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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175885
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】製パン練り込み用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20221117BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20221117BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D13/00
A21D10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082650
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 朋実
(72)【発明者】
【氏名】小口 潤
(72)【発明者】
【氏名】加治屋 一樹
(72)【発明者】
【氏名】廣川 敏幸
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DH01
4B026DH02
4B026DH05
4B026DH10
4B026DK01
4B026DK02
4B026DL02
4B026DL09
4B026DP01
4B026DX05
4B032DB01
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK09
4B032DK10
4B032DK12
4B032DK20
4B032DK43
4B032DK54
4B032DK70
4B032DP08
4B032DP16
4B032DP25
4B032DP26
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】ソフトでありながらねちゃつかず、歯切れの良いパンを安定して得ることができ、さらには電子レンジ加熱に適したパンを安定して得ることができる製パン練り込み用油脂組成物を提供すること。
【解決手段】下記(A)成分を2質量%以上及び(B)成分を2質量%以上含有し、且つ、(A)成分及び(B)成分を合計して10~30質量%含有することを特徴とする製パン練り込み用油脂組成物。
(A)グリセリンモノ脂肪酸エステル
(B)ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、又は、プロピレングリコール脂肪酸エステル
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分を2質量%以上及び(B)成分を2質量%以上含有し、且つ、(A)成分及び(B)成分を合計して10~30質量%含有する製パン練り込み用油脂組成物。
(A)グリセリンモノ脂肪酸エステル
(B)ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、又は、プロピレングリコール脂肪酸エステル
【請求項2】
下記(C)成分を0.1~1.5質量%含有する請求項1記載の製パン練り込み用油脂組成物。
(C)遊離脂肪酸
【請求項3】
上記(A)成分及び(C)成分が反応モノグリセリドを含有する請求項1又は2記載の製パン練り込み用油脂組成物。
【請求項4】
下記(D)成分を0.001~1.5質量%含有する請求項1~3のいずれか一項に記載の製パン練り込み用油脂組成物。
(D)還元性素材
【請求項5】
比重が0.9未満である請求項1~4のいずれか一項に記載の製パン練り込み用油脂組成物。
【請求項6】
油脂の融点が36℃以上である請求項5記載の製パン練り込み用油脂組成物。
【請求項7】
エステル交換油脂を油相中に40~100質量%含有する請求項5又は6記載の製パン練り込み用油脂組成物。
【請求項8】
融点25℃以下の油脂の含有量が20質量%未満である請求項5~7のいずれか一項に記載の製パン練り込み用油脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の製パン練り込み用油脂組成物を用いたパン生地。
【請求項10】
請求項9記載のパン生地を加熱してなるパン。
【請求項11】
電子レンジ加熱用である請求項10記載のパン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製パン練り込み用油脂組成物に関する。詳しくは、ソフトでありながらねちゃつかず、歯切れの良いパンを安定して得ることができ、さらには電子レンジ加熱に適したパンを安定して得ることができる製パン練り込み用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パンに求められる食感としては、ソフト性が一番重要である。ソフト性を高めるために乳化剤、増粘安定剤、酵素等、様々な製パン改良成分を用いた研究がなされており、それらの成分を単独で或いは組み合わせて使用する方法が、多種紹介されている。
しかし、パンをソフトにするためにこれらの改良成分を多く使用すると、ソフトを通り越してねちゃついた食感になってしまう問題があった。
【0003】
近年は食品ロス削減への動きがあるが、単に消費期限を延長するだけでなく、焼成当初から消費期限近くまでソフトな食感の変化が少ないことが求められる。ここで、単に上記改良成分の添加量を増やすだけではその食感変化がむしろ拡大してしまうという問題があった。
【0004】
また更に、近年の販売形態や食シーンの変化から、焼成冷凍パンや家庭での加温消費が拡大し、家庭でパンをレンジ加熱して食す機会が増加している。また、チルド流通の惣菜パンやホットドッグなどを店頭で電子レンジ加熱して提供する場面も増加している。
しかし電子レンジでパンを加熱すると、直後はソフトであるが、冷えるにつれて急激にパンが硬化し、ヒキの強い食感となってしまう問題があった。
【0005】
これらの問題に対し、各種の改良剤の提案が行われているが、特に、パンの老化の原因である澱粉に対する作用が大きいため、乳化剤に関して多くの提案が行われている。
例えば、トランス型不飽和脂肪酸モノグリセリドと糊料を含有する油中水型乳化物(例えば特許文献1参照)、水和された乳化剤及び糊料を含有する油中水型乳化物(例えば特許文献2参照)、液状油に乳化剤と保湿剤を分散させた油脂組成物(例えば特許文献3参照)、油相中にプロピレングリコール脂肪酸エステルとモノグリセリドを含有する油脂組成物(例えば特許文献4参照)、油相中にジアセチル酒石酸モノグリセリドとモノグリセリドを含有する油脂組成物(例えば特許文献5参照)、ジグリセリンジエステル組成物を使用する方法(例えば特許文献6参照)、ジグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル及びモノグリセリドの3種の乳化剤を含有する油脂組成物(例えば7~9参照)等が提案されている。
【0006】
しかし、特許文献1や特許文献2の油中水型乳化物は、乳化剤の含有量が極めて低く抑えられるため、パンのソフト性の向上には限界があり、長期間ソフト性を保ったパンを得ることは難しく、また、電子レンジ加熱耐性についても十分な効果は得られないものであった。
【0007】
特許文献3の油脂組成物は、液状油を多く使用する必要があることからパン生地製造時の練り込まれにくく、食感もねちゃついたものとなってしまう問題があった。
【0008】
特許文献4の油脂組成物は、乳化剤の含有量が低いためパンのソフト性の向上には限界があり、長期間ソフト性を保ったパンを得ることは難しく、また、電子レンジ加熱耐性についても十分な効果は得られないものであった。
【0009】
特許文献5の油脂組成物は、ソフト性の改良効果は高いが、その効果を高めるために有効成分であるジアセチル酒石酸モノグリセリドを上限まで増やすと、パンに酸味が付与されてしまう問題があった。また、ジアセチル酒石酸モノグリセリドは分解しやすいため、ジアセチル酒石酸モノグリセリド含量の高い油脂組成物の保存性にも問題があった。
【0010】
特許文献6の油脂組成物は、電子レンジ耐性は高いものの、ソフト性の改良効果は見られないものであった。
【0011】
特許文献7~9の油脂組成物は、それぞれ効果の異なる3種の乳化剤を併用することで、ソフト性と歯切れ、さらには電子レンジ耐性の向上効果を得るものであるが、ジグリセリドとプロピレングリコール脂肪酸エステルを併用する場合、効果を高めようとして添加量を増やすと、得られるパンはむしろソフト性も歯切れも悪化することに加え、パンの種類によっては十分な効果が得られない問題、パン生地製造時に練り込まれにくくなる問題やパン生地がべたついて扱いにくくなる問題、さらには冷凍保管のパンを直接暖かい焼き立ての状態まで電子レンジ加熱した場合にヒキが強くなりすぎるなど、電子レンジ耐性が十分ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平03-236734号公報
【特許文献2】特開平04-144632号公報
【特許文献3】特開2005-000048号公報
【特許文献4】特開2007-267654号公報
【特許文献5】特開平05-219886号公報
【特許文献6】特開平09-172941号公報
【特許文献7】特開2009-039070号公報
【特許文献8】特開2016-077240号公報
【特許文献9】特開2016-005446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、ソフトでありながらねちゃつかず、歯切れの良いパンを安定して得ることができ、さらには電子レンジ加熱に適したパンを安定して得ることができる製パン練り込み用油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記課題を解決すべく種々検討した結果、特定の2種の乳化剤を高濃度で含有する製パン練り込み用油脂組成物により上記課題を解決可能であることを知見した。
【0015】
本発明は、下記(A)成分を2質量%以上及び(B)成分を2質量%以上含有し、且つ、(A)成分及び(B)成分を合計して10~30質量%含有することを特徴とする製パン練り込み用油脂組成物である。
(A)グリセリンモノ脂肪酸エステル
(B)ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、又は、プロピレングリコール脂肪酸エステル
【発明の効果】
【0016】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物を使用することにより、ソフトでありながらねちゃつかず、歯切れの良いパンを安定して得ることができ、さらには電子レンジ加熱に適したパンを安定して得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の製パン練り込み用油脂組成物について、好ましい実施形態に基づき説明する。
まず、上記(A)グリセリンモノ脂肪酸エステルについて述べる。
本発明で使用するグリセリンモノ脂肪酸エステルとしては、公知のグリセリンモノ脂肪酸エステルを使用することができる。グリセリンモノ脂肪酸エステルの脂肪酸に特に制限はなく、飽和酸でも不飽和酸でも問題なく使用可能である。脂肪酸の鎖長についても制限はないが、好ましくは8~22、より好ましくは12~20、さらに好ましくは14~18である。最も好ましい脂肪酸としては、ソフト性良好なパンが得られる点から、ステアリン酸、パルミチン酸が挙げられる。
【0018】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物における(A)グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量を2質量%以上とすることで、本発明の効果、特にパンのソフト性が得られる。本発明においては(A)成分と(B)成分の合計が30質量%以下であることから、(A)成分の上限は28質量%であるが、(A)成分の含有量を12質量%以下とすることが、得られるパンのねちゃつきを抑制することが可能となる点で好ましく、より好ましくは9質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。
【0019】
次に、上記(B)ジグリセリン脂肪酸エステルについて述べる。
本発明で使用するジグリセリン脂肪酸エステルとしては、公知のジグリセリン脂肪酸エステルを使用することができる。ジグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸に特に制限はなく、飽和酸でも不飽和酸でも問題なく使用可能であるが、飽和酸であることが好ましい。脂肪酸の鎖長についても制限はないが、好ましくは8~22、より好ましくは12~22、さらに好ましくは14~18である。具体的には、歯切れの良好なパンが得られる点から、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸及びベヘン酸のうちの1種又は2種以上であることが好ましく、パルミチン酸及び/又はステアリン酸であることがより好ましい。
また、脂肪酸の結合数についても特に制限はないが、モノ脂肪酸エステル、及び/又はジ脂肪酸エステルであることが好ましい。
【0020】
次に、上記(B)プロピレングリコール脂肪酸エステルについて述べる。
本発明で使用するプロピレングリコール脂肪酸エステルとしては、公知のプロピレングリコール脂肪酸エステルを使用することができる。プロピレングリコール脂肪酸エステルの脂肪酸に特に制限はなく、飽和酸でも不飽和酸でも問題なく使用可能であるが、飽和酸であることが好ましい。脂肪酸の鎖長についても制限はないが、好ましくは8~22、より好ましくは12~22、さらに好ましくは14~18である。具体的には、歯切れの良好なパンが得られる点から、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸及びベヘン酸のうちの1種又は2種以上であることが好ましく、パルミチン酸及び/又はステアリン酸であることがより好ましい。
また、脂肪酸の結合数についても特に制限はないが、モノ脂肪酸エステル、及び/又はジ脂肪酸エステルであることが好ましい。
【0021】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物における(B)ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、又は、プロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量は、2質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは11質量%以上である。2質量%未満であると本発明の効果、特にパンの歯切れの効果及び電子レンジ耐性の効果が得られなくなる。本発明においては(A)成分と(B)成分の合計が30質量%以下であることから、(B)成分の上限は28質量%であるが、(B)成分の含有量を25質量%以下とすることが、得られるパンの食感がぱさつくことを抑制することが可能となる点で好ましく、より好ましくは22質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。
【0022】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、上記(B)成分としてジグリセリン脂肪酸エステルを単独で使用、又は、プロピレングリコール脂肪酸エステルを単独で使用するものであり、両者を併用することはできない。本発明の製パン練り込み用油脂組成物の乳化剤含量は、10質量%以上と極めて多い。乳化剤含量が少量の場合は、この2種の乳化剤を併用すると相乗効果を示すのに対し、乳化剤含量が大量の場合は、この2種の乳化剤を併用するとお互いの効果を阻害するものと思われる。
【0023】
なお、本発明において、単独で使用するとは、(B)成分として、ジグリセリン脂肪酸エステルとプロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量の比が10倍以上であることをいうものとするが、20倍以上となるようにすることが好ましい。
【0024】
本発明においては、(B)成分としてジグリセリン脂肪酸エステルを単独で使用するほうが、プロピレングリコール脂肪酸エステルを単独で使用するよりも、ソフトなパンが得られる点で好ましい。
【0025】
本発明において、上記(A)成分及び(B)成分の合計の含有量は、本発明の製パン練り込み用油脂組成物中、好ましくは10~30質量%、より好ましくは11~21質量%、さらに好ましくは12~18質量%である。
上記合計の含有量が10質量%未満であると本発明の効果が得られず、30質量%を超えると得られるパンがねちゃついた食感になってしまううえに、パン生地の製造時に油脂の混合性が悪化し、また生地のべとつきが激しく、成形時に扱いにくくなってしまい、成形機にも付着しやすくなるなど、安定的な生産ができなくなってしまう。
【0026】
次に、上記(C)遊離脂肪酸について述べる。
本発明で使用する遊離脂肪酸としては、公知の遊離脂肪酸を使用することができる。遊離脂肪酸の脂肪酸に特に制限はなく、飽和酸でも不飽和酸でも問題なく使用可能であるが、飽和酸であることが好ましい。脂肪酸の鎖長についても制限はないが、好ましくは8~22、より好ましくは12~22、さらに好ましくは14~18である。具体的には、歯切れの良好なパンが得られる点から、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸及びベヘン酸のうちの1種又は2種以上であることが好ましく、パルミチン酸及び/又はステアリン酸であることがより好ましい。
【0027】
上記(C)成分の含有量は、本発明の製パン練り込み用油脂組成物中、好ましくは0.005~1.5質量%、より好ましくは0.1~1.0質量%、さらに好ましくは0.1~0.5質量%である。
(C)成分の含有量を上記範囲内とすることにより、本発明の製パン練り込み用油脂組成物を使用して得られたパンのねちゃつきが防止されることに加え、高い電子レンジ耐性を付与することが可能となる。
【0028】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物は、上記(A)成分及び(C)成分として、それぞれ精製されたものを使用することもできるが、配合効率化の観点や脂肪酸組成の調整のしやすさの観点から、その一部又は全部として反応モノグリセリド及び/又は油脂分解物を使用することもできる。本発明においては(A)成分の含有量を高くすることが可能な点で反応モノグリセリドを使用することが好ましい。なお、本発明において反応モノグリセリドとは、グリセリンと脂肪酸とを反応して、あるいはグリセリンと油脂とをエステル交換して得られるものであり、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド及び遊離脂肪酸を含む混合物である。また、本発明において油脂分解物とは、各種動植物油脂やそれらから得られる加工油脂の分解物であり、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド及び遊離脂肪酸を含む混合物である。
【0029】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物において、反応モノグリセリドを使用する場合は、(A)グリセリンモノ脂肪酸エステル中、反応モノグリセリド由来のモノグリセリドの含有量が50質量%以上、好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100%となる量を使用することが好ましい。
【0030】
また、本発明の製パン練り込み用油脂組成物において、油脂分解物を使用する場合は、(C)遊離脂肪酸中、油脂分解物由来の遊離脂肪酸の含有量が50質量%以上、好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100%となる量を使用することが好ましい。
【0031】
次に、上記(D)還元性素材について述べる。
本発明で使用する還元性素材としては、公知の還元性素材を使用することができる。還元性素材としては、システィンやメチオニンなどの含硫アミノ酸や、シスチン、ポリシスティン、グルタチオンなどの含硫アミノ酸を含むペプチド、さらには、それらを含む酵母エキスなどの食品素材や食品添加物を挙げることができる。
【0032】
上記(D)還元性素材の含有量は、本発明の製パン練り込み用油脂組成物中、好ましくは0.001~1.5質量%、より好ましくは0.005~1.0質量%、さらに好ましくは0.01~0.5質量%である。
(D)還元性素材の含有量を上記範囲内とすることにより、本発明の製パン練り込み用油脂組成物を使用して得られたパンに高い電子レンジ耐性を付与することが可能となる。
【0033】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物は油脂を含有する。本発明の製パン練り込み用油脂組成物で用いることができる油脂は、食用の油脂であればよく、特に制限なく用いることができる。
【0034】
具体的には、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、落花生油、カポック油、胡麻油、月見草油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂及びイリッペ脂等の各種植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油及び鯨油等の各種動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を使用することができる。本発明はこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0035】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物の比重は0.9未満、好ましくは0.4~0.84、さら好ましくは0.5~0.8、最も好ましくは0.60~0.75である。このような低比重とすることにより、本発明のような乳化剤を多く含有する油脂組成物であってもパン生地への油脂混合性が良好なものとなる。具体的には、ミキシング時に微細に破砕されることで、ミキシング時に油脂の飛散が少なく、またミキサー壁面への付着が防止され、生地に均質に練り込まれる。さらに、パン生地のべたつきが抑えられるものである。そのため、乳化剤を多く含有する油脂組成物を使用したパン生地を使用しながら、安定して良好な品質のパンを得ることができる。
【0036】
製パン練り込み用油脂組成物の比重は、容積法により測定することができる。具体的には、一定容積の計量カップに油脂組成物を充填し、該カップ内の油脂組成物の質量を測定し、その質量を計量カップの容積で除して得られる数値を製パン練り込み用油脂組成物の比重とする。なお、製パン練り込み用油脂組成物の比重は20℃において測定するものとする。
【0037】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物は、上記のように比重が0.9未満、好ましくは0.4~0.84、さら好ましくは0.5~0.8、最も好ましくは0.60~0.75である場合、使用油脂の融点が36℃以上、好ましくは37℃以上、より好ましくは38℃以上であることが好ましい。使用油脂の融点が、36℃以上、好ましくは37℃以上、より好ましくは38℃以上であることにより、よりパン生地への油脂混合性が良好なものとなり、さらにパン生地のべたつきが抑えられる。また得られるパンも内相膜が薄く、ソフトな食感でありながら、パンクラム構造がしっかりしていてつぶれにくく、歯切れが良好でありねちゃつきのない食感のパンとなる。
なお、融点の上限値に関しては、好ましくは47℃以下、より好ましくは44℃以下である。
なお、本発明の製パン練り込み用油脂組成物において、使用油脂の融点とは上昇融点であり、日本油化学会制定の基準油脂分析試験法に記載の方法により測定することができる。
【0038】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物は、上記のように、使用油脂の融点が36℃以上且つ比重が0.9未満である場合、パン生地へ油脂混合性が良好である点、特に、低温時の油脂混合性を良好なものとすることができる点で、エステル交換油脂を油相中に40~100質量%含有することが好ましく、60~100質量%含有することがより好ましく、75~100質量%含有することが更に好ましい。
【0039】
上記エステル交換は、常法に従って行うことができ、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよい。
上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、また、上記酵素としては、位置選択性のない酵素、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼが挙げられる。なお、該リパーゼは、イオン交換樹脂、ケイ藻土及びセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0040】
本発明において使用油脂の融点が36℃以上且つ比重が0.9未満である場合、上記油脂として、パーム分別軟部油を70~100質量%含む油脂配合物(1)をエステル交換したエステル交換油脂(1)を使用することが、適度な硬さの油脂とすることができる点に加え、パン生地への油脂混合性を良好なものとすることにより生産安定性が高まる点で好ましい。また、上記エステル交換油脂(1)を使用すると、得られるパンの体積が大きく、歯切れが良好なパンとすることが可能である点でも好ましい。
【0041】
上記エステル交換油脂(1)に用いられる上記油脂配合物(1)は、ヨウ素価52~70のパーム分別軟部油を、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%含むものである。
【0042】
上記パーム分別軟部油は、アセトン分別やヘキサン分別等の溶剤分別、ドライ分別等の無溶剤分別等の方法によって、パーム油を分別した際に得られる低融点部であり、通常、ヨウ素価が52~70のものである。本発明に用いられるパーム分別軟部油としては、ヨウ素価が52以上のパームオレインを使用することが好ましく、ヨウ素価が54以上のパームオレインを使用することがより好ましい。
【0043】
36℃以上の融点とする目的において、ヨウ素価は65未満であることが好ましく、より好ましくは60未満である。
【0044】
上記油脂配合物(1)は、必要に応じ、上記パーム分別軟部油以外の油脂を含有してもよい。上記油脂配合物に必要に応じ配合する、上記パーム分別軟部油以外の油脂は、求める油脂組成物の硬さに応じ、適宜選択することができ、具体的には、大豆油、キャノーラ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴー核油、乳脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂等の常温で固体の油脂も用いることができ、更に、これらの油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を使用することもできる。
本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0045】
上記エステル交換油脂(1)を得るためのエステル交換反応は、選択的エステル交換であってもよく、また、非選択的エステル交換、すなわちランダムエステル交換であってもよいが、上記油脂混合性が良好である点で非選択的エステル交換であることが好ましい。
【0046】
上記エステル交換は、常法に従って行うことができ、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよい。
上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、また、上記酵素としては、位置選択性のない酵素、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼが挙げられる。なお、該リパーゼは、イオン交換樹脂、ケイ藻土及びセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0047】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物における、上記エステル交換油脂(1)の含有量は、油相中に、好ましくは40~100質量%、より好ましくは51~100質量%、更に好ましくは55~95質量%である。
【0048】
本発明において使用油脂の融点が36℃以上且つ比重が0.9未満である場合、上記油脂として、パーム極度硬化油脂を30~60質量%含有し、脂肪酸組成において炭素数14以下の脂肪酸含量が10質量%未満である油脂配合物(2)をエステル交換したエステル交換油脂(2)を使用することが、より微細に砕けやすく、結果として油脂混合性をより高いものにすることができる点で好ましい。さらに、ミキサーの壁面への付着性を低下させることができる点で好ましく、耐熱性が向上するため、高温側の温度域で使用しやすくなる点でも好ましい。そしてこれらの効果がパンの口溶けを悪化させることなく得られる点で好ましく、またパン生地のべたつきが抑えられる点でも好ましい。
【0049】
上記パーム極度硬化油脂とは、パーム油、パーム分別軟部油、パーム分別中部油、パーム分別硬部油などのパーム系油脂に対し、ヨウ素価が10以下、好ましくは5以下、より好ましくは1未満となるまで水素添加し、実質的に構成成分である不飽和脂肪酸をほぼ完全に飽和することによって得られる極度硬化油である。
このパーム極度硬化油脂は、極度硬化油指の中でも、脂肪酸組成における炭素数18の飽和脂肪酸含量と炭素数16の飽和脂肪酸含量がほぼ50質量%ずつである点で極めて特徴的な油脂である。
【0050】
上記油脂配合物(2)中の上記パーム極度硬化油脂の含有量は、好ましくは30~60質量%、より好ましくは30~50質量%、さらに好ましくは30~40質量%である。パーム極度硬化油脂の含量が30質量%未満であると、上記の効果が得られにくくなる。また、60質量%を超えると、油脂添加混合時に微細に砕けることなく、大きな塊のままとなってしまうおそれがあることに加え、得られるパンの口溶けが悪化するおそれがある。
【0051】
上記油脂配合物(2)に含まれる炭素数14以下の脂肪酸の含有量は、10質量%未満であることが好ましく、より好ましくは5質量%未満である。油脂配合物中10質量%を越えると、微細に割れにくくなり、上記の効果が得られにくくなる。
【0052】
上記油脂配合物(2)に含まれる、上記パーム極度硬化油脂以外の油脂としては、食用に適する油脂であればよく、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴー核油、乳脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の常温で固体の油脂も用いることができ、さらに、これらの食用油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を使用することもできる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできるが、好ましくは上記油脂配合物に含まれる炭素数14以下の脂肪酸の含有量が10質量%未満となるように用いる。
【0053】
上記油脂配合物(2)の脂肪酸組成において、炭素数16の飽和脂肪酸含量を、好ましくは30質量%以上、より好ましくは30~70質量%、さらに好ましくは40~60質量%とすることで、より微細に砕けやすくすることができ、結果として油脂混合性を高めることが可能である点で好ましい。
そのため、上記パーム極度硬化油脂以外の油脂として、カカオ脂、魚油、牛脂、豚脂、パーム油、さらに、これらの食用油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂などの、炭素数16の飽和脂肪酸を多く含む油脂を使用することが好ましい。
【0054】
上記油脂配合物(2)の脂肪酸組成において、炭素数18の飽和脂肪酸含量/炭素数16の飽和脂肪酸含量の値が、好ましくは1未満、より好ましくは0.6未満とすることにより、より微細に砕けやすくすることができ、結果として油脂混合性を高めることが可能である点で好ましい。
そのため、上記パーム極度硬化油脂以外の油脂として、パーム油、パーム分別油などの、パルミチン酸を多く含み、且つ、パルミチン酸よりステアリン酸含量が少ない油脂を使用することが好ましい。
【0055】
すなわち、上記油脂配合物(2)には、パーム極度硬化油脂以外の油脂として、パーム油、及び/又は、パーム分別油を使用することが好ましい。
【0056】
上記エステル交換油脂(2)を得るためのエステル交換反応は、選択的エステル交換であってもよく、また、非選択的エステル交換、すなわちランダムエステル交換であってもよいが、上記油脂混合性が良好である点で非選択的エステル交換であることが好ましい。
【0057】
上記エステル交換は、常法に従って行うことができ、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよい。
上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、また、上記酵素としては、位置選択性のない酵素、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼが挙げられる。なお、該リパーゼは、イオン交換樹脂、ケイ藻土及びセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0058】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物における、上記エステル交換油脂(2)の含有量は、油相中に好ましくは3~50質量%、より好ましくは3~40質量%、更に好ましくは5~35質量%である。
【0059】
本発明において上記エステル交換油(2)を上記エステル交換油脂(1)と併用する場合、エステル交換油(1)100質量部に対してエステル交換油(2)を7~100質量部使用することが好ましく、より好ましくは10~66質量部、さらに好ましくは10~55質量部使用する。この範囲内で使用することにより、エステル交換油脂(1)の効果をより高いものとすることができる。
【0060】
本発明において使用油脂の融点が36℃以上且つ比重が0.9未満である場合、その全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20~60質量%であり、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が30~70質量%である油脂配合物(3)をエステル交換したエステル交換油脂(3)を使用することが、油脂混合性、特に10℃以下の低温、さらには5℃以下の低温での油脂混合性を良好なものとすることが可能である点で特に好ましい。
【0061】
上記エステル交換油脂(3)に用いられる上記油脂配合物(3)は、その構成脂肪酸中に炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂、及びその構成脂肪酸中に炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂を用いて、上記構成脂肪酸組成となるように配合することにより得ることができる。
【0062】
上記の炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂において、炭素数14以下の飽和脂肪酸の含有量は、その構成脂肪酸中に好ましくは30~100質量%、より好ましくは65~100質量%である。
【0063】
また、上記の炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂において、炭素数16以上の飽和脂肪酸の含有量は、その構成脂肪酸中に好ましくは30~100質量%、より好ましくは70~100質量%である。
【0064】
上記の炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂としては、例えば、パーム核油、ヤシ油、ババス油、並びにこれらに対し硬化、分別及びエステル交換のうちの1又は2以上の操作を施した油脂を挙げることができ、これらの中の1種又は2種以上を用いることができる。本発明では、好ましくは、パーム核油又はヤシ油を使用する。
【0065】
上記の炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂としては、例えば、パーム油、大豆油、ナタネ油、豚脂、牛脂、並びにこれらに対し硬化、分別及びエステル交換のうちの1又は2以上の操作を施した油脂を挙げることができ、これらの中の1種又は2種以上を用いることができる。本発明では、好ましくは、パーム硬化油、大豆硬化油又はナタネ硬化油、より好ましくは、パーム極度硬化油、大豆極度硬化油又はナタネ極度硬化油を使用する。
【0066】
上記油脂配合物(3)において、上記の炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂は、上記油脂配合物(3)の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が好ましくは20~60質量%、より好ましくは40~60質量%となるように配合される。ここで、上記炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20質量%未満であると、低温での油脂混合性の改良効果が得られにくい。また炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が60質量%超であると、融点が低くなりやすく油脂混合性が低下し、特に付着性改善効果が得られにくい。
【0067】
上記油脂配合物(3)において、上記の炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂は、上記油脂配合物(3)の全構成脂肪酸組成における炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が好ましくは30~70質量%、より好ましくは30~50質量%となるように配合される。炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が30質量%未満であると、融点が低くなりやすく油脂混合性が低下し、特に付着性改善効果が得られにくい。また、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が70質量%超であると、低温での油脂混合性の改良効果が得られにくい。
【0068】
上記エステル交換油脂(3)を得るためのエステル交換反応は、選択的エステル交換であってもよく、また、非選択的エステル交換、すなわちランダムエステル交換であってもよいが、上記油脂混合性が良好である点で非選択的エステル交換であることが好ましい。
【0069】
上記エステル交換は、常法に従って行うことができ、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよい。
上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、また、上記酵素としては、位置選択性のない酵素、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼが挙げられる。なお、該リパーゼは、イオン交換樹脂、ケイ藻土及びセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0070】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物における、上記エステル交換油脂(3)の含有量は、油相中に好ましくは5~90質量%、より好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。
【0071】
本発明において使用油脂の融点が36℃以上且つ比重が0.9未満である場合、上記エステル交換油脂(1)とエステル交換油(3)を併用することが、より広い温度域での油脂混合性の改良効果が得られる点で特に好ましい。
エステル交換油脂(1)とエステル交換油(3)の比率は、エステル交換油(1)100質量部に対してエステル交換油(3)を5~50質量部使用することが好ましく、より好ましくは5~30質量部使用する。
この範囲内で使用することにより、エステル交換油脂(1)の効果、特に低温での油脂混合性を向上させることが可能となる。
【0072】
本発明において使用油脂の融点が36℃以上且つ比重が0.9未満である場合、本発明の高い効果を得るために、上記エステル交換油脂(1)、(2)及び(3)以外のエステル交換油脂の含有量は、本発明の製パン練り込み用油脂組成物の油相中に、好ましくは25質量%未満、より好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%未満とする。
【0073】
本発明において使用油脂の融点が36℃以上且つ比重が0.9未満である場合、本発明の高い効果を得るために、上記エステル交換油脂(1)、(2)及び(3)以外の油脂の含有量は、本発明の製パン練り込み用油脂組成物の油相中に、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0074】
本発明において使用油脂の融点が36℃以上且つ比重が0.9未満である場合、25℃において液状である油脂の使用量が15質量%以下、より好ましくは5質量%以下であることが、油脂が微細に砕けやすく、結果的に油脂混合性が高い点で好ましい。また生地のべたつきが防止され、さらにはクラム構造がしっかりしていてつぶれにくいパンが得られる点で好ましい。
【0075】
25℃において液状である油脂の具体例としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油、ヤシ油、パーム核油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他パーム分別軟部油、パームスーパーオレインなどの固体の油脂の分別軟部油や、各種油脂や脂肪酸のエステル交換などの加工油脂が挙げられる。
【0076】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物は、トランス脂肪酸を実質的に含有しないことが好ましい。なお、ここでいう「トランス脂肪酸を実質的に含有しない」とは、トランス脂肪酸の含有量が、本発明の製パン練り込み用油脂組成物に含まれる油脂の全構成脂肪酸中、好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%以下、最も好ましくは2質量%以下であることを意味する。
【0077】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物における油脂の含有量は、製パン練り込み用油脂組成物中、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70~90質量%である。
【0078】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物は、生地中に容易に分散させることが可能になると共に、本発明の効果が得られやすくなる点で、油脂を分散相とする水中油型乳化物等の油脂組成物ではなく、油脂を連続相とする油脂組成物の形態をとることが好ましい。
【0079】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物が、油脂を連続相とする油脂組成物の形態をとる場合、水分を含有するマーガリンやファットスプレッドの形態をとるものであってもよく、また、水分を実質的に含有しないショートニングの形態をとるものであってもよい。
【0080】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物が油脂を連続相とし、水分を含有する乳化物である場合、その乳化型が、水を分散相とする油中水型であってもよく、油脂が分散した水を分散相とする油中水中油型等の二重乳化以上の多重乳化型であってもよい。
【0081】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物の水分含量は、特に制限はないが、水分を含有するマーガリンやファットスプレッドのような形態をとる場合においては、好ましくは10~50質量%である。また、水分を実質的に含有しないショートニングのような形態をとる場合においては、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
なお、本発明の製パン練り込み用油脂組成物における水分含有量は、例えば、常圧乾燥減量法により測定することができる。
【0082】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲においてその他の成分を含有することができる。
上記のその他の成分としては水、蛋白質、糖類、甘味料、上記グリセリンモノ脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、及びプロピレングリコール脂肪酸エステル以外の乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、卵類、無機塩類、乳清ミネラル、乳脂肪球皮膜、アミラーゼ・プロテアーゼ・アミログルコシダーゼ・プルラナーゼ・ペントサナーゼ・セルラーゼ・リパーゼ・ホスフォリパーゼ・カタラーゼ・リポキシゲナーゼ・アスコルビン酸オキシダーゼ・スルフィドリルオキシダーゼ・ヘキソースオキシダーゼ・グルコースオキシダーゼ等の酵素、β―カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料類、酢酸・乳酸・グルコン酸等の酸味料、調味料、原料アルコール、焼酎・ウイスキー・ウオッカ・ブランデー等の蒸留酒、ワイン・日本酒・ビール等の醸造酒、各種リキュール、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、ナッツペースト、香辛料、カカオマス・カカオパウダー等のカカオ製品、コーヒー、紅茶、緑茶、ハーブ、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、保存料、苦味料、酸味料、ジャム、フルーツソース、コンソメ・ブイヨン等の植物及び動物エキス、食品添加剤等を添加してもよい。その他の成分は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、好ましくは、本発明の製パン練り込み用油脂組成物中、30質量%以下である。
【0083】
上記の蛋白質としては特に限定されないが、例えばホエイ蛋白質、カゼイン蛋白質、その他の乳蛋白質、低密度リポ蛋白質、高密度リポ蛋白質、ホスビチン、リベチン、リン糖蛋白質、オボアルブミン、コンアルブミン、オボムコイド等の卵蛋白質、グリアジン、グルテニン、プロラミン、グルテリン等の小麦蛋白質、その他動物性及び植物性蛋白質等の蛋白質が挙げられる。これらの蛋白質は、目的に応じて1種又は2種以上の蛋白質として、あるいは1種又は2種以上の蛋白質を含有する食品素材の形で添加してもよい。
上記の蛋白質の含有量は特に制限はないが、本発明の製パン練り込み用油脂組成物において、好ましくは0~3質量%、さらに好ましくは0~1.5質量%、最も好ましくは0~0.75質量%である。
【0084】
上記の糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、はちみつ、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、還元乳糖、ソルビトール、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、トレハロース等が挙げられる。本発明の製パン練り込み用油脂組成物ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
特に上記の糖類としてブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖より選ばれた1種又は2種以上を用いることが好ましい。
上記の糖類の含有量は特に制限はないが、本発明の製パン練り込み用油脂組成物において、固形分として好ましくは0~1.2質量%、さらに好ましくは0~0.6質量%、最も好ましくは0~0.3質量%である。
【0085】
上記の甘味料としては、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、ソーマチン、サッカリン、ネオテーム、アセスルファムカリウム等が挙げられる。本発明の製パン練り込み用油脂組成物ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0086】
上記のグリセリンモノ脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、及びプロピレングリコール脂肪酸エステル以外の乳化剤としては、例えばグリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸モノグリセリド、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリソルベート類等の合成乳化剤や、例えば大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類等の天然乳化剤が挙げられる。本発明の製パン練り込み用油脂組成物では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。
上記のグリセリンモノ脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、及びプロピレングリコール脂肪酸エステル以外の乳化剤の含有量を合計した、総含有量は特に制限はないが、本発明の製パン練り込み用油脂組成物中、好ましくは0~10質量%、さらに好ましくは0~5質量%、最も好ましくは0~3質量%である。
【0087】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸、アルギン酸塩、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、本発明の製パン練り込み用油脂組成物ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。
上記の増粘安定剤の含有量は、特に制限はないが、本発明の製パン練り込み用油脂組成物中、好ましくは0~10質量%、さらに好ましくは0~5質量%である。
なお、本発明の製パン練り込み用油脂組成物において、上記増粘安定剤が必要でなければ、増粘安定剤を用いなくてもよい。
【0088】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物の性状は、流動状やペースト状などの物性であってもよいが、製パン時の練り込みにおける油脂混合性が良好である点で、可塑性油脂組成物であることが好ましい。
ここで可塑性油脂組成物とは、油相のみ、又は油相と水相の乳化物を急冷可塑化して得られる油脂組成物であり、その配合油脂に応じた温度域において可塑性を有していれば可塑性油脂組成物として扱うものである。
【0089】
次に上記本発明の製パン練り込み用油脂組成物の製造方法について説明する。
本発明の製パン練り込み用油脂組成物は、最終的な油脂組成物中に下記(A)成分を2質量%以上及び(B)成分を2質量%以上含有し、且つ、(A)成分及び(B)成分を合計して10~30質量%となるように含有する油相を溶解した後、冷却し、結晶化させることにより製造することができる。
(A)グリセリンモノ脂肪酸エステル
(B)ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、又は、プロピレングリコール脂肪酸エステル
【0090】
具体的な製造方法としては、例えば、上記製パン練り込み用油脂組成物がショートニングの場合は、油脂に、(A)成分及び(B)成分を最終的な油脂組成物中に(A)成分を2質量%以上及び(B)成分を2質量%以上含有し、且つ、(A)成分及び(B)成分を合計して10~30質量%となるよう含み、さらに必要に応じ油溶性の乳化剤やその他の材料を添加した油相を用意する。上記の製パン練り込み用油脂組成物がマーガリンの場合は、上記油相と、水に必要により水溶性の乳化剤やその他の材料を添加した水相を準備し、油中水型乳化物とする。
【0091】
次にショートニングの場合は油相を、マーガリンの場合は油中水型乳化物を、殺菌処理するのが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続方式でも構わない。また殺菌温度は好ましくは80~100℃、さらに好ましくは80~95℃、最も好ましくは80~90℃とする。その後、必要により油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行なう。予備冷却の温度は好ましくは40~60℃、さらに好ましくは40~55℃、最も好ましくは40~50℃とする。
【0092】
次に冷却、好ましくは急冷可塑化を行なう。この急冷可塑化は、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーターなどの密閉型連続式掻き取りチューブラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機などが挙げられ、また開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターとの組合せが挙げられる。
これらの装置の後に、ピンマシンなどの捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
【0093】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物の比重を0.9未満とする際は、上記の製パン練り込み用油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させ、比重を0.9未満、好ましくは0.4~0.84、さら好ましくは0.5~0.8、最も好ましくは0.60~0.75とする。
【0094】
本発明の製パン練り込み用油脂組成物は、山形食パン、角型食パン、ワンローフ食パン、コッペパン、バラエティブレッド、ロールパン、菓子パン、スイートロール、デニッシュ・ペストリー、バンズ、ブリオッシュ、マフィン、ベイグル、スコーン、イングリッシュマフィン、ドーナツ、ピザ、蒸しパン、ワッフル、総菜パン等の各種パン生地に用いることができるが、特に糖類含量や水分含量が高く生地物性がねちゃつきやすく、また、食感もねちゃつき歯切れが悪くなりやすいパン生地であると本発明の効果が高いため、菓子パン、スイートロール、デニッシュ・ペストリー、バンズ、ブリオッシュ、マフィン、総菜パン等の糖類を対粉10質量部以上含有するパン生地に用いることが好ましい。
【0095】
本発明のパン生地について述べる。
本発明のパン生地は、本発明の製パン練り込み用油脂組成物を含有するものである。具体的にはパン生地を製造する際に本発明の製パン練り込み用油脂組成物を練り込んでなるものである。
【0096】
その際のパン生地の製法としては、中種法、直捏法、液種法、中麺法、湯種法等、従来製パン法として使用されるあらゆる製パン法を採ることができる。なお、本発明のパン生地を中種法で製造する場合は、本発明の製パン練り込み用油脂組成物を中種生地及び/又は本捏生地に練り込むことにより製造することができるが、本捏生地に練り込むことが好ましい。
また、得られた本発明のパン生地は、冷蔵、冷凍保存することが可能である。
【0097】
本発明のパン生地における上記本発明の製パン練り込み用油脂組成物の含有量は、通常のパン生地製造時の添加量と特に変わることなく、パン生地の種類に応じて適宜決定することができるが、パン生地で使用する澱粉類100質量部に対し、好ましくは3~45質量部、より好ましくは5~20質量部である。ここで含有量が3質量部よりも少ないと本発明の効果が得られ難く、45質量部よりも多いとパン生地がべたつきやすい。
【0098】
上記澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉及び胚芽などの小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉などのその他の穀粉類、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉及び松実粉などの堅果粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉及び米澱粉などの澱粉並びにこれらの澱粉に酵素処理、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理及びグラフト化処理から選択される1以上の処理を施した化工澱粉等が挙げられる。
【0099】
本発明では、澱粉類中、好ましくは小麦粉類を50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、最も好ましくは100質量%使用する。
また小麦粉類は、強力粉のみ又は強力粉と薄力粉の併用が好ましい。
【0100】
得られた本発明のパン生地は、通常のパンと同様に、フロアタイム、分割、ベンチタイム、成形、ホイロ後に、焼成などの加熱工程を経ることにより、パンを得ることができる。
【0101】
本発明のパンについて述べる。
本発明のパンは、本発明のパン生地の加熱品であり、上記パン生地を加熱してなるものである。
【0102】
上記本発明のパンは、上記の本発明のパン生地を、適宜、分割、成形し、必要に応じホイロ、リタード、レストを取った後、加熱処理することにより得ることができる。
上記成形は、どのような形状に成形してもよく、型詰めを行っても構わない。成形は、手作業で行っても、連続ラインを用いて全自動で行っても構わない。
上記加熱処理としては、焼成、蒸し、フライ等を挙げることができる。これらのうちの2種以上の加熱処理を併用してもよい。
本発明のパンは、乳化剤含量が高いにもかかわらず、ソフトで歯切れの良いという特徴を有する。
【0103】
本発明のパンは、上記本発明の製パン練り込み用油脂組成物を使用することにより、高い電子レンジ加熱耐性を有することから、電子レンジ加熱用であることが好ましい。
電子レンジ加熱としては、上記加熱処理して得られたパンを冷蔵又は冷凍保存したのち、電子レンジ加熱に供するパンのことをいう。
【0104】
なお、冷凍保存されたものを電子レンジ加熱する際は、いったん解凍した後に電子レンジ加熱してもよく、解凍にのみ電子レンジ加熱を使用し、その後オーブン等別の方法で加熱してもよく、冷凍された状態のまま電子レンジ加熱して焼き立て状態のパンとしてもよく、その場合であっても冷凍工程を経ない場合と同品質であるソフトで歯切れの良いパンを安定して得ることが可能である。
【実施例0105】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は質量基準である。
【0106】
<エステル交換油脂の調製>
(製造例1:ランダムエステル交換油脂A)
ヨウ素価が65のパームスーパーオレイン(パーム分別軟部油をさらに分別して得られた軟部油、融点25℃)100質量部を四口フラスコに入れ、液温110℃で真空下30分加熱した。この後、対油0.2質量%の割合でランダムエステル交換触媒のナトリウムメトキシドを加えて、液温を85℃に調整してさらに真空下で1時間加熱してランダムエステル交換反応を行った後、クエン酸を添加してナトリウムメトキシドを中和した。次に、白土を加え漂白(白土量は対油3質量%、処理温度85℃)を行い、白土を濾別した後、脱臭(250℃、60分間、吹き込み水蒸気量対油5質量%)を行って、下記の実施例・比較例に用いられるランダムエステル交換油脂A(以下、単にIE-Aと記載する場合がある)を得た。
【0107】
(製造例2:ランダムエステル交換油脂B)
ヨウ素価が55のパーム分別軟部油(融点25℃)を、製造例1と同様にして、ナトリウムメトキシドを触媒とするランダムエステル交換反応、及び漂白・脱臭の精製処理を行い、下記の実施例・比較例に用いられるランダムエステル交換油脂B(以下、単にIE-Bと記載する場合がある)を得た。
【0108】
(製造例3:ランダムエステル交換油脂C)
パーム核油75質量部(融点27℃)と、パーム油に対し、ヨウ素価が1以下となるまで水素添加を施した、パーム極度硬化油(融点58℃)25質量部を溶融した状態で混合し、混合油脂とした。この混合油脂を、製造例1と同様にして、ナトリウムメトキシドを触媒とするランダムエステル交換反応、及び漂白・脱臭の精製処理を行い、下に述べる実施例・比較例に用いられるランダムエステル交換油脂C(以下、単にIE-Cと記載する場合がある)を得た。
【0109】
(製造例4:ランダムエステル交換油脂D)
ヨウ素値52のパーム油65質量部と、パーム油に対し、ヨウ素価が1以下となるまで水素添加を施した、パーム極度硬化油35質量部を溶融した状態で混合し、混合油脂とした。この混合油脂を、製造例1と同様にして、ナトリウムメトキシドを触媒とするランダムエステル交換反応、及び漂白・脱臭の精製処理を行い、下に述べる実施例・比較例に用いられるランダムエステル交換油脂D(以下、単にIE-Dと記載する場合がある)を得た。
【0110】
<混合油脂の調製>
上記のようにして得られたIE-A、IE-B、IE-C、IE-D、パーム油(ヨウ素価52)及び、液状油(大豆油)を用いて、下記の表1に示す配合に基づいて、混合油脂1~4を調製した。
なお、得られた混合油脂1~4の融点について併せて表1に記載した。
【0111】
【表1】
【0112】
[比較例1~6、実施例1~13]
<製パン練り込み用油脂組成物の製造1>
上記混合油脂4、水、蒸留ステアリン酸モノグリセリド、反応モノグリセリドA(パルミチン酸使用)(モノグリセリド:ジグリセリド:トリグリセリド:遊離脂肪酸=50:40:5:5の質量比で含有)、反応モノグリセリドB(べヘン酸使用)(モノグリセリド:ジグリセリド:トリグリセリド:遊離脂肪酸=50:40:5:5の質量比で含有)、蒸留ジグリセリンモノステアリン酸エステル、プロピレングリコールべヘン酸エステル、プロピレングリコールステアリン酸エステル、シスチン、及び酵母エキスを使用し、表2に記載の配合にしたがって油中水型可塑性油脂組成物(マーガリン)A~Sを製造した。すなわち、表2に記載の全原料を混合・溶解した油相に水からなる水相を添加して予備乳化物を作成し、これを急冷可塑化工程(冷却速度-20℃/分以上)にかけた後、比重0.75となるように窒素ガスを分散し、可塑性油脂組成物である比較例1~6及び実施例1~13の製パン練り込み用油脂組成物A~Sを得た。
得られた製パン練り込み用油脂組成物A~Sの(A)の含有量、(B)の含有量、(A)及び(B)を合計した含有量、(C)の含有量、(D)の含有量について表3に記載した。
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
<製パン試験1>
<菓子パンの配合及び製法>
強力粉70質量部、生イースト3質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖3質量部及び水40質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で2分、中速で2分混合し、中種生地を得た。捏ね上げ温度は24℃であった。この中種生地を生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度85%の恒温室で、2時間中種醗酵を行った。終点温度は29℃であった。
この中種醗酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、さらに、強力粉30質量部、上白糖15質量部、脱脂粉乳2質量部、食塩1.2質量部及び水23質量部を添加し、低速で3分、中速で3分本捏ミキシングした。ここで、実施例1~8及び比較例1~7で得られた製パン練り込み用油脂組成物(5℃に調温)10質量部をそれぞれ投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で3分、高速で1分ミキシングを行い、菓子パン生地A~Sを得た。得られた菓子パン生地の捏ね上げ温度は28℃であった。
なお、菓子パン生地A~Sのすべてにおいて、油脂添加時には、油脂組成物は微細に砕けながら、塊状になることなく低速2分未満の段階で、生地に均質に練り込まれた。
得られた菓子パン生地は、フロアタイムを30分取り、50gに分割した。さらに30分ベンチタイムを取った後、丸め成形をし、38℃、相対湿度85%、50分のホイロを取った後、上火200℃下火200℃のオーブンで10分焼成して実施例1~13及び比較例1~6の菓子パンA~Sをそれぞれ得た。
なお、分割成形時、菓子パン生地A~Sのすべてにおいて、生地はべとつかず、良好な物性であった。
得られた菓子パンA~Sについて、下記評価基準に従って、ソフト性、及び、歯切れについて焼成2日後の評価を行い、結果を表4に記載した。
【0116】
<菓子パンの評価方法>
得られた菓子パンA~Sの、食感(ソフト性・歯切れ感)について、パネラー15名にて下記評価方法及び評価基準により5段階評価を行い、その合計点を評価点数とし、結果を下記のようにして表4に示した。
◎++:51~60点
◎+ :41~50点
◎ :31~40点
○ :21~30点
△ :11~20点
× :10点以下
【0117】
〔菓子パン評価基準〕
・食感(ソフト性)
4点:きわめて良好
3点:良好
2点:やや不良
1点:不良
0点:きわめて不良
・食感(ねちゃつき)
4点:全く感じられない
3点:ややくちゃつきを感じるがねちゃつきまでは感じられない
2点:ねちゃつきが感じられる
1点:ねちゃつきが強い
0点:ねちゃつきが激しい
・食感(歯切れ)
4点:きわめて良好
3点:良好
2点:ややヒキが感じられ、やや不良である
1点:ヒキが強く、不良である
0点:ヒキが極めて強く、極めて不良である
【0118】
【表4】
【0119】
<電子レンジ解凍試験1>
また、得られた菓子パンA~Sについて、-20℃で1週間冷凍後、冷凍状態から直接電子レンジで解凍・加温した際の食感についても評価を行った。食感の評価は電子レンジ加温後室温まで冷えた状態で比較を行った。評価基準については、製パン試験1と同様にして行い、結果を表5に記載した。
【0120】
【表5】
【0121】
[実施例14~16]
<製パン練り込み用油脂組成物の製造2>
実施例11において、混合油脂4に代えて混合油脂1~3を使用した以外は、製パン練り込み用油脂組成物の製造1と同様にして、実施例14~16の製パン練り込み用油脂組成物T~Vを得た。
【0122】
<製パン試験2>
得られた製パン練り込み用油脂組成物T~Vを使用し、調温温度を5℃から15℃に変更した以外は<製パン試験1>同様の配合及び製法にて、菓子パン生地T~V及び菓子パンT~Vを製造し、焼成2日後にソフト性、ねちゃつき及び歯切れについて<製パン試験1>同様の評価を行い、結果を表6に記載した。
なお、その際の油脂混合性及び生地のべとつきについて、下記の評価基準にしたがって評価を行い、結果を併せて表6に記載した。
【0123】
<油脂混合性の評価方法及び評価基準>
本捏時、製パン練り込み用油脂組成物を添加後のミキシング時間及び油脂の練り込まれ状況を目視により観察し、下記の評価基準に従って評価を行い、結果を表2に記載した。
【0124】
(パン生地への油脂混合性1:ミキシング時間評価基準)
◎:低速段階で油脂が練り込まれた
○:中速段階で油脂が練り込まれた
△:高速段階で油脂が練り込まれた
×:高速段階でも油脂が練り込まれなかった
【0125】
(パン生地への油脂混合性2:練り込まれ状況)
◎:微細に砕けながら、塊状になることなく生地に均質に練り込まれた
○+:砕けることなくペースト状となって生地に均質に練り込まれた
○:やや大きめに砕けながら徐々に微細となり、塊状になることなく生地に均質に練り込まれた
○-:やや塊状になることもあるが、ほぼペースト状となり、生地に均質に練り込まれた
△:塊状になって壁面に付着し、その後徐々に練り込まれ、均質な生地となった
×:塊状になって転がり、そのまま生地中に取り込まれ、生地中に塊が残ってしまった
××:生地が滑って、中速2分でも均質に練り込まれることはなかった
【0126】
<生地べたつきの評価方法及び評価基準>
分割後の丸め時のパン生地のべとつきについて、下記の評価基準に従って評価を行い、結果を表6に記載した。
◎:べたつきなし
○:わずかにべたつきあり
△:ややべたつきあり
×:べたつきあり
××:非常にべたつく
【0127】
【表6】
【0128】
<電子レンジ解凍試験2>
また、得られた菓子パンT~Vについて、<電子レンジ解凍試験1>と同様の試験及び評価を行い、結果を表7に記載した。
【0129】
【表7】
【0130】
[実施例17~20]
<製パン練り込み用油脂組成物の製造3>
実施例11において、混合油脂4に代えて混合油脂2を使用し、最終比重を0.95とした以外は製パン練り込み用油脂組成物の製造1と同様にして、実施例17の製パン練り込み用油脂組成物Wを得た。
また、実施例11において、混合油脂4に代えて混合油脂3を使用し、最終比重を0.75(実施例18)、0.60(実施例19)、0.45(実施例20)とした以外は製パン練り込み用油脂組成物の製造1と同様にして、実施例18~20の製パン練り込み用油脂組成物X~Zを得た。
【0131】
<製パン試験3>
得られた製パン練り込み用油脂組成物W~Zを使用し、<製パン試験2>同様の配合及び製法にて、菓子パン生地W~Z及び菓子パンW~Zを製造し、焼成2日後に、ソフト性、ねちゃつき及び歯切れについて<製パン試験1>同様の評価を行い、結果を表8に記載した。
なお、その際の油脂混合性及び生地のべとつきについて<製パン試験2>同様の評価を行い、結果を併せて表8に記載した。
【0132】
【表8】
【0133】
<電子レンジ解凍試験3>
また、得られた菓子パンW~Zについて、<電子レンジ解凍試験1>と同様の試験及び評価を行い、結果を表9に記載した。
【0134】
【表9】
【0135】
<製パン試験4>
上記<製パン練り込み用油脂組成物の製造1>で得られた製パン練り込み用油脂組成物F、L、M、及びQを使用し、下記の配合と製法によりワンローフ食パンF(比較例7)、L(実施例21)、M(実施例22)、Q(実施例23)を製造した。
製パン試験4では、後述のとおり、製パン時の油脂混合性、生地べたつき、得られたパンの外観、内相、食感(ソフト性・ねちゃつき・歯切れ感)の評価を行い、結果を表10に記載した。
【0136】
(配合)
中種配合
強力粉70質量部、イースト3質量部、イーストフード0.1質量部、水40質量部
本捏配合
強力粉30質量部、上白糖8質量部、脱脂粉乳2質量部、食塩1質量部、水24質量部、製パン練り込み用油脂組成物6質量部
【0137】
(製法)
上記の中種配合の全原料をミキサーボウルに投入し、たて型ミキサーにセットし、フックを使用して低速3分、中速1分ミキシングし、中種生地(捏ね上げ温度=24℃)を得た。この中種生地を恒温保管庫にて28℃、相対湿度80%にて4時間の発酵を行った。
上記の発酵を行った中種生地、及び、本捏配合の製パン練り込み用油脂組成物以外の材料を添加し、たて型ミキサーでフックを使用して、低速3分、中速2分、高速1分ミキシングした後、本捏配合の製パン練り込み用油脂組成物(5℃に調温)を添加して、低速3分、中速2分、高速1分ミキシングし、パン生地(捏ね上げ温度=27℃)を得た。得られたパン生地を取り出し、20分フロアタイムを取り、分割し(390g)、丸め、20分ベンチタイムを取った後、モルダーを使用してワンローフ成形し、ワンローフ型に入れ、38℃、相対湿度80%、45分のホイロを取った後、190℃のオーブンで25分焼成してワンローフ食パンを得た。
【0138】
<パンの評価方法及び評価基準>
焼成当日のワンローフ食パンF、L、M、及びQについて、外観及び内相について下記の基準にて評価し、結果を表10に記載した。
また、焼成1日後のワンローフ食パンについて、食感(ソフト性、ねちゃつき、及び歯切れ)を、パネラー21名にて下記の基準にて評価し、その一番多かった回答を評価結果とし、表10に併せて記載した。なお同数の場合は一番上の評価を評価結果とした。
【0139】
(外観)
◎:高い浮きを示し、浮きも均質であり、焼色も良好である
○+:やや浮きが少ないが、浮きは均質であり、焼色も良好である
○:高い浮きを示すが、やや不均質な浮きであり、焼色もややムラがある
△:高さが不足気味で、浮きも不均質で、焼色もややムラがある
×:高さが不足し、浮きも不均質であり、焼色もムラがある
【0140】
(内相)
◎:気泡膜が薄く均一でありながら、クラム構造がしっかりしている
○:気泡膜が薄く均一であるが、ややクラム構造が弱い
○-:気泡膜がやや厚く不均一であるが、クラム構造はしっかりしている
△:気泡膜が薄いが、クラム構造が弱いため、やや目が詰まっている
×:気泡膜が不均一で、目が詰まっている
×:気泡膜が厚く、不均一で、目が詰まっている
【0141】
(食感:ソフト性)
◎:非常にソフト
○+:ソフト
○:ややソフト
△:やや硬い
×:硬い
【0142】
(食感:ねちゃつき)
◎:全く感じられない
○:ややくちゃつきを感じるがねちゃつきまでは感じられない
△:ねちゃつきが感じられる
×:ねちゃつきが激しい
【0143】
(食感:歯切れ)
◎:きわめて良好
○:良好
△:ややヒキが感じられ、不良である
×:ヒキが強く、極めて不良である
【0144】
【表10】
【0145】
<電子レンジ解凍試験3>
また、得られたワンローフ食パンF、L、M、及びQについて、<電子レンジ解凍試験1>と同様の試験を行った。
評価については<製パン試験4>と同様に行い、結果を表11に記載した。
【0146】
【表11】
【0147】
以上の結果から、本発明の製パン練り込み用油脂組成物は、ソフトでありながらねちゃつかず、歯切れの良いパンを安定して得ることができ、さらには電子レンジ加熱に適したパンを安定して得ることができることが分かる。