IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の特許一覧

特開2022-174972乳酸菌由来のアンジオテンシン変換酵素阻害剤
<>
  • 特開-乳酸菌由来のアンジオテンシン変換酵素阻害剤 図1
  • 特開-乳酸菌由来のアンジオテンシン変換酵素阻害剤 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174972
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】乳酸菌由来のアンジオテンシン変換酵素阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/744 20150101AFI20221117BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20221117BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221117BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221117BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20221117BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
A61K35/744
C12N1/20 E
A61P43/00 111
A61P17/00
A61K8/99
A61Q19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081054
(22)【出願日】2021-05-12
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(74)【代理人】
【識別番号】100201101
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 祐子
(72)【発明者】
【氏名】木元 広実
(72)【発明者】
【氏名】守谷 直子
(72)【発明者】
【氏名】萩 達朗
(72)【発明者】
【氏名】金子 睦
(72)【発明者】
【氏名】浅井 宏文
【テーマコード(参考)】
4B065
4C083
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065BD08
4B065BD16
4B065CA44
4B065CA50
4C083AA031
4C083CC02
4C083EE12
4C083FF01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC55
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZC20
(57)【要約】
【課題】安全性が高いラクトコッカス属乳酸菌由来のACE阻害剤の提供。
【解決手段】ラクトコッカス・ラクティスN7株(受託番号:FERM P-18217)の生菌体、死菌体及び抽出物から選択される1種以上を含有する、アンジオテンシン変換酵素阻害剤および、それを有効成分とする皮膚の老化阻害組成物、しわ改善組成物、ACE阻害活性を増大させる方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトコッカス・ラクティスN7株(受託番号:FERM P-18217)の生菌体、死菌体及び抽出物から選択される1種以上を含有する、アンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【請求項2】
請求項1記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を有効成分とする、皮膚の老化阻害組成物。
【請求項3】
請求項1記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を有効成分とする、しわ改善組成物。
【請求項4】
ラクトコッカス・ラクティスN7株(受託番号:FERM P-18217)を、特定の炭素源下において培養する及び/又は熱処理することを特徴とする、アンジオテンシン変換酵素阻害活性を増大させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、当該阻害剤を含有する皮膚の老化阻害組成物及びしわ改善組成物、アンジオテンシン変換酵素阻害活性を増大させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンジオテンシン変換酵素(以下、「ACE」という。)は、主に肺の血管内皮細胞に存在し、アンジオテンシンIに作用して、末端よりジペプチドを遊離させて、強力な血圧上昇作用を有するアンジオテンシンIIを生成させる酵素である。また、ACEは、降圧作用を有するブラジキニンを分解し不活性化する作用を併せ持つ。
このようにACEは、昇圧ペプチド(アンジオテンシンII)を産生すると共に、一方では降圧ペプチド(ブラジキニン)を分解、不活性化するので、結果として血圧を上昇させる作用を示す。すなわち、ACEを阻害することにより血圧の上昇を抑制することが出来るため、ACE阻害物質は有効な経口血圧降下剤として、各種開発研究がなされている。
一方で、最近では、皮膚に発現したACEをACE阻害物質で阻害することにより、皮膚の光老化が抑制されることが報告され(非特許文献1)、それを利用したしわ改善組成物が提案されている(例えば、特許文献1等)。
【0003】
ACE阻害物質としては、蛇毒ペプチドをはじめとして、天然物質、合成物質が多数報告されており、カプトプリル(N-[(S)-3-メルカプト-2-メチルプロピオニル]-L-プロリン)等の合成物質は、既に経口降圧剤として実用化されている。しかしながら、合成物質を有効成分とする医薬品は、副作用など安全性の面で課題もあり安全性の高い降圧剤を期待し、天然物由来のACE阻害物質が各方面で研究されている。
ある種の乳酸菌はプロバイオティクス(適量の経口摂取により宿主の健康維持に寄与する微生物)として知られ、様々な効用が報告されている。一方で、乳酸菌体成分を用いた外用剤の報告(非特許文献2)も見られる。乳酸菌に対する消費者のイメージは良く、加えて、合成物質でなく、微生物由来とすることにより、安価で調製が可能である新しい化粧品素材の開発に向けて、安全性の高い乳酸菌体由来のACE阻害物質の開発が求められている。
これまでに、ある種の乳酸菌について、乳の発酵に伴いACE阻害作用を示すペプチドが生産されることが報告されている(例えば、特許文献2等)。これらの機能性ペプチドの産生には、菌株のタンパク質分解能が影響を与え、有効なペプチドの種、量を産生する乳酸菌は限られており、同活性が低いものは、ACE阻害活性を示す乳酸菌のスクリーニングの対象から外れていた。
乳酸菌は現在44属に分かれており、安全性が低い属もある。このうち、高い安全性が確認されているラクトコッカス属乳酸菌由来の、菌株のタンパク質分解能に関係がない、ACE阻害剤に関する、新たな提案が望まれている。菌株のタンパク質分解能に関係がないものからスクリーニングすることにより、スクリーニングできる菌株数が増え、有効な菌株が見つけやすくなる可能性がある。また、タンパク質分解能は菌株のタンパク質分解酵素の活性に左右されることが多いが、同酵素活性を増大させるには遺伝子組み換えなどの方法を用いるしかない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-148734号公報
【特許文献2】特開2008-133251号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Matsuura-Hachiya et al. 2013. Biochem. Biophys. Res. Commun.
【非特許文献2】Khmaladze et al. 2019. Exp. Dermatol.
【非特許文献3】Kimoto-Nira et al. 2019. Lett. Appl. Micobiol.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安全性が高く、プロバイオティクスにも汎用されているラクトコッカス属乳酸菌由来のACE阻害剤の提供と、当該阻害剤を用いた皮膚の老化阻害組成物及びしわ改善組成物、ACE阻害活性を増大させる簡便な方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ラクトコッカス属に属する特定の乳酸菌自体が、高いACE阻害活性を有することを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0008】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.ラクトコッカス・ラクティスN7株(受託番号:FERM P-18217)の生菌体、死菌体及び抽出物から選択される1種以上を含有する、アンジオテンシン変換酵素阻害剤。
2.1.記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を有効成分とする、皮膚の老化阻害組成物。
3.1.記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を有効成分とする、しわ改善組成物。
4.ラクトコッカス・ラクティスN7株(受託番号:FERM P-18217)を、特定の炭素源下において培養する及び/又は熱処理することを特徴とする、アンジオテンシン変換酵素阻害活性を増大させる方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明におけるラクトコッカスに属する乳酸菌N7株は、菌体自体が高いACE阻害活性を有するため、高い安全性を有する。そして本発明における乳酸菌N7株は、皮膚の老化阻害組成物及びしわ改善組成物として活用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の「乳酸菌N7株、H61株のACE阻害活性確認試験」の試験結果を示すグラフである。
図2】実施例5の「正常ヒト真皮線維芽老化誘導細胞の細胞増殖能に乳酸菌N7株が及ぼす影響の検討」におけるSA-β-Gal染色した顕微鏡観察画像である。左側が非老化誘導細胞、右側が老化誘導細胞の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明はラクトコッカス・ラクティスN7株の生菌体、死菌体及び抽出物から選択される1種以上を含有する、ACE阻害剤を提供するものである。
ラクトコッカス・ラクティスN7株の正式名称は、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス・バイオバラエティー・ジアセチラクティスN7株で、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されており、その受託番号は、FERM P-18217である。
本発明における乳酸菌N7株は、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門内 畜産物研究領域が有する乳酸菌ライブラリーに保存されていた菌株の中から、ACE阻害活性が極めて高い菌株として選抜されたものである。
後述する実施例において詳細に説明するものの、本発明における乳酸菌N7株のACE阻害活性は、紫外線UV-B照射による正常ヒト表皮角化細胞の生存率の減少抑制効果を有すること(非特許文献3)を、本発明者らが確認した乳酸菌H61株と比較しても、1.7倍程度高いことからも、その有用性は極めて高いものと考えられる。
【0012】
<培養条件>
本発明における乳酸菌N7株の培養条件は、特に制限がなく、従来公知の条件下において培養することができる。
培養培地としては、ラクトコッカス属に属する乳酸菌が資化可能な炭素源、窒素源又は無機塩類などの必要な栄養源を加えた培地を挙げることができる。乳酸菌が生育できる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよく、当業者であれば使用する適切な公知の培地を適宜選ぶことができる。炭素源としてはグルコース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、トレハロース、スクロース、マンノース、廃糖蜜などを使用することができ、窒素源としては肉エキス、ペプトン、イーストエキストラクト、カゼイン加水分解物、ホエータンパク質加水分解物、大豆タンパク質加水分解物などを使用することができる。また無機塩類としては、リン酸塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウムなどを用いることができる。乳酸菌の培養に適した培地としては、例えばM17培地(グルコース添加)、MRS液体培地、GYP培地、TYG培地、GAM培地、獣乳、脱脂乳、乳性ホエーなどが挙げられ、中でも、MRS培地が好適である。
本発明における乳酸菌N7株は、乳酸菌の培養に一般的に使用されるMRS培地(炭素源はグルコース)において別の糖源に代替して培養することにより、ACE阻害活性を向上させ得ることができ、中でも、ラクトース、フルクトースを添加した培地で培養することにより、グルコースを添加した場合よりも、ACE阻害活性が向上することが後述する実施例により確認されている。
【0013】
培養条件は、乳酸菌が生育し得る条件であれば特に制限はない。
培地のpHは特に制限されないものの、通常pH5~7、好ましくはpH6~7の範囲を挙げることができる。なお、培地や培養装置は100℃以下の低温で殺菌して利用することができる。
培養温度は、乳酸菌N7株の生育温度の範囲、好ましくは最適生育温度の範囲に設定すればよく、例えば4℃~40℃の範囲を挙げることができ、好ましくは25~30℃程度である。培養時間は、制限はされないものの、例えば1~2日程度を挙げることができる。
培養に際して、酸素は特に遮断する必要も供給する必要もない。培養の形式は、静置培養、振とう培養、タンク培養などが挙げられる。
【0014】
<加熱処理>
本発明における乳酸菌N7株は、培養後加熱処理した菌体のACE阻害活性が、生菌体のACE阻害活性よりも大きく向上することも後述する実験例により確認されている。
ここで、加熱処理とは、例えば菌体水懸濁液をブロックヒーターや湯浴に入れ、一定時間、保温することをいう。加熱処理に適した温度としては、95℃、100℃、121℃が挙げられるが、これに限定されない。
【0015】
本発明のACE阻害剤が含有する乳酸菌N7株は、生菌体であってもよく、死菌体であってもよく、また抽出物でもよい。
本発明における抽出物とは、水などの溶媒に懸濁した菌体部分を遠心分離により沈殿させた後の上清をいう。水に懸濁した菌体を加熱処理後にそのまま遠心分離したものは、「熱水抽出物」、加熱していない水に菌体を懸濁して、そのまま遠心分離を行った後の上清は「水抽出物」と呼称するが、いずれも本発明の抽出物に含まれる。
実施例において、実際に使用しているのはすべて抽出物であるが、抽出物に含まれるものは、もともと菌体の中にあるものなので、生菌体、死菌体にもACE阻害効果を有する物質が含まれていると考える。
菌体のACE阻害活性には菌体の糖タンパク質が関わっていると考えられ、糖成分は熱水で抽出されることから、生菌よりも関与成分の抽出量が多くなると考えられる。
【0016】
本発明における皮膚の老化阻害組成物及びしわ改善組成物は、上述の菌体または抽出物をそのまま、または水などに希釈して投与することができる。また、しわ改善組成物を構成する成分として、本発明の効果を損なわない範囲で、皮膚外用剤等に用いられる他の成分を、必要に応じて適宜配合することができる。前記他の成分(任意配合成分)としては、例えば油分、界面活性剤、粉末、色材、水、アルコール類、増粘剤、キレート剤、シリコーン剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、保湿剤、香料、各種薬効成分、防腐剤、pH調整剤、中和剤等が挙げられる。
【実施例0017】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0018】
<実施例1:乳酸菌N7株のACE阻害活性確認試験>
(1)試験検体
乳酸菌N7株、H61株それぞれを、MRS培地(Becton, Dickinson and Company, Sparks, MD, USA)において30℃で一晩培養した後、5000g、10分間の条件で遠心分離を行って集菌し、菌体を0.85%塩化ナトリウム溶液で2回洗浄後、水に懸濁させて、121℃で15分間加熱処理をした。このサンプルを凍結乾燥して、産業的に汎用される死菌体凍結乾燥菌体末を調製し、ACE阻害活性測定用の試験検体とした。
試験検体をそれぞれ2mg採取し水に懸濁した。この死菌体水懸濁液を13000g、10分間の条件で遠心分離を行い、得られた上清(死菌体水抽出物)を水で10倍希釈したものを実施例1と同じACE阻害活性試験に供した。
(2)試験方法
ACE阻害活性はACE阻害活性測定キット(DOJINDO LABORATORIES, Kumamoto)を用い、キットのプロトコルに従って測定した。
1.96ウェルのマイクロプレートに、20μLのサンプルをサンプルウェル、ブランク1およびブランク2のウェルに加える。
2.キットに含まれる反応基質20μLをそれぞれのウェルに添加する。
3.20μLの水をブランク2のウェルに加える。
4.20μLの酵素反応液をサンプルウェルとブランク1のウェルに加える。
5.プレートにシールを貼り、37℃の恒温槽で1時間保温する。
6.200μLの指示液をそれぞれのウェルに加える。
7.プレートを室温で10分間保温する。
8.マイクロプレートリーダー(BIO-RAD Model 3550 Microplate Reader (Hercules, CA)で450nmの吸光度を測定する。
[ACE阻害活性の算出式]
ACE阻害活性(%)=[(Ablank1-Asample)/(Ablank1-Ablank2)]×100
blank1:水の吸光度(450nm)
blank2:反応基質の吸光度
sample:菌サンプルの吸光度
試験結果を図1に示す。
【0019】
(3)結果
図1に示すように、本発明における乳酸菌N7株のACE阻害活性は54.3%である一方で、乳酸菌H61株は32.8%であった。すなわち、乳酸菌N7株のACE阻害活性は、乳酸菌H61株のACE阻害活性より1.7倍程度高いことが明らかとなった。
乳酸菌H61株は、紫外線UV-B照射による正常ヒト表皮角化細胞の生存率の減少抑制効果を有することを本発明者らが確認したことからも、N7株には光老化に対し、有益な効果をもつことが期待された。
上記のとおり、本発明における乳酸菌N7株は、高いACE阻害活性を有することが確認された。
【0020】
<実施例2:乳酸菌N7株の培養条件とACE阻害活性に関する確認試験1>
乳酸菌N7株について、一晩培養したMRS培養液を0.5%(v/v)でMRS培地に接種し、30℃で一晩培養した菌体(定常期)、5.5時間培養した菌体(対数期)、37℃で一晩培養した菌体を、集菌後、それぞれ水で3回洗浄後、水に懸濁して、100mg/mL(湿菌体重量 w/v)とした。この菌体水懸濁液を95℃で15分間加熱処理を行い、13000g、10分間の条件で遠心分離を行い、上清(熱水抽出物)について、実施例1に記載したACE阻害活性試験を行い、ACE阻害活性算出式に従い、ACE阻害活性(%)を算出した。
【0021】
(3)結果
上記試験結果を表1に示す。
【表1】
表1中の数値は平均値(標準偏差)を意味する。
表1中の*は、P<0.05 vs control(30℃、定常期、加熱処理有)を意味する。
【0022】
上記表1の結果より、乳酸菌N7株のACE阻害活性は、培養温度が30℃の方が37℃よりも高く、定常期培養の方が対数期培養より高く、加熱処理をした場合の方が加熱処理をしない菌体よりも高いことが見出された。従って、N7株の最適な培養条件は、30℃、一晩培養であることが明らかとなった。
【0023】
<実施例3:乳酸菌N7株の培養条件とACE阻害活性に関する確認試験2>
(1)試験方法
炭水化物(グルコース)を含まないMRS培地(C free MRS)を調製した。
このMRS培地(C free MRS)は、1%プロテオースペプトン、0.5%酵母エキス、0.1%Tween80、0.2%クエン酸アンモニウム、0.5%酢酸ナトリウム、0.01%硫酸マグネシウム、0.005%硫酸マンガン、及び0.2%リン酸二カリウムを含有する(pH6.5)。
グルコース、フルクトース、ラクトース、ガラクトースの10%溶液をそれぞれ作製し、フィルター(0.2μm、株式会社アドバンス製)で濾過し滅菌した。この溶液を、上記MRS培地に最終濃度が0.5%(v/v)になるように添加した。N7株を10%スキムミルクで一晩培養し、その1白金耳を0.85%塩化ナトリウム溶液に懸濁した菌液をそれぞれの培地に、0.5%濃度(v/v)で接種し、一晩培養した。培養菌体を集菌後、水で3回洗浄後、水に懸濁して、100mg/mL(湿菌体重量 w/v)とした。この菌体水懸濁液を95℃で15分間加熱処理を行い、13000g、10分間の条件で遠心分離を行い、上清(熱水抽出物)について、実施例1に記載したACE阻害活性試験を行い、ACE阻害活性算出式に従い、ACE阻害活性(%)を算出した。
【0024】
(2)結果
上記試験結果を表2に示す。
【表2】
表2中の数値は平均値(標準偏差)で示す。
表2中の異なる文字間では、有意差あり(P<0.05)を意味する。
【0025】
上記表2の結果より、乳酸菌N7株は、培地中の炭素源の種類により菌体のACE阻害活性が変化し、ラクトース、フルクトースを添加した培地で培養した方が、汎用されるグルコース添加培地を使用した場合よりもACE阻害活性が高いことが確認された。
【0026】
<実施例4:正常ヒト真皮線維芽細胞への乳酸菌N7株の細胞毒性の検討>
(1)試験検体
乳酸菌N7株を、MRS培地において30℃で一晩培養した後、集菌し、菌体を水で3回洗浄後、水に懸濁させて、121℃で15分間加熱処理をした。この菌体水懸濁液を13000g、10分間の条件で遠心分離を行い、上清(熱水抽出物)を採取し、凍結乾燥したものを試験検体とした。
(2)試験方法
正常ヒト真皮線維芽細胞を、DMEM培地(5%FBS)を用いて、1.0×10cells/wellの細胞密度で48穴プレートに播種した。24時間培養後、上述の試験検体を、下記表3記載の濃度で含有するDMEM培地(5%FBS)に交換し、72時間培養した。培養後、細胞をトリプシン処理にて回収した後、フローサイトメトリーを用いて細胞数をカウントした。測定値について、Student‐t検定を用いて有意差検定を行った。
【0027】
(3)結果
上記試験結果を表3に示す。
【表3】
表3中(1)は、試料未処理細胞に対する有意差を意味する。
【0028】
表3に示すとおり、乳酸菌N7株菌体熱水抽出物の濃度が10mg/mLにおいて、正常ヒト真皮線維芽細胞の形態に異常が認められたこと、検体未添加の場合に比べて、Index(%)の減少傾向が認められたことから、以下の実施例5では、最高濃度を5mg/mLとした。
また、乳酸菌N7株熱水抽出物を0.04~5mg/mLを添加しても、正常ヒト真皮線維芽細胞の生存には影響がないことが明らかとなった。
【0029】
<実施例5:正常ヒト真皮線維芽老化誘導細胞の細胞増殖能に乳酸菌N7株が及ぼす影響の検討>
(1)老化誘導した細胞の調製
正常ヒト真皮線維芽細胞に用時調整した600μmol/Lの過酸化水素を含有するDMEM(0%FBS)を添加して37℃で1時間培養した。1時間培養後、過酸化水素含有DMEM(0%FBS)を除去し、DMEM培地(10%FBS)を添加した。この操作を4日間繰り返した後、DMEM培地(10%FBS)で3日間培養した。ここで得られた細胞を老化誘導細胞とした。
老化誘導細胞の老化判定はSA-β-Gal染色にて行った。
すなわち、老化誘導細胞及び非老化誘導細胞を、5×10cells/wellの細胞密度にて48穴プレートに播種した。24時間培養した後、3%ホルムアルデヒドを含有するPBSにて固定した。1mg/mLのX-Galを含有するpH6の反応液(40mmol/Lクエン酸/リン酸ナトリウム、0.5mmol/Lフェロシアン化カリウム、5mmol/Lフェリシアン化カリウム、150mmol/L塩化ナトリウム、2mmol/L塩化マグネシウム)に交換し、16時間培養した。
培養後、顕微鏡観察を行い、非老化誘導細胞と老化誘導細胞で、老化マーカーであるSA-β-Gal染色強度を比較し、老化誘導細胞において非老化誘導細胞よりも染色強度の増加を確認した。
【0030】
(2)細胞増殖能の評価試験
老化誘導細胞及び非老化誘導細胞を、DMEM培地(5%FBS)を用いて、1.0×10cells/wellの細胞密度で48穴プレートに播種した。24時間培養後、老化誘導細胞群では、乳酸菌N7株の菌体を121℃、15分で加熱処理後、遠心分離を行った熱水抽出試験検体を、下記表4記載の濃度で含有するDMEM培地(5%FBS)に交換し、72時間培養した。非老化誘導細胞では、試験検体を含有しないDMEM培地(5%FBS)に交換し、72時間培養した。培養後、細胞をトリプシン処理にて回収した後、フローサイトメトリーを用いて細胞数をカウントした。Student‐t検定を用いて有意差検定を行った。結果を表4に示す。
【0031】
【表4】
表4中の(1)は、非老化誘導細胞の試料未処理細胞に対する有意差を意味する。
表4中の(2)は、老化誘導細胞の試料未処理細胞に対する有意差を意味する。
【0032】
(3)結果
表4に示すとおり、老化誘導細胞は、非老化誘導細胞に比べて、細胞数が有意に減少した。正常ヒト真皮線維芽老化誘導細胞に乳酸菌N7株の菌体熱水抽出物を0.5~5.0mg/mLの範囲で添加すると、未添加の場合よりも細胞数が有意に増加し、細胞増殖能が増加することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、安全性が高いラクトコッカス属乳酸菌由来のACE阻害剤を提供することができる。またそれを用いた皮膚の老化阻害組成物及びしわ改善組成物を提供することができる。
図1
図2