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特開2022-175114原子力発電所用電線、および、原子力発電所用ケーブル
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  • 特開-原子力発電所用電線、および、原子力発電所用ケーブル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175114
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】原子力発電所用電線、および、原子力発電所用ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/295 20060101AFI20221117BHJP
   H01B 9/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01B7/295
H01B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081273
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井戸沼 正倫
(72)【発明者】
【氏名】清水 政之
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 進
(72)【発明者】
【氏名】割ヶ谷 篤志
(72)【発明者】
【氏名】木村 健太
【テーマコード(参考)】
5G315
【Fターム(参考)】
5G315CA02
5G315CB02
5G315CC08
5G315CD07
(57)【要約】
【課題】SA発生時にも絶縁性能の保持が可能な原子力発電所用電線、および、原子力発電所用ケーブルを提供する。
【解決手段】シビアアクシデントが発生したときにも動作可能な機器に接続される配線材として使用されるケーブル100であって、長尺状に形成された導電性を有する導体11、および、四フッ化エチレンを成分として含む重合体を用いて形成され、導体11の周囲を被覆する絶縁体13から構成された複数の電線10,10と、複数の電線10,10の周囲を被覆するシース105と、が設けられる。四フッ化エチレンを成分として含む重合体で形成された絶縁体13を用いることで、ケーブル100が曝露試験後に基準で定める絶縁抵抗値を保持すること、および、所望の耐電圧試験に耐えることができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シビアアクシデントが発生したときにも動作可能な機器に接続される配線材として使用される電線であって、
長尺状に形成された導電性を有する導体と、
四フッ化エチレンを成分として含む重合体を用いて形成され、前記導体の周囲を被覆する絶縁体と、
が設けられる原子力発電所用電線。
【請求項2】
シビアアクシデントが発生したときにも動作可能な機器に接続される配線材として使用されるケーブルであって、
長尺状に形成された導電性を有する導体、および、四フッ化エチレンを成分として含む重合体を用いて形成され、前記導体の周囲を被覆する絶縁体から構成された複数の電線と、
前記複数の電線の周囲を被覆するシースと、
が設けられる原子力発電所用ケーブル。
【請求項3】
前記シースは、前記四フッ化エチレンを成分として含む重合体を用いて形成された請求項2記載の原子力発電所用ケーブル。
【請求項4】
235℃の雰囲気中で10分暴露させた後に200℃の雰囲気中で168時間暴露させる蒸気暴露試験中の絶縁抵抗の値が1×10Ω以上である請求項2または3に記載の原子力発電所用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所用電線、および、原子力発電所用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所や、核燃料再処理施設など(以下「原子力発電所等」とも表記する。)で使用される電線やケーブル(以下「ケーブル等」とも表記する。)として、耐放射線性を有するケーブル等が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-325701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子力発電所等で使用されるケーブル等には、上述の耐放射線性の他に絶縁性能も求められる。原子力発電所で使用されるケーブル等の場合には、原子力発電所の商用運転期間に事故が発生したときにも所望の絶縁性能を保つことが求められる。具体的には、国が定める安全基準を満たすことが求められる。
【0005】
2011年の東日本大震災時の福島第1原子力発電所で発生したような原子炉の燃料が重大な損傷を受けるなど、原子力発電所の設計時の想定規模を大きく超える重大事故では、それまで国が定めていた安全基準(以下、旧安全基準とも表記する。)を超える過酷な条件が発生していた。
【0006】
そこで、福島第1原子力発電所で発生したような上記重大事故または同程度の重大事故(以下、シビアアクシデント、または、SAとも表記する。)が発生した場合であっても、ケーブル等が所望の絶縁性能を保つことを示す新たな安全基準(以下、新安全基準とも表記する。)が原子力規制委員会等によって定められた。
【0007】
新たな安全基準では、所望の絶縁性能として、後述する耐環境試験後のケーブル等が基準で定める絶縁抵抗値を保持、および、所望の耐電圧試験に耐えることが求められる。上述の耐環境試験としては、ケーブル等を235℃の雰囲気中に10分間曝露し、その後200℃の雰囲気中に168時間(7日間)曝露する蒸気曝露試験(沸騰水型原子炉の場合)を例示することができる。所望の耐電圧試験としては、日本工業規格(以降、JISとも表記する。)、電気用品安全法、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)などで規定する試験を例示することができる。
【0008】
稼働または再稼働する原子力発電所では、シビアアクシデントが発生したときにも原子炉格納容器内の事故雰囲気環境下において動作可能で、シビアアクシデント等に対処するために必要な機器(例えば、水位計、測温抵抗体、熱電対、放射線監視モニタなど)が用いられている。このような機器に接続され、機器へ電力を供給する機能や、機器を監視・制御するための信号を伝送する機能を有する配線材として、新安全基準で示された上述の絶縁性能を満たすケーブル等を用いることが求められている。しかしながら、従来の原子力発電所用ケーブル等では、旧安全基準で示された絶縁性能を満たしても、新安全基準で示された上述の絶縁性能を満たしていないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、SA発生時にも絶縁性能の保持が可能な原子力発電所用電線、および、原子力発電所用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の第1の態様に係る原子力発電所用電線は、シビアアクシデントが発生したときにも動作可能な機器に接続される配線材として使用される電線であって、長尺状に形成された導電性を有する導体と、四フッ化エチレンを成分として含む重合体を用いて形成され、前記導体の周囲を被覆する絶縁体と、が設けられる。
【0011】
本発明の第2の態様に係る原子力発電所用ケーブルは、シビアアクシデントが発生したときにも動作可能な機器に接続される配線材として使用されるケーブルであって、長尺状に形成された導電性を有する導体、および、四フッ化エチレンを成分として含む重合体を用いて形成され、前記導体の周囲を被覆する絶縁体から構成された複数の電線と、前記複数の電線の周囲を被覆するシースと、が設けられる。
【0012】
本発明の第1の態様に係る原子力発電所用電線、第2の態様に係る原子力発電所用ケーブルによれば、四フッ化エチレンを成分として含む重合体で形成された絶縁体を用いることで、電線またはケーブルがSAに基づいて条件が定められた曝露試験中および試験後に基準で定める絶縁抵抗値1×10Ωを保持することができる。また、所望の耐電圧試験に耐えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の原子力発電所用電線、および、原子力発電所用ケーブルによれば、四フッ化エチレンを成分として含む重合体で形成された絶縁体を用いることにより、SA発生時にも絶縁性能の保持が可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る電線の構成の横断面視図である。
図2】本発明の一実施形態に係るケーブルの構成の横断面視図である。
図3】本発明の他の実施形態に係るケーブルの構成の横断面視図である。
図4】従来のケーブルの構成の横断面視図である。
図5】従来のケーブルの他の構成の横断面視図である。
図6図2のケーブル100における評価結果について説明する表である。
図7図4ケーブル100における評価結果について説明する表である。
図8図5ケーブル100における評価結果について説明する表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の一実施形態に係る原子力発電所用電線10(以下、単に「電線10」とも表記する。)、および、原子力発電所用ケーブル(以下、単に「ケーブル100」とも表記する)について、図1から図8を参照して説明する。本実施形態の電線10およびケーブル100は、放射線環境下、特に原子力発電所で使用されるものである。なお、電線10およびケーブル100は、高速増殖炉、核燃料再処理施設、および、粒子加速施設などの他の放射線環境下で使用されてもよい。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る電線10の構成を説明する横断面視図である。電線10には、図1に示すように、導体11と、セパレータ12と、絶縁体13と、が設けられている。
【0017】
導体11は、長尺状に形成された導電性を有する部材である。本実施形態では、導体11が錫めっき軟銅線からなる素線を用いて形成された例に適用して説明する。なお、導体11は、純銅線などの公知の導電性を有する材料から形成されてもよい。また、導体11は、複数本の素線(例えば、錫めっき軟銅線)を同心撚りまたは集合撚りによって撚り合わされて形成されたものであるとよい。
【0018】
セパレータ12は、導体11と絶縁体13との間に層状に設けられた部材である。セパレータ12は、電線で用いられる公知の材料から形成された部材である。本実施形態では、電線10にセパレータ12が設けられた例に適用して説明する。なお、セパレータ12は、導体11の断面積に応じて設けられなくてもよい。その場合、電線10は、導体11と絶縁体13とが接触する構造を有する。
【0019】
絶縁体13は、導体11の周囲を被覆する絶縁性を有する部材である。絶縁体13は、四フッ化エチレンを成分として含む重合体からなる。より具体的には、絶縁体13は、以下の化学式で示される四フッ化エチレンとポリオレフィンとで構成された架橋型の共重合体からなる。なお、下記の化学式においてXはポリオレフィンである。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、および、ポリプロピレンが挙げられる。Xがポリプロピレンである架橋型の共重合体としては、例えば、フロンレックス(登録商標:日立金属株式会社)が挙げられる。本実施形態では、絶縁体13が下記の化学式で示される架橋型の共重合体のうち、ポリオレフィンがポリプロピレンである共重合体を用いて形成された例に適用して説明する。
【0020】
【化1】
【0021】
本実施形態では、絶縁体13が単層で形成されている例に適用して説明する。なお、絶縁体13は多層構造を有してもよい。
【0022】
図2は、本発明の一実施形態に係るケーブル100の構成を説明する横断面視図である。ケーブル100には、図2に示すように、撚り線101と、テープ部材103と、シース105と、が設けられている。
【0023】
撚り線101は、導体11、セパレータ12および絶縁体13を有する2本の電線10が介在102とともに撚り合わされた二芯撚り線である。介在102としては、ゴム等からなる紐を用いることができる。なお、撚り線に含まれる電線10は2本であってもよいし、3本以上であってもよい。また、導体11が複数本の素線を撚り合わせして形成されている場合、撚り線101の撚り方向は、導体11を構成する複数本の素線の撚り方向と同じ撚り方向であるとよい。この場合、撚り線101の撚りピッチは、複数本の撚りピッチよりも大きいことがよい。
【0024】
テープ部材103は、撚り線101の周囲に配置される部材であり、撚り線101に外周面に巻き付けられる部材である。テープ部材103としては、公知の材料から形成された部材を用いることができる。また、テープ部材103は、撚り線101の撚り方向と同じ撚り方向で巻き付けられているとよい。
【0025】
シース105は、テープ部材103の周囲に配置される部材であり、撚り線101およびテープ部材103を被覆する部材である。本実施形態では、シース105が酸化防止剤およびクロロプレンゴムを含むクロロプレンゴム組成物を用いて形成された例に適用して説明する。クロロプレンゴム組成物に含まれる酸化防止剤は、蒸気暴露試験中に吸水しにくく、当該吸水によって蒸気暴露試験で測定される絶縁抵抗の測定値が判定閾値未満とならないものが用いられる。
【0026】
本実施形態では、シース105が単層で形成されている例に適用して説明する。なお、シース105は多層構造を有してもよい。
【0027】
図3は、本発明の他の実施形態に係るケーブル100Aの構成の横断面視図である。図3に示すケーブル100Aは、シース105Aが以下の化学式で示される四フッ化エチレンとポリオレフィンとで構成された架橋型の共重合体を用いて形成されたものである点で図2のケーブル100と相違している。ケーブル100Aの他の各構成については、図2のケーブル100と共通する。本実施形態では、シース105Aが、以下の化学式で示される四フッ化エチレンとポリオレフィンとで構成された架橋型の共重合体のうち、ポリオレフィンがポリプロピレンからなる共重合体を用いて形成された例に適用して説明する。
【0028】
【化2】
【0029】
なお、上記の化学式においてXはポリオレフィンである。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、および、ポリプロピレンが挙げられる。
【0030】
ケーブル100Aでは、シース105Aが四フッ化エチレンを成分として含む重合体(すなわち、上記の化学式で示される架橋型の共重合体)からなることにより、クロロプレンゴム組成物からなるシース105と比較して、ケーブルが燃焼したときにシースから発生するガス(例えば、塩素ガス)の量を低減することができる。塩素ガスなどのガスを低減できることにより、ケーブル100Aに接続される機器を構成する金属が腐食することを抑制することができる。
【0031】
次に、上記の構成からなるケーブル100における評価結果について説明する。評価結果の比較のために、従来の構成を有するケーブル100X、および、ケーブル100Yの構成を、図4および図5にそれぞれ示す。
【0032】
ケーブル100Xには、図4に示すように、撚り線101Xと、テープ部材103と、シース105Xと、が設けられている。
撚り線101Xは、導体11および絶縁体13Xを有する2本の電線10Xが介在102とともに撚り合わされた二芯撚り線である。
【0033】
絶縁体13Xは、導体11の周囲を被覆する絶縁性を有する部材である。本実施形態では、絶縁体13Xは難燃剤とエチレンプロピレンゴムとを含む組成物を用いて形成されている。介在102としては、ゴム等からなる紐を用いることができる。
【0034】
シース105Xは、テープ部材103の周囲に配置される部材であり、撚り線101Xおよびテープ部材103を被覆する部材である。本実施形態では、シース105Xがクロロプレンゴムを用いて形成された例に適用して説明する。
【0035】
ケーブル100Yには、図5に示すように、撚り線101Yと、テープ部材103と、シース105とが設けられている。
撚り線101Yは、導体11および絶縁体13Yを有する2本の電線10Yが介在102とともに撚り合わされた二芯撚り線である。
【0036】
絶縁体13Yは、導体11の周囲を被覆する絶縁性を有する部材である。本実施形態では、絶縁体13Yは酸化防止剤と難燃剤とエチレンプロピレンゴムとを含むエチレンプロピレンゴム組成物を用いて形成されている。エチレンプロピレンゴム組成物に含まれる酸化防止剤は、蒸気暴露試験中に吸水しにくく、当該吸水によって蒸気暴露試験で測定される絶縁抵抗の測定値が判定閾値未満とならないものが用いられる。介在102としては、ゴム等からなる紐を用いることができる。
【0037】
耐環境試験の評価では、まず、ケーブル100、ケーブル100X、および、ケーブル100Y(以下「ケーブル等」とも表記する。)に経年劣化および放射線劣化を与える。
【0038】
本実施形態では、長さ5mのケーブル100に100℃の熱と100Gy/hのγ線とを同時に印加し、常時運転温度が66℃としたときのアレニウスの式(アレニウスの法則)に基づく加速試験を行うことによって40年劣化相当の経年劣化および放射線劣化を与えた40年劣化相当品を得た。
【0039】
また、比較対象である長さ5mのケーブル100X、および、長さ5mのケーブル100Yでは、ケーブル100と同じ条件で加速試験を行うことにより、40年劣化相当の経年劣化および放射線劣化を与えた40年劣化相当品を得た。
【0040】
経年劣化および放射線劣化を与えた後、ケーブル等を235℃の雰囲気中に10分間曝露し、その後200℃の雰囲気中に168時間(7日間)曝露する蒸気曝露試験(沸騰水型原子炉の場合)を行う。蒸気曝露試験中および蒸気曝露試験後においてケーブル等の絶縁抵抗の測定を行う。また、蒸気曝露試験後に耐電圧試験を行う。
【0041】
絶縁抵抗の測定値、および、耐電圧試験の結果の全てが良または合格である場合に、ケーブル等に600V、3Aの通電が可能と判断する。すなわち、シビアアクシデントが発生したときにも新たな安全基準を満たすものと判断する。1つでも不良または不合格がある場合には、ケーブル等に600V、3Aの通電が不可能と判断する。
【0042】
ここでは、新たな安全基準を満たすことを評価する指標として、1×10Ω(1MΩ)を絶縁抵抗の測定値の判定閾値とした。耐電圧試験では、JIS C3621に定められた条件と、IEEE-383に定められた条件と、電気用品安全法(以下「電安法」とも表記する。)に定められた条件と、を用いている。
【0043】
なお、絶縁抵抗の判定閾値に関して、今回の評価では、原子炉格納容器内に配線されるケーブルの長さが100mとしたときに、SAの発生時に当該ケーブルに接続された機器が動作可能であるとされているケーブルの絶縁抵抗(0.1MΩ)に基づいて、ケーブルの長さが5mのときの絶縁抵抗が少なくとも1MΩあれば、長さが50mのケーブルに接続された機器がSAの発生時においても動作可能であるとみなすことができるとして評価した。
【0044】
また、新たな安全基準を満たすことを評価するために、次の耐電圧試験を行った。JIS C3621に基づく耐電圧試験では、試験電圧1500Vまで速やかに電圧を上昇させ、1分間耐えるか評価を行う。IEEE-383に基づく耐電圧試験では、試験電圧2560Vまたは試験電圧3000Vまで速やかに電圧を上昇させ、5分間耐えるか評価を行う。電安法に基づく試験電圧では、ケーブル100において、試験電圧3000Vまで速やかに上昇させ、1分間耐えるか評価を行った。
【0045】
図6は、上記の構成からなるケーブル100における評価結果について説明する表である。ケーブル100は、40年劣化相当品においても、蒸気曝露試験中および蒸気曝露試験後の絶縁抵抗の測定値が1×10Ω(1MΩ)以上を保ち良(合格)と判定された。
【0046】
さらに、耐電圧試験では、安全法およびIEEEのいずれの規格に基づく試験においても良(合格)と判定された。なお、ケーブル100に対する試験電圧は、安全法およびIEEEのいずれの規格に基づく試験でも3000Vを採用している。以上から、ケーブル100は、40年劣化相当であっても蒸気曝露試験中および蒸気曝露試験後に600V、3Aの通電が可能と判断された。
【0047】
ケーブル100Aは、ケーブル100のシース105がシース105Aに変更されたものである。ケーブル100Aでは、シース105Aがシース105よりも耐熱性および耐放射線性が高いため、ケーブル100よりも耐性が高いと考えられ、ケーブル100Aは、40年劣化相当であっても蒸気曝露試験中および蒸気曝露試験後に600V、3Aの通電が可能と判断される。
【0048】
図6における40年劣化相当品(シースなし)は、ケーブル100におけるシース105がないものである。シース105が無いことから、電線10に相当すると考えられる。この40年劣化相当品(シースなし)は、ケーブル100と同じ条件で加速試験を行うことにより、40年劣化相当の経年劣化および放射線劣化を与えた40年劣化相当品としたものである。
【0049】
電線10は、40年劣化相当品において蒸気曝露試験中および蒸気曝露試験後の絶縁抵抗の測定値が1×10Ω以上を保ち良(合格)と考えられる。さらに、耐電圧試験では、電安法およびIEEEのいずれの規格に基づく試験においても良と考えられる。
【0050】
以上から、電線10は、40年劣化相当において蒸気曝露試験中および蒸気曝露試験後に600V、3Aの通電が可能と考えられる。
【0051】
図7は、上記の構成からなるケーブル100Xにおける評価結果について説明する表である。図8は、上記の構成からなるケーブル100Yにおける評価結果について説明する表である。
【0052】
ケーブル100Xは、図7に示すように、40年劣化相当品において、蒸気曝露試験中の絶縁抵抗の値が0.25MΩ(判定閾値未満)であった。また、JISに基づく耐電圧試験において否(不合格)と判定された。ケーブル100Xに対する試験電圧は、JISに基づく耐電圧試験において1500Vを採用している。なお、図7に示すIEEEに基づく耐電圧試験では、試験電圧が2560Vになるが、JISに基づく耐電圧試験において、試験電圧1500Vを印加した場合に不合格との結果であったため、IEEEに基づく耐電圧試験を実施しなかった。そのため、図7では、「実施せず」と表記した。
【0053】
以上から、ケーブル100Xは、40年劣化相当であっても蒸気曝露試験中および蒸気曝露試験後に600V、3Aの通電が不可能と判定された。
【0054】
ケーブル100Yは、図8に示すように、40年劣化相当品において、蒸気曝露試験中の絶縁抵抗の値が0.25MΩ(判定閾値未満)であった。また、JISおよびIEEEに基づく耐電圧試験において良と判定された。ケーブル100Xに対する試験電圧は、JISに基づく耐電圧試験において1500Vを採用し、IEEEに基づく耐電圧試験において2660Vを採用した。
【0055】
以上から、ケーブル100Yは、40年劣化相当であっても蒸気曝露試験中および蒸気曝露試験後に600V、3Aの通電が不可能と判定された。
【0056】
上記の構成の電線10、ケーブル100およびケーブル100Aによれば、四フッ化エチレンを成分として含む重合体(特に、上記の化学式で示される架橋型の共重合体のうち、ポリオレフィンがポリプロピレンからなる共重合体)で形成された絶縁体13を用いることで、電線10、ケーブル100およびケーブル100Aが曝露試験後に基準で定める絶縁抵抗値を保持すること、および、所望の耐電圧試験に耐えることができる。
【0057】
ケーブル100Aのシース105Aを、四フッ化エチレンを成分として含む重合体(特に、上記の化学式で示される架橋型の共重合体のうち、ポリオレフィンがポリプロピレンからなる共重合体)で形成することにより、ケーブル100Aが曝露試験後に基準で定める絶縁抵抗値をさらに保持しやすくなり、所望の耐電圧試験に更に耐えやすくなる。
【符号の説明】
【0058】
10…原子力発電所用電線、 11…導体、 13…絶縁体、 100,100A…原子力発電所用ケーブル、 105,105A…シース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8