(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175882
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】トリメチレンカーボネート誘導体、およびポリマー
(51)【国際特許分類】
C07D 319/06 20060101AFI20221117BHJP
C08G 64/02 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C07D319/06 CSP
C08G64/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082645
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】網代 広治
(72)【発明者】
【氏名】ナリンティップ チャタセ
(72)【発明者】
【氏名】松本 隆将
(72)【発明者】
【氏名】牧田 健一
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA09
4J029AB01
4J029AD01
4J029FA06
4J029HC06
4J029JC291
4J029KE09
(57)【要約】
【課題】生分解性および生体適合性を有し、さらに疎水性および接着性などの機能を有する新規なトリメチレンカーボネート誘導体を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるトリメチレンカーボネート誘導体である。
【化1】
(式中、R
1は水素原子、またはC1~C6のアルキル基を表し、R
2はC2~C30のアルキル基、C2~C30のアルケニル基、またはC2~C30のアルキニル基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるトリメチレンカーボネート誘導体。
【化1】
(式中、R
1は水素原子、またはC1~C6のアルキル基を表し、
R
2はC2~C30のアルキル基、C2~C30のアルケニル基、またはC2~C30のアルキニル基を表す。)
【請求項2】
上記式(1)中、R2はC8~C30のアルキル基である、請求項1に記載のトリメチレンカーボネート誘導体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のトリメチレンカーボネート誘導体を重合して得られる、ポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリメチレンカーボネート誘導体、およびそのポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
現在の社会生活にはプラスチックは欠かせない材料であるが、マイクロプラスチックによる海洋汚染などの環境汚染が拡がっており、プラスチックのリサイクルおよび海洋流出防止策などのアプローチとともに、新しい生分解性を有する高分子材料が注目されている。
【0003】
生分解性高分子としては、例えばポリヒドロキシアルカノエートおよびポリ乳酸に代表されるエステル系高分子がある。しかしながら、エステル系高分子は加水分解により酸性の有機分子を生成するために環境負荷が懸念される。このような状況下、特許文献1、非特許文献1~3に、非エステル系のトリメチレンカーボネート誘導体から得られるポリマーが開示されている。当該ポリマーは非エステル系化合物をモノマーとして用いているため、ポリマーの加水分解後に酸性の有機分子を生成しないことから、新規の生分解性高分子として期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hiroaki Nobuoka, Hiroharu Ajiro, “Development of Ester Free Type Poly(trimethylene carbonate) Derivatives with Pendant Fluoroaromatic Groups”, Macromol. Chem. Phys. 2019 , 220, 1900051(1-5).
【非特許文献2】Hiroaki Nobuoka, Hiroharu Ajiro, “Novel synthesis method of ester free trimethylene carbonate derivatives”, Tetrahedron Lett. 2019, 60(2), 164-170.
【非特許文献3】Hiroharu Ajiro, Yoshikazu Takahashi, Mitsuru Akashi, “Thermosensitive Biodegradable Homopolymer of Trimethylene Carbonate Derivative at Body Temperature”, Macromolecules 2012, 45(6), 2668-2674.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非エステル系のトリメチレンカーボネート誘導体から得られるポリマーは、新規の生分解性高分子として期待されることから、さらに別の特性も備えるポリマーの開発も望まれている。
本発明の目的は、さらなる特性を付与し得る新規なトリメチレンカーボネート誘導体、およびそのポリマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るトリメチレンカーボネート誘導体は、上述の課題を解決するために、下記一般式(1)で示されるトリメチレンカーボネート誘導体である。
【0008】
【化1】
(式中、R
1は水素原子、またはC1~C6のアルキル基を表し、R
2はC2~C30のアルキル基、C2~C30のアルケニル基、またはC2~C30のアルキニル基を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、疎水性等のさらなる特性をポリマーに付与し得る新規なトリメチレンカーボネート誘導体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0011】
[トリメチレンカーボネート誘導体]
本実施の形態にかかるトリメチレンカーボネート誘導体は、下記一般式(1)で示されるトリメチレンカーボネート誘導体であって、R2で示される側鎖が脂肪族炭化水素基である新規なトリメチレンカーボネート誘導体である。
【0012】
【化2】
一般式(1)で示されるトリメチレンカーボネート誘導体において、R
1は水素原子またはC1~C6のアルキル基である。C1~C6のアルキル基の例としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、1-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基およびシクロヘキシル基などが挙げられる。トリメチレンカーボネート誘導体の合成容易性、および重合反応性が高い点から、R
1は水素原子、メチル基またはエチル基が好ましい。
【0013】
R2は、脂肪族炭化水素基であり、具体的には、C2~C30のアルキル基、C2~C30のアルケニル基またはC2~C30のアルキニル基である。
【0014】
C2~C30のアルキル基は、炭素原子数が2~30である直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、またはシクロアルキル基であれば特に限定されない。C2~C30のアルキル基としては、例えば、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、1-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基およびn-イコシル基などが挙げられる。トリメチレンカーボネート誘導体よりなるポリマーの取扱いの容易さからC8~C30のアルキル基が好ましく、C8~C20のアルキル基がより好ましい。
【0015】
C2~C30のアルケニル基は、炭素数が2~30である直鎖アルケニル基、分岐鎖状アルケニル基またはシクロアルケニル基であれば特に限定されない。C2~C30のアルケニル基としては、例えば、エテニル基、2-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-メチル-2-ブテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、1-ヘキセニル基および5-ヘキセニル基などが挙げられる。
【0016】
C2~C30のアルキニル基は、炭素数が2~30である直鎖アルキニル基、分岐鎖状アルキニル基またはシクロアルキニル基であれば特に限定されない。C2~C30のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、ペンチニル基および1-ヘキシニル基などが挙げられる。
【0017】
上述のトリメチレンカーボネート誘導体は、側鎖にアルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基を有する新規なトリメチレンカーボネート誘導体である。このようなトリメチレンカーボネート誘導体とすることで、当該トリメチレンカーボネート誘導体から得られるポリマーに対し、生分解性および生体適合性に加えて、基材接着性、および疎水性などの性質を付与することができる。
【0018】
本明細書において「基材接着性」とは、ポリマーの基材への接着する性質をいう。基材接着性の向上を判断する方法は、特に限定されないが、例えば、塗膜が基材に均一に形成されていれば、ポリマーを塗布した基材の接着性が向上したと判断することができる。
【0019】
本明細書において「生体適合性」とは、治療の際に炎症などの原因となる大きなpH変化を引き起こしにくいということを意味する。本発明のポリマーは、生分解により、毒性が低い、エチレングリコール、オリゴエチレングリコール等のアルコール類、二酸化炭素に分解されるので、分解後も生体適合性はよい。
【0020】
本明細書において「生分解性」とは、加水分解、酵素分解、または微生物分解によってその物(ポリマー)が消滅する性質をいう。本実施形態のトリメチレンカーボネート誘導体から得られるポリマーは、これらの分解によりエチレングリコール、二酸化炭素、またはオリゴエチレングリコールへ分解される。
【0021】
さらに、トリメチレンカーボネート誘導体よりなるポリマーの熱的特性の観点から、一般式(1)の置換基R2がC8~C30のアルキル基を有するトリメチレンカーボネート誘導体が好ましい。
【0022】
ここで、トリメチレンカーボネート誘導体の好ましい熱的特性とは、そのポリマーの10%熱重量減少温度、もしくは融点、またはその両方によって評価したものであってもよい。例えば、10%熱重量減少温度が250℃以上であることが好ましく、275℃以上であることがより好ましい。また、融点が0℃以上であることが好ましく、4℃以上であることがより好ましい。
【0023】
また、取扱いの容易さから、一般式(1)の置換基R2がC16~C30のアルキル基を有するトリメチレンカーボネート誘導体がさらに好ましい。置換基R2が当該範囲内であることで、ポリマーの融点が室温よりも高くなるため、ポリマーが固体状を示し、取扱いが容易となる。
【0024】
一般式(1)で示されるトリメチレンカーボネート誘導体の例としては、5-エトキシメチル-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-プロポキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-イソプロポキシメチル-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-シクロプロポキシメチル-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-ブトキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-イソブトキシメチル-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(sec-ブトキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(tert-ブトキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-シクロブトキシメチル-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-ペンチロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-ネオペンチロキシメチル-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-イソペンチロキシメチル-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(1-メチルブトキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(1-エチルプロポキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-シクロペンチロキシメチル-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-ヘキシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(1-メチルペンチロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(4-メチルペンチロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(1-エチルブトキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(2-エチルブトキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-シクロヘキシロキシメチル-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-ヘプチロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-オクチロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-ノニロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-デシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-ウンデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-ドデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-トリデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-テトラデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-ペンタデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-ヘキサデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-ヘプタデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-オクタデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-(n-ノナデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンおよび5-(n-イコシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、などが挙げられる。
【0025】
[製造方法]
一般式(1)で示されるトリメチレンカーボネート誘導体の製造方法は特に限定はなく、公知の反応を組み合わせて製造することができる。例えば、下記の合成スキーム(1)に示した反応によって製造することができる。
【0026】
また、下記の合成スキーム(1)に示す全ての反応が終了した後、必要に応じて反応溶液から反応物の精製を行なって目的物を得ることができる。精製方法には特に限定はないが、溶媒抽出、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、分取液体クロマトグラフィー、および再結晶などの方法であってもよい。
【0027】
【0028】
以下、合成スキーム(1)について説明する。なお、合成スキーム(1)中、R1およびR2は、それぞれ、一般式(1)におけるR1およびR2と同じである。
【0029】
第1のステップとして、出発物質のトリオール化合物を閉環するとともにベンジル化して、2個のヒドロキシ基を同時に保護したジオール保護体を得る。出発物質のトリオール化合物は、R1が水素原子またはC1~C6のアルキル基であるトリオール化合物であれば特に限定されない。出発物質のトリオール化合物のいくつかの具体的な例は、トリメチロールメタン、トリメチロールエタンおよびトリメチロールプロパンなどである。
【0030】
トリオール化合物のベンジル化は、例えばテトラヒドロフランなどの有機溶媒中で、ベンズアルデヒドをp-トルエンスルホン酸存在下で反応させることによって行うことができる。
【0031】
第2のステップとして、第1のステップで得られたジオール保護体の未反応のヒドロキシ基の水素原子をR2で示される側鎖に置換する。導入するR2の種類は、上述した一般式(1)におけるR2の範囲内であればよく、R2を導入する方法は特に限定されない。例えば、R2がアルキル基である場合、R2の導入は、有機溶媒中で、塩基の存在下、R2-Brで示される臭素化アルキルを反応させることによって得ることができる。
【0032】
なお、第2のステップで用いる有機溶媒は、例えばテトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、およびジメチルスルホキシド等が挙げられる。第2のステップで用いる塩基は、水素化ナトリウム、ブチルリチウム、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウム等が挙げられる。第2のステップで用いるR2-Brで示される臭素化アルキルは、例えばブロモエタン、ブロモプロパン、ブロモブタン、ブロモペンタン、ブロモヘキサン、ブロモヘプタン、ブロモオクタン、ブロモノナン、ブロモウンデカン、ブロモドデカン、ブロモトリデカン、ブロモテトラデカン、ブロモペンタデカン、ブロモヘキサデカン、ブロモオクタデカン、ブロモノナデカン、およびブロモイコサンなどが挙げられる。
【0033】
第3のステップとして、第2のステップで得られたジオール保護体のベンジル基を脱保護し、ジオール化合物を得る。R1およびR2に影響がない範囲であれば、ベンジル基の脱保護として、公知の反応を行えばよい。例えばテトラヒドロフランなどの有機溶媒中で、塩酸またはメタンスルホン酸などの酸添加を行って反応させることで、ベンジル基を脱保護することができる。
【0034】
第4のステップとして、第3のステップで得られたジオール化合物のカーボネート化を行う。R1およびR2に影響がない範囲であれば、カーボネート化として公知の反応を行えばよい。例えば、テトラヒドロフランなどの有機溶媒中で、トリエチレンアミンなどの塩基存在下、クロロぎ酸エチルを反応させることによってカーボネート化を行い、一般式(1)で示されるトリメチレンカーボネート誘導体を得ることができる。
【0035】
[ポリマー]
本実施の形態に係るポリマーは、上述のトリメチレンカーボネート誘導体を重合することにより得られるポリマーである。当該ポリマーは、モノマーとして本実施の形態に係るトリメチレンカーボネート誘導体を用いているため、生体適合性、および生分解性を有している。さらに、ポリマーの側鎖に脂肪族炭化水素基を有するため、ポリマーは基材接着性および疎水性の性質を有する。このため、ポリマーを基材に塗膜すると、基材表面を疎水性にすることができる。
【0036】
本実施の形態のポリマーは、容器およびフィルム等のバイオプラスチック用材料、カテーテルおよび手術用縫合糸等の医療器具材料、ならびにドラッグデリバリーシステム(DDS)キャリア用材料として使用できる。
【0037】
[ポリマーの製造方法]
一般式(1)で示されるトリメチレンカーボネート誘導体のポリマー化は、例えば下記合成スキーム(2)に示した反応によって行うことができる。詳細には、ジアザビシクロウンデセンを触媒に用い、ベンジルアルコール等のアルコール化合物を開始剤に用いた開環反応による重合反応によってトリメチレンカーボネート誘導体からポリマーを得ることができる。なお、合成スキーム(2)中、R1およびR2は、それぞれ、一般式(1)におけるR1およびR2と同じである。
【0038】
【0039】
重合反応によって得られるポリマーの分子量に特に制限はなく、ポリマーの分子量としては重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および粘度平均分子量などを測定方法に応じて用いることができる。本実施の形態に係るポリマーは、重量平均分子量(Mw)が1,000~100,000であることが好ましく、ポリマーの強度、加工性の点から2,000~50,000がさらに好ましい。本実施の形態に係るポリマーの分子量分布(Mw/Mn)に特に制限はないが、重合制御の点から概ね1~2が好ましい。分子量および分子量分布の算出方法は、ポリスチレンやポリエチレングリコールなどの標準試料を基準に換算するゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)法、光散乱法、および粘度法など公知の方法を挙げることができる。
【0040】
(まとめ)
本発明を、以下のように表現することもできる。
【0041】
本態様1に係るトリメチレンカーボネート誘導体は、下記一般式(1)で示される。
【0042】
【化5】
(式中、R
1は水素原子、またはC1~C6のアルキル基を表し、
R
2はC2~C30のアルキル基、C2~C30のアルケニル基、またはC2~C30のアルキニル基を表す。)
【0043】
本態様1の構成により、トリメチレンカーボネート誘導体から得られるポリマーに対し、生分解性および生体適合性に加えて、基材接着性、および疎水性などの性質を付与することができる。
【0044】
本態様2に係るトリメチレンカーボネート誘導体は、前記態様1において、上記式(1)中、R2はC8~C30のアルキル基である。本態様2の構成により、トリメチレンカーボネート誘導体よりなるポリマーの熱的特性を向上することができる。
【0045】
本態様3に係るポリマーは、前記態様1または2のトリメチレンカーボネート誘導体を重合して得られる、ポリマーである。本態様3に係るポリマーは生体適合性および生分解性に加えて基材接着性および疎水性の性質を有する。
【実施例0046】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明するが、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。また本発明の要旨の範囲内で適宜に変更して実施することができる。なお、断りのない限り、試薬は市販品を用いた。
【0047】
[実施例1]
5-(n-オクチロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの合成
上記化合物は、以下(1)~(3)の反応によって合成した。
【0048】
(1)5-(n-オクチロキシメチル)-5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサンの合成
500mL一口フラスコに、窒素雰囲気下で水素化ナトリウム3.46g(144mmol)を加えてテトラヒドロフラン(THF)で洗浄したのち、(5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサン-5-イル)メタノール20g(96.5mmol)とTHF100mLとを加え、0℃に冷却し、1-ブロモオクタン36mL(207mmol)を滴加し、室温で23.5時間撹拌した。その後、溶媒を除去し、イオン交換水とジクロロメタンとを用いて分液操作を行い、有機層を回収した。回収した有機層に硫酸マグネシウムを加え、濾過した後に溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=10:1→8:1)により精製し、白色固体の化合物13g(40mmol)を得た。1H-NMRおよびFT-IR測定により、得られた化合物が5-(n-オクチロキシメチル)-5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサンであることを確認した。
【0049】
(2)2-(n-オクチロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオールの合成
100mL一口フラスコに、5-(n-オクチロキシメチル)-5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサン10g(31mmol)とメタンスルホン酸8mL(124mmol)とアニソール10mL(93.3mmol)とを加え、0℃で3時間撹拌後、室温で15時間撹拌した。次に、炭酸水素ナトリウム水溶液とジクロロメタンとを用いて分液操作を行い、有機層を回収した。その後、回収した有機層を炭酸水素ナトリウム溶液で3回洗浄し、有機層を回収した。回収した有機層に硫酸マグネシウムを加え、濾過した後に溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=10:1→1:1)により精製し、白色固体の化合物4.5gを得た。1H-NMRおよびFT-IR測定により、得られた化合物が2-(n-オクチロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオールであることを確認した。
【0050】
(3)5-(n-オクチロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの合成
100mL二口フラスコに、窒素雰囲気下で、2-(n-オクチロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオール2.04g(8.78mmol)と少量のTHFとを加え、MS4Aを用いて無水状態にしたものを、窒素雰囲気下で100mLの二口フラスコに加えた。当該二口フラスコに、エチルクロロホルメート1.80mL(18.9mol)を加え、氷浴で0℃に冷却した。続いてトリエチルアミン2.40mL(17.4mmol)をゆっくり滴下し、17時間攪拌した。1.0mol/Lの塩酸を加えて反応を止め、イオン交換水とジクロロメタンとを用いて分液操作を行い、有機層を回収した。
【0051】
回収した有機層に硫酸マグネシウムを加え、濾過した後に溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=10:1→1:1)により精製し、イソプロパノール:ヘキサン=1:9の混合溶媒中で再結晶を行ったところ、白色固体の化合物(1.4g、5.4mmol、63%)を得た。1H-NMRおよびFT-IR測定により、得られた化合物が5-(n-オクチロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンであることを確認した。
【0052】
[実施例2]
5-(n-デシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの合成
上記化合物は、以下(1)~(3)の反応によって合成した。
【0053】
(1)5-(n-デシロキシメチル)-5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサンの合成
500mL二口フラスコに、窒素雰囲気下で水素化ナトリウム2.0g(83.3mmol)を加えてテトラヒドロフラン(THF)で洗浄したのち、(5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサン-5-イル)メタノール11g(83.5mmol)とTHF50mLとを加え、0℃に冷却し、1-ブロモドデカン20mL(83.5mmol)を滴加し、室温で16時間撹拌した。その後、THFを除去し、イオン交換水およびジクロロメタンで分液操作を行い、有機層を回収した。回収した有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除いたのち、硫酸マグネシウムをろ過し、ジクロロメタンを留去して生成物を回収した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン:酢酸エチル=10:1~8:1)で精製し、白色固体の化合物31gを得た。1H-NMRおよびFT-IR測定により、得られた化合物が5-(n-デシロキシメチル)-5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサンであることを確認した。
【0054】
(2)2-(n-デシロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオールの合成
100mL一口フラスコに、5-(n-デシロキシメチル)-5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサン5.09g(13.5mmol)と5mol/L塩酸2.7mLとTHF11.4mLとを加え、90℃で15時間撹拌した。次に、炭酸水素ナトリウム水溶液とジクロロメタンとで分液操作を行い、有機層を回収した。回収した有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除いたのち、硫酸マグネシウムをろ過し、ジクロロメタンを留去して生成物を回収した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン:酢酸エチル=10:1~10:6)で精製し、白色固体の化合物0.662gを得た。1H-NMRおよびFT-IR測定により、得られた化合物が2-(n-デシロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオールであることを確認した。
【0055】
(3)5-(n-デシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの合成
100mL二口フラスコに、窒素雰囲気下で、2-(n-デシロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオール2.2g(7.7mmol)と少量のTHFを加え、窒素雰囲気下で100mLの二口フラスコに加えた。当該二口フラスコに、エチルクロロホルメート1.50mL(16mmol)を加え、氷浴で0℃に冷却した。続いてトリエチルアミン2.2mL(16.0mmol)をゆっくり滴下し、17時間攪拌した。1.0mol/L塩酸を加えて反応を止め、イオン交換水とジクロロメタンを用いて分液操作を行い、有機層を回収した。回収した有機層に硫酸マグネシウムを加え、濾過した後に溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=10:1→1:1)により精製し、酢酸エチル:ヘキサン=4:15の混合溶媒中で再結晶を行ったところ、白色固体の化合物0.7gを得た。1H-NMRおよびFT-IR測定により、得られた化合物が5-(n-デシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンであることを確認した。
【0056】
[実施例3]
5-(n-ヘキサデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの合成
上記化合物は、以下(1)~(3)の反応によって合成した。
【0057】
(1)5-(n-ヘキサデシロキシメチル)-5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサンの合成
300mL二口フラスコに、窒素雰囲気下で水素化ナトリウム3.5g(145mmol)を加えてテトラヒドロフラン(THF)で洗浄したのち、(5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサン-5-イル)メタノール21g(100mmol)とTHF100mLとを加え、0℃に冷却し、1-ブロモヘキサデカン46mL(232mmol)を滴加し、室温で16.5時間撹拌した。その後、THFを除去し、イオン交換水とジクロロメタンで分液操作を行い、有機層を回収した。回収した有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除いたのち、硫酸マグネシウムをろ過し、ジクロロメタンを留去して生成物を回収した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン:酢酸エチル=20:1~16:1)で精製し、白色固体の化合物14gを得た。1H-NMRおよびFT-IR測定により、得られた化合物が5-(n-ヘキサデシロキシメチル)-5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサンであることを確認した。
【0058】
(2)2-(n-ヘキサデシロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオールの合成
100mL一口フラスコに、5-(n-ヘキサデシロキシメチル)-5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサン5g(12mmol)とメタンスルホン酸3mL(46mmol)とアニソール3.8mL(35mmol)とを加え、0℃で2時間撹拌後、室温で15.5時間撹拌した。次に、炭酸水素ナトリウム水溶液とジクロロメタンとで分液操作を行い、有機層を回収した。回収した有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除いたのち、硫酸マグネシウムをろ過し、ジクロロメタンを留去して生成物を回収した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン:酢酸エチル=10:1~1:3)で精製し、白色固体の化合物2.9gを得た。1H-NMRおよびFT-IR測定により、得られた化合物が2-(n-ヘキサデシロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオールであることを確認した。
【0059】
(3)5-(n-ヘキサデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの合成
100mL二口フラスコに、窒素雰囲気下で、2-(n-ヘキサデシロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオール1.6g(4.6mmol)とTHF6.5mLとを加え、0℃に冷却し、トリエチルアミン1.2mL(8.7mmol)を滴加し、16.5時間撹拌した。1mol/L塩酸を加えて反応を停止し、イオン交換水とジクロロメタンで分液操作を行い、有機層を回収した。回収した有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除いたのち、硫酸マグネシウムをろ過し、ジクロロメタンを留去して生成物を回収した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン:酢酸エチル=10:1~1:1)で精製し、白色固体の化合物0.8gを得た。1H-NMRおよびFT-IR測定により、得られた化合物が5-(n-ヘキサデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンであることを確認した。
【0060】
[実施例4]
5-(n-オクタデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの合成
上記化合物は、以下(1)~(3)の反応によって合成した。
【0061】
(1)5-(n-オクタデシロキシメチル)-5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサンの合成
300mL二口フラスコに、窒素雰囲気下で水素化ナトリウム3.6g(151mmol)を加えてテトラヒドロフラン(THF)で洗浄したのち、(5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサン-5-イル)メタノール20g(97mmol)とTHF100mLとを加え、0℃に冷却し、1-ブロモオクタデカン51mL(236mmol)を滴加し、室温で16.5時間撹拌した。その後、THFを除去し、イオン交換水およびジクロロメタンで分液操作を行い、有機層を回収した。回収した有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除いたのち、硫酸マグネシウムをろ過し、ジクロロメタンを留去して生成物を回収した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン:酢酸エチル=20:1~16:1)で精製し、白色固体の化合物20gを得た。1H-NMRおよびFT-IR測定により、得られた化合物が5-(n-オクタデシロキシメチル)-5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサンであることを確認した。
【0062】
(2)2-(n-オクタデシロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオールの合成
100mL一口フラスコに、5-(n-オクタデシロキシメチル)-5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサン10g(22mmol)とメタンスルホン酸5.7mL(87mmol)とアニソール7.2mL(66mmol)とを加え、0℃で1時間撹拌後、室温で17時間撹拌した。次に、炭酸水素ナトリウム水溶液およびジクロロメタンで分液操作を行い、有機層を回収した。回収した有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除いたのち、硫酸マグネシウムをろ過し、ジクロロメタンを留去して生成物を回収した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン:酢酸エチル=10:1~1:1)で精製し、白色固体の化合物6gを得た。1H-NMRおよびFT-IR測定により、得られた化合物が2-(n-オクタデシロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオールであることを確認した。
【0063】
(3)5-(n-オクタデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの合成
100mL二口フラスコに、窒素雰囲気下で、2-(n-オクタデシロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオール3g(8.2mmol)とTHF12mLとを加え、0℃に冷却し、トリエチルアミン2.3mL(16mmol)を滴加し、16.5時間撹拌した。1mol/L塩酸を加えて反応を停止し、イオン交換水およびジクロロメタンで分液操作を行い、有機層を回収した。回収した有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除いたのち、硫酸マグネシウムをろ過し、ジクロロメタンを留去して生成物を回収した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン:酢酸エチル=10:1~1:1)で精製後、ジクロロメタン:ジエチルエーテル=1:18の混合溶媒中で再結晶を行ない、白色固体の化合物2.3gを得た。1H-NMRおよびFT-IR測定により、得られた化合物が5-(n-オクタデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンであることを確認した。
【0064】
[実施例5]
5-(n-イコシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの合成
上記化合物は、以下(1)~(3)の反応によって合成した。
【0065】
(1)5-(n-イコシロキシメチル)-5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサンの合成
100mL二口フラスコに、窒素雰囲気下で水素化ナトリウム0.9g(38mmol)を加えてテトラヒドロフラン(THF)で洗浄したのち、(5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサン-5-イル)メタノール5g(24mmol)とTHF25mLとを加え、0℃に冷却し、1-ブロモイコサン13.5mL(37mmol)を滴加し、室温で24時間撹拌した。その後、THFを除去し、イオン交換水およびジクロロメタンで分液操作を行い、有機層を回収した。回収した有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除いたのち、硫酸マグネシウムをろ過し、ジクロロメタンを留去して生成物を回収した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン:酢酸エチル=10:1~6:1)で精製し、白色固体の化合物2.6gを得た。1H-NMRおよびFT-IR測定により、得られた化合物が5-(n-イコシロキシメチル)-5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサンであることを確認した。
【0066】
(2)2-(n-イコシロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオールの合成
100mL一口フラスコに、5-(n-イコシロキシメチル)-5-メチル-2-フェニル-1,3-ジオキサン1.3g(2.6mmol)とメタンスルホン酸0.7mL(10mmol)とアニソール0.9mL(7.9mmol)とを加え、0℃で1時間撹拌後、室温で17時間撹拌した。次に、炭酸水素ナトリウム水溶液およびジクロロメタンで分液操作を行い、有機層を回収した。回収した有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除いたのち、硫酸マグネシウムをろ過し、ジクロロメタンを留去して生成物を回収した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン:酢酸エチル=10:1~1:1)で精製し、白色固体の化合物0.8gを得た。1H-NMRおよびFT-IR測定により、得られた化合物が2-(n-イコシロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオールであることを確認した。
【0067】
(3)5-(n-イコシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの合成
100mL二口フラスコに、窒素雰囲気下で、2-(n-イコシロキシメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジオール0.4g(1mmol)とTHF2mLとを加え、0℃に冷却し、クロロぎ酸エチル0.2mL(2mmol)を滴加し、16.5時間撹拌した。1mol/L塩酸を加えて反応を停止し、イオン交換水およびジクロロメタンで分液操作を行い、有機層を回収した。回収した有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除いたのち、硫酸マグネシウムをろ過し、ジクロロメタンを留去して生成物を回収した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン:酢酸エチル=10:1~1:1)で精製後、ジクロロメタン:ジエチルエーテル=1:22.5の混合溶媒中で再結晶を行ない、白色固体の化合物15gを得た。1H-NMRおよびFT-IR測定により、得られた化合物が5-(n-イコシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンであることを確認した。
【0068】
[実施例6]
5-(n-オクチロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの重合
10mL一口試験管に、窒素雰囲気下で、実施例1で合成した5-(n-オクチロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの2mol/Lジクロロメタン溶液を調製し、ジアザビシクロウンデセン(DBU)およびベンジルアルコールを添加して室温で16.5時間重合反応を行なった。メタノールで再沈殿を行ない、遠心分離により沈殿物を回収し、メタノールを留去することによって、5-(n-オクチロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンのポリマーを回収した。
【0069】
当該ポリマーをGPC測定した結果、重量平均分子量Mw11,000、分子量分布1.2であった。また、熱重量測定(TGA)の結果、10%重量減少温度は304℃と十分に高い値であった。
【0070】
[実施例7]
5-(n-デシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの重合
10mL一口試験管に、窒素雰囲気下で、実施例2で合成した5-(n-デシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの2mol/Lジクロロメタン溶液を調製し、ジアザビシクロウンデセン(DBU)とベンジルアルコールとを添加して室温で23時間重合反応を行なった。メタノールで再沈殿を行ない、遠心分離により沈殿物を回収し、メタノールを留去することによって、5-(n-デシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンのポリマーを回収した。
【0071】
当該ポリマーをGPC測定した結果、重量平均分子量(Mw)9,000、分子量分布1.2であった。また、熱重量測定(TGA)の結果、10%重量減少温度は312℃と十分に高い値であった。さらに、示差走査熱量測定(DSC)より、融点8℃を有することを確認した。
【0072】
[実施例8]
5-(n-ヘキサデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの重合
10mL一口試験管に、窒素雰囲気下で、実施例3で合成した5-(n-ヘキサデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの2mol/Lジクロロメタン溶液を調製し、ジアザビシクロウンデセン(DBU)とベンジルアルコールとを添加して室温で21時間重合反応を行なった。メタノールで再沈殿を行ない、遠心分離により沈殿物を回収し、メタノールを留去することによって、5-(n-ヘキサデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンのポリマーを回収した。
【0073】
当該ポリマーをGPC測定した結果、重量平均分子量(Mw)11,000、分子量分布1.3であった。また、熱重量測定(TGA)の結果、10%重量減少温度は305℃と十分に高い値であった。さらに、示差走査熱量測定(DSC)より、融点34℃を有することを確認した。
【0074】
[実施例9]
5-(n-オクタデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの重合
10mL一口試験管に、窒素雰囲気下で、実施例4で合成した5-(n-オクタデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの2mol/Lジクロロメタン溶液を調製し、ジアザビシクロウンデセン(DBU)とベンジルアルコールとを添加して室温で21時間重合反応を行なった。メタノールで再沈殿を行ない、遠心分離により沈殿物を回収し、メタノールを留去することによって、5-(n-オクタデシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンのポリマーを回収した。
【0075】
当該ポリマーをGPC測定した結果、重量平均分子量(Mw)9,000、分子量分布1.2であった。また、熱重量測定(TGA)の結果、10%重量減少温度は296℃と十分に高い値であった。さらに、示差走査熱量測定(DSC)より、融点44℃を有することを確認した。
【0076】
[実施例10]
5-(n-イコシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの重合
10mL一口試験管に、窒素雰囲気下で、実施例5で合成した5-(n-イコシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンの2mol/Lジクロロメタン溶液を調製し、ジアザビシクロウンデセン(DBU)とベンジルアルコールとを添加して室温で23時間重合反応を行なった。メタノールで再沈殿を行ない、遠心分離により沈殿物を回収し、メタノールを留去することによって、5-(n-イコシロキシメチル)-5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンのポリマーを回収した。
【0077】
当該ポリマーをGPC測定した結果、重量平均分子量(Mw)3,000、分子量分布1.2であった。また、熱重量測定(TGA)の結果、10%重量減少温度は281℃であり、十分に高い値であった。さらに、示差走査熱量測定(DSC)より、融点60℃を有することを確認した。
【0078】
〔ポリマー塗膜の表面特性の評価〕
実施例6~10のポリマーをポリマー濃度10mg/mL(溶媒:ジクロロメタン)の溶液に調製した。ポリエチレンテレフタレート(PET)基板を当該ポリマー溶液に浸漬して乾燥させることによって、ポリマー塗膜を形成させた。このとき、実施例6~10のポリマー塗膜は均一に形成された。ポリマー塗膜付き基板に水滴を滴加した後、水滴の半径および高さから、水滴の接触角を求めた。求めた接触角の値を下記表1に示す。
【0079】
【0080】
接触角の値について、ポリマー塗膜付き基板は、塗膜なし基板と比べて接触角の値が大きい。この結果、基板の表面がポリマー塗膜によって疎水的になっていることが分かる。
【0081】
また、いずれの実施例においても塗膜が基板に均一に形成されていることから、ポリマーの基材への接着性が優れていることが分かる。