IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ADEKAの特許一覧

特開2022-175979ケーキ生地練込用水中油型乳化物、及び、ケーキ生地の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175979
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】ケーキ生地練込用水中油型乳化物、及び、ケーキ生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20221117BHJP
   A21D 2/34 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082812
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城島 伸介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 梢
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 陽加
(72)【発明者】
【氏名】小倉 稔
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG04
4B026DH01
4B026DL03
4B026DL07
4B026DL09
4B026DP10
4B026DX04
4B032DB05
4B032DK07
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK48
4B032DK51
4B032DL03
4B032DP08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】体積が大きく、ソフトで食感のよいケーキを得ることのできるケーキ生地練込用水中油型乳化物を提供すること。
【解決手段】酵素処理卵黄、及び糖類を含有し、水相のpHが酸性であるケーキ生地練込用水中油型乳化物、該ケーキ生地練込用水中油型乳化物を含有するケーキ生地、及び、該ケーキ生地練込用水中油型乳化物を用いるケーキ生地の製造方法。上記酵素処理卵黄が、卵黄をホスホリパーゼA及びプロテアーゼで処理することにより得られた酵素処理卵黄であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素処理卵黄、及び糖類を含有し、水相のpHが酸性であるケーキ生地練込用水中油型乳化物。
【請求項2】
上記酵素処理卵黄が、卵黄をホスホリパーゼA及びプロテアーゼで処理することにより得られた酵素処理卵黄である、請求項1記載のケーキ生地練込用水中油型乳化物。
【請求項3】
上記水中油型乳化油脂組成物がエステル交換油脂を含有する、請求項1又は2記載のケーキ生地練込用水中油型乳化物。
【請求項4】
油脂含有量が15~80質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のケーキ生地練込用水中油型乳化物。
【請求項5】
酵素処理卵黄、及び糖類を含有し、水相のpHが酸性であるケーキ生地練込用水中油型乳化物を用いる、ケーキ生地の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーキ生地練込用水中油型乳化物、及び、ケーキ生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジケーキ、蒸しケーキ、バターケーキ等のケーキは古来愛されてきた食品であり、水分が多く、ソフトでしっとりした食感が特徴である。その基本的な配合は、卵類、穀粉類、糖類を等量混合するもの(三同割り)である。
【0003】
そしてそのケーキを得るためのケーキ生地は微細な気泡を多く含んだ流動状~ペースト状のバッター生地であり、その気泡を含有させるための起泡方法としては、可塑性油脂のクリーミング性を利用する方法と、卵の起泡力を利用する方法に大きく分けることができる。前者の代表が「フラワーバッター法」、「シュガーバッター法」等であり、後者の代表が「オールインミックス法」、「後粉法」等であり、前者は油脂含有量の多いバターケーキの製造に多く使用され、後者は卵含量が高いスポンジケーキ、蒸しケーキの製造に多く使用される方法である。なお、「後粉法」は、「共立て法」、「別立て法」等に分類することができる。
【0004】
ここで、近年は上記ケーキについて、卵類の配合量を増やして風味を向上させたり、食用油脂を添加したりすることで、更にソフト感やしっとり感を向上させる等の高級な配合のケーキ生地を用いることが多くなってきている。
【0005】
しかし、卵類や食用油脂の添加量を増やすと、得られるケーキはふんわりとした軽い食感になるが、保形性が低下し、焼き落ちしやすくなってしまう。そのため、特定の分子量のデキストランの添加(たとえば特許文献1参照)や、特定の乳蛋白質の酸処理品を添加する方法(たとえば特許文献2参照)や、粉類を2回に分けて添加する方法(たとえば特許文献3参照)が提案されている。
【0006】
しかし、従来の方法ではソフト性の点が十分ではなく、またしっとり感又は歯切れといった食感と体積との両立の点で十分なものではなかった。特にスポンジケーキ生地は水分含量が多いことから添加する成分によっては生地への分散性が低いという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-096761号公報
【特許文献2】特開2016-187311号公報
【特許文献3】特開2016-106541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は、体積が大きく、ソフトで食感のよいケーキを得ることのできるケーキ生地練込用水中油型乳化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、特定の組成の水中油型乳化物をケーキ生地製造に用いることにより、上記問題を解決しうることを知見した。
すなわち、本発明は、酵素処理卵黄、及び糖類を含有し、水相のpHが酸性であるケーキ生地練込用水中油型乳化物を提供するものである。
また本発明は、酵素処理卵黄、及び糖類を含有し、水相のpHが酸性であるケーキ生地練込用水中油型乳化物を用いる、ケーキ生地の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物を使用することにより、体積が大きく、ソフトで食感のよいケーキを安定的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物の好適な実施形態について詳細に述べる。後述する実施例に示す通り、本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物は、体積が大きく、ソフトでしっとりした食感を有する。本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物は優れたソフト性又は歯切れを有している。
本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物は酵素処理卵黄を含有する。酵素処理卵黄を含有することにより、得られるケーキが、体積が大きく、ソフトで食感のよいものとなる。
上記酵素処理卵黄を調製するための基質としては、生卵黄、殺菌卵黄、加塩卵黄、加糖卵黄を使用することができる。
また、卵黄を含有する卵原料、たとえば全卵を使用することもできる。また、水中油型乳化物中のコレステロールを低減するために、コレステロールを低減した卵黄を基質としても良い。本発明では、全卵よりも卵黄を用いることが少量の添加でより高い効果が得られる点で好ましく、卵白成分を含有する場合も例えば卵黄100質量部に対し100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることが特に好ましい。
【0012】
得られるケーキの風味や、酵素反応時の微生物の増殖を抑えることを考慮すると特に加塩卵黄が適しており、好ましくは基質となる卵黄に対して塩を3~20質量%含有する加塩卵黄を用いるのが加塩による上記効果が良好にしやすい点で好ましく、さらに好ましくは塩が5~15質量%含有する加塩卵黄を用いるのが良い。このとき用いる塩としては、岩塩、天然塩、自然塩、精製塩の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0013】
上記酵素処理卵黄において、基質である卵黄の酵素処理の際に用いる酵素としては、ホスホリパーゼAやプロテアーゼを使用することができる。上記ホスホリパーゼAは、リン脂質加水分解酵素とも呼ばれ、リン脂質をリゾリン脂質に分解する反応を触媒する酵素であり、豚等の哺乳類の膵液や、微生物を起源とした市販のホスホリパーゼAを使用することができる。
また、上記プロテアーゼは、蛋白質を加水分解する反応を触媒する酵素であり、植物、動物、微生物を起源とした、市販のプロテアーゼを使用することができる。
なお上記プロテアーゼは、至適活性のpH域により中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼに分類することができ、また作用部位によりセリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、金属プロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ等に分類することができるが、それらのいずれも使用することができる。
プロテアーゼの具体名としては、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、ペプシン、ブロメライン、パンクレアチン、サブチリシン、サーモライシン、コラゲナーゼ、アルカラーゼ等を挙げることができるが、本発明では、よりソフトで口溶けのよく、しっとりした食感が得られる点でブロメライン及び/またはアルカラーゼを使用することが特に好ましい。
卵黄の酵素処理の際、ホスホリパーゼAのみを用いてもよいし、プロテアーゼのみを用いてもよいし、ホスホリパーゼAとプロテアーゼを併用してもよいが、卵黄をホスホリパーゼA処理したものを使用することがより体積が大きいケーキが得られる点で好ましく、特に、卵黄をホスホリパーゼAとプロテアーゼで処理した酵素処理卵黄を使用することが、得られるケーキの体積、ソフト性の点で特に優れるため好ましい。
【0014】
本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物における酵素処理卵黄の含有量は、好ましくは5~50質量%、好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは15~35質量%である。酵素処理卵黄の含有量が50質量%以下であることで、得られる水中油型乳化物の粘度が上昇しにくく、水中油型乳化物の製造時に安定生産が容易になることに加え、特にケーキ生地製造時、特に水分の多いスポンジケーキ生地への均質分散性を良好なものにしやすい。また、酵素処理卵黄の含有量が5質量%以上であることで、本発明の効果が得やすいものとなる。
【0015】
本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物は糖類を含有する。糖類を含有することにより、得られるケーキが、体積が大きく、ソフトで食感のよいものとなる。
上記糖類としては、単糖、二糖、オリゴ糖、糖アルコールやそれらの誘導体等があげられ、具体的には、上白糖、グラニュー糖、粉糖、蔗糖、液糖、はちみつ、ブドウ糖、果糖、黒糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、酸糖化水飴、還元乳糖、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、パラチニット、ラクチトール、直鎖オリゴ糖アルコール、分岐オリゴ糖アルコール、高糖化還元水飴、還元麦芽糖水飴、還元水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、キシロース、トレハロース、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、アラビノース、パラチノースオリゴ糖、アガロオリゴ糖、キチンオリゴ糖、乳果オリゴ糖、モラセス、イソマルトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、カップリングシュガー、ラフィノース、ラクチュロース、テアンデオリゴ糖、ゲンチオリゴ糖等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0016】
本発明の水中油型乳化油脂組成物における糖類含量は、好ましくは1~35質量%である。なお、糖類の配合割合が35質量%以下とすることで、得られる水中油型乳化油脂組成物の粘度が著しく上昇することを防止でき、ケーキ生地、特にスポンジケーキ生地への均質分散性の低下を回避できることに加え、ケーキ生地の加熱時における焦げを防止できる。より好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは5~25質量%である。また、1質量%以上とすることで、水中油型乳化油脂組成物の水中油型乳化を安定にすることができる。
なお使用する糖類が液状の場合は、上記含有量については固形分で算出するものとする。
【0017】
本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物は油脂を水中油型の乳化形態で含有する。油脂を含有することにより、得られるケーキがソフトでしっとりとした食感となる。また水中油型の形態であることにより、ケーキ生地への混合性が良好なものとなり、体積や食感改善の有効成分である酵素処理卵黄や糖類を効率よく均質にケーキ生地中に分散させ、作用させることができる。
【0018】
上記油脂としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、豚脂、魚油等の動植物性油脂が挙げられ、更に、これらの油脂に硬化、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理を施した油脂のうちの1種又は2種以上を使用することができる。
【0019】
本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物における油脂含有量は、好ましくは15~80質量%、より好ましくは15~65質量%、さらに好ましくは15~60質量%である。
油脂含有量を15質量%以上とすることで、よりソフトなケーキとすることができる。また、80質量%以下とすることで水中油型乳化油脂組成物の乳化安定性の低下を防止することが可能となることに加え、得られるケーキの油性感が高くなってしまうことを防止することもできる。なお、本明細書でいう油脂含有量とは、酵素処理卵黄等の油脂を含む成分中の油脂量を含む量とする。
【0020】
なお、本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物ではエステル交換油脂を使用することが、ケーキ生地、特にスポンジケーキ生地への均質分散性に優れる点、及び、ソフトでしっとりしていながら歯切れが良好なケーキを得ることが可能である点で好ましい。歯切れが良好であることは、体積を増加させるために、生地重量を増量するといったねちゃつきやすい条件においてねちゃつきを抑制しやすい点でも好ましい。ケーキ生地練込用水中油型乳化物がエステル交換油脂を含有する場合、エステル交換油脂の量が油脂中の10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であることが、エステル交換油脂を添加することによる上記の効果を良好にする点で好ましい。なお上限については、油分含量が高いときの水中油型乳化物製造時の増粘を抑制するためには、エステル交換油を油脂中の80質量%以下、好ましくは60質量%以下とすることが好ましい。
【0021】
本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物は、水相のpHが酸性である。水相のpHを酸性にすることにより、ソフトでしっとりしていながら歯切れが良好なケーキを得ることが可能である点で好ましい。また、水中油型乳化油脂組成物自体の保存性を向上させることができ、さらには、酵素処理卵黄の苦みを低減可能である点でも好ましい。
上記水中油型乳化油脂組成物の水相のpHを酸性にするには酸や酸味料、必要に応じ水を使用する。
【0022】
上記のpHの調整に用いる酸や酸味料としては、乳酸、クエン酸、グルコン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、食酢(酢酸)、果汁、発酵乳等が挙げられ、これらを単独で用いるか又は二種以上を組み合わせて用いることができるが、食酢(酢酸)を使用することが少量の添加で最も保存性の向上効果が高い点で好ましい。
【0023】
ここで、本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物の水相のpHは、好ましくは2.5~6.0、より好ましくは3.0~5.5、最も好ましくは3.5~5.0の範囲である。なお、pHが2.5以上であることで、得られるケーキの酸味が強くなりすぎることを防ぎ、ケーキの浮きが悪く、体積が小さくなってしまうおそれを一層防止できる。また、pHが6.0以下であると、上記酸性にすることの効果が安定して得やすい。pHは20℃の水中油型乳化油脂組成物について測定するものとする。
ここで、本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物において、上記の酸や酸味料の使用量及び水の使用量は、水相のpHが酸性、好ましくはpHが2.5~6.0となるように、使用する酸の種類等に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは、酸や酸味料の使用量は0.1~20質量%、水分量は7~70質量%の範囲からそれぞれ選択する。ここで水分量は、糖類や酵素処理卵黄、酸味料等の水を含む原料に含まれる水分の量を含むものとする。
【0024】
本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物には、上記以外のその他の原材料を、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができる。
該その他の原材料としては、酵素処理卵黄以外の卵黄、卵白、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、乳や乳製品、増粘安定剤、高甘味度甘味料、食塩、澱粉類、穀類、無機塩、有機酸塩、酵素、ジグリセライド、植物ステロール、植物ステロールエステル、果汁、濃縮果汁、果汁パウダー、乾燥果実、果肉、野菜、野菜汁、香辛料、香辛料抽出物、ハーブ、直鎖デキストリン・デキストリン類、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、その他各種食品素材、着香料、苦味料、調味料、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤、金属イオン封鎖剤、強化剤等が挙げられる。
上記その他の原材料の使用量は、使用目的等に応じて適宜選択することができるが、上記水中油型乳化物において好ましくは合計で15質量%以下とする。
【0025】
上記ケーキ生地練込用水中油型乳化物は、例えば以下の様にして得ることができる。まず、水等の水分含有液に、酵素処理卵黄、必要に応じ、酸や酸味料、糖類、食塩、辛子粉等の香辛料等の水溶性成分を分散溶解させた水相を調製し、また、液状油やエステル交換油脂等の油脂に、必要により油溶性成分や、増粘安定剤等を分散させた油相を調製する。次いで、水相を撹拌しつつ油相を加え、水中油型予備乳化物を得る。該水中油型予備乳化物をコロイドミル等の乳化機、ホモゲナイザー等の均質化機で処理し仕上げ乳化を行ない、上記ケーキ生地練込用水中油型乳化物が得られる。
【0026】
また、本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物中の油粒子の平均粒径は、20μm以下が好ましく、10μm以下がさらに好ましく、5μm以下が最も好ましい。20μmを超えると、水中油型乳化油脂組成物の乳化安定性が低下しやすく、保存時に油分分離等が発生する危険性もあるので好ましくない。なお、上記平均粒径は、例えば、島津製作所のレーザー回折式粒度分布測定機(SALD-2100型)や光学顕微鏡で測定することができる。
【0027】
本発明のケーキ生地は、上記本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物を含有させてなるものであり、具体的には上記本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物を練り込んでなるものである。
ケーキ生地の種類としては、シフォンケーキ生地、カステラ生地、ブッセ生地等を含むスポンジケーキ生地、パウンドケーキ生地、マドレーヌ生地、マフィン生地、バウムクーヘン生地等を含むバターケーキ生地、あるいは蒸しケーキ生地など、微細な気泡を多く含んだ流動状~ペースト状のバッター生地であるケーキ生地が挙げられるが、卵の起泡力を使用するスポンジケーキ生地において食感の高い改良効果が得られる点でスポンジケーキ生地であることが好ましい。
【0028】
本発明のケーキ生地における、上記本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物の使用量は、ケーキ生地に使用する穀粉類100質量部に対し、好ましくは1~150質量部、より好ましくは5~50質量部、最も好ましくは5~30質量部となる量である。
【0029】
なお、ケーキ生地に使用する穀粉類としては、特に限定されるものではないが、薄力粉、中力粉、強力粉などの小麦粉をはじめ、小麦胚芽、全粒粉、小麦ふすま、デュラム粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉、大豆粉、ハトムギ粉等をあげることができ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いるのがよい。本発明では、好ましくは薄力粉、中力粉、強力粉などの小麦粉を用いるのがよい。
なお、穀粉類を含有しないケーキ生地に使用する場合は、上記本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物の使用量は、ケーキ生地中に好ましくは0.2~50質量%、より好ましくは1~15質量%、さらに好ましくは1~10質量%となる量である。
【0030】
本発明のケーキ生地は、上記本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物や上記穀粉類の他に、糖類、甘味料、乳や乳製品、油脂類、膨張剤、卵類、水、食塩、澱粉類、乳化剤、調味料、香辛料、着香料、着色料、ココア、チョコレート、ナッツ類、抹茶、紅茶、コーヒー、豆腐、黄な粉、豆類、野菜類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、果物、ハーブ、肉類、魚介類、保存料、日持ち向上剤などのその他の材料を適宜用いることができる。
【0031】
上記糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、デキストリン等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0032】
上記甘味料としては、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、アスパルテーム等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0033】
上記乳や乳製品としては、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、クリーム、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、はっ酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム、ホエープロテインコンセートレート、トータルミルクプロテイン等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0034】
上記油脂類としては、マーガリン、ショートニング、バター、粉末油脂、液状油等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0035】
上記膨張剤としては、炭酸水素ナトリウムや炭酸アンモニウム等の炭酸塩や、これらに、酒石酸、酒石酸水素ナトリウム、第一リン酸ナトリウム、第一リン酸カルシウム、フマル酸、フマル酸ナトリウム、フマル酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸アンモニウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸アンモニウム、焼ミヨウバン等の中から選ばれた1種または2種以上を添加したり、さらに澱粉類を添加したものを用いることができる。また、市販のベーキングパウダーを用いることもできる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0036】
上記卵類としては、全卵、生卵黄、生卵白、殺菌全卵、殺菌卵黄、加塩全卵、加塩卵黄、加糖全卵、加糖卵黄、卵黄粉末、粉末全卵、卵白粉末等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0037】
本発明のケーキ生地は、例えば、穀粉類を含有するケーキ生地製造の際に、上記本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物、及び必要により上記のその他の材料を配合し、混合することにより製造することができる。
【0038】
なお、市販のミックス粉に、上記本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物、及び必要により上記のその他の材料を配合し、混合することにより製造することもできる。
なお、上記ケーキ生地製造の際に起泡操作を加えてもよい。
起泡操作としてはフラワーバッター法、シュガーバッター法、オールインミックス法などの方法がケーキ生地の種類に応じ、適宜選択される。
また、上記起泡操作はイタリアンメレンゲ使用や、卵白別立法などのように、卵白を別途起泡してから用いる方法であってもよい。
【0039】
なお、本発明のケーキ生地の比重は0.3~0.9であることが好ましく、0.35~0.8であることがより好ましい。特にスポンジケーキである場合は0.3~0.8であることが好ましく、0.35~0.55であることがより好ましい。
【0040】
本発明においてケーキ生地の比重は、例えば、以下のようにして測定することができる。
まず、一定容積の計量カップを準備し、水をすりきれいっぱいにいれた際の水の重量を測定する。次に、該計量カップを用い、製造後1分以内のケーキ生地をすりきれいっぱいにいれた際のケーキ生地の重量を測定する。そして、測定したケーキ生地の重量を、測定した水の重量で除して得られる数値をケーキ生地の比重とする。尚、ケーキ生地の比重は20℃において測定するものとする。
【0041】
上記本発明のケーキ生地は、従来のケーキ生地と同様にして加熱することにより、ケーキを得ることができる。
上記加熱処理としては、例えば、焼成、フライ、蒸し、蒸し焼きが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の処理を行うことができるが焼成によることが好ましい。
また、得られたケーキは、冷蔵、冷凍保存したり、該保存後に電子レンジ加熱することも可能である。
【実施例0042】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、以下のpHは20℃の乳化物について測定した。また、油粒子の平均粒径は(株)島津製作所製レーザー式粒度分布計にて測定した体積基準のD50である。
【0043】
<ケーキ生地練込用水中油型乳化物の製造>
〔製造例1〕
砂糖混合果糖ブドウ糖液糖(糖固形分75質量%)20質量部、食酢(酢酸含量15質量%)2質量部、及び、酵素処理(ホスホリパーゼA処理)10質量%加塩卵黄25質量部を混合して水相を調製した。別に、菜種サラダ油40質量部、及び、パームスーパーオレインのランダムエステル交換油13質量部、を混合して油相を調製した。次いで、上記水相を撹拌しつつ上記油相を加え、水中油型予備乳化物を得、これをコロイドミルにて乳化及び均質化し、油粒子の平均粒径が3μm以下、水相のpHが4.0、糖類含量15質量%である本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物Aを得た。なお、10質量%加塩卵黄は、加塩卵黄中10質量%の食塩を含有する卵黄である。
【0044】
〔製造例2〕
製造例1における菜種サラダ油40質量部、パームスーパーオレインのランダムエステル交換油13質量部を、菜種サラダ油53質量部に置換した以外は製造例1と同様の配合・製法で、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが4.0、糖類含量15質量%である本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物Bを得た。
【0045】
〔製造例3〕
製造例1における酵素処理(ホスホリパーゼA処理)10質量%加塩卵黄25質量部を、酵素処理(ホスホリパーゼA及びプロテアーゼ処理)10質量%加塩卵黄25質量部に置換した以外は製造例1と同様の配合・製法で、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが4.0、糖類含量15質量%である本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物Cを得た。なお、プロテアーゼとしては、アルカラーゼを用いた。
【0046】
〔製造例4〕
製造例1における酵素処理(ホスホリパーゼA処理)10質量%加塩卵黄25質量部を、製造例3で使用した酵素処理(ホスホリパーゼA及びプロテアーゼ処理)10質量%加塩卵黄25質量部に置換し、さらに、砂糖混合果糖ブドウ糖液糖(糖固形分75質量%)20質量部を還元水飴(固形分70質量%)20質量部に置換した以外は製造例1と同様の配合・製法で、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが4.0、糖類含量14質量%である本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物Dを得た。
【0047】
〔製造例5〕
製造例1における酵素処理(ホスホリパーゼA処理)10質量%加塩卵黄25質量部を、製造例3で使用した酵素処理(ホスホリパーゼA及びプロテアーゼ処理)10質量%加塩卵黄25質量部に置換し、さらに、砂糖混合果糖ブドウ糖液糖(糖固形分75質量%)20質量部を転化糖液糖(固形分70質量%)20質量部に置換した以外は製造例1と同様の配合・製法で、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが4.0、糖類含量14質量%である本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物Eを得た。
【0048】
〔製造例6〕
製造例1における酵素処理(ホスホリパーゼA処理)10質量%加塩卵黄25質量部を、製造例3で使用した酵素処理(ホスホリパーゼA及びプロテアーゼ処理)10質量%加塩卵黄25質量部に置換し、さらに、砂糖混合果糖ブドウ糖液糖(糖固形分75質量%)20質量部を4質量部に変更し、水16質量部を添加した以外は製造例1と同様の配合・製法で、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが5.0、糖類含量3質量%である本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物Fを得た。
【0049】
〔製造例7〕
製造例1における酵素処理(ホスホリパーゼA処理)10質量%加塩卵黄25質量部を、製造例3で使用した酵素処理(ホスホリパーゼA及びプロテアーゼ処理)10質量%加塩卵黄25質量部に置換し、さらに、砂糖混合果糖ブドウ糖液糖(糖固形分75質量%)20質量部を10質量部に変更し、水10質量部を添加した以外は製造例1と同様の配合・製法で、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが4.5、糖類含量7.5質量%である本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物Gを得た。
【0050】
〔製造例8〕
製造例1における菜種サラダ油40質量部を30質量部に変更し、酵素処理(ホスホリパーゼA処理)10質量%加塩卵黄25質量部を、製造例3で使用した酵素処理(ホスホリパーゼA及びプロテアーゼ処理)10質量%加塩卵黄25質量部に置換し、さらに、砂糖混合果糖ブドウ糖液糖(糖固形分75質量%)20質量部を30質量部に変更した以外は製造例1と同様の配合・製法で、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが4.0、糖類含量22.5質量%である本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物Hを得た。
【0051】
〔製造例9〕
製造例1における食酢(酢酸含量15質量%)2質量部を、水2質量部に置換した以外は製造例1と同様の配合・製法で、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが7、糖類含量15質量%である比較例のケーキ生地練込用水中油型乳化物Iを得た。
【0052】
〔製造例10〕
製造例1における酵素処理(ホスホリパーゼA処理)10質量%加塩卵黄25質量部を、10質量%加塩卵黄25質量部に置換した以外は製造例1と同様の配合・製法で、油粒子の平均粒径が3μm以下、pHが4.0、糖類含量15質量%である比較例のケーキ生地練込用水中油型乳化物Jを得た。
【0053】
<スポンジケーキ生地及びスポンジケーキの製造>
上記ケーキ生地練込用水中油型乳化物A~Jを用い、以下に記載したスポンジケーキの配合・製法により実施例1~8、比較例1~2のスポンジケーキ生地、及び、スポンジケーキを製造した。
【0054】
[実施例1~8、比較例1~2]
全卵(正味)130質量部、上白糖120質量部、及び上記ケーキ生地練込用水中油型乳化物(A~Jのいずれか)12質量部をミキサーボウルに投入し、これをたて型ミキサーにセットし、ワイヤーホイッパーを使用して、低速10秒混合後、高速3分ホイップし、比重が0.35となるまで起泡し、ここに、薄力粉100質量部を添加し、低速30秒混合した後、40℃に加温したバターオイル4質量部と菜種油12質量部を添加し、低速30秒混合、中速10秒混合し、比重が0.45のスポンジケーキ生地A~Jを得た。
7号のスポンジケーキ型に底紙と側紙をあて、ここに得られたスポンジケーキ生地450gを流しいれ、固定オーブンを使用し、180℃で30分焼成し、スポンジケーキA~Jを得た。なお各実施例1~8における生地中における水中油型乳化物の分散性は良好であった。
【0055】
[比較例3]
ケーキ生地練込用水中油型乳化物12質量部に代えて水12質量部を使用した以外は[実施例1~8、比較例1~2]と同様にして比重が0.45のスポンジケーキ生地K及びスポンジケーキKを得た。
【0056】
<スポンジケーキの評価>
得られたスポンジケーキは、焼成当日に体積を目視により観察し、下記の評価基準にしたがって評価し、結果を〔表1〕及び〔表2〕に記載した。
得られたスポンジケーキは、常温で1日保存した後、ソフト性、しっとり感、及び歯切れを10人のパネラーにより下記評価基準に従って評価させ、その合計点を評価点数とし、結果を下記のようにして〔表1〕及び〔表2〕に示した。
33~40点:◎+、25~32点:◎、17~24点:○、9~16点:△、8点以下:×
【0057】
<体積の評価基準>
◎:焼き落ちは見られず、十分な体積のスポンジケーキであった。
○:ややへこみはあるものの焼き落ちはほとんど見られず、十分な体積のスポンジケーキであった。
△:焼き落ちが顕著であり、不十分な体積のスポンジケーキであった。
×:焼き落ちが激しく、不良な体積のスポンジケーキであった。
【0058】
<ソフト性、しっとり感、及び歯切れの評価基準>
・ソフト性
4点…極めて良好。
3点…良好。
2点…やや悪い。
1点…悪い。
0点…きわめて悪い。
【0059】
・しっとり感
4点…極めて良好。
3点…良好。
2点…やや悪い。
1点…悪い。
0点…きわめて悪い。
【0060】
・歯切れ
4点…非常に歯切れがよい。
3点…歯切れがよい。
2点…ややねちゃつきがあり、あまり歯切れがよくない。
1点…ねちゃつきがあり、歯切れが悪い。
0点…ねちゃつきが激しく、歯切れがきわめて悪い。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
<蒸しケーキ生地及び蒸しケーキの製造>
[実施例9]
全卵(正味)140質量部、上白糖100質量部、水飴20質量部、ケーキ用起泡性乳化油脂(トルテ(登録商標):株式会社ADEKA製)15質量部、濃縮牛乳状組成物(プライムEF:株式会社ADEKA製)15質量部及び上記ケーキ生地練込用水中油型乳化物C20質量部をミキサーボウルに投入し、これをたて型ミキサーにセットし、ワイヤーホイッパーを使用して、比重が0.30となるまで起泡し、ここに、薄力粉100質量部及びベーキングパウダー1質量部を添加し、低速30秒混合した後、ケーキ練り込み用油脂(グラシュー(登録商標):株式会社ADEKA製)15質量部を添加し、低速30秒混合、中速10秒混合し、比重が0.5の蒸しケーキ生地Aを得た。なお実施例9の生地中における水中油型乳化物の分散性は良好であった。
耐熱カップに得られた蒸しケーキ生地A45gを流しいれ、蒸し器を使用し、90℃で15分蒸成し、蒸しケーキAを得た。
【0064】
[比較例4]
ケーキ生地練込用水中油型乳化物C20質量部を添加せず、全卵(正味)140質量部を160質量部に変更した以外は実施例4と同様にして比重が0.5の蒸しケーキ生地B及び蒸しケーキBを得た。
【0065】
蒸成1日後に比較試食したところ、本発明のケーキ生地練込用水中油型乳化物を使用して得られた蒸しケーキAは、使用しなかった蒸しケーキBに比べ、体積が大きく、ソフト性、しっとり感、及び歯切れが共に優れていた。