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特開2022-175978パンケーキ類生地、パンケーキ類生地用水中油型乳化油脂組成物、及び、パンケーキ類生地の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175978
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】パンケーキ類生地、パンケーキ類生地用水中油型乳化油脂組成物、及び、パンケーキ類生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/34 20060101AFI20221117BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
A21D2/34
A23D7/00 506
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082810
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 浩彦
(72)【発明者】
【氏名】城島 伸介
(72)【発明者】
【氏名】兼子 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 文子
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG04
4B026DH01
4B026DH05
4B026DL01
4B026DL03
4B026DL07
4B026DL10
4B026DP01
4B026DX04
4B032DB10
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK42
4B032DK47
4B032DK70
4B032DP08
4B032DP40
(57)【要約】      (修正有)
【課題】体積が大きく、ソフトで口溶けのよく、しっとりした食感のパンケーキ類を得ることのできるパンケーキ類生地、及び、パンケーキ類生地の製造方法を提供する。
【解決手段】酵素処理卵黄を含有する、パンケーキ類生地。及び、酵素処理卵黄を添加する、パンケーキ類生地の製造方法。酵素処理卵黄として、酵素処理卵黄を含有する水中油型乳化油脂組成物を用いることが好ましい。上記水中油型乳化油脂組成物が酸性水中油型乳化油脂組成物であることも好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素処理卵黄を含有する、パンケーキ類生地。
【請求項2】
酵素処理卵黄を含有する、パンケーキ類生地用水中油型乳化油脂組成物。
【請求項3】
上記水中油型乳化油脂組成物が酸性水中油型乳化油脂組成物である、請求項2記載のパンケーキ類生地用水中油型乳化油脂組成物。
【請求項4】
上記水中油型乳化油脂組成物がエステル交換油脂を含有する、請求項2又は3記載のパンケーキ類生地用水中油型乳化油脂組成物。
【請求項5】
上記水中油型乳化油脂組成物の油脂含有量が15~80質量%である、請求項2~4のいずれか一項に記載のパンケーキ類生地用水中油型乳化油脂組成物。
【請求項6】
上記水中油型乳化油脂組成物の糖類の含有量が1~35質量%である、請求項2~5のいずれか一項に記載のパンケーキ類生地用水中油型乳化油脂組成物。
【請求項7】
酵素処理卵黄を用いる、パンケーキ類生地の製造方法。
【請求項8】
酵素処理卵黄を含有する水中油型乳化油脂組成物を用いる、パンケーキ類生地の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンケーキ類生地、パンケーキ類生地用水中油型乳化油脂組成物、及び、パンケーキ類生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パンケーキ、ワッフル、どら焼きなどのパンケーキ類はベーカリー製品の中でも特に基本的なものであり、イーストを使用しないパンにケーキの成分要素を加えた、パンとケーキの中間の性質をもっている。その具体的な製法としては、小麦粉と糖類を基本とし、牛乳、卵、水などの水分原料や、油脂、膨張剤などの副原料を加えて得られる流動状~ペースト状のバッター生地をフライパンやホットプレートなどで焼成するという簡単な方法で得ることができる。
【0003】
このパンケーキ類は、卵類の起泡力や油脂のクリーミング性によって生地中に気泡を生じさせ、加熱時の膨張力で生地を膨化させるスポンジケーキやバターケーキなどのケーキ類や、酵母や発酵種の発酵力によって生地中に気泡を生じさせ、加熱時の膨張力で生地を膨化させるパン類とは異なり、内相が密であり重い食感が特徴である。
【0004】
近年、このパンケーキ類は従来よりもふんわりとした軽い食感のものがより好まれる傾向にある。そのため、各種乳化剤の添加(たとえば特許文献1~2参照)や、ゲル化剤と乳蛋白質と水とで構成される複合体を添加する方法(たとえば特許文献3参照)が提案されている。
【0005】
しかし、従来の方法ではソフト性や口溶け、しっとり感及び体積を良好にする点が十分ではなかった。また、パンケーキ類の生地は水分含量が多いことから添加する成分によっては生地への分散性が低い問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05-015297号公報
【特許文献2】特開2005-270040号公報
【特許文献3】特開2005-304373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、体積が大きく、ソフトで口溶けのよく、しっとりした食感のパンケーキ類を得ることのできるパンケーキ類生地、及び、パンケーキ類生地の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、酵素処理卵黄を、特に水中油型乳化物の形態でパンケーキ類生地製造に用いることにより、上記問題を解決しうることを知見した。
すなわち、本発明は、酵素処理卵黄を含有するパンケーキ類生地を提供するものである。
【0009】
また本発明は酵素処理卵黄を含有するパンケーキ類生地用水中油型乳化油脂組成物を提供するものである。
また本発明は酵素処理卵黄、又は、酵素処理卵黄を含有する水中油型乳化油脂組成物を用いる、パンケーキ類生地の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、体積が大きく、ソフトで口溶けのよく、しっとりした食感のパンケーキ類を、安定的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のパンケーキ類生地について詳細に述べる。
本発明のパンケーキ類生地は酵素処理卵黄を含有する。酵素処理卵黄を含有することにより、得られるパンケーキ類が、体積が大きく、ソフトで口溶けのよく、しっとりした食感が得られるものとなる。
まず、本発明で使用する酵素処理卵黄について述べる。
【0012】
酵素処理卵黄を調製するための基質としては、生卵黄、殺菌卵黄、加塩卵黄、加糖卵黄を使用することができる。
また、卵黄を含有する卵原料、たとえば全卵を使用することもできる。また、パンケーキ類生地や水中油型乳化油脂組成物中のコレステロールを低減するために、コレステロールを低減した卵黄を基質としても良い。本発明では、全卵よりも卵黄を用いることが、少量の添加でより高い効果が得られる点で好ましく、卵白成分を含有する場合も例えば卵黄100質量部に対し100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることが特に好ましい。
得られるパンケーキ類の風味や、酵素反応時の微生物の増殖を抑えることを考慮すると特に加塩卵黄が適しており、好ましくは塩を3~20質量%含有する加塩卵黄を用いるのが加塩による上記効果が良好にしやすい点で好ましく、更に好ましくは塩を5~15質量%含有する加塩卵黄を用いるのが良い。このとき用いる塩としては、岩塩、天然塩、自然塩、精製塩の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0013】
上記酵素処理卵黄において、基質である卵黄の酵素処理の際に用いる酵素としては、ホスホリパーゼAやプロテアーゼを使用することができる。上記ホスホリパーゼAは、リン脂質加水分解酵素とも呼ばれ、リン脂質をリゾリン脂質に分解する反応を触媒する酵素であり、豚等の哺乳類の膵液や、微生物を起源とした市販のホスホリパーゼAを使用することができる。
また、上記プロテアーゼは、蛋白質を加水分解する反応を触媒する酵素であり、植物、動物、微生物を起源とした、市販のプロテアーゼを使用することができる。
なお上記プロテアーゼは、至適活性のpH域により中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼに分類することができ、また作用部位によりセリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、金属プロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ等に分類することができるが、それらのいずれも使用することができる。
プロテアーゼの具体名としては、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、ペプシン、ブロメライン、パンクレアチン、サブチリシン、サーモライシン、コラゲナーゼ、アルカラーゼ等を挙げることができるが、本発明では、よりソフトで口溶けのよく、しっとりした食感が得られる点でブロメライン及び/またはアルカラーゼを使用することが特に好ましい。
【0014】
卵黄の酵素処理の際、ホスホリパーゼAのみを用いてもよいし、プロテアーゼのみを用いてもよいし、ホスホリパーゼAとプロテアーゼを併用してもよいが、卵黄をホスホリパーゼA処理したものを使用することがより体積が大きいパンケーキが得られる点で好ましく、特に、卵黄をホスホリパーゼAとプロテアーゼで処理した酵素処理卵黄を使用することが、得られるパンケーキ類のソフト性、口溶けが特に良好になる点で好ましい。
【0015】
本発明のパンケーキ類生地は、上記酵素処理卵黄を含有するものであるが、パンケーキ類生地への均質分散性に優れる点、及び、より体積が大きく、ソフトで口溶けのよいパンケーキ類を得ることができる点で、上記酵素処理卵黄は、酵素処理卵黄を含有する水中油型乳化油脂組成物の形態で使用することが好ましい。
【0016】
以下、酵素処理卵黄を含有する水中油型乳化油脂組成物について述べる。
本発明の水中油型乳化油脂組成物における酵素処理卵黄の含有量は、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%、更に好ましくは15~35質量%である。酵素処理卵黄の含有量が50質量%以下であることで、得られる水中油型乳化物の粘度が上昇しにくく、水中油型乳化油脂組成物の製造時に安定生産が容易になることに加え、特にパンケーキ類生地製造時に生地への均質分散性を良好なものにしやすい。また、酵素処理卵黄の含有量が5質量%以上であることで、本発明の効果が得やすいものとなる。
【0017】
上記水中油型乳化油脂組成物の油相に使用する油脂としては、食用に適する油脂であればよく、その代表例としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、豚脂、魚油等の動植物性油脂が挙げられ、更に、これらの油脂に硬化、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理を施した油脂のうちの1種又は2種以上を使用することができるが、本発明では、エステル交換油脂を使用することが、パンケーキ類生地への均質分散性に優れる点、及び、ソフトでしっとりしていながら歯切れが良好なパンケーキ類を得ることが可能である点で好ましい。歯切れが良好であることは、体積を増加させるために、生地重量を増量するといったねちゃつきやすい条件においてねちゃつきを抑制しやすい点でも好ましい。
【0018】
なお、本発明では上記油脂としてエステル交換油脂を使用することが、パンケーキ類生地への均質分散性に優れる点、及び、ソフトでしっとりしていながら歯切れが良好なパンケーキ類を得ることが可能である点で好ましい。エステル交換油脂を含有する場合、エステル交換油脂の量が油脂中の10質量%以上、好ましくは15質量%以上であることが、エステル交換油脂を添加することによる上記の効果を良好にする点で好ましい。なお上限については、油分含量が高いときの水中油型乳化物製造時の増粘を抑制するためには、エステル交換油を油脂中の80質量%以下、好ましくは60質量%以下とすることが好ましい。
【0019】
上記水中油型乳化油脂組成物における油脂含有量は、好ましくは15~80質量%、より好ましくは15~65質量%、更に好ましくは15~60質量%である。
油脂含有量を15質量%以上とすることで、よりソフトなパンケーキ類とすることができる。また、80質量%以下とすることで水中油型乳化油脂組成物の乳化安定性の低下を防止することが可能となることに加え、得られるパンケーキ類の油性感が高くなってしまうことを防止することもできる。なお、本明細書でいう油脂含有量とは、酵素処理卵黄等の油脂を含む成分中の油脂量を含む量とする。
【0020】
上記水中油型乳化油脂組成物は酸や酸味料、必要に応じ水を使用して、水相のpHを酸性とすることが、ソフトでしっとりしていながら歯切れが良好なパンケーキ類を得ることが可能である点で好ましい。また、水中油型乳化油脂組成物自体の保存性を向上させることができ、さらには、酵素処理卵黄の苦みを低減可能である点でも好ましい。本明細書では、水相のpHが酸性である水中油型乳化油脂組成物を、「酸性水中油型乳化油脂組成物」とも記載する。
上記のpHの調整に用いる酸や酸味料としては、乳酸、クエン酸、グルコン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、食酢(酢酸)、果汁、発酵乳等が挙げられ、これらを単独で用いるか又は二種以上を組み合わせて用いることができるが、食酢(酢酸)を使用することが少量の添加で最も保存性の向上効果が高い点で好ましい。
【0021】
ここで、上記水中油型乳化油脂組成物の水相のpHは、好ましくは2.5~6.0、より好ましくは3.0~5.5、最も好ましくは3.5~5.0の範囲である。なお、2.5以上であることで、得られるパンケーキ類の酸味が強くなりすぎることを防ぎ、パンケーキ類の浮きが悪く、体積が小さくなってしまうおそれを一層防止できる。また、pHが6.0以下であると、上記酸性にすることの効果が安定して得やすい。pHは20℃の水中油型乳化油脂組成物について測定するものとする。
上記水中油型乳化油脂組成物において、上記の酸や酸味料の使用量及び水の使用量は、水相のpHが酸性、好ましくはpHが2.5~6.0となるように、使用する酸の種類等に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは、酸や酸味料の使用量は0.1~20質量%、水分量は7~70質量%の範囲からそれぞれ選択する。ここで水分量は、糖類や酵素処理卵黄、酸味料等の水を含む原料に含まれる水分の量を含むものとする。
【0022】
また、上記水中油型乳化油脂組成物では、糖類を好ましくは1~35質量%、より好ましくは5~30質量%、更に好ましくは5~25質量%使用することにより、得られるパンケーキ類をよりソフトでしっとりとした食感とすることができる。なお、糖類の配合割合が35質量%以下とすることで、得られる水中油型乳化油脂組成物の粘度が著しく上昇することを防止でき、パンケーキ類生地への均質分散性の低下を回避できることに加え、パンケーキ類生地の加熱時における焦げを防止できる。また、1質量%以上とすることで、水中油型乳化油脂組成物の水中油型乳化を安定にすることができる。
【0023】
なお使用する糖類が液状の場合は、上記含有量については固形分で算出するものとする。
上記の糖類としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、蔗糖、液糖、はちみつ、ブドウ糖、果糖、黒糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、酸糖化水飴、還元乳糖、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、パラチニット、ラクチトール、直鎖オリゴ糖アルコール、分岐オリゴ糖アルコール、高糖化還元水飴、還元麦芽糖水飴、還元水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、キシロース、トレハロース、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、アラビノース、パラチノースオリゴ糖、アガロオリゴ糖、キチンオリゴ糖、乳果オリゴ糖、モラセス、イソマルトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、カップリングシュガー、ラフィノース、ラクチュロース、テアンデオリゴ糖、ゲンチオリゴ糖等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0024】
また、上記水中油型乳化油脂組成物には、上記以外のその他の原材料を、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができる。
該その他の原材料としては、酵素処理卵黄以外の卵黄、卵白、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、乳や乳製品、増粘安定剤、高甘味度甘味料、食塩、澱粉類、穀類、無機塩、有機酸塩、酵素、ジグリセライド、植物ステロール、植物ステロールエステル、果汁、濃縮果汁、果汁パウダー、乾燥果実、果肉、野菜、野菜汁、香辛料、香辛料抽出物、ハーブ、直鎖デキストリン・デキストリン類、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、その他各種食品素材、着香料、苦味料、調味料、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤、金属イオン封鎖剤、強化剤等が挙げられる。
上記その他の原材料の使用量は、使用目的等に応じて適宜選択することができるが、上記水中油型乳化油脂組成物において好ましくは合計で15質量%以下とする。
【0025】
上記水中油型乳化油脂組成物は、例えば以下の様にして得ることができる。まず、水等の水分含有液に、酵素処理卵黄、必要に応じ、酸や酸味料、糖類、食塩、辛子粉等の香辛料等の水溶性成分を分散溶解させた水相を調製し、また、液状油やエステル交換油脂等の油脂に、必要により油溶性成分や、増粘安定剤等を分散させた油相を調製する。次いで、水相を撹拌しつつ油相を加え、水中油型予備乳化物を得る。該水中油型予備乳化物をコロイドミル等の乳化機、ホモゲナイザー等の均質化機で処理し仕上げ乳化を行ない、上記水中油型乳化油脂組成物が得られる。
【0026】
また、上記水中油型乳化油脂組成物中の油粒子の平均粒径は、20μm以下が好ましく、10μm以下が更に好ましく、5μm以下が最も好ましい。20μmを超えると、水中油型乳化油脂組成物の乳化安定性が低下しやすく、保存時に油分分離等が発生する危険性もあるので好ましくない。なお、上記平均粒径は、例えば、島津製作所のレーザー回折式粒度分布測定機(SALD-2100型)や光学顕微鏡で測定することができる。
【0027】
本発明のパンケーキ類生地は、上記酵素処理卵黄、又は、上記酵素処理卵黄を含有する水中油型乳化油脂組成物を含有させてなるものである。具体的には上記酵素処理卵黄、又は、上記酵素処理卵黄を含有する水中油型乳化油脂組成物を練り込んでなるものである。
【0028】
なお、本発明におけるパンケーキ類としては、クレープ、ワッフル、パンケーキ、たい焼き、太鼓焼き、もみじ焼、人形焼き、今川焼き、渦焼き、どら焼き、お好み焼き、たこ焼き、などが挙げられるが、パンケーキであることが食感の高い改良効果が得られる点で好ましい。
【0029】
本発明のパンケーキ類生地における、上記酵素処理卵黄、又は、上記酵素処理卵黄を含有する水中油型乳化油脂組成物の使用量は、パンケーキ類生地に使用する穀粉類100質量部に対し、酵素処理卵黄として好ましくは0.2~50質量部、より好ましくは0.5~15質量部、最も好ましくは1~7質量部となる量である。
【0030】
なお、水中油型乳化油脂組成物として使用する場合の使用量は、パンケーキ類生地に使用する穀粉類100質量部に対し、水中油型乳化油脂組成物として好ましくは1~150質量部、より好ましくは5~50質量部、最も好ましくは5~30質量部となる量である。
【0031】
なお、パンケーキ類生地に使用する穀粉類としては、特に限定されるものではないが、薄力粉、中力粉、強力粉などの小麦粉をはじめ、小麦胚芽、全粒粉、小麦ふすま、デュラム粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉、大豆粉、ハトムギ粉等をあげることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いるのがよい。本発明では、好ましくは薄力粉、中力粉、強力粉などの小麦粉を用いるのがよい。
【0032】
本発明のパンケーキ類生地は、上記酵素処理卵黄や酵素処理卵黄含有水中油型乳化油脂組成物や上記穀粉類の他に、糖類、甘味料、乳や乳製品、油脂類、膨張剤、酵素処理卵黄以外の卵類、水、食塩、澱粉類、乳化剤、調味料、香辛料、着香料、着色料、ココア、チョコレート、ナッツ類、抹茶、紅茶、コーヒー、豆腐、黄な粉、豆類、野菜類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、果物、ハーブ、肉類、魚介類、保存料、日持ち向上剤などの材料を適宜用いることができる。
【0033】
上記糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、デキストリン等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。
【0034】
上記甘味料としては、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、アスパルテーム等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。
【0035】
上記乳や乳製品としては、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、クリーム、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、はっ酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム、ホエープロテインコンセートレート、トータルミルクプロテイン等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。
【0036】
上記油脂類としては、マーガリン、ショートニング、バター、粉末油脂、液状油等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。
【0037】
上記膨張剤としては、炭酸水素ナトリウムや炭酸アンモニウム等の炭酸塩や、これらに、酒石酸、酒石酸水素ナトリウム、第一リン酸ナトリウム、第一リン酸カルシウム、フマル酸、フマル酸ナトリウム、フマル酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸アンモニウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸アンモニウム、焼ミヨウバン等の中から選ばれた1種又は2種以上を添加したり、更に澱粉類を添加したものを用いることができる。また、市販のベーキングパウダーを用いることもできる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。
【0038】
上記酵素処理卵黄以外の卵類としては、全卵、生卵黄、生卵白、殺菌全卵、殺菌卵黄、加塩全卵、加塩卵黄、加糖全卵、加糖卵黄、卵黄粉末、粉末全卵、卵白粉末等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。
【0039】
本発明のパンケーキ類生地は、例えば、上記穀粉類に、酵素処理卵黄及び/又は酵素処理卵黄を含有する水中油型乳化油脂組成物、並びに、必要により上記のその他の材料を配合し、混合することにより製造することができる。
なお、市販のホットケーキミックスに、酵素処理卵黄又は酵素処理卵黄を含有する水中油型乳化油脂組成物、及び必要により上記のその他の材料を配合し、混合することにより製造することもできる。
【0040】
本発明のパンケーキ類生地は、従来のパンケーキ類生地と同様にして加熱することにより、パンケーキ類を得ることができる。加熱方法としてはフライパン、ホットプレート、ワッフルの型、たい焼きの型、今川焼の型などの熱天板や焼き型があげられる。
このようにして得られたパンケーキ類は、体積が大きく、ソフトで口溶けがよく且つ風味良好である。
また、得られたパンケーキ類は、冷蔵、冷凍保存したり、該保存後に電子レンジ加熱することも可能である。
【実施例0041】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、以下のpHは20℃の乳化油脂組成物について測定した。また、油粒子の平均粒径は(株)島津製作所製レーザー式粒度分布計にて測定した体積基準のD50である。
【0042】
<水中油型乳化油脂組成物の製造>
〔製造例1〕
砂糖混合果糖ブドウ糖液糖(糖固形分75質量%)20質量部、食酢(酢酸含量15質量%)2質量部、及び、酵素処理(ホスホリパーゼA処理)10質量%加塩卵黄25質量部を混合して水相を調製した。別に、菜種サラダ油40質量部、及び、パームスーパーオレインのランダムエステル交換油13質量部を混合して油相を調製した。次いで、上記水相を撹拌しつつ上記油相を加え、水中油型予備乳化物を得、これをコロイドミルにて乳化及び均質化し、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが4.0である酸性水中油型乳化油脂組成物Aを得た。なお、10質量%加塩卵黄は、加塩卵黄中10質量%の食塩を含有する卵黄である。
【0043】
〔製造例2〕
製造例1における菜種サラダ油40質量部、パームスーパーオレインのランダムエステル交換油13質量部を、菜種サラダ油53質量部に置換した以外は製造例1と同様の配合・製法で、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが4.0である酸性水中油型乳化油脂組成物Bを得た。
【0044】
〔製造例3〕
製造例1における酵素処理(ホスホリパーゼA処理)10質量%加塩卵黄25質量部を、酵素処理(ホスホリパーゼA及びプロテアーゼ処理)10質量%加塩卵黄25質量部に置換した以外は製造例1と同様の配合・製法で、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが4.0である酸性水中油型乳化油脂組成物Cを得た。なお、プロテアーゼとしては、アルカラーゼを用いた。
【0045】
〔製造例4〕
製造例1における食酢(酢酸含量15質量%)2質量部を、水2質量部に置換した以外は製造例1と同様の配合・製法で、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが7である水中油型乳化油脂組成物Dを得た。
【0046】
〔製造例5〕
製造例1における酵素処理(ホスホリパーゼA処理)10質量%加塩卵黄25質量部を、10質量%加塩卵黄25質量部に置換した以外は製造例1と同様の配合・製法で、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが4.0である酸性水中油型乳化油脂組成物Eを得た。
【0047】
<パンケーキ生地及びパンケーキの製造>
〔実施例1〕
ミキサーボウルに砂糖25質量部、液糖(糖固形分75質量%)15質量部、牛乳100質量部、全卵(正味)35質量部、及び、上記水中油型乳化油脂組成物A15質量部を投入し、卓上ミキサーにセットし、ワイヤーホイッパーを使用して低速1分、次いで中速2分間混合した。ここに、あらかじめ混合しておいた薄力粉100質量部及びベーキングパウダー4質量部を投入、低速1分混合し、本発明のパンケーキ生地Aを得た。
砂糖、液糖、牛乳、全卵、水中油型乳化油脂組成物は中速1分で均質に混合されており、水中油型乳化油脂組成物Aのパンケーキ生地への均質分散性は極めて良好であった。
得られた各パンケーキ生地A40gをホットプレートに絞り、一定の火力で2分間(表1分30秒間、裏30秒間)焼成し、パンケーキAを得た。
得られたパンケーキAは、形が均整で体積が大きく良好な外観を示していた。
得られたパンケーキAは、食感(ソフト性・口溶け感・しっとり感・歯切れ感)について、下記評価方法及び評価基準により評価を行ない、結果を表1に示した。
【0048】
〔実施例2〕
水中油型乳化油脂組成物Aに代えて水中油型乳化油脂組成物Bを使用した以外は実施例1の配合及び製法にしたがって、本発明のパンケーキ生地Bを得た。
砂糖、液糖、牛乳、全卵、水中油型乳化油脂組成物は中速2分で均質に混合されており、水中油型乳化油脂組成物Bのパンケーキ生地への均質分散性は良好であった。
得られた各パンケーキ生地B40gをホットプレートに絞り、一定の火力で2分間(表1分30秒間、裏30秒間)焼成し、パンケーキBを得た。
得られたパンケーキBは、パンケーキAよりやや浮きが劣るものの、形が均整で体積が大きく良好な外観を示していた。
得られたパンケーキBは、実施例1と同様の食感(ソフト性・口溶け感・しっとり感・歯切れ感)の評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0049】
〔実施例3〕
水中油型乳化油脂組成物Aに代えて水中油型乳化油脂組成物Cを使用した以外は実施例1の配合及び製法にしたがって、本発明のパンケーキ生地Cを得た。
砂糖、液糖、牛乳、全卵、水中油型乳化油脂組成物は中速1分で均質に混合されており、水中油型乳化油脂組成物Cのパンケーキ生地への均質分散性は極めて良好であった。
得られた各パンケーキ生地C40gをホットプレートに絞り、一定の火力で2分間(表1分30秒間、裏30秒間)焼成し、パンケーキCを得た。
得られたパンケーキCは、形が均整で体積が大きく良好な外観を示していた。
得られたパンケーキCは、実施例1と同様の食感(ソフト性・口溶け感・しっとり感・歯切れ感)の評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0050】
〔実施例4〕
水中油型乳化油脂組成物Aに代えて水中油型乳化油脂組成物Dを使用した以外は実施例1の配合及び製法にしたがって、本発明のパンケーキ生地Dを得た。
砂糖、液糖、牛乳、全卵、水中油型乳化油脂組成物は中速1分で均質に混合されており、水中油型乳化油脂組成物Dのパンケーキ生地への均質分散性は極めて良好であった。
得られた各パンケーキ生地D40gをホットプレートに絞り、一定の火力で2分間(表1分30秒間、裏30秒間)焼成し、パンケーキDを得た。
得られたパンケーキDは、形が均整で体積が大きく良好な外観を示していた。
得られたパンケーキDは、実施例1と同様の食感(ソフト性・口溶け感・しっとり感・歯切れ感)の評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0051】
〔比較例1〕
水中油型乳化油脂組成物Aに代えて水中油型乳化油脂組成物Eを使用した以外は実施例1の配合及び製法にしたがって、比較例のパンケーキ生地Eを得た。
砂糖、液糖、牛乳、全卵、水中油型乳化油脂組成物は中速2分で均質に混合されており、水中油型乳化油脂組成物Eのパンケーキ生地への均質分散性は良好であった。
得られた各パンケーキ生地E40gをホットプレートに絞り、一定の火力で2分間(表1分30秒間、裏30秒間)焼成し、パンケーキEを得た。
得られたパンケーキEは、形が不均整で体積が小さく不良な外観を示していた。
得られたパンケーキEは、実施例1と同様の食感(ソフト性・口溶け感・しっとり感・歯切れ感)の評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0052】
〔実施例5〕
水中油型乳化油脂組成物Aに代えて水中油型乳化油脂組成物Eを使用し、水中油型乳化油脂組成物Aの製造に使用した酵素処理卵黄3.75質量部を添加した以外は実施例1の配合及び製法にしたがって、本発明のパンケーキ生地Fを得た。
砂糖、液糖、牛乳、全卵、水中油型乳化油脂組成物、酵素処理卵黄は中速2分では混合されなかったが3分で均質に混合されており、酵素処理卵黄及び水中油型乳化油脂組成物の均質分散性は、酵素処理卵黄入り水中油型乳化油脂組成物には劣るものの、ほぼ良好であった。
得られた各パンケーキ生地F40gをホットプレートに絞り、一定の火力で2分間(表1分30秒間、裏30秒間)焼成し、パンケーキFを得た。
得られたパンケーキFは、パンケーキAよりやや浮きが劣るものの、形が均整で体積が大きく良好な外観を示していた。
得られたパンケーキFは、実施例1と同様の食感(ソフト性・口溶け感・しっとり感・歯切れ感)の評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0053】
〔実施例6〕
水中油型乳化油脂組成物Aを無添加とし、水中油型乳化油脂組成物Aの製造に使用した酵素処理卵黄3.75質量部、液状油8質量部を添加した以外は実施例1の配合及び製法にしたがって、本発明のパンケーキ生地Gを得た。
砂糖、液糖、牛乳、全卵、酵素処理卵黄、液状油は中速2分では混合されなかったが中速3分で均質に混合され、酵素処理卵黄の均質分散性は酵素処理卵黄入り水中油型乳化油脂組成物には劣るものの、ほぼ良好であった。
得られた各パンケーキ生地G40gをホットプレートに絞り、一定の火力で2分間(表1分30秒間、裏30秒間)焼成し、パンケーキGを得た。
得られたパンケーキGは、パンケーキAよりやや浮きが劣るものの、形が均整で体積が大きく良好な外観を示していた。
得られたパンケーキGは、実施例1と同様の食感(ソフト性・口溶け感・しっとり感・歯切れ感)の評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0054】
〔比較例2〕
水中油型乳化油脂組成物Aを無添加とし、10質量%加塩卵黄3.75質量部、液状油8質量部を添加した以外は実施例1の配合及び製法にしたがって、比較例のパンケーキ生地Hを得た。
砂糖、液糖、牛乳、全卵、10質量%加塩卵黄、液状油は中速2分では混合されず、3分まで延長したが均質には混合されず、加塩卵黄の均質分散性は不良であった。
得られた各パンケーキ生地H40gをホットプレートに絞り、一定の火力で2分間(表1分30秒間、裏30秒間)焼成し、パンケーキHを得た。
得られたパンケーキHは、パンケーキEより更に浮きが劣り、形が不均整で体積も小さく不良な外観を示していた。
得られたパンケーキHは、実施例1と同様の食感(ソフト性・口溶け感・しっとり感・歯切れ感)の評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0055】
<パンケーキの評価方法>
実施例1~6及び比較例1、2のパンケーキ生地を用いて得られたパンケーキは、食感(ソフト性・口溶け感・しっとり感・歯切れ感)について、パネラー17名にて下記評価方法及び評価基準により評価を行ない、その合計点を評価点数とし、結果を下記のようにして[表1]に示した。
61~68点:◎+、51~60点:◎、34~50点:○、17~33点:△、16点以下:×
【0056】
(パンケーキの評評価基準)
(1)食感(ソフト性)
4点…極めて良好。
3点…良好。
2点…やや悪い。
1点…悪い。
0点…きわめて悪い。
【0057】
(2)食感(口溶け感):
4点…極めて良好。
3点…良好。
2点…ややひきが感じられる。
1点…ひきが強い。
0点…ひきがきわめて強い。
【0058】
(3)食感(しっとり感):
4点…極めて良好。
3点…良好。
2点…ややぱさついた感じである
1点…乾いた食感である
0点…ぱさつきが激しい。
【0059】
(4)食感(歯切れ感):
4点…歯切れが極めて良好
3点…歯切れが良好
2点…ややねちゃつく
1点…ねちゃつきが強い
0点…ねちゃつきが激しい。
【0060】
【表1】