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  • 特開-封止用樹脂組成物及び半導体装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174766
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】封止用樹脂組成物及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20221117BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01L23/30 R
C08G59/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080711
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 将一
(72)【発明者】
【氏名】川村 訓史
(72)【発明者】
【氏名】堀篭 洋希
(72)【発明者】
【氏名】萩原 健司
(72)【発明者】
【氏名】横田 竜平
【テーマコード(参考)】
4J036
4M109
【Fターム(参考)】
4J036AA01
4J036AA05
4J036AA06
4J036AE05
4J036AF03
4J036AK17
4J036DC25
4J036DC46
4J036DD07
4J036FA05
4J036FA09
4J036FB07
4J036GA28
4J036JA07
4M109AA01
4M109EA03
4M109EA11
4M109EB02
4M109EB03
4M109EB04
4M109EB08
4M109EB09
4M109EB12
4M109EB13
(57)【要約】
【課題】高温逆バイアス試験(HTRB試験)信頼性に優れた封止用樹脂組成物及び半導体装置の提供。
【解決手段】
Si、SiC、GaN、Ga23、又はダイヤモンドにより形成されたパワー半導体素子の封止に用いる封止用樹脂組成物であって、
該封止用樹脂組成物の硬化物において、150℃、0.1Hzで測定される誘電正接が0.50以下である封止用樹脂組成物
及び
該封止用樹脂組成物の硬化物により、Si、SiC、GaN、Ga23、又はダイヤモンドにより形成されたパワー半導体素子が封止されている半導体装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si、SiC、GaN、Ga23、又はダイヤモンドにより形成されたパワー半導体素子の封止に用いる封止用樹脂組成物であって、
該封止用樹脂組成物の硬化物の、150℃、0.1Hzで測定される誘電正接が0.50以下である封止用樹脂組成物。
【請求項2】
前記封止用樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含むものである、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項3】
熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂である、請求項2に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項4】
エポキシ樹脂のエポキシ当量が220~300g/eqである請求項3に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項5】
封止用樹脂組成物が、更に、無機充填材を含むものである、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項6】
Si、SiC、GaN、Ga23、又はダイヤモンドにより形成されたパワー半導体素子が、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物の硬化物により封止されている半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用樹脂組成物及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭用電化製品の省エネ化、自動車のハイブリッド化及び電気自動車化が進み、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)や金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOS-FET)に代表されるパワー半導体素子が搭載された半導体装置(パワー半導体装置)の使用量が増加している。パワー半導体は、電力の電圧又は周波数の制御、直流から交流又は交流から直流への変換等に主に使用される半導体素子の1種であり、パワー半導体装置は、高電圧かつ大電流条件下での使用にも耐えうる電気信頼性が求められる。パワー半導体装置には、例えば、高温逆バイアス試験(High Temperature Reverse Bias、HTRB)において発生するリーク電流が充分に小さいことが求められる。HTRB試験はMIL-STD-750-1等に示される電気信頼性を確認する試験方法であり、パワー半導体装置は高温下、直流高電圧の逆方向バイアスが印加された状態で保管され、所定時間経過後、室温まで冷却し、バイアスを切り、リーク電流の増加がないかを確認する試験である。ここで、所定時間とは、例えば一時間~千時間程度であり、高温とは、例えば、150~175℃程度であり、高電圧とは、例えば数百~数千ボルトである。逆方向バイアスが印加された素子表面に接している封止樹脂に電界が生じることでリーク電流の増加が発生するケースがある(特許文献1)。
【0003】
逆方向バイアスが印加された素子表面に接している封止樹脂に発生する電界の評価方法として、封止樹脂の誘電特性の測定例が報告されている(特許文献2、特許文献3)。これは逆バイアス印加中に封止樹脂が分極しやすいとリーク電流が増加すると考えられているからである。
特許文献2では、封止樹脂の硬化物について、25℃、20Hzで測定される誘電率が2.80以上4.40以下であり、25℃、100Hzで測定される誘電率が2.80以上4.40以下であることが記載されているが、高温逆バイアス試験は温度150~175℃、直流高電圧印加で行われるので、20Hzで4.40以上であってもリーク電流が増加しない場合が確認される場合がある。
特許文献3は、封止樹脂の硬化物について、周波数0.001Hzで測定したときの誘電緩和値が20以下であることが記載されているが、測定温度が特定されていないこと、誘電緩和という測定項目の定義が不明瞭で一般的ではないこと、0.001Hzと超低周波数で測定時間がかかること、試料の吸湿による影響が大きいことから、当業者が特許文献3に記載の方法で誘電緩和値をもとに封止樹脂の電気信頼性を確認することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-81426号公報
【特許文献2】特開2020-158684号公報
【特許文献3】国際公開第2019/035430号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、HTRB試験信頼性に優れた封止用樹脂組成物及び半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、封止用樹脂組成物の硬化物を150℃の高温条件下、0.1Hzの低周波数で測定される誘電正接を適切に制御することにより、その封止用樹脂組成物を用いて得られた半導体装置において、HTRB試験によるリーク電流を低減でき、半導体装置のHTRB試験信頼性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記の封止用樹脂組成物及び半導体装置を提供するものである。
【0007】
<1>
Si、SiC、GaN、Ga23、又はダイヤモンドにより形成されたパワー半導体素子の封止に用いる封止用樹脂組成物であって、
当該封止用樹脂組成物の硬化物の、150℃、0.1Hzで測定される誘電正接が0.50以下である封止用樹脂組成物。
<2>
前記封止用樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含むものである、<1>に記載の封止用樹脂組成物。
<3>
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である、<2>に記載の封止用樹脂組成物。
<4>
エポキシ樹脂のエポキシ当量が220~300g/eqである<3>に記載の封止用樹脂組成物。
<5>
封止用樹脂組成物が、更に、無機充填材を含むものである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の封止用樹脂組成物。
<6>
Si、SiC、GaN、Ga23、又はダイヤモンドにより形成されたパワー半導体素子が、<1>~<5>のいずれか1つに記載の封止用樹脂組成物の硬化物により封止されている半導体装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、HTRB試験信頼性に優れた封止用樹脂組成物及び半導体装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】各実施例及び比較例の組成物の硬化物について、150℃、0.1Hzにおける誘電正接の測定値に対して、HTRB試験前後の耐圧低下量(V)をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
【0011】
本発明の封止用樹脂組成物の硬化物は、温度150℃、周波数0.1Hzで測定したときの誘電正接が0.50以下である。
【0012】
封止用樹脂組成物は絶縁材料であるが、電荷が溜まることを防ぐために誘電率は低ければ低いほど好ましく、リーク電流を防ぐために、誘電損失及び誘電正接は低ければ低いほど好ましい。一般的に、誘電率、誘電損失、及び誘電正接は温度や周波数に依存するため、用途、目的に合わせて様々な温度や周波数で測定される。本発明は、以下に詳述する通り、封止用樹脂組成物の硬化物の150℃、0.1Hzで測定した誘電正接がHTBR試験後の電気信頼性の指標となることを見出し、この指標をもとに、電気信頼性に優れるパワー半導体素子封止用樹脂組成物を提供するものである。
【0013】
封止用樹脂組成物を構成する成分は、エポキシ樹脂に代表される熱硬化性樹脂、無機充填材、硬化剤、硬化促進剤、離型剤、及び難燃剤等であるが、これら成分が有する極性基が封止用樹脂組成物の硬化物の誘電特性に大きく影響している。
特に、周波数が低い領域では、極性基由来の双極子が電場の変化に追従して動く挙動が観察される。すなわち、封止用樹脂組成物の硬化物の誘電率、誘電損失及び誘電正接は大きくなり、誘電損失及び誘電正接は極大値を示すことがある。ここで周波数が低い領域とは1Hz以下、特には、0.1Hz以下の領域であるが、0.001Hz以下の領域では封止用樹脂組成物に含有されている水分の影響が大きく測定値が安定しないこと、測定に要する時間が長くなることから、誘電特性を測定する際の周波数としては0.1Hzが好適である。
また周波数が低い領域では、温度が高いほど極性基由来の双極子が電場の変化に追従して動く挙動が活発となり、誘電率、誘電損失及び誘電正接は大きくなる。特にHTRB試験は150~200℃で実施するため、150~175℃での誘電特性が重要である。すなわち、封止用樹脂組成物の硬化物を、温度150℃、周波数0.1Hzで測定したときの、誘電率、誘電損失、及び誘電正接が低いことが好ましい。
本発明者らは、誘電特性とHTRB試験のリーク電流を検討した結果、誘電正接の値がHTRB試験後のリーク電流と最も相関が高いことを見出した。誘電正接が0.50以下であればリーク電流の発生がなくHTBR試験信頼性が良好であった。誘電損失も低いほどリーク電流が少なく3.0以下の場合良好であった。誘電率に関しては、3.0~8.0の値を示したが、明確な相関が確認できなかった。
【0014】
本発明の封止用樹脂組成物が含有する、又は含有してもよい成分について説明する。
【0015】
[熱硬化性樹脂]
本発明の封止用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含有することが好ましい。熱硬化樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、1分子中に、少なくとも1つのダイマー酸骨格、少なくとも1つの炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び少なくとも2つの環状イミド基を含有する環状イミド化合物、1分子中に2個以上のシアナト基を有するシアネートエステル化合物、シクロペンタジエン化合物及び/又はそのオリゴマー、オキセタン樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、末端(メタ)アクリル基変性ポリフェニレンエーテル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、及びマレイミド樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂は、一種類単独で用いてもまたは二種類以上を併用してもよい。
これらの中でも、エポキシ樹脂、1分子中に、少なくとも1つのダイマー酸骨格、少なくとも1つの炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び少なくとも2つの環状イミド基を含有する環状イミド化合物、1分子中に2個以上のシアナト基を有するシアネートエステル化合物、シクロペンタジエン化合物及び/又はそのオリゴマー、オキセタン樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、末端(メタ)アクリル基変性ポリフェニレンエーテル樹脂、及び不飽和ポリエステル樹脂が好ましく、誘電特性、硬化性、機械強度、基材との密着性、絶縁性、及びコストのバランスからエポキシ樹脂が特に好ましい。
【0016】
エポキシ樹脂としては、1分子内にエポキシ基を2個以上有する(つまり、多官能の)モノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができる。たとえば、ビフェニル型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0017】
これらエポキシ樹脂は単独で、もしくは二種以上組み合わせて使用することができる。
エポキシ基が開環重合する際に生じる極性基が誘電特性に影響するため、組成物中のエポキシ基の総個数が少ないこと、又はエポキシ樹脂が有する置換基により該極性基の挙動が電気的もしくは立体的に制御されることが好ましい。
【0018】
エポキシ樹脂のエポキシ当量の範囲としては、好ましくは200g/eq~400g/eq、より好ましくは210g/eq~400g/eq、更に好ましくは220g/eq~300g/eqである。
エポキシ当量が200g/eq未満では極性基濃度が高くなり、硬化物の誘電正接が大きくなる場合がある。
また、エポキシ当量が400g/eq超では極性基濃度は低いので、硬化物の室温での誘電正接は十分小さいものの、150℃ではガラス転移温度以上となり、誘電正接が増大する可能性がある。
さらに、二種以上のエポキシ樹脂を組み合わせて使用する場合、組成物全体としてのエポキシ当量が、上記数値範囲となることが好ましい。
【0019】
封止用樹脂組成物中の熱硬化性樹脂含有量の下限値は、封止用樹脂組成物の全体に対して、例えば3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上とすることが特に好ましい。熱硬化性樹脂添加量の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止用樹脂組成物の流動性を向上させ、成形性の向上を図ることができる。一方、熱硬化性樹脂含有量の上限値は、封止用樹脂組成物の全体に対して、例えば50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。熱硬化性樹脂の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止用樹脂組成物の硬化物を備えるパワー半導体装置の、耐湿信頼性や耐リフロー性を向上させることができる。
【0020】
[無機充填材]
本実施形態の封止用樹脂組成物は、無機充填材を含むことができる。
無機充填材として具体的には、溶融シリカ及び結晶シリカ等のシリカ類、クリストバライト、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化チタン、ガラス繊維、アルミナ繊維、酸化亜鉛、タルク、炭化カルシウム等が挙げられる。無機充填材としては、シリカ類が好ましい。シリカ類としては、破砕溶融シリカ、球状溶融シリカ、結晶シリカ、2次凝集シリカ等を挙げることができる。これらの中でも特に球状溶融シリカが好ましい。
【0021】
無機充填材は、通常、粒子である。粒子の形状は、略真球状であることが好ましい。
無機充填材のトップカット径は湿式篩法において20~150μmが好ましく、より好ましくは53~75μmである。無機充填材の平均粒径は、特に限定されないが、典型的には1~100μm、好ましくは1~50μm、より好ましくは1~20μmである。平均粒径を調整することにより、硬化時の適度な流動性を確保すること等ができる。
【0022】
無機充填材の平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(例えば、Malvern Panalytical社製のレーザ回折式粒子径分布測定装置マスターサイザー3000)により体積基準の粒子径分布のデータを取得し、該体積基準の粒子径分布における累積50%に相当する粒径(メジアン径)である。
【0023】
シリカ等の無機充填材には、あらかじめ(全成分を混合して封止用樹脂組成物を調製する前に)シランカップリング剤などのカップリング剤による表面修飾が行われていてもよい。
これにより、無機充填材の凝集が抑制され、より良好な流動性を得ることができる。また、無機充填材と他の成分との親和性が高まり、無機充填材の分散性が向上する。このことは、硬化物の機械的強度の向上や、マイクロクラックの発生抑制などに寄与する。
無機充填材の表面処理に用いられるカップリング剤としては、例えば熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等の1級アミノシラン、(メタ)アクリレート樹脂、末端(メタ)アクリル基変性ポリフェニレンエーテル樹脂を好ましく用いることができ、熱硬化性樹脂が不飽和ポリエステル樹脂の場合はγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを好ましく用いることができる。
【0024】
無機充填材の表面に、熱硬化性樹脂と反応しうる基(アミノ基等)を修飾させることで、封止用樹脂組成物中での無機充填材の分散性を高めることができる。
また、無機充填材の表面処理に使用するカップリング剤の種類を適宜選択したり、カップリング剤の配合量を適宜調整したりすることにより、封止用樹脂組成物の流動性や、硬化後の強度等を制御しうる。
【0025】
封止用樹脂組成物は、無機充填材を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
封止用樹脂組成物が無機充填材を含有する場合、無機充填材の含有量の下限値は、封止用樹脂組成物の全体に対して50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
無機充填材の含有量の上限値は、例えば、95質量%以下であることが好ましく、93質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。
無機充填材の量を適切に調整することで、十分なHTRB試験信頼性を得つつ、組成物の硬化、流動特性などを適切に調整することもできる。
【0026】
[その他の添加剤]
本実施形態の封止用樹脂組成物は、更に、必要に応じて、硬化剤、硬化促進剤、離型剤、難燃剤、イオントラップ剤、可撓性付与剤、着色剤、接着助剤、酸化防止剤その他の添加剤を含有してもよい。
【0027】
・硬化剤
硬化剤としては、熱硬化性樹脂と反応しうるものであれば特に制限は無い。例えば、エポキシ樹脂と反応しうる硬化剤としては、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、活性エステル系硬化剤などが挙げられる。
これらの中でも、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、保存安定性等のバランスの点から、フェノール系硬化剤が好ましい。
【0028】
フェノール系硬化剤としては、封止用樹脂組成物に一般に使用されているものであれば特に制限はない。例えば、フェノール類とホルムアルデヒド又はケトン類とを、酸性触媒存在下で、縮合又は共縮合させて得られる、フェノールノボラック樹脂及びクレゾールノボラック樹脂等のノボラック樹脂;
フェノール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルとから合成される、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂及びフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂等のフェノールアラルキル樹脂;及び
トリスフェニルメタン骨格を有するフェノール樹脂
等が挙げられる。
前記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール、α-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。
これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
アミン系硬化剤としては、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシリレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン;ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミン;ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドラジドなどを含むポリアミン化合物などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
酸無水物系硬化剤としては、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)、無水マレイン酸などの脂環族酸無水物;無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)、無水フタル酸などの芳香族酸無水物などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
活性エステル系硬化剤としては、1分子中に1個以上の活性エステル基を有する硬化剤が挙げられる。活性エステル系硬化剤としては、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等の、反応活性の高いエステル基を1分子中に2個以上有する化合物が好ましい。当該活性エステル系硬化剤は、カルボン酸化合物及び/又はチオカルボン酸化合物とヒドロキシ化合物及び/又はチオール化合物との縮合反応によって得られるものが好ましい。特に、耐活性エステル系硬化剤の好ましい具体例としては、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル化合物、ナフタレン構造を含む活性エステル化合物、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル化合物、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル化合物が挙げられる。中でも、ナフタレン構造を含む活性エステル化合物、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル化合物がより好ましい。「ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造」とは、フェニレン-ジシクロペンチレン-フェニレンからなる2価の構造を表す。
【0032】
封止用樹脂組成物は、硬化剤を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0033】
硬化剤の量は、封止用樹脂組成物全体に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが特に好ましい。
一方、硬化剤の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
硬化剤の量を適切に調整することで、十分なHTRB試験信頼性を得つつ、組成物の硬化/流動特性などを適切に調整することもできる。
【0034】
別観点として、硬化剤の量は、熱硬化性樹脂の量との関係で適切に調整されることが好ましい。具体的には、いわゆる「モル当量」(反応性基のモル比)が適切に調整されることが好ましい。
【0035】
例えば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂、硬化剤がフェノール系硬化剤である場合、フェノール系硬化剤に対するエポキシ樹脂の量は、官能基のモル当量(エポキシ基/ヒドロキシ基)で、好ましくは0.6~1.3、より好ましくは0.7~1.2、さらに好ましくは0.8~1.1である。
【0036】
・硬化促進剤
硬化促進剤としては、熱硬化性樹脂の反応、又は熱硬化性樹脂と硬化剤の反応を促進させるものであればよい。
例えばエポキシ樹脂と硬化剤との硬化促進剤としては、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-メチル-4-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-メチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7及びその塩、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の三級アミン類;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等の有機ホスフィン類等及び、これらをマイクロカプセル化したもの;N,N,N’,N’-テトラメチルウレア、N’-フェニル-N,N-ジメチルウレア、N,N-ジエチルウレア、N’-[3-[[[(ジメチルアミノ)カルボニル]アミノ]メチル]-3,5,5-トリメチルシクロへキシル]-N,N-ジメチルウレア、N,N”-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(N’,N’-ジメチルウレア)等ウレア構造を有する化合物が挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0037】
これらの中でも、HTRB試験信頼性を向上させる観点からは1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7及びその塩、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の三級アミン類、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア、N’-フェニル-N,N-ジメチルウレア、N,N-ジエチルウレア、N’-[3-[[[(ジメチルアミノ)カルボニル]アミノ]メチル]-3,5,5-トリメチルシクロへキシル]-N,N-ジメチルウレア、N,N”-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(N’,N’-ジメチルウレア)等ウレア構造を有する化合物が好ましい。
中でも、一定の温度に達してはじめて硬化反応を起こす潜在性を有することから、N,N-ジエチルウレア、N’-[3-[[[(ジメチルアミノ)カルボニル]アミノ]メチル]-3,5,5-トリメチルシクロへキシル]-N,N-ジメチルウレアが好ましい。
【0038】
硬化促進剤の添加量としては、エポキシ樹脂と硬化剤成分の合計100質量部に対して、0.5~10.0質量部が好ましく、1.5~6.0質量部がより好ましい。この範囲内であれば、エポキシ基と硬化剤の官能基が速やかに反応し、容易に硬化物を得ることができる。
【0039】
・離型剤
離型剤としては、カルナバワックス、ライスワックス、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、モンタン酸、モンタン酸と飽和アルコール、2-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-エタノール、エチレングリコール、グリセリン等とのエステル化合物等のワックス;ステアリン酸、ステアリン酸エステル、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体等が挙げられ、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、HTRB試験信頼性を向上させる観点からは、酸価の低いポリエチレン、酸化ポリエチレン、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体等が好ましい。
【0040】
・難燃剤
難燃剤としては、ハロゲン化エポキシ樹脂、ホスファゼン化合物、シリコーン化合物、モリブデン酸亜鉛担持タルク、モリブデン酸亜鉛担持酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン等が挙げられる。これらの難燃剤は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよいが、HTRB試験信頼性向上と環境負荷の観点から水酸化アルミニウムが好適に用いられる。
水酸化アルミニウムは不純物イオンが少ないことが好ましい。水酸化アルミニウム中の不純物イオンが少ない基準として、具体的には125℃、20時間抽出した時のナトリウムイオンが20ppm以下、塩化物イオンが5ppmであることが好ましい。
【0041】
・イオントラップ剤
イオントラップ剤としては、ハイドロタルサイト化合物、ビスマス化合物、ジルコニウム化合物等が挙げられ、これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0042】
・可撓性付与剤
可撓性付与剤としては、シリコーンオイル、シリコーンレジン、シリコーン変性エポキシ樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂等のシリコーン化合物;スチレン樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性エラストマー等が挙げられ、これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
可撓性付与剤としては、シリコーン変性エポキシ樹脂が好ましく、特に、アルケニル基含有エポキシ化合物と下記平均式(1)で表されるハイドロジェンオルガノポリシロキサンとのヒドロシリル化反応により得られる共重合化合物が好ましい。
【0043】
【化1】
(式(1)中、Rは、置換または非置換の炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の1価炭化水素基であり、aは0.01≦a≦1、bは1≦b≦3、1.01≦a+b<4である。)
【0044】
アルケニル基含有エポキシ化合物は、例えばアルケニル基含有フェノール樹脂をエピクロロヒドリンでエポキシ化したり、従来公知のエポキシ化合物に2-アリルフェノールを部分的に反応させたりすることにより得ることができる。該エポキシ化合物は、一分子中にアルケニル基を1個以上有する化合物であり、例えば、下記平均式(2)で表すことができる。
【0045】
【化2】
(式(2)中、R2'はアルケニル基を有する、炭素数3~15、好ましくは炭素数3~5の、脂肪族1価炭化水素基であり、R3'はグリシジルオキシ基または-OCH2CH(OH)CH2OR’で示される基であり、R’はアルケニル基を有する炭素数3~10、好ましくは炭素数3~5の1価炭化水素基であり、kは1であり、k'は0または1であり、xは1~30の数であり、yは1~3の数である)
【0046】
上記平均式(2)で表されるエポキシ化合物としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
【0047】
【化3】
(上記式において、x’及びy’は、1<x’<10、1<y’<3で示される数である)
【0048】
上記平均式(1)で表されるハイドロジェンオルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも1個のSiH基を有する。式(1)において、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、及びこれらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基、及びシアノエチル基等が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、フェニル基である。
【0049】
上記平均式(1)で示されるハイドロジェンオルガノポリシロキサンは、直鎖状、環状、及び分岐状のいずれでもよい。平均式(1)で示されるハイドロジェンオルガノポリシロキサンは、より具体的には、例えば、下記式(a)~(c)で表すことができる。
【化4】
【0050】
上記式(a)において、Rはそれぞれ独立に、置換又は非置換の、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の1価炭化水素基であり、R9は互いに独立に水素原子またはRの選択肢から選ばれる基であり、R8は下記式(3)に示す基である。n1は5~200の整数であり、n2は0~2の整数であり、n3は0~10の整数であり、n4は1または0である。
【0051】
【化5】
【0052】
式(3)中、R及びR9は上述の式(a)の通りであり、n5は1~10の整数である。但し、上記式(a)の化合物は1分子中に少なくとも1つの、ケイ素原子に結合した水素原子を有する。
【0053】
【化6】
式(b)において、Rは上記式(a)の通りであり、n6は1~10の整数であり、n7は1又は2である。
【0054】
【化7】
式(c)において、R及びR9は上記式(a)の通りであり、rは0~3の整数であり、R10は酸素原子を有してよい炭素数1~10の1価炭化水素基又は水素原子であり、上記式(c)の化合物は1分子中に少なくとも1の、ケイ素原子に結合した水素原子を有する。
【0055】
上記ハイドロジェンオルガノポリシロキサンとしては、両末端ハイドロジェンメチルポリシロキサン、両末端ハイドロジェンメチルフェニルポリシロキサンなどが好適である。例えば、以下の化合物が好ましい。
【0056】
【化8】
(式中、nは20~100の整数である。)
【化9】
(式中、mは1~10の整数であり、nは10~100の整数である。)
【0057】
・着色剤
着色剤としてはカーボンブラック、チタンブラック、酸化チタン等が挙げられ、これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0058】
・接着性付与剤
接着性付与剤としては、特に制限されず公知のものを使用することができる。例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン;N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプトシランなどのシランカップリング剤が挙げられる。これら1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0059】
・酸化防止剤
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ジブチルヒドロキシトルエン等)、イオウ系酸化防止剤(メルカプトプロピオン酸誘導体等)、リン系酸化防止剤(9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド等)などが挙げられる。酸化防止剤を用いる場合、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
これらのその他の添加剤の封止用樹脂組成物中の含有量は、各添加剤の機能を良好に発揮させる範囲内で適宜決定すればよいが、例えば熱硬化性樹脂成分(硬化剤使用時は硬化剤も含む)100質量部に対して0.1質量部以上30質量部以下の範囲である。
【0061】
[封止用脂組成物の製造方法]
本発明の封止用脂組成物は例えば次のようにして製造される。すなわち、熱硬化性樹脂、無機充填材、及びその他の添加剤をそれぞれ所定の量ずつ配合し、ミキサー等によって十分均一に混合した後、熱ロール、ニーダー、エクストルーダー等による溶融混合処理を行い、次いで冷却固化させ、適当な大きさに粉砕すればよく、得られた組成物は成形材料として使用できる。また、さらに打錠しタブレット形状としても使用できる。
【0062】
[封止用樹脂組成物の用途]
本発明の封止用樹脂組成物は、Si、SiC、GaN、Ga23、またはダイヤモンドにより形成されたパワー半導体素子が搭載された、トランジスタ型、モジュール型、DIP型、SO型、フラットパック型、ウエハーレベルパッケージ、ファンアウトパッケージ等のパワー半導体装置の封止樹脂として有用である。本発明の封止用樹脂組成物による半導体装置の封止方法は特に制限されるものでなく、従来の成形法、例えばトランスファー成形、インジェクション成形、コンプレッション成形、注型法等を利用すればよい。
【0063】
[封止用樹脂組成物の硬化物]
本発明の封止用樹脂組成物の成形(硬化)条件は特に規制されるものでないが、120~190℃で60~300秒間が好ましい。さらに、ポストキュアを150~250℃で0.5~8時間行うことが好ましい。
【0064】
[半導体装置]
本発明の半導体装置は、Si、SiC、GaN、Ga23、またはダイヤモンドにより形成されたパワー半導体素子が、封止用樹脂組成物の硬化物により封止されているものである。該半導体装置は、封止用樹脂組成物を用いて、前述の封止用樹脂組成物の用途に記載された封止方法等によって製造することができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0066】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0067】
熱硬化性樹脂
エポキシ樹脂1:NC-3000H(日本化薬(株)製、ビフェニルアラルキル型、エポキシ当量272g/eq)
エポキシ樹脂2:エピクロンHP-7200(DIC(株)製、ジシクロペンタジエン型、エポキシ当量258g/eq)
エポキシ樹脂3:FAE-2500(日本化薬(株)製、アルキル変性トリスフェノールメタンノボラック型、エポキシ当量220g/eq)
エポキシ樹脂4:EPPN-502H(日本化薬(株)製、トリスフェノールメタンノボラック型、エポキシ当量168g/eq)
エポキシ樹脂5:エピクロンHP-7400(DIC(株)製、トリスフェノールメタンノボラック型、エポキシ当量169g/eq)
エポキシ樹脂6:NC-3500(日本化薬(株)製、ビフェニルアラルキル型、エポキシ当量210g/eq)
【0068】
無機充填材
球状溶融シリカ:(株)龍森製、平均粒径=12μm
破砕溶融シリカ:フミテック(株)製、平均粒径=15μm
球状アルミナ:デンカ(株)製、平均粒径=15μm
【0069】
その他の添加剤
可撓性付与剤:アルケニル基含有エポキシ樹脂とポリオルガノシロキサンの共重合物(信越化学工業(株)製、エポキシ当量402g/eq)
硬化剤:フェノール樹脂 TD-2093Y(明和化成(株)製、OH基当量110g/eq)
離型剤1:合成ワックス リケマールSL-962(理研ビタミン(株)製)
離型剤2:カルナバワックス TOWAX-131(東亜化成(株)製)
着色剤:カーボンブラック デンカブラック(デンカ(株)製)
硬化促進剤1:N’-[3-[[[(ジメチルアミノ)カルボニル]アミノ]メチル]-3,5,5-トリメチルシクロへキシル]-N,N-ジメチルウレア U-cat 3513N(サンアプロ(株)製)
硬化促進剤2:1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7とフェノールノボラック樹脂の混合物 U-cat SA851(サンアプロ(株)製)
硬化促進剤3:トリフェニルホスフィンと1,4-ベンゾキノンの付加物
難燃剤1:ホスファゼン ラビトルFP-100((株)伏見製薬所製)
難燃剤2:モリブデン酸亜鉛担持タルク KEMGARD-911C(HUBER製)
難燃剤3:水酸化アルミニウム BF083(日本軽金属(株)製)
イオントラップ剤:ハイドロタルサイト化合物 DHT-4A-2(協和化学(株)製)
接着性付与剤1:γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン KBM-803(信越化学工業(株)製)
接着性付与剤2:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン KBM-403(信越化学工業(株)製)
【0070】
[実施例1~6、比較例1~6]
上記成分を表1及び表2に記載の組成(質量部)に従い配合し、実施例1~6、比較例1~6に関して各成分を溶融混合し、冷却、粉砕して封止用樹脂組成物を得た。各組成物を以下に示す方法に従い評価し、その結果を表3及び表4に示した。
【0071】
(誘電特性の試験片の作製)
各実施例及び各比較例で得られた封止用樹脂組成物を、トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間2分の条件で金型に注入成形し、直径50mm、厚さ3mmの円形状に成形した。成形後、オーブンを用い、180℃、4時間の条件でポストキュアを行った。その後、室温まで放冷し、誘電特性評価用の試験片を得た。試験片表面の電極接触部はイオンスパッターによりAuを蒸着した。試験片は測定まで20±5℃、湿度15±5%RHで管理されたデシケータ内で保管した。
【0072】
(誘電正接、誘電率、誘電損失)
得られた評価用の試験片(封止用樹脂組成物の硬化物)について、高温恒温器(エスペック(株)製 PHH102)内で、Keysight社製、E2912Aにより、以下の物性を測定した。結果を表3及び表4に示す。
【0073】
・150℃、0.1Hzにおける誘電正接
・150℃、0.1Hzにおける誘電率
・150℃、0.1Hzにおける誘電損失
・150℃、1Hzにおける誘電正接
・150℃、1Hzにおける誘電率
・150℃、1Hzにおける誘電損失
・25℃、0.1Hzにおける誘電正接
・25℃、0.1Hzにおける誘電率
・25℃、0.1Hzにおける誘電損失
・25℃、1Hzにおける誘電正接
・25℃、1Hzにおける誘電率
・25℃、1Hzにおける誘電損失
【0074】
(HTRB試験:HTRB信頼性の評価)
まず、定格耐圧電圧VCE1200VのIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)素子を、パッケージ仕様:TO-247のフレームにAu80Sn20ろう材を用いてダイボンディングし、そしてAlワイヤでワイヤボンディングした。これを、実施例又は比較例の封止用樹脂組成物で封止し、HTRB評価用パッケージを作製した。なお、封止用樹脂組成物の成形条件は175℃で2分、ポストキュア条件は180℃で4時間とした。
HTRB評価用パッケージの耐圧VCEは岩通通信機(株)製の半導体カーブトレーサー(型式CS-3100)を用いて測定した。コレクタ-エミッタ間に一定速度で印加電圧を昇圧していき、10nA漏れたときの電圧を耐圧として記録した。
エスペック(株)製の高温恒温槽(型式:STH-120)を150℃に設定し、恒温槽の中に上記のHTRB評価用パッケージを入れた。そして、高電圧電源(型式HVα-2K 125P1)を用いて、HTRB評価用パッケージに960Vの直流電圧を24時間印加し続けた。
その後、恒温槽を常温に戻し、印可していた電圧を切り、HTRB評価用パッケージを恒温槽から取り出した。取り出したパッケージについて、カーブトレーサ―を用いて耐圧VCEを測定した。コレクタ-エミッタ間に一定速度で印加電圧を昇圧していき、10nA漏れたときの電圧を耐圧として記録した。HTRB試験前後の耐圧低下量を求めた。各条件N=5のHTRB評価用パッケージにおいてHTRB試験を行い、平均値として耐圧低下量を算出し、結果を表3及び表4に記載した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
図1は、各実施例及び比較例の組成物の硬化物について、150℃、0.1Hzにおける誘電正接の測定値に対して、HTRB試験前後の耐圧低下量(V)をプロットしたグラフである。
上記表3、表4、及び図1に示すように、本発明の封止樹脂組成物の硬化物は、150℃、0.1Hzで測定した誘電正接が0.5以下であり、パワー半導体のHTRB試験時に耐圧低下を引き起こさない硬化物を提供する。
図1