(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175520
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】疎水性相互作用クロマトグラフィー用充填剤の洗浄方法及び洗浄液
(51)【国際特許分類】
G01N 30/26 20060101AFI20221117BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20221117BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20221117BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
G01N30/26 Q
B01J20/281 X
C07K1/22
C07K16/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081984
(22)【出願日】2021-05-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 亨
(72)【発明者】
【氏名】大森 俊昂
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA75
4H045DA76
4H045FA82
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、従来洗浄が困難であった疎水性相互作用クロマトグラフィー用充填剤について、効率的なクリーニングとカラム長寿命を両立できる洗浄方法及び洗浄液を提供することにある。
【解決手段】
疎水性相互作用クロマトグラフィー用充填剤を充填したカラムについて、クロマトグラフィー実施後に、特定の成分を含む洗浄液を通液する工程と、水や緩衝液を通液して洗浄液を排出する工程とを含んでなる洗浄法において、無機塩と界面活性剤の混合物からなる洗浄液を用いる。これにより効果的に充填剤を洗浄でき、生産物の品質向上やゲルの長寿命化に伴うコスト削減を達成することが可能となる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性相互作用クロマトグラフィー用充填剤に吸着した物質を洗浄する方法であって、
無機塩と界面活性剤の混合物であることを特徴とする洗浄液を使用した洗浄方法。
【請求項2】
前記疎水性相互作用クロマトグラフィー用充填剤が、フェニル基、ポリエチレングリコール基、ポリプロピレングリコール基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基で修飾されている充填剤であることを特徴とする、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄液が、10mMから1000mMの水酸化ナトリウムと、0.01%から1.0%のTriton X-100からなる水溶液であることを特徴とする、請求項1および2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄液が、10ppmから5000ppmの次亜塩素酸ナトリウムと、0.01%から1.0%のドデシル硫酸ナトリウムからなる水溶液であることを特徴とする、請求項1および2に記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記吸着した物質が、抗体、低分子化抗体、Fc融合タンパク質であることを特徴とする、請求項1から4に記載の洗浄方法。
【請求項6】
洗浄液が、10mMから1000mMの水酸化ナトリウムと、0.01%から1.0%のTriton X-100からなる水溶液であることを特徴とする、
疎水性相互作用クロマトグラフィー用充填剤に吸着した物質を洗浄する洗浄液。
【請求項7】
洗浄液が、10ppmから5000ppmの次亜塩素酸ナトリウムと、0.01%から1.0%のドデシル硫酸ナトリウムからなる水溶液であることを特徴とする、
疎水性相互作用クロマトグラフィー用充填剤に吸着した物質を洗浄する洗浄液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性相互作用クロマトグラフィー用充填剤の洗浄方法及び洗浄液に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ医薬品は微生物や動物細胞を用いて培養生産された後、膜分離やクロマトグラフィーなどの精製手法を用いて高純度化され、製剤化される。代表的な精製技術としてはクロマトグラフィーが挙げられ、サイズ排除、イオン交換、アフィニティー、疎水性相互作用など、様々な分離モードが実用的に用いられている。
【0003】
この中で、疎水性相互作用クロマトグラフィー法においてはブチル基、ヘキシル基、フェニル基などの疎水性官能基を導入した樹脂をカラムに充填して実施されている。この方法は物質の疎水性度の違いで分離する優れた精製方法である一方で、疎水相互作用でタンパク質が強く樹脂表面に付着すると剥離するのが困難となり、分離性能が低下する課題があった。一般的に、表面が汚染された樹脂はカラムに充填された状態で水酸化ナトリウム水溶液や酸、タンパク質変性剤(尿素やグアニジン塩酸塩)溶液などを通液することで洗浄される。この洗浄法は定置洗浄(クリーン・イン・プレイス、CIP)と呼ばれている。また、酸化還元剤を用いた例(特許文献1)や、界面活性剤を用いた例(特許文献2および特許文献3)が実用化されている。しかしながら、特に疎水性相互作用クロマトグラフィー用充填剤に関して、汚染物質によっては十分な洗浄効果が得られないことが、依然課題として残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003-511468号公報
【特許文献2】特許第6147340号公報
【特許文献3】特表2020-525445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、従来洗浄が困難であった疎水性相互作用クロマトグラフィー用ゲルについて、効果的な洗浄方法及び洗浄液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る疎水性相互作用クロマトグラフィー用ゲルの洗浄方法は、洗浄液に次亜塩素酸ナトリウムとドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む水溶液、または水酸化ナトリウムとTriton X-100を含む水溶液を用いる。
【0007】
また、本発明に係る洗浄方法の一態様においては、疎水性相互作用クロマトグラフィー用ゲルとしてフェニル化ゲル、イソプロピル化ゲル、ブチル化ゲル、ヘキシル化ゲル、ポリプロピレングリコール化ゲル、ポリエチレングリコール化ゲル、ポリスチレンゲルを用いる。
【0008】
また、本発明に係る洗浄方法の一態様においては、洗浄液として10ppmから5000ppmの次亜塩素酸ナトリウムと0.01%から1.0%のSDSを含有する水溶液を用いる。
【0009】
また、本発明に係る洗浄方法の一態様においては、洗浄液として10mMから1Mの水酸化ナトリウムと0.01%から1.0%のTriton X-100を含有する水溶液を用いる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来洗浄が困難であり、繰り返し利用によって機能が低下していた疎水性相互作用クロマトグラフィー用ゲルを効率的に洗浄することができ、生産物の品質向上やゲルの長寿命化に伴うコスト削減を達成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る疎水性相互作用クロマトグラフィー用ゲルの洗浄方法は、疎水性相互作用クロマトグラフィー用ゲルを充填したカラムを使用してクロマト精製後に、特定の成分を含む洗浄液を通液する工程と、水や緩衝液を通液して洗浄液を排出する工程とを含んでなる。また、クロマト精製後に充填カラムからゲルを抜き出し、バッチ操作で特定の成分を含む洗浄液を用いて洗浄操作を行っても良い。
【0012】
疎水性相互作用クロマトグラフィー用ゲルとしては、フェニル化ゲル、イソプロピル化ゲル、ブチル化ゲル、ヘキシル化ゲル、ポリプロピレングリコール化ゲル、ポリエチレングリコール化ゲル、ポリスチレンゲルが代表として挙げられ、精製対象と疎水性相互作用が得られる官能基であればよい。また、疎水性官能基とイオン交換基を含む、ミックスドモードゲルでも良い。
【0013】
不溶性担体、ゲルとしては、標的タンパク質の吸着/溶出に用いる溶液や溶剤に対して不溶性であり、かつ疎水性官能基を共有結合で固定化するための官能基(例えばヒドロキシ基)を有した物質であればよく、ジルコニア、ゼオライト、シリカ、皮膜シリカ等の無機系物質に由来した担体であってもよいし、セルロース、アガロース、デキストラン等の天然有機高分子物質に由来した担体であってもよいし、ポリアクリル酸、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリメタクリレート、ビニルポリマー等の合成有機高分子物質に由来した担体であってもよい。
【0014】
洗浄液としては、ゲルに吸着した物質を溶離させるのに有効な濃度の洗浄成分を含んでいれば良く、具体的には、10ppmから5000ppmの次亜塩素酸ナトリウムと0.01%から1.0%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の混合水溶液、または、10mMから1Mの水酸化ナトリウムと0.01%から1.0%のTriton X-100の混合水溶液が挙げられる。また、上記の洗浄成分を複数混合しても良いし、緩衝剤や塩を添加してpHやイオン強度を調整しても良い。
【0015】
続いて、水または緩衝液を通液して洗浄液をカラムから排出する。
【0016】
また、異なる実施形態として、カラムからゲルを抜き出した後、得られたゲルスラリーをバッチ法で洗浄する方法が挙げられ、下記の(1)から(6)の手順を例示することができる。
(1)ゲルスラリーに対してグラスフィルターや遠心分離、自然沈降などにより固液分離を行う工程、
(2)ゲルに、上記の洗浄液を添加する工程、
(3)必要に応じて、(1)から(2)の手順を繰り返す工程、
(4)再度、固液分離により洗浄液を分離する工程、
(5)ゲルに、水や緩衝液を添加して洗浄液を抜く工程、
(6)必要に応じて、(4)から(5)の手順を繰り返す工程。
【0017】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0018】
以下の通り、実施例で用いる水溶液等の調製を行った。
(1)平衡化緩衝液、吸着緩衝液、溶出液
濃縮液として0.3M MES緩衝液(pH6.0)、4M 硫酸アンモニウム溶液を調製し、純水で適宜希釈して平衡化緩衝液および吸着緩衝液を調製した。平衡化緩衝液の濃度は20mM MES、0.9M硫酸アンモニウムとし、吸着緩衝液も同濃度となる様に調整した。また、溶出液として純水、20%エタノール水溶液を調製した。
(2)CIP溶液
CIP溶液として、0.1M水酸化ナトリウム水溶液、10%酢酸溶液、500ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液、1%過酸化水素水、0.1M水酸化ナトリウムおよび0.1%Triton X-100混合水溶液、0.1M水酸化ナトリウムおよび0.2%ドデシル硫酸ナトリウム混合水溶液、0.1M水酸化ナトリウムおよび0.1M過塩素酸ナトリウム混合水溶液、0.1M水酸化ナトリウムおよび0.2M過塩素酸ナトリウム混合水溶液、100ppm次亜塩素酸ナトリウムおよび0.1%Triton X-100混合水溶液、100ppm次亜塩素酸ナトリウムおよび0.2%ドデシル硫酸ナトリウム混合水溶液を調製した。
(3)抗体サンプル
グロブリン筋注(日本血液製剤機構製、グロブリン濃度150g/L)を使用した。
(4)疎水性クロマトグラフィー用充填剤
疎水性クロマトグラフィー用充填剤として、トヨパール(東ソー社製、多孔性親水化メタクリレート樹脂)に疎水性官能基としてフェニル基を共有結合にて導入した充填剤を使用した。
【0019】
(比較例1) 単一成分水溶液によるCIP検討
試験に要する数量のオープンカラム(マイクロスピンカラム、GEヘルスケア社製)に、0.2mL相当の疎水性クロマトグラフィー用充填剤(水サクションドライゲル160mg)をそれぞれ入れた。
吸脱着試験は以下の手順で実施した。はじめに、6カラムボリューム(CV)の平衡化緩衝液を通液して洗浄した。カラム出口を閉じた後、67.5μLの4M硫酸アンモニウム、152.5μLの純水、20μLの0.3M MES緩衝液(pH6.0)、60μLのグロブリン筋注を添加してカラム入口を密封後、ロータリー撹拌機で1時間攪拌して抗体を充填剤に吸着させた。つづいて、未吸着抗体をカラムから排出後に10CVの平衡化緩衝液を通液して未吸着抗体をカラムから完全に溶出した。その後、2CVの純水、3CVの20%エタノール水溶液を順次通液して吸着した抗体を溶出させて回収し、抗体回収量を280nmの吸光度を測定することで算出した。続いて、CIP溶液を6CV通液してカラムを洗浄後、続く吸脱着試験に備えて6CVの平衡化緩衝液を通液し、再度平衡化した。
上記の吸脱着試験を計3回ずつ行い、初期抗体吸着量からの変化を観察した。
試験の結果、抗体吸着量の低下度が大きく、洗浄が効果的に行われていないことを確認した。
【0020】
【0021】
(実施例1)水酸化ナトリウム水溶液と添加剤混合液によるCIP検討
充填剤の秤量と吸脱着試験の方法は比較例1と同様に行った。
CIP溶液として、0.1M水酸化ナトリウム水溶液をベースに、添加剤として0.1%Triton X-100、0.2%SDS、0.1M過塩素酸ナトリウム、0.2M過塩素酸ナトリウムをそれぞれ混合した液を調製し、試験に供した。
試験の結果、0.1M水酸化ナトリウム水溶液と各種添加剤混合液において、対照実験である一般的な0.1M水酸化ナトリウム水溶液による洗浄よりも高い吸着容量維持を認めた。特に0.1M水酸化ナトリウム水溶液と0.1%Triton X-100の組み合わせにおいて、試験3回目においても50%程度の抗体吸着量を維持する良好な結果となった。
【0022】
【0023】
(実施例2)次亜塩素酸ナトリウム水溶液と添加剤混合液によるCIP検討
充填剤の秤量と吸脱着試験の方法は比較例1と同様に行った。
CIP溶液として、100ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液をベースに、添加剤として0.1%Triton X-100、0.2%SDSをそれぞれ混合した液を調製し、試験に供した。
試験の結果、100ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液と各種添加剤混合液において、対照実験である100ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液による洗浄よりも高い吸着容量維持を認めた。特に100ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液と0.2%SDSの組み合わせにおいて、試験3回目においても60%以上の抗体吸着量を維持する良好な結果となった。
【0024】