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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175537
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】カスケード式極低温冷凍機
(51)【国際特許分類】
   F25B 9/00 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
F25B9/00 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082025
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】000133939
【氏名又は名称】テラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】平野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】河島 裕
(72)【発明者】
【氏名】伊東 徹也
(57)【要約】      (修正有)
【課題】超電導を実現する程度の極低温の冷却における効率を向上する。
【解決手段】蓄冷式冷凍機1と、蒸気圧縮式冷凍機17とを用意し、蒸気圧縮式冷凍機17の冷媒を蓄冷式冷凍機1の高温部200に搬送する配管を設ける。高温部200の内部には、この冷媒と蓄冷式冷凍機1のガスとが熱交換するための熱交換機構を設ける。蒸気圧縮式冷凍機17は、室温に近い状態から所定の中間温度までの冷却を実行する。中間温度に冷却された冷媒が、蓄冷式冷凍機1の高温部を冷却するため、蓄冷式冷凍機1は、中間温度から目標となる極低温までの冷却を実行することができる。制御装置100は、消費電力の総和が最小となるよう中間温度を設定し、両冷凍機の運転を制御することにより、蓄冷式冷凍機1のみで極低温までの冷却を実行する場合より効率的に冷却を行うことができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の冷凍機を連結することで液体窒素の温度よりも低い極低温の冷却を実現するカスケード式極低温冷凍機であって、
冷媒を所定の中間温度まで冷却する蒸気圧縮式冷凍機と、
高温部が前記中間温度、低温部が前記極低温となるよう設計された蓄冷式冷凍機と、
前記蒸気圧縮式冷凍機の前記冷媒と、前記蓄冷式冷凍機の高温部との熱交換を行う熱交換機構とを備えるカスケード式極低温冷凍機。
【請求項2】
請求項1記載のカスケード式極低温冷凍機であって、
前記熱交換機構は、
前記蓄冷式冷凍機の高温部の内部に設置され、
該蓄冷式冷凍機における冷却に用いられるガスが通過する複数のガス流路と、前記冷媒が通過する複数の冷媒流路とが、相互に接触する構造であるカスケード式極低温冷凍機。
【請求項3】
請求項2記載のカスケード式極低温冷凍機であって、
前記熱交換機構は、
前記ガス流路は、前記高温部の内部における流動方向に沿って形成されているカスケード式極低温冷凍機。
【請求項4】
請求項2または3記載のカスケード式極低温冷凍機であって、
さらに、前記高温部の外表面に設けられ前記熱交換を行う第2の熱交換機構を備えるカスケード式極低温冷凍機。
【請求項5】
請求項1~4いずれか記載のカスケード式極低温冷凍機であって、
前記蓄冷式冷凍機の前記高温部への外部からの熱伝達を遮断する断熱機構を備えるカスケード式極低温冷凍機。
【請求項6】
請求項1~5いずれか記載のカスケード式極低温冷凍機であって、
前記蓄冷式冷凍機および前記蒸気圧縮式冷凍機の消費電力に基づいて設定された前記中間温度に基づいて前記蓄冷式冷凍機および前記蒸気圧縮式冷凍機の運転を制御する制御装置を備えるカスケード式極低温冷凍機。
【請求項7】
請求項6記載のカスケード式極低温冷凍機であって、
前記制御装置は、前記消費電力の総和が最小値となるよう設定された前記中間温度を用いるカスケード式極低温冷凍機。
【請求項8】
請求項6または7記載のカスケード式極低温冷凍機であって、
前記制御装置は、
前記蓄冷式冷凍機および前記蒸気圧縮式冷凍機のそれぞれについて消費電力と作動温度との関係を示す消費電力データを予め記憶する消費電力データ記憶部と、
該消費電力データに基づいて前記中間温度を設定する中間温度設定部とを備えるカスケード式極低温冷凍機。
【請求項9】
請求項1~8いずれか記載のカスケード式極低温冷凍機であって、
前記蓄冷式冷凍機は、達成すべき目標となる前記極低温への冷却を実現するよう選択され、
前記蒸気圧縮式冷凍機および前記中間温度は、前記蓄冷式冷凍機の消費電力と、該蒸気圧縮式冷凍機の消費電力との総和が最小となるよう選択されているカスケード式極低温冷凍機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体窒素(77.3K)以下の極低温の冷却を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に超電導を実現するためには、20~40Kほどの環境が必要とされている。かかる冷却を実現する装置として、蓄冷式冷凍機が用いられることが多い。蓄冷式冷しては、スターリング冷凍機、パルス管冷凍機などが知られている。
また、ショーケースなどで用いられる温度帯における冷凍機では、冷凍効率を向上させるための技術として、複数の冷凍機を直列に連結するカスケード式が知られている。例えば、特許文献1は、メイン冷却機と過冷却機との間で冷媒の熱交換を行うことにより、冷却機能を速やかに発揮できるようにする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-82294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、研究開発は、超電導を実現することおよびその応用技術に注力されており、超電導を実現するための冷却の効率については、ほとんど検討されていない状況であった。極低温の冷凍は、冷却に多大な消費電力を要し、冷却効率が低かったが、こうした課題は顧みられることがなく、この結果、超電導は、例えば、MRI、リニアモーターカー、核融合炉など、冷却効率を問わないほど必要性が高い分野においてのみ限定的に利用される技術となっていた。
【0005】
しかし、超電導は、かかる分野に限らず応用可能な技術であり、電気抵抗をゼロにできることから、その有用性も非常に高い技術である。このように広い分野で超電導を応用するためには、それを実現する極低温の冷凍を効率良く実現する必要がある。
液体窒素の温度(77.3K)以下の極低温の冷凍の効率向上は、必ずしも超電導に限らず、求められるものである。本発明は、かかる課題に鑑み、かかる極低温を実現する冷凍の効率向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
複数種類の冷凍機を連結することで液体窒素の温度よりも低い極低温の冷却を実現するカスケード式極低温冷凍機であって、
冷媒を所定の中間温度まで冷却する蒸気圧縮式冷凍機と、
高温部が前記中間温度、低温部が前記極低温となるよう設計された蓄冷式冷凍機と、
前記蒸気圧縮式冷凍機の前記冷媒と、前記蓄冷式冷凍機の高温部との熱交換を行う熱交換機構とを備えるカスケード式極低温冷凍機とすることができる。
【0007】
冷凍機の理想的な効率であるカルノー効率(=低温端温度/(高温端温度-低温端温度))は、低温端温度が低いほど低い値となる。従って、蓄冷式冷凍機のみで室温程度の温度から極低温までの冷却を行おうとする場合、その効率向上には、理論上も限界があることになる。
一方、本発明では、上述の通り、蓄冷式冷凍機と蒸気圧縮式冷凍機とを熱交換機構を介して連結させることで、全体として極低温の冷却を実現する。即ち、中間温度までの冷却を蒸気圧縮式冷凍機で行い、中間温度から極低温までの冷却を蓄冷式冷凍機で行うのである。こうすることにより、蒸気圧縮式冷凍機では、蓄冷式冷凍機よりも高い効率での冷却を行うことが可能となるから、本発明では、全体として極低温までの冷却効率を向上させることができる。
【0008】
蓄冷式冷凍機としては、スターリング冷凍機、パルス管冷凍機など種々の形式を利用可能である。従来、蓄冷式冷凍機は、パルス管などに封入されたガスに正弦波その他の形状の圧力波を加え、このガスの局所的な移動に伴う圧縮膨張によって温度勾配を生じさせることを基本原理とするものであり、高温端には、高温のガスと熱交換して、熱を外部に放出するフィンなどの機構が備えられていた。本発明では、高温部において、かかる機構に代えて、またはかかる機構と共に蒸気圧縮式冷凍機との熱交換機構を備える。
【0009】
本発明において、蓄冷式冷凍機、蒸気圧縮式冷凍機は、それぞれ1台としてもよいし、2台以上としてもよい。両者を同数とする必要もない。
複数台を設ける場合、例えば、蓄冷式冷凍機を、中間温度から温度Aまで冷凍する冷凍機、温度Aから目標の極低温まで冷凍する冷凍機というように、多段階で極低温の冷凍を実現するように構成してもよい。蒸気圧縮式冷凍機についても同様である。
また、1台の蒸気圧縮式冷凍機に対して、複数の蓄冷式冷凍機を並列に連結させてもよい。この場合、複数の蓄冷式冷凍機には、それぞれ個別に熱交換機構を備えることになるが、蒸気圧縮式冷凍機とこれらの熱交換機構との間の接続も並列とすることが好ましい。
【0010】
本発明において、熱交換機構は、種々の態様をとることができるが、例えば、
前記熱交換機構は、
前記蓄冷式冷凍機の高温部の内部に設置され、
該蓄冷式冷凍機における冷却に用いられるガスが通過する複数のガス流路と、前記冷媒が通過する複数の冷媒流路とが、相互に接触する構造であるものとしてもよい。
【0011】
かかる態様によれば、高温部内部での熱交換が可能となるため、高温部の外表面で熱交換を行う場合に比較して、速やかにかつ効率的に熱交換することが可能となる。
本発明において、冷却効率を向上させるためには、蓄冷式冷凍機における高温部と低音部の温度差を小さくすることが好ましく、この意味で中間温度を低めに設定することが好ましい。しかし、高温部における速やかな熱交換を実現しないことには、高温部の温度を目標の中間温度に維持することが困難となる。上記態様は、こうした速やかな熱交換を行うために有用性が高いものである。
【0012】
また、蓄冷式冷凍機の高温部の内部空間は、比較的狭いことが多く、高温部内部に熱交換機構を組み込むことは容易でないことが多いが、上記態様では、ガス流路と冷媒流路とを相互に接触させる構造とすることにより、これを実現することができる。
ガス流路と冷媒流路は、それぞれ1本としてもよいし、複数本としてもよい。より速やかな熱交換を実現するためには、複数本の流路を用意し、それぞれのガス流路が1本以上の冷媒流路と接触し、またそれぞれの冷媒流路が1本以上のガス流路と接触する構造とすることが好ましい。
具体的な構造は、種々の態様をとることができる。
【0013】
また、熱交換機構を上述の構成とする場合、
前記熱交換機構は、
前記ガス流路は、前記高温部の内部における流動方向に沿って形成されているものとしてもよい。
【0014】
蓄冷式冷凍機では、圧縮膨張により、内部のガスの流動が生じる。上記態様では、ガス流路がガスの流動を阻害しないため、蓄冷式冷凍機の冷却効率が大きく低下することを回避できる利点がある。
【0015】
本発明においては、
さらに、前記高温部の外表面に設けられ前記熱交換を行う第2の熱交換機構を備えるものとしてもよい。
【0016】
こうすることにより、高温部での熱交換をより促進することができる。第2の熱交換機構は、種々の構成をとることができるが、例えば、外表面に、冷媒の配管を巻き付ける構造としてもよい。また、発泡金属や金属薄膜の積層体、金属の微小球体などの熱交換物質を巻き付け、これらを介して冷媒との熱交換を行う機構としてもよい。さらに、第2の熱交換機構を、補助的な熱交換機構として考えれば、必ずしも蒸気圧縮式冷凍機との熱交換に限らず、室温または外気などとの熱交換を行うものとしても良い。
【0017】
熱交換機構が、いずれの態様をとるにせよ、本発明においては、
前記蓄冷式冷凍機の前記高温部への外部からの熱伝達を遮断する断熱機構を備えるものとしてもよい。
【0018】
こうすることにより、外部とは、蓄冷式冷凍機において、中間温度以上の環境にさらされている部分、または蓄冷式冷凍機以外の外気等を意味する。上記態様により、断熱機構を設けることにより、高温部が中間温度以上に高くなることを抑制することができる。この結果、運転中の冷却効率を向上させることができる。また、運転を停止したときでも、高温部が室温程度にまで温度上昇することを抑制できるため、運転を再開したときに、高温部を比較的容易に中間温度まで低下させることが可能となり、再稼働時の冷却効率の向上を図ることもできる。この結果、冷却が不要なときには、冷凍機の運転を停止することが可能となるから、全体として冷却効率の向上を図ることができる。
【0019】
本発明においては、
前記蓄冷式冷凍機および前記蒸気圧縮式冷凍機の消費電力に基づいて設定された前記中間温度に基づいて前記蓄冷式冷凍機および前記蒸気圧縮式冷凍機の運転を制御する制御装置を備えるものとしてもよい。
【0020】
蓄冷式冷凍機および蒸気圧縮式冷凍機の冷却効率は、中間温度に依存する。中間温度が高くなれば、蒸気圧縮式冷凍機で冷却する温度差は小さくなるため蒸気圧縮式冷凍機での消費電力が低下するものの、蓄冷式冷凍機で冷却する温度差が大きくなるため蓄冷式冷凍機での消費電力が大きくなる。上記態様によれば、かかる観点から、両者の消費電力に基づいて中間温度を設定して運転制御を行うため、目標となる消費電力を実現することが可能となる。
【0021】
上述の制御を行う場合において、
前記制御装置は、前記消費電力の総和が最小値となるよう設定された前記中間温度を用いるものとしてもよい。
【0022】
こうすれば、消費電力の観点からは最適な冷却を実現することができる。かかる中間温度は、運転中に算出するものとしてもよいし、予め解析または実験に基づいて設定しておくものとしてもよい。
【0023】
上述の制御は、種々の方法で実現し得るが、
前記制御装置は、
前記蓄冷式冷凍機および前記蒸気圧縮式冷凍機のそれぞれについて消費電力と作動温度との関係を示す消費電力データを予め記憶する消費電力データ記憶部と、
該消費電力データに基づいて前記中間温度を設定する中間温度設定部とを備えるものとしてもよい。
【0024】
こうすれば、予め用意された消費電力データに基づいて蓄冷式冷凍機、蒸気圧縮式冷凍機の消費電力の総和が最小となる中間温度を求めることができる。また、かかる態様によれば、運転中に最適な中間温度を算出することも可能となる。従って、例えば、冷却目標とする極低温が修正された場合でも、動的に最適な中間温度を算出することが可能となる。
【0025】
中間温度の設定および運転制御は、かかる態様に限らず、例えば、運転中に中間温度をパラメトリックに変化させ、それに伴う消費電力を計測し、その結果に基づいて、消費電力が最小となる中間温度を探索する方法をとってもよい。さらには、過去における目標の冷却温度、中間温度、消費電力の運転結果に基づく機械学習回帰によって、目標の冷却温度に応じて消費電力が最適となる中間温度を得る学習モデルを生成しておき、これを用いて中間温度を設定するようにしてもよい。
【0026】
本発明のカスケード式極低温冷凍機は、種々の方法で構築することができるが、
前記蓄冷式冷凍機は、達成すべき目標となる前記極低温への冷却を実現するよう選択され、
前記蒸気圧縮式冷凍機および前記中間温度は、前記蓄冷式冷凍機の消費電力と、該蒸気圧縮式冷凍機の消費電力との総和が最小となるよう選択されているものとしてもよい。
【0027】
こうすることで、全体として冷却効率の高いカスケード式極低温冷凍機を構築することができる。つまり、本発明の場合、消費電力に影響を与える要素は、蓄冷式冷凍機、蒸気圧縮式冷凍機のそれぞれの選択に加えて運転時の中間温度があり、多次元的に影響を考慮しながら設計を行う必要が生じることになる。
上記態様では、まず、目標となる極低温への冷却を実現できるよう蓄冷式冷凍機を選択する。この冷却に要する消費電力が低いものを選択するに越したことはない。
蓄冷式冷凍機の場合、高温部の温度は、低温部の温度に応じた下限値があるため、これに基づいて中間温度の下限値が候補値として決まることになる。高温部の温度が下がりすぎると、蓄冷式冷凍機のモータや圧縮機に悪影響を与えるおそれがあるため、下限値の決定には、これらの悪影響も考慮することが望ましい。
中間温度の候補値が決まると、蒸気圧縮式冷凍機は、この候補値への冷却を実現する際に消費電力が最小となる候補機を選択する。その上で、蓄冷式冷凍機および蒸気圧縮式冷凍機の消費電力が最小となるように、中間温度および蒸気圧縮式冷凍機を選択すればよい。
【0028】
本発明は、上述したそれぞれの特徴を必ずしも全て備えている必要はなく、適宜、これらの一部を省略したり組み合わせたりして構成してもよい。また、本発明は、カスケード式極低温冷凍機という態様の他、カスケード式極低温冷凍機の運転制御方法、カスケード式極低温冷凍機の設計方法など種々の態様で構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例としてのカスケード式極低温冷凍機の全体構成を示す説明図である。
図2】熱交換機構の構成を示す説明図である。
図3】カスケード式極低温冷凍機の設計処理のフローチャートである。
図4】運転制御処理のフローチャートである。
図5】実施例における冷却効果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施例としてのカスケード式極低温冷凍機について説明する。実施例では、超電導コイルを冷却対象とし、約40K程度を目標の冷却温度とする装置としての例を示すが、かかる冷却温度に関わらず液体窒素以下の種々の極低温の冷却を行う装置として構成することが可能である。
【0031】
図1は、実施例としてのカスケード式極低温冷凍機の全体構成を示す説明図である。
カスケード式極低温冷凍機は、蓄冷式冷凍機1と、蒸気圧縮式冷凍機17、制御装置100、冷媒配管20を備えている。
【0032】
蒸気圧縮式冷凍機17は、気体の冷媒の圧縮膨張により冷却を行う装置である。本実施例では、カスケード式極低温冷凍機が設置されている場所の温度(以下、単に室温という)から、所定の中間温度までの冷却を行う。
中間温度は、任意に設定可能であり、その設定方法についても後述するが、約100K前後の温度とすることが想定されている。
【0033】
蓄冷式冷凍機1としては、スターリング冷凍機、パルス管冷凍機など種々のタイプを利用することができる。本実施例では、パルス管冷凍機を用いている。本実施例では、蓄冷式冷凍機1は、中間温度から極低温までの冷却を行う。
図示する通り、蓄冷式冷凍機1は、パルス管14、蓄冷器16が連結された構造をなしている。両者の間は低温部15と呼ばれる。また、パルス管14、蓄冷器16の両端には高温部200が設けられている。
パルス管14、蓄冷器16には、ヘリウムなどのガスが充填されており、切替バルブ18を介して圧縮機19が接続されている。圧縮機19からは、ガスに対して正弦波その他の形状で圧力波が加えられる。この圧力に応じてガスが流動することにより、冷却が行われる。
また、パルス管の端部には、ガスに加えられた圧力波の位相差を調整するため、オリフィスバルブ12を介してバッファタンク10が接続されている。
【0034】
高温部200とオリフィスバルブ12との間、切替バルブ18との間には、断熱部13A、13Bが設けられている。断熱部13A、13Bは、種々の断熱材が充填されている。
蓄冷式冷凍機1のバッファタンク10、圧縮機19などが室温環境下に設置されている場合でも、断熱部13A、13Bの作用により、外部から高温部200への熱伝達は、ほぼ遮断される。蓄冷式冷凍機1は、中間温度から極低温までの冷却を行うため、冷却時には高温部200は、中間温度、即ち100K近傍の温度に保たれることになる。断熱部13A、13Bの作用により、高温部200の温度上昇を抑制することができ、冷却効率を向上させることができる。また、運転を停止したときでも、高温部200が外部からの熱で温度上昇することを抑制でき、再稼働時に高温部200を中間温度まで下げるために要する消費電力を抑制することができる。この結果、運転が不要なときには、蓄冷式冷凍機1の運転を停止することができ、この点でも消費電力を抑制することが可能となる。
【0035】
蓄冷式冷凍機1の高温部200と蒸気圧縮式冷凍機17との間は、冷媒配管20で接続されている。こうすることにより、蒸気圧縮式冷凍機17で中間温度まで冷却された冷媒が高温部200を中間温度に冷却することができる。
高温部200において、冷媒との熱交換を行うため、高温部200の内部には、熱交換機構が組み込まれている。熱交換機構の構造については、後述する。
【0036】
制御装置100は、カスケード式極低温冷凍機の運転を制御する。制御装置100は、CPU、メモリを備えたコンピュータに、図示する各機能を実現するコンピュータプログラムをインストールすることによって、実現することができる。本実施例では、図示する各機能はソフトウェア的に構成することになるが、これらの一部または全部をハードウェア的に構成してもよい。
【0037】
消費電力データ記憶部116は、蓄冷式冷凍機1および蒸気圧縮式冷凍機17のそれぞれについて、冷却の温度差と消費電力との関係を消費電力データとして記憶する。
設定入力部114は、オペレータの操作によって目標の冷却温度などの設定を入力する。
中間温度設定部112は、入力された冷却温度に応じて、消費電力が最小となる中間温度を設定する。中間温度の設定方法は後述するが、消費電力データに基づき、消費電力の総和が最小となるよう設定される。
運転制御部110は、設定された中間温度に基づき、蒸気圧縮式冷凍機17および蓄冷式冷凍機1の運転を制御する。目標の冷却温度が予め固定され、中間温度も予め設定されているときは、設定入力部114、中間温度設定部112、消費電力データ記憶部116は、省略しても差し支えない。
【0038】
図2は、熱交換機構の構成を示す説明図である。熱交換機構は、高温部200の内部に組み込まれ、蒸気圧縮式冷凍機17で冷却され、冷媒配管20を流れる冷媒との熱交換を行う機構である。
図2(a)には、熱交換機構210の斜視図を示した。熱交換機構210は、三角波状の金属板を金属平板で上下から挟むことによって形成された流路層211a~211dを、複数、積層した構造となっている。本実施例では、流路層211a、211cの流路と、流路層211b、211dの流路が直交するように積層した例を示した。流路層211a、211cには、蓄冷式冷凍機1のガスを流し、流路層211b、211dには蒸気圧縮式冷凍機17で冷却された冷媒を流す。両者の流路が相互に接しているため、熱交換が行われ、高温部200が冷媒の温度、即ち、中間温度に冷却されることになる。
実施例では、流路層211a、211cの流路と、流路層211b、211dの流路とを同じ向きに配置しても差し支えない。この場合、蓄冷式冷凍機1のガスおよび蒸気圧縮式冷凍機17で冷却された冷媒を同方向に流してもよいし、対向するように流しても良い。
【0039】
熱交換機構は、図2(a)で示した構造に限られるものではない。例えば、ガスおよび冷媒の流路を、一枚の金属板に形成された貫通孔で構成してもよい。
また、それぞれの流路を形成する筒状の配管を配列してもよい。この場合、筒の断面を円形とすると、隣接する配管との接触面積が小さくなるため、断面形状は矩形または六角形など隙間を生じさせずに配置できる形状としたり、筒の隙間部分を金属その他の熱伝導率の高い材料で埋めることが好ましい。
【0040】
図2(b)は、熱交換機構を設置した高温部200の内部構造を模式的に示している。熱交換機構210は、図示するように高温部200の内部に取り付けられる。蓄冷式冷凍機1のガスは、矢印Aのように上下方向に流れるため、流路層211a、211cはこの方向に沿うように設置する。冷媒が流れる流路層211a、211cは、矢印Bの方向に向けて設置される。図中では、流路層211a、211cと冷媒配管20とを接続する構造は省略してある。
こうすることにより、蓄冷式冷凍機1におけるガスの流動を阻害することなく、高温部200の内部で熱交換を行うことが可能となる。もっとも、熱交換機構の設置方法は、かかる態様に限定されるものではなく、種々の態様で組み込むことができる。
【0041】
本実施例では、高温部200の外表面に、さらに熱交換機構220を設けた。熱交換機構220は、発泡金属、金属の薄膜の積層体、金属の微小球体などを充填して構成されており、高温部200の外周に巻き付けられている。熱交換機構220は、冷媒の流入口221、排出口222を介して冷媒配管20と接続されている。冷媒は、矢印Cのように熱交換機構220に流入し、熱交換した後、矢印Dのように排出される。熱交換機構220は、補助的なものであるため、省略しても差し支えない。
【0042】
図3は、カスケード式極低温冷凍機の設計処理のフローチャートである。
実施例のカスケード式極低温冷凍機は、蓄冷式冷凍機1、蒸気圧縮式冷凍機17および中間温度の設定などの要素を、全体の消費電力を考慮しながら決める必要がある。図3に示した設計処理は、これらの要素を設計者が決める際の手順の一例を示している。
【0043】
まず、目標となる冷却温度を設定する(ステップS1)。超電導を実現するためにカスケード式極低温冷凍機を用いる場合には、超電導素材に応じて20~40Kなどの温度が目標となる冷却温度として設定されることになる。
【0044】
次に、この温度に基づいて蓄冷式冷凍機を選択する(ステップS2)。既存の蓄冷式冷凍機を用いる場合には、目標の冷却温度を実現可能なものを選択することになる。既存の蓄冷式冷凍機に限られないときは、新規に設計してもよい。
【0045】
そして、蓄冷式冷凍機に基づいて中間温度の候補を設定する(ステップS3)。ステップS5内の曲線C1は、蓄冷式冷凍機の高温部の温度と消費電力の関係を表す図である。高温部の温度が高いほど、冷却に要する消費電力が大きくなることを示している。ただし、蓄冷式冷凍機の場合、原理上、高温部は一定の温度以下にはならないことが知られている。図において曲線C1が、ある温度以下では破線で表されているのは、このことを表している。即ち、目標の冷却温度を決めると、高温部の下限となる温度が定まるとともに、一般的には高温部の温度が高いほど目標の冷却温度までの冷却に要する消費電力は増大することとなる。従って、蓄冷式冷凍機での消費電力のみを考慮するのであれば、高温部の下限値を中間温度とすることが好ましいこととなる。実施例では、この温度を中間温度候補として設定する。
【0046】
次に、中間温度候補に基づいて、蒸気圧縮式冷凍機の候補を選択する(ステップS4)。この段階では、必ずしも蒸気圧縮式冷凍機の候補を1台に絞り込む必要はない。既存の蒸気圧縮式冷凍機のうち、冷却に要する消費電力が中間温度候補付近で最小となるものを数種類候補として選択すればよい。もちろん、既存に限らず、新規に設計しても差し支えない。
図のステップS5内の曲線C2は、蒸気圧縮式冷凍機によって、室温からのそれぞれの温度までの冷却に要する消費電力を示している。図示する通り、一般的にある温度範囲で消費電力は最小となることが知られている。この温度範囲よりも低い場合に消費電力が増大するのは、極低温までの冷却を実現しようとすれば、冷却効率が低い状態で冷却を行う必要があるからである。一方、高い場合に消費電力が増大するのは、蒸気圧縮式冷凍機ではその構造上、冷媒の圧縮、膨張によって効率的に実現される冷却温度が決まってくるため、それよりも高い温度の冷却を行うためには、一旦冷えた冷媒に熱を加える必要が出てくるからである。こうして、蒸気圧縮式冷凍機では、消費電力が最小となる温度範囲が存在する。ステップS4では、この消費電力が最小となる温度範囲内に中間温度候補が入るようなものを選択または設計するのである。
【0047】
次に、総消費電力に基づき、蒸気圧縮式冷凍機および中間温度の設定を行う(ステップS5)。図中に設定方法を示した。図中、曲線C1は、蓄冷式冷凍機によって、それぞれの温度から目標の冷却温度まで冷却する際の消費電力を表している。曲線C2は、室温からそれぞれの温度まで冷却する際の消費電力を表している。そして、曲線Ctotalは、曲線C1と曲線C2との和であり、それぞれの温度を中間温度としたときの、室温から目標の冷却温度までの冷却に要する総消費電力を表している。曲線C2が、最小値を有することから、曲線Ctotalにも最小値が現れる。この最小値に対応する温度が、消費電力が最小となるという意味での最適な中間温度となる。
【0048】
上述の評価を、候補となっている蒸気圧縮式冷凍機それぞれについて行えば、蒸気圧縮式冷凍機ごとに最適となる中間温度および総消費電力を求めることができる。そして、この中で、総消費電力が最小となる蒸気圧縮式冷凍機および中間温度を求めれば、これが目標の冷却温度を実現する最適なカスケード式極低温冷凍機の構成であるということになる。なお、蒸気圧縮式冷凍機は、必ずしも複数の候補を用意する必要はない。候補が一種類だけの場合には、その蒸気圧縮式冷凍機に対して、最適な中間温度を設定すればよい。
【0049】
こうして、蓄冷式冷凍機、蒸気圧縮式冷凍機および中間温度が設定されると、次は、蓄冷式冷凍機、蒸気圧縮式冷凍機の熱交換機構の設計を行う(ステップS6)。熱交換機構は、図2で説明した構造その他種々の構造を採用することができるが、蓄冷式冷凍機の高温部を中間温度に維持できるよう、十分に迅速かつ効率的な熱交換を実現できるよう構成することが望ましい。
【0050】
次に、実施例のカスケード式極低温冷凍機の冷凍運転制御処理について説明する。
図4は、運転制御処理のフローチャートである。制御装置100が実行する処理である。処理を開始すると、制御装置100は、オペレータの操作を受付け、目標冷却温度を入力する(ステップS10)。
先に図3のステップS1で説明した通り、カスケード式極低温冷凍機の設計時点でも目標の冷却温度が設定されているが、制御処理のステップS10の設定は、実際の運転時に、これとは異なる冷却温度が設定される場合を想定している。常に、設計時に設定された冷却温度でのみ運転を行うのであれば、ステップS10から後述するステップS16までの処理を省略してもよい。
【0051】
次に、制御装置100は、予め記憶してあった蓄冷式冷凍機の消費電力のデータを読み込む(ステップS12)。実施例では、制御装置100の消費電力データ記憶部116に予め記憶させておくものとしているが(図1参照)、ネットワーク経由で必要に応じてサーバ等からダウンロードするようにしても良い。
【0052】
制御装置100は、また、蒸気圧縮式冷凍機の消費電力も読み込む(ステップS14)。このデータも、ネットワーク経由で必要に応じてサーバ等からダウンロードするようにしても良い。
【0053】
そして、これらを利用して得られる総消費電力に基づいて中間温度を設定する(ステップS16)。図中に中間温度の設定方法を示した。カスケード式極低温冷凍機の設計時点での設定(図3のステップS5)と同様である。即ち、図4のステップS16に示した曲線C1は、蓄冷式冷凍機によって、それぞれの温度から目標の冷却温度まで冷却する際の消費電力を表している。目標の冷却温度は、設計時と異なっているから、図3のステップS5とは異なる曲線となってくる。蓄冷式冷凍機の消費電力データを、高温部と低温部の温度差に対する消費電力という形で用意しておけば、設定された目標の冷却温度は低温部の温度となり、曲線C1を描く際の横軸の温度は高温部の温度となるから、予め記憶された消費電力データを冷却温度に応じて左右にシフトさせて描くことで曲線C1を得ることができる。
【0054】
図4のステップS16中の曲線C2は、室温からそれぞれの温度まで冷却する際の消費電力を表している。この曲線C2は、予め蒸気圧縮式冷凍機について記憶されている消費電力データをそのまま描けばよい。そして、曲線Ctotalは、曲線C1と曲線C2との和であり、それぞれの温度を中間温度としたときの、室温から目標の冷却温度までの冷却に要する総消費電力を表している。そして、曲線Ctotalの消費電力が最小となる温度を選択すれば、総消費電力が最小という意味での最適な中間温度を設定することができる。
こうして中間温度が設定されると、制御装置100は、各冷凍機の運転を制御する(ステップS18)。
【0055】
以上で説明した実施例のカスケード式極低温冷凍機によれば、全体としての冷却効率を向上させることができる。その一例を以下に示す。
図5は、実施例における冷却効果を示す説明図である。
左側には、蓄冷式冷凍機のみを利用して300Kから20Kまで冷却したときの冷却効率COPを示している。実在する蓄冷式冷凍機では、冷却効率は0.03程度であることが知られている。この冷却効率を前提に、消費電力を算出すると333Wとなる。
一方、右側には、実施例のカスケード式極低温冷凍機の冷却効率を示した。100Kを中間温度とするとき、蒸気圧縮式冷凍機では300Kから100Kの冷却を行い、蓄冷式冷凍機では100Kから20Kの冷却を行うことになる。蓄冷式冷凍機の冷却効率は、0.03よりも高い0.15程度が実現可能である。また、蒸気圧縮式冷凍機の冷却効率は、0.4が実現可能である。これらの冷却効率に基づいて消費電力を算出すると、168W+67Wで合計235Wとなる。
従って、消費電力は、カスケード式極低温冷凍機にすることによって、333Wから235Wに低減することができ、約29%(=(333-235)/333×100)の省電力化を実現することが可能となる。
【0056】
以上の実施例で説明した種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりしてもよい。
また、本発明のカスケード式極低温冷凍機は、実施例に限らず、種々の変形例を構成することが可能である。
例えば、実施例では、蓄冷式冷凍機、蒸気圧縮式冷凍機をそれぞれ1台ずつ用いる構造例を示したが、複数台を用いてもよい。この場合、複数台の蓄冷式冷凍機を1台の蒸気圧縮式冷凍機に並列で連結するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、液体窒素以下の極低温の冷却を実現するために利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 蓄冷式冷凍機
10 バッファタンク
12 オリフィスバルブ
13A、13B 断熱部
14 パルス管
15 低温部
16 蓄冷器
17 蒸気圧縮式冷凍機
18 切替バルブ
19 圧縮機
20 冷媒配管
100 制御装置
110 運転制御部
112 中間温度設定部
114 設定入力部
116 消費電力データ記憶部
200 高温部
210 熱交換機構
211a~211d 流路層
220 熱交換機構
221 流入口
222 排出口

図1
図2
図3
図4
図5