(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175086
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】合成DNA分子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20221117BHJP
C12P 19/34 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C12N15/09 Z ZNA
C12P19/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081230
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】岡村 好子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏和
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 京平
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 雄哉
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AF27
4B064CA21
4B064CC24
(57)【要約】
【課題】クローニング工程やシークエンス工程を必要とせずに、目的のDNA分子を正確且つ短時間で得られるようにする。
【解決手段】所望の配列からなる合成DNA分子の製造方法は、所望の配列の一部をそれぞれが有する複数の鋳型オリゴヌクレオチドを準備する工程と、複数の鋳型オリゴヌクレオチド同士を所望の配列通りに並べた場合に隣接するオリゴヌクレオチド同士の端部の配列に相補的な配列を有する複数のスプリントオリゴヌクレオチドを準備する工程と、複数の鋳型オリゴヌクレオチドに複数のスプリントオリゴヌクレオチドをアニーリングする工程と、アニーリングする工程の後に、複数の鋳型オリゴヌクレオチド同士をライゲーションして、複数のスプリントオリゴヌクレオチドを相補鎖として含む環状1本鎖DNAを合成する工程と、環状1本鎖DNAを鋳型として、φ29DNAポリメラーゼを用いて2本鎖DNAを合成する工程とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の配列からなる合成DNA分子の製造方法であって、
前記所望の配列の一部をそれぞれが有する複数の鋳型オリゴヌクレオチドを準備する工程と、
前記複数の鋳型オリゴヌクレオチド同士を前記所望の配列通りに並べた場合に隣接する前記鋳型オリゴヌクレオチド同士の端部の配列に相補的な配列を有する複数のスプリントオリゴヌクレオチドを準備する工程と、
前記複数の鋳型オリゴヌクレオチドに前記複数のスプリントオリゴヌクレオチドをアニーリングする工程と、
前記アニーリングする工程の後に、前記複数の鋳型オリゴヌクレオチド同士をライゲーションして、前記複数のスプリントオリゴヌクレオチドを相補鎖として含む環状1本鎖DNAを合成する工程と、
前記環状1本鎖DNAを鋳型として、φ29DNAポリメラーゼを用いて2本鎖DNAを合成する工程とを備えていることを特徴とする合成DNA分子の製造方法。
【請求項2】
前記鋳型オリゴヌクレオチドは、複数のコアオリゴヌクレオチド及びランナーオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする請求項1に記載の合成DNA分子の製造方法。
【請求項3】
前記ライゲーションにより得られた前記環状1本鎖DNAを希釈する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の合成DNA分子の製造方法。
【請求項4】
前記2本鎖DNAを、マルチプルディスプレースメント増幅(MDA)法又はマルチプリープライムローリングサークル増幅法(MPRCA)法によって増幅することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の合成DNA分子の製造方法。
【請求項5】
合成した前記2本鎖DNAを、切断及び脱リン酸化の制御とエクソヌクレアーゼ処理とにより必要とする1本鎖DNA配列を作製し、該1本鎖DNA配列を前記環状1本鎖DNAの材料として用いて、前記合成2本鎖DNAを合成することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の合成DNA分子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成DNA分子の製造方法に関し、特に長鎖の合成DNA分子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、DNAを合成する場合はポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction;PCR)法が広く用いられている。また近年、鋳型DNAが手元に存在しないためPCR法では得ることができない遺伝子や、配列情報しか無い遺伝子の下流アプリケーションにおける配列利用のために種々の合成DNA分子の作製方法が考案されてきている。その中でも最も多く利用されている方法としてPolymerase Cycling Assembly(PCA)法が知られている(非特許文献1等)。PCA法では、複数の配列が正確な80塩基~200塩基のオリゴヌクレオチドを互いに15塩基~30塩基程度オーバーラップするように合成し、それぞれのオーバーラップ領域の3’末端からDNAポリメラーゼによって延長させる。これにより数kbの長さのDNAを合成することが可能となる。
【0003】
PCA法の他に、合成DNA分子の作製方法としてはLigation Chain Reaction(LCR)法が知られている(非特許文献2等)。LCR法は、複数の60塩基~100塩基のオリゴヌクレオチドを準備し、耐熱リガーゼを利用して熱サイクルを50回以上繰り返して、ライゲーション効率を高めて上記複数のオリゴヌクレオチドを互いにつなぐことにより、最終的に所望のDNA配列を得る方法である。得られたDNA配列は、鋳型として用いてPCR法によって末端から増幅、又はベクターに繋げて大腸菌内で増幅を行う。
【0004】
これらの他に、Patch Oligodeoxynucleotide Synthesis(POS)法も知られている(非特許文献3等)。POS法は、上記LCR法と異なり正鎖及び逆鎖の両方ではなく、片方の鎖のみをライゲーションでつなぎ、その後にPCR法によって末端から増幅することによって目的のDNAを得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gene, 164, p49-53, 1995.
【非特許文献2】ACS Synthetic Biology, 3, 2, p97-106, 2014.
【非特許文献3】Biotechnology Letters, 34, p721-728, 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記非特許文献1に示すPCA法では、合成する配列にもよるが、通常PCA法によって正確に合成できるDNAの長さは2kb~3kb程度であり、これ以上の長さのDNAをPCA法のみで合成することは困難であり、合成する長さが長くなるほどにエラーの発生確率が高くなり好ましくない。従って、オリゴヌクレオチド合成不良由来の変異もあいまってこのようなエラーが無いことを確認するための大腸菌等のホスト細胞へのクローニングやシークエンス確認が必要となり、結果的に所望のDNAの作製に時間がかかることとなる。
【0007】
また、上記非特許文献2に示すLCR法では、合成オリゴヌクレオチドを目的のDNAの正鎖と逆鎖との両方の全領域分を用意する必要があり、さらに、工程の最後にPCR法によって目的の長さを有する伸長鎖のみを分離する必要がある。このため、エラーの有無の確認のための大腸菌等のホスト細胞へのクローニング工程及びシークエンス工程も必要となり、結果的に時間及びコストがかかる。PCRを工程に含まない場合でも、合成オリゴヌクレオチド由来のエラーを排除するためには大腸菌等のホスト細胞へのクローニング工程が必須であり、結果的に時間とコストの削減にはつながっていない。この変異の排除のため大腸菌等のホスト細胞へのクローニング工程は、非常に手間が掛かかるにもかかわらず、機械化による全自動化が難しい作業となっており、ハイスループット化の妨げになっていることが指摘されてきた。
【0008】
また、上記非特許文献3では、POS法を用いてYFP遺伝子(678bp)及びラットのcateninβ1(2352bp)の合成に成功しているが、エラー率は算出されていない。POS法もLCR法と同様に、工程の最後にPCR法によって二本鎖化され且つ目的の長さを有する伸長鎖のみを分離する必要がある。このため、PCA法と同様にエラーの有無の確認のための大腸菌等のホスト細胞へのクローニング工程及びシークエンス工程も必要となり、結果的に時間及びコストがかかる。
【0009】
以上のように、従来の合成DNA分子の製造方法では、PCR法を用いる必要があるため、結果的に大腸菌等のホスト細胞へのクローニング工程やシークエンス工程といった目的の結果物が得られているか否かの確認工程を必要とし、その結果、多くの時間とコストを必要とすることとなる。また、いずれの方法にせよ、合成したオリゴヌクレオチドに一定程度含まれる合成不良由来の変異のみならず、PCR中の変異の排除のために、ベクターへのクローニングと大腸菌等のホスト細胞への導入、その後単一クローンの単離及びシークエンス決定による変異の排除が必須である。結果的に多種多様な配列を合成するための、全自動化プラットフォームが形成できない。
【0010】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、所望の結果物が得られているか否かを確認するための大腸菌等のホスト細胞へのクローニング工程を必要とせずに、最低限のシークエンス工程で目的のDNA分子が多種多様であっても、該DNA分子を正確且つ短時間で得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究の結果、所望の配列を有するオリゴヌクレオチド同士を、該オリゴヌクレオチド同士の端部に相補的な配列を有するスプリントオリゴヌクレオチドを介してライゲーションすることのみで1本鎖DNAを合成し、φ29DNAポリメラーゼを用いて、合成された1本鎖DNAを鋳型としてスプリントオリゴヌクレオチドが結合された領域からポリメラーゼ反応を開始させることで、所望の配列を有する長鎖DNAを正確且つ簡便に合成できることを見出して本発明を完成した。
【0012】
具体的に、本発明に係る合成DNA分子の製造方法は、所望の配列からなる合成DNA分子の製造方法であって、前記所望の配列の一部をそれぞれが有する複数の鋳型オリゴヌクレオチドを準備する工程と、前記複数の鋳型オリゴヌクレオチド同士を前記所望の配列通りに並べた場合に隣接する鋳型オリゴヌクレオチド同士の端部の配列に相補的な配列を有する複数のスプリントオリゴヌクレオチドを準備する工程と、前記複数の鋳型オリゴヌクレオチドに前記複数のスプリントオリゴヌクレオチドをアニーリングする工程と、前記アニーリングする工程の後に、前記複数の鋳型オリゴヌクレオチド同士をライゲーションして、前記複数のスプリントオリゴヌクレオチドを相補鎖として含む環状1本鎖DNAを合成する工程と、前記環状1本鎖DNAを鋳型として、φ29DNAポリメラーゼを用いて2本鎖DNAを合成する工程とを備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る合成DNA分子の製造方法では、従来のようにPCR法を利用するのではなく、ライゲーション反応によって所望の配列を有するオリゴヌクレオチド同士を結合して1本鎖DNAを伸長及び環状化し、得られた環状化1本鎖DNAを鋳型として、φ29DNAポリメラーゼを用いて2本鎖DNAを合成する。ライゲーション反応は塩基の変異導入リスクがほぼ無く、また、φ29DNAポリメラーゼはTaqDNAポリメラーゼの1000倍以上の忠実度が保証されており、現在市販されているいずれのPCR酵素よりも信頼性が高く、塩基の変異導入リスクを回避することができる。特に環状化1本鎖DNAを鋳型とすると、環状DNAを鋳型として繰り返し使用するマルチプリープライムローリングサークル増幅(MPRCA)法を利用できるため2本鎖DNAの増幅効率を向上することができる。従って、本発明に係る合成DNA分子の製造方法によると、所望の配列の長鎖DNAを正確に合成できるため、従来のPCR法を利用した方法のように得られた合成DNAの配列の確認作業としての大腸菌等のホスト細胞へのクローニング工程と単一クローンの単離を不要とすることができて、さらに本方法で作成された2本鎖DNAは未精製でも直接シークエンス工程に持ち込めることから、結果的に合成に関わる時間を短縮でき合成コストも低減することができる。また、ホスト細胞を経由するクローニング工程が必要ないため、多種多様な配列を合成するための、全自動化プラットフォームの作成が可能となる。
【0014】
本発明に係る合成DNA分子の製造方法において、前記鋳型オリゴヌクレオチドは、複数のコアオリゴヌクレオチド及びランナーオリゴヌクレオチドを含むことが好ましい。
【0015】
本発明に係る合成DNA分子の製造方法は、前記ライゲーションにより得られた前記環状1本鎖DNAを希釈する工程をさらに含むことが好ましい。
【0016】
このようにすると、環状化が成功した1本鎖DNA産物を希釈して使用することにより、合成オリゴヌクレオチドに僅かに含まれる合成不良のオリゴヌクレオチドを、確率論的に除去できるため、高効率で所望の2本鎖DNAを合成することができる。
【0017】
本発明に係る合成DNA分子の製造方法において、前記2本鎖DNAを、マルチプルディスプレースメント増幅(MDA)法又はマルチプリープライムローリングサークル増幅法(MPRCA)法によって増幅することが好ましい。
【0018】
これらの方法を用いることによって、所望の2本鎖DNAを効率良く得ることができる。
【0019】
本発明に係る合成DNA分子の製造方法において、合成した前記2本鎖DNAを、切断及び脱リン酸化の制御とエクソヌクレアーゼ処理とにより必要とする1本鎖DNA配列を作製し、該1本鎖DNA配列を前記環状1本鎖DNAの材料として用いて、前記合成2本鎖DNAを合成することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る合成DNA分子の製造方法によると、所望のDNAを従来の方法よりも正確に、短い合成時間で且つ、低いコストで合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る合成DNA分子の製造方法における2本鎖DNA分子の合成工程を説明するための概要図である。
【
図2】実施例において作製した鋳型オリゴヌクレオチド同士のライゲーション生成物を、アガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。
【
図3】実施例において作製した鋳型オリゴヌクレオチド同士のライゲーションの改良した生成物を、アガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。
【
図4】実施例において作製した鋳型オリゴヌクレオチド同士の環状化ライゲーション生成物を2本鎖DNAとして増幅した後に制限酵素により切断した後の生成物を、アガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。
【
図5】実施例において作製した鋳型オリゴヌクレオチド同士の環状化ライゲーション生成物を、段階希釈し2本鎖DNAとして増幅した後に制限酵素により切断した後の生成物を、アガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。
【
図6】実施例において作製した鋳型オリゴヌクレオチド同士の環状化ライゲーション生成物を、希釈前(上段)と限界希釈(下段)して2本鎖DNAとして増幅した後に、シークエンス反応を行い全自動シークエンサーで得られた結果を示すデータ図である。
【
図7】実施例において作製した鋳型オリゴヌクレオチド同士のライゲーション生成物を環状化した後に制限酵素により切断した後の生成物としての2本鎖DNA及びエクソヌクレアーゼ処理による1本鎖DNAを、ポリアクリルアミドゲル電気泳動した結果を示す写真である。
【
図8】実施例において作製した4種の1本鎖DNAの組み合わせのライゲーション産物をさらにライゲーションし2本鎖DNAとして増幅によって得られた生成物をさらに制限酵素により切断した後の生成物を、アガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。
【
図9】実施例において作製した種の鋳型オリゴヌクレオチドの組み合わせのライゲーション産物をさらにライゲーションして得られた生成物を鋳型としてPCRを行って得られたPCR産物を、アガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0023】
本発明の一実施形態に係る合成DNA分子の製造方法の概要を
図1に示す。
図1に示すように、本実施形態に係る製造方法は、所望の配列からなる合成DNA分子の製造方法であって、所望の配列の一部をそれぞれが有する所望の配列である複数のコアオリゴヌクレオチドとそれらを環状にするためのランナーオリゴヌクレオチドとからなる鋳型オリゴヌクレオチドを準備する工程と、複数の鋳型オリゴヌクレオチド同士を前記所望の配列通りに並べた場合に隣接する鋳型オリゴヌクレオチド同士の端部の配列に相補的な配列を有する複数のスプリントオリゴヌクレオチドを準備する工程と、複数の鋳型オリゴヌクレオチドに複数のスプリントオリゴヌクレオチドをアニーリングする工程と、アニーリングする工程の後に、複数の鋳型オリゴヌクレオチド同士をライゲーションして、複数のスプリントオリゴヌクレオチドを含む環状化された1本鎖DNAを合成する工程と、環状化1本鎖DNAを鋳型として、φ29DNAポリメラーゼを用いて2本鎖DNAを合成する工程とを備えていることを特徴とするものである。
【0024】
本実施形態において、鋳型オリゴヌクレオチドは、所望の配列通りに常法によって1塩基ずつ正確に合成された10~100塩基程度の合成オリゴDNAである。複数の鋳型オリゴヌクレオチドは、それぞれ最終的に合成したいDNA分子の配列の一部からなり、それらの複数の鋳型オリゴヌクレオチドの配列によって、所望のDNA分子の全配列をカバーし得る。言い換えると、複数の鋳型オリゴヌクレオチドを繋ぐことによって所望のDNA分子の全配列となり得る。
【0025】
本実施形態において、スプリントオリゴヌクレオチドは、所望の配列通りに常法によって1塩基ずつ正確に合成された約20から30塩基前後の合成オリゴDNAであり、
図1に示すようにcircular assembling into ordered sequence (CAIOS)法で鋳型オリゴヌクレオチドを接続するために用いられるオリゴDNAである。スプリントオリゴヌクレオチドは、上記鋳型オリゴヌクレオチドの端部の配列と相補的な配列を有するものである。より具体的には、所望のDNA分子の配列に従って上記複数の鋳型オリゴヌクレオチドを整列させた場合に、隣接する鋳型オリゴヌクレオチド同士の端部に相補的である。言い換えると、スプリントオリゴヌクレオチドは、当該隣接する鋳型オリゴヌクレオチドの構成物であるコアオリゴヌクレオチド又はランナーオリゴヌクレオチドの端部に跨るようにアニーリングできる配列を有する。
【0026】
本実施形態において、鋳型オリゴヌクレオチドとスプリントオリゴヌクレオチドは、上述の通りアニーリングされるが、その際の溶媒や温度条件は特に限定されず、当業者に周知の方法で最適な条件が適宜選択可能である。当該アニーリング工程により、各鋳型オリゴヌクレオチドの端部に対して、それらと相補的な配列を有するスプリントオリゴヌクレオチドがアニーリングされることとなる。
【0027】
本実施形態において、アニーリング工程によって得られたスプリントオリゴヌクレオチドにアニーリングされた鋳型オリゴヌクレオチド同士がライゲーションにより接続される。当該ライゲーションのための溶媒やリガーゼ及び温度条件は、特に限定されないが、当業者に周知の方法で最適な条件が適宜選択可能である。なお、必要に応じて実際のライゲーション工程の前に、鋳型オリゴヌクレオチドの5’末端に対してリン酸化処理を行うことが好ましい。本実施形態において、当該ライゲーション工程により、上記スプリントオリゴヌクレオチドにアニーリングされた鋳型オリゴヌクレオチド同士が接続される。具体的に、所望のDNA分子の配列に従って、隣接する配列を有する鋳型オリゴヌクレオチド同士が接続される。これは、鋳型オリゴヌクレオチドの端部にスプリントオリゴヌクレオチドがアニーリングしているため、鋳型オリゴヌクレオチドの端部同士がスプリントオリゴヌクレオチドによる二本鎖を介して隣接してニックと呼ばれる切れ目が生成され、このニック部分がリガーゼにより結合されることにより、鋳型オリゴヌクレオチド同士が接続されることなり、鋳型オリゴヌクレオチドを含む鎖は、環状化される。
【0028】
本実施形態において、複数の鋳型オリゴヌクレオチド同士をライゲーションした後に、環状化1本鎖DNAを鋳型として、φ29DNAポリメラーゼを用いて2本鎖DNAを合成する。φ29DNAポリメラーゼは、TaqDNAポリメラーゼの1000倍以上の忠実度が保証されており、現在市販されているいずれのPCR酵素よりも信頼性が高く、塩基の変異導入リスクを回避することができて好ましい。また、φ29DNAポリメラーゼによる反応は等温反応であるため、熱サイクルを必要とせず好ましい。φ29DNAポリメラーゼを用いた2本鎖DNAの合成には、マルチプルディスプレースメント増幅(MDA)法又はマルチプリープライムローリングサークル増幅法(MPRCA)法等を用いることができる。
【0029】
MDA法は、鎖置換型DNA合成酵素とランダムプライマーとを用いたDNA増幅方法として知られている(Proc. Natl. Acad. Sci. USA、2002年、第99巻、p5261-5266)。MDA法は、一般に、(1)変性した一本鎖DNAにランダムにプライマーがアニールする。(2)アニールしたプライマーからDNA合成が開始され、合成方向に存在する他のプライマーによって先に合成されている相補鎖DNAを鋳型DNA鎖からはがしながら、DNA合成が続く。また、剥がされたDNA鎖にも新たにプライマーがアニールする。(3)剥がされたDNA鎖にアニールしたプライマーからもDNA合成が行われ、これら一連の反応が連鎖的に起きる。初期鋳型は最も3’末端からの合成が終了した後、二度と使用されることはない。これは剥がされたDNA鎖でも同様である。
【0030】
本実施形態において、
図1に示すように、複数の鋳型オリゴヌクレオチド同士をライゲーションして得られた1本鎖DNAを2本鎖DNAに合成する前に、環状化する工程を有する。そうすると、環状DNAを鋳型として繰り返し使用するMPRCA法を利用できるため2本鎖DNAの増幅効率を向上することができる。MPRCA法は、上述の通り、環状DNAを鋳型として繰り返し使用してDNAを増幅する方法であって、ローリングサークル増幅(RCA)法の応用法として知られている(Genome Research、2001年、第11巻、p.1095-1099)。RCA法は、環状1本鎖DNAを鋳型として、鋳型にハイブリダイズしたプライマーの3’末端を基点にDNAポリメラーゼがDNAを合成し、環状の鋳型を一周してプライマーの5’末端にDNAポリメラーゼが戻ってきたときに、前方にあるDNA鎖をポリメラーゼが2本鎖DNAを引き剥がしつつDNAを合成する鎖置換をしながらDNA合成を続け、環状DNAの相補鎖配列がタンデムな状態で並んだ長鎖の一本鎖DNAを合成する方法である。一方、MPRCA法は、鋳型となる環状DNAに対して、複数個所を開始点として複数の特異的プライマーを用いてRCAを実施する方法である。これは、各環状鋳型上の複数の成長点で合成が一段と速やかに進行するという利点を有する。本実施形態では、鋳型オリゴヌクレオチドにアニーリングしたスプリントオリゴヌクレオチドが上記複数個所の開始点を担うことができる。
【0031】
また、本実施形態において、上記のようにして得られた環状化された1本鎖DNAは、2本鎖DNAの合成前に希釈して用いられることが好ましい。このようにすると、合成オリゴヌクレオチドに僅かに含まれる合成不良のオリゴヌクレオチドを、希釈によって確率論的に除去できるため、高効率で所望の2本鎖DNAを合成することができる。
【0032】
また、本実施形態において、得られた2本鎖DNAをさらに再度の2本鎖DNAの合成に用いることが好ましい。具体的に、
図1に示すように、所望の配列である複数のコアオリゴヌクレオチドとそれらを環状にするためのランナーオリゴヌクレオチドをライゲーションして環状化し、MPRCA法により2本鎖DNAを合成した後に、ランナーオリゴヌクレオチドとコアオリゴヌクレオチドとの接続部を所定の制限酵素により切断する。その後、脱リン酸化した上でもう一方のランナーオリゴヌクレオチドとコアオリゴヌクレオチドとの接続部を所定の制限酵素で切断してランナーオリゴヌクレオチドを除去する。その後、所定のエキソヌクレアーゼ(例えばラムダエキソヌクレアーゼ)によって一本鎖にし、その後、さらに所望の配列からなるオリゴヌクレオチド同士をライゲーションして環状化し、MPRCA法により2本鎖DNAを合成することを繰り返す。これにより、さらに長鎖の2本鎖DNAを正確な配列で簡便且つ速やかに合成することができる。
【実施例0033】
以下に、本発明に係る合成DNA分子の製造方法について詳細に説明するための実施例を示す。
【0034】
(オリゴヌクレオチド)
本実施例において、鋳型オリゴヌクレオチドとは複数のコアオリゴヌクレオチドだけで構成されている混合物と、複数のコアオリゴヌクレオチドとランナーオリゴヌクレオチドの混合物の、両形態の総称として用いている。本実施例において用いたコアオリゴヌクレオチドを表1に示し、コアオリゴヌクレオチドに対するスプリントオリゴヌクレオチドを表2に示し、コアオリゴヌクレオチドとランナーオリゴヌクレオチドに対するスプリントオリゴヌクレオチドを表3に示し、ランナーオリゴヌクレオチドを表4に示した、また以下の実験で用いるこれらのオリゴヌクレオチドの組み合わせを、直鎖状の連結は表5に、1回目の環状化の連結は表6に示す。さらに、1回目の環状化及び2本鎖DNA合成から作成された1本鎖DNAの連結に用いられたスプリントオリゴヌクレオチドを表7に示し、用いられたオリゴヌクレオチドの組み合わせを表8に示す。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
表1及び表2からわかるように、B89はMth for pGEX2及びT90、B90はT90及びT91、B91はT91及びT92、B92はT92及びT93の5’端又は3’端にそれぞれアニーリング可能な配列となっている。また、B94は、T94及びT95、B95はT95及びT96、B96はT96及びT97、B97はT97及びT98の5’端又は3’端にそれぞれアニーリング可能な配列となっている。また、B99はT99及びT100、B100はT100及びT101、B101はT101及びT102、B102はT102及びT103の5’端又は3’端にそれぞれアニーリング可能な配列となっている。また、B104はT104及びT105、B105はT105及びT106、B106はT106及びT107、B107はT107及びT108の5’端又は3’端にそれぞれアニーリング可能な配列となっている。なお、B89i、B91i、B102i、B104i、B105i及びB107iは、Tm値を改善するために、それぞれB89、B91、B102、B104、B105及びB107を5mer長くしたものである。
【0044】
<直鎖状での予備試験>
(鋳型オリゴヌクレオチドのリン酸化)
まず、各鋳型オリゴヌクレオチド同士が、スプリントオリゴヌクレオチドを介して接続して所望の通りの合成産物が得られるかを、以下の通りに確認した。後の鋳型オリゴヌクレオチド同士のライゲーションのために鋳型オリゴヌクレオチドの5’末端のリン酸化を行った。そのために、鋳型オリゴヌクレオチドの各組み合わせ(MthL_1、MthL_2、MthL_3、MthL_4)にそれぞれ50μMを5μLずつ準備し、それぞれに対して10×リン酸化バッファー(200mM酢酸トリス(pH7.8)、100mM 酢酸マグネシウム、1mgウシ血清由来のアルブミン)、10mMのATP、を5μLずつと、100mMのDTTを0.5μL、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs)を2μL、32.5μLの蒸留水を加えて総量50μLとした。それらの混合液を37℃で30分間処理してオリゴヌクレオチドのリン酸化反応をした後に、65℃で20分間処理して酵素を失活させ、その後に12℃に冷却した。この反応の結果、各オリゴヌクレオチドの濃度は1μM(1pmol/μL)となった。
【0045】
(アニーリング)
上記リン酸化処理の後、各鋳型オリゴヌクレオチドとスプリントオリゴヌクレオチド(直鎖)をアニーリングするために以下の処理を行った。まず各チューブに10×アニーリングバッファー(200mM酢酸トリス(pH7.8)、2Mグルタミン酸カリウム、100mM酢酸マグネシウム、1mMニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、100mM硫酸アンモニウム)を1μLずつ分注した。上記1μMの各鋳型オリゴヌクレオチド混合液4.5μLを10×アニーリングバッファーを分注したチューブにそれぞれ移し、さらに、各チューブに1μMのスプリントオリゴヌクレオチド混合液を4.5μLずつ加えた。なお、MthL_1に対してB_Mth_1を加え、MthL_2に対してB_Mth_2を加え、MthL_3に対してB_Mth_3を加え、MthL_4に対してB_Mth_4を加えた。その後、各チューブを95℃で4分間加熱し、ゆっくりと温度を下げて10℃にして10分間維持し、鋳型オリゴヌクレオチドとスプリントオリゴヌクレオチドとのアニーリング工程を完了した。
【0046】
(ライゲーション)
続いて、スプリントオリゴヌクレオチド(直鎖)にアニーリングされた鋳型オリゴヌクレオチド同士をライゲーションするために以下の処理を行った。上記処理後の各チューブに10×アニーリングバッファー1μLずつを加え、E.coli DNAリガーゼ(Takara)1μLずつ加え、さらに蒸留水を8μLずつ加えた。その後、各チューブを37℃で30分間処理してライゲーション反応をした後、65℃で20分間処理して酵素を失活させ、その後に12℃に冷却した。
【0047】
(合成産物の確認)
まず、上記ライゲーション工程によって、鋳型オリゴヌクレオチドの各組み合わせ(MthL_1、MthL_2、MthL_3、MthL_4)中のスプリントオリゴヌクレオチドにアニーリングされた鋳型オリゴヌクレオチド同士が所望の通りライゲーションされているか否かを、常法のポリアクリルアミド電気泳動法を用いて確認した。その結果を
図2に示す。
【0048】
図2において、レーン1、レーン2、レーン3、レーン4はそれぞれMthL_1、MthL_2、MthL_3、MthL_4のライゲーション反応物であり、レーンMはマーカーである。
図2に示すように、各鋳型オリゴヌクレオチドの長さである60bpよりも明らかに長いヌクレオチドが生成されており、各鋳型オリゴヌクレオチドの組み合わせ中の5種類の鋳型オリゴヌクレオチドが接続された300base程度の長さの生成物の存在も認められた(
図2の矢印部分)。しかしながら、MthL_3、MthL_4のライゲーション反応物はMthL_1、MthL_2の反応物に比べ、目的の300base程度の長さの生成物量が少ないことが明らかとなった。そこで各スプリントオリゴヌクレオチドのTm値を計算したところ、MthL_1、MthL_3、及びMthL_4用のスプリントオリゴヌクレオチドの一部で明らかに低いTm値を示した物に対して、Tmを上げるためにオリゴの長さを5mer伸ばしたスプリントオリゴヌクレオチド(B89i、B91i、B102i、B104i、B105i及びB107i)を作成した。これらを含む表5に示すMthL_1R(
図3のレーン1)、MthL_2(
図3のレーン2)、MthL_3R(
図3のレーン3)及びMthL_4R(
図3のレーン4)の組み合わせを用いて再度同一の反応を行ったところ、MthL_3R、MthL_4Rのライゲーション反応物量が有意に改善されたことが明らかとなった(
図3の矢印の部分)。
【0049】
<1回目の環状化及び増幅>
(鋳型オリゴヌクレオチドのリン酸化)
続いて、上記直鎖状での試験に用いた鋳型オリゴヌクレオチド及びスプリントオリゴヌクレオチドと共に環状化用のオリゴヌクレオチドを利用して、オリゴヌクレオチドの環状化及び増幅を繰り返すことで所望の長鎖の合成産物が得られるかを試験した。以下、その方法及び結果を示す。まず、後の鋳型オリゴヌクレオチド同士のライゲーションのためにコアオリゴヌクレオチド及びランナーオリゴヌクレオチド(circular with TypeIIS_R)の5’末端のリン酸化を行った。そのために、鋳型オリゴヌクレオチドの各組み合わせ(MthL_1、MthL_2、MthL_3、MthL_4)にさらランナーオリゴヌクレオチドにそれぞれ50μMを5μLずつ準備し、それぞれに対して10×リン酸化バッファー(200mM酢酸トリス(pH7.8)、100mM酢酸マグネシウムを加え、1mgウシ血清由来のアルブミン)、10mMのATP、を5μLずつと、100mMのDTTを0.5μL、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs)を2μL、32.5μLの蒸留水を加えて総量50μLとした。それらの混合液を37℃で30分間処理してオリゴヌクレオチドのリン酸化反応をした後に、65℃で20分間処理して酵素を失活させ、その後に12℃に冷却した。この反応の結果、各オリゴヌクレオチドの濃度は1μM(1pmol/μL)となった。
【0050】
(アニーリング)
上記リン酸化処理の後、各鋳型オリゴヌクレオチドとスプリントオリゴヌクレオチド(環状)をアニーリングするために以下の処理を行った。まず各チューブに10×アニーリングバッファー(200mM酢酸トリス(pH7.8),2Mグルタミン酸カリウム、100mM酢酸マグネシウム,1mMニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、100mM硫酸アンモニウム)を1μLずつ分注した。上記1μMの各鋳型オリゴヌクレオチド混合液4.5μLを10×アニーリングバッファーを分注したチューブにそれぞれ移し、さらに、各チューブに1μMのスプリントオリゴヌクレオチド混合液を4.5μLずつ加えた。なお、MthL_1に対してB_Mth_1_RCを加え、MthL_2に対してB_Mth_2_Cを加え、MthL_3に対してB_Mth_3_RCを加え、MthL_4に対してB_Mth_4_RCを加えた。その後、各チューブを95℃で4分間加熱し、ゆっくりと温度を下げて10℃にして10分間維持し、鋳型オリゴヌクレオチドとスプリントオリゴヌクレオチドとのアニーリング工程を完了した。
【0051】
(環状化と増幅)
続いて、スプリントオリゴヌクレオチド(環状化)にアニーリングされた鋳型オリゴヌクレオチド同士をライゲーションするために以下の処理を行った。上記処理後の各チューブに10×アニーリングバッファー1μLずつを加え、E.coli DNAリガーゼ(Takara)1μLずつ加え、さらに蒸留水を8μLずつ加えた。その後、各チューブを37℃で30分間処理してライゲーション反応をした後、65℃で20分間処理して酵素を失活させ、その後に12℃に冷却した。MPRCA法で増幅するために、この環状化反応液6μLに対し5×RA buffer(150mM塩酸トリス(pH7.5)、100mM塩化カリウム、40mM塩化マグネシウム) 2μLと100μMの6R5Sプライマー2μLを加え、各チューブを95℃で4分間加熱し、4℃に急冷した。各チューブに、10×RCA buffer(100mM塩酸トリス(pH7.5)、100mM塩化カリウム、100mM塩化マグネシウム)2μLと、10mMのdNTPs2μLと、100mMのDTT1μLと、ピロフォスファターゼ(New England Biolabs)0.1μL、φ29DNAポリメラーゼ1μL(100ng)と蒸留水3.9μLとを加え、30℃で16時間反応させて、増幅産物して環状化1本鎖DNA配列がタンデムリピートの状態の2本鎖DNAを得た。反応後、65℃で10分間処理して酵素を失活させ、12℃に冷却した。増幅後蒸留水180μLが入っている別チューブに増幅産物を移し、15分間ボルテックスミキサーで攪拌することで、増幅産物の粘度を減少させた。
【0052】
(増幅産物の確認)
ランナーオリゴヌクレオチド中に設けたBsaIサイトで切断するために、希釈産物25μLを取り出して別チューブに移し、10×CutSmart buffer(New England Biolabs)5μL、制限酵素(BsaI(New England Biolabs))1μL、さらに蒸留水19μLを加え全量を50μLとし各チューブを37℃で1時間処理した後、65℃で20分間処理して酵素を失活させ、その後に12℃に冷却した。一部(約10μL)を用いて、常法のアガロースゲル電気泳動法で切断の確認を行った。その結果を
図4に示す。
【0053】
図4において、レーン1、レーン2、レーン3、レーン4はそれぞれMthL_1、MthL_2、MthL_3、MthL_4のライゲーション及び環状化処理物であり、レーンMはマーカーである。
図4に示すように、全てのレーンで各鋳型オリゴヌクレオチドの組み合わせ中の5種類の鋳型オリゴヌクレオチドが接続されたおおよそ300bpの長さの生成物の存在が認められた。
【0054】
どのような合成方法で作成されたオリゴヌクレオチドであっても、おおよそ全体の分子数に対して0.2~0.3%程度の割合で、合成不良のオリゴヌクレオチドが含まれているとされている。従って、増幅に用いる環状化処理物の鋳型量を10~100コピー程度に限定した場合、確率論的に合成不良のオリゴヌクレオチドを増幅から排除出来る。そこで
図4で用いた環状化処理物を段階希釈して、増幅限界点を決定した。その結果、MthL_1、MthL_2、MthL_3、MthL_4のライゲーション及び環状化処理物のいずれにおいても、10
6~10
7倍希釈した鋳型でも目的の増幅産物が確認された(
図5)。そこで、希釈前の環状化処理物と10
6希釈した環状化処理物の増幅産物をシークエンス反応によって配列を確認したところ、希釈前由来の物では1ベースの欠損がある合成不良のオリゴヌクレオチド由来のピークシグナルがメインピークシグナルの下に確認された(
図6、上段)。一方で10
6希釈した環状化処理物の増幅産物では、合成不良のオリゴヌクレオチド由来と思われる弱いシグナルは確認出来なかった(
図6、下段)。このことから、環状化産物を希釈して増幅に用いることで、合成不良のオリゴヌクレオチドを確率論的に排除出来ることが示された。
【0055】
(1本鎖化処理)
希釈した増幅産物25μLに対して、10×CutSmart buffer(New England Biolabs)4.3μL、BsaI 2μL、Quick CIP(New England Biolabs)2μL、及び蒸留水16.7μLを加え、全量を50μLとした。その後、各チューブを37℃で2時間処理した後、80℃で20分間処理して両酵素を失活させ、その後に12℃に冷却した。一部(約10μL)を用いて、常法のアガロースゲル電気泳動法で切断の確認を行った。残りの切断溶液にさらに10×CutSmart buffer(New England Biolabs)1μL、制限酵素BbsI(New England Biolabs)1μL、さらに蒸留水8μLを加え全量を50μLとし各チューブを37℃で1時間処理した後、65℃で20分間処理して酵素を失活させ、その後に12℃に冷却した。一部(約10μL)を用いて、常法のアガロースゲル電気泳動法で切断の確認を行った。残りの切断溶液にさらに10×CutSmart buffer(New England Biolabs)1μL、ラムダエクソヌクレアーゼ(New England Biolabs)1μL、さらに蒸留水8μLを加え全量を50μLとし各チューブを37℃で30分間処理した後、75℃で10分間処理して酵素を失活させ、その後に12℃に冷却した。1本鎖化が行われたかどうかは、一部(約10μL)を用いて常法のポリアクリルアミド電気泳動法を用いて確認した。その結果を
図7に示す。
【0056】
図7において、レーンG1、レーンG2、レーンG3、レーンG4はそれぞれMthL_1、MthL_2、MthL_3、MthL_4のライゲーション及び環状化処理物であり、そのうちdsは2本鎖DNAであり、ssは1本鎖DNAであり、レーンMはマーカーである。
図7に示すように、全てのレーンで各鋳型オリゴヌクレオチドの組み合わせ中の5種類の鋳型オリゴヌクレオチドが接続された300bpの2本鎖DNAが移動度の異なる1本鎖DNA生成物の存在が認められた。
【0057】
(1本鎖DNAの精製)
1本鎖DNAのみを回収するためにMonarch PCR & DNA Cleanup Kit(New England Biolabs)を用いて、以下の精製を行った。まず、上記エクソヌクレアーゼ処理後の各チューブに対して、上記キットのDNAクリーンアップバインディングバッファーを7倍量の350μL加え、ピペッティングで混合した。その後、上記キットのカラムを挿入したチューブを準備し、当該カラム上に上記混合液を移し、16000×gで1分間遠心処理を行った。その後、カラムを通過した液体を除去し、上記キットのDNAウォッシュバッファー200μLをカラム上に注入し、16000×gで1分間遠心処理を行った。その後、カラムを通過した液体を除去し、再度DNAウォッシュバッファー200μLをカラム上に注入し、16000×gで1分間遠心処理を行った。その後、カラムを別のチューブ内に移し、上記キットのDNA溶出バッファー12μLをカラム上に注入し、室温で1分間静置した後、16000×gで1分間遠心処理を行った。これにより、200塩基未満のヌクレオチドが除去され、200塩基以上の1本鎖DNAのみが得られた。回収した1本鎖DNA濃度は、Qubit(登録商標)ssDNAアッセイキット(インビトロジェン)を用いて決定し、重量濃度(ng)からモル濃度に計算で変換した。
【0058】
<2回目の環状化及び増幅>
(鋳型1本鎖DNAのリン酸化)
回収されたMthL_1、MthL_2、MthL_3、MthL_4の1本鎖DNAは決定された濃度から、それぞれ濃度が5μM(5pmol/μL)になるように液量を計算した後混合物(組み合わせ名称、 For 1.2 k)を作成し、そのうちの10μLに対して10×リン酸化バッファー(200mM酢酸トリス(pH7.8),100mM酢酸マグネシウムを加え、1mgウシ血清由来のアルブミン)、10mMのATPを5μLずつと、100mMのDTTを0.5 μL、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs)を2μL、27.5μLの蒸留水を加えて総量50μLとした。それらの混合液を37℃で30分間処理してオリゴヌクレオチドのリン酸化反応をした後に、65℃で20分間処理して酵素を失活させ、その後に12℃に冷却した。この反応の結果、1本鎖DNAの濃度は1μM(1pmol/μL)となった。
【0059】
上記リン酸化処理の後、1本鎖DNAとスプリントオリゴヌクレオチド(B for 1.2k)をアニーリングするために以下の処理を行った。上記リン酸化1本鎖DNA(濃度1μM(1pmol/μL)4.5μLを取り出したチューブに10×アニーリングバッファー(200mM酢酸トリス(pH7.8),2Mグルタミン酸カリウム、100mM酢酸マグネシウム,1mM NAD、100mM硫酸アンモニウム)を1μL分注した。さらに、チューブに1μMのスプリントオリゴヌクレオチド混合液(B_for 1.2k)を4.5μLずつ加えた。その後、各チューブを95℃、で4分間加熱し、ゆっくりと温度を下げて10℃にして10分間維持し、鋳型1本鎖DNAとスプリントオリゴヌクレオチドとのアニーリング工程を完了した。
【0060】
(環状化と増幅、及び確認)
続いて、スプリントオリゴヌクレオチド(環状化1.2k)にアニーリングされた鋳型1本鎖DNA同士をライゲーションするために以下の処理を行った。上記処理後のチューブに10×アニーリングバッファー1μLずつを加え、E.coli DNAリガーゼ(Takara)1μLずつ加え、さらに蒸留水を8μLずつ加えた。その後、チューブを37℃で30分間処理してライゲーション反応をした後、65℃で20分間処理して酵素を失活させ、その後に12℃に冷却した。MPRCA法で増幅するために、この環状化反応液6μLに対し5×RA buffer(150mM塩酸トリス(pH7.5)、100mM 塩化カリウム、40mM塩化マグネシウム) 2μLと100μMの6R5Sプライマー2μLを加え、各チューブを95℃で4分間加熱し、4℃に急冷した。チューブに、10×RCA buffer(100mM塩酸トリス(pH7.5)、100mM塩化カリウム、100mM塩化マグネシウム) 2μLと、10mMのdNTPs2μLと、100mMのDTT1μLと、ピロフォスファターゼ(New England Biolabs)0.1μL、φ29DNAポリメラーゼ1μL(100 ng)と蒸留水3.9μLを加え、30℃で16時間反応させて、増幅産物して環状化1本鎖DNA配列がタンデムリピートの状態の2本鎖DNAを得た。反応後、65℃で10分間処理して酵素を失活させ、12℃に冷却した。
【0061】
MPRCA法による増幅をした後に、増幅産物は蒸留水180μLを加えて粘度を低下させた後、25μLを取り出して別チューブに移し、10×CutSmart buffer(New England Biolabs)5μL、制限酵素BamHI1(New England Biolabs)1μL、さらに蒸留水19μLを加え全量を50μLとし各チューブを37℃で1時間処理した後、65℃で20分間処理して酵素を失活させ、その後に12℃に冷却した。一部(約10μL)を用いて、常法のアガロースゲル電気泳動法で切断の確認を行った。その結果を
図8に示す。
【0062】
図8において、レーン1は上記結果物であり、レーンMはマーカーである。
図8に示すように、約1200bpの位置にバンドが認められ、すなわちこの結果から上記方法により4種の300bpのオリゴヌクレオチドが結合したDNAが得られたといえる。
【0063】
次に、上記
図8の試験により得られた1.2kbのDNAを鋳型としてPCRを行った。まず、Mth for pGEX2中の開始コドンからT108中の終始コドンまでの約1.1kb、及び当該開始コドンから約170bp内側から終始コドンまでの約970bpを通常のPCR法で増幅し、その結果物に対してアガロースゲル電気泳動を行った。その結果を
図9のAに示す。
【0064】
図9のAにおいて、レーン1は開始コドンから終始コドンまでを増幅したPCR産物であり、レーン2は開始コドンから約170bp内側から終始コドンまでを増幅したPCR産物であり、レーンMはマーカーであり、上側の矢印は1.1kbの位置を示し、下側の矢印は約970bpの位置を示す。
図9のAに示すように、いずれのPCR産物も目的の長さ(1.1kb、970bp)よりも短いことが明らかである。なお、図示はしないが、これらのPCR産物のシークエンスの結果、約560bpの欠損が確認された(開始コドンから252bp目から853bp目まで)。
【0065】
この欠損部分はMthL_3及びMthL_4の領域であるため、次に、特にMthL_3の領域を増幅できるように、この領域の上流2か所及び下流2か所にプライマーを設計し、計4種類のPCRを行った。なお、それぞれの予想サイズは、397bp、585bp、482bp及び500bpとなるように設計した。これらのPCR産物に対してアガロースゲル電気泳動を行った結果を
図9のBに示す。
【0066】
図9のBにおいて、レーン1は予想サイズが397bpのPCR産物、レーン2は予想サイズが585bpのPCR産物、レーン3は予想サイズが482bpのPCR産物、レーン4は予想サイズが500bpのPCR産物、レーンMはマーカーである。
図9のBに示すように、いずれのPCR産物も目的の長さよりも短いことが明らかとなった。
【0067】
図2~
図7の結果から、本発明に係る方法によると所望の配列(鋳型オリゴヌクレオチド)同士を互いにスプリントオリゴヌクレオチドを介してライゲーション及び2本鎖DNAの増幅をすることができ、さらに、
図8の結果から、それらの工程により得られた生成物同士をさらにライゲーション及び2本鎖DNAの増幅を繰り返すことにより長鎖DNAを合成することが可能となることが証明された。一方、
図9に示すように、本発明に係る方法により得られた1.2kbのDNAはPCR法により増幅することはできず、すなわち、従来のPCA法では合成できない可能性が高いことが明らかとなった。
【0068】
以上の通り、本発明に係る方法は、長鎖DNAを合成することが可能であり、特に塩基の変異導入リスクが無いライゲーション反応によって得られた1本鎖DNAを鋳型として、φ29DNAポリメラーゼを用いて2本鎖DNAを合成するため、従来のPCR法を利用した方法のように得られた合成DNAの配列の確認作業としてのクローニング工程やシークエンス工程を不要とすることができる。その結果、合成時間を短縮でき、合成コストも低減することができて極めて有用であるといえる。