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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175984
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】マイクロ流路チップ及びその使用
(51)【国際特許分類】
   B01F 23/41 20220101AFI20221117BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20221117BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B01F3/08 A
G01N37/00 101
B01J19/00 321
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082822
(22)【出願日】2021-05-14
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.Span
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】服部 篤紀
【テーマコード(参考)】
4G035
4G075
【Fターム(参考)】
4G035AB40
4G035AC50
4G035AE13
4G035AE17
4G075AA13
4G075BD15
4G075CA05
4G075DA02
4G075EB22
4G075EB23
4G075EB50
4G075EC30
4G075FB02
4G075FB04
4G075FB06
4G075FB12
(57)【要約】
【課題】エマルジョンの保持性が改善されたマイクロ流路チップを提供すること、及びその使用方法を提供すること。
【解決手段】分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、エマルジョン保持流路、及び排出口を有しており、分散相液保持部が分散相液流路を介してエマルジョン形成部に接続しており、連続相液保持部が連続相液流路を介してエマルジョン形成部に接続しており、エマルジョン形成部がエマルジョン流路を介してエマルジョン保持流路に接続しており、エマルジョン保持流路が排出口に接続しており、エマルジョン保持流路のうち、排出口側の末端部分が、気泡トラップストップバルブ部を構成していることを特徴とする、エマルジョン充填用のマイクロ流路チップ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、エマルジョン保持流路、及び排出口。を有しており、
前記分散相液保持部が、前記分散相液流路を介して、前記エマルジョン形成部に接続しており、
前記連続相液保持部が、前記連続相液流路を介して、前記エマルジョン形成部に接続しており、
前記エマルジョン形成部が、前記エマルジョン流路を介して、前記エマルジョン保持流路に接続しており、
前記エマルジョン保持流路が、前記排出口に接続しており、
前記エマルジョン保持流路のうち、前記排出口側の末端部分が、気泡トラップストップバルブ部を構成していることを特徴とする、
エマルジョン充填用のマイクロ流路チップ。
【請求項2】
前記気泡トラップストップバルブ部が、狭窄部を有していることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項3】
前記狭窄部が、鉛直方向に狭窄していることを特徴とする、請求項2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項4】
前記狭窄部が、鉛直方向に狭窄しており、かつ水平方向に狭窄していることを特徴とする、請求項3に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項5】
前記狭窄部が、段差構造を有することによって、鉛直方向に狭窄していることを特徴とする、請求項3又は4に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項6】
前記気泡トラップストップバルブ部が、前記狭窄部の下流側に配置されている拡張部、及び、前記拡張部の下流側に配置されている追加狭窄部を有していることを特徴とする、請求項2~5のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項7】
前記追加狭窄部が、鉛直方向に狭窄していることを特徴とする、請求項6に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項8】
前記追加狭窄部が、鉛直方向に狭窄しており、かつ水平方向に狭窄していることを特徴とする、請求項7に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項9】
前記追加狭窄部が、段差構造を有することによって、鉛直方向に狭窄していることを特徴とする、請求項7又は8に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップに分散相液及び連続相液を供給してエマルジョンの生成及び保持を行う方法であって、
前記分散相液保持部に、分散相液を供給すること、
前記連続相液保持部に、連続相液を供給すること、及び、
外部送液駆動力によって、前記エマルジョン形成部において、前記分散相液から構成される液滴及び前記連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成された前記エマルジョンを、前記エマルジョン流路を介して、気体で充填された状態の前記エマルジョン保持流路に輸送すること、
を含み、
前記エマルジョンが前記エマルジョン保持流路を完全に充填する前に、前記外部送液駆動力を停止することを特徴とする、
方法。
【請求項11】
前記連続相液保持部に供給される前記連続相液の量を調節し、それにより、前記外部送液駆動力の前記停止の後で、少なくとも一定時間にわたって、前記連続相液保持部に前記連続相液が存在しているようにすることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記外部送液駆動力が、前記排出口に適用される陰圧であることを特徴とする、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記外部送液駆動力の前記停止後、前記エマルジョン保持流路に前記液滴が保持されている間に、排出口及び各相液保持部のうち少なくとも一つが、密閉されていないことを特徴とする、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路チップ及びその使用に関する。特には、本発明は、液滴アレイ測定をより効率的かつ簡便・迅速に行うためのマイクロ流路チップ及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
反応液を微小区画に分画し独立して反応を行なう技術として、微小液滴中に反応液を分画する微小液滴法が知られている。この手法は、例えばマイクロ・ナノ粒子の作製などに応用が期待されており、特に、マイクロ流体装置を用いて、標的分子を1分子単位で微小区画化し、微小液滴内で反応を行なうことで、標的分子の有無をシグナルの有無で計測し、標的分子の数の絶対定量を行なうデジタル計測に利用されている。
【0003】
このような微小液滴法では、一般に、オイルなどの連続相と、この連続相に分散した水溶液の液滴とから構成されるエマルジョン(液滴+連続相)が使用される。
【0004】
特許文献1は、液滴アッセイに適している液滴を生成するためのシステム及び方法を開示している。当該文献に記載されている方法では、生成された液滴を、ピペットチップ又は液滴ウェルからなる出口領域に輸送する。また、当該文献は、エアトラップを記載しており、このエアトラップによって、サンプルとオイルとが、流体駆動力の適用までの間、実質的に離されることを記載している。
【0005】
非特許文献1は、遠心ステップ液滴生成法を開示している。当該文献に記載は、装置の注入口にオイルを充填し、このオイルを遠心によって液滴回収室に送った後で、同じ注入口から、サンプル溶液を導入し、遠心によって液滴生成を行うことを記載している。
【0006】
このような微小液滴法に関して、近年、装置の簡便化・迅速化の観点から、検出領域に液滴を単層に整列させて簡便にシグナルを測定する液滴アレイ測定が注目されている。
【0007】
特許文献2及び3は、液滴を形成するための流路及び液滴を保持するための液滴保持部を有するマイクロ流路チップを開示している。文献2は、2以上の反応液同士を合流させた後、反応液とは混和しない非混和性液体を接触させることで液滴を形成させることを記載している。文献3は、分散層流入部と連続層流入部とから流入した分散層及び連続層を、流路を介して液滴生成部で接触させることで液滴化することを記載している。
【0008】
非特許文献2は、チップ上で液滴を生成する方法及びそのための装置について記載している。当該文献に記載の方法は、送液前に液滴アレイ部をオイルで充填する操作(充填操作)を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第2550528号明細書
【特許文献2】特開2019-170363号公報
【特許文献3】特開2020-169911号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Centrifugal step emulsification applied for absolute quantification of nucleic acids by digital droplet RPA, Lab Chip, 2015, 15, 2759-2766
【非特許文献2】1-Million droplet array with wide-field fluorescence imaging for digital PCR、Lab on a Chip、2011、11、3838-3845
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
液滴に対して検出処理等を行うためにエマルジョンの生成及び保持を行う場合に、エマルジョン保持流路を有するマイクロ流路チップを用いることができる。生成されたエマルジョンを同一のマイクロ流路チップ内のエマルジョン保持流路に保持することで、簡便かつ自動化に適した方法を提供することができる。
【0012】
このようなマイクロ流路チップでエマルジョンを生成する際に、エマルジョン形成部で生成されるエマルジョンを、気体で充填されているエマルジョン保持流路に輸送することができる。輸送されたエマルジョンは、エマルジョン保持流路を充填している気体と置き換わって、そこに保持される。このような方法を、本開示で「エマルジョン充填法」と呼ぶ。
【0013】
エマルジョン充填法は、マイクロ流路チップをあらかじめ連続相液で充填するための準備操作、及びそれに付随する余剰連続相液の排出操作、並びにこれらのために必要な装置等を省くことができるので、液滴アレイ法の自動化を進めるうえで非常に有利である。一方で、エマルジョン保持流路を有するマイクロ流路チップにおいてエマルジョン充填法を適用する場合に、エマルジョンの保持性が不十分となることがあった。
【0014】
本発明は、エマルジョン(特には液滴)の保持性が改善されたマイクロ流路チップを提供すること、及びその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る上記の課題は、本発明に係る下記の態様によって解決することができる。
<態様1>
分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、エマルジョン保持流路、及び排出口を有しており、
前記分散相液保持部が、前記分散相液流路を介して、前記エマルジョン形成部に接続しており、
前記連続相液保持部が、前記連続相液流路を介して、前記エマルジョン形成部に接続しており、
前記エマルジョン形成部が、前記エマルジョン流路を介して、前記エマルジョン保持流路に接続しており、
前記エマルジョン保持流路が、前記排出口に接続しており、
前記エマルジョン保持流路のうち、前記排出口側の末端部分が、気泡トラップストップバルブ部を構成していることを特徴とする、
エマルジョン充填用のマイクロ流路チップ。
<態様2>
前記気泡トラップストップバルブ部が、狭窄部を有していることを特徴とする、態様1に記載のマイクロ流路チップ。
<態様3>
前記狭窄部が、鉛直方向に狭窄していることを特徴とする、態様2に記載のマイクロ流路チップ。
<態様4>
前記狭窄部が、鉛直方向に狭窄しており、かつ水平方向に狭窄していることを特徴とする、態様3に記載のマイクロ流路チップ。
<態様5>
前記狭窄部が、段差構造を有することによって、鉛直方向に狭窄していることを特徴とする、態様3又は4に記載のマイクロ流路チップ。
<態様6>
前記気泡トラップストップバルブ部が、前記狭窄部の下流側に配置されている拡張部、及び、前記拡張部の下流側に配置されている追加狭窄部を有していることを特徴とする、態様2~5のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
<態様7>
前記追加狭窄部が、鉛直方向に狭窄していることを特徴とする、態様6に記載のマイクロ流路チップ。
<態様8>
前記追加狭窄部が、鉛直方向に狭窄しており、かつ水平方向に狭窄していることを特徴とする、態様7に記載のマイクロ流路チップ。
<態様9>
前記追加狭窄部が、段差構造を有することによって、鉛直方向に狭窄していることを特徴とする、態様7又は8に記載のマイクロ流路チップ。
<態様10>
態様1~9のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップに分散相液及び連続相液を供給してエマルジョンの生成及び保持を行う方法であって、
前記分散相液保持部に、分散相液を供給すること、
前記連続相液保持部に、連続相液を供給すること、及び、
外部送液駆動力によって、前記エマルジョン形成部において、前記分散相液から構成される液滴及び前記連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成された前記エマルジョンを、前記エマルジョン流路を介して、気体で充填された状態の前記エマルジョン保持流路に輸送すること、
を含み、
前記エマルジョンが前記エマルジョン保持流路を完全に充填する前に、前記外部送液駆動力を停止することを特徴とする、
方法。
<態様11>
前記連続相液保持部に供給される前記連続相液の量を調節し、それにより、前記外部送液駆動力の前記停止の後で、少なくとも一定時間にわたって、前記連続相液保持部に前記連続相液が存在しているようにすることを特徴とする、態様10に記載の方法。
<態様12>
前記外部送液駆動力が、前記排出口に適用される陰圧であることを特徴とする、態様10又は11に記載の方法。
<態様13>
前記外部送液駆動力の前記停止後、前記エマルジョン保持流路に前記液滴が保持されている間に、排出口及び各相液保持部のうち少なくとも一つが、密閉されていないことを特徴とする、態様10~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、エマルジョン(特には液滴)の保持性が改善されたマイクロ流路チップ、及びその使用方法を提供することができる。
【0017】
特に、本発明のマイクロ流路チップは、各保持部及び排出口が大気圧開放されていても、液滴を良好に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本開示に係るマイクロ流路チップの1つの実施態様の平面概略図である。
図2図2は、本開示に係る気泡トラップストップバルブ部の1つ実施態様の平面概略図である。
図3図3は、図2の気泡トラップストップバルブ部の、水平面に垂直な断面における概略図である。
図4図4は、本開示に係る分散相液保持部の1つの実施態様を示す断面概略図である。
図5図5は、実施例1に係る気泡トラップストップバルブ部の写真である。
図6図6は、実施例1に係る、エマルジョン保持流路に保持された液滴に対する検出処理の様子を示す写真である。
図7図7は、図6の写真の一部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
≪エマルジョン充填用のマイクロ流路チップ≫
本開示に係るマイクロ流路チップは、エマルジョン充填用であり、分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、エマルジョン保持流路、及び排出口を有しており、
分散相液保持部が、分散相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、
連続相液保持部が、連続相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、
エマルジョン形成部が、エマルジョン流路を介して、エマルジョン保持流路に接続しており、
エマルジョン保持流路が、排出口に接続しており、
エマルジョン保持流路のうち、排出口側の末端部分が、気泡トラップストップバルブ部を構成している。
【0020】
エマルジョン保持流路を有するマイクロ流路チップにおいてエマルジョン充填法を行う場合に、エマルジョンの保持性が不十分となることがある。
【0021】
具体的には、エマルジョン充填法では、気体で充填されているエマルジョン保持流路内をエマルジョンが進行するので、エマルジョン保持流路内を、気体とエマルジョンとの気液界面が移動する。この場合、送液停止後(外部送液駆動力の停止後)に、保持されたエマルジョンと気体との界面が、(特には連続相液保持部に保持されている連続相液に起因する)液面差圧、及び上記界面の毛細管力によって、排出口側に進行し、それによってエマルジョン中の液滴が排出口から流出するおそれがあった。
【0022】
また、加熱等の連続相液が揮発(蒸発)しやすい条件下、例えば揮発しやすい連続相液を使用している場合やエマルジョンを加熱する必要がある場合、及び/又は気化した連続相液が外部雰囲気下に漏洩しやすい条件下、例えば各保持部を密閉していない場合やガス透過性の高いチップ基板(PDMSなど)を使用している場合では、エマルジョンの連続相が気化し、それによってエマルジョンと気体との界面が排出口から遠ざかる方向に進行し、エマルジョン中の液滴が各保持部方向へ流出するおそれ、及び/又は気液界面で液滴が凝集・合一するおそれがあった。
【0023】
すなわち、エマルジョン保持流路におけるエマルジョンの保持性を向上させるためには、この気液界面の位置を制御し、エマルジョン保持流路にエマルジョン中の液滴を安定して保持することが重要となると考えられる。しかしながら、従来技術では、このような気液界面の位置を制御することが容易ではなかった。
【0024】
これに対して、本発明では、エマルジョン保持流路が、排出口側の末端部に、気泡トラップストップバルブ部を有している。本発明によれば、エマルジョン保持流路内を進行する気液界面が排出口側の末端部に近づいたときに、気泡トラップストップバルブ部に気泡が形成されることで、エマルジョン中の連続相液は排出口に向かって流出するが、生成された気泡は気泡トラップストップバルブ部で(特には狭窄部手前で)保持され、それにより、液滴は、この気泡と流路壁面とが形成する連続相液の薄い層を通ることが困難となるため(サイズ排除フィルターのような役割)、液滴のみを選択的にエマルジョン保持流路内に保持することができ、結果として、エマルジョン中の液滴が流出して無駄になることを抑制することができる。加えて、連続相液の揮発(蒸発)によって、上記気泡内部の蒸気圧が増加し、かつ/又はエマルジョン中の連続相液が減少するとしても、エマルジョン中の連続相液が排出口に向かって流出しようとする力が働いている限り、気泡と液滴とが接触している気液界面が排出口から遠ざかる方向に移動すること(気泡が膨張すること)を抑制することができるため、加熱等の連続相液が揮発(蒸発)しやすい条件下、及び/又は気化した連続相液が外部雰囲気下に漏洩しやすい条件下であっても、液滴の流出や気液界面における液滴の凝集/合一を抑制することができる。
【0025】
図面を用いて、本発明を具体的に説明する。なお、図面は、例示的な実施態様を示すものであり、本発明に係る方法は、この実施態様に限られない。図1は、理解を容易にするための概略図であり、縮尺どおりではない。
【0026】
図1に概略的に示されるマイクロ流路チップは、平面型の構成を有しており、すなわち、エマルジョンの生成、輸送及び保持が、実質的に1つの平面内で行われるようになっている。図1の方向Wは、幅方向を示しており、方向Lは、長さ方向を示している。W及びLに垂直な方向が、鉛直方向である。図1のマイクロ流路チップ10は、第一分散相液保持部102、第二分散相液保持部103、(第一分散相液流路114、第二分散相液流路115、及び分散相液合流部116からなる)分散相液流路、連続相液保持部101、連続相液流路111、エマルジョン形成部120、エマルジョン流路130、エマルジョン保持流路140、及び排出口を150有している。分散相液保持部102、103が、分散相液流路を介して、エマルジョン形成部120に接続しており、連続相液保持部101が、連続相液流路111を介して、エマルジョン形成部120に接続している。図1に係る態様では、連続相液流路111が、第一連続相液流路112及び第二連続相液流路113を有している。エマルジョン形成部120が、エマルジョン流路130を介して、エマルジョン保持流路140に接続しており、エマルジョン保持流路140が、排出口150に接続している。
【0027】
本発明によれば、エマルジョン保持流路140のうち、排出口側の末端部分が、気泡トラップストップバルブ部160を構成している。
【0028】
エマルジョンの生成及び保持を行う場合、例えば、外部送液駆動力によって、エマルジョン形成部120において、分散相液から構成される液滴及び連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン流路130を介して、気体で充填された状態のエマルジョン保持流路140に輸送する。
【0029】
この場合、エマルジョン保持流路140を充填している気体とエマルジョンとの気液界面が、エマルジョン保持流路140の中を排出口150に向かって移動する。そして、この気液界面が気泡トラップストップバルブ部160に到達すると、気泡トラップストップバルブ部160の構造に起因して、気泡が形成される。
【0030】
すなわち、エマルジョン保持流路140内を進行する気液界面が排出口150側の末端部に近づいたときに、気泡トラップストップバルブ部160に気泡が形成され、それによって自動的に気液界面の進行及び逆流が停止又は抑制される。なお、例えば、気液界面が気泡トラップストップバルブ部に到達する前(特には到達する直前、又は到達した時)に、外部送液駆動力の適用を停止することができる。
【0031】
気泡トラップストップバルブ部の作用は、連続相(連続相液)の流出はいくらか許容する一方で、液滴の流出を防止するというものである。すなわち、エマルジョン中の連続相は、毛細管力及び液面差圧によって気泡トラップストップバルブ部を通過して徐々に排出口に流出されるが、エマルジョン中の液滴(分散相液)は、気泡トラップストップバルブ部に形成された気泡と流路壁面との間に存在する連続相液の薄い層を通過することが困難なので、排出口への流出が抑制される。
【0032】
なお、毛細管力は、キャピラリー力とも呼ばれる力であり、大きく開けた保持部内の気液界面とより小さい断面を有する流路内の気液界面の表面張力差によって発生する流路に侵入する方向に働く力である。よって、毛細管力は各流路の特性だけでなく保持部の構造も影響し、特にエマルジョン充填法ではエマルジョンの気液界面の移動を制御するため、送液(液滴生成)中及び送液停止後の液滴保持中においても毛細管力が大きく影響する。
【0033】
また、液面差圧は、静水圧とも呼ばれる力であり、一般に静止状態の液体中に重力によって発生する圧力、すなわち各保持部への各相液の供給量(重量)に依存した圧力を指す。
【0034】
<エマルジョン充填法>
本開示に係るマイクロ流路チップは、エマルジョン充填法によってエマルジョンを生成及び保持するために使用される。エマルジョン充填法では、エマルジョン形成部で生成されるエマルジョン(液滴+連続相)を、気体で充填されているエマルジョン保持流路に輸送する。エマルジョン保持流路に輸送されたエマルジョンは、そこに保持されて、随意に検出処理の対象となる。
【0035】
エマルジョン充填法では、流路全体に液体(例えば、分散相液、連続相液など)がない状態、すなわち流路全体が気体で充填されている状態が好ましい。マイクロ流路チップの流路内に表面処理や空気中の水の凝結等によって液体が残留・発生していてもこの限りではないが、少なくとも流路の一部が液体によって閉塞していないことが好ましく、特に分散相液流路、連続相液流路、エマルジョン形成部が閉塞していないことが好ましい。
【0036】
<気泡トラップストップバルブ部>
本開示に係るマイクロ流路チップは、気泡トラップストップバルブ部を有している。気泡トラップストップバルブ部は、エマルジョン保持流路のうち、排出口側の末端部分によって構成されている。
【0037】
気泡トラップストップバルブ部の構造は、上述した作用を果たすことができるのであれば、すなわち、エマルジョン保持流路の中を排出口に向かって移動する気液界面が気泡トラップストップバルブ部に到達したときに、気泡トラップストップバルブ部の構造に起因して気泡が形成され、それによって排出口を介したエマルジョン(特には液滴)の流出が抑制又は回避されるのであれば、特に限定されない。好ましくは、気泡トラップストップバルブ部が、狭窄部、及び随意に追加狭窄部を有する。
【0038】
(狭窄部)
本開示に係る気泡トラップストップバルブ部の1つの実施態様では、気泡トラップストップバルブ部が、狭窄部を有している。
【0039】
「狭窄部」は、気泡トラップストップバルブ部のうち、流路が狭窄している部位である。すなわち、エマルジョン保持流路が、狭窄部で狭窄している。狭窄部は、気液界面の到達に伴って、空気が狭窄部を完全に抜け切る前に、狭窄部が連続相液によって閉塞することで、気泡を生成するように構成されており、かつエマルジョン保持流路から排出口へのエマルジョン(特には液滴)の移動を抑制することができるように構成されている。
【0040】
「狭窄部」は、より具体的には、気泡トラップストップバルブ部のうち、流路断面面積が減少している部分である。特には、狭窄部において、エマルジョン保持流路の流路断面面積が急激に減少している。
【0041】
例えば、狭窄部において、流路の幅及び/又は高さを小さくすることができる。なお、流路の幅は、マイクロ流路チップの通常の使用状態において流路の長さ方向に直交する水平方向での長さである。流路の高さは、マイクロ流路チップの通常の使用状態における鉛直方向(重力方向)での長さである。
【0042】
狭窄部の流路内部の上面(天井部)が、狭窄部に隣接する流路内部の上面よりも低い場合(すなわち、狭窄部が、鉛直方向(高さ方向)で狭窄している場合)には、気泡が有する浮力に起因して、気泡が狭窄部を通過することを抑制することができる(なお、気泡が狭窄部を通過することが抑制されている限り、気泡の一部のみ流出し続けるのは問題ない)。この場合には、狭窄部の上流側(エマルジョン形成部の方向)に形成された気泡の流出を、特に効果的に防止することができる。なお、この場合の「高い」「低い」は、マイクロ流路チップの通常の使用状態における鉛直方向(重力方向)を基準とする。
【0043】
特には、狭窄部が、鉛直方向に狭窄しており、かつ、水平方向に狭窄している。この場合には、気泡の形成及び保持の安定性がさらに向上するので、特に好ましい。
【0044】
また、特には、鉛直方向での狭窄が、段差構造によって実施されている。すなわち、狭窄部が、段差構造を有し、それによって、鉛直方向に狭窄している。段差構造は、急激な鉛直方向の高さの変化が、不連続的かつ鋭角的であるため、気泡が排出口方向に流出しにくく好ましい。さらに、気泡の形成及び保持の安定性の観点からは、狭窄部が、段差構造に加えて、水平方向に狭窄する構造をさらに有していることが、特に好ましい。
【0045】
また、流路表面に対して濡れやすい連続相液、すなわち表面張力及び/又は粘性が低い連続相液は、気泡を形成しやすいため好ましい。なお、エマルジョン充填を目的とする技術では、一般的に、エマルジョンの生成及び保持のために上記液物性を有する連続相液を使用する。
【0046】
(狭窄部の上流側)
狭窄部の上流側の流路は、狭窄部近傍で気泡が形成/保持されるため、その流路構造を反映した形状の気泡を形成・保持することができる。特に、その流路断面形状は、気泡の断面形状および流路壁面と気泡との間の薄い層の形状にも関係するため、液滴のサイズ等に応じて適切な流路断面形状に調整することが好ましい。
【0047】
(遷移領域)
狭窄部と、狭窄部に隣接する流路(特に、狭窄部の上流側部分)との間に、徐々に流路断面面積が減少する「遷移領域」を設けることもできる。このような遷移領域を設けた場合には、気泡の保持性が向上することがある。
【0048】
例えば、マイクロ流路チップの通常の使用状態において上方から見た場合に、遷移領域の両側の壁面が角度α(図2のα)を形成し、この角度αが、30°~150°、45°~125°、又は60°~100°の角度を形成することができる。
【0049】
なお、遷移領域で流路断面面積が減少する態様は、特に限定されない。例えば、マイクロ流路チップの通常の使用状態において上方から見た場合に、遷移領域の壁面が、直線状又はカーブ状を呈し、そのようにして流路幅が減少してよい。
【0050】
(追加狭窄部)
本開示に係る気泡トラップストップバルブ部の別の実施態様では、気泡トラップストップバルブ部が、上記の狭窄部よりも下流側に、追加狭窄部を有している。なお、「下流」とは、エマルジョン保持流路から排出口への方向を想定した場合の下流側、すなわち排出口側を意味する。
【0051】
「追加狭窄部」は、上記の狭窄部と同様に、気泡トラップストップバルブ部のうち、流路が狭窄している部位であり、その上流側に気泡を保持することによって、エマルジョン保持流路から排出口へのエマルジョン(特には液滴)の移動を抑制することができるように構成されている。「追加狭窄部」は、狭窄部と同様に、例えば、気泡トラップストップバルブ部において流路断面面積が(特には急激に)減少している部分である。追加狭窄部の構造については、狭窄部に関する上記の記載を参照することができる。
【0052】
気泡トラップストップバルブ部が狭窄部及び追加狭窄部を有する場合(特に、後述する拡張部がそれらの間に存在する場合)には、気泡トラップストップバルブ部において再現性良く気泡を生成・保持することができるので、気泡トラップストップバルブ部がさらに良好に機能しうる。
【0053】
(拡張部)
気泡トラップストップバルブ部は、狭窄部と追加狭窄部との間に、拡張部を有することができる。拡張部は、気泡を保持することに適するように構成されており、例えば、狭窄部及び追加狭窄部よりも大きい流路断面(及び/又は流路幅)を有する。また、好ましくは、拡張部は、狭窄部及び追加狭窄部よりも大きい流路高さを有する。
【0054】
(気泡トラップストップバルブ部の各部の寸法)
例えば、エマルジョン保持流路が500μm~5mm又は1mm~3mmの間の幅、及び50μm~300μm又は100μm~200μmの高さを有する場合に、気泡トラップストップバルブ部の「狭窄部」及び随意の「追加狭窄部」が、10μm~300μm又は50μm~150μmの幅、20μm~200μm又は50μm~100μmの高さ、及び、100μm~800μm又は200μm~600μmの長さを有することができ、また、随意の「拡張部」が、100μm~600μm又は200μm~450μmの幅、50μm~300μm又は100μm~200μmの高さ、及び、300μm~1000μm又は400μm~800μmの長さを有することができる。
【0055】
なお、エマルジョン保持流路(気泡バルブ部の上流部分168)の流路断面積が十分に小さい(特には2mm以下である)場合には、(連続相液を補充する)連続相液保持部からの連続相液の流れの十分な線速を確保することができるので、気液界面が排出口から遠ざかる方向に移動することを抑制することができる(気泡の膨張を抑制することができる)場合がある。
【0056】
また、エマルジョン保持流路(気泡バルブ部の上流部分168)の流路断面積が十分に大きい(特には0.05mm以上である)場合には、気泡の十分な断面積を確保することができ、かつ、流出する方向への連続相液の流れの線速が比較的低減されるので、気泡の流出を効果的に抑制することができる。なお、気泡の流出を抑制するためには、気泡バルブが下流に向けて拡張部、そして追加の狭窄部を有することが、特に好ましい。
【0057】
図2の例示的な実施態様の概略図を参照して、本開示に係る気泡トラップストップバルブ部の1つの例示的な実施態様を説明する。図2(及び下記の図3)は、理解を容易にするための概略図であり、縮尺どおりではない。
【0058】
図2の気泡トラップストップバルブ部160は、エマルジョン保持流路140(図1参照)のうち、排出口側の末端部分によって構成されており、狭窄部162、追加狭窄部164、及び、これらの間に配置されている拡張部166を有している。なお、狭窄部162は、これに隣接する流路(気泡トラップストップバルブ部の上流側部分168)との間に、遷移領域170を有している。図2の気泡トラップストップバルブ部は、その流路内がエマルジョンの連続相で充填されており、また、2つの気泡Aを有している。
【0059】
図2の気泡トラップストップバルブ部160では、狭窄部162及び追加狭窄部164が、気泡トラップストップバルブ部の上流側部分168よりも大幅に小さい流路断面面積を有している。例えば、狭窄部162及び追加狭窄部164において、流路断面面積が、上流側部分168に対して、1/4倍~1/400倍に減少している。また、例えば、狭窄部162及び追加狭窄部164において、流路幅が、上流側部分168に対して、1/3倍~1/100倍に減少し、流路高さが上流側部分168に対して、3/4~1/10倍に減少している。
【0060】
図2の気泡トラップストップバルブ部160は、狭窄部162と追加狭窄部164との間に拡張部166を有している。拡張部166は、狭窄部162及び追加狭窄部164よりも大きい流路断面面積を有しており、気泡を保持することに適している。例えば、拡張部166において、流路断面面積が、狭窄部162及び追加狭窄部164に対して、4倍~100倍に増加している。また、例えば、拡張部166において、流路幅が、狭窄部162及び追加狭窄部164に対して、2倍~25倍に増加し、流路高さが上流側部分168に対して、4/3~10倍に増加している。拡張部166と、狭窄部162及び追加狭窄部164それぞれとの間には、好ましくは、流路断面面積が徐々に減少する遷移領域が存在する。
【0061】
図2の気泡トラップストップバルブ部160では、エマルジョン中の連続相(連続相液)は、毛細管力及び/又は液面差圧によって気泡トラップストップバルブ部を通過して徐々に排出口に流出されるが、エマルジョン中の液滴(分散相液)は、気泡トラップストップバルブ部に形成された気泡Aと流路壁面との間に存在する連続相液の薄い層を通過することができないので、排出口に流出しない(図2では示されていないが、図2の上方に液滴が存在する)。
【0062】
図3は、図2の気泡トラップストップバルブ部の、水平面に垂直な断面概略図である。図3のHは、高さ方向を示す。図3で見られるとおり、狭窄部162及び追加狭窄部164の流路内部の上面(天井部)が、それらに隣接する流路内部の上面よりも低くなっている。上述したとおり、この場合には、気泡が有する浮力に起因して、気泡が狭窄部(及び追加狭窄部)を通過することを抑制することができ、気泡トラップストップバルブ部の機能をさらに向上させることができる。
【0063】
(エマルジョン中の連続相液の流出)
上述のとおり、気泡トラップストップバルブ部は、連続相(連続相液)のいくらかの流出は許容する一方で、液滴の流出を防止するという作用を有する。
【0064】
ここで、気泡トラップストップバルブ部に形成された気泡は、連続相液の蒸発等に起因して、時間の経過とともに膨張する傾向がある。このような気泡の膨張は、特に加熱等の条件下において、エマルジョン保持流路の上流方向(エマルジョン形成部への方向)への気液界面の逆流をもたらすことがある。一方で、気泡の膨張は、気泡トラップストップバルブ部における排出口への気泡の流出の抑制や気泡と流路壁面の薄い層の保持などに好ましい場合もある。よって、気泡が膨張する実施形態においても、エマルジョン保持流路の上流方向(エマルジョン形成部への方向)への気液界面の逆流を抑制できることが好ましい。
【0065】
このような気液界面の逆流は、エマルジョン中の連続相液の排出口への流出を維持することで、抑制することができる。例えば、気泡トラップストップバルブ部を有しておらず、送液停止後(外部送液駆動力がゼロとなった後)も排出口に向かってエマルジョンが流出し続ける実施形態において、気泡トラップストップバルブ部を追加した場合には、エマルジョン中の連続相液が気泡トラップストップバルブ部を通って排出口へ流出し続けるので、気液界面の逆流を抑制できる。ただし、気泡トラップストップバルブ部の気泡―エマルジョン界面の逆流は、気泡トラップストップバルブ部が無い場合の大気-エマルジョンの界面の逆流と違い、蒸気圧による気泡の膨張の影響を受けるため、適宜調整することが好ましい。例えば、保持されたエマルジョンを加熱する場合(反応温度を調整する場合など)、連続相液の蒸気圧が大きくなるため、気泡トラップストップバルブ部の気泡が膨張しやすいため、連続相液がより排出口に流出しやすい条件で実施するのが好ましい場合がある。
【0066】
(流路の圧損抵抗)
このような気液界面の逆流は、例えば、マイクロ流路チップの流路特性(例えば流路の圧損抵抗など)を調節することによって、抑制又は回避することができる。例えば、蒸発によって減少した連続相液を連続相液保持部から補充しやすいように、連続相液保持部から気泡トラップストップバルブ部までの流路圧損抵抗を小さくするのが好ましい。
【0067】
以下で、本開示に係る発明を構成する各構成要素及びその実施態様についてさらに詳細に説明する。
【0068】
<マイクロ流路チップ>
本開示のマイクロ流路チップは、分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、エマルジョン保持流路、及び排出口を有している。分散相液保持部が、分散相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、連続相液保持部が、連続相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、エマルジョン形成部が、エマルジョン流路を介して、エマルジョン保持流路に接続しており、エマルジョン保持流路が、排出口に接続している。エマルジョン保持流路のうち、排出口側の末端部分が、気泡トラップストップバルブ部を構成している。
【0069】
分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、(気泡トラップストップバルブ部を有する)エマルジョン保持流路、及び排出口は、互いに流体的に接続され、全体として1つの流路構造を形成する。
【0070】
特には、この流路構造は、分散相液保持部、連続相液保持部、及び排出口のみを介して、外部雰囲気(特には外部大気)に接続しうるようになっている。
【0071】
本開示に係るマイクロ流路チップは、例えば、基材、及び基材の上に配置されている上部構造体を有している。好ましくは、上部構造体が、流路構造、すなわち、分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、エマルジョン保持流路、及び排出口を有している。基材は、ガラスからできていてよい。上部構造体は、樹脂からできていてよい。マイクロ流路チップは、例えば、樹脂製の上部構造体と、マイクロ流路チップの底部を構成するガラス基材とを貼り合わせて作製することができる。
【0072】
マイクロ流路チップを構成する流路の大きさ(幅及び深さなど)は、目的とする液滴の体積などを考慮して適宜決定することができ、特には、標的物質の反応形態を考慮して適宜決定することができる。例えば、標的物質がDNAやRNAなどの核酸であり、標的物質の反応が当該核酸のデジタル増幅反応(1分子単位での増幅反応)である場合は、pLオーダー又はnLオーダーの液滴を作製することが必要なため、エマルジョン形成部の周辺の流路の幅及び深さが、それぞれ、0.1μm~1000μm、特には1μm~300μmの範囲であることが好ましい。
【0073】
なお、マイクロ流路チップを構成する流路及び各手段は、少なくとも分散相液に対して親和性の低い流路壁面にすると好ましい。分散相液に対して親和性の低い材料を用いてマイクロ流路チップを作製してもよく、分散相液に対して親和性の低い材料で流路壁面に相当する部分を表面処理してもよい。例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、アクリル、シクロオレフィンポリマー、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのポリマー材料を用いてマイクロ流路チップを作製してもよく、炭化水素系シラン化剤、フッ化炭素系シラン化剤等によって流路壁面の表面処理を行なってもよい。
【0074】
分散相液流路の壁面の表面を、フッ素化合物を含有しておらずかつフッ素化合物で処理されていない無機材料及び/又は有機材料で構成することもできる。この場合には、分散相液流路における連続相液の残留を抑制することによってエマルジョン生成の安定性などをさらに向上させることができる。
【0075】
マイクロ流路チップは、流路構造を正確かつ容易に作製可能なモールディング若しくはエンボッシングなどの鋳型を用いた技術、又は、フォトリソグラフィー、ソフトフォトリソグラフィー、ウェットエッチング、ドライエッチング、ナノインプリンティング、レーザー加工、電子線直接描画、積層造形法(AdditiveManufacturing、AM)、機械加工など、当業者が通常用いる技術を組み合わせて作製することができる。
【0076】
マイクロ流路チップの作製に用いる材料として、PDMS(ポリジメチルシロキサン)及びアクリルなどのポリマー材料、ステンレスなどの金属材料、ガラス、シリコーン、セラミックスなどがあげられる。これらの中でも、ポリマー材料は、流路自体を安価に作製でき、ディスポーザブルな態様としやすい。したがって、ポリマー材料を少なくとも部分的に用いることが好ましい。
【0077】
(分散相液保持部)
分散相液保持部は、エマルジョンを生成するための材料となる分散相液を保持する部分である。分散相液保持部は、例えば、マイクロ流路チップの使用状態において鉛直方向に延在する穴部及び/又はウェルであってよく、この穴部及び/又はウェル内に、分散相液を供給しかつ保持することができるようになっている。分散相液保持部は、例えば、直径0.1mm~20mmの穴部及び/又はウェルから構成されていてよい。分散相液保持部が穴部及びウェルから構成される場合、鉛直方向に延在するウェルが、鉛直方向に延在する穴部を介して、分散相液流路に接続することができる。
【0078】
図4は、本開示に係る分散相液保持部の1つの実施態様を示す断面概略図である。図4は、理解を容易にするための概略図であり、縮尺どおりではない。図4のHは高さ方向であり、Lは長さ方向である。図4に示されている分散相液保持部400は、ウェル41及び穴部43を有している。ウェル41が、穴部43を介して、分散相液流路115に接続している。ウェル41及び穴部43は、高さ方向(ここでは鉛直方向)に延在している。図4の符号45は、ウェルの底面と穴部とのつなぎ目である拡張部位を示す。図4の実施態様では、ウェル41の底面が、穴部43の延在方向(特には拡張部位45近傍における穴部43の側壁)に対して垂直に延在している。
【0079】
分散相液保持部に関しては、下記に従ってさらなる最適化を行うことが好ましい。
【0080】
送液中の駆動力としては、主に、送液圧力(陽圧、陰圧)及び/又は液面差圧(静水圧)及び/又は毛細管力(キャピラリー力)が働く。このうち、毛細管力は、送液中の流路下流(一般に、エマルジョン保持流路)の気液界面(及び固液界面)の表面張力と各保持部内の気液界面(及び固液界面)の表面張力の差によって決定される。すなわち、各保持部における気液界面の形状(壁面への濡れ挙動)によって流路内送液速度などが変化するため、特に、流路内の気液界面を制御することによって送液(エマルジョン生成及び保持)を行うエマルジョン充填法において、各保持部の形状は、安定な送液を実現するための重要な因子である。特に、一般的なエマルジョン生成チップでは、少なくともエマルジョン形成部の流路壁面を分散相液に対して親和性の低い表面(分散相液が水性液体であれば疎水表面)にすることで安定なエマルジョン生成が実施可能となるため、チップ製造コストの観点から流路内表面処理や別基板を組み合わせていない場合、分散相液保持部の壁面も分散相液に対して親和性の低い表面になるのが一般的である。このとき、分散相液保持部において界面形状の変化に伴う気液界面の表面張力の変化量が大きくなるため、送液への影響がより大きくなる。
【0081】
上述のような毛細管力の変化を低減する観点からは、実質的に壁面に不連続な形状が無く、垂直方向に延在する穴部及び/又はウェルが好ましい。また、分散相液保持部の分散相液の残量が少なくなると、気液界面が保持部のウェルの底面に実質的に接触し界面形状が変化しやすくなるため、その影響を低減するため流路と直接流体接続している穴部及び/又はウェルの口径は小さい方が好ましく、例えば5mm以下、より好ましくは2mm以下、特に好ましくは1mm以下であってよい。一方で、分散相液流路と直接に流体接続している穴部又はウェルから径を拡張することで分散相液の保持量を増加させることもできるが、この場合は、気液界面が拡張部位付近に存在すると気液界面形状が変化しやすい。したがって、1つの好ましい態様として、拡張部位の形状を調整することができ、かつ/又は流路と直接流体接続している穴部若しくはウェルの拡張部位までの高さを小さくすることができ、例えば3mm以下、より好ましくは1mm以下、特に好ましくは0.5mm以下とすることができる。さらに、分散相液の供給量が少なく及び/又は分散相液保持部周辺のチップ外部表面が分散相液に対して親和性が低く、かつ外部送液駆動力が排出口への陰圧印加である場合には、穴部のみの構成として、穴部に半球面状となるように分散相液を供給すると、チップ壁面への接触面積を最小限とし、分散相液の残量が少なくなっても気液界面の形状の変化を抑制できるため好ましい。
【0082】
なお、後述するように外部送液駆動力として陽圧を用いる場合、分散相液保持部が、陽圧源と接続することに適していることが好ましい。この場合、分散相液保持部が、印加される圧力に対する耐性を有することが好ましい。
【0083】
(分散相液流路)
分散相液流路は、分散相液保持部とエマルジョン形成部とを接続している。分散相液流路は、分散相液がその中を通るように構成されている。なお、分散相液に加えて連続相液が分散相液流路を通ることを想定することもできる。
【0084】
分散相液流路の寸法は、使用する分散相液の種類及び特性などに応じて適宜設定することができる。分散相液流路は、例えば、10~500μm、又は50~200μmの幅を有することができ、1mm~500mm、又は10~200mmの長さを有することができる。また、分散相液流路は、1~200μm、又は10~100μmの流路高さを有することができる。分散相液流路は、1つ以上の場所で屈曲してもよく、蛇行形状を有してもよい。
【0085】
本開示に係るマイクロ流路チップは、2つ以上の分散相液保持部、及びそれらにそれぞれ対応する2つ以上の分散相液流路を有することができる。
【0086】
特には、本開示に係るマイクロ流路チップが、第一分散相液保持部及び第二分散相液保持部を有し、分散相液流路が、第一分散相液保持部に接続されている第一分散相液流路、第二分散相液保持部に接続されている第二分散相液流路、及び分散相液合流部を含む。第一分散相液流路及び第二分散相液流路は、それぞれ、分散相液合流部を介して、エマルジョン形成部に接続する。
【0087】
2つ以上の分散相液保持部を用いることによって、例えば、分析用試料を含有する反応液と、検出用試薬を含有する反応液とを、別個にマイクロ流路チップに供給し、液滴を生成する直前まで両者が混合しないようにすることができる。これは、反応開始のタイミングをより良好に制御することができるので、好ましい。
【0088】
(連続相液保持部)
連続相液保持部は、エマルジョンを生成するための材料となる連続相液を保持する部分である。
【0089】
連続相液保持部の構造は、連続相液を保持することができれば特に限定されない。連続相液保持部は、穴部又はウェルであってよく、例えば垂直方向に延在する穴部又はウェルであってよく、この穴部又はウェル内に連続相液を供給し、かつ保持することができるようになっている。連続相液保持部は、例えば、直径0.1mm~20mmの穴部又はウェルであってよい。
【0090】
なお、連続相液は、一般に表面張力及び粘性が小さい液体を使用するため、連続相液保持部における界面形状の変化に伴う表面張力の変化量は小さい。したがって、連続相液保持部の形状は、送液に大きな影響を与えない。加えて、本発明において例えばエマルジョンを保持し検出反応などを行う場合、連続相液保持部の連続相液が枯渇しないように十分な量の連続相液を供給するため、送液中に保持部の連続相液の残量が少なくなり界面形状が変化しやすい状況になることもない。したがって、やはり、連続相液保持部の形状は、送液に大きな影響は与えにくい。
【0091】
外部送液駆動力として陽圧を用いる場合、連続相液保持部が、圧力源と接続することに適していることが好ましい。この場合、連続相液保持部が、印加される圧力に対する耐性を有することが好ましい。
【0092】
(連続相液流路)
連続相液流路は、連続相液保持部とエマルジョン形成部とを接続している。連続相液流路は、連続相液がその中を通るように構成されている。
【0093】
連続相液流路の寸法は、使用する連続相液の種類及び特性などに応じて適宜設定することができる。連続相液流路は、例えば、10~500μm、又は50~200μmの幅を有することができ、1mm~500mm、又は10~200mmの長さを有することができる。また、連続相液流路は、1~200μm、又は10~100μmの流路高さを有することができる。連続相液流路は、1つ以上の場所で屈曲してもよく、少なくとも部分的に蛇行形状を有してもよい。
【0094】
マイクロ流路チップは、2つ以上の連続相液流路を有することができる。特には、本開示に係るマイクロ流路チップが、第一連続相液流路及び第二連続相液流路を有しており、これらの流路が、それぞれ、連続相液保持部とエマルジョン形成部とを接続している。
【0095】
図1の例示的な実施態様を参照すると、連続相液流路111が2つの流路(第一連続相液流路112及び第二連続相液流路113)から構成されている。これら2つの流路112、113は、エマルジョン形成部120において互いに対向するようになっており、かつ、エマルジョン形成部120に接続している分散相液流路(より正確には、分散相液合流部116)に対して実質的に直交するようになっている。図1の実施態様では、第一連続相液流路112と第二連続相液流路113とが、実質的に同一の構造及び流路長を有しており、それにより、それぞれの流路を移動する連続相液の速度が、実質的に同一となるようになっている。また、上述のようにエマルジョン生成前における分散相液同士の混合を抑制したい場合、分散相液合流部116の下流部とエマルジョン形成部120とを連結する流路の長さは比較的短い方が好ましく(例えば、3mm以下、より好ましくは0.5mm以下)、流路内で分散相液が別々に層流状態を保っていることが好ましい。
【0096】
(エマルジョン形成部)
エマルジョン形成部は、エマルジョンを生成するように構成されている。エマルジョン形成部は、分散相液流路及び連続相液流路を介して、それぞれ分散相液及び連続相液の供給を受ける。また、エマルジョン形成部は、エマルジョン流路に接続されており、エマルジョン形成部で生成されたエマルジョンが、エマルジョン流路に送られる。
【0097】
エマルジョン形成部は、分散相液流路へと開く1又は複数の開口部、及び、連続相液流路へと開く1又は複数の開口部を有することができる。また、エマルジョン形成部は、エマルジョン流路へと開く1又は複数の開口部を有することができる。
【0098】
図1の例示的な実施態様を参照して、エマルジョン形成部について説明する。図1のエマルジョン形成部120では、2つの流路112、113から構成される連続相液流路111と、分散相液流路(より正確には、分散相液合流部116)とが、実質的に直交している。外部送液駆動力の適用の間に、連続相液が、2つの互いに実質的に対向する方向からエマルジョン形成部120へと流入し、かつ、分散相液が、連続相液の流入方向に対して実質的に直交する方向でエマルジョン形成部120に流入する。その結果、エマルジョン形成部120において、連続相に分散した液滴(すなわちエマルジョン)が生成される。このようにして生成されたエマルジョンが、エマルジョン流路130を通って、気体で充填されているエマルジョン保持流路140に進入する。
【0099】
エマルジョン形成部は、T-janction、Flow-Focus、co-flow、step-emulsificationなどの一般的な液滴生成法を利用した流路を適宜用いることができる。迅速にエマルジョンを生成するために、複数のエマルジョン形成部を並列して配置してもよい。また、エマルジョン中の液滴を攪拌させるための蛇行流路などを備えていてもよい。
【0100】
(エマルジョン流路)
エマルジョン流路は、エマルジョン形成部とエマルジョン保持流路とを接続する。エマルジョン流路のうちエマルジョン形成部に隣接する部位は、好ましくは、分散相液流路(特には分散相液合流部)に対向するように配置される。図1は、そのような態様のエマルジョン流路を示している。また、図1では、エマルジョン流路のうちエマルジョン形成部に隣接する部位が、連続相液流路のエマルジョン形成部への流入部に対して、実質的に直交している。図1の場合、エマルジョンが生成される際に、分散相液流路からエマルジョン形成部に流入してくる分散相液が液滴となり、そのまま流れの角度を変えずに、エマルジョン流路に進入する。
【0101】
エマルジョン流路は、エマルジョン形成部に隣接する部位の下流側(排出口の方向)で、拡張した幅及び/又は高さを有する流路を有することができ、かつ/又は蛇行していることができる。このような態様によれば、液滴中での攪拌を促進することができるので、好ましい。
【0102】
(エマルジョン保持流路)
エマルジョン保持流路は、エマルジョン流路を介してエマルジョン形成部に接続しており、エマルジョン形成部で生成されたエマルジョンを保持する機能を有している。また、エマルジョン保持流路は、排出口に接続されている。
【0103】
エマルジョン保持流路の幅及び長さは、保持する液滴の体積・数等に合わせて適宜設定することができ、例えば、幅と長さとがほぼ同等の幅広い単純な流路にしてもよく、連続した単一の長い流路を蛇行状又は渦巻き状に配列させてもよく、分岐させた直線流路を並行させてもよい。
【0104】
本発明において、エマルジョン保持流路の流路断面は、液滴の中心が流路の中心に沿って流れやすいため、円状、半円状、楕円状、凸型、凹型、長方形、台形が好ましい。
【0105】
エマルジョン充填法では、一般に、エマルジョン保持流路内の気液界面の移動を制御することでエマルジョン生成と保持を同時に行うため、送液中の気液界面の形状が維持される(移動しながらもその形状に変化が小さい)ように、流路断面形状が一定で屈曲の無い直線流路であることが望ましい。しかし、検出液滴数を増加させるために流路高さに対して流路幅を極端に大きくすると、意図した流路構造を有するチップを安定して製造するのが難しく、かつ/又は、流路の底面及び/若しくは上面が変形して流路側面から遠い流路領域の高さが送液圧やチップへの固定圧などによって変化して測定に悪影響を及ぼす可能性がある(ルーフコラップス)。対策として、例えば、流路高さに対する流路幅の比は、100以下、より好ましくは50以下、25以下、特に好ましくは10以下であるのが好ましい(下記のピラーが無い場合)。あるいは、流路中央に柱(ピラー)を設けることで、流路高さに対する、柱同士の間隔及び/又は柱と流路側面の間隔の比が、例えば、100以下、より好ましくは50以下、25以下、特に好ましくは10以下であるのが好ましい。一方で、イメージセンサなどによる一括検出処理を行う場合、エマルジョン保持流路が水平面で(例えば正方形や円形に近い形で)密にパッケージされていると、検出液滴数を増加させられるため好ましい。よって、同じ流路断面形状の連続した単一の長い流路を蛇行状又は渦巻き状に配列させてもよく、分岐させた直線流路を並行させてもよい。この場合、屈曲部が存在するため送液中に界面形状が変化しやすいが、屈曲部における断面形状を調整することでその影響を低減することが可能である。
【0106】
1つの実施態様では、保持されているエマルジョンに対して検出処理を行うことが意図されている。すなわち、エマルジョン保持流路に保持されたエマルジョンに対して、随意に、後述する検出処理を行うことができる。
【0107】
好ましくは、エマルジョン保持流路は、保持されているエマルジョンの大部分又は全部がマイクロ流路チップの外部雰囲気(特には外部大気)に触れないように、構成されている。好ましくは、エマルジョン保持流路に保持されている液滴のうち、検出処理の対象となっている液滴が、外部雰囲気(特には外部大気)に触れないようになっている。
【0108】
好ましくは、エマルジョン保持流路は、エマルジョン保持流路に保持されているエマルジョンに対して検出処理を行うことに適している。
【0109】
好ましくは、エマルジョン保持流路は、外部大気に開放されていないエマルジョンに対して検出処理を行うことができるように構成されている。より具体的には、例えば、保持されているエマルジョンと検出手段との間に、エマルジョンを外部大気から隔離する構造が存在する。この構造は、例えば、光を透過する材料でできている。なお、この場合、エマルジョン保持流路に保持されているエマルジョンのうち、検出処理の対象とならないエマルジョン、例えばエマルジョン保持流路の排出側末端部に位置するエマルジョンが、外部大気に開放されていてもよい。
【0110】
好ましくは、エマルジョン保持流路の流路体積が、エマルジョン形成部で生成される液滴(特には、検出処理において検出の対象となる液滴)の合計体積以上であり、かつ/又は、エマルジョン保持流路の流路体積が、1μL以上、5μL以上、若しくは10μL以上である。このようなエマルジョン保持流路によれば、検出処理を効率的に行うことができる。なお、エマルジョン保持流路の流路体積の上限は、例えば、1000μL以下であってよい。
【0111】
好ましくは、エマルジョン保持流路が、平均体積0.1nL~10nL、特には0.3nL~3nLの液滴の液滴を、500個以上、1000個以上、2500個以上、5000個以上、若しくは10000個以上、かつ/又は100000個以下、80000個以下、60000個以下、若しくは40000個以下、保持することができる流路体積を有する。エマルジョン保持流路に保持されたこれらの液滴に対して、検出処理を行うことができる。
【0112】
なお、液滴の平均体積は、デジタルカメラなどの画像取得装置を用いて明視野画像を取得し、取得された画像においてN=10以上の液滴に関して下記に基づいて算出することができる。
【0113】
球状の液滴の体積、及びディスク状の液滴の体積(それぞれVdrop及びVdisk[nL])は、それぞれ、下記の式(1)と式(2)で表わされる。なお、下記式(1)及び式(2)におけるDdrop、Ddiskは、それぞれ、マイクロ流路チップの通常の使用状態において、エマルジョン保持流路に保持されている液滴を上方から観察した場合の、球状の液滴の直径、及びディスク状の液滴の直径である。また、式(2)中、hは、エマルジョン保持流路の流路高さである。
【0114】
【数1】
【0115】
【数2】
好ましくは、検出処理で使用される(カメラなどの)検出手段に対して、検出対象となるエマルジョン中の液滴が互いに重ならないようになっており、特には、検出方向に直交する平面で単層を形成している。この場合には、検出精度をさらに向上させることができる。
【0116】
特に好ましくは、エマルジョン保持流路の「流路高さ」が調節されており、それにより、マイクロ流路チップの使用状態において、エマルジョン保持流路に保持される液滴が垂直方向で互いに重ならない(すなわち、単一の液滴層が形成される)ようになっている。このようなエマルジョン保持流路で検出処理を行う場合には、検出精度がさらに向上する。なお、「流路高さ」は、通常、マイクロ流路チップの使用状態において、垂直方向(鉛直方向)での流路の長さである。
【0117】
好ましくは、エマルジョン保持流路の流路高さが、検出処理において検出の対象となる液滴の直径に応じた寸法を有することが好ましく、例えば、液滴の直径の1/10倍~10倍、1/4倍~4倍、又は1/2倍~2倍の流路高さを有することが好ましい。また、エマルジョン保持流路の流路高さは、流路幅の1/4倍以下であってよい。なお、流路の幅は、通常、マイクロ流路チップの使用状態において流路の長さ方向に直交する水平方向における長さである。液滴の直径は、流路の幅方向で計測することができる。
【0118】
また、エマルジョン充填法では、エマルジョン形成部における連続相液と分散相液の流量比に依存してエマルジョン保持流路にエマルジョンが充填されるため、例えば、エマルジョン生成を安定させるため、分散相液に対する連続相液の流量比を大きくした場合、液滴を水平方向に密にパッケージするため流路高さを通常よりも大きく設計した方が好ましい。例えば、分散相液に対する連続相液の流量比が8~12である場合、エマルジョン保持流路の高さを、液滴の直径の2~4倍にすることができる。
【0119】
(排出口)
マイクロ流路チップは、排出口を有する。この排出口は、エマルジョン保持流路に接続している。後述するように、排出口は、マイクロ流路チップに陰圧を適用するための陰圧源接続部としても機能しうる。
【0120】
送液のために陰圧を用いる場合、排出口が、陰圧源と接続することに適しているように構成されていることが好ましい。この場合、排出口が、印加される圧力に対する耐性を有することが好ましい。
【0121】
排出口は、気泡トラップストップバルブ部の下流側に位置する。
【0122】
≪マイクロ流路チップの使用≫
本開示はさらに、本開示に係るマイクロ流路チップの使用を含む。
【0123】
本開示に係る1つの実施態様は、本開示に係るマイクロ流路チップに分散相液及び連続相液を供給してエマルジョンの生成及び保持を行う方法であって、
分散相液保持部に、分散相液を供給すること、
連続相液保持部に、連続相液を供給すること、及び、
外部送液駆動力によって、エマルジョン形成部において、分散相液から構成される液滴及び前記連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン流路を介して、気体で充填された状態のエマルジョン保持流路に輸送すること、
を含み、
エマルジョンがエマルジョン保持流路を完全に充填する前に、外部送液駆動力を停止すること、
を特徴とする。
【0124】
この方法によれば、エマルジョンがエマルジョン保持流路を完全に充填する前に外部送液駆動力を停止するので、気泡トラップストップバルブ部における気泡形成を確実に行うことができる。特には、エマルジョンがエマルジョン保持流路を完全に充填する前であって、かつエマルジョンが気泡トラップストップバルブ部に到達する前(特には到達の直前、又は到達時)に、外部送液駆動力を停止することができる。
【0125】
また、本開示に係る方法では、気泡トラップストップバルブ部を有するマイクロ流路チップを用いるので、外部送液駆動力を停止した後でマイクロ流路チップの流路を密閉しなくても、エマルジョン保持流路にエマルジョン中の液滴を安定して保持することができる。
【0126】
好ましくは、外部送液駆動力の停止後、エマルジョン保持流路に液滴が保持されている間に、排出口、分散相液保持部、及び連続相液保持部のうちの少なくとも1つが、密閉されておらず、特には、実質的に大気開放されている。
【0127】
また、特には、外部送液駆動力を停止した後で、エマルジョン保持流路に保持されている液滴に対して検出処理を行っている間(より特には、液滴中での反応を行っている間、及び/又はシグナル検出を行っている間)に、排出口、分散相液保持部、及び連続相液保持部のうちの少なくとも1つが、密閉されておらず、特には、実質的に大気開放されている。
【0128】
(分散相液の供給)
本開示に係る方法は、分散相液保持部に分散相液を供給することを含む。
【0129】
分散相液保持部に分散相液を供給するために、分散相液を保持するために別個に用意される別容器(相液保持容器)を用いることもできる。このような容器は、保管中及び操作中における液の流出を防止する観点から、分散相液を保持した状態で完全に又は可変的に密閉されていることが好ましい。
【0130】
また、分散相液の供給(及び/又は連続相液の供給)は、分注手段によって行うことができる。分注手段の使用は、分散相液の残量を抑制し、かつ測定時間及び/又は試薬(分散相液)間のコンタミを抑制できる点で、好ましい。
【0131】
例えば、分注手段を用いて各保持部に各相液を滴下し、又は、各保持部の壁面に沿って各相液を導入することができる。これは、送液を陰圧で行う場合に、特に有利である。従来の供給方法、特に、各保持部にチューブ又はマニフォールドを流体接続(密閉接続)させて各保持部への液導入及び送液圧力を同時に行う方法では、接続時の不意の圧力変動及び圧力の安定化までに要する時間に起因して、分散相液及び連続相液の進行を正確に制御することが容易でなく、流路閉塞なく分散相液と連続相液とを接触させることが困難であった。これに対して、分注手段を用い、かつ送液を陰圧で行う場合には、各保持部に相液供給用装置及び圧力源を接続する際の圧力の変動がなくなるので、陰圧適用前の各相液の移動及び分散相液と連続相液との接触をより正確に制御することが可能となり、結果として、気泡の発生をさらに効果的に抑制することができる。
【0132】
分注手段は、保持部における圧力変動を生じないものであることが好ましい。分注手段は、例えばピペットであってよい。好ましくは、分注手段(特に、分注手段を構成する液吐出口)が、各保持部に対して流体接続(密閉接続)されておらず、空間的に離されている。
【0133】
例えば、分注手段は、ポンプ、アクチュエーター、ピペットを含む機構であってよく、別容器に保持された各相液をポンプによって吸い上げ、アクチュエーターによって各保持部までピペット先端を移動した後、ポンプによって各保持部に各相液を押し出す動作を行うことが好ましい。加えて、各相液が接触したピペット等の一部は取り外し可能で使用毎に取り換えることができると、コンタミが抑制できるので好ましい。さらに、分注手段のポンプを送液手段として併用すると、装置構成が簡便化できるため好ましい。また、繰り返し使用が意図される場合、使い捨てのピペットを含む分注手段によって相液を添加しても良いし、共通のラインを使用して相液保持容器からマイクロ流路チップへ添加を行っても良い。後者の場合、連続相液への分散相液のコンタミ抑制のため、マイクロ流路チップへの接続部までの共用のラインを洗浄する工程を含んでいることが好ましい。また、ピペットを含まない分注手段として、外力によって相液を保持した容器から直接保持部に各液体を添加(滴下)する方法も好ましい(例えば、容器の熱圧着した部位を圧力によって破断させ容器内の液体を押し出す手段など)。また、例えばTRC反応やPCR反応を行う場合、水溶液サンプルの精製手段や調製手段として分注手段を併用してもよい。
【0134】
(連続相液の供給)
本開示に係る方法は、連続相液保持部に連続相液を供給することを含む。
【0135】
連続相液の供給は、分散相液の供給に関して上述したのと同様に、別容器を用いて、かつ/又は分注手段によって、行うことができる。例えば、分注手段を用いて保持部に相液を滴下し、又は、保持部の壁面に沿って相液を導入することができる。別容器、及び分注手段の詳細については、分散相液の供給に関する上記の記載を参照することができる。
【0136】
(連続相液の液量の維持)
既述したとおり、本発明では、エマルジョン中の連続相液が気泡トラップストップバルブ部を通って排出口へ流出し続けるので、気液界面の逆流を抑制することができる。一方で、既述したとおり、気泡トラップストップバルブ部の気泡―エマルジョン界面の逆流は、気泡トラップストップバルブ部が無い場合の大気-エマルジョンの界面の逆流と違い、蒸気圧による気泡の膨張の影響を受けるため、適宜調整することが好ましい。
【0137】
本開示に係る1つの実施態様では、連続相液保持部に供給される連続相液の量を調節し、それにより、外部送液駆動力の停止の後で、少なくとも一定時間にわたって、連続相液保持部に連続相液が存在しているようにする。
【0138】
理論によって限定する意図はないが、この場合には、気泡トラップストップバルブ部に形成される気泡の膨張圧と、連続相液保持部に保持されている連続相液を介してこの気泡に及ぼされる毛細管力及び/又は液面差圧とが均衡することによって、エマルジョン保持流路における気液界面の逆流が抑制又は回避されると考えられる。なお、気化した連続相液が漏洩しやすい条件では、流路からの連続相液の減少を、連続相液保持部からの連続相液で補うように設計するのが好ましい。
【0139】
ここで、「一定時間」は、マイクロ流路チップに保持されたエマルジョンの用途などに応じて適宜設定することができ、特には、保持されたエマルジョンに対して行う検出処理に応じて設定することができる。具体的には、例えば、保持された液滴中で核酸の増幅反応及び蛍光の検出を行う場合には、増幅反応の時間及び蛍光検出の時間の合計に対応する時間(例えば10分~2時間)を、「一定時間」とすることができる。
【0140】
(送液)
外部送液駆動力は、エマルジョン形成部において分散相液及び連続相液からエマルジョンを生成するための駆動力を提供する。また、外部送液駆動力は、生成されたエマルジョンをエマルジョン保持流路に輸送するための駆動力を提供する。外部送液駆動力は、排出口への陰圧の適用、又は分散相液保持部及び連続相液保持部への陽圧の適用であってよい。なお、排出口への陰圧を適用している間は、各保持部を常圧に、分散相液保持部及び連続相液保持部への陽圧を適用している間は、排出口を常圧にしている方が、装置の簡便性の観点からは好ましいが、陰圧及び/若しくは陽圧の送液を安定化させるため、かつ/又はエマルジョンの保持のための密閉操作を兼ねるために、非常圧状態に圧力制御してもよい。
【0141】
排出口に陰圧を適用する場合、分散相液保持部及び連続相液保持部は、外部雰囲気(特には外部大気)に開放されていることができる。同様に、分散相液保持部及び連続相液保持部に陽圧を適用する場合、排出口は、外部雰囲気(特には外部大気)に開放されていることができる。
【0142】
陰圧を適用する場合、例えば、圧力タンク又はシリンジポンプを用いて、排出口を介して、マイクロ流路チップの流路内の流体(例えば気体又は連続相液)を吸引することができる。
【0143】
陰圧源として圧力タンクを用いる場合、圧力タンクの体積は、排出口から圧力タンクまでの流路の体積及びマイクロ流路チップの流路の体積の合計よりも大きいことが好ましい。圧力タンクは、外部雰囲気(特には外部大気)に開放しうるような設計とすることもできる。
【0144】
陽圧を適用する場合、例えば、圧力印加手段を用いて、分散相液保持部及び連続相液保持部を介して、マイクロ流路チップの流路内の流体(気体、分散相液、及び/又は連続相液)に対して圧力を印加することができる。
【0145】
なお、適用された陰圧又は陽圧の圧力値をモニタリングするための監視手段を用いて、送液状態の確認、例えばエマルジョンが問題なく生成しているかどうかを確認することができる。
【0146】
(陰圧による送液)
本開示に係る1つの実施態様では、外部送液駆動力として陰圧を用いる。すなわち、本開示に係る1つの実施態様では、排出口に陰圧を適用することによって、エマルジョン形成部においてエマルジョンを生成し、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン流路を介して、気体で充填された状態のエマルジョン保持流路に輸送する。
【0147】
陰圧送液は、陽圧送液と比較して、必要な装置を簡略化することができるので好ましい。
【0148】
また、陽圧送液、特に、各保持部へ気体を介して陽圧を印加する場合、各保持部に分散相液及び連続相液を添加してから送液手段と各保持部とを密封接続する必要があるが、接続時に不要な外部圧力がかかりやすい。特に、シリコンゴム等の柔軟性が高い基板を使用する場合、接続時にマイクロ流路チップが変形し、流路断面が変形するおそれがある。また、連続相液に粘性及び表面張力が低い液体を使用することで、エマルジョン形成部におけるせん断力を利用した安定かつ迅速な液滴生成が可能となるが、上記の物性を持つ液体は密閉状態が不完全な場合に液漏れしやすく適切な圧力印加が困難になりやすい。また、密閉接続後に連続相液及び/又は分散相液を導入することで、上述の接続時の不要な外部圧力による送液や液漏れの問題を抑制することが可能だが、これは前述の液導入と圧力送液を同時に行う手段の一例であり、分散相液と連続相液とを接触させる操作の再現性が低下しやすい。
【0149】
これに対して、陰圧送液の場合、分散相液及び連続相液を添加する前に送液手段を接続できるため、接続時の圧力が分散相液及び連続相液に加わることがないという利点を有する。また、粘性及び表面張力が低い連続相液を保持する連続相液保持部を密閉する必要を回避できるという利点も有する。
【0150】
さらに、流路圧損抵抗の小さいマイクロ流路チップを用いる場合、各保持部に陽圧を印加する方法では、送液手段と接続する際の不要な圧力によって意図せず分散相液又は連続相液が流路内に侵入してしまうおそれがある。
【0151】
これに対して、排出口に陰圧を印加する方法は、分散相液及び連続相液を添加する前に排出口と送液手段とを接続できるため、不要な圧力がかからないという利点を有する。
【0152】
本開示に係る方法の1つの実施態様では、排出口に陰圧制御手段が流体接続されており、陰圧制御手段が、陰圧源、接続部及び弁から構成されており、陰圧源が、一定の陰圧に制御されており、かつ、この弁が、陰圧源と接続部との間に配置されている。接続部を介して、陰圧制御手段を、排出口に接続することができる。
【0153】
この態様によれば、弁を開放又は閉鎖することによって瞬時に陰圧を適用又は停止することができるので、陰圧の適用又は停止のタイミングをより正確に制御することが可能となる。特に、この態様によれば、エマルジョンがエマルジョン保持流路を完全に充填する前に陰圧を停止する際に、陰圧の停止のタイミングをより正確に制御することが可能となる。したがって、この態様によれば、気泡トラップストップバルブ部における気泡形成をより確実に行うことができる。
【0154】
弁の具体的態様については特に制限はない。送液停止時の逆流を防止するという観点からは、弁の開閉時の流路における圧力変動を抑制できるもの、例えば開閉動作が比較的遅いものが好ましい。弁は、例えば三方弁であってよく、マイクロ流路チップを陰圧源(例えば圧力タンク)及び外部雰囲気(特には外部大気)のいずれかに接続することができるようになっていてよい。
【0155】
本開示に係る方法の1つの実施態様では、分散相液及び連続相液の接触の前に、排出口に陰圧制御手段が流体接続されている。この場合には、分散相液と連続相液との接触の後に迅速に陰圧を適用することができるため、早期の液滴の発生を抑制し、液滴の均一性をさらに向上させることができる場合がある。
【0156】
(エマルジョン充填法における送液)
エマルジョン充填法では、送液を停止する際に気液界面が流路内又は排出口の流路開口部近傍に存在する場合が多く、送液停止の際の急激な圧力変動(陰圧送液の際は排出口への空気の流入)によって気液界面が流路内を逆流し、エマルジョン保持に悪影響が生じやすい(エマルジョン保持流路外へ液滴が流出する、又は気液界面近傍で液滴同士が凝集・合一する)。
【0157】
加えて、陰圧送液の場合には、送液停止によって排出口に空気が流入してくるため、気液界面により圧力がかかりやすく、基板の材料にシリコンゴム(PDMS)のような柔軟性の高い材料を使用したり、基板の厚みを極端に薄くしたり(COCだと1mm以下ぐらい)すると、陰圧送液時に流路が変形しやすく、送液停止時にその変形を復元する力によってより逆流が起きやすくなる。(すなわち、流路側面の壁面から遠い流路の中央部において流路の上面、底面が流路断面積を小さくする方向にたわむ(ルーフコラップス)。エマルジョン保持流路は前述のとおり流路高さに対して流路幅を大きくするのが好ましいため、特に影響が大きいと考えられる)。
【0158】
このような送液停止時の逆流を抑制するため、送液圧力を小さくするのが好ましい。例えば、外部送液駆動力によってマイクロ流路チップに適用される圧力を、30kPa以下、10kPa以下、特に好ましくは5kPa以下とすることができる。なお、外部送液駆動力によってマイクロ流路チップに適用される圧力は、特には、排出口に適用される陰圧の圧力、又は分散相液保持部及び連続相液保持部に適用される陽圧の圧力である。
【0159】
一方で、例えば本発明を迅速なデジタル測定に用いる場合、送液速度と分散相液に対する連続相液の流速の比から計算される液滴生成速度は速い方が好ましい。例えば、エマルジョン形成部における液滴の生成速度が、5個/秒以上、20個/秒以上、50個/秒以上、100個/秒以上、特に好ましくは200個/秒以上であることが好ましい
【0160】
送液圧力を小さくし、かつ液滴生成速度を大きくしたい場合には、流路圧損抵抗値(=送液圧力/送液速度)が小さくなるように調整するのが望ましい。流路圧損抵抗値は、流路構造、流路壁面の表面物性、各相液の物性、送液手段の圧力制御方法等に依存するため、送液中の送液速度及び/又は液滴生成速度と送液圧力が適切な値になるように、上述のパラメータを適宜調整すればよい。
【0161】
(マイクロ流路チップの設置)
マイクロ流路チップは、鉛直方向(天地方向)に水平に設置するのが一般的であるが、エマルジョンの保持等の観点から、一定方向に意図的に傾斜を設けて設置しても良い。例えば、連続相液が分散相液よりも比重が大きい場合(例:フッ素系分散剤を連続相液、水溶液を分散相液として使用)、液滴は比重差によって浮力を有するため、エマルジョン保持流路から液滴が流出しにくいように、意図的に傾斜を設けてマイクロ流路チップを設置しても良い。
【0162】
また、連続相液が分散相液よりも比重が小さい場合、気泡は鉛直方向で上昇し、液滴は鉛直方向で下降するように力が働くため、気泡トラップストップバルブ部における気液界面を制御しつつ気液界面と液滴とが接触しにくいような対応が可能である上記の傾斜した設置は、特に好ましい。
【0163】
<エマルジョン>
本開示に係る方法によって生成されるエマルジョンは、分散性溶液であり、分散相液から構成される液滴、及び連続相液から構成される連続相を含む。エマルジョン中で、分散相液から構成される液滴が、連続相液から構成される連続相に分散している。
【0164】
(分散相液)
分散相液は、エマルジョンに含有される液滴を構成する液体である。
【0165】
分散相液は、例えば、水溶液である。分散相液は、随意に、界面活性剤、有機溶剤、増粘剤、血清、酵素などを含有することができる。分散相液は、反応液であってよく、例えば、後述する検出処理において検出対象となる試料を含有する液体、検出用の試薬を含有する液体、又はこれらの混合液であってよい。
【0166】
(連続相液)
連続相液は、エマルジョンに含有される連続相を構成する液体である。
【0167】
連続相液は、分散相液と混和しない非混和性液体であることが好ましい。例えば、分散相液が水溶液である場合、連続相液はオイルであってよく、この場合、ウォーターインオイル(W/O)型エマルジョンが形成される。
【0168】
連続相液がオイルである場合、オイルとしては、シリコーンオイル、鉱油、フッ素系分散媒、植物油、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0169】
フッ素系分散媒としては、フルオロカーボン、特には、ペルフルオロヘキサン、ヘキサフルオロベンゼン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、ペルフルオロオクタン、及びペルフルオロトリペンチルアミンが挙げられる。
【0170】
市販されているフルオロカーボンとしては、FC-3283(フロリナート(商品名)3M社製)、FC-40(フロリナート(商品名)3M社製)、及びHFE-7500(3MTMNovecTM高機能性液体、3M社製)が挙げられる。
【0171】
連続相液としてフッ素系分散媒、特に上記のフルオロカーボンを使用した場合には、特に安定かつ迅速な液滴生成が可能となる。また、極性溶媒や無極性溶媒に対して極めて相溶性が低い特徴を有するため、エマルジョン内の液滴の成分が連続相液を介して他の液滴に移動してしまう問題(クロストーク、コンタミ)を抑制することができる。また、炭化水素系分散媒やシリコーンオイルで表面張力や粘性の低い液体を選択する場合、一般的に可燃性等の危険物としてのリスクが増大するが、フッ素系分散媒は消火剤や冷却媒として利用されるほど安全性が高いのが特徴である。
【0172】
なお、液滴の熱安定性の目的などのために、界面活性剤などの添加剤を連続相液に添加することもできる。これらの添加剤は、液滴における検出反応を阻害しないものであることが好ましい。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤である、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロックコポリマーであるPLURONIC(登録商標)およびTETRONIC(登録商標)やTween、Span、Zonyl(登録商標)など挙げられる。連続相液としてフッ素系分散媒を使用する場合、フッ素系界面活性剤を使用するのが好ましい、例えばパーフルオロポリエーテルとポリエチレングリコールのブロックコポリマー等が挙げられる。
【0173】
(液滴)
エマルジョンに含有される液滴は、分散相液から構成される。液滴は、例えば、分散相液が連続相液との接触を介してカプセル封入されることによって形成される。
【0174】
液滴は、例えば、検出対象となる試料を含有する。液滴中で、試料中に含有される標的物質と試薬とを反応させ、その反応の有無及び/又は反応の程度を示す検出可能なシグナル(例えば、蛍光シグナル)を介して、試料の分析を行うことができる。この反応は、例えば、化学反応、結合反応、表現型の変化、又はこれらの組み合わせであってよい。
【0175】
液滴の体積は、標的物質をおおむね1つ(例えば1分子)保持できるだけの体積を有することが好ましい。具体的には、平均体積が、0.00001nL以上、0.0001nL以上、0.001nL以上、0.01nL以上、0.1nL以上、0.5nL以上、若しくは1nL以上、かつ/又は、100nL以下、50nL以下、若しくは10nL以下であることが好ましい。なお、液滴内における標的分子の反応を均一に行なう観点から、形成する液滴の体積は単分散性が高いと好ましい。ここでいう単分散性とは、具体的には、液滴体積の変動係数(CV)が20%以下、10%以下、5%以下、2%以下、又は1%以下のことをいう。なお、下記では説明をわかりやすくするため、液滴を球状として取り扱うが、流路構造や周囲の流れによって液滴が非球状になっていても同様に考えてよい。
【0176】
液滴は、少なくとも標的物質の反応温度条件下で液滴の形状を維持できるだけの熱安定性を有していることが好ましい。具体例として、検出処理において、TRC法による核酸増幅を行う場合は、40℃~48℃の温度条件下で、PCR法による核酸増幅を行う場合は、50℃~100℃の温度条件下で、それぞれ、形状を維持できるだけの熱安定性を液滴が有していることが好ましい。
【0177】
<検出処理>
エマルジョン中の液滴に対して、検出処理を行うことができる。検出処理は、例えば、液滴中での標的物質の反応、及び当該反応の検出(例えば反応生成物の検出)を含む。検出処理は、エマルジョン保持流路に保持されたエマルジョン中の液滴に対して行うことができる。
【0178】
標的物質(特には標的分子)としては、核酸、タンパク質、ペプチド、酵素、細胞、細菌、胞子、ウイルス、オルガネラ、高分子アセンブリ、薬物候補、脂質、炭水化物、代謝物、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0179】
標的物質の反応は、特に限定されない。標的物質の反応としては、酵素反応が挙げられ、より具体的には、キナーゼ、ヌクレアーゼ、ヌクレオチドシクラーゼ、ヌクレオチドリガーゼ、ヌクレオチドホスホジエステラーゼ、ポリメラーゼ(DNA又はRNA)、プレニルトランスフェラーゼ、ピロホスパターゼ、レポーター酵素、逆転写酵素、トポイソメラーゼ等を用いた酵素反応が例示できる。標的分子がDNAやRNAなどの核酸であり、標的分子の反応が当該核酸の増幅反応である場合、LAMP法、NASBA法、TMA法、TRC法といった核酸を等温増幅可能な反応が挙げられる。また、ワンステップRT-PCRの場合、逆転写反応に適した温度で液滴を作製することは、逆転写反応の反応効率、反応時間において好ましい。また、逆転写反応による生成物であるcDNAをサイクリングプローブ法により検出することも可能である。
【0180】
反応を行う場合、2種以上の反応液をエマルジョン形成部の上流(例えば分散相液合流部)で混合し、この混合物を用いて液滴を生成することが好ましい。なお、本発明において、反応液とは、標的物質及び標的物質を反応させるのに必要な成分のうち、少なくとも一部を含んだ溶液のことをいう。全ての反応液が混合することで標的物質の反応に必要な成分全てが揃えばよく、標的物質はいずれかの反応液に含まれていればよい。反応液は3種以上であっても問題はない。
【0181】
例えば、標的物質が特定配列を含む核酸(DNA、RNA)であり、標的物質の反応が前記特定配列を増幅させる反応である場合、反応液に含まれる成分としては、特定配列の一部と相同的な配列を含むプライマー、特定配列の一部と相補的な配列を含むプライマー、特定配列の一部と相同的又は相補的な配列を含む検出用プローブ、ポリメラーゼ、ヌクレオチド、塩類、及び緩衝液成分があげられる。なお、反応液内で、標的分子、反応基質、酵素などが分解、変質、非特異反応が生じないように組成が工夫されていることが好ましく、装置内での挙動を考慮して、グリセロール、界面活性剤などをさらに添加してもよい。
【0182】
<その他の手段>
(検出手段)
反応の検出のために、例えば、反応による生成物を検出可能な検出手段を用いることができる。
【0183】
検出方法は、反応生成物に応じて適宜適切な方法を選択することができ、例えば、光学的、X線、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)、FCS(蛍光相関分光法)、FP(蛍光偏光)/FCS、蛍光法、比色分析、化学ルミネセンス、生物発光、散乱、表面プラズモン共鳴、電気化学法、電気泳動、レーザー、質量分光測定、ラマン分光法、FLIPR(MolecularDevices社)など公知の方法を用いて検出することができる。なお、透過光を用いて検出する場合は、光を透過する材料でマイクロ流路チップを作製すると、マイクロ流路チップを光学検出器に載置するのみで、チップ内の液滴を移動させることなく反応生成物を検出できる点で好ましい。
【0184】
反応生成物の検出に用いる検出手段(検出器)として、標的物質の反応を記録・測定するためのイメージングセンサ及び随意にその構成部品を用いることができる。検出の一例として、検出対象となる個々のシグナルを空間的に分解するのに適切な照明及び解像度を有するカメラ又はイメージング装置があげられる。カメラ又はイメージング装置としては、公知のものを利用することができ、例えばカメラは、電荷結合素子(CCD)、電荷注入装置(CID)、フォトダイオードアレイ(PDA)又は相補型金属酸化物半導体(CMOS)を含む任意の普通の半導体イメージセンサを使用することができる。また、検出の際、励起/放射された光の偏光を使用することによって改善することができる。例えば、蛍光シグナルを発する液滴を検出する場合、その検出領域を大きな視野を持つ光学ユニットによって一括で撮影することで、迅速かつハイスループットなシグナル検出を行なうことが可能になる。
【0185】
(温調手段)
温調手段は、マイクロ流路チップ内の液体を標的物質の反応に適した温度に保つ役割を有する。温調手段はマイクロ流路チップと近接(好ましくは密着)可能な形状であればよく、必ずしも平板状である必要はない。
【0186】
温調手段のうち、少なくともマイクロ流路チップと近接(好ましくは密着)する部分は、熱伝導性の高い金属材料で作製することが好ましい。なお、基材と上部構造体とを貼り合わせてマイクロ流路チップが作製されている場合、温調手段に接する基材及び/又は上部構造体の厚さを薄くすると、マイクロ流路チップに設けた流路への熱伝導をより効率的に行なえる点で好ましい。温調手段は、少なくとも、標的物質の反応場であるエマルジョン保持流路を温調できればよいが、相液供給部及び流路も温調できると、標的分子の非特異的反応を抑制できる点で好ましい。具体例として、標的物質の反応が核酸増幅反応の場合、各保持部や流路における温度を、エマルジョン保持流路における標的物質の反応温度よりも高くなるよう、温調手段で温調することで、プライマー/プローブ同士の非特異的なアニールを低減することができる。また、マイクロ流路チップの底面を温調手段によって反応温度に加熱し、かつ光を透過する材料でマイクロ流路チップ上面基板を作製し上面から透過光検出を行う場合、各相液供給前の空のマイクロ流路チップの位置並びに/又は流路構造及び/若しくはチップ内外のゴミの評価、各相液を供給する際の流路内の挙動並びに/又は送液中のエマルジョン生成の挙動の評価、並びに反応中のエマルジョンのシグナル検出結果を利用したデジタル検出の定量上限の向上を装置上簡便に行えるため好ましい。
【0187】
以下で、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例0188】
実施例で用いたマイクロ流路チップについて、下記に記載する。
【0189】
<マイクロ流路チップの作製>
【0190】
フォトリソグラフィー及びソフトリソグラフィー技術を用いて、マイクロ流路チップを作製した。具体的な手順を以下に示す。
【0191】
(1)4インチベアシリコンウェハ(フィルテック社)上へ、フォトレジストSU-8 3050(Microchem社)を滴下後、スピンコーター(MIKASA社)を用いてフォトレジスト薄膜を形成した。
【0192】
(2)マスクアライナー(ウシオ電機社)と、マイクロ流路チップの流路パターンを形成したクロムマスクとを用いて、流路パターンをフォトレジスト膜へ形成させた後、SU-8 Developer(Microchem社)を用いて流路パターンを現像することで、マイクロ流路チップを構成する流路の鋳型を作製した。
【0193】
(3)SU-8への吸着を抑えるために、Trichloro(1H,1H,2H,2H-perfluoro-octyl)silane(Thermo Fisher Scientific社)による蒸着表面処理を行なった。
【0194】
(4)上記(3)の処理を行なった鋳型へ、SYLGARD SILICONE ELASTOMER KIT(東レ・ダウコーニング社)を用いて調製した未硬化のシロキサンモノマーと重合開始剤との混合物(重量比10:1)を流し込み、80℃で2時間加熱することで、流路の形状が転写されたポリマー(PDMS)基板を作製した。
【0195】
(5)得られたポリマー基板を鋳型から慎重に剥がし、カッターで成形後、パンチャーを用いて分散相液保持部及び連続相液保持部、並びに排出口を形成した。
【0196】
(6)保持部及び排出口を形成したポリマー基板並びにカバーガラス(松浪硝子社)を酸素プラズマ発生装置(メイワフォーシス社)で表面処理後、PDMS基板のパターン面とカバーガラスとを貼り合わせた。作製したチップはデシケーター内に保存した。
【0197】
作製したマイクロ流路チップは、縦34cm×横75cmの大きさであり、分散相液保持部としてはφ4mmの穴を、連続相液保持部としてはφ8mmの穴を、排出口としてはφ1.5mmの穴を、それぞれ設けている。
【0198】
(流路構造)
マイクロ流路チップは、2つの分散相液保持部、(第一分散相液流路、第二分散相液流路、及び分散相液合流部を有する)分散相液流路、連続相液保持部、2つの連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、エマルジョン保持流路、及び排出口を有していた。2つの分散相液保持部が、第一又は第二分散相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、連続相液保持部が、2つの連続相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、エマルジョン形成部が、エマルジョン流路を介して、エマルジョン保持流路に接続しており、エマルジョン保持流路が、排出口に接続していた。エマルジョン保持流路のうち、排出口側の末端部分が、気泡トラップストップバルブ部を構成していた。
【0199】
より具体的には、第一分散相液流路及び第二分散相液流路は、高さ100μm、幅200μm、長さ4200μmの蛇行を含む流路であり、分散相液合流部で合流し、100μmの流路幅に狭窄され、エマルジョン形成部に合流する。2つの連続相液流路は、それぞれ屈曲部を二箇所有した高さ100μm、幅280μm、長さ26mmの直線流路である。エマルジョン形成部において、分散相液合流部と2つの連続相液流路とが角度90度で十字に交差している。エマルジョン形成部において、反応液と非混和性液体(オイル)とが合流し、液滴を形成するようになっている。
【0200】
エマルジョン流路は、エマルジョン形成部に直接交わる流路で幅80μm×長さ100μm、その下流部分で幅200μm×長さ680μmの直線流路であり、さらにその下流部分ではR275μmの円弧曲線で構成された蛇行を含めた幅200μm×長さ11.5mmの撹拌用流路であり、エマルジョン保持流路に連結する。
【0201】
エマルジョン保持流路は、流路高さ130μm、幅2mm、長さ350mmの蛇行流路であり、その排出口側の末端部分が、気泡トラップストップバルブ部を構成している。エマルジョン保持流路の体積は、91μLであった。
【0202】
気泡トラップストップバルブ部は、幅100μm、高さ80μmに狭窄された長さ400μmの流路、その下流の幅300μm、高さ130μmに拡張された長さ600μmの流路、さらに下流の幅100μm、高さ80μmに狭窄された長さ400μmの流路を含み、排出口連通流路に連通する。
【0203】
排出口連通流路は、幅2mm、長さ10mmの流路であり、排出口に直接つながっている。
【0204】
≪実施例1≫
上記のマイクロ流路チップを用いて、エマルジョンの生成及び保持を行い、エマルジョン保持流路に保持された液滴に対して、検出処理を行った。具体的には、C型肝炎ウイルス(HCV)RNAのデジタル等温核酸増幅を行った。詳細を下記に示す。
【0205】
(反応液)
HCV遺伝子が挿入されたプラスミドから、in vitro転写によりHCV標準RNA(配列番号1)を調製した。当該標準RNAを10コピー/2μLとなるように注射用水で希釈し、これをRNA試料とした。
【0206】
10μL中に以下の組成を含む水溶液を調製し、これを、標準RNAを含む反応液とした。なおモレキュラービーコンプローブ(配列番号6)は、標準RNAの相同鎖の5’末端側及び3’末端側に、当該標準RNAと相補的二本鎖を形成しないときにはステムループ構造を形成できるようなオリゴヌクレオチドを、それぞれ6塩基付加しており(5’側の1塩基のみ重複している)、さらに5’末端側にはFAMを、3’末端側にはIDT社製IowaBlackFQをそれぞれ結合させている。
132mM Tris-HCl緩衝液(pH8.36)
5.0%(v/v) グリセロール
各0.66mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP
各4.0mM ATP、CTP、GTP、TTP
6.6mM ITP
193.2mM トレハロース
100nM モレキュラービーコンプローブ(標準RNAの相同鎖の一部[配列番号1の107番目から123番目まで]を含む:配列番号6)
2.0μM 第一のプライマー (配列番号2)
2.0μM 第二のプライマー (配列番号3)
8.5U AMV逆転写酵素
94U T7 RNAポリメラーゼ
50nM フルオレセイン
10コピー 標準RNA
【0207】
第一のプライマー(配列番号2)は、標準RNAの相補鎖の部分配列(具体的には配列番号1の125番目から145番目まで:配列番号4)及び当該配列の5’末端側にT7プロモーター配列(配列番号5)を付加したオリゴヌクレオチドである。また第二のプライマー(配列番号3)は、標準RNAの相同鎖の部分配列(具体的には、配列番号1の1番目から16番目まで)からなるオリゴヌクレオチドである。フルオレセインは陰性液滴のS/N比を向上させるため、TRC反応を阻害しない濃度で添加した。
【0208】
(開始液)
以下の組成を含む水溶液を調製し、これを開始液とした。
36.8mM 塩化マグネシウム
180.0mM 塩化カリウム
0.2%(w/v) Tween 20
18.0%(v/v) DMSO
5.0%(v/v) グリセロール
100nM モレキュラービーコンプローブ(配列番号6)
50nM フルオレセイン
【0209】
(エマルジョンの生成及び保持)
マイクロ流路チップをサーマルサイクラー(Mast ercycler nexus flat eco、Eppendorf社)の上に固定して、46℃に加熱した。
【0210】
送液手段として、ペリスタポンプ(高砂工業)、電磁弁(高砂工業)、圧力センサ(キーエンス社)で構成された、200mL容量のタンク内の圧力を-1~-10kPaに制御できる装置を使用し、上記のタンクとマイクロ流路チップ100の排出口90をPTFEチューブ(ニチアス社)で接続し、タンク内の圧力を開放することで圧力差を印加した。
【0211】
2つの分散相液保持部に、分散相液としての上記の反応液及び開始液を、ピペットマンを使用して、それぞれ20μLずつ滴下した。その40秒後、連続相液保持部に、オイル(Droplet Generatorオイル for EvaGreen(Biorad社))を200μL滴下した。
【0212】
オイル滴下から30秒後に、あらかじめ排出口に接続された送液装置のタンク内圧力を-5kPaに調整した状態で、圧力差(陰圧)を適用して液滴生成及び液滴保持を開始した。なお、各保持部は、大気圧開放された状態とした。
【0213】
オイルと空気との界面(エマルジョンと空気の界面)が気泡トラップストップバルブ部に到達した時点(約150秒後)で、圧力タンクと排出口の接続を閉鎖し、同時に排出口と外部雰囲気の接続を開放することで、排出口に印加されていた陰圧を常圧開放し、送液を停止した。気泡トラップストップバルブ部に気泡が形成され(図5参照)、それによって、液滴がエマルジョン保持流路内に保持された。
【0214】
(検出処理)
送液停止後、46℃加熱を維持したままで20分間にわたって静置し、TRC反応を完了させた。
【0215】
TRC反応終了後のマイクロ流路チップに対して検出処理を行った。検出は、蛍光イメージング用の光源としてX-Cite 110LED、画像を取り込むためのCCDカメラとして、Cooling Camera System(Pacific Image Electronics社、台湾)を使用して行った。検出の結果を、図6及び7に示す。
【0216】
図6及び図7で見られるとおり、検出処理の間に、液滴がエマルジョン保持流路内に良好に保持されており、検出処理を良好に行うことができた。
【符号の説明】
【0217】
10 マイクロ流路チップ
101 連続相液保持部
102 第一分散相液保持部
103 第二分散相液保持部
111 連続相液流路
112 第一連続相液流路
113 第二連続相液流路
114 第一分散相液流路
115 第二分散相液流路
116 分散相液合流部
120 エマルジョン形成部
130 エマルジョン流路
140 エマルジョン保持流路
150 排出口
160 気泡トラップストップバルブ部
162 狭窄部
164 追加狭窄部
166 拡張部
168 上流側部分
170 遷移領域
400 分散相液保持部
41 ウェル
43 穴部
45 拡張部位
A 気泡
W 幅方向
L 長さ方向
H 高さ方向
α 遷移領域における側壁間の角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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