の表面へのダメージを抑制しつつ、上述した選択成長における選択性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉202部分を縦断面図で示す図である。
図2図2は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉202部分を図1のA-A線断面図で示す図である。
図3図3は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置のコントローラ121の概略構成図であり、コントローラ121の制御系をブロック図で示す図である。
図4図4は、本開示の一態様の選択成長における処理シーケンスを示す図である。
図5図5(a)は、洗浄処理前のウエハ200の表面における断面部分拡大図である。図5(b)は、表面に、シリコン窒化膜を含む下地200a、シリコン酸化膜を含む下地200b、およびシリコンを含む下地200cがそれぞれ露出した洗浄処理後のウエハ200の表面における断面部分拡大図である。図5(c)は、酸素含有ガスを供給することで、下地200cの表面に保護膜200eを形成した後のウエハ200の表面における断面部分拡大図である。図5(d)は、アミノシラン系ガスを供給することで、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面にシリコンを選択的に吸着させた後のウエハ200の表面における断面部分拡大図である。図5(e)は、フッ素含有ガスを供給することで、シリコンを吸着させた下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を、選択的に改質させた後のウエハ200の表面における断面部分拡大図である。図5(f)は、下地200aの表面上にシリコン窒化膜を選択的に形成した後のウエハ200の表面における断面部分拡大図である。図5(g)は、図5(f)に示すウエハ200を大気暴露した後のウエハ200の表面における断面部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本開示の一態様>
以下、本開示の一態様について、主に、図1図4を参照しながら説明する。
【0009】
(1)基板処理装置の構成
図1に示すように、処理炉202は加熱機構(温度調整部)としてのヒータ207を有する。ヒータ207は円筒形状であり、保持板に支持されることにより垂直に据え付けられている。ヒータ207は、ガスを熱で活性化(励起)させる活性化機構(励起部)としても機能する。
【0010】
ヒータ207の内側には、ヒータ207と同心円状に反応管203が配設されている。反応管203は、例えば石英(SiO)または炭化シリコン(SiC)等の耐熱性材料により構成され、上端が閉塞し下端が開口した円筒形状に形成されている。反応管203の下方には、反応管203と同心円状に、マニホールド209が配設されている。マニホールド209は、例えばステンレス鋼(SUS)等の金属材料により構成され、上端および下端が開口した円筒形状に形成されている。マニホールド209の上端部は、反応管203の下端部に係合しており、反応管203を支持するように構成されている。マニホールド209と反応管203との間には、シール部材としてのOリング220aが設けられている。反応管203はヒータ207と同様に垂直に据え付けられている。主に、反応管203とマニホールド209とにより処理容器(反応容器)が構成される。処理容器の筒中空部には処理室201が形成される。処理室201は、基板としてのウエハ200を収容可能に構成されている。この処理室201内でウエハ200に対する処理が行われる。
【0011】
処理室201内には、第1~第3供給部としてのノズル249a~249cが、マニホールド209の側壁を貫通するようにそれぞれ設けられている。ノズル249a~249cを、それぞれ第1~第3ノズルとも称する。ノズル249a~249cは、例えば石英またはSiC等の耐熱性材料により構成されている。ノズル249a~249cには、ガス供給管232a~232cがそれぞれ接続されている。ノズル249a~249cはそれぞれ異なるノズルであり、ノズル249a,249cのそれぞれは、ノズル249bに隣接して設けられている。
【0012】
ガス供給管232a~232cには、ガス流の上流側から順に、流量制御器(流量制御部)であるマスフローコントローラ(MFC)241a~241cおよび開閉弁であるバルブ243a~243cがそれぞれ設けられている。ガス供給管232a~232cのバルブ243a~243cよりも下流側には、ガス供給管232d~232hがそれぞれ接続されている。ガス供給管232d~232hには、ガス流の上流側から順に、MFC241d~241hおよびバルブ243d~243hがそれぞれ設けられている。ガス供給管232a~232hは、例えば、SUS等の金属材料により構成されている。
【0013】
図2に示すように、ノズル249a~249cは、反応管203の内壁とウエハ200との間における平面視において円環状の空間に、反応管203の内壁の下部より上部に沿って、ウエハ200の配列方向上方に向かって立ち上がるようにそれぞれ設けられている。すなわち、ノズル249a~249cは、ウエハ200が配列されるウエハ配列領域の側方の、ウエハ配列領域を水平に取り囲む領域に、ウエハ配列領域に沿うようにそれぞれ設けられている。平面視において、ノズル249bは、処理室201内に搬入されるウエハ200の中心を挟んで後述する排気口231aと一直線上に対向するように配置されている。ノズル249a,249cは、ノズル249bと排気口231aの中心とを通る直線Lを、反応管203の内壁(ウエハ200の外周部)に沿って両側から挟み込むように配置されている。直線Lは、ノズル249bとウエハ200の中心とを通る直線でもある。すなわち、ノズル249cは、直線Lを挟んでノズル249aと反対側に設けられているということもできる。ノズル249a,249cは、直線Lを対称軸として線対称に配置されている。ノズル249a~249cの側面には、ガスを供給するガス供給孔250a~250cがそれぞれ設けられている。ガス供給孔250a~250cは、それぞれが、平面視において排気口231aと対向(対面)するように開口しており、ウエハ200に向けてガスを供給することが可能となっている。ガス供給孔250a~250cは、反応管203の下部から上部にわたって複数設けられている。
【0014】
ガス供給管232aからは、ウエハ200上に形成される膜を構成する主元素としてのシリコン(Si)とハロゲン元素とを含むガス、すなわち、ハロシラン系ガスが、MFC241a、バルブ243a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。ハロシラン系ガスは、成膜ガス、すなわち、Siソース(原料ガス)として作用する。ハロゲン元素には、塩素(Cl)、フッ素(F)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等が含まれる。ハロシラン系ガスとしては、例えば、SiおよびClを含むクロロシラン系ガスを用いることができ、例えば、シリコンテトラクロライド(SiCl)ガスを用いることができる。
【0015】
ガス供給管232bからは、フッ素(F)含有ガスが、MFC241b、バルブ243b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給される。フッ素含有ガスとしては、例えば、フッ素(F)ガスを用いることができる。
【0016】
ガス供給管232cからは、窒素(N)含有ガスである窒化水素系ガスが、MFC241c、バルブ243c、ノズル249cを介して処理室201内へ供給される。窒化水素系ガスは、成膜ガス、すなわち、Nソース(窒化ガス、窒化剤)として作用する。窒化水素系ガスとしては、例えば、アンモニア(NH)ガスを用いることができる。
【0017】
ガス供給管232gからは、Siとアミノ基とを含むガスであるアミノシラン系ガスが、MFC241g、バルブ243g、ガス供給管232c、ノズル249cを介して処理室201内へ供給される。
【0018】
アミノシラン系ガスとしては、例えば、組成式中に(1分子中に)1つのアミノ基を含む原料であるモノアミノシラン(SiHR)ガスを用いることができる。ここで、Rは、1つのN原子に、1つ以上のC原子を含む炭化水素基が1つまたは2つ配位したアミノ基(NHで表されるアミノ基のHの一方または両方を1つ以上のC原子を含む炭化水素基で置換したもの)を表している。アミノ基の一部を構成する炭化水素基が1つのNに2つ配位している場合は、その2つが同一の炭化水素基であってもよいし、異なる炭化水素基であってもよい。また、炭化水素基は、二重結合や三重結合等の不飽和結合を含んでいてもよい。また、アミノ基は環状構造を有していてもよい。アミノ基は、SiHR分子の中心原子であるSiに結合していることから、このアミノ基を、リガンド(配位子)またはアミノリガンドともいう。
【0019】
SiHRガスとしては、例えば、エチルメチルアミノシラン(SiH[N(CH)(C)])ガス、ジメチルアミノシラン(SiH[N(CH])ガス、ジイソプロピルアミノシラン(SiH[N(C])ガス、ジセカンダリブチルアミノシラン(SiH[H(C])ガス、ジメチルピペリジノシラン(SiH[NC(CH])ガス、ジエチルピペリジノシラン(SiH[NC(C])ガスを用いることができる。
【0020】
ガス供給管232hからは、酸素(O)含有ガスが、MFC241h、バルブ243h、ガス供給管232a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。O含有ガスは、処理ガス、すなわち、酸化剤として作用する。O含有ガスとしては、例えば酸素(O)ガスを用いることができる。
【0021】
ガス供給管232d~232fからは、不活性ガスとして、例えば、窒素(N)ガスが、それぞれMFC241d~241f、バルブ243d~243f、ガス供給管232a~232c、ノズル249a~249cを介して処理室201内へ供給される。Nガスは、パージガス、キャリアガス、希釈ガス等として作用する。
【0022】
主に、ガス供給管232a,232c、MFC241a,241c、バルブ243a,243cにより、成膜ガス供給系(原料ガス供給系、反応ガス供給系)が構成される。主に、ガス供給管232h、MFC241h、バルブ243hにより、処理ガス供給系(酸素含有ガス供給系)が構成される。主に、ガス供給管232g、MFC241g、バルブ243gにより、アミノシラン系ガス供給系が構成される。主に、ガス供給管232b、MFC241b、バルブ243bにより、フッ素含有ガス供給系が構成される。主に、ガス供給管232d~232f、MFC241d~241f、バルブ243d~243fにより、不活性ガス供給系が構成される。
【0023】
上述の各種供給系のうち、いずれか、或いは、全ての供給系は、バルブ243a~243hやMFC241a~241h等が集積されてなる集積型供給システム248として構成されていてもよい。集積型供給システム248は、ガス供給管232a~232hのそれぞれに対して接続され、ガス供給管232a~232h内への各種ガスの供給動作、すなわち、バルブ243a~243hの開閉動作やMFC241a~241hによる流量調整動作等が、後述するコントローラ121によって制御されるように構成されている。集積型供給システム248は、一体型、或いは、分割型の集積ユニットとして構成されており、ガス供給管232a~232h等に対して集積ユニット単位で着脱を行うことができ、集積型供給システム248のメンテナンス、交換、増設等を、集積ユニット単位で行うことが可能なように構成されている。
【0024】
反応管203の側壁下方には、処理室201内の雰囲気を排気する排気口231aが設けられている。図2に示すように、排気口231aは、平面視において、ウエハ200を挟んでノズル249a~249c(ガス供給孔250a~250c)と対向(対面)する位置に設けられている。排気口231aは、反応管203の側壁の下部より上部に沿って、すなわち、ウエハ配列領域に沿って設けられていてもよい。排気口231aには排気管231が接続されている。排気管231には、処理室201内の圧力を検出する圧力検出器(圧力検出部)としての圧力センサ245および圧力調整器(圧力調整部)としてのAPC(Auto Pressure Controller)バルブ244を介して、真空排気装置としての真空ポンプ246が接続されている。APCバルブ244は、真空ポンプ246を作動させた状態で弁を開閉することで、処理室201内の真空排気および真空排気停止を行うことができ、更に、真空ポンプ246を作動させた状態で、圧力センサ245により検出された圧力情報に基づいて弁開度を調節することで、処理室201内の圧力を調整することができるように構成されている。主に、排気管231、APCバルブ244、圧力センサ245により、排気系が構成される。真空ポンプ246を排気系に含めて考えてもよい。
【0025】
マニホールド209の下方には、マニホールド209の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシールキャップ219が設けられている。シールキャップ219は、例えばSUS等の金属材料により構成され、円盤状に形成されている。シールキャップ219の上面には、マニホールド209の下端と当接するシール部材としてのOリング220bが設けられている。
【0026】
シールキャップ219の下方には、後述するボート217を回転させる回転機構267が設置されている。回転機構267の回転軸255は、例えばSUS等の金属材料により構成され、シールキャップ219を貫通してボート217に接続されている。回転機構267は、ボート217を回転させることでウエハ200を回転させるように構成されている。シールキャップ219は、反応管203の外部に設置された昇降機構としてのボートエレベータ115によって垂直方向に昇降されるように構成されている。ボートエレベータ115は、シールキャップ219を昇降させることで、ウエハ200を処理室201内外に搬入および搬出(搬送)する搬送装置(搬送機構)として構成されている。
【0027】
マニホールド209の下方には、シールキャップ219を降下させボート217を処理室201内から搬出した状態で、マニホールド209の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシャッタ219sが設けられている。シャッタ219sは、例えばSUS等の金属材料により構成され、円盤状に形成されている。シャッタ219sの上面には、マニホールド209の下端と当接するシール部材としてのOリング220cが設けられている。シャッタ219sの開閉動作(昇降動作や回動動作等)は、シャッタ開閉機構115sにより制御される。
【0028】
基板支持具としてのボート217は、複数枚、例えば25~200枚のウエハ200を、水平姿勢で、かつ、互いに中心を揃えた状態で垂直方向に整列させて多段に支持するように、すなわち、間隔を空けて配列させるように構成されている。ボート217は、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される。ボート217の下部には、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される断熱板218が多段に支持されている。
【0029】
反応管203内には、温度検出器としての温度センサ263が設置されている。温度センサ263により検出された温度情報に基づきヒータ207への通電具合を調整することで、処理室201内の温度が所望の温度分布となる。温度センサ263は、反応管203の内壁に沿って設けられている。
【0030】
図3に示すように、制御部(制御手段)であるコントローラ121は、CPU(Central Processing Unit)121a、RAM(Random Access Memory)121b、記憶装置121c、I/Oポート121dを備えたコンピュータとして構成されている。RAM121b、記憶装置121c、I/Oポート121dは、内部バス121eを介して、CPU121aとデータ交換可能なように構成されている。コントローラ121には、例えばタッチパネル等として構成された入出力装置122が接続されている。
【0031】
記憶装置121cは、例えばフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等で構成されている。記憶装置121c内には、基板処理装置の動作を制御する制御プログラムや、後述する基板処理の手順や条件等が記載されたプロセスレシピ等が、読み出し可能に格納されている。プロセスレシピは、後述する基板処理における各手順をコントローラ121に実行させ、所定の結果を得ることができるように組み合わされたものであり、プログラムとして機能する。以下、プロセスレシピや制御プログラム等を総称して、単に、プログラムともいう。また、プロセスレシピを、単に、レシピともいう。本明細書においてプログラムという言葉を用いた場合は、レシピ単体のみを含む場合、制御プログラム単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。RAM121bは、CPU121aによって読み出されたプログラムやデータ等が一時的に保持されるメモリ領域(ワークエリア)として構成されている。
【0032】
I/Oポート121dは、上述のMFC241a~241h、バルブ243a~243h、圧力センサ245、APCバルブ244、真空ポンプ246、温度センサ263、ヒータ207、回転機構267、ボートエレベータ115、シャッタ開閉機構115s等に接続されている。
【0033】
CPU121aは、記憶装置121cから制御プログラムを読み出して実行すると共に、入出力装置122からの操作コマンドの入力等に応じて記憶装置121cからレシピを読み出すように構成されている。CPU121aは、読み出したレシピの内容に沿うように、MFC241a~241hによる各種ガスの流量調整動作、バルブ243a~243hの開閉動作、APCバルブ244の開閉動作および圧力センサ245に基づくAPCバルブ244による圧力調整動作、真空ポンプ246の起動および停止、温度センサ263に基づくヒータ207の温度調整動作、回転機構267によるボート217の回転および回転速度調節動作、ボートエレベータ115によるボート217の昇降動作、シャッタ開閉機構115sによるシャッタ219sの開閉動作等を制御するように構成されている。
【0034】
コントローラ121は、外部記憶装置123に格納された上述のプログラムを、コンピュータにインストールすることにより構成することができる。外部記憶装置123は、例えば、HDD等の磁気ディスク、CD等の光ディスク、MO等の光磁気ディスク、USBメモリ等の半導体メモリ等を含む。記憶装置121cや外部記憶装置123は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体として構成されている。以下、これらを総称して、単に、記録媒体ともいう。本明細書において記録媒体という言葉を用いた場合は、記憶装置121c単体のみを含む場合、外部記憶装置123単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。なお、コンピュータへのプログラムの提供は、外部記憶装置123を用いず、インターネットや専用回線等の通信手段を用いて行ってもよい。
【0035】
(2)基板処理工程
上述の基板処理装置を用い、半導体装置の製造工程の一工程として、基板としてのウエハ200の表面に露出した複数種類の下地のうち特定の下地の表面上に選択的に膜を成長させて形成する選択成長(選択成膜)の処理シーケンス例について、主に、図4図5(a)~図5(g)を用いて説明する。以下の説明において、基板処理装置を構成する各部の動作はコントローラ121により制御される。
【0036】
図4に示す処理シーケンスでは、
表面に、シリコン窒化膜(SiN膜)を含むO非含有の第1下地(下地200a)と、シリコン酸化膜(SiO膜)を含むOを含有する第2下地(下地200b)と、単結晶シリコン(Si)を含むO及びN非含有の第3下地(下地200c)と、が露出したウエハ200に対して処理ガスとしてOガスを供給することで、下地200cの表面に保護膜200eとしてSiO膜を形成するステップAと、
下地200cの表面に保護膜200eを形成した後のウエハ200に対してアミノシラン系ガスとしてSiHRガスを供給することで、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面にSiHRガスに含まれるSiを吸着させるステップBと、
下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面にSiを吸着させた後のウエハ200に対してフッ素含有ガスとしてFガスを供給することで、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面に吸着させたSiとFガスとを反応させて、下地200bおよび保護膜200eの表面を改質させるステップCと、
下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を改質させた後のウエハ200に対して成膜ガスとしてSiClガスおよびNHガスを供給することで、下地200aの表面上に、膜として、SiおよびNを含む膜であるSiN膜を選択的に形成するステップDと、を行う。
【0037】
なお、図4は、ステップDにおいて、ウエハ200に対してSiClガスを供給するステップD1と、ウエハ200に対してNHガスを供給するステップD2と、を非同時に行うサイクルを所定回数(n回、nは1以上の整数)行う例を示している。
【0038】
本明細書では、上述の処理シーケンスを、便宜上、以下のように示すこともある。以下の他の態様等の説明においても、同様の表記を用いる。
【0039】
→SiHR→F→(SiCl→NH)×n ⇒ SiN
【0040】
本明細書において「ウエハ」という言葉を用いた場合は、ウエハそのものを意味する場合や、ウエハとその表面に形成された所定の層や膜との積層体を意味する場合がある。本明細書において「ウエハの表面」という言葉を用いた場合は、ウエハそのものの表面を意味する場合や、ウエハ上に形成された所定の層等の表面を意味する場合がある。本明細書において「ウエハ上に所定の層を形成する」と記載した場合は、ウエハそのものの表面上に所定の層を直接形成することを意味する場合や、ウエハ上に形成されている層等の上に所定の層を形成することを意味する場合がある。本明細書において「基板」という言葉を用いた場合も、「ウエハ」という言葉を用いた場合と同義である。
【0041】
(ウエハチャージおよびボートロード)
複数枚のウエハ200がボート217に装填(ウエハチャージ)されると、シャッタ開閉機構115sによりシャッタ219sが移動させられて、マニホールド209の下端開口が開放される(シャッタオープン)。その後、図1に示すように、複数枚のウエハ200を支持したボート217は、ボートエレベータ115によって持ち上げられて処理室201内へ搬入(ボートロード)される。この状態で、シールキャップ219は、Oリング220bを介してマニホールド209の下端をシールした状態となる。
【0042】
図5(a)に示すように、ウエハ200の表面には、複数種類の下地、ここでは一例として、O非含有膜すなわち非酸化膜である窒化膜としてのSiN膜を含む下地200aと、O含有膜すなわち酸化膜としてのSiO膜を含む下地200bと、O及びN非含有物質としての単結晶Siを含む下地200cと、が予め露出した状態となっている。すなわち、ここでは、下地200aが絶縁性物質(絶縁体)であるSiN膜により構成され、下地200bが絶縁性物質(絶縁体)であるSiO膜により構成され、下地200cが半導体物質である単結晶Siにより構成される例を示している。なお、図5(a)に示すように、ウエハ200の表面に自然酸化膜200dが形成されている場合は、事前に、すなわち、ボートロード前に、ウエハ200に対して例えば希釈フッ酸(DHF)水溶液、すなわち、フッ化水素(HF)水溶液を用いた洗浄処理(DHF洗浄)を行い、ウエハ200の表面に形成された自然酸化膜200dを除去する(自然酸化膜除去)。具体的には、ウエハ200に対してDHF洗浄を行い、図5(b)に示すように、下地200aの表面に形成された自然酸化膜200dを除去することにより、下地200aの最表面で下地200aの素材すなわちSiN膜を剥き出しにして露出させる。これにより、後述するステップDにおいて下地200aの表面での均一な処理が可能となる。下地200aの表面に形成された自然酸化膜200dを除去する際、ウエハ200の表面に露出した下地200cの表面に形成された自然酸化膜200dも除去され、下地200cの最表面で下地200cの素材すなわち単結晶Siも剥き出しになり露出される。これにより、後述するステップAにおいて下地200cの表面への均一な処理が可能となる。
【0043】
(圧力調整および温度調整)
処理室201内、すなわち、ウエハ200が存在する空間が所望の圧力(真空度)となるように、真空ポンプ246によって真空排気(減圧排気)される。この際、処理室201内の圧力は圧力センサ245で測定され、この測定された圧力情報に基づきAPCバルブ244がフィードバック制御される。また、処理室201内のウエハ200が所望の処理温度となるように、ヒータ207によって加熱される。この際、処理室201内が所望の温度分布となるように、温度センサ263が検出した温度情報に基づきヒータ207への通電具合がフィードバック制御される。また、回転機構267によるウエハ200の回転を開始する。処理室201内の排気、ウエハ200の加熱および回転は、いずれも、少なくともウエハ200に対する処理が終了するまでの間は継続して行われる。
【0044】
(選択成長)
その後、次のステップA~Dを順次行う。
【0045】
[ステップA]
このステップでは、処理室201のウエハ200、すなわち、図5(b)に示すように、表面に下地200aと下地200bと下地200cとが露出したウエハ200に対してOガスを供給する。
【0046】
具体的には、バルブ243hを開き、ガス供給管232h内へOガスを流す。Oガスは、MFC241hにより流量調整され、ガス供給管232a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対してOガスが供給される(Oガス供給)。このとき、バルブ243e,243fを開き、ノズル249b,249cのそれぞれを介して処理室201内へNガスを供給する。Nガスの供給は不実施としてもよい。
【0047】
本ステップにおける処理条件としては、
ガス供給流量:10~10000sccm、好ましくは100~10000sccm
ガス供給時間:1~180分、好ましくは1~60分
ガス供給流量(ガス供給管毎):0~10000sccm、好ましくは100~10000sccm
処理温度:室温(25℃)~600℃、好ましくは50~550℃
処理圧力:1~大気圧(101325Pa)、好ましくは10~5000Pa、より好ましくは100~1000Pa
が例示される。ここで述べた条件は、下地200aの表面が酸化されることなく下地200cが酸化される条件である。
【0048】
なお、本明細書における「1~101325Pa」のような数値範囲の表記は、下限値および上限値がその範囲に含まれることを意味する。よって、例えば、「1~101325Pa」とは「1Pa以上101325Pa以下」を意味する。他の数値範囲についても同様である。
【0049】
上述の条件下でウエハ200に対してOガスを供給することにより、図5(c)に示すように、下地200aの表面の酸化を抑制しつつ、下地200cの表面を選択的(優先的)に酸化させることが可能となる。下地200cの表面が酸化されることで、下地200cの表面に、保護膜200eとして、SiO膜が形成される。このとき、下地200bはSiO膜により構成されることから、下地200bの表面が酸化されることはなく、その表面に保護膜200eが新たに形成されることはない。このような選択的(優先的)な酸化が可能となるのは、本ステップにおける処理条件を、下地200aの表面が酸化されない条件、すなわち下地200aの表面に酸化膜(SiO膜またはSiON膜)が形成されない条件としているためである。本ステップでは、下地200aの表面が酸化されない条件下でドライ酸化を行うことにより、下地200cの表面のみを選択的に酸化させる、すなわち、下地200cの表面にのみ保護膜200eとしてのSiO膜を選択的に形成することが可能となる。また、本ステップでは、大気圧未満の圧力条件下(真空雰囲気下、減圧雰囲気下)で下地200cの表面を酸化させることにより、下地200cの表面に形成される保護膜200eの膜厚制御性、膜厚均一性を向上させることが可能となる。
【0050】
下地200cの表面に形成された保護膜200eは、後述するステップCにおけるFガス供給時に下地200cを保護する膜として機能する。後述するステップCにおいて下地200cの表面にFガスが接触すると、下地200cの表面がエッチングされ、エッチングダメージを受けることがある。下地200cの表面に保護膜200eを形成することにより、ステップCにおいて下地200cの表面にFガスが接触することを防止できることから、下地200cの表面のエッチングを抑制することができ、下地200cの表面へのエッチングダメージを抑制することが可能となる。なお、保護膜200eは、ステップB,Cにおけるそれぞれの処理に悪影響を与えることはない。
【0051】
本ステップで形成される保護膜200eの膜厚は10Å程度であり、この膜厚は、DHF洗浄前に下地200cの表面に形成されていた自然酸化膜200dの膜厚に比べて、薄い。このように保護膜200eの膜厚が薄くても、保護膜200eの膜厚均一性が自然酸化膜の膜厚均一性よりも、はるかに高いことから、後述するステップCのFガス供給時における下地200cの表面へのFガスの接触を充分に抑制することが可能となる。
【0052】
下地200cの表面に保護膜200eを形成した後、バルブ243hを閉じ、処理室201内へのOガスの供給を停止する。そして、処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する。このとき、バルブ243d~243fを開き、ノズル249a~249cを介して処理室201内へNガスを供給する。ノズル249a~249cより供給されるNガスは、パージガスとして作用し、これにより、処理室201内がパージされる(パージ)。
【0053】
O含有ガスとしては、Oガスの他、亜酸化窒素(NO)ガス、一酸化窒素(NO)ガス、二酸化窒素(NO)ガス、オゾン(O)ガス、水蒸気(HOガス)、一酸化炭素(CO)ガス、二酸化炭素(CO)ガス等のO含有ガスを用いることができる。
【0054】
不活性ガスとしては、Nガスの他、Arガス、Heガス、Neガス、Xeガス等の希ガスを用いることができる。この点は、後述する各ステップにおいても同様である。
【0055】
[ステップB]
ステップAが終了した後、処理室201内のウエハ200、すなわち、下地200cの表面に保護膜200eを形成した後のウエハ200に対してSiHRガスを供給する。
【0056】
具体的には、バルブ243gを開き、ガス供給管232g内へSiHRガスを流す。SiHRガスは、MFC241gにより流量調整され、ガス供給管232c、ノズル249cを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対してSiHRガスが供給される(SiHRガス供給)。このとき、バルブ243d,243eを開き、ノズル249a,249bのそれぞれを介して処理室201内へNガスを供給する。Nガスの供給は不実施としてもよい。
【0057】
本ステップにおける処理条件としては、
SiHRガス供給流量:1~2000sccm、好ましくは1~500sccm
SiHRガス供給時間:1秒~60分
ガス供給流量(ガス供給管毎):0~10000sccm
処理温度:室温(25℃)~600℃、好ましくは室温~450℃
処理圧力:1~2000Pa、好ましくは1~1000Pa
が例示される。ここで述べた条件は、処理室201内においてSiHRガスが気相分解(熱分解)しない条件である。なお、下地200bおよび保護膜200eは全域(全面)にわたり水酸基(OH)終端された表面を有している。下地200aは多くの領域がOH終端されていない表面、すなわち、一部の領域がOH終端された表面を有している。
【0058】
上述の条件下でウエハ200に対してSiHRガスを供給することにより、図5(d)に示すように、SiHRガスに含まれるSiの下地200aの表面への吸着を抑制しつつ、SiHRガスに含まれるSiを、下地200bの表面に選択的(優先的)に吸着させることが可能となる。このとき、保護膜200eの表面にもSiHRガスに含まれるSiを選択的(優先的)に吸着させることが可能となる。また、このとき、下地200aの表面の一部にSiHRガスに含まれるSiが吸着することもあるが、その吸着量は、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面へのSiの吸着量よりも少量となる。このような選択的(優先的)な吸着が可能となるのは、本ステップにおける処理条件を、処理室201内においてSiHRガスが気相分解しない条件としているためである。また、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面が全域にわたりOH終端されているのに対し、下地200aの表面の多くの領域がOH終端されていない(表面の一部の領域がOH終端されている)ためである。本ステップでは、処理室201内においてSiHRガスが気相分解しないことから、下地200a,200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面には、SiHRに含まれるSiが多重堆積しない。本ステップでは、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面においては、表面の全域に形成されたOH終端とSiHRとが反応し、SiHRに含まれるSiが下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面の全域に化学吸着する。これに対し、下地200aの表面においては、表面の多くの領域にOH終端が存在しないことから、その多くの領域には、SiHRに含まれるSiが化学吸着しない。ただし、下地200aの表面の一部の領域に形成されたOH終端とSiHRとが反応し、SiHRに含まれるSiが、その一部の領域に、化学吸着することもある。なお、SiHRに含まれるSiが下地の表面に化学吸着する際、SiにHが結合した状態で化学吸着することとなる。
【0059】
なお、SiHRガスの供給を所定時間継続すると、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面へのSiの化学吸着が飽和する。すなわち、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面へのSiの化学吸着にはセルフリミットがかかる。つまり、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面上に1層のSi層が形成されると、それ以上、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面上にSiが化学吸着しなくなる。結果、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面上に吸着するSiの量は、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面全域にわたって略均一な量となる。
【0060】
下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面にSiを選択的に吸着させた後、バルブ243gを閉じ、処理室201内へのSiHRガスの供給を停止する。そして、ステップAにおけるパージと同様の処理手順により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する。
【0061】
アミノシラン系ガスとしては、1分子中にアミノ基を1つだけ含む上述のモノアミノシランガスの他、1分子中にアミノ基を2つ含むジアミノシラン(SiHRR')ガスや、1分子中にアミノ基を3つ含むトリアミノシラン(SiHRR'R”)ガスを用いることができる。
【0062】
また、アミノシラン系ガスとしては、下記一般式[1]で表されるアミノシラン化合物を用いることができる。
【0063】
SiA[(NB(4-x)] [1]
【0064】
式[1]中、Aは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、または、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基を示す。アルキル基は、直鎖状アルキル基だけでなく、イソプロピル基、イソブチル基、セカンダリブチル基、ターシャリブチル基等の分岐状アルキル基であってもよい。アルコキシ基は、直鎖状アルコキシ基だけでなく、イソプロポキシ基、イソブトキシ基等の分岐状アルコキシ基であってもよい。Bは、水素原子、または、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基を示す。アルキル基は、直鎖状アルキル基だけでなく、イソプロピル基、イソブチル基、セカンダリブチル基、ターシャリブチル基等の分岐状アルキル基であってもよい。複数のAは、同一であっても異なっていてもよく、2つのBは同一であっても異なっていてもよい。xは1~3の整数である。
【0065】
[ステップC]
ステップBが終了した後、処理室201内のウエハ200、すなわち、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面にSiを選択的に吸着させた後のウエハ200に対してFガスを供給する。
【0066】
具体的には、バルブ243bを開き、ガス供給管232b内へFガスを流す。Fガスは、MFC241bにより流量調整され、ノズル249bを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対してFガスが供給される(Fガス供給)。このとき、バルブ243d,243fを開き、ノズル249a,249cのそれぞれを介して処理室201内へNガスを供給する。Nガスの供給は不実施としてもよい。
【0067】
本ステップにおける処理条件としては、
ガス供給流量:1~2000sccm、好ましくは1~500sccm
ガス供給時間:1秒~60分
処理温度:室温~550℃、好ましくは室温~450℃
が例示される。他の条件は、ステップBにおける処理条件と同様とする。ここで述べた条件は、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面をエッチングしない条件であり、また、後述するように下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面が改質(F終端)される条件である。
【0068】
上述の条件下でウエハ200に対してFガスを供給することにより、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面に吸着させたSiとFガスとを反応させて、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を、エッチングすることなく改質させることが可能となる。このとき、下地200cの表面は保護膜200eにより保護されることで、下地200cの表面へのFガスの接触を防止することができ、これにより、下地200cの表面へのエッチングダメージを回避することが可能となる。改質後の下地200bおよび保護膜200eは、F終端(SiF終端)された表面を有することとなる。なお、改質後の下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの最表面に存在する原子に着目した場合、下地200bおよび保護膜200eは、それぞれ、F終端された表面を有するということができる。また、改質後の下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの最表面に存在する原子と、その原子に結合している原子と、に着目した場合、下地200bおよび保護膜200eは、それぞれ、SiF終端された表面を有するということができる。本明細書では、便宜上、主に前者の呼び方を用いることとする。下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面がF終端されることにより、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面では、後述するステップDにおいて成膜反応が進行しなくなる。正確には、成膜反応が生じるまでの時間、すなわち、インキュベーションタイムを長期化することが可能となる。なお、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面にSiHRに含まれていた有機成分が残留していた場合は、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面に吸着させたSiとFガスとが反応する際に、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面から、その有機成分が除去されることとなる。
【0069】
図5(e)に示すように、本ステップでは、下地200aの表面の改質を抑制しつつ、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を選択的(優先的)に改質させることが可能となる。このとき、下地200aの表面の一部が改質されることもあるが、その改質量は、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面の改質量よりも少量となる。このような選択的(優先的)な改質が可能となるのは、ステップBを実施した後、下地200aの表面の多くの領域にSiが吸着していないのに対し、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面の全域にSiが吸着しているためである。下地200aの表面の多くの領域では、Siが吸着していないことからSiとFとの反応が進行せず、結果として、その多くの領域にはF終端が形成されることはない。ただし、上述のように、下地200aの表面の一部の領域にSiが吸着していることもあり、その場合、その一部の領域にF終端が形成されることもある。これに対し、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面では、それらの表面の全域において、表面に吸着しているSiとFとが反応し、F含有ラジカルが生成され、このラジカルの作用によって、それらの表面の全域に非常に安定なF終端(SiF終端)が形成される。F含有ラジカルとしては、F、SiF、SiF、SiF、SiHF、SiHF、SiHF等が挙げられる。
【0070】
なお、上述したように、ステップBで下地200b上および保護膜200e上に吸着させるSiの量は、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面全域にわたって略均一な量となっている。そのため、本ステップでは、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面で発生するF含有ラジカルの量が、その面内全域にわたって略均一な量となる。その結果、上述した下地200bおよび保護膜200eの改質が、それらの表面全域にわたって略均一に進行する。
【0071】
また、下地200aの表面の多くの領域では、上述したようにSiが吸着していないことからSiとFとの反応が進行せず、F含有ラジカルが生成されず、その多くの領域は改質されることはない。ただし、下地200aの表面の一部の領域にSiが吸着している場合は、その一部の領域において、SiとFとが反応し、F含有ラジカルが生成され、その一部の領域が改質されることもあるのは上述の通りである。これらの結果、下地200aの表面は、エッチングダメージをほとんど受けず、その表面の多くの領域に吸着サイトが維持されることとなる。
【0072】
下地200a,200bおよび保護膜200eのうち下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を選択的に改質させた後、バルブ243bを閉じ、処理室201内へのFガスの供給を停止する。そして、ステップAにおけるパージと同様の処理手順により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する。
【0073】
フッ素含有ガスとしては、Fガスの他、三フッ化塩素(ClF)ガス、フッ化塩素ガス(ClF)ガス、F+酸化窒素(NO)ガス、ClF+NOガス、三フッ化窒素(NF)ガス、六フッ化タングステン(WF)ガス、フッ化ニトロシル(FNO)ガス、或いは、これらの混合ガスを用いることができる。
【0074】
[ステップD]
ステップCが終了した後、処理室201内のウエハ200、すなわち、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を改質させた後のウエハ200に対してSiClガスおよびNHガスを供給する。このステップでは、ステップD1,D2を順次行う。
【0075】
〔ステップD1〕
このステップでは、処理室201内のウエハ200、すなわち、下地200a,200bおよび保護膜200eのうち下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を選択的に改質させた後のウエハ200に対してSiClガスを供給する。
【0076】
具体的には、バルブ243aを開き、ガス供給管232a内へSiClガスを流す。SiClガスは、MFC241aにより流量調整され、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対してSiClガスが供給される(SiClガス供給)。このとき、バルブ243e,243fを開き、ノズル249b,249cのそれぞれを介して処理室201内へNガスを供給するようにしてもよい。
【0077】
本ステップにおける処理条件としては、
SiClガス供給流量:1~2000sccm、好ましくは10~1000sccm
SiClガス供給時間:1~180秒、好ましくは10~120秒
処理温度:350~600℃、好ましくは400~550℃
処理圧力:1~2000Pa、好ましくは10~1333Pa
が例示される。他の処理条件は、ステップBにおける処理条件と同様とする。
【0078】
上述の条件下でウエハ200に対してSiClガスを供給することにより、下地200a,200bおよび保護膜200eのうち改質されていない領域を含む下地200aの表面上に、Clを含むSi含有層が形成される。すなわち、下地200aのうち改質されていない領域、すなわち、吸着サイトが維持された領域を起点として、Clを含むSi含有層が形成される。Clを含むSi含有層は、下地200aの表面への、SiClの物理吸着や化学吸着、SiClの一部が分解した物質(SiCl)の化学吸着、SiClの熱分解によるSiの堆積等により形成される。Clを含むSi含有層は、SiClやSiClの吸着層(物理吸着層や化学吸着層)であってもよく、Clを含むSiの堆積層であってもよい。本明細書では、Clを含むSi含有層を、単に、Si含有層とも称する。
【0079】
本ステップでは、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面上へのSi含有層の形成を抑制しつつ、下地200aの表面上にSi含有層を選択的に形成することが可能である。なお、何らかの要因により、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面の改質が不充分となる場合等においては、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面上に、ごく僅かにSi含有層が形成される場合もあるが、この場合であっても、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面上に形成されるSi含有層の厚さは、下地200aの表面上に形成されるSi含有層の厚さに比べて、はるかに薄くなる。このようなSi含有層の選択的な形成が可能となるのは、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面に存在するF終端が、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面上へのSi含有層の形成(Siの吸着)を阻害する要因、すなわち、インヒビター(inhibitor)として作用するためである。なお、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面に存在するF終端は、本ステップを実施する際も、消滅することなく安定的に維持される。
【0080】
下地200aの表面上にSi含有層が形成された後、バルブ243aを閉じ、処理室201内へのSiClガスの供給を停止する。そして、ステップAにおけるパージと同様の処理手順により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する(パージ)。
【0081】
原料ガス(成膜ガス)としては、SiClガスの他、モノクロロシラン(SiHCl、略称:MCS)ガス、ジクロロシラン(SiHCl、略称:DCS)ガス、トリクロロシラン(SiHCl、略称:TCS)ガス、ヘキサクロロジシラン(SiCl、略称:HCDS)ガス、オクタクロロトリシラン(SiCl、略称:OCTS)ガス等のクロロシラン系ガスや、テトラブロモシラン(SiBr)ガス等のブロモシラン系ガスや、テトラヨードシラン(SiI)ガス等のヨードシラン系ガスを用いることができる。
【0082】
〔ステップD2〕
このステップでは、処理室201内のウエハ200、すなわち、下地200aの表面上に形成されたSi含有層に対してNHガスを供給する。
【0083】
具体的には、バルブ243cを開き、ガス供給管232c内へNHガスを流す。NHガスは、MFC241cにより流量調整され、ノズル249cを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対してNHガスが供給される(NHガス供給)。このとき、バルブ243d,243eを開き、ノズル249a,249bのそれぞれを介して処理室201内へNガスを供給するようにしてもよい。
【0084】
本ステップにおける処理条件としては、
NHガス供給流量:10~10000sccm
NHガス供給時間:1~60秒、好ましくは5~50秒
処理圧力:1~4000Pa、好ましくは1~1333Pa
が例示される。他の処理条件は、ステップBにおける処理条件と同様とする。
【0085】
上述の条件下でウエハ200に対してNHガスを供給することにより、下地200aの表面上に形成されたSi含有層の少なくとも一部が窒化される。Si含有層が窒化されることで、下地200aの表面上に、SiおよびNを含む層、すなわち、シリコン窒化層(SiN層)が形成される。SiN層を形成する際、Si含有層に含まれていたCl等の不純物は、NHガスによるSi含有層の窒化反応の過程において、少なくともClを含むガス状物質を構成し、処理室201内から排出される。これにより、SiN層は、ステップD1で形成されたSi含有層に比べてCl等の不純物が少ない層となる。なお、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面は、本ステップを実施する際も、窒化されることなく維持される。すなわち、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面は、窒化(NH終端)されることなく、F終端されたまま安定的に維持される。
【0086】
下地200aの表面上にSiN層が形成された後、バルブ243cを閉じ、処理室201内へのNHガスの供給を停止する。そして、ステップAにおけるパージと同様の処理手順により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する(パージ)。
【0087】
反応ガス(成膜ガス)としては、NHガスの他、例えば、ジアゼン(N)ガス、ヒドラジン(N)ガス、Nガス等の窒化水素系ガスを用いることができる。
【0088】
〔所定回数実施〕
上述したステップD1,D2を非同時に、すなわち、同期させることなく行うサイクルを所定回数(n回、nは1以上の整数)行うことにより、図5(f)に示すように、ウエハ200の表面に露出した下地200a,200bおよび保護膜200eのうち下地200aの表面上にSiN膜を選択的に形成することができる。上述のサイクルは、複数回繰り返すのが好ましい。すなわち、1サイクルあたりに形成されるSiN層の厚さを所望の膜厚よりも薄くし、SiN層を積層することで形成される膜の膜厚が所望の膜厚になるまで、上述のサイクルを複数回繰り返すのが好ましい。
【0089】
なお、ステップD1,D2を実施する際、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面に存在するF終端は、消滅することなく維持されることから、インヒビターとしての作用が維持され、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面に、SiN膜が形成されることはない。ただし、何らかの要因により、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面の改質が不充分となる場合等においては、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面上に、ごく僅かにSiN膜が形成される場合もあるが、この場合であっても、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面上に形成されるSiN膜の厚さは、下地200aの表面上に形成されるSiN膜の厚さに比べて、はるかに薄くなる。本明細書において、下地200a,200bおよび保護膜200eのうち「下地200aの表面上に選択的にSiN膜を形成する」とは、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面上にSiN膜を全く形成しない場合だけでなく、上述のように、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面上に、ごく薄いSiN膜を形成する場合を含むものとする。
【0090】
(アフターパージおよび大気圧復帰)
下地200a上へのSiN膜の選択的な形成が完了した後、ノズル249a~249cのそれぞれからパージガスとしてのNガスを処理室201内へ供給し、排気口231aより排気する。これにより、処理室201内がパージされ、処理室201内に残留するガスや反応副生成物が処理室201内から除去される(アフターパージ)。その後、処理室201内の雰囲気が不活性ガスに置換され(不活性ガス置換)、処理室201内の圧力が常圧に復帰される(大気圧復帰)。
【0091】
(ボートアンロードおよびウエハディスチャージ)
ボートエレベータ115によりシールキャップ219が下降され、マニホールド209の下端が開口される。そして、処理済のウエハ200が、ボート217に支持された状態でマニホールド209の下端から反応管203の外部に搬出(ボートアンロード)される。ボートアンロードの後は、シャッタ219sが移動させられ、マニホールド209の下端開口がOリング220cを介してシャッタ219sによりシールされる(シャッタクローズ)。処理済のウエハ200は、反応管203の外部に搬出された後、ボート217より取り出される(ウエハディスチャージ)。
【0092】
なお、図5(g)に示すように、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面に存在するF終端は、処理後のウエハ200が大気暴露された際に、所定の反応物、具体的には、大気中の水分(HO)と反応することによって解離する。すなわち、処理後のウエハ200の大気暴露により、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面に存在するF終端を除去することができる。下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面からF終端を除去することにより、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面状態がリセットされ、以降の工程で、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面上への成膜処理を進行させることが可能となる。
【0093】
(3)本態様による効果
本態様によれば、以下に示す1つ又は複数の効果が得られる。
【0094】
(a)ステップA~Dを行うことにより、ウエハ200の表面に露出している下地200a,200b,200cのうち下地200aの表面上にSiN膜を選択的に形成することが可能となる。これにより、例えば半導体デバイスを作製する際、フォトリソグラフィーを含むパターニング処理を省略する等、それらの工程を簡素化させることが可能となる。結果として、半導体デバイスの生産性を向上させ、製造コストを低減させることが可能となる。
【0095】
(b)ステップAで下地200cの表面に保護膜200eとしてSiO膜を形成することにより、ステップCでは、下地200cの表面にFガスが接触しなくなることから、下地200cの表面へのエッチングダメージを抑制することが可能となる。すなわち、ステップCでは、Fガスによる下地200cへのエッチングダメージを抑制しつつ、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を改質させることが可能となる。
【0096】
ここで、DHF洗浄前に下地200cの表面に形成されていた自然酸化膜(SiO膜)を保護膜として用いることも考えられる。しかしながら、自然酸化膜は膜厚が不均一であるため、自然酸化膜を保護膜として用いた場合、ステップCにおいて、自然酸化膜の膜厚が薄い箇所でFガスが下地200cに接触し、下地200cの表面がエッチングされ、エッチングダメージを受けることがある。
【0097】
(c)保護膜200eの膜厚は10Å程度と薄いことから、選択成長が終了した後に、保護膜200eを除去する工程を行う必要がない場合がある。この場合、半導体デバイスの製造工程を簡素化させることができ、半導体デバイスの生産性を向上させ、製造コストを低減させることが可能となる。ただし、保護膜200eとして形成したSiO膜がデバイスの特性等に影響を及ぼす場合は、保護膜200eを除去するのが好ましく、その場合、例えばDHF洗浄等により除去することができる。
【0098】
(d)ステップAを行う前に、DHF洗浄を行い、下地200aの表面に形成された自然酸化膜200dを除去し、下地200aの表面を剥き出しにして露出させることにより、ステップDにおいて、下地200aの表面上に膜厚均一性の高いSiN膜を形成することが可能となる。また、下地200cの表面に形成された自然酸化膜200dを除去し、下地200cの表面を剥き出しにして露出させることにより、ステップAにおいて、下地200cの表面を均一に酸化させ、下地200cの表面に膜厚均一性の高い保護膜200eを形成することが可能となる。
【0099】
(e)ステップBでは、下地200b上および保護膜200e上に選択的に(優先的に)吸着させるSiの量を、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面全域にわたって略均一な量とすることが可能となる。これにより、ステップCでは、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面全域を略均一に改質させることが可能となる。結果として、ステップDでは、下地200b上および保護膜200e上へのSiN膜の形成を、それらの表面全域にわたって略均一かつ確実に阻害することが可能となる。すなわち、選択成長における選択性を高めることが可能となる。
【0100】
(f)ステップDを行った後、処理後のウエハ200を大気暴露することにより、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面に存在するインヒビターとしてのF終端を消滅させることが可能となる。このように、F終端を簡便に除去できることから、インヒビターを除去する工程を別途設ける必要がなく、半導体デバイスの製造工程を簡素化させることができ、半導体デバイスの生産性を向上させ、製造コストを低減させることが可能となる。
【0101】
(g)ステップA~Dのうち少なくともいずれかを、好ましくは、ステップA~Dのそれぞれを、ノンプラズマの雰囲気下で行うことから、ウエハ200へのプラズマダメージを回避することができ、本手法のプラズマダメージを懸念する工程への適用も可能となる。
【0102】
(h)上述の効果は、Oガス以外の酸素含有ガスを用いる場合や、SiHRガス以外のアミノシラン系ガスを用いる場合や、Fガス以外のフッ素含有ガスを用いる場合や、SiClガス以外の原料ガスを用いる場合や、NHガス以外の反応ガスを用いる場合や、Nガス以外の不活性ガスを用いる場合にも、同様に得ることができる。
【0103】
<本開示の他の態様>
以上、本開示の態様を具体的に説明した。しかしながら、本開示は上述の態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0104】
上述の態様では、ステップBにおいて、ウエハ200に対してアミノシラン系ガスを供給することにより、Siを、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面に選択的に吸着させ、ステップCにおいて、ウエハ200に対してF含有ガスを供給することにより、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面に吸着させたSiとF含有ガスとを反応させて、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を、エッチングすることなく改質させる例について説明したが、本開示はこのような態様に限定されるものではない。例えば、ステップCでは、疑似触媒が存在する雰囲気下でF含有ガスを供給することにより、F含有ラジカルを発生させ、このようにして発生させたF含有ラジカルを用いて下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を、エッチングすることなく改質させるようにしてもよい。すなわち、ステップCでは、疑似触媒を収容した処理室201内へF含有ガスを供給することで、F含有ラジカルを発生させ、このようにして発生させたラジカルをウエハ200の表面に対して供給することにより、下地200a,200bおよび保護膜200eのうち下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を、エッチングすることなく選択的(優先的)に改質させるようにしてもよい。この場合、ステップBを不実施とすることが可能となる。
【0105】
ここで、疑似触媒とは、F含有ガスの分解を促進させ、F含有ガスからのF含有ラジカルの発生を促す物質である。F含有ガスを疑似触媒に接触させることで生じる疑似触媒作用により、F含有ガスからのF含有ラジカルの発生を促進させ、F含有ラジカルを効率的に生じさせることが可能となる。
【0106】
疑似触媒としては、例えば、最表面が自然酸化膜(SiO膜)で覆われていない固体のSi、すなわち、最表面でSi素材が露出して剥き出しとなったSi部材を用いることができる。このような部材としては、例えば、DHF洗浄等により最表面に形成された自然酸化膜が除去されたSi製のウエハ、例えば、ベアSiウエハ(以下、ベアウエハ)を用いることができる。なお、大気中で保管されるベアウエハの最表面には自然酸化膜が形成されており、その最表面には、Si素材が剥き出しとなっておらず、そのままの状態では、ベアウエハを疑似触媒として用いることができない。ベアウエハを疑似触媒として作用させるには、ステップCを行う際に、ベアウエハの最表面に形成された自然酸化膜を除去し、その最表面において、Si素材が露出した状態とする必要がある。
【0107】
ベアウエハを疑似触媒として用いる場合、最表面においてSi素材が露出したベアウエハを、処理対象であるウエハ200と一緒に、ボート217の所定の位置に保持し、その状態でボート217を処理室201内へ搬入することで、疑似触媒であるベアウエハを処理室201内へ収容することが可能となる。なお、この場合、ボート217に、疑似触媒であるベアウエハと、処理対象であるウエハ200と、を一枚おきに交互に装填し、処理対象であるウエハ200の上面と、疑似触媒であるベアウエハの表面と、を対面(対向)させて、下地200bの直上および保護膜200eの直上にベアウエハを配置するのが好ましい。この場合、ステップCにおいて、F含有ガスを疑似触媒であるベアウエハに接触させることにより、F含有ラジカルを効率的に発生させることができ、このように効率的に発生させたF含有ラジカルを下地200bおよび保護膜200eのそれぞれに対して効率的に供給することが可能となる。その結果、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を適正に改質させることが可能となる。
【0108】
この場合の選択成長における処理手順、処理条件は、以下に示すガス供給シーケンスのように、疑似触媒であるベアウエハをボート217にセットすること、および、ステップBを不実施とすること以外は、上述の態様の処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【0109】
→Si+F→(SiCl→NH)×n ⇒ SiN
【0110】
この場合においても、上述の態様と同様の効果が得られる。また、ステップCにおいて、疑似触媒が存在する雰囲気下でF含有ガスを供給することにより、疑似触媒が存在しない雰囲気下でF含有ガスを供給する場合よりも、処理室201内におけるF含有ラジカルの発生を促進させ、発生させるF含有ラジカルの量を増大させることが可能となる。結果として、ステップCにおいて、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面の改質を促し、下地200aの表面上へのSiN膜の選択的な形成を適正に行うことができるようになる。また、疑似触媒を用いることで、ステップCにおける処理温度の低温化が可能となり、ステップCにおける下地200aの表面のエッチングや、下地200aの表面へのエッチングダメージを効果的に抑制することが可能となる。
【0111】
なお、疑似触媒としては、ベアウエハの代わりに、Si製のプレート(Siプレート)、Si製のチップ(Siチップ)、Si製のピース(Siピース)、Si製のブロック(Siブロック)等を用いるようにしてもよい。これらを疑似触媒として用いる場合も、ベアウエハを疑似触媒として用いる場合と同様、これらの最表面に形成された自然酸化膜を除去し、その最表面において、Si素材が露出した状態を作り出す必要がある。
【0112】
また、ステップCを行う前に、処理室201内の部材の表面(反応管203の内壁やボート217の表面等)にSi膜を予め形成(プリコート)し、このSi膜(プリコート膜)を疑似触媒として用いることもできる。プリコート膜としてのSi膜は、例えば、モノシラン(SiH)ガス等のシラン系ガスを用い、CVD法により形成することができる。Si膜はアモルファス(非晶質)状態のSi膜であってもよいし、ポリ(多結晶)状態のSi膜であってもよいし、アモルファスとポリとの混晶状態のSi膜であってもよい。
【0113】
Si膜を形成する際の処理条件としては、
SiHガス供給流量:10~2000sccm
ガス供給流量(各ガス供給管):0~10000sccm
ガス供給時間:10~400分
処理温度:450~550℃、好ましくは450~530℃
処理圧力:1~900Pa
が例示される。
【0114】
この場合、ステップCにおいて、F含有ガスを疑似触媒であるSi膜(プリコート膜)に接触させることにより、F含有ラジカルを効率的に発生させることができ、このように効率的に発生させたF含有ラジカルを下地200bおよび保護膜200eに対して効率的に供給することが可能となる。その結果、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を適正に改質させることが可能となる。
【0115】
なお、プリコート膜としては、Si膜以外に、SiN膜、シリコン炭化膜(SiC膜)、シリコン炭窒化膜(SiCN膜)、シリコンリッチSiN膜(SiRN膜)、シリコンリッチSiC膜(SiRC膜)、シリコンリッチSiCN膜(SiRCN膜)等を用いるようにしてもよい。すなわち、プリコート膜としては、Si以外にCやNを含むSi含有膜を用いるようにしてもよい。プリコート膜としてのSiN膜、SiC膜、SiCN膜、SiRN膜、SiRC膜、SiRCN膜は、例えば、エチルメチルアミノシラン(SiH[N(CH)(C)])ガス、ジメチルアミノシラン(SiH[N(CH])ガス、ジイソプロピルアミノシラン(SiH[N(C])ガス、ジセカンダリブチルアミノシラン(SiH[H(C])ガス等のアミノシラン系ガスを用い、CVD法により形成することができる。このときの処理条件としては、上述のプリコート膜としてのSi膜を形成する際の処理条件と同様の処理条件とすることができる。なお、アミノシラン系ガスは、Siとアミノ基とを含むガスであり、少なくともSi,N,Cを構成元素として含むガスであるともいえる。
【0116】
これらの場合も、ステップCにおいて、F含有ガスを疑似触媒であるSiN膜、SiC膜、SiCN膜、SiRN膜、SiRC膜、SiRCN膜(プリコート膜)に接触させることにより、F含有ラジカルを効率的に発生させることができ、このように効率的に発生させたF含有ラジカルを下地200bおよび保護膜200eのそれぞれに対して効率的に供給することが可能となる。その結果、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を適正に改質させることが可能となる。
【0117】
これらのプリコート膜を疑似触媒として用いる場合の選択成長における処理手順、処理条件は、処理室201内の部材の表面にこれらの膜をプリコートすること、および、ステップBを不実施とすること以外は、上述の態様の処理手順、処理条件と同様とすることができる。このように、プリコート膜を疑似触媒として用いる場合においても、ベアウエアを疑似触媒として用いる場合と同様な効果が得られる。なお、この場合のプリコート膜を、疑似触媒膜や疑似触媒プリコート膜と称することもできる。
【0118】
また、処理対象であるウエハ200を処理室201内へ収容した後、ステップCを行う前に、ウエハ200の表面上、すなわち、下地200a,200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面上に、Si膜を形成し、このSi膜を疑似触媒、すなわち、疑似触媒膜として用いることもできる。疑似触媒膜としては、Si膜以外に、SiN膜、SiC膜、SiCN膜、SiRN膜、SiRC膜、SiRCN膜等を用いるようにしてもよい。すなわち、疑似触媒膜としては、Si以外にCやNを含むSi含有膜を用いるようにしてもよい。疑似触媒膜としてのSi膜、SiN膜、SiC膜、SiCN膜、SiRN膜、SiRC膜、SiRCN膜を形成する際に用いるガス、処理条件は、上述のプリコート膜を形成する際に用いるガス、処理条件とそれぞれ同様とすることができる。
【0119】
これらの場合、ステップCにおいて、F含有ガスを疑似触媒膜に接触させることにより、F含有ラジカルを効率的に発生させることができ、このように効率的に発生させたF含有ラジカルを、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれに対して供給することが可能となる。すなわち、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面をF終端させるよう改質させることが可能となる。なお、このとき、下地200aの表面上に形成された疑似触媒膜はエッチングされ、下地200aの表面上には吸着サイトが露出することとなる。その際、下地200aの表面も僅かにエッチングされることもあるが、その場合であってもエッチング量は少量であり、その表面の吸着サイトは維持される。なお、下地200bおよび保護膜200eはSiO膜により構成されており、強固なSi-O結合を有することから、その表面がエッチングされることはなく、その表面は適正にF終端され、適正な改質がなされることとなる。
【0120】
これらの疑似触媒膜を用いる場合の選択成長における処理手順、処理条件は、ウエハ200の表面上に疑似触媒膜を形成すること、および、ステップBを不実施とすること以外は、上述の態様の処理手順、処理条件と同様とすることができる。このように、Si膜、SiN膜、SiC膜、SiCN膜、SiRN膜、SiRC膜、SiRCN膜等を疑似触媒として用いる場合においても、ベアウエアを疑似触媒として用いる場合と同様な効果が得られる。
【0121】
また例えば、疑似触媒としては、ベアウエハ、Siプレート、Siチップ、Siピース、Siブロック、Si含有プリコート膜、Si含有疑似触媒膜等の固体状の疑似触媒だけではなく、ガス状の疑似触媒を用いることもできる。ガス状の疑似触媒、すなわち、疑似触媒ガスとしては、F含有ガスと接触することにより、F含有ガスの分解を促進させ、F含有ガスからF含有ラジカルを発生させるガスを用いることができる。疑似触媒ガスとしては、具体的には、例えば、Oガス、NOガス、NOガス、NOガス、HFガス、NHガス、および水素(H)ガスのうち少なくともいずれか1つのガスを用いることができる。これらのガスの供給は、例えば、ノズル249a,249c等を用い、処理室201内へのF含有ガスの供給と同時に行うことが可能である。
【0122】
この場合、ステップCにおいて、F含有ガスと疑似触媒ガスとを同時に処理室201内へ供給することにより、疑似触媒ガスが存在する雰囲気下でF含有ガスが供給されることとなる。このとき、F含有ガスを疑似触媒ガスに接触させることができ、これにより、F含有ラジカルを効率的に発生させることができ、このように効率的に発生させたF含有ラジカルを下地200bおよび保護膜200eのそれぞれに対して効率的に供給することが可能となる。その結果、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を適正に改質させることが可能となる。なお、処理室201内でF含有ガスと疑似触媒ガスとが混合される限りにおいては、F含有ガスと疑似触媒ガスとを、交互に、または、間欠的に、処理室201内へ供給するようにしてもよい。
【0123】
この場合の選択成長における処理手順、処理条件は、処理室201内へF含有ガスと疑似触媒ガスとを供給すること、および、ステップBを不実施とすること以外は、上述の態様の処理手順、処理条件と同様とすることができる。このように、F含有ガスと疑似触媒ガスとを供給する場合においても、ベアウエアを疑似触媒として用いる場合と同様な効果が得られる。また、ガス状の疑似触媒を用いる場合も、固体状の疑似触媒を用いる場合と同様、ステップCにおける処理温度の低温化が可能となり、ステップCにおける下地200aの表面のエッチングや、下地200aの表面へのエッチングダメージを効果的に抑制することが可能となる。
【0124】
なお、「触媒」とは、化学反応の前後でそれ自身は変化しないが、反応の速度を変化させる物質のことである。疑似触媒として例示した上述の物質は、いずれも、F含有ラジカルの発生を促すという触媒的な作用を有するが、これらの中には、それ自身が化学反応の前後で変化する物質もある。例えば、NOガスは、触媒的な作用を有するが、F含有ガスと反応する際に分子構造の一部が分解し、それ自身が化学反応の前後で変化する場合がある。このように、それ自身が化学反応の前後で変化する物質であっても、反応の速度を変化させる物質のことを、本明細書では「疑似触媒」と称している。
【0125】
また例えば、ステップCでは、F含有ガスのプラズマ、加熱、光照射等による活性化(励起)により、F含有ガスからのF含有ラジカルの発生を促進させるようにしてもよい。これらの場合においても、上述の態様と同様の効果が得られる。また、ステップCにおいて、F含有ガスをプラズマ、加熱、光照射等により活性化させることにより、F含有ガスをこれらにより活性化させない場合よりも、処理室201内におけるF含有ラジカルの発生を促進させ、発生させるF含有ラジカルの量を増大させることが可能となる。結果として、ステップCにおいて、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面の改質を促し、下地200aの表面上へのSiN膜の選択的な形成を適正に行うことができるようになる。また、ステップCにおける処理温度の低温化も可能となる。なお、プラズマを用いる場合には、ウエハ200や処理室201内の部材のプラズマダメージを抑制するために、処理室201の外部に設けられたリモートプラズマユニットにおいてF含有ガスをプラズマで活性化させた後、処理室201内へ供給する方式、すなわち、リモートプラズマ方式を採用することが好ましい。
【0126】
また、上述の態様では、SiN膜を含む下地200a、SiO膜を含む下地200b、単結晶Siを含む下地200cが表面に露出したウエハ200に対して、ステップA,B,C,Dを順次行う例について説明したが、本開示はこのような態様に限定されるものではない。例えば、ウエハ200の表面に、SiN膜を含む下地200aの代わりに、SiCN膜、シリコン硼窒化膜(SiBN膜)、シリコン硼炭窒化膜(SiBCN膜)、シリコン硼炭化膜(SiBC膜)を含む下地が露出していてもよい。また例えば、SiO膜を含む下地200bの代わりに、シリコン酸炭化膜(SiOC膜)、シリコン酸窒化膜(SiON膜)、シリコン酸炭窒化膜(SiOCN膜)を含む下地が露出していてもよい。また例えば、単結晶Siを含む下地200cの代わりに、エピタキシャルシリコン膜(Epi-Si膜)、ポリシリコン膜(poly-Si膜(多結晶Si膜))、アモルファスシリコン膜(a-Si膜(非晶質Si膜))を含む下地が露出していてもよい。また例えば、SiN膜を含む下地200a、SiO膜を含む下地200bおよび単結晶Siを含む下地200cに加えて、タングステン膜(W膜)、タングステン窒化膜(WN膜)、チタン窒化膜(TiN膜)等の導電性の金属系薄膜を含む下地が露出していてもよい。また、SiN膜を含む下地200aの代わりに、上述の金属系薄膜を含む下地が露出していてもよい。これらの場合においても、上述の態様と同様の効果が得られる。すなわち、下地200b,200c上への成膜を回避しつつ、下地200aの表面上や上述の金属系薄膜の表面上に選択的に膜を形成することが可能となる。
【0127】
また、上述の態様では、ステップBにおいて、アミノシラン系ガスとしてモノアミノシランガスを用いる例について説明したが、本開示はこのような態様に限定されるものではない。例えば、ステップBにおいて、アミノシラン系ガスとして、モノアミノシランガスの代わりにジアミノシランガスやトリアミノシランガスを用いるようにしてもよい。これらの場合においても、上述の態様と同様の効果が得られる。ただし、ステップBにおいて、アミノシラン系ガスとして1分子中に含まれるアミノ基の数が少ないガスを用いるほど、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面へのSiの吸着密度が高くなり、ステップCにおいて、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面に形成されるSiF終端の密度が高くなる。結果として、ステップDにおいて、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面への成膜阻害効果を高くすることが可能となる。この点では、アミノシラン系ガスとして、1分子中に含まれるアミノ基の数が1つであるモノアミノシランを用いるのが特に好ましい。
【0128】
また、上述の態様では、ステップDにおいて、ステップD1,D2を非同時に行うサイクルを所定回数行う例について説明したが、本開示はこのような態様に限定されるものではない。例えば、ステップDにおいて、ステップD1,D2を非同時に行うサイクルを開始する前に、処理室201内のウエハ200、すなわち、下地200a,200bおよび保護膜200eのうち下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面を選択的に改質させた後のウエハ200に対して、NHガスを所定時間供給するステップ(NHプリフロー)を行うようにしてもよい。この場合においても、下地200bおよび保護膜200eのそれぞれの表面に存在するF終端は消滅することなく安定的に維持されるため、上述の態様と同様の効果が得られる。また、下地200aの表面における吸着サイトを適正化させることができ、下地200a上に形成されるSiN膜の品質を向上させることが可能となる。
【0129】
また、上述の態様では、ステップDにおいて、原料ガスとしてSiClガスを用い、反応ガスとしてNHガスを用いる例について説明したが、本開示はこのような態様に限定されるものではない。例えば、ステップDにおいて、原料ガスとして、SiClガスの他、上述のクロロシラン系ガスや、チタニウムテトラクロライド(TiCl)ガス等のハロゲン化金属ガスを用いるようにしてもよい。また例えば、反応ガスとして、NHガス等のN含有ガスの他、酸素(O)ガス等のO含有ガス、トリエチルアミン((CN、略称:TEA)ガス等のNおよびC含有ガス、プロピレン(C)ガス等のC含有ガス、トリクロロボラン(BCl)ガス等のホウ素(B)含有ガスを用いるようにしてもよい。そして、以下に示すガス供給シーケンスにより、下地200a,200bおよび保護膜200eのうち改質されていない下地200aの表面上に、SiON膜、SiCN膜、SiOCN膜、SiOC膜、SiBN膜、SiBCN膜、TiN膜、チタン酸窒化膜(TiON膜)等の膜を形成するようにしてもよい。下地200b,200cの表面上に形成されるF終端は非常に安定であることから、これらの場合、すなわち、成膜ガスとして水蒸気(HOガス)等のOH基を含むガスを用いない場合には、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0130】
→SiHR→F→(SiCl→NH→O)×n ⇒ SiON
→SiHR→F→(HCDS→C→NH)×n ⇒ SiCN
→SiHR→F→(HCDS→C→NH→O)×n ⇒ SiOCN
→SiHR→F→(HCDS→TEA→O)×n ⇒ SiOC(N)
→SiHR→F→(DCS→BCl→NH)×n ⇒ SiBN
→SiHR→F→(DCS→C→BCl→NH)×n ⇒ SiBCN
→SiHR→F→(TiCl→NH)×n ⇒ TiN
→SiHR→F→(TiCl→NH→O)×n ⇒ TiON
【0131】
また、上述の態様では、選択成長を行う前に、ウエハ200に対してDHF洗浄を行う例について説明したが、本開示はこのような態様に限定されるものではない。例えば、下地200aを成膜した後、下地200a,200cを大気に曝すことなく、上述の選択成長を行う場合のように、下地200a,200cの表面に自然酸化膜200dが形成されることがない場合は、DHF洗浄を不実施としてもよい。
【0132】
各処理に用いられるレシピは、処理内容に応じて個別に用意し、電気通信回線や外部記憶装置123を介して記憶装置121c内に格納しておくことが好ましい。そして、各処理を開始する際、CPU121aが、記憶装置121c内に格納された複数のレシピの中から、処理内容に応じて適正なレシピを適宜選択することが好ましい。これにより、1台の基板処理装置で様々な膜種、組成比、膜質、膜厚の膜を、再現性よく形成することができるようになる。また、オペレータの負担を低減でき、操作ミスを回避しつつ、各処理を迅速に開始できるようになる。
【0133】
上述のレシピは、新たに作成する場合に限らず、例えば、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを変更することで用意してもよい。レシピを変更する場合は、変更後のレシピを、電気通信回線や当該レシピを記録した記録媒体を介して、基板処理装置にインストールしてもよい。また、既存の基板処理装置が備える入出力装置122を操作し、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを直接変更してもよい。
【0134】
上述の態様では、一度に複数枚の基板を処理するバッチ式の基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、例えば、一度に1枚または数枚の基板を処理する枚葉式の基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用できる。また、上述の態様では、ホットウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、コールドウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用できる。
【0135】
これらの基板処理装置を用いる場合においても、上述の態様と同様な処理手順、処理条件にて各処理を行うことができ、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0136】
上述の態様は、適宜組み合わせて用いることができる。このときの処理手順、処理条件は、例えば、上述の態様の処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【実施例0137】
SiN膜(第1下地)、SiO膜(第2下地)、および単結晶Si(第3下地)が表面にそれぞれ露出しているウエハを複数枚用意し、それぞれのウエハの表面を、DHF水溶液を用いて洗浄することで、それぞれのウエハにおけるSiN膜および単結晶Siの表面に形成されていた自然酸化膜を除去した。その後、図1に示す基板処理装置を用い、それぞれのウエハに対してSiN膜を形成する処理を実施し、2つの評価サンプル(サンプル1,2)を作製した。
【0138】
サンプル1(実施例)を作製する際は、上述の態様におけるステップA~Dをそれぞれ実施した。ステップA~Dにおける処理条件は、上述の態様に記載した処理条件範囲内の所定の条件とした。
【0139】
サンプル2(比較例)を作製する際は、上述の態様におけるステップAを不実施とし、ステップB~Dをそれぞれ実施した。ステップB~Dのそれぞれにおける処理条件は、サンプル1を作製する際のステップB~Dのそれぞれにおける処理条件と共通の条件とした。
【0140】
サンプル1,2の断面のSEM画像およびTEM画像の両方をそれぞれ観察したところ、ステップAを実施したサンプル1では、第3下地の表面はエッチングダメージを受けていないことを確認できた。これに対し、ステップAを不実施としたサンプル2では、第3下地の表面はエッチングダメージを受けていることを確認した。なお、サンプル1,2のいずれのサンプルにおいても、第1下地の表面にのみSiN膜を選択的に形成することができることを確認できた。
【0141】
<本開示の好ましい態様>
以下、好ましい態様について付記する。
【0142】
(付記1)
本開示の一態様によれば、
(a)酸素非含有の第1下地と、酸素を含有する第2下地と、酸素及び窒素非含有の第3下地と、が表面に露出した基板に対して処理ガスを供給することで、前記第3下地の表面に(選択的に)保護膜を形成する工程と、
(b)前記第3下地の表面に前記保護膜を形成した後の前記基板に対してフッ素含有ガスを供給することで、前記第2下地の表面を(選択的に)フッ素終端させるように改質させる工程と、
(c)前記第2下地の表面を改質させた後の前記基板に対して成膜ガスを供給することで、前記第1下地の表面上に選択的に膜を形成する工程と、
を有する半導体装置の製造方法、または、基板処理方法が提供される。
【0143】
(付記2)
付記1に記載の方法であって、
前記保護膜は酸素を含有する。
【0144】
(付記3)
付記2に記載の方法であって、
(a)では、前記処理ガスとして酸素含有ガスを供給し、前記第3下地の表面を酸化させることで、前記保護膜を形成する。
【0145】
(付記4)
付記3に記載の方法であって、
(a)では、前記第3下地の表面をドライ酸化により酸化させる。
【0146】
(付記5)
付記3または4に記載の方法であって、
(a)では、大気圧未満の圧力下で、前記第3下地の表面を酸化させる。
【0147】
(付記6)
付記3~5のいずれか1項に記載の方法であって、
(a)では、前記第1下地の表面が酸化されない条件下で、前記第3下地の表面を酸化させる。すなわち、(a)では、前記第1下地の表面に前記保護膜が形成されない条件下で、前記第3下地の表面に前記保護膜を形成する。
【0148】
(付記7)
付記2~6のいずれか1項に記載の方法であって、
(b)では、前記保護膜の表面もフッ素終端させるように改質させる。
【0149】
(付記8)
付記1~7のいずれか1項に記載の方法であって、
(b)では、前記第2下地の表面を、エッチングさせることなくフッ素終端させるように改質させる。また、(b)では、前記保護膜の表面も、エッチングさせることなくフッ素終端させるように改質させる。
【0150】
(付記9)
付記1~8のいずれか1項に記載の方法であって、
(b)では、シリコンが存在する雰囲気下で、前記基板に対して前記フッ素含有ガスを供給する。
【0151】
(付記10)
付記1~9のいずれか1項に記載の方法であって、
(b)では、
(b1)前記基板に対してアミノシラン系ガスを供給する工程と、
(b2)前記基板に対して前記フッ素含有ガスを供給する工程と、
を順次行うことで、前記第2下地の表面をフッ素終端させるように改質させる。
【0152】
(付記11)
付記10に記載の方法であって、
(b1)では、前記第2下地の表面に前記アミノシラン系ガスに含まれるシリコンを吸着させ、
(b2)では、前記第2下地の表面に吸着させたシリコンと、前記フッ素含有ガスとを反応させて、前記第2下地の表面をフッ素終端させる。
【0153】
(付記12)
付記11に記載の方法であって、
(b1)では、前記保護膜の表面に前記アミノシラン系ガスに含まれるシリコンを吸着させ、
(b2)では、前記保護膜の表面に吸着させたシリコンと、前記フッ素含有ガスとを反応させて、前記第2下地の表面をフッ素終端させる。
【0154】
(付記13)
付記1~12のいずれか1項に記載の方法であって、
(a)を行う前に、(d)前記基板の表面に形成された自然酸化膜を除去する工程を更に有する。
【0155】
(付記14)
付記13に記載の方法であって、
(d)では、前記第1下地の素材を剥き出しにして露出させる。
【0156】
(付記15)
付記14に記載の方法であって、
(d)では、前記第3下地の素材を剥き出しにして露出させる。
【0157】
(付記16)
付記1~15のいずれか1項に記載の方法であって、
前記第1下地は窒化膜を含み、前記第2下地は酸化膜を含み、前記第3下地は半導体物質を含む。
【0158】
(付記17)
付記1~16のいずれか1項に記載の方法であって、
前記第1下地はシリコンおよび窒素を含有し、前記第2下地はシリコンおよび酸素を含有し、前記第3下地はシリコンを含有する。
【0159】
(付記18)
付記1~17のいずれか1項に記載の方法であって、好ましくは、
前記第1下地はシリコン窒化膜を含み、前記第2下地はシリコン酸化膜を含み、前記第3下地は単結晶シリコン、エピタキシャルシリコン膜、多結晶シリコン膜、またはアモルファスシリコン膜を含む。
【0160】
(付記19)
本開示の他の態様によれば、
基板が処理される処理室と、
前記処理室内の基板に対して処理ガスを供給する処理ガス供給系と、
前記処理室内の基板に対してフッ素含有ガスを供給するフッ素含有ガス供給系と、
前記処理室内の基板に対して成膜ガスを供給する成膜ガス供給系と、
前記処理室内において、付記1の各処理(各工程)を行わせるように、前記処理ガス供給系、前記フッ素含有ガス供給系、および前記成膜ガス供給系を制御することが可能なよう構成される制御部と、
を有する基板処理装置が提供される。
【0161】
(付記20)
本開示のさらに他の態様によれば、
基板処理装置の処理室内において、付記1の各手順(各工程)をコンピュータによって前記基板処理装置に実行させるプログラム、または、該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供される。
【符号の説明】
【0162】
200 ウエハ(基板)
200a 第1下地
200b 第2下地
200c 第3下地
図1
図2
図3
図4
図5