(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175529
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】流路構造体の粒子検出部における逆流生成機構
(51)【国際特許分類】
G01N 15/12 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
G01N15/12 D
G01N15/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081996
(22)【出願日】2021-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古川 琴浩
(72)【発明者】
【氏名】片山 晃治
(57)【要約】
【課題】
流路構造体が有するアパーチャの閉塞を解消する機構を提供する。
【解決手段】
アパーチャと、アパーチャ下流側にアウトレットを有する流路を備えた流路構造体に対して、
アパーチャ下流側アウトレットにピン構造物を押し込み
アパーチャ下流側アウトレットに充填された流体と接触させて逆洗浄し
アパーチャ閉塞を解消する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子検出用のアパーチャと、アパーチャ下流側にアウトレットを有する流路を備えた流路構造体に対して、
アパーチャ下流側アウトレットにピン構造物を押し込み、
アパーチャ下流側アウトレットに充填された流体とピン構造物を接触させて逆洗浄し、
アパーチャ閉塞を解消することを特徴とする逆流生成機構。
【請求項2】
ピンチドフローフラクショネーション(PFF)用の狭窄流路と、粒子検出用のアパーチャと、アパーチャ下流側にアウトレットを有する流路を備えた流路構造体に対して、
アパーチャ下流側アウトレットにピン構造物を押し込み、
アパーチャ下流側アウトレットに充填された流体とピン構造物を接触させて逆洗浄し、
アパーチャ閉塞を解消することを特徴とする請求項1に記載の逆流生成機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路構造体の粒子検出部における閉塞を解消する機構に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子を個々に1つずつ測定することで、マイノリティーな粒子群を正確に検出可能な技術として、電気的検出を用いるコールター法(電気的検知帯法;以下、ESZと記載)が知られている。この手法は、検出時に得られる情報(シグナル)が、各粒子に対して1対1で対応しているため粒子個々の評価をすることが可能であり、数的に含まれる割合の少ない粒子でも正確に測定できる。ESZ法ではアパーチャに粒子を通過させた際に発生する電気的シグナルを用いて粒子径を算出するが、一般にそのダイナミックレンジはアパーチャ径の2~60%といわれている。ESZ法の欠点であるダイナミックレンジの狭さを解消するため粒子を分級し、異なるアパーチャ径を持つESZ法で検出する方法が開発されている(例えば、特許文献:WO2018/147462号公報)。特許文献1のように連続的な分離を可能にする技術として、マイクロ流路を用いたピンチドフローフラクショネーション(Pinched Flow Fractionation)(以下、PFFと記載)が利用されている。
【0003】
ESZ法は原理上、アパーチャ内が閉塞した場合に粒子検出不可となることが課題である。粒子がアパーチャを通過せずに吸着した場合、また、アパーチャ径を超えるサイズの粒子がアパーチャに流入した場合に閉塞が発生する。
【0004】
アパーチャが閉塞した場合の解決策として、逆洗浄、すなわち粒子を流す向きと逆方向の流れを作り出してアパーチャを洗浄する方法が有効である。しかし、特許文献1のようなPFF法を用いた流路(以下、PFF流路と記載)の構造は複雑であり、流路内の粒子検出部に十分な勢いの流れを作り出して逆洗浄する方法は未確立であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、流路構造体が有するアパーチャの閉塞を解消する機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち本発明の態様は、
粒子検出用のアパーチャと、アパーチャ下流側にアウトレットを有する流路を備えた流路構造体に対して、
アパーチャ下流側アウトレットにピン構造物を押し込み、
アパーチャ下流側アウトレットに充填された流体とピン構造物を接触させて逆洗浄し、
アパーチャ閉塞を解消することを特徴とする逆流生成機構である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ナノ~マイクロレベルの微小な粒子を広範囲に定量的に評価できる流路構造体のアパーチャで発生した閉塞を解消することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1及び比較例1、2で使用した流路の全体図である。
【
図2】実施例1及び比較例1、2で使用した流路の領域21の拡大図である。
【
図3】実施例1及び比較例1、2で使用した流路の領域103の拡大図である。
【
図4】アパーチャに異物が閉塞した流路の写真である。
【
図5】アパーチャに異物が閉塞した流路に実施例1の条件で逆洗浄を実施した後の写真である。
【
図6】アパーチャに異物が閉塞した流路に比較例1の条件で逆洗浄を実施した後の写真である。
【
図7】アパーチャに異物が閉塞した流路に比較例2の条件で逆洗浄を実施した後の写真である。
【
図8】アウトレット104に押し込むピン構造物の一例である。
【
図9】簡便に逆洗浄するためのピン構造物を備えた冶具の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し本発明は異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示にのみ限定されるものでは無い。
【0011】
粒子分離検出流路の一例を示す模式図である
図1と
図3をもとに本発明の実施形態についての詳細を説明する。
【0012】
図1に示す通り、粒子を含む流体100Pおよび粒子を含まない流体100Nは、それぞれ流体導入口であるインレット14aおよび14bから導入され、送液部によって流路下流へと送液され、狭窄流路16、拡大流路17、粒子回収流路102aまたは102bまたは102c、それぞれ対応する粒子検出部103aまたは103bまたは103cを通過して、流体排出口であるアウトレット104aまたは104bまたは104cへ流出する。拡大流路17を流れる粒子は粒子回収流路102へと流れ、粒子回収流路102を経て到達した粒子検出部103において、電気的検出が行われる。この時、粒子検出部103の内部と、アウトレット104は電解質を含む溶液で満たされ、
図3に示す電極54a、54bが浸漬されている。さらに、電極54a、54bへは、それぞれに接続された導線55を介して電気測定器56、電源57が接続されている。粒子検出時は、電源57により任意の値の電流が流れており、アパーチャ53を介した閉回路ができている。さらに電気測定器56は解析部61に接続されており、電気測定器56から得られた検出シグナルを解析部61で計算し、粒子径分布を作成する。マイクロチップ10における流路の断面は、流路構造の作製上の容易さから、矩形であることが望ましいが、円形や楕円形、多角形などの断面であってもよく、また部分的に矩形以外の形状であってもよい。また、流路高さは作製の容易さから均一であることが好ましいが、部分的に深さが異なっていてもよい。
【0013】
流路構造体は、アパーチャを複数個備えていても良く、その場合アパーチャ下流側にアウトレットを1つ以上有していることが好ましい。
【0014】
流路構造体の材質としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリル等の各種ポリマー材料、ガラス、シリコーン、セラミクス、ステンレスなどの各種金属、半導体などを用いることができ、またこれらの材料のうち、任意の2種類の基板を組み合わせて用いることも可能である。ただし、流路自体を安価に作製し提供するためには、少なくとも部分的にポリマー材料を用いることが好ましい。
【0015】
流路がPDMS等の伸縮可能な材質であれば、上述したピン構造物は硬質の材料、例えばアクリル等の各種ポリマー材料であればガラス、シリコーン、セラミクス、ステンレスなどの各種金属が好ましい。逆に流路が前記硬質の材料であればPDMSやブタジエンースチレンゴムなどの伸縮可能な材料を用いることで、液を圧入することができる。
【0016】
本発明における流体は、水溶液であり、好ましくは界面活性剤を含む水溶液であるが、塩類が入っていても良い。また、水溶性の有機溶媒や、非水溶性の有機溶媒を用いることもでき、それらに界面活性剤や塩類が含まれていても良い。
【0017】
ピン構造物は、
図9に示すようなピン構造物を押し込むための冶具を用いて圧入すると、簡便かつ再現性が良くなり好ましい。ピン構造物がアウトレット104に圧入された際にすき間ができないよう、ピン構造物の大きさは、断面積がアウトレット104と同じであることが好ましいが、アウトレット104に圧入できるのであればピン構造物の断面積の方が大きくてもよい。治具を用いる場合、ピン構造物は複数備えていても良い。流路がPDMS等の伸縮可能な材質であれば、上述したピン構造物は硬質の材料、例えばアクリル等の各種ポリマー材料であればガラス、シリコーン、セラミクス、ステンレスなどの各種金属が好ましい。逆に流路が前記硬質の材料であればPDMSやブタジエン-スチレンゴムなどの伸縮可能な材料を用いることで、流体を圧入することができる。
【0018】
ピン構造物をアウトレット104へ圧入する際、圧入後にアウトレットに充填された流体100Nとピン構造物が接触する圧入条件とすることが好ましい。圧入条件の調節には、アウトレット104に充填された流体100Nの量を調節してもよく、ピン構造物の圧入距離を調節してもよい。
【0019】
アウトレットに充填する流体100Nは、本発明においては水溶液であり、好ましくは界面活性剤を含む水溶液であるが、塩類が入っていても良い。また水溶性の有機溶媒や、非水溶性の有機溶媒を用いることもでき、それらに界面活性剤や塩類が含まれていても良い。
【実施例0020】
(実施例1)
一般的なフォトリソグラフィーとソフトリソグラフィー技術を用いて、
図1に示すマイクロチップ10を作製した。具体的な手順は、特許文献1の実施例に記載の方法と同様である。この時、マイクロチップ10の各流路について、流路13の高さは粒子検出部103a、粒子検出部103c以外すべて4.5μmとし、流路13の端部に、基板11の上面に貫通するインレット14a、14b、アウトレット104a、104a’、104b、104b’、104c、104c’、23(それぞれ穴の径1.9mm、穴の高さ5mm)を設けた。また流路13は、分岐流路18a(幅20μm、長さ1.5mm)、分岐流路18b(幅40μm、長さ500μm)、狭窄流路16(幅6μm、長さ20μm)、拡大流路17(24b角度135度、最大拡大時流路幅600μm、長さ0.5mm)、ドレイン流路22(幅500μm、長さ1.7mm)、粒子回収流路102a(幅75μm、長さ4mm)、粒子回収流路102c(幅140μm、長さ7.5mm)、粒子回収流路102b(幅512μm、長さ3.75mm)とした。また、粒子検出部102aの2つのアパーチャは、どちらも幅1μm、高さ0.4μm、長さ10μmとし、粒子検出部102cの2つのアパーチャは、どちらも幅2μm、高さ0.8μm、長さ10μmとし、粒子検出部102bの2つのアパーチャは、どちらも幅3.5μm、高さ4.5μm、長さ20μmとした。
【0021】
アパーチャの閉塞したマイクロチップ10(
図4参照)のアウトレット104に流体100Nとして0.05%(v/v)ツイーン20含有の1×PBS溶液(リン酸緩衝液)(以下、PBS-Tと記載)を10μL導入し、アウトレット104の底面から気液界面までの距離を3.5mmとした。
図9に示す冶具でアウトレット104へピン構造物を圧入した。このとき圧入後のピン構造物の先端からアウトレット104の底面までの距離を3.0mmとし、アウトレット104に充填された流体100Nとピン構造物が接触した状態で圧入した。圧入後にアパーチャ53を顕微鏡観察したところ、アパーチャ53の閉塞が解消されたことを確認した(
図5参照)。
【0022】
(比較例1)
実施例1と同様にアパーチャの閉塞したマイクロチップ10に対して、アウトレット104に流体100NとしてPBS-Tを7μL導入し、アウトレット104の底面から気液界面までの距離を2.5mmとした。
図9に示す冶具でアウトレット104へピン構造物を圧入した。このとき圧入後のピン構造物の先端からアウトレット104の底面までの距離を3.0mmとし、アウトレット104に充填された流体100Nの気液界面とピン構造物が接触せず0.5mmのすき間が空く状態で圧入した。圧入後にアパーチャ53を顕微鏡観察し、アパーチャ53の閉塞が解消されていないことを確認した(
図6参照)。
【0023】
(比較例2)
実施例1と同様にアパーチャの閉塞したマイクロチップ10に対して、アウトレット104に流体100NとしてPBS-Tを5μL導入し、アウトレット104の底面から気液界面までの距離を1.8mmとした。
図9に示す冶具でアウトレット104へピン構造物を圧入した。このとき圧入後のピン構造物の先端からアウトレット104の底面までの距離を3.0mmとし、アウトレット104に充填された流体100Nの気液界面とピン構造物が接触せず1.2mmのすき間が空く状態で圧入した。圧入後にアパーチャ53を顕微鏡観察し、アパーチャ53の閉塞が解消されていないことを確認した(
図7参照)。