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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175783
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】双極型鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/18 20060101AFI20221117BHJP
   H01M 4/68 20060101ALI20221117BHJP
   H01M 50/541 20210101ALI20221117BHJP
【FI】
H01M10/18
H01M4/68 A
H01M50/541
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082472
(22)【出願日】2021-05-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小出 彩乃
【テーマコード(参考)】
5H017
5H028
5H043
【Fターム(参考)】
5H017AA01
5H017AS02
5H017CC01
5H017DD01
5H017EE02
5H017HH00
5H017HH03
5H017HH05
5H028AA08
5H028CC01
5H028CC07
5H028CC08
5H028CC20
5H028CC26
5H028EE01
5H028HH00
5H028HH05
5H043AA01
5H043AA02
5H043BA12
5H043CA13
5H043FA10
5H043JA02E
5H043KA02E
5H043LA03E
5H043LA04E
(57)【要約】
【課題】耐食性の高い鉛合金からなる鉛箔を集電板として備えた双極型蓄電池において、耐食性の高い鉛合金からなる鉛箔と活物質層との密着性を向上させる。
【解決手段】正極用鉛箔および負極用鉛箔は粒状組織である部分を有し、正極用鉛箔111aの正極用活物質層111bとの界面および負極用鉛箔112aの負極用活物質層112bとの界面の少なくともいずれかは、粒状組織に形成された部分を有するとともに、「JIS B 0601:2013の付属書JA」の規定による十点平均粗さ(RzJIS)が50μm以上であり、この規定による最大高さ粗さ(Rz)が、粒状組織を構成する粒子の平均粒子径の1/2よりも小さい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛または鉛合金からなる正極用鉛箔の一面に正極用活物質層が配置されている正極、鉛または鉛合金からなる負極用鉛箔の一面に負極用活物質層が配置されている負極、および前記正極と前記負極との間に介在するセパレータを備え、間隔を開けて積層配置された、複数のセル部材と、
前記複数のセル部材を個別に収容する複数の空間を形成する、複数の空間形成部材と、
を有し、
前記空間形成部材は、前記セル部材の前記正極の側および前記負極の側の少なくとも一方を覆う基板と、前記セル部材の側面を囲う枠体と、を含み、
前記セル部材と前記空間形成部材の前記基板とが交互に積層された状態で配置され、隣接する前記枠体が接合され、
前記正極用鉛箔および前記負極用鉛箔は粒状組織である部分を有し、
前記正極用鉛箔の前記正極用活物質層との界面および前記負極用鉛箔の前記負極用活物質層との界面の少なくともいずれかは、前記粒状組織に形成された部分を有するとともに、「JIS B 0601:2013の付属書JA」の規定による十点平均粗さ(RzJIS)が50μm以上であり、前記規定による最大高さ粗さ(Rz)が、前記粒状組織を構成する粒子の平均粒子径の1/2よりも小さく、
隣り合う前記セル部材の間に配置された前記基板は、板面と交差する方向に延びる貫通穴を有し、前記貫通穴の中で、隣り合う前記セル部材の前記正極用鉛箔と前記負極用鉛箔とが導通されて、前記複数のセル部材が直列に電気的に接続されている双極型鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双極型鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光や風力等の自然エネルギを利用した発電設備が増えている。このような発電設備においては、発電量を制御することができないことから、蓄電池を利用して電力負荷の平準化を図るようにしている。すなわち、発電量が消費量よりも多いときには差分を蓄電池に充電する一方、発電量が消費量よりも小さいときには差分を蓄電池から放電するようにしている。上述した蓄電池としては、経済性や安全性等の観点から、鉛蓄電池が多用されている。このような従来の鉛蓄電池としては、例えば、下記特許文献1に記載された双極型鉛蓄電池が知られている。
【0003】
この双極型鉛蓄電池は、額縁形で樹脂製のフレームの内側に、樹脂製の基板が取り付けられている。基板の両面には鉛層が配置されている。基板の一面の鉛層には、正極用活物質層が隣接し、他面の鉛層には、負極用活物質層が隣接している。また、額縁形で樹脂製のスペーサを有し、その内側には、電解液を含浸させたガラスマットが配設されている。そして、フレームとスペーサとを交互に複数積層し、フレームとスペーサとの間が接着剤等で接着されている。また、基板に設けた貫通穴を介して、基板の両面の鉛層が接続されている。
【0004】
すなわち、特許文献1に記載された双極型鉛蓄電池は、鉛または鉛合金からなる正極用鉛箔の一面に正極用活物質層が配置されている正極、鉛または鉛合金からなる負極用鉛箔の一面に負極用活物質層が配置されている負極、および正極と負極との間に介在するセパレータ(ガラスマット)を備え、間隔を開けて積層配置された、複数のセル部材と、複数のセル部材を個別に収容する複数の空間を形成する、複数の空間形成部材と、を有する。
【0005】
また、空間形成部材は、セル部材の正極側および負極側の少なくとも一方を覆う基板と、セル部材の側面を囲う枠体(二極式プレートおよび端部プレートの枠部とスペーサ)と、を含んでいる。さらに、セル部材と空間形成部材の基板とが交互に積層状態で配置され、隣り合うセル部材の間に配置された基板は、板面と交差する方向に延びる貫通穴を有し、貫通穴の中で、隣り合うセル部材の正極用鉛箔と負極用鉛箔とが導通されて複数のセル部材が直列に電気的に接続され、隣接する枠体が接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6124894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉛蓄電池の劣化原因の一つに、正極集電板の腐食がある。電池使用期間が長くなるほど、正極集電板の腐食は進行し、腐食が進むと正極活物質の保持ができなくなり、電池としての性能が低下してしまう。それだけでなく、腐食によって脱落した正極材(正極集電板または正極活物質)が負極に接してしまった場合、短絡の可能性もある。
特に、バイポーラ鉛蓄電池の場合、電流分布が面での反応となるため、電荷移動抵抗を考慮する必要がなく、集電板を薄くすることが可能であるが、正極と負極との距離が近いため、正極集電板の腐食が多いと致命的な欠陥が生じる恐れがあることから、正極集電板の腐食を抑制する必要がある。しかし、耐食性の高い鉛合金は活物質と反応しにくいことから、耐食性の高い鉛合金からなる鉛箔は活物質層との密着性に劣るものとなっている。
【0008】
本発明の課題は、耐食性の高い鉛合金からなる鉛箔を集電板として備えた双極型蓄電池において、耐食性の高い鉛合金からなる鉛箔と活物質層との密着性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するための本発明の第一態様は、以下の構成(1)~(4)を有する双極型蓄電池である。
(1)鉛または鉛合金からなる正極用鉛箔の一面に正極用活物質層が配置されている正極、鉛または鉛合金からなる負極用鉛箔の一面に負極用活物質層が配置されている負極、および前記正極と前記負極との間に介在するセパレータを備え、間隔を開けて積層配置された、複数のセル部材と、前記複数のセル部材を個別に収容する複数の空間を形成する、複数の空間形成部材と、を有する。
【0010】
(2)前記空間形成部材は、前記セル部材の前記正極側および前記負極側の両方を覆う合成樹脂製の基板と、前記セル部材の側面を囲う枠体と、を含む。前記セル部材と前記空間形成部材の前記基板とが交互に積層された状態で配置されている。隣接する前記枠体が接合されている。
【0011】
(3)前記正極用鉛箔および前記負極用鉛箔は粒状組織である部分を有する。前記正極用鉛箔の前記正極用活物質層との界面および前記負極用鉛箔の前記負極用活物質層との界面の少なくともいずれかは、前記粒状組織に形成された部分を有するとともに、「JIS B 0601:2013の付属書JA」の規定による十点平均粗さ(RzJIS)が50μm以上であり、前記規定による最大高さ粗さ(Rz)が、前記粒状組織を構成する粒子の平均粒子径の1/2よりも小さい。
【0012】
(4)隣り合う前記セル部材の間に配置された前記基板は、板面と交差する方向に延びる貫通穴を有し、前記貫通穴の中で、隣り合う前記セル部材の前記正極用鉛箔と前記負極用鉛箔とが導通されて、前記複数のセル部材が直列に電気的に接続されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の双極型鉛蓄電池は、耐食性の高い鉛合金からなる鉛箔(集電板)と活物質層との密着性に優れたものとなることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態である双極型鉛蓄電池の概略構成を示す断面図である。
図2図1の双極型鉛蓄電池の部分拡大図である。
図3】No.1の鉛箔の断面の金属組織を示す顕微鏡写真である。
図4】No.6の鉛箔の断面の金属組織を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0016】
〔全体構成〕
先ず、この実施形態の双極(バイポーラ)型鉛蓄電池の全体構成について説明する。
図1に示すように、この実施形態の双極型鉛蓄電池100は、複数のセル部材110と、複数枚のバイプレート(空間形成部材)120と、第一のエンドプレート(空間形成部材)130と、第二のエンドプレート(空間形成部材)140を有する。図1ではセル部材110が三個積層された双極型鉛蓄電池100を示しているが、セル部材110の数は電池設計により決定される。また、バイプレート120の数はセル部材110の数に応じて決まる。
【0017】
セル部材110の積層方向をZ方向(図1及び図2の上下方向)とし、Z方向に垂直な方向をX方向とする。
セル部材110は、正極111、負極112、およびセパレータ(電解質層)113を備えている。セパレータ113には電解液が含浸されている。正極111は、正極用鉛箔(正極用集電板)111a,111aaと正極用活物質層111bを有する。負極112は負極用鉛箔(負極用集電板)112a,112aaと負極用活物質層112bを有する。セパレータ113は、正極111と負極112との間に介在している。セル部材110において、正極用鉛箔111a,111aa、正極用活物質層111b、セパレータ113、負極用活物質層112b、および負極用鉛箔112a,112aaは、この順に積層されている。
【0018】
Z方向の寸法(厚さ)は、正極用鉛箔111aの方が負極用鉛箔112aより大きく(厚く)、正極用活物質層111bの方が負極用活物質層112bより大きい(厚い)。
複数のセル部材110は、Z方向に間隔を開けて積層配置され、この間隔の部分にバイプレート120の基板121が配置されている。つまり、複数のセル部材110は、バイプレート120の基板121を間に挟んだ状態で積層されている。
【0019】
複数枚のバイプレート120と第一のエンドプレート130と第二のエンドプレート140は、複数のセル部材110を個別に収容する複数の空間(セル)Cを形成するための部材である。
図2に示すように、バイプレート120は、平面形状が長方形の基板121と、基板121の四つの端面を覆う枠体122と、基板121の両面から垂直に突出する柱部123とからなり、基板121と枠体122と柱部123は一体に合成樹脂で形成されている。なお、基板121の各面から突出する柱部123の数は一つであってもよいし、複数であってもよい。
【0020】
Z方向において、枠体122の寸法は基板121の寸法(厚さ)より大きく、柱部123の突出端面間の寸法は枠体122の寸法と同じである。そして、複数のバイプレート120が枠体122および柱部123同士を接触させて積層することにより、基板121と基板121との間に空間Cが形成され、互いに接触する柱部123同士により、空間CのZ方向の寸法が保持される。
【0021】
正極用鉛箔111a,111aa、正極用活物質層111b、負極用鉛箔112a,112aa、負極用活物質層112b、およびセパレータ113には、柱部123を貫通させる貫通穴111c,111d,112c,112d,113aがそれぞれ形成されている。
バイプレート120の基板121は、板面を貫通する複数の貫通穴121aを有する。基板121の一面に第一の凹部121bが、他面に第二の凹部121cが形成されている。第一の凹部121bの深さは第二の凹部121cより深い。第一の凹部121bおよび第二の凹部121cのX方向およびY方向の寸法は、正極用鉛箔111aおよび負極用鉛箔112aのX方向およびY方向の寸法に対応させてある。
【0022】
バイプレート120の基板121は、Z方向で、隣り合うセル部材110の間に配置されている。バイプレート120の基板121は、セル部材110の正極111の側と、その隣のセル部材110の負極112の側と、の両方を覆う基板である。バイプレート120の基板121の第一の凹部121bに、セル部材110の正極用鉛箔111aが接着剤層150を介して配置されている。つまり、基板121の正極111の側の面(第一の凹部121bの底面)に接着剤で正極用鉛箔111aが固定されている。
【0023】
また、バイプレート120の基板121の第二の凹部121cに、セル部材110の負極用鉛箔112aが接着剤層150を介して配置されている。つまり、基板121の負極112の側の面(第二の凹部121cの底面)に接着剤で負極用鉛箔112aが固定されている。
バイプレート120の基板121の貫通穴121aに導通体160が配置され、導通体160の両端面は、正極用鉛箔111aおよび負極用鉛箔112aと接触し、結合されている。つまり、導通体160により正極用鉛箔111aと負極用鉛箔112aとが電気的に接続されている。その結果、複数のセル部材110の全てが電気的に直列に接続されている。
【0024】
図1に示すように、第一のエンドプレート130は、セル部材110の正極側を覆う基板131と、セル部材110の側面を囲う枠体132と、基板131の一面(最も正極側に配置されるバイプレート120の基板121と対向する面)から垂直に突出する柱部133とからなる。基板131の平面形状は長方形であり、基板131の四つの端面が枠体132で覆われ、基板131と枠体132と柱部133が一体に合成樹脂で形成されている。なお、基板131の一面から突出する柱部133の数は一つであってもよいし、複数であってもよいが、柱部133と接触させるバイプレート120の柱部123に対応させる。
【0025】
Z方向において、枠体132の寸法は基板131の寸法(厚さ)より大きく、柱部133の突出端面間の寸法は枠体132の寸法と同じである。そして、最も外側(正極側)に配置されるバイプレート120の枠体122および柱部123に対して、枠体132および柱部133を接触させて積層することにより、バイプレート120の基板121と第一のエンドプレート130の基板131との間に空間Cが形成され、互いに接触するバイプレート120の柱部123と第一のエンドプレート130の柱部133とにより、空間CのZ方向の寸法が保持される。
【0026】
最も外側(正極側)に配置されるセル部材110の正極用鉛箔111aa、正極用活物質層111b、およびセパレータ113には、柱部133を貫通させる貫通穴111c,111d,113aがそれぞれ形成されている。
第一のエンドプレート130の基板131の一面に凹部131bが形成されている。凹部131bのX方向の寸法は、正極用鉛箔111aaのX方向の寸法に対応させてある。第一のエンドプレート130の基板131の一面に配置された正極用鉛箔111aaのZ方向の寸法は、バイプレート120の基板121の一面に配置された正極用鉛箔111aのZ方向の寸法よりも大きい。
【0027】
第一のエンドプレート130の基板131の凹部131bに、セル部材110の正極用鉛箔111aaが接着剤層150を介して配置されている。つまり、基板131の正極111の側の面(凹部131bの底面)に接着剤で正極用鉛箔111aaが固定されている。
また、第一のエンドプレート130は、凹部131b内の正極用鉛箔111aaと電気的に接続された正極端子を備えている。
【0028】
第二のエンドプレート140は、セル部材110の負極側を覆う基板141と、セル部材110の側面を囲う枠体142と、基板141の一面(最も負極側に配置されるバイプレート120の基板121と対向する面)から垂直に突出する柱部143とからなる。基板141の平面形状は長方形であり、基板141の四つの端面が枠体142で覆われ、基板141と枠体142と柱部143が一体に合成樹脂で形成されている。なお、基板141の一面から突出する柱部143の数は一つであってもよいし、複数であってもよいが、柱部143と接触させるバイプレート120の柱部123に対応させる。
【0029】
Z方向において、枠体142の寸法は基板131の寸法(厚さ)より大きく、二つの柱部143の突出端面間の寸法は枠体142の寸法と同じである。そして、最も外側(負極側)に配置されるバイプレート120の枠体122および柱部123に対して、枠体142および柱部143を接触させて積層することにより、バイプレート120の基板121と第二のエンドプレート140の基板141との間に空間Cが形成され、互いに接触するバイプレート120の柱部123と第二のエンドプレート140の柱部143とにより、空間CのZ方向の寸法が保持される。
【0030】
最も外側(負極側)に配置されるセル部材110の負極用鉛箔112aa、負極用活物質層112b、およびセパレータ113には、柱部143を貫通させる貫通穴112c,112d,113aがそれぞれ形成されている。
第二のエンドプレート140の基板141の一面に凹部141bが形成されている。凹部141bのX方向およびY方向の寸法は、負極用鉛箔112aaのX方向およびY方向の寸法に対応させてある。第二のエンドプレート140の基板141の一面に配置された負極用鉛箔112aaのZ方向の寸法は、バイプレート120の基板121の他面に配置された負極用鉛箔112aのZ方向の寸法よりも大きい。
【0031】
第二のエンドプレート140の基板141の凹部141bに、セル部材110の負極用鉛箔112aaが接着剤層150を介して配置されている。つまり、基板141の負極112の側の面(凹部141bの底面)に接着剤で負極用鉛箔112aaが固定されている。
また、第二のエンドプレート140は、凹部141b内の負極用鉛箔112aaと電気的に接続された負極端子を備えている。
【0032】
なお、上記説明から分かるように、バイプレート120は、セル部材110の正極側および負極側の両方を覆う基板121と、セル部材110の側面を囲う枠体122と、を含む空間形成部材である。第一のエンドプレート130は、セル部材110の正極側のみ(正極側および負極側の一方)を覆う基板131と、セル部材110の側面を囲う枠体132と、を含む空間形成部材である。
【0033】
また、第二のエンドプレート140は、セル部材110の負極側のみ(正極側および負極側の一方)を覆う基板141と、セル部材110の側面を囲う枠体142と、を含む空間形成部材である。つまり、基板121,131,141は、セル部材110の正極の側および負極の側の少なくとも一方を覆う基板であり、基板121はセル部材110の正極の側および負極の側の両方を覆う基板である。また、バイプレート120の基板121は、セル部材110同士の間に配置された基板である。
【0034】
〔集電板の構成〕
バイプレート120の凹部121bに配置される正極用鉛箔111aは、例えば、厚さが0.5mm未満(例えば0.1mm以上0.4mm以下)であり、錫(Sn)の含有率が1.0質量%以上2.0質量%以下であり、カルシウム(Ca)の含有率が0.005質量%以上0.030質量%以下であり、残部が鉛(Pb)と不可避的不純物である鉛合金からなる圧延シートの熱処理材で形成されている。この熱処理材の組織は粒状組織となっている。
【0035】
第一のエンドプレート130の凹部131bに配置される正極用鉛箔111aaは、例えば、厚さが0.5mm以上1.5mm以下であり、正極用鉛箔111aと同じ熱処理材で形成されている。
また、正極用鉛箔111a,111aaの正極用活物質層111bとの界面は、「JIS B 0601:2013の付属書JA」の規定による十点平均粗さ(RzJIS)が50μm以上であり、上記規定による最大高さ粗さ(Rz)が、正極用鉛箔111a,111aaの粒状組織を構成する粒子の平均粒子径の1/2よりも小さくなっている。
【0036】
バイプレート120の凹部121cに配置される負極用鉛箔(負極用集電板)112aの厚さは、例えば、0.05mm以上0.3mm以下である。負極用鉛箔112aをなす合金は、例えば、錫(Sn)の含有率が0.5質量%以上2質量%以下の鉛合金である。
第二のエンドプレート140の凹部141bに配置される負極用鉛箔(負極用集電板)112aは、例えば、厚さが0.5mm以上1.5mm以下であり、錫(Sn)の含有率が0.5質量%以上2質量%以下の鉛合金からなる。
【0037】
〔作用、効果〕
実施形態の双極型鉛蓄電池100では、正極用鉛箔111a,111aaが上記鉛合金からなる圧延シートの熱処理材であることから、正極用鉛箔111a,111aaは粒状組織を有する。よって、正極用鉛箔111a,111aaは、耐食性に優れたものであるとともに、正極用活物質層111bとの界面が粒状組織の面となっている。また、正極用鉛箔111a,111aaの正極用活物質層111bとの界面は、上記規定による十点平均粗さ(RzJIS)が50μm以上(構成a)であり、上記規定による最大高さ粗さ(Rz)が、正極用鉛箔111a,111aaの粒状組織を構成する粒子の平均粒子径(A)の1/2よりも小さい(構成b)。
【0038】
このように、正極用鉛箔111a,111aaは、耐食性の高い鉛合金からなる鉛箔であるが、正極用活物質層111bとの界面が上記構成aと構成bの両方を満たすことで、正極用活物質層111bとの密着性が高いものとなっている。これに伴い、正極用鉛箔111a,111aaから正極用活物質が脱落しにくくなることで、高い電池性能が維持されるとともに短絡が防止されるため、双極型鉛蓄電池100の寿命向上効果が期待できる。
【0039】
これに対して、正極用鉛箔111a,111aaの正極用活物質層111bとの界面の、上記規定による十点平均粗さ(RzJIS)が50μm未満であると、正極用活物質層111bとの密着性が著しく低いものとなる。また、正極用鉛箔111a,111aaの上記規定による最大高さ粗さ(Rz)がA/2以上であると、正極用鉛箔111a,111aaが腐食し易くなるため、貫通が生じやすくなる。
【0040】
なお、上記実施形態の双極型鉛蓄電池100では、正極用鉛箔111a,111aaが粒状組織を有する耐食性の高い鉛合金からなり、その正極用活物質層111bとの界面が上記構成aと構成bの両方を満たすものとされている。しかし、負極用鉛箔112a,112aaが粒状組織を有する耐食性の高い鉛合金からなり、その負極用活物質層112bとの界面が上記構成aと構成bの両方を満たすものとされていれば、負極についても同様の作用、効果(活物質が脱落しにくくなることで、高い電池性能が維持されるとともに短絡が防止される)が得られるものとなる。
【0041】
また、鉛箔の金属組織が粒状組織であっても、活物質層との界面の十点平均粗さ(RzJIS)が大きすぎる(表面が粗すぎる)と、部分的に鉛箔が薄くなる箇所が生じることで、電池動作時に鉛箔に貫通が生じる危険性が高くなるため、RzJISは50μm以上70μm以下であることが好ましい。同様の理由から、最大高さ粗さ(Rz)は、十点平均粗さ(Rz)よりも大きくかつ平均粒子径の1/7以上1/2以下が好ましい。
【実施例0042】
[鉛箔の準備]
表1に示すNo.1~No.6の鉛箔を準備した。各鉛箔の厚さは全て0.35mmとした。
<サンプルNo.1>
サンプルNo.1の鉛箔は、カルシウム(Ca)の含有率が0.030質量%、錫(Sn)の含有率が2.0質量%、残部が鉛(Pb)と不可避的不純物である鉛合金の圧延シートを、310℃で5分間、大気雰囲気下で熱処理をしたものである。
【0043】
サンプルNo.1の鉛箔について、電子顕微鏡で、シート面に垂直で圧延方向と平行な断面を撮影した。その顕微鏡写真を図3に示す。この画像から分かるように、その組織は粒状組織であり、その平均粒子径は160μmであった。
「JIS B 0601:2013の付属書JA」の規定に基づいて、サンプルNo.1の鉛箔の表面状態を計測したところ、十点平均粗さ(RzJIS)は20μmであり、最大高さ粗さ(Rz)は30μmであった。
【0044】
<サンプルNo.2>
サンプルNo.1と同じ方法で作製した鉛箔の一方の面を、800番の紙やすりで擦って、十点平均粗さ(RzJIS)が30μmで、最大高さ粗さ(Rz)が45μmとなるようにした。これをサンプルNo.2の鉛箔とした。なお、作製した鉛箔は、No.1の鉛箔と同様に、粒状組織を有し、その平均粒子径は160μmであった。
【0045】
<サンプルNo.3>
サンプルNo.1と同じ方法で作製した鉛箔の一方の面を、80番の紙やすりで擦って、十点平均粗さ(RzJIS)が50μmで、最大高さ粗さ(Rz)が60μmとなるようにした。これをサンプルNo.3の鉛箔とした。なお、作製した鉛箔は、No.1の鉛箔と同様に、粒状組織を有し、その平均粒子径は160μmであった。
【0046】
<サンプルNo.4>
サンプルNo.1と同じ方法で作製した鉛箔の一方の面を、80番の紙やすりで擦って、十点平均粗さ(RzJIS)が50μmで、最大高さ粗さ(Rz)が70μmとなるようにした。これをサンプルNo.4の鉛箔とした。なお、作製した鉛箔は、No.1の鉛箔と同様に、粒状組織を有し、その平均粒子径は160μmであった。
【0047】
<サンプルNo.5>
サンプルNo.1と同じ方法で作製した鉛箔の一方の面を、40番の紙やすりで擦って、十点平均粗さ(RzJIS)が70μmで、最大高さ粗さ(Rz)が110μmとなるようにした。これをサンプルNo.5の鉛箔とした。なお、作製した鉛箔は、No.1の鉛箔と同様に、粒状組織を有し、その平均粒子径は160μmであった。
【0048】
<サンプルNo.6>
サンプルNo.6の鉛箔は、カルシウム(Ca)の含有率が0.030質量%、錫(Sn)の含有率が2.0質量%、残部が鉛(Pb)と不可避的不純物である鉛合金の圧延シートであって、熱処理を施していないものであり、その一方の面を、80番の紙やすりで擦って、十点平均粗さ(RzJIS)が50μmで、最大高さ粗さ(Rz)が70μmとなるようにしたものである。
【0049】
サンプルNo.6の鉛箔を、紙やすりで擦る前に、電子顕微鏡で、シート面に垂直で圧延方向と平行な断面を撮影した。その顕微鏡写真を図4に示す。この画像から分かるように、その組織は縞状組織である。
【0050】
[腐食試験]
No.1~No.6の各鉛箔について、以下の方法で腐食試験を行った。
各鉛箔を幅15mm、長さ70mmの試験片に切断して、比重1.28の60℃硫酸に入れ、1350mVの定電位(vs:Hg/Hg2SO4)で28日間連続の陽極酸化を行った後、生成酸化物を除去した。そして、試験前後に質量を測定し、その値から試験による質量の減少量を算出し、試験片の全表面積当たりの質量減少量を腐食量とした。また、腐食試験後の断面(シート面に垂直で圧延方向と平行な断面)を電子顕微鏡(倍率400倍)で観察し、鉛箔に貫通が生じているか否かを調べた。
【0051】
[活物質層の剥離試験]
〔バイプレートの作製〕
ABS樹脂の射出成形により図1に示す形状のバイプレート120を作製した。バイプレート120の基板121の厚さは2mmである。凹部121bおよび凹部121cの底面は、一辺が10.0cmの正方形であり、凹部121bおよび凹部121cの深さは0.37mmである。
【0052】
〔エンドプレートの作製〕
ABS樹脂の射出成形により図1に示す形状の第一のエンドプレート130および第二のエンドプレート140を作製した。第一のエンドプレート130の基板131および第二のエンドプレート140の141の厚さは10mmである。凹部131bおよび凹部141bの底面は、一辺が10.0cmcmの正方形であり、深さは1.52mmである。
【0053】
〔双極型鉛蓄電池の組み立て〕
凹部121bおよび凹部121cに配置する正極用鉛箔111aおよび負極用鉛箔112aとして、サンプルNo.1~No.6の各鉛箔を一辺が9.0cmの正方形に切り出したものを用いた。これ以外は全て同じにして、図1に示す構造を有し、公称電圧が6VであるNo.1~No.6の双極型鉛蓄電池を、通常の方法で組み立てた。つまり、正極用鉛箔および負極用鉛箔の各活物質層側の面の表面状態以外は、各双極型鉛蓄電池で同じ構成とした。
【0054】
正極用活物質層111bは、厚さ1.8mmで正極用鉛箔111a,111aaの表面に形成した。負極用活物質層112bは、厚さ1.6mmで負極用鉛箔112a,112aaの表面に形成した。セパレータ113は、ガラス繊維からなるものを用いた。電解液としては、通常用いられている濃度の希硫酸を用いた。
【0055】
〔活物質層の剥離状態の観察〕
組み立てられたNo.1~No.6の双極型鉛蓄電池に対して通常の条件で化成を行った後に、各双極型鉛蓄電池を解体して、正極用鉛箔111aを正極用活物質層111bから剥がし、正極用鉛箔111aの正極用活物質層111b側の面を顕微鏡で観察した。この観察により、正極用鉛箔111aに活物質が残っているかどうかを調べた。活物質の残りが有れば、耐食性の高い鉛合金からなる正極用鉛箔111aに対する正極用活物質層111bの密着性が優れていると判断できる。
【0056】
[評価]
腐食試験と剥離試験の結果を、鉛箔の表面状態とともに表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1の結果から以下のことが分かる。
No.1~No.5の鉛箔は、粒状組織の鉛合金からなるため耐食性が高い。しかし、No.1とNo.2の鉛箔は、「Rz<A/2」を満たすものの、「RzJIS≧50μm」を満たさないため、活物質層の密着性が低いものとなった。また、No.5の鉛箔は、「RzJIS≧50μm」を満たすものの、「Rz<A/2」を満たさないため鉛箔に貫通が生じた。これに対して、No.3~No.4の鉛箔は、「Rz<A/2」と「RzJIS≧50μm」の両方を満たすため、活物質層の密着性も高く、鉛箔に貫通が生じないものであった。
【0059】
さらに、No.6の鉛箔は、縞状組織の鉛合金からなるため耐食性が低いものであった。
よって、No.3~No.4の鉛箔を正極用鉛箔として用いた双極型鉛蓄電池によれば、正極用鉛箔から正極用活物質が脱落しにくくなることで、高い電池性能が維持されるとともに短絡が防止されて、No.1、No.2、No.6の鉛箔を正極用鉛箔として用いた双極型鉛蓄電池よりも寿命が向上すると推定される。
【符号の説明】
【0060】
100 双極(バイポーラ)型鉛蓄電池
110 セル部材
111 正極
112 負極
111a 正極用鉛箔
111aa 正極用鉛箔(正極用集電板)
111b 正極用活物質層
112a 負極用鉛箔
112aa 負極用鉛箔(負極用集電板)
112b 負極用活物質層
113 セパレータ
120 バイプレート
121 バイプレートの基板(隣り合うセル部材の間に配置された基板)
121a 基板の貫通穴
121b 基板の第一の凹部
121c 基板の第二の凹部
122 バイプレートの枠体
130 第一のエンドプレート
131 第一のエンドプレートの基板
132 第一のエンドプレートの枠体
140 第二のエンドプレート
141 第二のエンドプレートの基板
142 第二のエンドプレートの枠体
150 接着剤層
160 導通体
C セル(セル部材を収容する空間)
図1
図2
図3
図4